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特開2024-115443アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤、並びに、その利用
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  • 特開-アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤、並びに、その利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115443
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤、並びに、その利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4188 20060101AFI20240819BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240819BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240819BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A61K31/4188
A61P37/08
A61P11/02
A61K9/12
A61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021142
(22)【出願日】2023-02-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、免疫アレルギー疾患実用化研究事業「難治性アレルギー性鼻炎の免疫担当細胞の同定と新規治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】木戸口 正典
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 重治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸宣
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】加藤 永一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB25
4C076CC03
4C076CC10
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA52
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA34
(57)【要約】
【課題】アレルギー性鼻炎の新たな治療剤および予防剤、並びに、その利用を提供する。
【解決手段】ビオチンを有効成分として含有する、アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビオチンを有効成分として含有する、アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤。
【請求項2】
上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、請求項1に記載の治療剤または予防剤。
【請求項3】
上記治療剤または予防剤の剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤である、請求項1または2に記載の治療剤または予防剤。
【請求項4】
アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤を製造するための、ビオチンの使用。
【請求項5】
上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
上記治療剤または予防剤の剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤である、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
被検体から採取した試料中のビオチンを検出する工程を含む、アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法。
【請求項8】
上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、請求項7に記載のデータの取得方法。
【請求項9】
上記試料は、血液、血清、鼻汁、鼻洗浄液、または、鼻粘膜組織である、請求項7または8に記載のデータの取得方法。
【請求項10】
被検体から採取した試料中のビオチンを検出するための部材を備えている、アレルギー性鼻炎を診断するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤、並びに、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性鼻炎は、アレルゲン(例えば、花粉、ダニ、ハウスダスト)によって生じるI型アレルギー疾患の1つである。
【0003】
アレルギー性鼻炎は、様々な観点に基づいて分類することができる。例えば、アレルギー性鼻炎を、(i)抗ヒスタミン薬の内服投与、および、ステロイドの鼻噴霧投与の併用では治療効果が得られず、ステロイドの経口投与によって治療効果が得られる、難治性アレルギー性鼻炎と、(ii)抗ヒスタミン薬の内服投与、および/または、ステロイドの鼻噴霧投与によって治療効果が得られる(ステロイドの経口投与は不要)、薬剤感受性アレルギー性鼻炎と、に分類することができる(非特許文献1を参照)。
【0004】
アレルギー性鼻炎の主な症状としては、例えば、くしゃみ、鼻汁、および、鼻閉を挙げることができ、アレルギー性鼻炎の随伴症状としては、例えば、頭痛、食欲不振、および、かゆみを挙げることができる。アレルギー性鼻炎のこれらの症状は、クオリティ・オブ・ライフ(quality of life)を著しく低下させることから、アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤の開発が、強く求められている。
【0005】
現在までに、様々なアレルギー性鼻炎の治療剤が開発されている。当該治療剤として、例えば、抗ヒスタミン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、抗ロイコトリエン薬、および、副腎皮質ホルモンを挙げることができる(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yoshimasa Imoto et. al., "The clinical features of intractable allergic rhinitis based on a questionnaire administered to clinicians" Allergology International 70(2021) 373-375
【非特許文献2】Kimihiro Okubo et. al., "Japanese guidelines for allergic rhinitis 2020" Allergology International 69(2020) 331-345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の治療剤では治療効果および予防効果が得られ難いアレルギー性鼻炎が存在する。それ故に、アレルギー性鼻炎の新たな治療剤および予防剤の開発が望まれている。
【0008】
本発明の一態様は、アレルギー性鼻炎の新たな治療剤および予防剤、並びに、その利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ビオチンがアレルギー性鼻炎の治療効果および予防効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下である。
【0010】
〔1〕ビオチンを有効成分として含有する、アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤。
【0011】
〔2〕上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、〔1〕に記載の治療剤または予防剤。
【0012】
〔3〕上記治療剤または予防剤の剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤である、〔1〕または〔2〕に記載の治療剤または予防剤。
【0013】
〔4〕アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤を製造するための、ビオチンの使用。
【0014】
〔5〕上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、〔4〕に記載の使用。
【0015】
〔6〕上記治療剤または予防剤の剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤である、〔4〕または〔5〕に記載の使用。
【0016】
〔7〕被検体から採取した試料中のビオチンを検出する工程を含む、アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法。
【0017】
〔8〕上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、〔7〕に記載のデータの取得方法。
【0018】
〔9〕上記試料は、血液、血清、鼻汁、鼻洗浄液、または、鼻粘膜組織である、〔7〕または〔8〕に記載のデータの取得方法。
【0019】
〔10〕被検体から採取した試料中のビオチンを検出するための部材を備えている、アレルギー性鼻炎を診断するためのキット。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、アレルギー性鼻炎の新たな治療剤および予防剤、並びに、その利用を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例における、アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁中の微生物叢の解析結果を示すグラフである。
図2】本発明の実施例における、アレルギー性鼻炎のモデルマウスの鼻粘膜組織中の代謝産物の解析結果を示すグラフである。
図3】本発明の実施例における、ビオチンを含むコントロール飼料、または、ビオチンを含まないビオチン制限飼料を与えたマウスの血液(血清)中のビオチンの量の変化を示すグラフである。
図4】本発明の実施例における、ビオチンが有する、アレルギー性鼻炎の予防効果を示すグラフである。
図5】本発明の実施例における、ビオチンが有する、アレルギー性鼻炎の治療効果を示すグラフである。
図6】本発明の実施例における、ビオチンが有する、アレルギー性鼻炎の治療効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0023】
本発明は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献することができる。
【0024】
〔1.アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤〕
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤は、ビオチンを有効成分として含有する。
【0025】
本明細書において「治療剤」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。上記治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0026】
(1)治療剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
【0027】
(2)治療剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加を防止する。
【0028】
(3)治療剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度を低減する。
【0029】
なお、上記疾患に係る1つ以上の症状としては、例えば、くしゃみ、鼻汁、鼻閉、頭痛、食欲不振、鼻のかゆみ、眼のかゆみ、のどのかゆみ、鼻の痛み、眼の痛み、のどの痛み、および、集中力の低下を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において「予防剤」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。上記予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(1)予防剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の発症を防止する、または、発症のリスクを低減する。
【0032】
(2)予防剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の再発を防止する、または、再発のリスクを低減する。
【0033】
(3)予防剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の兆候が生じることを防止する、または、兆候が生じるリスクを低減する。
【0034】
なお、上記疾患に係る1つ以上の症状としては、例えば、くしゃみ、鼻汁、鼻閉、頭痛、食欲不振、鼻のかゆみ、眼のかゆみ、のどのかゆみ、鼻の痛み、眼の痛み、のどの痛み、および、集中力の低下を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
上記アレルギー性鼻炎は、限定されない。上記アレルギー性鼻炎は、例えば、薬剤感受性アレルギー性鼻炎、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であり得る。上記アレルギー性鼻炎は、より重症度が高い、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であることが好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤であれば、重症度が低いアレルギー性鼻炎は勿論のこと、重症度が高いアレルギー性鼻炎を効果的に治療および予防することができる。
【0037】
薬剤感受性アレルギー性鼻炎は、「抗ヒスタミン薬の内服投与、および/または、ステロイドの鼻噴霧投与によって治療効果が得られる(ステロイドの経口投与は不要)アレルギー性鼻炎」と定義され得る。
【0038】
難治性アレルギー性鼻炎は、「抗ヒスタミン薬の内服投与、および、ステロイドの鼻噴霧投与の併用では治療効果が得られず、ステロイドの経口投与によって治療効果が得られるアレルギー性鼻炎」と定義され得る。
【0039】
重症アレルギー性鼻炎は、「鼻閉が非常に強く口呼吸が1日のうちかなりの時間ある、もしくは、1日21回以上のくしゃみ発作および/または鼻漏を有するアレルギー性鼻炎」と定義され得る。
【0040】
最重症アレルギー性鼻炎は、「1日中完全につまっている鼻閉、もしくは、1日11回以上のくしゃみ発作および/または鼻漏を有するアレルギー性鼻炎」と定義され得る。
【0041】
多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎は、「アレルギー性鼻炎を発症する抗原の種類が多数(4種以上)有するアレルギー性鼻炎」と定義され得る。上記抗原としては、限定されず、例えば、花粉、ダニ、ハウスダスト、動物、および、真菌を挙げることができる。
【0042】
これらのアレルギー性鼻炎の定義については、例えば、上述した非特許文献1および非特許文献2も参照することができる。
【0043】
発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤において有効成分として機能するビオチンは、アレルギー性鼻炎の治療効果および予防効果を有するものであればよく、ビオチンそのものであってもよいし、ビオチンそのものに対して修飾が加えられたビオチン誘導体であってもよいし、これらの塩であってもよい。なお、アレルギー性鼻炎の治療効果および予防効果を有するものであるか否かは、後述する実施例に記載の方法によって確認することができる。
【0044】
本明細書において、「誘導体」とは、特定の化合物に対して、当該化合物の分子内の一部が、他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる化合物群を意図する。
【0045】
上記他の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、ニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0046】
本明細書において、「塩」とは、医薬品として被験体に投与することが生理学的に許容されうる塩であればよく、限定されない。上記塩の例としては、アルカリ金属塩(カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩、有機塩基塩(トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩など)、有機酸塩(酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、蟻酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩など)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩など)などが挙げられる。
【0047】
上記治療剤または予防剤の剤型は、限定されないが、例えば、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤であることが好ましい。当該構成であれば、アレルギー性鼻炎を効果的に治療および予防することができる。
【0048】
アレルギー性鼻炎をより効果的に治療および予防する観点からは、上記剤型は、注射剤、または、点滴剤であることが好ましい。アレルギー性鼻炎をより簡便に治療および予防する観点からは、上記剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、または、点眼剤であることが好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0.00001質量%~100質量%であってもよく、0.0001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0050】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤は、上述した有効成分以外の成分を含有していてもよい。
【0051】
有効成分以外の成分は、特に限定されず、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、抗菌剤などであり得る。
【0052】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールが挙げられる。上記リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられる。上記クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。上記酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムが挙げられる。
【0053】
上記pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0054】
上記等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)、非イオン性等張化剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール)が挙げられる。
【0055】
上記防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールが挙げられる。
【0056】
上記抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0057】
上記高分子量重合体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンが挙げられる。
【0058】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースが挙げられる。
【0059】
上記溶媒としては、例えば、水、生理的食塩水、アルコールが挙げられる。
【0060】
上記抗菌剤としては、例えば、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系の抗生物質;ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、オキサゾリジノン系、サルファ剤系の合成抗菌薬が挙げられる。
【0061】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤に含有される有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.99999質量%であってもよく、0質量%~99.9999質量%であってもよく、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤の投与間隔は、限定されず、例えば、1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回、投与され得る。
【0063】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤の投与対象は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
【0064】
〔2.ビオチンの使用〕
本〔2.ビオチンの使用〕では、上記〔1.アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤〕にて説明した事項に関しては、その説明を省略する。
【0065】
本発明の一実施形態に係るビオチンの使用は、アレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤を製造するための、ビオチンの使用である。
【0066】
上記アレルギー性鼻炎は、限定されない。上記アレルギー性鼻炎は、例えば、薬剤感受性アレルギー性鼻炎、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であり得る。上記アレルギー性鼻炎は、より重症度が高い、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であることが好ましい。
【0067】
上記治療剤または予防剤の剤型は、限定されないが、例えば、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤であることが好ましい。当該構成であれば、アレルギー性鼻炎を効果的に治療および予防することができる。
【0068】
アレルギー性鼻炎をより効果的に治療および予防する観点からは、上記剤型は、注射剤、または、点滴剤であることが好ましい。アレルギー性鼻炎をより簡便に治療および予防する観点からは、上記剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、または、点眼剤であることが好ましい。
【0069】
上記治療剤または予防剤の製造方法は、限定されず、薬剤製造の分野において公知の製造方法を用いることができる。
【0070】
〔3.アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法〕
本〔3.アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法〕では、上記〔1.アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤〕または〔2.ビオチンの使用〕にて説明した事項に関しては、その説明を省略する。
【0071】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法は、被検体から採取した試料中のビオチンを検出する工程を含む。
【0072】
ビオチンを検出する工程は、ビオチンを検出することが可能な工程であればよく、その具体的な構成は限定されない。当該工程は、例えば、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの方法を用いた工程であり得る。これらの方法については公知であるので、具体的な説明は省略する。
【0073】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法は、被検体から採取した試料中のビオチンを検出する工程から算出される、被検体から採取した試料中のビオチン濃度A(または、ビオチン量A)と、対照となるビオチン濃度B(または、ビオチン量B)とを比較する工程を含んでもよい。
【0074】
上記ビオチン濃度B(または、ビオチン量B)としては、限定されず、例えば、アレルギー性鼻炎を患っていない被検体、または、健常者から採取した試料中のビオチン濃度B(または、ビオチン量B)を挙げることができる。
【0075】
ビオチン濃度A(または、ビオチン量A)の値が、ビオチン濃度B(または、ビオチン量B)の値よりも小さい場合、例えば、上記被検体は、アレルギー性鼻炎を患っている、または、アレルギー性鼻炎を患うリスクを有している、と判定することができる。一方、ビオチン濃度A(または、ビオチン量A)の値が、ビオチン濃度B(または、ビオチン量B)の値と略同じ、または、ビオチン濃度B(または、ビオチン量B)の値よりも大きい場合、例えば、上記被検体は、アレルギー性鼻炎を患っていない、または、アレルギー性鼻炎を患うリスクを有していない、と判定することができる。
【0076】
上記アレルギー性鼻炎は、限定されない。上記アレルギー性鼻炎は、例えば、薬剤感受性アレルギー性鼻炎、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であり得る。上記アレルギー性鼻炎は、より重症度が高い、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であることが好ましい。
【0077】
上記試料は、限定されず、例えば、血液、血清、鼻汁、鼻洗浄液、または、鼻粘膜組織であり得る。当該構成であれば、容易に試料を採取することができる。
【0078】
上記被検体は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)であり得る。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットであり得る。
【0079】
〔4.アレルギー性鼻炎を診断するためのキット〕
本〔4.アレルギー性鼻炎を診断するためのキット〕では、上記〔1.アレルギー性鼻炎の治療剤および予防剤〕、〔2.ビオチンの使用〕または〔3.アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法〕にて説明した事項に関しては、その説明を省略する。
【0080】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎を診断するためのキットは、被検体から採取した試料中のビオチンを検出するための部材を備えている。
【0081】
上記ビオチンを検出するための部材は、ビオチンを検出することが可能なものであればよく、その具体的な構成は限定されない。上記ビオチンを検出するための部材は、例えば、上記〔3.アレルギー性鼻炎を診断するためのデータの取得方法〕にて説明した、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの方法を用いた工程にて、ビオチンの検出に用いられる部材であり得る。
【0082】
上記ビオチンを検出するための部材は、例えば、抗ビオチン抗体、ビオチン要求性微生物、または、高速液体クロマトグラフ用試薬であることが好ましい。当該構成であれば、正確に、かつ、容易に、ビオチンを検出することができる。
【0083】
上記抗ビオチン抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。
【0084】
上記抗ビオチン抗体は、周知の方法に従って作製することができる(例えば[Harlow (Ed.), "Antibodies: a laboratory manual", New York: Cold Spring Harbor Laboratory, 1988]、[岩崎辰夫 他「単クローン抗体:ハイブリドーマとELISA」、講談社、1991年]を参照)。
【0085】
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体の作製方法の例としては、(1)ハイブリドーマ法(例えば[Koehler G & Milstein C (1975) "Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity", Nature, Vol.256 (No.5517), pp.447-518]を参照)、(2)トリオーマ法、(3)ヒトB細胞ハイブリドーマ法(例えば[Kozbor D & Roder JC (1983) "The production of monoclonal antibodies from human lymphocytes", Immunology Today, Vol.4 (Issue 3), pp.72-79]を参照)、(4)EBV-ハイブリドーマ法(例えば[Cole SPC et al., "The EBV-hybridoma technique and its application to human lung cancer" In: Reisfeld RA & Sell S (Eds.), "Monoclonal antibodies and cancer therapy", New York: Alan R. Liss, Inc., 1985, pp.77-96 (UCLA symposia on molecular and cellular biology, Vol.27)]を参照)を挙げることができる。
【0086】
上記ビオチン要求性微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarumを挙げることができる。所望の培地中でのビオチン要求性微生物の生育の有無に基づいて、当該培地中のビオチンを検出することができる。
【0087】
上記高速液体クロマトグラフ用試薬としては、例えば、カラム、および、溶出用溶液を挙げることができる。
【0088】
上記アレルギー性鼻炎は、限定されない。上記アレルギー性鼻炎は、例えば、薬剤感受性アレルギー性鼻炎、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であり得る。上記アレルギー性鼻炎は、より重症度が高い、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎であることが好ましい。
【0089】
上記試料は、限定されず、例えば、血液、血清、鼻汁、鼻洗浄液、または、鼻粘膜組織であり得る。当該構成であれば、容易に試料を採取することができる。
【0090】
本発明の一実施形態に係るアレルギー性鼻炎を診断するためのキットは、上記試料を被検体から採取するための部材を備えていてもよい。当該部材としては、例えば、注射器、綿棒、洗浄液、および、擦過スワブを挙げることができる。
【0091】
上記被検体は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)であり得る。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットであり得る。
【0092】
〔5.その他〕
<1>ビオチンを有効成分として含有するアレルギー性鼻炎の治療剤または予防剤を被験体(例えば、ヒト、または、非ヒト動物)に投与する工程を有する、アレルギー性鼻炎の治療方法または予防方法。
【0093】
<2>上記アレルギー性鼻炎は、難治性アレルギー性鼻炎、重症アレルギー性鼻炎、最重症アレルギー性鼻炎、または、多抗原感作をきたすアレルギー性鼻炎である、<1>に記載の治療方法または予防方法。
【0094】
<3>上記治療剤または予防剤の剤型は、内服薬、点鼻剤、鼻洗浄剤、エアゾール剤、注射剤、点滴剤、または、点眼剤である、<1>または<2>に記載の治療方法または予防方法。
【実施例0095】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<1.アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁中の微生物叢の解析>
健常者(80名)、薬剤感受性アレルギー性鼻炎の患者(213名)、および、難治性アレルギー性鼻炎の患者(7名)から、鼻汁を採取した。なお、薬剤感受性アレルギー性鼻炎の患者とは、抗ヒスタミン薬の内服投与、および/または、ステロイドの鼻噴霧投与によって治療効果が得られる(ステロイドの経口投与は不要)患者を意図する。一方、難治性アレルギー性鼻炎の患者とは、抗ヒスタミン薬の内服投与、および、ステロイドの鼻噴霧投与の併用では治療効果が得られず、ステロイドの経口投与によって治療効果が得られる患者を意図する。
【0097】
次いで、採取した鼻汁中の微生物のDNAを、QIAamp UCP Pathogen Mini KIT(Qiagen、Hilden、Germany)を用いて抽出した。具体的な抽出方法は、当該キットに添付のプロトコールにしたがった。
【0098】
次いで、16S Metagenomic Sequencing Library Preparation Protocol(Illumina)にしたがって、上記抽出したDNA、および、PCR増幅、アンプリコンクリーニング(amplicon cleaning)、インデックス付与(adding to index)、および、Illumina MiSeq(Illumina、San Diego、CA)を用いて細菌由来である16S rRNA領域の遺伝子配列のシークエンシング(sequencing)を行った。
【0099】
次いで、上記16S rRNAのシークエンシングの結果等を、Quantitative Insights into Microbial Ecology 2(QIIME2)を用いて解析した。
【0100】
鼻汁中の微生物叢の解析は、QIIME2内のBasic Local Alignment Search Too(BLAST)-Based classifier implemented plugin(q2-feature-classifier)、および、16s rRNA遺伝子のデータベースであるGreengenes18.8(August 2013)を用いて行った。
【0101】
アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁中の微生物叢の解析結果を図1に示す。図1に示すように、アレルギー性鼻炎の患者(薬剤感受性アレルギー性鼻炎の患者、および、難治性アレルギー性鼻炎の患者)の鼻汁では、Corynebacteriuの数が減少していることが明らかになった。また、難治性アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁では、Corynebacterium、および、Peptoniphilusの数が減少し、Corynebacteriumの数の減少が著しいことが明らかになった。
【0102】
次いで、上述した鼻汁中の微生物叢の解析結果、および、Phylogenetic Investigation of Communities by Reconstruction of Unobserved States 2(PICRUSt2)を用いて、健常者の鼻汁中の微生物叢と難治性アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁中の微生物叢との間で変化が大きいと考えられる代謝経路を予測した。
【0103】
当該予測の結果、アレルギー性鼻炎の患者の鼻汁中の微生物叢では、健常者の鼻汁中の微生物叢と比較して、ビオチンの生合成に関係する代謝経路の活性が低下することが予測された。
【0104】
<2.アレルギー性鼻炎の患者の鼻粘膜組織中の代謝産物の解析>
上述した<1>の試験結果から、アレルギー性鼻炎とビオチンとの間に関係があることが示唆された。そこで、アレルギー性鼻炎に対する手術を行った患者の鼻粘膜組織中の代謝産物に関して、感作回数に応じて量が変化する代謝産物の同定を試みた。
【0105】
アレルギー性鼻炎や鼻閉を主訴とした鼻副鼻腔手術を行った患者から手術中に鼻粘膜を採取した。採取した鼻粘膜組織から作製した試料を、シリカキャピラリーカラムを備えたGSMS QP2010 Ultra(Shimadzu)を用いて、GC/MS解析に供した。なお、具体的な方法は、公知の方法にしたがった。
【0106】
試験結果を図2に示す。図2に示すように、感作回数が増すにしたがって(換言すれば、アレルギー性鼻炎の症状が重篤になるにしたがって)、3-ヒドロキシプロピオン酸、および、2-ヒドロキシイソカルボン酸の量が増加することが明らかになった。
【0107】
生体内では、複数の反応を経て、アミノ酸および脂肪酸からプロピオニルCoAが生成され、当該プロピオニルCoAからメチルマロニルCoAが生成される。プロピオニルCoAからメチルマロニルCoAが生成される反応は、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(酵素)およびビオチン(補酵素)が触媒しながら、進行する。3-ヒドロキシプロピオン酸、および、2-ヒドロキシイソカプロン酸は、アミノ酸および脂肪酸からプロピオニルCoAが生成される過程で生成される化合物である。3-ヒドロキシプロピオン酸、および、2-ヒドロキシイソカプロン酸の量が増加しているということは、プロピオニルCoAからメチルマロニルCoAが生成される反応が進行していないこと、つまり、当該反応の進行に必要なビオチンの量が減っていることを示唆している。
【0108】
つまり、本試験結果は、感作回数が増すにしたがって(換言すれば、アレルギー性鼻炎の症状が重篤になるにしたがって)、生体内のビオチンの量が減っていることを示唆している。
【0109】
<3.アレルギー性鼻炎の予防効果>
ビオチンを含む「コントロール飼料」と、ビオチンを含まない「ビオチン制限飼料」とを準備した。より具体的に、コントロール飼料としては、ビオチンおよび卵白タンパク質を含有し、かつ、OSD(正式名称:OpenStandard Diet (D11112201N))をベースとした、D19042501N(染料無し)を用いた。一方、ビオチン制限飼料としては、ビオチンを含有せず、卵白タンパク質を含有し、かつ、OSDをベースとした、D22041901を用いた。
【0110】
<3-1.試験-1>
BALB/cマウスに、コントロール飼料、または、ビオチン制限飼料を与えながら、24日間、飼育した。
【0111】
飼育を開始してから、1日目、6日目、13日目、および、24日目の各々において、マウスから採血し、血清を取得した。
【0112】
Biotin ELISA Kit(Wuhan Fine Biotech Co.,Ltd)を用いて、上記採血清中に含まれるビオチンの量を測定した。なお、具体的な測定方法は、上記Kitに添付キットに添付のプロトコールにしたがった。
【0113】
試験結果を図3に示す。図3から明らかなように、ビオチンを含むコントロール飼料を与えたマウスでは、血清中のビオチンの量が正常な量に維持されていた。一方、ビオチンを含まないビオチン制限飼料を与えたマウスでは、血清中のビオチンの量が著しく減少した。
【0114】
<3-2.試験-2>
本試験では、ビオチンを含む飼料をマウスに与えながら、当該マウスにおいてアレルギー性鼻炎の発症を誘導した場合に、アレルギー性鼻炎が発症するか否か、検討した。
【0115】
BALB/cマウスに、コントロール飼料、または、ビオチン制限飼料を与えながら、65日間、飼育した。
【0116】
(a)飼育を開始してから13日目および20日目に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉(RW)100μg/日を腹腔内投与し、(b)飼育を開始してから27日目~30日目の間に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉1μg/日を鼻腔内投与し、(c)飼育を開始してから62日目~65日目の間に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉1μg/日を鼻腔内投与した。これによって、アレルギー性鼻炎の発症を誘導した。
【0117】
飼育を開始してから27日目~30日目、および、62日目~65日目に、マウスを動画撮影することによって、マウスが鼻をこする回数を測定した。なお、鼻をこする回数が多いということは、アレルギー性鼻炎の症状があることを示す。
【0118】
試験結果を図4に示す。図4から明らかなように、ビオチンを含むコントロール飼料を与えたマウスでは、アレルギー性鼻炎の発症を誘導しても、アレルギー性鼻炎の症状があらわれなかった。このことは、ビオチンには、アレルギー性鼻炎の予防効果があることを示している。一方、ビオチンを含まないビオチン制限飼料を与えたマウスでは、アレルギー性鼻炎の発症を誘導すると、アレルギー性鼻炎の症状があらわれた。
【0119】
<4.アレルギー性鼻炎の治療効果>
本試験では、アレルギー性鼻炎を発症したマウスにビオチンを含む飼料を与えた場合に、アレルギー性鼻炎の症状が軽減されるか否か、検討した。
【0120】
4つの群のBALB/cマウスに、コントロール飼料、または、ビオチン制限飼料を与えながら、86日間、飼育した。
【0121】
第1群のマウスには、飼育が終了するまで、コントロール飼料を与えた。
【0122】
第2群のマウスには、飼育が終了するまで、ビオチン制限飼料を与えた。
【0123】
第3群のマウスには、飼育を開始してから66日目まではビオチン制限飼料を与えてアレルギー性鼻炎を発症させ、その後はコントロール飼料を与えた。
【0124】
第4群のマウスには、飼育を開始してから66日目まではビオチン制限飼料を与えてアレルギー性鼻炎を発症させ、飼育を開始してから67日目~86日目にビオチンを腹腔内投与(マウス1匹あたり、ビオチン100μg/日を腹腔内投与)した。
【0125】
(a)飼育を開始してから48日目および55日目に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉(RW)100μg/日を腹腔内投与し、(b)飼育を開始してから62日目~65日目の間に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉100μg/日を鼻腔内投与し、(c)飼育を開始してから83日目~86日目の間に、マウス1匹あたり、ブタクサ花粉100μg/日を鼻腔内投与した。これによって、アレルギー性鼻炎の発症を誘導した。
【0126】
飼育を開始してから62日目~65日目、および、83日目~86日目に、マウスを動画撮影することによって、マウスが鼻をこする時間、および/または、マウスが鼻をこする回数を測定した。なお、鼻をこする時間が長いということ、および、鼻をこする回数が多いということは、アレルギー性鼻炎の症状があることを示す。
【0127】
鼻をこする時間の試験結果を図5に示し、鼻をこする回数の試験結果を図6に示す。図5および図6から明らかなように、ビオチン制限飼料を与えてアレルギー性鼻炎を発症させたマウスに対してビオチンを投与することによって、アレルギー性鼻炎の症状が低減した。このことは、ビオチンには、アレルギー性鼻炎の治療効果があることを示している。また、図5から、ビオチンの腹腔内投与は、ビオチンの経口投与よりも、より効果的にアレルギー性鼻炎を治療できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、アレルギー性鼻炎の治療および予防に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6