(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115449
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】積層体およびディスプレイ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20240819BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240819BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240819BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20240819BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240819BHJP
H10K 50/858 20230101ALI20240819BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240819BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240819BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240819BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20240819BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20240819BHJP
G02F 1/1335 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B7/023
G02B1/14
H05B33/02
H10K50/10
H10K50/858
H10K59/10
G09F9/00 313
G09F9/00 302
C08J7/046 Z CFG
H05B33/14 Z
C08G59/32
G02F1/1335
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021152
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐介
【テーマコード(参考)】
2H291
2K009
3K107
4F006
4F100
4J036
5G435
【Fターム(参考)】
2H291FA94X
2H291FB02
2H291GA02
2H291LA02
2H291LA11
2H291LA22
2H291LA28
2K009AA15
2K009BB11
2K009CC24
2K009DD02
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC41
3K107CC45
3K107EE21
3K107FF02
3K107FF06
4F006AA22
4F006AA39
4F006AB34
4F006AB39
4F006AB43
4F006BA02
4F006CA05
4F006EA03
4F100AK25
4F100AK25A
4F100AK46
4F100AK46A
4F100AK49
4F100AK49A
4F100AK52
4F100AK52B
4F100AK53
4F100AK53B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100EJ54B
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JK04
4F100JK07
4F100JK12
4F100JK12B
4F100JK17
4F100JN01
4F100JN01A
4F100JN18B
4J036AK17
4J036GA22
4J036HA02
4J036JA01
5G435AA01
5G435AA03
5G435AA07
5G435BB05
5G435BB12
5G435GG43
5G435HH05
5G435HH18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、屈折率調整層を設けることなく、干渉ムラと全光線透過率が良好で視認性に優れ、硬度、屈曲耐性にも優れた積層体を提供することを目的とする。また、該積層体を含むディスプレイを提供することも目的とする。
【解決手段】透明フィルムとハードコート層を含む積層体であって、前記透明フィルムが、少なくともポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を含む屈折率1.600以下のブレンド樹脂組成物であることを特徴とする積層体、および該積層体を含むディスプレイにより上記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルムとハードコート層を含む積層体であって、前記透明フィルムが、少なくともポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を含む屈折率1.600以下のブレンド樹脂組成物であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記透明フィルムの屈折率と、前記ハードコート層の屈折率の差の絶対値が0.090以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記透明フィルムの押し込み硬さが、300N/mm2以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記積層体の全光線透過率が、90.3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記積層体の鉛筆硬度が、H以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記積層体が半径1.5mmで10万回以上の繰り返し曲げ耐久性を有することを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体の波長700~800nmにおける光透過率(%)の最大値と最小値の差である振幅が、0.25(%)以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記ハードコート層の厚さが、9μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記ポリイミドが酸二無水物由来構造とジアミン由来構造を含み、前記酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を含み、前記ジアミンとして、フッ素含有ジアミンを含むポリイミドであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
前記ポリアミドイミドが酸二無水物由来構造とジアミン由来構造に加えてジカルボン酸由来構造と含み、ジアミン由来の構造に対するジカルボン酸由来の構造をモル比で40%以下含むポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
前記溶剤可溶性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記アクリル系樹脂がメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記ハードコート層がアクリル系ハードコート層であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項14】
前記アクリル系ハードコート層がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む硬化性組成物の硬化物であることを特徴とする請求項13に記載の積層体。
【請求項15】
前記ハードコート層がシロキサン系ハードコート層であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項16】
前記シロキサン系ハードコート層が下記一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物を含む硬化性組成物の硬化物を含むことを特徴とする請求項15に記載の積層体。
(但し、式(1)中、R
1は炭素数1~12の置換または無置換のアルキレン基であり、R
2は水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R
3は水素原子または、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり、xは2または3の整数であり、Yは脂環式エポキシ基である。)
【化1】
【請求項17】
前記透明フィルムの面内の最大屈折率と最小屈折率の差が0.005以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項18】
前記透明フィルムの厚みが20~100μmであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項19】
請求項1~18いずれかに記載の積層体を含むことを特徴とするディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。また、該積層体を含むディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
透明ポリイミドフィルムとハードコート層を含む積層体は、硬度、透明性、屈曲耐性に優れるためディスプレイのカバーウィンドウフィルムとして用いられている。しかし、この材料は透明ポリイミドフィルムの屈折率が高いために、積層体の全光線透過率が低く、反射光等の色ムラである干渉ムラが強く、ディスプレイの視認性が十分ではなかった。
【0003】
特許文献1には、透明ポリイミドフィルムとハードコート層の間に屈折率調整層を設けることで干渉ムラを低減する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、屈折率調整層を設けると、製造コストが上昇する、屈折率調整層との密着性が不足するなどの問題が生じる場合があった。本発明は、屈折率調整層を設けることなく、干渉ムラと全光線透過率が良好で視認性に優れ、硬度、屈曲耐性にも優れた積層体を提供することを目的とする。また、該積層体を含むディスプレイを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑み鋭意検討の結果、下記構成によれば、屈折率調整層を設けることなく、干渉ムラと全光線透過率が良好で視認性に優れ、硬度、屈曲耐性にも優れた積層体を提供することができることを見出した。本発明は以下の構成をなす。
【0007】
1).透明フィルムとハードコート層を含む積層体であって、前記透明フィルムが、少なくともポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を含む屈折率1.600以下のブレンド樹脂組成物であることを特徴とする積層体。
【0008】
2).前記透明フィルムの屈折率と、前記ハードコート層の屈折率の差の絶対値が0.090以下であることを特徴とする1)に記載の積層体。
【0009】
3).前記透明フィルムの押し込み硬さが、300N/mm2以上であることを特徴とする1)または2)に記載の積層体。
【0010】
4).前記積層体の全光線透過率が、90.3%以上であることを特徴とする1)~3)のいずれかに記載の積層体。
【0011】
5).前記積層体の鉛筆硬度が、H以上であることを特徴とする1)~4)のいずれかに記載の積層体。
【0012】
6).前記積層体が半径1.5mmで10万回以上の繰り返し曲げ耐久性を有することを特徴とする1)~5)のいずれかに記載の積層体。
【0013】
7).前記積層体の波長700~800nmにおける光透過率(%)の最大値と最小値の差である振幅が、0.25(%)以下であることを特徴とする1)~6)のいずれかに記載の積層体。
【0014】
8).前記ハードコート層の厚さが、9μm以下であることを特徴とする1)~7)のいずれかに記載の積層体。
9).前記ポリイミドが酸二無水物由来構造とジアミン由来構造を含み、前記酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を含み、前記ジアミンとして、フッ素含有ジアミンを含むポリイミドであることを特徴とする1)~8)のいずれかに記載の積層体。
【0015】
10).前記ポリアミドイミドが酸二無水物由来構造とジアミン由来構造に加えてジカルボン酸由来構造と含み、ジアミン由来の構造に対するジカルボン酸由来の構造をモル比で40%以下含むポリアミドイミドであることを特徴とする1)~8)のいずれかに記載の積層体。
【0016】
11).前記溶剤可溶性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする1)~10)のいずれかに記載の積層体。
【0017】
12).前記アクリル系樹脂がメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル系樹脂であることを特徴とする11)に記載の積層体。
【0018】
13).前記ハードコート層がアクリル系ハードコート層であることを特徴とする1)~12)のいずれかに記載の積層体。
【0019】
14). 前記アクリル系ハードコート層がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを含む硬化性組成物の硬化物であることを特徴とする13)に記載の積層体。
【0020】
15).前記ハードコート層がシロキサン系ハードコート層であることを特徴とする1)~12)のおずれかに記載の積層体。
【0021】
16).前記シロキサン系ハードコート層が下記一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物を含む硬化性組成物の硬化物を含むことを特徴とする15)に記載の積層体。
(但し、式(1)中、R
1は炭素数1~12の置換または無置換のアルキレン基であり、R
2は水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、R
3は水素原子または、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり、xは2または3の整数であり、Yは脂環式エポキシ基である。)
【化1】
【0022】
17).前記透明フィルムの面内の最大屈折率と最小屈折率の差が0.005以上であることを特徴とする1)~16)のいずれかに記載の積層体。
【0023】
18).前記透明フィルムの厚みが20~100μmであることを特徴とする1)~17)のいずれかに記載の積層体。
【0024】
19).1)~18)いずれかに記載の積層体を含むことを特徴とするディスプレイ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、屈折率調整層を設けることなく、干渉ムラと全光線透過率が良好で視認性に優れ、硬度、屈曲耐性にも優れた積層体および該積層体を含むディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本件発明の積層体は、透明フィルムとハードコート層を含む積層体であって、前記透明フィルムが、少なくともポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を含む屈折率1.600以下のブレンド樹脂組成物であることを特徴とする積層体である。本発明の積層体は、干渉ムラと全光線透過率が良好で視認性に優れ、硬度、屈曲耐性にも優れている。これらの優れた特性が発現するメカニズムについて説明する。
【0027】
<干渉ムラ低減のメカニズム>
本発明の最大の効果である、優れた干渉ムラ(干渉ムラが見えにくい特性)は、透明フィルムを構成するポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂からなるブレンド樹脂によって主にもたらされる。ポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂をブレンドして得られるブレンド樹脂は、溶剤可溶性樹脂がブレンドされていることにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドが持つ高い屈折率が低減され、透明フィルム全体の屈折率が低下する。一般的にハードコート層の屈折率はポリイミドまたはポリアミドイミドの屈折率よりも低いため、透明フィルムの屈折率が低くなると、ハードコート層と透明フィルムとの間の屈折率差が小さくなるため、干渉ムラが起こりにくくなる。干渉ムラがないとディスプレイの視認性が高まるため好ましい。透明フィルムを構成するポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂からなるブレンド樹脂の屈折率は1.600以下であることが、干渉ムラが視認されにくくなる観点から好ましい。また、透明フィルムの屈折率と、ハードコート層の屈折率の差の絶対値は0.090以下であることが、干渉ムラが視認されにくくなる観点から好ましい場合がある。透明フィルムの屈折率を1.600以下にコントロールする観点から、溶剤可溶性樹脂の屈折率は1.600以下が好ましい。
【0028】
干渉ムラは、積層体に光を入射させた際に、透過光、反射光いずれでも生じるが、特に反射光で視認しやすい傾向がある。積層体に入射した光のうち、ハードコート層表面で反射した光と、透明フィルム表面(ハードコート層と透明フィルムの界面)で反射した光が、波長毎に互いに強めあったり、弱めあったりすることで、人の目で視認される光の色(光の波長)が変化することによって生じる色ムラが干渉ムラである。反射率は界面を形成する材料間の屈折率差が大きいほど、大きくなる傾向がある。そのため、界面を形成する材料間(ハードコート層と透明フィルム間)の屈折率差を小さくすることで、反射光が減って、干渉ムラが低減される。
【0029】
光を透過する積層体において、光の反射率と透過率には密接な関係がある。光の反射率が高い場合は透過率は低くなり、反射率が低い場合は透過率は高くなる。したがって、透過率スペクトルまたは反射率スペクトルを測定することによって、光の干渉状態を定量化することができる。具体的には、所定の波長範囲における透過率スペクトルの振幅(透過率の最大値と最小値の差)が大きいと干渉ムラが強くなり、干渉ムラが視認されやすくなる。透過率スペクトルの振幅(透過率の最大値と最小値の差)は、0.25%以下であることが、干渉ムラが視認されにくくなるため好ましい。反射率においても同様に、所定の波長範囲における反射スペクトルの振幅(反射率の最大値と最小値の差)が大きいと干渉ムラが強くなる。
【0030】
一般的にポリイミドまたはポリアミドイミドはイミド構造に由来してポリマー分子間の相互作用が強く他の樹脂と均一に混ざりにくいためブレンドが難しいが、本願の特定構造のポリイミドまたはポリアミドイミドによって他の樹脂と均一に混ざりあい、優れた光学特性や機械特性を示した状態でのブレンドが可能となる。樹脂組成物の屈折率を下げる方法としては、樹脂組成物にシリカなどの低屈折率材料の粒子を分散させる方法もあるが、この方法は低屈折率材料の分散不良によって問題を生じる場合がある。本願のポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂は良好な混合状態を安定的に実現できるため、シリカなどの低屈折率材料をポリイミドまたはポリアミドイミド中に分散させて反射率低減や干渉ムラ抑制をしようとした場合に起こる低屈折率材料の分散不良による光学特性の低下、機械特性の低下が起こらないメリットがある。
【0031】
<全光線透過率向上のメカニズム>
本発明の効果である、高い全光線透過率は、透明フィルムを構成するポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂からなるブレンド樹脂によって主にもたらされる。ポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂をブレンドして得られるブレンド樹脂は、溶剤可溶性樹脂がブレンドされることにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドが持つ高い屈折率が低減され、透明フィルム全体の屈折率が低下するため、透明フィルムの全光線透過率が高まる。透明フィルムの全光線透過率が向上することにより、ハードコート層を含む積層体の全光線透過率も向上する。全光線透過率は90.3%以上あるとディスプレイの視認性が高まるため好ましい。
【0032】
一般的にポリイミドまたはポリアミドイミドはイミド構造に由来してポリマー分子間の相互作用が強く他の樹脂と均一に混ざりにくいためブレンドが難しいが、本願の特定構造のポリイミドまたはポリアミドイミドによって他の樹脂と均一に混ざりあい、優れた光学特性や機械特性を示した状態でのブレンドが可能となる。本願のポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂は良好な混合状態を安定的に実現できるため、シリカなどの低屈折率材料をポリイミドまたはポリアミドイミド中に分散させて全光線透過率を向上させようとした場合に起こる低屈折率材料の分散不良による光学特性の低下、機械特性の低下が起こらないメリットがある。
【0033】
[本発明を構成する材料について]
本発明の積層体は、透明フィルムとハードコート層を含む積層体であって、前記透明フィルムが、少なくともポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を含む屈折率1.600以下のブレンド樹脂組成物であることを特徴とする積層体である。以下に、本発明を構成する、透明フィルム、ハードコート層、積層体について説明する。
【0034】
<透明フィルム>
透明フィルムはポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を少なくとも含む。加えて、他の樹脂や粒子、難燃剤、紫外線吸収剤、安定剤、架橋剤、染料、顔料、界面活性剤、可塑剤、滑剤などの他の成分を含んでいてもよい。例えば、耐候性、耐光性付与を目的とした紫外線吸収剤、ラジカルトラップ剤などの安定剤、色調調整を目的としたブルーイング剤などの色素や顔料を含んでいてもよい。
【0035】
ただし、粒子は透明フィルムを構成する樹脂組成物100重量部に対して、5重量部以下含むことが好ましい。特に屈折率低減を目的に配合されるシリカなどのケイ素酸化物は樹脂組成物中での分散不良が生じやすく、透明フィルムの透明性低下、ヘイズ上昇、YI上昇を引き起こすと共に、引張伸び、屈曲耐性の低下を引き起こすため好ましくない場合がある。ケイ素酸化物の含有量は、5重量部以下が好ましく、1重量部以下が好ましく、0.5重量部以下、0.1重量部以下がより好ましく、ケイ素酸化物を含まなくてもよい。ケイ素酸化物を含む粒子は、透明フィルムの耐ブロッキング性を向上させる傾向があり5重量部以下含むことが好ましい場合もある。
【0036】
透明フィルムに含まれるポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を少なくとも含む樹脂組成物は、透明性を示すブレンド樹脂である限り特に限定されず、相溶であってもよく、海島構造、シリンダー構造、ラメラ構造などのミクロ層分離構造を形成していてもよい。中でも、ポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂が相溶していることが好ましい。相溶していることで、フィルムの加工条件によらず透明性が向上すると共に、弾性率、鉛筆硬度などの機械特性が向上しやすくなる。
【0037】
<ポリイミドまたはポリアミドイミド>
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物(以下、「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの付加重合により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合物であり、酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)とジアミン由来構造(ジアミン成分)とを有する。ポリアミドイミドは、酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)の一部をテレフタル酸クロライドなどのジカルボン酸由来の構造に置換したものである。本発明において、ポリイミドとポリアミドイミドはいずれも選択できるが、溶剤可溶性樹脂との相溶性の観点からポリイミドが好ましい場合がある。ポリイミドとポリアミドイミドは併用することもできる。以降、ポリイミドおよびポリアミドイミドをポリイミド系樹脂とも記載する。
【0038】
(酸二無水物)
本実施形態で用いるポリイミド系樹脂は、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。酸二無水物成分が脂環構造を有することにより、ポリイミド系樹脂とアクリル系樹脂などの溶剤可溶性樹脂との相溶性が向上する場合がある。脂環式テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1つの脂環構造を有していればよく、1分子中に脂環と芳香環の両方を有していてもよい。脂環は多環でもよく、スピロ構造を有していてもよい。
【0039】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’テトラカルボン酸二無水物、3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,4-ジイルビス(メチレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジハイドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、5,5’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレンオキシ)]ビス-1,3-イソベンゾフランジオン、5-イソベンゾフランカルボン酸,1,3-ジハイドロ-1,3-ジオキソ-,5,5’-[1,4-シクロヘキサンジイルビス(メチレン)]エステル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸2,3:5,6-二無水物、デカハイドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[6.4.0.0(2,7)]ドデカン-1,8:2,7-テトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロ-1H,3H,8H,10H-ビフェニレノ[4a,4bc:8a,8b-c’]ジフラン-1,3,8,10-テトロン、エチレングリコールビス(水素化トリメリット酸無水物)エステル、デカハイドロ[2]ベンゾピラノ[6,5,4,-def][2]ベンゾピラン-1,3、6,8-テトロン、等が挙げられる。
【0040】
脂環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、ポリイミド系樹脂の透明性および機械強度の観点から、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(CPDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)または1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物(H-BPDA)が好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0041】
ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂との相溶性を高める観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましく、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、12モル%以上または15モル%以上であってもよい。溶剤可溶性樹脂との相溶性を持たせるために必要な脂環式テトラカルボン酸二無水物量は、溶剤可溶性樹脂や、脂環式テトラカルボン酸二無水物量の種類等によって異なる場合がある。例えば、脂環式テトラカルボン酸二無水物が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)である場合、酸二無水物成分全量100モル%に対するCBDAの含有量は、6モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。
【0042】
ポリイミド系樹脂の有機溶媒への溶解性を確保する観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、80モル%以下が好ましく、78モル%以下がより好ましく、76モル%以下がさらに好ましく、74モル%以下、72モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下または50モル%以下であってもよい。ポリイミド系樹脂を塩化メチレン等の低沸点ハロゲン系溶媒に可溶とするためには、脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、35モル%以下であってもよい。
【0043】
ポリイミド系樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物に加えて、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物または/およびビス(無水トリメリット酸)エステルを含むことが好ましい。
【0044】
フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。
【0045】
ビス(無水トリメリット酸)エステルとしては、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル(略称:TAHMBP)等が挙げられる。
【0046】
ポリイミド系樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物とビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましく、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上または50モル%以上であってもよい。酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物とビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下がさらに好ましく、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下または70モル%以下であってもよい。
【0047】
有機溶媒への溶解性、および溶剤可溶性樹脂との相溶性を兼ね備えたポリイミド系樹脂を得る観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、65モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上または95モル%以上であってもよい。
【0048】
ポリイミド系樹脂は、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステル以外の酸二無水物を含んでいてもよい。上記以外の酸二無水物の例としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、9,9―ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物)、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(3,4-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボン酸)-1,4-フェニレンエステルが挙げられる。
【0049】
ポリイミド系樹脂は、酸二無水物成分の一部をテレフタル酸クロライドなどのジカルボン酸由来の構造に置換したポリアミドイミドであっても良い。すなわち、ポリアミドイミドは酸二無水物由来構造とジアミン由来構造に加えてジカルボン酸由来構造とを含む。ジアミン由来の構造100モル%に対するジカルボン酸由来の成分の割合は、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、20モル%以下が更に好ましく、0モル%であってもよい。ジカルボン酸由来の構造が40モル%を超えると溶剤可溶性が低下する場合がある。
【0050】
(ジアミン)
本実施形態で用いるポリイミド系樹脂のジアミン成分は特に限定されない。溶解性の観点から、ポリイミド系樹脂のジアミンとしては、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造からなる群から選択される1以上を有するものが好ましい。中でも、ポリイミド系樹脂の溶解性と透明性とを両立する観点から、ポリイミド系樹脂は、ジアミン成分としてフルオロアルキル置換ベンジジン等のフッ素含有ジアミンを含むことが好ましい。
【0051】
フッ素含有ジアミンであるフルオロアルキル置換ベンジジンの例としては、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2、6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。
【0052】
中でも、ビフェニルの2位にフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル置換ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下「TFMB」と記載)が特に好ましい。ビフェニルの2位および2’位にフルオロアルキル基を有することにより、フルオロアルキル基の電子求引性によるπ電子密度の低下に加えて、フルオロアルキル基の立体障害によって、ビフェニルの2つのベンゼン環の間の結合がねじれてπ共役の平面性が低下するため、吸収端波長が短波長シフトして、ポリイミド系樹脂の着色を低減できる。
【0053】
ジアミン成分全量100モル%に対するフルオロアルキル置換ベンジジンの含有量は、
50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上、85モル%以上または90モル%以上であってもよい。フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量が大きいことにより、フィルムの着色が抑制されるとともに、鉛筆硬度や弾性率等の機械強度が高くなる傾向がある。
【0054】
ポリイミド系樹脂は、ジアミン成分として、フルオロアルキル置換ベンジジン以外のジアミンを含んでいてもよい。フルオロアルキル置換ベンジジン以外のジアミンの例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ヘンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,2’-ジメチルベンジジン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2、6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジンが挙げられる。
【0055】
例えば、ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンに加えて、ジアミノジフェニルスルホンを用いることにより、ポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性や透明性が向上する場合がある。ジアミノジフェニルスルホンの中でも、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)が好ましい。3,3’-DDSと4,4’-DDSを併用してもよい。
【0056】
ジアミン全量100モル%に対するジアミノジフェニルスホンの含有量は、1~40モル%、3~30モル%または5~25モル%であってもよい。
【0057】
ポリイミド系樹脂がポリイミドである場合は、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造を含み、前記酸二無水物として、脂環式酸二無水物およびフッ素含有芳香族酸二無水物を含み、前記ジアミンとして、フッ素含有ジアミンを含むポリイミドであることが、溶剤可溶性樹脂との相溶性が高くなる傾向にあり、透明フィルムの全光線透過率も向上するため、特に好ましい。
【0058】
ポリイミド系樹脂がポリアミドイミドである場合は、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造に加えてジカルボン酸由来構造と含み、ジアミン由来の構造に対するジカルボン酸由来の構造をモル比で40%以下含むポリアミドイミドであることが、溶剤可溶性樹脂との相溶性が高くなる傾向にあり、透明フィルムの全光線透過率も向上するため、特に好ましい。
【0059】
(ポリイミド系樹脂の調製)
酸二無水物とジアミンとの反応によりポリイミド前駆体としてのポリアミド酸が得られ、ポリアミド酸の脱水環化(イミド化)によりポリイミドが得られる。上記の様に、ポリイミド系樹脂の組成、すなわち酸二無水物およびジアミンの種類および比率を調整することにより、ポリイミド系樹脂は、透明性および有機溶媒への溶解性を有するとともに、ポリイミド以外の樹脂(溶剤可溶性樹脂)との相溶性を示す。
【0060】
ポリアミド酸の調製方法は特に限定されず、公知のあらゆる方法を適用できる。例えば、酸二無水物とジアミンとを、略等モル量(95:100~105:100のモル比)で有機溶媒中に溶解させ、攪拌することにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸溶液の濃度は、通常5~35重量%であり、好ましくは10~30重量%である。この範囲の濃度である場合に、重合により得られるポリアミド酸が適切な分子量を有するとともに、ポリアミド酸溶液が適切な粘度を有する。
【0061】
ポリアミド酸の重合に際しては、酸二無水物の開環を抑制するため、ジアミンに酸二無水物を加える方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種の酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。モノマーの添加順序を調整することにより、ポリイミド系樹脂の諸物性を制御することもできる。
【0062】
ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、ジアミンおよび酸二無水物と反応せず、ポリアミド酸を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独でまたは必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いる。ポリアミド酸の溶解性および重合反応性の観点から、DMAc、DMF、NMP等が好ましく用いられる。
【0063】
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミド系樹脂が得られる。ポリアミド酸溶液からポリイミド系樹脂を調製する方法として、ポリアミド酸溶液に脱水剤、イミド化触媒等を添加し、溶液中でイミド化を進行させる方法が挙げられる。イミド化の進行を促進するため、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。ポリアミド酸のイミド化により生成したポリイミド系樹脂が含まれる溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミド系樹脂が固形物として析出する。ポリイミド系樹脂を固形物として単離することにより、ポリアミド酸の合成時に発生した不純物や、残存脱水剤およびイミド化触媒等を、貧溶媒により洗浄・除去可能であり、ポリイミド系樹脂の着色や黄色度の上昇等を防止できる。また、ポリイミド系樹脂を固形物として単離することにより、フィルムを作製するための溶液を調製する際に、低沸点溶媒等のフィルム化に適した溶媒を適用できる。
【0064】
ポリイミド系樹脂の分子量(ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリエチレンオキシド換算の重量平均分子量)は、10,000~300,000が好ましく、20,000~250,000がより好ましく、40,000~200,000がさらに好ましい。分子量が過度に小さい場合、フィルムの強度が不足する場合がある。分子量が過度に大きい場合、ポリイミド以外の樹脂(溶剤可溶性樹脂)との相溶性に劣る場合がある。
【0065】
ポリイミド系樹脂は、ケトン系溶媒やハロゲン化アルキル系溶媒等の低沸点溶媒に可溶であるものが好ましい。ポリイミド系樹脂が溶媒に溶解性を示すとは、5重量%以上の濃度で溶解することを意味する。一実施形態において、ポリイミド系樹脂は塩化メチレンに対する溶解性を示す。塩化メチレンは、低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、塩化メチレンに可溶のポリイミド系樹脂を用いることにより、透明フィルムの生産性向上が期待できる。
【0066】
透明フィルムの熱安定性および光安定性の観点から、ポリイミド系樹脂は反応性が低いことが好ましい。ポリイミド系樹脂の酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。ポリイミドの酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価を小さくする観点から、ポリイミド系樹脂はイミド化率が高いことが好ましい。酸価が小さいことにより、ポリイミド系樹脂の安定性が高められるとともに、溶剤可溶性樹脂との相溶性が向上する傾向がある。
【0067】
<溶剤可溶性樹脂>
透明フィルムはポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含む。溶剤可溶性樹脂はポリイミドまたはポリアミドイミドとブレンドして透明性を示す、溶剤に可溶な樹脂であれば限定されない。溶剤可溶性樹脂であることで、溶剤中で混合することによりポリイミドとの均一な混合状態を得やすくなる点で好ましい。本願において溶剤のことを溶媒と示す場合がある。ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含むブレンド樹脂組成物の屈折率を低くする観点から、溶剤可溶性樹脂の屈折率は1.600以下であることが好ましい。
【0068】
溶剤可溶性樹脂は、溶剤可溶性を有し、ポリイミド系樹脂とブレンド時に透明性を示せば特に制限されないが、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、セルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
中でも、ポリイミド系樹脂との相溶性の観点から、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート及びフルオレン構造を有するなどのポリエステル系樹脂が好ましく、高い相溶性を示し、屈折率が低くいためブレンド樹脂の透過率が高く、硬度を発現しやすい傾向があるためアクリル系樹脂が特に好ましい。
【0070】
アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体等が挙げられる。アクリル系樹脂は、変性により、グルタルイミド構造単位やラクトン環構造単位を導入したものでもよい。
【0071】
透明性およびポリイミド系樹脂との相溶性、ならびにフィルム等の成形体の機械強度の観点から、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主たる構造単位とするものが好ましい。アクリル系樹脂におけるモノマー成分全量に対するメタクリル酸メチルの量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上または95重量%以上であってもよい。アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルのホモポリマーであってもよい。また、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であるアクリル系ポリマーに、グルタルイミド構造やラクトン環構造を導入したものであってもよい。
【0072】
透明フィルムの耐熱性の観点から、アクリル系樹脂のガラス転移温度は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上または120℃以上であってもよい。
【0073】
有機溶媒への溶解性、上記のポリイミド系樹脂との相溶性およびフィルム強度の観点から、アクリル系樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、15,000~200,000がさらに好ましい。
【0074】
樹脂組成物および透明フィルムの熱安定性および光安定性の観点から、アクリル系樹脂は、エチレン性不飽和基やカルボキシ基等の反応性官能基の含有量が少ないことが好ましい。アクリル系樹脂のヨウ素価は、10.16g/100g(0.4mmol/g)以下が好ましく、7.62g/100g(0.3mmol/g)以下がより好ましく、5.08g/100g(0.2mmol/g)以下がさらに好ましい。アクリル系樹脂のヨウ素価は、2.54g/100g(0.1mmol/g)以下または1.27g/100g(0.05mmol/g)以下であってもよい。アクリル系樹脂の酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。アクリル系樹脂の酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価が小さいことにより、アクリル系樹脂の安定性が高められるとともに、ポリイミド系樹脂との相溶性が向上する傾向がある。
【0075】
<紫外線吸収剤>
透明フィルムは耐光性を向上させる目的で紫外線吸収剤を含むことができる。紫外線吸収剤は主に紫外領域の波長に吸収を有する化合物であり、樹脂の紫外線による劣化を防ぐ役割を果たす。
【0076】
本発明の透明フィルムは透明ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含むため、樹脂組成物に占めるポリイミド系樹脂の比率が小さいため、光によってポリイミド系樹脂が分解して着色する問題が生じにくく、紫外線吸収剤を含まなくても良好な耐光性を有している。積層体の耐光性試験前後におけるYIの変化量が10.0以下と小さく、良好な耐光性を発現するためには紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0077】
透明フィルムを構成する樹脂組成物100重量部に対する紫外線吸収剤の含有量は、10.0重量部以下が好ましく、8.0重量部以下がより好ましく、6.0重量部以下が特に好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.0重量部であってもよく、0.1重量部以上、1.0重量部以上、3.0重量部以上、5.0重量部以上であっても良い。紫外線吸収剤の含有量が少ないと耐光性が低くなる場合があり、含有量が10.0重量部より多いと紫外線吸収剤が示す可視光領域の中でも短波長側の光の吸収によって透明フィルムのYIが高くなる傾向があり、好ましくない場合がある
【0078】
紫外線吸収剤としては、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤の中でも、良好な耐光性が得られると言う観点から、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、特に透明フィルムの着色が少ないとの観点からベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は1種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、市販のトリアジン系紫外線吸収剤を使用できる。市販のトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「Tinuvin477」、「Tinuvin460」、「Tinuvin1600」(以上、BASF製)、「アデカスタブLA-46」「アデカスタブLA-F70」(以上、ADEKA社製)、「Kemisorb102」(ケミプロ化成社製)、等が挙げられる 。
【0080】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、市販のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用できる。市販のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「Tinuvin326」「Tinuvin360」(以上、BASF製)、「Kemisorb279」(ケミプロ化成社製)、「アデカスタブLA-24」、「アデカスタブLA-29」、「アデカスタブLA-31RG」、「アデカスタブLA-32」、「アデカスタブLA-36」(以上、ADEKA社製)等が挙げられる 。
【0081】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、市販のベンゾフェノン系紫外線吸収剤を使用できる。市販のベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「seesorb151」(シプロ化成社製)、「アデカスタブ1413」(ADEKA社製)等が挙げられる 。
【0082】
ポリイミド系樹脂のベンゼン環に炭素原子数1~20のアルキル基またはフルオロアルキル基を有している場合、特にポリイミド系樹脂のベンゼン環に炭素原子数1~20のアルキル基を有している場合、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との組み合わせが、良好な耐光性が得られるためより好ましい。
【0083】
また、ポリイミド系樹脂の骨格にシクロブタン構造のようにひずみを持つような骨格を有する場合、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との組み合わせが、良好な耐光性が得られるためより好ましい。
【0084】
透明フィルムが、ポリイミド系樹脂、溶剤可溶性樹脂、紫外線吸収剤、溶剤を少なくとも含む樹脂組成物の溶液を支持体上に塗布し、前記溶剤を除去することにより製造される溶液法で得られた樹脂フィルムである場合、支持体と接する面に紫外線吸収剤が偏在する傾向がある。そのため、耐光性試験において、支持体と接していた側から光照射した際の黄変度合いが、支持体と接しない面から光照射した際の黄変合いよりも小さくなる傾向があるため好ましい。耐光性試験は公知の方法を用いることができるが、例えば、紫外線カーボンアーク灯、放射照度500W/m2、ブラックパネル温度63℃、照射時間48時間とすることができる。
【0085】
<ブルーイング剤>
透明フィルムはブルーイング剤を含んでいてもよい。ブルーイング剤は、可視光領域のうち、比較的長波長側である赤色、橙色、黄色などの光を吸収し、色を調整する添加剤(染料、顔料)である。ブルーイング剤としては、コバルトブルー、プルシアンブルーなどの無機系の顔料、アントラキノン環構造を有するアントラキノン系の化合物、フタロシアニン系の化合物、インディゴ系の化合物、メチン系の化合物などを挙げることができる。これらの中でもアントラキノン系、フタロシアニン系の化合物、インディゴ系の化合物が樹脂や溶剤への溶解性や分散性の観点で好ましく、耐熱性、耐光性、樹脂や溶剤への溶解性の観点から、特にアントラキノン系のブルーイング剤が好ましい。ブルーイング剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
フィルムの成形加工性の観点から、ブルーイング剤の耐熱性は高い方が好ましい。1%重量減少温度としては、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上が特に好ましい。
【0087】
本発明の透明フィルムはブルーイング剤を含んでいなくても着色が少なく良好な無色性を示すためブルーイング剤を含んでいなくてもよい。特に好ましい無色性であるYIが-1.0~1.0の範囲とするためには、ブルーイング剤を含んでいることが好ましい場合がある。透明フィルムが含むブルーイング剤量は、透明フィルムに求められる無色性によって適宜調整できるが、透明フィルムを構成する樹脂組成物に対して0.1ppm以上が好ましく、1ppm以上がより好ましく、10ppm以上が更に好ましく、20ppm以上が特に好ましい。ブルーイング剤の添加量は200ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、80ppm以下が更に好ましく、60ppm以下が特に好ましい。
【0088】
透明フィルムあるいは積層体の少なくとも1層がブルーイング剤を含む場合において、全ての層を構成する組成物に対するブルーイング剤の添加量をA(ppm)とし、全ての層の合計厚みをB(μm)とした際に算出される、AとBの積(A×B)の値は、5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、1000以下が更に好ましく、500以下であってもよい。AとBの積(A×B)が上記の範囲内であると、所望のYIを有する透明フィルムを得やすい傾向にある。
【0089】
ブルーイング剤は、公知のものを適宜使用することができる。例えば、アントラキノン系ブルーイング剤としては、Plast Blue 8510、Plast Blue 8514、Plast Blue 8516、Plast Blue 8520、Plast Blue 8540、Plast Blue 8580、Plast Blue 8590(以上、いずれも有本化学工業社製)などが挙げられる。
【0090】
<樹脂組成物(ブレンド樹脂)の調製>
上記のポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂とを混合して、樹脂組成物を調製する。上記のポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂は、任意の比率で相溶性を示し得るため、樹脂組成物におけるポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂との比率は特に限定されない。ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂の混合比(重量比)は、98:2~2:98、90:10~10:90、70:30~30:70または65:35~50:50であってもよい。ポリイミド系樹脂の比率が高いほど、フィルムの弾性率および鉛筆硬度が高くなり、機械強度に優れる傾向がある。溶剤可溶性樹脂の比率が高いほど、全光線透過率が高くなり、YIが低くなり、光学特性が良好になる傾向がある。ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂との混合による透明性向上の効果を十分に発揮するためには、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂の合計に対する溶剤可溶性樹脂の比率は、10重量%以上が好ましく、30重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、70重量%以上であってもよい。特に機械特性と光学特性のバランスの観点からは、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂の合計に対する溶剤可溶性樹脂の比率は、30重量%から70重量%が好ましい。
【0091】
ポリイミド系樹脂は特殊な分子構造を有するポリマーであり、一般には、有機溶媒に対する溶解性が低く、他のポリマーとは相溶性を示さない。本実施形態では、ポリイミド系樹脂が酸無水物成分として脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことにより、有機溶媒に対して高い溶解性を示すとともに、溶剤可溶性樹脂などのポリイミド系樹脂以外の樹脂との相溶性を示す。
【0092】
ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含む樹脂組成物は、示差走査熱量測定(DSC)および/または動的粘弾性測定(DMA)において単一のガラス転移温度を有することが好ましい。樹脂組成物が単一のガラス転移温度を有するとき、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂が完全に相溶しているとみなすことができる。ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含むフィルムも単一のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0093】
樹脂組成物は、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂とを含む混合溶液であってもよい。樹脂の混合方法は特に限定されず、固体の状態で混合してもよく、液体中で混合して混合溶液としてもよい。ポリイミド系樹脂溶液および溶剤可溶性樹脂溶液を個別に調製し、両者を混合してポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂との混合溶液を調製してもよい。
【0094】
ポリイミド系樹脂および溶剤可溶性樹脂を含む溶液の溶媒としては、ポリイミド系樹脂および溶剤可溶性樹脂の両方に対する溶解性を示すものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒が挙げられる。中でも、ポリイミド樹脂およびアクリル系樹脂を含む溶剤可溶性樹脂の両方に対する溶解性に優れ、かつ低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、ケトン系溶媒およびハロゲン化アルキル系溶媒が好ましい。
【0095】
フィルムの加工性向上や各種機能の付与等を目的として、樹脂組成物(溶液)に、有機または無機の低分子化合物、高分子化合物(例えばエポキシ樹脂)等を配合してもよい。樹脂組成物は、ブルーイング剤を含む染料および顔料、紫外線吸収剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を含んでいてもよい。微粒子には、ポリスチレン、架橋アクリル樹脂等の有機微粒子、シリカ、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、多孔質や中空構造であってもよい。ただし、粒子の含有量は透明フィルムを構成する組成物100重量部に対して5重量部以下であることが好ましい場合がある。
【0096】
[透明フィルムの成形とフィルム特性]
本発明の透明フィルムはポリイミド系樹脂および溶剤可溶性樹脂を含む組成物をフィルム成形することで得られる。成形法としては、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、カレンダー成形、溶融押出成形等の溶融法が挙げられる。ポリイミド系樹脂は高い融点及びガラス転移点温度を示すため、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含む樹脂組成物は、ポリイミド系樹脂に比べて溶融粘度が小さい傾向があり、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、溶融押出成形等の成形性に優れている。溶融法の他に、ポリイミド系樹脂および溶剤可溶性樹脂を含む組成物を溶剤に溶かした溶液状態で塗布し、溶媒を乾燥させる溶液法も選択できる。
【0097】
フィルムの成形方法は、溶融法および溶液法のいずれでもよいが、透明性および均一性に優れるフィルムを作製する観点からは溶液法が好ましい。溶液法では、上記のポリイミド系樹脂および溶剤可溶性樹脂を含む溶液を、支持体上に塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、フィルムが得られる。
【0098】
ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を含む樹脂組成物の溶液は、同一の固形分濃度のポリイミド系樹脂の溶液に比べて溶液粘度が低い傾向がある。そのため、溶液の輸送等の取扱性に優れるとともに、コーティング性が高く、フィルムの厚みムラ低減等において有利である。
【0099】
樹脂溶液を支持体上に塗布する方法としては、バーコーターやダイコーター、コンマコーター等を用いた公知の方法を適用できる。支持体としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、樹脂溶液(ドープ)の溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよい。
【0100】
溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は溶媒が除去でき、かつ得られるフィルムの着色を抑制できる温度であれば特に制限されず、室温~300℃程度で適宜に設定され、50℃~220℃が好ましい。加熱温度は段階的に上昇させてもよい。溶媒の除去効率を高めるために、ある程度乾燥が進んだ後に、支持体から樹脂膜を剥離して乾燥を行ってもよい。溶媒の除去を促進するために、減圧下で加熱を行ってもよい。溶剤可溶性樹脂の分解温度以下であれば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶剤に代表される高沸点溶媒を、窒素雰囲気下で乾燥処理することもできる。
【0101】
溶剤可溶性樹脂の一例であるアクリル系樹脂のフィルムは、靭性が低い場合があるが、ポリイミド系樹脂とアクリル系樹脂との相溶系を採用することによりフィルムの強度が向上する場合がある。ポリイミド系樹脂とアクリル系樹脂との相溶系は、アクリル系樹脂単独に比べて弾性率、鉛筆硬度などの機械特性を向上させる効果もある。フィルムの機械強度向上等を目的として、本発明の透明フィルムは一方向または複数の方向に延伸を行ってもよい。フィルムを延伸するとポリマー鎖が延伸方向に配向するため、フィルムの面内方向の強度が向上し、フィルムの割れやクラックの発生が抑制される傾向がある。
【0102】
特に、ポリイミドとアクリル系樹脂との相溶系では、延伸方向の引張弾性率が大きくなりこれに伴って耐屈曲性が向上する傾向がある。アクリル系樹脂のモノマー成分におけるメタクリル酸メチルの比率が高いほど、延伸方向の引張弾性率の上昇傾向が顕著となる。
【0103】
例えば、折りたたみ可能な表示装置(フォルダブルディスプレイ)のカバーウィンドウや基板材料として用いられるフィルムは、同一箇所で折り曲げ軸に沿って折り曲げが繰り返されるため、折り曲げ軸と直交する方向の機械強度が高いことが求められる。そのため、フィルムの延伸方向が折り曲げ軸と直交するように配置することにより、折り曲げを繰り返しても、折り曲げ箇所でのフィルムの割れやクラックが生じ難く、折り曲げ耐性の高いデバイスを提供できる。
【0104】
フィルムの延伸条件は特に限定されない。例えば、延伸温度は、フィルムのガラス転移温度±40℃程度であり、120~300℃、150~250℃または180~230℃程度であってもよい。延伸倍率は、1~200%程度であり、5~150%、10~120%、20~100%であってもよい。延伸倍率が大きいほど、延伸方向の引張弾性率が大きくなる傾向がある。一方、延伸倍率が過度に大きい場合は、延伸方向と直交する方向の機械強度が低下する傾向があり、フィルムのハンドリング性が低下する場合がある。
【0105】
面内の任意の方向における強度を高める観点から、フィルムを二軸延伸してもよい。二軸延伸は同時二軸延伸でもよく、逐次二軸延伸でもよい。二軸延伸では、一方向の延伸倍率と、その直交方向の延伸倍率とが、同一でもよく異なっていてもよい。延伸倍率に差を設けると、延伸倍率が大きい方向の機械強度が相対的に大きくなる傾向がある。延伸倍率に異方性がある二軸延伸フィルムをフォルダブルデバイスに使用する場合は、延伸倍率が大きい方向を折り曲げ軸と直交するように配置することが好ましい。
【0106】
透明フィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。フィルムの厚みは、例えば5~300μmである。自己支持性と可撓性とを両立し、かつ透明性の高いフィルムとする観点から、フィルムの厚みは20μm~100μmが好ましく、25μm~80μm、25μm~50μmであってもよい。ディスプレイのカバーウィンドウ用途としてのフィルムの厚みは、20μm以上が好ましい。フィルムを延伸する場合は、延伸後の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0107】
透明フィルムの全光線透過率は、90.3%以上が好ましく、90.5%以上がより好ましく、91.0%以上が更に好ましく、91.5%以上が特に好ましい。全光線透過率が高いと、ディスプレイの視認性が高まり好ましい。上記のように、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂とを混合することにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドを単独で用いる場合に比べて、全光線透過率が高いフィルムが得られる。
【0108】
透明フィルムの黄色度(YI)は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。フィルムの黄色度(YI)は、-3.0以上が好ましく、-2.0以上がより好ましく、-1.0以上が更に好ましい。YIが-3.0~3.0の範囲にあると着色が少ないため、ディスプレイの視認性が高まり好ましい。特にYIが-1.0~3.0の範囲であることが好ましい。上記のように、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂とを混合することにより、ポリイミド系樹脂を単独で用いる場合に比べて、着色が少なく、YIの絶対値が小さいフィルムが得られる。
【0109】
透明フィルムのヘイズは10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3.5%以下、3%以下、2%以下、1%以下または0.5%以下であってもよい。フィルムのヘイズは低いほど好ましい。上記の様に、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂のブレンド樹脂のなかでも、溶剤可溶性樹脂にアクリル系樹脂を用いたものは特に高い相溶性を示すため、ヘイズが低く、透明性の高いフィルムが得られる。ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂を混合した樹脂組成物は、厚み50μmのフィルムを作製した際のヘイズが10%以下であることが好ましい。
【0110】
透明フィルムの屈折率は、面内の最大の屈折率と最小の屈折率の平均である平均屈折率が1.600以下であることが好ましい。屈折率が低いと干渉ムラ生じにくくなり、全光線透過率が高くなる。溶剤可溶性樹脂の中でもアクリル系樹脂は屈折率が低いため、ブレンド樹脂の屈折率も低くなり好ましい。屈折率は樹脂組成物の組成とポリマー鎖の配向状態によって決まる。ポリイミド系樹脂とアクリル系樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の屈折率が高くなる傾向があるため、面内の最大の屈折率方向は延伸方向となる傾向にある。2軸延伸の場合は1回目の延伸方向または2回目の延伸方向いずれかになる傾向にある。面内の平均屈折率は、1.580以下がより好ましく、1.560以下が更に好ましく、1.540以下が特に好ましく、1.520以下であってもよい。屈折率が低く、干渉ムラが生じにくく、全光線透過率が高いと、ディスプレイの視認性が高まり好ましい。上記のように、ポリイミド系樹脂と溶剤可溶性樹脂とを混合することにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドを単独で用いる場合に比べて、屈折率が低いフィルムが得られる。ただし、ポリマー鎖の配向によって屈折率が大きい場合においては、ポリマー鎖の配向によって機械特性の向上が期待できる。そのため、面内の最大の屈折率は機械特性とのバランスを鑑みて任意の値を適宜設定できる。
【0111】
透明フィルムの屈折率は、面内の最大の屈折率と最小の屈折率の差の絶対値が0.005以上であることが好ましい場合がある。特に、1軸延伸フィルムにおいては、面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値が大きいと機械特性が高くなる場合がある。面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値はポリマー鎖の配向状態によって決まる。ポリイミドとアクリル系樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の屈折率が高くなる傾向があるため、面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値が大きくなる方向は、延伸方向とその直行方向である。面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値は、0.010以上がより好ましく、0.020以上が更に好ましく、0.040以上が特に好ましい場合がある。面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値が大きいと、屈曲耐性、鉛筆硬度などの機械特性が向上する傾向にあり好ましい。ただし、2軸延伸されたフィルムの場合は、面内の最大屈折率と最小屈折率の差の絶対値は大きくならないが、延伸によるポリマー分子鎖の配向は起こるため、機械特性に優れる傾向にある。
【0112】
透明フィルムの弾性率は3.0GPa以上が好ましい。弾性率が高いと鉛筆硬度、屈曲耐性などの機械特性が良好となる傾向にある。弾性率は3.5GPa以上がより好ましく、5.0GPa以上がさらに好ましく、5.5GPa以上が特に好ましく、6.0GPa以上であってもよい。フィルムの弾性率は面内の最大弾性率を意味する。弾性率は樹脂組成物の組成とポリマー鎖の配向状態によって決まる。ポリイミド系樹脂とアクリル系樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の弾性率が高くなる傾向があるため、面内の最大の弾性率方向は延伸方向となる。2軸延伸の場合は1回目の延伸方向または2回目の延伸方向いずれかになる傾向にある。
【0113】
透明フィルムの耐光性は、耐光性試験におけるYIの変化量が10.0以下であることが好ましい場合がある。YI変化量が小さいと、屋外など紫外線暴露量が多い環境での使用においても色調変化が小さく、ディスプレイの視認性変化が小さくなる傾向にあるため好ましい。YIの変化量は、4.0以下がより好ましく、2.0以下が更に好ましく、1.0以下が特に好ましい。耐光性試験は紫外線カーボンアーク光源による、照射強度500W/m2、ブラックパネル温度63℃、雨無し、で48時間暴露する試験であり、試験前後でのYIを測定することでYIの変化量ΔYI(試験後のYI-試験前のYI)を求めることができる。
【0114】
透明フィルムの押し込み硬さは300N/mm2以上が好ましい。押し込み硬さが高いことによって鉛筆硬度が向上する傾向がある。
【0115】
押し込み硬さはナノインデンテーション法により測定する。三角錐圧子(バーコビッチ圧子)をフィルム表面に対して6.667mN/秒の速度で負荷(印加)していき、0mNから15秒かけて100mNに到達させ2秒間保持する。2秒経過後に6.667mN/秒の速度で除荷していき、100mNから15秒かけて0mNに到達させる。この除荷時の横軸変位、縦軸荷重の除荷曲線データを用いて、押し込み硬さを算出する。算出に当たっては、測定で得られた除荷曲線データをマイクロソフト社の表計算ソフトエクセルで6次多項式近似を行って得られる除荷曲線を用いる。この時の近似曲線の係数は30桁とする。押し込み硬さは以下の式により算出される。
押し込み硬さ(N/mm2)=最大荷重Fmax/接触射影面積A
接触射影面積A=24.56×接触深さhc2
接触深さhc=最大変位hmax-0.75×最大荷重Fmax/除荷開始時の傾き
ここで、除荷開始時の傾きは、除荷開始点と、除荷開始時点から0.5%変位が減少した時点の点を結ぶ直線の傾きである。
【0116】
押し込み硬さは300N/mm2以上が好ましく、350N/mm2以上がより好ましく、360N/mm2以上が特に好ましい。押し込み硬さが300N/mm2未満では、鉛筆硬度が不足する場合がある。
【0117】
<積層体>
本発明は、透明フィルムとハードコート層を含む積層体である。本発明の積層体は、ハードコート層以外の機能層を含んでいてもよい。機能層としては、紫外線吸収層、粘着層、易接着層、屈折率調整層、反射防止層等の種々の機能を有する層が挙げられる。本発明の積層体は、屈折率調整層を含んでいてもよいが、ポリイミドまたはポリアミドイミドと溶剤可溶性樹脂を少なくとも含むブレンド樹脂からなる透明フィルムは屈折率が低いために、屈折率調整層を含んでいなくても、干渉ムラを低減できるメリットがある。そのため、本発明の積層体は屈折率調整層を含んでいなくてもよく、コストや屈折率調整層との密着性の観点から、屈折率調整層を含んでいないことが好ましい場合がある。
【0118】
ハードコート層及び上記の機能層は、色調調整の目的でブルーイング剤を含んでいてもよい。これらのハードコート層及び機能層は耐光性を向上させる目的で紫外線吸収剤を含んでいてもよい。特に、相溶性や耐熱性の観点で、透明フィルムにブルーイング剤や紫外線吸収剤などの添加剤を配合できない場合は、ハードコート層及び機能層に添加剤を添加することによって、積層体としての色調を調整したり、積層体としての耐光性を向上させたりすることができる。機能層としては、フレキシブルディスプレイに必要とされる機能である粘着性を付与できる粘着層、ハードコート層などの他の層との接着性を付与できる易接着層がより好ましい。機能層が紫外線などの活性エネルギー線硬化型の材料である場合、機能層に紫外線吸収剤を含むと硬化阻害が起こる場合がある。
【0119】
ハードコート層及び機能層の厚みは求められる特性に応じて適宜設定することができる。ただし、ハードコート層の厚みは好ましい範囲があるため、下記に記載する。ハードコート層及び機能層は1種類だけでもよく、複数以上形成されていてもよい。また、ハードコート層及び機能層は透明フィルムの一方の面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0120】
ハードコート層を構成する材料は、傷の発生を防止する機能を有していれば特に限定されず、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シロキサン系、エポキシ系樹脂などが挙げられるが、アクリル系ハードコート樹脂組成物の硬化物であるアクリル系ハードコート層またはシロキサン系ハードコート樹脂組成物の硬化物であるシロキサン系ハードコート層が、傷の発生防止の観点から好ましい。
【0121】
<アクリル系ハードコート層>
アクリル系ハードコート層を形成するアクリル系ハードコート組成物は、(メタ)アクリロイルオキシ基などの(メタ)アクリロイル基を分子内に有するモノマーまたはオリゴマーを含む。アクリル系ハードコート組成物は様々な(メタ)アクリロイル基を分子内に有するモノマーまたはオリゴマーを組み合わせることで、硬度、耐擦傷性、屈曲耐性、光学特性のコントロールを行うことができる点で好ましい場合がある。オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のアクリレートが挙げられる。モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系化合物はハードコート層に求められる特性に応じて複数種類を組み合わせて使うことも可能であり、傷に対する耐性、屈曲耐性、組成物の粘度に応じて適宜組み合わせを調整できる。(メタ)アクリル系化合物のなかでも、傷に対する耐性の観点からは、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを含むことが特に好ましい。(メタ)アクリル系化合物のなかでも、屈曲耐性の観点からは、ウレタンアクリレートを含むものが特に好ましい。また、硬化性の観点から(メタ)アクリレートの中でもアクリレートが特に好ましい。これらの化合物の分子量は特に限定されないが、例えば、200~10000の範囲内などが挙げられる。
【0122】
アクリル系ハードコート組成物は、光開始剤を含むことが好ましい。光開始剤を含むことで、生産性の高い活性エネルギー線硬化の製造プロセスを採用できる。光開始剤としては、光によってラジカルを発生させる化合物が好ましく用いられる。例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3-メチルアセトフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
【0123】
ハードコート組成物中の光開始剤の含有量は、上記のアクリル系化合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0124】
また、アクリル系ハードコート組成物は、添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、フッ素系又はシリコーン系などのレベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤以外の色調調整剤、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、溶剤などが挙げられる。
【0125】
<シロキサン系ハードコート層>
シロキサン系ハードコート層を形成するシロキサン系ハードコート組成物は、シロキサン結合を有する硬化性化合物であれば特に限定されないが、傷に対する耐性の観点から、一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物を含むことが好ましい。シロキサン系ハードコート組成物は硬化時の硬化収縮が小さいため、ハードコート層を厚膜形成してもカールやクラックが生じにくい点で好ましい場合がある。特にカバーウィンドウとして外力からのストレスを抑制する観点で、厚膜にできるシロキサン系ハードコートはアクリル系ハードコートよりも好ましい場合がある。
【化2】
一般式(1)中、Yは脂環式エポキシ基を含有する基を表す。このような脂環式エポキシ基を有する基の具体例としては例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
【0126】
一般式(1)中、R1は水素原子または炭素数1~10のアルキル基を示す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。加水分解性シリル基を有するシラン化合物を加水分解および縮合させやすいという観点から、R1のアルキル基はメチル基、エチル基またはプロピル基が好ましく、最も好ましくはメチル基である。
【0127】
一般式(1)中、R2は水素原子または炭素数1~16のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基を示す。このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0128】
一般式(1)のxは、1~3の整数であり、ハードコートに要求される諸物性に応じて適宜選択される。一般式(1)で表されるシラン化合物に含まれる、SiO3/2(一般式(1)においてx=3に相当)、SiO2/2(一般式(1)においてx=2に相当)、SiO1/2構造(一般式(1)においてx=1に相当)をそれぞれ、T構造、D構造、M構造とした時に、[T構造]+[D構造]+[M構造]に対する[T構造]の比率は特に限定されないが、0.2以上1.0以下が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.6以上1.0以下が更に好ましい。[T構造]の比率が0.2より小さい場合、十分な耐擦傷性や鉛筆硬度が得られない恐れがある。
【0129】
シラン化合物(1)の具体例としては、例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}トリメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}トリエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}トリメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}トリエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルエトキシシラン等の脂環式エポキシ基含有シランが挙げられる。これらの中でも、縮合反応の容易性や硬化物の硬度の観点から2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましい。
【0130】
シラン化合物の縮合物は一般式(1)で表されるシラン化合物以外のシラン化合物を共縮合することができる。共縮合される場合は、[一般式(1)由来の構成単位]/([一般式(1)由来の構成単位]+[一般式(1)以外由来の構成単位])が0.5以上1.0以下であることが好ましく、硬度、耐屈曲性の観点で、0.7以上1.0以下であることがより好ましく、0.9以上1.0以下が更に好ましい。
【0131】
シラン化合物の縮合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、硬化物の硬度を高める観点から500以上が好ましい。また、シラン化合物の縮合物の揮発を抑制する観点からも、シラン化合物の縮合物の重量平均分子量は500以上であることが好ましい。一方、分子量が過度に大きいと、他の組成物との相溶性の低下等に起因して白濁が生じる場合がある。そのため、シラン化合物の縮合物の重量平均分子量は20000以下が好ましい。
【0132】
シラン化合物の加水分解および縮合反応は、公知の方法にて、塩基性触媒、酸性触媒、中性塩触媒の存在下いずれでも実施できる。なかでも、中性塩触媒を用いることが好ましい。加水分解および縮合反応を中性塩触媒の存在下で実施することにより、加水分解および縮合反応の前後および貯蔵中に、エポキシ基を失活させることなく、シラン化合物の縮合物を得ることができる。中性塩触媒を用いて縮合させた場合は、触媒を除去するための精製工程を実施しなくてもエポキシ基を失活させることがないメリットがあり、そのような場合はハードコート層の中に中性塩触媒が残留することとなる。中性塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。
【0133】
シロキサン系ハードコート組成物は、光開始剤を含むことが好ましい。光開始剤を含むことで、生産性の高い活性エネルギー線硬化の製造プロセスを採用できる。光開始剤は、活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)である。光酸発生剤から生成した酸により、上記の硬化性組成物中のシラン化合物の縮合物のエポキシ基の開環反応および重合反応が進行し、分子間架橋が形成され材料が硬化する。
【0134】
光酸発生剤としては、六フッ化アンチモン、四フッ化ホウ素、六フッ化リン、フルオロアルキルフッ化リン、フルオロアルキルフッ化ガリウム等のアニオン(強酸)と、スルホニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ヨードニウム、セレニウム等のカチオンを組み合わせたオニウム塩類;鉄-アレン錯体類;シラノール-金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類等が挙げられる。
【0135】
上記の光酸発生剤の中で、カチオンとしては、エポキシ化合物を含む硬化性組成物における安定性が高いことから、芳香族スルホニウムまたは芳香族ヨードニウムが好ましい。上記の光酸発生剤の中で、アニオンとしては、酸強度が強いために、表面硬度や樹脂基材との密着性に優れるハードコート層が得られやすいことから、フルオロアンチモネート系アニオン、フルオロボレート系アニオン、フルオロフォスフェート系アニオン、フルオロガリウム系アニオン等が好ましい。
【0136】
ハードコート組成物中の光開始剤の含有量は、上記のシラン化合物の縮合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0137】
シロキサン系ハードコート組成物は、さらに、反応性添加剤として、本発明のシラン化合物の縮合物以外のカチオン硬化性化合物を含んでいてもよい。反応性添加剤のカチオン重合性官能基としては、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタニル基、およびアルコキシシリル基が挙げられる。本発明のシラン化合物の縮合物との相溶性や反応性の観点からは、エポキシ基を有するものが好ましい。反応性添加剤としてのその他のカチオン硬化性化合物は単官能であってもよく。多官能であってもよい。硬化物の硬度の観点からは、少なくとも一部は多官能であることが好ましい。反応性添加剤としてその他のカチオン硬化性化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0138】
また、シロキサン系ハードコート組成物は、上記以外の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、フッ素系又はシリコーン系などのレベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤以外の色調調整剤、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、溶剤などが挙げられる。
【0139】
[ハードコート層の成形と積層体特性、積層体のディスプレイへの応用]
本発明の積層体は透明フィルム上に硬化性組成物(ハードコート組成物)を塗布し(塗工によりハードコート層を形成する工程)、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射すること(活性エネルギー線を照射する工程)により、硬化性組成物を硬化することで得られる。なかでも、透明フィルム上に硬化性樹脂組成物と光開始剤を含む組成物を塗工する工程の後に、活性エネルギー線を照射する工程とを含む方法が生産性の観点から好ましい。ハードコート組成物を塗布する方法としては特に限定されず、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の塗布方法を使用できる。
【0140】
本発明の積層体におけるハードコート層の厚みは、1~50μmの範囲で適宜設定できるが、0.1~9μmが好ましく、0.5~6μmがより好ましく、1~5μmが更に好ましい。ハードコート層が9μm以下になると、干渉ムラが生じやすくなるが、本発明の積層体は干渉ムラに優れているため、ハードコート層が9μm以下の厚みであっても良好な視認性が得られる特徴がある。ハードコート層が厚いと鉛筆硬度、耐衝撃性が良好となる傾向があり、0.1μmより薄くなると硬度が不足する。ハードコート層が薄いと屈曲耐性が良好となる傾向があり、50μmより厚くなると屈曲耐性が不足する。
【0141】
本発明の積層体の総厚み(ハードコート層の厚みと透明フィルムの厚みの和)は、特に限定されないが10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上が更に好ましく、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下が更に好ましく、60μm以下が特に好ましい。総厚みが10μm未満では硬度が不足する場合がある。総厚みが200μmを超えると屈曲耐性が不足する場合がある。
【0142】
本発明の積層体は、透明フィルムに由来する優れた光学特性と機械特性を有すると共に、ハードコート層に由来する高い耐擦傷性を兼ね備える。フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウには、ディスプレイの画像を美しく表示するための優れた光学特性と共に、様々な物品との接触による傷付きや凹みを防ぐことが求められる。そのため、本発明の積層体はフレキシブルディスプレイのカバーウィンドウに好適に用いることができる。
【0143】
本発明で言う屈曲耐性に優れるとは、折り曲げられていないフラットな積層体を、曲げ半径1.5mm以下で180°折り曲げた後に、元のフラットな状態に戻す操作を1回/秒の速度で10万回繰り返した後に、積層体にクラックまたは破断がないことを意味する。このような試験は、市販の繰り返し曲げ試験機で実施可能であり、例えばユアサシステム機器社製のU字屈曲耐久性試験装置などで実施できる。本発明の積層体は、ハードコート層を内面にして、曲げ半径1.5mmで10万回折り曲げても積層体にクラックまたは破断がないことが好ましい。
【0144】
本発明の積層体はJIS-K5600に準拠した鉛筆硬度試験においてH以上の硬度を有することが好ましい。鉛筆硬度は、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが特に好ましい。
【0145】
本発明の積層体は、ヘイズが1%以下であることが好ましい。ヘイズが低いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。ヘイズは0.7%以下がより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0146】
本発明の積層体は、全光線透過率が90.3%以上である。全光線透過率が高いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。全光線透過率は90.5%以上がより好ましく、91.0%以上がより好ましい。
【0147】
本発明の積層体は、YIが-3.0~3.0であることが好ましい。YIが上記範囲であることで、ディスプレイの視認性を向上させたり、色調を良好にさせたりすることが可能となる。YIは-2.0~2.0がより好ましく、-1.0~1.0がさらに好ましい。
【0148】
本発明の積層体は、透明フィルムの屈折率と、ハードコート層の屈折率の差の絶対値が0.090以下であることが好ましい。屈折率差の絶対値が小さいと、先述のメカニズムによって、干渉ムラがおこりにくくなるため好ましい。屈折率差の絶対値は0.090以下が好ましく、0.050以下がより好ましく、0.030以下が更に好ましく、0.020以下が特に好ましく、0.000であってもよい。
【0149】
本発明の積層体は、波長700~800nmにおける光透過率(%)の最大値と最小値の差である振幅が、0.25(%)以下であることが好ましい。先述の通り、干渉ムラは透過率スペクトルで定量化することが可能であり、透過率スペクトルにおける光透過率の最大と最小の差(振幅)が大きいほど、特定波長の光が強め合ったり、弱めあったりして色の差として視認されやすくなるため、干渉ムラが強くなる。最大値と最小値の差である振幅は、干渉ムラが生じにくい観点で0.25%以下が好ましく、0.20%以下がより好ましい。最大値と最小値の差である振幅は、0.00%であってもよい。
【0150】
なお、波長700~800nmにおける光透過率(%)の最大値と最小値の差である振幅を求めるにあたっては、波長毎の透過率である透過率スペクトルデータを5項移動平均処理によって突発的な最大値または最小値が生じないようにスムージング化し、そのうえで、波長700~800nmにおける光透過率(%)の最大値と最小値の差を振幅とする。波長n番目における、透過率データをC
nとした場合に、透過率の5項移動平均値は以下の式によって算出される。
【数1】
【0151】
本発明の積層体は、干渉ムラが無いか、弱いことが好ましい。干渉ムラは、積層体の透明フィルム面を粘着剤付き黒色PETフィルムに貼り合わせてから、三波長蛍光灯照明下でハードコート層側から積層体を観察し、強度を判定することができる。黒色PETフィルムを貼り合わせることで、ディスプレイを黒表示にした最も干渉ムラが視認されやすい状況を再現することができる。この状態で干渉ムラが無いか、非常に弱いことがディスプレイの視認性の観点で好ましい。
【0152】
本発明の積層体は、透明フィルムの屈折率が低いことで干渉ムラが良好であり、全光線透過率が高く、ディスプレイに求められる良好な視認性、光学特性を有している。また、透明フィルムとハードコート層の組み合わせに起因して押し込み硬さが高く耐擦傷性が良好であることから鉛筆硬度が高く、ディスプレイのカバーウィンドウに求められる良好な耐擦傷性を有している。さらに、屈曲耐性(繰り返し曲げ試験の耐性)にも優れており、柔軟性が求められるフレキシブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイのカバーウィンドウとして、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといった表示デバイスよりも表面側に配置して好適に使用できる。なかでも、フレキシブル性に優れる有機ELディスプレイのカバーウィンドウとして特に好適に使用できる。
【実施例0153】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、MD方向は塗布時の流れ方向であり、TD方向はMD方向と直行する方向である。
【0154】
[ポリイミド樹脂の製造例]
セパラブルフラスコにジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、表1に示す比率(モル%)で、ジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下にて5~10時間撹拌して反応させ、固形分濃度18重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0155】
ポリアミド酸溶液100gに、イミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコール(以下、IPAと記載)100gを、2~3滴/秒の速度で投入し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、約30分撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体をIPAで洗浄した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂であるポリイミド1とポリイミド2を得た。
【0156】
表中の略号については下記のとおりである。
<酸二無水物>
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
<ジアミン>
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS(DDSと表記する場合がある):3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
【0157】
[ポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂のフィルム作製例]
塩化メチレンに、上記の製造例で得られたポリイミド1、アクリル系樹脂として市販のポリメタクリル酸メチル樹脂(クラレ製「パラペットG」、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比87/13)の共重合体、ガラス転移温度109℃、酸価0.0mmol/g)を、表2に示す比率で混合し、樹脂分11重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を支持体である無アルカリガラス板上に塗布し、60℃で15分、90℃で15分、120℃で15分、150℃で15分、180℃で15分、大気雰囲気下で加熱乾燥し、所定厚さのポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂を含む透明フィルムを作製した。
【0158】
[ポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂のフィルムの延伸例]
乾燥後のフィルムを、乾燥オーブン付きの延伸機を用いて、表2に記載の温度、延伸倍率、延伸方向で、幅固定一軸延伸を行い、表2に記載の厚みのポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂を含む透明フィルムを得た。なお、延伸倍率80%は延伸前のフィルムに対して1.80倍に延伸することを意味している。屈折率測定結果を表4に示す。面内の屈折率の最大方向はTD方向であり、屈折率の最小方向はMD方向であった。
【0159】
[ポリイミドフィルム作製例]
ポリイミド2とトリアジン系の紫外線吸収剤としてTinuvin477(BASFジャパン社製)、アントラキノン系のブルーイング剤としてPlast Blue8590(有本化学工業社製)を表2に示す比率(重量部)で塩化メチレンに溶解し、固形分濃度10重量%の塩化メチレン溶液を得た。この溶液を支持体である無アルカリガラス板上に塗布し、40℃で60分、80℃で30分、150℃で30分、170℃で30分間、200℃で60分間、大気雰囲気下で加熱して溶媒を除去して、厚み50μmの透明なポリイミドフィルムを得た。屈折率測定結果を表4に示す。面内の屈折率の最大方向はMD方向であり、屈折率の最小方向はTD方向であった。
【0160】
[PETフィルム]
50μm厚のPETフィルム(東レ社製:品名ルミラーT60;易接着層などの機能層がないPETフィルム)を準備した。屈折率測定結果を表4に示す。面内の屈折率の最大方向はTD方向であり、屈折率の最小方向はMD方向であった。
【0161】
[アクリルフィルム]
40μm厚のポリメタクリル酸メチルからなる透明フィルムを準備した。屈折率測定結果を表4に示す。面内の屈折率の最大方向はTD方向であり、屈折率の最小方向はMD方向であった。
【0162】
[積層体の作製例]
以下に、積層体の作製例について説明する。
【0163】
[シラン化合物の縮合物の合成例]
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた200mLフラスコの反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製;SILQUEST A-186)(66.5g;270mmol)および1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)(16.5g)を仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(9.7g;539mmol)およびメタノール(5.8g)の混合液に溶解した塩化マグネシウム(0.039g;0.405mmol)溶液を5分かけて滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去した。
得られた縮合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは1700であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は814ppmであった。
【0164】
なお、上記の合成例にて得られるシラン化合物の縮合物の評価方法は、次の通りである。
<重量平均分子量Mwの測定>
重量平均分子量は、GPCにより測定した。東ソー社製GPC装置HLC-8220GPC(カラム:TSKgel GMHXL×2本、TSKgel G3000HXL,TSKgel G2000HXL)を用い、溶媒としてTHFを用い、ポリスチレン換算で算出した。
【0165】
ハードコート組成物の調製方法及びハードコート層を有する積層体の作製方法については、以下の通りである。
【0166】
[ハードコート組成物の調製及びハードコート層を有する積層体の作製]
(ハードコート組成物の調整)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亜合成社製:アロニックスM-403)、合成例にて得られたシラン化合物の縮合物、光開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASFジャパン社製:イルガキュア184)、スルホニウム系光酸発生剤(サンアプロ社製:CPI-101A)、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーン系レベリング剤(BYKジャパン社製:BYK-300)を固形分相当で表3に示す重量部で配合して、硬化性樹脂組成物を得た。希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを用い、固形分濃度は50%とした。
【0167】
(実施例1:アクリル系ハードコート層とフレンド樹脂フィルム1の積層体の作製)
表2に記載の組成と条件で得られた、厚さ50μmのブレンド樹脂フィルム1の主面に、表3に記載のアクリル系ハードコート組成物を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート樹脂組成物を硬化させて、ハードコート層を有する積層体を得た。
【0168】
(実施例2:シロキサン系ハードコート層とフレンド樹脂フィルム2の積層体の作製)
表2に記載の組成と条件で得られた、厚さ50μmのブレンド樹脂フィルム2の主面に、表3に記載のシロキサン系ハードコート組成物を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、大気下で、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート樹脂組成物を硬化させて、ハードコート層を有する積層体を得た。
【0169】
(比較例1:アクリル系ハードコート層とポリイミドフィルムの積層体の作製)
表2に記載の組成と条件で得られた、厚さ50μmのポリイミドフィルムの主面に、表3に記載のアクリル系ハードコート組成物を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート樹脂組成物を硬化させて、ハードコート層を有する積層体を得た。
【0170】
(比較例2:アクリル系ハードコート層とPETフィルムの積層体の作製)
厚さ50μmのPETフィルムの主面に、表3に記載のアクリル系ハードコート組成物を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート樹脂組成物を硬化させて、ハードコート層を有する積層体を得た。
【0171】
(比較例3:アクリル系ハードコート層とアクリルフィルムの積層体の作製)
厚さ40μmのアクリルフィルムの主面に、表3に記載のアクリル系ハードコート組成物を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート樹脂組成物を硬化させて、ハードコート層を有する積層体を得た。
【0172】
なお、上記作製例などで得られた透明フィルムと積層体の評価方法は、次の通りである。
【0173】
<全光線透過率>
スガ試験機製ヘイズメーターHZ-V3を用いて、JIS K7361-1:1999およびJIS K7136:2000に記載の方法により測定した。なお、測定にはD65光源を用いた。透過率は高いほど透明性に優れることを示す。
【0174】
<弾性率>
透明フィルムを幅10mmの短冊状に切り出し、23℃/55%RHで1日静置して調湿した後、島津製作所製の引張試験機「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、次の条件で引張弾性率を測定した。弾性率が高いことは機械特性に優れることを示す。
つかみ具間距離:100mm
引張速度:20.0mm/min
測定温度:23℃
【0175】
<厚み測定>
接触式厚み計(ミツトヨ社製)で透明フィルム、積層体の厚みを測定した。ハードコート層の厚みは、積層体の厚みから透明フィルム(基材フィルム)の厚みを差し引いて求めた。
【0176】
<屈折率の最大方向の確認と屈折率測定>
シンテック社製位相差測定装置OPTIPRO(MODEL 21-255MA)を用い、透明フィルムの配向角を測定し、屈折率が最大となる方向を決定した。実施例及び比較例の延伸フィルムに関しては、全て延伸方向が最大の屈折率方向であり、その直交方向が最小の屈折率方向であった。続いて、メトリコン社製のプリズムカプラ「モデル2010/M」により、屈折率の最大方向とその直交方向の屈折率を測定した。屈折率の値は404nm、594nm、827nmで測定した値を、Cauchy dispersion fittingして得られた589nmにおける値とした。なお、ハードコート層の屈折率測定は、積層体のハードコート層をプリズムカプラのプリズムに押し当てて測定した。ハードコート層の面内での屈折率異方性は無かった。
【0177】
<鉛筆硬度>
JIS K5600に従い、750gの荷重にて積層体のハードコート層形成面の鉛筆硬度を測定し、表面硬度の評価を行った。MD方向に鉛筆を引っ掻く試験と、TD方向に鉛筆を引っ掻く試験、両方を行い、硬度が高い方の値を採用した。硬度が高いほど耐傷性に優れることを示す。(ここで、フィルム作製時の塗工方向をMD、MDと垂直方向をTDとした。)
【0178】
<繰り返し曲げ試験>
積層体をユアサシステム機器製U字屈曲耐久性試験機DMLHBにセットし、屈曲半径1.5mmで1回/秒の速度で繰り返し曲げ試験し、所定回数でクラックや破断の有無を確認した。試験は温度23℃、湿度55%に設定された恒温恒湿環境で行った。多くの繰り返し曲げ回数後でもクラックや破断がなければ屈曲耐性に優れることを示す。10万回の繰り返し曲げ後にもクラックや破断が無かったものは○、クラックや破断が生じたものは×と表記した。試験はハードコート層が内側に曲がるようにセットした。折り曲げ方向は、折り曲げ軸と透明フィルムのMD方向が平行になるように折り曲げた。
【0179】
<波長700~800nmにおける光透過率の最大値と最小値の差である振幅>
紫外可視分光光度計(日本分光社製:型式V-770)にて、波長700~800nmにおける透過率を測定した。得られた透過率スペクトルデータを5項移動平均処理によってスムージング化し、波長700~800nmにおける透過率(%)の最大値と最小値の差を振幅とした。
【0180】
<干渉ムラ>
積層体の透明フィルム面を、粘着剤付き黒色PETフィルム(巴川製紙所製:くっきりみえーる)に貼り合わせた。黒色PET付の積層体を、三波長蛍光灯下でハードコート層側から目視観察し、以下の基準で干渉ムラの強度を判定した。
◎:色変化(干渉ムラ)が見られない。良好なレベルである。
〇:非常に弱いわずかな色変化(干渉ムラ)が見られる。比較的良好で、実用上好ましいレベルである。
△:強い色変化(干渉ムラ)が見られる。実用上好ましくないレベルである。
×:非常に強い色変化(干渉ムラ)が見られる。実用上許容されないレベルである。
【0181】
<押し込み硬さ>
押し込み硬さはナノインデンテーション試験機(エリオニクス社:ENT-2100)により測定した。稜線間115°の三角錐圧子(バーコビッチ圧子)を透明フィルム表面に対して6.667mN/秒の速度で負荷(印加)していき、0mNから15秒かけて100mNに到達させ2秒間保持した。2秒経過後に6.667mN/秒の速度で除荷していき、100mNから15秒かけて0mNに到達させた。この除荷時の横軸変位、縦軸荷重の除荷曲線データを用いて、押し込み硬さを算出した。算出に当たっては、測定で得られた除荷曲線データをマイクロソフト社の表計算ソフトエクセルで6次多項式近似を行って得られる除荷曲線を用いた。多項式の係数は30桁とした。押し込み硬さは以下の式により算出した。
押し込み硬さ(N/mm
2)=最大荷重Fmax/接触射影面積A
接触射影面積A=24.56×接触深さhc^2
接触深さhc=最大変位hmax-0.75×最大荷重Fmax/除荷開始時の傾き
ここで、除荷開始時の傾きは、除荷開始点と、除荷開始時点から0.5%変位が減少した時点の点を結ぶ直線の傾きである。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0182】
実施例1~2のブレンド樹脂からなる透明フィルムとハードコート層の積層体は、透明フィルムの屈折率が低いことで、ハードコート層と透明フィルム層の屈折率差が小さく、透過率の振幅が小さかった。これにより、干渉ムラが良好であり、全光線透過率が高かった。また、押し込み硬さが高いことで鉛筆硬度が高く、屈曲耐性(繰り返し曲げ試験)にも優れていた。そのため、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウとして好適に使用できる。
特に、ポリイミド樹脂を含んでいながら、干渉ムラが非常に弱く、全光線透過率が91.6%以上と非常に高く良好であった。また、鉛筆硬度は3H以上であり良好であった。
【0183】
比較例1のポリイミド単独からなる透明フィルムとハードコート層の積層体は、屈折率が1.619、透過率の振幅が0.28%と実施例1~2に比べて高く、全光線透過率が88.9%と低く劣っており、干渉ムラも劣っていた。
【0184】
比較例2のPETからなる透明フィルムとハードコート層の積層体は、屈折率が1.662、透過率の振幅が1.83と実施例1~2に比べて高く、全光線透過率が89.4%と低く、干渉ムラも劣っていた。さらに、押し込み硬さが実施例1~2に比べて低く、鉛筆硬度にも劣っていた。
【0185】
比較例3のアクリルからなる透明フィルムとハードコート層の積層体は、全光線透過率と干渉ムラは良好であったが、押し込み硬さが実施例1~2に比べて低く、鉛筆硬度に劣っていた。さらに、屈曲耐性も実施例1~2に比べて劣っていた。