(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115453
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】車載充電装置
(51)【国際特許分類】
B60L 53/24 20190101AFI20240819BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240819BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240819BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240819BHJP
B60L 53/14 20190101ALI20240819BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20240819BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240819BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240819BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240819BHJP
【FI】
B60L53/24
H02P27/06
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L53/14
B60L58/10
H02J7/00 P
H02M3/155 U
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021160
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 充
(72)【発明者】
【氏名】平野 智也
(72)【発明者】
【氏名】田口 真
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
5H505
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BB02
5G503CC02
5G503DA07
5G503FA06
5G503GB03
5G503GB06
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC24
5H125BA00
5H125BB00
5H125BB05
5H125BC05
5H125BC21
5H125DD01
5H125DD02
5H125EE02
5H125EE07
5H125FF16
5H505AA16
5H505CC04
5H505CC05
5H505CC09
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA05
5H505HA06
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL01
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5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730AS13
5H730AS17
5H730BB13
5H730BB14
5H730BB57
5H730CC01
5H730DD04
5H730FD11
5H770BA01
5H770BA20
5H770CA01
5H770DA02
5H770DA10
5H770DA41
5H770HA03Z
(57)【要約】
【課題】回転電機のコイル及び回転電機を駆動するインバータを利用し、外部交流電源により直流電源を充電する車載充電装置をシステムコストの増加を抑制して構成する。
【解決手段】車載充電装置10は、インバータ5と複数相のコイル7とにより構成され、外部交流電源4からの交流電力を直流電力に変換する交流直流コンバータ1と、直流直流コンバータ2と、制御装置とを備える。複数相のコイル7の内の1相である対象コイルに対して直列に外部交流電源4が接続され、制御装置は、対象相を除く各コイル7に流れる電流の和と対象コイルに流れる電流との和がゼロとなると共に、回転電機のロータにトルクが生じないように、ロータの回転位置に応じて、インバータ5を駆動して対象コイルを除く各コイル7に流れる電流を可変制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性点で互いに接続された複数相のコイルを備え、車輪の駆動力源となる回転電機と、直流と複数相の交流との間で電力を変換するインバータと、前記インバータに接続された直流電源と、を備えた車両用駆動装置の前記直流電源を、単相の外部交流電源から供給される電力によって充電する車載充電装置であって、
前記外部交流電源からの交流電力を直流電力に変換する交流直流コンバータと、
前記交流直流コンバータにより変換された直流電力の電圧を変換する直流直流コンバータと、
前記交流直流コンバータ及び前記直流直流コンバータを制御する制御装置と、を備え、
前記交流直流コンバータは、前記インバータと複数相の前記コイルとにより構成され、
前記複数相の前記コイルの内の1相である対象相の前記コイルである対象コイルに対して直列に前記外部交流電源が接続され、
前記交流直流コンバータの直流側端子は、前記直流直流コンバータの第1端子に接続され、
前記直流直流コンバータの前記第1端子とは異なる第2端子は、前記直流電源に接続され、
前記制御装置は、前記対象コイルを除く各相の前記コイルに流れる電流の和と前記対象コイルに流れる電流との和がゼロとなると共に、前記回転電機のロータにトルクが生じないように、前記ロータの回転位置に応じて、前記インバータを駆動して前記対象コイルを除く各相の前記コイルに流れる電流を可変制御する、車載充電装置。
【請求項2】
前記対象相は、停止状態の前記ロータの回転位置に基づいて設定されている、請求項1に記載の車載充電装置。
【請求項3】
前記対象相に対応する前記インバータのアームを対象アームとし、
前記制御装置の制御により、前記対象コイルと前記対象アームの中点とを接続する第1状態と、前記対象コイルと前記対象アームの中点との間に前記外部交流電源を直列に接続する第2状態との間で、選択的に接続状態を変更する交流電源接続コンタクタを備える、請求項1又は2に記載の車載充電装置。
【請求項4】
複数の前記コイルに対して、それぞれ前記交流電源接続コンタクタが備えられ、
前記制御装置は、
停止状態の前記ロータの回転位置に基づいて、複数の前記コイルの内の1つを前記対象コイルに設定すると共に、
前記対象コイルに備えられた前記交流電源接続コンタクタを対象コンタクタに設定し、
前記対象コンタクタを介して、前記対象コイルと前記対象アームの中点との間に前記外部交流電源を直列に接続すると共に、
前記対象コンタクタを除く前記交流電源接続コンタクタを介して、前記対象コイルを除く各相の前記コイルと前記対象アームを除く各相の前記アームの中点とをそれぞれ接続する、請求項3に記載の車載充電装置。
【請求項5】
前記直流電源に対して前記交流直流コンバータの直流側端子と前記直流直流コンバータの前記第2端子とを選択的に接続する直流電源接続コンタクタと、
前記交流直流コンバータの直流側端子に対して、前記直流電源と前記直流直流コンバータの前記第1端子とを選択的に接続するコンバータ接続コンタクタと、を備える、請求項1に記載の車載充電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載充電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2022-503713号には、電気自動車やハイブリッド自動車などの車輪の駆動力源として回転電機を備えた車両に搭載された直流電源を、車両に搭載された状態で充電する車載充電装置(オンボードチャージャー、Onboard charger)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この文献の
図3には、単相の外部交流電源(310)がY字接続された3相のコイルの中性点に接続され、当該3相のコイルのそれぞれにインバータ(220)の交流側のそれぞれのアームが接続され、インバータ(220)の直流側端子に直流直流コンバータ(DC/DCコンバータ)の入力側端子が接続され、直流直流コンバータの出力側端子に直流電源が接続された車載充電装置が例示されている。3相のコイル及びインバータ(220)は、外部交流電源(310)からの正弦波のグリッド電流を直流に変換する交流直流コンバータ(AC/DCコンバータ)を形成している。インバータ(220)がスイッチング制御されることにより、この交流直流コンバータは交流電力から変換される直流電力の力率を改善する力率改善(PFC:power factor correction)回路としても機能する。交流直流変換後の電流には、外部交流電源(310)の周波数(系統周波数)の2倍の周波数のリップルが生じる。直流直流コンバータは、このリップルを低減して直流電源を充電するためのバッテリ電流を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における車載充電装置では、3相のコイルとして、当該車両における駆動力源の回転電機のステータに備えられたコイル(ステータコイル)を用いることができる。しかし、このような回転電機は、高電力密度となるように設計されており、インダクタンスが小さい。また、上記文献の
図3にも例示されているように、中性点に単相の外部交流電源が接続されて交流直流コンバータが形成された場合、3相のコイルには、電流が流れる。その結果、磁気飽和等により、コイルにおけるインダクタンスが小さくなることもある。このように、交流直流コンバータのインダクタンスが小さいと、交流直流変換の際に、外部交流電源の系統電流の高調波電流のピーク値が大きくなる傾向がある。
【0005】
これを抑制するための1つの方法として、交流直流コンバータを構成するインバータの制御周波数を高くすることが考えられる。或いは、直流直流コンバータの側でリップルを軽減するべく、直流直流コンバータの制御周波数を高くことが考えられる。但し、制御周波数を高くする場合には、インバータや直流直流コンバータを制御する制御装置の制御周期(動作周波数)も短くする必要がある。また、早い制御周期に伴う高い周波数でのスイッチングは、インバータ及び直流直流コンバータが備えるスイッチング素子における損失を増大させ、車載充電装置の効率の低下に繋がる。また、制御装置として、高速動作が可能なマイクロコンピュータ等を用いる必要が生じ、車載充電装置のコストの上昇に繋がる。あるいは別の方法として、外部交流電源と複数相のコイルの中性点との間に、インダクタを追加することも考えられる。しかし、この場合も、インダクタの追加により車載充電装置のコストが上昇する。
【0006】
上記に鑑みて、回転電機とインバータと直流電源とを備えた車両用駆動装置の当該直流電源を、当該回転電機のコイル及び当該インバータを利用して、外部交流電源からの電力により充電する車載充電装置を、システムコストの増加を抑制して構成することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた車載充電装置は、中性点で互いに接続された複数相のコイルを備え、車輪の駆動力源となる回転電機と、直流と複数相の交流との間で電力を変換するインバータと、前記インバータに接続された直流電源と、を備えた車両用駆動装置の前記直流電源を、単相の外部交流電源から供給される電力によって充電する車載充電装置であって、前記外部交流電源からの交流電力を直流電力に変換する交流直流コンバータと、前記交流直流コンバータにより変換された直流電力の電圧を変換する直流直流コンバータと、前記交流直流コンバータ及び前記直流直流コンバータを制御する制御装置と、を備え、前記交流直流コンバータは、前記インバータと複数相の前記コイルとにより構成され、前記複数相の前記コイルの内の1相である対象相の前記コイルである対象コイルに対して直列に前記外部交流電源が接続され、前記交流直流コンバータの直流側端子は、前記直流直流コンバータの第1端子に接続され、前記直流直流コンバータの前記第1端子とは異なる第2端子は、前記直流電源に接続され、前記制御装置は、前記対象コイルを除く各相の前記コイルに流れる電流の和と前記対象コイルに流れる電流との和がゼロとなると共に、前記回転電機のロータにトルクが生じないように、前記ロータの回転位置に応じて、前記インバータを駆動して前記対象コイルを除く各相の前記コイルに流れる電流を可変制御する。
【0008】
例えば複数相のコイルの中性点に外部交流電源を接続した場合、複数相のそれぞれのコイルには、同じ向きに概ね同じ大きさの電流が流れる。その結果、磁気飽和等により、コイルにおけるインダクタンスが小さくなり、交流直流変換の際に、外部交流電源の系統電流の高調波電流や、直流電流のリップル成分のピーク値が大きくなる。しかし、本構成のように、複数相のコイルに流れる電流を異ならせることにより、コイルにおけるインダクタンスを確保し易く、前述したような問題が生じにくい。但し、複数のコイルに流れる電流の向きや大きさが異なる場合、回転電機のロータにトルクが生じる可能性がある。コイルやインバータなど車両用駆動装置の一部を用いた直流電源の充電は、車両が停止している状態で行われるため、ロータにトルクが生じることは好ましくない。本構成によれば、ロータの回転位置に応じて、外部交流電源が接続される対象相を除く各相のコイルに流れる電流が可変制御されるため、ロータに生じるトルクを抑制して適切に直流電源を充電することができる。このように本構成によれば、回転電機とインバータと直流電源とを備えた車両用駆動装置の当該直流電源を、当該回転電機のコイル及び当該インバータを利用して、外部交流電源からの電力により充電する車載充電装置を、システムコストの増加を抑制して構成することができる。
【0009】
車載充電装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】回転電機の駆動制御システムの模式的な回路ブロック図
【
図2】車載充電装置のシステム構成の模式的ブロック図
【
図3】回転電機の駆動制御システムを利用した車載充電装置の第1の例を示す回路ブロック図
【
図4】各相のコイルを流れる電流及びd軸電流と電気角との関係を示す波形図
【
図5】ロータの永久磁石とステータのコイルとの関係を模式的に示す図
【
図6】回転電機の駆動制御システムを利用した車載充電装置の第2の例を示す回路ブロック図
【
図7】回転電機の駆動制御システムを利用した比較例の充電装置の例を示す回路ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車載充電装置の実施形態を図面も参照して説明する。車載充電装置10は、
図1に示すような車両用駆動装置9に備えられた直流電源3を、車両に搭載された状態で充電する装置である。
図1は、車両用駆動装置9に含まれる回転電機70の駆動制御システムの模式的な回路ブロック図であり、
図2は、車載充電装置10のシステム構成の模式的ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の車両用駆動装置9は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車輪の駆動力源となる回転電機70と、直流と複数相の交流との間で電力を変換するインバータ5(INV)と、インバータ5に接続された直流電源3とを備えている。尚、車両用駆動装置9が、回転電機70に加えて不図示の内燃機関などの他の駆動力源も備えていることを妨げるものではない。
図2に示すように、車載充電装置10は、車両用駆動装置9の直流電源3を、単相の外部交流電源4(グリッド電源)から供給される電力によって充電する装置であり、いわゆるオンボードチャージャー(Onboard charger)と称される装置である。本実施形態では、車載充電装置10は、車両用駆動装置9と一部を共用して構成されている。具体的には、インバータ5、回転電機70のコイル7が共用されている。好ましくは、後述するように、インバータ5を駆動する制御装置8や、直流電圧を平滑する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ6)も共用されている。
【0012】
図1に示すように、車両用駆動装置9は、車両の駆動力源となる回転電機70を制御対象とする制御装置8を備え、制御装置8は、電流フィードバック制御を行うことによって回転電機70を駆動制御する。下記の説明において参照する
図5に示すように、駆動対象の回転電機70は、ステータコア72に複数相(Nを任意の自然数としてN相、本実施形態ではN=3の3相の形態を例示する)のコイル7(ステータコイル)が配置されたステータ71と、ロータコア74に永久磁石75が配置されたロータ73とを有する埋め込み永久磁石型回転電機(IPMSM : Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。本実施形態では、3相のコイル7(U相コイル7u、V相コイル7v、W相コイル7w:
図3、
図5、
図6等参照)が中性点7Nで短絡されたY型の形態を例示している。しかし、回転電機70は、例えば3相のコイル7を2組備え、6相の交流により駆動される形態であってもよい。尚、回転電機70は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機70が電動機として機能するとき、回転電機70は力行状態であり、回転電機70が発電機として機能するとき、回転電機70は回生状態である。
【0013】
図1に示すように、車両用駆動装置9は、インバータ5を備えている(
図3、
図6等も参照)。インバータ5は、交流の回転電機70及び直流電源3に接続されて、複数相の交流と直流との間で電力を変換する。インバータ5の一対の直流側端子(直流リンク端子T5d)は、直流電源3の正負両極端子に接続されている。具体的には、一対の直流リンク端子T5dの内の正極側の端子(直流リンク正極端子T5P)が直流電源3の正極に接続され、一対の直流リンク端子T5dの内の負極側の端子(直流リンク負極端子T5N)が直流電源3の負極に接続されている。また、インバータ5の複数相の交流側端子(コイル側端子T5a)は、複数相のコイル7のそれぞれに接続されている。
図3及び
図6に示すように、本実施形態では、インバータ5が、複数相のアームとして、U相アーム5u、V相アーム5v、W相アーム5wを備えており、それぞれのアームの中点がコイル側端子T5aに接続されている。U相アーム5uの中点とU相コイル7uとが接続され、V相アーム5vの中点とV相コイル7vとが接続され、W相アーム5wの中点とW相コイル7wとが接続されている。
【0014】
インバータ5の直流側には、正極と負極との間の電圧(直流リンク電圧)を平滑する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ6)が備えられている。また、インバータ5の直流側には、直流リンク電圧を検出する電圧センサ(直流リンク電圧センサ61)も備えられている。尚、直流リンクコンデンサ6は、回転電機70の駆動系回路(インバータ5、コイル7等)が車載充電装置10として用いられる際に、
図2、
図3、
図6等を参照して後述する交流直流コンバータ1と直流直流コンバータ2との間に配置され、交流直流コンバータ1により変換された直流電力の電圧(直流リンク電圧)を平滑する平滑コンデンサとしても機能する。
【0015】
直流電源3は、例えば、リチウムイオン電池などの充電可能な二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。本実施形態のように、回転電機70が車両の駆動力源の場合、直流電源3は、大電圧大容量の直流電源であり、定格の電源電圧は、例えば200~400[V]である。また、直流電源3には、直流電源3に対する入出力電流(バッテリ電流)を検出する電流センサ(バッテリ電流センサ31)や、直流電源3の端子電圧(バッテリ電圧)を検出する電圧センサ(バッテリ電圧センサ32)も備えられている。
【0016】
図示は省略するが、例えば直流電源3がリチウムイオンバッテリなどの場合には、BMS(バッテリマネジメントシステム(Battery Management System))が備えられていることが多い。リチウムイオンバッテリなどの二次電池は、複数のセル(バッテリセル)により構成されている。BMSは、(1)セルの過充電、過放電の防止、(2)セルに過電流が流れることの防止、(3)セルの温度管理、(4)充電状態(SOC:State of Charge)の算出、(5)セル電圧の均一化、等を行うバッテリの管理制御システムである。上述したバッテリ電流センサ31やバッテリ電圧センサ32は、BMSの一部として構成されていてもよい。
【0017】
図3等に示すように、インバータ5は、複数のスイッチング素子5Sを有して構成されている。スイッチング素子5Sには、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。本実施形態では、スイッチング素子5SとしてFETが用いられる形態を例示している。尚、各スイッチング素子5Sは、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオードを備えている。
【0018】
インバータ5は、直流の正極と負極との間にスイッチング素子5Sが直列接続されたアームを、複数相のコイル7の数に応じて複数本備えて構成されている。本実施形態では、コイル7がU相コイル7u、V相コイル7v、W相コイル7wの3相のコイルで構成されており、インバータ5もコイル7に対応して、U相アーム5u、V相アーム5v、W相アーム5wの3相のアームを備えて構成されている。各相のコイルは、一方側の端部である第1端が各相のアームにおける上段側(正極側)のスイッチング素子5Sと下段側(負極側)のスイッチング素子5Sとの接続点である各アームの中点に接続され、他方側の端部である第2端が中性点7Nにおいて短絡されている。つまり、U相コイル7uの第1端はU相アーム5uの中点に接続され、V相コイル7vの第1端はV相アーム5vの中点に接続され、W相コイル7wの第1端はW相アーム5wの中点に接続され、U相コイル7uの第2端とV相コイル7vの第2端とW相コイル7wの第2端とが中性点7Nにおいて互いに接続されている。
【0019】
図1に示すように、インバータ5は、制御装置8により制御される。制御装置8は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、制御装置8は、上位の制御装置の1つである車両制御装置90等の他の制御装置等から要求信号として提供される回転電機70の目標トルク(トルク指令)に基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ5を介して回転電機70を駆動する。ベクトル制御法では、各相のコイル7に流れる電流(本実施形態ではU相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw:
図3等参照)を、ロータに配置された永久磁石が発生する磁界の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分に座標変換してフィードバック制御を行う。座標変換先の座標系をdq軸直交座標系と称する。尚、マイクロコンピュータ等の論理回路素子の動作電圧は3.3~5ボルト程度である。本実施形態では、簡略化のため、図示を省略していつが、当該論理回路素子で生成された制御信号はドライブ回路を介してインバータ5に伝達される。或いは、制御装置8にドライブ回路が含まれると考えてもよい。
【0020】
回転電機70の各相のコイル7を流れる実電流は電流センサ(モータ電流センサ81)により検出され、制御装置8はその検出結果を取得する。また、回転電機70のロータの各時点での磁極位置(電気角)やロータの回転速度(角速度)は、例えばレゾルバなどの回転センサ82により検出され、制御装置8はその検出結果を取得する。制御装置8は、モータ電流センサ81及び回転センサ82の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。制御装置8は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0021】
上述したように、インバータ5を介して直流電源3に接続される回転電機70は、直流電源3から供給される電力により電動機として機能すると共に、発電機として機能して直流電源3を充電することもできる。例えば、ハイブリッド自動車では内燃機関などの動力により、回転電機70に機械エネルギーを供給して回転電機70に発電させることも可能であるが、発電の機会が少なく直流電源3を充分に充電できない場合がある。また、駆動力源として回転電機70しか搭載されていない電気自動車では、慣性走行等における車輪からの機械エネルギーによる発電に留まり、直流電源3を充分に充電できないことが多い。また、ハイブリッド自動車においても、回転電機70に発電させるよりも外部から電力を供給する方が、エネルギー効率がよい場合がある。このため、直流電源3が車両に搭載された状態で、直流電源3を外部電源によって充電可能に構成されていることが好ましい。
【0022】
本実施形態の車載充電装置10は、車両用駆動装置9の直流電源3を、単相の外部交流電源4から供給される電力によって充電する。
図2に示すように、車載充電装置10は、外部交流電源4に接続されて、外部交流電源4からの交流電力を直流電力に変換する交流直流コンバータ1(AC/DCコンバータ)と、交流直流コンバータ1により変換された直流の電圧を変換する直流直流コンバータ2(DC/DCコンバータ)とを備えている。交流直流コンバータ1は、一対の交流側端子T1aと一対の直流側端子T1dとを備えており、交流直流コンバータ1の交流側端子T1aは、外部交流電源4に接続される。直流直流コンバータ2は、一対の第1端子T21と、一対の第2端子T22とを備えており、一対の第1端子T21と交流直流コンバータ1の一対の直流側端子T1dとが接続されると共に、一対の第2端子T22と直流電源3の正負両極端子とが接続される。
【0023】
交流直流コンバータ1及び直流直流コンバータ2は、スイッチング素子(
図3、
図6において符号1S、5S、2Sで示すスイッチング素子)を備えて構成されており、これらのスイッチング素子は、インバータ5と同様に、制御装置8によって制御される。従って、制御装置8は、交流直流コンバータ1及び直流直流コンバータ2も制御対象とする。また、後述するように、車載充電装置10は、コンタクタ(
図3、
図6において、符号11,12,13で示すコンタクタ)を備えて構成されている。これらのコンタクタも制御装置8、或いは制御装置8及び車両制御装置90によって制御される。
図1を参照して上述したように、制御装置8は回転電機の駆動制御システムに含まれており、制御装置8も回転電機70の駆動制御と直流電源3の充電制御とに共用される。
【0024】
例えば、これらのコンタクタ(11,12,13)は、メカニカルリレーを用いて構成することができる。メカニカルリレーは、接点が開放された場合の絶縁性が高く、接点が閉成された場合に流すことができる電流も大きく確保し易い。しかし、これらのコンタクタは、メカニカルリレーに限らず、ソリッドステートリレーなど、半導体を用いて構成されていてもよい。
【0025】
直流電源3を充電する際には、外部交流電源4から直流電源3へ電力が供給される。従って、回路構成上、相対的に外部交流電源4の側(上流側)に配置される交流直流コンバータ1をフロントエンドコンバータ或いはフロントコンバータ、相対的に直流電源3の側(下流側)に配置される直流直流コンバータ2をバックエンドコンバータ或いはバックコンバータと称する場合がある。本実施形態では、交流直流コンバータ1(フロントコンバータ)が、インバータ5と複数相のコイル7とを用いて構成されている。また、
図2に示すように、交流直流コンバータ1には、交流電流及び交流電圧を検出するために、グリッド電流センサ41及びグリッド電圧センサ42が備えられている。
【0026】
ところで、交流直流変換においては、誘導性インピーダンスや容量性インピーダンスにより、電圧位相と電流位相との間に位相差が生じ、当該位相差によって力率が低下する。交流直流コンバータ1のスイッチング素子1Sが制御されることによって、例えば電流位相が調整され、位相差が補償されて力率を改善することができる。従って、交流直流コンバータ1は、外部交流電源4ら供給される交流電力から変換される直流電力の力率を改善する力率改善(PFC:power factor correction)回路としても機能するように構成されている。
【0027】
また、交流直流コンバータ1は、車載充電装置10を、外部交流電源4から供給される電力により直流電源3を充電するための機能と、直流電源3に蓄えられた電力により車両外の装置に交流電力を供給する機能との2つの機能を有する装置として構成されていると好適です。具体的には、交流直流コンバータ1は、フルブリッジ回路を備えて構成されているとよい。フルブリッジ回路を備えることにより、交流直流コンバータ1を交流直流変換及び直流交流変換が可能な双方向コンバータとして機能させることができる。近年、災害時等において電動車両やハイブリッド車両の直流電源3を非常用電源として用いることが提唱されている。交流直流コンバータ1がフルブリッジ回路を備えることにより、直流電源3をそのような非常用電源として利用することができる。
【0028】
一般的に、非絶縁型の交流直流コンバータや直流直流コンバータは、スイッチング素子やインダクタ(コイル)を備えて構成されることが知られている。
図1を参照して上述したように、車両用駆動装置9には、インバータ5や回転電機70のコイル7が備えられている。また、外部交流電源4により直流電源3を充電する際には、車両は停車しており、回転電機70は駆動されない。従って、インバータ5を交流直流コンバータ1や直流直流コンバータ2におけるスイッチングを備えた回路として利用し、コイル7をインダクタとして利用することによって、車載充電装置10の搭載コストを低減することができる。また、制御装置8の制御対象に回転電機70に加えて車載充電装置10を加えることができ、システムの簡素化を図ることができる。つまり、本実施形態のように、回転電機70の駆動系回路の一部を車載充電装置10の一部として共用することによって、低コストで車載充電装置10を構築することができる。
【0029】
本明細書では、そのような車載充電装置10として、
図3及び
図6に示すような2つの構成を例示する。
図3の回路ブロック図は、回転電機70の駆動系回路(コイル7,インバータ5等)を含む、回転電機70の駆動制御システムを利用した車載充電装置10の構成例(第1の例)を示しており、
図6の回路ブロック図は、回転電機70の駆動系回路を含む、回転電機70の駆動制御システムを利用した車載充電装置10の他の構成例(第2の例)を示している。
図3に示す第1の例及び
図6に示す第2の例共に、外部交流電源4に接続されるフロントコンバータである交流直流コンバータ1が、回転電機70の駆動系回路(コイル7及びインバータ5)を共用して構成され、直流電源3に接続されるバックコンバータである直流直流コンバータ2が、車両用駆動装置9とは別に形成された回路によって構成されている。バックコンバータである直流直流コンバータ2は、
図3に示す第1の例と、
図6に示す第2の例とで同一である。
【0030】
図3及び
図6に示すように、本実施形態の車載充電装置10は、交流直流コンバータ1に、回転電機70の駆動系回路(インバータ5、コイル7)が共用されている。この交流直流コンバータ1は、インバータ5と、複数相のコイル7と、後述するフロントエンドコンタクタ11(交流電源接続コンタクタ)と、を備えて構成されている。詳細は後述するが、直流電源3を充電する際には、複数相のコイル7の内、対象相と称される何れか1相のコイル7である対象コイルに外部交流電源4が接続される。尚、対象コイルが接続されるインバータ5のアームを対象アームと称する。フロントエンドコンタクタ11は、制御装置8の制御により、対象コイルと対象アームの中点とを接続する第1状態と、対象相のコイルと対象アームの中点との間に外部交流電源4を直列に接続する第2状態との間で、選択的に接続状態を変更する。従って、フロントエンドコンタクタ11は、「交流電源接続コンタクタ」ということができる。
【0031】
フロントエンドコンタクタ11は、対象コイルと対象アームの中点との間に、外部交流電源4を選択的に直列接続する。対象コイルと対象アームの中点との電気的接続を遮断して外部交流電源4を当該遮断部分に接続することになるため、フロントエンドコンタクタ11は、外部交流電源4の側の配線経路を選択的に切り替えるための交流電源側コンタクタ11Aと、インバータ5の側(アームの側)の配線経路を選択的に切り替えるアーム側コンタクタ11Bとを有している。構成が簡潔であるため、第2の例の
図6を参照して説明すると、交流電源側コンタクタ11Aは、第1接点111と、第2接点112と、第3接点113とを備え、アーム側コンタクタ11Bは、第4接点114と第5接点115とを備えている(ここでは符号“11”のコンタクタに第1~第5の接点番号を付与している。他のコンタクタにつても同様。)。第1接点111は対象コイルに接続され、第2接点112及び第4接点114は共に対象アームの中点に接続され、第3接点113及び第5接点115は外部交流電源4の2つの入出力端子にそれぞれに接続されている。
【0032】
インバータ5が回転電機70の駆動制御に用いられる場合には、第1接点111と第2接点112とが接続されると共に、第3接点113、第4接点114、第5接点115とは開放される。これにより、対象コイルと対象アームの中点とが接続されると共に外部交流電源4は対象コイルから分離される。インバータ5が直流電源3を充電する車載充電装置10に用いられる場合には、第1接点111と第3接点113とが接続されると共に、第4接点114と第5接点115とが接続され、第2接点112が開放される。これにより、対象コイルと対象アームの中点との電気的接続が遮断されると共に、対象コイルと対象アームの中点との間に外部交流電源4が直列に接続される。
【0033】
このように、交流電源接続コンタクタ(フロントエンドコンタクタ11)により、外部交流電源4に対する接続形態を変更するだけで、回転電機70を駆動制御する機能と、直流電源3を外部交流電源4により充電する機能とを切り替え可能な回路を実現することができる。即ち、簡単な構成で、車載充電装置10を構成することができる。
【0034】
図3及び
図6に示すように、本実施形態の車載充電装置10の直流直流コンバータ2は、回転電機70の駆動系回路を共用することなく独立して形成されている。この直流直流コンバータ2は、相補的にスイッチング制御されるようにスイッチング素子2Sが直列接続されたアームと、当該アームの中点に接続されたバックエンドインダクタL2と、直流電源3に並列に接続された出力用平滑コンデンサC2とを備えて降圧型の直流直流変換回路として構成されている。尚、直流直流コンバータ2は昇圧も可能な昇降圧型コンバータとして構成されていてもよい。
【0035】
また、
図3及び
図6に示すように、本実施形態の車載充電装置10は、バッテリコンタクタ12(直流電源接続コンタクタ)及びバックエンドコンタクタ13(コンバータ接続コンタクタ)を備えている。
【0036】
バッテリコンタクタ12は、直流電源3に対して交流直流コンバータ1の直流側端子T1d(即ちインバータ5の直流側端子である直流リンク端子)と直流直流コンバータ2の第2端子T22とを選択的に接続するコンタクタであり、「直流電源接続コンタクタ」ということができる。バッテリコンタクタ12は、直流電源3の正極に接続されたバッテリコンタクタ第1接点121と、直流直流コンバータ2の第2端子T22に接続されたバッテリコンタクタ第2接点122と、交流直流コンバータ1の直流側端子T1d(インバータ5の直流側端子)に接続されたバッテリコンタクタ第3接点123とを備えている。バッテリコンタクタ第1接点121とバッテリコンタクタ第2接点122とが接続されると、直流直流コンバータ2の第2端子T22がバッテリコンタクタ12を介して直流電源3に接続される。この時、バッテリコンタクタ第3接点123は開放されている。インバータ5が車載充電装置10として機能する場合には、バッテリコンタクタ12がこのように接続される。
【0037】
インバータ5が回転電機70の駆動制御に用いられる場合には、バッテリコンタクタ第1接点121とバッテリコンタクタ第3接点123とが接続され、インバータ5の直流側端子が、バッテリコンタクタ12を介して直流電源3に接続される。この時、バッテリコンタクタ第2接点122は開放されている。尚、車両が駐車される場合や、異常等によって回転電機70への電力供給を遮断する必要があるような場合には、バッテリコンタクタ第1接点121に対して、バッテリコンタクタ第2接点122及びバッテリコンタクタ第3接点123の何れも接続されない状態とすることができる。
【0038】
バックエンドコンタクタ13は、交流直流コンバータ1の直流側端子T1d(インバータ5の直流側端子)に対して、直流電源3と直流直流コンバータ2の第1端子T21とを選択的に接続するコンタクタである。つまり、バックエンドコンタクタ13は、インバータ5(交流直流コンバータ1)に対して直流直流コンバータ2を選択的に接続するコンタクタであり、「コンバータ接続コンタクタ」ということができる。バックエンドコンタクタ13は、交流直流コンバータ1(インバータ5)の正極に接続されたバックエンドコンタクタ第1接点131と、直流直流コンバータ2の第1端子T21の正極に接続されたバックエンドコンタクタ第2接点132と、直流電源3の正極(バッテリコンタクタ第3接点123)に接続されたバックエンドコンタクタ第3接点133とを備えている。バックエンドコンタクタ第1接点131とバックエンドコンタクタ第2接点132とが接続されると、交流直流コンバータ1(インバータ5)と直流直流コンバータ2とが接続される。
【0039】
インバータ5が回転電機70の駆動制御に用いられる場合には、上述したように、バッテリコンタクタ第1接点121とバッテリコンタクタ第3接点123とが接続される。この状態において、バックエンドコンタクタ第1接点131とバックエンドコンタクタ第3接点133とが接続されると、インバータ5と直流電源3とが、バックエンドコンタクタ13及びバッテリコンタクタ12を介して接続される。
【0040】
このように、直流電源接続コンタクタ(バッテリコンタクタ12)及びコンバータ接続コンタクタ(バックエンドコンタクタ13)を備えて、インバータ5と複数相のコイル7とにより構成された交流直流コンバータ1に対する直流電源3及び直流直流コンバータ2の接続形態を変更するだけで、回転電機70を駆動制御する機能と、直流電源3を外部交流電源4により充電する機能とを切り替え可能な回路を実現することができる。即ち、簡単な構成で、車載充電装置10を構成することができる。
【0041】
図7は、本実施形態の車載充電装置10の比較例の充電装置10Xを示している。比較例の充電装置10Xでも、交流直流コンバータ(比較用フロントエンドコンバータ100)に、回転電機70の駆動系回路が共用されている。比較用フロントエンドコンバータ100は、インバータ5と、複数相のコイル7と、インバータ5に並列に接続された単相アーム105と、インダクタL1とを備えて構成されている。複数相のコイル7は中性点7Nで短絡され、中性点7Nと単相アーム105の中点との間に、インダクタL1(フロントエンドインダクタ)と外部交流電源4とが直列に接続されている。インバータ5を構成する3相のアームは、並列接続されて見かけ上、1つのアームを構成しており、単相アーム105と共に、フルブリッジ回路を形成している。比較用バックエンドコンバータ200は、
図3及び
図6に示す本実施形態のバックエンドコンバータと同様の構成である。
【0042】
比較例の充電装置10Xのように、中性点7Nに単相の外部交流電源4が接続された場合、3相のコイル7には、同じ電流が流れる。その結果、磁気飽和等により、コイル7におけるインダクタンスが小さくなり、外部交流電源4の系統電流の高調波電流や、直流変換後のリップル電流のピーク値が大きくなることが考えられる。
【0043】
これを抑制するための1つの方法として、比較用フロントエンドコンバータ100に含まれるインバータ5や比較用バックエンドコンバータ200の制御周波数を高くことが考えられる。これらの制御周波数を高くする場合には、インバータ5や比較用バックエンドコンバータ200を制御する制御装置8の制御周期(制御周波数)も短くする必要がある。高い周波数でのスイッチングは、比較用フロントエンドコンバータ100(インバータ5)及び比較用バックエンドコンバータ200が備えるスイッチング素子における損失を増大させ、充電装置10Xの効率の低下に繋がる。また、制御装置8として、高速動作が可能なマイクロコンピュータ等を用いる必要が生じ、充電装置10Xのコストの上昇に繋がる。この点に鑑み、比較例の充電装置10Xでは、外部交流電源4と複数相のコイル7の中性点7Nとの間に、インダクタL1を追加して必要なインダクタンスを確保している。しかし、この場合も、インダクタL1の追加により充電装置10Xのコストが上昇する。
【0044】
本実施形態の車載充電装置10は、この点に鑑み、中性点7Nではなく、複数相のコイル7の内の1相である対象相のコイル7に対して直列に外部交流電源4が接続されている。例えば、
図6に示す第2例の車載充電装置10では、3相のコイル7の内、W相コイル7wが対象相であり、W相コイル7wに外部交流電源4が選択的に接続される。W相コイル7wと、他の2相(U相コイル7u及びV相コイル7v)とには、互いに逆方向の電流が流れる。また、キルヒホッフの法則に基づき、中性点7Nにおける入出力電流の総和はゼロとなるから、W相コイル7wを流れるW相電流Iwの大きさと、U相コイル7uを流れるU相電流Iuの大きさと、V相を流れるV相電流Ivの大きさとを異ならせることもできる。従って、磁気飽和は生じにくくなり、コイル7におけるインダクタンスが小さくなることが抑制される。このため、
図6に示す第2の例の車載充電装置10では、
図7に示す比較例の充電装置10Xとは異なり、交流直流コンバータ1を追加のインダクタL1を備えることなく構成することができる。
図3に示す第1の例の車載充電装置10では、対象相がU相、V相、W相の内の何れか1相に可変である。第1の例の車載充電装置10でも、
図7に示す比較例の充電装置10Xとは異なり、交流直流コンバータ1を追加のインダクタL1を備えることなく構成することができる。
【0045】
但し、このように複数相のコイル7のそれぞれに流れる電流が異なると、回転電機70のロータ73(
図5参照)にトルクを生じさせるおそれがある。このため、制御装置8は、対象相を除く各相のコイル7に流れる電流の和と対象相に流れる電流との和がゼロとなると共に、回転電機70のロータ73にトルクが生じないように、ロータ73の回転位置に応じて、インバータ5(交流直流コンバータ1)を駆動して対象コイルを除く各相のコイル7に流れる電流を可変制御する(式(10)~式(15)等を参照して後述する。)。
【0046】
図7に示す比較用の充電装置10Xのように、複数相のコイル7の中性点7Nに外部交流電源4を接続した場合、複数相のそれぞれのコイル7には、同じ向きに概ね同じ大きさの電流が流れる。その結果、磁気飽和等により、コイル7におけるインダクタンスが小さくなり、交流直流変換の際に、外部交流電源4の系統電流の高調波電流や、直流電流のリップル成分のピーク値が大きくなる。しかし、本実施形態の車載充電装置10のように、複数相のコイル7に流れる電流を異ならせることにより、コイル7におけるインダクタンスを確保し易く、前述したような高周波電流やリップルの問題が生じにくい。
【0047】
但し、複数のコイル7に流れる電流の向きや大きさが異なる場合、回転電機70のロータ73にトルクが生じる可能性がある。コイル7やインバータ5など車両用駆動装置9の一部を用いた直流電源3の充電は、車両が停止している状態で行われるため、ロータ73にトルクが生じることは好ましくない。例えば、クラッチ等によってロータ73から車輪への動力伝達を遮断したり、いわゆるパーキングブレーキ等によって車輪に連結される出力部材の回転やロータ73の回転を規制したりすることも考えられる。しかし、これらの場合は、車両用駆動装置9の機構の複雑化を招いたり、車両用駆動装置9のギヤ等に機械的な負荷を生じさせたりすることにもなる。
【0048】
本実施形態の車載充電装置10では、ロータ73の回転位置に応じて、外部交流電源4が接続される対象相を除く各相に流れる電流が可変制御されるため、ロータ73に生じるトルクを抑制して適切に直流電源3を充電することができる。尚、わずかなロータ73の回転等を抑制する上では、クラッチ等によってロータ73から車輪への動力伝達を遮断したり、パーキングブレーキ等によって車輪に連結される出力部材の回転やロータ73の回転を規制したりしておくことは好適である。本実施形態では、ロータ73にトルクが生じないようにしていることから、車両用駆動装置9のギヤ等にはほとんど機械的な負荷も生じない。
【0049】
尚、詳細は後述するが、対象相は、停止状態のロータ73の回転位置に基づいて設定される。ロータ73が停止した際の回転位置に応じて動的に対象相が設定されてもよいし、予め対象相が設定されており、制御装置8が、予め設定された対象相に対応した回転位置となるように制御してロータ73を停止させてもよい。例えば、ロータ73が停止した際の回転位置に応じて動的に対象相が設定される場合には、
図3に示す第1例の例のように車載充電装置10が構成されると好適である。また、予め対象相が設定される場合には、
図6に示す第2例の例のように車載充電装置10が構成されると好適である。
【0050】
複数相のコイル7を備えている場合、ロータ73に生じるトルクは、ロータ73における磁極の位置と、複数相のコイル7との位置関係によって規定される。ロータ73における磁極の位置はロータ73の回転によって移動するから、ロータ73の回転位置と対象相とが対応付けられていると、ロータ73が停止した状態でロータ73にトルクが生じないように、対象相の対象コイルを除く各相のコイル7に流れる電流を可変制御することができる。
【0051】
例えば、
図5に示す回転電機70は、ステータコア72に3相のコイル7が配置されたステータ71と、ロータコア74に永久磁石75が配置されたロータ73とを有する埋め込み永久磁石型回転電機(IPMSM : Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
図5には、8つの磁極(4つのN極及び4つのS極)を備えた8極(4極対)のロータ73を例示している。ロータ73における磁極の数や、ステータ71におけるコイル7の巻き方等については例示であって構成を限定するものではない。
【0052】
上述したように、制御装置8は、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ5を介して回転電機70を駆動する。ベクトル制御法では、各相のコイル7に流れる電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を、ロータ73に配置された永久磁石75が発生する磁界の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分に座標変換してフィードバック制御を行う。d軸電流は界磁を発生させるための界磁電流、q軸電流はトルクを発生させるためのトルク電流とも称され、磁極との関係でq軸電流がゼロとなるロータ73の回転位置に対応するコイル7を対象相のコイルである対象コイルとする。例えば、
図5の例では、ロータ73のN極にU相コイル7uが対向している。この場合、U相が対象相であり、U相コイル7uが対象コイルとなる。
【0053】
図6に示す第2例の車載充電装置10が対象相をW相コイル7wに固定しているのに対して、
図3に示す第1の例の車載充電装置10では、対象相が複数相の何れか(ここでは3相の何れか)に選択可能に構成されている。その他の構成については、第1の例と第2の例とは共通である。
【0054】
図3に示す第1の例では、複数のコイル7に対して、それぞれフロントエンドコンタクタ11が備えられている。制御装置8は、停止状態のロータ73の回転位置に基づいて、複数のコイル7の内の1つを対象コイルに設定すると共に、対象コイルに備えられたフロントエンドコンタクタ11を対象コンタクタに設定する。そして、対象コンタクタを介して、対象コイルと対象アームの中点との間に外部交流電源4を直列に接続すると共に、対象コンタクタを除くフロントエンドコンタクタ11を介して、対象コイルを除く各相のコイル7と対象アームを除く各相のアームの中点とをそれぞれ接続する。
【0055】
図3では簡略化のために符号を付していないが、第1の例では、U相用(例えば“11u”)、V相用(例えば“11v”)、W相用(例えば“11w”)の3つのコンタクタによりフロントエンドコンタクタ11が構成されている。上述したように、フロントエンドコンタクタ11は、対象コイルと対象アームの中点との間に、外部交流電源4を選択的に直列接続する。このため、外部交流電源4の側の配線経路を選択的に切り替えるための交流電源側コンタクタ11Aと、インバータ5の側(アームの側)の配線経路を選択的に切り替えるアーム側コンタクタ11Bとを有している。
図3に示すように、第1の例の構成では、U相コイル7u、V相コイル7v、W相コイル7wのそれぞれに対して交流電源側コンタクタ11Aと、アーム側コンタクタ11Bとが備えられている。
図6を参照して上述したように、交流電源側コンタクタ11Aは、第1接点111と、第2接点112と、第3接点113とを備え、アーム側コンタクタ11Bは、第4接点114と第5接点115とを備えている。これらの接点も、U相コイル7u、V相コイル7v、W相コイル7wのそれぞれに対して、設けられている。
【0056】
上述したように、これらの接点に関しては、符号“11”のコンタクタに第1~第5の接点番号を付与している。
図3においては、各相の接点に関して、U相用“11u”、V相用“11v”、W相用“11w”のコンタクタに第1~第5の接点番号を付与している。フロントエンドコンタクタ11は、U相の接点として、U相第1接点11u1と、U相第2接点11u2と、U相第3接点11u3と、U相第4接点11u4と、U相第5接点11u5とを備えている。また、フロントエンドコンタクタ11は、V相の接点として、V相第1接点11v1と、V相第2接点11v2と、V相第3接点11v3と、V相第4接点11v4と、V相第5接点11v5とを備えている。また、フロントエンドコンタクタ11は、W相の接点として、W相第1接点11w1と、W相第2接点11w2と、W相第3接点11w3と、W相第4接点11w4と、W相第5接点11w5とを備えている。
【0057】
インバータ5が回転電機70の駆動制御に用いられる場合には、全相の第1接点111と第2接点112とが接続されると共に、第3接点113、第4接点114、第5接点115は開放される。これにより、全ての相のコイル7と、それぞれの相に対応するアームの中点とが接続されると共に外部交流電源4は全ての相のコイル7から分離される。
【0058】
インバータ5が直流電源3を充電する車載充電装置10に用いられる場合には、U相、V相、W相の内、対象相となる何れか1相のコイル7が対象コイルとなる。そして、対象コイルの第1接点111と第3接点113とが接続されると共に、第4接点114と第5接点115とが接続され、第2接点112が開放される。これにより、対象コイルと対象アームの中点との電気的接続が遮断されると共に、対象コイルと対象アームの中点との間に外部交流電源4が直列に接続される。
【0059】
例えば、U相が対象相の場合には、U相コイル7uが対象コイルとなる。そして、U相第1接点11u1とU相第3接点11u3とが接続されると共に、U相第4接点11u4とU相第5接点11u5とが接続され、U相第2接点11u2が開放される。これにより、U相コイル7uとU相アーム5uの中点との電気的接続が遮断されると共に、U相コイル7uとU相アーム5uの中点との間に外部交流電源4が直列に接続される。また、V相及びW相については、V相第1接点11v1とV相第2接点11v2とが接続されると共に、V相第3接点11v3、V相第4接点11v4、V相第5接点11v5は開放され、W相第1接点11w1とW相第2接点11w2とが接続されると共に、W相第3接点11w3、W相第4接点11w4、W相第5接点11w5は開放される。これにより、V相、W相のコイル7(V相コイル7v、W相コイル7w)と、それぞれの相に対応するアーム(V相アーム5v、W相アーム5w)の中点とが接続されると共に外部交流電源4はV相コイル7v及びW相コイル7wから分離される。
【0060】
同様に、V相が対象相の場合には、V相コイル7vが対象コイルとなる。そして、V相第1接点11v1とV相第3接点11v3とが接続されると共に、V相第4接点11v4とV相第5接点11v5とが接続され、V相第2接点11v2が開放される。これにより、V相コイル7vとV相アーム5vの中点との電気的接続が遮断されると共に、V相コイル7vとV相アーム5vの中点との間に外部交流電源4が直列に接続される。また、W相及びU相については、W相第1接点11w1とW相第2接点11w2とが接続されると共に、W相第3接点11w3、W相第4接点11w4、W相第5接点11w5は開放され、U相第1接点11u1とU相第2接点11u2とが接続されると共に、U相第3接点11u3、U相第4接点11u4、U相第5接点11u5は開放される。これにより、W相、U相のコイル7(W相コイル7w、U相コイル7u)と、それぞれの相に対応するアーム(W相アーム5w、U相アーム5u)の中点とが接続されると共に外部交流電源4はW相コイル7w及びU相コイル7uから分離される。
【0061】
同様に、W相が対象相の場合には、W相コイル7wが対象コイルとなる。そして、W相第1接点11w1とW相第3接点11w3とが接続されると共に、W相第4接点11w4とW相第5接点11w5とが接続され、W相第2接点11w2が開放される。これにより、W相コイル7wとW相アーム5wの中点との電気的接続が遮断されると共に、W相コイル7wとW相アーム5wの中点との間に外部交流電源4が直列に接続される。また、U相及びV相については、U相第1接点11u1とU相第2接点11u2とが接続されると共に、U相第3接点11u3、U相第4接点11u4、U相第5接点11u5は開放され、V相第1接点11v1とV相第2接点11v2とが接続されると共に、V相第3接点11v3、V相第4接点11v4、V相第5接点11v5は開放される。これにより、U相、V相のコイル7(U相コイル7u、V相コイル7v)と、それぞれの相に対応するアーム(U相アーム5u、V相アーム5v)の中点とが接続されると共に外部交流電源4はU相コイル7u及びV相コイル7vから分離される。
【0062】
図3に示すように、この構成によれば、ロータ73が停止した際のロータ73の回転位置に応じて、柔軟に対象相を設定することができる。対象相が複数相のコイル7の何れか1相に固定されている構成では、ロータ73を適切な位置に停止させたり、ロータ73の停止後にロータ73の位置を微調整したりする必要が生じる場合がある。しかし、本構成によれば、ロータ73が停止した位置に応じて直流電源3の充電制御を迅速に開始し易い。
【0063】
以下、対象相の設定基準、及び、コイル7の電流制御について説明する。対象コイルに流す電流は、直流電源3の充電に必要な電力、電圧、電流等に応じて交流直流コンバータ1が必要な出力(例えば出力電圧)によって設定される。対象コイルを除くコイル7に流す電流は、回転電機70のロータ73にトルクが生じないような電流として設定される。
図4の波形図は、各相のコイル7を流れる電流(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)及びd軸電流Idと電気角θとの関係を示している。電気角θが60度の時、W相電流Iwに対して、U相電流Iu及びV相電流Ivは、それぞれ“-Iw/2”である。この時、q軸電流はゼロとなり、ロータ73にはトルクが生じない。電気角θが半周期離れた240度の場合も同様である。また、同様に、電気角θが120度及び300度の時、V相電流Ivに対して、W相電流Iw及びU相電流Iuは、それぞれ“-Iv/2”であり、q軸電流がゼロとなってロータ73にはトルクが生じない。同様に、電気角θが180度及び360度(0度)の時、U相電流Iuに対して、V相電流Iv及びW相電流Iwは、それぞれ“-Iu/2”であり、q軸電流がゼロとなってロータ73にはトルクが生じない。このように、電気角の1周期において6回、ロータ73のトルクをゼロにすることができる角度“θ”がある。
【0064】
図5を参照して上述したようにロータ73が4極対の場合には、ロータ73の一周(機械角の360度)の間に、電気角が4周期存在する。従って、機械的にロータ73が一周する間、即ちロータ73の機械角における1周期において、15度おきに24箇所、ロータ73のトルクをゼロにできるポイントが存在する。ロータ73がこれらのポイント間を移動することによって生じる車輪の回転はわずか(回転角で15度)であるから、対象相が複数相から選択される場合(
図3に示す第1の例の場合)、車両の停止位置(ロータ73の停止位置)に応じて、適切に対象相を設定することができる。
【0065】
また、対象相が固定される場合(
図6に示す第2の例の場合)であっても、ロータ73の機械角における1周期において、45度おきに8箇所、ロータ73のトルクをゼロにできるポイントが存在する。第1の例に比べると、移動距離が大きくはなるが、ロータ73がこれらのポイント間を移動することによって生じる車輪の回転はわずか(回転角で45度)であるから、1つの相を対象相に固定した場合であっても、車両の停車位置を大きくずらす必要なく、適切な位置でロータ73を停止させることができる。
【0066】
また、車両の運転支援装置、ナビゲーションシステム、自動運転システム等との協働によって車両を移動させることによって、上述した24箇所の内の一箇所(第1の例の構成の場合)、或いは8箇所の内の一箇所(第2の例の構成の場合)にロータ73が位置するように、制御装置8がインバータ5を介して回転電機70を制御することで適切な充電環境を実現することができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、制御装置8がインバータ5のスイッチング素子5Sをスイッチング制御することによって、対象コイル以外のコイル7を流れる電流の値を異ならせることができる。例えば、対象相がW相の場合、電気角θが60度の場合には、U相電流Iu及びV相電流Ivは、それぞれ“-Iw/2”である。
図4に示すように、電気角θが30度を超え60度未満の場合には、“Iv>Iu”であり、電気角θが60度を超え90度未満の場合には、“Iu>Iv”である。従って、d軸電流に寄与する相(対象相、例えばW相)を除く相(U相及びV相)の電流が同じ値となる電気角60度を中心にして、前後“360/4N”(Nは、コイル7の相数)の範囲においては、制御装置8が対象相を除く各相のコイル7に流れる電流の和と対象コイルに流れる電流との和がゼロとなるように、各相のコイル7に流れる電流を可変制御することによって、ロータ73に生じるトルクをゼロに抑制することができる。
【0068】
例えば、
図4に示す電気角θが30度から90度の範囲においては、電気角θが大きくなるに従って、U相電流Iuを増加させると共にV相電流Ivを低下させる。中間の電気角θ=60度では、U相電流IuとV相電流Ivとが等しい。このように、対象コイル以外のコイル7を流れる電流を可変制御することで、ロータ73が任意の位置で停止した場合であってもロータ73にトルクを生じさせることなく、コイル7を用いて充電制御を実行することができる。
【0069】
従って、
図6に示す第2の例のような構成においても、電気角θが60度となる位置と、240度となる位置にピンポイントでロータ73を停止させなくてもよい。電気角θが30度から90度の範囲、又は、210度から270度の範囲となるように、ロータ73を停止させればよい。車両の運転支援装置、ナビゲーションシステム、自動運転システム等との協働により車両を移動させる際にも、位置精度に対する要求を緩くすることができる。
【0070】
尚、対象相が切り替わる電気角、
図4に示す例では、30度、90度、150度、210度、270度、330度については、何れの相が対象相に設定されてもよい。例えば、制御装置8は、30度以上90度未満の範囲においてW相を対象相とし、以下同様としてもよいし、30度を超え90度以下の範囲においてW相を対象相とし、以下同様としてもよい。制御装置8は、プログラム等によって境界を考慮して、予め電気角の範囲を設定しておけばよい。
【0071】
上記の説明より明らかであるが、下記の表は、
図3から
図5に例示する形態における電気角、閉成されるコンタクタの接点、制御対象の電流を示している。ここで、Igは、外部交流電源4からのグリッド電流である。
【0072】
【0073】
以下、外部交流電源4を接続する場合のトルクと、コイル7に流れる電流について説明する。“Ia”はコイル7を流れる電流の総和であるコイル電流、“Id”はコイル電流Iaがdq軸ベクトル座標系に座標変換されたd軸電流、“Iq”は同様に座標変換されたq軸電流、“Iu,Iv,Iw”はそれぞれU相コイル7uを流れるU相電流、V相コイル7vを流れるV相電流、W相コイル7wを流れるW相電流、“Ig”は外部交流電源4から供給されるグリッド電流、“Ig_pk”は交流のグリッド電流の振幅、“Igu_pk,Igv_pk,Igw_pk”はそれぞれU相コイル7u、V相コイル7v、W相コイル7wの何れかが対象コイルとして外部交流電源4が接続された場合のグリッド電流、“p”は
図5を参照して上述した極対数、“Φ”は永久磁石75による磁束、“Ld”はd軸インダクタンス、“Lq”はq軸インダクタンス、“K
1,K
2,K
3”及び“K
1’,K
2’,K
3’”は係数を示している。
【0074】
以下、W相を対象相とし、W相コイル7wに外部交流電源4を接続する場合のトルクと、コイル7に流れる電流を例として説明する。W相が対象相であるから、W相電流Iwはグリッド電流Igに等しい。また、3相電流は平衡しており、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwの総和であるコイル電流Iaはゼロである。インバータ5のU相アーム5u及びV相アーム5vのスイッチング素子5Sがスイッチング制御されない場合には、フリーホイールダイオードを介した整流作用のみが作用し、素子の誤差を考慮しなければ、U相電流Iu及びV相電流Ivは下記の式(1)に示すように等価である。
【0075】
【0076】
d軸電流Id及びq軸電流Iqと、3相の電流であるIu、Iv、Iwとの関係は、下記の式(2)で示され、展開すると下記のように式(3)、式(4)となる。
【0077】
【0078】
上記の式(1)、式(3)、式(4)より、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、それぞれグリッド電流Igを用いて下記の式(5)、式(6)のように表すことができる。
【0079】
【0080】
ここで、ロータ73に生じるトルクTe(電磁トルク)は、下記の式(7)で表される。
【数7】
【0081】
また、交流のグリッド電流Igは、下記の式(8)で表される。
【0082】
【0083】
式(5)、式(6)より、式(7)は、下記式(9)で示される。
【0084】
【0085】
“θ=π/3=60度”の時、“2θ+4/3π=2π”、“sin(2π)=0”であり、“θ+2/3π=π”、“sin(π)=0”であり、式(9)は“A=0、B=0”となり、トルクTeはゼロとなる。即ち、電気角θ=60度の時、ロータ73のトルクをゼロにすることができることが判る。
【0086】
“θ=4π/3=240度”の時、“2θ+4/3π=2π”、“sin(4π)=0”であり、“θ+2/3π=2π”、“sin(2π)=0”であり、式(9)は“A=0、B=0”となり、トルクTeはゼロとなる。即ち、電気角θ=240度の時、ロータ73のトルクをゼロにすることができることが判る。
【0087】
このように、対象相がW相であるとき、
図4、
図5を参照して上述したように、電気角θ=60度、及び240度の場合にロータ73のトルクTeをゼロにできることが判る。対象相がU相、又はV相の場合も同様であり、
図4、
図5を参照して上述したように、ロータ73の回転位置(磁極位置)に応じて、ロータ73のトルクTeをゼロにすることができる。
【0088】
さらに、これらの電気角θの前後“360/4N”(Nは、コイル7の相数)の範囲においても、
図4及び表1を参照して上述したように、制御装置8が対象相を除く各相のコイル7に流れる電流を可変制御することによって、ロータ73に生じるトルクをゼロに抑制することができる。
【0089】
ここで、“Iq=0”、“Iu=-(Iv+Iw)”の関係、及び式(4)より、下記の式(10)が導かれ、式(8)より下記の式(11)(式(11a)、式(11b)、式(11c))が導かれる。尚、係数“K1”と“K1’”とは、“K1+K1’=-1”の関係である。
【0090】
【0091】
対象相に設定される電気角θの範囲内において、上記の式(10)、式(11)に電気角θを当てはめることで、各相のコイル7に流す電流を設定することができる。
図4は、このようにして設定される各相の電流を示している。
【0092】
上記においては、W相が対象相である形態について説明したが、
図3に示す第1の例のように、U相、V相も対象相とすると、ロータ73の機械角における1周期の24箇所、15度間隔でq軸電流IqとトルクTeとがゼロとなる。そして、そのような機械角に対応する電気角θの前後“360/4N”(Nは、コイル7の相数)の範囲においても、
図4及び表1を参照して上述したように、制御装置8が対象相を除く各相のコイル7に流れる電流を可変制御することによって、ロータ73に生じるトルクをゼロに抑制することができる。従って、制御装置8による電流可変制御によって、電気角θの全範囲、並びにロータ73の機械角の全範囲に亘って、ロータ73に生じるトルクをゼロに抑制することができる。
【0093】
下記の式(12)、式(13)(式(13a)、式(13b)、式(13c))は、U相が対象相となる場合、下記の式(14)、式(15)(式(15a)、式(15b)、式(15c))は、V相が対象相となる場合を示している。尚、係数“K2”と“K2’”とは、“K2+K2’=-1”の関係であり、係数“K3”と“K3’”とは、“K3+K3’=-1”の関係である。
【0094】
【0095】
このように、各コイル7が対象相に設定される電気角θの範囲内において、上記の式(10)から式(15)に電気角θを当てはめることで、各相のコイル7に流す電流を設定することができる。即ち、
図4に示すように各相の電流を制御することにより、電気角θの全範囲、並びにロータ73の機械角の全範囲に亘って、ロータ73に生じるトルクをゼロに抑制することができる。
【0096】
以上、説明したように、本構成によれば、回転電機70のコイル7及び回転電機70を駆動するインバータ5を利用し、外部交流電源4により直流電源3を充電する車載充電装置10をシステムコストの増加を抑制して構成することができる。
【符号の説明】
【0097】
1:交流直流コンバータ、2:直流直流コンバータ、3:直流電源、4:外部交流電源、5:インバータ、5u:U相アーム(アーム)、5v:V相アーム(アーム)、5w:W相アーム(アーム)、7:コイル、7N:中性点、7u:U相コイル(コイル)、7v:V相コイル(コイル)、7w:W相コイル(コイル)、8:制御装置、9:車両用駆動装置、10:車載充電装置、11:フロントエンドコンタクタ(交流電源接続コンタクタ)、12:バッテリコンタクタ(直流電源接続コンタクタ)、13:バックエンドコンタクタ(コンバータ接続コンタクタ)、70:回転電機、73:ロータ、Iu:U相電流(コイルに流れる電流)、Iv:V相電流(コイルに流れる電流)、Iw:W相電流(コイルに流れる電流)、T1d:直流側端子、T21:第1端子、T22:第2端子、Te:トルク