(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011546
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】3Dプリンタ及び3次元印刷方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/364 20170101AFI20240118BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240118BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240118BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240118BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240118BHJP
【FI】
B29C64/364
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113615
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】512051550
【氏名又は名称】株式会社 山一ハガネ
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新本 英治
(72)【発明者】
【氏名】大橋 拓也
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AR06
4F213AR20
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL85
4F213WL87
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】寸法精度が高く、各種物性値が圧縮成型された場合の値により近い物性値となる造形物を造形できる3Dプリンタを実現する。
【解決手段】3Dプリンタ100は、主に樹脂からなるフィラメントを用いて造形物を造形する。3Dプリンタ100は、フィラメントを吐出する吐出部120と、吐出部120にフィラメントを供給するフィラメント供給部102と、吐出部120から吐出されたフィラメントによって造形物が造形される造形空間110の温度と相対湿度を、所定の範囲内になるように制御する温湿度制御装置112,113,114,115と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に樹脂からなるフィラメントを用いて造形物を造形する3Dプリンタであって、
前記フィラメントを吐出する吐出部と、
前記吐出部に前記フィラメントを供給するフィラメント供給部と、
前記吐出部から吐出された前記フィラメントによって前記造形物が造形される造形空間の温度と相対湿度を、所定の範囲内になるように制御する温湿度制御装置と、
を有することを特徴とする3Dプリンタ。
【請求項2】
前記造形空間を概略覆うチャンバーを有することを特徴とする請求項1に記載の3Dプリンタ。
【請求項3】
前記温湿度制御装置は、前記造形物を造形する際、前記造形空間の相対湿度を2%RH以内に制御することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の3Dプリンタ。
【請求項4】
主に樹脂からなるフィラメントを用いて造形物を造形する3次元印刷方法であって、
前記造形物を造形する際、前記造形物が造形される造形空間の温度と相対湿度を、所定の範囲内になるように制御することを特徴とする3次元印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタ及び3次元印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料を加熱溶融し積層させて、3次元に造形を行う3Dプリンタを用いて立体的な造形物を造形する3次元印刷方法が知られている。
【0003】
3Dプリンタでは、上記樹脂材料として、例えばフィラメントという細長い繊維のような状態の材料が使用されており、層となるフィラメントをノズルから押し出して層を形成する方法がある。
【0004】
上記形成時には、成形状態を良好にするために、上記形成を行う空間であるチャンバー内の温度を制御することが知られており、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1には、チャンバー内を加熱する加熱手段として、ヒータが用いられており、チャンバー内の温度が所定の温度に維持された状態で造形物を造形する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、良好な造形は可能となるものの、雨の日など湿度の高いときに造形した場合に、造形物の寸法精度が低下するという問題があることを発明者たちは新たに見出した。
【0008】
また、同様に雨の日など湿度の高いときに造形した場合に、造形物の各種物性値が低下するという問題もあることを発明者たちは新たに見出した。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の3Dプリンタでの造形に比較して、寸法精度が高く、各種物性値が圧縮成型された場合の値により近い物性値となる造形物を造形できる3Dプリンタを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の主に樹脂からなるフィラメントを用いて造形物を造形する3Dプリンタは、フィラメントを吐出するフィラメント吐出部と、前記フィラメント吐出部にフィラメントを供給するフィラメント供給部と、前記フィラメント吐出部から吐出されたフィラメントによって造形物が造形される造形空間の温度と相対湿度を、所定の範囲内になるように制御する温湿度制御装置と、を有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、造形物の寸法精度を向上させられるとともに、造形物の各種物性値が、圧縮成型された場合の値により近くなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1の3Dプリンタの内部構成を示し、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【
図2】本発明の実施形態1の3Dプリンタによる造形物の造形例を示す概略図を示す図である。
【
図3】本発明の効果を確認するための試験片を示す図である。
【
図4】(A)は温湿度制御を行なって造形した試験片の
図3におけるA-B断面を示すCT画像であり、(B)は温湿度制御を行わず造形した試験片の
図3におけるA-B断面を示すCT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下に、本発明の実施形態1について、
図1~
図4に基づいて説明する。
【0014】
<3Dプリンタの全体構成例>
図1(A)及び(B)は、実施形態1の3Dプリンタ100の構成例を示す図である。3Dプリンタ100は、本体の下部にチャンバー101を備える。そして、チャンバー101の内部には、3次元に造形物を造形する造形空間110が設けられている。また、造形空間110の下部には、載置台として、ステージ111が設けられる。そして、ステージ111上に造形物が造形される。
【0015】
3Dプリンタ100は、フィラメントを吐出する吐出部120と、吐出部120にフィラメントを供給するフィラメント供給部102とを有している。チャンバー101の内部のステージ111の上方には、造形手段として吐出部120が設けられている。チャンバー101よりも上方には、フィラメント供給部102が設けられる。吐出部120は、その下方にフィラメントを吐出する吐出ノズル121、122を有する。なお、実施形態1では、吐出部120に2つの吐出ノズル121、122が設けられているが、吐出ノズルの数は、任意である。また、吐出部120には、各吐出ノズルに121、122に供給されるフィラメントを加熱する図示しないヘッド加熱機構が設けられている。このように、3Dプリンタ100は、あらかじめ保持されるフィラメントを用いて、造形物を造形する。
【0016】
フィラメントは、例えば、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂又はPC(polycarbonate)樹脂等の材料である。また、フィラメントは、熱可塑性である。したがって、フィラメントは、3Dプリンタ100の吐出ノズル121、122から吐出される際は、加熱され、高温である。吐出後、フィラメントは、空気等によって冷却されると、固まる。このような性質を利用して、3Dプリンタ100は、フィラメントを吐出して造形物を造形する。
【0017】
図示しないフィラメントは、例えば、細長いワイヤ形状である。そして、フィラメントは、フィラメント供給部102に巻きまわされた状態等で、3Dプリンタ100にセットされる。さらに、フィラメントは、吐出部120に設けられている吐出ノズル121、122へそれぞれ供給される。
【0018】
吐出部120は、ステージ111に設けられた図示しない水平方向のX軸及びY軸駆動機構によって、X軸方向とY軸方向に移動する。例えば、X軸及びY軸駆動機構は、アクチュエータ、電源及び電子回路等からなる。
【0019】
さらに、吐出部120は、鉛直方向であるZ軸方向にも、Z軸駆動機構によって、Z軸方向に移動する。Z軸駆動機構もXY軸と同様に、例えば、アクチュエータ、機構、電源及び電子回路等からなる。
【0020】
また、各駆動機構は、図示しない制御装置によって、制御される。
【0021】
3Dプリンタ100は、チャンバー101内の造形空間110の温度と湿度を制御する温湿度制御装置として、ヒータ112、除湿空気供給機構113、除湿空気噴出口114、及びこれらを制御する温湿度制御部115を有している。
【0022】
これにより、後述するように、造形物の寸法バラツキが少なくなり、寸法精度が向上するとともに、機械的な物性値である引張弾性率、引張破壊ひずみ、引張降伏応力、曲げ応力、曲げ弾性率、最大曲げひずみ、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度などの多くの一般的な物性値が向上し、同材料を圧縮成型で作成した場合により近づき、量産を鑑みて圧縮成型した場合のシミュレーションする場合により利用しやすくなるといった効果を奏する。なお、チャンバー101は必ずしも必要なわけではないが、設けられているほうが、造形空間110の温湿度制御が容易になる。
【0023】
なお、造形空間110の温湿度は、フィラメントの材料の種類よって、適切な値に制御することが望ましい。例えば、ABSである場合は、温度は50℃、相対湿度2%RH以下となるように制御されていることが望ましい。
【0024】
また、吐出ノズル121、122は、フィラメントの種類ごとに異なる種類であってもよいし、同じ種類でフィラメントの加熱温度等が変更可能なものであってもよい。また、実施形態1において、3Dプリンタ100は、図示しないフィラメント供給装置により供給されるフィラメントを図示しないヘッド加熱装置で加熱溶融する。次に3Dプリンタ100は、溶融状態となったフィラメントを吐出ノズル121、122から押し出して、吐出する、そして、3Dプリンタ100は、吐出によって、ステージ111上にフィラメントで形成される各層を積層して造形物を造形する。
【0025】
なお、3Dプリンタ100は、上述の構成に限られず、ノズル清掃機構、フィラメントを予備的に乾燥させる乾燥機構や他の機構が追加されていてもよいし、制御機構等は分離されていてもよい。
【0026】
図2は、実施形態1の3Dプリンタ100による造形物の造形例を示す概略図である。例えば、3Dプリンタ100は、熱溶解積層方式等の材料押出法で造形物を造形する場合には、温湿度制御手段によって温湿度制御された造形空間内で図示するように、溶解したフィラメントF1をステージ111に、積層して造形物を造形する。図示するように、溶解したフィラメントF1によって形成されるそれぞれの層LYは、積層方向LD(Z軸方向)に、積層される。
【0027】
<実証試験>
ここで、3Dプリンタに求められている特性について説明する。3Dプリンタは造形物を造形する装置であるため、当然のことながら、造形精度が求められる。さらに、造形物もフィラメントに使われる材質の物性値として知られている機械的強度や耐熱性により近い特性が得られることも造形物の設計の観点から、当然求められる。
【0028】
実施形態1の3Dプリンタ100で造形した造形物は、その詳細なメカニズムは不明であるが、造形空間110の温湿度を制御することによって、造形精度と機械的強度や耐熱性が向上し、材質の物性値により近くなることを発明者たちは新たに見出した。
【0029】
上記を確認するため、実施例の試験片として、実施形態1の3Dプリンタ100を用いて、造形空間110の温湿度制御(温度:50±2℃ 湿度:≦2%RH)を行ってABS製のフィラメントを積層し、
図3に示すJIS K7139に記載の試験片を20個造形した。比較例の試験片として、実施形態1の3Dプリンタ100を用いて、造形空間110の温湿度制御を行わず、ABS製のフィラメントを積層し、
図3に示すJIS K7139に記載の試験片を20個造形した。個々の試験片のb2の寸法を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
表1より、温度制御を行った実施例の試験片は標準偏差が小さく、統計的には、ほぼ全ての造形品の寸法が、公差内に収まった。これに対し、温湿度制御を行わなかった比較例の試験片は、標準偏差が大きく、造形品が公差内に収まらない可能性が高いことが分かる。実際に、温度制御を行わず作製した比較例の試験片には公差を満足しない試験片も存在した(b2最大寸法:20.27mm)。よって、実施形態1の3Dプリンタ100は、造形精度が向上できるという効果を奏する。
【0032】
また、作製した各試験片を、あいち産業科学技術総合センターにて、機械的強度と耐熱性を測定した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
(試験方法)
引張特性:JIS K7161-1に準ずる 試験片数:3
曲げ特性:JIS K7171に準ずる 試験片数:3
荷重たわみ温度:JIS K7191-2Aに準ずる 試験片数:3
シャルピー衝撃強さ:JIS K7111-1/1eAに準ずる 試験片:5
【0034】
なお、温湿度制御を行うことで、造形精度や機械的強度等が向上する詳細な理由は、不明であるが、その断面の構造をCTにて確認したところ、
図4(B)に示すように温湿度制御を行わず作製した試験片の断面の外殻には、鬆Sが入った構造となっており、これにより実証試験時に生じたような寸法の大きくなる方向へのバラツキの発生や、機械的強度が低下した可能性が高い。なお、鬆Sが入った原因は、温湿度制御を行わなかったために造形時に溶解したフィラメントに巻き込まれた空気中の水分が、蒸気となって外殻から脱離することで生じた可能性がある。なお、以上のような現象は、フィラメントの材料が変わっても、フィラメントが主に樹脂からなる場合は、いずれの場合でも起こりうる可能性が高い。
【0035】
このように、実施形態1の3Dプリンタ100は、従来の造形空間110の温湿度制御を行わない従来の3Dプリンタよりも、造形精度が優れ、機械的強度や耐熱特性に優れるという効果を奏する。
【0036】
実施形態1の3Dプリンタ100は、印刷機能のみを有するプリンタに限らず、3Dスキャニング装置と連動したコピー機能付き3Dプリンタや、ネットワークと連動しているコピー機能付き3Dプリンタでもよい。いずれの場合も、3Dプリンタ100と同様の効果を奏する。
【0037】
本発明は上述した実施形態1に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、主に樹脂からなるフィラメントを用いて造形物を造形する3Dプリンタに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
100…3Dプリンタ
101…チャンバー
110…造形空間
111…ステージ
112,113,114,115…温湿度制御装置(112…ヒータ、113…除湿空気生成機構、114…除湿空気噴出口、115…温湿度制御部)
120…吐出部
121,122…吐出ノズル