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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115488
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸含有発酵液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20240819BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240819BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240819BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
C12P13/00
A23L33/135
A23L33/175
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023033191
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】591119370
【氏名又は名称】ヤマモリ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小村 愛
(72)【発明者】
【氏名】宮村 かおり
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE03
4B018MD19
4B018MD86
4B018ME04
4B018ME14
4B018MF13
4B064AE01
4B064CA02
4B064CC03
4B064CC09
4B064CC10
4B064CE00
4B064DA10
4B065AA21X
4B065AC14
4B065BB03
4B065BB12
4B065BB26
4B065BD33
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】
グルタミン酸及び/又はその塩類を含む発酵原料にグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を作用させてγ-アミノ酪酸を製造する方法において、純粋培養設備を要することなく安価に高濃度のγ-アミノ酪酸を付与することができると共に、アレルゲン物質を含まず汎用性の高いγ-アミノ酪酸含有発酵液を提供する事。
【解決手段】
ナトリウム濃度5.0w/v%~6.2w/v%、且つ水分活性(Aw)0.886~0.910となるようにグルタミン酸及び/又はその塩類と食塩を添加した、小麦及び/又は大豆由来窒素源を含まない発酵原料にて、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を接種して、一般細菌の増殖を抑制しながら、高濃度のγ-アミノ酪酸を含有する発酵液を製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦及び/又は大豆由来窒素源を含まない発酵原料に、ナトリウム濃度5.0w/v%~6.2w/v%、且つ水分活性(Aw)0.886~0.910となるようにグルタミン酸及び/又はその塩類と、食塩を添加し、これを加熱滅菌することなく、添加したグルタミン酸の69%以上をγ-アミノ酪酸に変換させる乳酸菌を接種し培養することによって、γ-アミノ酪酸を6w/v%以上含むことを特徴とするγ-アミノ酪酸含有発酵液を製造する方法。
【請求項2】
アレルゲン物質を含まないことを特徴とする、請求項1に記載のγ-アミノ酪酸含有発酵液の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により得られるγ-アミノ酪酸含有発酵液を、ろ過及び濃縮して、γ-アミノ酪酸を高含有する高濃度γ-アミノ酪酸含有発酵液の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の製造方法により得られるγ-アミノ酪酸含有発酵液を、ろ過及び濃縮して、γ-アミノ酪酸を高含有する高濃度γ-アミノ酪酸含有発酵液の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の製造方法により得られるγ-アミノ酪酸含有発酵液を含むことを特徴とする、飲料又は加工食品。
【請求項6】
請求項3に記載の製造方法により得られる高濃度γ-アミノ酪酸含有発酵液を含むことを特徴とする、飲料又は加工食品。
【請求項7】
請求項4に記載の製造方法により得られる高濃度γ-アミノ酪酸含有発酵液を含むことを特徴とする、飲料又は加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸(以下、「GABA」という)を、無菌的な設備を要することなく、安価に、雑菌の増殖を抑えながら乳酸菌の働きにより製造する方法、及びこの方法により得られるGABA含有発酵液がアレルゲン性物質を含まず高い汎用性を有することに関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く分布している非たんぱく質構成アミノ酸であるGABAは、哺乳類の脳や脊髄に存在する抑制系の神経伝達物質であり、生体内で重要な働きをすることが分かっている。GABAは、自律神経のバランスを整える作用を有することが知られており、その作用により、血圧の低下、ストレス緩和、リラックス、疲労感の軽減、睡眠の質を改善する等の効果を有することが確認されている
【0003】
食品の成分としても、茶、野菜類、穀類などに普通に含まれているアミノ酸であるが、その含有量は極めて少ない。食品製造分野では、前記GABAの有する血圧降下作用やリラックス作用を期待して、GABA含有量を増強した食品素材、該素材を用いた食品を製造する方法が数多く報告されている。
【0004】
一部の微生物がグルタミン酸からGABAを生産する能力に優れていることが知られており、中でも乳酸菌はGABAの生産効率が良く、例えばラクトバチルス・ヒルガルディー(Lactobacillus hilgardii)(特許文献1)が開示されている。しかし、無塩又は低塩分の培地や食品素材に作用させるためには、他の微生物の増殖を抑えなければならず、純粋培養に近い発酵設備を要し、作用させる前に培地又は食品素材の滅菌を行う必要があった。また、発酵物の貯蔵、流通環境における微生物による腐敗を抑制するために粉体化を行い、保存安定性を高める必要があるといった課題があった。
【0005】
また、純粋培養設備を要することなく、安価にGABAを増加させた食品の製造方法として、塩分を含有した食品に乳酸菌の休止菌体を作用させる方法(特許文献2)、醤油、味噌等の塩分含有食品に、耐塩性、アルコール耐性の高い乳酸菌を作用させる方法(特許文献3)、塩分及び乳酸を含有する食品素材に特定の乳酸菌を作用させる方法(特許文献4)などが開示されている。しかしながら、これらは最終生成GABA濃度が低い、もしくは味噌、醤油等を含有することによる二次製品への風味影響や、それらに由来するアレルゲン物質を含んでいることから汎用性に欠けるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-70462号公報
【特許文献2】特開2008-17785号公報
【特許文献3】特開2006-246840号公報
【特許文献4】国際公開WO2007/097374
【非特許文献1】矢野 未右紀,“食品の水分活性について”,[online],平26年11月20日,あいち産業科学技術総合センターニュース,p5,[令和4年1月24日検索],インターネット <URL:https://www.aichi-inst.jp/other/aisanken_news/2014/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、グルタミン酸及び/又はその塩類を含む食品にグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌を作用させてGABAを製造する方法において、純粋培養設備を要することなく安価に高濃度のGABAを付与することができると共に、アレルゲン物質を含まず汎用性の高いGABA含有発酵液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは上述した課題解決のために鋭意研究を重ねた結果、醤油から単離されたグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する耐塩性乳酸菌において、小麦及び/又は大豆由来の窒素源を一切含まない環境下で良好に生育し、且つグルタミン酸及び/又はその塩類を含む食品に高濃度のGABAを付与させることができる菌株を選別することにより、アレルゲン物質を一切含まない高濃度GABA含有発酵液を安価に製造する方法を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
従来であれば、醤油等の醸造発酵物より単離されるグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する耐塩性乳酸菌は、小麦及び/又は大豆に由来する窒素源を含有する培地又は食品素材において、良好な生育とGABA産生を行っていたが、本発明の方法により選別した乳酸菌を用いることにより、小麦及び/又は大豆に由来する窒素源を含まない環境下において、高濃度のGABAを産生することができる。これにより製造されたGABA含有発酵液は、アレルゲン物質を含むことなく、多様な食品の製造に利用することができる。また、耐熱性菌の増殖を抑制する濃度のナトリウムを含有する培地にて、上述した乳酸菌を作用させることにより、純粋培養設備や、発酵液の保存性確保の為の粉体化を要することなく、安価にGABA含有発酵液の製造を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の乳酸菌は、醤油から単離された耐塩性及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌のうち、小麦及び/又は大豆由来窒素源を含まない発酵原料にて良好に生育し、GABAを生産する能力を有するものである。
【0011】
醤油から単離された乳酸菌は、耐塩性及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌であれば特に限定しない。例えば、Lactobacillus属、Streptococcus属、Pediococcus属、及びBifidobacterium属を挙げることができる。これらの中でもLactobacillus属に属するものが好ましく、例えばLactobacillus brevis、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus rennini等を挙げることができる。耐塩性及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌の選抜については、一般的な乳酸菌用の培地(MRS培地)にグルタミン酸又はその塩と、塩化ナトリウムを含有させた液体培地に、分離した乳酸菌を接種して25℃~35℃で数日間培養後、この培養液のGABA含量を測定し、GABA量の多い乳酸菌株を選定すれば良い。
【0012】
耐塩性及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌より、小麦及び/又は大豆由来窒素源を含まない発酵原料にて良好にGABAを生産する乳酸菌を選抜するのは、次のような方法による。分離した乳酸菌を7w/v%以上のグルタミン酸を含有したアレルゲン物質を含まない発酵原料で培養して、よりグルタミン酸の消化率が高い菌株を選抜した。GABA含有発酵液中の残存グルタミン酸量が高くなると、最終的に得られる飲料又は加工食品に旨味が付与されるために望ましくないことから、グルタミン酸の消化率が69%以上、より好ましくは84%以上であることが望ましい。
【0013】
本発明のGABA含有発酵液を製造するのに用いられる発酵原料は、グルタミン酸を含有する必要があり、ここでのグルタミン酸は、化学的にアミノ酸の一種であるL-グルタミン酸を指し、グルタミン酸ナトリウム、その他のグルタミン酸塩、食品たんぱく質を酸や酵素で加水分解して得られるグルタミン酸、さらには食品中に含まれる遊離グルタミン酸のいずれを用いても構わない。グルタミン酸の初発濃度は、1~20w/v%に設定することが好ましく、より好ましくは9~12w/v%の範囲である。乳酸菌の発酵副産物は、添加した飲料や加工食品の味、風味を低下させるものを含んでおり、精製工程を経ることで除去可能であるが、コストがかかるという問題がある。グルタミン酸の初発濃度がこの範囲であると、発酵液に含まれるGABA濃度が高くなり、所定濃度のGABAを飲料や加工食品に含有させる場合、GABA発酵液の添加量が少なくなる。これにより、乳酸菌の発酵過程で生じた発酵副産物による味・風味の影響がなくなるとともに、発酵液の精製工程が不要となり、安価に製造することができる。
【0014】
また、耐塩性乳酸菌におけるグルタミン酸脱炭酸酵素活性の阻害が起きず、一般細菌の増殖を抑制しながら良好な発酵を実施するために、ナトリウム濃度5.0w/v%~6.2w/v%、且つ水分活性(Aw)0.886~0.910となるように、グルタミン酸及び/又はその塩類と食塩を添加することが好ましい。
【0015】
本発明に用いられる発酵原料は、乳酸菌の生育を促進するために、上記したグルタミン酸及び/又はその塩類や食塩の他に、ブドウ糖、果糖などの糖質や、酵母エキス等のビタミンやミネラルを含む食品から1つ以上を含有することが好ましい。さらに、乳化剤や安定剤、pH調整剤などの食品添加物を用いても構わない。発酵原料に用いることができる窒素含有食品としては、小麦及び/又は大豆由来窒素源を含まないものが好ましい。より好ましくは、アレルゲン物質を一切含まないものが望ましい。ここでのアレルゲン物質とは、食品表示基準により定められている特定原材料7品目及び特定原材料に準ずるもの21品目を示している。アレルゲン物質を含まない窒素含有食品として、例えば、酵母エキス、麦芽エキス、そら豆タンパク加工品、エンドウ豆タンパク加工品等を使用することができる。
【0016】
発酵に使用される容器は、洗浄や加熱殺菌を行うことができて、食品の製造に使用可能である容器であれば、大きさや材質を問わない。蓋を閉めて、嫌気的な環境で培養できるものが好ましい。
【0017】
発酵の条件は、次の通りである。発酵温度は、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは28℃~37℃で、初発pHは、4.7~5.5が好ましい。発酵原料のpHは、乳酸菌の増殖に伴って上昇し、発酵を開始してから7~14日経過した時点でpH6~7に達して、グルタミン酸脱炭酸酵素活性が抑制される。そのため、グルタミン酸脱炭酸反応が開始してからpH6.5に達する前に、発酵原料を再度pH4.7~5.5程度に調整してグルタミン酸脱炭酸反応を続けるようにする。培養期間は、添加したグルタミン酸源をGABA濃度6w/v%以上まで変換できる十分な期間として、20~30日が好ましい。
【0018】
上述したpH調整工程に使用するpH調整剤には、通常食品に使用される酸として、塩酸、酢酸、乳酸、クエン酸などが挙げられる。そのうち酢酸、乳酸を使用した場合、乳酸菌のグルタミン酸脱炭酸酵素活性の働きを緩慢にして残存グルタミン酸量が多くなることや、酢酸、乳酸のそのものの味、風味が強いことから、飲料又は加工食品へGABA含有発酵液を添加した際に味、風味への影響が大きくなることから望ましくない。
【0019】
乳酸菌を培養して得られたGABA含有発酵液は、そのまま各種の飲料や食品に添加して用いてもよく、また、濾過、濃縮などの処理工程によってGABA含有量をさらに高めてから利用してもよい。上記濾過工程としては、濾紙、濾布、膜濾過などを用いた通常の食品の濾過設備を使用することができ、珪藻土やセルロース、活性炭等の食品用濾過助剤を用いることができる。濃縮工程は、真空濃縮機、減圧濃縮機、凍結乾燥機などの設備を用いることができる。
【実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本発明の技術的範囲はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0020】
<前培養と乳酸菌の保管>
本発明で使用する乳酸菌は、醤油から単離、純化した後、変法MRS寒天培地(表1)に穿刺培養して、4~10℃で保管したものを使用する。この乳酸菌を、白金耳を用いて5mL~100mLの変法MRS液体培地(表1に示した成分組成の変法MRS寒天培地から標準寒天を抜いたもの)に接種し、30℃の温度で約5日、静置して培養する。培養液の550nmにおける光学密度(OD)が、接種前の値より0.5以上上昇していれば、その培養液を以後の発酵に使用することができる。乳酸菌の接種量は、発酵原料1mLあたり、10~10cellsの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは10~10cellsの範囲に設定する。この範囲であると、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する乳酸菌の生育も良く、乳酸菌以外の細菌やかび、酵母等の増殖を抑えることが容易である。
【0021】
【表1】
【0022】
<グルタミン酸脱炭酸酵素活性を有する菌株の獲得>
醤油麹に8~10倍量の蒸留水を加え、40℃で5~7時間自己消化させ、濾過することで得られる醤油麹消化液を作成した。醤油麹消化液を含有する培養液(培地組成:醤油麹消化液20%、グルタミン酸ナトリウム一水和物1%、グルコース1%、塩化ナトリウム12%、ペプトン5%、酵母エキス6%、pH6.0)を、ネジ付き試験管に分注し、ダーラム管を入れ、121℃20分殺菌したものを乳酸菌発酵に使用した。醤油から単離した乳酸菌を接種し、30℃の温度で1週間、静置培養した。そのうち、ダーラム管に気泡が発生し、グルタミン酸脱炭酸酵素活性を示した乳酸菌42株を得た。
【0023】
<試験例1 醤油を含まないナトリウム高含有培地においてGABA生産能の高い菌株の選定>
グルコース3w/v%、グルタミン酸7.6w/v%、塩化ナトリウム12w/v%、酵母エキス2.4w/v%を含有する発酵原料のpHを20%HCl溶液で5.0に調整した。調整した液は70℃1分湯浴中で殺菌した後、100mL容ネジロメディウム瓶に100mLずつ分注し、乳酸菌発酵に使用した。グルタミン酸脱炭酸酵素活性を示した乳酸菌42株の前培養液をそれぞれ接種して、30℃で25日間発酵させた後、85℃10分の殺菌を行い、No.2濾紙(アドバンテック社製)で濾過を行い、発酵が良好な10株の濾液を実施例1-1~1-10とし、GABA生成量を測定した。初発グルタミン酸量および得られた濾液中に含まれるGABA量の測定は、pH3.2クエン酸緩衝液で希釈してアミノ酸分析システム(HPLC、島津製作所製)を用いて、オルトフタルアルデヒド法により定量した。
【0024】
実施例1-1~1-10のGABA含有発酵液について、りんご風味酢飲料に添加して官能評価試験を実施した。GABA含有発酵液の添加量は、りんご風味酢飲料を150mL喫食した際に、GABA100mgを摂取することができるよう、適宜添加量を調整した。
【0025】
<比較例1>
初発グルタミン酸量が7.1w/v%になるようグルタミン酸ナトリウム一水和物を加えた醤油を準備し、醤油のpHを48%NaOH溶液で5.5に調整した後、試験例1と同様の方法で培地の殺菌、発酵、発酵後の殺菌・濾過したものを比較例1とする。なお、比較例1で使用した菌株は、実施例1-1で使用した菌株とする。比較例1のGABA含有発酵液についても、試験例1と同様にGABA生成量の測定、及び、りんご風味酢飲料への添加、官能評価を実施した。
【0026】
実施例1-1~1-10、及び比較例1のGABA生成量及び官能評価の結果を、表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
発酵期間中にグルタミン酸を消化した割合の高かった、実施例1-3及び実施例1-8は、GABA生成量が多く、りんご風味酢飲料に添加した際の味、風味の影響が少なく、良好であった。比較例1は、乳酸菌によるグルタミン酸消化率が高く、GABA生成量も多かったが、りんご風味酢飲料に添加した際に、醤油の味、風味が強く感じられたことから好ましくなかった。よって、GABA含有発酵液に使用する乳酸菌は、小麦、大豆を含む醤油を培地成分として含まない培地で良好に生育し、且つグルタミン酸の消化率が69%以上、より好ましくは84%以上であることが望ましい。
【0029】
<試験例2 醤油を含まないナトリウム高含有培地におけるGABA生成量の増加>
グルコース1w/v%、グルタミン酸10w/v%、塩化ナトリウム11w/v%、酵母エキス3.8w/v%を含有する発酵原料のpHを20%HCl溶液で5.0に調整した。調整した液は70℃1分湯浴中で殺菌した後、1000mL容ネジロメディウム瓶に900mLずつ分注し、乳酸菌発酵に使用した。実施例1-3、及び実施例1-8で使用した菌株の前培養液をそれぞれ接種して、30℃で30日間発酵させた。培養中は培地のpHを計測し、pH4.7~5.5になるように20%HCl溶液を添加した。試験例1と同様の方法で発酵後の殺菌・濾過したものを実施例2-3、及び実施例2-8とする。試験例1と同様にGABA生成量の測定、及び、りんご風味酢飲料への添加、官能評価を実施した。
【0030】
実施例2-3、及び実施例2-8のGABA生成量の結果を、表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
試験例2により得られたGABA含有発酵液のGABA生成量は、実施例2-3で6.1w/v%、実施例2-8で6.3w/v%であり、添加したグルタミン酸の99%以上を消化していた。りんご風味酢飲料に添加した際には味、風味への影響がなく、良好であった。よって添加したグルタミン酸の69%以上、より好ましくは84%以上を消化し、GABA6w/v%以上を生成する乳酸菌を、アレルゲン物質を含まない発酵原料に作用させることで、添加する飲料又は加工食品の味、風味への影響がないGABA含有発酵液を製造することができる。
【0033】
<試験例3>
グルコース1w/v%、酵母エキス2.4w/v%を含有する発酵原料に、塩化ナトリウムを3~15w/v%、グルタミン酸ナトリウム一水和物を12~15w/v%の範囲で添加し、段階的にナトリウム濃度を上げた発酵原料を調整し、pHを20%HCl溶液で5.0に調整した。調整した液は70℃1分湯浴中で殺菌した後、15mL容ネジ付き試験管に13mLずつ分注し、ダーラム管を入れ、乳酸菌発酵に使用した。実施例1-3で使用した菌株の前培養液を接種して、30℃で14日間発酵したものを実施例3-1~3-17とする。乳酸菌の増殖は濁りの生成で、グルタミン酸脱炭酸酵素活性の有無はダーラム管への気泡の発生で確認した。
【0034】
実施例3-1~3-17における乳酸菌の増殖及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性の有無を、表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
ナトリウム濃度6.3w/v%以上、且つ水分活性0.8835以下の時、乳酸菌の増殖及びグルタミン酸脱炭酸酵素活性は抑制された。水分活性が0.9100以上であると、一般細菌の増殖可能領域となり(非特許文献1)、培地滅菌を行わない培養条件には適さない。よって、ナトリウム濃度5.0~6.2w/v%、且つ水分活性0.886~0.910の範囲においては、一般細菌の増殖を抑制しながら、実施例1-3で使用した乳酸菌によるGABA生成が良好に行われる。なお、実施例1-8で使用した乳酸菌においても、同様の結果が得られた。
【0037】
<試験例4>
グルコース1w/v%、グルタミン酸10w/v%、塩化ナトリウム11w/v%、酵母エキス3.8w/v%を含有する発酵原料のpHを20%HCl溶液で5.0に調整した。調整した液は70℃1分殺菌した後、1000L容ステンレス製コンテナに900L分注し、乳酸菌発酵に使用した。実施例1-3で使用した菌株の前培養液を、発酵原料1mLあたり10cellsとなるように接種して、30℃で30日間発酵させた。培養中は培地のpHを計測し、pH4.7~5.5になるように20%HCl溶液を添加した。発酵開始から6日目、11日目、17日目、24日目の発酵液に、耐塩性のカビ、酵母の増殖がないか、平板培地のコロニー計測試験により確認を行った。発酵後は、プレート式加熱殺菌装置を用いて85℃10分の加熱殺菌を行い、UF濾過膜を通過させたものを実施例4とする。試験例1と同様にGABA生成量の測定、及び、りんご風味酢飲料への添加、官能評価を実施した。
【0038】
実施例4のGABA生成量の結果を、表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
実施例4のGABA含有発酵液は、GABA6.3w/v%を生成していた。りんご風味酢飲料に添加した際には味、風味への影響がなく、良好であった。無菌的な環境下での発酵は行っていないが、発酵期間中のカビ、酵母等の雑菌の増殖は確認されなかった。よって発酵スケールを拡大した場合においても、環境中の雑菌に汚染されることなく、添加する飲料又は加工食品の味、風味への影響がないGABA含有発酵液を製造することができる。なお、実施例1-8で用いた乳酸菌においても、同様の結果が得られた。
【0041】
<試験例5 減圧濃縮法による高濃度GABA含有発酵液の製造>
実施例4のGABA含有発酵液を、減圧濃縮装置を使用して重量として約2.4倍に濃縮した後、上澄み液を回収し、GABA濃度が約10~13w/v%となるように水を加えたものを実施例5-1及び実施例5-2とする。試験例1と同様にGABA含有量の測定を行った。
【0042】
実施例5-1、及び実施例5-2のGABA含有量の結果を、表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
実施例5-1、及び実施例5-2の結果から、GABA含有発酵液を高濃度化することで、飲料や加工食品へ添加した際の味、風味への影響をさらに緩和した高濃度GABA含有発酵液を製造することができる。
【0045】
<試験例6 飲料又は加工食品へのGABA富化>
実施例5-2の高濃度GABA含有発酵液について、各飲料又は加工食品に添加して官能評価試験を実施した。りんご風味酢飲料に添加したものを実施例6-1、緑茶飲料に添加したものを実施例6-2、ヨーグルトに添加したものを実施例6-3として、表7に記載の通りに、各飲料又は食品の喫食量に対して、GABA100mgを摂取することができるよう、高濃度GABA含有発酵液の添加量を調整した。
【0046】
【表7】
【0047】
実施例6-1~6-3は、何れも高濃度GABA含有発酵液を添加していないものと比較して、味、風味の差がなく、嗜好性に優れたものであった。なお、実施例5-1の高濃度GABA含有発酵液においても、同様の結果が得られた。