(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115506
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ウォーム減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/16 20060101AFI20240819BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
F16H1/16 Z
F16J12/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166789
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2023020727
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 郁也
(72)【発明者】
【氏名】本田 快
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 徹
【テーマコード(参考)】
3J009
3J046
【Fターム(参考)】
3J009DA11
3J009DA13
3J009EC06
3J009EC10
3J009FA08
3J046AA03
3J046AA14
3J046BA10
3J046BB10
3J046BC15
3J046CA03
3J046DA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ゴム部材を正規の位置関係で組み付けることが容易なウォーム減速機を提供する。
【解決手段】ウォーム減速機は、ウォーム4の先端側に位置するウォーム収容部11の軸方向一方側の開口部を塞ぎ、かつ、ウォーム収容部11の軸方向一方側を向いた外側面とウォーム収容部11の軸方向他方側を向いた内側面とを有する蓋体8と、蓋体8に固定されたゴム部材9とを備える。ゴム部材9は、シール部61と、内側緩衝部62とを有し、シール部61は、環状に構成され、かつ、蓋体8の内側面の外周部とウォーム収容部11との間で軸方向に圧縮されており、内側緩衝部62は、シール部61に対して径方向内側に離隔した位置で、かつ、弾性挟持部材7が軸方向に接触可能な位置に配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール収容部と、前記ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向両側の端部が開口した筒状のウォーム収容部とを有する、ハウジングと、
外周面にホイール歯を有し、前記ホイール収容部の内側に回転自在に支持される、ウォームホイールと、
外周面に前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、前記ウォーム収容部の内側に回転自在に支持される、ウォームと、
前記ウォームの先端部に外嵌される支持軸受と、
前記支持軸受を、前記ウォームホイールの側に向けて付勢する弾性付勢部材と、
前記支持軸受の外周面と、前記ウォーム収容部の内周面との間部分において、前記弾性付勢部材による付勢方向である第1方向と前記ウォーム収容部の軸方向である第2方向とのいずれにも直交する第3方向に関して前記支持軸受の両側に配置された1対の挟持板ばねを有し、かつ、前記弾性付勢部材と別体または一体に構成された、弾性挟持部材と、
前記ウォームの先端側に位置する前記ウォーム収容部の軸方向一方側の開口部を塞ぎ、かつ、前記ウォーム収容部の軸方向一方側を向いた外側面と前記ウォーム収容部の軸方向他方側を向いた内側面とを有する蓋体と、
前記蓋体に固定されたゴム部材と、
を備え、
前記ゴム部材は、シール部と、内側緩衝部とを有し、
前記シール部は、環状に構成され、かつ、前記蓋体の前記内側面の外周部と前記ウォーム収容部との間で軸方向に圧縮されており、
前記内側緩衝部は、前記シール部に対して径方向内側に離隔した位置で、かつ、前記弾性挟持部材が軸方向に接触可能な位置に配置されている、
ウォーム減速機。
【請求項2】
前記ゴム部材は、径方向に離隔した前記シール部の内周部と前記内側緩衝部の外周部とを接続するゴム接続部を有し、
前記ゴム部材の自由状態において、前記ゴム接続部の軸方向厚さは、前記シール部および前記内側緩衝部のそれぞれの軸方向厚さよりも小さい、
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
前記ゴム接続部の径方向幅が、前記シール部の径方向幅以上の大きさに設定されている、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項4】
前記ゴム接続部は、周方向の少なくとも1箇所に欠肉部を有する、請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項5】
前記ゴム部材の自由状態において、前記内側緩衝部の軸方向厚さは、前記シール部の軸方向厚さよりも小さい、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項6】
前記弾性付勢部材と前記弾性挟持部材とが別体に構成されており、
前記弾性付勢部材は、付勢板ばねにより構成され、前記支持軸受の外周面と、前記ウォーム収容部の内周面との間部分のうち、第1方向に関して前記ウォームホイールから遠い側に配置されており、
前記弾性付勢部材は、前記第3方向に伸長するように配置された状態で、前記第3方向に関するいずれか一方の端部が、前記第2方向に伸長するピンを用いて前記ウォーム収容部に片持ち支持され、かつ、前記第3方向に関する他方の端部に、前記支持軸受の外周面を押圧する荷重点を有し、
前記蓋体は、前記ピンと軸方向に対向する周方向の一部分が周方向の他の部分に比べて径方向外側に張り出すことにより、非円形の外周形状を有しており、
前記シール部は、前記蓋体の前記内側面の外周部に沿った非円形の環形状を有する、
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項7】
前記ゴム部材は、前記ピンとの干渉を防止するためのピン避け部を有する、請求項6に記載のウォーム減速機。
【請求項8】
前記ゴム部材は、外側緩衝部を有し、
前記外側緩衝部は、前記内側緩衝部の径方向外側で、かつ、前記弾性付勢部材が軸方向に接触可能な位置に配置されている、
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項9】
前記シール部と前記内側緩衝部とが、互いに接続されることなく径方向に離隔して配置されている、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項10】
前記蓋体は、前記ウォーム収容部の軸方向一方側の端部の径方向内側に配置されている、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項11】
周方向の1箇所に不連続部を有する欠円環状の止め輪を備え、
前記止め輪の径方向外側部分は、前記ウォーム収容部の軸方向一方側の端部の内周面のうち前記蓋体よりも軸方向一方側に位置する部分に備えられた係止溝に係止され、かつ、前記止め輪の径方向内側部分は、前記蓋体の前記外側面の径方向外側部分に対向している、
請求項10に記載のウォーム減速機。
【請求項12】
前記ゴム部材は、前記シール部に接続され、かつ、前記蓋体の外周面および前記外側面の外周部を覆う外側覆い部を有する、請求項11に記載のウォーム減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動パワーステアリング装置などに組み込むことが可能なウォーム減速機に関する。
【0002】
ステアリング装置の分野では、電動モータを補助動力源として、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力を低減する電動パワーステアリング装置が普及している。
【0003】
電動パワーステアリング装置は、電動モータのトルクを増大させるためのウォーム減速機を備える。
【0004】
ウォーム減速機は、ハウジングと、ウォームホイールと、ウォームとを備える。
【0005】
ハウジングは、ホイール収容部と、ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向両側の端部が開口した筒状のウォーム収容部とを有する。
【0006】
ウォームホイールは、外周面にホイール歯を有し、ホイール収容部の内側に回転自在に支持される。
【0007】
ウォームは、外周面にホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、ウォーム収容部の内側に回転自在に支持され、かつ、基端部を電動モータの出力軸に連結される。
【0008】
電動モータのトルクは、ウォームを介してウォームホイールに伝達されることにより増大されてから、ステアリングシャフトやステアリングギヤユニットのピニオン軸またはラック軸などの操舵力伝達部材に補助動力として付与される。これにより、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力が低減される。
【0009】
ウォーム減速機では、ホイール歯とウォーム歯との噛合部に、ウォーム減速機を構成する部品のそれぞれの寸法誤差や組立誤差などに基づいて、不可避のバックラッシュが存在する。該バックラッシュの存在に基づき、ステアリングホイールの回転方向を変える際に、噛合部で耳障りな歯打ち音が発生する場合がある。
【0010】
特許第6052988号公報には、ホイール歯とウォーム歯との噛合部での歯打ち音の発生を抑えるために、ウォームの先端部を、ウォームホイール側に向けて付勢する構造が記載されている。該構造は、ウォームの先端部を回転自在に支持する支持軸受と、該支持軸受とウォーム収容部との間に設置された弾性付勢部材であるコイルばねとを備える。コイルばねは弾性変形しており、コイルばねの弾性復元力によって、支持軸受をウォームホイール側に向けて付勢している。これにより、ホイール歯とウォーム歯との噛合部のバックラッシュが抑えられ、歯打ち音の発生が抑えられる。
【0011】
前記公報に記載された従来構造は、蓋体とゴム部材とをさらに備える。
【0012】
蓋体は、ウォームの先端側に位置するウォーム収容部の軸方向一方側の開口部を塞ぐ部材であり、ウォーム収容部の軸方向一方側の端面に外周部を突き合わせた状態で、ウォーム収容部に装着されている。
【0013】
ゴム部材は、蓋体と独立した単一部品である。ゴム部材は、シール部と、内側緩衝部と、ゴム接続部とを備える。シール部は、環状に構成され、かつ、ウォーム収容部と蓋体との間で軸方向に圧縮されることで、ウォーム収容部と蓋体との間に存在する隙間を塞ぎ、ウォーム収容部と蓋体との間をシールする。内側緩衝部は、環状に構成され、かつ、シール部の径方向内側に配置されている。内側緩衝部は、ウォーム収容部の内側に配置された部材、具体的には、支持軸受の外輪と蓋体との間に配置されて、該外輪がぶつかる際の衝撃を緩和する。ゴム接続部は、シール部と内側緩衝部とを接続する。
【0014】
ここで、シール部は、ウォーム収容部と蓋体との間で圧縮荷重を受けているため、その圧縮荷重が内側緩衝部に過度に伝達されると、内側緩衝部が弾性変形して、内側緩衝部の緩衝機能を設計値通りに確保できなくなる可能性がある。また、内側緩衝部は、支持軸受の外輪がぶつかる際に荷重を受けるため、その荷重がシール部に過度に伝達されると、シール部の圧縮代が変化して、シール部のシール性能が低下する可能性がある。
【0015】
この対策として、ゴム部材に備えられたゴム接続部が薄肉に造られている。具体的には、ゴム接続部の軸方向厚さがシール部および内側緩衝部の軸方向厚さよりも小さく設定されている。これにより、シール部に作用する圧縮荷重がゴム接続部を介して内側緩衝部に伝達されること、および、内側緩衝部に作用する荷重がゴム接続部を介してシール部に伝達されることを、抑制できるようにしている。
【0016】
なお、本開示のウォーム減速機に関連する、他の先行技術文献として、特許第4868215号公報がある。特許第4868215号公報には、本開示のウォーム減速機を実施する場合に採用することができる弾性付勢部材の構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第6052988号公報
【特許文献2】特許第4868215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許第6052988号公報に記載された従来構造では、単一部品であるゴム部材に備えられたゴム接続部が薄肉に構成されていることから、ゴム部材の単体の状態で薄肉部が弾性変形しやすく、ゴム部材の形状が安定しない。このため、ゴム部材を正規の位置関係で組み付けることが難しくなる可能性がある。
【0019】
本開示は、ゴム部材を正規の位置関係で組み付けることが容易なウォーム減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示の一態様のウォーム減速機は、ハウジングと、ウォームホイールと、ウォームと、支持軸受と、弾性付勢部材と、弾性挟持部材と、蓋体と、ゴム部材とを備える。
【0021】
前記ハウジングは、ホイール収容部と、前記ホイール収容部の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向両側の端部が開口した筒状のウォーム収容部とを有する。
【0022】
前記ウォームホイールは、外周面にホイール歯を有し、前記ホイール収容部の内側に回転自在に支持される。
【0023】
前記ウォームは、外周面に前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有し、基端部を電動モータの出力軸に連結され、かつ、前記ウォーム収容部の内側に回転自在に支持される。
【0024】
前記支持軸受は、前記ウォームの先端部に外嵌される。
【0025】
前記弾性付勢部材は、前記支持軸受を、前記ウォームホイールの側に向けて付勢する。
【0026】
前記弾性挟持部材は、前記弾性付勢部材と別体または一体に構成されており、前記支持軸受の外周面と、前記ウォーム収容部の内周面との間部分において、前記弾性付勢部材による付勢方向である第1方向と前記ウォーム収容部の軸方向である第2方向とのいずれにも直交する第3方向に関して前記支持軸受の両側に配置された1対の挟持板ばねを有する。
【0027】
前記蓋体は、前記ウォームの先端側に位置する前記ウォーム収容部の軸方向一方側の開口部を塞ぎ、かつ、前記ウォーム収容部の軸方向一方側を向いた外側面と前記ウォーム収容部の軸方向他方側を向いた内側面とを有する。
【0028】
前記ゴム部材は、前記蓋体に固定されている。
【0029】
前記ゴム部材は、シール部と、内側緩衝部とを有する。前記シール部は、環状に構成され、かつ、前記蓋体の前記内側面の外周部と前記ウォーム収容部との間で軸方向に圧縮されている。前記内側緩衝部は、前記シール部の径方向内側で、かつ、前記弾性挟持部材が軸方向に接触可能な位置に配置されている。なお、前記シール部の形状である環状には、円環状だけでなく非円形環状が含まれる。
【0030】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム部材は、径方向に離隔した前記シール部の内周部と前記内側緩衝部の外周部とを接続するゴム接続部を有する。前記ゴム部材の自由状態において、前記ゴム接続部の軸方向厚さは、前記シール部および前記内側緩衝部のそれぞれの軸方向厚さよりも小さい。
【0031】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム接続部の径方向幅が、前記シール部の径方向幅以上の大きさに設定されている。
【0032】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム接続部は、周方向の少なくとも1箇所に欠肉部を有する。
【0033】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム部材の自由状態において、前記内側緩衝部の軸方向厚さは、前記シール部の軸方向厚さよりも小さい。
【0034】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記弾性付勢部材と前記弾性挟持部材とが別体に構成されており、前記弾性付勢部材は、付勢板ばねにより構成され、前記支持軸受の外周面と、前記ウォーム収容部の内周面との間部分のうち、第1方向に関して前記ウォームホイールから遠い側に配置されている。前記弾性付勢部材は、前記第3方向に伸長するように配置された状態で、前記第3方向に関するいずれか一方の端部が、前記第2方向に伸長するピンを用いて前記ウォーム収容部に片持ち支持され、かつ、前記第3方向に関する他方の端部に、前記支持軸受の外周面を押圧する荷重点を有する。
【0035】
前記蓋体は、前記ピンと軸方向に対向する周方向の一部分が周方向の他の部分に比べて径方向外側に張り出すことにより、非円形の外周形状を有する。前記シール部は、前記蓋体の前記内側面の外周部に沿った非円形の環形状を有する。
【0036】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム部材は、前記ピンとの干渉を防止するためのピン避け部を有する。
【0037】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム部材は、外側緩衝部を有する。前記外側緩衝部は、前記内側緩衝部の径方向外側で、かつ、前記弾性付勢部材が軸方向に接触可能な位置に配置されている。
【0038】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記シール部と前記内側緩衝部とが、互いに接続されることなく径方向に離隔して配置されている。
【0039】
本開示の一態様のウォーム減速機では、前記蓋体は、前記ウォーム収容部の軸方向一方側の端部の径方向内側に配置されている。
【0040】
この場合に、本開示の一態様のウォーム減速機では、周方向の1箇所に不連続部を有する欠円環状の止め輪を備え、前記止め輪の径方向外側部分は、前記ウォーム収容部の軸方向一方側の端部の内周面のうち前記蓋体よりも軸方向一方側に位置する部分に備えられた係止溝に係止され、かつ、前記止め輪の径方向内側部分は、前記蓋体の前記外側面の径方向外側部分に対向している。
【0041】
この場合に、本開示の一態様のウォーム減速機では、前記ゴム部材は、前記シール部に接続され、かつ、前記蓋体の外周面および前記外側面の外周部を覆う外側覆い部を有する。
【0042】
本開示のウォーム減速機は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0043】
本開示の一態様のウォーム減速機によれば、ゴム部材を正規の位置関係で組み付けることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例のウォーム減速機を組み込んだ電動パワーステアリング装置を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3の右側から見た図であって、止め輪のみを仮想線(二点鎖線)で示した図である。
【
図6】
図6は、
図3に示した部分から蓋体および止め輪を取り外して、
図3の右側から見た図である。
【
図9】
図9は、第1例において、ハウジングを、
図3の右側から見た図である。
【
図10】
図10は、第1例において、支持軸受、弾性付勢部材、および弾性挟持部材を取り出して示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第1例における蓋体およびゴム部材の斜視図である。
【
図18】
図18(a)~
図18(d)は、第1例における弾性付勢部材の第1方向のたわみ量が増大する様子を模式的に示す図である。
【
図19】
図19は、第1例における弾性付勢部材のばね特性を示す線図(概念図)である。
【
図20】
図20(a)~
図20(c)は、第1例における弾性挟持部材(挟持板ばね)の第3方向のたわみ量が増大する様子を模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、第1例における弾性挟持部材(挟持板ばね)のばね特性を示す線図(概念図)である。
【
図22】
図22(a)~
図22(c)は、第1例における弾性挟持部材(挟持板ばね)の第3方向のたわみ量が、第1方向の移動に伴って変化しない様子を模式的に示す図である。
【
図23】
図23(a)および
図23(b)は、第1例における蓋体およびゴム部材のハウジングへの挿入作業を工程順に示す部分断面図である。
【
図24】
図24(a)~
図24(c)は、第1例における止め輪のハウジングへの挿入作業を工程順に示す部分断面図である。
【
図25】
図25(a)および
図25(b)は、第1例における止め輪のハウジングへの係止作業を工程順に示す部分断面図である。
【
図26】
図26(a)は、本開示の実施の形態の第2例における蓋体およびゴム部材の側面図であり、
図26(b)は、
図26(a)のF-F断面図である。
【
図27】
図27は、本開示の実施の形態の第3例についての、
図3の右上部に相当する拡大図である。
【
図30】
図30は、第3例における蓋体およびゴム部材のハウジングへの挿入作業の途中の段階を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例のウォーム減速機について、
図1~
図25(b)を用いて説明する。
【0046】
(1)ウォーム減速機
本開示のウォーム減速機は、各種機械装置の一部に組み込まれるウォーム減速機に適用可能であるが、本例では、自動車用の電動パワーステアリング装置の一部に組み込まれるウォーム減速機に、本開示のウォーム減速機を適用する場合について説明する。
【0047】
本例のウォーム減速機1は、
図1~
図6に示すように、ハウジング2と、ウォームホイール3と、ウォーム4と、支持軸受5と、弾性付勢部材6と、弾性挟持部材7と、蓋体8と、ゴム部材9とを備える。
【0048】
ハウジング2は、ホイール収容部10と、ホイール収容部10の中心軸に対しねじれの位置にある中心軸を有し、かつ、軸方向両側の端部が開口した筒状のウォーム収容部11とを備える。
【0049】
ホイール収容部10は、筒状に構成されている。
図2において、ホイール収容部10の中心軸は、表裏方向に伸長している。
【0050】
ウォーム収容部11は、筒状に構成され、かつ、軸方向両側の端部に開口部を有する。
図2において、ウォーム収容部11の中心軸は、左右方向に伸長している。ウォーム収容部11の軸方向一方側の開口部は、蓋体8により塞がれている。ウォーム収容部11の軸方向他方側の開口部は、ハウジング2に結合固定された電動モータ12により塞がれている。
【0051】
なお、ウォーム収容部11、および、ウォーム収容部11に収容される各部材に関して、軸方向一方側は、
図2における右側であり、軸方向他方側は、
図2における左側である。
【0052】
ウォームホイール3は、外周面にはすば歯車状のホイール歯13を有し、かつ、ホイール収容部10の内側に回転自在に支持される。本例では、ウォームホイール3は、ホイール収容部10の内側に回転自在に支持された回転軸の軸方向一部分(車両の前後方向に関するステアリングシャフト72の前側部)に外嵌固定されている。
【0053】
ウォーム4は、軸方向中間部外周面に、ウォームホイール3のホイール歯13と噛合する、ねじ状のウォーム歯14を有し、かつ、ウォーム収容部11の内側に回転自在に支持される。本例では、ウォーム歯14のねじれ方向は、右ねじ方向である。ただし、該ねじれ方向を、左ねじ方向とすることもできる。
【0054】
ウォーム4の基端寄り部分(
図2の左端寄り部分)は、ウォーム収容部11に対し、玉軸受15により回転自在に支持されている。本例では、玉軸受15の外輪がウォーム収容部11に径方向の隙間を介して内嵌され、かつ、玉軸受15の内輪がウォーム4の基端寄り部分に径方向の隙間を介して外嵌されている。これにより、ウォーム4の基端寄り部分が、ウォーム収容部11に対し、回転および揺動変位を可能に支持されている。なお、ウォーム4の基端寄り部分を、ウォーム収容部11に対して、回転および揺動変位を可能に支持する構造については、本例の構造に限らず、各種構造を採用することができる。
【0055】
ウォーム4の基端部は、電動モータ12の出力軸16の先端部に対し、カップリング17を用いて、トルク伝達および揺動変位を可能に接続されている。なお、ウォーム4の基端部を、電動モータ12の出力軸16の先端部に対し、スプライン係合などにより、トルク伝達および揺動変位を可能に接続することもできる。
【0056】
支持軸受5は、ウォーム4の先端部(
図2の右端部)に外嵌される。
【0057】
本例では、支持軸受5は、玉軸受により構成されている。すなわち、支持軸受5は、
図3に示すように、内輪18、外輪19、および内輪18の外周面に備えられた内輪軌道と外輪19の内周面に備えられた外輪軌道との間に配置された複数個の玉20とを備える。内輪18は、ウォーム4の先端部に外嵌固定されている。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、支持軸受を、ころ軸受などの他の種類の軸受により構成することもできる。
【0058】
本例では、ウォーム収容部11の内周面は、軸方向一方側の端部に、軸方向他方側から順番に、小径円筒面部21、保持部22、および大径部23を有する。小径円筒面部21は、支持軸受5の外周面、すなわち外輪19の外周面よりも小径の円筒面により構成されている。保持部22は、小径円筒面部21の軸方向一方側に隣接する部分に、小径円筒面部21よりも大径に構成されている。大径部23は、保持部22の軸方向一方側に隣接する部分に、保持部22よりも大径に構成されている。小径円筒面部21と保持部22とは、軸方向一方側を向いた段差面24により接続されている。保持部22と大径部23とは、軸方向一方側を向いた段差面であるシール当接面25により接続されている。本例では、支持軸受5は、保持部22の内側に、径方向の移動を可能に配置されている。
【0059】
以下の説明中、弾性付勢部材6による付勢方向である、ウォーム4がウォームホイール3に対して遠近動する方向(
図2、
図3、
図5、および
図6の上下方向)を「第1方向」とし、ウォーム収容部11の軸方向(
図2および
図3の左右方向、
図5および
図6の表裏方向)を「第2方向」とし、第1方向と第2方向とのいずれにも直交する方向(
図2および
図3の表裏方向、
図5および
図6の左右方向)を「第3方向」とする。
【0060】
ウォーム収容部11の保持部22は、
図6および
図9に示すように、主保持部26と、副保持部27と、係止部28とを備える。主保持部26は、小径円筒面部21と略同軸に配置され、かつ、支持軸受5の外周面よりも一回り大きい略円筒形状を有する。副保持部27は、主保持部26のうち第1方向に関してウォームホイール3から遠い側(
図6および
図9の上側)の端部から径方向外側に向けて張り出している。係止部28は、主保持部26のうち第1方向に関してウォームホイール3に近い側の端部から径方向外側に向けて張り出している。
【0061】
主保持部26は、その内側に支持軸受5が径方向の移動を可能に配置される部分である。主保持部26のうち、第3方向の両側の端部は、それぞれが第1方向に伸長する1対の平面部29(
図8参照)により構成されている。1対の平面部29は、弾性挟持部材7を構成する1対の挟持板ばね45の周方向中間部が接触する部分である。第3方向に関する1対の平面部29の間隔は、支持軸受5の外周面の直径よりも大きい。第1方向に関する1対の平面部29の長さは、運転時に弾性挟持部材7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に関して移動することが可能なストローク量よりも大きく確保されている。これにより、弾性挟持部材7の第1方向の移動に関わらず、弾性挟持部材7を構成する1対の挟持板ばね45が1対の平面部29に対して接触した状態が維持されるようにしている。
【0062】
主保持部26のうち、1対の平面部29から周方向に外れた部分は、支持軸受5の外周面よりも大径の円筒面部30により構成されている。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、主保持部の1対の平面部を省略して、主保持部を円筒面部のみにより構成することもできる。
【0063】
本例のウォーム減速機1では、ウォーム4からウォームホイール3にトルクを伝達する際に、ホイール歯13とウォーム歯14との噛合部から、ウォーム4に、噛み合い反力が加わる。該噛み合い反力には、第1方向成分だけでなく、第3方向成分も含まれる。該噛み合い反力のうち、第3方向成分の向きは、ウォーム4が所定方向に回転する場合と、ウォーム4が所定方向と反対方向に回転する場合とで、互いに逆向きとなる。また、該噛み合い反力に含まれる第1方向成分と第3方向成分との比率は、ウォーム4が所定方向に回転する場合と反対方向に回転する場合とで、互いに異なる。
【0064】
すなわち、ウォーム4とウォームホイール3との間でトルクを伝達する際には、ウォーム4の回転方向に応じて、ウォーム4の先端部に、
図6に示すような噛み合い反力F1またはF2が加わる。噛み合い反力F1、F2は、第3方向に関して互いに非対称な方向を向く。本例は、ウォーム歯14のねじれ方向が右ねじ方向の例であるが、ウォーム歯14のねじれ方向が左ねじ方向である場合には、
図6における噛み合い反力F1、F2のそれぞれの方向は、第3方向に関して反転させた方向となる。この場合には、本例の
図6に示される部分の構造を、第3方向に関して反転、すなわち、
図6において左右反転させることもできる。
【0065】
主保持部26の円筒面部30が存在する周方向範囲は、
図6に示すように、第2方向から見て、噛み合い反力F1、F2のベクトルと同じ周方向位置を含む。すなわち、ウォーム4の中心軸O4に直交する断面において、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2は、主保持部26の円筒面部30の周方向一部と交差する。
【0066】
副保持部27は、その内側に、弾性付勢部材6が配置される部分である。副保持部27は、第3方向の一方側(
図6および
図9の右側)部分に、第3方向の一方側に向けて凹入した大凹部31を有する。副保持部27は、第3方向の他方側(
図6および
図9の左側)部分に、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に凹入した小凹部32を有する。副保持部27は、大凹部31と小凹部32との間に、大凹部31の側から順番に、第1傾斜面部33と第2傾斜面部34とを有する。
【0067】
第1傾斜面部33および第2傾斜面部34のそれぞれは、第3方向に関して他方側に向かうにしたがい第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に向かう方向に傾斜した平面により構成されている。
図7に示すように、第3方向に対する第2傾斜面部34の傾斜角度θ2は、第3方向に対する第1傾斜面部33の傾斜角度θ1よりも大きい(θ2>θ1)。本例では、第2方向から見て、第2傾斜面部34の長さは、第1傾斜面部33の長さよりも長い。大凹部31と第1傾斜面部33とは、第1角部35により接続されている。第1傾斜面部33と第2傾斜面部34とは、第2角部36により接続されている。第2傾斜面部34と小凹部32とは、第3角部37により接続されている。
【0068】
すなわち、第1角部35、第2角部36、および第3角部37は、第3方向に関して大凹部31に配置されるピン39から遠ざかる方向(
図6、
図7、および
図9の左方)に向けて、第1角部35、第2角部36、および第3角部37の順に位置しており、第1方向に関してウォームホイール3から遠ざかる方向(
図6、
図7、および
図9の上方)に向けて、第1角部35、第2角部36、および第3角部37の順に位置している。第1角部35、第2角部36、および第3角部37は、運転時に弾性付勢部材6が接触する部分である。
【0069】
図6および
図9に示すように、係止部28は、弾性挟持部材7の一部分を周方向に係合させるための部分である。図示の例では、係止部28は、半円筒状凹面により構成されている。
【0070】
本例では、ウォーム収容部11は、段差面24のうち、大凹部31の内側に位置する部分に開口する凹部38を有する。凹部38には、第2方向に伸長する円柱状のピン39の軸方向他方側の端部が圧入により内嵌支持されている。ピン39は、弾性付勢部材6をウォーム収容部11に対して片持ち支持するために用いられる部材である。
【0071】
大径部23は、小径円筒面部21と同軸に配置された円筒面状の主大径部40と、周方向に関して保持部22の大凹部31と略同じ位置から第3方向の一方側に向けて凹入した副大径部41とを有する。
図6および
図9に示すように、第2方向から見て、主大径部40の内側には、主保持部26、小凹部32、および係止部28が位置しており、副大径部41の内側には、大凹部31が位置している。保持部22と大径部23とを接続するシール当接面25は、全周にわたりつながっている。
【0072】
弾性付勢部材6は、支持軸受5を、ウォームホイール3の側に向けて付勢する。これにより、ホイール歯13とウォーム歯14との間のバックラッシュを抑えることで、歯打ち音の発生を抑制している。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、弾性付勢部材6により、支持軸受5に外嵌された外嵌部材を介して、支持軸受5をウォームホイール3の側に向けて付勢することもできる。
【0073】
弾性付勢部材6は、その全体が、ウォーム収容部11の内側に配置されている。具体的には、弾性付勢部材6は、
図6に示すように、支持軸受5の外周面とウォーム収容部11の内周面に備えられた保持部22との間部分のうち、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側に配置されている。より具体的には、弾性付勢部材6は、保持部22を構成する副保持部27の内側に配置されている。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、ウォーム収容部に内嵌された内嵌部材の内側に、弾性付勢部材6を配置することもできる。
【0074】
本例では、弾性付勢部材6は、支持軸受5の外周面に対する接触部である荷重点Pと、保持部22に対する接触部のうちで荷重点Pに最も近い位置に存在する部分である支点Sとを有し(
図18(a)参照)、および、第1方向に関するたわみ量が増大することに伴って支点Sの位置が荷重点Pに近づくように変化することによりばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。
【0075】
本例では、弾性付勢部材6は、
図12(a)~
図12(e)に示すような金属製の付勢板ばねにより構成されている。すなわち、弾性付勢部材6は、アスペクト比が大きい矩形平板状の帯板部42と、帯板部42の長手方向の基端側(
図12(a)の右側)の端縁部から厚さ方向の片側(
図12(a)の下側)に鈍角に折れ曲がった基板部43と、帯板部42の長手方向の先端側(
図12(a)の左側)の端縁部から厚さ方向の片側に180度折り返され、かつ、その先端側部分が帯板部42の先端側部分に重ね合わされた折り返し板部44とを備える。
【0076】
本例では、弾性付勢部材6は、
図6に示すように、第3方向に伸長するように配置された状態で、第3方向に関するいずれか一方の端部(本例では第3方向に関する一方側の端部)がウォーム収容部11に対して片持ち支持され、かつ、第3方向に関する他方の端部(本例では第3方向に関する他方側の端部)に荷重点Pを有する(
図18(a)参照)。具体的には、弾性付勢部材6の第3方向の一方側の端部は、第2方向に伸長するように配置されたピン39を用いて、ウォーム収容部11に対して片持ち支持されている。
【0077】
より具体的には、弾性付勢部材6は、ウォーム減速機1の無負荷状態、すなわち、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクがゼロであり、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、周囲の部分に対し、次のように配置されている。
【0078】
基板部43の基端部が、副保持部27を構成する大凹部31の底部に弾性的に接触している。帯板部42と基板部43との接続部の厚さ方向の片側面である凹側の側面(
図6の下側面)が、ピン39の外周面に弾性的に接触している。帯板部42の中間部の厚さ方向の他側面(
図6の上側面)が、副保持部27を構成する第1角部35に弾性的に接触している。折り返し板部44の先端部の厚さ方向の片側面(
図6の下側面)が、支持軸受5の外周面のうち、第1方向に関してウォームホイール3から遠い側の端部に弾性的に接触している。なお、帯板部42は、第2角部36および第3角部37に接触しておらず、帯板部42の厚さ方向の他側面と第2角部36および第3角部37との間には隙間が存在している。
【0079】
この状態で、弾性付勢部材6は、第1角部35との接触部が支点Sとなり、支持軸受5の外周面との接触部が荷重点Pとなる態様で、支持軸受5を、ウォームホイール3の側に向けて弾性的に付勢している(
図18(a)参照)。なお、本例では、弾性付勢部材6は、ウォーム収容部11およびピン39との接触部に作用する摩擦力によって、使用箇所に保持されている。また、荷重点Pは、第3方向に関して、副保持部27の第3角部37とほぼ同位置に配置されている。
【0080】
本例では、ウォーム4からウォームホイール3に伝達されるトルクが増大することにより、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1またはF2が増大すると、支持軸受5から弾性付勢部材6の荷重点Pに加わる押圧力が増大して、弾性付勢部材6(帯板部42)の第1方向のたわみ量が増大する。
図18(a)~
図18(d)は、該たわみ量が増大する様子を模式的に示した図である。本例では、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が増大すると、副保持部27に対する弾性付勢部材6の弾性的な接触位置が、
図18(a)~
図18(d)の順に示すように変化する。すなわち、弾性付勢部材6の支点Sの位置が、荷重点Pに近づく方向に段階的に変化する。これにより、弾性付勢部材6のばね定数が、
図19(概念図)に示すように段階的に増大する。
【0081】
より具体的に説明すると、本例では、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が増大すると、副保持部27に対する弾性付勢部材6の弾性的な接触位置は、
図18(a)に示す第1角部35(1箇所)から、
図18(b)に示す第1角部35および第2角部36(2箇所)に変化し、つづいて
図18(c)に示す第2角部36(1箇所)に変化し、つづいて
図18(d)に示す第2角部36および第3角部37(2箇所)に変化する。
【0082】
図18(a)に示すように、弾性付勢部材6が第1角部35(1箇所)にのみ弾性的に接触している状態では、弾性付勢部材6の支点Sは、第1角部35との接触部となる。この状態(第1段階)での弾性付勢部材6のばね定数は、
図19に示すように、比較的小さい。なお、本例では、トルクの逆入力が発生していない、通常運転時には、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量は小さく抑えられ、弾性付勢部材6は、常時、第1角部35に当接している。
【0083】
図18(b)に示すように、弾性付勢部材6が第1角部35および第2角部36(2箇所)に弾性的に接触している状態、および、
図18(c)に示すように、弾性付勢部材6が第2角部36(1箇所)にのみ弾性的に接触している状態では、弾性付勢部材6の支点Sは、第2角部36との接触部となる。この状態(第2段階)での弾性付勢部材6のばね定数は、
図19に示すように、比較的大きくなり、具体的には第1段階よりも大きくなる。
【0084】
図18(d)に示すように、弾性付勢部材6が第2角部36および第3角部37(2箇所)に弾性的に接触すると、弾性付勢部材6は、それ以上、第1方向のたわみ量を増大させることができなくなり、いわゆる底付き状態となる。
【0085】
つまり、本例では、弾性付勢部材6のばね定数は、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量に応じて2段階に変化する。具体的には、弾性付勢部材6のばね定数は、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が増大することに伴って、比較的小さい値(第1段階)から、比較的大きい値(第2段階)に増大する。
【0086】
このため、本例のウォーム減速機1によれば、該ウォーム減速機1を組み込んだ機械装置(本例では、自動車)の運転時に、動力の伝達方向に関してウォーム減速機1の下流側に位置する部分(本例ではタイヤ)からウォーム減速機1に大きなトルクが逆入力された場合でも、弾性付勢部材6の存在に基づいて、異音の発生を効率良く抑えることができる。
【0087】
すなわち、本例では、ウォーム減速機1に大きなトルク(トルク振動を含む)が逆入力されることにより、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が、
図18(d)に示す状態まで増大する直前の、弾性付勢部材6のばね定数を、比較的大きい値(第2段階)にすることができる。したがって、弾性付勢部材6が第3角部37に衝突する勢いを、弾性付勢部材6の大きい弾力によって効率良く抑えることができる。これにより、該衝突による打音の発生を効率良く抑えることができる。
【0088】
さらに、
図18(d)に示す状態から、ウォーム4の回転方向が反転することにより、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が、
図18(a)に示す状態まで減少する直前の、弾性付勢部材6のばね定数を、比較的小さい値(第1段階)にすることができる。したがって、ウォーム4の回転方向が反転することに伴うホイール歯13とウォーム歯14との衝突の勢いを、弾性付勢部材6の付勢力を小さくすることによって効率良く抑えることができる。これにより、ホイール歯13とウォーム歯14との歯打ち音の発生を効率良く抑えることができる。
【0089】
すなわち、本例では、ウォーム減速機1に逆入力されるトルクが、トルク振動となる場合でも、弾性付勢部材6と第3角部37との衝突による打音や、ホイール歯13とウォーム歯14との歯打ち音が繰り返し発生すること、すなわちラトル音が発生することを効率良く抑えられる。
【0090】
一方、本例では、トルクの逆入力が発生していない、通常運転時には、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量は小さくなるため、弾性付勢部材6のばね定数を、比較的小さい値(第1段階)にすることができる。このため、通常運転時には、噛み合い反力F1、F2の発生に伴うウォーム4の変位に関わらず、ホイール歯13とウォーム歯14との噛合部に作用する摩擦力を小さく抑えることができ、ウォーム4からウォームホイール3へのトルクの伝達効率を十分に確保することができる。
【0091】
要するに、本例のウォーム減速機1によれば、トルクが逆入力された際の異音の発生の抑制と、通常運転時のトルクの伝達効率の確保とを、高いレベルで両立しやすい。
【0092】
本例では、弾性付勢部材6の支点Sとなる角部を、第1角部35および第2角部36の2つとしたが、本開示のウォーム減速機を実施する場合、該角部の数を本例よりも多くすることによって、弾性付勢部材6のばね定数を3段階以上に変化させることもできる。また、副保持部27のうち、弾性付勢部材6が弾性的に接触する部分、たとえば、第1角部35と第2角部36との間に位置する部分や、第2角部36と第3角部37との間に位置する部分を、凸曲面とすることもできる。このような構成を採用すれば、弾性付勢部材6の第1方向のたわみ量が増大することに伴って、弾性付勢部材6が該凸曲面に沿って湾曲する。このため、弾性付勢部材6の支点Sの位置を、荷重点Pに近づく方向に連続的に変化させることができ、弾性付勢部材6のばね定数を、連続的に増大させることができる。
【0093】
ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合、弾性付勢部材のばね特性は、非線形でなくてもよく、線形であってもよい。本開示のウォーム減速機を実施する場合で、弾性付勢部材として板ばねを用いる場合には、該板ばねの形状を、本例と異なる形状とすることもできる。本開示のウォーム減速機を実施する場合には、弾性付勢部材として、コイルばねなどの、板ばね以外の各種ばね、あるいは、ゴムなどを用いることもできる。
【0094】
弾性挟持部材7は、支持軸受5の外周面とウォーム収容部11の内周面に備えられた保持部22との間部分において、第3方向に関して支持軸受5の両側に配置された、1対の挟持板ばね45を有する。1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45は、第3方向の成分を含む方向のたわみ量(本例では、第3方向のたわみ量)が増大することに伴ってばね定数が増大するような、非線形のばね特性を発揮する。なお、本例では、弾性付勢部材6と弾性挟持部材7とは、互いに別体の部品であるが、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、たとえば特許第4868215号公報の
図3に記載されているような、弾性付勢部材と弾性挟持部材とが一体に構成された構造を採用することもできる。
【0095】
本例では、弾性挟持部材7は、
図13(a)~
図13(e)に示すように、全体が欠円筒形状(C字形状)を有する金属製の板ばねにより構成されている。1対の挟持板ばね45は、弾性挟持部材7の周方向両側部を構成する。弾性挟持部材7は、1対の挟持板ばね45のウォームホイール3に近い側の周方向端部を互いに周方向に接続する周方向接続部46を有する。
図13(a)において、破線αは、1対の挟持板ばね45と周方向接続部46との境界線を示している。
【0096】
本例では、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45は、周方向中間部を構成する第1部分47と、周方向両側部を構成する第2部分48とを有する。
図13(a)において、破線βは、第1部分47と第2部分48との境界線を示している。
【0097】
第1部分47は、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有する。第2部分48のそれぞれは、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、第1部分47に対して滑らかに連続している。すなわち、第1部分47および第2部分48は、第2方向から見て、互いの径方向内側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されており、かつ、互いの径方向外側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されている。
【0098】
自由状態での第1部分47の径方向内側面の曲率半径R1は、支持軸受5の外周面の曲率半径Rs(
図6参照)よりも小さい(R1<Rs)。自由状態での第2部分48の径方向内側面の曲率半径R2は、自由状態での第1部分47の径方向内側面の曲率半径R1よりも大きい(R2>R1)。本例では、該曲率半径R2を、支持軸受5の外周面の曲率半径Rsと等しくしている(R2=Rs)。ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、該曲率半径R2を、該曲率半径Rsよりも若干大きくまたは小さくすることもできる。
【0099】
本例では、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45は、ウォーム収容部11の内周面に備えられた保持部22に接触する部分に相当する第1部分47に、残留応力が付与されている。これにより、他の部分に比べて運転時の弾性変形量が大きくなりやすい第1部分47の耐久性を確保しやすくしている。ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、該残留応力の付与を省略することもできる。
【0100】
周方向接続部46は、支持軸受5の外周面に沿って湾曲した部分円筒形状を有し、かつ、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45に対して滑らかに連続している。すなわち、該挟持板ばね45および周方向接続部46は、第2方向から見て、互いの径方向内側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されており、かつ、互いの径方向外側面の周方向端部同士が共通接線を有するように接続されている。本例では、自由状態での周方向接続部46の径方向内側面の曲率半径Rjを、自由状態での第2部分48の径方向内側面の曲率半径R2と等しくしている(Rj=R2)。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、周方向接続部を省略すること、すなわち、1対の挟持板ばね45を互いに分離することもできる。
【0101】
本例では、弾性挟持部材7は、ウォーム収容部11と周方向に係合する周方向位置決め片49を有する。
【0102】
本例では、周方向位置決め片49は、周方向接続部46の周方向中間部に、周方向に離隔して2つ備えられている。2つの周方向位置決め片49は、周方向接続部46の周方向中間部から径方向外側に突出するように備えられている。より具体的には、2つの周方向位置決め片49は、周方向接続部46の周方向中間部にH形状の透孔を形成することにより設けられた1対の舌片を径方向外側に折り曲げることで形成されている。周方向位置決め片49は、保持部22の係止部28に対して周方向に係合することにより、弾性挟持部材7の周方向の位置決めおよび回転止めをするための部分である。
【0103】
なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合で、周方向位置決め片を設ける場合、周方向位置決め片の形状、個数、および周方向位置などは、本例と異ならせることもできる。また、周方向位置決め片は、支持軸受または支持軸受に外嵌される外嵌部材と周方向に係合するように設けることもできる。
【0104】
本例では、周方向接続部46は、周方向中間部、具体的には、2つの周方向位置決め片49の間部分に、周方向の残部である周方向接続部46の周方向両側部および1対の挟持板ばね45よりも剛性が低い、低剛性接続部50を有する。本例では、低剛性接続部50の剛性を低くするために、低剛性接続部50が位置する周方向部分に矩形の透孔51を形成することで、該周方向部分の断面係数を小さくしている。低剛性接続部50は、該低剛性接続部50のたわみ抵抗を下げることで、1対の挟持板ばね45の相互作用を小さくするために設けられている。
【0105】
なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、低剛性接続部の剛性を低くするための手段として、低剛性接続部の板厚を薄くするなどの、本例と異なる手段を採用することもできる。あるいは、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、周方向接続部に低剛性接続部を設けることを省略することもできる。
【0106】
本例では、弾性挟持部材7は、支持軸受5と軸方向に係合する軸方向位置決め片52を有する。
【0107】
本例では、軸方向位置決め片52は、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45に、周方向に離隔して2つずつ備えられている。より具体的には、軸方向位置決め片52は、第2部分48のそれぞれの周方向中間部の軸方向一方側の端部から径方向内側に折れ曲がるように備えられている。本例では、弾性挟持部材7の軸方向一方側の端部に軸方向位置決め片52を設けているため、弾性挟持部材7は、支持軸受5の外周面とウォーム収容部11の保持部22との間部分に、ウォーム収容部11の軸方向一方側から組み付けられる。
【0108】
なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合で、軸方向位置決め片を設ける場合、軸方向位置決め片の形状、個数、周方向位置、および軸方向位置などは、本例と異ならせることもできる。また、軸方向位置決め片は、ウォーム収容部またはウォーム収容部に内嵌される内嵌部材と軸方向に係合するように設けることもできる。
【0109】
弾性挟持部材7は、
図6に示すように、支持軸受5の外周面と、ウォーム収容部11の内周面に備えられた保持部22との間部分に配置されている。具体的には、弾性挟持部材7は、支持軸受5に外嵌され、かつ、保持部22を構成する主保持部26の内側に配置されている。
【0110】
この状態で、弾性挟持部材7に備えられた2つの周方向位置決め片49が、保持部22を構成する係止部28の内側に配置されることにより、該係止部28に対して周方向に係合している。これにより、弾性挟持部材7が周方向に位置決めされることで、弾性挟持部材7を構成する1対の挟持板ばね45が、支持軸受5の外周面と主保持部26との間部分のうち、第3方向の両側に配置されている。本例では、2つの周方向位置決め片49と係止部28との間に、第1方向の隙間および第3方向の隙間が設けられている。これにより、運転時に必要となる、係止部28に対する2つの周方向位置決め片49の第1方向および第3方向の若干の変位を許容できるようにしている。本例では、運転時に、弾性挟持部材7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に移動することに関わらず、常に、係止部28に対する2つの周方向位置決め片49の第1方向の侵入量が十分に確保されるように、2つの周方向位置決め片49の第1方向寸法が設定されている。
【0111】
弾性挟持部材7に備えられた軸方向位置決め片52のそれぞれが、支持軸受5の外輪19の軸方向一方側の側面に当接することにより、該外輪19に対して軸方向に係合している。これにより、支持軸受5に対して弾性挟持部材7が軸方向に位置決めされている。
【0112】
本例では、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45の周方向中間部である第1部分47(より具体的には、第1部分47の周方向中央部)は、第2方向から見て、ウォーム4の中心O4を通過しかつ第3方向に伸長する直線である第3方向直線Lxと交差している。
【0113】
より具体的には、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45は、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、周囲の部分に対し、次のように配置されている。
【0114】
第1部分47の径方向外側面の周方向中央部が、主保持部26を構成する平面部29に、
図20(a)に示す点Q1で接触している。第2部分48のそれぞれの径方向内側面の周方向外側の端部、すなわち周方向に関して第1部分47から遠い側の第2部分48の端部が、支持軸受5の外周面に、
図20(a)に示す点Q2で接触している。第1部分47の径方向内側面は、支持軸受5の外周面に接触しておらず、第1部分47の径方向内側面と支持軸受5の外周面との間には隙間が存在している。第2部分48のそれぞれの径方向外側面は、主保持部26に接触しておらず、第2部分48のそれぞれの径方向外側面と主保持部26との間には、隙間が存在している。すなわち、挟持板ばね45は、主保持部26に対して1箇所(
図20(a)に示す点Q1)でのみ接触しており、かつ、支持軸受5の外周面に対して2箇所(
図20(a)に示す点Q2)でのみ接触している。
【0115】
噛み合い反力F1、F2がゼロの状態で、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45には、第3方向の初期たわみが生じている。これにより、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態でも、主保持部26の内側で支持軸受5が第3方向にがたつくことを抑制している。ただし、噛み合い反力F1、F2がゼロの状態での、1対の挟持板ばね45の平面部29に対する摩擦力を小さく抑える観点から、前記第3方向の初期たわみは、極力小さく設定することが好ましい。
【0116】
1対の挟持板ばね45のうち、第3方向に関して他方側(
図6の左側)に位置する一方の挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48は、第2方向から見て、噛み合い反力F1のベクトルを含む放射直線L1と交差している。1対の挟持板ばね45のうち、第3方向に関して一方側(
図6の右側)に位置する他方の挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48は、第2方向から見て、噛み合い反力F2のベクトルを含む放射直線L2と交差している。
【0117】
以上の状態で、弾性挟持部材7は、1対の挟持板ばね45により、支持軸受5を第3方向の両側から挟持している。これにより、ウォーム4の先端部が第3方向に移動する際の勢いを抑えることで、異音の発生を抑制している。
【0118】
すなわち、本例の構造では、ウォーム4の先端部がウォームホイール3に対して第1方向に遠近動できるようにするために、支持軸受5の周囲に配置された主保持部26が、支持軸受5の外周面よりも一回り大きく形成されている。このため、ウォーム4の先端部は、第3方向にも移動し得る。
【0119】
一方、ウォーム4に作用する噛み合い反力F1、F2には、第1方向の成分だけでなく、第3方向成分の力が含まれる。該第3方向成分の向きは、ウォーム4の回転方向に応じて反転する。このため、ウォーム4の先端部が第3方向に移動することを無抵抗に許容すると、ウォーム4に作用する噛み合い反力F1、F2の第3方向成分によって、主保持部26に支持軸受5の外周面が第3方向に勢い良く衝突し、耳障りな打音やラトル音などの異音が発生しやすくなる。
【0120】
そこで、本例の構造では、そのような異音の発生を抑制するために、弾性挟持部材7を構成する1対の挟持板ばね45により、支持軸受5を第3方向の両側から挟持している。これにより、ウォーム4の先端部が第3方向に移動する際の勢いを抑えることで、異音の発生を抑制している。
【0121】
本例では、ウォーム4の先端部に加わる噛み合い反力F1またはF2が増大すると、支持軸受5から第3方向の一方側(
図6の右側)または他方側(
図5の左側)に位置する挟持板ばね45に作用する第3方向の押圧力が増大する。これにより、該挟持板ばね45の第3方向のたわみ量が増大する。
図20(a)~
図20(c)は、該たわみ量が増大する様子を模式的に示した図である。
【0122】
本例では、挟持板ばね45の第3方向のたわみ量が増大することに伴って、支持軸受5の外周面に対する2つの第2部分48の径方向内側面の接触部(点Q2)間の第1方向の距離Wが、
図20(a)~
図20(c)の順に示すように連続的に減少する。なお、
図20(c)に示すように、挟持板ばね45の第1部分47が、主保持部26の平面部29と支持軸受5の外周面との間で挟み込まれた状態になると、挟持板ばね45は、それ以上、第3方向のたわみ量を増大させることができなくなり、いわゆる底付き状態となる。すなわち、本例では、該底付き状態となるまでの間は、挟持板ばね45の第3方向のたわみ量が増大することに伴って距離Wが連続的に減少することにより、該挟持板ばね45のばね定数が、
図21(概念図)に示すように連続的に増大する。
【0123】
このため、本例の構造では、弾性付勢部材6によるウォーム4の先端部および支持軸受5の付勢動作を滑らかにすることができ、かつ、ウォーム4の先端部の周囲において第3方向に関する部材間の衝突の勢いを抑制しやすい。
【0124】
すなわち、挟持板ばね45のばね定数は、第3方向のたわみ量が小さい段階(低負荷領域)で小さくなるため、該段階では、該挟持板ばね45と主保持部26の平面部29との間に作用する摩擦力、および、該挟持板ばね45と支持軸受5の外周面との間に作用する摩擦力が小さくなる。このため、ウォーム4の先端部および支持軸受5の第1方向の移動を滑らかにすることができる。したがって、その分、弾性付勢部材6によるウォーム4の先端部および支持軸受5の付勢動作を滑らかにすることができる。
【0125】
一方、挟持板ばね45のばね定数は、第3方向のたわみ量が大きくなった段階(高負荷領域)で大きくなる。したがって、たとえば、支持軸受5が第3方向他方側に移動することで、
図20(c)に示すように、第3方向他方側の挟持板ばね45が底付き状態となる直前の、支持軸受5の第3方向他方側への移動の勢いを、該第3方向他方側の挟持板ばね45の大きい弾力によって効率良く抑えることができる。これにより、底付きする際の衝突音の発生を効率良く抑えることができる。
【0126】
また、このとき、第3方向一方側の挟持板ばね45は、2つの第2部分48の径方向内側面と支持軸受5の外周面との接触部(点Q2)同士の間の距離が近くなって、ばね定数が小さくなる。このため、第3方向一方側の挟持板ばね45により、支持軸受5を第3方向他方側に押圧する力は十分小さくなる。したがって、この観点からも、底付きする際の衝突音の発生を効率良く抑えることができる。
【0127】
さらに、
図20(c)に示す状態から、ウォーム4の回転方向が反転することにより、第3方向他方側の挟持板ばね45の第3方向のたわみ量が、
図20(a)に示す状態まで減少する直前の、該第3方向他方側の挟持板ばね45のばね定数を小さくすることができる。したがって、ウォーム4の回転方向が反転することに伴う支持軸受5の第3方向一方側のへの移動の勢いを効率よく抑えることができて、ホイール歯13とウォーム歯14との衝突の勢いを十分に抑えることができる。これにより、ホイール歯13とウォーム歯14との歯打ち音の発生を効率良く抑えることができる。
【0128】
また、このとき、第3方向一方側の挟持板ばね45は、2つの第2部分48の径方向内側面と支持軸受5の外周面との接触部(点Q2)同士の間の距離が大きくなるにしたがって、ばね定数が大きくなる。このため、第3方向一方側の挟持板ばね45により、支持軸受5の第3方向一方側のへの移動の勢いを効率よく抑えることができて、ホイール歯13とウォーム歯14との衝突の勢いを十分に抑えることができる。したがって、この観点からも、ホイール歯13とウォーム歯14との歯打ち音の発生を効率良く抑えることができる。
【0129】
本例では、挟持板ばね45の周方向両側部を構成する第2部分48の径方向内側面の曲率半径を一定の大きさとしたが、本開示のウォーム減速機を実施する場合、第2部分の径方向内側面の曲率半径を、周方向に関して段階的に変化させたり、連続的に変化させたりすることもできる。
【0130】
本例では、主保持部26のうち、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45が弾性的に接触する部分が、第1方向に伸長する平面部29により構成されている。このため、
図22(a)~
図22(c)に示すように、弾性挟持部材7が第1方向に移動した場合でも、1対の挟持板ばね45の第3方向のたわみ量、すなわち間隔Wが変化せず、1対の挟持板ばね45を構成するそれぞれの挟持板ばね45のばね定数を一定に保つことができる。したがって、弾性付勢部材6および弾性挟持部材7に関して、安定したばね特性を確保することができる。
【0131】
なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、第1方向に関する1対の平面部29の長さを、運転時に弾性挟持部材7がウォーム4の先端部および支持軸受5とともに第1方向に関して移動することが可能なストローク量よりも小さくすること、すなわち、ウォーム4に大きな噛み合い反力が加わったときなどに、主保持部26に対する挟持板ばね45の弾性的な接触部が、平面部29から円筒面部30に乗り上がるようにすることもできる。この場合でも、該接触部が平面部29に存在する間は、挟持板ばね45のばね定数を一定に保つことができる。
【0132】
本例では、第2方向から見て、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2は、主保持部26の円筒面部30の周方向一部と交差している。また、1対の挟持板ばね45のうち、第3方向に関して他方側(
図6の左側)に位置する挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48は、第2方向から見て、放射直線L1と交差している。また、1対の挟持板ばね45のうち、第3方向に関して一方側(
図6の右側)に位置する挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48は、第2方向から見て、放射直線L2と交差している。
【0133】
このため、運転時に、支持軸受5が噛み合い反力F1の方向に移動する傾向となった場合でも、該移動の勢いを、第3方向に関して他方側に位置する挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48の弾力により抑えることができる。さらに、噛み合い反力F1を、主保持部26の円筒面部30により支承することができる。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、第3方向に関して他方側に位置する挟持板ばね45を、その周方向中間部が第2方向から見て放射直線L1と交差するように配置することもできる。このような構成を採用すれば、支持軸受5が噛み合い反力F1の方向に移動する傾向となった場合に、該移動の勢いを、第3方向に関して他方側に位置する挟持板ばね45の弾力により効率良く抑えることができる。
【0134】
運転時に、支持軸受5が噛み合い反力F2の方向に移動する傾向となった場合でも、該移動の勢いを、第3方向に関して一方側に位置する挟持板ばね45の、ウォームホイール3から遠い側の第2部分48の弾力により抑えることができる。さらに、噛み合い反力F2を、主保持部26の円筒面部30により支承することができる。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、第3方向に関して一方側に位置する挟持板ばね45を、その周方向中間部が第2方向から見て放射直線L2と交差するように配置することもできる。このような構成を採用すれば、支持軸受5が噛み合い反力F2の方向に移動する傾向となった場合に、該移動の勢いを、第3方向に関して一方側に位置する挟持板ばね45の弾力により効率良く抑えることができる。
【0135】
なお、本例では、
図6に示すように、主保持部26の円筒面部30は、第2方向から見て、噛み合い反力F1、F2のベクトルを含む放射直線L1、L2と交差することが可能な周方向範囲に存在しているが、第3方向に対する放射直線L2の傾斜角度が、第3方向に対する放射直線L1の傾斜角度よりも小さくなっている。このため、円筒面部30のうち、第3方向に関して放射直線L2側(
図6の右側)の周方向端縁部E2を、放射直線L1側(
図6の左側)の周方向端縁部E1よりも、第1方向に関してウォームホイール3に近い側(
図6の下側)に配置している。
【0136】
このため、本例では、主保持部26のうち第1方向に関してウォームホイール3から遠い側(
図6および
図9の上側)の端部から外径側に張り出した副保持部27のうち、ピン39が配置される部分である大凹部31を、第3方向に関して、ウォーム4の中心軸よりも放射直線L2と同じ側(
図6の右側)に配置している。これにより、大凹部31を第3方向に関して放射直線L1と同じ側(
図6の左側)に配置する場合に比べて、大凹部31を第1方向に関してウォームホイール3に近い位置に配置できるようにしている。すなわち、このような配置を採用することにより、主保持部26および副保持部27を含む保持部22全体の第1方向の幅寸法を極力抑えられるようにしている。
【0137】
本開示のウォーム減速機を実施する場合、1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねの形状を、本例と異なる形状とすることもできる。
【0138】
本開示のウォーム減速機を実施する場合、1対の挟持板ばねを構成するそれぞれの挟持板ばねのばね特性は、線形であってもよい。
【0139】
ウォーム収容部11の軸方向一方側の開口部を塞ぐ蓋体8は、ウォーム収容部11の軸方向一方側(
図3の右側)を向いた外側面と、ウォーム収容部11の軸方向他方側(
図3の左側)を向いた内側面とを有する。本例では、蓋体8は、全体を略円板状に構成されており、
図3に示すように、ウォーム収容部11の軸方向一方側の端部の径方向内側、より具体的には、大径部23の径方向内側に配置されている。
【0140】
本例では、蓋体8がウォーム収容部11の軸方向一方側の端部の径方向内側に配置されているため、特許第6052988号公報に記載された従来構造のように蓋体がウォーム収容部の外部に配置されている場合に比べて、ウォーム減速機1の搬送時や使用箇所への組み付け時などに、蓋体8が周囲の物体にぶつかりにくい。したがって、蓋体8を保護しやすい。
【0141】
ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、蓋体がウォーム収容部の外部に配置される構成を採用することもできる。具体的には、たとえば、蓋体のうちゴム部材よりも径方向外側に位置する部分をウォーム収容部の軸方向一方側の端面に突き合わせた状態で、ボルトなどの結合部材を用いて、蓋体をウォーム収容部に固定することができる。
【0142】
本例では、蓋体8は、アルミニウム合金、鉄合金などの金属板素材にプレス加工を施してなる板金部材である。ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、蓋体に必要な強度および剛性を確保できる限り、蓋体の素材として任意の素材を採用することができ、たとえば蓋体を合成樹脂製とすることもできる。
【0143】
本例では、蓋体8は、外径側平板部53と、内径側平板部54と、接続筒部55とを有する。
【0144】
外径側平板部53は、蓋体8の径方向外側部分を構成し、
図5に示すように、第2方向から見て、ウォーム収容部11の大径部23よりも僅かに小さい、大径部23と相似形の外周形状を有する。このような外径側平板部53は、円輪状の円輪平板部56と、円輪平板部56の周方向の一部分から径方向外側に張り出した略矩形の張出平板部57とからなる。円輪平板部56は、大径部23の主大径部40の径方向内側に配置される部分であり、主大径部40の内径よりも僅かに小さい外径を有する。張出平板部57は、大径部23の副大径部41の内側に配置される部分であり、第2方向から見て、副大径部41よりも僅かに小さい、副大径部41と相似形の外周形状を有する。
【0145】
すなわち、本例では、蓋体8は、ピン39と軸方向に対向する周方向の一部分である張出平板部57が周方向の他の部分に比べて径方向外側に張り出すことにより、非円形の外周形状を有している。
【0146】
内径側平板部54は、蓋体8の径方向内側部分を構成し、円板形状を有する。内径側平板部54は、
図3に示すように、外径側平板部53と平行に、かつ、外径側平板部53よりもウォーム収容部11の軸方向一方側(
図3の右側)にオフセットした位置に配置されている。
【0147】
接続筒部55は、蓋体8の径方向中間部分を構成し、ウォーム収容部11の軸方向に伸長する円筒形状を有する。接続筒部55は、外径側平板部53の径方向内端部と内径側平板部54の径方向外端部とを接続している。
【0148】
本例のウォーム減速機1は、止め輪58をさらに備える。蓋体8は、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に配置された状態で、止め輪58により、大径部23の径方向内側から軸方向一方側に抜け出ることを阻止されている。
【0149】
止め輪58は、周方向の1箇所に不連続部59を有する欠円環状に構成されている。止め輪58は、周方向両側の端部に、軸方向に貫通する2つの係合孔79を有する。2つの係合孔79は、組立用の治具を係合させるために用いられる。
【0150】
止め輪58の径方向外側部分は、ウォーム収容部11の軸方向一方側の端部の内周面のうち蓋体8よりも軸方向一方側に位置する部分である、主大径部40の軸方向中間部に備えられた周方向に伸長する係止溝60に係止されている。本例では、係止溝60は、矩形の断面形状を有する。止め輪58の径方向内側部分は、蓋体8の外側面の径方向外側部分に対向している。具体的には、止め輪58の径方向内側部分は、蓋体8の外径側平板部53の外側面を抑え付けている。これにより、蓋体8は、大径部23の径方向内側から軸方向一方側に抜け出ることを阻止されている。
【0151】
本例では、止め輪58の径方向外側部分を係止溝60に係止した状態で、止め輪58の不連続部59を、蓋体8の張出平板部57と異なる周方向位置、好ましくは張出平板部57と略逆位相(径方向反対側)となる周方向位置に配置している。これにより、止め輪58によって、張出平板部57の外側面の根元部分を周方向の全長にわたり抑え付けられるようにすることで、張出平板部57の根元部分が止め輪58の側に折れ曲がることを防止している。これにより、張出平板部57とウォーム収容部11との間部分において、ゴム部材9の第2シール部64(
図14、
図15(a)、
図17(a)参照)の軸方向の圧縮代が低下あるいは喪失することを防止している。
【0152】
本例では、ウォーム収容部11に対する蓋体8および止め輪58の組み付け状態で、
図3に示すように、支持軸受5よりも軸方向一方側に突出したウォーム4の先端部が、蓋体8の接続筒部55の径方向内側に配置されている。この状態で、ウォーム4の先端部の外周面と接続筒部55の内周面との間には、径方向の隙間が介在しており、ウォーム4の先端面と内径側平板部54の内側面との間には、軸方向の隙間が介在している。これらの隙間は、運転時におけるウォーム4の先端部の径方向変位および軸方向変位に関わらず、常に消滅しない大きさに設定されている。
【0153】
すなわち、本例では、蓋体8の内径側平板部54および接続筒部55は、蓋体8とウォーム4の先端部との干渉を回避する機能を有する。また、蓋体8の内径側平板部54および接続筒部55は、蓋体8の剛性を向上せる機能を有する。本開示のウォーム減速機を実施する場合、蓋体とウォームの先端部とを互いに干渉しない位置関係に配置することができ、かつ、蓋体の剛性を必要量確保することができれば、蓋体の径方向内側部分および径方向中間部分を、蓋体の径方向外側部分と同一平面上に存在する平板部により構成することもできる。
【0154】
ゴム部材9は、
図3、
図14、
図15(a)~
図15(e)、および
図16に示すように、蓋体8に接着により固定されている。これにより、蓋体8とゴム部材9とが一体化されている。本例では、蓋体8に対するゴム部材9の接着として、ゴム部材9を成形するのと同時に行う接着、すなわち加硫接着を採用している。ただし、本開示を実施する場合には、ゴム部材を単独で成形した後に、蓋体に対して接着剤により接着することもできる。ゴム部材9の材料として、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴムなどの適宜のゴムを用いることができる。
【0155】
ゴム部材9は、シール部61と、内側緩衝部62とを有する。
【0156】
シール部61は、環状に構成され、かつ、蓋体8の内側面の外周部とウォーム収容部11との間で軸方向に圧縮されている。これにより、蓋体8とウォーム収容部11との間部分を通じて、ウォーム収容部11内に存在する潤滑油が外部に漏洩したり、外部に存在する水分などの異物がウォーム収容部11内に侵入したりすることを防止している。
【0157】
本例では、シール部61は、蓋体8の内側面の外周部、すなわち外径側平板部53の内側面の外周部に沿った非円形の環形状を有する。具体的には、シール部61は、円輪平板部56の内側面の外周部に沿った円弧形の第1シール部63、および、張出平板部57の内側面の外周部に沿った略U字形の第2シール部64からなる。シール部61は、外径側平板部53の内側面の外周部に接着されている。
【0158】
本例では、
図16に示すように、シール部61の軸方向の先端面(
図16の左端面)は、凸円弧形の断面形状を有する。また、シール部61の外周面93は、軸方向の先端側(
図16の左側)に向かうにしたがってシール部61の幅が狭くなる方向である径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面により構成されている。シール部61は、外径側平板部53の内側面の外周部と、ウォーム収容部11のシール当接面25との間で、全周にわたり軸方向に圧縮されている。
図3では、シール部61を含むゴム部材9の全体を、自由状態で示している。
【0159】
内側緩衝部62は、シール部61に対して径方向内側に離隔した位置で、かつ、弾性挟持部材7が軸方向に接触可能な位置、すなわち弾性挟持部材7と軸方向に対向する位置に配置されている。内側緩衝部62は、弾性付勢部材6とは接触しない。
【0160】
具体的には、内側緩衝部62は、
図14および
図15(a)に示すように、円弧形の第1シール部63と同軸に配置された円環形状を有する。内側緩衝部62は、円輪平板部56の内側面の径方向中間部に接着されている。内側緩衝部62の外半径Roおよび内半径Riと、組み付け状態での弾性挟持部材7の軸方向位置決め片52の内接円半径Rmとの間には、Ro>Rm>Riの寸法関係が成立している。また、本例では、組み付け状態での弾性挟持部材7の外径を、内側緩衝部62の外径以下で、かつ、内側緩衝部62の内径以上とする寸法関係が成立している。ただし、本開示の構造を実施する場合には、内側緩衝部62が弾性挟持部材7と軸方向に接触可能な位置に配置されている限り、本例と異なる寸法関係を採用することもできる。本例では、
図16に示すように、内側緩衝部62の軸方向の先端面(
図16の左端面)は、平坦面により構成されている。
【0161】
ウォーム減速機1の運転時に、弾性挟持部材7が、支持軸受5の外周面とウォーム収容部11の保持部22との間部分から軸方向一方側に向けて移動する、すなわち、弾性挟持部材7が支持軸受5に対して相対的に軸方向一方側に移動すると、弾性挟持部材7が内側緩衝部62に対して軸方向に接触する。これにより、弾性挟持部材7が支持軸受5の外周面とウォーム収容部11の保持部22との間部分から軸方向一方側に抜け出ることを防止、すなわち、弾性挟持部材7が支持軸受5の外周面から軸方向一方側に脱落することを防止できる。また、この際に、弾性挟持部材7は、蓋体8に接触しない。このため、金属同士が衝突することにより、耳障りな接触音が発生することを防止できる。本例では、内側緩衝部62の径方向幅は、運転時における弾性挟持部材7の径方向変位に関わらず、弾性挟持部材7が軸方向に接触可能な大きさに設定されている。内側緩衝部62に対して軸方向に接触した弾性挟持部材7は、その後、元の軸方向位置に戻ることができる。
【0162】
本例では、ゴム部材9の自由状態において、内側緩衝部62の軸方向厚さTaを、シール部61の軸方向厚さTsよりも小さくしている(Ta<Ts、
図16参照)。これにより、内側緩衝部62の軸方向厚さTaをシール部61の軸方向厚さTs以上(Ta≧Ts)とする場合と比較して、ゴム部材9を構成するゴムの量を抑えることで、ゴム部材9のコストを低減している。ただし、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、内側緩衝部の軸方向厚さTaをシール部の軸方向厚さTs以上(Ta≧Ts)とすることもできる。
【0163】
いずれにしても、本例の構造では、ゴム部材9が蓋体8の内側面に接着により固定されているため、ゴム部材が蓋体と独立した単一部品である従来構造に比べて、ゴム部材9を正規の位置関係で組み付けることが容易となる。
【0164】
本例では、ゴム部材9は、径方向に離隔したシール部61の内周部と内側緩衝部62の外周部とを接続するゴム接続部65をさらに有する。ゴム接続部65は、外径側平板部53の内側面に接着されている。ゴム部材9の自由状態において、ゴム接続部65の軸方向厚さTcは、シール部61および内側緩衝部62のそれぞれの軸方向厚さTa、Tsよりも小さい(Tc<Ta、Tc<Ts、
図16参照)。
【0165】
本例のゴム部材9では、シール部61の内周部と内側緩衝部62の外周部とがゴム接続部65により接続されているため、ゴム部材9を射出成形すると同時に蓋体8に接着する工程を行いやすい。具体的には、たとえば、ゴム部材9の成形空間にゴム材料を送り込むためのゲートの位置、個数などの選択肢を増やすことができる。
【0166】
シール部61は、ウォーム収容部11と蓋体8との間で圧縮荷重を受けているため、その圧縮荷重がゴム接続部65を介して内側緩衝部62に過度に伝達されると、内側緩衝部62が弾性変形して、内側緩衝部62の緩衝機能を設計値通りに確保できなくなる可能性がある。また、内側緩衝部62は、弾性挟持部材7が軸方向に接触する際に荷重を受けるため、その荷重がゴム接続部65を介してシール部61に過度に伝達されると、シール部61の圧縮代が変化して、シール部61のシール性能が低下する可能性がある。
【0167】
この点に関して、本例の構造では、ゴム接続部65が薄肉に構成されている、すなわち、ゴム部材9の自由状態において、ゴム接続部65の軸方向厚さTcが、シール部61および内側緩衝部62のそれぞれの軸方向厚さTa、Tsよりも小さくなっている。このため、シール部61に作用する圧縮荷重がゴム接続部65を介して内側緩衝部62に伝達されること、および、内側緩衝部62に作用する荷重がゴム接続部65を介してシール部61に伝達されることを、それぞれ抑制できる。換言すれば、シール部61と内側緩衝部62とが、互いに影響し合って、互いの機能に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0168】
ゴム接続部65の軸方向厚さTcは、シール部61および内側緩衝部62のそれぞれの軸方向厚さTa、Tsよりも小さければ、任意の大きさに設定することができる。ただし、シール部61と内側緩衝部62とが互いに影響することを抑制する観点から、ゴム接続部65の軸方向厚さTcは、シール部61および内側緩衝部62のそれぞれの軸方向厚さTa、Tsに対して、1/2以下に設定することが好ましく、1/3以下に設定することがより好ましく、1/4以下に設定することがさらに好ましい。本例では、ゴム部材9が蓋体8の内側面に接着により固定されているため、ゴム接続部65の軸方向厚さTcをどの程度小さくしても、ゴム部材9の形状を安定化させることができる。
【0169】
ゴム接続部65の径方向幅は、任意に設定することができる。本例では、ゴム接続部65の径方向幅が最も小さくなる箇所、具体的には第1シール部63と内側緩衝部62との間に位置する箇所で、ゴム接続部65の径方向幅Wcを、シール部61の径方向幅Ws以上の大きさに設定している(Wc≧Ws、
図16参照)。本例では、このようにゴム接続部65の径方向幅Wcを大きく確保すること、すなわち、シール部61と内側緩衝部62との径方向の間隔を大きく確保することで、シール部61と内側緩衝部62とが互いに影響することを、より抑制できるようにしている。本例では、ゴム部材9が蓋体8の内側面に接着により固定されているため、ゴム接続部65の径方向幅Wcをどの程度大きくしても、ゴム部材9の形状を安定化させることができる。
【0170】
本例では、ゴム接続部65は、周方向の少なくとも1箇所(図示の例では、周方向等間隔となる4箇所)に欠肉部66を有する。それぞれの欠肉部66は、周方向に伸長する円弧形状を有する。蓋体8の内側面のうち、それぞれの欠肉部66と整合する部分は、ゴム部材9に覆われずに露出している。これらの露出した部分は、ゴム部材9および蓋体8を射出成形用の金型から分離する際にエジェクタピンにより押す部分として利用することができる。
【0171】
本開示のウォーム減速機を実施する場合に、ゴム部材のゴム接続部に形成する欠肉部の位置、形状、個数などは、任意に設定することができる。本開示のウォーム減速機を実施する場合には、ゴム接続部に形成する欠肉部を省略することもできる。
【0172】
本例では、ゴム部材9は、外側緩衝部67を有する。外側緩衝部67は、内側緩衝部62の径方向外側で、かつ、弾性付勢部材6が軸方向に接触可能な位置に配置されている。
【0173】
外側緩衝部67は、
図17(a)および
図17(b)に示すように、弾性付勢部材6の第3方向の一方側の端部、具体的には帯板部42の第3方向の一方側の端部および基板部43が軸方向に接触可能な位置、すなわちと帯板部42の第3方向の一方側の端部および基板部43が軸方向に対向する位置に配置されている。より具体的には、外側緩衝部67は、第2シール部64の周方向中間部の径方向内側に隣接する位置に配置されており、略円弧形状を有する。なお、
図17(b)は、
図17(a)から、後述する補強部68を省略して示す図である。外側緩衝部67は、第2シール部64の周方向中間部、および、該周方向中間部に隣接するゴム接続部65の一部分に接続されている。本例では、
図14および
図16に示すように、外側緩衝部67の軸方向の先端面(
図16の左端面)は、平坦面により構成されている。
【0174】
ウォーム減速機1の運転時に、弾性付勢部材6が、ピン39に対して軸方向一方側に向けて移動すると、弾性付勢部材6の第3方向の一方側の端部が外側緩衝部67に対して軸方向に接触する。これにより、弾性付勢部材6が支持軸受5よりも軸方向一方側に移動することを防止できる。また、この際に、弾性付勢部材6は、蓋体8に接触しない。このため、金属同士が衝突することにより、耳障りな接触音が発生することを防止できる。外側緩衝部67に対して軸方向に接触した弾性付勢部材6は、その後、元の軸方向位置に戻ることができる。
【0175】
本開示のウォーム減速機を実施する場合で、弾性付勢部材6の第3方向の一方側の端部と、ピン39およびウォーム収容部11との間に作用する摩擦力を十分に確保することで、弾性付勢部材6がピン39に対して軸方向一方側に向けて移動することを防止できる場合には、外側緩衝部67を省略することもできる。
【0176】
本例では、ゴム部材9は、
図17(a)に示すように、外側緩衝部67の径方向内側に配置され、かつ、外側緩衝部67の周方向両側の端部を接続する円弧形の補強部68を有する。補強部68は、外側緩衝部67を補強する機能を有する。補強部68は、外側緩衝部67の周方向両側の端部、および、外側緩衝部67の径方向内側に位置するゴム接続部65の一部分に接続されている。
【0177】
本例では、ゴム部材9は、ピン39の軸方向一方側の端部との干渉を防止するためのピン避け部69を有する。本例では、ピン避け部69は、外側緩衝部67と補強部68との間に存在する、軸方向他方側にのみ開口する円形の凹孔により構成されている。本例では、ウォーム収容部11に蓋体8、ゴム部材9、および止め輪58を組み付けた状態で、ピン39の軸方向一方側の端部は、ピン避け部69の内側に進入し、ゴム部材9および蓋体8と接触しない。このため、ウォーム収容部11に対する蓋体8およびゴム部材9の組み付け作業がピン39の存在に基づいて阻害されることを回避できる。なお、本開示のウォーム減速機を実施する場合には、
図17(b)に示すように、補強部68を省略することもできる。
【0178】
次に、本例のウォーム減速機1を組み立てる際に、ウォーム収容部11の軸方向一方側の端部の径方向内側、具体的には大径部23の径方向内側に、蓋体8とゴム部材9との結合体である蓋ユニット80、および、止め輪58を組み付ける作業の1例について、
図23(a)~
図25(b)を用いて説明する。
【0179】
なお、蓋ユニット80および止め輪58の組み付け作業を行う際には、予め、
図2、
図3、および
図6に示すように、ウォーム収容部11の内側に、ウォーム4と、支持軸受5と、弾性付勢部材6と、弾性挟持部材7と、ピン39とを組み付けておく。また、必要に応じて、玉軸受15、カップリング17、ウォームホイール3などの他の部品も、ハウジング2の内側に組み付けておく。
【0180】
本例では、ウォーム収容部11の内側に、ウォーム4、支持軸受5、弾性付勢部材6、弾性挟持部材7、およびピン39を組み付けた後、自動組み付け設備81を用いて、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に、蓋ユニット80および止め輪58を組み付ける。
【0181】
自動組み付け設備81は、
ハウジング2を保持可能な、図示しない保持台Hと、
複数の蓋ユニット80が軸方向に積み重ねられた状態で置かれている、図示しない蓋置場S1と、
複数の止め輪58が軸方向に積み重ねられた状態で置かれている、図示しない止め輪置場S2と、
蓋置場S1から1つの蓋ユニット80を取り上げ、ハウジング2のウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に軸方向一方側から挿入する、蓋挿入装置82(
図23(a)および
図23(b)参照)と、
止め輪置場S2から1つの止め輪58を取り上げ、該止め輪58をウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に軸方向一方側から挿入する、止め輪挿入装置83(
図24(a)~
図24(c)参照)と、
止め輪挿入装置83によりウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に挿入された止め輪58の径方向外側部を、係止溝60に係止する、止め輪係止装置84(
図25(a)および
図25(b)参照)と、
を備える。
【0182】
自動組み付け設備81を用いて、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に、蓋ユニット80および止め輪58を組み付ける際には、まず、ハウジング2を保持台Hに保持する。具体的には、
図23(a)に示すように、ハウジング2のウォーム収容部11の軸方向一方側を上側に向けた状態で、該ハウジング2を保持台Hの上面に保持する。
【0183】
次に、蓋挿入装置82により、蓋置場S1から1つの蓋ユニット80を取り上げ、該蓋ユニット80を、保持台Hに保持されたハウジング2のウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に軸方向一方側から挿入する作業を行う(
図23(a)および
図23(b)参照)。
【0184】
蓋置場S1において、複数の蓋ユニット80は、それぞれの外側面(軸方向一方側の側面)を上側に向けた状態で上下方向に同軸に積み重ねられている。
【0185】
蓋挿入装置82は、蓋ユニット80を吸着搬送可能な治具85を備える。
【0186】
さらに、蓋挿入装置82は、治具85を支持し、かつ、治具85を水平方向および上下方向に移動させることが可能な、図示しない移動装置を備える。該移動装置は、たとえば、治具85を水平方向に移動させるリニアガイド、および、治具85を上下方向に移動させるアクチュエータを含んで構成されることや、治具85を水平方向および上下方向に移動させるロボットアームを含んで構成されることができる。
【0187】
蓋ユニット80を挿入する作業を行う際には、まず、蓋挿入装置82の治具85を、蓋置場S1の一番上に積み重ねられている蓋ユニット80の外側面にエア吸着させる。具体的には、治具85を、蓋ユニット80を構成する蓋体8の外径側平板部53の外側面の周方向複数箇所(たとえば、
図5において、δ部で示される4箇所)にエア吸着させる。
【0188】
これにより、蓋ユニット80を治具85により保持した状態で、蓋挿入装置82の移動装置により、治具85および蓋ユニット80を、
図23(a)に示すように、ウォーム収容部11の上方まで搬送する。さらに、蓋ユニット80をウォーム収容部11の大径部23と同軸に配置し、かつ、蓋ユニット80を構成する蓋体8の張出平板部57(
図5参照)の周方向の位相を、大径部23の副大径部41(
図5参照)の周方向の位相に一致させる。
【0189】
次に、治具85および蓋ユニット80を下降させて、
図23(b)に示すように、蓋ユニット80を大径部23の径方向内側に軸方向一方側から挿入する。これにより、蓋ユニット80を構成するシール部61の軸方向の先端面を、ウォーム収容部11のシール当接面25に当接させる。
【0190】
その後、蓋ユニット80の外側面に対する治具85のエア吸着を解除して、該治具85を、ウォーム収容部11の上方まで上昇させ、さらにウォーム収容部11の上方から水平方向に外れた位置に退避させる。
【0191】
次に、止め輪挿入装置83により、止め輪置場S2から1つの止め輪58を取り上げ、該止め輪58を、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に軸方向一方側から挿入する作業を行う(
図24(a)~
図24(c)参照)。
【0192】
止め輪置場S2において、複数の止め輪58は、上下方向に同軸に積み重ねられている。
【0193】
止め輪挿入装置83は、治具86を備える。治具86は、止め輪58を吸着可能な吸着部と、2つの係合爪部87と、押圧部88とを有する。2つの係合爪部87は、止め輪58の2つの係合孔79に軸方向一方側から挿入可能であり、かつ、互いの間隔が拡縮可能となっている。押圧部88は、蓋ユニット80の外側面の中央部(蓋体8の内径側平板部54の外側面)を押圧可能となっている。
【0194】
さらに、止め輪挿入装置83は、治具86を支持し、かつ、治具86を水平方向および上下方向に移動させることが可能な、図示しない移動装置を備える。該移動装置は、たとえば、治具86を水平方向に移動させるリニアガイド、および、治具86を上下方向に移動させるアクチュエータを含んで構成されることや、治具86を水平方向および上下方向に移動させるロボットアームを含んで構成されることができる。
【0195】
止め輪58を挿入する作業を行う際には、まず、止め輪置場S2にて一番上に積み重ねられている止め輪58の2つの係合孔79に、治具86の2つの係合爪部87を軸方向一方側から挿入して係合させるとともに、該止め輪58の外側面に治具86をエア吸着させる。具体的には、本例では、止め輪58の外側面の周方向複数箇所に治具86をエア吸着させる。
【0196】
これにより、止め輪58を治具86により保持した状態で、治具86および止め輪58を、
図24(a)に示すように、ウォーム収容部11の上方まで搬送する。また、この状態で、止め輪58をウォーム収容部11の大径部23と同軸に配置し、かつ、止め輪58の不連続部59(
図5参照)を、大径部23の副大径部41(
図5参照)と異なる周方向位置に配置する。さらに、この状態で、2つの係合爪部87の間隔を狭めて、止め輪58の不連続部59の周方向幅を弾性的に縮めることにより、止め輪58の外径を、ウォーム収容部11の大径部23のうちの主大径部40の内径よりも小さくする。
【0197】
次に、治具86により支持した止め輪58を下降させて、
図24(b)に示すように、止め輪58を主大径部40の径方向内側に軸方向一方側から挿入する。これとともに、治具86の押圧部88により、蓋ユニット80の外側面の中央部を押圧して、蓋ユニット80を構成するシール部61の軸方向の先端面を、ウォーム収容部11のシール当接面25に弾性的に押し付ける。これにより、主大径部40の径方向内側に挿入した止め輪58を、係止溝60よりも軸方向一方側で、できるだけ係止溝60に近い軸方向位置に配置する。
【0198】
次に、2つの係合爪部87の間隔を拡げることで、止め輪58の不連続部59の周方向幅を弾性復元により拡げることにより、止め輪58の外径を弾性復元により拡げて、止め輪58の外周面を、主大径部40の内周面のうち係止溝60よりも軸方向一方側に位置する部分に弾性的に当接させて摩擦係合させる。
【0199】
次に、止め輪58の外側面に対する治具86のエア吸着を解除し、かつ、該治具86を、
図24(c)に示すように、ウォーム収容部11の上方まで上昇させ、これに伴い、止め輪58の2つの係合孔79から治具86の2つの係合爪部87を軸方向他方側に抜き出す。さらに、治具86を、ウォーム収容部11の上方から水平方向に外れた位置に退避させる。
【0200】
次に、止め輪係止装置84を用いて、止め輪挿入装置83によりウォーム収容部11の大径部23(主大径部40)の径方向内側に挿入された止め輪58の径方向外側部を、係止溝60に係止する作業を行う(
図25(a)および
図25(b)参照)。
【0201】
止め輪係止装置84は、止め輪58の外側面を押圧可能な治具89を有する。
【0202】
さらに、止め輪係止装置84は、治具89を支持し、かつ、治具89を水平方向および上下方向に移動させることが可能な、図示しない移動装置を備える。該移動装置は、たとえば、治具89を水平方向に移動させるリニアガイド、および、治具89を上下方向に移動させるアクチュエータを含んで構成されることや、治具89を水平方向および上下方向に移動させるロボットアームを含んで構成されることができる。
【0203】
止め輪58を係止溝60に係止する作業を行う際には、
図25(a)に示すように、治具89をウォーム収容部11の上方に位置させる。
【0204】
そして、この状態から、治具89を下降させて、
図25(b)に示すように、治具89により止め輪58の外側面を押圧して、該止め輪58を係止溝60と同じ軸方向位置まで押し込む。これにより、止め輪58を弾性復元によりさらに拡径させることで、該止め輪58の径方向外側部分を係止溝60に係止する。
【0205】
本例では、この状態で、治具89に備えられた図示しない確認手段により、止め輪58の径方向外側部分が係止溝60に確実に係止されているか否かを確認(判定)する。具体的には、止め輪58の内径が規定値以上になっているか否かを確認(判定)する。より具体的には、確認手段である確認用挿入部が止め輪58の径方向内側に挿入された場合に、止め輪58の内径が規定値以上になっていると判定、すなわち、止め輪58の径方向外側部分が係止溝60に確実に係止されていると判定する。
【0206】
止め輪58の径方向外側部分が係止溝60に確実に係止されていることが確認されたならば、その後、治具89を、ウォーム収容部11の上方まで上昇させ、さらにウォーム収容部11の上方から水平方向に外れた位置に退避させる。
【0207】
ウォーム減速機1の組立ラインにおいて、蓋ユニット80を挿入する作業、止め輪58を挿入する作業、および止め輪58を係止溝60に係止する作業は、それぞれ独立した工程として実施することができる。あるいは、蓋ユニット80を挿入する作業から止め輪58を係止溝60に係止する作業までを1つの工程として実施することもできる。
【0208】
ただし、蓋ユニット80および止め輪58の組み付け作業を、作業員の手作業で行うこともできる。
【0209】
(2)電動パワーステアリング装置
本例の電動パワーステアリング装置70は、
図1に示すように、ステアリングホイール71と、ステアリングシャフト72と、ステアリングコラム73と、1対の自在継手74a、74bと、中間シャフト75と、ステアリングギヤユニット76と、本例のウォーム減速機1および電動モータ12とを備える。
【0210】
ステアリングホイール71は、ステアリングシャフト72の後端部に支持固定されている。ステアリングシャフト72は、車体に支持されたステアリングコラム73の内側に、回転可能に支持されている。ステアリングシャフト72の前端部は、後側の自在継手74aと、中間シャフト75と、前側の自在継手74bとを介して、ステアリングギヤユニット76のピニオン軸77に接続されている。このため、運転者がステアリングホイール71を回転させると、ステアリングホイール71の回転は、ステアリングシャフト72と1対の自在継手74a、74bと中間シャフト75とを介して、ピニオン軸77に伝達される。ピニオン軸77の回転は、ピニオン軸77と噛合した、ステアリングギヤユニット76の不図示のラック軸の直線運動に変換される。この結果、1対のタイロッド78が押し引きされることで、左右の操舵輪にステアリングホイール71の回転操作量に応じた舵角が付与される。
【0211】
本例の電動パワーステアリング装置70は、電動モータ12の補助動力を、ウォーム減速機1により増大してからステアリングシャフト72の前端部に付与することにより、運転者がステアリングホイール71を操作するのに要する力を軽減できるように構成されている。
【0212】
本開示のウォーム減速機を実施する場合には、ステアリングギヤユニットのピニオン軸またはラック軸に補助動力を付与する位置に、ウォーム減速機1および電動モータ12を配置することもできる。
【0213】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例のウォーム減速機について、
図26(a)および
図26(b)を用いて説明する。
【0214】
本例では、蓋体8の内側面に固定されたゴム部材9aは、シール部61の内周部と内側緩衝部62の外周部とを接続するゴム接続部を有していない。すなわち、本例では、シール部61と内側緩衝部62とは、互いに接続されることなく径方向に離隔して配置されている。
【0215】
本例では、蓋体8とゴム部材9bとの結合体である蓋ユニット80aについて、シール部61と内側緩衝部62とが互いに接続されることなく径方向に離隔して配置されているため、シール部61と内側緩衝部62とが互いに影響することを防止できる。このため、シール部61のシール機能と、内側緩衝部62の緩衝機能とを、第1例に比べて向上させることができる。また、ゴム部材9aは、シール部61の内周部と内側緩衝部62の外周部とを接続するゴム接続部を有していないため、その分、ゴム部材9aの材料コストを抑えることができる。第2例に関するその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0216】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例のウォーム減速機について、
図27~
図30を用いて説明する。
【0217】
本例では、蓋体8とゴム部材9bとの結合体である蓋ユニット80bに関して、ゴム部材9bにより蓋体8の表面を覆う範囲が、第1例と異なる。
【0218】
ゴム部材9bは、シール部61と、内側緩衝部62と、ゴム接続部65とに加えて、外側覆い部90を備える。外側覆い部90は、蓋体8の外周面および外側面の外周部を覆っている。
【0219】
外側覆い部90は、外周面覆い部91と、外側面覆い部92とを有する。
【0220】
外周面覆い部91は、蓋体8の外周面である外径側平板部53の外周面に全周にわたり接着されて、該外周面を覆っている。外周面覆い部91の外周面94は、軸方向に伸長する直線状の断面形状を有する。シール部61の径方向外端部の軸方向一方側(
図27、
図28(a)、および
図29の右側)の端部は、外周面覆い部91の軸方向他方側(
図27、
図28(a)、および
図29の左側)の端部に接続されている。シール部61の外周面93の軸方向一方側の端部は、外周面覆い部91の外周面94の軸方向他方側の端部に対し、軸方向他方側を向いた段差面を介することなく、直接接続されている。
【0221】
外側面覆い部92は、蓋体8の外側面の外周部である外径側平板部53の外側面の径方向外側部分に全周にわたり接着されて、該径方向外側部分を覆っている。外側面覆い部92の軸方向他方側の側面は、軸方向に直交する平坦面により構成されている。外側面覆い部92の径方向外端部は、外周面覆い部91の軸方向一方側の端部に接続されている。
【0222】
外周面覆い部91の厚さT91および外側面覆い部92の厚さT92は、ウォーム収容部11に対する蓋ユニット80bの組み付けなどの面で不都合が生じない限り、任意に設定することができる。たとえば、外側面覆い部92の厚さT92は、これに限定されることはないが、0.1mm以上0.2mm以下とすることができる。
【0223】
外側面覆い部92の径方向幅W92は、これに限定されることはないが、止め輪58との接触面積を確保する観点から3mm以上とすることが好ましい。
【0224】
本例では、
図27に示すように、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に、蓋ユニット80bおよび止め輪58を組み付けた状態で、蓋体8の外径側平板部53の外側面は、大径部23に対し、直接接触することなく、外周面覆い部91を介して接触する。このため、金属製の蓋体8の外径側平板部53の外側面と、金属製のハウジング2を構成するウォーム収容部11の大径部23とが直接接触することによる異音の発生を防止できる。
【0225】
また、蓋体8の外径側平板部53の外側面は、止め輪58の径方向内側部分に対し、直接接触することなく、外側面覆い部92を介して接触する。このため、外径側平板部53の外側面と止め輪58の径方向内側部分とが直接接触することによる異音の発生を防止できる。
【0226】
本例のウォーム減速機を組み立てるべく、ウォーム収容部11の大径部23の径方向内側に蓋ユニット80bを軸方向一方側から挿入する際に、仮に、蓋ユニット80bの中心軸と大径部23の中心軸とが僅かにずれている場合には、
図30に示すように、大径部23の軸方向一方側の端縁部に蓋ユニット80bの外周面が接触する。
【0227】
ただし、この際に大径部23の軸方向一方側の端縁部に対して最初に接触するのは、
図30に示すように、蓋ユニット80の外周面のうち、シール部61の外周面93である。ここで、シール部61の外周面93は、軸方向の先端側に向かうにしたがってシール部61の幅が狭くなる方向に傾斜した傾斜面により構成されている。このため、大径部23の軸方向一方側の端縁部に対する蓋ユニット80bの外周面の引っ掛かりを有効に防止することができる。
【0228】
さらに、本例では、蓋ユニット80の外周面のうち、シール部61の外周面93と、その軸方向一方側に隣接する外周面覆い部91の外周面94とは、軸方向他方側を向いた段差面を介することなく、直接接続されている。このため、大径部23の軸方向一方側の端縁部が、シール部61の外周面93と外周面覆い部91の外周面94との接続部に引っ掛かることも有効に防止することができる。
【0229】
また、本例では、
図27に示すように、係止溝60の内面のうち軸方向一方側を向いた側面と大径部23のうち係止溝60の軸方向他方側に隣接する部分との接続部95は、円弧形の断面形状を有するR面取り部により構成されている。このため、大径部23の径方向内側に蓋ユニット80bを軸方向一方側から挿入する際に、蓋ユニット80bの外周縁部が接続部95に引っ掛かりにくくすることができる。第3例についてのその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0230】
本開示のウォーム減速機は、上述した各実施の形態の構造を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0231】
1 ウォーム減速機
2 ハウジング
3 ウォームホイール
4 ウォーム
5 支持軸受
6 弾性付勢部材
7 弾性挟持部材
8 蓋体
9、9a ゴム部材
10 ホイール収容部
11 ウォーム収容部
12 電動モータ
13 ホイール歯
14 ウォーム歯
15 玉軸受
16 出力軸
17 カップリング
18 内輪
19 外輪
20 玉
21 小径円筒面部
22 保持部
23 大径部
24 段差面
25 シール当接面
26 主保持部
27 副保持部
28 係止部
29 平面部
30 円筒面部
31 大凹部
32 小凹部
33 第1傾斜面部
34 第2傾斜面部
35 第1角部
36 第2角部
37 第3角部
38 凹部
39 ピン
40 主大径部
41 副大径部
42 帯板部
43 基板部
44 折り返し板部
45 挟持板ばね
46 周方向接続部
47 第1部分
48 第2部分
49 周方向位置決め片
50 低剛性接続部
51 透孔
52 軸方向位置決め片
53 外径側平板部
54 内径側平板部
55 接続筒部
56 円輪平板部
57 張出平板部
58 止め輪
59 不連続部
60 係止溝
61 シール部
62 内側緩衝部
63 第1シール部
64 第2シール部
65 ゴム接続部
66 欠肉部
67 外側緩衝部
68 補強部
69 ピン避け部
70 電動パワーステアリング装置
71 ステアリングホイール
72 ステアリングシャフト
73 ステアリングコラム
74a、74b 自在継手
75 中間シャフト
76 ステアリングギヤユニット
77 ピニオン軸
78 タイロッド
79 係合孔
80、80a、80b 蓋ユニット
81 自動組み付け設備
82 蓋挿入装置
83 止め輪挿入装置
84 止め輪係止装置
85 治具
86 治具
87 係合爪部
88 押圧部
89 治具
90 外側覆い部
91 外周面覆い部
92 外側面覆い部
93 外周面
94 外周面
95 接続部