(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011551
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】グラフェンの生成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/188 20170101AFI20240118BHJP
【FI】
C01B32/188
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113626
(22)【出願日】2022-07-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年2月25日、第69回 応用物理学会春季学術講演会の予稿集に要約として、“ナノダイヤモンドを炭素源として用いた直接析出成長における昇温中のグラフェン核生成”と題してグラフェンの生成方法に関する研究について公開した。 2022年3月22日、第69回 応用物理学会春季学術講演会において、グラフェンの生成方法に関する研究について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成塚 重弥
(72)【発明者】
【氏名】村橋 知明
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146BA01
4G146BC02
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC37A
4G146BC37B
4G146CB29
(57)【要約】
【課題】再現性よくグラフェンを生成することができるグラフェンの生成方法を提供する。
【解決手段】グラフェンの生成方法は、サファイア基板10の表面に結晶化した金属触媒層11を形成する第1積層工程と、金属触媒層11の表面にナノダイヤモンド13を積層する第2積層工程と、第2積層工程を実行後、サファイア基板10の温度を昇温する昇温工程と、を備え、昇温工程において、サファイア基板10と、金属触媒層11と、の界面にグラフェン14が生成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に結晶化した金属触媒層を形成する第1積層工程と、
前記金属触媒層の表面に炭素原料を積層する第2積層工程と、
前記第2積層工程を実行後、前記基板の温度を昇温する昇温工程と、
を備え、
前記昇温工程において、前記基板と、前記金属触媒層と、の界面にグラフェンが生成される、グラフェンの生成方法。
【請求項2】
前記昇温工程において、前記基板の温度が500℃以上、900℃以下で前記基板と、前記金属触媒層と、の界面に前記グラフェンが生成される、請求項1に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項3】
前記昇温工程において、前記基板の温度が500℃以上、900℃以下に保持される時間は、2分以上である、請求項1又は請求項2に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項4】
前記昇温工程において、前記基板の昇温速度は、50℃/mim以上から180℃/mim以下である、請求項1又は請求項2に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項5】
前記炭素原料は、ナノダイヤモンドである、請求項1又は請求項2に記載のグラフェンの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェンの生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁性を示す基板上に、蒸着により金属触媒の膜パターンを形成し、その膜パターン上にグラフェンを成長させる技術が開示されている。この場合、金属触媒は結晶化している必要がある。このような、結晶化した金属触媒を用いたグラフェンの生成方法において高品質なグラフェンを再現性よく成長させるには、基板と金属触媒の膜との界面にグラフェンの核を安定して形成することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、グラフェンの核を発生させるために、金属触媒の膜における炭素の臨界過飽和度を超えるように設定する必要がある。しかし、高品質なグラフェンを得るべく基板の温度をゆっくりとした速度で降温させる場合には、降温時における過飽和度が大きく上昇することがなく、グラフェンの核が発生するための臨界過飽和度を超えず、グラフェンの成長が開始できないおそれがある。このようなメカニズムによって、従来の手法では、グラフェンの成長の再現性が悪かった。このため、再現性よくグラフェンの成長ができる手法が望まれている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、再現性よくグラフェンを生成することができるグラフェンの生成方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグラフェンの生成方法は、
基板の表面に結晶化した金属触媒層を形成する第1積層工程と、
前記金属触媒層の表面に炭素原料を積層する第2積層工程と、
前記第2積層工程を実行後、前記基板の温度を昇温する昇温工程と、
を備え、
前記昇温工程において、前記基板と、前記金属触媒層と、の界面にグラフェンが生成される。
【0007】
本発明のグラフェンの生成方法は、昇温工程において基板と金属触媒層との界面にグラフェンを生成させることによって、再現性よくグラフェンを生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のグラフェンの生成方法を示す概略図である。
【
図2】30秒のサンプル及び5分のサンプルにおけるサファイア基板の温度変化を示すグラフである。
【
図3】30秒のサンプル及び5分のサンプルの表面の顕微鏡画像、及びこのサンプルの表面の各々をラマン散乱分光法で評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明のグラフェンの生成方法の昇温工程において、基板の温度が500℃以上、900℃以下で基板と、金属触媒層と、の界面にグラフェンが生成され得る。この場合、基板と、金属触媒層と、の界面に、グラフェンをより再現性よく生成することができる。
【0011】
本発明のグラフェンの生成方法の昇温工程において、基板の温度が500℃以上、900℃以下に保持される時間は、2分以上であり得る。この場合、炭素原料を金属触媒層に良好に固溶させることができるので、グラフェンを良好に生成させ易い。
【0012】
本発明のグラフェンの生成方法において、基板の昇温速度は、50℃/mim以上から180℃/mim以下であり得る。この場合、炭素原料を金属触媒層に良好に固溶させることができるので、グラフェンを良好に生成させ易い。
【0013】
本発明のグラフェンの生成方法の炭素原料は、ナノダイヤモンドであり得る。この場合、金属触媒層に炭素を良好に固溶させることができるので、グラフェンをより良好に生成させ易い。
【0014】
次に、本発明を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
先ず、
図1(A)に示すように、基板であるサファイア基板10を用意する。サファイア基板10の外形は、およそ10mm×10mmの正方形である。そして、サファイア基板10を分子線エピタキシー装置のチャンバー内にセットする(図示せず。)。分子線エピタキシー装置は、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)(以下、単にMBE法ともいう)を実行することができる。サファイア基板10はc面((0001)面)が表面(表は
図1における上側である。以下同じ)である。
【0016】
[金属触媒層の生成方法]
次に、
図1(B)に示すように、サファイア基板10の表面に結晶化した金属触媒層11を形成する第1積層工程を実行する。具体的には、サファイア基板10の表面にMBE法を用いて金属触媒であるNiを結晶成長して第1層11Aを積層する。第1層11Aの厚みはおよそ100nmである。このとき、サファイア基板10の温度は、600℃から700℃である。Niの結晶構造は、面心立方構造である。第1積層工程を実行することによって、サファイア基板10の表面に結晶化した第1層11Aを積層することができる。
【0017】
次に、第1層11Aの表面に電子ビーム蒸着法を用いてNiを蒸着して第2層11Bを積層する。第2層11Bの厚みは、およそ300nmである。
【0018】
次に、第1層11Aの表面に第2層11Bを積層した後、熱処理を実行し、第2層11Bを結晶化する。詳しくは、第1層11A及び第2層11Bが積層されたサファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバーから取り出して、熱処理装置内にセットする(図示せず。)。第1層11A及び第2層11Bが積層されたサファイア基板10を水素雰囲気中で1000℃に加熱した状態を30分継続する。その後、3℃/minの速度でサファイア基板10の温度を650℃に降温し、その後、0℃にする。こうして、第2層11Bが結晶化する。こうして、第1層11A及び第2層11Bを有する金属触媒層11を生成する。
【0019】
[グラフェンの生成方法]
次に、
図1(C)に示すように、金属触媒層11の表面に炭素原料であるナノダイヤモンド13を塗布して積層する第2積層工程を実行する。ナノダイヤモンドとは、人工ダイヤモンドの一種であり、粒径がおよそ2nmの粒子状をなしている。ナノダイヤモンドは、準安定なsp
3結合構造を有しており、安定なsp
2結合構造を有する他の炭素原料を用いる場合に比べてより低温でグラフェンを生成することができる。ナノダイヤモンド13は、水溶液中に分散され、金属触媒層11の表面にスピンコーターを用いて塗布される。金属触媒層11の表面にナノダイヤモンド13を塗布する際におけるスピンコーターの回転速度及び回転させる時間は、例えば、6000rpm、30秒間である。
【0020】
次に、
図1(D)に示すように、第2積層工程を実行後、サファイア基板10の温度を昇温してサファイア基板10と金属触媒層11との界面にグラフェン14が生成される昇温工程を実行する。具体的には、金属触媒層11の表面にナノダイヤモンド13が塗布されたサファイア基板10を熱処理装置内にセットする(図示せず。)。そして、サファイア基板10をセットした状態で熱処理装置内をおよそ10
-4Paの気圧にする。
【0021】
そして、
図2(B)に示すように、温度が0℃のサファイア基板10を5分かけて900℃に昇温する。この時の昇温速度は、およそ180℃/minである。そして、サファイア基板10の温度をおよそ900℃にする。このとき、ナノダイヤモンド13のC(炭素)が金属触媒層11に固溶し、溶解固溶したCがサファイア基板10と金属触媒層11との界面にグラフェン14として析出する(
図1(D)参照)。そして、サファイア基板10の温度をおよそ30分間、900℃に保持して、熱処理を施す。その後、3℃/minの速度でサファイア基板10の温度を0℃に降温する。
【0022】
次に、
図1(E)に示すように、サファイア基板10から金属触媒層11を除去するエッチング工程を実行する。詳しくは、サファイア基板10を熱処理装置内から取り出して塩化第二鉄と純水とを1対3の割合で混合した溶液に72時間浸す。これによって、サファイア基板10から金属触媒層11及びナノダイヤモンド13を除去する。こうして、サファイア基板10の表面の全面にわたり生成されたグラフェン14の表面を露出させる。
【0023】
[昇温工程における温度上昇の度合いについて]
実施例1のグラフェンの生成方法の昇温工程におけるサファイア基板10の温度上昇の度合いについて検証した結果について説明する。昇温工程におけるサファイア基板10の温度上昇の度合いを2種類に変化させて第1積層工程からエッチング工程までを実行した2種類のサンプルを用意した。各サンプルは、昇温工程におけるサファイア基板10の温度上昇の度合いを180℃/mim(すなわち、5分間かけて900℃に昇温)、1800℃/mim(すなわち、30秒間(0.5分間)かけて900℃に昇温)として作製した。以下、各サンプルを、単に5分のサンプル、及び30秒のサンプルという。
【0024】
30秒のサンプルは、
図2(A)に示すように、30秒間(0.5分間)かけて900℃に昇温した後、サファイア基板10の温度を30分間、900℃に保持し、その後3℃/minの速度でサファイア基板10の温度を0℃に降温させた。
【0025】
これら2種類のサンプルを光学顕微鏡で観察した結果を
図3(A)、(C)に示す。5分のサンプル(
図3(C)参照)は、サファイア基板10の表面に三角形状を特徴としたグラフェン14が複数形成されている。これに対して、30秒のサンプル(
図3(A)参照)は、サファイア基板10の表面にグラフェンが形成されていないように見受けられる。
【0026】
次に、これら2種類のサンプルについてラマン散乱分光法で評価した結果を
図3(B)、(D)に示す。ラマン散乱分光法は、グラフェンの評価において一般的に用いられている。グラフェンは、Dピーク、Gピーク、及び2Dピークの3種類のラマンピークを基にして評価することができる。Dピークは、グラフェンの構造欠陥、及びグラフェンのエッジに由来するピークである。Gピークは、グラフェンの面内における伸縮の振動、及びsp
2結合に由来するピークである。2Dピークはグラフェンのバンド間遷移を含む多段遷移に関係するピークである。なお、ラマン散乱分光法を用いてグラフェンを評価した結果において、Gピーク及び2Dピークが出現している場合、グラフェンが生成されていることを示す。また、Gピーク及び2Dピークのそれぞれのピークの大きさを比べることによって生成されたグラフェンの積層された層数に関する知見を得ることができる。
【0027】
図3(D)(5分のサンプル)の評価結果は、
図3(C)における十字印部分における測定結果である。
図3(D)に示すように、5分のサンプルの評価結果は、Dピーク、Gピーク、及び2Dピークが明瞭に現れており、グラフェン14が形成されていることを示していることがわかった。これに対して、
図3(B)(30秒のサンプル)の評価結果は、
図3(A)における十字印部分における測定結果である。
図3(B)に示すように、30秒のサンプルの評価結果は、Dピーク、Gピーク、及び2Dピークが明瞭に現れておらず、グラフェン14が形成されていないことがわかった。
【0028】
したがって、昇温工程におけるサファイア基板10の温度上昇の度合いを180℃/mim(すなわち、5分間かけて900℃に昇温)とすることによって、サファイア基板10の表面にグラフェン14を良好に形成できることがわかった。
【0029】
実施例1のグラフェンの生成方法では、グラフェン14の高品質化のために金属触媒層11におけるNiを結晶化させている。このため、粒界拡散を抑制することが可能であるとともに、粒界付近でのグラフェンの生成も抑制される。このため、金属触媒層11とサファイア基板10との界面におけるグラフェンの生成のきっかけとなるものの生成が抑制されることになる。よって、金属触媒層11とサファイア基板10との界面におけるグラフェン14の成長のためには、この界面でのグラフェンの核(きっかけとなるもの)の生成が必須である。
【0030】
例えば、昇温工程でグラフェンの核を生成させるためにナノダイヤモンド13を炭素原料として使用する場合、ナノダイヤモンド13と金属触媒層11との間に、高品質のグラフェン層を形成させないことが大きなポイントとなる。実際に金属触媒層11の表面にしっかりした高品質の(孔等の欠陥のない)グラフェン層が形成されると、このグラフェン層によってナノダイヤモンド13と金属触媒層11との接触が遮断され、ナノダイヤモンド13が金属触媒層11に溶解することが妨げられ、その結果、ナノダイヤモンド13が炭素原料として機能し難くなってしまう。
【0031】
一方、低品質で孔等の欠陥が多いグラフェン層や、アモルファスカーボン層をナノダイヤモンド13と金属触媒層11の間に形成するだけなら、サファイア基板10を所定の高温(900℃、30分間)で熱処理している間にも、金属触媒層11中にナノダイヤモンド13が溶解し続けることが可能と思われる。この場合、ナノダイヤモンド13は、サファイア基板10と金属触媒層11との界面にグラフェン14を生成させるための炭素原料として機能する。よって、昇温工程における所定期間、サファイア基板10の温度を0℃と所定の高温(900℃)との間の中間の温度で保持する必要があり、この条件が今回の発明のポイントとなる。
【0032】
例えば、中間の温度は、500℃から900℃である。実施例1の昇温工程において、サファイア基板10の温度が0℃から中間の温度の下限の温度500℃に到達するまでの時間はおよそ2.8分である。そして、昇温工程において、サファイア基板10の温度が500℃から900℃に到達するまでの時間はおよそ2.2分である。言い換えると、昇温工程において、サファイア基板10が中間の温度(500℃以上、900℃以下)に保持される時間は2.2分(2分以上)である。つまり、サファイア基板10の温度をこの温度範囲(500℃から900℃)に保持する時間は、2分以上である。より好ましい中間の温度は、500℃から750℃である。そして、サファイア基板10の温度をこの温度範囲(500℃から750℃)に保持する時間を2分以上、5分以下とすることが好ましい。これ以上の時間この中間の温度にサファイア基板10の温度が保たれるとグラフェンの核ばかりか品質の劣るグラフェン層が金属触媒層11とサファイア基板10との界面に生成してしまうおそれがある。
【0033】
昇温工程において、サファイア基板10の温度を500℃から750℃の温度に2分保持する場合における昇温速度は、(750-500)/2=125℃/minである。また、昇温工程において、サファイア基板10の温度を500℃から750℃の温度に5分保持する場合における昇温速度は、(750-500)/5=50℃/minである。すなわち、昇温工程において、サファイア基板10の昇温速度は、50℃/mim以上、180℃/mim以下であることが好ましく、50℃/mim以上、125℃/mim以下であることがより好ましい。
【0034】
5分のサンプルは、2分以上サファイア基板10の温度を中間の温度に保持することによって、昇温工程を実行している最中にグラフェンの核がサファイア基板10と金属触媒層11との界面に形成され、その結果、サファイア基板10の温度を所定の高温(900℃)から降温する速度をゆっくり(3℃/min)としてもグラフェン14の生成が良好に行われたものと考えらえる。
【0035】
これに対して、昇温工程におけるサファイア基板10の温度上昇の度合いを1800℃/mim(すなわち、30秒間かけて900℃に昇温)とすると、ナノダイヤモンド13と金属触媒層11との間にグラフェン層が生成し、これによって、サファイア基板10に対して900℃で30分間の熱処理を施しても、金属触媒層11にナノダイヤモンド13からC(炭素)が固溶することが妨げられ、その結果、サファイア基板10の表面にグラフェン14が形成されなかったものと考えられる。この場合における、サファイア基板10の温度が0℃から中間の温度の下限の温度500℃に到達するまでの時間はおよそ0.28分である。そして、サファイア基板10の温度が500℃から900℃に到達するまでの時間はおよそ0.22分である。言い換えると、30秒のサンプルにおいて、サファイア基板10が中間の温度(500℃から900℃)に保持される時間は、0.22分である。
【0036】
次に、上記実施例における効果を説明する。
本発明のグラフェンの生成方法は、サファイア基板10の表面に結晶化した金属触媒層11を形成する第1積層工程と、金属触媒層11の表面にナノダイヤモンド13を積層する第2積層工程と、第2積層工程を実行後、サファイア基板10の温度を昇温する昇温工程と、を備え、昇温工程において、サファイア基板10と、金属触媒層11と、の界面にグラフェン14が生成される。この構成によれば、昇温工程においてサファイア基板10と金属触媒層11との界面にグラフェン14を生成させることによって、サファイア基板10と金属触媒層11との界面にグラフェン14を再現性よく生成し易い。
【0037】
本発明のグラフェンの生成方法の昇温工程において、サファイア基板10の温度が500℃以上、900℃以下でサファイア基板10と、金属触媒層11と、の界面にグラフェン14が生成される。この構成によれば、サファイア基板10と、金属触媒層11と、の界面に、グラフェン14をより再現性よく生成することができる。
【0038】
本発明のグラフェンの生成方法の昇温工程において、サファイア基板10の温度が500℃以上、900℃以下に保持される時間は、2分以上である。この構成によれば、炭素原料を金属触媒層11に良好に固溶させることができるので、グラフェン14を良好に生成させ易い。
【0039】
本発明のグラフェンの生成方法において、サファイア基板10の昇温速度は、50℃/mim以上から180℃/mim以下である。この構成によれば、炭素原料を金属触媒層11に良好に固溶させることができるので、グラフェンを良好に生成させ易い。
【0040】
本発明のグラフェンの生成方法の炭素原料は、ナノダイヤモンド13である。この構成によれば、金属触媒層11に炭素を良好に固溶させることができるので、グラフェン14をより良好に生成させ易い。
【0041】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、塩化第二鉄と純水との溶液を用いてエッチングしているが、これに限らず、硝酸、硫酸、塩酸、過酸化水素水、及びこれらの酸の混合液を用いてエッチングしても良い。また、グラフェンがサファイア基板と金属触媒層との界面に生成された後に、金属触媒層を機械的に剥離しても良い。
(2)実施例1では、c面((0001)面)を表面にしたサファイア基板を用いているが、これに限らず、酸化ガリウム等を用いても良い。
(3)実施例1では、金属触媒層にNiを用いているが、これに限らず、Cu、Co、Fe、Mn、W、Re、Os、Ir、Pt、Au等の遷移金属を含む他の金属を用いても良い。もちろん、AuNi、NiCuなどの合金を用いても良い。
(4)実施例1では、炭素原料としてナノダイヤモンドを用いているが、これに限らず、アモルファスカーボン等の他の炭素原料を用いてもよい。
(5)実施例1では、MBE法を用いているが、結晶化した金属触媒層を形成し得る他の方法を用いてもよい。例えば気相成長方法によって金属触媒層を形成しても良い。
(6)金属触媒層の厚みは、実施例1の厚みに限らない。
(7)本特許の趣旨を越えない範囲であれば、析出する2次元材料はグラフェンだけに限定するものではなく、MoS2、MoTe2、WS、Mo1-xWxS2、FeTiS2、TaSe2、BN、WTe2などの他の2次元材料であって良い。もちろん、これらの2次元材料を層状に重ねた多層構造であっても良い。
【符号の説明】
【0042】
10…サファイア基板(基板)
11…金属触媒層
13…ナノダイヤモンド(炭素原料)
14…グラフェン