(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115511
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】短繊維補強コンクリート部材の製造方法および短繊維補強コンクリート部材
(51)【国際特許分類】
B28B 13/02 20060101AFI20240819BHJP
B28B 1/093 20060101ALI20240819BHJP
B28B 1/52 20060101ALI20240819BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240819BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20240819BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20240819BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B28B13/02
B28B1/093
B28B1/52
C04B28/02
C04B14/38
C04B16/06
C04B20/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202373
(22)【出願日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2023020425
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理
(72)【発明者】
【氏名】竹山 忠臣
【テーマコード(参考)】
4G052
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G052GA02
4G052GA11
4G052GB25
4G055AA01
4G055AB00
4G055AC00
4G055CA23
4G055CA26
4G112PA15
4G112PA24
4G112PE02
(57)【要約】
【課題】
短繊維補強コンクリート部材の繊維の配向矯正を行った短繊維補強コンクリート部材の製造方法および短繊維補強コンクリート部材を提案する。
【解決手段】
短繊維を混入したコンクリートを型枠に打設する打設工程と、打設直後のコンクリートの隅角部に治具を挿入することで短繊維の配向を矯正する配向矯正工程と、備えた短繊維補強コンクリート部材の製造方法であって、治具は、リング形状の底部と、前記底部中心から上方に延びる棒状の把持部と、を備えており、配向矯正工程では、治具の底部をコンクリート上面から挿入し、把持部を周方向に回転させる、ことを特徴とする短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維を混入したコンクリートを型枠内に打設する打設工程と、
打設直後のコンクリート中の短繊維の配向を矯正する配向矯正工程と、備えた短繊維補強コンクリート部材の製造方法であって、
前記配向矯正工程では、前記コンクリート中に治具を挿入して移動または回転させることを特徴とする、短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
前記治具は、リング形状の底部と、前記底部の中心から上方に延びる棒状の把持部と、を備えており、
前記配向矯正工程では、打設直後のコンクリートの隅角部に前記治具の底部をコンクリート上面から挿入し、前記把持部を周方向に回転させる、ことを特徴とする請求項1に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項3】
前記治具の前記底部は、2つの半円状の開口部を有し、当該半円状の半径が短繊維の長さよりも大きいことを特徴とする、請求項2に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項4】
前記治具は、螺旋状の旋回部を備えていることを特徴とする、請求項2に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項5】
前記治具は、複数の爪を有する挿入部を備えており、
前記打設工程では、複数個所からコンクリートを打ち込み、
前記配向矯正工程では、複数個所から打込まれたコンクリート同士の合流部に前記挿入部を挿入するとともに前記合流部を横切るように前記挿入部を移動させることを特徴とする、請求項1に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
前記治具は、バイブレータに固定されており、
前記配向矯正工程では、前記挿入部に振動を与えながら移動させることを特徴とする、請求項5に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項7】
隣り合う前記爪同士の間隔が前記短繊維の長さよりも大きいことを特徴とする、請求項5に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の短繊維補強コンクリート部材の製造方法により製造されて硬化した、短繊維補強コンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維補強コンクリート部材の製造方法および短繊維補強コンクリート部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、繊維補強コンクリートあるいは繊維補強モルタル内で様々な方向に向いていた繊維の配向を一方向に矯正することでコンクリート部材の引張抵抗性を増加させる技術として、力伝達力部材と枠部材を備えた配向装置を力伝達力部材の軸方向に移動させる技術が開示されている。
【0003】
なお、短繊維補強コンクリートによるコンクリート部材の施工では、せき板効果により、型枠近傍において繊維が型枠面に平行に配向しやすいということが知られている(非特許文献1)。また、打込み位置を変えて複数位置から短繊維補強コンクリートを打ち込んで一つのコンクリート部材を形成する場合には、コンクリート同士の合流部が生じるが、合流部では繊維が不連続になり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小倉大季他2名、「短繊維の配向に伴う繊維補強セメント系材料の曲げ特性のばらつき」、2014年、コンクリート工学年次論文集、Vol.36、No.1、p.280-285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法は、一方向にしか繊維の配向を矯正できないため、床板などのコンクリート部材の隅角部において、せき板効果により型枠近傍に配向した繊維を矯正することはできない。また、繊維が一方向に偏ってしまうと、コンクリート部材が決まった方向にしか抵抗できないおそれがある。
【0007】
また、コンクリート部材に短繊維の不連続な部分が生じると、この部分が弱部になるおそれがあるため、補強材を配置する必要があるが、補強部材の配置には手間と費用が掛かる。また、コンクリート同士の合流部における繊維の配向の矯正方法は確立されていない。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、短繊維補強コンクリート部材の繊維の配向矯正を行った短繊維補強コンクリート部材の製造方法および短繊維補強コンクリート部材を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、本発明の短繊維補強コンクリート部材の製造方法は、短繊維を混入したコンクリートを型枠内に打設する打設工程と、打設直後のコンクリート中の短繊維の配向を矯正する配向矯正工程とを備えている。前記配向矯正工程では、前記コンクリート中に治具を挿入して移動または回転させることで短繊維の配向を矯正する。また、本発明の短繊維補強コンクリート部材は、前記短繊維補強コンクリート部材の製造方法により得られるものである。
【0010】
前記治具が、リング形状の底部と、前記底部の中心から上方に延びる棒状の把持部と、を備えている場合は、前記配向矯正工程において打設直後のコンクリートの隅角部に前記治具の底部をコンクリート上面から挿入し、前記把持部を周方向に回転させることで、せき板効果により型枠の四隅で短繊維が一方向を向いてしまうことを矯正することができる。
【0011】
前記治具の前記底部は、2つの半円状の開口部を有し、当該半円状の半径は、短繊維の長さよりも大きくすることが好ましい。さらに、前記治具は、螺旋状の旋回部を備えていてもよい。こうすることで、治具をコンクリートに挿入する際に、短繊維が開口部を通過するため、コンクリート底部に短繊維が移動することを防止することができる。
【0012】
前記打設工程において複数個所からコンクリートを打ち込み、複数個所から打ち込まれたコンクリート同士の合流部が形成される場合には、前記配向矯正工程では合流部に治具を挿入するとともに前記合流部を横切るように前記治具を移動させればよい。このとき、前記治具には、複数の爪を有する挿入部を備えたものを使用すればよい。こうすることで、コンクリート同士の合流部において、短繊維の配向を矯正し、コンクリート同士の境界部に跨って短繊維を横架させることができる。
【0013】
前記治具は、バイブレータに固定されている場合には、前記配向矯正工程において前記挿入部に振動を与えながら移動させることで、短繊維の配向の矯正がより効率的に行われる。なお、隣り合う前記爪同士の間隔は、前記短繊維の長さよりも大きくすることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の短繊維補強コンクリート部材の製造方法によれば、短繊維補強コンクリートの短繊維の配向を矯正することが可能となり、ひいては、短繊維が一方向のみに向いてしまうことや短繊維の不連続箇所が形成されることを防止し、高品質の短繊維補強コンクリート部材を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法におけるコンクリートの打設状況を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図3】本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法における短繊維の配向状況を示す図であって、矯正前の隅角部の短繊維の配向状況を示す平面である。
【
図4】本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法における短繊維の配向状況を示す図であって、矯正後の隅角部の短繊維の配向状況を示す平面である。
【
図5】本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法における短繊維の配向を矯正する治具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は底面図である。
【
図8】実施例1で得られた硬化後の短繊維補強コンクリート部材の隅角部における可視化画像である。
【
図10】実施例2の実験の概要を示す正面図であって、(a)はコンクリート打ち込み状況、(b)はコンクリート仕上げ状況、(c)は繊維の配向矯正状況である。
【
図11】コンクリートの敷き均し状況を示す側面図である。
【
図12】試験体の切り出し位置を示す平面図である。
【
図13】(a)~(d)は試験体B1~B4の可視化画像である。
【
図14】(a)~(d)は試験体B5~B9の可視化画像である。
【
図15】(a)~(d)は試験体B9~B12の可視化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法について説明する。
本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法は、
図1に示すとおり、短繊維を混入したコンクリートを型枠内に打設する打設工程S11と、治具を利用して打設直後のコンクリート中の短繊維の配向を矯正する配向矯正工程S12と、備える。また、以下では、本実施形態に係る短繊維補強コンクリート部材の製造方法の対象として、道路橋床版の更新を例に挙げて説明する。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0017】
(打設工程)
打設工程では、
図2に示すように短繊維11を混入した短繊維補強コンクリート1を型枠12に打設する。本実施形態では、矩形状の型枠に対して複数個所からコンクリートを打ち込むものとする。打ち込まれたコンクリートは、打ち込み箇所を中心に円形に広がる。そして、打ち込み箇所中央位置を平面振動機で振動させ、スコップなどで型枠12の端部や四隅へ広げる。その後、コンクリート表面をフニッシャーにより仕上げる。
【0018】
次に、打設工程で型枠に打設する短繊維が混入された短繊維補強コンクリートについて説明する。
本実施形態に係る短繊維補強コンクリートは、結合材、細骨材、粗骨材、混和剤、繊維、水等を含む。
【0019】
結合材としては、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメ
ント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント(A~C
種)、フライアッシュセメント(A~C種)、シリカセメント(A~C種)、エコセメン
ト等から選択される1種以上を用いることができる。
【0020】
細骨材としては、特に限定されず、山砂、川砂、海砂、砕砂、硅砂、石灰砂等から選択
される1種以上を用いることができる。
粗骨材としては、特に限定されず、山砂利、川砂利、海砂利等から選択される1種以上
を用いることができる。
混和剤としては、従来公知の材料を使用すればよく、例えば、分離低減剤、減水剤、消
泡剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、AE剤、AE減水剤等を用いることができる。
【0021】
繊維としては、金属繊維、有機繊維、又は有機繊維と金属繊維とを混ぜ合わせた複合繊維のいずれかを混入することができる。金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維等である。有機繊維としては、炭素繊維、PVA繊維やアラミド繊維などの合成繊維である。なお、シリカ繊維やバサルト繊維等の無機繊維を混入することもできる。繊維には、径が数十μm~数百μmの範囲内、長さが60mm以下のものを使用する。また、繊維混入率は、0.05~5.0vol.%の範囲内とする。
水としては、特に限定されず、水道水、スラッジ水等を用いることができる。
【0022】
(配向矯正工程)
配向矯正工程では、短繊維を混入したコンクリートを型枠に打設した直後に、治具を利用してコンクリート中の短繊維の配向を矯正する。例えば、略四角形に囲まれた型枠12の場合、せき板効果により4隅の隅角部13では、短繊維11が型枠面に沿って一方向に向いてしまうことがある。また、異なる位置からコンクリートを打ち込むと、コンクリート同士の合流部が形成されるが、コンクリート同士の合流部では、短繊維の不連続な部分が生じる。本実施形態では、隅角部13において短繊維の配向を矯正する隅角部配向矯正作業と、コンクリート同士の合流部において短繊維の配向を矯正する合流部配向矯正作業とを行う。
【0023】
(隅角部配向矯正作業)
隅角部配向矯正作業では、
図3に示す隅角部13に治具2(
図5参照)を挿入することで、短繊維の配向を矯正する。具体的には、後述する治具2の底部3をコンクリート上面から挿入し、把持部41を周方向に回転させる。
図4に示すように、コンクリートが繊維と一緒に回転するため、型枠面に対して平行に配向していた短繊維の向きを矯正することができる。
【0024】
治具2は、
図5(a)、(b)に示すように、リング形状の底部3と、前記底部3中心から上方に延びる棒状の棒状部材4と、を備えている。そして、棒状部材4の先端には把持部41が設けられている。また、
図5(b)に示すように、底部3は、円形でリング状の円周部31と、円周部31を2つの半円状に仕切る仕切り部32と、円周部31と仕切り部32との間に形成される開口部33とで構成される。仕切り部32の中心に棒状の棒状部材4が固定されている。さらに、
図5(a)に示すように、螺旋状の旋回部42が設けられている。なお、材質は、特に限定されないが、ステンレス製や鋼製など硬化前のコンクリートに挿入しても壊れない材質が好ましい。
【0025】
本実例では、円周部31の外径が60mm、内径が55mmで、仕切り部32の幅が10mmを使用した。すなわち、開口部33における半円状の半径Rが22mm程度となる。この半径Rが短繊維よりも大きいことが好ましい。
【0026】
(合流部配向矯正作業)
合流部配向矯正作業では、コンクリート同士の合流部14に合流部矯正治具5を挿入するとともに移動させることで、短繊維の配向を矯正する。
【0027】
図6に合流部矯正治具5を示す。合流部矯正治具5は、
図6に示すように、複数の爪53,53,…を有する櫛状の挿入部51と、挿入部51を支持するとともにバイブレータ6に固定される支持部52を備えている。本実施形態の挿入部51は、複数本のL字状の棒材からなる。爪53は、棒材の先端部を折り曲げることにより形成されている棒材は、支持部52から放射状に延設されている。隣り合う爪53同士の間隔(棒材の先端部同士の間隔)は、コンクリートに含まれる短繊維の長さよりも大きい。なお、合流部矯正治具5の構成は、複数の爪53を有していれば限定されるものではなく、例えば、複数の爪53,53,…が平行に並設された櫛状の部材を備え、櫛状の部材と支持部52とがT字状に形成されたものであってもよい。
【0028】
合流部配向矯正作業では、挿入部51をコンクリートに挿入す41るとともに、バイブレータ6を作動させて挿入部51に振動を与えながら合流部14を横切るように挿入部51を移動させる。挿入部51を移動させると、コンクリートが挿入部51の移動方向に沿って流動するため、合流部14において短繊維がコンクリート同士の境界に跨るように配置されるようになる。また、挿入部51をバイブレータ6により振動させながら移動させるため、粘性が高い短繊維補強コンクリートであっても、短繊維を移動させやすく配向矯正の作業性が向上する。また、爪53同士の間隔が短繊維の長さよりも大きいため、短繊維が爪53に絡んで引きずられてしまうことを抑制できる。
【0029】
次に、本実施形態の短繊維補強コンクリート部材の製造方法の短繊維の配向を確認するために実施した実験結果を示す。
(実施例1)
図7は、実施例1の実験の概要を示す図である。本実験では、縦1000mm、横1000mm、深さ40mmの型枠に短繊維を混入したコンクリートを打設して、短繊維の配向矯正の効果を確認した。
表1に実施例に係る短繊維補強コンクリートの配合例を示す。
なお、表中の各成分等は以下のとおりである。
W(水):上水道
B(結合材):ポルトランドセメント、ポゾラン材等から構成される市販のプレミックス品
S(骨材):粒径2.5mm以下に調整された市販のプレミックス品
F(鋼繊維):長さ15mm、直径0.2mm、アスペクトル比75、引張強度2000N/mm
2以上
SP(高性能減水剤)
AC(空気量調整剤)
【0030】
【0031】
次に、本実験に使用した試験体の製作方法について説明する。
打込み位置Pを縦1000mm、横1000mm、深さ40mmの型枠の中心に固定して、短繊維を混入したコンクリートを打設した。次に、平板振動機とスコップにより型枠端部や四隅(隅角部)にコンクリートが充填されるようにした。その後、フィ二ッシャーにより、型枠端部や四隅(隅角部)から仕上げる。その後、隅角部について、治具2の底部3をコンクリート上面から挿入し、把持部41を周方向に1回転させた。
そして、治具2による隅角部の短繊維配向矯正の状況を確認した。
【0032】
まず、コンクリート硬化後について、
図7に示す隅角部の一部について、コンクリートカッターで切断して、試験体Aを作成した。試験体Aのサイズは、幅40mm、長さ160mm、深さ40mmである。そして、試験体Aについて、X線CTスキャンにより繊維の配向状況を確認した。
【0033】
図8は、硬化後の短繊維補強コンクリート部材の隅角部における可視化画像である。配向矯正後は、短繊維の向きがランダムに配向していることが確認できた。
【0034】
(実施例2)
実施例2では、コンクリートの合流部における短繊維の配向を確認するための実験を行った。
図9は実施例2の実験の概要を示す図である。実施例2では、縦1000mm、横3000mm、深さ40mmの型枠12に短繊維を混入したコンクリート(短繊維補強コンクリート)を打ち込んで、短繊維の配向矯正を行った試験体の短繊維の配向状況を確認した。実施例2で使用した短繊維補強コンクリートの配合は、実施例1で使用したものと同様とした。
【0035】
実施例2の試験体の作成手順を示す。まず、
図9に示すように、型枠12に対して1m毎に設けた3か所の打ち込み位置P1,P2,P3からコンクリートCを打ち込んだ。具体的には、まず、型枠の左端から500mmの位置(打ち込み位置P1)にコンクリートCを打込み、次に、型枠の中央(打ち込み位置P2)にコンクリートCを打込み、最後に型枠の右端から500mmの位置(打ち込み位置P3)にコンクリートCを打ち込んだ。
図10にコンクリートCの打設状況を示す。コンクリートCは、
図10(a)に示すように、型枠の上端よりも高く打ち込む。
【0036】
図11に示すように、打込んだコンクリートCを平板振動機Vと敷き均し具S(例えば、スコップや熊手等)により敷き均すことで、型枠12の端部(側部)や四隅(隅角部)にコンクリートが充填されるようにした。その後、
図10(b)に示すように、フィニッシャーFを利用して、型枠12の端部から仕上げた。
【0037】
続いて、
図10(c)に示すように、合流部矯正治具5を、合流部14(型枠の長手方向の端部から1mの位置)を横断するように移動させて、合流部14におけるコンクリートCをかき乱す作業を行った。なお、合流部矯正治具5を利用した配向矯正は、合流部14の一部(
図12の領域Q1,Q2参照)のみで実施した。
【0038】
養生後のコンクリート硬化体のコンクリート同士の合流部(型枠の長手方向の端部から1mの位置)付近から試験体を切り出し、当該試験体について、X線CTスキャンにより繊維の配向状況を確認した。
図12に試験体の切り出し位置を示す。試験体は、
図12に示すように、左右2箇所の合流部14それぞれ6体ずつ、合計12体採取した。第一合流部から得た試験体を図面の上側から試験体B1~B6とし、第二合流部から得た試験体を図面の上側から試験体B7~B12とした。試験体Aのサイズは、幅40mm、長さ160mm、深さ40mmである。試験体B5~B8については、配向矯正が実施された領域Q1,Q2から採取したものである。
【0039】
図13~
図15に、試験体B1~B12の可視化画像を示す。
図14(a)~(d)に示すように、配向矯正後の試験体B5~B8では、合流部14を横断するように配向された短繊維の向きが矯正されていることが確認できた。一方、配向矯正を行っていない試験体B1~B4、B7~12は、
図13(a)~(d)および
図15(a)~(d)に示すように、短繊維の向きが合流部14に沿って配向されているのが多い傾向となった。したがって、合流部矯正治具を利用した短繊維の配向矯正により、コンクリート合流部における短繊維の配向矯正が実現され、高品質の短繊維補強コンクリート部材が製造可能であることが確認できた。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 短繊維補強コンクリート
11 短繊維
12 型枠
13 隅角部
14 合流部
2 治具
3 底部
31 円周部
32 仕切り部
33 開口部
4 棒状部材
41 把持部
42 旋回部
5 合流部矯正治具
51 挿入部
52 支持部
53 爪
6 バイブレータ