(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115513
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】静電塗装用スプレーガン
(51)【国際特許分類】
B05B 5/025 20060101AFI20240819BHJP
B05B 7/06 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B05B5/025 A
B05B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212083
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023020827
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴仁
【テーマコード(参考)】
4F033
4F034
【Fターム(参考)】
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB12Y
4F033QB18
4F033QD02
4F033QD21
4F033QD24
4F033QE11
4F033QE12
4F033QE13
4F033QE16
4F033QE19
4F034AA04
4F034BA02
4F034BA15
4F034BB07
4F034BB13
4F034BB16
4F034BB28
(57)【要約】
【課題】作業者や周囲環境への塗料の飛散を抑制できる静電塗装用スプレーガンを提供する。
【解決手段】静電塗装用スプレーガンは、本体部と、本体部の先端に設けられ、塗料を噴出するための塗料噴出口を有するノズルと、塗料噴出口から噴出された塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部と、高電圧発生部が発生した高電圧が印加される荷電電極と、アース接続され、ノズルの径方向外側に位置し荷電電極との間に電界を発生させるアース電極と、を備える。アース電極は、荷電電極との間に電界を集中させやすい形状に形成されて塗料噴出口よりも静電塗装用スプレーガンの先端側に所定距離離れた位置に設けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部の先端に設けられ、塗料を噴出するための塗料噴出口を有するノズルと、
前記塗料噴出口から噴出された前記塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部と、
前記高電圧発生部が発生した前記高電圧が印加される荷電電極と、を備える静電塗装用スプレーガンであって、
アース接続され、前記ノズルの径方向外側に位置し前記荷電電極との間に電界を発生させるアース電極、を備え、
前記アース電極は、前記荷電電極との間に電界を集中させやすい形状に形成されて前記塗料噴出口よりも前記静電塗装用スプレーガンの先端側に所定距離離れた位置に設けられる、
静電塗装用スプレーガン。
【請求項2】
前記所定距離は、0mmより大きくかつ45mm以下である、
請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記ノズルの外周部に設けられ、前記塗料噴出口から噴出された前記塗料に対して外部のエア供給源から供給された圧縮空気を噴出するためのエア噴出口を有するエアキャップを更に備え、
前記アース電極は、前記エアキャップの径方向外側であってかつ前記荷電電極と前記エア噴出口とを結んだ直線上に設けられる、
請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項4】
前記アース電極は、抵抗体を介してアース接続されている、
請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項5】
前記荷電電極と前記アース電極とが対向する部分に設けられ、前記荷電電極から前記アース電極への空気の流れを遮る遮蔽部を更に備え、
前記遮蔽部の先端部は、前記アース電極の先端部よりも前記静電塗装用スプレーガンの先端側に位置している、
請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静電塗装用スプレーガンに関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装は、例えば作業者が直接操作する静電塗装用スプレーガンから噴出した塗料を、静電引力によって例えば自動車の車体等の被塗物に塗着させることで、被塗物を塗装する塗装方法である。通常、静電塗装では、被塗物はアースに接続されて正極に設定され、静電塗装用スプレーガンは負極に設定されるとともに、これら被塗物と静電塗装用スプレーガンとの間に高電圧が印加されて静電界が形成される。塗料つまり塗料粒子は、負に帯電された状態で静電塗装用スプレーガンから噴出される。そして、負に帯電された塗料粒子は、アースに接続されて正極に設定された被塗物に近づくと静電気力によって引き寄せられて被塗物に付着する。
【0003】
ここで、被塗物と静電塗装用スプレーガンとの間に高電圧を印加した場合、静電塗装用スプレーガンを操作する作業者側にも静電界が形成される。被塗物と高電圧が印加された電極との距離が当該電極と作業者間よりも遠い場合には、電界強度は電極から被塗物間よりも電極から作業者間の方が大きくなる。このため、従来構成では、帯電した塗料が作業者側に向かって飛散してしまい、作業者や周囲環境等の意図していない場所に塗料が付着する場合がある。このように、従来構成では、作業性の低下や清掃コスト等を要してしまうといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業者や周囲環境への塗料の飛散を抑制できる静電塗装用スプレーガンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の静電塗装用スプレーガンは、本体部と、前記本体部の先端に設けられ、塗料を噴出するための塗料噴出口を有するノズルと、前記塗料噴出口から噴出された前記塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部と、前記高電圧発生部が発生した前記高電圧が印加される荷電電極と、アース接続され、前記ノズルの径方向外側に位置し前記荷電電極との間に電界を発生させるアース電極と、を備え、前記アース電極は、前記荷電電極との間に電界を集中させやすい形状に形成されて前記塗料噴出口よりも前記静電塗装用スプレーガンの先端側に所定距離離れた位置に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による静電塗装用スプレーガンの概略構成を模式的に示す図
【
図2】第1実施形態による静電塗装用スプレーガンの一例について、ノズル周辺を拡大して示す図
【
図3】第1実施形態による静電塗装用スプレーガンの一例について、荷電電極、エア噴出口、及びアース電極の位置関係を示す図
【
図4】第2実施形態による静電塗装用スプレーガンの一例について、ノズル周辺を拡大して示す図
【
図5】第2実施形態による静電塗装用スプレーガンの一例について、遮蔽部の先端部とアース電極の先端部との位置関係を拡大して示す図
【
図6】第2実施形態による静電塗装用スプレーガンの一例について、遮蔽部の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態に係る静電塗装用スプレーガンについて、図面を参照しながら説明する。なお、複数の実施形態において、構成要素等に付された「第1」、「第2」との語句は、類似した構成要素を単に区別するためのものであり、構成要素間の優劣や時間的要素を意味するものではない。
【0009】
(第1実施形態)
図1に示す静電塗装用スプレーガン1は、作業者が手に持って使用するいわゆる手持ち式の静電塗装用スプレーガンである。なお、本明細書では静電塗装用スプレーガンを単にスプレーガンと称する場合がある。スプレーガン1は、例えば液体塗料又は粉体塗料等の塗料を静電引力によって被塗物に塗着させることで、被塗物に塗料を塗布できる。スプレーガン1は、
図1及び2に示すように、本体部2、グリップ部3、塗料供給経路4、エア供給経路5、トリガ6、高電圧発生部7、荷電電極8、ノズル10、エアキャップ20、及びリテイニングナット30を備えている。
【0010】
本体部2は、スプレーガン1の主体を構成している。本体部2は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されている。グリップ部3は、本体部2の基端部に設けられており、作業者に把持される部分である。なお、本実施形態では、
図1における紙面の左側が塗料の噴出方向であって本体部2の先端側となり、
図1における紙面の右側が塗料の噴出方向と反対側であって本体部2の基端側となる。
【0011】
塗料供給経路4及びエア供給経路5は、本体部2の内部に設けられている。塗料供給経路4は、図示しない外部の塗料供給源から塗料ホース等を介して供給される塗料をノズル10に導くためのものである。外部とは、スプレーガン1の外部を意味する。塗料供給経路4は、塗料用開閉弁4aによって開閉される。エア供給経路5は、図示しない外部のエア供給源からエアホース等を介して供給される圧縮空気をエアキャップ20に導くためのものである。エア供給経路5は、エア用開閉弁5aによって開閉される。トリガ6は、塗料用開閉弁4a及びエア用開閉弁5aを開閉するためのものである。換言すれば、塗料用開閉弁4a及びエア用開閉弁5aは、トリガ6に対する操作に基づいて開閉する。
【0012】
高電圧発生部7は、本体部2内に設けられている。高電圧発生部7は、昇圧回路や整流回路等を有して構成されており、図示しない外部の電源装置から所定例えば12~20Vの交流電圧が入力される。そして、高電圧発生部7は、その交流電圧に比例した直流の高電圧を出力できる。荷電電極8は、例えば導電性を有する金属材料であってピン状に構成されている。荷電電極8は、高電圧発生部7の出力側が接続されており、高電圧発生部7が発生した負極の高電圧が印加される。これにより、荷電電極8と被塗物との間に静電界が形成される。この静電界の作用によって、ノズル10から噴出された塗料は負の極性に荷電されて、被塗物に対する静電塗装が行われる。
【0013】
ノズル10は、本体部2の先端に設けられ塗料を噴出するためのものである。ノズル10は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されている。ノズル10は、塗料噴出口11、第1霧化エア経路12、及び第2霧化エア経路13を有している。塗料噴出口11は、ノズル10の先端側に設けられ、塗料供給経路4の出口を構成する。塗料噴出口11は、塗料供給経路4を通過した塗料を噴出させるためのものである。塗料噴出口11には、荷電電極8が挿通されている。荷電電極8の中心軸は、ノズル10の中心軸と一致している。荷電電極8の先端部は、塗料噴出口11から突出している。そして、塗料噴出口11から噴出された塗料は、荷電電極8に沿って移動することで帯電される。
【0014】
霧化エア経路12、13は、エア供給経路5の一部を構成しており、外部のエア供給源から供給される圧縮空気を通過可能に構成されている。第1霧化エア経路12は、ノズル10内であって、塗料供給経路4の周囲を取り囲むように設けられている。第2霧化エア経路13は、ノズル10の先端部に設けられ、第1霧化エア経路12と連通している。
【0015】
エアキャップ20は、ノズル10の外周部に設けられている。エアキャップ20の先端部は、ノズル10の先端部よりも本体部2の先端側に設けられている。エアキャップ20の中心軸は、ノズル10の中心軸と一致している。エアキャップ20は、霧化エア噴出口21、パターンエア経路22、第1パターンエア噴出口23、及び第2パターンエア噴出口24を有している。
【0016】
霧化エア噴出口21は、エアキャップ20の中央部に設けられている。霧化エア噴出口21には、塗料噴出口11が挿通されている。霧化エア噴出口21は、第2霧化エア経路13に連通しており、第2霧化エア経路13を通過した圧縮空気は、霧化エア噴出口21の内周面と塗料噴出口11の外周面との間の隙間を通って前方つまりスプレーガン1の先端側に噴出される。
【0017】
パターンエア経路22は、エア供給経路5の一部を構成しており、外部のエア供給源から供給される圧縮空気を通過可能に構成されている。パターンエア経路22は、霧化エア経路12、13とは独立して圧縮空気の供給を行うものである。パターンエア経路22は、ノズル10の周囲及びエアキャップ20と本体部2との間の空間に環状に配置されている。第1パターンエア噴出口23は、霧化エア噴出口21の周囲に複数設けられている。第1パターンエア噴出口23は、第2霧化エア経路13に連通しており、第2霧化エア経路13を通過した圧縮空気は、第1パターンエア噴出口23から前方に噴出される。
【0018】
第2パターンエア噴出口24は、エアキャップ20の前端面に複数形成されている。第2パターンエア噴出口24は、エア噴出口として機能する。複数の第2パターンエア噴出口24は、例えばエアキャップ20の中心を挟んで径方向に対向する位置に設けられている。また、第2パターンエア噴出口24は、
図3に示すように、荷電電極8と第1パターンエア噴出口23とを結んだ直線上に設けられている。なお、
図2等において、図面を見やすくするために、各パターンエア噴出口23、24の符号は一部のみ付しており、その他の各パターンエア噴出口23、24の符号は省略している。
【0019】
第2パターンエア噴出口24は、エアキャップ20の中心軸に向かって斜めに傾斜して形成されている。
図2に示すように、第2パターンエア噴出口24のエアキャップ20の中心に対する傾斜角度θは、例えば55度~75度の範囲内に設定されている。第2パターンエア噴出口24は、パターンエア経路22の出口を構成している。第2パターンエア噴出口24は、パターンエア経路22と連通しており、パターンエア経路22を通過した圧縮空気は、
図2の白矢印で示すように第2パターンエア噴出口24から斜め前方に噴出される。
【0020】
塗料噴出口11から荷電電極8の表面を移動して噴出される塗料は、霧化エア噴出口21及び第1パターンエア噴出口23によって霧化される。そして、空中に飛び出した微粒化した塗料は、第2パターンエア噴出口24から噴出される圧縮空気によって、塗装に適した所望のパターン形状に形成される。パターン形状の幅この場合本体部2の軸方向に直交する方向の大きさは、第2パターンエア噴出口24の傾斜角度θに相関するため、第2パターンエア噴出口24の傾斜角度θを調整することで、パターン形状の幅を変更できる。具体的には、傾斜角度θが小さいと、パターン形状の幅は狭くなり、一方傾斜角度θが大きいと、パターン形状の幅は広くなる。
【0021】
リテイニングナット30は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されており、例えば環状に形成されている。リテイニングナット30は、本体部2に対してエアキャップ20を固定するためのものである。リテイニングナット30は、例えばねじ嵌合等によって本体部2及びエアキャップ20に取り付けることができる。ノズル10は、本体部2内に設置された後、本体部2に対してエアキャップ20がリテイニングナット30を介して固定されることで、エアキャップ20とともに本体部2に固定される。
【0022】
ここで、被塗物とスプレーガンとの間に高電圧を印加した場合、スプレーガンを操作する作業者側にも静電界が形成される。被塗物と高電圧が印加された電極との距離が当該電極と作業者間よりも遠い場合には、電界強度は電極から被塗物間よりも電極から作業者間の方が大きくなる。この場合、塗料の吹き返りが生じることで、作業者や周囲環境等の意図していない場所に塗料が付着するおそれがある。吹き返りとは、塗料噴出口から噴出した塗料が圧縮空気とぶつかることで帯電した微粒子となり次第に直進性を失って、静電気力によって直近のアース体であるスプレーガンを操作する作業者等に吸引される現象をいう。
【0023】
そこで、本実施形態では、スプレーガン1は、低電位部40を備えている。低電位部40は、荷電電極8よりも前方に電界を集中させてノズル10から噴出されて帯電した微粒子を吸引するためのものである。低電位部40は、支持部材41、保護部材42、及びアース電極43を有している。支持部材41は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されており、例えば環状に形成されている。支持部材41は、例えばねじ嵌合やスナップフィット等によってリテイニングナット30に対して着脱可能に構成されている。支持部材41の内径は、リテイニングナット30の外径よりも大きく設定されている。
【0024】
保護部材42は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されており、支持部材41の先端側であってノズル10及びエアキャップ20の径方向外側に設けられている。保護部材42は、支持部材41と一体に構成されても良いし、支持部材41とは別体で構成されても良い。
【0025】
保護部材42は、一つ又は複数設けられている。本実施形態では、保護部材42は、支持部材41の周方向に所定間隔をあけて複数例えば2つ設けられている。
図3に示すように、保護部材42は、荷電電極8と第2パターンエア噴出口24とを結んだ直線上に設けられる。保護部材42は、例えば本体部2の軸方向に沿って延びる筒状に構成されている。保護部材42の先端は、
図2に示すように、例えばエアキャップ20の先端よりもスプレーガン1の先端側に位置している。
【0026】
アース電極43は、荷電電極8との間に電界を発生させるためのものである。アース電極43は、図示しないアース線を介してアース接続されている。アース電極43は、例えば導電性を有する金属材料で構成されている。本実施形態では、
図1に示すように、アース電極43は抵抗体51に接続されている。つまり、アース電極43は、抵抗体51を介してアース接続されている。アース電極43に抵抗体51を接続することで、過大な放電電流が流れてしまうことを抑制して、荷電電極8の出力電圧が過剰に低下することを抑制できる。アース電極43は、金属材料に限らず、導電性を有する合成樹脂又はセラミック等で構成しても良い。
【0027】
アース電極43は、保護部材42の先端側に設けられている。アース電極43は、基端側が保護部材42によって覆われており、先端側が保護部材42から突出している。アース電極43は、保護部材42に着脱不可に固定されても良いし、着脱可能であっても良い。アース電極43は、ノズル10及びエアキャップ20の径方向外側に位置する。
【0028】
アース電極43は、一つ又は複数設けられている。本実施形態では、アース電極43は、保護部材42に対応して、支持部材41の周方向に所定間隔をあけて複数例えば2つ設けられている。つまり、アース電極43は、
図3に示すように、荷電電極8と第2パターンエア噴出口24とを結んだ直線上に設けられる。そして、アース電極43は、荷電電極8の中心を挟んで径方向に対向する位置に設けられている。
【0029】
アース電極43は、例えば本体部2の軸方向に沿う針状に構成されている。つまり、アース電極43は、荷電電極8との間に電界を集中させやすい形状に構成されている。アース電極43の外径は、例えば0.数mm例えば0.4mm程度に設定できる。アース電極43の先端は、ノズル10及びエアキャップ20よりもスプレーガン1の先端側に位置している。そして、アース電極43の先端は、塗料噴出口11よりも本体部2の先端側に所定距離L離れた位置に設けられる。
【0030】
一般的に、帯電した微粒子の吹き返りの抑制効果を高めるためには、微粒子が直進性を失う位置つまり荷電電極8から離れた位置に設けることが望ましいが、荷電電極8から離れるほど、ノズル10から噴出されて霧状になった塗料にアース電極43が接触しやすくなってしまう。
【0031】
そこで、本実施形態では、アース電極43の先端から塗料噴出口11までの離間距離Lは、0mmより大きくかつ45mm以下に設定される。アース電極43の先端から塗料噴出口11までの離間距離Lは、0mmより大きくかつ30mm以下が好ましい。アース電極43の先端から塗料噴出口11までの離間距離Lの範囲は、本願発明者らが鋭意検討し見出した結果である。離間距離Lを当該範囲に設定することで、ノズル10を通過して
図2のA方向に噴出された塗料にアース電極43が接触するのを抑制しつつ、スプレーガン1の先端側に電界を形成させて、直進性を失った帯電粒子を
図2のB方向に吸引させることで帯電粒子の吹き返りを効果的に抑制できる。
【0032】
また、第2パターンエア噴出口24から噴出される圧縮空気によって帯電粒子の直進性の低下が抑制されているため、アース電極43への帯電粒子の付着が抑制される。
【0033】
以上説明した実施形態によれば、静電塗装用スプレーガン1は、本体部2と、ノズル10と、高電圧発生部7と、荷電電極8と、アース電極43と、を備える。ノズル10は、本体部2の先端に設けられ、塗料を噴出するための塗料噴出口11を有する。高電圧発生部7は、塗料噴出口11から噴出された塗料を帯電させるための高電圧を発生する。荷電電極8は、高電圧発生部7が発生した高電圧が印加される。アース電極43は、アース接続され、ノズル10の径方向外側に位置し、荷電電極8との間に電界を発生させる。そして、アース電極43は、荷電電極8との間に電界を集中させやすい形状に形成されて、塗料噴出口11よりも静電塗装用スプレーガン1の先端側に所定距離L離れた位置に設けられる。
【0034】
これによれば、アース電極43を静電塗装用スプレーガン1の先端側に位置することで、荷電電極8とアース電極43との間の電界を静電塗装用スプレーガン1の先端側に形成できる。そして、アース電極43は、電界を集中させやすい形状にすることで、例えばアース電極を環状に構成する場合に比べて電界が集中する場所を意図的に設けることができる。これにより、ノズル10から噴出された塗料を静電塗装用スプレーガン1の先端側に効果的に吸引できる。よって、作業者や周囲環境への塗料の飛散を抑制できる。
【0035】
また、所定距離Lは、0mmより大きくかつ45mm以下である。これによれば、ノズル10から噴出された塗料にアース電極43が接触するのを抑制しつつ、直進性を失った帯電粒子をアース電極43に吸引させることで塗料の吹き返りを効果的に抑制できる。よって、作業者の清掃の手間を低減できるため、塗装作業性を向上できる。
【0036】
更に、静電塗装用スプレーガン1は、エアキャップ20を備える。エアキャップ20は、ノズル10の外周部に設けられ、塗料噴出口11から噴出された塗料に対して外部のエア供給源から供給された圧縮空気を噴出するためのエア噴出口24を有する。そして、アース電極43は、エアキャップ20の径方向外側であってかつ荷電電極8とエア噴出口24とを結んだ直線上に設けられる。
【0037】
ここで、エア噴出口24の径方向外側でかつ荷電電極8とエア噴出口24とを結んだ直線上の位置つまりエア噴出口24の裏側は、ノズル10から噴出した塗料が最も付着しにくい場所である。仮にアース電極43を当該場所以外つまりエア噴出口24から噴出された圧縮空気の流れが弱い場所に配置すると、アース電極43に帯電粒子が付着しやすくなる場合があり、アース電極43の汚れに起因した不具合が生じるおそれがある。そこで、アース電極43をエア噴出口24の裏側に配置することで、アース電極43に対する帯電粒子の付着を抑制できる。結果として、静電塗装用スプレーガン1のメンテナンス性を向上できる。
【0038】
また、アース電極43は、抵抗体51を介してアース接続されている。これによれば、アース電極43に抵抗体51を接続することで、過大な放電電流が流れてしまうことを抑制して、荷電電極8の出力電圧が過剰に低下することを抑制できる。また、アース電極43と荷電電極8との径方向の距離を近づけることができるため、例えばアース電極43が周囲の設備等にぶつかって損傷してしまうといった不具合の発生を抑制できる。
【0039】
なお、上記した実施形態では、アース電極43は、支持部材41を介してリテイニングナット30に取り付ける構成としたが、アース電極43の取り付け方式は、例えば本体部2に取り付ける又はエアキャップ20に取り付ける等の様々な変更が可能である。また、上記した実施形態では、エア噴出口24が鉛直方向に並ぶいわゆる横吹きにおける構成としたが、エア噴出口24が水平方向に並ぶいわゆる縦吹きにも適用できる。この場合、保護部材42を縦吹きに対応した位置にも配置し、アース電極43をエア噴出口24の向きに合わせて着脱可能にしても良い。
【0040】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図4から
図6を参照して説明する。この第2実施形態では、スプレーガン1は、遮蔽部44を備える点が上記第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態は、遮蔽部44を備える点以外は、上記第1実施形態と共通している。遮蔽部44は、
図4に示すように、荷電電極8とアース電極43とが対向する部分に設けられ、荷電電極8からアース電極43への空気の流れを遮る。この場合、遮蔽部44は、保護部材42の先端からスプレーガン1の先端側に延びて設けられている。
【0041】
遮蔽部44は、例えば円筒状に形成されており、保護部材42から露出したアース電極43の周囲を覆っている。つまり、本実施形態では、アース電極43は、遮蔽部44によって外周が覆われており、外部に露出していない。遮蔽部44は、例えば電気絶縁性を有する合成樹脂で構成されており、保護部材42と一体に構成できる。この場合、保護部材42の先端の外径と遮蔽部44の基端の外径とは同一である。遮蔽部44は、保護部材42と別体で構成してもよい。
【0042】
また、遮蔽部44の先端部は、
図4及び
図5に示すように、アース電極43の先端部よりもスプレーガン1の先端側に位置している。この場合、遮蔽部44の先端部とアース電極43の先端部との距離Dは、3mm~6mmの範囲で設定される。遮蔽部44の先端部とアース電極43の先端部との距離Dは、5mmが好ましい。これは、ノズル10を通過して
図4のA方向に噴出された塗料に遮蔽部44が接触するのを抑制しつつ、帯電塗料の吹き返りの抑制効果をアース電極43によって得るためである。
【0043】
ここで、ノズル10から噴出されて負極に荷電された塗料によって被塗物に対する静電塗装が行われると、
図4に示すように、アース電極43から正極の電荷が引き出される。アース電極43から生じた正極の電荷が荷電電極8側に流れると、負極に帯電した塗料粒子が中和されてしまい塗着効率の低下を招くおそれがある。そこで、遮蔽部44を設けてアース電極43から生じた正極の電荷をノズル10側に浮遊し難くした。これにより、塗着効率の低下を抑制できる。
【0044】
このような第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する。また、遮蔽部44によって、アース電極43から生じる正極の電荷と被塗物へ向かう負極に帯電した塗料粒子との中和を発生し難くして塗着効率の低下を抑制しつつ、塗料の吹き返りを効果的に抑制できる。
【0045】
なお、遮蔽部44は、
図6に示すように、円筒状つまりアース電極43の周囲を覆う構成に限らず、アース電極43と荷電電極8とが対向する部分を遮るような板状の部材で構成してもよい。
図6の例では、遮蔽部44は、保護部材42の内側の面に設けられている。これによっても、アース電極43から生じる正極の電荷と被塗物へ向かう負極に帯電した塗料粒子との中和を発生し難くして塗着効率の低下の抑制できる。
【0046】
なお、上記各実施形態は、相互に組み合わせることができる。また、各実施形態の特徴部分のみを抽出して組み合わせることもできる。
以上説明した、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記し且つ図面に記載した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…静電塗装用スプレーガン、2…本体部、7…高電圧発生部、8…荷電電極、10…ノズル、11…塗料噴出口、20…エアキャップ、24…第2パターンエア噴出口(エア噴出口)、43…アース電極、44…遮蔽部、51…抵抗体