(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115524
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】光ファイバ用母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20240819BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20240819BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C03B37/012 A
C03B37/027 A
G02B6/02 466
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013127
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023021001
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】梶川 翔太
【テーマコード(参考)】
2H250
4G021
【Fターム(参考)】
2H250AA53
2H250AB04
2H250AB05
2H250AB10
2H250AC64
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC95
2H250BA32
2H250BB33
2H250BC02
4G021BA01
4G021HA05
(57)【要約】
【課題】 クラッド内における複数の所定部位の位置ずれが従来よりも均等に近づけられた光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法を提供する。
【解決手段】 光ファイバ用母材1Pの製造方法は、複数の貫通孔20PHが形成され光ファイバ1のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び貫通孔20PHに個別に挿入可能であり光ファイバ1の所定部位となる複数のガラスロッド10Pを準備する準備工程P1と、貫通孔20PHにガラスロッド10Pを挿入する場合におけるガラスロッド10Pと貫通孔20PHの内壁20Wとのそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和RSが最小となるガラスロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する決定工程P3と、決定されたガラスロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせで、それぞれのガラスロッド10Pをそれぞれの貫通孔20PHに挿入する挿入工程P4と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が形成され光ファイバのクラッドとなるクラッドロッド、及び前記貫通孔に個別に挿入可能であり前記光ファイバの所定部位となる複数のガラスロッドを準備する準備工程と、
前記貫通孔に前記ガラスロッドを挿入する場合における前記ガラスロッドと前記貫通孔の内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさの残差平方和が最小となる前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせを決定する決定工程と、
決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせで、それぞれの前記ガラスロッドをそれぞれの前記貫通孔に挿入する挿入工程と、
を備えることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項2】
前記ガラスロッドのそれぞれの外径と前記ガラスロッドが挿入される前記貫通孔の孔径とを計測する計測工程を更に備え、
前記決定工程を前記計測工程の計測結果に基づいて行う
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項3】
前記ガラスロッドは、前記光ファイバのコアとなるコアロッドである
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項4】
前記ガラスロッドのそれぞれの外径が互いに異なり、前記ガラスロッドが挿入されるそれぞれの前記貫通孔の孔径が互いに異なる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスロッドが挿入される前記貫通孔のうち2以上の前記貫通孔は、前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面における前記クラッドロッドの中心を中心とする所定の円周上に形成される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項6】
前記所定の円周上に形成される前記貫通孔の数は4以上の偶数であり、
前記所定の円周上に形成される前記貫通孔により、前記クラッドロッドの径方向に並ぶ前記貫通孔の組が複数形成され、
前記決定工程で決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせにおいて、それぞれの前記組毎にそれぞれの前記クリアランスの大きさの和を取る場合に、それぞれの前記和の残差平方和が最小である
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項7】
前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面において、複数の前記貫通孔は直線状の位置に形成されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項8】
複数の貫通孔が形成され光ファイバのクラッドとなるクラッドロッド、及び前記貫通孔に個別に挿入可能であり前記光ファイバの所定部位となる複数のガラスロッドを準備する準備工程と、
前記貫通孔に前記ガラスロッドを挿入する場合における前記ガラスロッドと前記貫通孔の内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさを前記クラッドロッドの外径で除して100を乗じたそれぞれの規格化クリアランスの残差平方和を前記ガラスロッドの数で除した値が0.46以下となるように、前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせを決定する決定工程と、
決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせで、それぞれの前記ガラスロッドをそれぞれの前記貫通孔に挿入する挿入工程と、
を備え、
前記複数の貫通孔は、前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面における前記クラッドロッドの中心を中心とする所定の円周上に形成される
ることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信システムの普及に伴い、光ファイバによって伝送される情報量が飛躍的に増大している。このような背景から、複数のコアの外周が1つのクラッドにより囲まれたマルチコアファイバが用いられている。マルチコアファイバは複数のコアのそれぞれを伝搬する光により複数の信号を伝送させることができるので、1つの光ファイバ当たりの伝送容量が増大される。
【0003】
下記特許文献1には、マルチコアファイバの製造方法が記載されている。具体的には、マルチコアファイバのクラッドとなるクラッドロッドに形成された複数の貫通孔にコアロッドを挿入し、クラッドロッド、コアロッド間を一体化させつつ線引して、マルチコアファイバを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマルチコアファイバの製造方法のように、クラッドロッドの貫通孔にコアロッドを挿入する場合、クラッドロッドの貫通孔の内壁と、コアロッドの外周面との間にクリアランスが生じる。このクリアランスが大きいほど、光ファイバにおけるコアの位置ずれが生じやすい。位置ずれが極端に大きいコアが存在する場合、当該コアを他の導波路に接続するとロスが他のコアより大きくなる傾向がある。従って、コアの位置ずれが均等に近づけられたマルチコアファイバを製造可能なマルチコアファイバ用母材の製造方法が求められている。
【0006】
また、応力付与部が設けられた偏波保持ファイバは、例えば、クラッドロッドに設けられる貫通孔に応力付与部となるガラスロッドが挿入された光ファイバ用母材を用いて、クラッドロッドとガラスロッドとの間のクリアランスがコラプスされて製造される場合がある。この場合、光ファイバ用母材のクリアランスがコラプスされて、光ファイバの中間体である光ファイバ中間体を製造し、当該光ファイバ中間体を線引きしても良く、光ファイバ用母材のクリアランスをコラプスしながら線引きしても良い。この場合において、応力付与部の位置ずれが均等に近づけられれば、特定の応力付与部からコアに加えられる応力が大きくなることを抑制し得る。つまり、上記のようにコアの位置ずれが均等に近づけられるのみならず、応力付与部といったクラッド内における複数の所定部位の位置ずれが均等に近づけられることが好ましい。
【0007】
そこで、本発明は、クラッド内における複数の所定部位の位置ずれが従来よりも均等に近づけられた光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の態様1は、複数の貫通孔が形成され光ファイバのクラッドとなるクラッドロッド、及び前記貫通孔に個別に挿入可能であり前記光ファイバの所定部位となる複数のガラスロッドを準備する準備工程と、前記貫通孔に前記ガラスロッドを挿入する場合における前記ガラスロッドと前記貫通孔の内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさの残差平方和が最小となる前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせを決定する決定工程と、決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせで、それぞれの前記ガラスロッドをそれぞれの前記貫通孔に挿入する挿入工程と、を備えることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法である。
【0009】
この光ファイバ用母材の製造方法によれば、ガラスロッドと貫通孔の内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさの残差平方和が最小となるガラスロッドと貫通孔との組み合わせを決定し、決定された組み合わせでガラスロッドを貫通孔に挿入するため、それぞれのクリアランスの大きさを従来よりも均等に近づけられ得る。従って、この光ファイバ用母材の製造方法で製造された光ファイバ用母材を用いることで、クラッド内における所定部位の位置ずれが従来よりも均等に近づけられた光ファイバを製造し得る。
【0010】
本発明の態様2は、前記ガラスロッドのそれぞれの外径と前記ガラスロッドが挿入される前記貫通孔の孔径とを計測する計測工程を更に備え、前記決定工程を前記計測工程の計測結果に基づいて行うことを特徴とする態様1の光ファイバ用母材の製造方法である。
【0011】
この場合、準備したガラスロッドの外径及びクラッドロッドの貫通孔の孔径が不明な場合や誤差を含んでいる場合であっても、計測工程によりこれらを明確にすることができる。従って、決定工程をより正確に行うことができる。
【0012】
本発明の態様3は、前記ガラスロッドは、前記光ファイバのコアとなるコアロッドであることを特徴とする態様1または2の光ファイバ用母材の製造方法である。
【0013】
この場合、コアの位置ずれが従来よりも均等に近づけられたマルチコアファイバを製造し得る。
【0014】
本発明の態様4は、前記ガラスロッドのそれぞれの外径が互いに異なり、それぞれの前記貫通孔の孔径が互いに異なることを特徴とする態様1から3のいずれかの光ファイバ用母材の製造方法である。
【0015】
この場合、製造バラつきに起因する異なる外径を有するガラスロッドを有効に使うことができ、光ファイバ用母材の製造歩留りを向上することができ得る。
【0016】
本発明の態様5は、前記ガラスロッドが挿入される前記貫通孔のうち2以上の前記貫通孔は、前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面における前記クラッドロッドの中心を中心とする所定の円周上に形成されることを特徴とする態様1から4のいずれかの光ファイバ用母材の製造方法である。
【0017】
この場合、互いに接続される2つのマルチコアファイバが互いに同等の構成を備えたマルチコアファイバである場合に、2つのマルチコアファイバのコアを当該マルチコアファイバの軸方向に回転させて一方のマルチコアファイバのコアと他方のマルチコアファイバのコアとを接続できる。したがって、他のマルチコアファイバと接続が容易なマルチコアファイバを作製できる。
【0018】
本発明の態様6は、前記所定の円周上に形成される前記貫通孔の数は4以上の偶数であり、前記所定の円周上に形成される前記貫通孔により、前記クラッドロッドの径方向に並ぶ前記貫通孔の組が複数形成され、前記決定工程で決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせにおいて、それぞれの前記組毎にそれぞれの前記クリアランスの大きさの和を取る場合に、それぞれの前記和の残差平方和が最小であることを特徴とする態様5の光ファイバ用母材の製造方法である。
【0019】
光ファイバを製造する際に、クリアランスが潰れることで、クラッドの外周の形状がゆがむ場合がある。上記のように、それぞれの組におけるクリアランスの大きさの和を取り、それぞれの和の残差平方和が最小であることで、それぞれの組におけるクリアランスの大きさの和を従来よりも均等に近づけられ得る。従って、クリアランスが潰れることに起因するクラッドの歪みによるクラッドの非円率を最小化することができる。
【0020】
本発明の態様7は、前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面において、複数の前記貫通孔は直線状の位置に形成されていることを特徴とする態様1から4のいずれかの光ファイバ用母材の製造方法である。
【0021】
本発明の態様8は、複数の貫通孔が形成され光ファイバのクラッドとなるクラッドロッド、及び前記貫通孔に個別に挿入可能であり前記光ファイバの所定部位となる複数のガラスロッドを準備する準備工程と、前記貫通孔に前記ガラスロッドを挿入する場合における前記ガラスロッドと前記貫通孔の内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさを前記クラッドロッドの外径で除して100を乗じたそれぞれの規格化クリアランスの残差平方和を前記ガラスロッドの数で除した値が0.46以下となるように、前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせを決定する決定工程と、決定された前記ガラスロッドと前記貫通孔との組み合わせで、それぞれの前記ガラスロッドをそれぞれの前記貫通孔に挿入する挿入工程と、を備え、前記複数の貫通孔は、前記クラッドロッドの長手方向に垂直な断面における前記クラッドロッドの中心を中心とする所定の円周上に形成されることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法である。
【0022】
このような光ファイバの製造方法によれば、ITU-T G.652.Dにおいて定義されるシングルコアファイバと同程度のコアのずれ量を約68.3%(1σ)の確率で実現し得る。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、クラッド内における複数の所定部位の位置ずれが従来よりも均等に近づけられた光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図2】
図1の光ファイバを製造するための光ファイバ用母材を示す図である。
【
図3】
図2の光ファイバ用母材、及び
図1の光ファイバを製造するためのフローチャートを示す図である。
【
図7】規格化クリアランスの残差平方和をコアの数で除した値と、コアのずれ量の平均値との関係を示す図である。
【
図8】表3に示す規格化クリアランスの残差平方和をコアの数で除した値と、それぞれのコアのずれ量の平均値に標準偏差1倍から3倍を加算した値との関係を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態にかかる光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図10】
図9の光ファイバを製造するための光ファイバ用母材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、実施形態から変更、改良することができる。なお、理解の容易のため、それぞれの図のスケールと、以下の説明に記載のスケールとが異なる場合がある。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。本実施形態では、光ファイバとしてマルチコアファイバを例に説明する。本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア10、それぞれのコア10の外周面を隙間なく囲むクラッド20、クラッド20の外周面を被覆する内側被覆層31、内側被覆層31の外周面を被覆する外側被覆層32を備える。
図1の例では、コア10が4つの例が示されている。
【0027】
クラッド20の長手方向に垂直な断面における外径は、概ね円形である。本実施形態では、それぞれのコア10は、クラッド20の中心である基準位置20Rを中心とする仮想の円周20C上に配置されている。本実施形態では、それぞれのコア10間の距離は互いに等しく、それぞれのコア10は基準位置20Rを中心として概ね4回回転対称となる位置に配置されている。コア10の直径は、例えば4μm以上10μm以下である。
【0028】
それぞれのコア10の屈折率はクラッド20の屈折率よりも高く、それぞれのコア10のクラッド20に対する比屈折率差は、例えば0.2%以上2.0%以下である。このようなコア10は、例えば、ゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド20は、例えば、ドーパントが添加されていないシリカガラスから成る。また、コア10が何らドーパントが添加されていないシリカガラスから成り、クラッド20がフッ素等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成る構成とされてもよい。
【0029】
内側被覆層31及び外側被覆層32はそれぞれ紫外線硬化性樹脂等の樹脂から成り、内側被覆層31及び外側被覆層32は互いに異なる樹脂から成る。
【0030】
次に、
図1のマルチコアファイバ1を製造する製造方法について説明する。
【0031】
図2は、
図1のマルチコアファイバ1を製造するためのマルチコアファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。マルチコアファイバ用母材1Pは、クラッドロッド20Pと、複数のコアロッド10Pとを備える。
【0032】
クラッドロッド20Pは、マルチコアファイバ1のクラッド20となる。クラッドロッド20Pは、外周の形状が円形であり、複数の貫通孔20PHが形成されている。それぞれの貫通孔20PHは、クラッドロッド20Pの中心である基準位置20PRを中心とする仮想の円周20PC上に等間隔で形成されている。貫通孔20PHの数は4であり、円周20PC上に等間隔で形成されているため、クラッドロッド20Pの径方向に並ぶ貫通孔20PHの複数の組PA1,PA2が形成されている。
図2では、組PA1,PA2を示す点線で囲われている貫通孔20PHが組である。
【0033】
また、それぞれの貫通孔20PHには、コアロッド10Pが挿入されている。本実施形態では、それぞれのコアロッド10Pは、マルチコアファイバ1のコア10となるガラスロッドである。なお、コアロッド10Pは、コア10となるガラス体の外周面がクラッド20の一部となるガラス層で被覆された構成でもよい。
【0034】
図3は、
図2のマルチコアファイバ用母材1P、及び
図1のマルチコアファイバ1を製造するためのフローチャートを示す図である。
図3に示すように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法は、準備工程P1、計測工程P2、決定工程P3、及び挿入工程P4を含み、マルチコアファイバ1の製造方法は、これらに線引工程P5を更に含む。
【0035】
(準備工程P1)
本工程は、複数の貫通孔20PHが形成されマルチコアファイバ1のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び貫通孔20PHに個別に挿入可能でありマルチコアファイバ1のコアとなる複数のコアロッド10Pを準備する工程である。
図4は、準備工程後の様子を示す図である。
図4に示すように、コアロッド10Pの数は、貫通孔20PHの数と同じである。また、本実施形態では、クラッドロッド20Pの長さとコアロッド10Pの長さとが互いに等しい。本工程では、コアロッド10P及びクラッドロッド20Pを製造により準備しても、購入により準備してもよい。
【0036】
(計測工程P2)
本工程は、コアロッド10Pのそれぞれの外径とコアロッド10Pが挿入される貫通孔20PHの孔径とを計測する工程である。コアロッド10Pの外径は、長手方向に沿った複数個所で測定されることが好ましい。この場合、外径の最小値、中央値、平均値、最大値のいずれかをコアロッド10Pの外径としてもよい。また、貫通孔20PHの孔径は、長手方向に沿った複数個所で測定されることが好ましい。この場合、孔径の最小値、中央値、平均値、最大値のいずれかを貫通孔20PHの孔径としてもよい。
【0037】
コアロッド10Pの外径は、例えば、ノギス、レーザー外径測定機や3次元測定機により計測する。また、貫通孔20PHの孔径は、例えば、ノギス、レーザー外径測定機や3次元測定機により計測する。
【0038】
なお、コアロッド10Pの外径及び貫通孔20PHの孔径が分かっている場合には、本工程を行わなくてもよい。或いは、準備工程P1において、特定のコアロッド10Pや特定のクラッドロッド20Pを選んで準備する場合、選ぶ前のコアロッド10Pや選ぶ前のクラッドロッド20Pにおいて、コアロッド10Pの外径やクラッドロッド20Pの貫通孔20PHの孔径を計測しておき、その後、コアロッド10Pやクラッドロッド20Pを選ぶことで準備工程P1を行ってもよい。
【0039】
(決定工程P3)
本工程は、貫通孔20PHにコアロッド10Pを挿入する場合におけるコアロッド10Pと貫通孔20PHの内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさの残差平方和が最小となるコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する工程である。
図5は、クリアランスの大きさを示す図である。
図5に示すように、クリアランスの大きさCSは、コアロッド10Pを貫通孔20PHの内壁20Wに押し当てた場合のコアロッド10Pと内壁20Wとの最大距離である。従って、貫通孔20PHの孔径とコアロッド10Pの外径との差に概ね等しい。そこで、本工程は、計測工程P2の計測結果に基づいて行われることが好ましい。
【0040】
なお、クリアランスの大きさCSが長手方向でばらつきが生じる場合等を考慮すると、クリアランスの大きさCSは、長手方向に沿った複数個所で測定されることが良い。この場合、大きさCSの最小値、中央値、平均値、最大値のいずれかをクリアランスの大きさCSとしてもよい。また、クリアランスの大きさCSは、クラッドロッド20Pの長手方向の全長に基づいて計測しても良く、クラッドロッド20Pの長手方向の一部(例えば、光ファイバ母材の有効部となる箇所)に基づいて計測しても良い。後者の場合、母材加工時や紡糸時に、歩留りとして母材体積の無駄が生じること等に起因して、作製後の光ファイバ母材の全長が製品となり得ないためである。例えば、作製後の光ファイバ母材の長手方向のうち中央部分となる中央領域(例えば、光ファイバ母材の長手方向の中心位置を中心として光ファイバ母材の一端側及び他端側に30~1000mmの長さを有する領域)が光ファイバ母材の有効領域となる場合、クリアランスの大きさCSは、当該中央領域の平均を基に計測した方が良い場合があり得る。このため、クラッドロッド20Pの長手方向の特定の位置において効果を発揮させることが出来得る。また、クリアランスの大きさCSを最大値とした場合、作製後の光ファイバ母材のある特定のコアの設計値からの位置ずれ量を最大限改善することが可能となり得る。
【0041】
具体的には、上記のようにコアが4つのマルチコアファイバ1を製造するためのマルチコアファイバ用母材1Pを製造するのであれば、それぞれのコアロッド10Pとそれぞれの貫通孔20PHとの組み合わせで、貫通孔20PHの孔径とコアロッド10Pの外径との差を求める。4つの貫通孔20PHにおける差の残差平方和が最も小さくなるコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを見出す。それぞれのクリアランスの大きさの残差平方和RSは、貫通孔20PH毎における差を「クリアランスの大きさCS1~4」とすれば、iを1~4として、次のように表すことができる。
RS=Σ(クリアランスの大きさCSi)2
【0042】
本工程では、コアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせのうち、このRSが最小となるコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する。こうして、コアロッド10Pが挿入される貫通孔20PHが定まる。
【0043】
なお、本実施形態では、上記のようにクラッドロッド20Pの径方向に並ぶ貫通孔20PHの組PA1,PA2が形成されている。そこで、決定工程P3で決定されたコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせにおいて、それぞれの組PA1,PA2毎にそれぞれのクリアランスの大きさCSの和を取る場合に、それぞれの和の残差平方和が最小であることが好ましい。
【0044】
(挿入工程P4)
本工程は、決定されたコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせで、それぞれのコアロッド10Pをそれぞれの貫通孔20PHに挿入する工程である。本工程により、
図2に示すマルチコアファイバ用母材1Pを得る。こうして、製造されたマルチコアファイバ用母材1Pにおいて、貫通孔20PHとコアロッド10Pの組み合わせは、当該組み合わせにおけるコアロッド10Pと貫通孔20PHの内壁20Wとのそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和が、それぞれの貫通孔20PHにそれぞれのコアロッド10Pを他の組み合わせで挿入する場合におけるそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和の最小値以下の組み合わせである。
【0045】
なお、コアロッドが曲がっている場合を考慮し、クリアランスの大きさCSは、0.1mm以上であることが好ましい。
【0046】
(線引工程P5)
本工程は、マルチコアファイバ用母材1Pを線引してマルチコアファイバ1を製造する工程である。
図6は、本工程を示す図である。本工程では、まず、マルチコアファイバ用母材1Pの一方の端部にダミーガラスを溶着し、他方の端部にガラス管を溶着する。そして、マルチコアファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置して、ガラス管を介して、クリアランス内を脱気する。次に、紡糸炉110の加熱部111によりマルチコアファイバ用母材1Pを加熱する。この加熱により、マルチコアファイバ用母材1Pの下端は溶融状態となり、マルチコアファイバ用母材1Pからガラスが線引きされる。線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、それぞれのコアロッド10Pがそれぞれのコア10となり、クラッドロッド20Pがクラッド20となる。このようにして、複数のコア10及びクラッド20によって構成されるマルチコアファイバの裸線が得られる。その後、このマルチコアファイバの裸線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却されたマルチコアファイバの裸線は、コーティング装置130を通過して、内側被覆層31及び外側被覆層32が形成され、
図1に示すマルチコアファイバ1となる。そして、マルチコアファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。こうして、マルチコアファイバ1は製造される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法は、複数の貫通孔20PHが形成されマルチコアファイバ1のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び貫通孔20PHに個別に挿入可能でありマルチコアファイバ1のコアとなる複数のコアロッド10Pを準備する準備工程P1と、貫通孔20PHにコアロッド10Pを挿入する場合におけるコアロッド10Pと貫通孔20PHの内壁20Wとのそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和RSが最小となるコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する決定工程P3と、決定されたコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせで、それぞれのコアロッド10Pをそれぞれの貫通孔20PHに挿入する挿入工程P4と、を備える。
【0048】
このマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、コアロッド10Pと貫通孔20PHの内壁20Wとのそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和RSが最小となるコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定し、決定された組み合わせでコアロッド10Pを貫通孔20PHに挿入するため、それぞれのクリアランスの大きさCSを従来よりも均等に近づけられ得る。従って、このマルチコアファイバ用母材の製造方法で製造されたマルチコアファイバ用母材1Pを用いることで、クラッド20内におけるコア10の位置ずれが従来よりも均等に近づけられたマルチコアファイバ1を製造し得る。
【0049】
また、本実施形態では、コアロッド10Pのそれぞれの外径とコアロッド10Pが挿入される貫通孔20PHの孔径とを計測する計測工程P2を更に備え、決定工程P3を計測工程P2の計測結果に基づいて行う。このため、準備したコアロッド10Pの外径及びクラッドロッド20Pの貫通孔20PHの孔径が不明な場合や誤差を含んでいる場合であっても、計測工程P2によりこれらを明確にすることができ、決定工程P3をより正確に行うことができる。
【0050】
また、上記のように、それぞれの組PA1,PA2毎にそれぞれのクリアランスの大きさCSの和を取る場合に、それぞれの和の残差平方和が最小であれば、それぞれの組PA1,PA2におけるクリアランスの大きさCSの和を従来よりも均等に近づけられ得る。光ファイバを製造する際に、クリアランスが潰れることで、クラッドの外周の形状がゆがむ場合があるため、それぞれの組PA1,PA2におけるクリアランスの大きさCSの和が従来よりも均等に近づけられることで、クラッドの非円率を最小化し得る。なお、所定の円周20PC上に形成される貫通孔20PHの数が4以上の偶数あり、クラッドロッド20Pの径方向に並ぶ貫通孔20PHの組が複数形成される場合、組毎にそれぞれのクリアランスの大きさCSの和を取り、それぞれの和の残差平方和が最小であれば、クラッドの非円率を最小化し得る。
【0051】
次に、規格化クリアランスSCSの残差平方和について、作製したマルチコアファイバ1の実施例に基づいて説明する。規格化クリアランスSCSは、クリアランスの大きさCSをクラッドロッド20Pの外径で除し、100を乗じた値である。
【0052】
図1に示す4つのコア10が正方形の頂点上に配置されたマルチコアファイバ1の実施例1から実施例59を作製した。それぞれの実施例において、互いに隣り合うコア10の中心間距離を40μmとし、クラッド20の外径を125μmとした。表1、表2には、実施例1から実施例59のマルチコアファイバ1を作製する際において、
図2に示すクラッドロッド20Pの貫通孔20PHにコアロッド10Pが挿入された状態で、貫通孔20PH毎における規格化クリアランスSCS1~SCS4と、規格化クリアランスSCS1~SCS4の平均値SCSaveと、それぞれの規格化クリアランスSCS1~SCS4の残差平方和SRSをコアロッド10Pの数で割った値と、が示されている。なお、実施例1~31と、実施例32~59とでは、クラッドロッド20Pの直径が異なっている。規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSは、それぞれの規格化クリアランスSCSを規格化クリアランスSCS1~SCS4とすれば、iを1~4として、次のように表すことができる。
SRS=Σ(規格化クリアランスSCSi)
2
【0053】
【0054】
【0055】
また、表3、表4には、実施例1から実施例59において、製造されたマルチコアファイバ1におけるコア10の設計値からのずれ量σ1~σ4と、コア10の設計値からのずれ量σ1~σ4の平均値σaveが示されている。なお、画像解析を用いて、マルチコアファイバ1の幾何学的寸法を測定した。この際、それぞれのコア10のずれ量σ1~σ4は、4つのコア10の重心をクラッド20の中心に合わせ、ずれ量σ1~σ4の残差平方和が最小となる角度において、各コア10のずれ量σ1~σ4を測定した。この角度は、マルチコアファイバ1の断面においてそれぞれのコア10が所定の位置となっている状態からクラッドの中心を軸として回転させる場合の角度である。
【0056】
【0057】
【0058】
次に規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコアの数で除した値について説明する。
図7は、それぞれの貫通孔20PHにおける規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値と、コア10のずれ量σ1~σ4の平均値σaveと、の関係を示す図である。それぞれの貫通孔20PHにおける規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値をxとし、それぞれのコア10のずれ量σ1~σ4の平均値σaveをyとすると、それぞれの関係のプロットを最小二乗法で近似すると、xとyとの関係は、次の式で示される。
y=0.66x+0.18
【0059】
表5に、実施例1~31及び実施例32~59におけるコア10のずれ量σ1~σ4の平均値σaveの平均値、中央値、最大値、最小値、標準偏差を示す。
【0060】
図8は、表3に示す規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値と、それぞれのコア10のずれ量σ1~σ4の平均値σaveに標準偏差1倍から3倍を加算した値との関係を示す図である。なお、実施例1~31は、規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値が、0.07から0.09に分布しているため、その平均を示している。実施例32~59は、規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値が、0.34から0.38に分布しているため、その平均を示している。規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値をxとし、それぞれのコア10のずれ量σ1~σ4の平均値σaveに標準偏差の1倍を加算した値をyとすると、
図8において四角で示す2つのプロットを結ぶ破線で示す線は、次の式で示される。
y=0.66x+0.30
【0061】
また、xを同条件とし、平均値σaveに標準偏差の2倍を加算した値をyとすると、
図8において三角で示す2つのプロットを結ぶ破線で示す線は、次の式で示される。
y=0.72x+0.42
【0062】
また、xを同条件とし、平均値σaveに標準偏差の3倍を加算した値をyとすると、
図8において丸で示す2つのプロットを結ぶ破線で示す線は、次の式で示される。
y=0.78x+0.53
【0063】
ITU-T G.652.Dには、シングルコアファイバにおけるコアのずれ量が0.6μm以下であることが規定されている。従って、上記式においてyを0.6以下であることが好ましい。このため、統計上、約68.3%(1σ)の確率で実現するためxは概ね0.46であることが好ましい。約95.5%(2σ)の確率で実現するためxは概ね0.25であることが好ましい。約99.7%(3σ)の確率で実現するためxは概ね0.09であることが好ましい。つまり、クリアランスの大きさCSに起因する規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコア10の数で除した値xは、0.46以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.09以下であることがさらに好ましい。
【0064】
従って、上記決定工程P3を次のように変更することが可能である。すなわち、貫通孔20PHにコアロッド10Pを挿入する場合におけるコアロッド10Pと貫通孔20PHの内壁とのそれぞれのクリアランスの大きさCSをクラッドロッド20Pの外径で除して100を乗じたそれぞれの規格化クリアランスSCSの残差平方和SRSをコアロッド10Pの数で除した値が0.46以下となるように、コアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する。このような決定工程P3を経て、製造されるマルチコアファイバ1におけるクリアランスの大きさCSに起因するコア10の位置ずれ量は、ITU-T G.652.Dで定められたシングルコアファイバと約68.3%(1σ)以上の確率で同程度となり得る。また、決定工程P3において、上記値が0.25以下となるように、コアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定することで、当該規格で定められたシングルコアファイバと約95.5%(2σ)以上の確率で同程度となり得、上記値が0.09以下となるように、コアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定することで、当該規格で定められたシングルコアファイバと約99.7%(3σ)以上の確率で同程度となり得る。
【0065】
なお、上記実施例はコア10の数が4つの場合について示した。しかし、コア10の数が4以外の場合であっても、上記xは、0.46以下であれば、コアのずれ量が、ITU-T G.652.Dを上記確率で満たし得る。すなわち、クラッドロッド20Pの長手方向に垂直な断面におけるクラッドロッド20Pの中心である基準位置20PRを中心とする所定の円周10PC上に形成される複数の貫通孔20PHが設けられ、それぞれの貫通孔20PHにコアロッド10Pが挿入されるマルチコアファイバ1の製造方法であれば、上記xを0.46以下とすることで、ITU-T G.652.Dを上記確率で満たす程度にコアのずれ量を抑制し得る。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図9、
図10を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0067】
図9は、本実施形態にかかるマルチコアファイバの長手方向に垂直な断面を示す図である。
図9に示すように、本実施形態のマルチコアファイバ1は、コア10が直線状に配置されている点において、第1実施形態のマルチコアファイバ1と異なる。
【0068】
図10は、本実施形態のマルチコアファイバ1を製造するためのマルチコアファイバ用母材を示す図である。
図10に示すように、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pは、クラッドロッド20Pの貫通孔20PHが直線状に配置されている点において、第1実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pと異なる。
【0069】
本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法は、準備工程P1において準備するクラッドロッド20Pが
図10に示すクラッドロッド20Pである点を除き、第1実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法と同様である。また、本実施形態のマルチコアファイバ1は、
図10のマルチコアファイバ用母材1Pを第1実施形態と同様に線引工程P5を行うことで製造することができる。
【0070】
以上、本発明について、実施形態を例に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0071】
例えば、上記実施形態では、コア10の数が4とされたが、コア10が複数であれば、その数は特に限定されない。また、コア10の配置も特に限定されない。例えば、クラッド20の中心に1つのコア10が配置され、当該コア10を囲うように6つのコアが配置される、所謂1-6配置の複数のコア10を有するマルチコアファイバであってもよい。この場合、当該マルチコアファイバを製造するためのマルチコアファイバ用母材1Pのクラッドロッド20Pに形成される貫通孔20PHも1-6配置となり、クラッドロッド20Pの径方向に並ぶ貫通孔の組が3つ形成される。この場合に、決定工程P3で決定されたコアロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせにおいて、それぞれの組毎にそれぞれのクリアランスの大きさCSの和を取る場合に、それぞれの和の残差平方和が最小であることが好ましい。
【0072】
上記実施形態では、光ファイバとしてマルチコアファイバ1を例に説明した。しかし、クラッドロッド20Pに形成された複数の貫通孔20PHに挿入されるガラスロッドは、光ファイバのクラッド20内における所定部位となるガラスロッドであれば、コアロッドに限定されない。
【0073】
例えば、クラッド内の所定部位である応力付与部がコアを挟むように設けられる偏波保持ファイバを製造するための光ファイバ用母材にも本発明を適用することができる。この場合の光ファイバ用母材は、少なくとも応力付与部となるガラスロッドを挿入するための一対の貫通孔が形成されたクラッドロッドと、これらの貫通孔に挿入された応力付与部となるガラスロッドとを、備える。このような光ファイバ用母材を製造するには、上記実施形態と同様にして、準備工程P1、計測工程P2、決定工程P3、及び挿入工程P4を行う。ただし、準備工程P1では、応力付与部となる一対のガラスロッドと、これらガラスロッドが挿入される一対の貫通孔が形成されたクラッドロッドとを準備する。なお、貫通孔の孔径とガラスロッドの外径が分かっている場合には、計測工程P2が行われなくてもよい。また、この偏波保持ファイバを製造するには、これらの工程を経て製造された光ファイバ用母材を線引工程P5で線引する。このように本発明の光ファイバ用母材の製造方法は、クラッドロッドに形成された複数の貫通孔に光ファイバのコアや応力付与部といった所定部位となる複数のガラスロッドを挿入することで製造される光ファイバ用母材に適用することができる。
【0074】
このように、本発明は、偏波保持ファイバにおける応力付与部や、マルチコアファイバにおけるコアといった、クラッド内における複数の所定部位を有する光ファイバ用母材に適用することができる。従って、上記実施形態のマルチコアファイバ1を光ファイバ1とし、マルチコアファイバ用母材1Pを光ファイバ用母材1Pとし、コアロッド10Pをガラスロッド10Pとすると、本発明の各工程は次のようになる。すなわち、準備工程P1では、複数の貫通孔20PHが形成され光ファイバ1のクラッド20となるクラッドロッド20P、及び貫通孔20PHに個別に挿入可能であり光ファイバ1の所定部位となる複数のガラスロッド10Pを準備する。計測工程P2では、ガラスロッド10Pのそれぞれの外径とガラスロッド10Pが挿入される貫通孔20PHの孔径とを計測する。決定工程P3では、貫通孔20PHにガラスロッド10Pを挿入する場合におけるガラスロッド10Pと貫通孔20PHの内壁20Wとのそれぞれのクリアランスの大きさCSの残差平方和RSが最小となるガラスロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせを決定する。挿入工程P4では、決定されたガラスロッド10Pと貫通孔20PHとの組み合わせで、それぞれのガラスロッド10Pをそれぞれの貫通孔20PHに挿入する。なお、ガラスロッド10Pの外径と、貫通孔20PHの孔径とが分かっている場合には、計測工程P2を行わなくてもよい。
【0075】
また、本発明では、ガラスロッド10Pのそれぞれの外径が互いに異なり、ガラスロッド10Pが挿入されるそれぞれの貫通孔20PHの孔径が互いに異なることが好ましい。この場合、製造バラつきに起因する異なる外径を有するガラスロッドを有効に使うことができ、光ファイバ用母材の製造歩留りを向上することができ得る。
【0076】
また、マルチコアファイバ及び偏波保持ファイバを纏めて光ファイバと読み替えると、上記実施形態及び上記変形例では、挿入工程P4の後に、光ファイバ用母材を線引きして、光ファイバを製造した。つまり、貫通孔20PHにコアロッド10P等のガラスロッドが挿入され、貫通孔20PH内にクリアランスがある状態の光ファイバ用母材を線引きして光ファイバ1を製造した。しかし、本発明は、これに限定されない。例えば、光ファイバ用母材をコラプスして、光ファイバ用母材の貫通孔20PHのクリアランスを潰すコラプス工程を行い、光ファイバの中間体である光ファイバ中間体を製造し、当該光ファイバ中間体を線引きする線引工程P5を行ってもよい。コアラプス工程を有する場合には、線引工程P5の脱気は不要である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明によれば、クラッド内における複数の所定部位の位置ずれが従来よりも均等に近づけられた光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法が提供され、光通信の分野や、その他マルチコアファイバを利用したデバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・マルチコアファイバ(光ファイバ)
10・・・コア(所定部位)
20・・・クラッド
1P・・・マルチコアファイバ用母材(光ファイバ用母材)
10P・・・コアロッド(ガラスロッド)
20P・・・クラッドロッド
20PH・・・貫通孔
P1・・・準備工程
P2・・・計測工程
P3・・・決定工程
P4・・・挿入工程
P5・・・線引工程