(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115526
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】架橋性樹脂組成物および樹脂架橋体
(51)【国際特許分類】
C08L 57/00 20060101AFI20240819BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240819BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20240819BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20240819BHJP
C08F 8/14 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08L57/00
C08F8/00
C08F210/02
C08F8/46
C08F8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014470
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023020928
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230331
【氏名又は名称】株式会社ENEOS NUC
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(72)【発明者】
【氏名】須賀 健雄
(72)【発明者】
【氏名】岸田 龍祐
(72)【発明者】
【氏名】店網 隆之介
(72)【発明者】
【氏名】相田 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】伊田 領二
(72)【発明者】
【氏名】安田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】山内 直哉
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA05W
4J002AA05X
4J002AA07X
4J002BB20W
4J002BB20X
4J002BB21W
4J002BB28X
4J002BG04W
4J002BG04X
4J002BG07X
4J002BG12X
4J002EE056
4J002EU026
4J002FD146
4J002GT00
4J100AA02P
4J100AB00Q
4J100AL03Q
4J100AL08Q
4J100AL10Q
4J100AM21Q
4J100AM55R
4J100AU00Q
4J100BA03H
4J100BA11Q
4J100BA16H
4J100BA16Q
4J100BC48H
4J100BC48Q
4J100BC66H
4J100BC66Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA19
4J100HA11
4J100HA13
4J100HA53
4J100HA57
4J100HA61
4J100HC01
4J100HC09
4J100HC25
4J100HC27
4J100HC29
4J100HC30
4J100HC63
4J100HE17
4J100HE41
4J100HF01
(57)【要約】
【課題】可逆的な架橋反応を行うことができる架橋性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】一般式〔I〕:-[CH2 -CR1 (R2 A)](式中、R1 は、水素原子またはメチル基、R2 は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンを含む1価の有機官能基を示す。)で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分と、
一般式〔II〕:R3 -[B]n (式中、R3 は、炭素数1以上の炭化水素基を含むn価(nは1~6の整数である)の有機基、Bは、ジエノフィルを含む1価の有機官能基を示す。)で示される架橋剤成分とを含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含有する化合物からなる成分と、
共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含有する化合物からなる成分とを含有する架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
下記一般式〔I〕で示される繰り返し単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分と、
下記一般式〔II〕で示される架橋剤成分とを含有する請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1 は、水素原子またはメチル基、R
2 は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含む1価の有機官能基を示す。)
【化2】
(式中、R
3 は、炭素数1以上の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数である)の有機基、Bは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含む1価の有機官能基を示す。)
【請求項3】
前記変性ポリエチレン成分において、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:1~100:3,600,000である請求項2に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機官能基Aが共役ジエンを含み、前記有機官能基Bがジエノフィルを含む請求項2に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機官能基Aがアントラセン骨格を有する請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項6】
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が下記の構造である請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【化3】
【請求項7】
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が下記の何れかの構造である請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【化4】
【請求項8】
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が下記の構造である請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【化5】
【請求項9】
前記架橋剤成分がビスマレイミドである請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項10】
前記架橋剤成分が4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンである請求項9に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項11】
前記架橋剤成分がビスナフトキノンである請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項12】
前記架橋剤成分が下記の構造である請求項11に記載の架橋性樹脂組成物。
【化6】
(式中、R
4 は、2価の有機基を示す。)
【請求項13】
請求項4に記載の架橋性樹脂組成物を製造する方法であって、
CH2 =CR1 (R2 A)で示される化合物をラジカル反応によりポリエチレンに結合させて前記変性ポリエチレン成分を調製する工程を含む架橋性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項4に記載の架橋性樹脂組成物を製造する方法であって、
無水マレイン酸変性ポリエチレンと、有機官能基Aを有するアルコールとのエステル化反応により前記変性ポリエチレン成分を調製する工程を含む架橋性樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項4に記載の架橋性樹脂組成物を製造する方法であって、
エチレンエチルアクリレート共重合体と、有機官能基Aを有するアルコールとのエステル交換反応により前記変性ポリエチレン成分を調製する工程を含む架橋性樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
下記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有する共役ジエン変性ポリエチレン成分と、
下記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有するジエノフィル変性ポリエチレン成分とを含有する請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【化7】
(上記一般式〔IA〕中、R
11は、水素原子またはメチル基、R
12は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンを含む1価の有機官能基を示す。上記一般式〔IB〕中、R
13は、水素原子またはメチル基、R
14は、直接結合または2価の有機基、Bは、ジエノフィルを含む1価の有機官能基を示す。)
【請求項17】
下記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位、下記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分を含有する請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【化8】
(上記一般式〔IA〕中、R
11は、水素原子またはメチル基、R
12は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンを含む1価の有機官能基を示す。上記一般式〔IB〕中、R
13は、水素原子またはメチル基、R
14は、直接結合または2価の有機基、Bは、ジエノフィルを含む1価の有機官能基を示す。)
【請求項18】
共役ジエンとジエノフィルとの環化付加反応により形成される架橋構造を有する樹脂架橋体。
【請求項19】
下記一般式〔III〕で示される構造単位を有する請求項18に記載の樹脂架橋体。
【化9】
〔式中、R
3 は、炭素数1以上の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数)の有機基、Xは、6員環構造を有する2価の有機基を示す。Dは、下記一般式〔IV〕で示される繰り返し単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有する有機基を示す。〕
【化10】
(式中、R
1 は、水素原子またはメチル基、R
2 は、直接結合または2価の有機基を示す。)
【請求項20】
上記一般式〔III〕において、Xが下記の構造である請求項19に記載の樹脂架橋体。
【化11】
【請求項21】
上記一般式〔III〕において、Xが下記の構造である請求項19に記載の樹脂架橋体。
【化12】
【請求項22】
下記一般式〔V〕で示される構造単位および-[CH
2 CH
2 ]-で示される繰り返し単位を有する樹脂架橋体。
【化13】
(式中、R
11およびR
13は、水素原子またはメチル基、R
12およびR
14は、直接結合または2価の有機基、Xは、6員環構造を有する2価の有機基を示す。)
【請求項23】
110~170℃の加熱条件下において、前記有機官能基Aの有する共役ジエンまたはジエノフィルと、前記有機官能基Bの有するジエノフィルまたは共役ジエンとが環化付加反応することにより架橋する請求項2に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項24】
165~310℃の加熱条件下において、前記有機基Xの有する6員環構造が、共役ジエンとジエノフィルとに解離されることによって脱架橋する請求項19に記載の樹脂架橋体。
【請求項25】
架橋度が25%以上である請求項18に記載の樹脂架橋体。
【請求項26】
加熱変形率が40%以下である請求項18に記載の樹脂架橋体。
【請求項27】
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が下記の何れかの構造である請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【化14】
【請求項28】
前記有機官能基Bのジエノフィル部位が、前記有機官能基Aに含まれる前記共役ジエンとは異なる共役ジエンを有する化合物で環化付加反応させて保護されていることを特徴とする請求項4に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項29】
前記架橋剤成分が下記一般式で示される化合物からなることを特徴とする請求項28に記載の架橋性樹脂組成物。
【化15】
(式中、R
4 は、2価の有機基を示す。)
【請求項30】
請求項4に記載の架橋性樹脂組成物を製造する方法であって、
エポキシ基を側鎖に有するポリエチレンと、カルボキシル基を有する共役ジエンとの反応により前記変性ポリエチレン成分を調製する工程を含む架橋性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性樹脂組成物および樹脂架橋体に関し、さらに詳しくは、可逆的な架橋反応可能な架橋性樹脂組成物、および架橋構造の少なくとも一部を未架橋の状態に戻してリサイクルすることのできる樹脂架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは熱や溶媒で溶融させることができず、そのリサイクル方法が限られている。そのため、超臨界状態の水(下記特許文献1参照)や2軸押出機によるせん断(下記特許文献2参照)により炭素鎖を強引に切断する方法が検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-192495
【特許文献2】特開2018-35247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法は設備の新規導入や品質の劣化が避けられず、工業化には殆ど至っていない。
【0005】
本発明の第1の目的は、可逆的な架橋反応を行うことができる架橋性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、そのような架橋性樹脂組成物を好適に製造する方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、架橋構造の少なくとも一部を未架橋の状態に戻すことができる樹脂架橋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の架橋性樹脂組成物は、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含有する化合物からなる成分と、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含有する化合物からなる成分とを含有することを特徴とする。
なお、共役ジエンおよびジエノフィルの両方を含有する化合物であれば、当該化合物からなる一成分を含有するのみで、本発明の架橋性樹脂組成物を構成する。
【0007】
本発明の好適な一の架橋性樹脂組成物(以下、「第1の架橋性樹脂組成物」ともいう)は、下記一般式〔I〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分と、下記一般式〔II〕で示される架橋剤成分とを含有することを特徴とする。
【0008】
【0009】
(式中、R1 は、水素原子またはメチル基、R2 は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含む1価の有機官能基を示す。)
【0010】
【0011】
(式中、R3 は、炭素数1以上の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数である)の有機基、Bは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含む1価の有機官能基を示す。)
【0012】
また、本発明の好適な他の架橋性樹脂組成物(以下、「第2の架橋性樹脂組成物」ともいう)は、下記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する共役ジエン変性ポリエチレン成分と、
下記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有するジエノフィル変性ポリエチレン成分とを含有することを特徴とする。
【0013】
【0014】
(式中、R11は、水素原子またはメチル基、R12は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンを含む1価の有機官能基を示す。)
【0015】
【化19】
(式中、R
13は、水素原子またはメチル基、R
14は、直接結合または2価の有機基、Bは、ジエノフィルを含む1価の有機官能基を示す。)
【0016】
また、本発明の好適な更に他の架橋性樹脂組成物(以下、「第3の架橋性樹脂組成物」ともいう)は、上記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位、上記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分(共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分)を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の樹脂架橋体は、共役ジエンとジエノフィルとの環化付加反応により形成される架橋構造を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の好適な一の樹脂架橋体(以下、「第1の樹脂架橋体」ともいう)は、下記一般式〔III〕で示される構造単位を有することを特徴とする。
【0019】
【0020】
〔式中、R3 は、炭素数1以上の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数)の有機基、Xは、6員環構造を有する2価の有機基を示す。Dは、下記一般式〔IV〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する有機基(変性ポリエチレン残基)を示す。〕
【0021】
【0022】
(式中、R1 は、水素原子またはメチル基、R2 は、直接結合または2価の有機基を示し、この有機基R2 が、上記式〔III〕に示した有機基Xと結合している。)
【0023】
また、本発明の好適な他の樹脂架橋体(以下、「第2の樹脂架橋体」ともいう)は、下記一般式〔V〕で示される構造単位(架橋構造)および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0024】
【0025】
(式中、R11およびR13は、水素原子またはメチル基、R12およびR14は、直接結合または2価の有機基、Xは、6員環構造を有する2価の有機基を示す。)
【0026】
本発明の架橋性樹脂組成物を所定の温度(例えば110~170℃)に加熱することにより、共役ジエンとジエノフィルとの環化付加反応(ディールス・アルダー反応)が起こり、これによってポリエチレン主鎖が架橋されて樹脂架橋体を得ることができる。
【0027】
具体的には、第1の架橋性樹脂組成物を前記所定の温度に加熱することにより、変性ポリエチレン成分の有する有機官能基Aに含まれる共役ジエンおよびジエノフィルの一方と、架橋剤成分の有する有機官能基Bに含まれる共役ジエンおよびジエノフィルの他方との環化付加反応により、第1の樹脂架橋体を得ることができる。
【0028】
また、第2の架橋性樹脂組成物または第3の架橋性樹脂組成物を前記所定の温度に加熱することにより、有機官能基Aに含まれる共役ジエンと、有機官能基Bに含まれるジエノフィルとの環化付加反応により、第2の樹脂架橋体を得ることができる。
【0029】
本発明の樹脂架橋体を所定の温度(例えば165~310℃)に加熱することにより、架橋構造を構成する6員環構造が共役ジエンとジエノフィルとに解離されて樹脂架橋体が脱架橋される。
【0030】
具体的には、第1の樹脂架橋体を前記所定の温度に加熱することにより、上記一般式〔III〕に示した有機基Xの有する6員環構造が共役ジエンとジエノフィルとに解離され、これにより、共役ジエンおよびジエノフィルの一方を側鎖に有する変性ポリエチレン成分と、共役ジエンおよびジエノフィルの他方をn個有する架橋剤成分とが生成されて、第1の架橋性樹脂組成物を再製することができる。
【0031】
また、第2の樹脂架橋体を前記所定の温度に加熱することにより、上記一般式〔V〕に示した有機基Xの有する6員環構造が共役ジエンとジエノフィルとに解離され、これにより、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を有する変性ポリエチレン成分と、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を有する変性ポリエチレン成分とが生成されて、第2の架橋性樹脂組成物または第3の架橋性樹脂組成物を再製することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の架橋性樹脂組成物は可逆的な架橋(架橋反応および脱架橋反応)を行うことができる。ここに、架橋反応は相対的に低温で行われ、脱架橋反応は相対的に高温で行われる。
本発明の架橋性樹脂組成物によれば、所定の温度(相対的に低温)で、架橋性樹脂組成物の架橋反応が起こり、これにより、樹脂架橋体を好適に製造することができる。
本発明の架橋性樹脂組成物の製造方法によれば、架橋性樹脂組成物を好適に製造することができる。
本発明の樹脂架橋体は、脱架橋反応により、架橋構造の少なくとも一部を未架橋の状態に戻すことができる。
本発明の樹脂架橋体によれば、所定の温度(相対的に高温)で、樹脂架橋体の脱架橋反応が起こり、これにより、架橋性樹脂組成物を好適に再製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の架橋性樹脂組成物>
以下、本発明について説明する。
本発明の第1の架橋性樹脂組成物は、変性ポリエチレン成分と、架橋剤成分とを含有する。
【0034】
<変性ポリエチレン成分>
本発明の第1の架橋性樹脂組成物の変性ポリエチレン成分は、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する。
すなわち、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が導入されることによりポリエチレンが変性されている。
【0035】
上記一般式〔I〕において、R1 は、水素原子またはメチル基、R2 は、直接結合または2価の有機基、Aは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含む1価の有機官能基である。
【0036】
R2 で示される好ましい2価の有機基としては、-COOCH2 -、-CH(COOH)-CH2 -COOCH2 -、-CH(CH2 -COOH)-COO-、-CH2 -、-CH2 CH(CH3 )COO-、-CH2 CH2 COO-、-COOCH2 CH(OH)-CH2 -OCO-、-COOCH2 CH(CH2 OH)-OCO-などを挙げることができる。
【0037】
Aで示される共役ジエン構造を有する1価の有機官能基としては、アントラセン骨格含有基(アントリル基)、フラン骨格含有基、シクロペンタジエニル骨格含有基、チオフェン骨格含有基、シクロペンタジエニル骨格含有基およびブタジエニル基などを挙げることができる。
これらのうち、アントラセン骨格含有基およびフラン骨格含有基が好ましく、アントラセン骨格含有基が特に好ましい。
アントラセン骨格含有基を有機官能基Aとする変性ポリエチレン成分を含有する樹脂組成物によれば、これを架橋して製造される樹脂架橋体が、ケーブル用途に好適な優れた耐熱性を有するとともに、当該樹脂架橋体を脱架橋して架橋性樹脂組成物を再製する際、生成される変性ポリエチレン成分の熱劣化を抑制することができる。
【0038】
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位であって、有機官能基Aが共役ジエンを含む好ましい繰り返し単位としては、下記式(1)~(7)、式(7-2)~(7-8)で示される9-アントリル基を含む構造、式(7-9)~(7-10)で示される1-アントリル基を含む構造などを挙げることができる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
また、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位であって、有機官能基Aがジエノフィルを含む好ましい繰り返し単位としては、下記式(7-11)~(7-15)で示される、または、後述する実施例において式(11)~(12)で示される、マレイミド基を含む構造、あるいは、下記式(7-16)~(7-20)で示される、ナフトキノン基を含む構造などを挙げることができる。
【0044】
【0045】
【0046】
変性ポリエチレン成分は、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位と、-[CH2 -CH2 ]-で示される繰り返し単位とによるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体またはグラフト共重合体からなる。
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率は100:1~100:3,600,000であることが好ましく、更に好ましくは100:3,000~100:360,000、特に好ましくは100:300~100:180,000である。
上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位(有機官能基A)が過少であると、そのような変性ポリエチレン成分を含有する樹脂組成物を架橋して得られる樹脂架橋体の架橋度が低いために加熱変形率が高くなり、樹脂架橋体に要求される性能(例えば耐熱性)を十分に発揮することができない。
他方、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位が過大であると、ポリエチレンの結晶性が低下して融点が低下し、得られる樹脂架橋体は高温時に変形しやすくなるため、好ましくない。
【0047】
変性ポリエチレン成分の調製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、(a)ポリエチレンと、CH2 =CR1 (R2 A)と、過酸化物とを混合し、ラジカル反応により、ポリエチレンにCH2 =CR1 (R2 A)を結合させる方法;
(b)エチレンエチルアクリレート共重合体と、有機官能基Aを有するアルコールとを反応(エステル交換反応)させる方法;
(c)無水マレイン酸変性ポリエチレンと、有機官能基Aを有するアルコールとを反応(エステル化反応)させる方法;
(d)エポキシ基を側鎖に有するポリエチレンと、カルボキシル基を有する共役ジエンとを反応させる方法などを挙げることができる。
【0048】
上記(a)の調製方法の具体例としては、9-アントリルメチルメタクリレートをラジカル反応によりポリエチレンに結合させることにより、上記式(1)で示される構造を有する変性ポリエチレン成分を得ることができる。
上記(b)の調製方法の具体例としては、エチレンエチルアクリレート共重合体と、9-アントラセンメタノールとのエステル交換反応により、上記式(2)で示される構造を有する変性ポリエチレン成分を得ることができる。
上記(c)の調製方法の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレンと、9-アントラセンメタノールとのエステル化反応により、上記式(3)で示される構造を有する変性ポリエチレン成分を得ることができる。
上記(d)の調製方法の具体例としては、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、9-アントラセンカルボン酸との反応により、上記式(7-7)または式(7-8)で示される構造を有する変性ポリエチレン成分を得ることができる。
また、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、1-アントラセンカルボン酸との反応により、上記式(7-9)または式(7-10)で示される構造を有する変性ポリエチレン成分を得ることができる。
【0049】
<架橋剤成分>
本発明の第1の架橋性樹脂組成物の架橋剤成分は、上記一般式〔II〕で示される。
上記一般式〔II〕において、R3 は、炭素数1以上、好ましくは1~16の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数である)の有機基、Bは、共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含む1価の有機官能基を示す。
1分子中に含まれる有機官能基Bの数nは2~6とされ、好ましくは2~3、好適な一例を示せば2とされる。
【0050】
Bで示されるジエノフィル構造を有する1価の有機官能基としては、マレイミド基、キノン基、ナフトキノン基、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基、(メタ)アクリロイル基、マレイン酸エステル基およびマレイン酸チオエステル基を挙げることができる。これらのうち、マレイミド基およびナフトキノン基が好ましい。
【0051】
ジエノフィルを有する好ましい架橋剤成分としては、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンなどのビスマレイミド、下記式(8)で示されるものに代表されるビスナフトキノンを挙げることができる。
【0052】
【0053】
式(8)中、R4 は、2価の有機基を示す。
有機基R4 は、鎖式(直鎖・分岐鎖)および環式の何れの構造を有していてもよい。
有機基R4 は官能基を有していてもよく、そのような官能基として、オキシアルキレン基およびフェニル基などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。直鎖状構造を有する有機基R4 の炭素数は1~18であることが好ましく、好適な一例を示せば6である。有機基R4 の有する環式構造としてはシクロヘキサン骨格が好ましい。上記のような有機基R4 を有する架橋剤成分は、環化付加反応の反応性が高く、架橋度を十分に高くすることができ、樹脂架橋体に要求される性能を十分に満たすことができる。
【0054】
なお、ジエノフィル部位は反応性が高く、架橋を形成するための共役ジエン部位以外と意図しない反応をする可能性がある。このような反応を防止するためにジエノフィル部位をさらに別の共役ジエンを有する化合物で環化付加反応させて保護(マスキング)してもよい。この場合、当該別の共役ジエン化合物の逆環化付加反応温度は、架橋を形成する共役ジエン化合物の環化付加反応温度より低温でなくてはならない。マスキングしたジエノフィル化合物の好ましい具体例として、上記式(8)に示した化合物にシクロペンタジエンを環化付加反応させて得られる、下記式(8-2)で示される化合物を挙げることができる。
【0055】
【0056】
式(8-2)中、R4 は、式(8)に示したR4 と同様である。
【0057】
上記式(8-2)に示した化合物の調製方法の一例を示せば、ヘキサメチレンビスナフトキノンのクロロホルム溶液にシクロペンタジエンを加えて反応させ、クロロホルムを減圧留去させた後、カラム精製を経ることにより、黄色固体として、シクロペンタジエン付加ヘキサメチレンビスナフトキノンを得ることができる。
【0058】
共役ジエンを有する好ましい架橋剤成分としては、下記式(8-3)で示される化合物を挙げることができる。
【0059】
【0060】
式(8-3)中、R4 は、式(8)に示したR4 と同様である。
【0061】
<第1の樹脂架橋体>
本発明の第1の樹脂架橋体は、上記一般式〔III〕で示される構造単位を有する。
上記一般式〔III〕において、R3 は、炭素数1以上、好ましくは1~16の炭化水素基を含むn価(nは2~6の整数である)の有機基を示し、有機基R3 は、第1の架橋性樹脂組成物の架橋剤成分から有機官能基Bを除いた架橋剤残基である。
【0062】
Xは、共役ジエンとジエノフィルとの環化付加反応により得られる6員環構造を有する2価の有機基であり、樹脂架橋体の架橋点である。
【0063】
Dは、上記一般式〔IV〕で示される繰り返し単位と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位とを有する有機基を示し、有機基Dは、第1の架橋性樹脂組成物の変性ポリエチレン成分から有機官能基Aを除いた変性ポリエチレン残基である。
有機基(変性ポリエチレン残基)Dは、これに含まれる有機基R2 によって有機基Xと結合されている。
【0064】
Xで示される好ましい有機基としては、アントリル基(アントラセン骨格含有基)とマレイミド基との環化付加反応により得られる下記式(9)に示される有機基、アントリル基(アントラセン骨格含有基)とビスナフトキノンとの環化付加反応により得られる下記式(10)に示される有機基を挙げることができる。
【0065】
【0066】
本発明の第1の樹脂架橋体は、本発明の第1の架橋性樹脂組成物を所定の温度で加熱して、変性ポリエチレン成分の有機官能基A(共役ジエンおよびジエノフィルの一方)と、架橋剤成分の有機官能基B(共役ジエンおよびジエノフィルの他方)とを環化付加反応(ディールス・アルダー反応)させて、第1の架橋性樹脂組成物を架橋させることにより製造することができる。
【0067】
ここに、架橋性樹脂組成物を架橋させるための加熱温度(当該樹脂組成物の架橋温度)としては110~170℃であることが好ましく、更に好ましくは120~160℃とされる。
架橋させるための加熱処理方法としては、窒素、水蒸気、シリコーン油、溶融塩等の雰囲気下において加熱させる方法、加熱プレス機や射出成型機で成型中に加熱させる方法など、樹脂架橋体の形態などに応じて種々の方法を採用することができる。
【0068】
本発明の第1の樹脂架橋体は、これを所定の温度で加熱して、有機基Xの有する6員環構造を共役ジエンとジエノフィルとに解離させる(環化付加反応の逆反応)ことによって、共役ジエンおよびジエノフィルの一方を含む繰り返し単位を有する変性ポリエチレン成分と、共役ジエンおよびジエノフィルの他方を2個以上有する架橋剤成分とが生成され、これにより、第1の架橋性樹脂組成物が再製される。
ここに、樹脂架橋体を脱架橋させるための加熱温度(当該樹脂架橋体の脱架橋温度)としては165~310℃であることが好ましく、更に好ましくは165~300℃とされる。
脱架橋温度が165℃以上である樹脂架橋体は優れた耐熱性を有するものとなる。
また、脱架橋温度が310℃以下である樹脂架橋体は、当該樹脂架橋体から架橋性樹脂組成物を再製する際に、生成される変性ポリエチレン成分の熱劣化を抑制することができる。
脱架橋温度が165~310℃である本発明の樹脂架橋体は、アントラセン骨格含有基を有機官能基Aとする変性ポリエチレン成分と、ジエノフィルを有機官能基Bとする架橋剤成分とを含有する本発明の架橋性樹脂組成物を架橋することにより好適に製造することができる。
【0069】
本発明の架橋性樹脂組成物の架橋可能温度を(T1 )、当該架橋性樹脂組成物を架橋してなる樹脂架橋体の脱架橋可能温度を(T2 )とするとき、(T2 -T1 )は15℃以上であることが好ましい。
【0070】
<第2の架橋性樹脂組成物>
本発明の第2の架橋性樹脂組成物は、共役ジエン変性ポリエチレン成分(共役ジエンおよびジエノフィルの一方を含有する化合物)と、ジエノフィル変性ポリエチレン成分(共役ジエンおよびジエノフィルの他方を含有する化合物)とを含有する。
【0071】
<共役ジエン変性ポリエチレン成分>
第2の架橋性樹脂組成物の共役ジエン変性ポリエチレン成分は、上記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する。
共役ジエン変性ポリエチレン成分は、第1の架橋性樹脂組成物の変性ポリエチレン成分(一般式〔I〕に示す有機官能基Aが共役ジエンを含むもの)と同様の変性ポリエチレンである。
【0072】
<ジエノフィル変性ポリエチレン成分>
第2の架橋性樹脂組成物のジエノフィル変性ポリエチレン成分は、上記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位、および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する。
【0073】
上記一般式〔IB〕において、R14で示される好ましい2価の有機基としては、-COOCH2 -、-CH(COOH)-CH2 -COOCH2 -、-CH(CH2 -COOH)-COO-、-CH2 -、-CH2 CH(CH3 )COO-、-CH2 CH2 COO-、-COOCH2 CH(OH)-CH2 -OCO-、-COOCH2 CH(CH2 OH)-OCO-などを挙げることができる。
【0074】
有機官能基Bに含まれるジエノフィルとしては、マレイミド基、ナフトキノン基、キノン基、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基、(メタ)アクリロイル基、マレイン酸エステル基およびマレイン酸チオエステル基を挙げることができる。これらのうち、マレイミド基およびナフトキノン基が好ましい。
【0075】
第2の架橋性樹脂組成物を所定の温度(例えば110~170℃)に加熱することにより、共役ジエン変性ポリエチレン成分の有する有機官能基Aに含まれる共役ジエンと、ジエノフィル変性ポリエチレン成分の有する有機官能基Bに含まれるジエノフィルとの環化付加反応により、第2の樹脂架橋体を得ることができる。
【0076】
<第3の架橋性樹脂組成物>
本発明の第3の架橋性樹脂組成物は、上記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位、上記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分(共役ジエンおよびジエノフィルの両方を含有する化合物)を少なくとも1種含有する。
【0077】
第3の架橋性樹脂組成物を構成する共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分は、「共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも一方を含有する化合物」であるとともに、「共役ジエンおよびジエノフィルの少なくとも他方を含有する化合物」である。
従って、この共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分を1種類含有することで、本発明の架橋性樹脂組成物の要件を充足する。
【0078】
第3の架橋性樹脂組成物を所定の温度(例えば110~170℃)に加熱することにより、共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分が有している有機官能基Aに含まれる共役ジエンと、有機官能基Bに含まれるジエノフィルとの環化付加反応により、共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分が架橋して第2の樹脂架橋体を得ることができる。
【0079】
<第2の樹脂架橋体>
本発明の第2の樹脂架橋体は、上記一般式〔V〕で示される構造単位および-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位を有する。
【0080】
第2の架橋性樹脂組成物により得られる第2の樹脂架橋体を、当該架橋体を得るために加熱した温度よりも高い所定の温度(例えば165~310℃)に加熱することにより、上記一般式〔V〕に示した有機基Xの有する6員環構造が共役ジエンとジエノフィルとに解離され、これにより、共役ジエン変性ポリエチレン成分と、ジエノフィル変性ポリエチレン成分とが生成されて、第2の架橋性樹脂組成物を再製することができる。
また、第3の架橋性樹脂組成物により得られる第2の樹脂架橋体を、当該架橋体を得るために加熱した温度よりも高い所定の温度(例えば165~310℃)に加熱することにより、共役ジエン-ジエノフィル変性ポリエチレン成分が生成されて、第3の架橋性樹脂組成物を再製することができる。
【0081】
<樹脂架橋体の架橋度>
本発明の樹脂架橋体(第1の樹脂架橋体および第2の樹脂架橋体)の架橋度は、25%以上であることが好ましく、更に好ましくは35%以上である。
架橋度が過小(例えば25%未満)であると、十分な耐熱性を発揮することができず、樹脂の融点を超える温度条件下では溶解してしまう。
【0082】
<樹脂架橋体の加熱変形率>
本発明の樹脂架橋体(第1の樹脂架橋体および第2の樹脂架橋体)の加熱変形率(加熱による厚さの減少率)は40%以下であることが好ましく、更に好ましくは20%以下である。
樹脂架橋体の加熱変形率が過大(例えば40%を超える)場合には、十分な耐熱性を発揮することができず、高温条件下では樹脂が大きく変形する。そのため、例えばケーブルなどの用途に使用する場合には問題となる。
【0083】
本発明の架橋性樹脂組成物には、従来の樹脂組成物に使用されている種々の物質を任意成分として含有させることができる。かかる任意成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、プロセスオイルなど特に限定されるものではない。
【実施例0084】
<変性ポリエチレン成分の調製>
(1)調製例1:
直鎖状低密度ポリエチレン「NUCG-9301」(株式会社ENEOS NUC製,密度=0.920g/cm3 ,MFR(2.16kg)=0.7g/10min)100質量部と、9-アントリルメチルメタクリレート2.6質量部と、ジクミルパーオキサイド(有機過酸化物)0.5質量部とをラボプラストミル(東洋精機製作所製,型式4C150)に仕込み、これを加熱しながら混合することにより、ラジカル反応によって9-アントリルメチルメタクリレートをポリエチレンに結合させた。得られた混合物をクロロホルムに浸漬して未反応の9-アントリルメチルメタクリレートを除去することにより、上記式(6)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:100,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0085】
(2)調製例2:
エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)「NUC-6520」(株式会社ENEOS NUC製,密度=0.94g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.6g/10min,エチルアクリレート含有量=24質量%)100質量部と、9-アントラセンメタノール5質量部と、1,5,7-Triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene(TBD)からなる触媒0.3質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することによりエステル交換反応をさせた。得られた混合物をアセトンに浸漬して未反応の9-アントラセンメタノールおよび触媒(TBD)を除去することにより、上記式(2)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:40,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0086】
(3)調製例3:
無水マレイン酸変性ポリエチレン「Bondyram4108」(Polyram社製,密度=0.92g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.5g/10min,無水マレイン酸含有量=0.9質量%)100質量部と、9-アントラセンメタノール5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することによりエステル化反応させた。得られた混合物をクロロホルムに浸漬して未反応の9-アントラセンメタノールを除去することにより、上記式(3)で示した繰り返し単位および上記式(4)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:40,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0087】
(4)調製例4:
低密度ポリエチレン「NUCG-8230」(株式会社ENEOS NUC製,密度=0.924g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.0g/10min)100質量部と、9-アントリルメチルメタクリレート2.1質量部と、ジクミルパーオキサイド(有機過酸化物)1.0質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することにより、ラジカル反応によって9-アントリルメチルメタクリレートをポリエチレンに結合させた。得られた混合物をクロロホルムに浸漬して未反応の9-アントリルメチルメタクリレートを除去することにより、上記式(6)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:400,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0088】
(5)調製例5:
無水マレイン酸変性ポリエチレン「Bondyram4108」(Polyram社製,密度=0.92g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.5g/10min,無水マレイン酸含有量=0.9質量%)100質量部と、9-アントラセンメタノール2質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することによりエステル化反応させ、上記式(3)で示した繰り返し単位および上記式(4)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:500,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0089】
(6)調製例6:
無水マレイン酸変性ポリエチレン(密度=0.92g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.0 g/10min,無水マレイン酸含有量=0.5質量%)100質量部と、9-アントラセンメタノール2質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することによりエステル化反応させた。得られた混合物をクロロホルムに浸漬して未反応の9-アントラセンメタノールを除去することにより、上記式(3)で示した繰り返し単位および上記式(4)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔IA〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:80,000である変性ポリエチレン成分(共役ジエン変性ポリエチレン成分)を得た。
【0090】
(7)調製例7:
無水マレイン酸変性ポリエチレン(密度=0.92g/cm3 ,MFR(2.16kg)=1.0 g/10min,無水マレイン酸含有量=0.5質量%)100質量部と、N-(2-ヒドロキシエチル)マレイミド1.5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することによりエステル化反応させた。得られた混合物をクロロホルムに浸漬して未反応のN-(2-ヒドロキシエチル)マレイミドを除去することにより、下記式(11)で示した繰り返し単位および下記式(12)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔IB〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:80,000である変性ポリエチレン成分(ジエノフィル変性ポリエチレン成分)を得た。
【0091】
【0092】
(8)調製例8:
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(密度=0.93g/cm3 ,MFR(2.16kg)=3.0g/10min,グリシジルメタクリレート含有量=6質量%)100質量部と、9-アントラセンカルボン酸3質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することにより反応させ、上記式(7-7)で示した繰り返し単位および上記式(7-8)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:25,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0093】
(9)調製例9:
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(密度=0.93g/cm3 ,MFR(2.16kg)=3.0g/10min,グリシジルメタクリレート含有量=6質量%)100質量部と、1-アントラセンカルボン酸3質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混合することにより反応させ、上記式(7-9)で示した繰り返し単位および上記式(7-10)で示した繰り返し単位を有し、上記一般式〔I〕で示される繰り返し単位の数と、-[CH2 CH2 ]-で示される繰り返し単位の数との比率が100:25,000である変性ポリエチレン成分を得た。
【0094】
<架橋剤成分の準備>
(1)実施例1~4および8で使用するための架橋剤成分(ビスマレイミド)として、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン(東京化成工業株式会社製 CAS13676-54-5)を準備した。
【0095】
(2)実施例5~7で使用するための架橋剤成分(ビスナフトキノン)として、上記式(8)で示される化合物を下記のようにして調製した。
1,6-ジヨードヘキサン(5.73g、16.9mmol)、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン(11.6g,67.5mmol)のジクロロエタン溶液に、酸化銀(15.6g、67.5mmol)を加え、室温で8時間反応させた。酸化銀のろ別、カラム精製(クロロホルム)を経て黄色固体として、上記式(8)におけるR4 がヘキサメチレン基であるヘキサメチレンビスナフトキノン4.74gを収率65%で得た。
【0096】
(3)実施例11で使用するための架橋剤成分(マスキングビスナフトキノン)として、上記式(8-2)で示される化合物を下記のようにして調製した。
上記(2)で調製したヘキサメチレンビスナフトキノンのクロロホルム溶液にシクロペンタジエンを過剰量加え、室温で1時間反応させた。クロロホルムを減圧留去させた後、カラム精製を経ることにより、黄色固体として、上記式(8-2)で示されるシクロペンタジエン付加ヘキサメチレンビスナフトキノンを得た。
【0097】
<架橋性樹脂組成物の製造>
〔実施例1〕
調製例1により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスマレイミド0.6質量部とを前記ラボプラストミルに仕込み、これを加熱しながら混練することにより、本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0098】
〔実施例2〕
調製例2により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスマレイミド5.2質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0099】
〔実施例3〕
調製例3により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスマレイミド1.5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0100】
〔実施例4〕
調製例4により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスマレイミド0.5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0101】
〔実施例5〕
調製例1により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスナフトキノン0.7質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0102】
〔実施例6〕
調製例3により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスナフトキノン1.7質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0103】
〔実施例7〕
調製例4により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスナフトキノン0.6質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0104】
〔実施例8〕
調製例5により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスマレイミド1.4質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0105】
〔実施例9〕
調製例6により得られた変性ポリエチレン成分(共役ジエン変性ポリエチレン成分)50質量部と、調製例7により得られた変性ポリエチレン成分(ジエノフィル変性ポリエチレン成分)50質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第2の架橋性樹脂組成物)を得た。
【0106】
〔実施例10〕
調製例8により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスナフトキノン2.5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1 と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の樹脂組成物)を得た。
【0107】
〔実施例11〕
調製例8により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、マスキングビスナフトキノン3.2質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の樹脂組成物)を得た。
【0108】
〔実施例12〕
調製例3により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、マスキングビスナフトキノン2.2質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の樹脂組成物)を得た。
【0109】
〔実施例13〕
調製例9により得られた変性ポリエチレン成分100質量部と、ビスナフトキノン2.5質量部とを前記ラボプラストミルに仕込んだこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物(第1の樹脂組成物)を得た。
【0110】
<樹脂架橋体の製造(架橋反応)>
実施例1~8、10~13で得られた第1の架橋性樹脂組成物並びに実施例9で得られた第2の架橋性樹脂組成物の各々を、加熱プレス機(東邦マシナリー製,TBD-50型)を用いて、150℃で30分間にわたりプレスすることにより、架橋させ、厚さ1mmのシート状の樹脂架橋体(実施例1~8、10~13に係る第1の樹脂架橋体並びに実施例9に係る第2の樹脂架橋体)を得た。
【0111】
実施例1~8、10~13の各々で得られた第1の架橋性樹脂組成物の架橋温度に相当する温度として、対応する実施例で使用した架橋剤成分(ビスマレイミドまたはビスナフトキノン)と、当該実施例で使用した変性ポリエチレンを得るための調製例で使用した9-アントリル基含有化合物(9-アントリルメチルメタクリレートまたは9-アントラセンメタノール)との反応温度を下記のようにして測定した。結果を併せて下記表1に示す。
【0112】
また、実施例9で得られた第2の架橋性樹脂組成物の架橋温度に相当する温度として、調製例6で使用した9-アントラセンメタノールと、調製例7で使用したN-(2-ヒドロキシエチル)マレイミドとはマレイミド基を有する点で共通する4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンとの反応温度を下記のように測定した。結果を併せて下記表1に示す。
【0113】
(反応温度の測定方法)
架橋剤成分(ジエノフィル)および9-アントリル基含有化合物(共役ジエン)を等量で混合したサンプルを示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテク製,DSC7020)用いて、昇温速度10℃/minで昇温させDSC曲線を測定し、このDSC曲線から観測された発熱ピーク温度を反応温度(架橋温度)とした。
【0114】
<樹脂架橋体の架橋度の測定>
実施例1~8、10~13で得られた第1の架橋性樹脂組成物並びに実施例9で得られた第2の架橋性樹脂組成物の各々を架橋してなる前記シート状の樹脂架橋体から試験片を作製し、当該試験片を使用したこと以外はJIS C3005に準拠して架橋度(ゲル分率)を測定した。
結果を併せて下記表1に示す。
【0115】
<樹脂架橋体の加熱変形率の測定>
実施例1~8、10~13で得られた第1の架橋性樹脂組成物並びに実施例9で得られた第2の架橋性樹脂組成物の各々を架橋してなる板状の樹脂架橋体から試験片を作製し、当該試験片を使用したこと以外はJIS C3005に準拠して加熱変形率(加熱による厚さの減少率)を測定した。
結果を併せて下記表1に示す。
【0116】
<架橋性樹脂組成物の再製(脱架橋反応)>
実施例1~8、10~13で得られた第1の架橋性樹脂組成物並びに実施例9で得られた第2の架橋性樹脂組成物の各々を架橋してなる樹脂架橋体を初期温度130℃から昇温させ、レオメータ(Anton Paar社製,MCR302)を用いて複素粘度変化(角周波数0.1rad/s)を測定し、粘度低下が認められたときの温度を測定し、これを「脱架橋温度」とした。
【0117】
また、脱架橋温度+10℃における複素粘度(η*
1 )と、脱架橋温度-10℃における複素粘度(η*
2 )とから、下記式により、脱架橋による粘度低下率を計算した。この粘度低下率が高いほど脱架橋反応が進行しやすく、容易にリサイクルできるので有利である。
結果を併せて下記表1に示す。
【0118】
式:粘度低下率(%)=[1-(η*
1 )/(η*
2 )]×100
【0119】