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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115527
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】タンパク質の修飾剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20240819BHJP
   C07D 277/66 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C07K14/435
C07D277/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014494
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023020824
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520449345
【氏名又は名称】キヤノンバージニア, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Canon Virginia, Inc.
【住所又は居所原語表記】12000 Canon Blvd., Newport News, Virginia, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】水澤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 遊磨
(72)【発明者】
【氏名】井上 圭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和香
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA51
4H045CA40
4H045CA50
4H045CA51
4H045EA01
4H045EA20
4H045EA45
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】分子サイズの小さい材料を用いてβシート構造を有するタンパク質に機能を付与することを目的とする。
【解決手段】生体分子に由来する構造と芳香族環を含む基を有し、前記芳香族環を含む基は、それぞれ置換基を有してもよい、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基からなる群より選ばれる少なくともいずれかを有し、前記生体分子に由来する構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子に由来する構造と芳香族環を含む基を有し、
前記芳香族環を含む基は、それぞれ置換基を有してもよい、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基からなる群より選ばれる少なくともいずれかを有し、
前記生体分子に由来する構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む、
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤。
【請求項2】
前記芳香族環を含む基が、ベンゾチアゾール基およびナフチルアゾ基の少なくともいずれかを有する請求項1に記載の修飾剤。
【請求項3】
前記芳香族環を含む基が、下記式(1-1)、式(2-1)、式(3-1)、式(4)、式(5-1)、式(9-1)で表される1価の基のいずれかである請求項1に記載の修飾剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(前記式(1-1)、式(2-1)、式(3-1)において、
からRは、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6以上10以下のアリール基またはアラルキル基、またはアルコキシ基を表し、
*は、結合手を示す。)
【化4】
(前記式(4)において、*は、結合手を示す。)
【化5】
(前記式(5-1)において、*は、結合手を示す。)
【化6】
(前記式(9-1)において、*は、結合手を示す。)
【請求項4】
前記生体分子に由来する構造が、酵素、抗体、抗原、オリゴヌクレオチド、およびビオチンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む請求項1に記載の修飾剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の修飾剤と、βシート構造を有するタンパク質を含み、
前記修飾剤が、前記タンパク質と、前記βシート構造を介して、物理吸着している、修飾タンパク質。
【請求項6】
請求項5に記載の修飾タンパク質を含んでなる物品。
【請求項7】
シート状である請求項6に記載の物品。
【請求項8】
ゲル状である請求項6に記載の物品。
【請求項9】
スポンジ状である請求項6に記載の物品。
【請求項10】
繊維状である請求項6に記載の物品。
【請求項11】
請求項5に記載の修飾タンパク質を含むセンサーデバイス。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか1項に記載の修飾剤とβシート構造を有するタンパク質とを混合する工程を有する、タンパク質を修飾する方法。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか1項に記載の修飾剤を、βシート構造を有するタンパク質からなるタンパク質固体またはタンパク質ゲルに塗布する工程を有する、タンパク質を修飾する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤、修飾タンパク質、物品およびセンサーデバイス、およびタンパク質を修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は生体親和性・低毒性・親水性・低環境負荷といった特徴があり、さらに、構成しているアミノ酸の組み合わせや配列によって様々な特性を発揮し、食品や医療分野など多岐にわたる分野において素材や材料として活用することができる。中でも、βシート構造を有するタンパク質は、剛性が高く、凝集しやすいという特徴を有する。そのため、βシート構造を有するタンパク質は環境・製薬・再生医療・光学・電子デバイスに用いる足場材料として用いられることが期待される。
【0003】
一方、アミノ酸配列によっては、化学修飾が可能な部位が少ない場合があり、共有結合による化学修飾が困難な場合がある。
【0004】
βシート構造を有するタンパク質として、シルク繊維に含まれる、フィブロインが挙げられる。フィブロインは側鎖のないアミノ酸であるグリシンと側鎖の小さいアミノ酸であるアラニンを多く含む疎水性の結晶領域をもち、その結晶領域がβシート構造をとることで強固な相互作用が働き集積し剛直な線維を形成する。特許文献1には、化学的な修飾によって機能付与されたフィブロインについての開示がある。特許文献1では、化学反応を用いてフィブロインに付与したい特性を有する分子を共有結合することによって機能付与されたフィブロインを作製している。フィブロインはアミノ酸配列上、化学修飾が可能な部位が少ない。そのため、化学修飾ではフィブロインに目的とする分子を多く付与することは困難な場合がある。また、化学修飾は、長時間の反応時間が必要となり、反応試薬の除去工程の操作は煩雑である。これを解消するため、特許文献2および非特許文献1には、フィブロイン分子に吸着性のあるペプチドを用いて機能付与されたフィブロインの開示がある。付与したい特性を有する分子を繋いだペプチドを非共有結合を介して吸着させることによってフィブロインに吸着させて簡便に機能付与されたフィブロインを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-529644号公報
【特許文献2】特許第6362878号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biotechnol Lett 2011、33、1069-107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなペプチドは分子サイズが大きいためにフィブロインに機能付与する際に立体障害を引き起こしやすいという課題があった。そこで、結合に関わる部位が小さい修飾剤を用いてβシート構造を有するタンパク質を修飾することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
色素などの芳香族化合物は、分子サイズが小さくゲル電気泳動でのCBB染色のようにタンパク質に芳香族化合物を非共有結合的に多く吸着することができる。そこで、発明者らは、βシート構造を有するタンパク質との吸着する芳香族環を含む基を、目的の特性を有する分子構造に付与することに着眼し、本発明に至った。すなわち、本発明は生体分子に由来する構造と芳香族環を含む基を有し、前記芳香族環を含む基は、それぞれ置換基を有してもよい、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基からなる群より選ばれる少なくともいずれかを有し、前記生体分子に由来する構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
生体分子構造と芳香族環を含む基を有するβシート構造を有するタンパク質修飾剤を用いてタンパク質の機能付与が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は第一の実施形態として、生体分子に由来する構造と芳香族環を含む基を有し、前記芳香族環を含む基は、それぞれ置換基を有してもよい、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基からなる群より選ばれる少なくともいずれかを有し、前記生体分子に由来する構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤を提供する。
【0011】
<βシート構造を有するタンパク質の修飾剤>
本実施形態のβシート構造を有するタンパク質の修飾剤は、共有結合、イオン結合、水素結合、分子間力を介して芳香族環を含む基と生体分子に由来する構造(以下、生体分子構造ともいう)が結合していればよい。生体分子構造と芳香族環を含む基が解離せず安定に存在するため共有結合を介して結合していることが好ましい。生体分子構造と芳香族環を含む基が直接結合していてもよく、生体分子構造との結合手となる官能基を有する芳香族化合物を用いて結合手と生体分子構造を結合していてもよい。または、炭化水素やオリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを骨格とするリンカーを介して生体分子構造と芳香族環を含む基が結合していてもよい。生体分子構造と芳香族環を含む基、生体分子構造とリンカー、リンカーと芳香族環を含む基との間に用いられる結合は、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、イミン結合、オキシム結合、ヒドラジド結合、リン酸エステル結合、1,2,3-トリアゾール結合を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの分子構造を形成できるのであれば、方法は限定されるものではない。
【0012】
<芳香族環を含む基>
本実施形態における芳香族環を含む基は、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基の少なくともいずれかを有する。芳香族環を含む基の具体例を下記式(1)~(18)に示す。これらの基はβ構造を有するタンパク質に対し吸着性を有する。ただし、芳香族環を含む基は、β構造を有するタンパク質に対し吸着性を有するであれば下記式(1)~(18)に限定されるものではない。
下記式において、Xは、S、O、NHのいずれかである。
S、O、NHはいずれも2価で、S、O、Nは原子番号が近く、置き換えた場合に類似した分子構造をとりやすいと考えられる。
からRは、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6以上10以下のアリール基またはアラルキル基、またはアルコキシ基を表す。*は、結合手の位置を示す。
【0013】
芳香族環を含む基は、炭化水素やオリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを骨格とするリンカーを介して生体分子構造と結合していてもよいし、リンカーを介することなく結合していてもよい。生体分子構造と芳香族環を含む基、あるいは、リンカーと芳香族環を含む基との間には、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、イミン結合、オキシム結合、ヒドラジド結合、リン酸エステル結合、1,2,3-トリアゾール結合を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
【化1】
式(1)の好ましい例として、式(1-1)~式(1-3)を挙げられる。
【化2】
【化3】
【化4】
【0015】
【化5】
式(2)の好ましい例として、式(2-1)~式(2-2)を挙げられる。
【化6】
【化7】
【0016】
【化8】
式(3)の好ましい例として、式(3-1)~式(3-2)を挙げられる。
【化9】
【化10】
【0017】
【化11】
式(5)の好ましい例として、式(5-1)を挙げられる。
【化12】
【0018】
【化13】
【0019】
【化14】
【0020】
【化15】
【0021】
【化16】
式(9)の好ましい例として、式(9-1)を挙げられる。
【化17】
【0022】
【化18】
【0023】
【化19】
【0024】
【化20】
式(12)の好ましい例として式(12-1)を挙げられる。
【化21】
【0025】
【化22】
式(13)の好ましい例として式(13-1)を挙げられる。
【化23】
【0026】
【化24】
式(14)の好ましい例として式(14-1)を挙げられる。
【化25】
【0027】
【化26】
式(15)の好ましい例として式(15-1)を挙げられる。
【化27】
【0028】
【化28】
【0029】
【化29】
【0030】
【化30】
【0031】
【化31】
【0032】
中でも、特に好ましい芳香族環を含む基として式(1-1)、式(2-1)、式(3-1)、式(4)、式(5-1)、式(9-1)で表される1価の基を挙げることができる。
【化32】
【化33】
【化34】
(前記式(1-1)、(2-1)、(3-1)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、またはアルコキシ基を表し、Rは、水素、置換もしくは無置換の炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、またはアルコキシ基を表し、*は、結合手を示す。)
【化35】
(前記式(4)において、*は、結合手を示す。)
【化36】
(前記式(5-1)において、*は、結合手を示す。)
【化37】
(前記式(9-1)において、*は、結合手を示す。)
【0033】
<生体分子構造>
本実施形態における生体分子構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンのいずれかに由来する構造を含む。
【0034】
酵素、抗体、抗原、ペプチド、リガンドが、タンパク質である場合、天然のタンパク質から抽出されたものであってもよいし、遺伝子組換えによって作製されたものであってもよく、これらの一部であってもよく、キメラ体のように組み合わさったものであってもよく、これらに由来する配列以外のアミノ酸配列を含むことができる。そのようなアミノ酸配列の例として、繰り返しヒスチジン構造、FLAG(登録商標)配列、ポリグリシン配列などを挙げられる。
【0035】
酵素に限定はなく、酸化還元反応、転移反応、加水分解反応、解離反応、異性化反応を触媒する酵素を挙げられ、さらなる具体例として、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ、電位変化を伴うグルコースオキシダーゼなどを挙げることができる。
【0036】
抗体は、抗体、Fab、一本鎖抗体、組換え型抗体、キメラ抗体などを含む。抗体の起源に限定はなく、ウサギ、ラット、マウス、ラクダ、ヒトなどの抗体を用いることができる。抗体の特異性に限定はなく、例えば抗原として、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物を認識する抗体を挙げられる。
【0037】
抗原は特に限定なく、抗体に認識されるあらゆるものが抗原となり得、アレルゲン、細菌、ウィルス、細胞、細胞膜構成成分、がんマーカー、各種疾病マーカー、抗体、血液由来物質、食品由来物質、天然物由来物質、あらゆる低分子化合物を挙げられる。
【0038】
ペプチドに限定はなく、例えば、上述のヒスチジン構造、FLAG配列、ポリグリシン配列などを挙げられる。
【0039】
ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドは、特に限定なく、細菌、ウィルス、細胞など由来のDNA、RNA、cDNA、それらの一部または断片、合成核酸、プライマー、プローブなどを挙げられる。リガンドの例としては、特定の標的と結合するあらゆるものを含み、例えば、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質、情報伝達物質、膜タンパク質などを認識する各種レセプター、膜タンパク質などを挙げられる。
【0040】
酵素基質としては、酵素によって触媒されて反応する物質であれば限定なく用いられ、酵素反応により、発色、発光、色変化、電位変化を生じるものを好適な例として挙げられ、例えば、パラニトロフェノール誘導体やクマリン誘導体といった蛍光物質そのもの、あるいは、蛍光物質あるいは発色色素で標識されたペプチドを挙げることができる。
【0041】
生体分子構造に芳香族環を含む基を結合した修飾剤をβシート構造を有するタンパク質に吸着させることで、酵素触媒能、抗原抗体反応性、免疫反応性、細胞接着性、細胞増殖性、遺伝子吸着性、タンパク質吸着性、酵素反応性、材料固定化能、材料接着性などの機能を付与または性能を促進することができる。
【0042】
修飾剤は生体分子構造が有する官能基を介して芳香族環を含む基と結合していてもよい。または、結合手となる官能基を化学的または遺伝子操作などの手法によって導入してもよい。炭化水素やオリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを骨格とするリンカーを介して芳香族環を含む基と結合していてもよい。生体分子構造と芳香族環を含む基または生体分子構造とリンカーとの間に用いられる結合は、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、イミン結合、オキシム結合、ヒドラジド結合、リン酸エステル結合、1,2,3-トリアゾール結合を用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらの結合を形成できるのであれば、方法は限定されるものではない。
【0043】
<βシート構造を有するタンパク質>
βシート構造はタンパク質の二次構造であり、数本のポリペプチドが水素結合で平行に結合して構成される、折り目構造をいう。ただし、二次構造の形成状態は、タンパク質の配列と分子周りの環境によって変化する。βシート構造を有するタンパク質は球状・繊維状・膜・糖タンパクであってもよく、具体的にはフィブロイン、ストレプトアビジン、イムノグロブリン、オボアルブミン、リボヌクレアーゼ、チオレドキシン、DNAポリメラーゼ、グルタミナーゼ、フェレドキシン、フラタキシン、緑色蛍光タンパク質、リソザイム、アミロイドβ、α-シヌクレインがあげられる。また、タンパク質立体構造分類データベース(SCOP/SCOP2)に記載のβシート構造を有するタンパク質であってもよく、赤外分光分析や円二色性分析法βシート構造由来のスペクトルを示すタンパク質であってもよい。また、架橋剤の共存下でβシート部位を増やす処理を行ってもよい。βシート構造は非晶質であっても、結晶質であってもよく、結晶化させる処理を行ってもよい。ATR法を用いたFT-IR分析において、タンパク質1分子あたりのβシート構造の割合が1%以上と算出されるタンパク質をβシート構造を有するタンパク質とすることができる。具体的には、Nature Materials 2020、19、102-108に記載の方法によって分析することができる。βシート構造はタンパク質1分子内に見られるだけでなく、フィブロインのように分子間会合によっても形成される。β鎖となるアミノ酸配列を有してさえいればβシート構造を形成することができるため、タンパク質1分子あたりに1%以上のβシート構造が存在すれば十分に修飾剤を吸着することができる。βシート構造の割合が大きければ大きいほど、芳香族環がタンパク質に吸着しやすくなり修飾効率が向上するため、修飾の点において好ましい。
【0044】
<フィブロイン>
βシート構造を有するタンパク質の好ましい例であるフィブロインについて説明する。
フィブロインは、チョウ目、ハチ目、またはクモ目に分類される生物由来の繊維状タンパク質であり、遺伝子組換え技術によって得られたものであってもよい。原料の入手容易性という観点から、家蚕の繭由来のフィブロインが好ましい。
【0045】
本実施形態に用いられるフィブロインは、家蚕の繭、繭糸、繭糸加工物(絹糸など)、繭糸加工物の残糸などを原料とすることができる。フィブロインはこれらの原料から公知の精練方法を用い、セリシンを除去し脱塩することによって得ることができる。
【0046】
本実施形態に用いられるフィブロインは、その分子量に特に限定されないが、分子量1万以上の高分子量フィブロインほど高い効果が得られる。一般的にフィブロインの分子量が高いほど、βシート構造を形成しやすく、その水溶液はゲル化または固化しやすくなる傾向がある。分子量が1万以上では水溶液から形成される各種構造体の力学的特性が高くなるため、構造体の用途によっては好ましい。
【0047】
<修飾タンパク質>
本発明の第一の実施形態に係るβシート構造を有するタンパク質の修飾剤は、βシート構造に吸着するという性質を有し、例えばフィブロインのようにβシート構造を有するタンパク質を生体分子構造で修飾することに好ましく用いられる。すなわち、本発明は第二の実施形態として、本発明の第一の実施形態に係る修飾剤と、βシート構造を有するタンパク質を含み、修飾剤が、タンパク質と、βシート構造を介して、物理吸着している、修飾タンパク質を提供する。本実施形態に用いられるタンパク質は、βシート構造を有するタンパク質であればよい。本実施形態の修飾タンパク質は、固体状態でも溶解した溶液状態であってもよい。βシート構造を有するタンパク質は、特に限定されることはないが、原料の入手容易性という観点からフィブロインが好ましい。
【0048】
本実施形態の修飾タンパク質は、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤を含む溶液とタンパク質溶液を混合することで作成することができる。また、タンパク質固体やタンパク質ゲルに修飾剤の溶液を添加することで作成することもできる。限外ろ過やサイズ排除クロマトグラフィーなどの分離方法を用いて、余剰の修飾剤や未反応のタンパク質と修飾タンパク質を分離することができる。タンパク質が固体で非水溶性の場合、ろ過、遠心分離など溶液と固体との一般的な分離方法を用いることで修飾タンパク質を得ることができる。
【0049】
<物品>
本発明は第三の実施形態として、第二の実施形態の修飾タンパク質を含む物品を提供する。本実施形態における物品は、例えば、シート状、フィルム状、スポンジ状、繊維状、不織布状のいずれかの形状を有する固形物質であってもよく、あるいは、ゲル状であってもよく、あるいは、型で成型した成型体であってもよい。
【0050】
本実施形態に係る物品の作製法は特に限定されることなく、公知の方法を利用することが可能である。例えば、βシート化を促進させる外部刺激を使用することができ、具体的には以下を挙げることができる。ゲルの作製法として、例えば、塩酸などによるpH変化によるもの、ゲル化促進剤による化学物質によるもの、強力な撹拌などによるせん断力によるもの、電界の印加によるものなどを使用することができる。スポンジの作製法として、食塩や砂糖などのポローゲンを用いるもの、水溶液を凍結乾燥後、熱や溶媒などによりアニールする方法などを使用することができる。シートの作製法として、例えば、キャスト法やエレクトロスピニング法を用いることができる。繊維の作製法としては、例えば紡糸法を用いることができる。必要に応じ、ろ過、遠心分離などの一般的な分離方法を用いることができる。
【0051】
これらの作製法を利用して、例えば、βシート構造を有するタンパク質の水溶液から、フィルム、スポンジ、繊維、不織布、ゲル、成型体とすることができる。
【0052】
本実施形態の物品は、修飾タンパク質の水溶液から、シート状、フィルム状、スポンジ状、繊維状、不織布状、ゲル状、成型体などとしてもよい。あるいは、修飾前のタンパク質の水溶液をシート状、フィルム状、スポンジ状、繊維状、不織布状、ゲル状、成型体などとした後に、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤で修飾してもよい。
【0053】
<センサーデバイス>
本発明は第四の実施形態として、本発明の第二の実施形態の修飾タンパク質を含む物品からなるセンサーデバイスを提供する。
本実施形態におけるセンサーデバイスは、第三の実施形態に係る物品そのもの、支持体上に配置した物品、あるいは感知部に物品が搭載されたデバイスであり、物質の検出、同定、定性分析、定量分析、その他、対象となる物質に関する情報を得るために用いられる。その物品と測定対象となる物質の相互作用や反応により信号が発生し、その信号を検知することにより物質を検出することができる。その相互作用や反応後に色素材料などの信号を発生する検出材料を添加することによって信号を発生させて物質を検出することもできる。
【0054】
信号は、例えば、電気的な伝導性または抵抗性、電流、電位、静電容量、吸光度、光透過度、屈折率、蛍光、リン光、発光、発色、色変化、熱量測定により測定された熱量、からなる群から選択される信号である。信号は、第三の実施形態に係る物品であるタンパク質構造体あるいは検出材料の発色パターンや発色強度、紫外線やLEDライトを用いた紫外線や可視光線の照射によって得られる第三の実施形態に係る物品であるタンパク質構造体や検出材料の蛍光パターンや蛍光強度であってもよい。
【0055】
例えば、以下の実施例では、βシート構造を有するタンパク質の修飾剤の生体分子に由来する構造として、酵素を選択し、酵素で修飾されたタンパク質を含むシートを作製した例を示す。このようなシートを用いれば、基質の存在を色変化、吸光度の変化で観察することができる。シートはそのままセンサーデバイスとしてもよいし、あるいは、感知部として、このシートを搭載したセンサーデバイスとしてもよい。
例えば、酵素であるHRPを吸着したシートを用いれば、4-アミノアンチピリンとフェノール系水素供与体を組み合わせた試薬、3,3′-ジアミノベンジジン(DAB)、テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色試薬を用いた発色反応によって過酸化水素の存在を観察することができる。発色試薬はシートに含ませていてもよいし、シートに添加することによって使用してもよい。また、グルコースオキシダーゼはグルコースから過酸化水素を生成する酵素である。すなわち、グルコースオキシダーゼを吸着したシートを用いれば、上記の発色試薬とHRPを用いた発色反応を介して、グルコースの存在を観察することができる。この場合、発色試薬およびHRPはシートに含ませていてもよいし、シートに添加することによって使用してもよい。また、グルコースオキシダーゼとHRPを吸着したシートを用いても、グルコースの存在を観察することができる。
【0056】
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤の生体分子に由来する構造を、抗体とすることで、該抗体に対する抗原を検出するためのセンサーデバイスを作製することができる。
例えば、抗ヒトC反応性タンパク質抗体を吸着したシートを用いれば、抗原であるヒトC反応性タンパク質を抗原抗体反応によって捕捉し、ヒトC反応性タンパク質の存在を観察することもできる。抗体を吸着したシートにヒトC反応性タンパク質を作用させた後、金コロイドなどの着色材や、HRP、アルカリフォスファターゼなどの酵素を修飾した標識化抗ヒトC反応性タンパク質抗体を更に作用させることによって、シート上に免疫複合体を形成することができる。また、それらの標識化抗体とヒトC反応性タンパク質を予め混ぜておき、シートに作用させることによっても、免疫複合体を形成することができる。その免疫複合体に対してELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法のように酵素を介した発色反応や、着色剤の着色度合いの測定を行うことによって、抗原であるヒトC反応性タンパク質の存在を観察することができる。
【0057】
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤の生体分子に由来する構造を、抗原とすることで、該抗原に対する抗体を検出するためのセンサーデバイスを作製することができ、例えば、アレルギー検査などに用いることができる。
【0058】
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤の生体分子に由来する構造を、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドとすることで、相補性を有する核酸配列を検出するためのセンサーデバイスを作製することができ、また、ポリヌクレオチドがアプタマーとしての機能を有する場合に、その標的分子を検出するためのセンサーデバイスを作製することができる。
【0059】
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤の生体分子に由来する構造を、ビオチンとすることで、アビジンとの結合性を有する修飾タンパク質を得られる。このような修飾タンパク質に、アビジンを介して、抗体、抗原、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、酵素、基質、その他測定対象を認識する部位をさらに付加することができ、所望のセンサーデバイスを作製することができる。
【0060】
<タンパク質を修飾する方法>
本発明はさらなる実施形態として、第一の実施形態のβシート構造を有するタンパク質の修飾剤とβシート構造を有するタンパク質とを混合する工程を有する、タンパク質を修飾する方法、および、第一の実施形態のβシート構造を有するタンパク質の修飾剤をβシート構造を有するタンパク質からなるタンパク質固体またはタンパク質ゲルに塗布する工程を有する、タンパク質を修飾する方法を提供する。
【実施例0061】
(合成例)
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
(製造例1)化合物1の合成
Thioflavin T acid(AAT Bioquest,Inc.製)2.8mg、N-ヒドロキシスクシンイミド 7.7mg、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド 16mgをジクロロメタン(以下DCM)1.5mLに溶解した。一晩撹拌した後、溶媒を減圧留去し、エタノール 0.25mLに再度溶解してThioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液を得た。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(シグマアルドリッチ製、以下HRP)5mgを0.1M ホウ酸バッファー(pH8.5)1mLに溶解したHRP溶液とThioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液0.02mLを混合し、室温で3時間撹拌した。混合液を回収し、分画分子量2000の透析膜を用いてPBSバッファー(pH7.4)中で透析を行った。0.22μmフィルターを用いてろ過を行いろ液を回収し、化合物1の水溶液を得た。UV-Visスペクトル測定より、化合物1のHRP1分子に結合しているThioflavin T acidの分子数は1分子であることを確認した。
【化38】
【0063】
(製造例2)化合物1を吸着したフィブロインシートの作製
シルクフィブロイン粉末(Sigma-Aldrich製) 0.18gにヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP) 3.82gを添加し、ミックスローターを用いて室温で攪拌を行った。その後、フィルター(Millex-AP、Millipore)を用いてろ過を行い、4.5wt%フィブロイン溶液を得た。フィブロイン溶液(0.1mL)を用いて、エレクトロスピニング装置(NANON-03、MECC)を使用してアルミ皿上にフィブロインファイバーからなるシートを作製して回収した。
回収したシートにメタノールを添加した後、メタノールを除去し一晩乾燥を行った。20mm×40mmサイズに切り取ったフィブロインシートの重量測定により、1.25μg/mm フィブロインシートであることを確認した。5mm×5mmサイズのフィブロインシートを切り取り、0.3mg/mL化合物1の水溶液(0.2mL)に添加して10分間静置した。フィブロインシートを0.05wt% Tween20を含むPBSバッファー(1mL、pH7.4)に15分間×2、PBS(1mL、pH7.4)に1分間浸した。室温乾燥を行い修飾されたフィブロインシートを得た。
【0064】
(製造例3)HRPを吸着したフィブロインシートの作製
前記と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.3mg/mL HRP水溶液に代えて作製した。
【0065】
(製造例4)化合物2の合成
N,N-ジメチルホルムアミド 15mLに、2-(4-アミノフェニル)ベンゾチアゾール(東京化成工業製) 1.10g、3-ブロモプロピオン酸(東京化成工業製) 0.40gを加えて、窒素雰囲気下で4時間還流した。室温に戻して溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し化合物2の白色固体201mg(収率26%)を得た。H-NMR(Bruker製、Bruker Avance NEO 500、共鳴周波数:500MHz)測定装置により同定を行った。H-NMR(DMSO-d)(ppm):12.30(br、1H)、8.06(d、1H、J=7.8Hz)、7.93(d、1H、J=7.8Hz)、7.86(d、2H、J=9.0Hz)、7.51-7.48(m、1H)、7.40-7.37(m、1H)、6.74(d、2H、J=9.0Hz)、6.53(t、1H、J=5.5Hz)、3.35(m、2H)、2.58(m、2H).
【化39】
【0066】
(製造例5)化合物3の合成
化合物2 1.7mg、N-ヒドロキシスクシンイミド 5.5mg、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド 15mgをDCM 2.0mLに溶解した。1時間撹拌した後、溶媒を減圧留去してエタノール 0.25mLに再度溶解して化合物2′溶液を得た。HRP 5mgを0.1M ホウ酸バッファー(pH8.5) 1mLに溶解したHRP溶液と化合物2′溶液0.1mLを混合し、室温で1.5時間撹拌した。混合液を回収し、分画分子量2000の透析膜を用いてPBSバッファー(pH7.4)中で透析を行った。0.22μmフィルターを用いてろ過を行いろ液を回収し、化合物3の水溶液を得た。UV-Visスペクトル測定より、化合物3のHRP1分子に結合している化合物2の分子数は2.2分子であることを確認した。
【化40】
【0067】
(製造例6)化合物4の合成
テトラヒドロフラン20mLに、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール(東京化成工業製)1.01g、3-ブロモプロピオン酸(東京化成工業製)0.67g、炭酸カリウム(キシダ化学株式会社製)1.52gを加えて、窒素雰囲気下で3時間還流した。室温に戻した後、メタノール10mLを添加した。ろ過により得られた沈殿を乾燥し化合物4の白色固体57mg(収率4%)を得た。H-NMR(Bruker製、Bruker Avance NEO 500、共鳴周波数:500MHz)測定装置により同定を行った。H-NMR(DMSO-d)(ppm):12.52(br、1H)、8.50-8.48(m、1H)、8.13(d、1H、J=8.0Hz)、8.10(d、1H、J=8.0Hz)、7.61-7.56(m、2H)、7.50-7.46(m、1H)、7.37-7.36(m、1H)、7.23-7.20(m、1H)、4.52(t、2H、J=6.0Hz)、2.99(t、2H、J=6.0Hz).
【化41】
【0068】
(製造例7)化合物5の合成
化合物4 1.7mg、N-ヒドロキシスクシンイミド 5.8mg、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド 17mgをDCM 2.0mLに溶解した。1時間撹拌した後、溶媒を減圧留去してエタノール 0.25mLに再度溶解して化合物4′溶液を得た。HRP 5mgを0.1M ホウ酸バッファー(pH8.5) 1mLに溶解したHRP溶液と化合物4′溶液0.03mLを混合し、室温で1.5時間撹拌した。混合液を回収し、分画分子量2000の透析膜を用いてPBSバッファー(pH7.4)中で透析を行った。0.22μmフィルターを用いてろ過を行いろ液を回収し、化合物5の水溶液を得た。UV-Visスペクトル測定より、化合物5のHRP1分子に結合している化合物4の分子数は2.6分子であることを確認した。
【化42】
【0069】
(製造例8)化合物6の合成
Thioflavin T acid(AAT Bioquest,Inc.製) 1.2mg、N-ヒドロキシスクシンイミド 4.4mg、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド 4.8mgをDCM 1.0mLに溶解した。一晩撹拌した後、溶媒を減圧留去してエタノール 0.05mLに再度溶解してThioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液を得た。グルコースオキシダーゼ(シグマアルドリッチ製、G2133、以下GOx) 20mgを0.1M ホウ酸バッファー(pH8.5) 1mLに溶解したGOx溶液と、Thioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液 0.05mLを混合し、室温で2時間撹拌した。混合液を回収し、分画分子量2000の透析膜を用いてPBSバッファー(pH7.4)中で透析を行った。0.22μmフィルターを用いてろ過を行いろ液を回収し、化合物6の水溶液を得た。UV-Visスペクトル測定より、化合物6のGOx1分子に結合しているThioflavin T acidの分子数は5.6分子であることを確認した。
【化43】
【0070】
(製造例9)化合物7の合成
Thioflavin T acid(AAT Bioquest,Inc.製) 1.2mg、N-ヒドロキシスクシンイミド 4.4mg、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド 4.8mgをDCM 1.0mLに溶解した。一晩撹拌した後、溶媒を減圧留去してエタノール 0.05mLに再度溶解してThioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液を得た。11.6mg/mL 抗ヒトC反応性タンパク質マウスモノクローナル抗体溶液(CRP-MCA、製品番号47858000、オリエンタル酵母工業株式会社製、以下mAb) 0.05mLを0.1M ホウ酸バッファー(pH8.5) 0.95mLに添加したmAb溶液とThioflavin T acid N-ヒドロキシスクシンイミドエステル溶液 0.05mLを混合し、室温で2時間撹拌した。混合液を回収し、分画分子量2000の透析膜を用いてPBSバッファー(pH7.4)中で透析を行った。0.22μmフィルターを用いてろ過を行いろ液を回収し、化合物7の水溶液を得た。UV-Visスペクトル測定およびBCAアッセイより、化合物7のmAb1分子に結合しているThioflavin T acidの分子数は38分子であることを確認した。
【化44】
【0071】
(製造例10)化合物3を吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.3mg/mL 化合物3の水溶液に代えて作製した。
【0072】
(製造例11)化合物5を吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.3mg/mL 化合物5の水溶液に代えて作製した。
【0073】
(製造例12)化合物6を吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.3mg/mL 化合物6の水溶液に代えて作製した。
【0074】
(製造例13)GOxを吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.3mg/mL GOxの水溶液に代えて作製した。
【0075】
(製造例14)化合物7を吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.02mg/mL 化合物7の水溶液に代えて作製した。
【0076】
(製造例15)mAbを吸着したフィブロインシートの作製
製造例2と同様の方法で、化合物1の水溶液を0.02mg/mL mAbの水溶液に代えて作製した。
【0077】
(芳香族環を含む基のβシート構造を有するタンパク質吸着性の評価)
芳香族環を含む基を有する化合物であるThioflavin T acid、化合物2、化合物4、7-(ジエチルアミノ)クマリン-3-カルボン酸について、それぞれのメタノール溶液(0.02mM、0.15mL)を調製し、シルクフィブロイン粉末(Sigma-Aldrich製) 10mgに添加した。風乾によりメタノールを留去した後、水 0.15mLを添加した。5分間撹拌した後、上澄み液を回収した。吸光度測定により、回収した上澄み液に含まれる芳香族環を含む基の濃度と、濃度変化量から芳香族環を含む基のフィブロインへの吸着率を算出し、以下の基準で芳香族環を含む基のβシート構造を有するタンパク質吸着性を評価した。
【0078】
「評価A」および「評価B」は、芳香族環を含む基がβシート構造を有するタンパク質に強く吸着するレベル、「評価C」は芳香族環を含む基の吸着性が低いことを示す。
(評価基準)
A:90%以上
B:60%以上90%未満
C:60%未満
表1に、芳香族環を含む基を有する化合物のフィブロインへの吸着率と、芳香族環を含む基の吸着性の評価結果を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
(実施例1)
製造例2で得られた化合物1で修飾されたフィブロインシートに、ペルオキシダーゼ染色DABキット(Brown Stain)(ナカライテスク製)の染色用溶液(1.5μL)を滴下し、湿潤箱内で5分間静置した。その後、シートを純水(10mL)で洗浄を行った。シートを乾燥させた後、シートをスキャナーで読み取り画像データを取得した。得られた画像データを、ImageJソフトウェアを用いて色強度を測定した。シートを5枚作製し同様の評価を行い、色強度の平均値(Color Intensity、以下CI値)を算出した。算出したCI値は、59.8であった。
【0081】
(実施例2)
フィブロインシートを、化合物3を吸着したフィブロインシートに代えて、実施例1と同等の方法で実施した。算出されたCI値は、58.1であった。
【0082】
(実施例3)
フィブロインシートを、化合物5を吸着したフィブロインシートに代えて、実施例1と同等の方法で実施した。算出されたCI値は、54.4であった。
【0083】
(比較例1)
シートを製造例3で作製されたHRPを吸着したフィブロインシートに代えて、実施例1と同様に測定を行った。算出したCI値は、39.5であった。
このように、本発明の実施例に係る修飾剤を用いた場合、HRPに由来する構造をより多く含む修飾フィブロインができることがわかった。
【0084】
(実施例4)
製造例12で得られた化合物6で修飾されたフィブロインシートに、10mM グルコース、1000U/mL HRP、3.7mM 4-アミノアンチピリン、6.4mM 3-[エチル(m-トリル)アミノ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)1.5μLを滴下し、湿潤箱内で5分間静置した。その後、シートを純水10mLで洗浄を行った。シートを乾燥させた後、シートをスキャナーで読み取り画像データを取得した。得られた画像データを、ImageJソフトウェアを用いて色強度を測定した。シートを5枚作製して同様の評価を行い、色強度の平均値(Color Intensity、以下CI値)を算出した。算出したCI値は、54.5であった。
【0085】
(比較例2)
シートを製造例13で作製されたGOxを吸着したフィブロインシートに代えて、実施例1と同様に測定を行った。算出したCI値は、30.8であった。
このように、本発明の実施例に係る修飾剤を用いた場合、GOxに由来する構造をより多く含む修飾フィブロインができることがわかった。
【0086】
(実施例5)
製造例14で得られた化合物7で修飾されたフィブロインシートに、100nM アルカリフォスファターゼ修飾mAb、100nM ヒトC反応性タンパク質、1.0wt% ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)1.5μLを滴下し、湿潤箱内で5分間静置した。その後、シートをリン酸緩衝生理食塩水(10mL)で洗浄を行った。BCIP/NBT溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.0μLを滴下し、湿潤箱内で10分間静置した。その後、シートを純水(10mL)で洗浄を行った。シートを乾燥させた後、シートをスキャナーで読み取り画像データを取得した。得られた画像データを、ImageJソフトウェアを用いて色強度を測定した。シートを5枚作製して同様の評価を行い、色強度の平均値(Color Intensity、以下CI値)を算出した。算出したCI値は、39.5であった。
【0087】
(比較例3)
シートを製造例15で作製されたmAbを吸着したフィブロインシートに代えて、実施例1と同様に測定を行った。算出したCI値は、23.4であった。
このように、本発明の実施例に係る修飾剤を用いた場合、抗体に由来する構造をより多く含む修飾フィブロインができることがわかった。
【0088】
本発明の実施形態は以下の構成および方法を含む。
(構成1)
生体分子に由来する構造と芳香族環を含む基を有し、
前記芳香族環を含む基は、それぞれ置換基を有してもよい、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、ナフチルアゾ基からなる群より選ばれる少なくともいずれかを有し、
前記生体分子に由来する構造は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、リガンド、酵素基質、ビオチン、カテコールアミンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む、
βシート構造を有するタンパク質の修飾剤。
(構成2)
前記芳香族環を含む基が、ベンゾチアゾール基およびナフチルアゾ基の少なくともいずれかを有する構成1に記載の修飾剤。
(構成3)
前記芳香族環を含む基が、下記式(1-1)、式(2-1)、式(3-1)、式(4)、式(5-1)、式(9-1)で表される1価の基のいずれかである構成1または2に記載の修飾剤。
【化45】
【化46】
【化47】
(前記式(1-1)、式(2-1)、式(3-1)において、
からRは、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6以上10以下のアリール基またはアラルキル基、またはアルコキシ基を表し、
*は、結合手を示す。)
【化48】
(前記式(4)において、*は、結合手を示す。)
【化49】
(前記式(5-1)において、*は、結合手を示す。)
【化50】
(前記式(9-1)において、*は、結合手を示す。)
(構成4)
前記生体分子に由来する構造が、酵素、抗体、抗原、オリゴヌクレオチド、およびビオチンからなる群より選ばれるいずれかに由来する構造を含む構成1から3のいずれかに記載の修飾剤。
(構成5)
構成1から4のいずれか1項に記載の修飾剤と、βシート構造を有するタンパク質を含み、
前記修飾剤が、前記タンパク質と、前記βシート構造を介して、物理吸着している、修飾タンパク質。
(構成6)
構成5に記載の修飾タンパク質を含んでなる物品。
(構成7)
シート状である構成6に記載の物品。
(構成8)
ゲル状である構成6に記載の物品。
(構成9)
スポンジ状である構成6に記載の物品。
(構成10)
繊維状である構成6に記載の物品。
(構成11)
構成5に記載の修飾タンパク質を含むセンサーデバイス。
(方法1)
請求項1から4のいずれか1項に記載の修飾剤とβシート構造を有するタンパク質とを混合する工程を有する、タンパク質を修飾する方法。
(方法2)
請求項1から4のいずれか1項に記載の修飾剤を、βシート構造を有するタンパク質からなるタンパク質固体またはタンパク質ゲルに塗布する工程を有する、タンパク質を修飾する方法。