(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115536
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】マグノン接合、マグノンランダムアクセスメモリ、マイクロ波発振器、検出器及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H10N 50/20 20230101AFI20240819BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240819BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20240819BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240819BHJP
【FI】
H10N50/20
H01L29/82 Z
H10B61/00
H10N50/10 U
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024019189
(22)【出願日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】202310147344.4
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】502134971
【氏名又は名称】中国科学院物理研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】姜 雷娜
(72)【発明者】
【氏名】何 文卿
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 天乙
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA01
4M119AA03
4M119AA17
4M119BB01
4M119BB20
4M119CC05
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5F092AA04
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5F092BC03
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC12
5F092BC13
(57)【要約】
【課題】本発明は、マグノン接合、マグノンランダムアクセスメモリ、マイクロ波発振器、検出器及び電子機器を提供する。
【解決手段】該マグノン接合は、非磁性導電性材料より形成される第1の電極層と、該第1の電極層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される自由磁性層と、該自由磁性層上に設けられ、反強磁性絶縁材料より形成される反強磁性バリア層と、該反強磁性バリア層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される基準磁性層と、該基準磁性層上に設けられ、非磁性導電性材料により形成される第2の電極層と、を含み、該基準磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って固定され、該自由磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って反転可能であり、該反強磁性バリア層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグノン接合(Magnon Junction:MJ)であって、
非磁性導電性材料より形成される第1の電極層と、
前記第1の電極層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される自由磁性層と、
前記自由磁性層上に設けられ、反強磁性絶縁(Antiferromagnetic Insulator:AFI)材料より形成される反強磁性バリア層と、
前記反強磁性バリア層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される基準磁性層と、
前記基準磁性層上に設けられ、非磁性導電性材料により形成される第2の電極層と、を含み、
前記基準磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って固定され、
前記自由磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って反転可能であり、
前記反強磁性バリア層と強磁性導電性材料との界面で交換結合があり、前記自由磁性層の磁気モーメントが反転する際に、前記反強磁性バリア層の磁気モーメントも反転することによって、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させる、マグノン接合。
【請求項2】
前記第1の電極層及び前記第2の電極層は、垂直反転電流を印加するように構成され、前記垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極され、前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部がマグノン流に変換され、拡散して前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入され、拡散及び注入の際にマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生すると共に、スピン偏極電流トンネルの他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングすることによって、前記マグノン流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)と前記スピン偏極電流により発生したスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する、請求項1に記載のマグノン接合。
【請求項3】
前記マグノン流は、前記反強磁性バリア層を介して拡散する際に、前記反強磁性バリア層の格子点で互いに反平行に配列された磁気モーメント方向も反転するようにマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)をさらに発生させることによって、前記反強磁性バリア層のネールベクトル方向と前記自由磁性層の磁気モーメント方向の両方が反転する、請求項2に記載のマグノン接合。
【請求項4】
前記第1の電極層は、スピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成される、請求項1に記載のマグノン接合。
【請求項5】
前記第1の電極層は、第1の面内反転電流を印加するように構成され、前記第1の面内反転電流は、スピンホール効果により前記自由磁性層に拡散するスピン偏極電流を発生させ、前記スピン偏極電流は、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるためのスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)を発生させる、請求項4に記載のマグノン接合。
【請求項6】
前記第1の電極層及び前記第2の電極層は、第2の垂直反転電流を印加するようにさらに構成され、前記第2の垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極され、前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部がマグノン流に変換され、拡散して前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入され、マグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生すると共に、スピン偏極電流の他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングし、前記スピン偏極電流が前記自由磁性層の磁気モーメント方向を反転させるためのスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)を発生させることによって、前記第2の垂直反転電流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)及びスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)と、前記第1の面内反転電流により発生したスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する、請求項5に記載のマグノン接合。
【請求項7】
前記基準磁性層及び前記自由磁性層を形成するための強磁性導電性材料は、NiCo2O4、Fe3GeTe2、VSe2、FePt、FePd、CoPt、CoPd、[Fe/Pt]N、[Co/Pt]N、[Fe/Pd]N、[Co/Pd]N、FeCr、CoCr、FeTb、CoTb、GdFeCo、TbFeCo、極薄Co-Fe-B及びCo-Fe合金フィルムのうちの1つ又は複数を含み、Nは1以上の正の整数であり、
前記反強磁性バリア層を形成するための反強磁性絶縁材料は、Cr2O3、CoO、NiO、FeO、MnO、MnF2、MnS、FeCl2、GdFeO3、NdFeO3、SmFeO3、BiCoO3、BiNiO3、LaFeO3のうちの1つ又は複数を含み、
前記反強磁性バリア層を形成するための反強磁性絶縁材料の反強磁性構造は、A型、即ち元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、B型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、C型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が3つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるものであり、或いは、前記反強磁性バリア層は、螺旋磁気構造を有する、請求項1に記載のマグノン接合。
【請求項8】
前記第1の電極層を形成するための重金属非磁性導電性材料は、Pt、W、Ta、Pd、Ir、W、Bi、Mo、Pb、Hf、Ru、IrMn、PtMn、AuMn、Bi2Se3、Bi2Te3、及びこれらの単体重金属の合金又は化合物のうちの1つ又は複数を含む、請求項4に記載のマグノン接合。
【請求項9】
マグノン接合の動作方法であって、
前記マグノン接合は、
非磁性導電性材料より形成される第1の電極層と、
前記第1の電極層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される自由磁性層と、
前記自由磁性層上に設けられ、反強磁性絶縁材料より形成される反強磁性バリア層と、
前記反強磁性バリア層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される基準磁性層と、
前記基準磁性層上に設けられ、非磁性導電性材料により形成される第2の電極層と、を含み、
前記基準磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って固定され、
前記自由磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って反転可能であり、
前記反強磁性バリア層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、
前記反強磁性バリア層と強磁性導電性材料との界面で交換結合があり、前記自由磁性層の磁気モーメントが反転する際に、前記反強磁性バリア層の磁気モーメントも反転することによって、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させ、
前記マグノン接合の動作方法は、
前記第1の電極層及び前記第2の電極層を利用して、前記マグノン接合を垂直に流れる垂直反転電流を印加するステップであって、前記垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極される、ステップと、
前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部をマグノン流に変換し、拡散させて前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入するステップであって、拡散及び注入の際にマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生する、ステップと、
スピン偏極電流トンネルの他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングすることによって、前記マグノン流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)と前記スピン偏極電流により発生したスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転するステップと、を含む、方法。
【請求項10】
前記第1の電極層は、スピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成され、
前記方法は、
前記第1の電極層を流れる面内反転電流を印加するステップであって、前記面内反転電流は、スピンホール効果により前記自由磁性層に拡散するスピン偏極電流を発生させ、前記スピン偏極電流は、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるためのスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)を発生させることによって、前記垂直反転電流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)及びスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)と、前記面内反転電流により発生したスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する、ステップ、をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マグノン流は、前記反強磁性バリア層の異なる格子点で互いに反平行に配列された磁気モーメント方向も反転するようにマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)をさらに発生させることによって、前記反強磁性バリア層のネールベクトル方向と前記自由磁性層の磁気モーメント方向の両方が反転する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複数のマグノン記憶ユニットのアレイを含み、各マグノン記憶ユニットは、請求項1に記載のマグノン接合を含む、マグノンランダムアクセスメモリ(Magnon Random Access Memory:mRAM)。
【請求項13】
請求項1に記載のマグノン接合と、
前記マグノン接合を垂直に流れる電流を印加し、前記マグノン接合の両端にマイクロ波発振信号を生成する電流源と、を含み、
前記電流源により提供された電流の大きさは、前記マグノン接合におけるマグノン移行トルク及びスピン移行トルク(MTT+STT)の大きさを調整して、前記マグノン接合における自由磁性層の磁気モーメントの歳差運動の周波数及び振幅を調整することによって、前記マグノン接合の両端により出力されたマイクロ波発振信号の周波数及び振幅を制御するように調整可能である、マグノンマイクロ波発振器(Magnon Microwave Oscillator:MMO)。
【請求項14】
請求項1に記載のマグノン接合であって、前記マグノン接合の磁気モーメントは、外部マイクロ波信号により発生した交番電磁界に伴って歳差運動する、マグノン接合と、
前記マグノン接合を垂直に流れる検出電流を印加して、前記マグノン接合の両端にマイクロ波発振信号を生成する電流源であって、前記マイクロ波発振信号の周波数及び振幅は、それぞれ前記外部マイクロ波信号の周波数及び強度に依存する、電流源と、
前記マイクロ波発振信号の周波数及び振幅を検出して、前記外部マイクロ波信号の周波数及び強度を決定する信号分析モジュールと、を含む、マグノンマイクロ波検出器(Magnon Microwave Detector:MMD)。
【請求項15】
請求項1に記載のマグノン接合と、
前記マグノン接合を垂直に流れる連続電流を印加する電流源であって、前記連続電流は、前記マグノン接合の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さを低減させ、熱摂動でのランダムな反転を実現し、前記マグノン接合の両端でランダムな信号を出力するように、所定の電流密度を有する、電流源と、マグノン乱数発生器(Magnon Random Number Generator:MRNG)。
【請求項16】
請求項1に記載のマグノン接合と、
前記マグノン接合を垂直に流れる連続電流を印加する電流源であって、前記連続電流は、前記マグノン接合の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さを低減させ、熱摂動でのランダムな反転を実現し、前記マグノン接合の両端でランダムな信号を出力するように、所定の電流密度を有し、前記連続電流の大きさを調整することによって、マグノン移行トルク又はスピン移行トルクの大きさを調整し、平行及び反平行の状態を発生させる確率を変更し、確率調整可能な乱数発生器を実現する、電流源と、マグノン確率ビット乱数発生器(Magnon p-bit Random Number Generator:MRNG)。
【請求項17】
請求項12に記載のマグノンランダムアクセスメモリ、
請求項13に記載のマグノンマイクロ波発振器、
請求項14に記載のマグノンマイクロ波検出器、
請求項15に記載のマグノン乱数発生器、及び
請求項16に記載のマグノン確率ビット乱数発生器のうちの少なくとも1つを含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気デバイスの分野に関し、特に、マグノン接合及びその動作方法、該マグノン接合を含むマグノンランダムアクセスメモリ(マグノンランダムメモリ)、マグノンマイクロ波発振器、マグノンマイクロ波検出器、マグノン乱数発生器及びマグノン確率ビット乱数発生器、並びにこれらのデバイスのうちの何れか1つ又は複数を含む電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の磁気トンネル接合(MTJ)に基づくマグノン記憶ユニット100の一例を示す。
図1に示すように、マグノン記憶ユニット100は、自由磁気層110、非磁気バリア層120及び基準磁性層130を含む。ここで、自由磁気層110は、自由磁気モーメントを有し、基準磁性層130は、ピン止めされた相対的に固定された磁気モーメントを有し、非磁気バリア層120は、通常、MgO、Al
2O
3、MgAlOなどの金属酸化物絶縁材料により形成される。自由磁気層110の磁気モーメントと基準磁性層130の磁気モーメントとが平行に配列された場合、マグノン記憶ユニット100は、小さい抵抗を有し、記憶ビット「0」に対応することができ、自由磁気層110の磁気モーメントと基準磁性層130の磁気モーメントとが反平行に配列された場合、マグノン記憶ユニット100は、大きい抵抗を有し、記憶ビット「1」に対応することができる。逆の場合であってもよい。マグノン記憶ユニット100にデータを書き込む際に、垂直書き込み電流I
wを印加し、スピン移行トルク(STT)効果により自由磁気層110の磁気モーメントの方向を変更することができる。
【0003】
STT書き込み方式の問題点の1つは、自由磁気層110の磁気モーメントの方向を変更するために、垂直書き込み電流Iwは、大きな電流密度を有する必要があるため、抵抗を低減させるために、非磁気バリア層120を薄くする必要がある。一方、非磁気バリア層120が薄い場合、トンネリング効果により、読み出し動作期間にリーク電流が発生する。記憶ユニットのアレイが大きく、読み出し速度が速い場合、発生するリーク電流の総量が非常に大きくなるため、STT型のマグノンランダムアクセスメモリの実用化に影響を与える。また、極薄の非磁気バリア層120は、長期間の繰り返しの書き込み/消去の過程においても容易に破壊されることによって、短絡やチップ失効が発生し、チップの寿命に著しく影響を与える。また、極薄の非磁気バリア層120は、大容量の記憶ユニットの均一性や一貫性を維持するためのプロセス製造の難しさが増大する。
【0004】
従って、上述の問題の1つ又は複数を鑑み、改良されたマグノン記憶ユニットが依然として求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物理学の観点から見ると、スピンキャリアである電子の他に、マグノン、中性子などの粒子又はその他の準粒子もスピン角運動量を持つことができ、特に、マグノンのスピンに関する研究は最近研究者により広く注目されている。マグノンは、スピン波の準粒子であり、マグノン秩序システムにおけるコヒーレントな電子スピン体系の集団励起状態を表し、各量子化されたマグノンは、1つの換算プランク定数のスピン角運動量を持つ。また、マグノンの波動性は、電子に基づく従来のスピンデバイスにより実現できない幾つかの機能を提供する。例えば、マグノンは、ジュール熱なしの長距離スピン情報を提供することによって、スピンデバイスの電力消費を大幅に削減することができる。また、マグノン移行トルクによれば、磁気モーメントを確実に反転させることができ、情報記憶領域に潜在的な巨大な応用の将来性を有する。
【0006】
本発明の1つの態様は、マグノンを用いて磁気モーメントの反転を補助することによって、従来の反転方法に存在する1つ又は複数の問題を克服することができる、マグノン接合を提供する。また、本発明は、該マグノン接合に基づく様々なデバイス、例えばマグノンランダムアクセスメモリ、マグノンマイクロ波発振器、マグノンマイクロ波検出器、マグノン乱数発生器及びマグノン確率ビット乱数発生器など、並びにこれらのデバイスのうちの何れか1つ又は複数を含む電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施例の1つの態様では、マグノン接合(Magnon Junction:MJ)であって、非磁性導電性材料より形成される第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される自由磁性層と、前記自由磁性層上に設けられ、反強磁性絶縁(Antiferromagnetic Insulator:AFI)材料より形成される反強磁性バリア層と、前記反強磁性バリア層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される基準磁性層と、前記基準磁性層上に設けられ、非磁性導電性材料により形成される第2の電極層と、を含み、前記基準磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って固定され、前記自由磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って反転可能であり、前記反強磁性バリア層と強磁性導電性材料との界面で交換結合があり、前記自由磁性層の磁気モーメントが反転する際に、前記反強磁性バリア層の磁気モーメントも反転することによって、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させる、マグノン接合を提供する。
【0008】
一例では、前記第1の電極層及び前記第2の電極層は、垂直反転電流を印加するように構成され、前記垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極され、前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部がマグノン流に変換され、拡散して前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入され、拡散及び注入の際にマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生すると共に、スピン偏極電流トンネルの他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングすることによって、前記マグノン流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)と前記スピン偏極電流により発生したスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する。
【0009】
一例では、前記マグノン流は、前記反強磁性バリア層を介して拡散する際に、前記反強磁性バリア層の格子点で互いに反平行に配列された磁気モーメント方向も反転するようにマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)をさらに発生させることによって、前記反強磁性バリア層のネールベクトル方向と前記自由磁性層の磁気モーメント方向の両方が反転する。
【0010】
一例では、前記第1の電極層は、スピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成される。
【0011】
一例では、前記第1の電極層は、第1の面内反転電流を印加するように構成され、前記第1の面内反転電流は、スピンホール効果により前記自由磁性層に拡散するスピン偏極電流を発生させ、前記スピン偏極電流は、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるためのスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)を発生させる。
【0012】
一例では、前記第1の電極層及び前記第2の電極層は、第2の垂直反転電流を印加するようにさらに構成され、前記第2の垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極され、前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部がマグノン流に変換され、拡散して前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入され、マグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生すると共に、スピン偏極電流の他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングし、前記スピン偏極電流が前記自由磁性層の磁気モーメント方向を反転させるためのスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)を発生させることによって、前記第2の垂直反転電流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)及びスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)と、前記第1の面内反転電流により発生したスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する。
【0013】
一例では、前記基準磁性層及び前記自由磁性層を形成するための強磁性導電性材料は、NiCo2O4、Fe3GeTe2、VSe2、FePt、FePd、CoPt、CoPd、[Fe/Pt]N、[Co/Pt]N、[Fe/Pd]N、[Co/Pd]N、FeCr、CoCr、FeTb、CoTb、GdFeCo、TbFeCo、極薄Co-Fe-B及びCo-Fe合金フィルムのうちの1つ又は複数を含み、Nは1以上の正の整数である。
【0014】
一例では、前記反強磁性バリア層を形成するための反強磁性絶縁材料は、Cr2O3、CoO、NiO、FeO、MnO、MnF2、MnS、FeCl2、GdFeO3、NdFeO3、SmFeO3、BiCoO3、BiNiO3、LaFeO3のうちの1つ又は複数を含む。
【0015】
一例では、前記反強磁性バリア層を形成するための反強磁性絶縁材料の反強磁性構造は、A型、即ち元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、B型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、C型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が3つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるものであり、或いは、前記反強磁性バリア層は、螺旋磁気構造を有する。
【0016】
一例では、前記第1の電極層を形成するための重金属非磁性導電性材料は、Pt、W、Ta、Pd、Ir、W、Bi、Mo、Pb、Hf、Ru、IrMn、PtMn、AuMn、Bi2Se3、Bi2Te3、及びこれらの単体重金属の合金又は化合物のうちの1つ又は複数を含む。
【0017】
本開示の実施例の1つの態様では、マグノン接合の動作方法であって、前記マグノン接合は、非磁性導電性材料より形成される第1の電極層と、前記第1の電極層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される自由磁性層と、前記自由磁性層上に設けられ、反強磁性絶縁材料より形成される反強磁性バリア層と、前記反強磁性バリア層上に設けられ、強磁性導電性材料より形成される基準磁性層と、前記基準磁性層上に設けられ、非磁性導電性材料により形成される第2の電極層と、を含み、前記基準磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って固定され、前記自由磁性層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、その磁気モーメント方向は垂直方向に沿って反転可能であり、前記反強磁性バリア層は、垂直磁気異方性又は垂直磁気モーメント成分を有し、前記反強磁性バリア層と強磁性導電性材料との界面で交換結合があり、前記自由磁性層の磁気モーメントが反転する際に、前記反強磁性バリア層の磁気モーメントも反転することによって、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させ、前記マグノン接合の動作方法は、前記第1の電極層及び前記第2の電極層を利用して、前記マグノン接合を垂直に流れる垂直反転電流を印加するステップであって、前記垂直反転電流は、前記基準磁性層を流れる際にスピン偏極される、ステップと、前記基準磁性層と前記反強磁性バリア層との界面において、スピン偏極電流の一部をマグノン流に変換し、拡散させて前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層に注入するステップであって、拡散及び注入の際にマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)が発生する、ステップと、スピン偏極電流トンネルの他の一部が前記反強磁性バリア層を介して前記自由磁性層にトンネリングすることによって、前記マグノン流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)と前記スピン偏極電流により発生したスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転するステップと、を含む、方法を提供する。
【0018】
一例では、前記第1の電極層は、スピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成され、前記方法は、前記第1の電極層を流れる面内反転電流を印加するステップであって、前記面内反転電流は、スピンホール効果により前記自由磁性層に拡散するスピン偏極電流を発生させ、前記スピン偏極電流は、前記自由磁性層の磁気モーメントを反転させるためのスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)を発生させることによって、前記垂直反転電流により発生したマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)及びスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)と、前記面内反転電流により発生したスピン軌道トルク(Spin-Orbit Torque:SOT)との共同作用により、前記自由磁性層の磁気モーメント方向が反転する、ステップ、をさらに含む。
【0019】
一例では、前記マグノン流は、前記反強磁性バリア層の異なる格子点で互いに反平行に配列された磁気モーメント方向も反転するようにマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)をさらに発生させることによって、前記反強磁性バリア層のネールベクトル方向と前記自由磁性層の磁気モーメント方向の両方が反転する。
【0020】
本開示の実施例の1つの態様では、複数のマグノン記憶ユニットのアレイを含み、各マグノン記憶ユニットは、上記のマグノン接合を含む、マグノンランダムアクセスメモリ(Magnon Random Access Memory:mRAM)を提供する。
【0021】
本開示の実施例の1つの態様では、上記のマグノン接合と、前記マグノン接合を垂直に流れる電流を印加し、前記マグノン接合の両端にマイクロ波発振信号を生成する電流源と、を含み、前記電流源により提供された電流の大きさは、前記マグノン接合におけるマグノン移行トルク及びスピン移行トルク(MTT+STT)の大きさを調整して、前記マグノン接合における自由磁性層の磁気モーメントの歳差運動の周波数及び振幅を調整することによって、前記マグノン接合の両端により出力されたマイクロ波発振信号の周波数及び振幅を制御するように調整可能である、マグノンマイクロ波発振器(Magnon Microwave Oscillator:MMO)を提供する。
【0022】
本開示の実施例の1つの態様では、上記のマグノン接合であって、前記マグノン接合の磁気モーメントは、外部マイクロ波信号により発生した交番電磁界に伴って歳差運動する、マグノン接合と、前記マグノン接合を垂直に流れる検出電流を印加して、前記マグノン接合の両端にマイクロ波発振信号を生成する電流源であって、前記マイクロ波発振信号の周波数及び振幅は、それぞれ前記外部マイクロ波信号の周波数及び強度に依存する、電流源と、前記マイクロ波発振信号の周波数及び振幅を検出して、前記外部マイクロ波信号の周波数及び強度を決定する信号分析モジュールと、を含む、マグノンマイクロ波検出器(Magnon Microwave Detector:MMD)を提供する。
【0023】
本開示の実施例の1つの態様では、上記のマグノン接合と、前記マグノン接合を垂直に流れる連続電流を印加する電流源であって、前記連続電流は、前記マグノン接合の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さを低減させ、熱摂動でのランダムな反転を実現し、前記マグノン接合の両端でランダムな信号を出力するように、所定の電流密度を有する、電流源と、マグノン乱数発生器(Magnon Random Number Generator:MRNG)を提供する。
【0024】
本開示の実施例の1つの態様では、上記のマグノン接合と、前記マグノン接合を垂直に流れる連続電流を印加する電流源であって、前記連続電流は、前記マグノン接合の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さを低減させ、熱摂動でのランダムな反転を実現し、前記マグノン接合の両端でランダムな信号を出力するように、所定の電流密度を有し、前記連続電流の大きさを調整することによって、マグノン移行トルク又はスピン移行トルクの大きさを調整し、平行及び反平行の状態を発生させる確率を変更し、確率調整可能な乱数発生器を実現する、電流源と、マグノン確率ビット乱数発生器(Magnon p-bit Random Number Generator:MRNG)を提供する。
【0025】
本開示の実施例の1つの態様では、上記のマグノンランダムアクセスメモリ、上記のマグノンマイクロ波発振器、上記のマグノンマイクロ波検出器、上記のマグノン乱数発生器、及び上記のマグノン確率ビット乱数発生器のうちの少なくとも1つを含む、電子機器を提供する。
【0026】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら説明される以下の例示的な実施例から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来の磁気トンネル接合(MTJ)の構成の概略図である。
【
図2】本発明の1つの実施例に係るマグノン接合の構成の概略図である。
【
図3】本発明のもう1つの実施例に係るマグノン接合の構成の概略図である。
【
図4】本発明の1つの実施例に係るマグノン接合の磁気モーメント方向の概略図である。
【
図5A】垂直反転電流の印加時のスピン移行トルク(STT)反転の原理の概略図である。
【
図5B】垂直反転電流の印加時のスピン移行トルク(STT)反転の原理の概略図である。
【
図6A】垂直反転電流の印加時のマグノン移行トルク(MTT)反転の原理の概略図である。
【
図6B】垂直反転電流の印加時のマグノン移行トルク(MTT)反転の原理の概略図である。
【
図7A】面内反転電流の印加時のスピン軌道トルク(SOT)反転の原理の概略図である。
【
図7B】面内反転電流の印加時のスピン軌道トルク(SOT)反転の原理の概略図である。
【
図8】本発明の1つの実施例に係るマグノンランダムアクセスメモリの記憶ユニットアレイの構成の概略図である。
【
図9】本発明のもう1つの実施例に係るマグノンランダムアクセスメモリの記憶ユニットアレイの構成の概略図である。
【
図10】本発明の1つの実施例に係るマグノンマイクロ波発振器の構成の概略図である。
【
図11】本発明の1つの実施例に係るマグノンマイクロ波検出器の構成の概略図である。
【
図12】本発明の1つの実施例に係るマグノン乱数発生器の構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下は図面を参照しながら本発明の例示的な実施例を説明する。なお、図面は縮尺を考慮して描かれていない場合がある。
【0029】
図2は、本発明の1つの実施例に係るマグノン接合200の構成の概略図である。
図2に示すように、マグノン接合200は、第1の電極層202、自由磁性層210、反強磁性バリア層220、基準磁性層230、ピン止め層240及び第2の電極層204を含んでもよい。
【0030】
図3は、本発明のもう1つの実施例に係るマグノン接合200’の構成の概略図である。
図3に示すように、マグノン接合200’は、第2の電極層204、ピン止め層240、基準磁性層230、反強磁性バリア層220、自由磁性層210及び第1の電極層202を含んでもよい。
図3は、マグノン接合200’(又はマグノン接合200)が二端子素子(左下の図)及び三端子素子(右下の図)として機能することができることをさらに示している。二端子素子として機能する場合、マグノン接合200’を垂直に流れる読み出し電流Iread及び垂直書き込み電流I
write
MTT+STTを印加してもよい。三端子素子として機能する場合、マグノン接合200’を垂直に流れる読み出し電流Iread及び垂直書き込み電流I
write
MTT+STTに加えて、第1の電極層(スピンホール効果(SHE)層)を流れる面内書き込み電流I
write
SOTをさらに印加してもよい。
【0031】
従って、
図2及び
図3から分かるように、本発明における空間的関係、例えば上側及び下側などの用語は、相対的な空間的関係のみを意味し、いずれの絶対的方向にも限定されない。以下は、説明の便宜上、マグノン接合200のみに言及するが、マグノン接合200’も含むものと理解すべきである。また、従来の磁気トンネル接合(MTJ)と同様に、マグノン接合200の構造についても様々な変形が可能であり、ここでその説明を省略する。また、自由層を反転させる原理により、MTT+STTの両端子型デバイスとMTT+STT+SOTの三端子型デバイスとに分けることができるが、これについては以下でさらに詳しく説明する。
【0032】
図4は、自由磁性層210、反強磁性バリア層220及び基準磁性層230の磁気モーメント方向を示している。
図4に示すように、基準磁性層230は、垂直磁気異方性を有しており、その磁気モーメント方向M
230は垂直方向に沿って一定に維持したまま固定されてもよい。なお、ピン止め層240を用いることで、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230を垂直方向にピン止めすることができ、このようなピン止め層240は、例えばIrMnなどの反強磁性材料により形成されてもよい。他の幾つかの態様では、基準磁性層230も、自己ピン止め構造を採用してもよく、例えば人工反強磁性構造を含んでもよく、この場合、ピン止め層240を省略してもよい。
【0033】
自由磁性層210も垂直磁気異方性を有してもよく、その磁気モーメント方向M210は、垂直方向に反転可能であるため、基準磁性層230の磁気モーメントM230と平行又は反平行に配列され、それぞれ、マグノン接合200の低抵抗状態及び高抵抗状態に対応するため、この特性を利用することで、マグノン接合200を記憶デバイスとして利用することができる。
【0034】
反強磁性バリア層220も垂直磁気異方性を有している。垂直方向において、
図4に示すように、反強磁性バリア層220は、格子点で互いに反平行に配列された磁気モーメント方向、例えば垂直上向きの磁気モーメント方向M
220a及び垂直下向きの磁気モーメント方向M
220bを有するため、全体として磁気モーメントがほぼゼロとなる。
図4には、反強磁性バリア層220のネールベクトルnがさらに示されている。
【0035】
なお、
図4では、自由磁性層210、反強磁性バリア層220及び基準磁性層230のそれぞれの磁気モーメント方向として垂直の上向き又は下向きが示されているが、傾斜を有してもよく、傾斜角度は60°以内であってもよく、好ましくは45°以内であってもよく、より好ましくは30°以内であってもよい。言い換えれば、自由磁性層210、反強磁性バリア層220及び基準磁性層230は、それぞれ、面内成分を有する垂直磁気異方性を有する。自由磁性層210及び反強磁性バリア層220の傾斜した磁気異方性によれば、より少ない電流でその磁気モーメントの反転を実現し、外部バイアス磁場の使用を回避することができる。詳細について後述する。
【0036】
自由磁性層210及び基準磁性層230は、それぞれ、強磁性導電性材料により形成されてもよい。上記の構成を満たす強磁性導電性材料の例としては、NiCo2O4、Fe3GeTe2、VSe2、FePt、FePd、CoPt、CoPd、[Fe/Pt]N、[Co/Pt]N、[Fe/Pd]N、[Co/Pd]N、FeCr、CoCr、FeTb、CoTb、GdFeCo、TbFeCo、極薄Co-Fe-B及びCo-Fe合金フィルムを含むが、これらに限定されない。ここで、Nは、1以上の正の整数である。
【0037】
反強磁性バリア層220は、反強磁性絶縁材料により構成されてもよい。上記の構成を満たす強磁性導電性材料の例としては、Cr2O3、CoO、NiO、FeO、MnO、MnF2、MnS、FeCl2、GdFeO3、NdFeO3、SmFeO3、BiCoO3、BiNiO3、LaFeO3を含むが、これらに限定されない。1つの例示的な態様では、反強磁性バリア層220を形成するための反強磁性絶縁材料の反強磁性構造は、A型、即ち元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、B型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が1つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と同一であり、且つもう2つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるもの、又は、C型、即ち、元のセルにおける1つの格子点の磁気モーメントの方向が3つの隣接する格子点の磁気モーメントの方向と反対であるものであってもよい。もう1つの例示的な態様では、反強磁性バリア層220は、螺旋磁気構造を有してもよい。
【0038】
なお、本発明では、良好な垂直磁気異方性を実現することが重要である。このため、自由磁性層210、反強磁性バリア層220及び基準磁性層230の材料の選択は重要である。適切な堆積プロセス、又は磁場での熱アニールなどの適切な後処理プロセスにより、材料自体が所望の垂直磁気異方性を形成することができるだけではなく、良好な品質の層構造及び明瞭な層界面を形成するために、例えば格子整合、相互拡散などのような材料同士の整合度も考慮に入れる。実験から分かるように、Cr2O3を選択して反強磁性バリア層220を形成し、NiCo2O4を選択して自由磁性層210及び基準磁性層230を形成する場合、垂直磁気異方性を有する強磁性層及び反強磁性バリア層のより良好な品質の多層膜構造を得ることができるため、好ましい。
【0039】
第1の電極層202及び第2の電極層204は、良好な導電性を有する非磁性金属材料により形成されてもよい。ここで、上方に形成される電極層は、その下に位置する層を保護するために、良好な耐食性をさらに有することが好ましい。例えば、このような非磁性金属材料の例としては、Pt、Taなどを含むが、これらに限定されない。
【0040】
幾つかの態様では、自由磁性層210と接触する第1の電極層202は、スピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成されてもよく、その例としては、Pt、W、Ta、Pd、Ir、W、Mo、Bi、Pb、Hf、IrMn、PtMn、AuMn、Bi2Se3、Bi2Te3を含むが、これらに限定されない。
【0041】
以下は、マグノン接合200の動作方法について説明する。第1の方法では、第1の電極層202及び第2の電極層204を用いて、マグノン接合200を垂直に流れる反転電流(書き込み電流とも称される)I
wを印加することによって、反転電流I
wにより誘起されたスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)とマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)との共同作用により自由磁性層210の磁気モーメント方向を反転させてもよい。以下は、
図5A、
図5B、
図6A及び
図6Bを参照しながら説明する。
【0042】
まず、
図5Aに示すように、垂直方向の反転電流I
Wは、基準磁性層230を流れる際にスピン偏極され、スピン偏極電流を発生させ、反強磁性バリア層220を通過して自由磁性層210にトンネリングする。該スピン偏極電流は、自由磁性層210の磁気モーメント方向を反転させるためのスピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)を発生させる。ここで、
図5Aに示す垂直下向きの反転電流I
Wの場合(
図5Aに「電子」として示されているが、ここでは、電流は電子流として理解することができる。一方、電流の向きは電子の流れの向きとは逆であると理解される場合、図示した電流の向きは逆の方向であってもよい。)、反転電流I
Wは、まず基準磁性層230において基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一のスピン角運動量201aを得て、スピン偏極電流を発生させ、該スピン偏極電流は、自由磁性層210にトンネリングする際に、スピン角運動量201aが自由磁性層210の磁気モーメントM
210と相互作用し、角運動量保存則により、自由磁性層210の磁気モーメントM
210に作用するスピン移行トルクを発生させ、その磁気モーメント方向を基準磁性層230に接近させる。これによって、自由磁性層210の磁気モーメントM
210を基準磁性層230の磁気モーメントM
230と同一の方向に反転させる。
【0043】
図5Bは、垂直の下向きの反転電流I
wを印加した場合を示している。基準磁性層230との界面におけるスピンのフィルタリング及び反射作用により、スピン角運動量201aが基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一のスピン偏極電流の一部は、基準磁性層230に透過し、スピン角運動量201bが基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と反対のスピン偏極電流の他の一部は、自由磁性層210に反射され、自由磁性層210の磁気モーメントM
210は、反対方向のスピン移行トルクを得て、基準磁性層230の磁気モーメントM
230と反対方向に反転される。
【0044】
図6Aに示すように、垂直の下向きの反転電流I
wは、基準磁性層230において基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一のスピン角運動量201aを得た後、基準磁性層230と反強磁性バリア層220との界面において散乱され、角運動量を反強磁性バリア層220に伝達し、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一の角運動量を有するマグノン流203aを形成する。マグノン流203aは、反強磁性バリア層220を介して自由磁性層210に拡散することができ、自由磁性層210の磁気モーメントM
210と相互作用し、角運動量保存則により、自由磁性層210の磁気モーメントM
210に作用するマグノン移行トルクを発生させて、その磁気モーメント方向を基準磁性層230に接近させる。これによって、自由磁性層210の磁気モーメントM
210を基準磁性層230の磁気モーメントM
230と同一の方向に反転させる。
【0045】
また、マグノン流203aは、反強磁性バリア層220の磁気モーメントM
220(M
220a及びM
220bを含む)に作用するマグノン移行トルクを発生させて、
図6Aにおけるネールベクトルnで示すように、その磁気モーメント方向も反転させる。反強磁性バリア層220と自由磁性層210との間に交換結合が存在するため、反強磁性バリア層220の磁気モーメントの反転により、自由磁性層210の磁気モーメントの反転を促進又は繋がることができるため、自由磁性層210の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させることができる。
【0046】
次に、
図6Bに示すように、垂直の上向きの反転電流I
wは、基準磁性層230の界面においてスピン透過及び放出効果により、スピン角運動量201aが基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一のスピン偏極電流の一部は、基準磁性層230に透過する。スピン角運動量201bが基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と反対のスピン偏極電流の他の一部は、反強磁性バリア層220及び自由磁性層210に反射され、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と反対のスピン角運動量201b(
図5B参照)を得る。それは、反強磁性バリア層220に伝達されて、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と反対の角運動量を有するマグノン流203bを形成する。マグノン流203bは、反強磁性バリア層220を介して自由磁性層210に戻るように拡散することができ、自由磁性層210の磁気モーメントM
210と相互作用し、角運動量保存則により、自由磁性層210の磁気モーメントM
210に作用する反対方向のマグノン移行トルクを発生させる。これによって、自由磁性層210の磁気モーメントM
210を基準磁性層230の磁気モーメントM
230と反対の方向に反転させる。
【0047】
また、マグノン流203bは、反強磁性バリア層220の磁気モーメントM
220(M
220a及びM
220bを含む)に作用するマグノン移行トルクを発生させて、
図6Bにおけるネールベクトルnで示すように、その磁気モーメント方向も反転させる。同様に、反強磁性バリア層220と自由磁性層210との間に交換結合が存在するため、反強磁性バリア層220の磁気モーメントの反転により、自由磁性層210の磁気モーメントの反転を促進又は繋がることができるため、自由磁性層210の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させることができる。
【0048】
以上の
図5A、5B、6A及び6Bに示すように、反強磁性バリア層220及び関連する各層の磁気異方性の構成により、垂直の反転電流I
wは、スピン移行トルク(Spin Transfer Torque:STT)とマグノン移行トルク(Magnon Transfer Torque:MTT)との両方を同時に誘起し、それらの共同作用により自由磁性層210の磁気モーメント方向を反転させることができるため、必要な反転電流の密度の大きさを低減させることができる。垂直の反転電流I
wの方向を変えることで、自由磁性層210の磁気モーメントを所望の方向に反転させることができ、操作が簡単である。また、自由磁性層210の磁気モーメントと共に反強磁性バリア層220の磁気モーメントを反転させることができるため、反強磁性バリア層220の結合効果による反転バリアの高さを低減させることができるため、反転電流密度をさらに低減させることができる。必要な反転電流の密度が低減すると、反強磁性バリア層220は、相対的に厚さを増大させることができるため、ピンホール効果を回避し、反強磁性バリア層220に発生するチップ設計では許容できないほど大きなリーク電流を防止することができ、マグノン接合を記憶ユニットデバイスとして使用する場合に非常に有利である。
【0049】
自由磁性層210に接触する第1の電極層202がスピンホール効果を有する重金属非磁性導電性材料により形成される場合、第1の電極層202に沿って印加された面内反転電流を用いて自由磁性層210の磁気モーメント方向の反転を補助してもよく、ここで、第2の方法と称される。以下は、
図7A及び
図7Bを参照しながら詳細に説明する。
【0050】
まず、
図7Aに示すように、第1の電極層202に沿って面内反転電流I
wを印加する際に(
図7Aで左方向を向く)、スピンホール効果により、第1の電極層202の表面にスピン偏極電流が発生し、該電流が自由磁性層210に拡散し、自由磁性層210の磁気モーメントM
210にスピン軌道トルクを印加する。
図7Aの例では、自由磁性層210の磁気モーメントM
210は、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と同一になるように反転される。
【0051】
次に、
図7Bに示すように、第1の電極層202に沿って反対方向の面内反転電流I
wを印加する際に(
図7Bで右方向を向く)、面内反転電流I
wは、電子偏極方向が互いに反対となるスピン偏極電流を発生させ、該電流は、自由磁性層210に拡散するため、自由磁性層210の磁気モーメントM
210に反対方向のスピン軌道トルクを印加する。
図7Bの例では、自由磁性層210の磁気モーメントM
210を、基準磁性層230の磁気モーメント方向M
230と反対の方向に反転させる。
【0052】
また、
図7A及び7Bに示すプロセスでは、発生したスピン偏極電流は、反強磁性バリア層220の界面にも拡散することができるため、スピン角運動量が反強磁性バリア層220に伝達され、マグノン流を発生させる。このマグノン流は、
図6A及び6Bに示すように、反強磁性バリア層220の磁気モーメントを反転させるマグノン移行トルク(MTT)を発生させることができる。上述したように、反強磁性バリア層220と自由磁性層210との間に交換結合が存在するため、反強磁性バリア層220の磁気モーメントの反転により、自由磁性層210の磁気モーメントの反転を促進又は繋がることができるため、自由磁性層210の磁気モーメントを反転させるために必要な電流密度を低減させることができる。
【0053】
上記の第1の動作方向及び第2の動作方法によれば、自由磁性層210の磁気モーメント方向を反転させることによって、マグノン接合200の抵抗状態を変更し、即ち、マグノン接合200に記憶されるデータビットを変更することができるため、書き込み方法とも称される。幾つかの態様では、上述した第1の書き込み方法及び第2の書き込み方法を同時に使用して、マグノン接合200における自由磁性層210の磁気モーメントを反転させ、即ち、垂直反転電流と面内反転電流との共同作用により、自由磁性層210の磁気モーメントを反転させることができるため、第3の書き込み/反転方法と称されてもよく、ここでその原理の説明を省略する。
【0054】
マグノン接合200の読み出し方法は、従来の磁気トンネル接合(MTJ)と同様に、垂直読み取り電流を印加することによってマグノン接合200の抵抗状態を読み取ることによって、マグノン接合に記憶されたデータを読み取ることができる。読み取り電流の電流密度は、反転電流(即ち、書き込み電流)の電流密度よりも遥かに小さいため、マグノン接合200における自由磁性層210の磁気モーメント方向を変化させることがない。
【0055】
本発明の1つの実施例では、マグノンランダムアクセスメモリ(Magnon Random Access Memory:mRAM)をさらに提供し、該マグノンランダムアクセスメモリは、上記のマグノン接合200により形成されたマグノン記憶ユニットのアレイを含んでもよい。
図8は、二端子素子としてのマグノン接合200を含むマグノン記憶ユニットアレイ300を示し、関連するアクセス動作を実行するために、マグノン接合200の上下の両端にのみ電流/電圧が印加される。
図9は、三端子素子としてのマグノン接合200(
図3に示す)を含むマグノン記憶ユニットアレイ300’を示し、マグノン接合200の上下の両端に電流/電圧を印加することに加えて、関連するアクセス動作を実行するために、マグノン接合200におけるスピンホール効果(SHE)層(重金属非磁性導電層)に面内電流を印加してもよい。
【0056】
まず、
図8に示すように、アレイの各行についてワード線BLn及び電源線SLn(ここで、nは行番号を表す)を設け、アレイの各列について選択線SELp(ここで、pは列番号を表す)を設けている。マグノン接合200の一方の電極層がワード線BLnに接続され、他方の電極層がスイッチトランジスタ302を介して電源線SLnに接続され、スイッチトランジスタ302の制御ゲートが選択線SELpに接続されている。例えば第1行第1列のマグノン接合200に対して書き込み動作を行う際に、第1行のワード線BL1及び電源線SL1により書き込み電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、第1行第1列のマグノン接合200に対する書き込み動作が完了する。言い換えれば、上記の第1の動作方法を用いて、マグノン接合200に対して書き込み動作を行う。同様に、例えば1行第1列のマグノン接合200に対して読み出し動作を行う際に、第1行のワード線BL1及び電源線SL1により読み出し電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、第1行第1列のマグノン接合200に対する読み出し動作が完了する。書き込み動作及び読み出し動作の具体的な原理について、上記のマグノン接合200に関する説明で詳細に説明されているため、ここでその説明を省略する。同様に、アレイにおける各マグノン接合200に対して読み出し及び書き込みの動作を個別に行ってもよい。
【0057】
図9に示すように、マグノン接合200を三端子素子として形成する場合、アレイの各行について第1のワード線BLn1及び第2のワード線BLn2(ここで、nは行番号を表す)と電源線SLnを設け、各列について選択線SELp(ここで、pは列番号を表す)を設けている。マグノン接合200のスピンホール効果層202の一端が第1のワード線BLn1に接続され、他端がスイッチトランジスタ302を介して電源線SLnに接続され、スイッチトランジスタ302の制御ゲートが選択線SELpに接続されている。また、マグノン接合200のスピンホール効果層202とは反対側の第2の電極層204は、第2のワード線BLn2に接続されてもよい。例えば第1行第1列のマグノン接合200に対して書き込みを行う場合、3つの書き込み方法を採用してもよい。1つ目の書き込み方法は、第1のワード線BL11をフローティングにし、第2のワード線BL12及び電源線SL1を介して垂直書き込み電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、第1行第1列のマグノン接合200に対する書き込み動作が完了する。2つ目の書き込み方法は、第2のワード線BL12をフローティングにし、第1のワード線BL11及び電源線SL1を介して面内書き込み電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、第1行第1列のマグノン接合200に対する書き込み動作が完了する。3つ目の書き込み方法は、第2のワード線BL12及び電源線SL1を介して垂直書き込み電流を印加すると同時に、第1のワード線BL11及び電源線SL1を介して面内書き込み電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、垂直書き込み電流及び面内書き込み電流の両方を用いて第1行第1列のマグノン接合200に対する書き込みが完了する。これらの3つの書き込み方法は、何れも、マグノン接合200の動作方法に関する上記の説明で詳細に説明されているため、ここでその説明を省略する。例えば第1行第1列のマグノン接合200に対して読み出し動作を行う際に、第1のワード線BL11をフローティングにし、第2のワード線BL12及び電源線SL1を介して読み出し電流を印加し、第1列の選択線SEL1に電圧を印加して第1列のスイッチトランジスタ302をオンにし、第1行第1列のマグノン接合200に対する読み出し動作が完了する。同様に、アレイにおける各マグノン接合200に対して読み出し及び書き込みの動作を個別に行ってもよい。
【0058】
図10は、本発明の1つの実施例に係るマグノンマイクロ波発振器(Magnon Microwave Oscillator:MMO)400の構成の概略図である。
図10に示すように、マグノンマイクロ波発振器400は、マグノン接合200、及びマグノン接合200を垂直に流れる電流を印加するための電流源を含んでもよい。電流源402は、供給する電流の大きさを調整することができる調整可能な電流源であってもよい。インダクタ404は、インピーダンス整合のために、マグノン接合200と直列に接続されてもよい。電流がマグノン接合200を垂直に流れる際に、電流の大きさを制御することによって、マグノン接合200における自由磁性層210の磁気モーメントが反転しないが、自由磁性層210の磁気モーメントがスピン移行トルクとマグノン移行トルクにより歳差運動し、マグノン接合200の両端からマイクロ波発振信号が出力される。電流源402により供給される電流の大きさを調節することによって、マグノン接合200におけるマグノン移行トルク(MTT)及びスピン移行トルク(STT)の大きさを調整することができるため、マグノン接合200における自由磁性層210の歳差運動の周波数及び振幅を調整し、マグノン接合200の両端で出力されるマイクロ波発振信号の周波数及び振幅を制御することができる。
図10で示すように、マグノン接合200の一端には、直流成分をフィルタリングにより除去するためのコンデンサ406と、コンデンサ406を通過した交流信号(即ち、マイクロ波信号)を増幅して最終的にマイクロ波信号Voutを出力するための信号増幅器408とが並列に接続されてもよい。
【0059】
図11は、本発明の1つの実施例に係るマグノンマイクロ波検出器(Magnon Microwave Detector:MMD)400’の構成の概略図である。マグノンマイクロ波検出器400’における構成要素の一部は、マグノンマイクロ波発振器400と同様であり、ここで同一の符号で表記してその説明を省略する。マグノンマイクロ波検出器400’では、電流源402は、マグノン接合200のために小さな検出電流を供給する。該検出電流は、マグノン接合200における自由磁性層210の磁気モーメントの歳差運動をほとんど引き起こさず、特定の周波数及び振幅を有する。マグノン接合200の自由磁性層210の磁気モーメントは、外部マイクロ波信号により生成された交番電磁界に伴って歳差運動することによって、マグノン接合200の両端でマイクロ波発振信号を生成する。該信号は、コンデンサ406によりフィルタリングされ、信号増幅器408により増幅された後、信号分析モジュール410に供給される。信号分析モジュール410は、マイクロ波発振信号の周波数及び振幅を検出してもよく、さらに、電流源402により供給される検出電流に起因する信号成分をフィルタリングにより除去し、外部マイクロ波信号により発生した検出信号成分を取得し、最終的に、検出信号の周波数及び振幅と外部マイクロ波信号の周波数及び強度との依存関係に基づいて、外部マイクロ波信号の周波数及び強度を決定してもよい。なお、マグノンマイクロ波検出器400’における、本発明に係るマグノン接合200に密接に関連する幾つかの主要なデバイスのみが示され、他の部分が省略されており、他の部分について従来技術のマイクロ波検出器を参照して実施されてもよい。
【0060】
図12は、本発明の1つの実施例に係るマグノン乱数発生器(Magnon Random Number Generator:MRNG)500の構成の概略図である。
図12に示すように、マグノン乱数発生器500は、マグノン接合200、及びマグノン接合200を垂直に流れる連続電流を印加する電流源502を含む。従来の磁気トンネル接合(MTJ)では、磁気トンネル接合(MTJ)に印加される垂直電流の密度が増大すると、磁気トンネル接合の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さが減少するため、特定の電流密度範囲において、バリアの高さが十分に小さい場合、熱摂動により、磁気トンネル接合は、平行状態と反平行状態との間でランダムに反転し、ランダムな信号を出力する。関連する原理について、文献J.Y.Qin, X.F.Han et al.Thermally activated magnetization back-hopping based true random number generator in nano-ring magnetic tunnel junctions.Appl.Phys.Lett.114 (2019) 112401を参照してもよい。従来の磁気トンネル接合と同様に、マグノン接合200に印加される垂直電流の密度が増加するにつれて、マグノン接合200の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さも減少する。従って、電流源502は、マグノン接合200の平行状態と反平行状態との間のバリアの高さを減少させ、熱摂動でのランダムな反転を実現し、マグノン接合200の両端でランダムな信号を出力するように、マグノン接合200に所定の電流密度の連続電流を供給してもよい。該ランダムな信号は、増幅器504で増幅された後、出力端Voutで出力される。
【0061】
本発明の1つの例示的な実施例は、マグノン確率ビット乱数発生器(Magnon p-bit Random Number Generator:MRNG)をさらに提供し、該マグノン確率ビット乱数発生器は、
図12に示すマグノン乱数発生器(Magnon Random Number Generator:MRNG)500と同様な構造を有するため、ここで重複する内容について説明を省略する。
図12に示すように、マグノン接合200に印加される垂直電流の密度を調整することによって、マグノン移行トルク又はスピン移行トルクの大きさを調整し、自由磁性層210の磁気モーメントを上方又は下方に反転させて、平行状態及び反平行状態の発生確率を変更し、確率調整可能な乱数発生器を実現し、即ち、所定の確率で乱数ビットを発生させることができる。このようなマグノン確率ビット乱数発生器は、人工ニューラルネットワーク及びアルゴリズム構築のコアユニットに適用されてもよい。
【0062】
本発明の1つの態様は、電子機器をさらに提供する。該電子機器は、上記のマグノンランダムアクセスメモリ、マグノンマイクロ波発振器、マグノンマイクロ波検出器、及びマグノン乱数発生器のうちの1つ以上を含んでもよい。このような電子機器の例としては、携帯電話、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、メディアプレーヤ、携帯情報端末、及びウェアラブル電子機器などを含むが、これらに限定されない。
【0063】
文脈によって特に要求されない限り、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、用語「含む」、「含まれている」、「備える」、「有する」などは、排他的又は網羅的な意味ではなく、包括的な意味で解釈されるべきである。言い換えれば、「…含むが、これらに限定されない」という意味である。一般に、本明細書で使用する「接続」という語は、直接接続してもよいし、1つ以上の中間要素を介して2つ以上の要素を接続してもよいことを指す。また、本明細書で使用される場合、用語「本文」、「上記」、「下記」、及び同様の意味の用語は、本明細書の全体を指し、本明細書の特定の部分を指すものではない。文脈が許す限り、用語「又は」は、該用語の以下の全ての解釈を包含する2つ以上の項目のリスト、即ち、リスト内の任意の項目、リスト内の全ての項目、及びリスト内の項目の任意の組み合わせを指す。
【0064】
また、特に指定されていない限り、又は使用される文脈においてそうでないと理解されない限り、本明細書で使用される場合、「できる」、「であってもよい」、「可能性がある」、「してもよい」、「例えば」、「一例として」などの条件語は、一般に、特定の実施形態が、特定の特徴、要素、及び/又は状態を含まない特定の実施形態を表すことを意図する。さらに、そのような条件言語は、概して、1つ以上の実施形態が何らかの形で機能、要素、及び/又は状態を必要とすることを暗示することを意図するものではなく、或いは、1つ以上の実施形態は、作成者の入力又はプロンプトの有無にかかわらず、機能、要素、及び/又は状態が何らかの特定の実施形態に含まれるか、又は何らかの特定の実施形態で実行されることを決定する論理を備えなければならない。
【0065】
幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例としてのみ示され、本開示の範囲を限定することは意図されていない。さらに、本明細書に記載された新規な設備、方法、及びシステムは、様々な他の形態で具体化されてもよい。さらに、本明細書に記載された方法及びシステムの形態において、本開示の精神から逸脱することなく、様々な省略、置換、及び変更を行うことができる。さらに、例えば、ブロックは所与の構成で提示されるが、代替実施形態は、異なる構成要素及び/又は回路トポロジと同様の機能を実行することができ、幾つかのブロックを削除、移動、追加、再分割、結合、及び/又は修正することができる。さらに、これらのブロックはそれぞれ、様々な異なる方法で実装することができる。さらに、これらの様々な実施形態の要素及び動作の任意の適切な組合せを組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。さらに、これらの形態及び修正は、本開示の範囲及び精神の範囲内に含まれることが意図される。
【0066】
上記の説明は、例示及び説明の目的で与えられた。上記の説明は、本発明の実施形態を本明細書に開示された形態に限定することを意図するものではない。上記の説明では幾つかの例示的な態様及び実施形態を説明したが、当業者であれば、幾つかの変形、修正、変更、追加、及び部分的な組み合わせを理解するであろう。
【外国語明細書】