(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115554
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物、熱伝導性樹脂シート、及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20240819BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240819BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240819BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20240819BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240819BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20240819BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240819BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08G59/40
C08K3/28
C08L63/00 Z
B32B15/092
B32B27/20 Z
B32B27/38
B32B7/027
C08J5/18 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020617
(22)【出願日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023021139
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】新城 隆
(72)【発明者】
【氏名】新土 誠実
(72)【発明者】
【氏名】水野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】福本 通孝
(72)【発明者】
【氏名】高麗 亜希
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F071AA39
4F071AA42
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4F071AH13
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4J036FB09
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4J036KA05
(57)【要約】
【課題】リフロー工程などで高温に加熱された場合であっても、絶縁性低下を抑制できる熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、絶縁性無機フィラー、及びシアネートエステル化合物を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、前記熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物の、動的粘弾性測定により測定される300℃の損失弾性率をE''(Pa)、熱分析で測定された285℃~300℃の温度範囲における線膨張率をα(/K)とし、損失弾性率をE''と線膨張率αと前記温度範囲ΔT(15K)を掛け合わせた熱応力をXとした際に、熱応力Xの値が2.7×105Pa以下である、熱伝導性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、絶縁性無機フィラー、及びシアネートエステル化合物を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、
前記熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物の、動的粘弾性測定により測定される300℃の損失弾性率をE''(Pa)、熱分析で測定された285℃~300℃の温度範囲における線膨張率をα(/K)とし、前記損失弾性率E''と前記線膨張率αと前記温度範囲ΔT(15K)を掛け合わせた熱応力をXとした際に、熱応力Xの値が2.7×105Pa以下である、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記シアネートエステル化合物が、ノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂、及びこれらが一部三量化されたプレポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記シアネートエステル化合物の含有量が、硬化剤100当量%中、40当量%以上85当量%以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シアネートエステル化合物の含有量が、熱伝導性樹脂組成物100重量%中、0.1重量%以上20重量%以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上を含む請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記絶縁性無機フィラーが窒化ホウ素粒子を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーを含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーが、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
前記窒化ホウ素粒子の含有量が、熱伝導性樹脂組成物100体積%中、15体積%以上80体積%以下である請求項6に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物である、熱伝導性樹脂シート。
【請求項11】
請求項10に記載の熱伝導性樹脂シートと、金属ベース板と、金属板とを備え、前記金属ベース板上に、前記熱伝導性樹脂シート及び前記金属板をこの順で備える積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性樹脂組成物、該熱伝導性樹脂組成物の硬化物である熱伝導性樹脂シート、及び該熱伝導性樹脂シートを備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用機器、家庭用電気機器、情報端末などの幅広い分野において、パワーモジュールが用いられている。パワーモジュールにおいては、樹脂シートを使用した放熱基板の開発が進められている。該樹脂シートは、パワーモジュールから発生する熱を放散する放熱性や絶縁性が要求されることから、エポキシ樹脂などの樹脂及び絶縁放熱フィラーを含有する樹脂組成物等により形成されることが知られている。
【0003】
特許文献1では、エポキシ樹脂、無機フィラー、及び硬化剤を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の硬化物の弾性率(GPa)と、線膨張係数(ppm/K)の積Kの30℃~125℃までの積分値が2.7×104以下である樹脂組成物について開示されている。そして、該樹脂組成物は、三次元積層型半導体装置の層間充填材組成物として用いた場合に、環境変化に対して安定した接合を維持できることが記載されている。
【0004】
特許文献2では、二官能シアン酸エステル化合物、無機充填材、及びシリコーン複合パウダーを含有した樹脂組成物であって、Cステージ状態まで硬化させた硬化物のヤング率(GPa)と、熱膨張係数(ppm/K)の積である熱応力係数Xが150~204GPa・ppm/Kである樹脂組成物からなる絶縁層を備える樹脂シートが開示されている。
そして、Bステージ状態の樹脂シートの可撓性に優れること、成形性及び部品埋め込み性に優れること、Cステージ状態における樹脂硬化物と部品の密着性に優れること、高いガラス転移温度を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-39992号公報
【特許文献2】特開2018-58250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、パワーモジュールなどに使用される基板や樹脂シートは、はんだリフロー工程などにより280~300℃程度の高温に加熱されることがある。このように高温に加熱された場合、上記した従来の樹脂組成物では、絶縁性が低下してしまう傾向があり、高い信頼性が求められる高電圧用途において使用することが難しい。
また、上記した特許文献1~2では、樹脂シートが280~300℃程度の高温に晒された場合に生じる絶縁性低下についての課題、及びこのような課題に対する具体的な解決手段を開示していない。
そこで本発明では、リフロー工程などで高温に加熱された場合であっても、絶縁性低下を抑制できる熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、絶縁性無機フィラー、エポキシ樹脂、及びシアネートエステル化合物を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、Cステージ状態まで硬化させた硬化物の熱応力Xが一定値以下である熱伝導性樹脂組成物により、上記課題が解決できること見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関する。
【0008】
[1]エポキシ樹脂、絶縁性無機フィラー、及びシアネートエステル化合物を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、前記熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物の、動的粘弾性測定により測定される300℃の損失弾性率をE''(Pa)、熱分析で測定された285℃~300℃の温度範囲における線膨張率をα(/K)とし、前記損失弾性率E''と前記線膨張率αと前記温度範囲ΔT(15K)を掛け合わせた熱応力をXとした際に、熱応力Xの値が2.7×105Pa以下である、熱伝導性樹脂組成物。
[2]前記シアネートエステル化合物が、ノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂、及びこれらが一部三量化されたプレポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記[1]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[3]前記シアネートエステル化合物の含有量が、硬化剤100当量%中、40当量%以上85当量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[4]前記シアネートエステル化合物の含有量が、熱伝導性樹脂組成物100重量%中、0.1重量%以上20重量%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[5]前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[6]前記絶縁性無機フィラーが窒化ホウ素粒子を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[7]窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーを含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[8]前記窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーが、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[7]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[9]前記窒化ホウ素粒子の含有量が、熱伝導性樹脂組成物100体積%中、15体積%以上80体積%以下である上記[6]~[8]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物である、熱伝導性樹脂シート。
[11]上記[10]に記載の熱伝導性樹脂シートと、金属ベース板と、金属板とを備え、前記金属ベース板上に、前記熱伝導性樹脂シート及び前記金属板をこの順で備える積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リフロー工程などで高温に加熱された場合であっても、絶縁性低下を抑制できる熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層体を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る半導体装置を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<熱伝導性樹脂組成物>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、絶縁性無機フィラー、及びシアネートエステル化合物を含有する組成物である。そして、該熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物の、300℃の損失弾性率をE''(Pa)、285℃~300℃の温度範囲における線膨張率をα(/K)とし、損失弾性率E''と線膨張率αと前記温度範囲ΔT(15K)を掛け合わせた熱応力Xは2.7×105Pa以下である。
【0012】
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の熱伝導性樹脂組成物の熱応力Xは2.7×105Pa以下である。熱伝導性樹脂組成物の熱応力Xが2.7×105Pa以下であると、高温時の絶縁性の低下を抑制できる。
この理由は定かではないが、次のように推定される。一般に、絶縁性無機フィラーを含む熱伝導性樹脂組成物及びこれよりなる熱伝導性樹脂シートは、高温加熱時に膨張・収縮することで、絶縁性無機フィラーと樹脂との間に空間が発生し絶縁性が低下しやすくなると考えられる。この空間の発生しやすさには、熱応力Xが関係しており、本発明のように、熱応力Xを一定値以下とすることで、高温加熱時の膨張・収縮を生じ難くして、絶縁性の低下を抑制できると推定される。
【0013】
熱伝導性樹脂組成物の熱応力Xは、高温時の絶縁性の低下抑制の観点から、好ましくは2.5×105Pa以下、より好ましくは2.0×105Pa以下、さらに好ましくは1.5×105Pa以下、よりさらに好ましくは1.2×105Pa以下である。
一方、熱伝導性樹脂組成物の熱応力Xは、好ましくは1.0×104Pa以上であり、より好ましくは4.0×104Pa以上であり、さらに好ましくは5.0×104Pa以上であり、よりさらに好ましくは1.0×105Pa以上である。熱応力Xがこれら下限値以上であると、該熱伝導性樹脂組成物の硬化物である熱伝導性樹脂シート上に金属板を備える後述する積層体において、熱伝導性樹脂シートと金属板との間での剥離を抑制しやすくなり、製品の信頼性が向上する。また、熱応力Xがこれら下限値以上であると、高温時の絶縁性の低下抑制の効果と、熱伝導性樹脂シートと金属板との間での剥離抑制の効果との両方をバランスよく向上させることができる。
【0014】
本発明において、熱応力Xは、動的粘弾性測定により測定される300℃の損失弾性率E''(Pa)、熱分析で測定された285℃~300℃の温度範囲における線膨張率α(/K)、及び前記温度範囲ΔT(15K)を掛け合わせた値である。
上記動的粘弾性測定及び熱分析は、熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物に対して行う。ここで、Cステージ状態とは、熱伝導性樹脂組成物が完全に硬化した状態であり、詳細には、熱伝導性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂と、硬化剤であるシアネートエステル化合物及び必要に応じて配合されるシアネートエステル化合物以外の硬化剤との反応が完了した状態である。
Cステージ状態まで硬化した硬化物であるか否かは、示差走査熱量計(DSC)で確認することができ、示差走査熱量計(DSC)において、エポキシ樹脂と硬化剤の反応熱に基づくピーク及びエポキシ樹脂の自己重合に基づくピークが確認されない場合は、Cステージ状態まで硬化した硬化物と判断できる。ここで上記示差走査熱量計(DSC)による測定は、試料5mgを準備して、測定温度範囲30℃~350℃、昇温速度10℃/分、窒素流量50ml/分の条件で行うとよい。
熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化する場合の硬化条件は、熱伝導性樹脂組成物の組成によって変動するため一概には決められないが、例えば100~250℃の温度範囲で、15分以上加熱するとよい。
【0015】
300℃の損失弾性率E''(Pa)は、熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物に対して、動的粘弾性測定により得られる値である。
300℃の損失弾性率E''(Pa)は、熱応力Xが上記した特定範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば1.0×107Pa以上1.0×109Pa以下であり、好ましくは5.0×107Pa以上5.0×108Pa以下であり、より好ましくは1.0×108Pa以上3.0×108Pa以下である。
【0016】
285℃~300℃の温度範囲における線膨張率α(/K)は、熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させた硬化物を熱分析することで得られる値である。ここで、熱分析は、熱機械分析(TMA)装置により行うことができる。
線膨張率α(/K)は、熱応力Xが上記した特定範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば1×10
-5(/K)以上1×10
-4(/K)以下であり、好ましくは3×10
-5(/K)以上9×10
-5(/K)以下であり、より好ましくは4.2×10
-5(/K)以上7×10
-5(/K)以下である。
285℃~300℃の温度範囲における線膨張率α(/K)は、以下の式に基づいて求められる。なお下記式の15Kは、300℃と285℃の差を意味している。
【数1】
【0017】
上記した300℃の損失弾性率E''(Pa)、線膨張率α(/K)、及び温度範囲ΔTを掛け合わせた値が熱応力Xである。温度範囲ΔTは、300℃と285℃との温度差であり、15Kである。
300℃の損失弾性率E''(Pa)、線膨張率α(/K)、及びこれらに基づいて定められる熱応力Xは、熱伝導性樹脂組成物の組成を調整することで、所望の値に調節できる。より詳細には、熱伝導性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル化合物の種類及び量、エポキシ樹脂の種類及び量、並びにシアネートエステル化合物とエポキシ樹脂との組み合わせにより、所望の値に調節できる。例えば、ナフタレンノボラック型やフェノールノボラック型のシアネートエステル化合物を配合させたり、ナフタレンノボラック型シアネートエステル化合物を用いる場合は含有量(当量%)を高めに配合させることで熱応力Xを小さくすることができる。また、エポキシ当量の大きいエポキシ樹脂を配合させることで熱応力Xを小さくすることができる。
【0018】
<エポキシ樹脂>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂としては、例えば、スチレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、トリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
また、エポキシ樹脂としては、フェノキシ樹脂であってもよい。フェノキシ樹脂は、例えばエピハロヒドリンと2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。上記フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ナフタレン型フェノキシ樹脂、フルオレン型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、アントラセン型フェノキシ樹脂、アダマンタン型フェノキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノキシ樹脂など挙げられる。
【0020】
エポキシ樹脂は、上記した熱応力Xを小さくして、熱伝導性組成物から形成される熱伝導性樹脂シートの高温時における絶縁性低下を抑制する観点から、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
エポキシ樹脂は、熱応力Xを小さくして、熱伝導性組成物から形成される熱伝導性樹脂シートの高温時における絶縁性低下を抑制する観点から、フルオレン系エポキシ樹脂を含むことが好ましい。フルオレン系エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂全量基準で、好ましくは10重量%以上50重量%以下、より好ましくは15重量%以上40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以上35重量%以下である。
また、フルオレン系エポキシ樹脂のエポキシ当量は、熱応力Xを小さくする観点から、好ましくは200g/eq以上400g/eq以下であり、より好ましく250g/eq以上350g/eq以下、より好ましくは270g/eq以上330g/eq以下である。
【0021】
エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性樹脂組成物100重量%中、好ましくは2重量%以上50重量%以下であり、より好ましくは3重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以上15重量%以下である。
なお、本明細書において、熱伝導性樹脂組成物中の各成分の含有量は、固形分基準の値であり、すなわち、熱伝導性樹脂組成物中の固形分全量を100重量%としたときの含有量を意味する。
【0022】
<シアネートエステル化合物>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱応力Xを小さくする観点から、シアネートエステル化合物を含有する。シアネートエステル化合物は、エポキシ樹脂の硬化剤としての機能を有する化合物であり、シアネートエステル基(-OCN)を有する化合物である。また、シアネートエステル化合物は、1分子中に2つ以上のシアネートエステル基を有することが好ましい。
【0023】
上記シアネートエステル化合物は、ノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂、及びこれらが一部三量化されたプレポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記ノボラック型シアネートエステル樹脂としては、ナフタレンノボラック型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂及びアルキルフェノール型シアネートエステル樹脂等が挙げられ、中でもナフタレンノボラック型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂が好ましい。上記ビスフェノール型シアネートエステル樹脂としては、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂及びビスフェノールF型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0024】
上記シアネートエステル化合物の市販品としては、ナフタレンノボラック型シアネートエステル樹脂(三菱ガス化学社製「N-CN」)、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(アークサーダジャパン社製「PT-30」及び「PT-60」)、及びビスフェノール型シアネートエステル樹脂が三量化されたプレポリマー(アークサーダジャパン社製「BA-230S」、「BA-3000S」、「BTP-1000S」及び「BTP-6020S」)等が挙げられる。
【0025】
シアネートエステル化合物の含有量は、熱伝導性樹脂組成物に含まれる硬化剤100当量%中、好ましくは40当量%以上85当量%以下であり、より好ましくは45当量%以上80当量%以下である。
なお、前記シアネートエステル化合物の前記当量%は、熱応力Xを小さくする観点から、使用するシアネートエステル化合物の種類に応じて適宜調整するとよい。例えば、ナフタレンノボラック型シアネートエステル樹脂を使用する場合は、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂並びにビスフェノール型シアネートエステル樹脂の一部が三量化されたプレポリマーなどを用いる場合と比較して、前記当量%を高めに調整することが好ましい。
【0026】
シアネートエステル化合物の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性樹脂組成物100重量%中、好ましくは0.1重量%以上20重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上8重量%以下であり、よりさらに好ましくは1.5重量%以上8重量%以下である。
【0027】
<シアネートエステル化合物以外の硬化剤>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、上記したシアネートエステル化合物以外の硬化剤を含んでもよく、シアネートエステル化合物と、シアネートエステル化合物以外の硬化剤を組み合わせ使用することが好ましい。
シアネートエステル化合物以外の硬化剤としては、例えば、アミン化合物(アミン硬化剤)、チオール化合物(チオール硬化剤)、ホスフィン化合物、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、フェノール化合物(フェノール硬化剤)、酸無水物、活性エステル化合物、カルボジイミド化合物(カルボジイミド硬化剤)、及びベンゾオキサジン化合物(ベンゾオキサジン硬化剤)等が挙げられる。シアネートエステル化合物以外の硬化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
シアネートエステル化合物以外の硬化剤としては、上記した中でも、カルボジイミド化合物(カルボジイミド硬化剤)が好ましい。
【0028】
シアネートエステル化合物以外の硬化剤の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性樹脂組成物100重量%中、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以上5重量%以下であり、さらに好ましくは0.3重量%以上3重量%以下である。
【0029】
<絶縁性無機フィラー>
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、絶縁性無機フィラーを含有する。絶縁性無機フィラーは、電気絶縁性を有するフィラーであり、電気抵抗率が例えば108[Ω・m]以上のフィラーである。
熱伝導性樹脂組成物の絶縁性を確保しつつ、熱伝導性を高める観点から、絶縁性無機フィラーの熱伝導率は、例えば10W/(m・K)以上であり、好ましくは15W/(m・K)以上、より好ましくは20W/(m・K)以上である。また、熱伝導性フィラーの熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば、300W/(m・K)以下でもよいし、200W/(m・K)以下でもよい。
なお、絶縁性無機フィラーの熱伝導率は、例えば、クロスセクションポリッシャーにて切削加工したフィラー断面に対して、株式会社ベテル製サーマルマイクロスコープを用いて、周期加熱サーモリフレクタンス法により測定することができる。
【0030】
絶縁性無機フィラーは、窒化ホウ素粒子を含むことが好ましい。窒化ホウ素粒子を含有することにより、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性及び絶縁性が向上する。また、窒化ホウ素粒子の中でも、窒化ホウ素凝集粒子が好ましい。
窒化ホウ素凝集粒子は、一次粒子を凝集して構成される凝集粒子である。窒化ホウ素凝集粒子は、一般的に、例えばSEMによる断面観察により、凝集粒子か否かを判別できる。なお、窒化ホウ素凝集粒子は、プレス成形などの種々の工程を経ることで、凝集粒子の形態を維持することもあるし、変形、崩壊、解砕などすることがある。ただし、窒化ホウ素凝集粒子は、エポキシ樹脂と混合後に、プレス成形などの工程を経ることで、仮に変形、崩壊、解砕などしても概ね配向せず、また、ある程度の纏まりとなって存在するため、例えば上記した断面を観察することにより、窒化ホウ素凝集粒子であることが示唆され、それにより凝集粒子か否かを判別できる。
【0031】
熱伝導性樹脂組成物に配合される窒化ホウ素凝集粒子は、絶縁性と熱伝導性とを効果的に高める観点から、平均粒子径が5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、また、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
凝集粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定できる。平均粒子径の算出方法については、累積体積が50%であるときの凝集粒子の粒子径(d50)を平均粒子径として採用する。
【0032】
窒化ホウ素凝集粒子の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造できる。例えば、予め用意した一次粒子を凝集(造粒)させて得ることができ、具体的には、噴霧乾燥方法及び流動層造粒方法等が挙げられる。噴霧乾燥方法(スプレードライとも呼ばれる)は、スプレー方式によって、二流体ノズル方式、ディスク方式(ロータリ方式とも呼ばれる)、及び超音波ノズル方式等に分類でき、これらのどの方式でも適用できる。
また、窒化ホウ素凝集粒子の製造方法としては、必ずしも造粒工程は必要ではない。例えば、公知の方法で結晶化させた窒化ホウ素の結晶の成長に伴い、窒化ホウ素の一次粒子が自然に集結することで凝集粒子を形成させてもよい。
また、窒化ホウ素凝集粒子としては、例えば、昭和電工株式会社製の「UHP-G1H」、水島合金鉄株式会社製の「HP-40」シリーズなどが挙げられる。
【0033】
窒化ホウ素粒子の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性樹脂組成物100体積%中、好ましくは15体積%以上80体積%以下であり、より好ましくは30体積%以上70体積%以下であり、さらに好ましくは40体積%以上60体積%以下である。
【0034】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーを含むことが好ましく、窒化ホウ素粒子と窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーを併用することがより好ましい。これらを併用することで、窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーが、窒化ホウ素粒子の間に入り込んで、窒化ホウ素粒子同士の間に熱パスを形成し、熱伝導性をより高めやすくなる。
【0035】
窒化ホウ素粒子以外の無機粒子としては、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、中でも、高温時の絶縁性を良好にする観点からアルミナがより好ましい。
窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーの平均粒子径は、絶縁性及び熱伝導性を高めやすい観点から、例えば0.1μm以上100μm以下、好ましくは0.5μm以上60μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定される累積体積が50%であるときの粒子径(d50)である。
【0036】
窒化ホウ素粒子以外の無機フィラーの含有量は、特に限定されないが、熱伝導性樹脂組成物100体積%中、好ましくは5体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは8体積%以上30体積%以下であり、さらに好ましくは10体積%以上20体積%以下である。
【0037】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、上記成分以外にも、分散剤、シランカップリング剤などのカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、粘着性付与剤、可塑剤、チキソ性付与剤、及び着色剤などのその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
<熱伝導性樹脂シート>
本発明の熱伝導性樹脂シートは、上記した熱伝導性組成物の硬化物であり、例えば、上記した熱伝導性組成物をシート状に成形することにより形成することができる。
熱伝導性樹脂シートの厚みは、特に限定されないが、一定の絶縁性及び熱伝導性を確保する観点から、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは60μm以上であり、さらに好ましくは70μm以上である。熱伝導性樹脂シートの厚みは、後述する回路基板や半導体装置などを薄膜化する観点などから、好ましくは150μm以下であり、好ましくは140μm以下であり、より好ましくは130μm以下である。
本発明の熱伝導性樹脂シートは、単層構造であっても、多層構造であってもよい。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱伝導性樹脂シートの片面又は両面に樹脂層を積層した熱伝導性樹脂シートであってもよい。
【0039】
<積層体>
本発明の積層体は、
図1に示すように、上記熱伝導性樹脂シート10に加えて、金属ベース板11及び金属板12を備え、金属ベース板11上に、熱伝導性樹脂シート10及び金属板12をこの順に備える積層体13である。
【0040】
金属ベース板11及び金属板12は、それぞれ熱伝導体としての機能を発揮するため、その熱伝導率は、10W/m・K以上であることが好ましい。これらに用いる材料としては、アルミニウム、銅、金、銀などの金属、及びグラファイトシート等が挙げられる。熱伝導性をより一層効果的に高める観点からは、アルミニウム、銅、又は金であることが好ましく、アルミニウム又は銅であることがより好ましい。
金属ベース板11の厚みは、0.1~5mmであることが好ましく、金属板12の厚みは、10~3000μmであることが好ましく、10~1500μmであることがより好ましい。なお、金属板としては、銅板のような板や銅箔のような箔の場合も含む。
【0041】
積層体13は、回路基板として使用されることが好ましい。回路基板として使用される場合、積層体13における金属板12は、回路パターンを有するよい。回路パターンは、回路基板上に実装される素子などに応じて、適宜パターニングすればよい。回路パターンは、特に限定されないが、エッチングなどにより形成されるとよい。また、回路基板において、金属ベース板11は、放熱板などとして使用される。
【0042】
[半導体装置]
本発明は、上記積層体を有する半導体装置も提供する。具体的には、
図2に示すように、半導体装置15は、熱伝導性樹脂シート10、金属ベース板11及び金属板12を有する積層体13と、積層体13の金属板12の上に設けられる半導体素子14とを備える。金属板12は、エッチングなどによりパターニングされ、回路パターンを有するとよい。
【0043】
なお、半導体素子14は、
図2では2つ示されるが、半導体素子14の数は限定されず、1つ以上であればいくつであってもよい。また、金属板12の上には、半導体素子14以外にも、トランジスタ等の他の電子部品(図示しない)が搭載されていてもよい。各半導体素子14は、金属板12の上に形成された接続導電部16を介して金属板12に接続される。接続導電部16は、はんだにより形成されるとよい。また、積層体13の金属板12側の表面には封止樹脂19が設けられる。そして、少なくとも半導体素子14が封止樹脂19により封止され、必要に応じて、金属板12も半導体素子14と共に封止樹脂19により封止されるとよい。
半導体素子14は、特に限定されないが、少なくとも1つがパワー素子(すなわち、電力用半導体素子)であることが好ましく、それにより、半導体装置15がパワーモジュールであることが好ましい。パワーモジュールは、例えば、インバータなどに使用される。
また、パワーモジュールは、例えば、エレベータ、無停電電源装置(UPS)等の産業用機器において使用されるが、その用途は特に限定されない。
【0044】
金属板12には、リード20が接続されている。リード20は、例えば封止樹脂19より外部に延出し、金属板12を外部機器などに接続する。また、半導体素子14にはワイヤ17が接続されてもよい。ワイヤ17は、
図2に示すように半導体素子14を別の半導体素子14、金属板12、リード20などに接続するとよい。
半導体素子14は、リード20などを介して電力が供給されて駆動すると発熱するが、半導体素子14で発生した熱は、熱伝導性樹脂シート10を介して金属ベース板11に伝播され、金属ベース板11から放熱される。金属ベース板11は、必要に応じて放熱フィンなどからなるヒートシンクに接続されるとよい。
【0045】
半導体装置15は、その製造工程において、リフロー工程を経て製造されるとよい。具体的には、半導体装置15の製造方法においては、まず、積層体13を用意して、積層体13の金属板12上にはんだ印刷などにより接続導電部16を形成し、その接続導電部16の上に半導体素子14を搭載する。その後、半導体素子14を搭載した積層体13をリフロー炉の内部を通過させて、リフロー炉の内部で加熱し、接続導電部16により半導体素子14を金属板12の上に接続させる。なお、リフロー炉内の温度は、特に限定されないが、例えば200~300℃程度である。半導体装置15の製造方法においては、リフロー工程後に封止樹脂19を積層体13上に積層して半導体素子14は封止すればよい。また、封止樹脂19で封止する前に、適宜、ワイヤ17、リード20などを取り付けるとよい。
なお、以上では、リフロー工程により半導体素子14を金属板12に接続させる態様を示したが、このような態様に限定されず、例えば、リフロー工程により、積層体13(すなわち、回路基板)を別の基板(図示しない)に接続してもよい。
【0046】
[熱伝導性樹脂シート及び積層体の製造方法]
熱伝導性樹脂シートは、上記した熱伝導性樹脂組成物をシート状に成形して得ることができる。例えば、熱伝導性樹脂組成物を、剥離シートなどの支持体上に塗布、積層などして、シート状に成形してもよいし、積層体を製造する場合には、金属ベース板などの上に塗布、積層などしてシート状に成形してもよい。ここで、シート状とは、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らなものをいい、支持体、金属ベース板の上などの他の部材に膜状、層状に形成されたものもシート状の概念に含まれる。
【0047】
塗布、積層などによりシート状に成形した熱伝導性樹脂組成物は、プレス成形などにより加熱及び加圧することで部分的又は完全に硬化してもよいし、プレス成形前に部分的又は完全に硬化させておいてもよい。
【0048】
また、熱伝導性樹脂シート、金属ベース板、及び金属板を備える積層体を製造する場合には、予めシート状に成形した熱伝導性樹脂組成物を、金属ベース板と金属板の間に配置して、プレス成形により加熱及び加圧して、金属ベース板と金属板を、熱伝導性樹脂シートを介して接着させることで積層体を製造することができる。熱伝導性樹脂シートは、プレス成形時の加熱により硬化させることが好ましいが、プレス成形前に部分的又は完全に硬化させておいてもよい。積層体では、その最終品である製品形態においては、熱伝導性樹脂シートは完全に硬化されていることが最も好ましい。完全に硬化することで、絶縁性や耐熱性が安定し、ガラス転移温度が向上し、積層体の品質が安定する。
【0049】
また、金属ベース板の上に熱伝導性樹脂組成物を塗布、積層などして、硬化前の熱伝導性樹脂シートを作製し、次いで、その上に金属板を積層し、その後、必要に応じてプレス成形などにより加熱及び加圧してシートを硬化させ、金属板を、熱伝導性樹脂シートを介して金属ベース板に接着させることで積層体を得てもよい。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
なお、各物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0052】
[ピール強度]
実施例及び比較例で得られた積層体を50mm×120mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルの中央幅10mmの銅箔だけを残して剥がし、中央幅10mmの銅箔に対してJIS C 6481に準拠して、35μm銅箔のピール強度を測定した。上記ピール強度測定装置としては、オリエンテック社製「テンシロン万能試験機」を用い、剥離角度は90°であった。ピール強度は以下の評価基準で評価した。
(ピール強度の判定基準)
〇:ピール強度が4N/cm以上である。
△:ピール強度が2N/cm以上4N/cm未満である。
×:ピール強度が2N/cm未満である。
【0053】
[BDV(絶縁破壊電圧)減少率]
初期BDV及びリフロー後BDVより以下の式により、BDV減少率を算出した。
BDV減少率(%)=(初期BDV-リフロー後BDV)/初期BDV×100
BDV減少率(%)が低い方が、絶縁性に優れることを示す。
【0054】
(初期絶縁破壊電圧(初期BDV))
各実施例及び比較例で得られた積層体を90mm×50mmにカットし、金属板をφ20mmのパターンにエッチングにて加工してテストサンプルを得た。その後、耐電圧試験器(EXTECH Electronics社製「MODEL7473」)を用いて、テストサンプルの金属板及び金属ベース板の間に20kV/minの速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。電流値が10mAとなった電圧(絶縁破壊電圧)を初期BDVとした。
【0055】
(リフロー後BDV)
各実施例及び比較例で得られた積層体を300℃の恒温槽の内部に5分間放置した。上記と同様の方法で測定した絶縁破壊電圧をリフロー後BDVとした。
【0056】
[300℃の損失弾性率をE'']
各実施例及び比較例で得られた積層体の熱伝導性組成物層(熱伝導性シート)を幅5mm×長さ30mmにカットし、アイティー計測制御社製「動的粘弾性測定装置DVA-200」を用いて以下の通り、動的粘弾性測定を行った。サンプルをDVA-200にセットし、引張モードにて昇温速度5℃/分、周波数10Hzで、25℃~350℃の間で弾性率を測定した。300℃の損失弾性率をE''とした。
【0057】
[線膨張率α]
各実施例及び比較例で得られた積層体の熱伝導性組成物層(熱伝導性シート)を幅3mm×長さ40mmにカットし、日立ハイテクサイエンス社製「熱機械分析装置TMA-7100」を用いて以下の通り、線膨張率測定を行った。
サンプルをTMA-7100にセットし、窒素雰囲気下で、室温(25℃)から400℃まで10℃/分で昇温してから5分間保持した後、-50℃まで20℃/分で冷却してから5分間保持した。その後、400℃まで10℃/分で、引っ張り方向に5gfの力をかけながら昇温し、各温度での線膨張率(/K)を測定した。
285℃~300℃の温度範囲における線膨張率α(/K)は、以下の式に基づいて求めた。なお下記式の15Kは、300℃と285℃の差を意味している。
【数2】
【0058】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下の通りである。
<エポキシ樹脂>
・ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(三菱ケミカル社製「jER-1256」)、エポキシ当量7500~8500g/eq
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂(ADEKA社製「EP-3950S」)、エポキシ当量95g/eq
・フルオレン系エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製「CG-500」)、エポキシ当量310g/eq
・フルオレン系エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製「EG-200」)、エポキシ当量290g/eq
・フルオレン系エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製「PG-100」)、エポキシ当量260g/eq
【0059】
<シアネートエステル化合物>
・ナフタレンノボラック型シアネートエステル樹脂(三菱ガス化学社製「N-CN」)
・フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(アークサーダジャパン社製「PT-30」)
・ビスフェノールA型/ビスフェノールF型シアネートエステル樹脂含有液、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂が一部三量化されたプレポリマー(アークサーダジャパン社製「BA-3000S」)
・フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(アークサーダジャパン社製「PT-60」)
・ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂(三菱ガス化学社製「TA」)
【0060】
<シアネートエステル化合物以外の硬化剤>
・カルボジイミド樹脂含有液(日清紡ケミカル社製「V-03」)
・酸無水物型硬化剤(三菱ケミカル社製「TM-60」)
【0061】
<絶縁性無機フィラー>
(窒化ホウ素凝集粒子)
・顆粒状窒化ホウ素粉末(昭和電工社製「UHP-G1H」)、凝集粒子の平均粒子径33μm
(アルミナ)
・多面体アルミナ粉末(住友化学社製「AA-18」)、平均粒子径18μm
・多面体アルミナ粉末(住友化学社製「AA-05」)、平均粒子径0.5μm
【0062】
[実施例1]
(ピール強度及びBDV減少率評価用の試料の作製)
表1の配合に従って、表1記載の成分を混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製した。次に、熱伝導性樹脂組成物を離型PETシート(厚み40μm)上に塗布し、50℃のオーブン内で10分間加熱させて仮硬化させ、樹脂組成物層の厚みが180μmのシート状の熱伝導性樹脂組成物を得た。次に、得たシート状の熱伝導性樹脂組成物を離型PETシートから剥がして、その両面を金属板としての銅箔(厚み35μm)と、金属ベース板としてのアルミニウム板(厚み1.0mm)の間に挟み、温度110℃で30分加熱しさらに仮硬化させ、仮硬化積層体を得た。得られた仮硬化積層体を、温度200℃、圧力を15MPaの条件で120分間真空プレスすることにより、熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させ、金属ベース板、熱伝導性組成物層(熱伝導性シート)、及び金属板からなる積層体を得た。熱伝導性シートの厚みは、130μmであった。得られた積層体の評価結果を表1に示す。
【0063】
(損失弾性率及び線膨張率の評価用の試料の作製)
表1の配合に従って、表1記載の成分を混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製した。熱伝導性樹脂組成物を離型PETシート(厚み40μm)上に塗布し、50℃のオーブン内で10分間加熱させて仮硬化させ、樹脂組成物層の厚みが180μmのシート状の熱伝導性樹脂組成物を得た。次に、得た離型PETシート付の熱伝導性樹脂組成物2枚を、樹脂組成物面が接するように重ね合わせ、温度110℃で 30分加熱しさらに仮硬化させ、仮硬化積層体を得た。得られた仮硬化積層体を、温度200℃、圧力を15MPaの条件で120分間真空プレスすることにより、熱伝導性樹脂組成物をCステージ状態まで硬化させ、離型PETシート、熱伝導性組成物層(熱伝導性シート)、及び離型PETシートからなる積層体を得た。熱伝導性シートの厚みは、250μmであった。
得られた積層体の評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2~8、比較例1~4]
熱伝導性樹脂組成物に含まれる各成分の種類及び量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、積層体を作製した。各評価結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
本発明の要件を満足する各実施例の熱伝導性樹脂組成物により形成された熱伝導性樹脂シートは、BDV減少率が低く、リフロー工程などで高温に加熱された場合であっても、絶縁性低下を抑制できることが分かった。
これに対して、本発明の要件を満足しない各比較例の熱伝導性組成物により形成された熱伝導性樹脂シートは、実施例と比較してBDV減少率が高く、高温時の絶縁性が低下しやすいことが分かった。