(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115570
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】放射性核種標識薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 51/08 20060101AFI20240820BHJP
C07K 1/13 20060101ALI20240820BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240820BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240820BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K51/08
C07K1/13
A61P13/12
A61P35/00
A61K47/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021230
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF36
4C085HH03
4C085KA09
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA52
4H045BA71
4H045EA28
4H045EA51
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】腎臓への吸収を低減する放射性核種標識薬剤を提供する。
【解決手段】本発明による放射性核種標識薬剤は、標的に結合可能なペプチド、および放射性核種が配位可能なキレート剤を含む放射性核種標識薬剤であって、前記ペプチドを構成するアミノ酸残基(N末端残基およびC末端残基を含む)は、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基から選択される同種の反応基を2つ以上有するものであって(ただし、反応基がチオール基の場合、チオール基を有するシステイン残基の少なくとも1つはN末端残基およびC末端残基ではない)、前記キレート剤は、前記ペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基にリンカーを介して結合し、前記リンカーの結合により前記ペプチドが環状化している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に結合可能なペプチド、および放射性核種が配位可能なキレート剤を含む放射性核種標識薬剤であって、
前記ペプチドを構成するアミノ酸残基(N末端残基およびC末端残基を含む)は、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基から選択される同種の反応基を2つ以上有するものであって(ただし、反応基がチオール基の場合、チオール基を有するシステイン残基の少なくとも1つはN末端残基およびC末端残基ではない)、
前記キレート剤は、前記ペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基にリンカーを介して結合し、前記リンカーの結合により前記ペプチドが環状化している放射性核種標識薬剤。
【請求項2】
下記式(1)~(15)で示す構造から選択される請求項1に記載の放射性核種標識薬剤。
【化1】
(式(1)~(15)の構造において、Xは任意のアミノ酸であり、Xが複数存在する場合は、異なるものであってよい。nは1~20の整数であり、mは、1~20の整数であり、oは1~20の整数であり、n+m+oは2以上50以下である。Yは、アスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基である。Lは、4~20個の炭素鎖からなるリンカーである。Cはキレート剤である。リンカーを構成する炭素鎖は、分枝状炭素鎖であって、不飽和炭化水素基を有していてもよい。さらに、リンカーを構成する炭素鎖は、環状炭化水素基、芳香族基を主鎖および/または側鎖に有していてもよい。さらにまた、炭素鎖のうちの一部の炭素が酸素、硫黄または窒素により置換されていてもよい。また、リンカーと結合していないN末端およびC末端は、修飾されていても、されていなくてもよい。)
【請求項3】
前記キレート剤が、1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)、1,4,7-トリアザシクロノナン-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N-コハク酸-N’,N’’-二酢酸(NOTASA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N-グルタミン酸-N’,N’’-二酢酸(NODAGA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-トリス(メチレンホスホニック(methylenephosphonic))(NOTP)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン([12]aneN4)(サイクレン)、1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン([13]aneN4)、1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン(イソ-サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)アセタート(DO1A)、2,2’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジイル)二酢酸(DO2A)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸(DO3A)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メタンホスホン酸)(DOTP)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジ(メタンホスホン酸)(DO2P)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ(メタンホスホン酸)(DO3P)、1,4,7,10-テトラアザシクロ-デカン-1-グルタミン酸-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1-コハク酸-4,7,10-三酢酸(DOTASA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン([14]aneN4)(サイクラム)、1,4,8,12-テトラアザシクロペンタデカン([15]aneN4)、1,5,9,13-テトラアザシクロヘキサデカン([16]aneN4)、1,4-エタノ-1,4,8,11-テトラアザシクロ-テトラデカン(et-サイクラム)、1,4,8,11-15-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、2-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1-イル)酢酸(TE1A)、2,2’-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,8-ジイル)二酢酸(TE2A)、4,11-ビス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]-ヘキサデカン(CB-TE2A);3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]イコサン(Sar)、フタロシアニンおよびその誘導体またはポルフィリンから選択される請求項1に記載の放射性核種標識薬剤。
【請求項4】
前記放射性核種が、99mTc、188Re、186Re、153Sm、67Ga、68Ga、111In、59Fe、63Zn、52Fe、45Ti、60Cu、61Cu、67Cu、64Cu、62Cu、198Au、199Au、195mPt、191mPt、193mPt、117mSn、89Zr、177Lu、18F、123I、166Ho、90Y、89Sr、153Gd、225Ac、212Bi、213Bi、211At、197Pt、103Pd、103mRh、223Ra、224Ra、227Th、32P、161Tbおよび33P、125I、203Pb、201Tl、119Sb、58mCo、または161Hoから選択される請求項1に記載の放射性核種標識薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種標識薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんに対する核医学診断薬や核医学治療薬として、放射性核種を標識したペプチドが有望であるとして注目されている。ペプチドとしては、ソマトスタチン受容体に結合するドータテート(DOTA-TATE)や、前立腺特異抗原に結合するPSMA-617や、線維芽細胞活性化タンパク質(Fibroblast Activation Protein:FAP)結合性薬剤であるFAPI-04やFAPI-2286などが研究されている。放射性核種を標識したペプチドは、標的抗原への結合力が強く、正常臓器への集積が少ないことが望ましいが、既存の放射性核種薬剤の中には、腎臓への集積により腎臓が被ばくし、腎障害を引き起こすおそれがある薬剤があることが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】L. Geenen, J. Nonnekens, M. Konijnenberg et al “Overcoming nephrotoxicity in peptide receptor radionuclide therapy using [177Lu]Lu-DOTA-TATE for the treatment of neuroendocrine tumours”, Nuclear Medicine and Biology 102-103, 2021, 1-11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腎臓の近位尿細管の上皮細胞には、megalinという受容体が高発現しており、megalinに原尿中のたんぱく質やペプチドが結合すると、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれて、リソソームによってアミノ酸に分解される。放射性核種標識薬剤もmegalinと結合すると分解を受けるが、放射性核種標識薬剤中のキレートは人工的な構造であるため分解されず、キレートおよび標識された放射性核種は腎臓にとどまり、放射線核種により腎臓が被ばくしてしまう。
【0005】
従来の放射性核種標識薬剤の設計戦略では、人工物であるキレートが組み込まれているものの、それ以外は天然に存在するペプチドと同等の構造を有しているものが多いため、megalinが放射線核種標識薬剤をペプチドと認識し、腎臓に吸収し分解してしまう。本発明者は、ペプチドに人工的なリンカー構造を組み込んで、放射線核種標識薬剤をmegalinがペプチドと認識し難くすれば、腎臓への吸収そのものを阻害できるのではないかと考えた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、腎臓への吸収を低減する放射性核種標識薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤は、標的に結合可能なペプチド、および放射性核種が配位可能なキレート剤を含む放射性核種標識薬剤であって、前記ペプチドを構成するアミノ酸残基(N末端残基およびC末端残基を含む)は、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基から選択される同種の反応基を2つ以上有するものであって(ただし、反応基がチオール基の場合、チオール基を有するシステイン残基の少なくとも1つはN末端残基およびC末端残基ではない)、前記キレート剤は、前記ペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基にリンカーを介して結合し、前記リンカーの結合により前記ペプチドが環状化している。
【0008】
また、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤は、上記の発明において、下記式(1)~(15)で示す構造から選択される。
【化1】
式(1)~(15)の構造において、Xは任意のアミノ酸であり、Xが複数存在する場合は、異なるものであってよい。nは1~20の整数であり、mは、1~20の整数であり、oは1~20の整数であり、n+m+oは2以上50以下である。Yは、アスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基である。Lは、4~20個の炭素鎖からなるリンカーである。Cはキレート剤である。リンカーを構成する炭素鎖は、分枝状炭素鎖であって、不飽和炭化水素基を有していてもよい。さらに、リンカーを構成する炭素鎖は、環状炭化水素基、芳香族基を主鎖および/または側鎖に有していてもよい。さらにまた、炭素鎖のうちの一部の炭素が酸素、硫黄または窒素により置換されていてもよい。また、リンカーと結合していないN末端およびC末端は、修飾されていても、されていなくてもよい。
【0009】
また、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤は、上記発明において、前記キレート剤が、1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)、1,4,7-トリアザシクロノナン-三酢酸(NOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N-コハク酸-N’,N’’-二酢酸(NOTASA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N-グルタミン酸-N’,N’’-二酢酸(NODAGA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-トリス(メチレンホスホニック(methylenephosphonic))(NOTP)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン([12]aneN4)(サイクレン)、1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン([13]aneN4)、1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン(イソ-サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)アセタート(DO1A)、2,2’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジイル)二酢酸(DO2A)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸(DO3A)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メタンホスホン酸)(DOTP)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジ(メタンホスホン酸)(DO2P)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ(メタンホスホン酸)(DO3P)、1,4,7,10-テトラアザシクロ-デカン-1-グルタミン酸-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1-コハク酸-4,7,10-三酢酸(DOTASA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン([14]aneN4)(サイクラム)、1,4,8,12-テトラアザシクロペンタデカン([15]aneN4)、1,5,9,13-テトラアザシクロヘキサデカン([16]aneN4)、1,4-エタノ-1,4,8,11-テトラアザシクロ-テトラデカン(et-サイクラム)、1,4,8,11-15-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、2-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1-イル)酢酸(TE1A)、2,2’-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,8-ジイル)二酢酸(TE2A)、4,11-ビス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]-ヘキサデカン(CB-TE2A);3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]イコサン(Sar)、フタロシアニンおよびその誘導体またはポルフィリンから選択される。
【0010】
また、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤は、上記発明において、前記放射性核種が、99mTc、188Re、186Re、153Sm、67Ga、68Ga、111In、59Fe、63Zn、52Fe、45Ti、60Cu、61Cu、67Cu、64Cu、62Cu、198Au、199Au、195mPt、191mPt、193mPt、117mSn、89Zr、177Lu、18F、123I、188Re、186Re、153Sm、166Ho、90Y、89Sr、111In、153Gd、225Ac、212Bi、213Bi、211At、60Cu、61Cu、67Cu、64Cu、62Cu、198Au、199Au、195mPt、193mPt、197Pt、117mSn、103Pd、103mRh、177Lu、223Ra、224Ra、227Th、32P、161Tbおよび33P、125I、203Pb、201Tl、119Sb、58mCo、または161Hoから選択される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射性核種標識薬剤は、腎臓への吸収を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。なお、本明細書において、アミド結合を含む直鎖状化合物を広義に、「ペプチド」と称する。すなわち、本明細書において「ペプチド」とは、天然アミノ酸のみで構成されたペプチドに限定されない。
【0013】
本発明に係る放射性核種標識薬剤は、標的に結合可能なペプチド、および放射性核種が配位可能なキレート剤を含む放射性核種標識薬剤であって、前記ペプチドを構成するアミノ酸残基(N末端残基およびC末端残基を含む)は、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基から選択される同種の反応基を2つ以上有するものであって(ただし、反応基がチオール基の場合、チオール基を有するシステイン残基の少なくとも1つはN末端残基およびC末端残基ではない)、前記キレートは、前記ペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基にリンカーを介して結合し、前記リンカーの結合により前記ペプチドが環状化している。
【0014】
本発明に係る放射性核種標識薬剤は、ペプチド部分で標的に結合する。標的としては、例えば、抗原、レセプター等が例示される。標的としては、罹患した細胞もしくは組織上に発現する配位子またはレセプター、病状に関連した細胞表面抗原、腫瘍マーカーが含まれる。
【0015】
ペプチドは、アミノ酸残基中に、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基から選択される同種の反応基を2つ以上有する。アミノ酸残基は、N末端残基およびC末端残基を含む。アミノ酸残基中に、2つ以上のチオール基、2つ以上のアミノ基、また2つ以上のカルボキシル基を有していることが必要であり、残存するチオール基、アミノ基またはカルボキシル基により、リンカーと結合する。なお、反応基がチオール基の場合、チオール基を有するシステイン残基の少なくとも1つはN末端残基およびC末端残基ではない。
【0016】
キレート剤は、放射性核種が配位可能、すなわち放射性核種と錯体を形成する。キレート剤としては、非環状キレート剤および環状キレート剤が例示されるが、生体内における安定性の観点から環状キレート剤が好適に使用される。
【0017】
放射性イメージングおよび治療のためのキレート剤としては、トリ-およびテトラアザベースの大員環ポリアミンにカルボキシル基を導入した化合物が例示される。大環状ポリアミンのうちの最も一般的なのは、NOTA((1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)およびTETA(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸)、ならびにこれらの類似体である。
【0018】
DOTAはサイクレンから誘導体化される。DOTAの類似体としては、PA-DOTA(R-[2-(4-アミノフェニル)-エチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)、DOTASA(1,4,7,10-テトラアザシクロデカン-1-コハク酸-4,7,10-三酢酸)およびDOTAGA(1,4,7,10-テトラアザシクロ-デカン-1-グルタミン酸-4,7,10-三酢酸)が例示される。また、カルボン酸基の1つまたは2つが除去されたDO3AおよびDO2A、2つの対向する窒素の間にエチレン架橋を含むCB-DO2A、アルキル骨格に置換基が取り付けられたp-NCS-Bz-DOTA(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロ-ドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸)、ならびに誘導体1B4M-DOTA(2-メチル-6-(p-イソチオシアナト-ベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)およびCHX-DOTA(2-(p-イソチオシアナトベンジル)-5,6-シクロ-ヘキサノ-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)(p-NCS-Bz-DOTA環への余分な置換基を含む)もDOTAの類似体として例示される。
【0019】
TETAはサイクラムから誘導体化される。DOTAと同様にそれぞれに酢酸基が取り付けられた4つの窒素原子を有し、TETAサイクラム環の余分な2つの炭素は、DOTAサイクレン環よりわずかに大きい空洞を作り出し、いくつかの金属配位の安定性を向上し得る。TETAの類似体は、ブロモアセトアミドベンジル-1,4,8,11-テトラアザ-シクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(BAT)、3-(4-イソチオシアナト-ベンジル)-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラ-デカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(p-NCS-Bz-TETA)、4-[(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラ-デカン-1-イル)メチル]安息香酸(CPTA)、4,11-ビス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]-ヘキサデカン(CB-TE2A)、3,6,10,13,16,19-ヘキサアザ-ビシクロ[6.6.6]イコサン(Sar)、テトラ-(アミノメチルホスホナート)サイクラム(TEPA)である。
【0020】
【0021】
【0022】
キレート剤に配位可能な放射性核種は、ガンマおよび微粒子放出、ならびに半減期に基づき選出される。イメージング診断用に好ましい放射性核種は、例えば、99mTc、188Re、186Re、153Sm、67Ga、68Ga、111In、59Fe、63Zn、52Fe、45Ti、60Cu、61Cu、67Cu、64Cu、62Cu、198Au、199Au、195mPt、191mPt、193mPt、117mSn、89Zr、177Lu、18F、123Iが挙げられる。治療用に好ましい放射性核種としては、例えば、188Re、186Re、153Sm、166Ho、90Y、89Sr、111In、153Gd、67Cu、64Cu、198Au、199Au、177Lu、32P、161Tbおよび33Pが、γ(ガンマ)放射線も放出し得る、好ましい(ベータ)β放射体として例示される。225Ac、212Bi、213Bi、211At、223Ra、224Ra、227Thは、γ(ガンマ)放射線も放出し得る、好ましいα(アルファ)放射体として例示され、58mCo、61Cu、103Pd、103mRh、111In、117mSn、119Sb、161Ho、193mPt、195mPt、197Pt、201Tl、203Pb、161Tbは、γ(ガンマ)放射線も放出し得る、好ましいオージェ/転換電子放射体として例示される。
【0023】
リンカーは、ペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基と結合するとともに、キレート剤と結合する。リンカーは少なくとも3つの反応基を有し、そのうちの2つの反応基でペプチドと結合してペプチドを環状化し、残りの1つの反応基でキレート剤と結合する。リンカーを介しキレート剤を導入することで、放射性核種標識薬剤をmegalinに認識されにくくなり、腎臓への吸収を阻害することができる。また、リンカーがペプチドの2つのチオール基、アミノ基またはカルボキシル基と結合し環化することで、放射性核種標識薬剤の体内での安定性が向上する。
【0024】
ペプチドの2つのチオール基またはアミノ基と反応する場合、リンカーは、ハロゲン基等の電子吸引基を2つ有するものが好ましく、ペプチドとチオエーテル結合、またはアミノ結合を形成する。また、カルボキシル基と反応する場合、アミノ基(1級)を2つ有するものが好ましく、ペプチドとアミド結合を形成する。
【0025】
リンカーは、キレート剤の大員環に導入されたカルボキシル基と反応するアミノ基(1級)を有するものが好ましく、キレート剤との間でアミド結合を形成する。
【0026】
本発明に係る放射性核種標識薬剤は、下記式(1)~(15)の構造を有するものであることが好ましい。式(1)~(15)において、Xは任意のアミノ酸であり、Xが複数存在する場合は、異なるものであってよい。nは1~20の整数であり、mは、1~20の整数であり、oは1~20の整数であり、n+m+oは2以上50以下である。Yは、アスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基である。Lは、4~20個の炭素鎖からなるリンカーである。Cはキレート剤である。リンカーを構成する炭素鎖は、分枝状炭素鎖であって、不飽和炭化水素基を有していてもよい。さらに、リンカーを構成する炭素鎖は、環状炭化水素基、芳香族基を主鎖および/または側鎖に有していてもよい。さらにまた、炭素鎖のうちの一部の炭素が酸素、硫黄または窒素により置換されていてもよい。また、リンカーと結合していないN末端およびC末端は、修飾されていても、されていなくてもよい。
【0027】
【0028】
式(1)~(15)の構造を有する放射性核種標識薬剤は、腎臓への吸収が低減し、放射性核種による腎臓への被ばくを抑制することができる。