IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115575
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240820BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021255
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩司
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD01
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】難付着基材への印字適性に優れる水性インクジェットインクを提供することを目的とする。
【解決手段】成分A:エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、成分B:プロピレン-1-ブテン系共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、を少なくとも含む、水性インクジェットインク。前記成分A及び成分Bにおける変性成分が(メタ)アクリル酸エステルを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A:エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、
成分B:プロピレン-1-ブテン系共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、
を少なくとも含む、水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記成分A及び成分Bにおける変性成分が、(メタ)アクリル酸エステルを含む、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインクに関し、特に顔料分散性、及び難付着性基材への付着性に優れた水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、簡便かつ安価に画像を作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷を含む様々な印刷分野に応用されてきている。特に、インクジェット法は、版を用いずデジタル印刷が可能であるため、多様な画像を少量ずつ形成するような用途に特に好適である。
【0003】
インクジェット法で用いられるインクジェットインクには、水と少量の有機溶媒からなる水性インク、有機溶媒を含むが実質的に水を含まない非水性インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後に活性光線を照射されることにより硬化する活性光線硬化性インク等、複数の種類があり、これらのインクは用途に応じて使い分けられている。この中で、水性インクは一般に臭気が少なく安全性が高い点から家庭用プリンタなどに広く用いられる。
【0004】
このような水性インクジェットインクをポリオレフィン基材のような難付着性基材に印字するため、シリコーン系界面活性剤や有機溶媒を使用してインクの濡れ性を向上させ、印字適性を持たせることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
しかしながら、上記文献においては、難付着基材への印字適性が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5928028号公報
【特許文献2】特許第5817027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、顔料分散性、及び難付着性基材への付着性に優れる水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記の〔1〕~〔2〕を提供する。
〔1〕成分A:エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、成分B:プロピレン-1-ブテン系共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、を少なくとも含む、水性インクジェットインク。
〔2〕前記成分A及び成分Bにおける変性成分が、(メタ)アクリル酸エステルを含む、〔1〕に記載の水性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性インクジェットインクは、顔料分散性、及び難付着性基材への付着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
なお、本明細書中、「AA~BB」という表記は、AA以上BB以下を意味する。
【0010】
[1.成分A:エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体]
本発明は、成分Aとして、エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を含有する。
【0011】
成分Aに使用されるポリオレフィン樹脂は、エチレン-プロピレン共重合体である。エチレン-プロピレン共重合体については、構成単位100モル%中、エチレン由来の構成単位を1~50モル%の割合で含み、プロピレン由来の構成単位を50~99モル%の割合で含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、プロピレン樹脂等の非極性樹脂基材等の非極性樹脂成型品に対する付着性を確保し得る。
【0012】
<α,β-不飽和カルボン酸誘導体>
成分Aにグラフトされる変性成分として、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を使用する。α,β-不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。中でも、無水マレイン酸が好ましい。α,β-不飽和カルボン酸誘導体は上記からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含めばよく、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸誘導体の組み合わせであってもよい。
【0013】
成分Aのα,β-不飽和カルボン酸誘導体のグラフト重量は、グラフト変性物を100重量%とした場合に、0.1~10重量%が好ましく、1.0~5.0重量%がより好ましい。グラフト重量が0.1重量%以上であると、水分散体を調製した際の良好な安定性を確保し得る。グラフト重量が10重量%以下であると、グラフト未反応物の発生を防止することができ、樹脂基材に対する十分な付着性を確保し得る。
また、α,β-不飽和カルボン酸誘導体のグラフト重量は、アルカリ滴定法によって求めた値である。
【0014】
<その他の変性成分>
成分Aは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体以外の化合物によりさらに変性されてもよい。α,β-不飽和カルボン酸誘導体以外の化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルでポリオレフィン樹脂をさらに変性することにより、インクに含まれる極性の高い他成分との相溶性に優れ得る。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルとは、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含む化合物である。本明細書中「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
CH=CRCOOR ・・・(1)
【0016】
一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、メチル基が好ましい。RはC2n+1を表す。ここで、nは、1~18の整数を表し、1~15の整数が好ましく、1~13の整数がより好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。この中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートが好ましく、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0018】
変性ポリオレフィン樹脂における、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、0.1~10重量%が好ましく、1.0~5.0重量%がより好ましい。
変性ポリオレフィン樹脂の(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、1H-NMRにより求め得る。
【0019】
本発明の成分Aの重量平均分子量は、50,000~200,000であり、50,000~150,000未満が好ましく、60,000~100,000未満がより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると、乾燥後の塗膜が凝集力を発揮し、塗膜強度や付着性を付与し得る。一方、200,000未満であると、水分散体を調製した際に良好な安定性を確保し得る。
なお、本明細書中、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、標準物質:ポリスチレン)によって測定し、算出された値である。
【0020】
本発明の成分Aの融点は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。融点が50℃以上であると、耐熱付着性が発現する。融点の上限値は特に限定されないが、通常、100℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
本明細書中、DSCによるTmは、以下の条件で測定した値である。JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持する。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持する。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとして評価する。
【0021】
<任意成分>
本発明における成分Aは、エチレン-プロピレン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、変性されていないポリオレフィン樹脂、成分A以外の変性ポリオレフィン樹脂、アルキッド樹脂、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂等の樹脂成分、水性分散媒、界面活性剤、塩基性物質、架橋剤、溶液、安定化剤、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類が挙げられる。
【0022】
界面活性剤は、変性ポリオレフィン樹脂を、水系分散媒に分散させる際、分散体の安定化を図る目的で添加する従来公知のものを使用し得る。一般的に、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤から選ばれる界面活性剤が挙げられ、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0023】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
水性分散媒は、通常は水であるが、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤を併用してもよい。また、非水系分散媒として、キシレン、トルエン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0025】
溶液としては、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチルシクロヘキサノン等のケトン溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノナン、デカン等の脂肪族又は脂環式炭化水素溶剤が挙げられる。環境問題の観点から、芳香族溶剤以外の有機溶剤が好ましく、脂環式炭化水素溶剤とエステル溶剤又はケトン溶剤との混合溶剤がより好ましい。
有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0026】
また、分散体組成物の保存安定性を高めるために、アルコール(例、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール)、プロピレン系グリコールエーテル(例、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル)を、1種単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。この場合、上記有機溶剤に対して、1~20質量%添加することが好ましい。
【0027】
また、溶液としては、例えば、下記一般式(2)で表され、且つその分子量が200未満である化合物が好ましい。
【0028】
R-O-(CH・・・・・・式(2)
一般式(2)中、Rは、C2n+1であり、nは、10以下の整数である。nは、8以下の整数であることが好ましく、7以下の整数であることがより好ましく、6以下の整数であることがさらに好ましく、5以下の整数であることがさらにより好ましく、4以下の整数であることがとりわけ好ましい。
一般式(2)中、lは、5以下の整数であり、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましい。
一般式(2)中、mは、5以下の整数であり、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましく、2以下の整数であることがさらに好ましく、1であることがさらにより好ましい。
【0029】
一般式(2)で表され、且つその分子量が200未満である化合物は、グリコールエーテル系の化合物であることが好ましい。グリコールエーテル系の化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類の水素原子が、アルキル基に置換された構造である。
【0030】
一般式(2)で表される化合物は、一分子中に疎水基と親水基を有する。これにより、一般式(2)で表される化合物を添加することにより、変性ポリオレフィン樹脂を容易に水中に分散、乳化させることができる。
【0031】
一般式(2)で表される化合物として、より詳細には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましい。
【0032】
一般式(2)で表される化合物の分子量は、200未満である。これにより、水性インクジェットインクとした際の沸点の上昇を抑えることができる。その結果、塗膜の高温又は長時間乾燥を省略することができる。
【0033】
一般式(2)で表される化合物の分子量とは、IUPAC原子量委員会で承認された(12C=12とする)相対原子質量から求める分子量である。
【0034】
一般式(2)で表され、且つその分子量が200未満である化合物は、一般式(2)で表される化合物単独であってもよいし、2種以上の一般式(2)で表される化合物の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0035】
成分Aは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、その割合は特に限定されない。
【0036】
[2.成分B:プロピレン-1-ブテン系共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体]
本発明は、成分Bとして、プロピレン-1-ブテン系共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を含有する。
【0037】
成分Bに使用されるポリオレフィン樹脂は、プロピレン-1-ブテン系共重合体である。プロピレン-1-ブテン系共重合体については、構成単位100モル%中、ブテン由来の構成単位を1~50モル%の割合で含み、プロピレン由来の構成単位を50~99モル%の割合で含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、プロピレン樹脂等の非極性樹脂基材等の非極性樹脂成型品に対する付着性を確保し得る。
【0038】
<α,β-不飽和カルボン酸誘導体>
成分Bにグラフトされる変性成分として、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を使用する。α,β-不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。中でも、無水マレイン酸が好ましい。α,β-不飽和カルボン酸誘導体は上記からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含めばよく、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸誘導体の組み合わせであってもよい。
【0039】
成分Bのα,β-不飽和カルボン酸誘導体のグラフト重量は、グラフト変性物を100重量%とした場合に、0.1~10重量%が好ましく、1.0~5.0重量%がより好ましい。グラフト重量が0.1重量%以上であると、水分散体を調製した際の良好な安定性を確保し得る。グラフト重量が10重量%以下であると、グラフト未反応物の発生を防止することができ、樹脂基材に対する十分な付着性を確保し得る。
また、α,β-不飽和カルボン酸誘導体のグラフト重量は、アルカリ滴定法によって求めた値である。
【0040】
<その他の変性成分>
成分Bは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体以外の化合物によりさらに変性されてもよい。α,β-不飽和カルボン酸誘導体以外の化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルでポリオレフィン樹脂をさらに変性することにより、インクに含まれる極性の高い他成分との相溶性に優れ得る。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルとは、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含む化合物である。本明細書中「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
CH=CRCOOR ・・・(3)
【0042】
一般式(3)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、メチル基が好ましい。RはC2n+1を表す。ここで、nは、1~18の整数を表し、1~15の整数が好ましく、1~13の整数がより好ましい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。この中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートが好ましく、オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0044】
変性ポリオレフィン樹脂における、(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、0.1~10重量%が好ましく、1.0~5.0重量%がより好ましい。
変性ポリオレフィン樹脂の(メタ)アクリル酸エステルのグラフト量は、1H-NMRにより求め得る。
【0045】
本発明の成分Bの重量平均分子量は、50,000~200,000であり、100,000~200,000未満が好ましく、120,000~180,000未満がより好ましい。重量平均分子量が50,000以上であると、乾燥後の塗膜が凝集力を発揮し、塗膜強度や付着性を付与し得る。一方、200,000未満であると、水分散体を調製した際に良好な安定性を確保し得る。
なお、本明細書中、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定し、算出された値である。
【0046】
本発明の成分Bの融点は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。融点が60℃以上であると、耐熱付着性が発現する。融点の上限値は特に限定されないが、通常、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
本明細書中、DSCによるTmは、以下の条件で測定した値である。JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持する。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持する。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとして評価する。
【0047】
<任意成分>
本発明における成分Bは、プロピレン-1-ブテン系共重合が、α,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分によってグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、成分Aの任意成分の欄に列記したものと同様のものを含むことができる。
【0048】
成分Bは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
<水性インクジェットインク>
本発明の水性インクジェットインクは、成分A、及び成分Bを含む。これら成分を含むことで、難付着性基材への付着性や、顔料分性に優れるインクとなる。
【0050】
水性インクジェットインク中、成分A、及び成分Bの配合比は成分A/成分B=70/30~30/70が好ましく、60/40~40/60がより好ましい。
【0051】
本発明の水性インクジェットインクは、成分A、及び成分B以外に、下記成分を含んでいてよい。
【0052】
<顔料>
顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものを用いることができ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが好適である。
【0053】
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0054】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0055】
<分散剤>
顔料を分散させるために用いる分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5,000~200,000の範囲内のものを好適に用いることができる。
【0056】
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0057】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
【0058】
また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、10~40質量%の範囲内がより好ましい。
【0059】
顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる 。
【0060】
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、若しくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶媒を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0061】
インクジェットインク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50~200nmの範囲内であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、記録インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ、該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0062】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
【0063】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲内であることが好ましい。
【0064】
インクジェットインクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい。
【0065】
<水>
本発明の水性インクジェットインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
【0066】
<その他の成分>
本発明に用いられるインクジェットインクでは、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、界面活性剤、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができる。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」とは、特に断りがない限り、重量部である。
【0068】
[物性の測定方法]:
重量平均分子量、融点、無水マレイン酸のグラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂を用いて測定した。測定方法の詳細を下記に示す。
【0069】
[重量平均分子量]:
GPCにより下記条件に従い測定した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G6000HXL,G5000HXL,G4000HXL,G3000HXL,G2000HXL(東ソー(株)製)
溶離液:THF
流速:1mL/min
温度:ポンプオーブン、カラムオーブン40℃
注入量:100μL
標準物質:ポリスチレン EasiCal PS-1(Agilent Technology(株)社製)
【0070】
[Tm(融点、℃)]:
JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持した。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持した。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとした。
なお、水分散体組成物のTmは、水分散体組成物を40℃、24時間乾燥して得られた乾燥物を、DSC(TA Instruments製)を用いて上記と同じ条件で測定した。
【0071】
[グラフト重量(重量%)]:
アルカリ滴定法にて求めた。
【0072】
[製造例1]
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、エチレン-プロピレン共重合体(エチレン成分が12モル%、プロピレン成分が88モル%)をトルエン400g中に加熱溶解した。系内の温度を110℃に保持して撹拌しながら、無水マレイン酸4部、ラウリル(メタ)アクリレート3部、ジ-t-ブチルパーオキサイド3部をそれぞれ3時間かけて滴下した。滴下終了から1時間さらに反応を行った後、室温まで冷却した。反応物を大過剰のアセトン中に投入して精製し、重量平均分子量が70,000、融点が65℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.4重量%の変性ポリオレフィン樹脂(1)を得た。
【0073】
撹拌機、冷却管、温度計、ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、得られた変性ポリオレフィン樹脂(1)を100g、メチルシクロヘキサン18g、ノニオン界面活性剤(リポノールC-15、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)20gを添加し、フラスコ内温95℃で30分攪拌した。次に、モルホリン6gを添加し、フラスコ内温95℃で60分攪拌した。その後、90℃の脱イオン水400gを120分かけて添加し、フラスコ内温が30℃になるまで攪拌しながら冷却した。フラスコ内温が95℃になるまで攪拌しながら再度加熱し、メチルシクロヘキサンの一部を減圧下にて留去した。その後、室温まで攪拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30重量%となるよう調整した。これにより、変性ポリオレフィン樹脂(1)を含む分散体組成物(a)を得た。
【0074】
[製造例2]
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、プロピレン-1-ブテン共重合体(プロピレン成分が70モル%、ブテン成分が30モル%)をトルエン400g中に加熱溶解した。系内の温度を110℃に保持して撹拌しながら、無水マレイン酸2部、ラウリル(メタ)アクリレート1.5部、ジ-t-ブチルパーオキサイド1.5部をそれぞれ3時間かけて滴下した。滴下終了から1時間さらに反応を行った後、室温まで冷却した。反応物を大過剰のアセトン中に投入して精製し、重量平均分子量が140,000、融点が75℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.8重量%の変性ポリオレフィン樹脂(2)を得た。
【0075】
撹拌機、冷却管、温度計、ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、得られた変性ポリオレフィン樹脂(2)を100g、トルエン40g、ノニオン界面活性剤(ピュアミールCCS-80、三洋化成工業(株)製)20gを添加し、フラスコ内温95℃で30分攪拌した。次に、N,N-ジメチルエタノールアミン〔DMEA〕1.5gを添加し、フラスコ内温95℃で60分攪拌した。その後、90℃の脱イオン水400gを120分かけて添加し、フラスコ内温が30℃になるまで攪拌しながら冷却した。フラスコ内温が95℃になるまで攪拌しながら再度加熱し、トルエンの一部を減圧下にて留去した。その後、室温まで攪拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30重量%となるよう調整した。これにより、変性ポリオレフィン樹脂(2)を含む分散体組成物(b)を得た。
【0076】
[実施例1]
水系ウレタン樹脂(ユリアーノW-321、荒川化学工業(株)製)26部、酸化チタン26部、脱イオン水27部、エタノール7部をサンドミルで混合、分散した後、分散体組成物(a)と分散体組成物(b)をそれぞれ7部加え、再度、サンドミルで混合することで、水性インクジェットインク(A)を得た。
【0077】
[比較例1]
分散体組成物(b)を加えず、分散体組成物(a)を14部加えたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、水性インクジェットインク(B)を得た。
【0078】
[比較例2]
分散体組成物(a)を加えず、分散体組成物(b)を14部加えたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、水性インクジェットインク(C)を得た。
【0079】
実施例1及び比較例1~2で得た水性インクジェットインクを用いて、下記に記載する試験を行った。試験結果の一覧を表1に示す。
【0080】
[付着性]:
水性インクジェットインクを、IPAで脱脂したOPPフィルム上に塗布し、100℃に加温した送風乾燥機で10分間乾燥し、膜厚5μmの乾燥被膜を得た。上記乾燥被膜の塗工面に幅15mmのセロハン粘着テープを貼り付け、180°の角度で勢いよく剥がしたときの、塗工面の外観の状態を目視判定した。評価基準は以下の通りとした。
〇:剥離なし
△:1~49%剥離
×:50%以上剥離
【0081】
[顔料分散性]:
水性インクジェットインクを、コニカル型遠沈管(型番:ECK-15ML)に18gいれ、遠心分離した後の沈殿物の有無を目視で判定した。
装置:卓上遠心機5200(久保田商事(株)製)
回転数:4,000rpm
時間:10分
〇:沈降物なし
×:沈降物あり
【0082】
【表1】
【0083】
表1より、実施例1は付着性と顔料分散性に優れた水性インクジェットインクであることがわかる。比較例1~2では、いずれも付着性、または顔料分散性が劣る結果となった。