(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115581
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】印刷制御装置、印刷制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/21 20060101AFI20240820BHJP
A45D 29/00 20060101ALI20240820BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B41J2/21
A45D29/00
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021262
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小金 孝行
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EB58
2C056EC08
2C056EC26
2C056EE17
2C056EE18
2C056FA15
2C056FB09
2C056FC02
2C056HA58
(57)【要約】
【課題】印刷品位の低下を抑制する。
【解決手段】印刷制御装置として機能する制御装置10が、印刷対象である爪Tを含む指U及び爪Tの画像(爪画像)を取得する取得手段として機能し、取得手段において取得された画像(爪画像)から「印刷対象領域」を検出する検出手段として機能し、「印刷対象領域」において、一様な印刷を行うのに妨げとなる「特異な領域Arp」の有無を判定する判定手段として機能する制御部11を備えている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を取得する取得手段と、
前記取得手段において取得された前記画像から印刷対象領域を検出する検出手段と、
前記印刷対象領域において、一様な印刷を行うのに妨げとなる特異な領域の有無を判定する判定手段と、
を備える、
ことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記印刷対象領域における各画素の輝度値又は画素値に基づいて前記特異な領域の有無を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項3】
前記特異な領域は、少なくとも各画素の輝度値又は画素値が他の領域よりも低い領域又は高い領域を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項4】
前記印刷対象領域には、デザイン印刷が行われる前に下地用インクが塗布され、
前記特異な領域は、前記印刷対象領域において下地用インクが十分に塗布されていない領域を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項5】
前記判定手段による判定結果を報知手段により報知させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷制御装置。
【請求項6】
前記特異な領域がある場合に、前記報知手段は、現状のまま前記印刷対象領域に印刷を行った場合の印刷イメージを提示する、
ことを特徴とする請求項5に記載の印刷制御装置。
【請求項7】
画像を取得する取得工程と、
前記取得工程において取得された前記画像から印刷対象領域を検出する検出工程と、
前記印刷対象領域において、一様な印刷を行うのに妨げとなる特異な領域の有無を判定する判定工程と、
を含む、
ことを特徴とする印刷制御方法。
【請求項8】
コンピュータに、
画像を取得する取得機能と、
前記取得機能において取得された前記画像から印刷対象領域を検出する検出機能と、
前記印刷対象領域において、一様な印刷を行うのに妨げとなる特異な領域の有無を判定する判定機能と、
を実現させる、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷制御装置、印刷制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指の爪等にネイルデザイン(以下単に「デザイン」ともいう)の印刷を行う印刷装置(ネイルプリンタ)が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
このような印刷装置では、爪の色によりデザインの見た目の仕上がりが左右されないようにする等のため、デザインの印刷を行う前に、白色等の下地用インクを用いて下地層を形成する場合がある。下地層の形成は印刷装置を用いた印刷による場合もあるが、主としてユーザの手塗り(手動)で行われることが想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、機械による印刷ではなく手塗り(手動)で下地層を形成する場合、施術者の技量によっては、下地層にむらが発生する。このようなむらがある状態で、ネイルデザインの印刷を行うと、印刷品位が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、印刷品位の低下を抑制することのできる印刷制御装置、印刷制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の印刷制御装置は、
画像を取得する取得手段と、
前記取得手段において取得された前記画像から印刷対象領域を検出する検出手段と、
前記印刷対象領域において、一様な印刷を行うのに妨げとなる特異な領域の有無を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、印刷品位の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態における印刷装置及び印刷装置と連携する端末装置の要部外観構成を示す模式的な斜視図である。
【
図2】実施形態における印刷装置及び印刷装置と連携する端末装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】ほぼ均一に下地用インクが塗布された爪及びその指を、撮影部で撮影した場合の画像例を示す平面図である。
【
図4】
図3に示す爪のy方向L1に沿う輝度値をx座標に沿って示すグラフである。
【
図5】特異な領域が存在する爪及びその指を、撮影部で撮影した場合の画像例を示す平面図である。
【
図6】
図5に示す爪のy方向L2に沿う輝度値をx座標に沿って示すグラフである。
【
図7】爪が
図5及び
図6に示す状態である場合に表示部に表示される報知画面の一例である。
【
図8】爪が
図5及び
図6に示す状態である場合に表示部に印刷イメージを表示させる報知画面の一例である。
【
図9】本実施形態における印刷制御処理を示すフローチャートである。
【
図10】本実施形態における印刷制御処理の一変形例を示すフローチャートである。
【
図11】下地用インクが塗布されていない地爪及びその指を、撮影部で撮影した場合の画像例を示す平面図である。
【
図12】下地用インクが塗布された爪及びその指を、撮影部で撮影した場合の画像例を示す平面図である。
【
図13】特異な領域が存在する爪及びその指を、偏光板を備える撮影部で撮影した場合の画像例を示す平面図である。
【
図14】
図13に示す爪のy方向L3に沿う輝度値をx座標に沿って示すグラフである。
【
図15】爪が
図13及び
図14に示す状態である場合に表示部に表示される報知画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から
図9を参照しつつ、本発明に係る印刷制御装置、印刷制御方法及びプログラムの一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
例えば以下の実施形態では、印刷制御装置が手の指の爪を印刷対象としてこれに印刷する印刷装置1(ネイルプリント装置)を制御する制御装置10(
図2参照)である場合を例に説明するが、本発明における印刷制御装置の制御対象は、指の爪を印刷対象とする印刷装置に限るものではなく、例えば足の指の爪を印刷対象とする印刷装置でもよい。また、印刷制御装置は印刷装置1を制御するものであればよく、印刷装置1に設けられている制御装置10である場合に限定されない。
【0010】
図1は、本実施形態における印刷装置(ネイルプリント装置)及び印刷装置と連携する端末装置の要部外観構成を示す模式的な斜視図である。
なお、以下の実施形態において、上下、左右及び前後は、
図1に示した向きをいうものとする。また、X方向は印刷装置1の左右方向であり、Y方向は印刷装置1の前後方向である。
【0011】
図1に示すように、印刷装置1は、ほぼ箱形に形成された筐体2を有している。
筐体2の上面(天板)には操作部21が設置されている。
なお、筐体2各部の形状や各部の配置等は、図示例に限定されず、適宜設定可能である。例えば、操作部21は、筐体2の上面ではなく側面や背面等に設けられていてもよい。また、図示例では、操作部21が1つのボタンで構成されている場合を示しているが、操作部21は筐体2の上面等に設けられた複数のボタン等で構成されていてもよい。その他、筐体2にはインジケータ等が設けられていてもよい。
【0012】
操作部21は、ユーザが各種入力を行うものである。
操作部21は、例えば、印刷装置1の電源をON/OFFする操作ボタン(電源スイッチボタン)等である。
操作部21が操作されると操作に応じた操作信号が制御部11に出力され、制御部11が操作信号に従った制御を行い、印刷装置1の各部を動作させる。例えば操作部21が電源スイッチボタンである場合、ボタン操作に応じて印刷装置1の電源がON/OFFされる。
なお本実施形態では、印刷装置1が後述の端末装置8(
図2参照)等と連携しており、操作部21に代えて、後述する端末装置8の操作部83(
図2参照)等から入力された操作信号に従って印刷装置1の各部が動作してもよい。
【0013】
印刷装置1の筐体2の前面側(
図1においてY方向の手前側)であって装置の左右方向(
図1におけるX方向)のほぼ中央部には、印刷装置1による印刷時に指Uを挿入する開口部である指挿入口23が形成されている。
筐体2の内部には、指配置部3、印刷機構4、撮影部5(
図2参照)等を備えた図示しない装置本体が収容されている。
【0014】
指配置部3は、筐体2の内部であって指挿入口23に対応する位置に配置されている。
指配置部3は指挿入口23に対応する開口部を有し、指挿入口23から挿入された指U(印刷対象である爪Tに対応する指U)を開口部内に受け入れ、印刷に適した位置に保持する。
図示は省略するが、指配置部3は、例えば指Uを載せる部分(配置部本体)と指配置部3の手前側(
図1におけるY方向の手前側)を囲むように設けられた枠状部等を備えている。例えば配置部本体は昇降可能な構成を有しており、配置部本体が上方向に上がることで配置部本体に配置された指Uが枠状部との間で挟み込まれて位置が固定される。なお、指Uを固定する構成はこれに限定されない。
また枠状部よりもY方向の奥側(
図1における装置後方)は上方が開放されており、指配置部3内に配置された指Uの爪Tの表面が、露出するようになっている。
【0015】
図2は、印刷装置及び印刷装置と連携する端末装置の概略の制御構成を示す制御ブロック図である。
図2に示すように、印刷機構4は、印刷ヘッド41、印刷ヘッド41を移動させるためのヘッド移動機構48(
図2参照)等を備えている。
本実施形態において印刷機構4は、印刷ヘッド41によって印刷対象である指Uの爪T等に印刷を施す。
【0016】
本実施形態の印刷ヘッド41は、印刷対象面(爪表面)に対向する面が、インクを吐出させる複数のノズル口を備えたインク吐出面(いずれも図示せず)となっており、インクを微滴化し、インク吐出面から印刷対象である爪T等の表面に対して直接にインクを吹き付けて印刷を行うインクジェット方式のインクジェットヘッドである。印刷ヘッド41の構成は特に限定されないが、例えばインク吐出面等の吐出機構部とインクを貯留するインクカートリッジ(いずれも図示せず)とが一体となったカートリッジ一体型のヘッドである。
印刷ヘッド41は、例えば、シアン(C;CYAN)、マゼンタ(M;MAGENTA)、イエロー(Y;YELLOW)等、ネイルデザイン(以下単に「デザイン」ともいう)の印刷を行うためのインク(デザイン印刷用のカラーインク)を吐出可能となっている。なお、印刷装置1は、印刷ヘッド41として、下地を形成する塗料として白色等の下地用インクを吐出可能な下地用のヘッドや、黒色のインクを吐出可能なヘッド等を備えていてもよい。なお、印刷ヘッド41に備えられるインクの種類はこれに限定されない。
【0017】
ヘッド移動機構48は、印刷ヘッド41を装置の左右方向(X方向)に移動させるための図示しないX方向移動機構及び印刷ヘッド41を装置の前後方向(Y方向)に移動させるための図示しないY方向移動機構からなる。
X方向移動機構は、X方向移動モータ45(
図2参照)を含んでおり、X方向移動モータ45が駆動することにより印刷ヘッド41を装置の左右方向(X方向)に移動させる。また、Y方向移動機構は、Y方向移動モータ47(
図2参照)を含んでおり、Y方向移動モータ47が駆動することにより印刷ヘッド41を装置の前後方向(Y方向)に移動させる。X方向移動モータ45、Y方向移動モータ47は、例えばステッピングモータである。
【0018】
また、印刷機構4には、ヘッド移動機構48によって移動する印刷ヘッド41の位置を把握するための位置検知センサ49が設けられている。
位置検知センサ49は、図示は省略するが、例えばリニアスケールを読み取るスケールセンサを備えている。具体的には印刷ヘッド41の移動する範囲内に、遮光部と透光部とが交互に形成されたリニアスケールを設け、印刷ヘッド41等にスケールセンサを取り付ける。遮光部により光が遮られたことをスケールセンサが検出すると、制御部11に対して検知信号が出力され、制御部11ではこの検出信号に基づいて印刷ヘッド41の位置を特定できるようになっている。なお、位置検知センサ49の具体的な構成はここに例示したものに限定されない。
【0019】
また、筐体2の上面(天板)の内側であって、指配置部3に配置された指Uの爪Tの上方に対応する位置には、指配置部3から露出する爪T(爪Tを含む指U)を撮影して画像(爪画像)を取得することのできる撮影部5が固定されている。
撮影部5は、例えば200万画素以上の画素を有するCCD(Charge Coupled Device)型やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型等の固体撮影素子とレンズ等を備えて構成された小型カメラ等であるカメラ51と、撮影対象を照明する白色LED等で構成された光源52とを備えている(
図2参照)。
なお撮影部5は、指配置部3に載置された指Uの爪T等を撮影可能な位置に配置されていればよく、その具体的な配置は特に限定されない。
【0020】
また
図2に示すように、印刷装置1は、上述した印刷機構4及び撮影部5のほかに、通信部25と、制御装置10等を備えている。
【0021】
通信部25は、印刷装置1と連携して動作する後述の端末装置8との間で情報の送受信が可能に構成されたものである。
印刷装置1と端末装置8との間での通信は、例えば無線LAN等により行われる。なお、印刷装置1と端末装置8との間での通信はこれに限定されず、いかなる方式によるものでもよい。例えば、インターネット等のネットワーク回線を使うものであってもよいし、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi等の近距離無線通信規格に基づく無線通信を行うものであってもよい。また、この通信は無線に限定されず、有線接続により両者間で各種データの送受信が可能な構成としてもよい。通信部25は端末装置8の通信方式に対応するアンテナチップ等を備えている。
【0022】
印刷装置1に搭載される制御装置10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを有する制御部11と、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等(いずれも図示せず)を有する記憶部12とを備え、印刷装置1を制御するコンピュータである。本実施形態では、制御装置10が印刷制御装置として機能する。
【0023】
記憶部12には、印刷装置1を動作させるための各種プログラムや各種データ等が格納されている。
具体的には、記憶部12のROM等には、例えば各種の印刷制御処理を行うための印刷制御プログラム等の各種プログラムが格納されており、これらのプログラムを制御部11がRAMの作業領域に展開して実行することによって、印刷装置1の各部が統括制御される。すなわち、制御部11の各機能は、制御部11のCPUと記憶部12のROM121に記憶されたプログラムとの協働によって実現される。
【0024】
制御部11は、まず印刷機構4の印刷ヘッド41やヘッド移動機構48を構成するX方向移動モータ45、Y方向移動モータ47等の動作を制御する。
また制御部11は、撮影部5のカメラ51及び光源52の動作を制御して、爪画像(爪Tを含む指Uの画像)等を撮影させ、撮影によって得られた画像データを取得手段として取得する。ここで画像データは具体的には印刷対象である爪Tを含む画像のデータである。
さらに制御部11は、通信部25を制御して各種外部機器とデータの送受信を可能とする。
【0025】
また、特に本実施形態の制御部11は、取得手段として取得した画像(爪Tを含む画像)から「印刷対象領域」を検出する。本実施形態において印刷機構4の印刷ヘッド41によってデザインの印刷を行う前に下地用のインク(以下において「下地用インク」とする)を塗布する。「印刷対象領域」は、この下地用インクを塗布することで下地層が形成されている領域である。インク(下地用インク)は、デザインの印刷を行ったときにインク(デザイン印刷用のカラーインク)の発色がよくなるように、白色若しくはこれに近い色(例えば薄いピンク色や薄い水色等)の液剤であることが好ましい。下地用インクは、溶質として例えば酸化チタン等を含んでいる。白色等で下地層を形成することにより、爪Tと、その周辺の皮膚の色(肌色等)との区別もつきやすくなり、爪画像から「印刷対象領域」をより正確に認識しやすくなる。本実施形態では、下地用インクをユーザが筆や刷毛等を用いて手動で塗布する、手塗りの場合を想定している。
【0026】
「爪領域」全体にデザインを施す場合、「印刷対象領域」は爪Tの領域(以下「爪領域」とする)と一致する。
これに対して、例えば爪Tの先端部分にだけデザイン印刷を施すフレンチネイルの場合、印刷が施される爪Tの先端部分にだけ下地用インクが塗布されて下地層が形成される。この場合には、「爪領域」のうち、下地層が形成されている部分(上述のフレンチネイルの場合には、爪Tの先端部分)だけが、検出手段としての制御部11によって「印刷対象領域」として認識、検出される。
【0027】
さらに制御部11は、検出手段として検出した「印刷対象領域」内に、一様な印刷の妨げとなる「特異な領域Arp」があるか否かを、判定手段として判定する。
ここで「特異な領域Arp」は、少なくとも各画素の輝度値が他の領域よりも低い領域又は高い領域を含んでいる。輝度値は、例えばYUVデータの輝度信号値(Y値、白輝度値)である。
輝度値が他の領域よりも低い領域とは、例えば「印刷対象領域」においてインク(下地用インク)が十分に塗布されていない部分Arp_1(
図5参照)である。
また、輝度値が他の領域よりも高い領域とは、例えば光源52からの光の反射等によって、「印刷対象領域」内で他の領域よりも明るく見えている部分(光沢部分Arp_2(
図5参照))である。
【0028】
制御部11が「特異な領域Arp」の有無の判定する手法としては、例えば「印刷対象領域」YUVデータの輝度信号値(Y値、白輝度値、以下「輝度値」とする)を測定して、その値から判定することが考えられる。
例えば
図3は、「爪領域」全体が「印刷対象領域」である場合に、「印刷対象領域」全体にむらなく一様に下地用インクが塗布され下地層が形成された爪Tを示した模式図である。
図3等において爪Tの幅方向をx方向とし、爪Tの長さ方向をy方向とする。
また
図4は、
図3におけるy方向L1箇所の各画素の輝度値をx方向に見た場合の輝度値の変化を示したグラフである。
【0029】
判定手段としての制御部11は、例えば爪Tの長さ方向yの先端側から根元側までの全ての画素について、爪Tの幅方向xに順次見て、各画素の輝度値を取得する。
この結果、y方向の各ライン(
図3及び
図4ではラインL1を例示)において輝度値の変化を得ることができる。
例えば
図3に示すように「印刷対象領域」全体にむらなく下地用インクが塗布されている場合には、
図4に示すように、爪Tの幅方向(x方向)の両端部では爪Tの高さが低く画像では多少影となるため輝度値が下がり、幅方向(x方向)の中央部では輝度値が高くなる傾向となるが、急激な輝度値の上下は生じない。
輝度値の変化が
図4に示すような滑らかなカーブを描く場合には、制御部11は「印刷対象領域」内に「特異な領域Arp」はないと判定する。
【0030】
これに対して例えば
図5は、
図3と同様に「爪領域」全体が「印刷対象領域」である場合に、「印刷対象領域」内に下地用インクが十分に塗布されていない部分Arp_1や光沢部分Arp_2がある爪Tを示した模式図である。
また
図6は、
図5におけるy方向L2箇所の各画素の輝度値をx方向に見た場合の輝度値の変化を示したグラフである。
図5に示すように「印刷対象領域」内に下地用インクが十分に塗布されていない部分Arp_1や光沢部分Arp_2といった領域がある場合には、
図6に示すように、爪Tの幅方向(x方向)の両端部で輝度値が下がる他、光沢部分Arp_2では輝度値が急激に高くなり、下地用インクが十分に塗布されていない部分Arp_1では輝度値が急激に低くなっている。
図6に示すように輝度値の変化に急激な凸形状や凹形状が現れる場合には、制御部11は「印刷対象領域」内に「特異な領域Arp」があると判定する。輝度値の変化に急激な凸形状や凹形状が現れる場合とは、例えば周辺の領域の値(輝度値)に対して所定の閾値を超えるような差分がある場合である。
【0031】
判定手段としての制御部11が「印刷対象領域」内に「特異な領域Arp」があると判定した場合には、制御部11は判定結果を報知手段によりユーザに報知させる。
本実施形態では、制御部11は判定結果を連携する端末装置8に出力し、後述する端末装置8の表示部84に報知画面841等を表示させることでユーザに報知させる。この場合、端末装置8の表示部84が報知手段となる。
【0032】
図7に報知画面841の一例を示す。
図7に示す例では、制御部11が撮影部5から取得した爪画像と、爪画像から検出された「印刷対象領域」において「特異な領域Arp」と判定された部分を判定理由とともに示している。
例えば、
図7において破線で囲んだ箇所は輝度値の急激な低下が見られ、グラフ上に凹形状が現れた箇所である。このような部分は、下地用インクの塗布が不十分であるために周囲よりも暗く、輝度値が低くなっている部分(
図5において「Arp_1」)であることをメッセージとしてユーザに示している。
【0033】
また例えば、
図7において一点鎖線で囲んだ箇所は輝度値の急激な上昇が見られ、グラフ上に凸形状が現れた箇所(
図5において「Arp_2」)である。このような部分は、光源52の光の関係で光沢があるために周囲よりも明るく見えているか若しくは下地用インクの塗布が不均一である等のために表面に凸凹ができており、部分的に輝度値が高くなっている可能性がある。単なる光沢であれば光源52による反射が強いだけであり、その後の印刷に影響しないが、「印刷対象領域」の表面に凸凹があることに起因して一部の輝度値が上がっているような場合には、下地用インクの塗布が不十分である部分が光沢によって隠れている可能性がある。このため
図7に示す例では、輝度値の急激な上昇がある部分について、光沢又は下地用インクの塗布が不十分である部分がある可能性があることをメッセージとしてユーザに示している。
【0034】
なお、制御部11が判定手段として「特異な領域Arp」があるか否かを判定する手法は輝度値(Y値)を用いる手法に限定されない。例えば制御部11は、各画素のRGBの画素値が他の領域よりも低い領域又は高い領域を「特異な領域Arp」と判定してもよい。この場合も画素値が他の領域よりも低い領域は、例えば「印刷対象領域」においてインク(下地用インク)が十分に塗布されていない領域である。また、画素値が他の領域よりも高い領域は、例えば光源52からの光の反射等によって、「印刷対象領域」内で他の領域よりも明るく見えている光沢部分である。
【0035】
制御部11による、より具体的な判定手法としては、爪Tの湾曲度合いに基づいた輝度値の変化を想定した表又はテーブル等のデータを予め記憶部12等に記憶させておき、制御部11が「特異な領域Arp」があるか否かを判定する際にこれらのデータを参照してもよい。
また過去の測定結果を記憶部12等に記憶させておき、制御部11がこれを比較対象として、周辺の領域の値(輝度値、画素値)に対する輝度値や画素値の差分が所定の閾値を超えるか否かを判断したり、輝度値や画素値が所定の範囲内にあるか否かを判断したり、輝度値や画素値が他の領域よりも高い又は低いか否かを判定してもよい。予め用意したデータや蓄積されたデータを用いることで、正確な判定を行うことが期待できる。
【0036】
また、報知手段としての端末装置8の表示部84に表示される報知画面は
図7に示すものに限定されない。例えば制御部11は、「印刷対象領域」内にデザインを合わせ込んで印刷データを生成する機能、又は生成された印刷データを端末装置8等から取得する機能を有してもよく、この場合には報知手段である端末装置8の表示部84に印刷ヘッド41を用いてデザインを印刷した場合の仕上がりイメージが表示される報知画面を表示させてもよい。
【0037】
例えば
図8に、仕上がりイメージが表示される報知画面例を示す。
図8に示す報知画面842では、
図7に示すような「特異な領域Arp」がある状態のままデザインの印刷を行った場合の仕上がりイメージ(
図8の左側)と、下地用インクを塗布し直して「特異な領域Arp」がない状態とした上でデザインの印刷を行った場合の仕上がりイメージ(
図8の右側)と、を並べて比較できるように示している。
「特異な領域Arp」がある状態のままデザインの印刷を行った場合、
図8の左側に示すように、「特異な領域Arp」では、下地層の上から印刷された色が本来の発色とならずに、「特異な領域Arp」以外の下地層の上から印刷された部分と差が出てしまう。このため、仕上がり段階でもむらが生じた状態が残ってしまう。
【0038】
このような仕上がりイメージをユーザに示すことで、下地用インクの塗布が不十分な場合に、仕上がりにどのような影響を及ぼすかが分かりやすい。このため単に「特異な領域Arp」があることを指摘するよりも、ユーザが自発的に下地用インクを塗り直すよう促す効果が期待できる。また、次回下地用インクを塗布する際にはこうした「特異な領域Arp」が生じないようにむらなくインクを塗布しようという技術向上への意欲も期待できる。さらに「特異な領域Arp」の位置や大きさ等によっては、デザイン等の関係で目立ちにくい、仕上がりに大きく影響しない、という場合もあり得る。事前に仕上がりイメージをユーザに示すことで、ユーザは、この程度であればこのまま下地用インクの塗り直しをせずにデザインの印刷に進んで構わない、という判断等も適切に下すことができる。
なお、報知画面841、842に表示される内容は図示例に限定されない。例えば報知画面842では、「特異な領域Arp」がある状態(現状)のままデザインの印刷を行った場合の仕上がりイメージ(
図8の左側)のみを示し、下地用インクが均一に正しく塗布された「印刷対象領域」にデザインを印刷した場合の仕上がりイメージ(
図8の右側)は示さない表示としてもよい。
【0039】
また前述のように、本実施形態の印刷装置1は端末装置8と連携して処理を行う。
端末装置8は、例えばスマートフォンやタブレット等の携帯端末である。ただし、端末装置8は、印刷装置1と通信可能なものであれば特に限定されず、例えばノート型又は定置型のパソコンや、ゲーム用の端末装置等であってもよい。
図2に示すように、端末装置8は、操作部83、表示部84、通信部85、制御装置80等を備えている。
【0040】
操作部83は、ユーザの操作に応じて各種の入力・設定等を行うことができるようになっており、操作部83が操作されると、当該操作に対応する入力信号が制御装置80に送信される。なお、本実施形態では表示部84の表面にタッチパネルが一体的に設けられており、ユーザはタッチパネルへのタッチ操作によっても各種の入力・設定等の操作を行うことができるようになっている。
なお、各種の入力・設定等の操作を行う操作部83はタッチパネルである場合に限定されない。例えば各種の操作ボタンやキーボード、ポインティングデバイス等が操作部83として設けられていてもよい。
本実施形態では、ユーザが操作部83を操作することで、爪に印刷するデザイン(ネイルデザイン)の選択等ができる。
また、ユーザが操作部83を操作することで、どの指Uの爪Tに印刷したいか、印刷を施す爪Tに対応する指を選択等することができる。
【0041】
表示部84に構成されているタッチパネルは、後述する制御部81の制御にしたがって各種の表示画面を表示させる。
また表示部84には、ユーザが操作部83から入力・選択したデザイン(ネイルデザイン)や、印刷装置1から送信された画像等が表示可能となっている。
特に本実施形態では、印刷装置1の制御部11が「印刷対象領域」内に「特異な領域Arp」があると判定した場合に、当該判定結果が制御部11から端末装置8に出力される。端末装置8では、判定結果を受けて報知手段としての表示部84に報知画面841、842を表示させることでユーザに報知させる。
【0042】
通信部85は、印刷装置1に対して印刷データ等を送信することが可能となっている。また、通信部85は、印刷装置1から爪画像等のデータや前述の制御部11による判定結果等が送信されたときには、これを受信する。通信部85は、印刷装置1の通信部25との間で通信可能な無線通信モジュール等を備えている。
なお、通信部85は、印刷装置1との間で通信を行うことのできるものであればよく、印刷装置1の通信部25の通信規格と合致するものが適用される。
【0043】
制御装置80は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等により構成される制御部81と、図示しないROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等で構成される記憶部82とを備えるコンピュータである。
制御部81は、端末装置8の各部の動作を統合的に制御する。制御部81は、記憶部82に記憶されたプログラムとの協働により、各種機能を実現する。
【0044】
記憶部82には、端末装置8の各部を動作させるための各種プログラムや各種データ等が格納されている。
具体的に、本実施形態の記憶部82には、端末装置8の各部を統括制御するための動作プログラムの他、印刷装置1を用いたネイルプリントを行うためのネイルプリントアプリケーションプログラム(以下「ネイルプリントAP821」という。)等の各種プログラム(いずれも図示せず)が格納されており、制御装置80がこれらのプログラムを例えば記憶部82の作業領域に展開して実行することによって、端末装置8が制御される。
また、本実施形態の記憶部82には、図示しない各種のデザインデータ(ネイルデザインのデータ)が格納されている。
【0045】
次に、
図9等を参照しつつ、本実施形態における印刷制御装置及びこれを備える印刷装置1の作用、印刷制御方法について説明する。
図9は、本実施形態における印刷制御処理を示すフローチャートである。
【0046】
本実施形態の印刷装置1を用いてネイルプリントを行う場合、ユーザは、印刷装置1の操作部21(操作ボタン)等を操作して電源を入れ起動させる。
また端末装置8についても電源を入れて端末装置8の操作部83からネイルプリント処理の実行を選択する。これによりネイルプリントAP821が起動する。
端末装置8においてネイルプリントAP821が起動すると、端末装置8の制御部81が表示部84を制御して、ネイル施術を行う爪Tに下地用インクを塗布するようにユーザに促すメッセージ画面(図示せず)を表示部84に表示させる(ステップS1)。
【0047】
また制御部81は、デザインを選択することのできるデザイン選択画面(図示せず)を表示部84に表示させ、どのデザインを印刷するかをユーザに選択・設定させる(ステップS2)とともに、デザインを印刷する爪Tに対応する指Uを選択させる(ステップS3)。
ユーザにより指Uが選択・設定されると、当該指Uを指配置部3に配置するようにユーザに促す画面を表示部84に表示させる(ステップS4)。
【0048】
印刷装置1の制御部11は、撮影部5を制御して指配置部3を撮影させて、画像を取得する。取得された画像は端末装置8に出力され、端末装置8の表示部84においてプレビュー表示される(ステップS5)。
制御部11は、指配置部3を撮影した画像に基づいて、指配置部3への指Uの配置が完了したか否かを判断する(ステップS6)。具体的には、例えば撮影された画像に変化があるか否かを判断し、変化があった場合には指Uが配置されたと判断する。画像に何ら変化がなく、指Uが配置されていないと判断される場合(ステップS6;NO)には、ステップS5に戻って判断を繰り返す。
【0049】
他方、指Uが配置されたと判断される場合(ステップS6;YES)には、さらに制御部11は、操作部21等から印刷指示が入力されたか否かを判断する(ステップS7)。印刷指示が入力されるまで(ステップS7;NO)は、ステップS7の処理を繰り返す。
一方、印刷指示が入力された場合(ステップS7;YES)には、制御部11は、指配置部3に配置された指Uを撮影部5で撮影して得られた爪Tを含む爪画像を取得する(ステップS8)。そして取得した爪画像から爪Tのうち、下地用インクが塗布されている部分を「印刷対象領域」として認識、検出する(ステップS9)。
【0050】
次に制御部11は、「印刷対象領域」として検出された領域中に、「特異な領域Arp」があるか否かを判定する(ステップS10)。具体的には、下地用インクの塗布が不十分で下地層が正しく形成されず、周囲と比べて大きく輝度値が低い領域や、撮影部5の光源52の光の反射等に起因して輝度値が急激にあがっている光沢部分があるような場合に、制御部11は「特異な領域Arp」があると判定する(ステップS10;YES)。
【0051】
「特異な領域Arp」があると判定した場合には、制御部11はその判定結果を端末装置8に出力する。判定結果を受け取ると端末装置8の制御部81は、表示部84に報知画面841、842を表示させて、「特異な領域Arp」があることをユーザに報知する(ステップS11)。
また下地用インクを塗り直すように促すとともに、塗り直し後に指Uを指配置部3に再配置するよう促す画面を表示部84に表示させる(ステップS12)。
そしてステップS5に戻り、制御部11は撮影部5に指配置部3を撮影させて、以降の処理を繰り返す。
【0052】
一方「特異な領域Arp」がないと判定された場合(ステップS10;NO)には、制御部11は印刷機構4を制御して印刷処理を行わせる(ステップS13)。具体的には制御部11は「印刷対象領域」として検出された範囲に、印刷したいデザインとして選択・設定されたデザインを合わせ込んで生成された印刷データを取得して、印刷機構4により当該印刷データに基づく印刷を行わせる。なお、印刷データは制御部11が生成してもよいし、端末装置8の制御部81等において生成されたものを制御部11が取得してもよい。
制御部11は、印刷が完了したか否かを判断し(ステップS14)、完了していない場合(ステップS14;NO)には、ステップS13に戻って印刷が完了するまで処理を繰り返す。
他方印刷が完了した場合(ステップS14;YES)には、制御部11は、さらに他にも印刷する爪Tがあるか否かを判断し(ステップS15)、他にも印刷する爪Tがある場合(ステップS15;YES)には、ステップS3に戻って以降の処理を繰り返す。
一方、他に印刷する爪Tがない場合(ステップS15;NO)には、印刷制御処理を終了する。
【0053】
このように、本実施形態では、「印刷対象領域」内に、下地用インクの塗布が不十分である箇所等、輝度値が急激に低下している箇所や輝度値が急激に上昇している光沢部分がある場合に、これらを「特異な領域Arp」と判定する。このため「印刷対象領域」内にむらがある状態のままデザインの印刷に進むのを防止することができ、ネイルプリントの印刷品位が低下するのを防ぐことができる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、印刷制御装置(制御装置10)が取得手段、検出手段、判定手段として機能する制御部11を備えている。このうち、取得手段としての制御部11は、印刷対象である爪Tを含む画像を取得する。検出手段としての制御部11は、取得手段として取得した画像から「印刷対象領域」を検出する。判定手段として機能する制御部11は、「印刷対象領域」において、一様な印刷の妨げとなる「特異な領域Arp」の有無を判定する。
これにより、「印刷対象領域」に「特異な領域Arp」があるかどうかを事前に認識することができ、一様な印刷が困難な部分があるまま印刷が継続されない。このためデザインを爪Tに印刷するネイルプリントの仕上がり品質、印刷品位が低下するのを防ぐことができる。
【0055】
また本実施形態において、判定手段としての制御部11は、「印刷対象領域」における各画素の輝度値又は画素値に基づいて「特異な領域Arp」の有無を判定する。
このため、下地用インクの塗布不足がある箇所等があり、一様な印刷が困難となるか否かを客観的に判定することができる。
【0056】
また本実施形態において、「特異な領域Arp」は、少なくとも各画素の輝度値又は画素値が他の領域よりも低い領域又は高い領域を含む。
輝度値又は画素値が低い領域では下地用インクの塗布不足が考えられ、そのままデザイン印刷に進むとネイルプリントの仕上がり品位が低下する可能性がある。また輝度値又は画素値が高い領域は光源52の光による光沢部分であることが考えられるが、光沢部分に隠れて下地用インクの塗り残し部分がある可能性もある。このため、本実施形態では輝度値又は画素値が低い領域と高い領域をともに「特異な領域Arp」と判定することで、そのままデザイン印刷を行うと印刷品位が低下するおそれのある領域を確実に把握することができる。
【0057】
また本実施形態において、「特異な領域Arp」は、「印刷対象領域」においてインクが十分に塗布されていない領域を含む。
インクが十分に塗布されていない部分では、そのままデザイン印刷が行われるとデザイン印刷の下から地爪の色が見えてしまったり、下地の上に印刷された部分との色合いの違いが生じたりする。こうした箇所を「特異な領域Arp」として判定することで、印刷品位が低下するような状態で印刷が続行されるのを防ぐことができる。
【0058】
また本実施形態において、インクは、デザイン印刷が行われる前に「印刷対象領域」に塗布される下地用インクである。
デザイン印刷の仕上がりは、デザインを印刷する前に塗布される下地用インクの塗布状況に大きく左右される。この点、下地用インクの塗布が不十分な箇所を検出することで、印刷品位が落ちるような状態のままでデザイン印刷が行われることを防ぐことができる。
【0059】
また本実施形態では、判定手段として制御部11が判定した判定結果を報知手段(本実施形態では端末装置8の表示部84)により報知させる。
これにより、インクが十分に塗布されていない部分等、「特異な領域Arp」がある場合にはこれをユーザが認識することができる。
ネイルプリントに不慣れなユーザ等の場合、「印刷対象領域」に下地用インクの塗り残し部分等があって下地層にむらが生じていても気づかずにデザイン印刷に進んでしまう場合がある。この点「特異な領域Arp」がある場合にこれをユーザに報知することで、仕上がり品質が低下することを防止ことができる。
また制御部11によって「特異な領域Arp」と判定されるような、デザイン印刷に影響を与えるような下地用インクの塗り残し、塗布が不十分な部分とはどのような部分であるかをユーザが認識しやすくなり、下地用インクを塗布する際に注意するようになる等、ユーザの技量の向上も期待することできる。
【0060】
さらに本実施形態では、報知手段(本実施形態では端末装置8の表示部84)に、現状のまま「印刷対象領域」にデザイン印刷を行った場合の印刷イメージを提示する。
このようにした場合には、ネイルプリントに不慣れなユーザにも仕上がりイメージや下地層にむらがある状態が分かりやすく、より認識しやすくなる。また下地用インクを塗り直してからデザイン印刷を行うべきか、このままデザイン印刷に移行してよいかについても、ユーザが仕上がりイメージを見て的確に判断することが可能となる。
【0061】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0062】
例えば、本実施形態では、爪Tに下地用インクを塗布して下地層を形成してから爪画像を取得する場合を例示したが、下地用インクが塗布される前の地爪の段階で爪T及び指Uの画像を取得し、地爪の領域を認識する地爪認識を行ってもよい。
【0063】
図10は、地爪認識を行う場合の印刷制御処理を示すフローチャートである。
図10に示すように、この場合にはまずデザインの選択・設定(ステップS21)と、印刷したい爪Tに対応する指Uの選択・設定(ステップS22)を行う。指Uが選択されると、制御部81は、選択・設定された指Uを指配置部3に配置するようユーザに促す画面を端末装置8の表示部84等に表示させる(ステップS23)。
【0064】
制御部11は、撮影部5により指配置部3を撮影させ、指配置部3に配置された指Uの爪T(下地用インクを塗布していない地爪)の画像を取得して、当該地爪画像から地爪の領域を認識する地爪認識を行う(ステップS24)。地爪認識の手法は特に限定されないが、例えば制御部11は爪Tとその周りの指Uの皮膚との色や輝度の差を見ることで爪T(地爪)の輪郭形状を認識する。
次に制御部81は、表示部84の表示を制御し、当該地爪認識を行った爪Tに下地用インクを塗布し、塗布後に指配置部3に再配置するようにユーザに促す画面を表示部84に表示させる(ステップS25)。
【0065】
印刷装置1の制御部11は、撮影部5を制御して指配置部3を撮影させて、画像を取得する。取得された画像は端末装置8に出力され、端末装置8の表示部84においてプレビュー表示される(ステップS26)。なお、ステップS26からステップS30までは、
図9で示したステップS5からステップS9までと同様であるため、説明を省略する。
次に制御部11は、「印刷対象領域」として検出された領域中に、「特異な領域Arp」があるか否かを判定する(ステップS31)。このとき、制御部11ではステップS24で認識した地爪の領域を考慮する。
【0066】
例えば、
図11に破線で示す領域が地爪の領域であると認識された場合に、下地用インクが塗布された後の爪Tの画像が
図12に示すようなものである場合、爪Tの長さ方向Yの下端部に下地用インクが十分に塗布されていない部分Arp_1がある。このような部分では輝度値が低くなる。
ただ、輝度値が低い領域が
図12に示すように爪Tの端部にある場合、当該領域が、下地用インクが十分に塗布されていない「特異な領域Arp」であるのか、それとも、もともと爪Tとして認識すべき領域ではないのかの判別が難しい。
【0067】
この点、予め地爪認識を行っておくことで、
図12に示す爪Tについて、
図11の地爪の爪領域と合せて「印刷対象領域」の認識を行うことができ、爪Tの下端部の輝度値の低い領域も爪Tの領域と認識されるべき範囲であると判断することができる。
これにより制御部11は、
図12における爪Tの下端部の輝度値の低い領域は下地用インクが十分に塗布されていない「特異な領域Arp」であると判定することができる。
なお、その他の処理は
図9で示したものと同様であるため、説明を省略する。
【0068】
なお、爪Tの全体にデザインを施す場合には爪領域と「印刷対象領域」とが一致するが、例えば爪先部分のみにデザインを印刷するフレンチネイル等の場合、デザインを印刷する爪先部分のみに下地用インクを塗布すればよく、下地用インクが塗布された部分(例えば爪先部分)だけが「印刷対象領域」となる。このような場合には、制御部11は例えばデザインから「印刷対象領域」となるべき範囲を特定し、当該範囲内に輝度値の低い領域(又は輝度の高い領域)がある場合に、当該領域を「特異な領域Arp」であると判定してもよい。
このように、本来下地用インクが塗布されるべき範囲を予め制御部11が把握した上で「特異な領域Arp」の有無を判定することで、過不足なく適切な範囲を「特異な領域Arp」と判定することができる。
【0069】
また本実施形態では輝度値が低い領域だけでなく、輝度値が高い光沢部分Arp_2も下地用インクが十分に塗布されていない塗り残し部分が隠れている可能性があるとして「特異な領域Arp」と判定する場合を例示したが、光沢部分自体は撮影部5の光源52の光の反射等に起因して発生するものである。
こうした光の反射は、撮影部51及び光源52に偏光板を設けることで抑えることができる。具体的には、撮影部51側と及び光源52側とに偏光板を直交するように配置する。これにより光沢部分を除去又は軽減させることができる。
【0070】
図13は、撮影部及び光源に図示しない偏光板を配置して指配置部に配置された爪を含む指を撮影した画像例を示す模式的な平面図である。
撮影部及び光源に偏光板を配置して撮影を行った場合には、
図5等に示す場合と比較して光沢部分Arp_2の発生を抑えることができ、例えば爪Tのy方向L3に沿う輝度値をx座標に沿ってグラフに示すと、
図14に示すように、周囲よりも大きく輝度値の低い部分だけが現れ、この部分を「特異な領域Arp」と判定すれば足りる。
【0071】
図15は、
図13に示すような画像が取得された場合に表示部に表示される報知画面の一例を示す図である。
この場合には、
図15に示すように、「特異な領域Arp」と判定された領域を破線等で囲んで示し、当該部分に下地用インクの塗布が不十分な箇所があることを示すメッセージを表示させてユーザに報知する。
このように光の反射等に起因して光沢部分Arp_2が発生することを抑えることで、光沢部分に隠れて下地用インクの塗布が不十分な箇所が存在している可能性を取り除くことができ、下地用インクの塗布が不十分である等により輝度値が低くなっている部分Arp_1だけを「特異な領域Arp」としてユーザに示すことができる。
【0072】
また本実施形態では、判定手段としての制御部11が、爪Tの長さ方向yの先端側から根元側までの全ての画素について、爪Tの幅方向xに順次見て、各画素の輝度値を取得する場合を例示したが、判定手段としての制御部11が各画素の輝度値(又は画素値)を取得する手法はこれに限定されない。
例えば爪Tの幅方向xの一端側から他端側までの全ての画素について、爪Tの長さ方向yの先端側から根元側まで順次見て、各画素の輝度値を取得してもよい。
この場合、x方向の各ラインにおいて輝度値の変化を得ることができる。
【0073】
また本実施形態では、印刷装置1が端末装置8と連携して印刷システムを構成し、ネイルデザインの選択、印刷を行う爪Tの指Uの指種の選択等を端末装置8側で行った上で、印刷動作を印刷装置1側で実行する場合を例示したが、印刷装置1はここに示すようなものに限定されない。
例えば、ユーザが印刷装置1の操作部等により各種選択や設定等の操作を行い、印刷装置1の制御部11がこれらの処理を行うようにしてもよい。このように構成した場合には、印刷装置1が端末装置8等の外部機器と連携することなく、印刷装置1が単体で印刷動作を完結できるように構成することもできる。
また、印刷装置1が表示部を備えてもよく、各種報知画面(
図7、
図8等の報知画面)が印刷装置1の表示部に表示されてもよい。この場合には、印刷装置1の表示部が、判定手段としての制御部11による判定結果をユーザに報知する報知手段として機能する。
【0074】
また、印刷装置1と端末装置8との連携の度合い(処理の分担程度)を本実施形態のものから変更してもよく、例えば撮影や印刷以外の殆どの処理を端末装置8が担ってもよい。
なお本実施形態では印刷装置1の制御装置10が印刷制御装置として機能し、制御装置10の制御部11が取得手段、検出手段、判定手段として機能する場合を例示したが、制御部11が取得手段、検出手段、判定手段として行った各種処理を端末装置8の制御装置80の制御部81が行ってもよい。この場合には、端末装置8の制御装置80が取得手段、検出手段、判定手段を備える印刷制御装置として機能する。また、制御部81が取得手段、検出手段、判定手段として機能するためのプログラムも制御装置80側の記憶部82等に格納される。
【0075】
また、ネイルデザインや撮影された爪Tの画像、爪Tの形状情報等の各種データは、端末装置8の記憶部82に記憶されてもよいし、印刷装置1の記憶部12に記憶されていてもよい。
あるいは、ネットワーク回線等を介して接続可能なサーバ装置等に各種データを記憶させておき、端末装置8又は印刷装置1がサーバ装置等にアクセスしてこれら必要なデータを参照可能に構成してもよい。このようにすることで、より多くのネイルデザインの中から印刷するデザインを選択することなどが可能となる。
【0076】
以上本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0077】
1 印刷装置
3 指配置部
4 印刷機構
41 印刷ヘッド(印刷手段)
5 撮影部
51 カメラ
52 光源
8 端末装置
10 制御装置
11 制御部
12 記憶部
21 操作部
22 表示部