(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115589
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ニトリルゴム-金属複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/06 20060101AFI20240820BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240820BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240820BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240820BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240820BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240820BHJP
C09J 161/06 20060101ALI20240820BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20240820BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240820BHJP
F16J 15/12 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
C09J7/30
C09D5/00 D
C09D7/63
C09D7/61
C09J163/00
C09J161/06
C09D1/00
C09K3/10 Z
F16J15/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021280
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】吉武 勲
【テーマコード(参考)】
3J040
4F100
4H017
4J004
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
3J040FA02
3J040FA06
3J040HA07
4F100AA20B
4F100AB04A
4F100AH08B
4F100AK33C
4F100AK33D
4F100AK53C
4F100AN02E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00C
4F100CB00D
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
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4F100EJ06D
4F100EJ65B
4F100EJ65C
4F100GB16
4F100JK06
4F100JL11
4F100YY00B
4H017AA03
4H017AB07
4H017AD01
4H017AE05
4J004AA13
4J038JC38
4J038KA03
4J038KA06
4J038NA04
4J038PA07
4J038PB04
4J038PC02
4J040EB031
4J040EB032
4J040EC001
4J040KA16
4J040LA07
4J040LA08
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】耐ビール性に加えて、耐アルカリ性、耐温水性にすぐれ、例えばビア樽用のバルブまたはパッキンなどとして用いられた場合にも接着剥がれの生じない、ニトリルゴム-金属複合体を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼板上に、有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤からなる下塗り層、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する加硫接着剤からなる中塗り層、フェノール樹脂を含有する加硫接着剤からなる上塗り層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなるニトリルゴム-金属複合体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板上に、有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤からなる下塗り層、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する加硫接着剤からなる中塗り層、フェノール樹脂を含有する加硫接着剤からなる上塗り層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなるニトリルゴム-金属複合体。
【請求項2】
表面処理剤層を形成する有機金属化合物とシリカとが、90:10~60:40の固形分重量比で用いられた請求項1記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項3】
有機金属化合物が、少くとも1個のキレート環および少くとも1個のアルコキシル基を含有する化合物である請求項1または2記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項4】
少くとも1個のキレート環を有する有機金属化合物が、金属アルコキシド化合物との混合物として用いられた請求項3記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項5】
シリカがコロイダルシリカである請求項1記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項6】
フェノール樹脂含有加硫接着剤が、ノボラックフェノール樹脂およびレゾールフェノール樹脂を含有している加硫接着剤である請求項1記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項7】
ニトリルゴムが、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはこれらのブレンドゴムである請求項1記載のニトリルゴム-金属複合体。
【請求項8】
ビア樽用のバルブまたはパッキンである請求項1記載のニトリルゴム-金属複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム-金属積層板に関する。さらに詳しくは、ビア樽用のバルブまたはパッキン等として好適に用いられるニトリルゴム-金属複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
耐水性、耐アルカリ性、耐ビール性が必要とされるゴム-金属複合体の金属部材としては、主としてステンレス鋼が用いられる。ステンレス鋼とゴムとの接着に際しては、加硫接着剤が用いられ、例えば特許文献1~2ではショットブラスト処理されたステンレス鋼に加硫接着剤を適用してゴム積層金属板が作製されている。しかしながら、かかるゴムとの接着方法では、耐液接着性が悪く、このゴム金属積層体についてアルカリ液、温水などに浸漬試験を実施すると、接着剥離が生じるようになってしまう。
【0003】
この問題に対する対策として、加硫接着剤を塗布する前処理として、ステンレス鋼上に塗布型クロメート処理を施し、耐液接着性を向上させる手法がある。しかしながら、塗布型クロメート処理では、六価クロムイオンが含まれているため、環境対策上からみて好ましくない。
【0004】
ゴム-金属複合体の中でもビア樽バルブに関しては、塗布型クロメート処理をせずに、フェノール樹脂系接着剤およびフェノール樹脂+エポキシ樹脂系接着剤を2層で塗布する接着手法が行われているが、昨今のさらなる耐アルカリ性の要求により、この接着仕様では要求を満たさなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-95899号公報
【特許文献2】特開2004-196963号公報
【特許文献3】特許第4617737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、耐ビール性に加えて、耐アルカリ性、耐温水性にすぐれ、例えばビア樽用のバルブまたはパッキンなどとして用いられた場合にも接着剥がれの生じない、ニトリルゴム-金属複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、ステンレス鋼板上に、有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤からなる下塗り層、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する加硫接着剤からなる中塗り層、フェノール樹脂を含有する加硫接着剤からなる上塗り層およびニトリルゴム層または水素化ニトリルゴム層を順次積層してなるニトリルゴム-金属複合体によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るニトリルゴム-金属複合体は、ステンレス鋼板、有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤からなる下塗り層、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する加硫接着剤からなる中塗り層、フェノール樹脂を含有する加硫接着剤からなる上塗り層およびニトリルゴム層よりなる積層構造を有することにより、塗布型クロメート処理を必要とすることなく、耐ビール性、耐アルカリ性、耐温水性にすぐれているといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ステンレス鋼板としては、SUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等が用いられる。これらのステンレス鋼板上には、まず有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤からなる下塗り剤が塗布される。
【0010】
有機金属化合物としては、例えばジイソプロポキシアルミニウムモノ(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(ブチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-プロポキシアルミニウムモノ(メチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシアルミニウムモノ(エチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシアルミニウムモノ(プロピルアセトアセテート)、ジn-プロポキシアルミニウムモノ(ブチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシアルミニウムモノ(ヘキシルアセトアセテート)、ジブトキシアルミニウムモノ(メチルアセトアセテート)、ジブトキシアルミニウムモノ(エチルアセトアセテート)、ジブトキシアルミニウムモノ(プロピルアセトアセテート)、ジブトキシアルミニウムモノ(ブチルアセトアセテート)、ジブトキシアルミニウムモノ(ヘキシルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(プロピルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(ブチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(ヘキシルアセトアセテート)、アルミニウム-モノアセチルアセトネート-ビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(アセチルアセトネート)などの有機アルミニウム化合物、ジイソプロポキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-プロポキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-プロポキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-ブトキシチタンビス(メチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシチタンビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-ブトキシチタンビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシチタンビス(ヘキシルアセトアセテート)、1,3-プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジn-プロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、ジn-ブトキシチタンビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンテトラエチルアセトアセテート、チタンテトラプロピルアセトアセテート、チタンテトラブチルアセトアセテートなどの有機チタン化合物、ジイソプロポキシジルコニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(ブチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(ヘキシルアセトアセテート)、1,3-プロパンジオキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジn-プロポキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラエチルアセトアセテート、ジルコニウムテトラプロピルアセトアセテート、ジルコニウムテトラブチルアセトアセテートなどの有機ジルコニウム化合物、ジイソプロポキシ錫ビス(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシ錫ビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシ錫ビス(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシ錫ビス(ブチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシ錫ビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-プロポキシ錫ビス(メチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシ錫ビス(エチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシ錫ビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-プロポキシ錫ビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-プロポキシ錫ビス(ヘキシルアセトアセテート)、ジn-ブトキシ錫ビス(メチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシ錫ビス(エチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシ錫ビス(プロピルアセトアセテート)、ジn-ブトキシ錫ビス(ブチルアセトアセテート)、ジn-ブトキシ錫ビス(ヘキシルアセトアセテート)、1,3-プロパンジオキシ錫ビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシ錫ビス(アセチルアセトネート)、ジn-プロポキシ錫ビス(アセチルアセトネート)、ジn-ブトキシ錫ビス(アセチルアセトネート)、錫テトラアセチルアセトネート、錫テトラエチルアセトアセテート、錫テトラプロピルアセトアセテート、錫テトラブチルアセトアセテートなどの有機錫化合物などがあげられ、好ましくは、下記2つの一般式
R:CH
3、C
2H
5、n-C
3H
7 、i-C
3H
7、n-C
4H
9、i-C
4H
9、i-C
8H
17などの低
級アルキル基
R´:CH
3基またはOR基(OR基は、アセト酢酸エステルを形成させる)
M
1:Ti、Zr、Sn
M
2:Al
n:1~3の整数
m:1~2の整数
で表される少くとも1個のキレート基を有する化合物あるいは少くとも1個のキレート環および少くとも1個のアルコキシル基を有する化合物が用いられる。少くとも1個のキレート環を有する化合物は、金属アルコキシド化合物との混合物としても用いられる。有機金属化合物の中では、好ましくは有機チタン化合物が用いられ、有機金属化合物は1種または2種以上の混合物としても用いられる。
【0011】
シリカ(酸化けい素)としては、SiO2含有量が85%以上の乾式および湿式シリカを有機溶剤または水中にて分散させたもの、好ましくは高純度の無水シリカの微粒子を有機溶剤または水中にて分散させ、コロイド状としたいわゆるコロイダルシリカが用いられる。コロイダルシリカとしては、平均粒径が1~50nm、好ましくは10~30nmのものであって、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶剤に分散されているものが用いられ、例えば市販品であるメタノールシリカゾル(日産化学工業製品:メタノール中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMEK-ST(同社製品;メチルエチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)、スノーテックスMIBK-ST(同社製品;メチルイソブチルケトン中に固形分濃度30重量%で分散したもの)などが用いられる。
【0012】
有機金属化合物とシリカとは、90:10~60:40の固形分重量比で用いられる。ここで、有機金属化合物の固形分量は、これを135℃で1時間蒸発乾固させたときの蒸発残分量であり、実際に表面処理したとき、基板上に残る有機金属化合物量の指標となる量である。また、これら全体の固形分濃度が約0.01~5重量%になるような有機溶剤溶液として調製される。シリカが40%よりも多い割合で用いられると、耐熱性の低下が起こり、高温空気加熱後の屈曲試験によって接着剥がれが生ずるようになる。一方、シリカがこれよりも少ない割合で用いられると、水、LLCなどに対する耐液耐久性が悪化するようになる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、エチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノブチルエーテル、モノエチルエーテルアセテートなどの多価アルコールまたはその誘導体が用いられる。
【0013】
以上の各成分を必須成分とする下塗り剤は、市販品であるNOK製品J50F等をそのまま用いることもできる。下塗り剤は、アルカリ脱脂処理されたステンレス鋼板上に浸漬、噴霧、はけ刷り、ロールコートなどの方法によって10~1000mg/m2、好ましくは50~500mg/m2の片面目付量(皮膜量)で塗布され、室温または温風で乾燥された後、100~250℃で0.5~20分間焼付け処理され、下塗り層が形成される。
【0014】
ステンレス鋼板上に塗布され、乾燥処理を行った下塗り層上には、中塗り剤であるフェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する加硫接着剤が塗布される。かかる中塗り用加硫接着剤としては、一般には市販品、例えば東洋化学研究所製品メタロックPH-37、ロード・ジャパン・インク製品ケムロックXPJ-60等を用いることができる。
【0015】
これらの中塗り用加硫接着剤は、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系有機溶剤またはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤を単独または混合溶剤として、その成分濃度が約0.1~20重量%の有機溶剤溶液として調製され、表面処理剤の場合と同様の塗布方法により50~2000mg/m2の片面目付量(皮膜量)、1~30μmの塗布膜厚で塗布され、室温または温風で乾燥された後、80~250℃で1~30分間焼付処理され、中塗り層を形成させる。
【0016】
本出願人は先に、エンジンシリンダヘッドガスケット用途で実績がある有機金属化合物、及びシリカを含有する金属表面処理剤(本発明の下塗り剤)を下地処理として塗布することにより、耐水性、耐アルカリ性等の耐久性をもたせることを提案しているが(特許文献3)、本発明の中塗り剤が用いられずにフェノール樹脂含有接着剤層(本発明の上塗り剤)が形成されたニトリルゴム-金属複合体は、後記比較例4~5に示されるように耐温水性は担保されるものの、ビールをはじめ各種溶液に対する耐接着性を満足させることができない。
【0017】
下塗り層上に塗布され、乾燥処理を行った中塗り層上には、さらに上塗り剤であるフェノール樹脂含有加硫接着剤が塗布される。かかる上塗り用加硫接着剤としては、ニトリルゴム用の加硫接着剤が用いられ、一般には市販品、例えば東洋化学研究所製品メタロックN31、DDPスペシャリティ・プロダクツ・ジャパン社製品シクソン715、ロード・ジャパン・インク社製品TS1677-13、同社製品ケムロック205などを用いることができるが、好ましくはノボラックフェノール樹脂およびレゾールフェノール樹脂が9:1~1:9の割合で配合されているものが用いられる。
【0018】
これらの上塗り用加硫接着剤は、中塗り用加硫接着剤と同様、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系有機溶剤またはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤を単独または混合溶剤として、その成分濃度が約0.1~20重量%の有機溶剤溶液として調製され、表面処理剤の場合と同様の塗布方法により50~2000mg/m2の片面目付量(皮膜量)、1~30μmの塗布膜厚で塗布され、室温または温風で乾燥された後、80~250℃で1~30分間焼付処理される。
【0019】
このようにして形成された上塗り層上には、未加硫のニトリルゴムコンパウンドが接合され、160~230℃で1~15分間の加圧架橋を行った後、120~170℃で0.5~5時間の二次架橋を行い、ゴム積層物が得られる。
【0020】
ニトリルゴムとしては、その硬化物の硬度(デュロメーターA)が80以上で、圧縮永久歪(100℃、22時間)が50%以下のものであればよく、特に配合内容によって制限されるものではない。ニトリルゴムは、イオウ、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のイオウ系加硫剤を用いたコンパウンドとして使用することもできるものの、好ましくは有機過酸化物を架橋剤として使用した未加硫ニトリルゴムコンパンドとして用いられる。かかるパーオキサイド架橋系の未加硫ニトリルゴムコンパウンドとしては、例えば次のような配合例が示される。
(配合例)
NBR(JSR製品N235S) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
炭酸カルシウム 80 〃
粉末状シリカ 20 〃
酸化亜鉛 5 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラック224) 2 〃
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
1,3-ビス(第3ブチルパーオキシ)イソプロピルベンゼン 2.5 〃
可塑剤(バイエル社製品ブカノールOT) 5 〃
【0021】
ゴム層を形成するニトリルゴムは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムまたはこれらのブレンドゴムであってもよい。ブレンドゴムの場合は、好ましくはニトリルゴム5~60重量%に対し、水素化ニトリルゴムが95~40重量%の割合で用いられる。水素化ニトリルゴムの場合は、一般に水素化度90%以上のものを用いることが好ましい。
【実施例0022】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は効果を含めてこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
SUS301鋼板の表面をアルカリ脱脂した後、有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤(NOK製品J50F)を、浸漬処理によって片面目付量(皮膜量)50mg/m2で塗布し、200℃で10分間の乾燥を行った。
【0024】
次に、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂含有中塗り用加硫接着剤(メタロックPH-37)を、成分濃度10重量%のメチルエチルケトン希釈溶液として、浸漬処理によって片面目付量(皮膜量)500mg/m2、塗布膜厚10μmで塗布し、室温で乾燥させた後、200℃で10分間の焼付処理を行い、中塗り層の形成が行われた。
【0025】
続いて、フェノール樹脂含有上塗り用接着剤(シクソン715)を、成分濃度10重量%のメチルエチルケトン希釈溶液として、浸漬処理によって片面目付量(皮膜量)500mg/m2、塗布膜厚10μmで塗布し、室温で乾燥させた後、200℃で10分間の焼付処理を行い、上塗り層の形成が行われた。
【0026】
このようにして形成された上塗り層上に、未架橋のニトリルゴムコンパウンドを接合させ、180℃で6分間の加圧架橋を行った後、150℃で1時間二次架橋を行い、ゴム積層物を得た。
【0027】
実施例2
実施例1において、中塗り剤としてケムロックXPJ-60が用いられた。
【0028】
比較例1
実施例1において、下塗り剤が用いられなかった。
【0029】
比較例2
実施例2において、下塗り剤が用いられなかった。
【0030】
比較例3
実施例1において、下塗り剤および中塗り剤が用いられなかった。
【0031】
比較例4
実施例1において、中塗り剤が用いられなかった。
【0032】
比較例5
実施例1において、中塗り剤としてもフェノール樹脂含有上塗り用接着剤であるシクソン715が用いられた。
【0033】
比較例6
実施例1において、下塗り剤としてシランカップリング剤(ロード・ジャパン・インク製品AP-133)が用いられた。
【0034】
以上の各実施例および比較例で得られたニトリルゴム-金属複合体について、接着性試験が行われた。得られた結果は、次の表に示される。なお、いずれの複合体も初期接着性は100%であった。
接着性試験:70℃の温水、70℃のビール、70℃のチューハイ、70℃の2%水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)または70℃の8%エタノール+CO2水溶液(EtOH+CO2)に170時間、340時間または500時間浸せきした後、ゴム部をペンチにて剥離し、そのゴム残率(%)を測定(JIS K6256準拠)
表
実1 実2 比1 比2 比3 比4 比5 比6
〔温水〕
170時間 100 100 90 80 80 100 100 90
340時間 100 100 80 50 50 100 100 80
500時間 100 100 60 30 30 100 100 80
〔ビール〕
170時間 100 90 80 80 80 90 100 90
340時間 100 80 70 70 70 70 90 80
500時間 100 80 20 10 10 50 70 50
〔チューハイ〕
170時間 100 100 80 80 80 100 100 90
340時間 100 100 70 70 60 90 100 80
500時間 100 100 50 40 40 80 80 50
〔NaOH〕
170時間 100 100 80 80 70 90 100 70
340時間 100 90 50 40 30 70 70 60
500時間 100 70 0 0 20 40 50 20
〔EtOH+CO2〕
170時間 100 100 70 30 20 80 90 60
340時間 100 90 0 0 0 50 60 10
500時間 100 50 0 0 0 30 30 0
本発明のニトリルゴム-金属複合体は、耐ビール性、耐アルカリ性および耐温水性をバランスよく満足させるので、例えばビア樽用のバルブまたはパッキン等として有効に用いられる。