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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115594
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021287
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真貴
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C022KK28
(57)【要約】
【課題】すくい面摩耗やすくい面への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができるエンドミルを提供する。
【解決手段】ボディ3は、ボディ3の先端面及び外周面に開口し、先端面から後端側に延びる切屑排出溝4と、切屑排出溝4のエンドミル回転方向を向く壁面に配置されるすくい面5と、ボディ3の外周面に配置される外周逃げ面6Aと、すくい面5と外周逃げ面6Aとが接続される稜線部に配置される外周刃7Aと、すくい面5の一部に配置され、所定方向に延びる複数のスジを含む第1研削スジ11と、を有し、すくい面5は、外周刃7Aに接続され、外周刃7Aに沿って延びる帯状の第1すくい面部5aと、第1すくい面部5aの径方向内側に配置される第2すくい面部5bと、を有し、第1研削スジ11は、第2すくい面部5bに配置され、第1研削スジ11の表面粗さは、第1すくい面部5aの表面粗さよりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って軸方向に延びるボディと、
前記ボディの後端部に接続されるシャンクと、を備え、
前記ボディは、
前記ボディの先端面及び外周面に開口し、前記先端面から後端側に延びる切屑排出溝と、
前記切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面に配置されるすくい面と、
前記外周面に配置される外周逃げ面と、
前記すくい面と前記外周逃げ面とが接続される稜線部に配置される外周刃と、
前記すくい面の一部に配置され、所定方向に延びる複数のスジを含む第1研削スジと、を有し、
前記すくい面は、
前記外周刃に接続され、前記外周刃に沿って延びる帯状の第1すくい面部と、
前記第1すくい面部の径方向内側に配置される第2すくい面部と、を有し、
前記第1研削スジは、前記第2すくい面部に配置され、
前記第1研削スジの表面粗さは、前記第1すくい面部の表面粗さよりも大きい、
エンドミル。
【請求項2】
前記第1研削スジの表面粗さは、最大高さ粗さRz:5μm以上である、
請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記第1すくい面部の表面粗さは、最大高さ粗さRz:2μm以下である、
請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記第1すくい面部の幅寸法は、0.02mm以上0.3mm以下である、
請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項5】
前記第1研削スジの前記複数のスジは、先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる、
請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項6】
前記第1研削スジは、前記第2すくい面部のうち径方向外端部から、径方向内側へ向けて前記切屑排出溝の溝深さ寸法の半分を越えた位置にまで配置される、
請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項7】
前記ボディは、前記切屑排出溝のエンドミル回転方向とは反対側を向く壁面に配置され、所定方向に延びる複数のスジを含む第2研削スジを有し、
前記第2研削スジの表面粗さは、前記第1すくい面部の表面粗さよりも大きい、
請求項1または2に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中心軸に沿って軸方向に延びるボディ(切刃部)と、ボディの後端部に接続されるシャンクと、を備えるエンドミルが知られている(例えば、特許文献1、2)。
ボディは、ボディの先端面及び外周面に開口し、先端面から後端側に延びる切屑排出溝と、切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面に配置されるすくい面と、ボディの外周面に配置される外周逃げ面と、すくい面と外周逃げ面とが接続される稜線部に配置される外周刃と、ボディの先端面に配置される先端逃げ面と、すくい面と先端逃げ面とが接続される稜線部に配置される底刃と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5277890号公報
【特許文献2】特許第5849817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のエンドミルにおいては、すくい面摩耗やすくい面への溶着によって、工具寿命が短くなるおそれがある。
【0005】
本発明は、すくい面摩耗やすくい面への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができるエンドミルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
〔本発明の態様1〕
中心軸に沿って軸方向に延びるボディと、前記ボディの後端部に接続されるシャンクと、を備え、前記ボディは、前記ボディの先端面及び外周面に開口し、前記先端面から後端側に延びる切屑排出溝と、前記切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面に配置されるすくい面と、前記外周面に配置される外周逃げ面と、前記すくい面と前記外周逃げ面とが接続される稜線部に配置される外周刃と、前記すくい面の一部に配置され、所定方向に延びる複数のスジを含む第1研削スジと、を有し、前記すくい面は、前記外周刃に接続され、前記外周刃に沿って延びる帯状の第1すくい面部と、前記第1すくい面部の径方向内側に配置される第2すくい面部と、を有し、前記第1研削スジは、前記第2すくい面部に配置され、前記第1研削スジの表面粗さは、前記第1すくい面部の表面粗さよりも大きい、エンドミル。
【0008】
本発明のエンドミルでは、すくい面の一部に、第1研削スジが形成されている。第1研削スジは、所定方向に延びる複数のスジからなり、エンドミル製造時にすくい面への研削加工によって付与される。第1研削スジは、所定方向と垂直な断面が微細な凹凸形状をなしている。
【0009】
外周刃で切削されて生じた切屑は、すくい面に摺接しつつ切屑排出溝内を排出されていく。このとき、すくい面の一部に第1研削スジが設けられていることにより、切屑とすくい面との接触面積が低減される。これにより、切削中に高温となった切屑から工具(エンドミル)への熱の流入を減少させることができる。
したがって本発明のエンドミルでは、すくい面摩耗が抑制され、工具寿命を延長することができる。また、すくい面への溶着が抑制され、切屑排出溝の切屑詰まりが抑えられて、工具の折損等を防止することができる。
【0010】
より詳しくは、本発明のエンドミルは、すくい面が、外周刃に隣接して配置される第1すくい面部と、外周刃から径方向内側に離れて配置される第2すくい面部と、を有している。そして、第1すくい面部及び第2すくい面部のうち第2すくい面部にのみ、第1研削スジが形成されている。このように、第1研削スジを外周刃から離れた位置に配置しているため、第1研削スジの凹凸形状が外周刃の刃先形状に干渉することがない。
【0011】
したがって、本発明では上述した作用効果を奏しつつも、外周刃の刃先強度を高く維持してチッピング等の刃先欠損を抑制することができる。また、第1研削スジの凹凸形状の影響を受けないことで、外周刃の輪郭精度(刃先精度)が良好に維持されるため、外周刃によって切削される被削材の加工面精度を安定して高めることができる。
【0012】
以上より本発明によれば、すくい面摩耗やすくい面への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができる。また、外周刃の刃先欠損を抑制でき、かつ、外周刃による加工面精度を向上できる。
【0013】
〔本発明の態様2〕
前記第1研削スジの表面粗さは、最大高さ粗さRz:5μm以上である、態様1に記載のエンドミル。
【0014】
第1研削スジの最大高さ粗さRzが5μm以上であると、切屑とすくい面との接触面積を安定して低減することができる。このため、切屑から工具への熱の流入を効果的に減少させて、すくい面摩耗やすくい面への溶着をより安定的に抑制できる。
【0015】
〔本発明の態様3〕
前記第1すくい面部の表面粗さは、最大高さ粗さRz:2μm以下である、態様1または2に記載のエンドミル。
【0016】
第1すくい面部の最大高さ粗さRzが2μm以下であると、第1すくい面部の表面の凹凸が十分に小さく抑えられるため、第1すくい面部に接続される外周刃も凹凸の少ない高精度でシャープな刃先形状となる。このため、外周刃の刃先強度や輪郭精度をより安定して高めることができる。
【0017】
〔本発明の態様4〕
前記第1すくい面部の幅寸法は、0.02mm以上0.3mm以下である、態様1から3のいずれか1つに記載のエンドミル。
【0018】
第1すくい面部の幅寸法が0.02mm以上であると、第1すくい面部の幅方向の両側に配置される第2すくい面部の第1研削スジと、外周刃との間の距離(寸法)が安定して確保される。第1研削スジを外周刃から離れた位置に配置することで、第1研削スジの凹凸形状が外周刃の刃先強度や刃先精度(切削精度)に影響するようなことをより安定して抑制できる。
【0019】
また、第1すくい面部の幅寸法が0.3mm以下であると、第2すくい面部の第1研削スジと、外周刃との間の距離が大きくなり過ぎることが抑えられる。外周刃で切削されて生じた切屑が、第1すくい面部と接触する割合を小さく抑えつつ、第2すくい面部の第1研削スジと接触する割合を大きく確保できるので、切屑から工具への熱の流入を減少させるとの上述した作用効果が、より顕著となる。このため、すくい面摩耗やすくい面への溶着をより安定して抑制できる。
【0020】
〔本発明の態様5〕
前記第1研削スジの前記複数のスジは、先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる、態様1から4のいずれか1つに記載のエンドミル。
【0021】
この場合、外周刃で切削されて生じた切屑が流れる向きと、第1研削スジの複数のスジが延びる向きとが、互いに略直交するように交差して配置される。これにより、切屑と第1研削スジ(第2すくい面部)との接触面積をより低減させて、切屑から工具への熱の流入をより小さく抑えることができる。
【0022】
〔本発明の態様6〕
前記第1研削スジは、前記第2すくい面部のうち径方向外端部から、径方向内側へ向けて前記切屑排出溝の溝深さ寸法の半分を越えた位置にまで配置される、態様1から5のいずれか1つに記載のエンドミル。
【0023】
この場合、第2すくい面部のうち特に生成直後の熱い切屑が接触しやすい領域に、広範囲にわたって第1研削スジが配置されることとなる。このため、第1研削スジによる上記機能がより顕著に、かつ安定して奏功される。
【0024】
〔本発明の態様7〕
前記ボディは、前記切屑排出溝のエンドミル回転方向とは反対側を向く壁面に配置され、所定方向に延びる複数のスジを含む第2研削スジを有し、前記第2研削スジの表面粗さは、前記第1すくい面部の表面粗さよりも大きい、態様1から6のいずれか1つに記載のエンドミル。
【0025】
この場合、ボディが、上述した第1研削スジの他に、第2研削スジを備えている。第2研削スジは、所定方向に延びる複数のスジからなり、エンドミル製造時に、切屑排出溝のエンドミル回転方向とは反対側を向く壁面への研削加工によって付与される。第2研削スジは、所定方向と垂直な断面が細かな凹凸形状をなしている。
【0026】
第2研削スジが設けられていることにより、切屑排出溝の壁面と切屑との接触面積が低減される。すなわち、第2研削スジによっても、高温となった切屑から工具への熱の流入を減少させることができる。このため、切屑排出溝の壁面の摩耗や溶着を抑制でき、工具寿命の延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の前記態様のエンドミルによれば、すくい面摩耗やすくい面への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本実施形態のエンドミルの一部を示す側面図である。
図2図2は、エンドミルのボディを示す横断面図である。
図3図3は、エンドミルのボディの一部を拡大して示す側面図である。
図4図4は、第1研削スジの断面形状を模式的に示す断面図である。
図5図5は、本実施形態の第1変形例のエンドミルのボディの一部を拡大して示す側面図である。
図6図6は、本実施形態の第2変形例のエンドミルのボディの一部を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態のエンドミル1Aについて、図1図4を参照して説明する。本実施形態のエンドミル1Aは、金属製等の被削材に対して、ミーリング加工(転削加工)を施す切削工具(転削工具)である。具体的に、本実施形態のエンドミル1Aは、スクエアエンドミルである。
【0030】
図1に示すように、エンドミル1Aは、中心軸Cを中心とする柱状である。エンドミル1Aは、シャンク2と、ボディ3と、を備える。なおボディ3は、切刃部3や刃部3などと言い換えてもよい。
【0031】
シャンク2及びボディ3は、中心軸Cを共通軸として、互いに同軸に配置されている。また、シャンク2とボディ3とは、中心軸Cが延びる方向において、互いに異なる位置に配置されている。
【0032】
〔方向の定義〕
本実施形態では、エンドミル1Aの中心軸Cが延びる方向を軸方向と呼ぶ。軸方向のうち、シャンク2からボディ3へ向かう方向を軸方向の先端側または単に先端側と呼び、ボディ3からシャンク2へ向かう方向を軸方向の後端側または単に後端側と呼ぶ。
【0033】
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。周方向のうち、切削加工時にエンドミル1Aが回転させられる方向をエンドミル回転方向Tと呼び、これとは反対の回転方向を、エンドミル回転方向Tとは反対側、または反エンドミル回転方向と呼ぶ。
【0034】
〔シャンク〕
図1に示すように、シャンク2は、中心軸Cを中心として軸方向に延びる円柱状である。シャンク2は、ボディ3の後端部に接続される。シャンク2は、図示しない工作機械の主軸等(以下、主軸等と省略する場合がある)に着脱可能に保持される。シャンク2は、主軸等によってエンドミル回転方向Tに回転させられつつ、図示しない被削材と相対的に径方向や軸方向に移動させられる。これによりエンドミル1Aは、ボディ3の後述する切刃7(外周刃7A及び底刃7B)によって被削材に切り込んで、各種ミーリング加工を行う。
【0035】
〔ボディ〕
ボディ3は、中心軸Cに沿って軸方向に延びる略円柱状である。図1図3に示すように、ボディ3は、切屑排出溝4と、すくい面5と、逃げ面6と、切刃7と、第1研削スジ11と、を有する。
【0036】
切屑排出溝4は、ボディ3の軸方向の先端側を向く先端面3a、及び径方向外側を向く外周面3bに開口し、先端面3aから後端側に延びる。詳しくは、切屑排出溝4は、先端面3aから軸方向の後端側へ向かうに従い、反エンドミル回転方向に向けて捩れて延びており、中心軸Cを中心とする螺旋状をなしている。
【0037】
切屑排出溝4は、周方向に互いに間隔をあけて複数設けられる。本実施形態では切屑排出溝4が、周方向に等ピッチで4つ設けられる。なお、切屑排出溝4の数は4つに限らず、3つ以下や5つ以上であってもよい。また、複数の切屑排出溝4が、周方向に不等ピッチで配列していてもよい。
後述するすくい面5、逃げ面6、切刃7及び第1研削スジ11の各数量は、切屑排出溝4の数と同じである。
【0038】
切屑排出溝4は、切屑排出溝4の先端部に配置されるギャッシュ8を有する。すなわち、ギャッシュ8は、切屑排出溝4の一部(先端部)を構成する。ギャッシュ8は、径方向に延びる溝状である。ギャッシュ8の径方向内端部は、切屑排出溝4のうちギャッシュ8以外の部分よりも、中心軸Cに接近して配置されている。
【0039】
すくい面5は、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面に配置される。すくい面5は、第1すくい面部5aと、第2すくい面部5bと、ギャッシュすくい面部5cと、を有する。
【0040】
第1すくい面部5aは、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面のうち、径方向外端部に配置され、切屑排出溝4が延びる方向に沿って帯状に延びる。第1すくい面部5aは、切刃7の後述する外周刃7Aに接続され、外周刃7Aに沿って延びている。
【0041】
第1すくい面部5aの幅寸法は、例えば、0.02mm以上0.3mm以下であり、本実施形態では0.1mm程度である。なお本実施形態において、第1すくい面部5aの幅寸法とは、外周刃7Aと直交する方向における第1すくい面部5aの寸法を指す。また、第1すくい面部5aの表面粗さは、例えば、最大高さ粗さRz:2μm以下である。
【0042】
第2すくい面部5bは、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面のうち、第1すくい面部5aの径方向内側に配置される。第2すくい面部5bと第1すくい面部5aとは、径方向において、互いに隣接して配置されている。すなわち、第2すくい面部5bの径方向外端部は、第1すくい面部5aの径方向内端部と接続される。第2すくい面部5bは、切屑排出溝4が延びる方向に沿って延びている。
【0043】
第2すくい面部5bの幅寸法は、第1すくい面部5aの幅寸法よりも大きい。また、第2すくい面部5bの表面粗さは、第1すくい面部5aの表面粗さよりも大きい(粗い)。
【0044】
ギャッシュすくい面部5cは、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面のうち、軸方向の先端部に配置される。ギャッシュすくい面部5cは、ギャッシュ8に配置される。図3に示すように、エンドミル回転方向Tからすくい面5を正面に見て、ギャッシュすくい面部5cは、略三角形状をなしている。ギャッシュすくい面部5cは、切刃7の後述する底刃7Bに接続され、底刃7Bに沿って延びている。
【0045】
本実施形態では、ギャッシュすくい面部5cのうち径方向外端部が、第1すくい面部5aの先端部及び第2すくい面部5bの先端部よりも、先端側に配置されている。このため、第1すくい面部5a及び第2すくい面部5bの各先端部は、底刃7Bに達していない。
【0046】
図1図3に示すように、逃げ面6は、ボディ3の外周面3bに配置される外周逃げ面6Aと、ボディ3の先端面3aに配置される先端逃げ面6Bと、を有する。すなわち、ボディ3は、外周逃げ面6Aと、先端逃げ面6Bと、を有する。
【0047】
外周逃げ面6Aは、ボディ3の外周面3bのうち、周方向に隣り合う切屑排出溝4同士の間に配置される。外周逃げ面6Aは、切刃7の後述する外周刃7Aに接続され、外周刃7Aに沿って延びている。外周逃げ面6Aは、外周刃7Aからエンドミル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い、径方向内側に向けて延びる。
【0048】
先端逃げ面6Bは、ボディ3の先端面3aのうち、周方向に隣り合う切屑排出溝4(ギャッシュ8)同士の間に配置される。先端逃げ面6Bは、切刃7の後述する底刃7Bに接続され、底刃7Bに沿って延びている。先端逃げ面6Bは、底刃7Bからエンドミル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い、軸方向の後端側に向けて延びる。
【0049】
切刃7は、すくい面5と外周逃げ面6Aとが接続される稜線部に配置される外周刃7Aと、すくい面5と先端逃げ面6Bとが接続される稜線部に配置される底刃7Bと、を有する。すなわち、ボディ3は、外周刃7Aと、底刃7Bと、を有する。
【0050】
具体的に本実施形態では、外周刃7Aのうち先端部以外の部分が、第1すくい面部5aと、外周逃げ面6Aとが接続される稜線部に配置されている。また、外周刃7Aのうち先端部が、ギャッシュすくい面部5cの径方向外端部と、外周逃げ面6Aの先端部とが接続される稜線部に配置されている。
【0051】
外周刃7Aは、切屑排出溝4に沿って延びる。具体的に、外周刃7Aは、軸方向の後端側へ向かうに従い、反エンドミル回転方向に向けて捩れて延びており、中心軸Cを中心とする螺旋状をなしている。
【0052】
底刃7Bは、ギャッシュすくい面部5cと先端逃げ面6Bとが接続される稜線部に配置される。本実施形態では、底刃7Bがその全長にわたって、ギャッシュすくい面部5cと先端逃げ面6Bとの稜線部に配置されている。底刃7Bは、ギャッシュ8が延びる方向に沿って、略径方向に延びている。また底刃7Bは、径方向内側へ向かうに従い、僅かに軸方向の後端側に向けて延びている。
【0053】
第1研削スジ11は、すくい面5の一部に配置される。具体的に、第1研削スジ11は、第1すくい面部5a、第2すくい面部5b及びギャッシュすくい面部5cのうち、第2すくい面部5bにのみ形成されている。すなわち、第1研削スジ11は、第2すくい面部5bに配置される。本実施形態では第1研削スジ11が、第2すくい面部5bの略全域にわたって形成されている。
【0054】
ここで、図2に示すボディ3の中心軸Cと垂直な断面図(横断面図)において、符号VC1は、中心軸Cを中心とし、外周刃7Aを通る仮想円を表している。仮想円VC1は、外周刃7Aの中心軸C回りの回転軌跡に相当する。仮想円VC1の直径寸法は、ボディ3の刃径寸法に相当する。また符号VC2は、中心軸Cを中心とし、切屑排出溝4の最深部(径方向内端部)を通る仮想円を表している。仮想円VC2の直径寸法は、ボディ3の心厚に相当する。また符号VC3は、中心軸Cを中心とし、切屑排出溝4の溝深さ寸法の半分の位置(切屑排出溝4の深さ方向の中心位置)を通る仮想円を表している。
【0055】
図2に示すように、第1研削スジ11の径方向外端部11aは、第2すくい面部5bの径方向外端部に位置している。すなわち、第1研削スジ11の径方向外端部11aは、第2すくい面部5bと第1すくい面部5aとの接続部分に位置する。第1研削スジ11の径方向外端部11aは、仮想円VC3よりも径方向外側、かつ仮想円VC1よりも径方向内側に配置される。
【0056】
また、第1研削スジ11の径方向内端部11bは、切屑排出溝4の最深部付近に位置している。第1研削スジ11の径方向内端部11bは、第2すくい面部5bの径方向内端部付近に位置する。第1研削スジ11の径方向内端部11bは、仮想円VC3よりも径方向内側、かつ仮想円VC2よりも径方向外側に配置される。
すなわち、第1研削スジ11は、第2すくい面部5bのうち径方向外端部(11a)から、径方向内側へ向けて切屑排出溝4の溝深さ寸法の半分(仮想円VC3)を越えた位置にまで配置される。
【0057】
第1研削スジ11は、エンドミル製造時において、揺動する回転砥石で第2すくい面部5bに研削加工を施すこと等により形成される。図1及び図3に示すように、第1研削スジ11は、所定方向に延びる複数のスジを含む。複数のスジは、前記所定方向と直交する方向に並んで配列する。前記所定方向は、例えば、中心軸Cに対して傾斜する方向である。本実施形態において前記所定方向は、軸方向の先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる方向である。すなわち、第1研削スジ11の複数のスジは、先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる。
【0058】
ここで、図4は、第1研削スジ11の前記所定方向と垂直な断面の形状を模式的に表す拡大断面図である。図4に示すように、第1研削スジ11の前記所定方向と垂直な断面形状は、溝状の凹部11cとリブ状の凸部11dとが交互に並んで配置される凹凸形状をなす。また、図4に符号Pで示すものは、第1研削スジ11の隣り合うスジ間のピッチ(周期)Pを表している。具体的に、ピッチPは、前記所定方向と垂直な断面において隣り合う一対のスジの各凹部11c同士の間の寸法、または各凸部11d同士の間の寸法に相当する。ピッチPは、例えば、50μm以上500μm以下であり、本実施形態では200μm程度である。
【0059】
第1研削スジ11の表面粗さは、第1すくい面部5aの表面粗さよりも大きい(粗い)。第1研削スジ11の表面粗さは、例えば、最大高さ粗さRz:5μm以上であり、本実施形態では7~8μm程度である。このため、第1研削スジ11が形成される第2すくい面部5bの表面粗さも、第1すくい面部5aの表面粗さよりも大きくされている。
【0060】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のエンドミル1Aでは、すくい面5の一部に、第1研削スジ11が形成されている。第1研削スジ11は、所定方向に延びる複数のスジからなり、エンドミル製造時にすくい面5への研削加工によって付与される。第1研削スジ11は、所定方向と垂直な断面が微細な凹凸形状をなしている。
【0061】
外周刃7Aで切削されて生じた切屑は、すくい面5に摺接しつつ切屑排出溝4内を排出されていく。このとき、すくい面5の一部に第1研削スジ11が設けられていることにより、切屑とすくい面5との接触面積が低減される。これにより、切削中に高温となった切屑から工具(エンドミル1A)への熱の流入を減少させることができる。
したがって本実施形態のエンドミル1Aでは、すくい面5摩耗が抑制され、工具寿命を延長することができる。また、すくい面5への溶着が抑制され、切屑排出溝4の切屑詰まりが抑えられて、工具の折損等を防止することができる。
【0062】
より詳しくは、本実施形態のエンドミル1Aは、すくい面5が、外周刃7Aに隣接して配置される第1すくい面部5aと、外周刃7Aから径方向内側に離れて配置される第2すくい面部5bと、を有している。そして、第1すくい面部5a及び第2すくい面部5bのうち第2すくい面部5bにのみ、第1研削スジ11が形成されている。このように、第1研削スジ11を外周刃7Aから離れた位置に配置しているため、第1研削スジ11の凹凸形状が外周刃7Aの刃先形状に干渉することがない。
【0063】
したがって、本実施形態では上述した作用効果を奏しつつも、外周刃7Aの刃先強度を高く維持してチッピング等の刃先欠損を抑制することができる。また、第1研削スジ11の凹凸形状の影響を受けないことで、外周刃7Aの輪郭精度(刃先精度)が良好に維持されるため、外周刃7Aによって切削される被削材の加工面精度を安定して高めることができる。
【0064】
以上より本実施形態によれば、すくい面5摩耗やすくい面5への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができる。また、外周刃7Aの刃先欠損を抑制でき、かつ、外周刃7Aによる加工面精度を向上できる。
【0065】
また本実施形態では、第1研削スジ11の表面粗さが、最大高さ粗さRz:5μm以上である。
第1研削スジ11の最大高さ粗さRzが5μm以上であると、切屑とすくい面5との接触面積を安定して低減することができる。このため、切屑から工具への熱の流入を効果的に減少させて、すくい面5摩耗やすくい面5への溶着をより安定的に抑制できる。
【0066】
また本実施形態では、第1すくい面部5aの表面粗さが、最大高さ粗さRz:2μm以下である。
第1すくい面部5aの最大高さ粗さRzが2μm以下であると、第1すくい面部5aの表面の凹凸が十分に小さく抑えられるため、第1すくい面部5aに接続される外周刃7Aも凹凸の少ない高精度でシャープな刃先形状となる。このため、外周刃7Aの刃先強度や輪郭精度をより安定して高めることができる。
【0067】
また本実施形態では、第1すくい面部5aの幅寸法が、0.02mm以上0.3mm以下である。
第1すくい面部5aの幅寸法が0.02mm以上であると、第1すくい面部5aの幅方向の両側に配置される第2すくい面部5bの第1研削スジ11と、外周刃7Aとの間の距離(寸法)が安定して確保される。第1研削スジ11を外周刃7Aから離れた位置に配置することで、第1研削スジ11の凹凸形状が外周刃7Aの刃先強度や刃先精度(切削精度)に影響するようなことをより安定して抑制できる。
【0068】
また、第1すくい面部5aの幅寸法が0.3mm以下であると、第2すくい面部5bの第1研削スジ11と、外周刃7Aとの間の距離が大きくなり過ぎることが抑えられる。外周刃7Aで切削されて生じた切屑が、第1すくい面部5aと接触する割合を小さく抑えつつ、第2すくい面部5bの第1研削スジ11と接触する割合を大きく確保できるので、切屑から工具への熱の流入を減少させるとの上述した作用効果が、より顕著となる。このため、すくい面5摩耗やすくい面5への溶着をより安定して抑制できる。
【0069】
また本実施形態では、第1研削スジ11の複数のスジが、先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる。
この場合、外周刃7Aで切削されて生じた切屑が流れる向きと、第1研削スジ11の複数のスジが延びる向きとが、互いに略直交するように交差して配置される。これにより、切屑と第1研削スジ11(第2すくい面部5b)との接触面積をより低減させて、切屑から工具への熱の流入をより小さく抑えることができる。
【0070】
また本実施形態では、第1研削スジ11が、第2すくい面部5bのうち径方向外端部から、径方向内側へ向けて切屑排出溝4の溝深さ寸法の半分(仮想円VC3)を越えた位置にまで配置される。
この場合、第2すくい面部5bのうち特に生成直後の熱い切屑が接触しやすい領域に、広範囲にわたって第1研削スジ11が配置されることとなる。このため、第1研削スジ11による上記機能がより顕著に、かつ安定して奏功される。
【0071】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、各変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0072】
図5は、前述の実施形態の第1変形例のエンドミル1Bのボディ3の一部を拡大して示す側面図である。この第1変形例のエンドミル1Bでは、第1すくい面部5a及び第2すくい面部5bの各先端部が、底刃7Bに達している。
この第1変形例によっても、前述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0073】
図6は、前述の実施形態の第2変形例のエンドミル1Cのボディ3の一部を拡大して示す側面図である。この第2変形例のエンドミル1Cでは、ボディ3が、さらに、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く壁面4bに配置される第2研削スジ12を有する。第2研削スジ12は、複数の切屑排出溝4にそれぞれ(つまり複数)設けられる。第2研削スジ12の数は、切屑排出溝4の数と同じである。
【0074】
第2研削スジ12は、エンドミル製造時において、揺動する回転砥石で壁面4bに研削加工を施すこと等により形成される。第2研削スジ12は、所定方向に延びる複数のスジを含む。第2研削スジ12の複数のスジは、前記所定方向と直交する方向に並んで配列する。前記所定方向は、例えば、中心軸Cに対して傾斜する方向である。
【0075】
図6に示す例では、前記所定方向は、軸方向の先端側へ向かうに従い径方向外側に向けて延びる方向である。すなわち、第2研削スジ12の複数のスジは、先端側へ向かうに従い径方向外側に向けて延びる。この第2変形例では、第2研削スジ12の複数のスジが延びる方向と、第1研削スジ11の複数のスジが延びる方向とが、互いに異なっている。
【0076】
また、特に図示しないが、前記所定方向は、軸方向の先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる方向であってもよい。すなわち、第2研削スジ12の複数のスジは、先端側へ向かうに従い径方向内側に向けて延びる。この場合、第2研削スジ12の複数のスジが延びる方向と、第1研削スジ11の複数のスジが延びる方向とが、互いに同一であってもよい。
【0077】
第2研削スジ12の表面粗さは、第1すくい面部5aの表面粗さよりも大きい(粗い)。第2研削スジ12の表面粗さは、例えば、第1研削スジ11の表面粗さと同じである。第2研削スジ12の前記所定方向と垂直な断面の形状は、例えば、図4に示す第1研削スジ11の断面形状と同じである。第2研削スジ12の表面性状(凹凸形状や寸法等)は、例えば、上述した第1研削スジ11の表面性状と同様である。
【0078】
この第2変形例によれば、ボディ3が、上述した第1研削スジ11の他に、第2研削スジ12を備えている。第2研削スジ12は、所定方向に延びる複数のスジからなり、エンドミル製造時に、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く壁面4bへの研削加工によって付与される。第2研削スジ12は、所定方向と垂直な断面が細かな凹凸形状をなしている。
【0079】
第2研削スジ12が設けられていることにより、切屑排出溝4の壁面4bと切屑との接触面積が低減される。すなわち、第2研削スジ12によっても、高温となった切屑から工具への熱の流入を減少させることができる。このため、切屑排出溝4の壁面4bの摩耗や溶着を抑制でき、工具寿命の延長を図ることができる。
【0080】
また、前述の実施形態及び各変形例では、エンドミル1A~1Cが、それぞれスクエアエンドミルである例を挙げたが、これに限らない。エンドミル1A~1Cは、例えば、ラジアスエンドミル等であってもよい。
【0081】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のエンドミルによれば、すくい面摩耗やすくい面への溶着を抑制でき、工具寿命を延長することができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0083】
1A,1B,1C…エンドミル
2…シャンク
3…ボディ
3a…先端面
3b…外周面
4…切屑排出溝
4b…切屑排出溝のエンドミル回転方向とは反対側を向く壁面
5…すくい面
5a…第1すくい面部
5b…第2すくい面部
6A…外周逃げ面
7A…外周刃
11…第1研削スジ
12…第2研削スジ
C…中心軸
T…エンドミル回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6