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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115613
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/44 20100101AFI20240820BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240820BHJP
【FI】
H01L33/44
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021328
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】面家 英樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩一
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA04
5F241AA40
5F241AA44
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA87
5F241CA92
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】保護膜の剥がれやクラックが防止されたUVCの発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子において、基板10と、基板10裏面に設けられた反射防止膜22と、基板10表面にn層11、発光層12、p層14の順に積層された半導体層と、p層14表面の所定の領域に設けられ、n層11に達する深さの孔と、p層14上に接して設けられたp電極15と、孔の底面に露出するn層11上に設けられたn電極16と、p電極15上およびn電極16上にそれぞれ設けられたpn電極17Aおよびpn電極17Bと、素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる保護膜18と、を有し、保護膜18は、絶縁材料である第1保護膜18Aと、第1保護膜18A上に形成され、第1保護膜18Aとは異なる内部応力の絶縁材料である第2保護膜18Bを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
前記基板裏面に設けられた反射防止膜と、
前記基板表面にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられたp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、
前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ設けられた第1pn電極および第2pn電極と、
素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる保護膜と、
を有し、
前記保護膜は、絶縁材料である第1保護膜と、前記第1保護膜上に形成され、前記第1保護膜とは異なる内部応力の絶縁材料である第2保護膜を有する、発光素子。
【請求項2】
前記第1保護膜と前記第2保護膜は異なる材料である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第1保護膜はSiOであり、前記第1pn電極および前記第2pn電極は複数の層で構成され、前記第1pn電極および前記第2pn電極の最上層はTa層であり、前記Ta層は前記第1保護膜に接する、請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1保護膜と前記第2保護膜の間に発光波長の紫外線を反射する材料からなる反射膜を有する、請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項5】
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、
前記p層上にp電極を形成するp電極形成工程と、
前記孔の底面に露出する前記n層上にn電極を形成するn電極形成工程と、
前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ第1pn電極および第2pn電極を形成するpn電極形成工程と、
素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、
前記第1保護膜上に、前記第1保護膜と同一材料からなる第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、
を有し、
前記第1保護膜と前記第2保護膜を異なる形成方法とすることにより、前記第1保護膜と前記第2保護膜の内部応力が異なるようにする、発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1保護膜はCVD法により形成し、前記第2保護膜はスパッタにより形成する、請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1保護膜形成工程の後、前記第2保護膜形成工程の前に、前記第1保護膜上に発光波長の紫外線を反射する材料からなる反射膜を形成する反射膜形成工程を有する、請求項5または請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光波長がUVC(波長200~280nm)のIII族窒化物半導体からなる紫外線LEDを水や空気などの殺菌、消毒に使用することが注目されており、紫外線LEDの高効率化に向けた研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
UVCの紫外線はLED内部で吸収されやすく、光取り出し効率が低いという問題がある。そこで、光取り出し側である基板裏面に反射防止膜を形成して光取り出し効率の向上を図っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-517736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、保護膜の形成後に基板裏面に反射防止膜を形成する場合、その形成時の熱負荷によって素子の保護膜が剥がれてしまったり、クラックが生じたりしてしまい、リーク不良が発生してしまうことがあった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、保護膜の剥がれやクラックが防止された発光素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
基板と、
前記基板裏面に設けられた反射防止膜と、
前記基板表面にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、
前記p層上に接して設けられたp電極と、
前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、
前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ設けられた第1pn電極および第2pn電極と、
素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる保護膜と、
を有し、
前記保護膜は、絶縁材料である第1保護膜と、前記第1保護膜上に形成され、前記第1保護膜とは異なる内部応力の絶縁材料である第2保護膜を有する、発光素子にある。
【0008】
本発明の他の態様は、
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、
前記p層上にp電極を形成するp電極形成工程と、
前記孔の底面に露出する前記n層上にn電極を形成するn電極形成工程と、
前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ第1pn電極および第2pn電極を形成するpn電極形成工程と、
素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、
前記第1保護膜上に、前記第1保護膜と同一材料からなる第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、
を有し、
前記第1保護膜と前記第2保護膜を異なる形成方法とすることにより、前記第1保護膜と前記第2保護膜の内部応力が異なるようにする、発光素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、保護膜を内部応力が異なる2層としているため、保護膜の内部応力を緩和させることができ、反射防止膜の形成時の熱負荷による保護膜の剥離やクラックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における発光素子の構成を示した図であって基板の主面に垂直な断面図。
図2】実施形態における発光素子の電極の平面パターンを示した図。
図3】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図4】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図5】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図6】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図7】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図8】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図9】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図10】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
図11】放熱面積とΔTの関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発光素子は、発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる。また、基板と、前記基板裏面に設けられた反射防止膜と、前記基板表面にn層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、前記p層表面の所定の領域に設けられ、前記n層に達する深さの孔と、前記p層上に接して設けられたp電極と、前記孔の底面に露出する前記n層上に設けられたn電極と、前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ設けられた第1pn電極および第2pn電極と、素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる保護膜と、を有し、前記保護膜は、絶縁材料である第1保護膜と、前記第1保護膜上に形成され、前記第1保護膜とは異なる内部応力の絶縁材料である第2保護膜を有する。
【0012】
前記第1保護膜と前記第2保護膜は異なる材料であってもよい。
【0013】
前記第1保護膜はSiOであり、前記第1pn電極および前記第2pn電極は複数の層で構成され、前記第1pn電極および前記第2pn電極の最上層はTa層であり、前記Ta層は前記第1保護膜に接していてもよい。反射防止膜形成時の保護膜の剥離を防止することができる。
【0014】
前記第1保護膜と前記第2保護膜の間に発光波長の紫外線を反射する材料からなる反射膜を有していてもよい。光取り出し効率の向上を図ることができ、保護膜の放熱性を高めることができる。
【0015】
発光素子の製造方法は、発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法である。また、基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、前記p層表面の所定の領域に、前記n層に達する深さの孔を形成する孔形成工程と、前記p層上にp電極を形成するp電極形成工程と、前記孔の底面に露出する前記n層上にn電極を形成するn電極形成工程と、前記p電極上および前記n電極上にそれぞれ第1pn電極および第2pn電極を形成するpn電極形成工程と、素子上面全体を覆い、絶縁材料からなる第1保護膜を形成する第1保護膜形成工程と、前記第1保護膜上に、前記第1保護膜と同一材料からなる第2保護膜を形成する第2保護膜形成工程と、を有し、前記第1保護膜と前記第2保護膜を異なる形成方法とすることにより、前記第1保護膜と前記第2保護膜の内部応力が異なるようにする。
【0016】
前記第1保護膜はCVD法により形成し、前記第2保護膜はスパッタにより形成してもよい。
【0017】
前記第1保護膜形成工程の後、前記第2保護膜形成工程の前に、前記第1保護膜上に発光波長の紫外線を反射する材料からなる反射膜を形成する反射膜形成工程を有していてもよい。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態における発光素子の構成を示した図であり、基板に垂直な断面図である。また、図2は、実施形態における発光素子の電極の平面パターンを示した図である。実施形態における発光素子は、フリップチップ型の紫外発光素子であり、発光波長はUVC、たとえば200~280nmである。
【0019】
1.発光素子の構成
図1に示すように、実施形態における発光素子は、基板10、n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14、p電極15、n電極16、pn電極17A、17B、保護膜18、反射膜19、pパッド電極20、nパッド電極21、反射防止膜22を有している。以下、各構成について説明する。
【0020】
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイア以外にも、発光波長に対して透過率が高く、III族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意の材料を用いてよい。基板10の厚さは、たとえば0.4~1mmである。この範囲とすることで光取り出し効率の向上を図ることができる。一方で、基板10が厚くなるため、発光素子内に熱がこもりやすくなり、放熱性が低下し、素子寿命の低下を引き起こす。そこで、実施形態では、後述のような電極パターンとすることで放熱性の改善を図っている。
【0021】
基板10の裏面(n層11側とは反対側の面であり、光取り出し側)には、反射防止膜22が設けられている。反射防止膜22を設けることにより、基板10裏面で紫外線が反射して素子側に戻ってしまうことを抑制し、光取り出しを向上させている。
【0022】
反射防止膜22は、単層、または屈折率の異なる材料を交互に積層させた構造であり、光の干渉によって反射が弱め合うように各層の厚さが設定されている。反射防止膜22の材料は、UVCに対して透過性を有した絶縁体である。たとえば、SiO、HfO、MgFなどである。
【0023】
n層11は、基板10上にバッファ層(図示しない)を介して位置している。n層11は、n-AlGaNからなる。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cmである。n層11は複数の層で構成されていてもよい。
【0024】
発光層12は、n層11上に位置している。発光層12は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギ-の大きなAlGaInNでもよい。また、発光層12はSQW構造でもよい。
【0025】
電子ブロック層13は、発光層12上に位置している。電子ブロック層13は、発光層12の障壁層よりもAl組成比の高いp-AlGaNからなる。電子ブロック層13によって、n電極16から注入した電子が発光層12を超えてp層14側に拡散してしまうのを抑制している。
【0026】
p層14は、電子ブロック層13上に位置している。p層14は、p-AlGaNからなる。実施形態における発光素子は、n層11からp層14まですべての半導体層がAlGaNであり、これによって半導体層による紫外線の吸収を抑制している。p層14のAl組成はたとえば5~80%である。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1019/cm以上である。p層14はAl組成やMg濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。その場合、p電極15と接する層がAl組成5~80%のp-AlGaNであればよい。また、p層14は、AlGaNに限らず、Alを含むIII族窒化物半導体であればよく、AlGaInNでもよい。
【0027】
p層14表面の一部領域には、n層11に達する深さの孔23が形成されている。孔23はドット状であり、複数の孔23が格子状に配列されて設けられている(図2参照)。ただし、pパッド電極20の下部に当たる領域(素子の矩形パターンにおける一の角部)には孔23が設けられていない。孔23の底面にはn層11が露出している。n層11を露出させるための孔23をドット状の配列パターンとすることで、面内の発光の均一さを確保しつつ、孔23による発光面積(p層14の面積)の減少をなるべく少なくし、光出力の向上を図っている。
【0028】
各孔23の平面パターンは、たとえば円である。他に、正六角形などの多角形でもよい。正六角形の場合は孔23の側面をm面とするのがよい。孔23の配列パターンは、たとえば正方格子状、正三角格子状、ハニカム状のパターンである。
【0029】
p電極15は、p層14上に設けられている。p電極15は、p層14表面のうち、p層14の端辺近傍を除いて設けられており(図2参照)、これにより発光面積を広く取っている。p電極15は、発光層12から放射される紫外線を基板10側に反射させて光取り出し効率を高める反射電極である。p電極15の材料は、p層14に対して低コンタクトであってUVCの反射率の高い材料であり、たとえばRh、Ruである。NiやITOと反射層との積層であってもよい。
【0030】
素子上面の面積(孔23とp層14の面積の合計)に対するp電極15の面積の割合は、70%以上とする。孔23およびp電極15の平面パターンはこれを満たすように設定する。たとえば、孔23の直径や配列数、配列間隔を調整する。p電極15の面積を広く取ることにより、p電極15による紫外線の反射を増やし、光取り出し効率を向上させることができる。より好ましくは75%以上である。
【0031】
n電極16は、各孔23の底面に露出するn層11上に設けられている。そのため、n電極16もドット状に配列されたパターンである(図2参照)。n電極16の材料は、V/Al/Tiを熱処理した構造体である。他にもTi/Al/Tiなどを用いることができる。V/Al/Tiを熱処理した構造体は、具体的には、AlNからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層と、を順に積層させた構造である。
【0032】
AlNからなる層は、厚さ1~3nmである。xは、たとえば0.4~0.7である。またxは、厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよい。この場合はxの厚さ方向の平均が0.4~0.7である。また、n層11側からのGaの拡散がある場合もあり、その場合には、n層11よりもAl組成比が高いAlGa1-y(0.4≦x≦0.7)である。n層11のAl組成比がaであれば、a<y≦1である。yはたとえば0.7以上である。またこの場合も、xは厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよく、yは厚さ方向にn層11から離れるにつれて増加していてもよい。
【0033】
Alを主としVとTiを含む金属からなる層は、厚さ50~500nmである。Al、V、Tiの比率は、たとえばAlが50~85mol%、Vが5~20mol%、Tiが10~30mol%である。
【0034】
上記構造のn電極16では、n層11に対するコンタクト抵抗が低減されている。たとえば、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗率は4×10-4Ω・cm以下である。その理由は、第1に、AlNからなる層がn層11に対する良好なコンタクト層として機能しているためと考えられる。また、第2に、n層11表面に窒素空孔が生じ、n型化するためコンタクト抵抗が低下していると考えられる。
【0035】
Tiからなる層は、アロイ時にn電極16中のAlが蒸発してしまうのを抑制するカバ-として設けるものである。Ti以外にもTiN、Ni、Pt、Auなどを用いることができる。
【0036】
pn電極17A、17Bは、p電極15上、n電極16上にそれぞれ設けられている。pn電極17Aの平面パターンは、p電極15の平面パターンと同様である。また、pn電極17Bの平面パターンは、n電極16の平面パターンと同様であり、複数のドットが配列されたパターンである。
【0037】
pn電極17A、17Bの材料は、Ti/Ni/Au/Taである。pn電極17A、17Bを構成する複数の層のうち、最上層は保護膜18の下層(第1保護膜18A)と接する。また、Taは熱膨張係数がSiOに近く、さらにSiOとの密着性も高い。そこで最上層をTaとすることでpn電極17A、17Bと保護膜18の密着性を高め、反射防止膜22形成時の熱負荷によって保護膜18の剥がれやクラックが生じてしまうことを抑制している。
【0038】
保護膜18は、素子上面全体を覆うように設けられている。すなわち、p電極15、n電極16、およびpn電極17A、17Bの側面と表面、半導体層(n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14)の表面と側面、素子分離溝26の側面、孔23の内部、に連続して設けられている。
【0039】
保護膜18は、内部応力の異なる2つの絶縁体(第1保護膜18A、第2保護膜18B)を順に積層させた構造である。ここでの内部応力は基板10水平方向である。内部応力が異なるとは、両方圧縮応力でその大きさが異なる場合、両方引張応力でその大きさが異なる場合、一方が圧縮応力で他方が引張応力の場合のいずれでもよい。保護膜18をこのように構成することで、保護膜18の内部応力を緩和し、反射防止膜22形成時の熱負荷による保護膜18の剥がれやクラックを抑制することができる。
【0040】
実施形態では、保護膜18は第1保護膜18A、第2保護膜18B)の2層の積層としているが、第1保護膜18A、第2保護膜18Bを交互に3層以上積層させてもよい。また、互いに内部応力の異なる3種以上の材料を用いてもよい。
【0041】
第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの内部応力の違いは、同一材料について成膜方法を変えることによって生じさせてもよいし、異なる材料とすることで内部応力を異ならせてもよい。同一材料とする場合は、たとえば、SiOをスパッタとCVDで成膜してもよい。この場合、スパッタで成膜したSiOの内部応力はたとえば110MPaの圧縮応力、CVDで成膜したSiOの内部応力はたとえば500MPaの圧縮応力とすることができ、内部応力の異なる2層とすることができる。成膜方法を変えるだけでよいため簡便に保護膜18を形成することができる。
【0042】
なお、スパッタで成膜した単層とすれば、スパッタとCVDで成膜した2層構造とする場合よりも内部応力を小さくできる。しかし、透湿してしまい、高湿度環境下での使用に問題が生じる。そこでスパッタとCVDで成膜した2層構造とすれば、保護膜の内部応力を緩和しつつ、防湿性も向上できる。
【0043】
また、異なる材料とする場合、たとえば第1保護膜18AをSiO、第2保護膜18BをTiOとすることで内部応力が異なるようにしてもよい。第2保護膜18BにはTiO以外にも、SiN、Al、SiON、Nbなどを用いることができる。異なる材料とすれば、引張応力が生じる材料と圧縮応力が生じる材料を選択して保護膜18の内部応力をより低減することができる。
【0044】
より具体的には、スパッタで成膜したSiOは内部応力が110MPaの圧縮応力、スパッタで成膜したTiOは内部応力が547MPaの圧縮応力または886MPaの引張応力とすることができ、内部応力が異なるようにできる。ここでTiOは熱処理によって内部応力が大きく変化し、加熱前は圧縮応力、加熱後は引張応力とすることができる。
【0045】
第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの厚さの比は、面内方向における内部応力がなるべく小さくなるようにすることが好ましい。第1保護膜18A、第2保護膜18Bの内部応力は、厚さ、成膜方法、成膜条件、成膜後の熱処理などによるため、それに応じて第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの厚さを設定する。第1保護膜18A、第2保護膜18Bの一方が圧縮応力、他方が引張応力である場合、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの厚さの比を調整して保護膜18の内部応力が0となるようにすることも可能である。第1保護膜18Aの厚さに対する第2保護膜18Bの厚さの比は、たとえば0.2~1である。
【0046】
第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間には、Alからなる反射膜19が設けられている。反射膜19は、後述の孔24、25が存在する領域を除いて全面的に設けられている。反射膜19によって基板10側に光を反射させ、光取り出し効率の向上を図っている。また、保護膜18に反射膜19を埋め込むことにより、保護膜18の放熱性を向上させるとともに、反射膜19のマイグレーションを防止している。
【0047】
反射膜19の材料はAlに限らず、発光波長における反射率の高い任意の材料でよい。Alを主とする合金でもよい。また、反射膜19は、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間ではなく、第1保護膜18A中や第2保護膜18B中に反射膜19を設けてもよい。反射膜19を複数設ける場合、平面パターンを変えてもよい。
【0048】
pパッド電極20およびnパッド電極21は、保護膜18上に離間して設けられている。pパッド電極20は、保護膜18に開けられた孔24を介してpn電極17Aと接続されている。また、nパッド電極21は、保護膜18に開けられた孔25を介して各pn電極17Bと接続されている。pパッド電極20およびnパッド電極21の材料は、たとえばTi/Pt/Au/AuSnである。
【0049】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンは、図2に示すように、素子の矩形パターンより少し内側となる矩形パターンに対し、その矩形の角部においてその矩形の辺に対して45°を成す直線Lに沿った幅Wの線状領域によって2分し、直角二等辺三角形のパターンとなる方をpパッド電極20、他方(矩形の角を落とした形状の五角形)をnパッド電極21とするものである。pパッド電極20の下部にはn電極16は位置しておらず、nパッド電極21の下部に全てのn電極16が位置し、nパッド電極21と接続されている。
【0050】
線状領域の角度は45°に限らないが、線状領域の面積を小さくしてpパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和をなるべく大きくするために、45°に近いことが好ましく、たとえば30~60°が好ましく、40~50°がより好ましい。
【0051】
また、線状領域の位置および幅Wは、pパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和が、発光面積(p電極15の面積)に対して90%以上となるように設定することが好ましい。もちろん、幅Wは、pパッド電極20とnパッド電極21間で短絡しないような幅とする。たとえば幅Wは100μm以上である。また、pパッド電極20は、サブマウント側と良好に接合できる大きさとする。サブマウントの電極パターンは、pパッド電極20、nパッド電極21の全面と接するパターンとするのがよい。放熱面積(pパッド電極20およびnパッド電極21のうちサブマウントの電極と接している領域の面積)を広くして放熱性を高めるためである。
【0052】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンを上記のようにすることで、pパッド電極20とnパッド電極21の面積の和を大きく取ることができ、放熱面積を広くすることができるので、発光素子の放熱性を高めることができる。特に、UVCの発光素子では基板10を厚くして光取り出し効率の向上を図る必要があり、放熱性が低下していたが、上記により放熱性が改善できるため、基板を厚くした場合でも十分な放熱性を確保できる。
【0053】
以上、実施形態における発光素子では、保護膜18を内部応力の異なる第1保護膜18A、第2保護膜18Bの積層構造としている。これにより、保護膜18の応力が緩和され、基板10裏面に反射防止膜22を形成する際の熱負荷による保護膜18の剥がれやクラックを防止することができる。また、pn電極17A、17Bの最上層をTaとしているため、反射防止膜22の形成時の熱負荷で保護膜18がpn電極17A、17Bから剥離してしまうことを抑制できる。
【0054】
2.発光素子の製造工程
実施形態における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0055】
まず、サファイアからなる基板10を用意する。そして、基板10上に、MOCVD法によってn層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14を順に形成する(図3参照)。
【0056】
次に、p層14の所定領域をドライエッチングし、n層11に達する深さの孔23を複数形成する(図4参照)。
【0057】
次に、p層14上にスパッタや蒸着によってp電極15を形成する(図5参照)。次に、孔23の底面に露出するn層11上にスパッタや蒸着によってV層、Al層、Ti層を順に積層してn電極16を形成する(図6参照)。p電極15よりも先にn電極16を形成してもよいが、なるべくp層14表面が清浄な状態でp電極15を形成したいため、実施形態ではp電極15を先に形成している。
【0058】
次に、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行う。雰囲気は、たとえば窒素などの不活性ガス雰囲気である。熱処理は減圧下で行うことが好ましく、たとえば1×10~1×10Paである。熱処理温度は好ましくは500~600℃である。
【0059】
この熱処理は、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16の低コンタクト抵抗化とを兼ねている。
【0060】
実施形態では、n電極16としてV/Al/Tiを用いることで熱処理温度を低減し、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16のコンタクト抵抗の低減とを共通化して同時に行うことで熱処理回数を減らしている。熱処理温度の低温化と熱処理回数減少の結果、発光素子の電気特性の劣化を抑制できる。
【0061】
ここで、n電極16は、上記熱処理によって次のような構造に変化する。n電極16であるV/Al/TiのうちVはAl中に拡散していき、n層11やTiには拡散しない。この拡散の結果、V層は消失する。また、V/Al/Ti中のAlは、n層11中のNと反応し、n層11とAl層の界面にはAlNが形成される。Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような作用をしていると考えられる。この熱処理の結果、n電極16の構造は、AlNからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層との3層構造に変化する。
【0062】
n電極16がこのような構造に変化することにより、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗が低減する。その理由はすでに述べたとおりである。すなわち、第1に、AlNからなる層がn層11に対して良好なコンタクト層として機能していると考えられること、第2に、AlNの形成によりn層11に窒素空孔が生じたことでn層11のn型化がより促進したと考えられることである。
【0063】
次に、p電極15上およびn電極16上に、スパッタや蒸着によってpn電極17A、17Bをそれぞれ形成する(図7参照)。ここで、pn電極17A、17Bは多層であり、最上層はTa層である。
【0064】
次に、素子分離溝26を形成する。素子分離溝26は基板10が露出する深さである。次に、素子上面全体を覆うSiOからなる第1保護膜18Aを形成する(図8参照)。第1保護膜18Aの成膜はCVD、スパッタ、蒸着、ALDなどである。膜の緻密性からスパッタ、CVD、ALDが好ましい。
【0065】
次に、第1保護膜18A上であって、後に孔24、25を形成する領域を除く領域に、Alからなる反射膜19を形成する(図9参照)。反射膜19の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはウェットエッチングである。
【0066】
次に、第1保護膜18A上および反射膜19上に第2保護膜18Bを形成する。第2保護膜18Bの成膜はCVD、スパッタ、蒸着、ALDなどである。膜の緻密性からスパッタ、CVD、ALDが好ましい。これにより第1保護膜18A、第2保護膜18Bを順に積層させた保護膜18を形成する(図10参照)。
【0067】
ここで、第2保護膜18Bは、第1保護膜18Aとは内部応力が異なるようにする。具体的には、同一材料で成膜方法を異ならせるか、異なる材料を用いる。同一材料の場合、たとえば、第1保護膜18AはCVDにより形成したSiO、第2保護膜18Bはスパッタにより形成したSiOである。異なる材料の場合、たとえば第1保護膜18AはSiO、第2保護膜18BはTiOである。このように、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bとで内部応力を異ならせることで、保護膜18全体としては内部応力を緩和させることができる。
【0068】
なお、素子分離溝26の底面には保護膜18を形成せず、素子ごとに保護膜18が分離していることが好ましい。素子ごとに分割する際、保護膜18に力が加わったり、保護膜18の内部応力に変動が生じたりしないようにするためである。
【0069】
次に、保護膜18の所定領域をドライエッチングしてpn電極17A、17Bに達する孔24、孔25を形成する。そして、保護膜18上にpパッド電極20、nパッド電極21をそれぞれ形成し、pパッド電極20は孔24を介してpn電極17Aと接続し、nパッド電極21は孔25を介してpn電極17Bと接続するようにする。pパッド電極20、nパッド電極21のパターンは図2に示す通りである。pパッド電極20、nパッド電極21の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはリフトオフである。
【0070】
次に、基板10の裏面を研磨して基板10を所定の厚さまで薄くし、その後、基板10の裏面に反射防止膜22を形成する。反射防止膜22の形成の際、たとえば200~250℃、2~3時間の熱負荷がかかる。保護膜18をSiOの単層としていた従来では、反射防止膜22の形成の際に保護膜18に熱応力がかかり、保護膜18が剥離したり、クラックが生じたりしていた。しかし、実施形態における発光素子では保護膜18として内部応力の異なる第1保護膜18A、第2保護膜18Bの積層構造としているため、保護膜18の内部応力が緩和しており、反射防止膜22の形成時の熱負荷による保護膜18の剥離やクラックを防止することができる。
【0071】
次に基板10を個々の素子に分割する。以上によって図1に示す実施形態における発光素子が製造される。
【0072】
3.実験結果
実施形態に係る各種実験結果について説明する。
【0073】
実験例1
サファイアからなる基板上にSiOを成膜し、その内部応力を測定した。内部応力は基板に水平方向の内部応力である。CVDにより成膜した場合は、SiOに500MPaの圧縮応力が発生していた。また、スパッタにより成膜した場合は、SiOに110MPaの圧縮応力が発生していた。このように、成膜方法によって同一材料でも内部応力が異なることが分かった。
【0074】
実験例2
実施形態における発光素子において、保護膜18を次のように構成して複数の発光素子を作製した。保護膜18は、CVDにより形成したSiO、スパッタにより形成したSiO、CVDにより形成したSiOの3層構造とし、各層の厚さは320nmとした。そして、各発光素子を550℃、4分間加熱した。その後、各発光素子の逆電流を測定したところ、いずれの発光素子も逆電流が0.1μA以下であり、リーク不良の素子は発生しなかった。
【0075】
実験例3
実施形態における発光素子において、保護膜18を次のように構成して複数の発光素子を作製した。保護膜18は、CVDにより形成したSiOとスパッタにより形成したSiOを交互に5層積層させた構造とし、最初の層と最後の層はCVDにより形成し、各層の厚さは320nmとした。そして、実験例2と同様に加熱して逆電流を測定した。その結果、いずれの発光素子も逆電流が0.1μA以下であり、リーク不良の素子は発生しなかった。
【0076】
実験例4
実施形態における発光素子の保護膜18を、CVDにより形成したSiOからなる厚さ1μmの単層に替え、複数の発光素子を作製した。そして、実験例2と同様に加熱して逆電流を測定した。その結果、逆電流が0.1μAを超える発光素子が発生し、リーク不良の素子が発生してしまうことが分かった。
【0077】
実験例1~4の結果、保護膜18を内部応力の異なる複数の層で構成することにより、保護膜18の内部応力を緩和することができ、反射防止膜22の形成時の熱負荷による保護膜18の剥離やクラックが防止できることが分かった。
【0078】
実験例5
発光素子の電極パターンとサブマウントの電極パターンを種々に変更して放熱面積を変更し、放熱性を評価した。放熱性は以下のようにして評価した。発光素子をAlNからなるサブマウントに実装し、さらにそのサブマウントを実装基板に配置し、発光素子のサブマウント側の面の温度をTj、実装基板の発光素子側の面の温度をTs、TjとTsの差をΔTとして、ΔTにより放熱性を評価した。ΔTが小さいほど放熱性が高いと評価できる。
【0079】
図11は、放熱面積とΔTの関係について示したグラフである。図11のように、放熱面積とΔTは直線的に対応し、放熱面積が広くなるほどΔTは減少することが分かり、放熱面積が0.4mm広くなるとおよそΔTが5℃下がることが分かった。したがって、実施形態における発光素子の電極パターンとすれば、放熱面積を広くして放熱性を高めることができることが分かった。
【0080】
実験例6
実施形態における発光素子と、実施形態における発光素子から反射膜19を省いた発光素子を作製し、放熱性を評価した。放熱性は実験例5と同様にして評価した。放熱面積は0.84mmとした。
【0081】
ΔTを測定した結果、保護膜18中に反射膜19を有した発光素子では、ΔTは15℃であった。一方、反射膜19を省いた発光素子では、ΔTは17℃であった。このように、保護膜18中に反射膜19を設けることでΔTは2℃下がっており、放熱性が向上することが分かった。
【符号の説明】
【0082】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:電子ブロック層
14:p層
15:p電極
16:n電極
17A、17B:pn電極
18:保護膜
18A:第1保護膜
18B:第2保護膜
19:反射膜
20:pパッド電極
21:nパッド電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11