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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115634
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】中和処理装置及び中和処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/66 20230101AFI20240820BHJP
【FI】
C02F1/66 522B
C02F1/66 510R
C02F1/66 530C
C02F1/66 530P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021362
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
(72)【発明者】
【氏名】スゲン ワヒュデイ
(57)【要約】
【課題】炭酸ガスの添加量を抑制することのできる中和処理装置を提供する。
【解決手段】中和処理装置1は、排水を貯留する貯留部2と、貯留部2に貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送するポンプ3と、管路71~73内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部4と、を備えている。この炭酸ガス添加部4は、炭酸ガスCOが充填されたガスボンベ41と、ガスボンベ41に接続されて炭酸ガスCOのナノバブルを作る微細孔式ナノバブル発生装置40と、を備えることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を貯留する貯留部と、
前記貯留部に貯留された排水を連続的に管路へ搬送するポンプと、
前記管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部と、を備える、中和処理装置。
【請求項2】
前記炭酸ガス添加部は、炭酸ガスが充填されたガスボンベと、前記ガスボンベに接続されて炭酸ガスのナノバブルを作る微細孔式ナノバブル発生装置と、を備える、請求項1に記載された中和処理装置。
【請求項3】
前記微細孔式ナノバブル発生装置は、炭酸ガスの直径50μm以下の泡を作ることによって、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるようになっている、請求項2に記載された中和処理装置。
【請求項4】
炭酸ガスのナノバブルを、前記管路内の排水流量に対して0.2%以下の流量で添加するようにされている、請求項3に記載された中和処理装置。
【請求項5】
複数の前記微細孔式ナノバブル発生装置が、直列に連結されて多段構成とされている、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された中和処理装置。
【請求項6】
排水を貯留する工程と、
貯留された排水を連続的に管路へ搬送する工程と、
前記管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加する工程と、を備える、中和処理方法。
【請求項7】
前記ナノバブルを添加する工程は、炭酸ガスの直径50μm以下の泡を作ることによって、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるようになっている、請求項6に記載された中和処理方法。
【請求項8】
前記ナノバブルを添加する工程は、炭酸ガスのナノバブルを、前記管路内の排水流量に対して0.2%以下の流量で添加するようにされている、請求項7に記載された中和処理方法。
【請求項9】
前記ナノバブルを添加する工程は、1サイクルで複数回実行されるようになっている、請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載された中和処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事現場、建設工事現場、工場等で発生するアルカリ性の濁水や排水(廃水)に炭酸ガスを混入する中和処理装置及び中和処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事等におけるセメント系排水の処理は、硫酸もしくは炭酸ガスによる中和処理が行われてきた。このうち硫酸を用いた中和処理は、少量の添加で、安価に中和処理ができるという利点がある一方、硫酸は劇物に該当していることから取扱いに注意が必要であり、また添加量の調整がシビアであり、過添加で pH が下がりすぎてしまう、という問題があった。
【0003】
一方、炭酸ガスを用いた中和処理は、仮に過添加となったとしても pH が 5 以下に下がることはなく、また屋外で使用する分には安全性が高く、取扱いが容易であるという利点がある。例えば、特許文献1には、中和処理装置と、凝集剤タンクと、凝集剤自動補給装置と、螺旋式ラインミキサを有する凝集装置と、を備える濁水処理装置が開示されている。この特許文献1の構成によれば、装置のコンパクト化と効率との両立を達成することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-239619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の濁水処理装置を含む従来型の炭酸ガスを用いた中和処理装置は、硫酸と比べると多くの添加が必要で、コストが高いうえ、特に pH が12 を超えるような排水の場合、 pH を下げるのが困難になる、という問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、炭酸ガスの添加量を抑制することのできる、中和処理装置及び中和処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の中和処理装置は、排水を貯留する貯留部と、前記貯留部に貯留された排水を連続的に管路へ搬送するポンプと、前記管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部と、を備えている。
【0008】
また、本発明の中和処理方法は、排水を貯留する工程と、貯留された排水を連続的に管路へ搬送する工程と、前記管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の中和処理装置は、排水を貯留する貯留部と、貯留部に貯留された排水を連続的に管路へ搬送するポンプと、管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部と、を備えている。このような各要素を備える中和処理装置であれば、ナノバブルが長時間水中に留まる作用によって、従来よりも炭酸ガスの添加量を抑制することができる。つまり、一般に、水に炭酸ガスを入れると、炭酸ガスは、単純に水に溶けるもの(溶存CO)と、水と反応して炭酸(HCO)となるものと、の2つの形態で水中に留まる。しかしながら、これらのCOが水に溶ける量や炭酸となる量には限界がある。ナノバブルとして炭酸ガスを加えることで、これら2つの形態に加えて、ナノバブルとしてCOが水中に留まるため、より多くのCOを水中に入れることができるようになるのである。
【0010】
また、本発明の中和処理方法は、排水を貯留する工程と、貯留された排水を連続的に管路へ搬送する工程と、管路内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加する工程と、を備えている。このような各工程を備える中和処理方法であれば、ナノバブルが長時間水中に留まる作用によって、従来よりも炭酸ガスの添加量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の中和処理装置の全体構成を説明する説明図である。
図2】炭酸ガスの添加部の構成を説明する説明図である。(a)は微細孔式ナノバブル発生装置であり、(b)はミリバブル発生装置である。
図3】実施例1の水酸化カルシウムを使用した模擬排水の実験結果のグラフである。
図4】実施例1のセメントを使用した模擬排水の実験結果のグラフである。
図5】実施例1の実験結果をまとめた表である。
図6】実施例2の模擬排水の実験結果(pH)のグラフである。(a)はミリバブルを添加した結果であり、(b)はナノバブルを添加した結果であり、(c)はCO補正流量-処理時間のグラフである。
図7】実施例2の模擬排水の実験結果(OH減少量)のグラフである。(a)はミリバブルを添加した結果であり、(b)はナノバブルを添加した結果であり、(c)はCO補正流量-OH減少率のグラフである。
図8】実施例2の実験結果をまとめた表である。
図9】実施例3の中和処理装置の全体構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。実施例1で実験1について説明し、実施例2で実験2について説明し、実施例3で別形態について説明する。
【実施例0013】
本実施例の中和処理装置(1)は、土木現場や建築現場において、いわゆる濁水処理システムの一部として機能させることのできるものである。実際の現場では、例えば、機械処理脱水方式の濁水処理システムでは、中和処理装置(1)は、PAC貯留槽、高分子溶解槽、反応槽、スラリー槽、フィルタープレスなどの設備とともに使用される。
【0014】
(構成・実験条件)
実施例1では、本発明の中和処理装置1の効果を確認するために実施した室内試験について説明する。はじめに、図1を用いて、実施例1の中和処理装置1の全体構成を説明する。中和処理装置1は、図1に示すように、排水(廃水;濁水)を貯留する貯留部2と、貯留部2に貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送するポンプ3と、管路71~73内の排水に炭酸ガス(CO)のナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部4と、を備えている。
【0015】
貯留部2は、濁水処理システムでは、例えば原水槽とすることができ、排水(濁水)を受容する水槽である。本実施例では、貯留部2として、25Lの模擬アルカリ性排水を貯留することができる、内容積40L程度のバケツを用いた。貯留部2内の排水には、pH計64が挿入されており、貯留された排水のpHを計測できるようになっている。
【0016】
ポンプ3は、ポンプ流量30L/minのポンプである。ポンプ3は、貯留部2に貯留された排水が炭酸ガス添加部4を介して循環するように配置される。すなわち、貯留部2に接続された管路71、ポンプ3、管路72、炭酸ガス添加部4、管路73、貯留部2の順に排水が還流する。
【0017】
そして、本実施例のナノバブルを添加する炭酸ガス添加部4は、炭酸ガスが充填されたガスボンベ41と、微細孔式ナノバブル発生装置40と、から構成されている。微細孔式ナノバブル発生装置40は、図2(a)に示すように、入口40aと、入口40aに直交する出口40bと、出口40b方向に延びる円筒部内に設置される特殊セラミック40cと、から構成されている。特殊セラミック40cには、表面に無数の微細な孔が形成されており、この孔を炭酸ガスCOが通過するようになっている。
【0018】
ガスボンベ41に充填された炭酸ガスCOは、圧力計62を見ながらレギュレータバルブ61で圧力を調整(減圧)されて炭酸ガス添加部4に圧送される。炭酸ガスCO2の流量は、炭酸ガス添加部4の手前に配置されたフロート式の流量計63で計測される。
【0019】
ここにおいて、本実施例では炭酸ガス添加部4の構成として、微細孔式ナノバブル発生装置40を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、旋回流式、エゼクター式、ベンチュリ式、混合蒸気直接接触凝集式、超音波振動式なども使用することができる。もちろん、連続的にナノバブルを発生できる点、他の動力・薬品が特に必要ない点などを考慮すると、微細孔式ナノバブル発生装置40を使用することが好ましい。
【0020】
本実験において、微細孔式ナノバブル発生装置40としては、具体的には、株式会社安斉管鉄製の小型のもの(通過水量5~30L/min)を用いた。この微細孔式ナノバブル発生装置40は、50μm以下の泡を連続的に大量に安定して作ることができる。
【0021】
そして、生成された50μm以下の泡は、自らの表面張力作用により自己縮小し、1分ほどで自己圧壊して、50~300nmの泡となる。縮小圧壊したナノバブルは、密度が高く、マイナスの電荷の作用でお互いにぶつかって大きくなる可能性が低いため、水面へ上昇することなく、長時間水中に漂うことができる。
【0022】
一方、比較例のミリバブル発生装置40Mは、図2(b)に示すように、入口40aと、入口40aに直交する出口40bと、出口40b方向に延びる円筒部内の基端部に出口40bに正対する向きに設置される細いノズル40dと、から構成されている。なお、ここでは従来の炭酸ガス中和装置の添加方法によってできる気泡を便宜上「ミリバブル」と記載している。実際には、ミリバブルに加えてマイクロバブルなども含まれる可能性がある。
【0023】
実験では、水酸化カルシウム又はセメントを使用して、25Lの模擬アルカリ性排水(それぞれpH11、pH12)を作製した。そして、模擬アルカリ性排水のpHが本装置によってpH=8以下となるまでの時間を計測した。なお、実際の水質基準は、pH=8.6とされることが多い。
【0024】
(実験結果)
実験結果は、図3図5に示す通りである。水酸化カルシウムを使用して作製したpH=11程度の模擬排水と、セメントを使用して作製したpH=12程度の模擬排水に対し、炭酸ガスを0.05L/minの流量で添加した試験の結果である。
【0025】
図3に示すように、水酸化カルシウムを用いた試験では、試験開始後すぐにpHが減少し始めており、ナノバブルでは約5分でpH=8まで下がった。ミリバブルも同様の傾向だが、減少勾配が緩やかであり、約17分でpH=8まで下がった。
【0026】
他方、図4に示すように、セメントを用いた試験では、試験開始後10分程度は横ばいだが、その後はpHが減少し始めており、ナノバブルでは約17分でpH=8まで下がった。ミリバブルでも同様の傾向だが、横ばいの時間が長くなっており、約32分でpH=8まで下がった。なお、セメントを用いた試験の方が、水酸化カルシウムを用いた試験よりも処理時間が長いのは、実験開始時点の pH が、11(水酸化カルシウム模擬排水)と12(セメント模擬排水)と異なっていたことが原因である。
【0027】
したがって、図5にまとめたように、試験の結果、いずれもミリバブルに比べてナノバブルの方がpH=8以下になるまでの時間が短くなった。すなわち、本実施例の中和処理装置1を使用すれば、少ない炭酸ガス添加量で中和処理が可能となることが確認された。
【実施例0028】
以下、図6図8を用いて、実施例1で説明した実験1とは別の実験2について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0029】
(構成・実験条件)
実施例2では、本発明の中和処理装置1の最適な炭酸ガスの添加量を推定するために実施した室内試験について説明する。全体構成は、実施例1の中和処理装置1の全体構成と同様である。すなわち、中和処理装置1は、図1に示すように、排水(廃水;濁水)を貯留する貯留部2と、貯留部2に貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送するポンプ3と、管路71~73内の排水に炭酸ガス(CO)のナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部4(微細孔式ナノバブル発生装置40を有する)と、を備えている。
【0030】
実験では、水酸化カルシウムを使用して、25Lの模擬アルカリ性排水(pH11.07~11.13)を作製した。そして、炭酸ガスを添加しながら、模擬アルカリ性排水のpHの変化を計測した。そして、炭酸ガスの流量を、0.01~0.1L/minで変化させて(各ケースでは流量は一定に保持している)、最適な流量を推定した。
【0031】
なお、使用した流量計は気体の密度、圧力で表示値が変わるため、流量計の表示値を「設定流量」と記載し、CO密度と試験時に測定した圧力を用いて補正した流量を「補正流量」と記載した。初期のpHは試験ケース毎に異なるため、試験を開始して、pHが11.0となった時点から、pHが8.0になるまでの時間を「処理時間」とした。そして、pHの低下を水酸化物イオンOHの減少と考えて、その開始直後(1分程度まで)の減少勾配を「OH減少率」とした。
【0032】
(実験結果)
実験結果は、図6図8に示す通りである。水酸化カルシウムを使用して作製したpH=11程度の模擬アルカリ性排水に対し、炭酸ガスの流量を0.01~0.10L/minの範囲で固定して、それぞれ添加し続けた試験の結果である。
【0033】
まず図6(a)~(c)を用いて、pH値に基づいて結果を確認する。従来型のミリバブルを用いた場合、図6(a)に示すように、炭酸ガスCOの流量が0.01、0.03、0.05L/minのときは、PH=8まで下がるのにそれぞれ50分弱、20分弱、11分弱を要している。一方、ナノバブルを用いた場合、図6(b)に示すように、炭酸ガスCOの流量が0.01、0.03、0.05L/minのときは、PH=8まで下がるのにそれぞれ26分弱、13分弱、8分弱を要している。
【0034】
したがって、図6(c)に示すように、ミリバブルとナノバブルを処理時間の点で比べると、炭酸ガスCOの流量が0.06L/min以下のときは、大きく時間短縮されている。これを排水流量(30L/min)でみれば、排水流量に対して概ね0.2%以下のときは、時間短縮されていることになる。このように添加する時間が短縮されれば、すなわち、添加量の抑制となり、費用も削減される。
【0035】
なお、炭酸ガスCOの流量が0.06L/minを超えるときは、ミリバブルとナノバブルで処理時間に大きな差はない。これは、炭酸ガスCOの流量が増えれば、ミリバブルでも中和に必要な量が飽和しており、ナノバブルにする必要がないためであると考えられる。
【0036】
次に、図7(a)~(c)を用いて、OH減少量に基づいて結果を確認する。従来型のミリバブルを用いた場合、図7(a)に示すように、開始後10分間では、流量が0.01、0.03L/minと少ないときはOH減少量は時間経過にしたがって直線的に増加するが、流量が多いときはOH-減少量は開始直後の立ち上がりはよいが、その後は横ばいとなる。同様に、ナノバブルを用いた場合、図7(b)に示すように、開始後10分間では、流量が0.01、0.03L/minと少ないときはOH減少量は時間経過にしたがって上に凸で増加するが、流量が多いときはOH-減少量は開始直後の立ち上がりはよいが、その後は横ばいとなる。
【0037】
したがって、図7(c)、図8に示すように、ミリバブルとナノバブルをOH減少率の点で比べると、CO補正流量の全範囲において、ナノバブルの方がミリバブルと比べて、OH減少率が大きくなっている。すなわち、開始直後の pH が高い領域においては、ナノバブルの方がミリバブルよりも水酸化物イオンを中和する能力が高いと考えられる。
【0038】
なお、この他の構成および作用効果については、実施例1と略同様であるため説明を省略する。
【実施例0039】
最後に、図9を用いて、実施例1、2とは異なる構成の中和処理装置1Aについて説明する。なお、実施例1、2で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0040】
この中和処理装置1Aは、図9に示すように、排水(廃水;濁水)を貯留する貯留部2と、貯留部2に貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送するポンプ3と、管路71~73内の排水に炭酸ガス(CO)のナノバブルを添加できる炭酸ガス添加部4としての3つの微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40を備えている。
【0041】
すなわち、本実施例の中和処理装置1Aは、3つの微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40が、直列に連結されて多段構成とされている。具体的に言うと、第1の微細孔式ナノバブル発生装置40の出口40bに第2の微細孔式ナノバブル発生装置40の入口40aが接続されている。そして、第2の微細孔式ナノバブル発生装置40の出口40bに第3の微細孔式ナノバブル発生装置40の入口40aが接続されている。したがって、貯留部2からポンプ3によって引き上げられた排水は、3つの微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40を通過して戻ることになる。
【0042】
このように複数(3つ)の微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40を直列に備えることで、排水に対して3倍のナノバブルを添加することができる。したがって、本実施例の中和処理装置1Aは、実施例1の中和処理装置1と比べて、約3倍の中和処理の能力を有している。
【0043】
なお、この実施例では、微細孔式ナノバブル発生装置40を3つ直列に連結させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、微細孔式ナノバブル発生装置40は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0044】
(作用・効果)
次に、実施例1~3で説明した中和処理装置1、1Aの奏する作用・効果を列挙して説明する。
【0045】
(1)上述してきたように、実施例1~3の中和処理装置1は、排水を貯留する貯留部2と、貯留部2に貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送するポンプ3と、管路71~73内の排水に炭酸ガスのナノバブルを添加することのできる炭酸ガス添加部4と、を備えている。このような各要素を備える中和処理装置1であれば、ナノバブルが長時間水中に留まる作用によって、従来よりも炭酸ガスCOの添加量を抑制することができる。つまり、一般に、水に炭酸ガスを入れると、炭酸ガスは、単純に水に溶けるもの(溶存CO)と、水と反応して炭酸(HCO)となるものと、の2つの形態で水中に留まる。しかしながら、これらのCOが水に溶ける量や炭酸となる量には限界がある。ナノバブルとして炭酸ガスを加えることで、これら2つの形態に加えて、ナノバブルとしてCOが水中に留まるため、より多くのCOを水中に入れることができるようになるのである。
【0046】
つまり、本発明は、炭酸ガスナノバブルを用いて中和処理を行うことを特長としている。既存の炭酸ガスによる中和処理では、炭酸ガス全てが中和処理のために消費されるわけではなく、排水内の水酸化カルシウムと反応する前に、大気中に放出される分も多い。
【0047】
これに対し、炭酸ガスをナノバブルとしてセメント系排水に添加すると、ナノバブルは長時間水中に留まることができることから、水酸化カルシウムとの反応前に大気中に放出される炭酸ガスを低減することができ、処理に要する炭酸ガスの全体量を減らすことができる。
【0048】
(2)また、炭酸ガス添加部4は、炭酸ガスCOが充填されたガスボンベ41と、ガスボンベ41に接続されて炭酸ガスCOのナノバブルを作る微細孔式ナノバブル発生装置40と、を備えることが好ましい。このような簡易な構成であれば、他に動力が必要ないうえ、連続的に中和処理が可能となる。メンテナンスも容易である。
【0049】
(3)さらに、微細孔式ナノバブル発生装置40は、炭酸ガスCOの直径50μm以下の泡を作ることによって、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるようになっていることが好ましい。このように炭酸ガスCOの直径50μm以下の泡を作れば、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるため、効率よくナノバブルを作成できる。
【0050】
(4)また、炭酸ガスCOのナノバブルは、管路71~73内の排水流量に対して0.2%以下の流量で添加するようにされていることが好ましい。この範囲のCO添加量であれば、最も効率よく中和処理できる。すなわち、これ以上ナノバブルの添加率を増加させても、ミリバブルとの処理時間(必要な量)の差が小さくなる。
【0051】
(5)さらに、複数の微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40が、直列に連結されて多段構成とされていることが好ましい。このように複数(3つ)の微細孔式ナノバブル発生装置40、40、40を直列に備えることで、排水に対してより多く(3倍)のナノバブルを添加することができる。
【0052】
(6)また、本発明の中和処理方法は、排水を貯留する工程と、貯留された排水を連続的に管路71~73へ搬送する工程と、管路71~73内の排水に炭酸ガスCOのナノバブルを添加する工程と、を備えている。このような各工程を備える中和処理方法であれば、ナノバブルが長時間水中に留まる作用によって、従来よりも炭酸ガスCOの添加量を抑制することができる。
【0053】
(7)さらに、ナノバブルを添加する工程は、炭酸ガスの直径50μm以下の泡を作ることによって、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるようになっていることが好ましい。このように炭酸ガスCOの直径50μm以下の泡を作れば、自己圧壊作用により炭酸ガスの直径50~300nmの泡が生成されるため、効率よくナノバブルを作成できる。
【0054】
(8)また、ナノバブルを添加する工程は、炭酸ガスのナノバブルを、管路71~73内の排水流量に対して0.2%以下の流量で添加するようにされていることが好ましい。この範囲のCO添加量であれば、最も効率よく中和処理できる。すなわち、これ以上ナノバブルの添加率を増加させても、ミリバブルとの処理時間(必要な量)の差が小さくなる。
【0055】
(9)さらに、ナノバブルを添加する工程は、1サイクルで複数回実行されるようになっていることが好ましい。このように1サイクルで複数回(3回)のナノバブル添加工程を備えることで、排水に対してより多く(3倍)のナノバブルを添加することができる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば、実施例では、ガスボンベ41とレギュレータバルブ61を用いて炭酸ガスを提供する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ガスボンベではなく、コンプレッサーを用いて、タンクに貯留された炭酸ガスを圧送するように構成することもできる。
【0058】
また、実施例では特に説明しなかったが、炭酸ガスCOによる中和処理の前工程として、硫酸による前処理を実施することも可能である。さらに、実施例では、特に説明しなかったが、微細孔式ナノバブル発生装置40の特殊セラミック40cの表面のスケールを除去するために定期的に清掃(フラッシング)を実施することも好ましい。
【符号の説明】
【0059】
1、1A 中和処理装置
2 貯留部
3 ポンプ
4 炭酸ガス添加部
40 微細孔式ナノバブル発生装置
40a 入口
40b 出口
40c 特殊セラミック
40M ミリバブル発生装置
40d ノズル
41 ガスボンベ
61 レギュレータバルブ
62 圧力計
63 流量計
64 pH系
71~73 管路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9