IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図1
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図2
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図3
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図4
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図5
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図6
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図7
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図8
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図9
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図10
  • 特開-印刷装置、及び印刷方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115642
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】印刷装置、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 209
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021377
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粟野原 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄貴
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EB13
2C056EB36
2C056EC37
2C056EC42
2C056EC77
2C056FA13
2C056HA29
(57)【要約】
【課題】インクの着弾位置のずれを抑制できるようにする。
【解決手段】支持部は印刷媒体の搬送方向に配置された複数の吸引孔を介して印刷媒体を吸引し、ライン型印刷ヘッドは、搬送部によって支持部上を移動している印刷媒体に対してインクを吐出し、吐出タイミング制御部は、印刷媒体の搬送方向における先端が、支持部の第1領域に位置するときの吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、先端が、第1領域よりも搬送方向において下流に位置する支持部の第2領域に位置するときの吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、第1吐出タイミングが第2吐出タイミングよりも早くなるように吐出タイミングを制御する、印刷装置。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送する搬送部と、
複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、
前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、
前記ライン型印刷ヘッドから吐出されるインクの吐出タイミングを制御する吐出タイミング制御部と、
を備え、
前記吐出タイミング制御部は、
前記印刷媒体の搬送方向における先端が、前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、
前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、
前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、
印刷装置。
【請求項2】
前記吐出タイミング制御部は、前記先端が前記搬送方向において前記支持部より下流に位置した場合、第3吐出タイミングに固定するように前記吐出タイミングを制御し、
前記第3吐出タイミングは、前記第2吐出タイミングよりも遅い、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記吐出タイミング制御部は、前記ライン型印刷ヘッドに対して、前記吐出タイミングを指示する基準吐出信号を供給し、
前記吐出タイミング制御部は、前記第1吐出タイミングと、前記第2吐出タイミングと、前記第3吐出タイミングのいずれかについては前記ライン型印刷ヘッドに前記基準吐出信号を供給し、前記基準吐出信号を供給しない他の前記吐出タイミングについては前記基準吐出信号を補正した補正信号を供給する、
請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記吐出タイミング制御部は、前記先端が前記第1領域から前記第2領域へと進む間に、段階的に前記吐出タイミングを変化させる、
請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記先端が前記第1領域にある時に前記印刷媒体によって覆われる前記吸引孔の開口面積の合計は、前記先端が前記第2領域にある時に前記印刷媒体によって覆われる前記吸引孔の開口面積の合計よりも小さい、
請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記印刷媒体は、連続して印刷される複数の単票紙であり、
前記先端は、前記複数の単票紙の内、最初に印刷される単票紙の先端であり、
前記吐出タイミング制御部は、前記複数の単票紙の内、2枚目以降の単票紙に対して、前記第3吐出タイミングでインクを吐出する、
請求項2に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記搬送方向において前記支持部よりも上流に配置され、前記先端を検出する先端検出部と、
前記印刷媒体の搬送量を計測可能な搬送量計測部と、
を有し、
前記吐出タイミング制御部は、前記先端検出部の検出結果と前記搬送量計測部の計測結果に基づいて、前記支持部における前記先端の位置を推定し、推定した前記先端の位置に応じて前記吐出タイミングを制御する、
請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記支持部における前記先端の位置と、前記支持部における前記先端の位置に応じた前記吐出タイミングとの関係を規定したテーブルを記憶した記憶部を備え、
前記吐出タイミング制御部は、推定した前記支持部における前記先端の位置と前記テーブルとに基づいて、前記吐出タイミングを決定する、
請求項7に記載の印刷装置。
【請求項9】
印刷媒体を搬送する搬送部と、
複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、
前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、を備えた印刷装置による印刷方法であって、
前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引する吸引ステップと、
前記ライン型印刷ヘッドが前記印刷媒体に対してインクを吐出する吐出ステップと、
前記ライン型印刷ヘッドからインクを吐出する吐出タイミングを制御するタイミング制御ステップと、を含み、
前記タイミング制御ステップは、
前記印刷媒体の搬送方向における先端が前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、
前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、
前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、
印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷装置、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷媒体がプラテンから浮いてしまう紙浮きを抑制する技術が知られている。例えば、特許文献1は、印刷ヘッド間にギザローラーを配置して印刷面をギザローラーで押さえることで紙浮きを抑制する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-193561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の手法は、物理的に印刷面を押さえるため、印刷後に印刷面にローラーの痕が生じる。そのため、従来から、印刷媒体を吸引プラテンによって吸引することでギザローラーを使用せずに紙浮きを抑制する構成が提案されている。しかしながら、印刷媒体の先端が印刷媒体の搬送方向において吸引プラテンの下流に位置するまでは、印刷媒体の先端の位置に応じて、吸引プラテンを覆う印刷媒体の面積が変化する。そのため、印刷媒体の先端が印刷媒体の搬送方向において吸引プラテンの下流に位置するまでは、吸引プラテンの吸引による抵抗が変化して印刷媒体の搬送速度が変わり、インクの着弾位置にずれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する一態様は、印刷媒体を搬送する搬送部と、複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、前記ライン型印刷ヘッドから吐出されるインクの吐出タイミングを制御する吐出タイミング制御部と、を備え、前記吐出タイミング制御部は、前記印刷媒体の搬送方向における先端が、前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、印刷装置である。
【0006】
上記課題を解決する別の一態様は、印刷媒体を搬送する搬送部と、複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、を備えた印刷装置による印刷方法であって、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引する吸引ステップと、前記ライン型印刷ヘッドが前記印刷媒体に対してインクを吐出する吐出ステップと、前記ライン型印刷ヘッドからインクを吐出する吐出タイミングを制御するタイミング制御ステップと、を含み、前記タイミング制御ステップは、前記印刷媒体の搬送方向における先端が前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、印刷方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】印刷装置の内部を模式的に示す上面図。
図2】印刷装置の側面図。
図3】印刷装置のブロック図。
図4】印刷媒体の先端が第1領域にある場合を示す模式図。
図5】印刷媒体の先端が第2領域にある場合を示す模式図。
図6】印刷媒体の先端が支持部を通過した場合を示す模式図。
図7】累積搬送量とインク着弾ずれの関係を示す模式図。
図8】印刷装置の動作を説明するフローチャート。
図9】複数の単票紙を連続して印刷する場合の模式図。
図10】複数の単票紙を連続して印刷する場合の模式図。
図11】複数の単票紙を連続して印刷する場合の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1.第1の実施形態]
以下、図面を参照しながら、第1の実施形態に係る印刷装置1について説明する。
【0009】
[1-1.印刷装置の全体構成]
図1は、第1の実施形態に係る印刷装置1の内部を模式的に示す上面図である。
図1に示す印刷装置1は、支持部5の上に載置された印刷媒体20に対してインクを吐出して印刷を行う装置である。印刷媒体20は台紙にラベルが配されたラベル紙である。
【0010】
図1には、X軸、Y軸、及びZ軸を示す。X軸、Y軸、及びZ軸は互いに直交する。Z軸は、上下方向に延びる軸であり、鉛直方向に延びる軸ということもできる。X軸、及び、Y軸は、水平面に平行である。以下の説明において、X軸に沿った方向を左右方向とし、Y軸に沿った方向を前後方向とする。
【0011】
印刷装置1は、印刷媒体20を支持する支持部5を有する。支持部5は、前後方向および左右方向に移動しない台である。支持部5は、平坦な上面に印刷媒体20を支持する。
支持部5の上面には、吸引することで印刷媒体20を吸着させる複数の吸引孔10がマトリクス状に設けられている。支持部5は、一般に吸引プラテンとも呼ばれる。
【0012】
印刷装置1は、印刷媒体20を搬送するための搬送部15を有する。搬送部15は、印刷媒体20をZ軸上下方向から挟み込む複数のローラー19を備え、ローラー19の回転により、印刷媒体20を支持部5上、Y軸正方向(搬送方向下流側)へと搬送する。印刷媒体20の搬送の制御は、後述する制御装置7の搬送制御部9によって行われる。
【0013】
印刷装置1は、印刷媒体20の先端20Aを検出する先端検出部23を有する。先端検出部23は、例えば赤外線光源と赤外線検出器の組み合わせで構成される。先端検出部23は、印刷媒体20の搬送方向においてローラー19の上流に設けられる。
【0014】
図2は、第1の実施形態に係る印刷装置1の側面図である。図2では不図示の印刷媒体20は、搬送部15のローラー19が回転することにより、支持部5の上を、図2上の矢印の方向、すなわちY軸方向正の向きに搬送される。支持部5に対向して支持部5の直上に設けられる印刷部29は、複数のライン型印刷ヘッド30を有する。印刷部29は、ブラックのインクを吐出するライン型印刷ヘッド30BKと、シアンのインクを吐出するライン型印刷ヘッド30Cと、マゼンタのインクを吐出するライン型印刷ヘッド30Mと、黄色のインクを吐出するライン型印刷ヘッド30Yとを有する。
【0015】
図3は、実施の形態1に係る印刷装置1のブロック図である。
印刷装置1は、印刷装置1の各種動作を制御する制御装置7を有する。制御装置7は、後述するようにCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサー8を備える。
また制御装置7は、後述するようにデータやプログラムを記憶する記憶部17を備える。記憶部17は、RAM(Random Access Memory)や、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置で構成される。
【0016】
印刷装置1において、制御装置7は搬送部15と、先端検出部23と、搬送量計測部27と、印刷部29とが接続する。印刷装置1は、外部装置と通信を行う通信部39を備える。通信部39は通信のためのインターフェース回路を有し、例えば外部端末装置40とネットワークNWを介してデータの入出力をおこなう。
【0017】
印刷装置1は、印刷部29を備える。本実施の形態では、上述のように印刷部29は複数のライン型印刷ヘッド30を有する。
【0018】
プロセッサー8は、記憶部17が記憶する制御プログラム35を読み出して実行することにより、搬送制御部9と、搬送量計測部27と、吐出タイミング制御部11と、印刷制御部14と、判定部16と、通信制御部12として機能する。
【0019】
搬送制御部9は、搬送部15を制御し、印刷媒体20の搬送を制御する。
【0020】
搬送量計測部27は、印刷媒体の先端20Aの検出結果と、搬送制御部9がローラー19をどれだけ回転させたかによって、印刷媒体20の搬送量を計測する。
【0021】
吐出タイミング制御部11は、ライン型印刷ヘッド30からインクを吐出する吐出タイミングを制御する。具体的な制御の詳細については後述する。
【0022】
印刷制御部14は、先端検出部23と、搬送量計測部27と、印刷部29を統合的に制御することで印刷を制御する。
【0023】
判定部16は、先端検出部23の検出結果、及び搬送制御部9による印刷媒体20の搬送に基づいて、印刷媒体の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向において支持部5のどの位置に達しているか等を判定する。
【0024】
通信制御部12は、外部装置との通信をおこなう通信部39の制御をおこなう。
【0025】
記憶部17は、印刷や搬送等を制御する制御プログラム35と、後述する吐出タイミングに係るデータセットであるテーブル37等を記憶する。
【0026】
[1.2.印刷装置の動作]
印刷媒体20の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向において支持部5より下流に位置する場合、印刷媒体20の搬送速度は、印刷媒体20の先端20Aが支持部5の上流に位置する場合と比較して、遅い。これは、印刷媒体20が覆う吸引孔10の数が、前者の場合よりも後者の場合のほうが少なく、前者の場合よりも後者の場合のほうが、印刷媒体20の搬送力に抗する吸引による抵抗力が小さいためである。よって、印刷媒体20の先端20Aが支持部5の上流に位置する場合において、前者の場合の吐出タイミングでインクを吐出してしまうと、インクの着弾位置が目標の位置からずれてしまう。
【0027】
さらに、印刷媒体20の搬送速度は、印刷媒体20の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向において下流であればあるほど、遅くなる。これは、印刷媒体20の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向において下流であればあるほど、印刷媒体20が覆う吸引孔10の数が増えるためである。よって、印刷媒体20の先端20Aが支持部5の上流に位置する場合において、吐出タイミングが固定のタイミングであると、インクの着弾位置が目標の位置からずれてしまう。
【0028】
図4図5、及び図6を参照して、着弾位置のずれをより詳述すると共に、図4図5図6、及び図7を参照して、吐出タイミング制御部11について説明する。
図4は、印刷媒体の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向においてライン型印刷ヘッド30BKとライン型印刷ヘッド20Cとの間に位置する場合を示す図である。図5は、印刷媒体の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向においてライン型印刷ヘッド30Cとライン型印刷ヘッド30Mとの間に位置する場合を示す図である。図4図5とを比較して、搬送部15の印刷媒体20に対する搬送力に抗する吸引による抵抗力、すなわち搬送負荷は、図4の場合のほうが図5の場合よりも小さい。したがって、印刷媒体20が単位時間あたり搬送される距離は、図4の場合の方が図5の場合よりも大きい。そのため、仮にインクの吐出タイミングを、図4の場合と図5の場合とで同じにしてしまうと、図4の場合及び図5の場合の少なくともいずれかでは、インクの着弾位置が目標の位置からずれてしまう。
【0029】
別の言い方をすれば、印刷媒体20によって覆われる複数の吸引孔10の開口面積の合計は、図4の場合と図5の場合とを比較すると、図5の場合より図4の場合のほうが小さい。覆われる複数の吸引孔10の開口面積が小さい場合には、搬送部15の搬送力に抗する吸引による抵抗力が小さいため、仮にインクの吐出タイミングが固定であると、インクの着弾位置のずれ量は、図5の場合より図4の場合のほうが大きくなる。
【0030】
そこで、吐出タイミング制御部11は、印刷媒体20の先端20Aが第1領域に位置する場合、ライン型印刷ヘッド30の吐出タイミングを第1吐出タイミングにし、印刷媒体20の先端20Aが第2領域に位置する場合、ライン型印刷ヘッド30の吐出タイミングを第2吐出タイミングにする。
【0031】
第1領域は、印刷媒体20の搬送方向における領域である。例えば、図4においては、ライン型印刷ヘッド30BKに対する第1領域は、符号101の領域である。
第2領域は、印刷媒体20の搬送方向における領域であり、搬送方向において第1領域よりも下流に位置する領域である。例えば、図5においては、ライン型印刷ヘッド30BKに対する第2領域は、符号102の領域である。
第1吐出タイミングは、第2吐出タイミングよりも速いタイミングである。
【0032】
例えば、印刷媒体20の先端20Aが、図4の領域101に位置する場合、吐出タイミング制御部11は、ライン型印刷ヘッド30BKの吐出タイミングを第1吐出タイミングに設定する、一方、印刷媒体20の先端20Aが、図5の領域102に位置する場合、吐出タイミング制御部11は、ライン型印刷ヘッド30BK、30Cの吐出タイミングを第2吐出タイミングに設定する。
【0033】
図6は、印刷媒体の先端20Aが、印刷媒体20の搬送方向において支持部5の下流に位置する場合を示す図である。
図6の場合、印刷媒体20の搬送に伴って、印刷媒体20が覆う吸引孔10の数は、変わらない。つまり、印刷媒体20の先端20Aが支持部5を通過してしまうと、搬送負荷はこれ以降の搬送で変化しない。したがって、先端20Aが支持部5を通過した後、すなわち先端20Aが搬送方向において支持部5の下流に位置した後は、インクの吐出タイミングを変化させなくてもインクの着弾位置にずれが生じない。
【0034】
そこで、吐出タイミング制御部11は、印刷媒体の先端20Aが支持部5を通過した後、ライン型印刷ヘッド30から吐出されるインクの吐出タイミングを第3吐出タイミングに固定する。第3吐出タイミングは、第2吐出タイミングより遅いタイミングである。
【0035】
吐出タイミング制御部11は、図7に示す関係に基づいて、吐出タイミングを制御する。
図7は、累積搬送量とインクの着弾位置のずれとの関係を示す図である。横軸は、先端20Aが検出されてから搬送部15により搬送された印刷媒体20の搬送量の累積を示す。縦軸は、インクの着弾位置のずれ量を示す。上述したように、印刷媒体20がどの程度の数の吸引孔10を覆うかにより、搬送負荷は変化する。破線は、同じ吐出タイミングでインクを吐出した場合に生じるインクの着弾位置のずれ量と、累積搬送量との関係を示す。
【0036】
印刷媒体の先端20Aが、ライン型印刷ヘッド30BKの直下に来ている場合、インクの着弾ずれ量を「A」とする。印刷媒体の先端20Aが、ライン型印刷ヘッド30Cの直下に来ている場合、インクの着弾ずれ量を「B」とする。印刷媒体の先端20Aが、ライン型印刷ヘッド30Mの直下に来ている場合、インクの着弾ずれ量を「C」とする。ライン型印刷ヘッド30BKの位置は、印刷媒体20の搬送方向、すなわちY軸方向について、ライン型印刷ヘッド30Cの位置よりも上流にある。またライン型印刷ヘッド30Cの位置は、印刷媒体20の搬送方向、すなわちY軸方向について、ライン型印刷ヘッド30Mの位置よりも上流にある。したがって、先端20Aの位置がライン型印刷ヘッド30BKの直下に来ている状態の時に印刷媒体20が吸引孔10を覆う面積は、先端20Aの位置がライン型印刷ヘッド30Cの直下に来ている状態の時よりも小さい。したがってずれ量の「A」は、ずれ量の「B」より大きくなる。同様にずれ量の「B」は、ずれ量の「C」よりも大きくなる。
【0037】
吐出タイミング制御部11は、図7に示す破線が図7の実線になるように、吐出タイミングを制御する。吐出タイミング制御部11は、判定部16から先端20Aの位置を取得し、取得した位置とテーブル37とを参照して、吐出タイミングを決定し、決定した吐出タイミングに設定する。
テーブル37は、搬送方向における支持部5の上面の位置と、吐出タイミングとを規定したデータである。テーブル37には、搬送方向における支持部5の上面の位置ごとに、吐出タイミングが記録されている。テーブル37には、図7に示す破線を実線にできる吐出タイミングと位置とが記録されている。より詳細には、テーブル37には、搬送方向下流の位置であればあるほどタイミングが遅くなる吐出タイミングが記録されている。
【0038】
吐出タイミング制御部11は、吐出タイミングを指示する信号をライン型印刷ヘッド30に対して出力することで吐出タイミングを制御する。吐出タイミング制御部11は、第1吐出タイミング、第2吐出タイミング、及び第3吐出タイミングのいずれかの吐出タイミングを示す基準吐出信号を生成する。吐出タイミング制御部11は、第1吐出タイミングと第2吐出タイミングと第3吐出タイミングのいずれかでインクを吐出させる際は、ライン型印刷ヘッド30に基準吐出信号を供給する。一方、吐出タイミング制御部11は、基準吐出信号を供給しない他の吐出タイミングでインクを吐出させる際は、基準吐出信号を補正した補正信号を供給する。
【0039】
このように、吐出タイミング制御部11は、図7に示す関係性に基づいて、ライン型印刷ヘッド30から吐出されるインクの吐出タイミングを変化させることで、インクの着弾位置のずれを補正する。これにより、補正後のインク着弾位置のずれは、図7の実線のように解消される。
【0040】
図7で示すように、吐出タイミング制御部11は、印刷媒体の先端20Aが、第1領域101から第2領域102へと進む間に、段階的に吐出タイミングを変化させて、インク着弾ずれ量を補正することが望ましい。このとき、どのような吐出タイミングでインクを吐出するかについては、記憶部17に記憶されたテーブル37に従い、先端検出部23や搬送量計測部27により取得された印刷媒体20の位置情報に基づいて、吐出タイミング制御部11が印刷部29を制御する。
【0041】
図8は、第1の実施形態に係る印刷装置1の動作を説明するフローチャートである。
先端検出部23が、印刷媒体の先端20Aを検出する(ステップSA1)。吐出タイミング制御部11は、先端20Aが第1領域から第2領域に移動するに伴って段階的に吐出タイミングを変化させる(ステップSA2)。判定部16は、先端20Aが支持部5を通過した状態にあるかどうかを判定する(ステップSA3)。判定部16が、先端20Aは支持部5を通過した状態にあると判定した場合(ステップSA3:YES)、吐出タイミング制御部11は、ライン型印刷ヘッド30の吐出タイミングを第3吐出タイミングとする(ステップSA4)。
【0042】
ステップSA3の説明に戻り、判定部16が、先端20Aは支持部5を通過した状態にないと判定した場合(ステップSA3:NO)、プロセッサー8は、再度、ステップSA2以降の処理を行う。
【0043】
[2.第2の実施形態]
以下、図面9と、図面10と、図面11を参照しながら、第2の実施形態に係る印刷装置1について説明する。
【0044】
[2.1.印刷装置の全体構成]
第2の実施形態に係る印刷装置1の構成は、第1の実施形態と同様なので記載を省略する。第1の実施形態と第2の実施形態の違いは、印刷対象である印刷媒体20が、第2の実施形態の場合には、単票紙である。なお、第2の実施形態において、印刷媒体20の先端とは、複数の単票紙の内、最初に印刷される単票紙110Aの先端120である。
【0045】
[2.2.印刷装置の動作]
図9は、印刷媒体の先端120が第1領域である領域201にある場合を示す図である。また、図9は、印刷装置1が複数の単票紙を連続して印刷する場合を示している。図9の場合、印刷装置1は、搬送方向において最も下流に位置する単票紙110Aの先端120を検出すると、第1の実施形態の吐出タイミングの制御を行う。
【0046】
ここで、吐出タイミング制御部11は、搬送方向において最も下流に位置する単票紙110Aの先端が、支持部5の第1領域に位置するときにライン型印刷ヘッド30の吐出タイミングを第1吐出タイミングとする。
【0047】
図10は、最初に印刷される単票紙110Aの先端120が、支持部5の第2領域である領域202にある場合の図である。吐出タイミング制御部11は、支持部5の第2領域に位置するときにライン型印刷ヘッド30の吐出タイミングを第2吐出タイミングとする。
【0048】
図11は、単票紙110Aの先端120が、支持部5を通過した後の状態を示す図である。吐出タイミング制御部11は、複数の単票紙の内、2枚目の単票紙110Bに対しては、ライン型印刷ヘッド30から吐出されるインクの吐出タイミングを第3吐出タイミングで吐出する。ここで、第3吐出タイミングは、第2吐出タイミングより遅い。2枚目以降の単票紙、例えば単票紙110C以後についても、吐出タイミング制御部11は、ライン型印刷ヘッド30から吐出されるインクの吐出タイミングを第3吐出タイミングで吐出する。
【0049】
上記した実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0050】
図8に示すフローチャートの処理単位は、制御装置7の処理を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものであり、処理単位の分割の仕方や名称によって本発明が制限されることはない。図8の動作は、処理内容に応じて、さらに多くの処理単位に分割することもできるし、1つの処理単位がさらに多くの処理を含むように分割することもできる。また、上記のフローチャートの処理順序も、図示した例に限られるものではない。
【0051】
[付記]
以下、本開示のまとめを付記する。
(付記1)
印刷媒体を搬送する搬送部と、複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、前記ライン型印刷ヘッドから吐出されるインクの吐出タイミングを制御する吐出タイミング制御部と、を備え、前記吐出タイミング制御部は、前記印刷媒体の搬送方向における先端が、前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、印刷装置。
【0052】
これにより、吸引孔からの吸引によって印刷媒体の搬送速度が変化することに合わせて、インクの吐出タイミングを変化させることができるので、インクの着弾位置のずれを抑制できる。
【0053】
(付記2)
前記吐出タイミング制御部は、前記先端が前記搬送方向において前記支持部より下流に位置した場合、第3吐出タイミングに固定するように前記吐出タイミングを制御し、前記第3吐出タイミングは、前記第2吐出タイミングよりも遅い、付記1に記載の印刷装置。
【0054】
これにより、支持部の上面全体を印刷媒体が覆う状態では、印刷媒体の搬送速度が遅くなるので、その搬送速度に合わせてインクの吐出タイミングを遅く維持することができる。そのため、印刷品質を維持して印刷できる。
【0055】
(付記3)
前記吐出タイミング制御部は、前記ライン型印刷ヘッドに対して、前記吐出タイミングを指示する基準吐出信号を供給し、前記吐出タイミング制御部は、前記第1吐出タイミングと、前記第2吐出タイミングと、前記第3吐出タイミングのいずれかについては前記ライン型印刷ヘッドに前記基準吐出信号を供給し、前記基準吐出信号を供給しない他の前記吐出タイミングについては前記基準吐出信号を補正した補正信号を供給する、付記2に記載の印刷装置。
【0056】
これにより、一旦基準吐出信号を生成したならば、その基準吐出信号を用いて複数の吐出タイミングを設定できる。そのため、処理負荷の低下を図りつつ、インクの着弾位置のずれを抑制できる。
【0057】
(付記4)
前記吐出タイミング制御部は、前記先端が前記第1領域から前記第2領域へと進む間に、段階的に前記吐出タイミングを変化させる、付記1から付記3のいずれか一つに記載の印刷装置。
【0058】
これによれば、段階的に吐出タイミングを変化させるため、吐出タイミングの変更タイミングをリニアにさせる場合と比較し、吐出タイミングの制御に係わる処理負荷を低減できる。よって、吐出タイミングの制御に係わる処理負荷を低減しつつ、インクの着弾位置のずれを抑制できる。
【0059】
(付記5)
前記先端が前記第1領域にある時に前記印刷媒体によって覆われる前記吸引孔の開口面積の合計は、前記先端が前記第2領域にある時に前記印刷媒体によって覆われる前記吸引孔の開口面積の合計よりも小さい、付記1から付記4のいずれか一つに記載の印刷装置。
【0060】
これにより、印刷媒体に対する吸引力の小さな第1領域と、印刷媒体に対する吸引力の大きな第2領域とで変化する搬送速度に合わせてインクの吐出タイミングを変化させることができるので、インクの着弾ずれを抑制できる。
【0061】
(付記6)
前記印刷媒体は、連続して印刷される複数の単票紙であり、前記先端は、前記複数の単票紙の内、最初に印刷される単票紙の先端であり、前記吐出タイミング制御部は、前記複数の単票紙の内、2枚目以降の単票紙に対して、前記第3吐出タイミングでインクを吐出する、付記1から付記5のいずれか一つに記載の印刷装置。
【0062】
これにより、複数の単票紙を連続して印刷する場合においても、インクの着弾位置のずれを抑制できる。
【0063】
(付記7)
前記搬送方向において前記支持部よりも上流に配置され、前記先端を検出する先端検出部と、前記印刷媒体の搬送量を計測可能な搬送量計測部と、を有し、前記吐出タイミング制御部は、前記先端検出部の検出結果と前記搬送量計測部の計測結果に基づいて、前記支持部における前記先端の位置を推定し、推定した前記先端の位置に応じて前記吐出タイミングを制御する、付記1から付記6のいずれか一つに記載の印刷装置。
【0064】
これにより、推定された先端の位置に応じて吐出タイミングを制御できるため、適切にインクの着弾ずれを抑制できる。
【0065】
(付記8)
前記支持部における前記先端の位置と、前記支持部における前記先端の位置に応じた前記吐出タイミングとの関係を規定したテーブルを記憶した記憶部を備え、前記吐出タイミング制御部は、推定した前記支持部における前記先端の位置と前記テーブルとに基づいて、前記吐出タイミングを決定する、付記7に記載の印刷装置。
【0066】
これにより、テーブルを参照して吐出タイミングを決定できるため、吐出タイミングに係わる処理負荷を低減しつつ、インクの着弾位置のずれを抑制できる。
【0067】
(付記9)
印刷媒体を搬送する搬送部と、複数の吸引孔を有し、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引しつつ前記印刷媒体を支持する支持部と、前記支持部と対向する位置に配置され、前記支持部に支持された前記印刷媒体にインクを吐出して印刷するライン型印刷ヘッドと、を備えた印刷装置による印刷方法であって、前記吸引孔を介して前記印刷媒体を吸引する吸引ステップと、前記ライン型印刷ヘッドが前記印刷媒体に対してインクを吐出する吐出ステップと、前記ライン型印刷ヘッドからインクを吐出する吐出タイミングを制御するタイミング制御ステップと、を含み、前記タイミング制御ステップは、前記印刷媒体の搬送方向における先端が前記支持部の第1領域に位置するときの前記吐出タイミングを第1吐出タイミングとし、前記先端が、前記第1領域よりも前記搬送方向において下流に位置する前記支持部の第2領域に位置するときの前記吐出タイミングを第2吐出タイミングとしたとき、前記第1吐出タイミングが前記第2吐出タイミングよりも早くなるように前記吐出タイミングを制御する、印刷方法。
【0068】
これにより、付記1記載の印刷装置と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0069】
1…印刷装置、5…支持部、7…制御装置、8…プロセッサー、9…搬送制御部、10…吸引孔、11…吐出タイミング制御部、12…通信制御部、14…印刷制御部、15…搬送部、16…判定部、17…記憶部、18…演算部、19…ローラー、20…印刷媒体、20A…先端、23…先端検出部、27…搬送量計測部、29…印刷部、30…ライン型印刷ヘッド、35…制御プログラム、37…テーブル、39…通信部、40…外部端末装置、101…第1領域、102…第2領域、110A、110B、110C…単票紙、120…先端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11