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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115658
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ゴルフボール用モールド
(51)【国際特許分類】
   A63B 45/00 20060101AFI20240820BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A63B45/00 B
B29C33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021406
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐嶌 隆弘
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AH61
4F202CA01
4F202CA09
4F202CA11
4F202CA27
4F202CB01
4F202CL02
(57)【要約】
【課題】外観及び飛行対称性に優れたゴルフボールが得られうる、モールド2の提供。
【解決手段】モールド2は、一対の半型4を有している。それぞれの半型4は、複数のピンプル16を含むキャビティ面を有している。このキャビティ面は、低緯度ゾーン18と高緯度ゾーン20とを有している。低緯度ゾーン18は、その内径がキャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面22を含んでいる。高緯度ゾーンは、その内径がこの仮想球の内径と一致する高緯度ベース面24を含んでいる。それぞれのピンプルは、低緯度ベース面又は高緯度ベース面から突出している。仮想球の赤道面Eqと交差するか又はこの赤道面Eqに近接するピンプル16は、部分的に又は全体で、低緯度ベース面22から突出している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合わされることで実質的に球形状を有するキャビティが形成される、一対の半型を備えており、
それぞれの半型が、複数のピンプルを含むキャビティ面を有しており、
上記キャビティ面が、低緯度ゾーンと高緯度ゾーンとを有しており、
上記低緯度ゾーンが、その内径が上記キャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面を含んでおり、
上記高緯度ゾーンが、その内径が上記仮想球の内径と一致する高緯度ベース面を含んでおり、
それぞれのピンプルが、上記低緯度ベース面又は上記高緯度ベース面から突出しており、
上記仮想球の赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが、部分的に又は全体で、上記低緯度ベース面から突出している、ゴルフボール用モールド。
【請求項2】
上記赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルの輪郭が、この輪郭の全長の25%以上の長さにおいて、上記低緯度ゾーンに属する、請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
上記低緯度ゾーンと上記高緯度ゾーンとの境界の緯度が、10°以下である、請求項1又は2に記載のモールド。
【請求項4】
上記赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが、凸面と側面とを有しており、
上記凸面が上記低緯度ベース面から離れており、上記側面が上記凸面の高さ方向に延在しかつこの凸面のエッジから上記低緯度ベース面に至っている、請求項1又は2に記載のモールド。
【請求項5】
上記側面の高さの最大値が20μm以上である、請求項4に記載のモールド。
【請求項6】
上記側面が、上記赤道面において最大高さを有する、請求項4に記載のモールド。
【請求項7】
上記低緯度ベース面の断面形状が複数の直線を含む、請求項4に記載のモールド。
【請求項8】
(1)合わされることで実質的に球形状を有するキャビティが形成される一対の半型を有しており、それぞれの半型が複数のピンプルを含むキャビティ面を有しており、上記キャビティ面が低緯度ゾーンと高緯度ゾーンとを有しており、上記低緯度ゾーンがその内径が上記キャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面を含んでおり、上記高緯度ゾーンがその内径が上記仮想球の内径と一致する高緯度ベース面を含んでおり、それぞれのピンプルが上記低緯度ベース面又は上記高緯度ベース面から突出しており、上記仮想球の赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが部分的に又は全体で上記低緯度ベース面から突出しているモールドに、材料を投入する工程、
(2)上記モールドの中で上記材料を加圧し、キャビティ面の形状が反転された形状を有するゴルフボール中間品を得る工程、
並びに
(3)上記ゴルフボール中間品の赤道の近傍を切削する工程
を備えた、ゴルフボール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ゴルフボールの成形に適したモールドを開示する。
【背景技術】
【0002】
一般的なゴルフボール用モールドは、上型及び下型を有している。上型が下型と合わされることで、球状のキャビティが形成される。このモールドのキャビティ面は、ベース面と多数のピンプルとを有している。ベース面の位置は、キャビティの仮想球の表面と一致している。それぞれのピンプルは、ベース面から突出している。
【0003】
このモールドに材料が投入され、ゴルフボール中間品が成形される。この中間品は、シームを有する。このシームの位置は、上型と下型とのパーティングラインに対応する。この中間品はさらに、複数のディンプルを有する。それぞれのディンプルは、ピンプルの形状が反転した形状を有する。材料の一部は、上型と下型とのパーティング面に進入し、バリを形成する。バリは、中間品に付着する。このバリの位置は、シームの位置と一致する。このバリは、切削されて除去される。除去の容易の観点から、シームの上にはディンプルは設けられない。換言すれば、ピンプルは、パーティングラインを避けて配置される。このようなゴルフボール用モールドの一例が、特開2010-284531公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-284531公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バリの切削のとき、このバリの周辺のディンプルも切削されうる。この切削により、ディンプルが変形しうる。この変形は、ゴルフボールの外観不良を招来する。この変形は、ゴルフボールの飛行対称性を阻害しうる。特に、仮想球の赤道と交差するディンプルを有するゴルフボールにおいて、変形が懸念される。
【0006】
本出願人の意図するところは、外観及び飛行対称性に優れたゴルフボールが得られうる、モールドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示するゴルフボール用モールドは、合わされることで実質的に球形状を有するキャビティが形成される、一対の半型を有する。それぞれの半型は、複数のピンプルを含むキャビティ面を有する。このキャビティ面は、低緯度ゾーンと高緯度ゾーンとを有する。この低緯度ゾーンは、その内径がキャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面を含む。高緯度ゾーンは、その内径が仮想球の内径と一致する高緯度ベース面を含む。それぞれのピンプルは、低緯度ベース面又は高緯度ベース面から突出する。仮想球の赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルは、部分的に又は全体で、低緯度ベース面から突出する。
【発明の効果】
【0008】
このモールドから、意図された仕様を有するディンプルを含むゴルフボールが、得られうる。このモールドは、ゴルフボールの外観及び飛行対称性に、寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係るゴルフボール用モールドが示された分解斜視図である。
図2図2は、図1のモールドが示された正面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、図3において符号IVで示された部分の拡大図である。
図5図5は、図3のモールドのキャビティ面の一部が示された分解拡大図である。
図6図6は、図3のモールドのキャビティ面の一部が示された拡大図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿った拡大断面図である。
図8図8は、図7のVIII-VIII線に沿った拡大断面図である。
図9図9は、図7のIX-IX線に沿った拡大断面図である。
図10図10は、図6のX-X線に沿った拡大断面図である。
図11図11は、図10のXI-XI線に沿った拡大断面図である。
図12図12は、図10のXII-XII線に沿った拡大断面図である。
図13図13は、図1に示されたモールドから得られたゴルフボール中間品が示された正面図である。
図14図14は、図13のゴルフボール中間品の一部が示された拡大断面図である。
図15図15は、図13の中間品から得られたゴルフボールが示された正面図である。
図16図16は、図15のゴルフボールの一部が示された拡大断面図である。
図17図17は、図15のゴルフボールのディンプルパターンが示された正面図である。
図18図18は、図17のディンプルパターンが示された平面図である。
図19図19は、図3のモールドの一部が示された拡大図である。
図20図20は、図4のモールドの一部がさらに拡大されて示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0011】
図1に示されたゴルフボール用モールド2は、一対の半型4を有している。具体的には、このモールド2は、上型6と下型8とからなる。それぞれの半型4は、パーティング面10及びキャビティ面12を有している。
【0012】
図1において矢印A1で示されるように、上型6は、下型8に対して相対的に下降する。上型6が下型8に合わされることで、モールド2が締まる。この状態では、上型6のパーティング面10aは、下型8のパーティング面10bと当接する。
【0013】
図2及び3に、締められたモールド2が示されている。このモールド2では、上型6が下型8に合わされることで、キャビティ14が形成されている。このキャビティ14は、実質的に球形状を有している。図2及び3において符号Eqは、赤道(Equator)又は赤道面(Equator Plane)を表す。赤道は、円形状を有する。赤道面は、赤道を含む平面である。上型6のキャビティ面12の最上部が地球儀の北極点Pn(図3参照)と仮定され、下型8のキャビティ面12の最下部が地球儀の南極点Psと仮定されて、赤道Eqが定義される。北極点Pn及び南極点Psの緯度は、90°である。赤道Eqの緯度は、0°である。
【0014】
図3に示されるように、それぞれのキャビティ面12は、多数のピンプル16を有している。モールド2の全体におけるピンプル16の数は、一般的には、250個から550個である。本実施形態では、それぞれのピンプル16の輪郭は、円である。図3では、一部のピンプル16のみが示されている。実際は、キャビティ面12の全体にわたって多数のピンプル16が配置されている。半型4のパーティング面10は、凹凸状である。
【0015】
図4は、図3において符号IVで示された部分の拡大図である。図4には、ピンプル16が存在しないと仮定されたときのキャビティ面12が示されている。このキャビティ面12は、低緯度ゾーン18及び高緯度ゾーン20を有している。図4における符号L1で示された仮想線は、低緯度ゾーン18と高緯度ゾーン20との境界線である。境界線L1は、赤道Eqと平行である。
【0016】
低緯度ゾーン18は、パーティング面10から境界線L1にまで至っている。低緯度ゾーン18は、赤道Eqに沿って延在している。低緯度ゾーン18は、リング形状を有している。低緯度ゾーン18は、低緯度ベース面22を含んでいる。低緯度ベース面22は、低緯度ゾーン18のうち、ピンプル16以外の面である。図4において符号L2で示された曲線は、キャビティ14の仮想球である。仮想球L2は、ピンプル16及び低緯度ゾーン18を有さないと仮定されたときの、キャビティ面12と一致する。低緯度ベース面22の内径D1は、仮想球L2の内径D2よりも大きい。
【0017】
高緯度ゾーン20は、境界線L1から極点Po(図3参照)にまで至っている。高緯度ゾーン20は、碗形状を有している。高緯度ゾーン20は、高緯度ベース面24を含んでいる。高緯度ベース面24は、高緯度ゾーン20のうち、ピンプル16以外の面である。高緯度ベース面24の内径は、仮想球L2の内径D2と一致している。
【0018】
低緯度ベース面22の内径D1が仮想球L2の内径D2よりも大きく、高緯度ベース面24の内径が仮想球L2の内径D2と一致しているので、キャビティ14の形状は、厳密には球ではない。本明細書では、このような状態が、「実質的に球形状」と称される。
【0019】
前述の通り、キャビティ面12は多数のピンプル16を有している。それぞれのピンプル16は、低緯度ゾーン18に属しうる。このピンプル16は、高緯度ゾーン20にも属しうる。このモールド2は、
(1)全体が低緯度ゾーン18に属するピンプル16
(2)全体が高緯度ゾーン20に属するピンプル16
及び
(3)部分的に低緯度ゾーン18に属し、かつ部分的に高緯度ゾーン20に属するピンプル16
を有しうる。
【0020】
換言すれば、このモールド2は、
(1)全体が低緯度ベース面22から突出するピンプル16
(2)全体が高緯度ベース面24から突出するピンプル16
及び
(3)部分的に低緯度ベース面22から突出し、かつ部分的に高緯度ベース面24から突出するピンプル16
を有しうる。
【0021】
図5に、モールド2が開いた状態のキャビティ面12の一部が、拡大されて示されている。図5には、上型6の低緯度ベース面22a、上型6の高緯度ベース面24a、下型8の低緯度ベース面22b及び下型8の高緯度ベース面24bが示されている。図5にはさらに、ピンプル16も示されている。
【0022】
図5に示されるように、それぞれの半型4のパーティング面10は、フラット面26、リッジ28及びリセス30からなる。フラット面26は、赤道面Eqに沿っている。リッジ28は赤道面Eqから突出している。リセス30は、赤道面Eqよりも窪んでいる。リッジ28は、ピンプル16の一部を含んでいる。リッジ28の外縁は円弧である。この外縁は、ピンプル16の輪郭と実質的に一致している。リッジ28が赤道面Eqから突出しているので、このリッジ28に含まれるピンプル16は赤道面Eqと交差している。本実施形態では、リッジ28は曲面である。リッジ28が、平面であってもよい。本実施形態では、リセス30は曲面である。リセス30が、平面であってもよい。パーティング面10が、複数の曲面の組合せの形状を有してもよい。
【0023】
図6に、モールド2が締まった状態のキャビティ面12が示されている。図6では、上型6のリッジ28aは下型8のリセス30bに嵌まっており、上型6のリセス30aには下型8のリッジ28bが嵌まっている。上型6のフラット面26aは、下型8のフラット面26bと当接している。
【0024】
図5及び6から明らかなように、赤道面Eqから1列目のピンプル16は、部分的に低緯度ゾーン18に属し、かつ部分的に高緯度ゾーン20に属している。換言すれば、赤道面Eqから1列目のピンプル16は、部分的に低緯度ベース面22から突出し、かつ部分的に高緯度ベース面24から突出している。
【0025】
赤道面Eqから2列目のピンプル16は、その全体が高緯度ゾーン20に属している。換言すれば、赤道面Eqから2列目のピンプル16は、全体で高緯度ベース面24から突出している。
【0026】
本実施形態では、全体が低緯度ゾーン18に属するピンプル16は、存在していない。換言すれば、全体が低緯度ベース面22から突出するピンプル16は、存在していない。モールド2が、全体が低緯度ゾーン18に属するピンプル16を有してもよい。
【0027】
図5において符号161は、交差ピンプルを表す。交差ピンプル161は、赤道面Eqと交差している。図5において符号162は、近接ピンプルを表す。近接ピンプル162は、赤道面Eqと近接している。近接ピンプル162は、下記の条件(1)から(3)を満たす。
(1)このピンプル162の輪郭の中心から赤道面Eqに下ろした垂線は、他のピンプル16と交差しない。
(2)このピンプル162の輪郭の中心の緯度は、10°以下である。
(3)このピンプル162は、交差ピンプル161ではない。
【0028】
図7は、図6のVII-VII線に沿った拡大断面図である。図8は、図7のVIII-VIII線に沿った拡大断面図である。これらの図には、交差ピンプル161が示されている。図8に示されるように、交差ピンプル161は、凸面32及び側面34を有している。凸面32は、仮想球L2の半径方向内向きに凸である。側面34は、凸面32と低緯度ベース面22との間に存在している。側面34は、凸面32の高さ方向(図8の上下方向)に延在している。側面34は、凸面32のエッジEdから低緯度ベース面22にまで至っている。図8では、交差ピンプル161は、低緯度ベース面22から突出している。
【0029】
図9は、図7のIX-IX線に沿った拡大断面図である。図9には、凸面32が示されている。図9に示された位置では、交差ピンプル161は、側面34を有していない。図9では、交差ピンプル161は、高緯度ベース面24から突出している。
【0030】
本実施形態では、交差ピンプル161は、部分的に低緯度ベース面22から突出し、かつ部分的に高緯度ベース面24から突出している。換言すれば、交差ピンプル161の少なくとも一部は、低緯度ベース面22から突出している。交差ピンプル161が、全体で低緯度ベース面22から突出してもよい。
【0031】
図10は、図6のX-X線に沿った拡大断面図である。図11は、図10のXI-XI線に沿った拡大断面図である。これらの図には、近接ピンプル162が示されている。図11に示されるように、近接ピンプル162は、凸面32及び側面34を有している。凸面32は、仮想球L2の半径方向内向きに凸である。凸面32は、低緯度ベース面22から離れている。側面34は、凸面32の高さ方向(図11の上下方向)に延在している。側面34は、凸面32のエッジEdから低緯度ベース面22にまで至っている。図11では、近接ピンプル162は、低緯度ベース面22から突出している。
【0032】
図12は、図10のXII-XII線に沿った拡大断面図である。図12には、凸面32が示されている。図12に示された位置では、近接ピンプル162は、側面34を有していない。図12では、近接ピンプル162は、高緯度ベース面24から突出している。
【0033】
本実施形態では、近接ピンプル162は、部分的に低緯度ベース面22から突出し、かつ部分的に高緯度ベース面24から突出している。換言すれば、近接ピンプル162の少なくとも一部は、低緯度ベース面22から突出している。近接ピンプル162が、全体で低緯度ベース面22から突出してもよい。
【0034】
このモールド2は、ゴルフボールの成形に用いられる。このモールド2は、圧縮成形法、射出成形法、注型成形法等に用いられうる。いずれの方法においても、モールド2に材料が投入される。この材料がモールド2の中で加圧されて流動し、ゴルフボール中間品が得られる。
【0035】
図13及び14に、このゴルフボール中間品36が示されている。この中間品36は、キャビティ面12の形状が反転された形状を有する。具体的には、この中間品36の表面は、大径ゾーン38と一対の小径ゾーン40とを有している。図13において符号L3で示された仮想線は、大径ゾーン38と小径ゾーン40との境界線である。境界線L3は、中間品36の赤道Eqと平行である。大径ゾーン38は、モールド2の低緯度ゾーン18によって形成されている。小径ゾーン40は、モールド2の高緯度ゾーン20によって形成されている。図14において符号L4で示された曲線は、ゴルフボールの仮想球である。仮想球L4は、後述されるディンプルがないと仮定されたときのゴルフボールの表面である。
【0036】
図13に示されるように、大径ゾーン38は、赤道面Eqから境界線L3にまで至っている。大径ゾーン38は、赤道Eqに沿って延在している。大径ゾーン38は、リング形状を有している。図14に示されるように、大径ゾーン38の外径D3は、仮想球L4の外径D4よりも大きい。
【0037】
図13に示されるように、それぞれの小径ゾーン40は、境界線L3から極点Poにまで至っている。小径ゾーン40は、碗形状を有している。図14に示されるように、小径ゾーン40の外径は、仮想球L4の外径D4と一致している。
【0038】
ゴルフボール中間品36は、その表面に多数のディンプル42を有している。ディンプル42の数は、モールド2におけるピンプル16の数と同じである。それぞれのディンプル42は、ピンプル16の形状が反転した形状を有している。図14には、交差ピンプル161によって形成されたディンプル421が示されている。このディンプル421は、部分的に大径ゾーン38から凹陥しており、かつ部分的に小径ゾーン40から凹陥している。このディンプル421は、段差44を有している。この段差44は、ピンプル16の側面34に由来する。
【0039】
ゴルフボール中間品36はさらに、バリ46を有している。バリ46は、上型6のパーティング面10と下型8のパーティング面10との隙間に材料が侵入することで、生じる。バリ46の発生は、不可避である。図13に示されるように、バリ46はリング状である。図14に示されるように、バリ46は大径ゾーン38から突出している。
【0040】
この中間品36の最外層の材質は、ゴム組成物又は樹脂組成物である。ワンピースボールのための中間品36の場合、典型的な材質は、ゴム組成物である。2以上の層を有するゴルフボールの中間品36の場合、典型的な材質は、樹脂組成物である。基材がアイオノマー樹脂又はポリウレタンである樹脂組成物が好ましい。
【0041】
このゴルフボール中間品36の赤道Eqの近傍が、切削される。切削は、サンドペーパー、砥石、カッター等でなされうる。切削は、両方の極点Poを通過する線を中心として中間品36が回転させられつつ、なされる。センターレス切削装置、バレル等により、ランダムに中間品36が回転させられつつ、切削がなされてもよい。切削によって、バリ46が除去される。切削によってさらに、大径ゾーン38が消失する。消失後の切削箇所の外径は、仮想球L4の外径と、概ね一致する。切削により、段差44が消失する。この切削により、ゴルフボールが得られる。このゴルフボール48が、図15及び16に示されている。図15及び16では、切削前の大径ゾーン38が、仮想線で示されている。このゴルフボール48のディンプルパターンが、図17及び18に示されている。このゴルフボール48の直径は、42.67mm以上が好ましい。この直径は、43.00mm以下が好ましく、42.90mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。ゴルフボール48が、その表面に塗装層を有してもよい。
【0042】
前述の通り、バリ46の除去のとき、バリ46と共に大径ゾーン38も切削される。バリ46の除去のとき、大径ゾーン38は、ディンプル421の過剰な切削を抑制する。従って、切削の後のディンプル421は、意図されたスペック(直径、深さ、容積、面積、断面形状等)を有する。このゴルフボール48は、外観に優れる。このゴルフボール48では、赤道Eqの近傍のディンプル421が、空力特性に十分に寄与する。このゴルフボール48は、飛行対称性に優れる。
【0043】
ディンプル421の過剰な切削が抑制されるとの観点から、境界線L3の緯度は2°以上が好ましく、3°以上がより好ましく、4°以上が特に好ましい。切削の容易の観点から、この緯度は10°以下が好ましく、8°以下がより好ましく、7°以下が特に好ましい。境界線L3の緯度は、モールド2における境界線L1の緯度と一致する。
【0044】
図19は、図3のモールド2の一部が示された拡大図である。この図には、ピンプル16、赤道Eq及び境界線L1が示されている。ピンプル16は、部分的に低緯度ゾーン18に属し、かつ部分的に高緯度ゾーン20に属している。図19において符号P1はピンプル16の輪郭と境界線L1との交点を表し、符号P2はピンプル16の輪郭の上であってかつ低緯度ゾーン18にある点を表し、符号P3はピンプル16の輪郭と境界線L1との交点を表し、符号P4はピンプル16の輪郭の上であってかつ高緯度ゾーン20にある点を表す。
【0045】
輪郭のうち、点P1から点P2を通過して点P3に至る部分は、低緯度ゾーン18にある。輪郭のうち、点P1から点P4を通過して点P3に至る部分は、高緯度ゾーン20にある。それぞれのピンプル16において、低緯度ゾーン18にある輪郭の長さの、輪郭の全長に対する比率Peは、25%以上が好ましい。この比率Peが25%以上であるモールド2から、外観及び飛行対称性に優れたゴルフボール48が得られうる。この観点から、この比率Peは35%以上がより好ましく、45%以上が特に好ましい。比率Peが100%であってもよい。ピンプル16の輪郭が非円形であるモールド2の場合も、同様に、輪郭が基準とされて、比率Peが算出される。非円形ピンプルとして、楕円ピンプル、多角形ピンプル等が例示される。図19には交差ピンプル161が示されているが、近接ピンプル162における比率Peも、上記範囲であることが好ましい。
【0046】
図8及び11において矢印Hiは、側面34の高さを表す。図7及び10から明らかな通り、高さHiは緯度に応じて変動する。当該ピンプル16における高さHiの最大値Hmは、20μm以上が好ましい。最大値Hmが20μm以上であるモールド2から得られたゴルフボール中間品36では、バリ46の除去のとき、大径ゾーン38がディンプル421の過剰な切削を十分に抑制する。この中間品36から、外観及び飛行対称性に優れたゴルフボール48が得られうる。この観点から、この最大値Hmは30μm以上がより好ましく、40μm以上が特に好ましい。切削の容易の観点から、最大値Hmは150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下が特に好ましい。
【0047】
ゴルフボール48の外観及び飛行対称性の観点から、交差ピンプル161では、赤道面Eqの上における側面34の高さHiが最大値Hmであることが、好ましい。赤道面Eqの上と他の箇所との、複数箇所において、高さHiが最大値Hmであってもよい。
【0048】
図20に、図4のモールド2の一部がさらに拡大されて示されている。図20において符号P5-P8で示された4つの点は、低緯度ベース面22の上にある。点P5は、赤道面Eqの上にある。点P8は、境界線L1の上にある。低緯度ベース面22の断面形状において、点P5から点P6に至る部分は直線であり、点P6から点P7に至る部分は直線であり、点P7から点P8に至る部分も直線である。換言すれば、この断面形状は、複数の直線を含む。この低緯度ベース面22を有するモールド2から得られたゴルフボール中間品36は、容易に切削されうる。
【0049】
本実施形態では、点P5、点P6及び点P7は、1つの円弧の上にある。この円弧の中心は、仮想球L2の中心と一致する。低緯度ベース面22の、仮想球L2からの距離は、緯度に応じて変動する。本実施形態では、この距離は、点P5、点P6及び点P7において最大である。この低緯度ベース面22を有するモールド2から得られたゴルフボール中間品36は、容易に切削されうる。
【0050】
この低緯度ベース面22では、点P7から点P8に至る部分が直線なので、点P8におけるこの低緯度ベース面22の方向の、高緯度ベース面24の方向との差が小さい。このモールド2から得られたゴルフボール中間品36では、大径ゾーン38(図14参照)の削り残しが生じにくい。
【0051】
点P5から点P8に至る断面が、複数の曲線の組合せであってもよい。点P5から点P8に至る断面が、直線と曲線との組合せであってもよい。点P5から点P8に至る断面が、2つの線に挟まれたコーナーを有することが好ましい。このコーナーは、バリ46及び大径ゾーン38の適正な切削深さのための、切削装置の微調整において、目印とされうる。
【実施例0052】
以下、実施例に係るゴルフボール用モールドの効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0053】
[実施例1]
図1-12に示されたモールドを準備した。このモールドでは、低緯度ゾーンにある輪郭の長さの、輪郭の全長に対する比率Peは、75%であった。境界線L1の緯度は、6°であった。交差ピンプルの側面の高さの最大値Hmは、75μmであった。この最大値Hmの位置は、赤道面の上(緯度は0°)であった。材質がゴム組成物であるセンターと、材質がアイオノマー樹脂組成物である中間層とを有するコアを準備した。材質がポリウレタン組成物である2枚のハーフシェルで、コアを覆った。このコア及びハーフシェルをモールドに投入し、このハーフシェルを加圧及び加熱して、ゴルフボール中間品を得た。この中間品は、大径ゾーン及びバリを有していた。この大径ゾーン及びバリを、サンドペーパーで切削し、除去した。この中間品に、二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.4gであるゴルフボールを得た。
【0054】
[実施例2-5]
最大値Hmの異なるモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0055】
[実施例6-8]
比率Pe及び境界線L1の緯度の異なるモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0056】
[実施例9]
最大値Hmの位置の緯度が3°であるモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0057】
[実施例10]
境界線L1の緯度が15°であるモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0058】
[比較例1]
赤道近傍ゾーンが存在しないモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0059】
[比較例2]
赤道近傍ゾーンが存在せず、パーティング面が平坦であるモールドを用いた他は実施例1と同様にして、ゴルフボールを得た。
【0060】
[作業性]
バリの除去の工程において、切削機の条件の適正化に要した時間により、作業性をA-Dに格付けした。この結果が、下記の表1-3に示されている。
【0061】
[飛行対称性]
PH回転時とPOP回転時の揚力係数及び抗力係数を測定し、飛行対称性をA-Dに格付けした。この結果が、下記の表1-3に示されている。
【0062】
[外観]
ゴルフボールを目視で観察し、外観をA-Dに格付けした。この結果が、下記の表1-3に示されている。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表1-3に示されるように、各実施例のモールドから、諸性能に優れたゴルフボールが得られうる。この評価結果から、このモールドの優位性は明らかである。
【0067】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0068】
[項目1]
合わされることで実質的に球形状を有するキャビティが形成される、一対の半型を備えており、
それぞれの半型が、複数のピンプルを含むキャビティ面を有しており、
上記キャビティ面が、低緯度ゾーンと高緯度ゾーンとを有しており、
上記低緯度ゾーンが、その内径が上記キャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面を含んでおり、
上記高緯度ゾーンが、その内径が上記仮想球の内径と一致する高緯度ベース面を含んでおり、
それぞれのピンプルが、上記低緯度ベース面又は上記高緯度ベース面から突出しており、
上記仮想球の赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが、部分的に又は全体で、上記低緯度ベース面から突出している、ゴルフボール用モールド。
【0069】
[項目2]
上記赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルの輪郭が、この輪郭の全長の25%以上の長さにおいて、上記低緯度ゾーンに属する、項目1に記載のモールド。
【0070】
[項目3]
上記低緯度ゾーンと上記高緯度ゾーンとの境界の緯度が、10°以下である、項目1又は2に記載のモールド。
【0071】
[項目4]
上記赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが、凸面と側面とを有しており、
上記凸面が上記低緯度ベース面から離れており、上記側面が上記凸面の高さ方向に延在しかつこの凸面のエッジから上記低緯度ベース面に至っている、項目1から3のいずれかに記載のモールド。
【0072】
[項目5]
上記側面の高さの最大値が20μm以上である、項目4に記載のモールド。
【0073】
[項目6]
上記側面が、上記赤道面において最大高さを有する、項目4又は5に記載のモールド。
【0074】
[項目7]
上記低緯度ベース面の断面形状が複数の直線を含む、項目4から6のいずれかに記載のモールド。
【0075】
[項目8]
(1)合わされることで実質的に球形状を有するキャビティが形成される一対の半型を有しており、それぞれの半型が複数のピンプルを含むキャビティ面を有しており、上記キャビティ面が低緯度ゾーンと高緯度ゾーンとを有しており、上記低緯度ゾーンがその内径が上記キャビティの仮想球の内径よりも大きい低緯度ベース面を含んでおり、上記高緯度ゾーンがその内径が上記仮想球の内径と一致する高緯度ベース面を含んでおり、それぞれのピンプルが上記低緯度ベース面又は上記高緯度ベース面から突出しており、上記仮想球の赤道面と交差するか又はこの赤道面に近接するピンプルが部分的に又は全体で上記低緯度ベース面から突出しているモールドに、材料を投入する工程、
(2)上記モールドの中で上記材料を加圧し、キャビティ面の形状が反転された形状を有するゴルフボール中間品を得る工程、
並びに
(3)上記ゴルフボール中間品の赤道の近傍を切削する工程
を備えた、ゴルフボール製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0076】
前述のモールドにより、種々の構造のゴルフボールが得られうる。このモールドにより、種々の材質のゴルフボールが得られうる。
【符号の説明】
【0077】
2・・・ゴルフボール用モールド
4・・・半型
6・・・上型
8・・・下型
10・・・パーティング面
12・・・キャビティ面
14・・・キャビティ
16・・・ピンプル
18・・・低緯度ゾーン
20・・・高緯度ゾーン
22・・・低緯度ベース面
24・・・高緯度ベース面
26・・・フラット面
28・・・リッジ
30・・・リセス
32・・・凸面
34・・・側面
36・・・ゴルフボール中間品
38・・・大径ゾーン
40・・・小径ゾーン
42・・・ディンプル
44・・・段差
46・・・バリ
48・・・ゴルフボール
161・・・交差ピンプル
162・・・近接ピンプル
421・・・ディンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20