(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115667
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】荷重制限装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/00 20060101AFI20240820BHJP
F16H 21/44 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16F9/00 A
F16H21/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021423
(22)【出願日】2023-02-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)掲載日:2022年9月4日 https://ac.rsj-web.org/2022/ https://ac.rsj-web.org/2022/online/onlineproc.html 「第40回日本ロボット学会学術講演会」の上記アドレスのオンライン予稿集にて公開 (2)開催日:2022年9月6日 場所:東京大学本郷キャンパス 「第40回日本ロボット学会学術講演会」において公開 (3)開催日:2022年12月3日 ZOOMミーティングによる開催の「放送大学 岸根研究室2022年卒業研究発表会」で公開
(71)【出願人】
【識別番号】515304190
【氏名又は名称】株式会社人機一体
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金岡 克弥
(72)【発明者】
【氏名】野村 方哉
【テーマコード(参考)】
3J062
3J069
【Fターム(参考)】
3J062AB27
3J062AC08
3J062BA14
3J062CB02
3J062CB15
3J062CB32
3J069AA01
(57)【要約】
【課題】剛性の低下を招くことなく衝撃荷重を効果的に制限することが可能な荷重制限装置を提供する。
【解決手段】荷重制限装置10は、外部環境が保護対象Oに入力する荷重Fを制限するものであって、荷重Fが入力される第1部材と、保護対象Oに取り付けられる第2部材と、第2部材に対して第1部材が荷重Fの方向(Z方向)にのみ変位し得るように第1部材および第2部材を連結する連結部材と、第1部材および第2部材の間の空間に配置された、連結部材を介して荷重Fに対応した力が入力される第1ガススプリングおよび第2ガススプリングとを備える。第1ガススプリングは、荷重Fが圧縮荷重であり、かつ入力される力が予め設定された第1初期荷重以上である場合にのみ変位し、第2ガススプリングは、荷重Fが引張荷重であり、かつ入力される力が予め設定された第2初期荷重以上である場合にのみ変位する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部環境が保護対象に入力する荷重を制限する荷重制限装置であって、
前記荷重が入力される第1部材と、
前記保護対象に取り付けられる第2部材と、
前記第2部材に対して前記第1部材が想定される前記荷重の方向にのみ変位し得るように前記第1部材および前記第2部材を連結する連結部材と、
前記第1部材および前記第2部材の間の空間に配置された、前記連結部材を介して前記荷重に対応した力が入力される第1ガススプリングおよび第2ガススプリングと、
を備え、
前記第1ガススプリングは、前記荷重が前記第1部材を前記第2部材に近づける圧縮荷重であり、かつ前記連結部材を介して入力される力が予め設定された第1初期荷重以上である場合にのみ変位して荷重を制限し、
前記第2ガススプリングは、前記荷重が前記第1部材を前記第2部材から遠ざける引張荷重であり、かつ前記連結部材を介して入力される力が予め設定された第2初期荷重以上である場合にのみ変位して荷重を制限する
ことを特徴とする荷重制限装置。
【請求項2】
前記第1部材、前記第2部材および前記連結部材は、サーラットの機構を構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の荷重制限装置。
【請求項3】
前記連結部材を構成する第1リンク機構と前記第1ガススプリングの入力端とに接続された、前記荷重の方向に対して直角な方向に変位可能な第1力伝達部材と、
前記連結部材を構成する第2リンク機構と前記第2ガススプリングの入力端とに接続された、前記荷重の方向に対して直角な方向に変位可能な第2力伝達部材と、
前記第1ガススプリングの基端と前記第2ガススプリングの基端とに接続されたガススプリング支持部材と、
をさらに備え、
前記第1リンク機構および前記第2リンク機構は、相対向している
ことを特徴とする請求項2に記載の荷重制限装置。
【請求項4】
前記ガススプリング支持部材と前記第1ガススプリングの基端との間、または前記ガススプリング支持部材と前記第2ガススプリングの基端との間に設けられた力センサをさらに備えている
ことを特徴とする請求項3に記載の荷重制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護対象に入力される圧縮荷重および引張荷重を予め設定した範囲内に制限する荷重制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直動アクチュエータとして油圧シリンダの代わりに電動シリンダを利用することが様々な分野で検討されている。電動シリンダによれば、油圧シリンダよりも高精度な位置制御が可能になると期待される。その一方で、電動シリンダは、電動モータの回転を減速する減速機(ギヤ)や、減速後の回転を受けて直動(伸縮)するボールネジ等の回転直動変換機構等、金属同士が接触して摺動あるいは転動する機械構造で構成されているため、油圧シリンダに比べて外部環境から入力される大きな荷重に対して脆いという問題がある。
【0003】
上記の問題を解決することができる従来の装置として、例えば、特許文献1に記載の装置が知られている。この装置によれば、一方の部材から他方の部材に入力される力が所定の閾値以上になったときに磁性板が磁石から脱離することで、該閾値以上の力が他方の部材に入力されるのを防ぐことができる。なお、この装置では、一方の部材から他方の部材に入力される力を制限する閾値は、磁力によって決定される。すなわち、設定できる閾値は磁力の強さによって制限を受けることになる。出力する推力の大きい(外部環境から入力される荷重が大きい)電動シリンダにおいて、磁力によって設定できる閾値では伝達できる推力が不足することが予想される。
【0004】
上記の問題は、(1)荷重入力と電動シリンダとの間に弾性体を装着する、(2)一般的なボールネジよりも衝撃に強い滑りネジを使用した電動シリンダを使用する、(3)荷重入力と電動シリンダとの間に機械的なクラッチ機構を設ける、(4)電動モータの制御系にソフトウェア的なクラッチを設ける、等の手法によっても解決することができると考えられる。しかしながら、(1)の手法を採ると高精度な位置制御に関わる剛性が低下し、(2)の手法を採ると効率が低下し、(3)の手法を採ると重量が増加する。また、(4)の手法では、急激に変化する荷重(すなわち、衝撃荷重)を十分に制限することはできない。ソフトウェア的な制御には応答遅れが存在するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、剛性の低下を招くことなく衝撃荷重を効果的に制限することが可能な荷重制限装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る荷重制限装置は、外部環境が保護対象に入力する荷重を制限するものであって、荷重が入力される第1部材と、保護対象に取り付けられる第2部材と、第2部材に対して第1部材が想定される荷重の方向にのみ変位し得るように第1部材および第2部材を連結する連結部材と、第1部材および第2部材の間の空間に配置された、連結部材を介して荷重に対応した力が入力される第1ガススプリングおよび第2ガススプリングと、を備え、第1ガススプリングは、荷重が第1部材を第2部材に近づける圧縮荷重であり、かつ連結部材を介して入力される力が予め設定された第1初期荷重以上である場合にのみ変位して荷重を制限し、第2ガススプリングは、荷重が第1部材を第2部材から遠ざける引張荷重であり、かつ連結部材を介して入力される力が予め設定された第2初期荷重以上である場合にのみ変位して荷重を制限する、との構成を有している。
【0008】
上記荷重制限装置は、第1部材、第2部材および連結部材が、例えば、サーラットの機構を構成していてもよい。
【0009】
上記荷重制限装置は、例えば、連結部材を構成する第1リンク機構と第1ガススプリングの入力端とに接続された、荷重の方向に対して直角な方向に変位可能な第1力伝達部材と、連結部材を構成する第2リンク機構と第2ガススプリングの入力端とに接続された、荷重の方向に対して直角な方向に変位可能な第2力伝達部材と、第1ガススプリングの基端と第2ガススプリングの基端とに接続されたガススプリング支持部材と、をさらに備え、第1リンク機構および第2リンク機構は、相対向している、との構成を有していてもよい。
【0010】
上記荷重制限装置は、ガススプリング支持部材と第1ガススプリングの基端との間、またはガススプリング支持部材と第2ガススプリングの基端との間に設けられた力センサをさらに備えていてもよい。
【0011】
なお、上記「第1ガススプリング」および「第2ガススプリング」には、比較的大きな初期荷重(例えば、数kgf~数十tonf以上の初期荷重)を有し、かつコイルスプリング、ゴムスプリング、リーフスプリング等の他のスプリングよりもストロークの変化に対する荷重の変化が緩やかな(好ましくは、ストロークの変化に対して荷重がほとんど変化しない)、ガススプリング相当の機械要素が含まれるものとする(
図8参照)。ストロークの変化に対する荷重の変化が緩やかであることは、予め設定された第1荷重F1および第2荷重F2で正確に荷重を制限するために重要である(
図2参照)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、剛性の低下を招くことなく衝撃荷重を効果的に制限することが可能な荷重制限装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る荷重制限装置を示す斜視図である。
【
図2】実施例に係る荷重制限装置の作用効果を示すグラフである。
【
図3】実施例に係る荷重制限装置の構成要素を示す図であって、(A)は荷重変換部を示す斜視図、(B)は荷重制限部を示す斜視図である。
【
図4】実施例における荷重制限部を示す図であって、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【
図5】実施例に係る荷重制限装置の簡略図であって、(A)は荷重Fが第1荷重F1以上である場合の簡略図、(B)は荷重Fが第2荷重F2よりも大きく第1荷重F1よりも小さい場合の簡略図、(C)は荷重Fが第2荷重F2以下である場合の簡略図である。
【
図6】実施例に係る荷重制限装置を示す正面図であって、(A)は荷重Fが第1荷重F1以上である場合の正面図、(B)は荷重Fが第2荷重F2よりも大きく第1荷重F1よりも小さい場合の正面図、(C)は荷重Fが第2荷重F2以下である場合の正面図である。
【
図7】実施例における荷重制限部を示す平面図であって、(A)は荷重Fが第1荷重F1以上である場合の平面図、(B)は荷重Fが第2荷重F2よりも大きく第1荷重F1よりも小さい場合の平面図、(C)は荷重Fが第2荷重F2以下である場合の平面図である。
【
図8】ガススプリングおよび他のスプリングの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る荷重制限装置の実施例について説明する。なお、本明細書では、座標系として(一般的な)右手系ではなく左手系を使用するが、特に意味はなく、右手系で説明しても作用効果は何ら変わるものではない。
【0015】
[実施例]
図1に、本発明の実施例に係る荷重制限装置10を示す。同図に示すように、荷重制限装置10は、電動シリンダ等からなる保護対象Oの先端部に取り付けて使用され、外部環境が保護対象Oに入力する荷重Fを制限する。より詳しくは、荷重制限装置10は、
図2に示すように、正の荷重Fである圧縮荷重のうち予め設定された第1荷重F1を上回る部分と、負の荷重Fである引張荷重のうち予め設定された第2荷重F2を下回る部分とをカットし、ハッチングを付した部分のみが保護対象Oに入力されるようにする。
【0016】
なお、本実施例では、保護対象Oの先端部がXY平面に平行な取付面を有するものとする。また、本実施例では、Z方向の荷重Fが荷重制限装置10に入力されるものとする。
【0017】
荷重制限装置10は、
図3(A)に示す荷重変換部20と、同図(B)に示す荷重制限部30とを備えている。
【0018】
荷重変換部20は、Z方向の荷重FをX方向の力に変換するためのもので、荷重Fが入力される天板21と、保護対象Oの取付面に取り付けられる底板22と、4つのリンク機構23,24,25,26とを備えている。なお、「天板」、「底板」の語は、参照符号21で示された部材が参照符号22で示された部材の上方に位置することを意味するものではない。また、リンク機構23,24,25,26は、本発明の「連結部材」に相当する。
【0019】
天板21は、本発明の「第1部材」に相当する。天板21は、Y方向に延びた貫通孔からなる連結部21a,21bと、X方向に延びた貫通孔からなる連結部21c,21dとを有している。本実施例では、連結部21a,21bは、天板21のX方向に離間した相対向する縁部に設けられ、連結部21c,21dは、天板21のY方向に離間した相対向する縁部に設けられている。
【0020】
底板22は、本発明の「第2部材」に相当する。底板22は、Y方向に延びた貫通孔からなる連結部22a,22bと、X方向に延びた貫通孔からなる連結部22c,22dとを有している。本実施例では、連結部22a,22bは、底板22のX方向に離間した相対向する縁部に設けられ、連結部22c,22dは、底板22のY方向に離間した相対向する縁部に設けられている。
【0021】
第1リンク機構23は、天板側リンク部材231および底板側リンク部材232で構成されている。天板側リンク部材231は、その上端部において天板21の連結部21aに回動可能に連結されている。底板側リンク部材232は、その下端部において底板22の連結部22aに回動可能に連結されている。天板側リンク部材231の下端部および底板側リンク部材232の上端部も、回動可能に連結されている。
【0022】
第2リンク機構24は、天板側リンク部材241および底板側リンク部材242で構成されている。天板側リンク部材241は、その上端部において天板21の連結部21bに回動可能に連結されている。底板側リンク部材242は、その下端部において底板22の連結部22bに回動可能に連結されている。天板側リンク部材241の下端部および底板側リンク部材242の上端部も、回動可能に連結されている。
【0023】
第3リンク機構25は、天板側リンク部材251および底板側リンク部材252で構成されている。天板側リンク部材251は、その上端部において天板21の連結部21cに回動可能に連結されている。底板側リンク部材252は、その下端部において底板22の連結部22cに回動可能に連結されている。天板側リンク部材251の下端部および底板側リンク部材252の上端部も、回動可能に連結されている。
【0024】
第4リンク機構26は、天板側リンク部材261および底板側リンク部材262で構成されている。天板側リンク部材261は、その上端部において天板21の連結部21dに回動可能に連結されている。底板側リンク部材262は、その下端部において底板22の連結部22dに回動可能に連結されている。天板側リンク部材261の下端部および底板側リンク部材262の上端部も、回動可能に連結されている。
【0025】
天板21、底板22および4つのリンク機構23,24,25,26は、平行リンクの一種であるサーラットの機構を構成している。このため、天板21に正の荷重F(圧縮荷重)が入力されると、天板21は、底板22に正対したまま該底板22に近づく。一方、天板21に負の荷重F(引張荷重)が入力されると、天板21は、底板22に正対したまま該底板22から遠ざかる。リンク機構23,24,25,26は、底板22に対して天板21がY方向にのみ変位するように両者を連結しているといえる。
【0026】
なお、本実施例では、天板21とリンク機構23,24,25,26、底板22とリンク機構23,24,25,26、および各リンク機構(例えば第1リンク機構23)における天板側リンク部材231と底板側リンク部材232とを、ボルトおよびナットの組み合わせにより回動可能に連結したが、これは単なる一例である。本発明では、荷重変換部20の各部の可動を実現するために、ガタつきがボルトおよびナットの組み合わせと同等、または該組み合わせよりも少ない機構を採用してもよい。例えば、回転軸とボールベアリング、または回転軸とブッシュ、等の組み合わせを採用してもよい。
【0027】
荷重制限部30は、
図3(B)および
図4に示すように、第1力伝達部材31と、第2力伝達部材32と、ガススプリング支持部材33と、1つの第1ガススプリング40と、2つの第2ガススプリング50,50と、力センサ60とを備えている。
【0028】
第1力伝達部材31は、Y方向に延びたガススプリング接続部31bと該ガススプリング接続部31bの中央から-X方向に延びたリンク連結部31aとを有している。ガススプリング接続部31bは、第2ガススプリング50,50の入力端(ピストンロッド50a,50aの先端)に接続されている。リンク連結部31aは、第1リンク機構23の可動部分、すなわち天板側リンク部材231および底板側リンク部材232の連結部分に回動可能に連結されている。第1リンク機構23の可動部分が±X方向に変位すると、第1力伝達部材31も±X方向に同じ量だけ変位する。
【0029】
第2力伝達部材32は、X方向に延びたリンク接続部32aと、リンク接続部32aから-X方向に離間した位置にあるガススプリング接続部32bと、ガススプリング支持部材33を上下(Z方向)から僅かな隙間を空けて挟み込むようにX方向に延び、リンク接続部32aおよびガススプリング接続部32bを接続するガイド部32c,32dとを有している。リンク接続部32aは、第2リンク機構24の可動部分、すなわち天板側リンク部材241および底板側リンク部材242の連結部分に回動可能に連結されている。ガススプリング接続部32bは、第1ガススプリング40の入力端(ピストンロッド40aの先端)に接続されている。第2リンク機構24の可動部分が±X方向に変位すると、第2力伝達部材32も±X方向に同じ量だけ変位する。
【0030】
ガススプリング支持部材33は、第2ガススプリング50,50のうちの一方の基端(チューブ50bの末端)に接続されるとともにX方向に延びた第1支持部33aと、他方の基端(チューブ50bの末端)に接続されるとともにX方向に延びた第2支持部33bと、第1支持部33aおよび第2支持部33bの双方から連続した、力センサ60を介して第1ガススプリング40の基端(チューブ40bの末端)に接続された第3支持部33cとを有している。特に
図4(A)に示すように、ガススプリング支持部材33は、U字状またはV字状を有している。
【0031】
ガススプリング支持部材33は、第2力伝達部材32に対して、X方向にのみ非接触でスライドすることができる。
【0032】
第1ガススプリング40は、伸びきった状態が無負荷の初期状態であり圧縮することにより反力が発生する圧縮タイプのガススプリングであり、ガスが封入された円筒状のチューブ40bと該チューブ40bに対してスライド可能なピストンロッド40aとを有している。入力端としてのピストンロッド40aに入力される力が第1荷重F1(
図2参照)に対応する第1初期荷重Fth1(Fth1=F1×α。ただし、αは第1リンク機構23および第2リンク機構24を含む荷重変換部20の変換係数)未満であるとき、ピストンロッド40aは、そのほとんどがチューブ40bから飛び出した状態(初期状態)をとる(
図7(B),(C)参照)。また、ピストンロッド40aは、第1初期荷重Fth1以上の力が入力されるとチューブ40bに収容されていき、最終的に、そのほとんどがチューブ40bに収容された状態(フルストローク状態)をとる(
図7(A)参照)。
【0033】
第2ガススプリング50,50はそれぞれ、第1ガススプリング40と同様の圧縮タイプのガススプリングであり、ガスが封入された円筒状のチューブ50bと該チューブ50bに対してスライド可能なピストンロッド50aとを有している。入力端としてのピストンロッド50aに入力される力が第2荷重F2(
図2参照)に対応する第2初期荷重Fth2(Fth2=-F2×0.5×α)未満であるとき、ピストンロッド50aは、そのほとんどがチューブ50bから飛び出した状態(初期状態)をとる(
図7(A),(B)参照)。また、ピストンロッド50aは、第2初期荷重Fth2以上の力が入力されるとチューブ50bに収容されていき、最終的に、そのほとんどがチューブ50bに収容された状態(フルストローク状態)をとる(
図7(C)参照)。
【0034】
前述した通り、第1力伝達部材31、第2力伝達部材32およびガススプリング支持部材33は、±X方向にのみ変位する。このため、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50,50にX方向以外の向きの力が入力されることはない。第1ガススプリング40および第2ガススプリング50,50は、X方向以外の向きの力が入力されないように機構的に保護されているといえる。
【0035】
本実施例では、第1荷重F1と第2荷重F2の絶対値が等しくなるように、第2初期荷重Fth2が第1初期荷重Fth1(例えば、50kgf)の1/2である25kgfに設定されている。
【0036】
なお、第1荷重F1(第1初期荷重Fth1)および第2荷重F2(第2初期荷重Fth2)は、特許文献1に記載の装置における所定の閾値に概ね相当する。特許文献1に記載の装置では、磁力の強さの制限により、比較的強力な磁石を多量に配置しないと数十kgf以上の閾値を実現することはできない。一方、ガススプリングは一般に単体で数十kgf以上の初期荷重を有しているため、本発明ではそのような煩わしさは生じず、小型軽量な荷重制限装置を実現することが可能である。
【0037】
力センサ60は、第1ガススプリング40のチューブ40bとガススプリング支持部材33の第3支持部33cとの間に作用するX方向の力を検出し、検出した結果を適当な電気信号として出力する。前述した通り、ガススプリング支持部材33は、第2力伝達部材32に対してX方向にのみスライドする。このため、力センサ60にX方向以外の向きの力が入力されることはない。力センサ60は、X方向以外の向きの力が入力されないように機構的に保護されているといえる。
【0038】
図5に、力センサ60を省略した荷重制限装置10の簡略図を示す。同図に示すように、第1リンク機構23は、第1力伝達部材31を介して第2ガススプリング50,50の入力端(ピストンロッド50a,50aの先端)に接続されている。第2リンク機構24は、第2力伝達部材32を介して第1ガススプリング40の入力端(ピストンロッド40aの先端)に接続されている。また、第1ガススプリング40の基端(チューブ40bの末端)および第2ガススプリング50,50の基端(チューブ50b,50bの末端)は、ガススプリング支持部材33を介して相互に接続されている。
【0039】
このため、荷重制限装置10に第1荷重F1よりも小さな正の荷重F、すなわち制限を必要としない圧縮荷重が入力され、第1リンク機構23の可動部分(天板側リンク部材231および底板側リンク部材232の連結部分)に-X方向の力がかかるとともに第2リンク機構24の可動部分(天板側リンク部材241および底板側リンク部材242の連結部分)に+X方向の力がかかると、第1ガススプリング40に該第1ガススプリング40を縮めようとする力が入力される(同図(B)参照)。そして、入力される荷重Fが第1荷重F1以上となり、第1ガススプリング40を縮めようとする力が第1初期荷重Fth1以上となると、第1ガススプリング40は縮む(同図(A)参照)。
【0040】
一方、荷重制限装置10に第2荷重F2よりも大きな負の荷重F、すなわち制限を必要としない引張荷重が入力され、第1リンク機構23の可動部分に+X方向の力がかかるとともに第2リンク機構24の可動部分に-X方向の力がかかると、第2ガススプリング50,50のそれぞれに該第2ガススプリング50,50を縮めようとする均等な力が入力される(同図(B)参照)。そして、入力される荷重Fが第2荷重F2以下となり、第2ガススプリング50,50を縮めようとする力が第2初期荷重Fth2以上となると、第2ガススプリング50,50は縮む(同図(C)参照)。
【0041】
図6および
図7を参照しながら、荷重Fが入力されたときの荷重制限装置10の動き(変形)についてさらに詳しく説明する。なお、
図6では、第3リンク機構25および第4リンク機構26の図示が省略され、
図7では、荷重変換部20の図示が省略されている。
【0042】
荷重Fが第2荷重F2よりも大きく、かつ第1荷重F1よりも小さいとき、すなわち、荷重Fがゼロ、比較的小さな圧縮荷重または比較的小さな引張荷重であるとき、荷重制限装置10は、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50,50が縮んでいない状態(初期状態)をとる(
図6(B)、
図7(B)参照)。第1ガススプリング40が縮まないのは、第1リンク機構23および第2リンク機構24を含む荷重変換部20が第1ガススプリング40に入力するX方向の力(=荷重F×変換係数α)が第1初期荷重Fth1に達していないからである。また、第2ガススプリング50,50が縮まないのは、荷重変換部20が第2ガススプリング50,50のそれぞれに入力するX方向の力(=0.5×荷重F×変換係数α)が第2初期荷重Fth2に達していないからである。
【0043】
なお、このとき、力センサ60は、荷重変換部20が出力するX方向の力、すなわち荷重Fに比例した力に関する電気信号を出力する。
【0044】
また、このとき、保護対象Oには、荷重Fがそのまま入力される。
【0045】
荷重Fが第1荷重F1以上であるとき、すなわち、荷重Fが制限されるべき比較的大きな圧縮荷重であるとき、荷重制限装置10は、第1ガススプリング40は縮んでいるが第2ガススプリング50,50は縮んでいない状態をとる(
図6(A)、
図7(A)参照)。第1ガススプリング40が縮んだ(変位した)のは、荷重変換部20が第1ガススプリング40に入力するX方向の力が第1初期荷重Fth1に達したからである。
【0046】
なお、このとき、力センサ60は、第1ガススプリング40等で構成された荷重制限部30によって制限されたX方向の力、すなわち第1初期荷重Fth1に関する電気信号を出力する。
【0047】
また、このとき、保護対象Oには、第1荷重F1が入力される。
【0048】
荷重Fが第2荷重F2以下であるとき、すなわち、荷重Fが制限されるべき比較的大きな引張荷重であるとき、荷重制限装置10は、第1ガススプリング40は縮んでいないが第2ガススプリング50,50のそれぞれは縮んだ状態をとる(
図6(C)、
図7(C)参照)。第2ガススプリング50,50が縮んだ(変位した)のは、荷重変換部20が第2ガススプリング50,50のそれぞれに入力するX方向の力が第2初期荷重Fth2に達したからである。
【0049】
なお、このとき、力センサ60は、第2ガススプリング50,50等で構成された荷重制限部30によって制限されたX方向の力、すなわち第2初期荷重Fth2に応じた電気信号を出力する。
【0050】
また、このとき、保護対象Oには、第2荷重F2が入力される。
【0051】
このように、本実施例に係る荷重制限装置10によれば、正の荷重Fである圧縮荷重のうち予め設定された第1荷重F1を上回る部分と、負の荷重Fである引張荷重のうち予め設定された第2荷重F2を下回る部分とをカットし、ハッチングを付した部分のみが保護対象Oに入力されるようになる(
図2参照)。
【0052】
また、本実施例に係る荷重制限装置10では、従来の手法(1)で使用するような弾性体を使用しない。したがって、荷重制限装置10によれば、剛性の低下を招くことなく過大な荷重Fが保護対象Oに入力されるのを防ぐことができる。
【0053】
なお、本実施例に係る荷重制限装置10は、第1ガススプリング40が縮みきった後(フルストローク状態)に入力される大きな圧縮荷重、および第2ガススプリング50,50が縮みきった後(フルストローク状態)に入力される大きな引張荷重を制限し続けることはできない。しかしながら、この問題は、作動開始は遅いが永続的に作動し続けるソフトウェア的なクラッチ(従来の手法(4))を併用することにより、容易に解消することができる。
【0054】
逆に言えば、従来の手法(4)を併用することによって、ガススプリング40,50,50は、急激に変化する荷重(衝撃荷重)のみ(つまり、荷重の高周波成分のみ)に専念することができ、必要なストロークを小さく設計することが可能となる。これは、荷重制限装置10のさらなる小型軽量化を可能とする。
【0055】
[変形例]
以上、本発明に係る荷重制限装置の実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。
【0056】
例えば、本発明では、荷重変換部20の代わりに、荷重Fが入力される第1部材と、保護対象Oに取り付けられる第2部材と、第2部材に対して第1部材が荷重Fの方向(Z方向)にのみ変位し得るように両者を連結する連結部材とを含む任意の平行リンクを使用することができる。一例として、本発明では、荷重変換部20から第3リンク機構25または第4リンク機構26を省略したものを使用することができる。
【0057】
また、本発明では、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50として、縮みきった状態が無負荷の初期状態であり引っ張ることにより反力が発生する引張タイプのガススプリングを使用することができる。ただし、機械要素として一般的で、製品のバリエーションが豊富なのは、圧縮タイプのガススプリングである。
【0058】
また、本発明では、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50の一方を圧縮タイプとし、他方を引張タイプとすることもできる。この場合は、第1力伝達部材31、第2ガススプリング50、力センサ60、第1ガススプリング40および第2力伝達部材32をこのような順序で機械的に直列に接続すればよい。
【0059】
また、本発明では、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50の数を1以上の任意に数に変更することができる。例えば、第1ガススプリング40の数を1、第2ガススプリング50の数を1としてもよいし、第1ガススプリング40の数を4、第2ガススプリング50の数を2としてもよい。
【0060】
また、本発明では、保護対象Oの脆弱性に応じて、第1荷重F1に対応する第1初期荷重Fth1および第2荷重F2に対応する第2初期荷重Fth2を任意に設定することができる。
【0061】
また、本発明では、ガススプリング支持部材33の第3支持部33cと第1ガススプリング40の基端(チューブ40bの末端)との間ではなく、ガススプリング支持部材33の第1支持部33aおよび第2支持部33bと第2ガススプリング50,50の基端(チューブ50b,50bの末端)との間に力センサ60,60を設けることができる。この場合は、荷重制限装置10の任意の場所に別途設けられた演算処理装置が、一方の力センサ60が出力した電気信号と他方の力センサ60が出力した電気信号とを演算し、各力センサ60,60において計測された力の和に対応した電気信号を出力してもよいし、外部演算処理装置が、荷重制限装置10(力センサ60,60)から出力される2つの電気信号を演算し、各力センサ60,60において計測された力の和を求めてもよい。
【0062】
また、本発明では、第1力伝達部材31(例えば、-X方向に延びたリンク連結部31aの途中)、または第2力伝達部材32(例えば、X方向に延びたリンク接続部32aの途中)に力センサ60を設けることができる。
【0063】
また、本発明では、荷重Fを検知する必要がない場合に力センサ60を省略することができる。この場合は、ガススプリング支持部材33の第3支持部33cで第1ガススプリング40の基端(チューブ40bの末端)を直接的に支持すればよい。
【0064】
また、本発明では、保護対象Oに近い順に、第1の底板、第1の天板(第2の底板)、第2の天板(第3の底板)、第3の天板を配置し、それぞれをリンク機構23,24,25,26のような連続部材で接続するとともに、第1の底板と第1の天板(第2の底板)との間の空間に力センサ60を配置し、第1の天板(第2の底板)と第2の天板(第3の底板)との間の空間に少なくとも1つの第1ガススプリング40を配置し、第2の天板(第3の底板)と第3の天板との間の空間に少なくとも1つの第2ガススプリング50を配置してもよい。なお、力センサ60、第1ガススプリング40および第2ガススプリング50をどの空間に配置するかは、任意に変更することができる。
【0065】
また、本発明に係る荷重制限装置は、電動シリンダ以外のものを保護するために使用されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 荷重制限装置
20 荷重変換部
21 天板
22 底板
23 第1リンク機構
24 第2リンク機構
25 第3リンク機構
26 第4リンク機構
30 荷重制限部
31 第1力伝達部材
32 第2力伝達部材
33 ガススプリング支持部材
40 第1ガススプリング
50 第2ガススプリング
60 力センサ