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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115684
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】建造物解析システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240820BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20240820BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/13
E04B1/98 ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021463
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100184712
【弁理士】
【氏名又は名称】扇原 梢伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 朋央貴
【テーマコード(参考)】
2E001
5B146
【Fターム(参考)】
2E001DF06
2E001DG00
5B146AA04
5B146DG07
5B146DJ01
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】専門技術者以外でも検証が容易な建造物解析システムを提供する。
【解決手段】建造物解析システム100は、解析対象となる建造物の構造及び仕様を3次元データで表したBIMモデルを用いて建造物を解析するシステムであって、BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成する簡易モデル生成処理部120と、振動伝搬経路探索用データを生成する検索用データ生成処理部122と、加振室及び評価室の指定を受け付ける指定受付処理部124と、加振室から評価室までの最短経路を探索する探索処理部126と、評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出する算出処理部128と、算出処理部128の算出結果を出力可能とする出力処理部114と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象となる建造物の構造及び仕様を3次元データで表したBIMモデルを用いて建造物を解析する建造物解析システムであって、
前記BIMモデルの梁に関する位置情報に基づいて、前記BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成する簡易モデル生成手段と、
前記簡易モデル及び前記簡易モデルの階数を示す階数情報に基づいて、振動伝搬経路探索用データを生成する検索用データ生成手段と、
前記簡易モデルの中から、振動の発生源となる加振室及び前記加振室で発生する振動の影響を評価する評価室の指定を受け付ける指定受付手段と、
前記振動伝搬経路探索用データを用いて、前記加振室から前記評価室までの最短経路を探索する探索手段と、
前記BIMモデル、前記簡易モデル、及び、前記最短経路に基づいて、前記評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出する算出手段と、
前記算出手段の算出結果を出力可能とする出力手段と、
を備える建造物解析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記BIMモデルのチェックを実行し、前記建造物が正しくモデリングされているか否かを判定する判定手段を備え、
前記簡易モデル生成手段は、前記判定手段により前記建造物が正しくモデリングされていると判定された場合、前記簡易モデルを生成することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項3】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記出力手段は、複数の前記評価室の算出結果を表示する場合、算出結果の値に応じて算出結果を色分けして表示することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項4】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記簡易モデル生成手段により生成された簡易モデルを、ユーザの操作によって調整可能とする調整手段を備えることを特徴とする建造物解析システム。
【請求項5】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記算出手段は、前記BIMモデル及び前記簡易モデルより抽出した情報に基づいて、少なくとも前記最短経路から求めた振動の伝達損失、床のインピーダンスレベルと固有周波数とを含むスラブ情報、前記評価室の吸音力、及び、スラブの有効放射面積を算出し、算出した各種数値に基づいて前記床振動レベル及び前記音圧レベルを算出することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項6】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記出力手段は、前記算出手段の算出において用いた各種数値のうち少なくとも一部を出力することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項7】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記出力手段は、前記建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、前記算出手段の算出結果を出力することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項8】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記出力手段は、前記建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、前記算出手段の算出結果を出力する場合、前記床振動レベルだけを出力するか、前記音圧レベルだけを出力することを特徴とする建造物解析システム。
【請求項9】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の床振動レベルを前記複数のスラブの最大値とし、前記評価室の音圧レベルを前記複数のスラブからの放射音を合成した値とすることを特徴とする建造物解析システム。
【請求項10】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の床振動レベルを前記複数のスラブの最大値とすることを特徴とする建造物解析システム。
【請求項11】
請求項1に記載の建造物解析システムにおいて、
前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の音圧レベルを前記複数のスラブからの放射音を合成した値とすることを特徴とする建造物解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BIMモデルを用いて建造物を解析する建造物解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建造物内における振動対策は、居住性において重要な要素であり、建造物を建築する前に防振対策が検討されてきた。そして、特許文献1の技術では、SEA(統計的エネルギ解析)法による伝搬音予測方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-144814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解析対象とする建造物(ホテル、住宅、病院、工場、スタジオ)は、構造が多様化しており、かつ、許容される床振動、室内騒音レベルは建物用途・室用途により異なる。また、建造物に設けられる振動発生源は、各フロアの機械室や屋上スラブ等に多数存在し、それぞれの機器に対し適切な防振検討を行う必要がある。
【0005】
この点、上述した先行技術の伝搬音予測方法では、騒音・振動源のパワーレベルや指向特性などの音響物理特性を設定する必要があるため、専門技術者以外は検証が困難である。
【0006】
そこで本発明は、専門技術者以外でも検証が容易な建造物解析システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため以下の解決手段を採用する。なお、以下の解決手段及び括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。また、本発明は、以下の解決手段に示す各発明特定事項を少なくとも1つ含む発明とすることができる。さらに、以下の解決手段に示す各発明特定事項には、発明特定事項を限定する要素を追加して下位概念化することができ、発明特定事項を限定する要素を削除して上位概念化することもできる。
【0008】
解決手段1:本解決手段の建造物解析システムは、解析対象となる建造物の構造及び仕様を3次元データで表したBIMモデルを用いて建造物を解析する建造物解析システムであって、前記BIMモデルの梁に関する位置情報に基づいて、前記BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成する簡易モデル生成手段と、前記簡易モデル及び前記簡易モデルの階数を示す階数情報に基づいて、振動伝搬経路探索用データを生成する検索用データ生成手段と、前記簡易モデルの中から、振動の発生源となる加振室及び前記加振室で発生する振動の影響を評価する評価室の指定を受け付ける指定受付手段と、前記振動伝搬経路探索用データを用いて、前記加振室から前記評価室までの最短経路を探索する探索手段と、前記BIMモデル、前記簡易モデル、及び、前記最短経路に基づいて、前記評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出する算出手段と、前記算出手段の算出結果を出力可能とする出力手段と、を備える建造物解析システムである。
【0009】
本解決手段によれば、ユーザは、加振室及び評価室を指定するだけで、評価室の床振動レベル及び音圧レベルを確認することができるため、専門技術者以外でも容易に検証が可能である。また、本解決手段によれば、BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成し、その簡易モデルを利用して評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出するため、計算処理速度を速くすることができる。
【0010】
解決手段2:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記BIMモデルのチェックを実行し、前記建造物が正しくモデリングされているか否かを判定する判定手段を備え、前記簡易モデル生成手段は、前記判定手段により前記建造物が正しくモデリングされていると判定された場合、前記簡易モデルを生成することを特徴とする建造物解析システムである。
【0011】
本解決手段によれば、BIMモデルが正しくモデリングされていない場合には、簡易モデルを生成しないため、評価室の床振動レベル及び音圧レベルが正確に算出されないような場合には、BIMモデルの修正を促したり、評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出しないようにしたりすることができる。
【0012】
解決手段3:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記出力手段は、複数の前記評価室の算出結果を表示する場合、算出結果の値に応じて算出結果を色分けして表示することを特徴とする建造物解析システムである。
【0013】
本解決手段によれば、算出結果を色分けして表示するため、色分けによって検証結果、仕様変更結果の比較が容易となる。
【0014】
解決手段4:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記簡易モデル生成手段により生成された簡易モデルを、ユーザの操作によって調整可能とする調整手段を備えることを特徴とする建造物解析システムである。
【0015】
本解決手段によれば、簡易モデルをユーザの操作によって調整可能とするため、簡易モデルの自由度を向上させることができる。
【0016】
解決手段5:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記算出手段は、前記BIMモデル及び前記簡易モデルより抽出した情報に基づいて、少なくとも前記最短経路から求めた振動の伝達損失、床のインピーダンスレベルと固有周波数とを含むスラブ情報、前記評価室の吸音力、及び、スラブの有効放射面積を算出し、算出した各種数値に基づいて前記床振動レベル及び前記音圧レベルを算出することを特徴とする建造物解析システムである。
【0017】
本解決手段によれば、伝達損失、スラブ情報、評価室の吸音力、スラブの有効放射面積等に基づいて床振動レベル及び音圧レベルを算出するため、多くの情報に基づいて床振動レベル及び音圧レベルを正確に算出することができる。
【0018】
解決手段6:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記出力手段は、前記算出手段の算出において用いた各種数値のうち少なくとも一部を出力することを特徴とする建造物解析システムである。
【0019】
本解決手段によれば、算出手段の算出において用いた各種数値のうち少なくとも一部を出力するため、各種数値を出力することによって、いずれの数値に問題があるのかを細かく検証することができる。
【0020】
解決手段7:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記出力手段は、前記建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、前記算出手段の算出結果を出力することを特徴とする建造物解析システムである。
【0021】
本解決手段によれば、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出結果を出力するため、床振動レベルや音圧レベルが建造物内で空間的に移行していく様子を分かりやすく確認することができる。
【0022】
解決手段8:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記出力手段は、前記建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、前記算出手段の算出結果を出力する場合、前記床振動レベルだけを出力するか、前記音圧レベルだけを出力することを特徴とする建造物解析システムである。
【0023】
本解決手段によれば、平面図、断面図、又は、立体図に算出結果を出力する場合、床振動レベルだけを出力するか、音圧レベルだけを出力するため、各図において算出結果の見やすさを向上させることができる。
【0024】
解決手段9:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の床振動レベルを前記複数のスラブの最大値とし、前記評価室の音圧レベルを前記複数のスラブからの放射音を合成した値とすることを特徴とする建造物解析システムである。
【0025】
本解決手段によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、最大値や合成した値を採用することにより、評価室の床振動レベルや音圧レベルを分かりやすく表示することができる。
【0026】
解決手段10:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の床振動レベルを前記複数のスラブの最大値とすることを特徴とする建造物解析システムである。
【0027】
本解決手段によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、評価室の床振動レベルとして、複数のスラブの最大値を採用するため、評価室の床振動レベルを分かりやすく表示することができる。
【0028】
解決手段11:本解決手段の建造物解析システムは、上述したいずれかの解決手段において、前記算出手段は、前記評価室が複数のスラブに跨る場合、前記評価室の音圧レベルを前記複数のスラブからの放射音を合成した値とすることを特徴とする建造物解析システムである。
【0029】
本解決手段によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、評価室の音圧レベルとして、複数のスラブからの放射音を合成した値を採用するため、評価室の音圧レベルを分かりやすく表示することができる。
【0030】
その他の解決手段:本解決手段の建造物解析プログラムは、解析対象となる建造物の構造及び仕様を3次元データで表したBIMモデルを用いて建造物を解析する建造物解析プログラムであって、コンピュータに、前記BIMモデルの梁に関する位置情報に基づいて、前記BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成する簡易モデル生成ステップと、前記簡易モデル及び前記簡易モデルの階数を示す階数情報に基づいて、振動伝搬経路探索用データを生成する検索用データ生成ステップと、前記簡易モデルの中から、振動の発生源となる加振室及び前記加振室で発生する振動の影響を評価する評価室の指定を受け付ける指定受付ステップと、前記振動伝搬経路探索用データを用いて、前記加振室から前記評価室までの最短経路を探索する探索ステップと、前記BIMモデル、前記簡易モデル、及び、前記最短経路に基づいて、前記評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出する算出ステップと、前記算出ステップの算出結果を出力可能とする出力ステップと、を実行させる建造物解析プログラムである。
【0031】
建造物解析プログラムは、上述した建造物解析システムの各機能を実行するステップをコンピュータに実行させるものである。本解決手段によれば、上述した建造物解析システムを建造物解析プログラムによって実現することができる。なお、上述した各解決手段の構成(動作、処理)は、プログラムの処理に変換して建造物解析プログラムに適用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、専門技術者以外でも検証が容易な建造物解析システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】建造物解析システム100の構成例を示すブロック図である。
図2】建造物解析システム100が実行する建造物解析処理の手順例を示すフローチャートである。
図3】簡易モデルの生成例を示す図である。
図4】最短経路の探索例を示す図である。
図5】最短経路の算出例を示す図である。
図6】加振室と評価室の関係による減衰量を示す図である。
図7】算出処理で用いるデータを示す図である。
図8】評価室が複数のスラブに跨る場合の床振動レベル及び音圧レベルの算出例を示す図である。
図9】床振動レベルの結果表示例を示す平面図である。
図10】床振動レベルの結果表示例を示す断面図である。
図11】床振動レベルの結果表示例を示す立体図である。
図12】音圧レベルの結果表示例を示す平面図である。
図13】音圧レベルの結果表示例を示す断面図である。
図14】音圧レベルの結果表示例を示す立体図である。
図15】建造物解析処理の結果を計算レポートに表示した出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の実施形態では、建造物解析システム及び建造物解析プログラムの好適な一例を挙げているが、本発明の形態は例示のものに限らない。
【0035】
〔システムの構成例〕
図1は、建造物解析システム100の構成例を示すブロック図である。建造物解析システム100は、例えばコンピュータ機器102をハードウエアとして構成されており、当該コンピュータ機器102が一実施形態の建造物解析プログラムを実行することで機能する。コンピュータ機器102は、本体102aの他に液晶表示装置等のディスプレイ102b、入力装置のキーボード102c、マウス102d等を有する。なお、コンピュータ機器102は、いわゆるデスクトップ型に限らず、ノートブック型(ラップトップ型)でもよいし、タブレット型等でもよい。
【0036】
建造物解析システム100は、コンピュータ機器102のハードウエア資源を用いて実現されるいくつかの機能要素を含む。機能要素としては、例えば、制御部110や入力処理部112、出力処理部114(出力手段)、画像処理部116(出力手段)といった基本要素の他に、建造物解析システム100の処理に特化した簡易モデル生成処理部120(簡易モデル生成手段)、検索用データ生成処理部122(検索用データ生成手段)、指定受付処理部124(指定受付手段)、探索処理部126(探索手段)、算出処理部128(算出手段)、判定処理部130(判定手段)、調整処理部140(調整手段)といったコア要素がある。なお、コア要素の各処理部が実行する処理の詳細については、別の図面を参照しながらさらに後述する。また、ハードウエア資源である記憶媒体150にはデータベース160が構築されており、このデータベース160もまた建造物解析システム100を構成する。記憶媒体150は、コンピュータ機器102の内蔵機器又は周辺機器で構成される。
【0037】
〔基本要素〕
制御部110は、建造物解析システム100内での処理全体を制御する。また、入力処理部112及び出力処理部114は、キーボード102cやマウス102d等のデバイスとの間で信号を入出力したり、各種の通信プロトコルを用いて外部接続先との間でデータ信号を入出力したりする処理を行う。また、出力処理部114は、建造物解析システム100の解析結果を出力する処理を実行し、画像処理部116は、出力処理部114の出力結果をディスプレイ102bに画像として表示する際の画像処理を実行する。すなわち、出力処理部114及び画像処理部116は、算出処理部128の算出結果(計算結果)を出力可能とする。
【0038】
また、データベース160には、「加振力データベース」及び「防振量データベース」が内部に構築されている。「加振力データベース」には、解析処理に用いられるパラメータとして、加振室に配置する機器(例えば、給水ポンプ等)の加振力に関する加振力データが予め登録されている。「防振量データベース」には、加振室に配置する防振要素(例えば、防振架台等)の防振量に関する防振量データが予め登録されている。算出処理部128は、解析処理の実行に際してデータベース160を参照して、これらのデータを計算に使用することができる。なお、データベース160に登録されるデータ構成は上記に限られない。
【0039】
〔アドイン形式〕
本実施形態では、建造物解析システム100とは別の構成としてBIMツール実行処理部170をコンピュータ機器102に実装することができる。BIMツール実行処理部170は、コンピュータ機器102において上記のBIMツールを実行する要素であり、例えば建造物設計者等のユーザにより使用される。ハードウエア構成上、同じコンピュータ機器102に建造物解析システム100とBIMツール実行処理部170とが共存している場合、本実施形態の建造物解析システム100はBIMツールのアドインとして使用することができる。なお、建造物解析システム100は常にアドイン形式で使用される必要はなく、建造物解析に特化したツールとして構築されてもよい。この場合、BIMツール実行処理部170の構成はコンピュータ機器102に実装されなくてもよい。
【0040】
〔システム概要〕
建造物解析システム100の概要は、以下の通りである。建造物解析システム100は、解析対象となる建造物の構造及び仕様を3次元データで表したBIMモデル(CADモデル)を用いて建造物を解析するシステムである。BIMモデルは、設計段階で作成されており、BIMモデルを使用することにより、建造物の各部屋の面積や容積、スラブに関する情報等を簡便に利用することができる。なお、BIMモデルは、建造物解析システム100とは別のBIMツール(例えば、REVIT:登録商標)またはCADツールを用いて作成されている。建造物解析システム100は、BIMモデルを用いた建造物内の床振動レベル及び音圧レベルの解析方法を提供する。
【0041】
建造物解析システム100は、以下の処理を実行可能である。
(1)スラブ厚、スラブ面積、梁等の建物の構造情報や振動伝搬経路をBIMモデルから抽出することで床振動レベルを予測する。
(2)室内の内装仕上げ材、表面積・容積等の情報をBIMモデルから抽出することで床振動レベルから音圧レベルを予測する。
(3)上記(1)(2)により振動発生源に対する適切な防振対策を提案することができる。
【0042】
建造物解析システム100のインプット情報、内部処理、アウトプット情報の概要は、以下の通りである。
〔インプット情報〕
(1)加振室、評価室(それぞれ複数指定可):平面図から指定
(2)加振力(複数指定可):「データベースから選択」又は「直接入力」
(3)防振量(複数の加振力に対しては個別設定可):「データベースから選択」、「直接入力」又は「共振周波数fの指定」
【0043】
〔内部処理〕
(1)振動伝搬経路、伝達損失(位置関係、スラブ厚、面積等)の取得等
(2)スラブ情報の取得等(Z:床のインピーダンスレベル、fr:固有周波数r等)
(3)有効放射面積、室内吸音力の取得等
【0044】
〔アウトプット〕
(1)床振動加速度レベル:評価曲線にプロットする(VL曲線、ISO(2631/2part2)曲線)。
(2)音圧レベル
(3)必要防振量:ケーススタディ機能に追加することもできる。
(4)計算レポートによる結果表示:床振動レベル及び音圧レベルを平面図、断面図、立体図(3D図)で色分け表示する。
【0045】
〔建造物解析処理〕
図2は、建造物解析システム100が実行する建造物解析処理の手順例を示すフローチャートである。本実施形態の建造物解析プログラムは、図2の手順(各ステップ)をコンピュータ機器102に実行させるものである。以下、手順例に沿って説明する。
【0046】
ステップS100:簡易モデル生成処理部120は、今回の解析対象となる建造物のBIMモデルを取得する(取得ステップ)。BIMモデルは、上記のようにBIMツール実行処理部170において生成されたものを利用することができる。同一のハードウエア環境内にBIMツール実行処理部170が実装されていない場合、入力処理部112を通じて外部機器等からBIMモデルを取得することができる。
【0047】
ステップS102:判定処理部130は、判定処理を実行する(判定ステップ)。判定処理は、BIMモデルのチェックを実行し、建造物が正しくモデリングされているか否かを判定する処理である。例えば、判定処理部130は、大梁や通り芯がモデリングされていなかったり、構造物の床に孔が開いていたりした場合には、建造物が正しくモデリングされていないと判定することができる。判定処理でエラーとなった場合は、建造物解析システム100がここで一旦処理を抜け、ディスプレイ102bにエラーメッセージの出力処理を実行する。一方、エラーとならなかった場合、モデルチェック完了のメッセージ出力処理を実行し、次のステップS104に進む。すなわち、簡易モデル生成処理部120は、判定処理部130により建造物が正しくモデリングされていると判定された場合、簡易モデルを生成する。
【0048】
ステップS104:簡易モデル生成処理部120は、簡易モデル生成処理を実行する(簡易モデル生成ステップ)。簡易モデル生成処理は、BIMモデルの梁に関する位置情報に基づいて、BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成する処理である。
【0049】
ステップS106:検索用データ生成処理部122は、検索用データ生成処理を実行する(検索用データ生成ステップ)。検索用データ生成処理は、簡易モデル及び簡易モデルの階数を示す階数情報(レベル情報)に基づいて、振動伝搬経路探索用データを生成する処理である。
【0050】
ステップS108:指定受付処理部124は、指定受付処理を実行する(指定受付ステップ)。指定受付処理は、簡易モデルの中から、振動の発生源となる加振室及び加振室で発生する振動の影響を評価する評価室の指定を受け付ける処理である。また、指定受付処理では、加振力と防振量の入力も受け付ける。ただし、防振量の入力は、必須の項目ではない。
【0051】
ステップS110:探索処理部126は、探索処理を実行する(探索ステップ)。探索処理は、振動伝搬経路探索用データを用いて、加振室から評価室までの最短経路を探索する処理である。なお、最短経路に基づいて、スラブの伝達数(加振室から評価室まで移動する際に水平方向でいくつのスラブを移動するかを示す数)及び階の伝達数(加振室から評価室まで移動する際に垂直方向でいくつの階を移動するかを示す数)が算出される。
【0052】
ステップS112:算出処理部128は、算出処理を実行する(算出ステップ)。算出処理は、BIMモデル、簡易モデル、及び、最短経路に基づいて、評価室の床振動レベル(床振動、振動レベル)及び音圧レベル(固体伝搬音、固体音、固体音レベル、騒音レベル、固体音による音圧レベル、室内放射音)を算出する処理である。評価室の床振動レベルは、評価室の振動に関する情報であり、音圧レベルは、評価室の振動に基づいて発生する音に関する情報である。
【0053】
ステップS114:出力処理部114及び画像処理部116は、結果出力処理を実行する(出力ステップ)。結果出力処理は、算出処理の結果をディスプレイ102bに表示する処理である。また、出力処理部114及び画像処理部116は、複数の評価室の算出結果を表示する場合、算出結果の値に応じて算出結果を色分けして表示することができる。算出結果の出力例については、別の図面を用いてさらに説明する。
【0054】
ステップS116:建造物解析システム100は、ケーススタディを実行するか否かを判断する。ケーススタディの有無は、例えば、評価室の床振動レベルや音圧レベルが予め定めた目標値の範囲内に収まっているかを基準として、ユーザが判断することができる。建造物解析システム100は、この処理において、例えばディスプレイ102b上に「ケーススタディを実行しますか?」のダイアログメッセージとともに、「はい」「いいえ」等の選択肢をボタン表示し、ユーザに操作入力を要求する。その結果、ユーザから「はい」の操作入力がなされると、ケーススタディあり(Yes)と判断し、ステップS108以降を再度実行する。ユーザから「いいえ」の操作入力がなされると、ケーススタディなし(No)と判断し、本処理を終了する。なお、ケーススタディなし(No)と判断した後に最終的な結果出力処理を改めて行ってもよい。また、ケーススタディの結果は、建造物解析システム100が元のBIMモデルに対して自動的に反映させることができる。
【0055】
〔簡易モデル生成例〕
図3は、簡易モデルの生成例を示す図である。上記の判定処理(図2のステップS102)において、判定処理部130は、解析処理を実行するために、BIMモデルのチェックを実施し、建物が正しくモデリングされているか判定する。そして、BIMモデルが正しくモデリングされていないと判定した場合は、ユーザに対してBIMモデルの修正を促す。一方、BIMモデルが正しくモデリングされていると判定した場合は、上記の簡易モデル生成処理(図2のステップS104)において、検索用データ生成処理部122は、大梁の位置情報(通り芯の位置情報)を基に、振動伝搬経路探索用の簡易モデル(長方形領域)を自動生成する。検索用データ生成処理部122は、大梁の位置情報を正確に把握することできれば、大梁の位置情報に基づいて簡易モデルを生成し、大梁の位置情報を正確に把握することできなければ又は大梁の位置情報が存在しなければ、通り芯の位置情報に基づいて簡易モデルを生成する。
【0056】
具体的には、図3(A)に示すように、BIMモデルの情報から大梁の位置情報(通り芯の位置情報)を取得し、図3(B)に示すように、振動伝搬経路探索用の大梁・スラブに関する簡易モデルを自動生成する。ここで、図3(A)の上部の図に示すように、大梁の位置情報が連続していない場合(右上の大梁が短い場合)や、図3(A)の下部の図に示すように、通り芯の位置情報が連続していない場合がある(右上の部分が接続されていない場合がある)。このような場合、簡易モデルは、図3(B)に示すように、右上のスラブが存在しないものとして生成される。簡易モデルは、図3(B)に示す状態で使用することもできるが、図3(C)に示すように、自動作成された長方形領域を必要に応じてユーザが調整する(自動生成されなかったスラブに対応する長方形領域を操作入力によって追加する)ことも可能である。すなわち、調整処理部140は、簡易モデル生成処理部120により生成された簡易モデルを、ユーザの操作によって調整可能とする。
【0057】
〔最短経路探索例〕
図4は、最短経路の探索例を示す図である。上記の検索用データ生成処理(図2のステップS106)において、検索用データ生成処理部122は、経路を検索するための検索用データ(例えば、点と線分の情報)を自動生成する処理を実行する。具体的には、計算対象レベル(計算対象とするデータ)の長方形領域とレベル情報とを、検索用データ(点と線分の情報)に変換する処理を実行する(例えば、図4(A)の2階、3階、4階の各6つのスラブのデータを、図4(B)の丸と線のデータに変換する処理を実行する)。
【0058】
次に、上記の指定受付処理(図2のステップS108)において、指定受付処理部124は、ユーザの操作入力によって、計算対象室(加振室、評価室)を平面図上で受け付ける(指定する)処理を実行する。計算対象室を受け付ける際には、加振力や防振量も合わせて受け付ける。なお、ここでは、加振室(加振源スラブ)を4階のスラブ(4-3)上に設定し、評価室(評価室スラブ)を3階のスラブ(3-5)上に設定したものとする。そして、上記の探索処理(図2のステップS110)において、探索処理部126は、加振室(加振源スラブ)及び評価室(評価室スラブ)の位置に基づいて、始点(加振源スラブ)から終点(評価室スラブ)までを特定し、最短経路を探索する処理(最短経路取得処理)を実行する。
【0059】
ここで、図4(B)の丸印は、長方形領域(スラブ)を示しており、実線は、長方形領域(スラブ)の境界を示しており、点線は、レベル(階数情報)を示しており、グレーの太線は、加振源スラブ(4-3)から評価室スラブ(3-5)までの最短経路(探索により通過した経路)を示している。具体的に、最短経路は、「加振源スラブ(4-3)」→「スラブ(4-6)」→「スラブ(4-5)」→「評価室スラブ(3-5)」として決定されている。この場合、水平方向の伝達数は「+2」となり、垂直方向の伝達数は「+1」となる。
【0060】
水平方向の「+2」は、スラブの伝達数(スパン数;水平面上の移動数)であり、垂直方向の「+1」は、階(フロア)の伝達数(スパン数;垂直面上の移動数)である。探索処理部126は、通過する線分の数が小さい経路を最短経路として決定する。なお、最短経路が複数存在する場合は、その中のいずれかの経路を最短経路とする。
【0061】
図5は、最短経路の算出例を示す図である。建物200は、例えば7個のスラブS1~S7を備えている。各スラブには、個室やラウンジ、倉庫、洗面所等が配置されている。そして、ここでは、加振室を2つ設定し(加振室(1)、加振室(2))、評価室も2つ設定している(評価室(1)、評価室(2))。加振室(1)は、スラブS1の個室10であり、加振室(2)は、スラブS7の個室23である。また、評価室(1)は、スラブS2の個室14であり、評価室(2)は、スラブS6の個室20である。
【0062】
そして、評価室(1)は、加振室(1)に対しては、「水平:+1」の伝達数となり、加振室(2)に対しては、「水平:+3」の伝達数となる。また、評価室(2)は、加振室(1)に対しては、「水平:+3」の伝達数となり、加振室(2)に対しては、「水平:+1」の伝達数となる。そして、算出処理部128は、このような伝達数に基づいて、伝達損失を算出する。
【0063】
最短経路の算出が終了すると、次は、上記の算出処理(図2のステップS112)において、各種数値の算出処理が実行される。算出処理においては、解析簡易モデル及びBIMモデルより抽出した情報により、以下の情報を自動計算する。
(1)最短経路(水平、垂直)から求めた振動の伝達損失
(2)スラブ情報:床のインピーダンスレベル、固有周波数
(3)評価室の吸音力、スラブの有効放射面積等
(4)評価室の床振動レベル
(5)評価室の音圧レベル(固体音レベル、騒音レベル)
すなわち、算出処理部128は、BIMモデル及び簡易モデルより抽出した情報に基づいて、少なくとも最短経路から求めた振動の伝達損失、床のインピーダンスレベルと固有周波数とを含むスラブ情報、評価室の吸音力、及び、スラブの有効放射面積を算出し、算出した各種数値に基づいて床振動レベル及び音圧レベルを算出する。なお、床振動レベル及び音圧レベルの算出方法や計算式等は、「日本建築学会,建築物の遮音性能基準と設計指針[第二版]」を参考にしている(図6の内容についても同様である)。
【0064】
〔床振動レベルの算出〕
床振動レベルは、オクターブバンド中心周波数ごとの床振動レベルを合成することにより算出することができる。なお、オクターブバンド中心周波数ごとの床振動レベルは、振動加速度レベルに鉛直振動補正値を加えることで算出することができる。鉛直振動補正値は、オクターブバンド中心周波数に応じて定まる値である。
【0065】
〔オクターブバンド中心周波数ごとの床振動加速度レベル〕
オクターブバンド中心周波数ごとの床振動加速度レベルは、以下の(式1)に基づいて算出している。
【0066】
【数1】
【0067】
振動の伝達損失の求め方は、2つの方法のうちいずれかを採用することができる。1つ目の方法は、最短経路の伝達数によって伝達損失を算出する方法である。2つ目の方法は、最短経路の距離によって伝達損失を算出する方法である。
【0068】
まず、1つ目の方法について説明する。1つ目の方法では、図6に示すようなデータに基づいて伝達損失を算出する。
【0069】
図6は、加振室と評価室の関係による減衰量を示す図である。加振室が2階F2の中央Mに位置している場合、その周囲にある部屋の固体音領域(評価室の音圧レベル)と体感領域(評価室の床振動レベル)の減衰量は、以下の通りである。
【0070】
〔3階F3の左Lの部屋、3階F3の中央Mの部屋、3階F3の右Rの部屋〕
固体音領域:-8dB
体感領域 :-8dB
【0071】
〔2階F2の左Lの部屋、2階F2の右Rの部屋〕
固体音領域:-5dB
体感領域 :-5dB
【0072】
〔1階F1の左Lの部屋、1階F1の右Rの部屋〕
固体音領域:-5dB
体感領域 :-8dB
【0073】
〔1階F1の中央Mの部屋〕
固体音領域:0dB
体感領域 :-8dB
【0074】
例えば、加振室で100dBの音が発生している場合、1階F1の左Lの部屋の固体音領域は95dB(=100dB-5dB)となり、体感領域は92dB(=100dB-8dB)となる。そして、建造物解析システム100は、図6に示すようなデータを記憶しており、算出処理部128は、このデータを参照して、伝達損失を算出する。なお、図6に示すデータの構成や数値はあくまで例示であり、システムの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0075】
次に、2つ目の方法について説明する。2つ目の方法では、以下の(式2)に基づいて、伝達損失を算出する。
【0076】
【数2】
【0077】
〔音圧レベルの算出〕
音圧レベルは、オクターブバンド中心周波数ごとの音圧レベルを合成することにより算出することができる。
【0078】
〔オクターブバンド中心周波数ごとの音圧レベル〕
オクターブバンド中心周波数ごとの音圧レベルは、以下の(式3)に基づいて算出している。
【0079】
【数3】
【0080】
図7は、算出処理で用いるデータを示す図である。算出処理部128は、これらのデータに基づいて、床のインピーダンスレベル、固有周波数、評価室の吸音力、スラブの有効放射面積等を算出し、最終的には、評価室の床振動レベル及び評価室の音圧レベルを算出する。
【0081】
〔加振室の情報〕
(1)スラブ短辺長(m)
(2)スラブ長辺長(m)
(3)スラブ厚(m)
(4)加振力レベル(dB)
(5)防振量(dB)
なお、上記(1)~上記(3)は、BIMモデルから自動取得する情報であり、上記(4)(5)は、ユーザが指定(入力)する情報である(「データベースから選択」又は「直接指定」)。
【0082】
〔評価室の情報〕
(6)スラブ短辺長(m)
(7)スラブ長辺長(m)
(8)スラブ厚(m)
(9)有効放射面積(m
(10)室内吸音力(m
(11)床面積(m)、周長(m)
なお、上記(6)~上記(11)は、BIMモデルから自動取得する情報である。λ=340/fであり、λは波長(m)を示し、fは周波数(Hz)を示している。有効放射面積は、図7中の2つの長方形の領域が重なっている部分の面積である。例えば、評価室が個室3である場合、個室3の領域E1と、スラブが実際に強く振動するとされる領域E2(スラブの中央の領域(端部から1/4λの長さを除いた領域))とが重なる部分が有効放射面積となる領域E3である。
【0083】
図8は、評価室が複数のスラブに跨る場合の床振動レベル及び音圧レベルの算出例を示す図である。例えば、特定のフロアにおいて、図8(A)(B)に示すように、図中横方向に5つの通り芯(X1~X5)があり、図中縦方向に4つの通り芯(Y1~Y4)があり、各通り芯の間にスラブが配置されている。そして、このような状況のフロアにおいて、図8(A)に示すように、1個の評価室が、9個のスラブS1~S9に跨って配置されることがある。例えば、大きい講堂や会議室、ホール等では、このような構成になる。そして、加振室では機器が振動する。この場合、床振動レベルや音圧レベルは、各スラブで異なる値となる。実際には、図8(A)に示すように、加振室の右隣のスラブS1が最も大きい値となり、加振室から一番離れたスラブS9が最も小さい値となる。
【0084】
ただし、このように、評価室が複数のスラブに跨る場合、算出処理部128は、評価室の床振動レベルを複数のスラブの最大値とし、評価室の音圧レベルを複数のスラブからの放射音を合成した値とする。具体的には、図8(B)に示すように、評価室の床振動レベルとしては、スラブS1の値を採用し、評価室の音圧レベルとしては、スラブS1~スラブS9の合成値を採用する。なお、評価室が複数のスラブに跨る場合には、床振動レベルの最大値や音圧レベルの合成値を採用せずに、スラブごとの値を表示するようにしてもよい。また、床振動レベルに関しては、(A)スラブごとで個別の値を表示する、(B)最大値を表示するといった内容をユーザからの操作入力に応じて切り替えて表示できるようにしてもよい。さらに、音圧レベルに関しては、(C)スラブごとで個別の値を表示する、(D)合成値を表示するといった内容をユーザからの操作入力に応じて切り替えて表示できるようにしてもよい。
【0085】
評価室が複数のスラブに跨る場合、算出処理部128は、床振動レベルについても音圧レベルについても、最大値や合成値を採用する処理を実行することができるが、以下のいずれかの処理を実行することもできる。
(1)算出処理部128は、評価室が複数のスラブに跨る場合、評価室の床振動レベルを複数のスラブの最大値とする。すなわち、算出処理部128は、床振動レベルについては最大値を採用する。なお、音圧レベルについては合成値を採用しないようにしてもよい。
(2)算出処理部128は、評価室が複数のスラブに跨る場合、評価室の音圧レベルを複数のスラブからの放射音を合成した値とする。すなわち、算出処理部128は、音圧レベルについては合成値を採用する。なお、床振動レベルについては最大値を採用しないようにしてもよい。
【0086】
そして、算出処理が終了すると、次は、上記の結果出力処理(図2のステップS114)において、算出結果の出力処理が実行される。具体的には、平面図、断面図、立体図に、床振動レベル・音圧レベルが色分して表示され、計算レポートの出力も実行される。
【0087】
図9は、床振動レベルの結果表示例を示す平面図である。図10は、床振動レベルの結果表示例を示す断面図である。図11は、床振動レベルの結果表示例を示す立体図である。床振動レベルの算出結果は、2次元の平面図(図9)、2次元の断面図(図10)、3次元の立体図(3D図、透視図、ワイヤーフレーム図、図11)に対してコンター表示することができる。すなわち、入力処理部112及び出力処理部114は、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出処理部128の算出結果(床振動レベル)を出力することができる。また、入力処理部112及び出力処理部114は、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出処理部128の算出結果(床振動レベル)を出力する場合、床振動レベルだけを出力する(床振動レベルと音圧レベルとを同時に出力しない)。
【0088】
ここでは、3階建ての病院を対象に、建造物解析処理を行っている。加振室は、3階の右奥にある機械室(231)としており、評価室は、機械室(231)以外の部屋としている(ただし、EV(エレベータ)や階段、WC(ウォータークローゼット)、洗濯室等は評価室から除いている)。なお、各部屋には、上から順に「部屋名称(例えば、機械室、相談室1)」、「部屋識別番号(例えば、231、381等)」、「床振動レベル(62.5dB、50.1dB等)」が表示されている。平面図(図9)、断面図(図10)、立体図(図11)においては、床振動レベルの差が色の階調差で示されている。なお、図ではグレー階調となっているが、実際にはカラー階調が用いられており、カラー階調はユーザが任意に色調を変更可能である。例えば、加振室である機械室(231)から離れていくほど床振動レベルは小さくなっていることが分かる。
【0089】
特に、図11の立体図において、加振室である機械室(231)からの振動の拡がりは、建造物の平面方向及び断面方向の両方にわたって立体的に表示される。このような3次元のコンター図表示とすることにより、機械室(231)を振動源とする振動が建造物内でどのように変化していくかを立体的に可視化し、さらに遮音性能の評価に資することができる。なお、図11の立体図においては、見やすさを考慮して、部屋名称、部屋識別番号、床振動レベルの値は、表示しないようにすることが好ましい(図14においても同様)。
【0090】
図12は、音圧レベルの結果表示例を示す平面図である。図13は、音圧レベルの結果表示例を示す断面図である。図14は、音圧レベルの結果表示例を示す立体図である。音圧レベルの算出結果は、2次元の平面図(図12)、2次元の断面図(図13)、3次元の立体図(3D図、透視図、ワイヤーフレーム図、図14)に対してコンター表示することができる。すなわち、入力処理部112及び出力処理部114は、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出処理部128の算出結果(音圧レベル)を出力することができる。また、入力処理部112及び出力処理部114は、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出処理部128の算出結果(音圧レベル)を出力する場合、音圧レベルだけを出力する(床振動レベルと音圧レベルとを同時に出力しない)。
【0091】
ここでは、3階建ての病院を対象に、建造物解析処理を行っている。加振室は、3階の右奥にある機械室(231)としており、評価室は、機械室(231)以外の部屋としている(ただし、EV(エレベータ)や階段、WC(ウォータークローゼット)、洗濯室等は評価室から除いている)。なお、各部屋には、上から順に「部屋名称(例えば、機械室、相談室1)」、「部屋識別番号(例えば、231、381等)」、「音圧レベル(66.8dBA、60.9dBA等)」が表示されている。平面図(図12)、断面図(図13)、立体図(図14)においては、音圧レベルの差が色の階調差で示されている。例えば、加振室である機械室(231)から離れていくほど音圧レベルは小さくなっていることが分かる。
【0092】
特に、図14の立体図において、加振室である機械室(231)からの音圧の拡がりは、建造物の平面方向及び断面方向の両方にわたって立体的に表示される。このような3次元のコンター図表示とすることにより、機械室(231)を振動源とする音圧が建造物内でどのように変化していくかを立体的に可視化し、さらに遮音性能の評価に資することができる。図9図11の床振動レベルに関する図と、図12図14の音圧レベルに関する図は、ユーザの操作入力により、切り替えて表示することができる。
【0093】
図15は、建造物解析処理の結果を計算レポートに表示した出力例を示す図である。建造物解析処理の算出結果は、先の平面図、断面図、立体図(図9図14)の他に、レポート形式で出力することもできる。すなわち、入力処理部112及び出力処理部114は、算出処理部128の算出処理において用いた各種数値のうち少なくとも一部を出力可能とする。
【0094】
図15の左側上段には、機械室(231)の床振動レベルの計算レポートが表示されている。機械室(231)の床振動レベルの項目としては、大項目として「機械室(231)加振力の算定Lf」、「機械室(231)床のインピーダンスレベル」があり、小項目として「加振力レベル合成値0dB=10-5(N)」、「床の無限大インピーダンスレベルZ」、「固有振動数f」、「f/f」、「周波数補正」、「床のインピーダンスレベルL」、「床の振動加速度レベルLa1」、「鉛直振動補正値」、「機械室(231)の床振動レベル」がある。そして、「機械室(231)の床振動レベル」の項目については、「OA」に含まれる「LV」と「Lva」の値が表示され、それ以外の小項目については、オクターブバンド中心周波数(Hz)の値(2~500)に応じた値が表示される。なお、「OA(オーバーオール値)」は、オクターブバンド中心周波数ごとの床振動加速度レベルと、オクターブバンド中心周波数ごとの床振動レベルとを合成した値を示している。また、「LVa」は、床振動加速度レベルを示している。「LV」は、床振動レベルを示しており、「LVa」に人間の感覚補正を加えたものである。「LV」と「LVa」とでは、床振動レベル等を合成する際の計算式を異なるものにしている。
【0095】
図15の左側中段には、相談室1(381)の床振動レベルの計算レポートが表示されている。相談室1(381)の床振動レベルの項目としては、「ΔL1位置関係による減衰」、「ΔL2吸音力による補正40m以下で+3dB」、「ΔL3床厚の違いによる補正」、「床の振動加速度レベル」、「鉛直振動補正値」、「相談室1(381)の床振動レベル」がある。そして、「相談室1(381)の床振動レベル」の項目については、「OA」に含まれる「LV」と「Lva」の値が表示され、それ以外の項目については、オクターブバンド中心周波数(Hz)の値(2~500)に応じた値が表示される。
【0096】
図15の左側下段には、相談室1(381)の音圧レベルの計算レポートが表示されている。相談室1(381)の音圧レベルの項目としては、「スラブのコインシデンス限界周波数fc」、「音響放射係数kfc以下で-5dB/OCT」、「10log(k)dB」、「有効放射面積」、「室内吸音力」、「相談室1(381)の音圧レベル」がある。そして、「相談室1(381)の音圧レベル」の項目については、OAに含まれる「A特性」と「Z特性」の値が表示され、それ以外の項目については、オクターブバンド中心周波数(Hz)の値(63~500)に応じた値が表示される。なお、「A特性」は、人間の感覚補正を加えたものであり、「Z特性」とは、人間の感覚補正を加えていないものである。「A特性」と「Z特性」とでは、音圧レベル等を合成する際の計算式を異なるものにしている。
【0097】
そして、図15の右側上段及び右側下段に示されているように、VL曲線やIOS(2621/2part2)曲線によるグラフもそれぞれレポート表示される。計算レポートは、例えばCSV等の表計算ファイル形式で出力したり、ディスプレイ102bに表示したりすることができる。また、計算レポートは、スラブ毎に作成することもでき、加振室や評価室ごとに作成することもできる。
【0098】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)本実施形態によれば、ユーザは、加振室及び評価室を指定するだけで、評価室の床振動レベル及び音圧レベルを確認することができるため、専門技術者以外でも容易に検証が可能である。すなわち、設計者は振動源の設置、解析場所を2次元の平面図、断面図で指定するだけで、計算に必要な伝搬経路、構造情報をプログラムが自動取得することができ、専門技術者以外でも容易に検証が可能である。
【0099】
(2)本実施形態によれば、BIMモデルの建造物を簡易的に示した振動伝搬経路探索用の簡易モデルを生成し、その簡易モデルを利用して評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出するため、BIMモデルをそのまま利用する方式と比較して、計算処理速度を速くすることができる。すなわち、BIMモデルから振動伝搬経路探索用の簡易モデルを自動生成するため、計算処理速度が速い。
【0100】
(3)本実施形態によれば、BIMモデルが正しくモデリングされていない場合には、簡易モデルを生成しないため、評価室の床振動レベル及び音圧レベルが正確に算出されないような場合には、BIMモデルの修正を促したり、評価室の床振動レベル及び音圧レベルを算出しないようにしたりすることができる。
【0101】
(4)本実施形態によれば、算出結果(床振動レベルや音圧レベル)を色分けして表示するため、色分けによって検証結果、仕様変更結果の比較が容易となる。すなわち、解析結果は、2次元の平面図、断面図、立体図に対して色分け表示することができ、振動が建造物内で空間的に広がる状態を視認でき、検証結果、仕様変更結果の比較が容易となる。
【0102】
(5)本実施形態によれば、簡易モデルをユーザの操作によって調整可能とするため、簡易モデルの自由度を向上させることができる。
【0103】
(6)本実施形態によれば、伝達損失、スラブ情報、評価室の吸音力、スラブの有効放射面積等に基づいて床振動レベル及び音圧レベルを算出するため、多くの情報に基づいて床振動レベル及び音圧レベルを正確に算出することができる。
【0104】
(7)本実施形態によれば、算出処理部128の算出において用いた各種数値のうち少なくとも一部を計算レポート(表やグラフ)として出力するため、各種数値を出力することによって、いずれの数値に問題があるのかを細かく検証することができる。また、計算レポートでは、振動源毎に算出結果が出力されるため、寄与度判定が容易となる。
【0105】
(8)本実施形態によれば、建造物の平面図、断面図、又は、立体図に、算出結果を出力するため、床振動レベルや音圧レベルが建造物内で空間的に移行していく様子を分かりやすく確認することができる。
【0106】
(9)本実施形態によれば、平面図、断面図、又は、立体図に算出結果を出力する場合、床振動レベルだけを出力するか、音圧レベルだけを出力するため、各図において算出結果の見やすさを向上させることができる。
【0107】
(10)本実施形態によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、各スラブの個別の値を表示したり、最大値や合成した値を表示したりすることにより、評価室の床振動レベルや音圧レベルを分かりやすく表示することができる。
【0108】
(11)本実施形態によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、評価室の床振動レベルとして、各スラブの個別の値を表示したり、複数のスラブの最大値を表示したりすることができるため、評価室の床振動レベルを分かりやすく表示することができる。
【0109】
(12)本実施形態によれば、評価室が複数のスラブに跨る場合には、評価室の音圧レベルとして、各スラブの個別の値を表示したり、複数のスラブからの放射音を合成した値を表示したりすることができるため、評価室の音圧レベルを分かりやすく表示することができる。また、上記(10)~(12)においては、各スラブの個別の値と、最大値や合成値とを切り替えて表示することができるため、いずれか一方だけを表示する場合と比較して、より詳細な検証が可能となる。
【0110】
(13)本実施形態によれば、上述した建造物解析システムを建造物解析プログラムによって実現することができる。
【0111】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、種種に変形して実施可能である。一実施形態で挙げた建造物はあくまで一例であり、様々な構造や目的を有する建造物に対しても本発明を適用可能である。
【0112】
一実施形態では、床振動レベル及び音圧レベルを色分け表示する例で説明したが、床振動レベル及び音圧レベルを算出する過程で用いる情報(床振動加速度レベル等)を色分け表示してもよい。
【0113】
また、床振動レベル及び音圧レベルが予め定めた目標値を超えている場合には、必要防振量の算出を行い、その算出結果に基づいて、防振材の選定をしたり、防振量を強化することを促す表示を行ったりしてもよい。
【0114】
その他、システムの構成例(図1)や手順例(図2)、計算レポートの表示例(図15)は好適例に過ぎず、これらを適宜変更して本発明を実施可能である。
【符号の説明】
【0115】
100 建造物解析システム
110 制御部
112 入力処理部
114 出力処理部
116 画像処理部
120 簡易モデル生成処理部
122 検索用データ生成処理部
124 指定受付処理部
126 探索処理部
128 算出処理部
130 判定処理部
140 調整処理部
150 記憶媒体
160 データベース
170 BIMツール実行処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15