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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115768
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】木質耐火部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240820BHJP
   B32B 13/10 20060101ALI20240820BHJP
   B32B 13/14 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04B1/94 V
B32B13/10
B32B13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021597
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 正寿
【テーマコード(参考)】
2E001
4F100
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001HA01
2E001HA03
2E001HA04
2E001HA32
2E001HA34
2E001HB04
2E001HC01
2E001HC11
4F100AC00
4F100AD00
4F100AE01
4F100AE01B
4F100AE06
4F100AE06B
4F100AP00
4F100AP00A
4F100AR00D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA21B
4F100BA21C
4F100CA23
4F100CA23B
4F100DG01
4F100DG01C
4F100GB07
4F100JJ01B
4F100JJ01C
4F100JJ02C
4F100JJ07
4F100JJ07B
4F100JJ07C
4F100JJ07D
(57)【要約】
【課題】火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材を提供する。
【解決手段】木質耐火部材1Aは、建物を構成する木質耐火部材1Aであって、荷重を負担する荷重支持部2Aと、荷重支持部2Aの外周面に設けられる第1耐火被覆層3Aと、第1耐火被覆層3Aの外周面に設けられる第2耐火被覆層4Aと、を備え、第1耐火被覆層3Aは、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成され、第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに比べて、熱伝導率および比重が小さい繊維系断熱材を、第1耐火被覆層3Aに固定して形成されている。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を構成する木質耐火部材であって、
荷重を負担する荷重支持部と、
当該荷重支持部の外周面に設けられる第1耐火被覆層と、
当該第1耐火被覆層の外周面に設けられる第2耐火被覆層と、を備え、
前記第1耐火被覆層は、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成され、
前記第2耐火被覆層は、前記第1耐火被覆層に比べて、熱伝導率および比重が小さい繊維系断熱材を、前記第1耐火被覆層に固定して形成されていることを特徴とする木質耐火部材。
【請求項2】
前記第1耐火被覆層は、前記第2耐火被覆層に比べて容積比熱が大きく、かつ前記第2耐火被覆層に比べて、層厚さが大きいことを特徴とする請求項1に記載の木質耐火部材。
【請求項3】
前記第1耐火被覆層の、前記荷重支持部の出隅部を覆う部分には、前記第1耐火被覆層の表面に、耐火シートが貼り付けられている、または耐火塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1または2に記載の木質耐火部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物を構成する木質耐火部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物を施工するに際し、柱や梁などを耐火被覆することがある。例えば特許文献1には、鉄骨の周囲を被覆する不燃性材料からなる板材と、板材の鉄骨に面する側に積層した、耐火膨張シート及び発泡体又は緩衝材からなる層と、を備え、耐火膨張シートは、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物及び無機充填剤を含有する樹脂組成物からなる構成が開示されている。
【0003】
特に、耐火被覆する対象となる部材が木質の部材である場合には、石膏等の部材により、部材を覆うことが一般である。特許文献2、3には、このような、木質の部材を石膏で覆う構成が開示されている。
特許文献2、3には、このような、木質の部材を石膏で覆う構成が開示されている。
具体的には、特許文献2には、荷重を負担する荷重支持部と、荷重支持部の外周面に設けられた第1の耐火被覆層と、第1の耐火被覆層の外周面に設けられた第2の耐火被覆層と、を備え、第2の耐火被覆層は、第1の耐火被覆層と比べて、熱伝導率が小さい耐火構造部材が開示されている。特許文献2には、荷重支持部を集成材とし、第1の耐火被覆層を石膏とし、第2の耐火被覆層を発泡させた石膏とした形態が開示されている。
特許文献3には、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられる第1燃え止まり層と、第1燃え止まり層の外側に設けられ、第1燃え止まり層の崩落を防止するための不燃性を有する材料からなる崩落防止材とを備える耐火集成材が開示されている。特許文献3には、第2燃え止まり層を強化石膏ボードや石膏ボード等とし、第1燃え止まり層を不燃木材とした形態が開示されている。
【0004】
ところで、例えば木質の部材を石膏のみにより耐火被覆しようとすると、石膏は重量が大きいため、部材全体の重量が過大なものとなってしまう。これに対し、上記のように、木質の部材の外側に設けられた石膏の厚みを減らすとともに、石膏の更に外側に、発泡させた石膏や不燃木材を設けることにより、石膏の使用量を低減し、部材全体の重量を低減できる可能性がある。石膏に替えて、コンクリートを用いた場合も同様である。
しかし、特許文献2の構成においては、石膏の外側に設けられた、発泡させた石膏が、火災時には熱を受けて結晶水を放出し、微細なひび割れが生じて脆くなって形状の維持が難しくなり、脱落することがある。
特許文献3の構成においても、強化石膏ボードや石膏ボードの外側に設けられた不燃木材が、燃焼して断面欠損する可能性がある。
木質耐火部材を、火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、より軽量に、かつ優れた耐火性能を有するように実現することが、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-117422号公報
【特許文献2】特開2020-180443号公報
【特許文献3】特開2016-30895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、木質耐火部材(柱、梁)として、中央部に荷重支持部を配置し、その外周囲に2種類の第1、第2の耐火被覆層を設けることで、1種類の耐火被覆層のみ、厚さを増加させる場合に比べて、軽量の耐火被覆部材を実現できる点に着眼して、本発明に至った。具体的には、木質耐火部材では、第1の耐火被覆層(石膏、石膏ボード、モルタル、コンクリート)は容積比熱が大きく、第2の耐火被覆層は熱伝導率、及び比重が小さい繊維系断熱材とすることで、木質耐火部材を構成する荷重支持部の温度上昇を遅らせることができ、優れた耐火性能を実現した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の木質耐火部材は、建物を構成する木質耐火部材であって、荷重を負担する荷重支持部と、当該荷重支持部の外周面に設けられる第1耐火被覆層と、当該第1耐火被覆層の外周面に設けられる第2耐火被覆層と、を備え、前記第1耐火被覆層は、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成され、前記第2耐火被覆層は、前記第1耐火被覆層に比べて、熱伝導率および比重が小さい繊維系断熱材を、前記第1耐火被覆層に固定して形成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分として形成されている第1耐火被覆層の外周面に、第1耐火被覆層に比べて熱伝導率が小さい第2耐火被覆層が設けられている。このため、第2耐火被覆層を含めた耐火被覆層の全体を、第1耐火被覆層と同じ部材により実現した場合に比べると、火災が発生し、木質耐火部材に外側から熱が伝達しようとした場合に、内側に位置する第1耐火被覆層へ熱が伝導しにくい構成となっている。このため、耐火性能が向上する。
また、第2耐火被覆層は、第1耐火被覆層に比べて比重が小さい繊維系断熱材を、第1耐火被覆層に固定して形成されている。このため、効率的に、重量を低減することができる。
更に、第2耐火被覆層は、例えば耐熱ロックウールやセラミックファイバーなどの耐熱性を有する繊維系断熱材であるため、火災により熱を受けても崩落したり、断面欠損したりすることがなく、したがって、耐火性能をより効率的に確保することができる。
その結果、火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材を実現提供することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記第1耐火被覆層は、前記第2耐火被覆層に比べて容積比熱が大きく、かつ前記第2耐火被覆層に比べて、層厚さが大きい。
このような構成によれば、荷重支持部に接する第1耐火被覆層が、第2耐火被覆層に比べて容積比熱(単位体積当たりの比熱)が大きく、かつ層厚さが大きいため、火災時に第2耐火被覆層から第1耐火被覆層へと熱が伝導したとしても、第1耐火被覆層の荷重支持部側の温度は、容易には上昇しない。これにより、第1耐火被覆層、及びその内側に設けられた荷重支持部の温度上昇を遅らせることができる。したがって、優れた耐火性能を実現可能である。
【0009】
本発明の一態様においては、前記第1耐火被覆層の、前記荷重支持部の出隅部を覆う部分には、前記第1耐火被覆層の表面に、耐火シートが貼り付けられている、または耐火塗料が塗布されている。
荷重支持部を断面視したときに、出隅部は、2面からの加熱を受けるため、温度が上昇しやすい。
これに対し、上記のような構成によれば、第1耐火被覆層の、荷重支持部の出隅部に対応して、出隅部を覆う部分の表面に、耐火シート、または耐火塗料が設けられている。これにより、第1耐火被覆層と第2耐火被覆層を特段に厚くすることなく、火災時における、荷重支持部の熱橋となり得る出隅部の温度上昇を、遅らせることができる。
したがって、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材を実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る木質耐火部材の構成を示す、(a)は縦断面図であり、(b)はII-II部分の概略横断面図である。
図2図1(a)の木質耐火部材の本体部分(I-I部分)の横断面図である。
図3図1(a)の木質耐火部材の第2耐火被覆層に設けるスペーサの設置位置(II-II部分)の横断面図であり、図1(b)の詳細な図面である。
図4図1(a)の木質耐火部材の材端部分(III-III部分)の横断面図である。
図5】上記実施形態の第1変形例に係る木質耐火部材の構成を示す横断面図である。
図6】上記実施形態の第2変形例に係る木質耐火部材の構成を示す横断面図である。
図7】上記実施形態の第3変形例に係る木質耐火部材の構成を示す縦断面図である。
図8】上記第3変形例に係る木質耐火部材における、スペーサ、及び胴縁を示す側面図である。
図9】上記実施形態に係る木質耐火部材における、検討結果を示す図である。
図10】上記実施形態に係る木質耐火部材における、検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、建物を構成する木質耐火部材(柱、梁)であって、荷重を支える荷重支持部の外側に、第1耐火被覆層、第2耐火被覆層の順に、2種類の耐火被覆層を備える。外側の第2の耐火被覆層は、繊維系断熱材(無機繊維系:ロックウールやセラミックファイバー、アルミナ繊維等、天然繊維系:セルロースファイバー)を貼り付けたものであり、第1の耐火被覆層(石膏、モルタル、コンクリート)は、第2の耐火被覆層に比べて容積比熱が大きい点が特徴である。
以下、添付図面を参照して、本発明による木質耐火部材を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の第1実施形態に係る木質耐火部材の構成を示す縦断面図を図1(a)に示す。図1(b)は、図1(a)のII-II部分の概略横断面図である。図2は、図1(a)に示す木質耐火部材の本体部分(I-I部分)の横断面図である。図3は、図1(a)の木質耐火部材における第1耐火被覆層3と外装材5との間の第2耐火被覆層4に設けるスペーサ6の設置位置(II-II部分)の横断面図であり、図1(b)の詳細な図面である。図4は、図1(a)の木質耐火部材の材端部分(III-III部分)の横断面図である。図1(a)は、図2~4の、IV-IV部分における縦断面図でもある。
図1に示されるように、本実施形態における木質耐火部材1Aは、建物の躯体を構成する柱として用いられるものである。図1図4に示されるように、木質耐火部材1Aは、荷重支持部2Aと、第1耐火被覆層3A(図2図4参照)と、第2耐火被覆層4Aと、を備えている。
荷重支持部2Aは、柱の延伸方向である上下方向に延びている。荷重支持部2Aは、建物の構造躯体として、建物の荷重を負担し、支持する。荷重支持部2Aは、木質部材からなる。図2図4に示すように、荷重支持部2Aは、上下方向に直交する平面での断面形状が、例えば矩形状をなしている。
【0013】
第1耐火被覆層3Aは、荷重支持部2Aの外周面に設けられている。第1耐火被覆層3Aは、荷重支持部2Aの外周面2f、すなわち四方の側面2fの全面を覆うように設けられている。第1耐火被覆層3Aは、次に説明する第2耐火被覆層4Aに比べて、比重、容積比熱(単位体積当たりの比熱)、及び熱伝導率が大きい材料により形成されている。
第1耐火被覆層3Aは、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする材質で形成されている。また、第1耐火被覆層3Aは、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成されている。すなわち、第1耐火被覆層3Aは、荷重支持部2Aに対して吹き付けることで形成されても良いし、板材としての第1耐火被覆層3Aを荷重支持部2Aに対して貼り付けることで形成されても良い。あるいは、第1耐火被覆層3Aは、荷重支持部2Aに離間して型枠を設けたうえで、荷重支持部2Aと型枠との間に充填材としての第1耐火被覆層3Aを充填させることで形成されても構わない。
本実施形態では、第1耐火被覆層3Aは、石膏ボード31からなる。石膏ボード31は、荷重支持部2Aの外周面2fを覆うように設けられている。
本実施形態において、石膏ボード31は、2枚重ねて設けられている。木質耐火部材1Aの、上端と下端においては、図4に示されるように、この2枚の第1耐火被覆層3Aを構成する石膏ボード31の上に更に1枚が追加されて、計3枚の石膏ボードが重ねて設けられているように図示されているが、この最も外側の石膏ボードは、厳密には第1耐火被覆層3Aに相当するものではなく、後に説明するように、スペーサ7として機能するように設けられたものである。
石膏ボード31は、荷重支持部2Aに対し、くぎ、ネジ、タッカー及び接着剤等を適宜用いて固定されている。
【0014】
第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aの外周面3fに設けられている。第2耐火被覆層4Aは、木質耐火部材1Aの、上端と下端の間の中間部においては、後に説明するスペーサ6に相当する部分を除き、第1耐火被覆層3Aの外周面3f、すなわち四方の側面3fの全面を覆うように設けられている。第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに比べて、容積比熱、熱伝導率及び比重が小さい繊維系断熱材からなる。第2耐火被覆層4Aは、例えば、無機繊維系の断熱材である、マット、フェルト、ボード等の形態の耐熱ロックウールやセラミックファイバー、アルミナ繊維等、あるいは、天然繊維系の断熱材である、ホウ酸等の難燃剤が添加されたセルロースファイバー等からなる。
第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに固定して設けられている。第2耐火被覆層4Aは、例えばシート状に形成したうえで、第1耐火被覆層3Aの外周面に巻き付けたり、貼り付けたりするように設けてもよい。この場合には、第2耐火被覆層4Aは、例えば、ピンや釘、接着剤等により第1耐火被覆層3Aに固定され得る。あるいは、第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに対して吹き付けることで形成されても良い。
本実施形態において、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aに比べて層厚さが大きい。第1耐火被覆層3Aの層厚さT1と第2耐火被覆層4Aの層厚さT2の比T2/T1は、例えば1より小さく、1/3以上程度の値とするのが好ましい。第1耐火被覆層3Aの層厚さT1と第2耐火被覆層4Aの層厚さT2の比T2/T1は、1/2程度とするのが、より好ましい。
【0015】
第1耐火被覆層3Aとして使用される石膏や石膏ボードは、容積比熱が1.13程度、熱伝導率が0.22程度の値となる。
これに対し、繊維系断熱材、例えばロックウールは、比熱が0.84程度、熱伝導率が0.03~0.04程度の値となる。比重に関しても、繊維系断熱材は石膏や石膏ボードに比べると、より小さい。このため、木質耐火部材1Aの軽量化を図ることができる。
【0016】
木質耐火部材1Aは、その外表面に外装材5を備えている。外装材5は、木質材料からなる板材や、装飾材によって形成されている。外装材5は、下地板と、下地板の表面を覆うように設けられる表装材と、を備えていてもよい。
第2耐火被覆層4Aとして使用される繊維系断熱材に柔軟性がある場合には、その外側に外装材5を直接固定することは難しい。このため、本実施形態においては、次に説明するようなスペーサ6、端部スペーサ7を石膏ボード31や荷重支持部2Aに固定して設け、このスペーサ6、端部スペーサ7に対して、外装材5を固定している。繊維系断熱材が柔軟性のないボード形態として設けられる場合においては、繊維系断熱材に対して外装材5を固定することが可能となるため、上記のようなスペーサ6、7を設けない構成とすることもできる。
【0017】
木質耐火部材1Aの、上端と下端の間の中間部においては、図1図3に示されるように、外装材5は、スペーサ6を介して第1耐火被覆層3Aに固定されている。スペーサ6は、第1耐火被覆層3Aの四方を向く各表面3fにおいて、上下方向に間隔をあけて複数が、第1耐火被覆層3Aに固定して設けられている。各スペーサ6は、各石膏ボード31の幅方向の中央部に配置されている。各スペーサ6は、第2耐火被覆層4Aに形成された開口4hを通して、第2耐火被覆層4Aの外部に露出している。
また、木質耐火部材1Aの上端と下端においては、図1図4に示すように、外装材5は、端部スペーサ7を介して、第1耐火被覆層3Aに固定されている。端部スペーサ7は、水平方向に延びる帯板状とされている。端部スペーサ7は、各石膏ボード31の上端部において、各石膏ボード31の幅方向の全体を覆うように設けられている。
図3図4に示されるように、スペーサ6、及び端部スペーサ7は、それぞれ、第2耐火被覆層4Aの層厚さT2と同等の厚さを有している。本実施形態においては、スペーサ6、及び端部スペーサ7としては、第1耐火被覆層3Aを構成する石膏ボード31と同じものを適切な大きさに切削したものが使用されている。スペーサ6、及び端部スペーサ7は、石膏ボード以外にも、例えば木毛セメント板や、木材を使用しても構わない。木材を使用する場合には、例えば火災時の炭化速度を0.6mmとすると、1時間の火災に対しては36mmとなるため、これ以上の厚さにするのが好ましい。
スペーサ6、及び端部スペーサ7は、例えば、くぎ、ネジ、タッカー及び接着剤等を適宜用いて、第1耐火被覆層3Aの石膏ボード31に固定されているか、あるいは第1耐火被覆層3Aを貫通して荷重支持部2Aに固定されている。
外装材5は、スペーサ6、及び端部スペーサ7に、例えば、くぎ、ネジ、タッカー及び接着剤等を適宜用いて、石膏ボード31に固定されている。外装材5は、荷重支持部2Aに固定されるようにしても構わない。
【0018】
上述したような木質耐火部材1Aは、建物を構成する木質耐火部材1Aであって、荷重を負担する荷重支持部2Aと、荷重支持部2Aの外周面2fに設けられる第1耐火被覆層3Aと、第1耐火被覆層3Aの外周面3fに設けられる第2耐火被覆層4Aと、を備え、第1耐火被覆層3Aは、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成され、第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに比べて、熱伝導率および比重が小さい繊維系断熱材を、第1耐火被覆層3Aに固定して形成されている。
このような構成によれば、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分として形成されている第1耐火被覆層3Aの外周面3fに、第1耐火被覆層3Aに比べて熱伝導率が小さい第2耐火被覆層4Aが設けられている。このため、第2耐火被覆層4Aを含めた耐火被覆層の全体を、第1耐火被覆層3Aと同じ部材により実現した場合に比べると、火災が発生し、木質耐火部材1Aに外側から熱が伝達しようとした場合に、内側に位置する第1耐火被覆層3Aへ熱が伝導しにくい構成となっている。このため、耐火性能が向上する。
また、第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3Aに比べて比重が小さい繊維系断熱材を、第1耐火被覆層3Aに固定して形成されている。このため、効率的に、重量を低減することができる。
更に、第2耐火被覆層4Aは、例えば耐熱ロックウールやセラミックファイバーなどの耐熱性を有する繊維系断熱材であるため、火災により熱を受けても崩落したり、断面欠損したりすることがなく、したがって、耐火性能をより効率的に確保することができる。
その結果、火災時の脱落や断面欠損を低減しつつ、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材1Aを提供することが可能となる。
【0019】
また、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aに比べて容積比熱が大きく、かつ第2耐火被覆層4Aに比べて、層厚さが大きい。
このような構成によれば、荷重支持部2Aに接する第1耐火被覆層3Aが、第2耐火被覆層4Aに比べて容積比熱が(単位体積当たりの比熱)大きく、かつ層厚さが大きいため、火災時に第2耐火被覆層4Aから第1耐火被覆層3Aへと熱が伝導したとしても、第1耐火被覆層3Aの荷重支持部2A側の温度は、容易には上昇しない。これにより、第1耐火被覆層3A、及びその内側に設けられた荷重支持部2Aの温度上昇を遅らせることができる。したがって、優れた耐火性能を実現可能である。
【0020】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の木質耐火部材は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
図5は、上記実施形態の第1変形例に係る木質耐火部材の構成を示す横断面図である。
図5に示すように、木質耐火部材1Cは、荷重支持部2Aと、第1耐火被覆層3Aと、第2耐火被覆層4Aと、耐火シート8と、を備えている。耐火シート8は、第1耐火被覆層3Aの、荷重支持部2Aの出隅部2kに対応する部分を覆うように設けられている。耐火シート8は、第1耐火被覆層3Aの表面に貼り付けられている。なお、耐火シート8に代えて、耐火塗料を塗布するようにしてもよい。
第2耐火被覆層4Aは、第1耐火被覆層3A、及び耐火シート8の表面を覆うように設けられている。
【0021】
このように、本変形例においては、第1耐火被覆層3Aの、荷重支持部2Aの出隅部2kを覆う部分には、第1耐火被覆層3Aの表面に、耐火シート8が貼り付けられている、または耐火塗料が塗布されている。
荷重支持部2Aを断面視したときに、出隅部2kは、荷重支持部2Aの中心から外方へと突出した部分であるため、火災時に外部からの熱が内側へと伝導しやすく、したがって、荷重支持部2Aのなかでも特に熱伝導率が高い熱橋となり得る。熱橋があると、荷重支持部2Aの熱抵抗が、全体的に減少してしまう。
これに対し、上記のような構成によれば、第1耐火被覆層3Aの、荷重支持部2Aの出隅部2kに対応して、出隅部2kを覆う部分の表面に、耐火シート8、または耐火塗料が設けられている。これにより、第1耐火被覆層3Aと第2耐火被覆層4Aを特段に厚くすることなく、火災時における、荷重支持部2Aの熱橋となり得る出隅部2kの温度上昇を、遅らせることができる。
したがって、軽量で、優れた耐火性能を有する、木質耐火部材1Cを実現することができる。
【0022】
(実施形態の第2変形例)
また、上記実施形態では、外装材5を、第1耐火被覆層3Aに固定されたスペーサ6、端部スペーサ7によって支持するようにしたが、これに限られない。
図6は、上記実施形態の第2変形例に係る木質耐火部材の構成を示す横断面図である。
図6に示すように、木質耐火部材1Dは、荷重支持部2Aと、第1耐火被覆層3Aと、第2耐火被覆層4Aと、外装材5と、下地鋼材9と、を備えている。
下地鋼材9は、第2耐火被覆層4Aの外周面と、外装材5との間に複数本設けられている。各下地鋼材9は、例えば、上下方向から見た場合の断面形状がC字状をなしている。下地鋼材9の断面形状については、適宜他の形状としてもよい。各下地鋼材9は、木質耐火部材1Dによって構成される柱の上下において、建物の躯体に、ランナー等の金具を用いて固定されている。したがって、各下地鋼材9は、第2耐火被覆層4Aに固定する必要が無い。
このようにして設けられた下地鋼材9に対して、外装材5が固定されている。
このような構成においては、火災時に、外装材5が燃焼するまでの間においては、外装材5と第2耐火被覆層4Aとの間に形成された空気層により、外装材5から第2耐火被覆層4Aまでの熱の伝達が抑制される。これにより、耐火性能を向上することができる。
【0023】
(実施形態の第3変形例)
また、上記実施形態では、木質耐火部材1A~1Dにより、建物の躯体の一部である柱に適用するようにしたがこれに限られない。上記したような構成の木質耐火部材は、例えば、建物の壁、床、梁等にも適用することができる。
図7は、上記実施形態の第3変形例である梁材に係る木質耐火部材の構成を示す縦断面図である。図8は、本第3変形例に係る木質耐火部材における、スペーサ、及び胴縁を示す側面図である。
木質耐火部材1Eは、建物の構造躯体の梁として用いられる。梁としての木質耐火部材1Eは、建物の各階の床11を下方から支持する。木質耐火部材1Eは、水平方向に延びている。木質耐火部材1Eは、荷重支持部2Eと、第1耐火被覆層3Eと、第2耐火被覆層4Eと、を備えている。
荷重支持部2Eは、梁の延伸方向である水平方向に延びている。荷重支持部2Eは、建物の躯体として、荷重を負担する。荷重支持部2Eは、木質部材からなる。荷重支持部2Eは、梁の延伸方向に直交する平面での断面形状が、例えば矩形状をなしている。
【0024】
第1耐火被覆層3Eは、荷重支持部2Eの外周面に設けられている。第1耐火被覆層3Eは、荷重支持部2Eの下面2d、及び一対の側面2sを覆うように設けられている。第1耐火被覆層3Eは、石膏、モルタル、またはコンクリートを主成分とする、吹付け材、板材、および充填材のうちのいずれかで形成されている。
第2耐火被覆層4Eは、第1耐火被覆層3Eの外周面に設けられている。第2耐火被覆層4Eは、第1耐火被覆層3Eの下面3d、及び一対の側面3sを覆うように設けられている。第2耐火被覆層4Eは、第1耐火被覆層3Eに比べて、熱伝導率および比重、容積比熱が小さい繊維系断熱材からなる。第2耐火被覆層4Eは、例えば、無機繊維系の繊維系断熱材である耐熱ロックウールやセラミックファイバー、アルミナ繊維等、あるいは、天然繊維系の繊維系断熱材であるセルロースファイバー等からなる。第2耐火被覆層4Eは、第1耐火被覆層3Eよりも、比重が小さい材料で形成されている。
【0025】
木質耐火部材1Eは、その外表面に外装材15を備えている。外装材15は、木質材料からなる板材によって形成されている。外装材15は、スペーサ16、及び胴縁18を介して第1耐火被覆層3Eに固定されている。スペーサ16は、木質耐火部材1Eの両側面において、第1耐火被覆層3Eの側面3sに、木質耐火部材1Eの延伸方向に間隔をあけた複数個所に設けられている。木質耐火部材1Eの延伸方向に間隔をあけた複数個所の各々において、スペーサ16は、上下方向に間隔をあけて複数設けられている。各スペーサ16は、第2耐火被覆層4Eに形成された開口4kを通して外部に露出している。
胴縁18は、木質耐火部材1Eの延伸方向に間隔をあけた複数個所に設けられている。各胴縁18は、木質耐火部材1Eの延伸方向から見た際に、U字状に形成されている。各同胴縁18は、木質耐火部材1Eの両側で、スペーサ16に固定されている。
スペーサ16、及び胴縁18は、例えば、くぎ、ネジ、タッカー及び接着剤等を適宜用いて、第1耐火被覆層3Eに固定されている。
外装材15は、胴縁18に固定されている。
【0026】
(実施形態の第4変形例)
また、上記実施形態では、スペーサ6は、図3に示されるように、第1耐火被覆層3Aの四方を向く各表面3fの各々に、各石膏ボード31の幅方向の中央部に設けられていたが、これに限られない。
例えば、スペーサは、図3のようにスペーサが設けられた位置で断面視したときに、第1耐火被覆層3Aの全周を覆うように、環状に形成されても構わない。すなわち、本変形例においては、環状に形成されたスペーサが、上下方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0027】
(実施形態の第5変形例)
また、上記第3変形例では、スペーサ16は、図7に示されるようにスペーサ16が設けられた位置で断面視したときに、第1耐火被覆層3Eの表面に、間隔をあけて複数が設けられていたが、これに限られない。
例えば、スペーサは、図7のようにスペーサが設けられた位置で断面視したときに、上記第4変形例と同様に、第1耐火被覆層3Eの側面及び下面の全てを覆うように、U字状に形成されても構わない。すなわち、本変形例においては、U字状に形成されたスペーサが、木質耐火部材1Eの延伸方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0028】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、上記第1変形例においては、耐火シート8が貼り付けられている、または耐火塗料が塗布されている部分は、第1耐火被覆層3Aの、荷重支持部2Aの出隅部2kを覆う部分の表面であったが、これに限られない。耐火シート8や耐火塗料は、第2耐火被覆層4Aの、第1耐火被覆層3Aの出隅部2kを覆う部分の表面に設けられても構わない。
この場合には、火災が生じた際には、外装材5が燃焼または脱落した後に、耐火シート8や耐火塗料が膨張して、耐火断熱層が形成される。
【0029】
(検討例)
次に、上記したような木質耐火部材における耐火性能について、評価を行ったので、以下に示す。
実施例1として、厚さ45mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードと、第2耐火被覆層4Aとしてのロックウール(商品名:マキベエ、ニチアス株式会社製)とにより構成した。第2耐火被覆層4Aは、耐火性能を評価する際に加熱する側に配置し、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aの反対側に配置した。第2耐火被覆層4Aの層厚さは、厚さ45mmの耐火被覆層の1/3程度となる15mmとした。このように、第1耐火被覆層3Aの層厚さは、第2耐火被覆層4Aの層厚さの2倍とした。
比較例1として、厚さ45mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードと、第2耐火被覆層4Aとしてのロックウールとにより構成した。第2耐火被覆層4Aは、耐火性能を評価する際に加熱する側に配置し、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aの反対側に配置した。第2耐火被覆層4Aの層厚さは、厚さ45mmの耐火被覆層の2/3程度となる30mmとした。このように、第1耐火被覆層3Aの層厚さは、第2耐火被覆層4Aの層厚さの1/2とした。
比較例2として、厚さ45mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードのみにより構成した。
【0030】
上記したような実施例1、比較例1、2の耐火被覆層に対し、一方の側から加熱を継続して行い、他方の側の表面における温度変化を、シミュレーションプログラムにより計算した。
その結果を、図9に示す。
この図9に示すように、第1耐火被覆層3Aの層厚さを第2耐火被覆層4Aよりも大きくした実施例1は、第1耐火被覆層3Aの層厚さを第2耐火被覆層4Aよりも小さくした比較例1よりも、全体的に優れた耐火性能を有することがわかった。また、実施例1は、第2耐火被覆層4Aを備えない比較例2と比べても、同等以上の耐火性を有していた。
【0031】
実施例2として、厚さ63mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードと、第2耐火被覆層4Aとしてのロックウールとにより構成した。第2耐火被覆層4Aは、耐火性能を評価する際に加熱する側に配置し、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aの反対側に配置した。第2耐火被覆層4Aの層厚さは、厚さ63mmの耐火被覆層の1/3程度となる21mmとした。このように、第1耐火被覆層3Aの層厚さは、第2耐火被覆層4Aの層厚さの2倍とした。
比較例3として、厚さ63mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードと、第2耐火被覆層4Aとしてのロックウールとにより構成した。第2耐火被覆層4Aは、耐火性能を評価する際に加熱する側に配置し、第1耐火被覆層3Aは、第2耐火被覆層4Aの反対側に配置した。第2耐火被覆層4Aの層厚さは、厚さ63mmの耐火被覆層の2/3程度となる42mmとした。このように、第1耐火被覆層3Aの層厚さは、第2耐火被覆層4Aの層厚さの1/2とした。
比較例4として、厚さ63mmの耐火被覆層を、第1耐火被覆層3Aとしての石膏ボードのみにより構成した。
【0032】
上記したような実施例2、比較例3、4の耐火被覆層に対し、一方の側から加熱を継続して行い、他方の側の表面における温度変化を、シミュレーションプログラムにより計算した。
その結果を、図10に示す。
この図10に示すように、第1耐火被覆層3Aの層厚さを第2耐火被覆層4Aよりも大きくした実施例2は、第1耐火被覆層3Aの層厚さを第2耐火被覆層4Aよりも小さくした比較例3よりも、全体的に優れた耐火性能を有することがわかった。また、実施例2は、第2耐火被覆層4Aを備えない比較例4と比べても、同等以上の耐火性を有していた。
【符号の説明】
【0033】
1A~1E 木質耐火部材 3f 外周面
2A、2E 荷重支持部 4A、4B、4E 第2耐火被覆層
2f 外周面 8 耐火シート
2k 出隅部 T1、T2 層厚さ
3A、3B、3E 第1耐火被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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