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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115782
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/067 20060101AFI20240820BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240820BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240820BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16C35/067
F16C33/58
F16C19/06
F16C33/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021616
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 泰人
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎太郎
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117CA01
3J117DA01
3J117DA02
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701DA02
3J701DA03
3J701EA03
3J701EA14
3J701FA35
3J701GA01
3J701GA11
3J701GA24
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB24
3J701XB26
3J701XB31
3J701XB33
(57)【要約】
【課題】転がり軸受の外輪が固定側部材にすきま嵌めされる軸受装置において、その固定側部材の剛性が低い場合でも外輪のクリープを十分に抑制できるようにする。
【解決手段】転がり軸受1の外輪2の外周に、固定側部材であるハウジング10との嵌め合い面2bと、その嵌め合い面2bを全幅にわたって分断し、ハウジング10の内周面10aに対して嵌め合い面2bよりも大きい径方向隙間をもって対向する逃げ面2cとが形成されており、その逃げ面2cの周方向長さに対応する外輪2の中心まわりの角度(逃げ面角度)αは、転動体である玉4のピッチ角度をθとしたとき、0.7θ≦α≦θに設定されている構成の軸受装置とした。この構成によれば、ハウジング10として鉄よりも剛性の低いアルミニウム等の軽合金で形成されたものを使用していても、外輪2のクリープを十分に抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒面状の内周面(10a)を有する固定側部材(10)と、前記固定側部材(10)の内周側に配される転がり軸受(1)とからなり、
前記転がり軸受(1)は、外輪(2)と、内輪(3)と、前記外輪(2)と前記内輪(3)との間に周方向に一定ピッチで転動自在に配される複数の転動体(4)とを備え、前記外輪(2)が前記固定側部材(10)の内周面(10a)にすきま嵌めされた状態で、前記内輪(3)が取り付けられる回転軸(20)を回転自在に支持するものである軸受装置において、
前記固定側部材(10)は軽金属で形成されており、
前記転がり軸受(1)の外輪(2)は、その外周に周方向に延びる円筒面状の嵌め合い面(2b)と、前記嵌め合い面(2b)を全幅にわたって分断し、前記固定側部材(10)の内周面(10a)に対して嵌め合い面(2b)よりも大きい径方向隙間をもって対向する逃げ面(2c)とを有し、
前記外輪(2)の逃げ面(2c)の周方向長さに対応する外輪(2)の中心まわりの角度αは、転動体(4)のピッチ角度をθとしたとき、0.7θ≦α≦θに設定されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記外輪(2)の嵌め合い面(2b)の径方向寸法に対する逃げ面(2c)の最大の径方向深さをsとし、前記外輪(2)の軌道面(2a)と嵌め合い面(2b)との間の最小厚さをtとしたとき、s/t≧1.0×10-2に設定されている請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記固定側部材(10)は、内周面の粗さがRz7.0μm以下またはRa3.0μm以下に加工されている請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記外輪(2)の逃げ面(2c)の形状が単一の円弧面からなる単一R形状である請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記外輪(2)の逃げ面(2c)は、その曲率半径をR1、前記嵌め合い面(2b)の半径をRとしたとき、R<R1<7.2Rに設定されている請求項4に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記外輪(2)が軸受鋼または硬化熱処理を施した鋼材で形成されている請求項1または2に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定側部材の内周面にすきま嵌めされた状態で回転軸を支持する転がり軸受を備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションやモータ、eAxle(電動車の駆動ユニット)のシャフトを支持する深溝玉軸受等の転がり軸受を備えた軸受装置は、通常、固定側部材であるハウジングへの転がり軸受の組み付けを容易にするために、転がり軸受の外輪がハウジングの円筒面状の内周面にすきま嵌めされている。このため、荷重負荷時や高速回転時のシャフトのアンバランス荷重によって、転がり軸受の外輪がハウジングに対してクリープ(周方向に位置ずれする現象)を起こすことがある。
【0003】
転がり軸受の軌道輪(外輪および内輪)のクリープのメカニズムとして、軌道輪の表面に進行波が発生し、その進行波が軌道輪自体を移送させることが知られている。すなわち、転がり軸受の玉やころ等の転動体の荷重が軌道輪の軌道面に作用すると、その直下で軌道輪の表面が突出して波打つ。転がり軸受が回転すると転動体も公転するため、軌道輪の表面の波打ちが進行波となる。その進行波は、転がり軸受の荷重負荷域全体にわたって、周方向および径方向へのぜん動運動的な挙動をとる。そして、外輪が固定側部材であるハウジングにすきま嵌めされている場合、その進行波がハウジングを転動体の公転方向と逆の方向に移送しようとするが、ハウジングの抵抗で逆に押し戻される形となり、その結果、外輪が転動体の公転方向つまり軸受回転と同じ方向に位置ずれするクリープが発生することになる。
【0004】
これに対し、特許文献1に記載された軸受装置では、転がり軸受の外輪の外周に、周方向に延びる円筒面状の嵌め合い面を全幅にわたって分断し、ハウジングの内周面に対して嵌め合い面よりも大きい径方向隙間をもって対向する逃げ面を形成することが提案されている。この逃げ面は、設定範囲内の最大のラジアル荷重(例えば、基本動定格荷重の0.4倍)を負荷された場合の荷重負荷域で、ハウジングの内周面との間に径方向隙間を残せるように形成される。
【0005】
この構成によれば、転がり軸受の外輪の逃げ面が荷重負荷域にない状態で転がり軸受にラジアル荷重が負荷されたときに、外輪に一旦クリープが生じても、外輪の逃げ面が荷重負荷域に入ると、外輪の逃げ面とハウジングの内周面とが接触しない部分で外輪の波状変形がクリープを生じさせる進行波として作用しなくなるので、それ以降の外輪のクリープを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-45987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の軸受装置では、転がり軸受の外輪のクリープ抑制効果が外輪の逃げ面の周方向の広がり、つまり外輪の中心まわりの角度(以下、「逃げ面角度」とも称する)によって変わると考えられ、周方向に一定ピッチで配される転動体のピッチ角度(隣り合う転動体間の角度)をθとしたとき、逃げ面角度αは0<α≦2θに設定することができるが、ラジアル荷重による外輪のたわみや応力を抑えられる形状とするには、0.5θ≦α≦θに設定することが好ましいとされている。
【0008】
しかしながら、ハウジング等の固定側部材がアルミニウム等、鉄よりも剛性の低い軽金属で形成され、負荷されるラジアル荷重に対して転がり軸受の外輪の変形量が大きくなる場合は、外輪のクリープを十分に抑制できない可能性がある。
【0009】
そこで、この発明は、転がり軸受の外輪が固定側部材にすきま嵌めされる軸受装置において、その固定側部材の剛性が低い場合でも外輪のクリープを十分に抑制できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明の発明者らは、軽金属製の固定側部材にすきま嵌めされる転がり軸受の外輪の外周に逃げ面が形成されている軸受装置について、種々の条件でクリープ速度確認試験を行い、通常の使用条件で最大に設定されるラジアル荷重が負荷されても外輪のクリープを十分に抑制できる逃げ面角度の下限を確認した。そこで、その試験結果に基づいて、外輪のクリープを抑制でき、かつ外輪のたわみや応力を抑えられる逃げ面角度範囲を設定するようにしたのである。
【0011】
具体的には、円筒面状の内周面を有する固定側部材と、前記固定側部材の内周側に配される転がり軸受とからなり、前記転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に周方向に一定ピッチで転動自在に配される複数の転動体とを備え、前記外輪が前記固定側部材の内周面にすきま嵌めされた状態で、前記内輪が取り付けられる回転軸を回転自在に支持するものである軸受装置において、前記固定側部材は軽金属で形成されており、前記転がり軸受の外輪は、その外周に周方向に延びる円筒面状の嵌め合い面と、前記嵌め合い面を全幅にわたって分断し、前記固定側部材の内周面に対して嵌め合い面よりも大きい径方向隙間をもって対向する逃げ面とを有し、前記外輪の逃げ面の周方向長さに対応する外輪の中心まわりの角度(逃げ面角度)αは、転動体のピッチ角度をθとしたとき、0.7θ≦α≦θに設定されている構成を採用した(構成1)。
【0012】
上記構成1の軸受装置では、剛性の低い軽金属製の固定側部材の使用によってラジアル荷重に対する外輪の変形量が大きくなっても、逃げ面角度が適正に設定されていることにより、外輪のクリープを十分に抑制することができる。
【0013】
ここで、上記構成1においては、前記外輪の嵌め合い面の径方向寸法に対する逃げ面の最大の径方向深さをsとし、前記外輪の軌道面と嵌め合い面との間の最小厚さをtとしたとき、s/t≧1.0×10-2に設定することが望ましい(構成2)。このようにすれば、後述するように、転がり軸受の使用条件として、負荷される最大のラジアル荷重を基本動定格荷重の0.4倍に設定した場合、その最大のラジアル荷重によって外輪が弾性変形しても、荷重負荷域の逃げ面と固定側部材の内周面との間に確実に径方向隙間を残せることが数値解析によって確認されたからである。
【0014】
また、上記構成1または2において、前記固定側部材は、内周面の粗さがRz7.0μm以下またはRa3.0μm以下に加工されているものとするとよい(構成3)。このようにすれば、外輪の逃げ面が荷重負荷域にない状態でラジアル荷重が負荷されたときに、逃げ面が荷重負荷域に入るまでの外輪のクリープによるハウジング内周面の摩耗を抑えることができる。
【0015】
上記構成1乃至3のいずれにおいても、前記外輪の逃げ面の形状は単一の円弧面からなる単一R形状とするとよい(構成4)。すなわち、逃げ面を平面とすると、外輪の肉厚が薄くなり、必要な強度が足りなくなる可能性があるが、この構成4を採用すれば、必要な強度を確保しやすくなる。
【0016】
そして、上記構成4を採用する場合、前記外輪の逃げ面は、その曲率半径をR1、前記嵌め合い面の半径をRとしたとき、R<R1<7.2Rに設定することが望ましい(構成5)。
【0017】
すなわち、外輪の逃げ面が固定側部材の内周面に対して嵌め合い面よりも大きい径方向隙間をもって対向するにはR<R1が必要となるが、R1を大きくしすぎると、外輪の荷重負荷域が嵌め合い面と逃げ面の境界を含む状態になったときに、その境界付近に発生する応力が外輪を形成する材料の破壊応力を超え、外輪に亀裂が発生して破断に至るおそれがある。これに対して、上記構成5を採用すれば、後述するように、外輪が高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成された通常の転がり軸受において、負荷される最大のラジアル荷重を基本動定格荷重の0.4倍に設定した場合に、外輪の嵌め合い面と逃げ面の境界付近に発生する応力を破壊応力より小さくできることが数値解析によって確認されたからである。
【0018】
また、上記構成1乃至5のいずれにおいても、外輪の逃げ面の硬さは、通常の軸受の外周面と同様にHRC60~65であることが望ましい。そのためには、前記外輪を軸受鋼で形成するか、あるいは焼入れ焼き戻し、浸炭焼入れ、浸窒等の硬化熱処理を施した鋼材で形成するとよい(構成6)。
【発明の効果】
【0019】
この発明の軸受装置は、上述したように、転がり軸受の外輪の外周に、円筒面状の嵌め合い面を全幅にわたって分断する逃げ面を適切な逃げ面角度で形成したものであるから、固定側部材として剛性の低い軽金属で形成されたものを使用していても、外輪のクリープを十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態の軸受装置の斜視図(ハウジングは左半部のみ図示)
図2図1の軸受装置の使用状態の正面図
図3図1の外輪の正面図
図4図1の外輪の逃げ面の形状を説明する正面図
図5図1の外輪の逃げ面の深さを説明する正面図
図6図1の外輪の逃げ面形状と発生応力比の関係の解析結果を示すグラフ
図7図1の外輪の逃げ面角度とクリープ速度比の関係の試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づきこの発明の実施形態を説明する。この実施形態の軸受装置は、図1および図2に示すように、円筒面状の内周面10aを有する固定側部材としてのハウジング10と、ハウジング10の内周側に配される転がり軸受1とからなる。その転がり軸受1は、外輪2と、内輪3と、外輪2と内輪3との間に転動自在に配される複数の転動体としての玉4と、玉4を周方向に一定ピッチで保持する保持器5とを備えた深溝玉軸受であり、その外輪2がハウジング10の内周面10aにすきま嵌めされた状態で、内輪3が取り付けられる回転軸20を回転自在に支持するものである。
【0022】
ここで、回転軸20は、例えば、自動車のトランスミッションに備わる伝達軸であり、ハウジング10は、例えば、自動車のトランスミッションケースの一部として形成される隔壁である。そして、転がり軸受1は、ハウジング10と回転軸20の間で作用するラジアル荷重を受けるようになっている。
【0023】
この実施形態のハウジング10はアルミニウムで形成されており、その内周面は、転がり軸受1の外輪2のクリープによる摩耗を抑えるために、粗さがRz7.0μm以下またはRa3.0μm以下に加工されている。
【0024】
転がり軸受1の内輪3は、外周に周方向に延びる軌道面3aを有し、内周に周方向に延びる円筒面状の嵌め合い面3bを有し、回転軸20の外周面20aに締まり嵌めで取り付けられて、回転軸20と一体に回転するものである。
【0025】
一方、外輪2は、図1乃至図3に示すように、内周に周方向に延びる軌道面2aを有し、外周に周方向に延びる円筒面状の嵌め合い面2bと、嵌め合い面2bを全幅にわたって分断し、ハウジング10の内周面10aに対して嵌め合い面2bよりも大きい径方向隙間をもって対向する逃げ面2cとを有している。
【0026】
外輪2の嵌め合い面2bは、その径方向寸法がハウジング10の内周面10aの直径よりも小径であり、回転軸20から転がり軸受1に負荷されるラジアル荷重によってハウジング10の内周面10aに接触させられる。
【0027】
外輪2の逃げ面2cは、図3に示すように、外輪2の中心まわりの角度(逃げ面角度)αによって周方向長さを規定することができる。その逃げ面角度αの設定については後述する。
【0028】
逃げ面2cの形状は、単一の円弧面からなる単一R形状とされている。これにより、図4に示すように、逃げ面2cと外輪2の軌道面2aとの間の最小の肉厚hが、逃げ面2cの形状を平面(図中の二点鎖線)とした場合の肉厚hよりも厚くなり、必要な強度を確保しやすくなっている。
【0029】
ここで、逃げ面2cの形状および寸法を決定する際には、転がり軸受1に設定範囲内の最大のラジアル荷重を負荷された場合の荷重負荷域で、逃げ面2cとハウジング10の内周面10aとの間に径方向隙間を残せるように考慮する必要がある。
【0030】
そこで、図5に示すように、外輪2の嵌め合い面2bの径方向寸法に対する逃げ面2cの最大の径方向深さをsとし(図中の二点鎖線は嵌め合い面2bの仮想延長線を示す)、外輪2の軌道面2aと嵌め合い面2bとの間の最小厚さをtとして、その両者の比s/tによって外輪2の逃げ面2cとハウジング10の内周面10aとの接触の有無がどのように変化するかを、負荷荷重を変化させて数値解析した。その結果を表1に示す。なお、表中のPは負荷荷重、Cは基本動定格荷重である。
【0031】
【表1】
【0032】
表1からわかるように、s/tが大きいほど、当然ながら外輪2の逃げ面2cはハウジング10の内周面10aに接触しにくくなり、s/tが1.0×10-2以上であれば、P/C=0.4でも接触は生じない。そして、この転がり軸受では、通常の安全率を考慮した使用条件として、負荷される最大のラジアル荷重を基本動定格荷重の0.4倍(P/C=0.4)に設定しているので、その最大のラジアル荷重が負荷されたときでも、荷重負荷域の逃げ面2cとハウジング10の内周面10aとの間に径方向隙間を残せるように、逃げ面2cの形状および寸法をs/t≧1.0×10-2の条件で設計している。
【0033】
また、外輪2の逃げ面2cの曲率半径をR1、嵌め合い面2bの半径をRとしたとき、逃げ面2cがハウジング10の内周面10aに対して嵌め合い面2bよりも大きい径方向隙間をもって対向するにはR<R1が必要となるが、R1を大きくしすぎると、外輪2の荷重負荷域が嵌め合い面2bと逃げ面2cの境界を含む状態になったときに、その境界付近に発生する応力が外輪2を形成する材料の破壊応力を超え、外輪2に亀裂が発生して破断に至るおそれがある。
【0034】
そこで、外輪が高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)製の深溝玉軸受(軸受型番6208)について、使用条件として設定した最大のラジアル荷重(P/C=0.4)が負荷された場合に、外輪の嵌め合い面と逃げ面の境界付近に発生する応力の破壊応力に対する比(発生応力比)と、R1/Rとの関係を数値解析によって調査した。その結果を図6に示す。
【0035】
図6からわかるように、R1/Rが7.2より小さければ、外輪の嵌め合い面と逃げ面の境界付近に発生する応力が破壊応力よりも小さくなるという結果が得られた。このため、実施形態の軸受装置では、逃げ面2cの曲率半径R1を、R<R1<7.2Rとなるように設定している。
【0036】
なお、逃げ面の形状は、この実施形態のように単一R形状とすることが強度や加工性の点で好ましいが、複数の円弧面を周方向に繋いだ複合R形状としてもよい。ただし、その場合も、最大のラジアル荷重が負荷されたときの発生応力比が1未満となるような形状とすることが望ましい。
【0037】
また、逃げ面2cの硬さは、通常の軸受の外周面と同様にHRC60~65であることが望ましい。そのためには、外輪2を軸受鋼で形成するか、あるいは焼入れ焼き戻し、浸炭焼入れ、浸窒等の硬化熱処理を施した鋼材で形成するとよい。
【0038】
そして、逃げ面2cの周方向長さを規定する逃げ面角度αは、ハウジング10がアルミニウム製であることを考慮し、次のようにして設定されている。
【0039】
すなわち、この軸受装置ではハウジング10が鉄よりも剛性の低いアルミニウムで形成されているため、負荷されるラジアル荷重に対して外輪2の変形量が大きくなって、外輪2のクリープを十分に抑制できない場合があると考えられる。そこで、外輪の逃げ面の周方向長さに対応する逃げ面角度αと、外輪のクリープ速度のP/C=0.4、逃げ面角度α=0.2θのときの値に対する比(クリープ速度比)との関係を数値解析によって調査した。ここで、θは転動体(この実施形態では玉)のピッチ角度である(図2参照)。その調査結果を図7に示す。
【0040】
図7からわかるように、逃げ面角度αが転動体のピッチ角度θの0.7倍以上であれば、使用条件内の最大のラジアル荷重(P/C=0.4)が負荷されても外輪のクリープを抑制できるという結果が得られた。また、ラジアル荷重による外輪のたわみや応力を抑えるには、αをθ以下とすることが好ましい。このため、実施形態の軸受装置では、逃げ面角度αを0.7θ≦α≦θに設定している。
【0041】
この実施形態の軸受装置は、上述のように、転がり軸受1の外輪2の逃げ面角度αを0.7θ≦α≦θに設定したので、ハウジング10として剛性の低いアルミニウムで形成されたものを使用していても、外輪2のクリープを十分に抑制することができる。
【0042】
また、外輪2の逃げ面2cが荷重負荷域にない状態でラジアル荷重が負荷されたときには、逃げ面2cが荷重負荷域に入るまで外輪2のクリープが生じるが、ハウジング10の内周面を粗さがRz7.0μm以下またはRa3.0μm以下となるように加工しているので、外輪2のクリープによるハウジング10の内周面10aの摩耗も抑えられる。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0044】
例えば、実施形態ではハウジングをアルミニウム製としたが、ハウジングの材質はアルミニウムと同じく鉄よりも剛性の低い軽金属とすることができる。
【0045】
また、この発明は、実施形態のような深溝玉軸受を備えた軸受装置に限らず、転がり軸受の外輪が固定側部材にすきま嵌めされた状態で回転軸を支持する軸受装置に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 転がり軸受
2 外輪
2a 軌道面
2b 嵌め合い面
2c 逃げ面
3 内輪
4 玉(転動体)
10 ハウジング(固定側部材)
10a 内周面
20 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7