(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115793
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/046 20060101AFI20240820BHJP
F04D 29/048 20060101ALI20240820BHJP
F04D 13/06 20060101ALI20240820BHJP
F04D 29/047 20060101ALI20240820BHJP
F01P 5/10 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F04D29/046 C
F04D29/048
F04D13/06 C
F04D29/047
F01P5/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021634
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】392008437
【氏名又は名称】株式会社久保田鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直丈
(72)【発明者】
【氏名】久保田 卓
(72)【発明者】
【氏名】中平 毅
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB07
3H130AB12
3H130AB22
3H130AB42
3H130AC16
3H130BA66E
3H130DA01X
3H130DB01X
3H130DB02X
3H130DB03X
3H130DB05X
3H130DB10X
3H130DD04Z
3H130EC04E
3H130EC06E
3H130EC18E
(57)【要約】
【課題】起動電流及び運転時の消費電流の両方を低減可能にした低消費電力の電動ポンプを提供する。
【解決手段】電動ポンプ1は、ステータコア20と対向するように配置され、インペラ4に固定された磁石22Aと、インペラ4の回転中心部に固定されたラジアル軸受25と、ラジアル軸受25に挿通される支軸24と、ラジアル軸受25の一端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成する吸入側スラスト軸受26と、ラジアル軸受25の他端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成するステータ側スラスト軸受27とを備えている。ステータ側スラスト軸受27におけるラジアル軸受25との摺接面には、静摩擦係数低減処理が施されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキシャルギャップモータと、前記アキシャルギャップモータの回転軸方向一方側に配置され、前記アキシャルギャップモータによって回転駆動されるインペラとを備え、前記インペラの回転によって流体を送るように構成された遠心式の電動ポンプであって、
モータ筐体と、
前記モータ筐体に固定されたステータコアと、
前記ステータコアにおける前記回転軸方向一方側に対向するように配置され、前記インペラに固定された磁石と、
前記インペラの回転中心部に固定され、前記回転軸方向に延びる軸線を持った筒状のラジアル軸受と、
前記モータ筐体に固定されるとともに前記ラジアル軸受に挿通される支軸と、
前記ラジアル軸受における前記回転軸方向一方側に位置する一端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成する吸入側スラスト軸受と、
前記ラジアル軸受における前記回転軸方向他方側に位置する他端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成するステータ側スラスト軸受と、を備え、
前記ステータ側スラスト軸受における前記ラジアル軸受との摺接面には、静摩擦係数を低減するための静摩擦係数低減処理が施されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、
前記フローティング軸受構造はレイリーステップ効果を利用したものであることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ポンプにおいて、
前記インペラを収容するハウジングを備え、
前記ステータ側スラスト軸受には、前記ハウジング内に形成される高圧領域に連通し、前記高圧領域の流体を前記ラジアル軸受との摺接面に供給する第1流路が形成されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ポンプにおいて、
前記ラジアル軸受と前記支軸との間には、前記第1流路に連通し、前記第1流路を流通した流体を前記ラジアル軸受と前記支軸との間に供給する第2流路が形成されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ポンプにおいて、
前記第2流路は前記支軸の軸方向に延びており、
前記吸入側スラスト軸受には、前記第2流路に連通し、前記第2流路を流通した流体を前記ラジアル軸受との摺接面に供給する第3流路が形成されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の電動ポンプにおいて、
前記インペラと前記ステータコアとの間に形成される空間と前記インペラの吸入側の空間とを連通させ、前記インペラと前記ステータコアとの間に形成される空間に流入した異物を前記吸入側の空間へ排出する異物排出孔が前記インペラを貫通するように形成されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の電動ポンプにおいて、
前記異物排出孔内に形成される流路断面積は、前記第1流路の断面積よりも大きく設定されていることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インペラの回転動作により流体の吸入・吐出を行う電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、2には、インペラを収容するポンプ室と、インペラが固定された回転軸を回転させる電動モータとを備えた遠心ポンプが開示されている。この特許文献1の遠心ポンプの回転軸は中空軸とされており、回転軸の内部は軸芯方向に延びる流体の導出通路を構成している。導出通路の一端はポンプ室の低圧領域と連通し、他端は高圧領域と連通している。
【0003】
また、特許文献3には、ロータとステータコアとが回転軸方向に対向するように配置されたアキシャルギャップモータを備えた流体ポンプが開示されている。この流体ポンプでは、ステータコアのロータ側の端面に沿って形成された水路と、ステータコアのロータと反対側の端面に沿って形成された水路とが形成され、これら水路に流体が流通可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/98357号公報
【特許文献2】特開2019-94794号公報
【特許文献3】特開2006-299975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インペラの軸方向両端面には、それぞれスラスト方向の力を受けるスラスト軸受が設けられている。具体的には、インペラによる吸入側に設けられる吸入側スラスト軸受と、吸入側と反対に位置するステータ側に設けられるステータ側スラスト軸受とが回転軸を軸方向両側から挟むように配置される。
【0006】
ここで、インペラには、磁石が固定されていてステータとの間で吸引力を発生しているので、インペラは磁石によってステータ側に常時吸引されている。一方、インペラが回転すると、吸入側が低圧になり、ステータ側が高圧になるので、インペラに対して磁石の吸引力と反対方向の力が作用することになる。
【0007】
すなわち、インペラが停止しているときには磁石の力によるスラスト力がステータ側スラスト軸受に作用しているので、起動時の回転抵抗が大きくなる。起動時の回転抵抗が大きくなると、起動電流の増大を招くことになる。起動後、インペラが回転を開始すると、吸入側が低圧、ステータ側が高圧になり、その結果、ステータ側スラスト軸受に作用するスラスト力が小さくなる。
【0008】
また、電動ポンプの消費電流を低減したいという強い要求があるので、起動時の消費電流の低減だけでなく、運転時の消費電流も低減できるようにする必要がある。
【0009】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、起動電流及び運転時の消費電流の両方を低減可能にした低消費電力の電動ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、アキシャルギャップモータと、前記アキシャルギャップモータの回転軸方向一方側に配置され、前記アキシャルギャップモータによって回転駆動されるインペラとを備え、前記インペラの回転によって流体を送るように構成された遠心式の電動ポンプを前提とすることができる。電動ポンプは、モータ筐体と、前記モータ筐体に固定されたステータコアと、前記ステータコアにおける前記回転軸方向一方側に対向するように配置され、前記インペラに固定された磁石と、前記インペラの回転中心部に固定され、前記回転軸方向に延びる軸線を持った筒状のラジアル軸受と、前記モータ筐体に固定されるとともに前記ラジアル軸受に挿通される支軸と、前記ラジアル軸受における前記回転軸方向一方側に位置する一端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成する吸入側スラスト軸受と、前記ラジアル軸受における前記回転軸方向他方側に位置する他端面に摺接するように設けられ、フローティング軸受構造を構成するステータ側スラスト軸受と、を備えている。前記ステータ側スラスト軸受における前記ラジアル軸受との摺接面には、静摩擦係数を低減するための静摩擦係数低減処理が施されている。
【0011】
この構成によれば、インペラがアキシャルギャップモータの回転軸方向一方側に配置されているので、インペラの回転により、回転軸方向一方側から流体が吸入されることになる。インペラのラジアル方向の力はラジアル軸受を介して支軸に作用するので、支軸によって受けることができる。また、インペラのスラスト力のうち、回転軸方向一方側に向かう力は、吸入側スラスト軸受によって受けることができ、回転軸方向他方側に向かう力は、ステータ側スラスト軸受によって受けることができる。
【0012】
インペラが停止しているときには磁石の吸引力に起因したスラスト力がステータ側スラスト軸受に作用することになるが、本構成では、ステータ側スラスト軸受におけるラジアル軸受との摺接面に静摩擦係数低減処理が施されているので、起動時の回転抵抗が小さくなり、起動電流が低減する。尚、インペラが停止しているときには、吸入側スラスト軸受に作用する力は十分に小さく、よって、吸入側スラスト軸受に静摩擦係数低減処理が施されていなくても、起動時の回転抵抗は小さくなる。
【0013】
インペラが回転すると、吸入側が低圧になり、ステータコア側が高圧になるので、インペラに対して磁石の吸引力と反対方向の力が作用することになり、ステータ側スラスト軸受に作用するスラスト力が小さくなる。また、インペラの回転によって流体の流れが形成されると、吸入側及びステータ側の両側の動摩擦係数がフローティング軸受構造によって低くなり、これにより、運転時の消費電流も低減する。
【0014】
前記フローティング軸受構造はレイリーステップ効果を利用したものであってもよい。また、前記電動ポンプは、前記インペラを収容するハウジングを備えていてもよい。この場合、前記ステータ側スラスト軸受には、前記ハウジング内に形成される高圧領域に連通し、前記高圧領域の流体を前記ラジアル軸受との摺接面に供給する第1流路を形成することができる。これにより、インペラの回転時に、高圧領域から第1流路に流入した流体をステータ側スラスト軸受とラジアル軸受との間に供給することができるので、フローティング軸受構造を構成でき、動摩擦係数を小さくできる。
【0015】
前記ラジアル軸受と前記支軸との間に、前記第1流路に連通し、前記第1流路を流通した流体を前記ラジアル軸受と前記支軸との間に供給する第2流路が形成されていてもよい。この構成によれば、第1流路を流通した流体をラジアル軸受と支軸との間に供給することができるので、流体を潤滑剤として利用することができ、動摩擦係数を小さくできる。
【0016】
前記第2流路は前記支軸の軸方向に延びるように形成することができる。この場合、前記吸入側スラスト軸受には、前記第2流路に連通し、前記第2流路を流通した流体を前記ラジアル軸受との摺接面に供給する第3流路を形成してもよい。これにより、インペラの回転時に、高圧領域から第1流路を経て第2流路に流入した流体を吸入側スラスト軸受とラジアル軸受との間に供給することができるので、動摩擦係数を小さくできる。
【0017】
前記インペラと前記ステータコアとの間に形成される空間と前記インペラの吸入側の空間とを連通させ、前記インペラと前記ステータコアとの間に形成される空間に流入した異物を前記吸入側の空間へ排出する異物排出孔が前記インペラを貫通するように形成されていてもよい。これにより、ハウジング内の高圧領域に異物(コンタミ)が流入した場合に、インペラの異物排出孔から低圧領域に排出することができるので、異物が第1流路に入り難くなる。
【0018】
前記異物排出孔内に形成される流路断面積は、前記第1流路の断面積よりも大きく設定されていてもよい。これにより、第1流路と異物排出孔とを比較した時、異物排出孔の方が流体の流通抵抗が小さくなるので、高圧領域の異物が異物排出孔へ向けて流れ易くなり、異物が第1流路、第2流路及び第3流路に詰まるのを抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、吸入側スラスト軸受及びステータ側スラスト軸受によってフローティング軸受構造を構成するとともに、ステータ側スラスト軸受の摺接面に静摩擦係数低減処理を施したので、起動電流及び運転時の消費電流の両方を低減することができ、低消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動ポンプの平面図である。
【
図4】ステータ側スラスト軸受をラジアル軸受側から見た図である。
【
図5】吸入側スラスト軸受をラジアル軸受側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る遠心式の電動ポンプ1の外観を示す図である。本実施形態では、電動ポンプ1が電動ウォーターポンプである場合について説明する。従って、本発明の実施形態に係る電動ポンプ1は、車両に搭載されている各種機器を冷却する冷却水(流体の一例)を所定の経路内で循環させるためのものである。冷却水はクーラントとも呼ばれる。
【0023】
前記各種機器としては、例えば走行用モータ、インバータ回路、エンジン、変速機、空調機器等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、他の機器の冷却水を循環させることもできる。この実施形態の説明では、
図1の上側を電動ポンプ1の上側といい、
図1の下側を電動ポンプ1の下側というものとするが、これは説明の便宜を図るために定義するだけであり、実際の使用時の姿勢を限定するものではなく、どのような姿勢で電動ポンプ1を使用してもよい。
【0024】
以下の説明では、本発明を遠心式の電動ポンプ1に適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明は、様々な液体や気体を送る電動ポンプに適用することもできる。また、気体を送る電動ポンプは、ブロアーやファン、圧縮機等であってもよい。
【0025】
図2は電動ポンプ1の断面図であり、この
図2に示すように、電動ポンプ1は、アキシャルギャップモータ2と、モータ筐体3と、アキシャルギャップモータ2によって回転駆動されるインペラ4と、ハウジング5と、回路基板(制御基板)6と、背面部材7とを備えている。回路基板6は、上下方向に延びるように形成され、電動ポンプ1の背面側に配設されている。背面部材7は、電動ポンプ1の背面カバーを構成する部材であり、この背面部材7によって回路基板6が覆われている。インペラ4はハウジング5内に収容されており、このハウジング5内に収容されたインペラ4がアキシャルギャップモータ2によって所定の方向に回転駆動されるようになっている。
【0026】
(ハウジング5の構成)
ハウジング5は、例えば樹脂材を射出成形してなる射出成形品である。
図1に示すように、ハウジング5の中央に位置する部分には、インペラ4の回転軸方向に突出する吸入管部50が一体成形されている。インペラ4の回転軸方向と、アキシャルギャップモータ2の回転軸方向とは一致している。この実施形態では、
図2における右側をアキシャルギャップモータ2の回転軸方向一方側と定義し、
図2における左側をアキシャルギャップモータ2の回転軸方向他方側と定義する。
【0027】
吸入管部50の先端部(上流端部)には、吸入口50aが開口している。吸入口50aには、図示しない吸入側配管を流通した冷却水が吸入されるようになっている。ハウジング5は、吸入管部50の基端部(下流端部)から径方向に延びるポンプ室形成壁部51を有しており、吸入管部50の突出方向と反対側は略全体が開放された形状となっている。ポンプ室形成壁部51の内方には、吸入管部50の下流端部に連通するポンプ室S1(
図2に示す)が形成されており、このポンプ室S1内にインペラ4が収容されている。インペラ4は、アキシャルギャップモータ2の回転軸方向一方側に配置される。このインペラ4の回転によって流体を送るように構成されている。
【0028】
図1に示すように、ポンプ室形成壁部51には、吸入管部50の基端部から径方向に離れた部分に膨出部51aが形成されている。膨出部51aは、インペラ4の回転軸周りに円弧状に延びるように形成されており、その膨出部51aの内方には、ポンプ室S1に連通する流出通路S2(
図2に示す)が形成されている。つまり、電動ポンプ1は、インペラ4の回転により、流体を回転中心線に沿う方向に吸入した後、径方向に吐出するように構成されている。
【0029】
図1に示すように、ハウジング5における流出通路S2の下流端部に対応する部分には、吐出管部52が一体成形されている。吐出管部52は、インペラ4の回転中心を中心とする仮想円の接線方向に突出するように形成されている。吐出管部52の基端部(上流端部)は、流出通路S2の下流端部と連通している。吐出管部52の先端部(下流端部)には、吐出口52a(
図1にのみ示す)が開口している。吐出口52aには、図示しない吐出側配管が連通しており、吐出管部52を流通した冷却水が吐出側配管に流入するようになっている。
【0030】
(モータ筐体3の構成)
図2に示すように、モータ筐体3は、例えば樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、ハウジング5を開放側から覆うように形成されている。モータ筐体3は、後述するアキシャルギャップモータ2を構成する複数のステータコア20及び複数のコイル21が埋め込まれた状態で固定されるステータ埋込部31を有している。ステータ埋込部31は、厚肉な板状をなしている。ステータ埋込部31と、ハウジング5のポンプ室形成壁部51との間に、上記ポンプ室S1が形成されている。
【0031】
また、モータ筐体3には、ハウジング5のポンプ室形成壁部51の内側に嵌まるように形成された環状部30が設けられている。環状部30は、ステータ埋込部31の周縁部からハウジング5内へ向けて突出するように形成されており、環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とは互いに密着するようになっている。環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とを密着させることにより、両者間の水密性が確保される。
【0032】
環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とを密着、もしくは接着することにより、両者間の水密性及び気密性が確保される。他の接合例として、環状部30とポンプ室形成壁部51とを例えばスピン融着(溶着)することもでき、これにより、ガスケットなどの封止部品とボルト締結を廃止しながら2部品を接合して水密性及び気密性を確保できる。また、融着(溶着)等することなく、環状部30とポンプ室形成壁部51との間にガスケットなどの封止部品(図示せず)を介在させた状態で、ボルト締結して両者を接合してもよい。環状部30とポンプ室形成壁部51との接合構造は、水密性及び気密性を確保できればよいので、上述した構造以外の接合構造を用いることも可能である。
【0033】
電動ポンプ1はエンジン等にフローティングマウントすることができるが、取付構造はこれに限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。また、電動ポンプ1は車体に取り付けてもよい。
【0034】
(アキシャルギャップモータ2の構成)
図2に示すように、アキシャルギャップモータ2は、モータ筐体3に固定された複数のステータコア20及び当該各ステータコア20に巻装された複数のコイル21と、磁石22Aと、バックヨーク22Bと、支軸24と、ラジアル軸受25と、吸入側スラスト軸受26と、ステータ側スラスト軸受27とを備えている。
図2において、インペラ4は、ステータコア20及びコイル21の右側に配置され、回路基板6は、ステータコア20及びコイル21の左側に配置される。この実施形態では、回転軸方向一方側にのみ磁石22Aが配置されており、他方側には磁石が配置されていない。よって、低コストかつ小型の電動ポンプ1とすることができる。
【0035】
ステータコア20は、例えば6つ設けられており、6つのステータコア20がアキシャルギャップモータ2の回転軸を囲むように環状に配設されるとともに、6つのステータコア20の周方向の間隔は等間隔に設定されている。6つのステータコア20は同じものであり、例えば鉄等の金属製の部材で構成され、回転軸方向に長い柱状をなしている。尚、ステータコア20の数は6つに限られるものではなく、任意の個数に設定できる。以下、ステータコア20の数に応じてコイル21の数、コアホルダ60の形状、コイルホルダ70の形状を変更することができる。
【0036】
コアホルダ60は、6つのステータコア20をそれぞれ保持する部材であり、電気絶縁性を持った樹脂材料で一体成形されている。ステータコア20とコイル21との間にコアホルダ60が介在することになるので、コアホルダ60によってステータコア20とコイル21とが絶縁される。
【0037】
各コイル21は、ステータコア20を囲むように配置される。よって、コイル21は、コアホルダ60にも保持されるが、本例ではコイルホルダ70を設けてコイル21の保持をより確実なものにしている。コイルホルダ70は、電気絶縁性を持った樹脂材料で一体成形されている。尚、ステータコア20とコイル21を共通の保持部材に保持させるようにしてもいい。
【0038】
6つのステータコア20を保持し、かつ、6つのコイル21を保持したコアホルダ60がモータ筐体3にインサート成形されている。また、コイルホルダ70はコアホルダ60に固定された状態でモータ筐体3にインサート成形されている。例えば、コアホルダ60及びコイルホルダ70を一次成形しておく。このときの樹脂は一次樹脂である。この一次成形時に、6つのステータコア20をインサート成形することも可能であり、この場合、コアホルダ60に6つのステータコア20を保持させる必要はない。コアホルダ60とコイルホルダ70は同時に成形しなくてもよく、このため、コアホルダ60とコイルホルダ70の樹脂が同一でなくてもよい。
【0039】
その後、コアホルダ60に6つのステータコア20を保持させるとともに、コイル21を配置し、さらに、コアホルダ60をコイルホルダ70に組み付ける。尚、コアホルダ60とコイルホルダ70をアッセンブリしなくてもよく、別々に二次成形の金型に置いてインサート成形することも可能である。
【0040】
このようにして得られたステータアッセンブリを、モータ筐体3を成形する金型(図示せず)内に収容して位置決めし、型締めした後、当該金型内に溶融樹脂(二次樹脂)を射出することで二次成形を行う。溶融樹脂が固化した後に脱型することで、ステータアッセンブリがインサート成形されたモータ筐体(二次成形品)3が得られ、モータ筐体3にはステータコア20及びコイル21が固定された状態になる。上記一次樹脂と二次樹脂とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
磁石22Aは、インペラ4におけるステータコア20側に設けられており、ステータコア20及びコイル21における回転軸方向一方側に対向するように配置される。磁石22Aとしては、例えば樹脂磁石等を用いることができる。バックヨーク22Bは、インペラ4におけるステータコア20側の面に固定されている。本例では、回転軸に対して直交する方向に延びる円板状のバックヨーク22Bを備えており、このバックヨーク22Bのステータコア20側の面に磁石22Aが固定されている。磁石22Aと、ステータコア20との距離は、両者の干渉を回避可能な最小の距離とされている。
【0042】
モータ筐体3には、インペラ4を回転可能に支持する支軸24が固定されている。支軸24は、アキシャルギャップモータ2の回転中心部に位置付けられている。支軸24の基端側(
図2における他方側)がモータ筐体3に埋め込まれた状態で固定される一方、支軸24の先端側(
図2における一方側)は流出通路S2内へ向けて突出している。
【0043】
図3にも示すように、支軸24の軸方向中間部には、径方向外方へ突出して周方向に延びる突出板部24aが形成されている。突出板部24aはモータ筐体3の外、即ち流出通路S2内に位置しており、突出板部24aの外形状は円形とされている。突出板部24aにおける他方側に位置する面は、モータ筐体3に接するように配置される。支軸24の突出板部24aよりも基端側の外径は、支軸24の突出板部24aよりも先端側の外径よりも大きく設定されており、外径の大きい部分がモータ筐体3に埋め込まれている。支軸24の突出板部24aよりも先端側は、ラジアル軸受25に挿通される部分である。
【0044】
支軸24の基端側には、基端側ネジ孔24bが形成されている。基端側ネジ孔24bは、支軸24の基端面に開口している。一方、支軸24の先端側には、先端側ネジ孔24cが形成されている。先端側ネジ孔24cは、支軸24の先端面に開口している。
【0045】
図2に示すように、ラジアル軸受25は、インペラ4の回転中心部に固定されており、当該インペラ4の回転軸方向に延びる軸線を持った筒状に形成されている。支軸24の突出板部24aよりも先端側がラジアル軸受25に挿通された状態で、ラジアル軸受25が支軸24に対して回転可能になっている。よって、インペラ4の回転時には、ラジアル軸受25の内周面と支軸24の外周面とが摺動することになる。
【0046】
図4~
図6に示すように、吸入側スラスト軸受26及びステータ側スラスト軸受27は、中心部に孔26a、27aをそれぞれ有する円板状をなしている。吸入側スラスト軸受26の孔26aは、支軸24の先端側部分の外径よりも小さく設定されており、吸入側スラスト軸受26は支軸24の先端面に当接した状態で固定されるようになっている。ステータ側スラスト軸受27の孔27aは、支軸24の先端側部分を挿通可能な径を有している。
【0047】
吸入側スラスト軸受26は、ラジアル軸受25の回転軸方向一方側に配置され、また、ステータ側スラスト軸受27は、ラジアル軸受25の回転軸方向他方側に配置されている。これにより、ラジアル軸受25が吸入側スラスト軸受26とステータ側スラスト軸受27とによって回転軸方向両側から挟まれることになる。ステータ側スラスト軸受27は、支軸24の突出板部24aとラジアル軸受25との間に配置され、支軸24に対して回転不能に固定されている。インペラ4が回転すると、ステータ側スラスト軸受27がラジアル軸受25における回転軸方向他方側に位置する他端面25aに摺接する。また、吸入側スラスト軸受26は、ラジアル軸受25における回転軸方向一方側に位置する一端面25bに摺接するように設けられる。ラジアル軸受25の一端面25b及び他端面25aは、回転軸と直交する方向に延びている。
【0048】
支軸24の先端側ネジ孔24cには、第1ネジAが螺合する。第1ネジAを先端側ネジ孔24cに螺合させることで、吸入側スラスト軸受26、ステータ側スラスト軸受27及びインペラ4を支軸24に取り付けて、インペラ4を回転可能な状態にすることができる。
【0049】
また、支軸24の基端側ネジ孔24bには、第2ネジBが螺合する。第2ネジBは、回路基板6及び背面部材7を、支軸24を介してモータ筐体3に固定するための部材である。第2ネジBを基端側ネジ孔24bに螺合させることで、回路基板6及び背面部材7が締結される。
【0050】
(流路の構成)
電動ポンプ1は、コイル21や回路基板6等を冷却するための流体や軸受25、26、27等を潤滑するための流体が流通する流路として、第1流路81、第2流路82及び第3流路83を備えている。第1流路81が最上流に位置しており、また、第3流路83が最下流に位置している。第2流路82は、第1流路81と第3流路83とを接続する接続流路である。
【0051】
第1流路81は、ステータ側スラスト軸受27に設けられており、ハウジング5内に形成される高圧領域に連通し、高圧領域の流体をラジアル軸受25との摺接面に供給するためのものである。すなわち、インペラ4が回転すると、吸入管部50から吸入された流体がポンプ室S1を経て流出通路S2に流出することになるので、ハウジング5のポンプ室S1の圧力と流出通路S2の圧力とを比較すると、流出通路S2の圧力の方が高くなる。この流出通路S2は、磁石22Aとステータコア20との間の隙間に連通しているので、当該隙間の圧力もポンプ室S1の圧力に比べて高くなる。したがって、流出通路S2と、磁石22Aとステータコア20との間の隙間とが、ハウジング5内に形成される高圧領域となる。一方、低圧領域は、ポンプ室S1となる。
【0052】
図4に示すように、ステータ側スラスト軸受27におけるラジアル軸受25側の面は、ラジアル軸受25との摺接面27bとされている。摺接面27bには、3つの第1流路81の下流側部分がステータ側スラスト軸受27の周方向に延びる溝状をなすように形成されている。第1流路81の上流側部分は、ステータ側スラスト軸受27を厚み方向に貫通した後、ステータ側スラスト軸受27の径方向外端部まで延びており、これにより、第1流路81の上流側部分は、磁石22Aとステータコア20との間の隙間(高圧領域)に連通した状態になる。第1流路81に流体が供給されると、ステータ側スラスト軸受27とラジアル軸受25との間に流体が介在してフローティング状態になる。よって、ステータ側スラスト軸受27に第1流路81を形成することで、フローティング軸受構造を構成することができる。ステータ側のフローティング軸受構造は、レイリーステップ効果を利用したものであり、ステータ側スラスト軸受27の摺動面とラジアル軸受25の摺動面との少なくとも一方に深さ数十μm以下の極浅溝を複数形成することによって得られる。また、ステータ側スラスト軸受27と、ラジアル軸受25との間には隙間の形成が可能になっているが、インペラ4の停止時には、ステータ側スラスト軸受27とラジアル軸受25とが密着している。
【0053】
第2流路82は、第1流路81の下流側部分に連通し、第1流路81を流通した流体を、ラジアル軸受25の内周面と支軸24の外周面との間に供給するためのものであり、ラジアル軸受25と支軸24との間に設けられている。
【0054】
具体的には、ラジアル軸受25の内周面と、支軸24の突出板部24aよりも先端側部分の外周面との間には、流体が流通可能な隙間が回転軸方向に連続して延びるように形成されており、この隙間によって第2流路82が構成されている。また、
図3に示すように、支軸24の突出板部24aよりも先端側部分の外周面には窪み部24dが周方向に連続して形成されている。この窪み部24dの形成により、ラジアル軸受25の内周面と支軸24の外周面との間の第2流路82を部分的に広くすることができ、十分な量の流体をラジアル軸受25と支軸24との間に供給できる。尚、ラジアル軸受25の内周面に、軸方向に延びる溝を形成し、この溝によって第2流路82を構成してもよいし、また、支軸24の外周面に、軸方向に延びる溝を形成し、この溝によって第2流路82を構成してもよい。
【0055】
第2流路82に流体を供給することで、ラジアル軸受25と支軸24との間に流体が介在し、介在する流体によって潤滑効果が得られる。
【0056】
吸入側スラスト軸受26におけるラジアル軸受25側の面は、ラジアル軸受25との摺接面26bとされている。
図5に示すように、摺接面26bには、第2流路82の下流側部分に連通し、第2流路82を流通した流体をラジアル軸受25との摺接面に供給するための3つの第3流路83が形成されている。第3流路83は、第1流路81の下流側部分と同様に、吸入側スラスト軸受26の周方向に延びる溝状をなすように形成されている。第3流路83への流体の入口は、支軸24の面取り部分と、開口部83aとで構成される。第3流路83に流入した流体は、吸入側スラスト軸受26の摺接面26bと、ラジアル軸受25の一端面25bとの間から低圧領域に流入可能になっている。
【0057】
第3流路83に流体が供給されると、吸入側スラスト軸受26とラジアル軸受25との間に流体が介在してフローティング状態になる。よって、吸入側スラスト軸受26に第3流路83を形成することで、フローティング軸受構造を構成することができる。吸入側のフローティング軸受構造もステータ側と同様にレイリーステップ効果を利用したものである。
【0058】
インペラ4には、当該インペラ4とステータコア20との間に形成される空間に流入した異物を吸入側の空間へ排出するための異物排出孔4aが形成されている。異物排出孔4aは、インペラ4における磁石22Aよりも径方向内側に位置しており、インペラ4を回転軸方向に貫通する貫通孔で構成され、インペラ4とステータコア20との間に形成される空間とインペラ4の吸入側の空間とを連通させている。
【0059】
異物排出孔4a内に形成される流路断面積は、各第1流路81の断面積よりも大きく設定されている。これにより、第1流路81と異物排出孔4aとを比較した時、異物排出孔4aの方が流体の流通抵抗が小さくなるので、高圧領域の異物が異物排出孔4aへ向けて流れ易くなり、異物が第1流路81、第2流路82及び第3流路83に詰まるのを抑制できる。
【0060】
(ステータ側スラスト軸受の表面処理)
ステータ側スラスト軸受27の摺接面27bには、静摩擦係数を低減するための静摩擦係数低減処理が施されている。静摩擦係数低減処理とは、処理前の摺接面27bの静摩擦係数に比べて処理後の摺接面27bの静摩擦係数を低くする処理であり、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いたコーティング処理、フッ素樹脂加工、ニッケルメッキ、シリコンカーバイドを用いたコーティング処理、二流化モリブデンを用いたコーティング処理等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、複数の処理を用いて静摩擦係数低減処理が構成されていてもよい。尚、静摩擦係数低減処理は、ステータ側スラスト軸受27の摺接面27bにのみ施されている。吸入側スラスト軸受26には、静摩擦係数低減処理が施されていない。
【0061】
(実施形態の作用効果)
以上のように構成された電動ポンプ1の回路基板6に搭載されている制御装置(図示せず)によってアキシャルギャップモータ2が制御されて回転すると、インペラ4がアキシャルギャップモータ2の回転軸方向一方側に配置されているので、インペラ4の回転により、回転軸方向一方側のポンプ室S1から流体が吸入されることになる。インペラ4のラジアル方向の力はラジアル軸受25を介して支軸24に作用するので、支軸24によって受けることができる。また、インペラ4のスラスト力のうち、回転軸方向一方側に向かう力は、吸入側スラスト軸受26によって受けることができ、回転軸方向他方側に向かう力は、ステータ側スラスト軸受27によって受けることができる。
【0062】
インペラ4が停止しているときには吸入側とステータコア20側の流体は略同じ圧力なので、磁石22Aの力によるスラスト力がステータ側スラスト軸受27に作用することになる。よって、吸入側スラスト軸受26とラジアル軸受25との間に隙間が形成され、ステータ側スラスト軸受27とラジアル軸受25とが密着している。磁石22Aの力によって作用するスラスト力は、インペラ4の停止時、回転時でほぼ同じである。ステータ側スラスト軸受27の摺接面27bには静摩擦係数低減処理が施されているので、ステータ側スラスト軸受27の摺接面27bとラジアル軸受25との間に発生する起動時の回転抵抗が小さくなる。よって、起動電流を低減できる。尚、インペラ4が停止しているときには、吸入側スラスト軸受26に作用する力は十分に小さく、よって、吸入側スラスト軸受26に静摩擦係数低減処理が施されていなくても、ラジアル軸受25と吸入側スラスト軸受26との間に発生する起動時の回転抵抗は小さくなる。
【0063】
インペラ4が回転し始め、極低回転数の領域では、静摩擦係数低減処理による効果が発揮される。このときも、吸入側スラスト軸受26とラジアル軸受25との間に隙間が形成されている。インペラ4の回転数が増加していくと、吸入側が低圧になり、ステータコア20側が高圧になり、その差圧が大きくなるので、インペラ4に対して磁石22Aの吸引力と反対方向の力が作用することになり、ステータ側スラスト軸受27に作用するスラスト力が小さくなっていき、ステータ側スラスト軸受27とラジアル軸受25との間に隙間が形成される。さらに、インペラ4の回転によって流体の流れが形成されると、各部のレイリーステップ効果によるフローティング軸受構造によって動摩擦係数が低くなり、これにより、運転時の消費電流も低減する。
【0064】
また、吸入された流体に異物が混入していて高圧領域まで流れた場合には、インペラ4の異物排出孔4aから低圧領域に排出することができる。これにより、第1流路81、第2流路82及び第3流路83に異物が流入し難くなり、回転不良を防止できる。
【0065】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明に係る電動ポンプは、例えば自動車に搭載される電動ウォーターポンプ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 電動ポンプ
2 アキシャルギャップモータ
3 モータ筐体
4 インペラ
4a 異物排出孔
5 ハウジング
20 ステータコア
21 コイル
22A 磁石
24 支軸
25 ラジアル軸受
26 吸入側スラスト軸受
27 ステータ側スラスト軸受
81 第1流路
82 第2流路
83 第3流路