(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115797
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】免震システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240820BHJP
G05B 9/02 20060101ALI20240820BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
E04H9/02 351
G05B9/02 A
F16F15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021640
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 琢志
(72)【発明者】
【氏名】稲井 慎介
(72)【発明者】
【氏名】川又 哲也
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
5H209
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139AB16
2E139AB18
2E139AC19
2E139BA12
2E139BA46
2E139BA53
3J048AB11
3J048AC04
3J048AD12
3J048BE03
3J048CB21
3J048CB27
3J048EA38
5H209AA20
5H209BB07
5H209CC01
5H209DD02
5H209DD04
5H209GG04
5H209HH13
5H209SS02
5H209TT01
(57)【要約】
【課題】免震システムの可用性を向上させ、建物の安全性を確保する。
【解決手段】演算装置13は、計測装置21~24が出力した信号に基づいて減衰装置61~64の減衰係数を決定する。監視装置14は、演算装置13の状態を監視して、演算装置13が異常状態であるか否かを判定する。演算装置13が異常状態であると監視装置14が判定した場合、監視装置14は、演算装置13の代わりに、計測装置21~24が出力した信号に基づいて減衰装置61~64の減衰係数を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設置され、減衰係数を変えることができる少なくとも一つの減衰装置と、
前記建物に設置され、設置された位置における前記建物の揺れを計測し、計測した揺れを表す信号を出力する少なくとも一つの計測装置と、
前記計測装置が出力した信号を入力し、前記計測装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置の減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力する演算装置と、
前記演算装置が出力した信号を入力し、前記演算装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置を制御する制御装置と、
前記演算装置の状態を監視する監視装置と
を備え、
前記監視装置は、前記演算装置が異常状態であるか否かを判定し、
前記演算装置が異常状態であると前記監視装置が判定した場合に、
前記監視装置は、前記演算装置の代わりに、前記計測装置が出力した信号を入力し、前記計測装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置の減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力し、
前記制御装置は、前記監視装置が出力した減衰係数を表す信号を入力し、前記監視装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置を制御する、
免震システム。
【請求項2】
前記演算装置は、生存信号を所定の間隔で出力し、
前記監視装置は、前記演算装置が出力した生存信号を入力し、前記所定の間隔が経過しても前記演算装置から生存信号を入力しなかった場合に、前記演算装置が異常状態であると判定し、
前記演算装置は、前記計測装置から入力した信号に基づいて、地震が発生しているか否かを判定し、地震が発生していると判定した場合に、地震が発生していないと判定した場合よりも前記所定の間隔を長くする、
請求項1の免震システム。
【請求項3】
地震が発生していないと判定した場合における前記所定の間隔は、50ミリ秒以上100ミリ秒以下であり、
地震が発生していると判定した場合における前記所定の間隔は、200ミリ秒以上1秒以下である、
請求項2の免震システム。
【請求項4】
前記演算装置は、生存信号を所定の間隔で出力し、
前記監視装置は、前記演算装置が出力した生存信号を入力し、前記所定の間隔が経過しても前記演算装置から生存信号を入力しなかった場合に、前記演算装置が異常状態であると判定し、
前記演算装置は、前記計測装置から入力した信号に基づいて、地震が発生しているか否かを判定し、地震が発生していると判定した場合に、地震が発生していないと判定した場合よりも前記所定の間隔を短くする、
請求項1の免震システム。
【請求項5】
地震が発生していないと判定した場合における前記所定の間隔は、50ミリ秒以上100ミリ秒以下であり、
地震が発生していると判定した場合における前記所定の間隔は、10ミリ秒以上50ミリ秒以下である、
請求項4の免震システム。
【請求項6】
前記監視装置は、前記演算装置が異常状態であると判定した場合に、管理者に通知する、
請求項1乃至5いずれかの免震システム。
【請求項7】
前記演算装置は、前記監視装置が異常状態であるか否かを判定し、前記監視装置が異常状態であると判定した場合に、管理者に通知する、
請求項1乃至5いずれかの免震システム。
【請求項8】
前記監視装置は、生存信号を所定の間隔で出力し、
前記演算装置は、前記監視装置が出力した生存信号を入力し、前記所定の間隔が経過しても前記監視装置から生存信号を入力しなかった場合に、前記監視装置が異常状態であると判定し、
前記監視装置は、前記計測装置から入力した信号に基づいて、地震が発生しているか否かを判定し、地震が発生していると判定した場合に、地震が発生していないと判定した場合よりも前記所定の間隔を長くする、
請求項7の免震システム。
【請求項9】
少なくとも二つの前記計測装置を備え、
前記演算装置及び前記監視装置は、前記計測装置から入力した信号に基づいて、前記計測装置が異常状態であるか否かを判定し、異常状態でないと判定した計測装置から入力した信号に基づいて、前記減衰装置の減衰係数を決定する、
請求項1乃至5いずれかの免震システム。
【請求項10】
少なくとも二つの前記計測装置は、異なる位置に設置され、
前記演算装置及び前記監視装置は、前記計測装置が設置された位置に基づいて、前記減衰装置の減衰係数を決定する、
請求項9の免震システム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記減衰装置が異常状態であるか否かを判定し、
前記演算装置は、前記減衰装置が異常状態であると前記制御装置が判定した場合に、管理者に通知する、
請求項1乃至5いずれかの免震システム。
【請求項12】
前記減衰装置は、生存信号を所定の間隔で出力し、
前記制御装置は、前記減衰装置が出力した生存信号を入力し、前記所定の間隔が経過しても前記減衰装置から生存信号を入力しなかった場合に、前記減衰装置が異常状態であると判定する、
請求項11の免震システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記減衰装置を制御する制御信号を所定の間隔で出力し、
前記減衰装置は、前記制御装置が出力した制御信号を入力し、前記制御装置から制御信号を入力した場合に、前記生存信号を出力する、
請求項12の免震システム。
【請求項14】
前記監視装置は、前記減衰装置が異常状態であると前記制御装置が判定した場合に、管理者に通知する、
請求項11の免震システム。
【請求項15】
少なくとも二つの前記減衰装置を備え、
前記演算装置及び前記監視装置は、異常状態であると前記制御装置が判定した減衰装置に基づいて、他の減衰装置の減衰係数を決定する、
請求項11の免震システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の免震システムに関し、特に、セミアクティブ免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、非共振セミアクティブ免震構造および免震方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセミアクティブ免震構造は、減衰装置、センサ、制御装置などの構成要素が故障していると、いざというときに機能を発揮することができない場合があり、安全性が保証できない。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
免震システムは、建物に設置され、減衰係数を変えることができる少なくとも一つの減衰装置と、前記建物に設置され、設置された位置における前記建物の揺れを計測し、計測した揺れを表す信号を出力する少なくとも一つの計測装置と、前記計測装置が出力した信号を入力し、前記計測装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置の減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力する演算装置と、前記演算装置が出力した信号を入力し、前記演算装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置を制御する制御装置と、前記演算装置の状態を監視する監視装置とを有する。前記監視装置は、前記演算装置が異常状態であるか否かを判定する。前記演算装置が異常状態であると前記監視装置が判定した場合に、前記監視装置は、前記演算装置の代わりに、前記計測装置が出力した信号を入力し、前記計測装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置の減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力し、前記制御装置は、前記監視装置が出力した減衰係数を表す信号を入力し、前記監視装置から入力した信号に基づいて前記減衰装置を制御する。
【発明の効果】
【0006】
演算装置が異常状態である場合に、監視装置が演算装置に代わって減衰係数を決定するので、免震システムの可用性が向上し、建物の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照して、免震システム10について説明する。
免震システム10は、建物(不図示)に設置され、地震などによる揺れを抑える。
免震システム10は、例えば、計測装置群12と、演算装置13と、監視装置14と、制御装置15と、減衰装置群16とを有する。
【0009】
減衰装置群16は、例えば、複数の減衰装置61~64からなる。
それぞれの減衰装置61~64は、例えばオイルダンパーであり、建物の揺れを減衰させる。減衰装置61~64の減衰係数は、段階的又は連続的に変化させることができる。減衰装置61~64の減衰係数を変えることにより、建物の減衰性能を変化させることができるので、建物が揺れを効果的に減衰できるよう、減衰装置61~64の減衰係数を設定することにより、免震効果を最大化することができる。なお、免震システム10は、減衰装置61~64に加えて、減衰係数が固定された減衰装置を有してもよい。
【0010】
計測装置群12は、例えば、複数の計測装置21~24からなる。
計測装置21~24は、例えば、前記建物の異なる位置に設置されている。それぞれの計測装置21~24は、設置された位置における前記建物の揺れを計測し、計測した揺れを表す信号を出力する。計測装置21~24は、例えば、加速度センサである。
【0011】
演算装置13は、例えば、コンピュータであり、コンピュータプログラムを実行することにより、以下の機能ブロックを実現する。なお、これらの機能ブロックのうちのいくつか又はすべては、ソフトウェア的に実現するのではなく、ハードウェア的に実現したものであってもよい。
演算装置13は、計測異常判定部31と、演算部32と、地震判定部33と、生存送信部34と、監視異常判定部35と、異常通知部36とを有する。
【0012】
計測異常判定部31は、それぞれの計測装置21~24が異常状態であるか否かを判定する。例えば、計測異常判定部31は、それぞれの計測装置21~24が出力した信号を入力する。計測異常判定部31は、入力した信号に基づいて、それぞれの計測装置21~24が故障などの異常状態であるか否かをリアルタイムに判定する。例えば、入力した信号が表す揺れがあり得ない値である場合に、その信号を出力した計測装置が異常状態であると判定する。
【0013】
演算部32は、それぞれの計測装置21~24が出力した信号を入力する。演算部32は、入力した信号のうち、異常状態ではないと計測異常判定部31が判定した計測装置が出力した信号に基づいて、揺れの状態(例えば周波数など)をリアルタイムに把握する。演算部32は、把握した揺れの状態に対する減衰装置61~64の効果的な減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力する。
【0014】
例えば、計測装置21が異常状態ではないと計測異常判定部31が判定した場合は、演算部32は、計測装置21が出力した信号に基づいて減衰係数を決定する。計測装置21が異常状態であると計測異常判定部31が判定した場合は、計測装置22が異常状態ではないと計測異常判定部31が判定していれば、演算部32は、計測装置22が出力した信号に基づいて減衰係数を決定する。計測装置21も計測装置22も異常状態であると計測異常判定部31が判定した場合は、計測装置23が異常状態ではないと計測異常判定部31が判定していれば、演算部32は、計測装置23が出力した信号に基づいて減衰係数を決定する。
あるいは、異常状態ではないと計測異常判定部31が判定した計測装置が複数ある場合、演算部32は、そのなかのいくつか又はすべてが出力した信号に基づいて減衰係数を決定してもよい。
【0015】
なお、計測装置21~24がそれぞれ建物の異なる位置に設置されている場合、同じ揺れでも、計測装置21~24が設置されている位置によって異なる値が計測される。このため、演算部32は、減衰係数の決定に用いる信号を出力した計測装置が設置されている位置に基づいて、その信号が表す揺れを補正した上で、減衰係数を決定してもよい。
減衰装置61~64のなかに異常状態である減衰装置がある場合は、異常状態である減衰装置の減衰係数は変えられないと仮定して、他の減衰装置の減衰係数を決定してもよい。減衰装置61~64が異常状態であるか否かは、例えば、後述する制御装置15の減衰異常判定部52が判定する。また、異常状態でない減衰装置の減衰係数を変えたときに、計測装置21~24が計測する建物の揺れがどう変化したかに基づいて、異常状態である減衰装置の減衰係数を推定してもよい。
【0016】
地震判定部33は、それぞれの計測装置21~24が出力した信号を入力する。地震判定部33は、入力した信号のうち、異常状態ではないと計測異常判定部31が判定した計測装置が出力した信号に基づいて、地震が発生しているか否かをリアルタイムに判定する。
【0017】
生存送信部34は、生存信号を所定の間隔で繰り返し出力する。生存送信部34が出力する生存信号は、演算装置13が正常に機能していることを表している。これを監視装置14が監視することにより、演算装置13が異常状態にあるか否かを判定する。
地震が発生したときは、地震発生から100ミリ秒以内に減衰係数を決定できることが望ましい。このため、生存信号の出力間隔は、100ミリ秒以下であることが望ましい。しかし、短すぎても意味がなくリソースを消費するだけなので、50ミリ秒以上であることが望ましい。
【0018】
生存送信部34が生存信号を出力する間隔は、地震が発生していると地震判定部33が判定したか否かによって変えてもよい。地震が発生している場合、減衰係数を遅延なく決定しなければならない。そこで、地震が発生していない場合よりも生存信号を出力する間隔を長くすることにより、生存送信部34による処理の負荷を下げ、演算部32にリソースを集中させる。
このため、地震発生中における生存信号の出力間隔は、200ミリ秒以上であることが望ましい。しかし、地震発生中に異常が発生する可能性もあり、その場合に迅速に対応できるようにしなければならないので、1秒以下であることが望ましい。
【0019】
なお、演算装置13に十分なリソースがある場合は、生存送信部34による処理の負荷を下げる必要はない。そこで、逆に、生存信号の出力間隔を短くしてもよい。これにより、地震発生中に異常が発生した場合に、遅延なく対応することができる。
その場合、地震発生中における生存信号の出力間隔は、50ミリ秒以下であることが望ましい。また、リソースにどの程度余裕があるかにもよるが、一般に、10ミリ秒以上であることが望ましい。
【0020】
監視異常判定部35は、監視装置14が異常状態であるか否かを判定する。例えば、後述する監視装置14の生存送信部44が出力する生存信号を繰り返し入力することにより、監視装置14が異常状態ではないと判定し、所定の間隔が経過しても監視装置14から生存信号を入力しなかった場合に、監視装置14が異常状態であると判定する。
なお、生存送信部34が生存信号を出力する間隔と同様、監視装置14の生存送信部44が生存信号を出力する間隔も、地震発生中か否かによって変えてもよく、地震発生中は、地震が発生していない場合よりも生存信号の出力間隔を長くして、監視異常判定部35による処理の負荷を下げ、演算部32にリソースを集中させてもよい。
【0021】
異常通知部36は、異常が発生した場合に、そのことを免震システム10の管理者に対して通知する。例えば、いずれかの計測装置21~24が異常状態であると計測異常判定部31が判定した場合に、どの計測装置が異常状態であるかを通知する。また、監視装置14が異常状態であると監視異常判定部35が判定した場合に、その旨を通知する。また、いずれかの減衰装置61~64が異常状態であると制御装置15の減衰異常判定部52が判定した場合に、どの減衰装置が異常状態であるかを通知する。これにより、異常に速やかに対処して、正常状態に復帰させることができる。
【0022】
監視装置14は、演算装置13とは独立した装置であり、演算装置13の状態を監視して、演算装置13が異常状態である場合に、演算装置13の代わりをする。監視装置14は、演算装置13から物理的に独立していることが望ましいが、ソフトウェア的に独立したものであってもよい。
監視装置14は、例えばコンピュータであり、コンピュータプログラムを実行することにより、以下の機能ブロックを実現する。なお、これらの機能ブロックのうちのいくつか又はすべては、ソフトウェア的に実現するのではなく、ハードウェア的に実現したものであってもよい。
監視装置14は、例えば、計測異常判定部41と、演算部42と、地震判定部43と、生存送信部44と、演算異常判定部45と、異常通知部46とを有する。
【0023】
計測異常判定部41は、演算装置13の計測異常判定部31と同様に、計測装置21~24が出力した信号を入力し、入力した信号に基づいて、それぞれの計測装置21~24が異常状態であるか否かをリアルタイムに判定する。
【0024】
地震判定部43は、演算装置13の地震判定部33と同様に、計測装置21~24が出力した信号を入力し、入力した信号のうち、異常状態ではないと計測異常判定部31が判定した計測装置が出力した信号に基づいて、地震が発生しているか否かをリアルタイムに判定する。
【0025】
生存送信部44は、演算装置13の生存送信部34と同様に、生存信号を所定の間隔で繰り返し出力する。生存送信部44が出力する生存信号は、監視装置14が正常に機能していることを表している。これを演算装置13が監視することにより、監視装置14が異常状態にあるか否かを判定する。
生存送信部44が生存信号を出力する間隔は、演算装置13の生存送信部34と同様、平常時は50ミリ秒以上100ミリ秒以下、地震発生中は200ミリ秒以上1秒以下又は10ミリ秒以上50ミリ秒以下であることが望ましい。なお、生存送信部44が生存信号を出力する間隔は、演算装置13の生存送信部34が生存信号を出力する間隔と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
演算異常判定部45は、演算装置13が異常状態であるか否かを判定する。例えば、演算装置13の生存送信部34が出力する生存信号を繰り返し入力することにより、演算装置13が異常状態ではないと判定し、所定の間隔が経過しても演算装置13から生存信号を入力しなかった場合に、演算装置13が異常状態であると判定する。また、平常時と地震発生中とで生存信号の出力間隔を変える場合は、地震発生中であると地震判定部43が判定したにもかかわらず、演算装置13の生存送信部34が生存信号を出力する間隔が変わらなかった場合に、演算装置13が異常状態であると判定してもよい。
【0027】
演算部42は、演算装置13が異常状態であると演算異常判定部45が判定した場合に、演算装置13の演算部32の代わりに、減衰装置61~64の減衰係数を決定する。例えば、計測装置21~24が出力した信号を入力し、入力した信号のうち、異常状態ではないと計測異常判定部41が判定した計測装置が出力した信号に基づいて、減衰装置61~64の減衰係数を決定し、決定した減衰係数を表す信号を出力する。
【0028】
異常通知部46は、異常が発生した場合に、そのことを免震システム10の管理者に対して通知する。例えば、演算装置13が異常状態であると演算異常判定部45が判定した場合に、その旨を通知する。また、演算装置13が異常状態であるときに、計測装置21~24や減衰装置61~64に異常が発生した場合には、演算装置13の異常通知部36に代わって、異常発生を通知する。
【0029】
制御装置15は、演算装置13や監視装置14とは独立した装置であり、演算装置13や監視装置14からの信号に基づいて、減衰装置61~64を制御する。制御装置15は、演算装置13や監視装置14から物理的に独立していることが望ましいが、ソフトウェア的に独立したものであってもよい。
制御装置15は、例えばロジック回路である。なお、これらの機能ブロックのうちのいくつか又はすべては、ハードウェア的に実現するのではなく、ソフトウェア的に実現したものであってもよい。
制御装置15は、例えば、制御部51と、減衰異常判定部52とを有する。
【0030】
制御部51は、演算装置13の演算部32や監視装置14の演算部42が出力した信号を入力する。制御部51は、減衰装置61~64の減衰係数が、入力した信号が表す減衰係数になるよう、減衰装置61~64を制御する制御信号を出力する。
なお、監視装置14の演算部42は、演算装置13が異常状態であると演算異常判定部45が判定した場合のみ信号を出力するので、通常は、演算装置13の演算部32からの信号と、監視装置14の演算部42からの信号とが競合することはない。しかし万が一、演算装置13の演算部32からの信号と、監視装置14の演算部42からの信号とが競合した場合には、いずれか一方からの信号だけにしたがい、他方からの信号を無視してもよい。その場合、少なくとも、監視装置14の演算異常判定部45は、演算装置13が異常状態であると判定しているということなので、監視装置14の演算部42からの信号を優先させることが望ましい。
【0031】
減衰装置61~64は、制御部51が出力した制御信号を入力し、入力した制御信号にしたがって動作することにより、減衰係数が変化する。減衰装置61~64は、制御部51から制御信号を入力した場合に、それに対する応答信号(生存信号の一例。)を出力する。応答信号は、単純に制御信号を入力したことを示すものであってもよいし、制御の結果を表すものであってもよい。
【0032】
減衰異常判定部52は、それぞれの減衰装置61~64が異常状態であるか否かを判定する。例えば、減衰異常判定部52は、それぞれの減衰装置61~64が出力した応答信号を入力することにより、減衰装置61~64が異常状態ではないと判定し、制御部51が制御信号を出力したにもかかわらず、減衰装置61~64から応答信号が返ってこない場合に、応答信号を返してこない減衰装置が異常状態であると判定する。
【0033】
なお、制御部51は、演算装置13の演算部32や監視装置14の演算部42からの信号を入力しなかったとしても、所定の間隔で制御信号を出力してもよい。そうすれば、減衰装置61~64の異常を早期に発見することができる。なお、減衰装置61~64が故障する可能性は、演算装置13や監視装置14よりも低いので、制御部51が制御信号を出力する間隔は、演算装置13の生存送信部34や監視装置14の生存送信部44が生存信号を出力する間隔よりも長くてよい。
また、減衰装置61~64は、制御装置15から制御信号を入力したか否かにかかわらず、所定の間隔で生存信号を自律的に送信してもよい。その場合、制御装置15の減衰異常判定部52は、減衰装置61~64から生存信号を入力することにより、その減衰装置が異常状態ではないと判定し、所定の間隔が経過しても減衰装置61~64から生存信号を入力しなかった場合に、その減衰装置が異常状態であると判定する。これにより、制御部51が所定の間隔で制御信号を出力しなくても、減衰装置61~64の異常を早期に発見することができる。
【0034】
このように、各構成要素の状態を監視し、異常が発生した場合には、バックアップが動作することで免震システム10の可用性が向上し、建物の安全性を高めることができる。
なお、上述した例では、制御装置15に対するバックアップが存在しないが、演算装置13に対する監視装置14と同様に、制御装置15の状態を監視して、制御装置15に異常が発生した場合には、制御装置15の代わりに動作する装置を設けてもよい。そうすれば、免震システム10の可用性が更に向上する。
地震発生中は、生存確認の間隔を長くすることにより、必要な処理にリソースを集中させることができる。逆に、生存確認の間隔を短くすれば、遅延なくパックアップに切り替えることができる。
異常が発生した場合に管理者に通知することにより、迅速な対処が可能になる。
【0035】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【0036】
セミアクティブ免震構造は、複数の減衰係数を持つオイルダンパー(以下、セミアクティブオイルダンパー)を用いた免震システムであり、一般に、セミアクティブオイルダンパー本体の他、制御対象の状態量を検出する計測部と、その状態量に応じた制御指令を計算する演算部、さらにその制御指令を電気信号としてダンパーに送る制御部の制御システムによって構成される。制御対象の状態量に応じてセミアクティブオイルダンパーが持つ複数の減衰係数を制御することで、地震に対する建物の安全性や使用性を向上させ、従来品である単一の減衰係数しか持たないオイルダンパーよりも高性能な免震構造を実現する。
しかしながら、計測部や演算部に故障等の異常が発生した場合には、セミアクティブオイルダンパーによる所定の制御が不可能となり、建物の地震に対する性能が低下する。したがって、同ダンパーを用いた免震構造には故障等の異常に対する制御システムの冗長性が求められる。
そこで、演算部の状態を常時監視する監視部を設け、また、監視部の生存を確認する監視機能を演算部にも付加したことによる相互監視機能により、故障等の異常に対する制御システムの冗長化を実現する(フェイルオーバー機能)。また、お互いの異常を検知した場合には管理者(関係者を含む。)にこれを通知する配信機能をもたせることで、故障等の異常からの早期復旧を図ることが可能になる。これにより、セミアクティブ免震構造における制御システムの冗長化を実現し、地震に対する建物の安全性や使用性を保証することが可能となる。
計測部や演算部に故障等が発生した場合でも、セミアクティブオイルダンパーによる所定の制御が不可能とならず、建物の地震に対する性能が低下しない。したがって、同ダンパーを用いた免震構造には故障等の異常に対する制御システムの冗長性が得られ、その正常性をアナログで監視する必要がなく、人件費等のコストを抑えることができる。
演算部と監視部は、常時は100ms以下の間隔で相互に生存信号を送り合い、お互いの生存を確認し合う。地震を検知した場合には、生存信号の間隔を常時よりも長くして、生存信号による負荷を小さくすることで、ダンパーの制御に支障をきたさないようにする。
演算部は、計測部の状態も常時監視し、計測部からの信号が明らかな異常値であった場合には、参照する計測部を切り替え、ダンパーの制御に支障をきたすことなく、計測部の故障等に対するリスクを低減する。また、計測部の異常を管理者に通知し、計測部の異常からの早期復旧を図ることが可能となる。なお、異常により参照する計測部を切替えた場合は、計測部の位置による補正を行うことで、ダンパー制御には支障をきたさない。
演算部が監視部からの生存信号を受信できなくなった場合には、演算部は、監視部に異常が発生したものと判断し、監視部の異常を管理者に通知する。これにより監視部の異常からの早期復旧を図ることが可能となる。
監視部が演算部からの生存信号を受信できなくなった場合には、監視部は、演算部に異常が発生したものと判断し、演算部の異常を管理者に通知する。これにより演算部の異常からの早期復旧を図ることが可能となる。また、監視部は、演算部復旧までのバックアップとしてその機能を代替し、一時的にでもダンパーの制御が行えない状態を作らず、演算部の故障等に対するリスクを低減する。
ダンパー側は、制御部から制御信号を受け取ったら、生存信号を制御部に送る。制御部は、すべてのダンパーの生存を生存信号により判定する。ダンパーから生存信号が来ない場合、制御部は、そのダンパーに異常が発生したものと判断して、それを演算部に知らせる。制御部からの異常信号を受け取った演算部は、ダンパーの異常を管理者に通知する。
これにより、セミアクティブ免震構造における制御システムの冗長化を実現し、地震に対する建物の安全性や使用性を保証することが可能となる。
監視部と演算部の相互監視、異常通知の機能により、人件費を抑えつつ故障等の異常に対する制御システムの冗長化を実現し、地震に対する建物の安全性や使用性を保証することが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
10 免震システム、12 計測装置群、13 演算装置、14 監視装置、15 制御装置、16 減衰装置群、21~24 計測装置、31,41 計測異常判定部、32,42 演算部、33,43 地震判定部、34,44 生存送信部、35 監視異常判定部、36,46 異常通知部、45 演算異常判定部、51 制御部、52 減衰異常判定部、61~64 減衰装置。