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特開2024-115816アーク型電気炉および還元鉄の溶解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115816
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】アーク型電気炉および還元鉄の溶解方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/18 20060101AFI20240820BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20240820BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F27B3/18
F27D3/16 Z
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021666
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 時永
(72)【発明者】
【氏名】伊田 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
【テーマコード(参考)】
4K014
4K045
4K055
【Fターム(参考)】
4K014CB02
4K014CC05
4K014CD02
4K014CD12
4K014CD13
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA06
4K045DA07
4K045RB02
4K045RB17
4K045RC04
4K045RC10
4K055AA03
4K055MA03
4K055MA05
4K055MA17
(57)【要約】
【課題】底吹きガスによる溶鋼の攪拌を利用して炉内に投入された還元鉄をより速やかに溶解させる。
【解決手段】断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、炉体の底部に配置される下部電極と、炉体の上方に配置され、下部電極との間で通電されることによって炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、炉体の底部で、円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点に配置される3本以上の底吹きノズルと、炉体の断面において円形部分の中心と底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域であって、一辺の長さL(m)が底吹きノズルの数n、円形部分の中心から底吹きノズルまでの距離r、および円形部分の半径rを用いて式(i)で算出される多角形状の領域内に還元鉄を投入する原料投入手段とを備えるアーク型電気炉が提供される。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、
前記炉体の底部に配置される下部電極と、
前記炉体の上方に配置され、前記下部電極との間で通電されることによって前記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、
前記炉体の底部で、前記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点に配置される3本以上の底吹きノズルと、
前記炉体の断面において前記円形部分の中心と前記底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域であって、一辺の長さL(m)が前記底吹きノズルの数n、前記円形部分の中心から前記底吹きノズルまでの距離r、および前記円形部分の半径rを用いて式(i)で算出される多角形状の領域内に還元鉄を投入する原料投入手段と
を備えるアーク型電気炉。
【請求項2】
前記底吹きノズルの1本あたりのガス流量が4.5Nm/h以上18Nm/h以下である、請求項1に記載のアーク型電気炉。
【請求項3】
前記円形部分の中心から前記底吹きノズルまでの距離rと前記円形部分の半径rとの比r/rが0.4以上0.8以下である、請求項1または請求項2に記載のアーク型電気炉。
【請求項4】
断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、
前記炉体の底部に配置される下部電極と、
前記炉体の上方に配置され、前記下部電極との間で通電されることによって前記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、
前記炉体の底部で、前記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点に配置される3本以上の底吹きノズルと
を備えるアーク型電気炉を用いた還元鉄の溶解方法であって、
前記炉体の断面において前記円形部分の中心と前記底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域であって、一辺の長さL(m)が前記底吹きノズルの数n、前記円形部分の中心から前記底吹きノズルまでの距離r、および前記円形部分の半径rを用いて式(i)で算出される多角形状の領域内に還元鉄を投入する、還元鉄の溶解方法。
【請求項5】
前記底吹きノズルから1本あたり4.5Nm/h以上18Nm/h以下のガス流量で不活性ガスを吹き込む、請求項4に記載の還元鉄の溶解方法。
【請求項6】
前記円形部分の中心から前記底吹きノズルまでの距離rと前記円形部分の半径rとの比r/rが0.4以上0.8以下である、請求項4または請求項5に記載の還元鉄の溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク型電気炉および還元鉄の溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉操業においては、需要増加に伴って良質なスクラップの不足が顕在化しており、スクラップ代替鉄源として直接還元鉄(DRI:Direct Reduced Iron)の使用が一般化している。しかしながら、DRIには還元反応によって酸素が除去された後の空隙が多数残っており、水などに触れると再酸化により発熱および発火の問題があるため、海上輸送や長期にわたる屋外保存は困難である。この問題を解決するため、見掛け比重3.4~3.6t/m程度のDRIを700℃前後の熱間で見掛け比重5.0~5.5t/mに圧縮成形したホットブリケット鉄(HBI:Hot Briquette Iron)が開発され、DRIと同じくスクラップ代替鉄源として一般的に使用されている。
【0003】
DRIやHBIのような還元鉄は、炉上部から溶鋼中へ投入され、比重の関係で湯面に浮いた状態で溶解して溶鋼と混ざり合う。電気炉操業で余剰な電力を生じさせないためには、還元鉄の溶解を速やかに完了する必要がある。製鋼用の電気炉として一般的に用いられるアーク型電気炉では、炉底部に設置された底吹きノズルから吹き込まれる不活性ガスによって炉内の溶鋼を攪拌している。炉内に投入された還元鉄は湯面に浮いた状態で攪拌による流れに乗って移動するが、相対的に温度の低い箇所に滞留すると溶解時間が長くかかってしまう。アーク型電気炉では炉上部から炉内に挿入された電極からアーク放電を行っているため炉中心部の温度が相対的に高くなる。従って、アーク型電気炉に投入された還元鉄は炉中心部に滞留することが望まれる。
【0004】
アーク型電気炉の炉内における溶鋼の流れを制御する技術として、例えば特許文献1や特許文献2が知られている。特許文献1には、アーク型電気炉の炉底電極の周りに湯面面積1mあたり0.12個以上の撹拌ガス吹込みプラグを配置し、プラグ1個あたり10Nm以上の撹拌ガスを吹き込むことによってノズル湯面上層の副原料層を効率的に攪拌して迅速に加熱溶解させ、炉内での精錬を促進および安定化させる技術が記載されている。特許文献2には、アーク型電気炉の炉体と同軸をなすピッチ円を定義した場合に、複数の電極が設けられるピッチ円から炉壁の内周面までの距離の3/4だけ炉壁寄りで、周方向に隣接する電極間のピッチ円上の2等分点と炉体中心とを通る半径線上から周方向両側に25°の範囲内に複数の底吹きガス吹込み用ノズルを設けることによって、溶融金属浴を十分に攪拌するとともに上部に浮遊しているスラグをアーク直下の高温領域であるピッチ円内に向けて滞留させるようにして溶融金属の精錬反応の向上を図る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-151035号公報
【特許文献2】特開平6-18174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載された発明は炉内の溶鋼の撹拌を改善するものではあるものの、還元鉄の使用を想定したものではなく、上述したように炉内投入後に湯面に浮いた状態の還元鉄を速やかに溶解することを可能にするものではない。
【0007】
そこで、本発明は、底吹きガスによる溶鋼の攪拌を利用して炉内に投入された還元鉄をより速やかに溶解させることを可能にするアーク型電気炉および還元鉄の溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、上記炉体の底部に配置される下部電極と、上記炉体の上方に配置され、上記下部電極との間で通電されることによって上記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、上記炉体の底部で、上記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点に配置される3本以上の底吹きノズルと、上記炉体の断面において上記円形部分の中心と上記底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域であって、一辺の長さL(m)が上記底吹きノズルの数n、上記円形部分の中心から上記底吹きノズルまでの距離r、および上記円形部分の半径rを用いて式(i)で算出される多角形状の領域内に還元鉄を投入する原料投入手段とを備えるアーク型電気炉。

[2]上記底吹きノズルの1本あたりのガス流量が4.5Nm/h以上18Nm/h以下である、[1]に記載のアーク型電気炉。
[3]上記円形部分の中心から上記底吹きノズルまでの距離rと上記円形部分の半径rとの比r/rが0.4以上0.8以下である、[1]または[2]に記載のアーク型電気炉。
[4]断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、上記炉体の底部に配置される下部電極と、上記炉体の上方に配置され、上記下部電極との間で通電されることによって上記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、上記炉体の底部で、上記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点に配置される3本以上の底吹きノズルとを備えるアーク型電気炉を用いた還元鉄の溶解方法であって、上記炉体の断面において上記円形部分の中心と上記底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域であって、一辺の長さL(m)が上記底吹きノズルの数n、上記円形部分の中心から上記底吹きノズルまでの距離r、および上記円形部分の半径rを用いて式(i)で算出される多角形状の領域内に還元鉄を投入する、還元鉄の溶解方法。

[5]上記底吹きノズルから1本あたり4.5Nm/h以上18Nm/h以下のガス流量で不活性ガスを吹き込む、[4]に記載の還元鉄の溶解方法。
[6]上記円形部分の中心から上記底吹きノズルまでの距離rと上記円形部分の半径rとの比r/rが0.4以上0.8以下である、[4]または[5]に記載の還元鉄の溶解方法。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、アーク型電気炉において、式(i)の近似式によって一辺の長さLが算出される多角形領域内に還元鉄を投入することによって、溶鋼の流動によって還元鉄が炉中心部に移動および滞留する可能性を高め、炉内に投入された還元鉄をより速やかに溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るアーク型電気炉の構造を示す図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3A】数値流体計算によって算出された炉内溶鋼の流速ベクトルの大きさを示す図である。
図3B図3Aに示された流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさを示す図である。
図4A】底吹きノズルの数が3本、r/r=0.8の場合における流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさを示す図である。
図4B図4Aの場合にDPM法によって算出された還元鉄の軌跡を示す図である。
図5】底吹きノズルの数が4本である場合の多角形領域を模式的に示す図である。
図6】底吹きノズルの数が6本である場合の多角形領域を模式的に示す図である。
図7A】従来例に係るアーク型電気炉における底吹きノズルの配置を示す図である。
図7B】従来例に係るアーク型電気炉における流速ベクトルの大きさを示す図である。
図7C】従来例に係るアーク型電気炉における流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさを示す図である。
図7D】従来例に係るアーク型電気炉におけるDPM法によって算出された還元鉄の軌跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係るアーク型電気炉の構造を示す図であり、図2図1のII-II線に沿った断面図である。アーク型電気炉1は、溶鋼Sが収容される炉体11、炉体11の開口部を囲む水冷パネル12、および水冷パネル12の上部を覆う蓋体13を含む。還元鉄は、蓋体13に形成された原料投入管14から炉内に投入される。炉体11の上方には上部電極15が配置され、炉体11の底部に配置された下部電極16との間で通電して上部電極15と溶鋼Sの湯面との間にアーク17を発生させることによって炉内が加熱され、投入された還元鉄が溶解される。図2に示された例においてアーク型電気炉1は3本の上部電極15を有する交流電気炉であるが、例えば2本以下、または4本以上の電極を有する直流電気炉とすることも可能である。炉体11には、精錬後の溶鋼Sを排出する出鋼孔18、および精錬で発生するスラグを排出する出滓孔19も形成される。
【0012】
さらに、アーク型電気炉1の炉体11には、底吹きノズル20が形成される。既に説明したように、底吹きノズル20は、溶鋼Sが収容された炉体11の底部から不活性ガスGを吹き込むことによって溶鋼Sを攪拌するために設けられる。図2に示された例では、炉体11に3つの底吹きノズル21,22,23が形成されている。以下の説明では、炉半径をrとし、炉中心Cから底吹きノズル21,22,23(図1に示す底吹きノズル20)のそれぞれまでの距離をrとする。ここで、炉中心Cは、炉体11の断面に含まれる円形部分の中心を意味する。つまり、本実施形態において炉体11は断面に少なくとも部分的に円形部分を含む。図2に示された例のように炉体11の断面が卵形である場合は、円周が卵形の一部を構成する2つの円のうち大きい方の円の中心を炉中心Cとする。あるいは、上部電極15は炉体11に含まれる大きい方の円の中心の周りに配置されるため、上部電極15を頂点とする図形の図心を炉中心Cとしてもよい。この場合、上部電極15が1本であれば上部電極15の位置が炉中心Cになり、上部電極15が2本であれば2本の上部電極15の中心が炉中心Cになり、上部電極15が3本以上である場合はそれぞれの上部電極15を頂点とする多角形の重心が炉中心Cになる。
【0013】
本発明者らは、上記のようなアーク型電気炉1において、還元鉄をより確実に炉中心部に移動および滞留させるための底吹きノズル20の数および配置、不活性ガスの流量、および還元鉄の投入位置の関係について検討した。具体的には、容量175tのアーク型電気炉1において、底吹きノズル20の数は3本、4本または6本とし、炉中心Cを重心とする正多角形の頂点に底吹きノズル20を配置する。また、炉中心Cから底吹きノズル20までの距離rを炉半径rとの関係で変化させ、r/r=0.4,0.6,0.8とする。また、底吹きノズル20の1本あたりのガス流量は4.5Nm/hまたは18Nm/hとする。上記の各条件の組み合わせの溶鋼流動について、数値流体計算を実施した。溶鋼流動の数値流体計算はH. J. Odenthal, U. Falkenreck and J. Schluter: "European Conference on Computational Fluid Dynamics ECCOMAS CFD 2006," ECCOMAS, Delft, (2006) に記載された方法に従って以下のように実施し、さらにDPM(Discrete Phase Model;分散相モデル)法によってDRI(直接還元鉄)やHBI(ホットブリケット鉄)を模した粒子を投入して軌跡を追った。
【0014】
(溶鋼流動の計算手法)
質量保存則(式(1))とNavier-Stokes方程式(式(2))を解くことで溶鋼の流れを算出する。また、湯面の形状変化を考慮するためにVOF(Volume Of Fluid)法(式(3))も適用する。底吹きにより吹き込まれる不活性ガスはアルゴンガスとし、吹き込まれたガスを球体の粒子と仮定してDPM法(式(4))を適用する。
【0015】
【数1】
【0016】
質量保存則の式(1)およびNavier-Stokes方程式(2)において、uは流速、ρは密度、tは時間、pは圧力、μは粘度、gは重力加速度、Fは気泡粒子から受ける抗力、σは表面張力、κは自由表面の曲率、nは自由表面の単位法線ベクトルである。
【0017】
【数2】
【0018】
VOF法の式(3)において、Fは流体の体積率である。体積率Fは、ある時刻に特定の場所が溶鋼であるか(F=1)、雰囲気ガスであるか(F=0)を表す。式(3)により、炉内における溶鋼および雰囲気ガスの領域が決定できる。
【0019】
【数3】
【0020】
DPM法における粒子の運動方程式(4)において、mは粒子質量、uは粒子の速度、Fはupとuとの相互作用力である。
【0021】
以上の式(1)から式(4)を用いた数値流体計算によって、溶鋼中にガスが吹き込まれ、ガスの浮上による運動が溶鋼側に伝わり溶鋼が流動するという現象が再現され、湯面における流速ベクトルを算出することができる。算出された流速ベクトルが炉中心部に向かっている箇所に還元鉄を投入すれば、還元鉄が炉中心部に移動および滞留する可能性が高いと考えられる。
【0022】
図3Aは数値流体計算によって算出された炉内溶鋼の流速ベクトルの大きさを示す図であり、図3B図3Aに示された流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさを示す図である。ここで、流速ベクトルの向きは、図3Aに円C1,C2として例示するように炉中心Cを中心とする円に対する法線方向の成分の大きさによって特定される。図3Bに示されるように、炉中心付近では炉中心向きの流速ベクトルが発生し、炉外側では炉外側向きの流速ベクトルが発生しているが、その境界は必ずしも底吹きノズルの位置とは一致していない。具体的には、図3Bに領域Rとして図示するように、炉中心向きの流速ベクトルは、炉体の断面において炉中心と底吹きノズルとを通る直線上に頂点を有する多角形状の領域(図示された例では底吹きノズルが3本であるため三角形状の領域。以下、単に多角形領域ともいう)内で発生している。
【0023】
図4Aは底吹きノズルの数が3本、r/r=0.8の場合における流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさを示す図であり、図4B図4Aの場合にDPM法によって算出された還元鉄の軌跡を示す図である。上記の図3B図4Aに示されるように、多角形領域Rの内側だけではなく、炉体11の卵形の断面における張り出し部分A(炉中心Cを中心とする半径rの円よりも外側の部分)の先端付近でも炉中心向きの流速ベクトルが発生している。しかしながら、この領域に還元鉄を投入しても、炉中心部に到達する前に炉外側向きの流速ベクトルが発生している部分Bを通過することになるため、還元鉄が安定的に炉中心部に移動および滞留することにはならない。このことは図4Bに示された軌跡によっても示されている。図4Bには、多角形領域Rの内側と外側とで移動軌跡が分断されており、多角形領域Rの外側にある還元鉄は結果的に炉中心部に到達しないことが示されている。
【0024】
底吹きノズルの数が3本、4本および6本の場合、ならびにr/rが0.4,0.6,0.8の場合のすべてにおいて数値流体計算を実施したところ、上記と同様の結果、すなわち炉体の断面において炉中心と底吹きノズルとを結ぶ線上に頂点を有する多角形領域R内では炉中心向きの流速ベクトルが発生し、DPM法によって算出された還元鉄の軌跡が多角形領域Rの内側では炉中心部を通過するという結果が得られた。
【0025】
本発明者らは、以上のような数値流体計算の結果をアーク型電気炉の設計に利用可能な数式として表現するために、上記で説明した多角形領域Rの一辺の長さをL(m)として、Lを底吹きノズルの数n、距離rおよび炉半径rを用いた以下の式(5)の近似式を作成した。式(5)の係数a,b,c,d,eは、流速ベクトルが炉外側に向かう領域と炉中心に向かう領域の境界に多角形の頂点が位置するようにしたときの多角形領域の一辺の長さを底吹きノズルの数nおよびr/rのそれぞれについて算出して、曲面近似することによって決定されている。
【0026】
【数4】
【0027】
表1に、各ケースの数値流体計算において実測された多角形領域R(炉中心向きの流速ベクトルが発生する領域)の一辺の長さと、式(5)によって算出された多角形領域の一辺の長さLとを示す。多角形領域Rの一辺の長さの実測値は底吹きノズル1本あたりのガス流量が4.5Nm/hの場合と18Nm/hとで大きな違いがなく、また一辺の長さLの近似値はそれぞれの実測値を精度よく近似できていることがわかる。
【0028】
【表1】
【0029】
以上より、式(5)の近似式は、少なくとも底吹きノズルの1本あたりのガス流量が4.5Nm/h以上18Nm/h以下の場合に有効であることがわかる。また、多角形領域Rの一辺の長さはガス流量によってほとんど変化していないため、ガス流量が上記の範囲外の場合にも式(5)の近似式を適用可能と考えられる。一方、炉体の大きさについてはr/rを用いることによって無次元化されているため、上述のように略円形の部分を含む断面の炉体であれば大きさに関わらず式(5)の近似式を適用可能である。数値流体計算の結果からは少なくともr/rが0.4以上0.8以下の場合に式(5)の近似式が有効であることがわかるが、r/rが0.4の場合と0.8の場合とで近似の精度に差はないため、r/rが上記の範囲外の場合にも式(5)の近似式を適用可能と考えられる。
【0030】
図5および図6に、底吹きノズルの数が4本および6本である場合の多角形領域を模式的に示す。式(5)には底吹きノズルの数nが変数として含まれるため、上記の例には限られず、底吹きノズル20が3本以上の任意の数である場合に式(5)の近似式を適用することが可能である。式(5)においてnおよびr/rのそれぞれの値が大きくなると一辺の長さLが長くなることから明らかなように、底吹きノズル20の数nが多いほど、また底吹きノズル20の炉中心Cからの距離rが大きいほど多角形領域Rの面積は大きくなり、これによって還元鉄の投入位置の自由度や投入位置の誤差の許容度が大きくなる。
【0031】
本実施形態では、図1に示したようなアーク型電気炉1において、式(5)の近似式によって一辺の長さLが算出される多角形領域R内に原料投入手段の例である原料投入管14を用いて還元鉄を投入することによって、溶鋼の流動によって還元鉄が炉中心部に移動および滞留する可能性を高め、炉内に投入された還元鉄をより速やかに溶解させることが可能になる。
【0032】
図7Aから図7Dは、従来例に係るアーク型電気炉における底吹きノズルの配置、流速ベクトルの大きさ、流速ベクトルの炉中心向きおよび炉外側向きの成分の大きさ、およびDPM法によって算出された還元鉄の軌跡を示す図である。従来のアーク型電気炉91では図7Aに示すようにそもそも底吹きノズル92が炉中心を重心とする正多角形の頂点には配置されていないことも多い。この場合は図7Cに示すように底吹きノズル92の間隔が相対的に広い部分で炉外側向きの流速ベクトルが発生する領域が炉中心部付近まで広がっており、図7Dに示されるDPM法によって算出された還元鉄の軌跡も炉中心部と炉外側とで分離されていない。このような軌跡は、炉中心部付近に還元鉄を投入しても、還元鉄が溶鋼の流動によって炉外側に移動し、還元鉄の熔解に時間がかかる可能性があることを示している。
【0033】
上述した本発明の実施形態では、炉中心Cを重心とする正多角形の頂点に底吹きノズル20を配置することによって炉中心Cの回りに略対称な溶鋼流動を発生させて炉中心向きの流速ベクトルが発生する領域を確保し、さらに上記の式(5)のような近似式で表される多角形領域R内に還元鉄を投入することによって還元鉄を炉中心部に移動および滞留させて速やかに溶解させることを可能にしている。
【符号の説明】
【0034】
1…アーク型電気炉、11…炉体、12…水冷パネル、13…蓋体、14…原料投入管、15…上部電極、16…下部電極、17…アーク、18…出鋼孔、19…出滓孔、20,21,22,23…底吹きノズル、C…炉中心、G…不活性ガス、R…多角形領域、S…溶鋼。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D