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特開2024-115817アーク型電気炉およびアーク型電気炉の操業方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115817
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】アーク型電気炉およびアーク型電気炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20240820BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20240820BHJP
   F27B 3/22 20060101ALI20240820BHJP
   F27D 27/00 20100101ALI20240820BHJP
【FI】
C21C5/52
F27D11/08 A
F27B3/22
F27D27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021667
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊田 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
(72)【発明者】
【氏名】難波 時永
【テーマコード(参考)】
4K014
4K045
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K014CC01
4K045AA04
4K045BA02
4K045RB17
4K056AA05
4K056CA02
4K056EA14
4K063AA04
4K063BA02
(57)【要約】
【課題】吹き込まれたガスによる仕事量の損失を最小化して溶鋼を効率的に攪拌する。
【解決手段】断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、炉体の底部に配置される下部電極と、炉体の上方に配置され、下部電極との間で通電されることによって炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、炉体の底部で、円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点付近に配置される3本以上の底吹きノズルとを備え、底吹きノズル1本あたりのガス流量をQ[Nm/h]、円形部分の半径r[m]、底吹きノズルの数をnとしたときに、円形部分の中心から正多角形の頂点までの距離r[m]が式(i)を満たす、アーク型電気炉。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、
前記炉体の底部に配置される下部電極と、
前記炉体の上方に配置され、前記下部電極との間で通電されることによって前記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、
前記炉体の底部で、前記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点付近に配置される3本以上の底吹きノズルとを備え、
前記底吹きノズル1本あたりのガス流量をQ[Nm/h]、前記円形部分の半径r[m]、前記底吹きノズルの数をnとしたときに、前記円形部分の中心から前記正多角形の頂点までの距離r[m]が式(i)を満たし、
前記底吹きノズルは、隣接する底吹きノズルまでの距離が0.048Q+0.21[m]以上、かつ炉壁までの距離が0.024Q+0.105[m]以上になるように、前記正多角形の頂点からの距離が0.024Q+0.105[m]以下の範囲に配置される、アーク型電気炉。
【請求項2】
前記底吹きノズル1本あたりのガス流量Qは、2.5Nm/h以上18Nm/h以下である、請求項1に記載のアーク型電気炉。
【請求項3】
前記円形部分の中心から前記正多角形の頂点までの距離rの前記円形部分の半径rに対する比r/rが0.75未満である、請求項1または請求項2に記載のアーク型電気炉。
【請求項4】
断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、前記炉体の底部に配置される下部電極と、前記炉体の上方に配置され、前記下部電極との間で通電されることによって前記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、前記炉体の底部で、前記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点付近に配置される3本以上の底吹きノズルとを備えるアーク型電気炉の操業方法であって、
前記円形部分の半径r[m]、前記底吹きノズルの数をn、前記円形部分の中心から前記正多角形の頂点までの距離r[m]としたときに、式(i)が満たされ、前記底吹きノズルから隣接する底吹きノズルまでの距離が0.048Q+0.21[m]以上、かつ前記底吹きノズルから炉壁までの距離が0.024Q+0.105[m]以上になるように前記底吹きノズル1本あたりのガス流量Q[Nm/h]を決定する、アーク型電気炉の操業方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク型電気炉およびアーク型電気炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の精錬に用いられる電気炉では、炉底部に底吹きノズルが配置され、底吹きノズルから吹き込まれる不活性ガスによって炉内の溶鋼を攪拌することが一般的である。溶鋼中に吹き込まれた不活性ガスは、湯面まで浮上する過程において熱膨張し、これによって周囲の溶鋼に流動が発生する。溶鋼を攪拌して温度や成分を均一化することによって、電気炉内での精錬反応を促進することができる。このような電気炉の底吹きノズルに関する技術としては、例えば特許文献1がある。特許文献1では、底吹きノズルからガスまたは粉体を1本あたり50Nm/h以上吹き込む電気炉において、上部電極表面および溶湯最大表面直径のそれぞれから長さL以上離れた位置に底吹きノズルを配置し、Lは溶湯の盛り上がりおよびその崩れ落ちの範囲である技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-145761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電気炉では、底吹きノズルから吹き込まれるガス流量が大きく、従って不活性ガスの浮上および熱膨張によって溶鋼に与えられる仕事量も大きいほど、溶鋼を攪拌する力は大きくなる。その一方で、例えば底吹きノズル同士が近接している場合にそれぞれの底吹きノズルから吹き込まれたガスによる溶鋼の流動が干渉したり、底吹きノズルが炉壁に近接している場合に溶鋼の流動が炉壁に衝突したりすると溶鋼に与えられた仕事量における損失が大きくなり、溶鋼の攪拌がむしろ阻害される可能性もある。それゆえ、不活性ガスの流量は大きければよいとは限らず、底吹きノズルの配置を考慮して最適化することが必要になる。
【0005】
この点において、特許文献1に記載された50Nm/h以上の流量は底吹きノズルの配置を考慮して最適化されているわけではないため、場合によっては多すぎる可能性がある。その一方で、ガス流量が少なすぎても、溶鋼の攪拌が不十分であるために精錬反応の進行速度や炉内に投入された原料の溶解速度が低下する可能性がある。電気炉内の溶鋼およびスラグは高温であるため直接観察することが難しく、また溶鋼表面やスラグ表面のような自由界面の運動を伴うシミュレーションは難易度が高いため、底吹きノズルから吹き込まれるガス流量が溶鋼の流動や湯面の状態に対して与える影響を定量的に考慮して電気炉を設計することはこれまで行われてこなかった。
【0006】
そこで、本発明は、例えばこれまで実施されてこなかった18Nm/h以下の低ガス流量領域において、吹き込まれたガスによる仕事量の損失を最小化して溶鋼を効率的に攪拌することが可能なアーク型電気炉およびアーク型電気炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、上記炉体の底部に配置される下部電極と、上記炉体の上方に配置され、上記下部電極との間で通電されることによって上記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、上記炉体の底部で、上記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点付近に配置される3本以上の底吹きノズルとを備え、上記底吹きノズル1本あたりのガス流量をQ[Nm/h]、上記円形部分の半径r[m]、上記底吹きノズルの数をnとしたときに、上記円形部分の中心から上記正多角形の頂点までの距離r[m]が式(i)を満たし、上記底吹きノズルは、隣接する底吹きノズルまでの距離が0.048Q+0.21[m]以上、かつ炉壁までの距離が0.024Q+0.105[m]以上になるように、上記正多角形の頂点からの距離が0.024Q+0.105[m]以下の範囲に配置される、アーク型電気炉。

[2]上記底吹きノズル1本あたりのガス流量Qは、2.5Nm/h以上18Nm/h以下である、[1]に記載のアーク型電気炉。
[3]上記円形部分の中心から上記正多角形の頂点までの距離rの上記円形部分の半径rに対する比r/rが0.75未満である、[1]または[2]に記載のアーク型電気炉。
[4]断面に少なくとも部分的に円形部分を含む炉体と、上記炉体の底部に配置される下部電極と、上記炉体の上方に配置され、上記下部電極との間で通電されることによって上記炉体に収容された溶鋼の湯面との間にアークを発生させる上部電極と、上記炉体の底部で、上記円形部分の中心を重心とする正多角形の頂点付近に配置される3本以上の底吹きノズルとを備えるアーク型電気炉の操業方法であって、上記円形部分の半径r[m]、上記底吹きノズルの数をn、上記円形部分の中心から上記正多角形の頂点までの距離r[m]としたときに、式(i)が満たされ、上記底吹きノズルから隣接する底吹きノズルまでの距離が0.048Q+0.21[m]以上、かつ上記底吹きノズルから炉壁までの距離が0.024Q+0.105[m]以上になるように上記底吹きノズル1本あたりのガス流量Q[Nm/h]を決定する、アーク型電気炉の操業方法。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、数値流体計算の結果に基づいて底吹きノズル1本あたりのガス流量に基づいて底吹きノズルの配置を最適化する、または底吹きノズルの配置に基づいてガス流量を最適化することができるため、溶鋼を効率的に攪拌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るアーク型電気炉の構造を示す図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3】数値流体計算を実施した各ケースにおける底吹きノズルの配置を示す図である。
図4図3に示された各ケースにおいて底吹きノズル1本あたりのガス流量を18Nm/hとした場合の溶鋼湯面における攪拌動力密度分布を示す図である。
図5】底吹きノズル1本あたりのガス流量を18Nm/hとした場合の溶鋼断面における攪拌動力密度分布を示す図である。
図6】r/r=0.8としてガス流量を変化させた場合の溶鋼断面における攪拌動力密度分布を示す図である。
図7】攪拌領域の直径と底吹きノズル1本あたりのガス流量との関係を示すグラフである。
図8】本実施形態における底吹きノズルの配置条件について概念的に示す図である。
図9】数値流体計算によって算出された攪拌動力密度とr/rとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の一実施形態に係るアーク型電気炉の構造を示す図であり、図2図1のII-II線に沿った断面図である。アーク型電気炉1は、溶鋼Sが収容される炉体11、炉体11の開口部を囲む水冷パネル12、および水冷パネル12の上部を覆う蓋体13を含む。還元鉄は、蓋体13に形成された原料投入管14から炉内に投入される。炉体11の上方には上部電極15が配置され、炉体11の底部に配置された下部電極16との間で通電して上部電極15と溶鋼Sの湯面との間にアーク17を発生させることによって炉内が加熱され、投入された還元鉄が溶解される。図2に示された例においてアーク型電気炉1は3本の上部電極15を有する交流電気炉であるが、例えば2本以下、または4本以上の電極を有する直流電気炉とすることも可能である。炉体11には、精錬後の溶鋼Sを排出する出鋼孔18、および精錬で発生するスラグを排出する出滓孔19も形成される。
【0011】
さらに、アーク型電気炉1の炉体11には、底吹きノズル20が形成される。既に説明したように、底吹きノズル20は、溶鋼Sが収容された炉体11の底部から不活性ガスGを吹き込むことによって溶鋼Sを攪拌するために設けられる。図2に示された例では、炉体11に3つの底吹きノズル21,22,23が形成されている。以下の説明では、炉半径をrとし、炉中心Cから底吹きノズル21,22,23(図1に示す底吹きノズル20)のそれぞれまでの距離をrとする。ここで、炉中心Cは、炉体11の断面に含まれる円形部分の中心を意味する。つまり、本実施形態において炉体11は断面に少なくとも部分的に円形部分を含む。図2に示された例のように炉体11の断面が卵形である場合は、円周が卵形の一部を構成する2つの円のうち大きい方の円の中心を炉中心Cとする。あるいは、上部電極15は炉体11に含まれる大きい方の円の中心の周りに配置されるため、上部電極15を頂点とする図形の図心を炉中心Cとしてもよい。この場合、上部電極15が1本であれば上部電極15の位置が炉中心Cになり、上部電極15が2本であれば2本の上部電極15の中心が炉中心Cになり、上部電極15が3本以上である場合はそれぞれの上部電極15を頂点とする多角形の重心が炉中心Cになる。
【0012】
本発明者らは、上記のようなアーク型電気炉1において、溶鋼をより効果的に攪拌するための底吹きノズル20の数および配置および不活性ガスの流量について検討した。具体的には、容量175tのアーク型電気炉1において、底吹きノズル20の数は3本、4本または6本とし、炉中心Cを重心とする正多角形の頂点に底吹きノズル20を配置する。また、炉中心Cから底吹きノズル20が配置される正多角形の頂点までの距離rを炉半径rとの関係で変化させ、r/r=0.4,0.6,0.8とする。これらの条件を組み合わせた場合について、底吹きノズル1本あたりのガス流量を変化させながら、溶鋼の攪拌能力の指標として攪拌動力密度を使用して数値シミュレーションを実施した。
【0013】
ここで、攪拌動力密度はW/tを単位とし、溶鋼1tあたりに及ぼされる仕事量を意味する。谷口尚司,松倉良徳,菊池淳,「ガス吹込み攪拌における乱流運動と気-液間物質移動」,鉄と鋼,86(2000)より、攪拌動力密度は定常状態において乱流散逸率と同一であることが知られているため、乱流モデルである標準k-εモデルを用いて算出した乱流散逸率から攪拌動力密度を求めた。数値シミュレーションについては、底吹きノズルから吹き込まれたガスを所定の粒径の球状粒子として扱い、DPM(Discrete Phase Model;分散相モデル)法を用いて溶鋼との相互作用をモデル化した。溶鋼流動の数値流体計算はH. J. Odenthal, U. Falkenreck and J. Schluter: "European Conference on Computational Fluid Dynamics ECCOMAS CFD 2006," ECCOMAS, Delft, (2006) に記載された方法に従って以下のように実施した。
【0014】
(溶鋼流動の計算手法)
質量保存則(式(1))とNavier-Stokes方程式(式(2))を解くことで溶鋼の流れを算出する。また、湯面の形状変化を考慮するためにVOF(Volume Of Fluid)法(式(3))も適用する。底吹きにより吹き込まれる不活性ガスはアルゴンガスとし、吹き込まれたガスを球体の粒子と仮定してDPM法(式(4))を適用する。
【0015】
【数1】
【0016】
質量保存則の式(1)およびNavier-Stokes方程式(2)において、uは流速、ρは密度、tは時間、pは圧力、μは粘度、gは重力加速度、Fは気泡粒子から受ける抗力、σは表面張力、κは自由表面の曲率、nは自由表面の単位法線ベクトルである。
【0017】
【数2】
【0018】
VOF法の式(3)において、Fは流体の体積率である。体積率Fは、ある時刻に特定の場所が溶鋼であるか(F=1)、雰囲気ガスであるか(F=0)を表す。式(3)により、炉内における溶鋼および雰囲気ガスの領域が決定できる。
【0019】
【数3】
【0020】
DPM法における粒子の運動方程式(4)において、mは粒子質量、uは粒子の速度、Fはupとuとの相互作用力である。
【0021】
以上の式(1)から式(4)を用いた数値流体計算によって、溶鋼中にガスが吹き込まれ、ガスの浮上による運動が溶鋼側に伝わり溶鋼が流動するという現象が再現され、溶鋼の湯面および断面における攪拌動力密度分布を算出することができる。
【0022】
図3は、数値流体計算を実施した各ケースにおける底吹きノズルの配置を示す図である。上記のように、本実施形態では、底吹きノズル20の数n=3,4,6の場合について、それぞれr/r=0.4,0.6,0.8として数値シミュレーションを実施し、底吹きノズルの数n=3,4,6のいずれの場合でも効果が発揮されることを確認した。
【0023】
図4図3に示された各ケースにおいて底吹きノズル1本あたりのガス流量を18Nm/hとした場合の溶鋼湯面における攪拌動力密度分布を示す図であり、図5は底吹きノズル1本あたりのガス流量を18Nm/hとした場合の溶鋼断面における攪拌動力密度分布を示す図である。図4に示されるように、溶鋼湯面において攪拌動力密度が高い領域(以下、攪拌領域ともいう)は底吹きノズルを中心にして広がり、直径は約1.07mであった。図5に示されるように、溶鋼断面において攪拌動力密度が高い領域は底吹きノズルから上に行くにつれて少しずつ広がり、湯面付近で顕著に広がる。図5(c)として示されるように、r/r=0.8でガス流量が18Nm/hの場合は攪拌動力密度が高い領域が炉壁に近接し、炉壁への衝突による仕事量の損失が発生していると考えられる。r/rがこれよりも小さい場合は、同じガス流量でも仕事量の損失は発生しない。従って、本実施形態において底吹きノズルの配置およびガス流量を決定するにあたっては、例えばr/rを0.75未満にしてガス流量の設定の自由度を高くしてもよい。
【0024】
図6は、r/r=0.8としてガス流量を(a)2.5Nm/h、(b)3.3Nm/h、(c)4.5Nm/hのように変化させた場合の溶鋼断面における攪拌動力密度分布を示す図である。図6に示されたそれぞれの場合において、図5に示したガス流量が18Nm/hの場合よりも攪拌領域の直径(約0.33m~0.41m)は縮小しており、ガス流量が大きくなるにつれて攪拌領域の直径が大きくなる傾向が示された。これらの結果から、図7に示すように、攪拌領域の直径d[m]は底吹きノズル1本あたりのガス流量Q[Nm/h]に比例して増加し、これらの関係がd=0.048Q+0.21で表されることがわかった。
【0025】
図8は、本実施形態における底吹きノズルの配置条件について概念的に示す図である。仕事量の損失を最小化する底吹きノズルの配置としては、まず図8(a)として示すように、隣接する底吹きノズルの間で攪拌領域が重複しないことが条件になる。上述のように底吹きノズルの数をnとして、炉中心を重心とする正n角形の頂点に底吹きノズルを配置する場合、隣接する底吹きノズルの間の距離は炉中心から正n角形の頂点までの距離rを用いて2rsin(π/n)と表されるため、式(5)がガス流量Q[Nm/h]との関係において距離r[m]が満たすべき条件になる。次に、図8(b)として示すように、底吹きノズルの周りの攪拌領域が炉壁に重複しないことも条件になる。この条件は、底吹きノズルから炉壁までの距離r-r[m]が攪拌領域の半径d/2以下であることと等価であり、式(6)のように表される。なお、式(5),(6)は例えばガス流量Qが50Nm/h以下または30Nm/h以下の低ガス流量領域において広く適用可能であるが、上記の解析の結果からガス流量Qが2.5Nm/h以上18Nm/h以下の範囲にある場合により効果的に適用することができる。
【0026】
【数4】
【0027】
図9は、数値流体計算によって算出された攪拌動力密度とr/rとの関係を示すグラフである。炉半径r=2.87m,ガス流量Q=18Nm/hとして、rを変化させたときの平均攪拌動力密度を算出した。0.4≦r/r≦0.8の範囲では、r/rとr/rとの間に負の比例関係がみられる。図9のグラフでは、0.18≦r/r≦0.4の範囲でも同様の比例関係があるものと推定している。一方、r/r≦0.18の範囲では上記の式(5)が満たされず、隣接する底吹きノズルの攪拌領域が干渉するため攪拌動力密度が低下すると考えられる。図9のグラフでは、r/r=0の場合の平均攪拌動力密度を以下の式によって求め、r/r=0.18のときの攪拌動力密度の値からr/rが小さくなるにつれて攪拌動力密度が低下するものと推定している。
【0028】
【数5】
【0029】
上記の式において,εは攪拌動力密度[W/t]、Qはガス流量[Nm/s]、Tは溶鋼温度[K]、Wは溶鋼の質量[t]、ρは溶鋼の密度[kg/m]、gは重力加速度[m/s]、hは溶鋼深さ[m]、Pは雰囲気圧力[Pa]、ηは調整係数[-]、Tはガス温度[K]である。
【0030】
図9に示したような攪拌動力密度の推定結果から、r=2.87m,Q=18Nm/hの場合、底吹きノズルが配置される正多角形の頂点までの距離rが0.18≦r/r≦0.8を満たす範囲が、底吹きノズル配置の高効率領域であることがわかる。高効率領域の中では、r/rがより小さい方が攪拌動力密度は大きくなる。
【0031】
なお、上記の実施形態では底吹きノズルが炉中心を重心とする正多角形の頂点に配置されるものとしたが、アーク型電気炉の実機では、設備の制約により必ずしも底吹きノズルを正多角形の頂点に配置できない場合がある。そのような場合であっても、上記の計算結果より隣接する底吹きノズルまでの距離が0.048Q+0.21[m]以上、かつ前記底吹きノズルから炉壁までの距離が0.024Q+0.105[m]以上になる範囲で多角形の頂点付近に配置すれば、吹き込まれたガスによる仕事量の損失を最小化できる。この場合、上記の計算結果との整合性を保つ観点から、底吹きノズルは正多角形の頂点からの距離が攪拌領域の半径、すなわち0.024Q+0.105[m]以内の範囲に設置することが望ましい。
【0032】
本実施形態では、上記のように底吹きノズル1本あたりのガス流量Qに基づいて底吹きノズルの配置を最適化することによって、吹き込まれたガスによる仕事量の損失を最小化し、溶鋼を効率的に攪拌することができる。なお、ガス流量Qが小さければ距離rとの関係において上記の式(5),(6)の条件は満されやすくなるが、吹き込まれたガスによる仕事量が不十分である場合も溶鋼は十分に攪拌されないため、条件が満たされる範囲でガス流量Qを大きくすることが好ましい。具体的には、炉中心を重心とする正多角形の頂点付近に底吹きノズルを配置したアーク型電気炉において、距離rとの関係において上記の式(5),(6)の条件を満たすようにガス流量Qを決定するアーク型電気炉の操業方法が実施されてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…アーク型電気炉、11…炉体、12…水冷パネル、13…蓋体、14…原料投入管、15…上部電極、16…下部電極、17…アーク、18…出鋼孔、19…出滓孔、20,21,22,23…底吹きノズル、C…炉中心、G…不活性ガス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9