(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115847
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】機械式オイルポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/40 20120101AFI20240820BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20240820BHJP
F16H 35/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16H48/40
F16H1/06
F16H35/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021719
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌弘
【テーマコード(参考)】
3J009
3J027
【Fターム(参考)】
3J009DA15
3J009EA05
3J009EA37
3J009EA44
3J009FA04
3J009FA07
3J027FB04
3J027HA03
3J027HC07
(57)【要約】
【課題】車両が前進、後退のどちらに走行しても機械式オイルポンプを駆動して潤滑油の供給が行える機械式オイルポンプ装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る機械式オイルポンプ装置(100)は、車両のデフケース(61)の回転(デフ回転)を伝達する伝達ギヤ(66)と、同ギヤからデフ回転が伝達される第1及び第2中間ギヤ(101,102)と、第1中間ギヤから伝達されたデフ回転が車両の前進時の回転の場合にのみデフ回転の伝達を許容する第1駆動ギヤ(103)と、第2中間ギヤから伝達されたデフ回転が車両の後退時の回転の場合にのみデフ回転の伝達を許容する第2駆動ギヤ(104)と、デフ回転がポンプギヤ(106A)に伝達されることで駆動されて潤滑対象に潤滑油を供給する機械式オイルポンプ(106)とを備え、ポンプギヤは、デフ回転が、前進時の回転の場合は第1駆動ギヤからデフ回転が伝達され、後退時の回転の場合は第2駆動ギヤからデフ回転が伝達されるように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の差動装置を構成するデフケースの外周にその回転方向に沿って設けられた該デフケースの回転を伝達するための伝達ギヤと、
前記伝達ギヤを介して前記デフケースの回転が伝達される第1中間ギヤおよび第2中間ギヤと、
前記第1中間ギヤから前記デフケースの回転が伝達される第1駆動ギヤであって、前記デフケースの回転が前記車両の前進時の回転である場合にのみ、その回転の伝達を許容するように構成された第1駆動ギヤと、
前記第2中間ギヤから前記デフケースの回転が伝達される第2駆動ギヤであって、前記デフケースの回転が前記車両の後退時の回転である場合にのみ、その回転の伝達を許容するように構成された第2駆動ギヤと、
ポンプギヤを有し、このポンプギヤに前記デフケースの回転が伝達されることにより駆動されて潤滑対象に潤滑油を供給する機械式オイルポンプと、
を備え、
前記ポンプギヤは、前記デフケースの回転が前記車両の前進時の回転である場合には前記第1駆動ギヤから該デフケースの回転が伝達され、前記デフケースの回転が前記車両の後退時の回転である場合には前記第2駆動ギヤから該デフケースの回転が伝達されるように構成されている、
ことを特徴とする機械式オイルポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の機械式オイルポンプ装置において、
前記第1中間ギヤおよび前記第2中間ギヤは、前記デフケースの回転方向に前記伝達ギヤと噛み合うように離間して設けられて、前記デフケースの回転が伝達されるように構成され、
前記第1駆動ギヤは、前記第1中間ギヤと回転軸線を同一にして設けられて、前記回転の伝達を許容する場合に該第1中間ギヤと共に回転するように構成され、
前記第2駆動ギヤは、前記第2中間ギヤと回転軸線を同一にして設けられて、前記回転の伝達を許容する場合に該第2中間ギヤと共に回転するように構成され、
前記ポンプギヤは、前記第1駆動ギヤおよび前記第2駆動ギヤの径方向に設けられて、前記第1駆動ギヤとは直接に噛み合い、かつ前記第2駆動ギヤとは回転方向を反転させるためのカウンターギヤを介して噛み合うように構成されている、
ことを特徴とする機械式オイルポンプ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の機械式オイルポンプ装置において、
前記第1中間ギヤは、前記デフケースの回転方向に前記伝達ギヤと噛み合うように設けられて、前記デフケースの回転が伝達されるように構成され、
前記第1駆動ギヤは、前記第1中間ギヤと回転軸線を同一にして設けられて、前記回転の伝達を許容する場合に該第1中間ギヤと共に回転するように構成され、
前記第2中間ギヤは、前記第1中間ギヤと前記第1駆動ギヤとの間に該第1中間ギヤと共に回転するように回転軸線を同一にして設けられた回転方向を反転させるためのカウンターギヤの径方向に設けられて、該カウンターギヤと噛み合うように構成され、
前記第2駆動ギヤは、前記第2中間ギヤと回転軸線を同一にして設けられて、前記回転の伝達を許容する場合に該第2中間ギヤと共に回転するように構成され、
前記ポンプギヤは、前記第1駆動ギヤおよび前記第2駆動ギヤの径方向に設けられて、これらのギヤの双方と直接に噛み合うように構成されている、
ことを特徴とする機械式オイルポンプ装置。
【請求項4】
請求項2に記載の機械式オイルポンプ装置において、
前記ポンプギヤと前記第1駆動ギヤとのギヤ比が前記ポンプギヤと前記第2駆動ギヤとのギヤ比よりも小さくなるように、または前記伝達ギヤと前記第1中間ギヤとのギヤ比が前記伝達ギヤと前記第2中間ギヤとのギヤ比よりも小さくなるように、これらのギヤ間のギヤ比が設定されている、
ことを特徴とする機械式オイルポンプ装置。
【請求項5】
前記デフケースの回転による駆動力を車輪に伝達するためのアクスルシャフトの片側に対して前記駆動力を伝達する締結状態と、前記片側に対する前記駆動力の伝達を遮断する解放状態とを制御することの可能なクラッチを有したカップリングと、
請求項1~4の何れか1項に記載の機械式オイルポンプ装置と、
前記カップリングおよび前記機械式オイルポンプ装置を収容するケースと、
を備え、
前記機械式オイルポンプ装置は、前記ケース内に貯留された潤滑油を前記カップリングのクラッチに供給するように構成されている、
ことを特徴とする4WDカップリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式オイルポンプ装置に関し、特に、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を供給することのできる機械式オイルポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両においては、動力を伝達する歯車(ギヤ)やクラッチなどの回転部材を潤滑するために、それら潤滑対象となる回転部材を収容するハウジング内に潤滑油を貯留するものがある。例えば、4輪駆動(4WD)車の4WDカップリングにおいては、動力を断続するためのクラッチが収容されるハウジング内に潤滑油を貯留し、その潤滑油にクラッチを浸すことで、当該クラッチの焼付き等を防止している。
このように、ハウジング内に貯留した潤滑油によって回転部材の潤滑を行う場合には、特にその粘度が増加する低温時において潤滑油による引きずり抵抗が増加し、車両の燃費が低下することが一般に知られている。また、このような燃費の低下を抑制する方法として、回転部材の潤滑を機械式のオイルポンプを用いて行うことが知られている。
この機械式オイルポンプを用いて回転部材の潤滑を行う方法の一例が、例えば、特許文献1に開示されている。具体的には、エンジンとモータとを備えたハイブリッド車両において、動力伝達機構に備えられたギヤ等に冷却用の潤滑油を機械式オイルポンプを用いて供給する機械式オイルポンプ装置が開示されている。
【0003】
この従来の機械式オイルポンプ装置は、ハイブリッド車両に搭載されたパワートレインの主要機構である動力分割機構を利用して実現されている。動力分割機構は、従来知られる遊星歯車機構によって構成されている。即ち、中心のサンギヤ、その円周方向に其々所定の間隔で配置されたピニオンギヤ、ピニオンギヤをサンギヤの回転軸を中心に自転かつ公転可能に保持するキャリヤ、及びサンギヤと同心円状に配置されてピニオンギヤと内歯で噛み合うリングギヤ、から成っている。
ハイブリッド車両において、この動力分割機構のリングギヤは、駆動輪と、ギヤトレーンを介してトルクを伝達可能に連結されており、一方、キャリヤは、エンジンの動力出力軸と連結されている。また、サンギヤは、エンジンの出力を制御する制御用モータの回転軸と、動力断続機構を介してトルクの伝達を断続可能に連結されている。また、ハイブリッド車両の走行のための動力を出力する走行用モータの回転軸は、駆動輪およびリングギヤと、ギヤトレーンを介してトルクを伝達可能に連結されている。そして、この機械式オイルポンプ装置では、リングギヤは、さらに、機械式オイルポンプを駆動するためのポンプ駆動軸と、リングギヤの正方向の回転(正回転)のみを伝達する第1のワンウェイクラッチを介して駆動トルクを伝達可能に連結されている。また、この機械式オイルポンプ装置では、制御用モータの回転軸は、さらに、機械式オイルポンプを駆動するためのポンプ駆動軸と、当該モータの回転軸の正回転のみを伝達する第2のワンウェイクラッチを介して駆動トルクを伝達可能に連結されている。
【0004】
このような構成により、この機械式オイルポンプ装置では、車両の前進走行時には、エンジンまたは走行用モータからの動力が伝達されたリングギヤが正回転する。そのため、このリングギヤの回転が第1のワンウェイクラッチを介して機械式オイルポンプに駆動トルクとして伝達される。一方、車両の後退走行時には、走行用モータからの動力が伝達されたリングギヤが逆方向に回転(逆回転)する。そのため、このリングギヤの逆回転は第1のワンウェイクラッチにより遮断されて伝達されない。しかし、このようにしてリングギヤが逆回転した場合には、この回転に伴ってサンギヤが正回転するため、動力断続機構を介してサンギヤと連結された制御用モータの回転軸が正回転する。これにより、車両の後退時には、この制御用モータの回転軸の正回転が第2のワンウェイクラッチを介して機械式オイルポンプに駆動トルクとして伝達される。従来の機械式オイルポンプ装置では、このようにして機械式オイルポンプを駆動することで、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも動力伝達機構のギヤ等に潤滑油を供給することができる。
【0005】
しかしながら、この従来の機械式オイルポンプ装置は、エンジンの出力を制御するための制御用モータを備えたハイブリッド車両を前提として構成されたものである。従って、そのようなモータを備えていない場合には、車両の後退時に、上記のような制御用モータの回転軸を介した第2のワンウェイクラッチ経由の機械式オイルポンプへのトルク伝達ができない。即ち、従来の機械式オイルポンプ装置は、制御用モータを備えていない車両には適用することができなかった。また、この点は、4WDカップリングを備えた車両で、同カップリング内のクラッチを機械式オイルポンプを用いて潤滑する場合においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を供給することのできる機械式オイルポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る機械式オイルポンプ装置は、車両の差動装置を構成するデフケースの外周にその回転方向に沿って設けられた該デフケースの回転を伝達するための伝達ギヤと、前記伝達ギヤを介して前記デフケースの回転が伝達される第1中間ギヤおよび第2中間ギヤと、前記第1中間ギヤから前記デフケースの回転が伝達される第1駆動ギヤであって、前記デフケースの回転が前記車両の前進時の回転である場合にのみ、その回転の伝達を許容するように構成された第1駆動ギヤと、前記第2中間ギヤから前記デフケースの回転が伝達される第2駆動ギヤであって、前記デフケースの回転が前記車両の後退時の回転である場合にのみ、その回転の伝達を許容するように構成された第2駆動ギヤと、ポンプギヤを有し、このポンプギヤに前記デフケースの回転が伝達されることにより駆動されて潤滑対象に潤滑油を供給する機械式オイルポンプと、を備え、前記ポンプギヤは、前記デフケースの回転が前記車両の前進時の回転である場合には前記第1駆動ギヤから該デフケースの回転が伝達され、前記デフケースの回転が前記車両の後退時の回転である場合には前記第2駆動ギヤから該デフケースの回転が伝達されるように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る機械式オイルポンプ装置によれば、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を供給することのできる機械式オイルポンプ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置が適用された4輪駆動車両の概略構成図である。
【
図2】前輪側の駆動装置であるフロントデフおよびカップリングを含む4WDカップリング装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置の構成図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置の動作を説明する図である。
【
図5】変形例の機械式オイルポンプ装置の構成図である。
【
図6】変形例の機械式オイルポンプ装置の動作を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置および変形例の機械式オイルポンプ装置の構成上の特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置が適用された4輪駆動車両の概略構成図である。
図1に示すように、車両1は、後輪82,83による2輪駆動(2WD)を基本としたFR(フロントエンジンリヤドライブ)タイプのパートタイム式4輪駆動(4WD)車両である。この車両1では、エンジン2の駆動力の一部をトランスファ装置4から前輪80,81へ伝達することによって4輪駆動を行なう。つまり、車両1では、エンジン2から出力された駆動力は、トランスミッション3を介してトランスファ装置4の入力シャフト11に入力され、トランスファ装置4の内部において、駆動モードに応じて前輪80,81側と後輪82,83側とにそれぞれ分配される。なお、トランスファ装置4の駆動モード(車両の駆動方法)は、運転者が車両室内のインストルメントパネルに配置されたロータリータイプの駆動モード切換スイッチを操作することにより2WDや4WD等に切り替えることができる。
【0012】
後輪82,83側に分配された駆動力は、トランスファ装置4のリヤアウトプットシャフト12から出力されるとともに、このリヤアウトプットシャフト12に連結されたリヤプロペラシャフトを介してリヤデフ5に入力される。そして、その駆動力は、リヤデフ5内で左右に等配分され、リヤアクスルシャフト15,16を介して左右の後輪82,83に伝達される。一方、前輪80,81側に分配された駆動力は、トランスファ装置4のドライブスプロケット4Aからトランスファチェーン4Bを介してドリブンスプロケット13に伝達される。ドリブンスプロケット13からはフロントプロペラシャフト14が前輪側に延設されており、その先端はフロントデフ6に接続されている。従って、ドリブンスプロケット13に伝達された駆動力は、フロントプロペラシャフト14を介してフロントデフ6に入力されて、このフロントデフ6において左右に等配分され、フロントアクスルシャフト17,18を介して左右の前輪80,81に伝達される。
【0013】
フロントアクスルシャフト17,18のうち、右の前輪81に接続されたフロントアクスルシャフト18側には、フロントデフ6と前輪81との間にカップリング7が備えられている。このカップリング7により、車両1では、前輪に配分される駆動力を電子制御できると共に、2WD時の動力損失を低減することができる。
ここで、前輪側の駆動装置であるフロントデフ6およびカップリング7の構成について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、フロントデフ(差動装置)6は、リングギヤ60、デフケース61、サイドギヤ62,63、デフピニオン64,65などによって構成されている。デフケース61には、フロントプロペラシャフト14先端のピニオンギヤ14Aと噛み合うリングギヤ60が一体回転可能に固定されている。また、デフケース61の中空部には、デフケース61の回転軸と直交する方向にデフピニオン軸が保持されており、このデフピニオン軸の両軸端部分に、一対のデフピニオン64,65が互いに対向する向きで回転可能に軸支されている。これらのデフピニオン64,65には、デフピニオン軸を境にしてデフケース61の中空部の左右に配設された一対のサイドギヤ62,63が噛み合っている。そして、これらのサイドギヤ62,63には、デフケース61に挿通されたフロントアクスルシャフト17,18の一端、即ち、前輪80,81が接続されていない方の端部がそれぞれ一体回転可能に連結されている。なお、フロントデフ6の動作については周知であるため説明を省略する。
【0014】
次に、カップリング7は、フロントアクスルシャフト18を途中で2つに切り離し、それらの端部にそれぞれクラッチ72,73を備えて、アクチュエータ71によりクラッチ72,73を断続するように構成されている。このクラッチ72,73の断続は、ECU(不図示)の指示によりアクチュエータ71の位置を任意に調整することで行われる。例えば、4WD時には、ECUが、その指示によりクラッチ72,73を締結した状態となるようにアクチュエータ71の位置を調整することで、右の前輪81とフロントデフ6とがフロントアクスルシャフト18を介して連結される。したがって、4WD時には、フロントプロペラシャフト14からフロントデフ6に入力された駆動力は、フロントデフ6において左右に等しく分配され、フロントアクスルシャフト17,18を介して前輪80,81に伝達されるようになる。一方、2WD時には、ECUが、その指示によりクラッチを解放するようにアクチュエータ71の位置を調整することで、アクチュエータ71によるクラッチ72,73の締結が解放された状態となり、右の前輪81とフロントデフ6とが切り離される。これにより、フロントデフ6の左の前輪80側のサイドギヤ62は空転し、この2WD時には、フロントデフ6からトランスファ装置4のドライブスプロケット4Aにかけてのフロント駆動系が回転しなくなるので、動力損失が軽減されるようになる。
【0015】
なお、車両1においては、フロントデフ6とカップリング7とが同一のケース9内に収容されて、フロントデフ6のリングギヤ60などの潤滑対象となる回転部材を潤滑する潤滑油がケース9内に貯留(不図示)されている。そしてケース9内には、また、その潤滑油を、カップリング7の主にクラッチの焼き付きを防止するために機械式オイルポンプを用いて同クラッチ72,73に供給するべく構成された機械式オイルポンプ装置100が備えられている。つまり、車両1では、この機械式オイルポンプ装置100によって、カップリング7のクラッチを潤滑しつつ、車両1の燃費の低下を抑制することができるようになっている。このように、車両1には、フロントデフ6、カップリング7、機械式オイルポンプ装置100、およびケース9が車両の前輪側に配置されており、これらは4WDカップリング装置90を構成している。
また、機械式オイルポンプ装置100は、デフケース61に設けられた伝達ギヤ66によってデフケース61の回転が伝達されることで、同装置100の機械式オイルポンプが駆動されるように構成されている。伝達ギヤ66は、デフケース61の外周に、同デフケースの回転方向に沿って設けられている。
【0016】
ところで、車両1は、従来の機械式オイルポンプ装置に備えられるような制御用モータを持たない車両である。しかしながら、この車両1では、車両1が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を供給できるように、機械式オイルポンプ装置100に工夫が施されている。
以下、この工夫を施した機械式オイルポンプ装置100について、
図3を参照して説明する。
【0017】
図3は、その工夫を施した本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置100の構成図である。
機械式オイルポンプ装置100には、第1中間ギヤ101、第2中間ギヤ102、第1駆動ギヤ103、第2駆動ギヤ104、カウンターギヤ105、ポンプギヤ106A、及び、このポンプギヤによって駆動される機械式オイルポンプ106が備えられている。なお、機械式オイルポンプ106は、機械的に動作するギヤポンプなどのオイルポンプであり、このオイルポンプを駆動するための駆動軸を備え、この駆動軸の端部にはポンプギヤ106Aが固定されている。機械式オイルポンプ106の有したこのポンプギヤ106Aを回転させることにより機械式オイルポンプ106は駆動されて、4WDカップリング装置90のケース9内に貯留された潤滑油を吸引するとともに、その吸引した潤滑油を潤滑対象に供給するようになる。
第1中間ギヤ101および第2中間ギヤ102は、デフケース61の回転軸線と直交する方向、即ちデフケース61の回転方向に離間して設けられて、それぞれ同デフケースの伝達ギヤ66と噛み合っている。第1中間ギヤ101は、同ギヤの回転を伝達するための出力軸101Aの一端側に固定されて、この出力軸101Aと一体回転するように構成されている。第2中間ギヤ102は、同ギヤの回転を伝達するための出力軸102Aの一端側に固定されて、この出力軸102Aと一体回転するように構成されている。
【0018】
第1駆動ギヤ103は、第1中間ギヤ101の出力軸101Aの他端側に回動可能に設けられている。そして、この第1駆動ギヤ103の径方向に設けられたポンプギヤ106Aと噛み合っている。この第1駆動ギヤ103には、所定の方向への回転のみを許容する1WAYクラッチ103Aが備えられている。第1駆動ギヤ103は、この1WAYクラッチ103Aの働きによって、所定の方向に回転される場合にのみ第1中間ギヤ101と共に回転し、その反対の方向に回転される場合には第1中間ギヤ101と相対回転して空転するように構成されている。カウンターギヤ105は、第1駆動ギヤ103の径方向に設けられて、機械式オイルポンプ106のポンプギヤ106Aと噛み合っている。第2駆動ギヤ104は、第2中間ギヤ102の出力軸102Aの他端側に回動可能に設けられている。そして、この第2駆動ギヤ104の径方向に配置されているカウンターギヤ105と噛み合っている。つまり、第2駆動ギヤ104は、回転方向を反転するためのカウンターギヤ105を介して機械式オイルポンプ106のポンプギヤ106Aと噛み合っている。この第2駆動ギヤ104には、所定の方向への回転のみを許容する1WAYクラッチ104Aが備えられている。第2駆動ギヤ104は、この1WAYクラッチ104Aの働きによって、所定の方向に回転される場合にのみ第2中間ギヤ102と共に回転し、その反対の方向に回転される場合には第2中間ギヤ102と相対回転可能に空転するように構成されている。
【0019】
なお、この機械式オイルポンプ装置100では、第1中間ギヤ101、第1駆動ギヤ103、および1WAYクラッチ103Aを、前進用の回転部材として設けている。そのため、前進用の回転部材である1WAYクラッチ103Aは、車両が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)を許容するが、車両が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、遮断して伝達しないように構成されている。詳しくは、車両が前進走行してデフケース61が正回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ101が逆回転する。この場合、1WAYクラッチ103Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第1中間ギヤ101の逆回転、つまりデフケース61の正回転を許容するように構成されている。この1WAYクラッチ103Aの働きにより、第1中間ギヤ101のその逆回転は、この第1中間ギヤ101と共に回転する第1駆動ギヤ103によってポンプギヤ106Aに伝達されて、その結果、ポンプギヤ106Aが正回転するようになる。
【0020】
一方、車両が後退走行してデフケース61が逆回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ101が正回転する。この場合、1WAYクラッチ103Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第1中間ギヤ101の正回転、つまりデフケース61の逆回転は遮断して伝達しないように構成されている。この1WAYクラッチ103Aの働きにより、第1駆動ギヤ103は第1中間ギヤ101との相対回転が可能となるので、機械式オイルポンプ106を逆回転させてしまうその第1中間ギヤ101の正回転はポンプギヤ106Aに伝達されることがない。
【0021】
また、機械式オイルポンプ装置100では、第2中間ギヤ102、第2駆動ギヤ104、および1WAYクラッチ104Aを、後退用の回転部材として設けている。そのため、後退用の回転部材である1WAYクラッチ104Aは、車両が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)を許容するが、車両が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、遮断して伝達しないように構成されている。詳しくは、車両が後退走行してデフケース61が逆回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第2中間ギヤ102が正回転する。この場合、1WAYクラッチ104Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第2中間ギヤ102の正回転、つまりデフケース61の逆回転を許容するように構成されている。この1WAYクラッチ104Aの働きにより、第2中間ギヤ102のその正回転は、この第2中間ギヤ102と共に回転する第2駆動ギヤ104から、それと噛み合うカウンターギヤ105を介してポンプギヤ106Aに伝達される。つまり、第2中間ギヤ102のその正回転は、第2駆動ギヤ104に、同ギヤの正回転として伝達され、次に、その第2駆動ギヤ104と噛み合うカウンターギヤ105により反転されて逆回転となり、ついに、その逆回転がポンプギヤ106Aに伝達される。そして、その結果、ポンプギヤ106Aが正回転するようになる。
【0022】
一方、車両が前進走行してデフケース61が正回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第2中間ギヤ102が逆回転する。この場合、1WAYクラッチ104Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第2中間ギヤ102の逆回転、つまりデフケース61の正回転は遮断して伝達しないように構成されている。この1WAYクラッチ104Aの働きにより、第2駆動ギヤ104は第2中間ギヤ102との相対回転が可能となるので、機械式オイルポンプ106を逆回転させてしまうこととなるその第2中間ギヤ102の逆回転はポンプギヤ106Aに伝達されることがない。
このように、機械式オイルポンプ装置100では、1WAYクラッチ103Aと104Aとは、許容する回転方向が互いに反対となるように構成されている。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置100の動作について、
図4を参照して説明する。
車両1が前進走行する場合には、デフケース61が正回転するので、機械式オイルポンプ装置100では、そのデフケースの伝達ギヤ66を介して、この伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ101および第2中間ギヤ102にデフケースの正回転が伝達される。ここで、この正回転が伝達された第1中間ギヤ101は、その反対方向に逆回転する。また、第1駆動ギヤ103の1WAYクラッチ103Aは、その方向の回転(逆回転)の伝達を許容するように構成されており、そのため、この回転は第1駆動ギヤ103に伝達される。即ち、車両1が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、1WAYクラッチ103Aによって許容されるので、この場合には、第1中間ギヤ101と第1駆動ギヤ103とが共に逆回転する。そして、この第1駆動ギヤ103の逆回転により、これと噛み合ったポンプギヤ106Aがその反対方向に正回転することで、同ポンプギヤにより機械式オイルポンプ106が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
【0024】
一方、デフケース61の伝達ギヤ66を介して正回転が伝達された第2中間ギヤ102も、その反対方向に逆回転する。ここで、第2駆動ギヤ104の1WAYクラッチ104Aは、その方向の回転(逆回転)を遮断して伝達しないように構成されており、そのため、この回転は第2駆動ギヤ104には伝達されない。即ち、車両1が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、1WAYクラッチ104Aによって遮断される。よって、この場合には、第2中間ギヤ102は回転(逆回転)するが、第2駆動ギヤ104は、第2中間ギヤ102と相対回転可能に空転する(正確には、以下で説明するように正回転する)。
【0025】
このように、機械式オイルポンプ装置100では、車両1が前進走行する場合、デフケース61の正回転は、同デフケースの伝達ギヤ66から第1中間ギヤ101に伝達される。このとき、次にその回転が伝達される第1駆動ギヤ103に備えられた1WAYクラッチ103Aは、そのデフケース61の正回転を許容するように構成されている。この許容により、第1中間ギヤ101に伝達されたデフケース61の正回転は、同ギヤ101の逆回転となり、さらに、このギヤ101と共に回転する第1駆動ギヤ103の逆回転としてポンプギヤ106Aに伝達される。そして、この逆回転の伝達によりポンプギヤ106Aが正回転することで、機械式オイルポンプ106が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
なお、機械式オイルポンプのポンプギヤ106Aは、カウンターギヤ105とも噛み合っており、そのためポンプギヤ106Aが回転(正回転)すると、カウンターギヤ105はその反対方向に回転(逆回転)される。これにより、カウンターギヤ105と噛み合う第2駆動ギヤ104は、この場合には第2中間ギヤ102と相対回転可能な状態にあるので、そのカウンターギヤ105の逆回転を受けて正回転するようになる。
【0026】
また、車両1が後退走行する場合にはデフケース61が逆回転するので、機械式オイルポンプ装置100では、そのデフケースの伝達ギヤ66を介して、この伝達ギヤ66と噛み合う第2中間ギヤ102及び第1中間ギヤ101にデフケースの逆回転が伝達される。ここで、この逆回転が伝達された第2中間ギヤ102は、その反対方向に正回転する。また、第2駆動ギヤ104の1WAYクラッチ104Aは、その方向の回転(正回転)の伝達を許容するように構成されており、そのため、この回転は第2駆動ギヤ104に伝達される。即ち、車両1が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、1WAYクラッチ104Aによって許容されるので、この場合には、第2中間ギヤ102と第2駆動ギヤ104とが共に正回転する。この第2駆動ギヤ104の正回転により、これと噛み合ったカウンターギヤ105がその反対方向に逆回転し、さらにこの逆回転がカウンターギヤ105と噛み合ったポンプギヤ106Aに伝達されることで、同ポンプギヤはその反対方向に正回転する。そして、このようにポンプギヤ106Aが正回転することにより機械式オイルポンプ106が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
【0027】
一方、デフケース61の伝達ギヤ66を介して逆回転が伝達された第1中間ギヤ101も、その反対方向に正回転する。ここで、第1駆動ギヤ103の1WAYクラッチ103Aは、その方向の回転(正回転)を遮断して伝達しないように構成されており、そのため、この回転は第1駆動ギヤ103には伝達されない。即ち、車両1が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、1WAYクラッチ103Aによって遮断される。よって、この場合には、第1中間ギヤ101は回転(正回転)するが、第1駆動ギヤ103は、第1中間ギヤ101と相対回転可能に空転する(正確には、以下で説明するように逆回転する)。
【0028】
このように、機械式オイルポンプ装置100では、車両1が後退走行する場合、デフケース61の逆回転は、同デフケースの伝達ギヤ66から第2中間ギヤ102に伝達される。このとき、次にその回転が伝達される第2駆動ギヤ104に備えられた1WAYクラッチ104Aは、そのデフケース61の逆回転を許容するように構成されている。この許容により、デフケース61の逆回転は、第2中間ギヤ102の正回転として同ギヤに伝達され、次に、このギヤ102と共に回転する第2駆動ギヤ104の正回転、さらにカウンターギヤ105の逆回転となってポンプギヤ106Aに伝達される。そして、この逆回転の伝達によりポンプギヤ106Aが正回転することで、機械式オイルポンプ106が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
なお、機械式オイルポンプのポンプギヤ106Aは、第1駆動ギヤ103とも噛み合っている。また、第1駆動ギヤ103は、この場合には第1中間ギヤ101と相対回転可能な状態にある。これにより、ポンプギヤ106Aと噛み合う第1駆動ギヤ103は、そのポンプギヤ106Aの正回転を受けて逆回転するようになる。
このような構成の機械式オイルポンプ装置100を用いることで、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を潤滑対象に供給することができるようになる。
【0029】
ところで、車両が走行する際には、一般に、前進時に車両にかかる負荷の方が後退時のそれよりも大きい。そのため、前進時には、機械式オイルポンプの吐出する潤滑油の量を増加することが好ましい。これに対処するには、前進時のポンプギヤの回転数を大きくする必要がある。
機械式オイルポンプ装置100では、上記で説明したとおり、ポンプギヤ106Aの駆動は、車両1の前進時には第1中間ギヤ101および第1駆動ギヤ103を介して行われ、後退時には第2中間ギヤ102、第2駆動ギヤ104を介して行われる。よって、ポンプギヤ106A、第1駆動ギヤ103、および第2駆動ギヤ104の間のギヤ比または、伝達ギヤ66、第1中間ギヤ101、および第2中間ギヤ102の間のギヤ比を変更することで、車両の前進時にポンプギヤ106Aの回転数を大きくすることができる。詳しくは、ポンプギヤ106Aの回転(例えば1回転)に対して必要となる第1駆動ギヤ103の回転数が第2駆動ギヤ104の回転数よりも小さくなるように、または、第1中間ギヤ101の回転数が第2中間ギヤ102の回転数よりも小さくなるようにこれらの間のギヤ比を設定すれば、前進時のポンプギヤ106Aの回転数を大きくすることができる。換言すると、ポンプギヤ106Aと第1駆動ギヤ103とのギヤ比がポンプギヤ106Aと第2駆動ギヤ104とのギヤ比よりも小さくなるように、あるいは伝達ギヤ66と第1中間ギヤ101とのギヤ比が伝達ギヤ66と第2中間ギヤ102とのギヤ比よりも小さくなるようにこれらのギヤ間のギヤ比を設定すれば、前進時のポンプギヤ106Aの回転数を大きくすることができる。
【0030】
次に、上記で説明した機械式オイルポンプ装置100の変形例について、
図5を参照して説明する。
図5は、変形例の機械式オイルポンプ装置200の構成図である。
機械式オイルポンプ装置200には、第1中間ギヤ201、第2中間ギヤ202、第1駆動ギヤ203、第2駆動ギヤ204、カウンターギヤ205、ポンプギヤ206A、及び、このポンプギヤによって駆動される機械式オイルポンプ206が備えられている。なお、この機械式オイルポンプ装置200も上記の機械式オイルポンプ装置100と同様に、デフケース61外周の伝達ギヤ66によってデフケースの回転が伝達されることで、この装置200の機械式オイルポンプ206が駆動されるように構成されている。
【0031】
第1中間ギヤ201は、デフケース61の回転軸線と直交する方向、即ちデフケース61の回転方向に設けられて、同デフケースの伝達ギヤ66と噛み合っている。この第1中間ギヤ201は、同ギヤの回転を伝達するための出力軸201Aの一端側に固定されて、同出力軸201Aと一体回転するように構成されている。第1駆動ギヤ203は、出力軸201Aの他端側に回動可能に設けられて、機械式オイルポンプ206のポンプギヤ206Aと噛み合っている。この第1駆動ギヤ203には、所定の方向への回転のみを許容する1WAYクラッチ203Aが備えられている。第1駆動ギヤ203は、この1WAYクラッチ203Aの働きによって、所定の方向に回転される場合にのみ第1中間ギヤ201と共に回転し、その反対の方向に回転される場合には第1中間ギヤ201と相対回転して空転するように構成されている。
【0032】
カウンターギヤ205は、第1中間ギヤ201の出力軸201Aにおいて、第1中間ギヤ201と第1駆動ギヤ203との間の位置に固定されている。即ち、第1中間ギヤ201とカウンターギヤ205とは、一体回転するように構成されている。第2中間ギヤ202は、第1中間ギヤ201の出力軸201Aの軸線と直交する方向、即ちカウンターギヤ205の径方向に設けられて、同カウンターギヤ205と噛み合っている。つまり、機械式オイルポンプ装置200では、デフケース61の回転が、回転方向を反転するカウンターギヤ205を介して第2中間ギヤ202に伝達されるように構成されている。また、この第2中間ギヤ202は、同ギヤの回転を伝達するための出力軸202Aの一端側に固定されて、同出力軸202Aと一体回転するように構成されている。第2駆動ギヤ204は、第2中間ギヤ202の出力軸202Aの他端側に回動可能に設けられて、機械式オイルポンプ206のポンプギヤ206Aと噛み合っている。この第2駆動ギヤ204には、所定の方向への回転のみを許容する1WAYクラッチ204Aが備えられている。第2駆動ギヤ204は、この1WAYクラッチ204Aの働きによって、所定の方向に回転される場合にのみ第2中間ギヤ202と共に回転し、その反対の方向に回転される場合には第2中間ギヤ202と相対回転可能に空転するように構成されている。
【0033】
なお、この機械式オイルポンプ装置200では、第1中間ギヤ201、第1駆動ギヤ203、および1WAYクラッチ203Aを、前進用の回転部材として設けている。そのため、前進用の回転部材である1WAYクラッチ203Aは、車両が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)を許容するが、車両が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、遮断して伝達しないように構成されている。詳しくは、車両が前進走行してデフケース61が正回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201が逆回転する。この場合、1WAYクラッチ203Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第1中間ギヤ201の逆回転、つまりデフケース61の正回転を許容するように構成されている。この1WAYクラッチ203Aの働きにより、第1中間ギヤ201のその逆回転は、この第1中間ギヤ201と共に回転する第1駆動ギヤ203によってポンプギヤ206Aに伝達されて、その結果、ポンプギヤ206Aが正回転するようになる。
【0034】
一方、車両が後退走行してデフケース61が逆回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201が正回転する。この場合、1WAYクラッチ203Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第1中間ギヤ201の正回転、つまりデフケース61の逆回転は遮断して伝達しないように構成されている。この1WAYクラッチ203Aの働きにより、第1駆動ギヤ203は第1中間ギヤ201との相対回転が可能となるので、機械式オイルポンプ206を逆回転させてしまうその第1中間ギヤ201の正回転はポンプギヤ206Aに伝達されることがない。
【0035】
また、機械式オイルポンプ装置200では、第2中間ギヤ202、第2駆動ギヤ204、および1WAYクラッチ204Aを、後退用の回転部材として設けている。そのため、後退用の回転部材である1WAYクラッチ204Aは、車両が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)を許容するが、車両が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、遮断して伝達しないように構成されている。詳しくは、車両が後退走行してデフケース61が逆回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201が正回転し、この第1中間ギヤ201の出力軸201A上に固定されたカウンターギヤ205も共に正回転する。そして、カウンターギヤ205のこの正回転により、これと噛み合った第2中間ギヤ202が逆回転する。この場合、1WAYクラッチ204Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としてのこの第2中間ギヤ202の逆回転、つまりデフケース61の逆回転を許容するように構成されている。この1WAYクラッチ204Aの働きにより、第2中間ギヤ202のその逆回転は、この第2中間ギヤ202と共に(逆)回転する第2駆動ギヤ204から、それと噛み合うポンプギヤ206Aに伝達されて、その結果、ポンプギヤ206Aが正回転するようになる。
【0036】
一方、車両が前進走行してデフケース61が正回転する場合には、このデフケース61の伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201が逆回転し、この第1中間ギヤ201の出力軸201A上に固定されたカウンターギヤ205も共に逆回転する。そして、カウンターギヤ205のこの逆回転により、これと噛み合った第2中間ギヤ202が正回転する。この場合、1WAYクラッチ204Aは、伝達ギヤ66から伝達されたデフケース61の回転としての第2中間ギヤ202の正回転、つまりデフケース61の正回転は遮断して伝達しないように構成されている。この1WAYクラッチ204Aの働きにより、第2駆動ギヤ204は第2中間ギヤ202との相対回転が可能となるので、機械式オイルポンプ206を逆回転させてしまうこととなるその第2中間ギヤ202の正回転はポンプギヤ206Aに伝達されることがない。
このように、機械式オイルポンプ装置200では、1WAYクラッチ203Aと204Aとは、中間ギヤから伝達される回転について許容する回転方向が同一、つまりデフケース61の回転に対しての許容する回転方向が互いに反対となるように構成されている。
【0037】
以下、変形例の機械式オイルポンプ装置200の動作について、
図6を参照して説明する。
車両1が前進走行する場合には、デフケース61が正回転するので、機械式オイルポンプ装置200では、そのデフケースの伝達ギヤ66を介して、この伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201にデフケースの正回転が伝達される。ここで、この正回転が伝達された第1中間ギヤ201は、その反対方向に逆回転する。また、第1駆動ギヤ203の1WAYクラッチ203Aは、その方向の回転(逆回転)の伝達を許容するように構成されており、そのため、この回転は第1駆動ギヤ203に伝達される。即ち、車両1が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、1WAYクラッチ203Aによって許容されるので、この場合には、第1中間ギヤ201と第1駆動ギヤ203とが共に逆回転する。そして、この第1駆動ギヤ203の逆回転により、これと噛み合ったポンプギヤ206Aがその反対方向に正回転することで、同ポンプギヤにより機械式オイルポンプ206が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
【0038】
一方、上記のようにして第1中間ギヤ201が逆回転すると、出力軸201Aに固定されて第1中間ギヤ201と一体回転するように構成されたカウンターギヤ205も逆回転する。また、カウンターギヤ205が逆回転すると、これと噛み合う第2中間ギヤ202は、その反対方向に回転(正回転)する。ここで、第2駆動ギヤ204の1WAYクラッチ204Aは、その方向の回転(正回転)を遮断して伝達しないように構成されており、そのため、この回転は第2駆動ギヤ204には伝達されない。即ち、車両1が前進走行する場合のデフケース61の回転(正回転)は、1WAYクラッチ204Aによって遮断される。よって、この場合には、第2中間ギヤ202は回転(正回転)するが、第2駆動ギヤ204は、第2中間ギヤ202と相対回転可能に空転する(正確には、以下で説明するように逆回転する)。
【0039】
このように、機械式オイルポンプ装置200では、車両1が前進走行する場合、デフケース61の正回転は、同デフケースの伝達ギヤ66から第1中間ギヤ201に伝達される。このとき、次にその回転が伝達される第1駆動ギヤ203に備えられた1WAYクラッチ203Aは、そのデフケース61の正回転を許容するように構成されている。この許容により、第1中間ギヤ201に伝達されたデフケース61の正回転は、同ギヤ201の逆回転となり、さらに、このギヤ201と共に回転する第1駆動ギヤ203の逆回転としてポンプギヤ206Aに伝達される。そして、この逆回転の伝達によりポンプギヤ206Aが正回転することで、機械式オイルポンプ206が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
なお、機械式オイルポンプのポンプギヤ206Aは、第2駆動ギヤ204とも噛み合っており、そのためポンプギヤ206Aが回転(正回転)すると、第2駆動ギヤ204はその反対方向に回転(逆回転)される。これにより、ポンプギヤ206Aと噛み合う第2駆動ギヤ204は、この場合には第2中間ギヤ202と相対回転可能な状態にあるので、そのポンプギヤ206Aの正回転を受けて逆回転するようになる。
【0040】
また、車両1が後退走行する場合にはデフケース61が逆回転するので、機械式オイルポンプ装置200では、そのデフケースの伝達ギヤ66を介して、この伝達ギヤ66と噛み合う第1中間ギヤ201にデフケースの逆回転が伝達される。ここで、この逆回転が伝達された第1中間ギヤ201は、その反対方向に正回転する。第1中間ギヤ201が正回転すると、出力軸201Aに固定されて第1中間ギヤ201と一体回転するように構成されたカウンターギヤ205も正回転する。そして、カウンターギヤ205が正回転すると、これと噛み合う第2中間ギヤ202は、その反対方向に回転(逆回転)する。また、第2駆動ギヤ204の1WAYクラッチ204Aは、その方向の回転(逆回転)の伝達を許容するように構成されており、そのため、この回転は第2駆動ギヤ204に伝達される。即ち、車両1が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、1WAYクラッチ204Aによって許容されるので、この場合には、第2中間ギヤ202と第2駆動ギヤ204とが共に逆回転する。そして、この第2駆動ギヤ204の逆回転により、これと噛み合ったポンプギヤ206Aがその反対方向に正回転することで、同ポンプギヤにより機械式オイルポンプ206が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
【0041】
一方、上記のようにして第1中間ギヤ201は正回転するが、第1駆動ギヤ203の1WAYクラッチ203Aは、その方向の回転(正回転)を遮断して伝達しないように構成されている。そのため、この回転(正回転)は第1駆動ギヤ203には伝達されない。即ち、車両1が後退走行する場合のデフケース61の回転(逆回転)は、1WAYクラッチ203Aによって遮断される。よって、この場合には、第1中間ギヤ201は回転(正回転)するが、第1駆動ギヤ203は、第1中間ギヤ201と相対回転可能に空転する(正確には、以下で説明するように逆回転する)。
【0042】
このように、機械式オイルポンプ装置200では、車両1が後退走行する場合、デフケース61の逆回転は、同デフケースの伝達ギヤ66から第1中間ギヤ201に、同ギヤ201の正回転として伝達される。この伝達により第1中間ギヤ201が正回転すると、同ギヤの出力軸201A上に固定されたカウンターギヤ205も同じ方向に正回転し、これと噛み合う第2中間ギヤ202はその反対方向に逆回転するようになる。このとき、次にその回転が伝達される第2駆動ギヤ204に備えられた1WAYクラッチ204Aは、そのデフケース61の逆回転、即ち、デフケースの回転が伝達された結果としての第2中間ギヤ202の逆回転を許容するように構成されている。この許容により、デフケース61の逆回転は、第2中間ギヤ202と共に回転する第2駆動ギヤ204の逆回転となってポンプギヤ206Aに伝達される。そして、この逆回転の伝達によりポンプギヤ206Aが正回転することで、機械式オイルポンプ206が駆動されて潤滑油が同ポンプから吐出されるようになる。
【0043】
なお、機械式オイルポンプのポンプギヤ206Aは、第1駆動ギヤ203とも噛み合っている。また、第1駆動ギヤ203は、この場合には第1中間ギヤ201と相対回転可能な状態にある。これにより、ポンプギヤ206Aと噛み合う第1駆動ギヤ203は、そのポンプギヤ206Aの正回転を受けて逆回転するようになる。
このような構成の機械式オイルポンプ装置200を用いることで、車両が前進、後退のどちらに走行する場合にも機械式オイルポンプを駆動して潤滑油を潤滑対象に供給することができるようになる。
【0044】
以下、本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置100および変形例の機械式オイルポンプ装置200の構成上の特徴について、
図7を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る機械式オイルポンプ装置100では、ギヤの回転軸線と直交する方向に見た場合に、デフケース61の伝達ギヤ66と、第1中間ギヤ101および第2中間ギヤ102とが第1の列に配されている。また、ギヤの回転軸線方向においてその隣となる第2の列には、第1駆動ギヤ103、ポンプギヤ106A、カウンターギヤ105、および第2駆動ギヤ104が配されている。一方、変形例の機械式オイルポンプ装置200では、同様に見た場合に、デフケース61の伝達ギヤ66と第1中間ギヤ201とが第1の列に配されている。また、ギヤの回転軸線方向においてその隣となる第2の列には、第2中間ギヤ202とカウンターギヤ205とが配されている。そして、その隣となる第3の列には、第2駆動ギヤ204、ポンプギヤ206A、および第1駆動ギヤ203が配されている。つまり、機械式オイルポンプ装置100は、機械式オイルポンプ装置200よりもギヤ列が1列少ない構成となっており、そのため装置200と比べて回転軸線方向(あるいは車幅方向)にコンパクトな構成となっている。
【0045】
一方、機械式オイルポンプ装置200は、装置100での4つのギヤから成る第2の列から、カウンターギヤ105を、第1中間ギヤ201および第1駆動ギヤ203を備えた出力軸201Aの中間にカウンターギヤ205として移設して統合した構成である。つまり、機械式オイルポンプ装置200は、カウンターギヤ205、第1中間ギヤ201、および第1駆動ギヤ203の3つを、1つの出力軸201Aに同軸に設けた構成となっている。これにより、機械式オイルポンプ装置200では、機械式オイルポンプ装置100での4つのギヤから成る第2の列からギヤを1つ減らし、そして残りの3つのギヤで第3の列を構成している。そのため、機械式オイルポンプ装置200は、ギヤの回転軸線と直交する方向、即ちギヤの径方向に見た場合に、列を成すギヤの最大数が装置100よりも少ない構成となり、ギヤの径方向(あるいは車両の前後方向)にコンパクトな構成となっている。
【0046】
なお、上記では、FR(フロントエンジンリヤドライブ)タイプのパートタイム式4輪駆動車両の実施形態について説明した。しかし、本発明に係る機械式オイルポンプ装置は、もちろん、FF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプのパートタイム式4輪駆動車両にも適用可能である。さらに、本発明に係る機械式オイルポンプ装置は、エンジンを動力源とする車両だけでなく、電動機を動力源とする車両にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 車両、
4 トランスファ装置、
17,18 フロントアクスルシャフト、
6 フロントデフ(差動装置)、
61 デフケース、
66 伝達ギヤ、
7 カップリング、
72,73 クラッチ、
9 ケース、
90 4WDカップリング装置、
100,200 機械式オイルポンプ装置、
101,201 第1中間ギヤ、
101A,201A 出力軸、
102,202 第2中間ギヤ、
102A,202A 出力軸、
103,203 第1駆動ギヤ、
103A,203A 1WAYクラッチ、
104,204 第2駆動ギヤ、
104A,204A 1WAYクラッチ、
105,205 カウンターギヤ、
106A,206A ポンプギヤ、
106,206 機械式オイルポンプ