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特開2024-115851金属表面処理剤、金属表面の処理方法、表面処理金属の製造方法、及び表面処理金属
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  • 特開-金属表面処理剤、金属表面の処理方法、表面処理金属の製造方法、及び表面処理金属 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115851
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】金属表面処理剤、金属表面の処理方法、表面処理金属の製造方法、及び表面処理金属
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/19 20060101AFI20240820BHJP
   C23G 1/20 20060101ALI20240820BHJP
   C23G 1/22 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C23G1/19
C23G1/20
C23G1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021725
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】田邉 悠
(72)【発明者】
【氏名】立花 和宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智博
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA01
4K053PA02
4K053PA06
4K053PA07
4K053PA08
4K053PA09
4K053PA10
4K053PA12
4K053QA01
4K053RA07
4K053RA12
4K053SA06
(57)【要約】
【課題】高い安全性を有しつつ、作業性が良好であり、金属表面の酸化物を除去又は転換できる金属表面処理剤、当該金属表面処理剤を用いた金属表面の処理方法及び表面処理金属の製造方法、及び当該表面処理金属の製造方法によって得られる表面処理金属を提供する。
【解決手段】有効成分として粘土鉱物を含有し、当該粘土鉱物が液媒体に分散してなる、金属表面を還元処理するための金属表面処理剤。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として粘土鉱物を含有し、当該粘土鉱物が液媒体に分散してなる、金属表面を還元処理するための金属表面処理剤。
【請求項2】
前記還元処理により前記金属表面の金属酸化物を除去又は転換するための、請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
酸化還元電位が0.33V vs.SHE以下である、請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
前記粘土鉱物がスメクタイトを含む、請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
前記粘土鉱物の含有量が0.1~50質量%である、請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項6】
pHが8.0~11.0である、請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項7】
前記金属が銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、銀及びスズの少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の金属表面処理剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の金属表面処理剤に用いるための、粘土鉱物材料。
【請求項9】
金属表面と、請求項1に記載の金属表面処理剤とを接触させることにより、前記金属表面を還元処理することを含む、金属表面の処理方法。
【請求項10】
金属表面と、請求項1に記載の金属表面処理剤とを接触させることにより、前記金属表面を還元処理することを含む、表面処理金属の製造方法。
【請求項11】
前記還元処理により前記金属表面の金属酸化物を除去又は転換する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記還元処理の温度を-5~95℃とし、処理時間を1分~5日間とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記金属が銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、銀及びスズの少なくとも1種を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項14】
請求項9又は10に記載の方法により得られた表面処理金属。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理剤、金属表面の処理方法、表面処理金属の製造方法、及び表面処理金属に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン化傾向が小さい金や白金などの金属(貴な金属)を除き、鉄や銅などに例示される金属は、金属表面の金属原子が空気中の水等と接触して酸化還元反応を起こし、金属酸化物(以下、単に「酸化物」とも称す。)である腐食生成物(錆)を形成する。一度腐食が生じるとその腐食部分から腐食が内部まで進行し、金属の形状や強度が維持できなくなる。一方で、同じ酸化物であっても不働態化被膜(不働態被膜)と呼ばれる酸化物は非常に安定な性質を持ち、不働態化皮膜が金属表面を覆うことにより、金属原子が外界と接することを防いで腐食生成物の発生を抑制する。例えば鉄(Fe)では、腐食生成物は赤錆(Fe)と呼ばれ、不働態化被膜は黒錆(Fe)と呼ばれる。
【0003】
金属表面に形成された酸化物は、当該金属の処理工程や用途に合わせて適切に除去される。例えば金属表面に化成処理ないしめっき処理を施す場合には、処理効率を高めるために、事前に腐食生成物(錆)や不働態化被膜が除去されることが多い。例えば、硫酸や塩酸、硝酸等の酸洗剤を用いて金属表面の酸洗処理が行われ、金属表面から腐食生成物(錆)や不働態化被膜が除去される。
また一般家庭レベルにおいても、いわゆる錆を除去するための錆除去剤は数多く流通しており、酸溶液や強アルカリ溶液等の錆除去剤により金属表面を処理することで錆の除去が行われている。
一方で、金属の腐食を抑制するために敢えて金属表面に不働態化被膜を形成させることもある。例えば金属表面を高温で加熱することにより不働態化被膜を形成したり、錆転換剤を用いて腐食生成物を不働態化被膜に転換したりすることが行われている。
【0004】
上記酸洗剤としては、例えば特許文献1において、無機酸と、フッ素系界面活性剤と、水と、を含む、鋼板に形成された酸化皮膜を除去するための酸洗剤であって、前記酸洗剤中の前記無機酸の含有量が30~45質量%であり、前記酸洗剤中の前記フッ素系界面活性剤の含有量が200~2000質量ppmであり、合計で0~0.1質量%の酸化型金属イオン及び酸化型金属酸イオンを含む酸洗剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-135322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように金属酸化物を酸洗剤によって除去する場合には、酸洗剤と母材である金属(酸化していない金属)との反応も生じるため、母材である金属の腐食が少なからず進行する。また、酸洗処理により発生した水素の一部は鋼等の金属に吸収されるため、金属内の水素濃度が高まり水素脆性を引き起こす場合がある。さらに、酸洗剤や錆除去剤には酸性溶液、強アルカリ性溶液等が用いられることが多く、人体に有害で取扱いが困難であり、また当該溶液を廃棄する場合にも厳格な取扱いが必要となる。
【0007】
本発明は、高い安全性を有し、作業性が良好であり、金属表面の酸化物(錆)を除去又は転換できる金属表面処理剤を提供することを課題とする。また、本発明は、当該金属表面処理剤を用いた金属表面の処理方法及び表面処理金属の製造方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は当該表面処理金属の製造方法によって得られる表面処理金属を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、化粧品等の分野においても使用実績があり人体への安全性が高い粘土鉱物の分散液が、金属表面に対して優れた還元作用を示し、金属表面に形成された酸化物(錆)の除去剤又は転換剤として使用できること、また、この分散液は適度な粘性とチクソ性を有し作業性が良好であること、さらに当該分散液は弱アルカリ性を示し、酸化物(錆)の除去又は転換処理における金属の腐食を抑制できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決された
〔1〕
有効成分として粘土鉱物を含有し、当該粘土鉱物が液媒体に分散してなる、金属表面を還元処理するための金属表面処理剤。
〔2〕
前記還元処理により前記金属表面の金属酸化物を除去又は転換するための、前記〔1〕に記載の金属表面処理剤。
〔3〕
酸化還元電位が0.33V vs.SHE(標準水素電極)以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の金属表面処理剤。
〔4〕
前記粘土鉱物がスメクタイトを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の金属表面処理剤。
〔5〕
前記粘土鉱物の含有量が0.1~50質量%である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の金属表面処理剤。
〔6〕
pHが8.0~11.0である、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の金属表面処理剤。
〔7〕
前記金属が銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、銀及びスズの少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の金属表面処理剤。
〔8〕
前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の金属表面処理剤に用いるための、粘土鉱物材料。
〔9〕
金属表面と、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の金属表面処理剤とを接触させることにより、前記金属表面を還元処理することを含む、金属表面の処理方法。
〔10〕
金属表面と、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の金属表面処理剤とを接触させることにより、前記金属表面を還元処理することを含む、表面処理金属の製造方法。
〔11〕
前記還元処理により前記金属表面の金属酸化物を除去又は転換する、前記〔9〕又は〔10〕に記載の方法。
〔12〕
前記還元処理の温度を-5~95℃とし、処理時間を1分~5日間とする、前記〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕
前記金属が銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、銀及びスズの少なくとも1種を含む、前記〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕
前記〔9〕~〔13〕のいずれかに記載の方法により得られた表面処理金属。
【0010】
本発明の金属表面処理剤は、優れた還元作用を示すため金属表面に形成された酸化物を効率的に除去し、又は転換することができ、さらに適度な粘性とチクソ性を有するため作業性が良好で、被処理金属を浸漬する用途にも、被処理金属に塗布する用途にも用いることができ、さらに人体や環境への安全性も高い。
また本発明の金属表面の処理方法及び本発明の表面処理金属の製造方法によれば、安全かつ簡単に金属表面を還元処理することができ、金属表面の酸化物が除去され、又は転換された所望の表面処理金属を得ることができる。
また本発明の表面処理金属は、金属表面の酸化物が除去され、又は転換されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、スメクタイト水分散体の固形分濃度と電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
[金属表面処理剤]
本発明の金属表面処理剤は、有効成分として粘土鉱物を含有し、当該粘土鉱物が液媒体中に分散してなる分散液である。本発明の金属表面処理剤は、金属表面に形成された金属酸化物を還元処理することにより、当該酸化物を除去又は転換することができる。
【0014】
本発明の金属表面処理剤が金属表面に形成された金属酸化物と接触して酸化還元反応を引き起こすとき(本発明の金属表面処理剤が金属表面に形成された金属酸化物を還元処理するとき)、錆除去作用と錆転換作用のいずれかが生じ得る。
本発明ないし本明細書において、「錆除去」とは、金属表面から金属酸化物を除去することを意味する。本発明において「除去」とは、完全に除去すること、及び、低減すること、の両方を含む意味である。除去される金属酸化物は、腐食生成物であってもよく、不働態化被膜であってもよい。本発明において、金属酸化物の除去は、金属酸化物を還元して当該酸化物から酸素原子を除去することにより実質的に金属表面から当該酸化物が除去されることが好ましい。
また本発明ないし本明細書において、「錆転換」とは、金属表面に形成された金属酸化物(腐食生成物)を還元することにより、より安定的な不働態(ないし不働態化被膜)が形成されることを意味する。いずれの作用も、本発明の金属表面処理剤の有する優れた還元作用により引き起こされるものと考えられる。
本発明の金属表面処理剤の作用メカニズムを、推定を含むが、鉄(Fe)を例にとって説明する。本発明の金属表面処理剤がその還元作用により錆除去作用を示すとき、金属表面に形成された赤錆(Fe)又は黒錆(Fe)が還元されて酸素原子が除去され鉄(Fe)を生成する。一方、本発明の金属表面処理剤がその還元作用により錆転換作用を示すとき、金属表面に形成された赤錆(Fe)が還元されて、より安定的な黒錆(Fe)が形成される。本発明の金属表面処理剤がいわゆる錆除去剤として機能するか錆転換剤として機能するかは、被処理金属の種類、酸化物の種類、粘土鉱物の種類、金属表面処理剤の酸化還元電位等の複合的な要素の影響を受けるものと推測される。
【0015】
また本発明の金属表面処理剤は、有効成分として粘土鉱物を含有することにより、脱脂処理剤としての機能も有する。例えば金属表面に化成処理ないしメッキ処理を施す場合、金属表面に皮脂、切削油などの有機系の汚れ等が付着していると、このような汚れ等により化成処理ないしメッキ処理の効果が阻害され、処理が不均一となることがある。そのため、通常化成処理ないしメッキ処理を施す場合には、酸洗処理の前に金属表面に付着した油分等を脱脂洗浄により除去する必要がある。本発明の金属表面処理剤は有効成分として粘土鉱物を含有するため、当該粘土鉱物が両親媒性を有することや、当該粘土鉱物の有する吸着作用により、金属表面に付着した上記汚れ等を吸着して除去することができる。すなわち、本発明の金属表面処理剤によれば、被処理金属を予め脱脂処理に付さずとも、そのまま金属表面処理に付すことができ、表面処理金属の製造工程を簡略化することができる。
以下、本発明に特徴的な構成について詳細を説明する。
【0016】
<粘土鉱物>
本発明の金属表面処理剤の有効成分である粘土鉱物は、スメクタイトであることが好ましい。前記スメクタイトの種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。また、天然のスメクタイトを用いても良く、合成スメクタイトを用いることもでき、不純物の含有量が少ない観点から合成スメクタイトを用いることが好ましい。
前記スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。また、例えば本発明の金属表面処理剤を錆除去剤の用途として用いる場合には、前記粘土鉱物はモンモリロナイト及び/又はサポナイトであることが好ましい。また本発明の金属表面処理剤を錆転換剤の用途として用いる場合には、前記粘土鉱物はスチブンサイト及び/又はヘクトライトであることが好ましい。
なお、本発明ないし本明細書において、「粘土鉱物材料」という場合、上記粘土鉱物そのものでもよく、粘土鉱物に加えて、後述する他の成分を含有してもよい。
【0017】
前記スメクタイトの層間陽イオン種は特に限定されず、ナトリウムイオンやリチウムイオンであることが好ましい。前記層間陽イオンをナトリウムイオンやリチウムイオンとすることにより、例えば粘土鉱物を水系媒体に分散させた際に優れた膨潤性を付与することができ、また分散安定性を付与できるため、本発明の金属表面処理剤を安定的に金属表面(ないし金属表面に形成された酸化物)と接触させることができる。
前記スメクタイトの陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、分散時の膨潤性を向上させる観点から、15meq(ミリ当量)/100g以上が好ましく、20meq/100g以上がより好ましく、25meq/100g以上がさらに好ましい。また通常、本発明に用い得るスメクタイトの陽イオン交換容量は250meq/100g以下である。
【0018】
前記粘土鉱物の粒子径は特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、前記粘土鉱物の平均粒子径(平均一次粒子径)を20~500nmとすることもでき、30~400nmとしてもよく、40~380nmとしてもよく、50~370nmとしてもよい。本発明において分散液中の前記粘土鉱物の「平均粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この平均粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0019】
<液媒体>
本発明の金属表面処理剤は、有効成分である粘土鉱物が液媒体中に分散してなる分散液である。液媒体は特に限定されず、種々の液媒体を用いることができる。中でも、粘土鉱物の分散安定性の観点、及び金属表面処理剤の安全性の観点から、当該液媒体は水又は水溶液であることが好ましく、水であることがより好ましい。
前記水に特に制限はなく、水道水でもよく、蒸留水やイオン交換水等の精製水でもよい。分散安定性の観点から、水中のイオンが除去された精製水であることが特に好ましい。この場合、水のイオン伝導度が10μS/m以下が好ましく、5μS/m以下がより好ましく、2μS/m以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明の金属表面処理剤において、前記粘土鉱物の含有量に特に制限はなく、被処理物である金属の種類や金属表面の酸化物の状態、処理方法に応じて適宜設定することができる。本発明の金属表面処理剤の還元作用をより強く発現させる観点、及び本発明の金属表面処理剤に適度な流動性ないし粘性、及びチクソ性を付与する観点から、当該含有量は0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~40質量%であることがより好ましく、1~30質量%であることがさらに好ましく、2~25質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
<他の成分>
本発明の金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでもよい。例えば添加材としては安定化剤、消泡剤、比重調整剤、粘度調整剤、濡れ性改善剤、キレート剤、酸化剤、還元剤、有機溶剤、及び界面活性剤等を併用しても良い。当該添加剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の金属表面処理剤中の当該添加剤の含有量は、添加剤1種類あたり、0.01~10質量%であることが好ましい。また、複数の添加剤が添加される場合、本発明の金属表面処理剤中の当該添加剤の含有量の合計は、0.02~20質量%であることが好ましい。
【0022】
(酸化還元電位)
本発明の金属表面処理剤は金属表面に形成された金属酸化物を還元することにより表面処理(錆除去処理、錆転換処理)を行う。本発明の金属表面処理剤の還元力は、水素標準電極(SHE:standard hydrogen electrode)に対する酸化還元電位により判断することができ、一般的に酸化還元電位が低いと還元力が高いことを意味する。本発明の金属表面処理剤の酸化還元電位は、SHEに対し0.33V以下(0.33V[vs.SHE]以下)であることが好ましく、0.30V以下(0.30V[vs.SHE]以下)であることがより好ましい。
【0023】
本発明の金属表面処理剤の酸化還元電位は、例えば以下の方法により測定することができる。
内容積20cmのガラスセルに金属表面処理剤を容積の80%まで充填し、このセルに作用極として白金電極(Pt)を4cm浸漬させる。また、別の内容積20cmのガラスセルにpH10の緩衝溶液を容積の80%まで充填し、このセルに参照極として、水素標準電極(SHE)に対して酸化還元電位が+0.1Vである水銀-酸化水銀電極(Hg/HgO)を4cm浸漬させる。さらにこれら2つのセルの間に、pH10の緩衝溶液で湿らせたろ紙を塩橋として設置する。25℃条件下において、作用極、参照極を各々電位差計に接続した後、5分間静置後の電位差([作用極の端子の電圧]-[参照極の端子の電圧])を読み取り、当該電位差の値に0.1Vを足すことにより、SHEに対する酸化還元電位(V[vs.SHE])を求めることができる。
【0024】
(pH)
本発明の金属表面処理剤のpHには特に制限されず、人体への安全性の観点、及び廃棄等の取扱いの観点から、室温(25℃)条件下においてpH8.0~11.0であることが好ましい。例えば、層間陽イオンがナトリウムイオンやリチウムイオンであるスメクタイトを水に分散させた場合、pHは一般に弱アルカリ領域の9~11程度になることが多い。そのため、このようなスメクタイトを本発明の含有する粘土鉱物として用いる場合には、当該粘土鉱物を水に分散させたものを、pHの調整を行わずに、そのまま金属表面処理剤として用いることもできる。
【0025】
(粘度)
市場に流通している他の金属表面処理剤には、当該処理剤の金属表面への付着性を向上させる観点から、セルロース化合物などの有機系増粘剤が添加剤として添加されている場合がある。本発明の金属表面処理剤は、含有する粘土鉱物により分散液が適度な粘性を有するため、上記添加剤等を加えることなく、粘土鉱物の含有量等を調整することにより、目的の用途に応じた粘性を示す金属表面処理剤とすることができる。
本発明の金属表面処理剤の粘度は、本発明の金属表面処理剤に適切な粘度を付与し、被処理金属の表面に存在する酸化物との反応を促進する観点から、25℃条件下において、10mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましく、500mPa・s以上であることがさらに好ましく、1000mPa・s以上であることがさらに好ましい。また同様の観点から、当該粘度は200000mPa・s以下であることが好ましく、100000mPa・s以下であることがより好ましく、10000mPa・s以下であることがさらに好ましく、5000mPa・s以下であることがさらに好ましい。なお、上記粘度は、実施例に記載の方法により測定することができる。例えばBrookfield型(B型)粘度計を用い、測定温度25℃条件下、12rpmで回転させた際の、回転開始から60秒後の測定値を本発明の金属表面処理剤の粘度とすることができる。
本発明の金属表面処理剤の粘度を上記好ましい範囲とすることにより、例えば本発明の金属表面処理剤を被処理金属の表面に塗布して金属表面を処理するときに、本発明の金属表面処理剤が被処理金属の表面から流れ落ちずに留まるため、処理反応を促進させることができる。また、被処理金属を本発明の金属表面処理剤に浸漬して処理する場合には、金属表面処理剤の流動性を高めることにより、被処理金属の細部にまで金属表面処理剤が入り込んで反応が進行し、よりムラがなく均一に処理することができる。
【0026】
<被処理金属>
本発明の金属表面処理剤の被処理対象となる金属の種類は特に限定されず、金属表面に酸化物を形成し得る種々の金属に適用することができる。中でも、当該金属は銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、銀及びスズ、の少なくとも1種を含むことが好ましい。当該金属は、前記金属種そのものでもよく、前記金属種を含む合金でもよい。
【0027】
[金属表面の処理方法]
本発明の金属表面の処理方法は、金属表面と本発明の金属表面処理剤とを接触させることにより、金属表面を還元処理する方法に係る発明である。前記金属表面処理剤と金属表面との接触方法は特に制限されず、浸漬法、塗布法、噴霧法、滴下法などの公知慣用の方法を適用することができる。当該処理方法による効果は、上述した金属表面処理剤について説明した効果と同様である。
【0028】
本発明の金属表面の処理方法において、処理温度(反応温度)は特に制限がなく、本発明の金属表面処理剤の酸化還元電位、被処理金属の種類、酸化物の状態、処理方法等に応じて適宜設定することができる。本発明の金属表面処理剤の流動性を確保し、当該処理剤と金属表面を接触させる観点、及び液媒体の揮発(蒸発)を抑制する観点から、当該処理温度は-5~95℃であることが好ましい。さらに、金属表面での反応速度を促進する観点から、当該温度は10~80℃であることが好ましく、15~75℃であることがより好ましく、20~70℃であることがさらに好ましい。
【0029】
また本発明の金属表面の処理方法において、処理時間(反応時間)は特に制限がなく、本発明の金属表面処理剤の酸化還元電位、被処理金属の種類、酸化物の状態、処理方法等に応じて適宜設定することができる。例えば、処理時間を1分~5日間とすることができ、酸化還元反応を十分に進行させる観点、及び作業効率を向上させる観点から、10分~2日間であることが好ましく、30分~1日間であることがより好ましく、1時間~16時間であることがさらに好ましい。
【0030】
[表面処理金属の製造方法]
本発明の表面処理金属の製造方法は、金属表面処理剤により金属表面を処理する工程を有する。当該金属表面処理剤は、上述した本発明の金属表面処理剤であり、その好ましい実施形態も同様である。また、金属表面に金属表面処理剤を処理する条件も、本発明の金属表面の処理方法における処理方法と同様の処理とすることができる。
本発明の表面処理金属の製造方法により得られる表面処理金属は、本発明の金属表面処理剤により、金属表面に形成される酸化物(錆)が還元されることにより除去又は転換されている。
【実施例0031】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0032】
本実施例に用いた粘土鉱物は以下の通りである。なお、下記粘土鉱物の層間イオンは全てナトリウムイオンである。

(粘土鉱物)
・スメクトン-ST(商品名):合成粘土、スチブンサイト、陽イオン交換容量 25meq/100g、クニミネ工業社製
・スメクトン-SA(商品名):合成粘土、サポナイト、陽イオン交換容量 66meq/100g、クニミネ工業社製
・スメクトン-SWN(商品名):合成粘土、ヘクトライト、陽イオン交換容量 43meq/100g、クニミネ工業社製
・クニピアF(商品名):天然粘土、モンモリロナイト、陽イオン交換容量 110meq/100g、クニミネ工業社製
【0033】
(実施例1~6、比較例1)
下記表1に記載の粘土鉱物を、それぞれ表1に記載の配合比で蒸留水(導電率0.2μS/cm以下)中に分散させ、実施例1~6の金属表面処理剤を得た。
なお、対照サンプルとして、JIS K8001:2017に記載の方法に準拠し、水酸化ナトリウム溶液と炭酸水素ナトリウム溶液により調製した緩衝溶液(実施例と同程度のpH10)を、比較例1の金属表面処理剤として用いた。前記水酸化ナトリウム溶液及び前記炭酸水素ナトリウム溶液の調製に用いた試薬は、いずれも富士フィルム和光純薬試薬の特級試薬であった。
【0034】
得られた実施例1~6及び比較例1の金属表面処理剤を用いて、下記の試験を行った。
【0035】
(pH測定)
実施例1~6及び比較例1の金属表面処理剤のpH(25℃)を、pHメーター(型番:LAQUAtwin-pH-33B、堀場製作所製)により測定した。結果を下記表1に示す。
【0036】
(粘度測定)
実施例1~6及び比較例1の金属表面処理剤について、各処理剤を450ccガラス容器(マヨネーズ450、日本山村硝子社製)に400g分入れ、Brookfield型(B型)粘度計(TVB-10型粘度計、機種:TVB-10M、東機産業社製、ロータ:22M3)を用い、測定温度25℃条件下、12rpmで回転させた際の、回転開始から60秒後の測定値を各処理剤の粘度とした。結果を下記表1に示す。
【0037】
(酸化還元電位測定)
内容積20cmのガラスセルに、実施例1~6及び比較例1の金属表面処理剤を、容積の80%まで充填し、このセルに作用極として白金電極(商品名:Pt カウンター電極 5.7cm、BAS社製)を4cm浸漬させた。また、別の内容積20cmのガラスセルに、比較例1と同様のpH10の緩衝溶液を、容積の80%まで充填し、このセルに参照極として、水素標準電極(SHE)に対して酸化還元電位が+0.1Vである水銀-酸化水銀電極(RE-2BP、BAS社製)を4cm浸漬させた。これら2つのセルをイオン的につなぐため、pH10の緩衝溶液で湿らしたろ紙を塩橋として設置した。
25℃条件下において、作用極、参照極を各々電位差計(電気化学測定装置ALS600、BAS社製)に接続した後、5分間静置後の電位差([作用極の端子の電圧]-[参照極の端子の電圧])を読み取り、当該電位差の値に0.1Vを足すことにより、SHEに対する酸化還元電位(V[vs.SHE])を算出した。結果を下記表1及び図1に示す。
【0038】
図1は、実施例1~3の金属表面処理剤(スメクトン-STの濃度を振ったもの)の酸化還元電位と、比較例1の緩衝溶液(pH10)の酸化還元電位(いずれもSHEに対する酸化還元電位)を示す。粘土鉱物としてスチブンサイトを含有する実施例1~3の金属表面処理剤は、粘土鉱物を含まない緩衝溶液(pH10)に比べて卑な電位を示し、強い還元力を有することが示された。また、粘土鉱物を含有する金属表面処理剤の還元力は、含有する粘土鉱物の含有量と相関関係にあることが示された。
【0039】
(試験片の表面処理試験)
試験片として、鉄板(実験用金属板、寸法(mm)20×70×0.5、純度99.84%、ケニス株式会社製)を煮沸した水道水中に3時間浸漬した後、室温まで放冷して1日放置することにより、鉄板表面に茶褐色の赤錆(Fe)を形成させたものを用いた。
当該試験片を実施例1~6及び比較例1の金属表面処理剤に4日間、25℃で浸漬し、浸漬後の試験片表面を目視により観察し、下記評価基準により判定した。結果を下記表1に示す。

-評価基準-
◎:試験片表面から赤錆が除去された。
○:試験片表面の赤錆が黒錆に転換された。
△:浸漬の前後で試験片表面に変化が見られなかった。
×:浸漬により試験片表面の赤錆が増加した。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1より、実施例の金属表面処理剤と同等のpHを有する緩衝溶液(比較例1)は、酸化還元電位0.36V[vs.SHE]であり、当該溶液に試験片を浸漬させても、試験片表面の赤錆が除去、転換されず、かえって試験片表面に赤錆が増加する結果となった。
これに対し、粘土鉱物を含有する実施例1~6の金属表面処理剤は、pHがいずれも10付近(pH9.5~10.7)であり、適度な粘性を示し、さらに酸化還元電位がいずれも0.33V[vs.SHE]以下であった。また、当該処理剤に試験片を浸漬させることで、試験片表面から赤錆が除去されるか(実施例4、6)、試験片表面の赤錆が黒錆に転換された(実施例1~3、5)。

図1