(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115862
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス及びワイヤハーネスシステム
(51)【国際特許分類】
H01R 13/66 20060101AFI20240820BHJP
H02G 3/30 20060101ALN20240820BHJP
B60R 16/02 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
H01R13/66
H02G3/30
B60R16/02 621Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021738
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新原 佳紘
(72)【発明者】
【氏名】石川 佑樹
【テーマコード(参考)】
5E021
5G363
【Fターム(参考)】
5E021FA03
5E021FA05
5E021FA09
5E021FA14
5E021FA16
5E021FB09
5E021FB20
5E021FC19
5E021FC29
5E021MA09
5E021MA13
5E021MA18
5E021MA29
5E021MA31
5E021MB08
5G363AA09
5G363AA16
5G363BA02
5G363DA20
5G363DC02
(57)【要約】
【課題】他のワイヤハーネスの仕様を取得することなく、ワイヤハーネスの設計の最適化を行うことができるワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】第1のワイヤハーネス10は、第1の幹線20と、第1の幹線20の第1~第3の分岐部35b~35dから分岐する第1~第3の支線25b~25dと、第1の幹線20の一端に設けられた第1の機器用コネクタ30aと、を備える。第1のワイヤハーネス10は、第1の幹線20の他端に設けられ、第2のワイヤハーネス50の第2の分割コネクタ80と接続する第1の分割コネクタ40と、第1の分割コネクタ40の内部に設けられる磁性体43と、をさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の幹線と、
前記第1の幹線の分岐部から分岐する支線と、
前記第1の幹線の一端に設けられた第1のコネクタと、を備えるワイヤハーネスであって、
前記ワイヤハーネスは、
前記第1の幹線の他端に設けられ、相手方のワイヤハーネスの第3のコネクタと接続する第2のコネクタと、
前記第2のコネクタの内部に設けられ、又は、前記第2のコネクタと前記第2のコネクタに最も近い前記分岐部との間に設けられるローパスフィルタと、をさらに備えるワイヤハーネス。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤハーネスであって、
前記分岐部は、前記第2のコネクタの内部に位置していないワイヤハーネス。
【請求項3】
請求項1に記載のワイヤハーネスであって、
前記ローパスフィルタは、磁性体、又は、回路基板であるワイヤハーネス。
【請求項4】
請求項1に記載のワイヤハーネスにおいて、
前記第2のコネクタは、
前記第1の幹線と電気的に接続する第1の端子と、
前記第1の端子を保持する第1のハウジングと、を含み、
前記第1の端子は、前記第3のコネクタの第2の端子と嵌合するワイヤハーネス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のワイヤハーネスと、
前記ワイヤハーネスと接続する前記相手方のワイヤハーネスと、を備え、
前記相手方のワイヤハーネスは、
第2の幹線と、
前記第2の幹線の一端に設けられた前記第3のコネクタと、を備えるワイヤハーネスシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤハーネスシステムであって、
前記第2のコネクタは、
前記第1の幹線と電気的に接続する第1の端子と、
前記第1の端子を保持する第1のハウジングと、を含み、
前記第3のコネクタは、
前記第2の幹線と電気的に接続する第2の端子と、
前記第2の端子を保持する第2のハウジングと、を含み、
前記第1のハウジングと前記第2のハウジングが嵌合すると共に、前記第1の端子と前記第2の端子とが嵌合するワイヤハーネスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネス及びワイヤハーネスシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一対の通信線を有するワイヤハーネスが知られている(例えば、特許文献1参照)。このワイヤハーネスの通信線は、幹線と、ジョイントコネクタにおいて幹線から分岐する支線と、ジョイントコネクタに設けられた磁性体と、を含んでいる。幹線は、終端抵抗を備えるECU(Electronic Control Unit)間を接続するのに対し、支線は、当該幹線と、終端抵抗を備えないECUとを接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤハーネスは、他のワイヤハーネスと接続されることで一つのワイヤハーネスシステムとして使用されることがある。通信線がこれら二つのワイヤハーネスにわたって存在している場合、他のワイヤハーネスの仕様を取得していないと、ワイヤハーネスシステムにおける他のワイヤハーネスの影響を見積もることができないため、ワイヤハーネスの設計を最適化することが難しい、という問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、他のワイヤハーネスの仕様を取得することなく、ワイヤハーネスの設計の最適化を行うことができるワイヤハーネス、及び、このワイヤハーネスを使用したワイヤハーネスシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の態様1は、第1の幹線と、前記第1の幹線の分岐部から分岐する支線と、前記第1の幹線の一端に設けられた第1のコネクタと、を備えるワイヤハーネスであって、前記ワイヤハーネスは、前記第1の幹線の他端に設けられ、相手方のワイヤハーネスの第3のコネクタと接続する第2のコネクタと、前記第2のコネクタの内部に設けられ、又は、前記第2のコネクタと前記第2のコネクタに最も近い前記分岐部との間に設けられるローパスフィルタと、をさらに備えるワイヤハーネスである。
【0007】
[2]本発明の態様2は、態様1のワイヤハーネスにおいて、前記分岐部は、前記第2のコネクタの内部に位置していないワイヤハーネスであってもよい。
【0008】
[3]本発明の態様3は、態様1又は2のワイヤハーネスにおいて、前記第1のコネクタは、第1の終端抵抗を有する第1の電子制御装置と接続するワイヤハーネスであってもよい。
【0009】
[4]本発明の態様4は、態様1~3のいずれか一つのワイヤハーネスにおいて、前記ローパスフィルタは、磁性体、又は、回路基板であるワイヤハーネスであってもよい。
【0010】
[5]本発明の態様5は、態様1~4のいずれか一つのワイヤハーネスにおいて、前記第2のコネクタは、前記第1の幹線と電気的に接続する第1の端子と、前記第1の端子を保持する第1のハウジングと、を含み、前記第1の端子は、前記第3のコネクタの第2の端子と嵌合するワイヤハーネスであってもよい。
【0011】
[6]本発明の態様6は、態様1~5のいずれか一つのワイヤハーネスと、前記ワイヤハーネスと接続する前記相手方のワイヤハーネスと、を備え、前記相手方のワイヤハーネスは、第2の幹線と、前記第2の幹線の一端に設けられた前記第3のコネクタと、を備えるワイヤハーネスシステムである。
【0012】
[7]本発明の態様7は、態様6のワイヤハーネスシステムにおいて、前記相手方のワイヤハーネスは、前記第2の幹線の他端に設けられた第4のコネクタをさらに備え、前記第4のコネクタは、第2の終端抵抗を有する第2の電子制御装置と接続するワイヤハーネスシステムであってもよい。
【0013】
[8]本発明の態様8は、態様6又は7のワイヤハーネスシステムにおいて、前記第2のコネクタは、前記第1の幹線と電気的に接続する第1の端子と、前記第1の端子を保持する第1のハウジングと、を含み、前記第3のコネクタは、前記第2の幹線と電気的に接続する第2の端子と、前記第2の端子を保持する第2のハウジングと、を含み、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングが嵌合すると共に、前記第1の端子と前記第2の端子とが嵌合するワイヤハーネスシステムであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、第1の幹線の他端に相手方のワイヤハーネスの第3のコネクタと接続する第2のコネクタを設け、第2のコネクタの内部か、又は、第2のコネクタと第2のコネクタに最も近い支線の分岐部との間にローパスフィルタを設けている。これにより、他のワイヤハーネスの仕様を取得することなく、ワイヤハーネスの設計の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態におけるワイヤハーネスシステムを搭載する車両を示す概略平面図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、本発明の実施形態におけるワイヤハーネスシステムの第1及び第2の幹線と第1及び第2の分割コネクタとを示す断面図であり、
図2(a)は分割コネクタを嵌合する前の状態を示す図であり、
図2(b)は分割コネクタを嵌合させた状態を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2(a)及び
図2(b)のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態における第1の分割コネクタの変形例を示す断面図であり、
図2(b)に対応する図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(d)は、実験例1~実験例3において、第1のECUから第1~第4のECUに信号を入力した際に測定される波形をシミュレーションにより演算した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実験例2におけるワイヤハーネスシステムを示す概略平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施形態におけるワイヤハーネスシステムを搭載する車両を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態におけるワイヤハーネスシステム1を搭載する車両100を示す概略平面図である。
図2(a)及び
図2(b)は本実施形態におけるワイヤハーネスシステム1の第1及び第2の幹線20,60と第1及び第2の分割コネクタ40,80とを示す断面図であり、
図2(a)は分割コネクタを嵌合する前の状態を示す図であり、
図2(b)は分割コネクタを嵌合させた状態を示す図である。
図3は
図2(a)及び
図2(b)のIII-III線に沿った断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態におけるワイヤハーネスシステム1は、自動車などの車両100に搭載されており、この車両100内に構築されたLAN(Local Area Network)の一部を構成している。なお、本実施形態では、ワイヤハーネスシステム1を車両100に配索する場合を例示しているが、これに限定されず、車両以外の装置にワイヤハーネスシステム1を配索してもよい。
【0018】
本実施形態におけるワイヤハーネスシステム1は、車両100に搭載されている第1~第7のECU110a~110gを相互に電気的に接続しており、第1~第7のECU110a~110gは、ワイヤハーネスシステム1を介して電気信号を送受信している。第1~第7のECU110a~110gは、例えば、エンジン、ブレーキ、パワーステアリング、及び、エアコン等の車両100に搭載された機器を制御する電子制御装置である。なお、ワイヤハーネスシステム1に接続されるECUの個数は7個に限定されない。
【0019】
第1~第7のECU110a~110g間のデータ転送に使用される通信規格は、例えばCANFD(Controller Area Network with Flexible Data Rate)である。なお、当該通信規格は、CANFDに限定されず、CAN等であってもよい。
【0020】
第1のECU110aと、第2のECU110bと、第3のECU110cと、第4のECU110dと、は、車両100の第1の部分101に配置されている。第1のECU110aは、ワイヤハーネスシステム1の幹線5の一端に配置されており、第1の終端抵抗112aを備えている。一方で、第2~第4のECU110b~110dは、ワイヤハーネスシステム1の支線25b~25dの末端に配置されており、終端抵抗を備えていない。本実施形態における第1のECU110aは、本発明における「第1の電子制御装置」の一例に相当する。
【0021】
一方で、第5のECU110eと、第6のECU110fと、第7のECU110gと、は、車両100の第1の部分101と異なる第2の部分102に配置されている。第7のECU110gは、ワイヤハーネスシステム1の幹線5の他端に配置されており、第2の終端抵抗112gを備えている。一方で、第5及び第6のECU110e,110fは、ワイヤハーネスシステム1の支線65e,65fの末端に配置されており、終端抵抗を備えていない。本実施形態における第7のECU110gは、本発明における「第2の電子制御装置」の一例に相当する。
【0022】
特に限定されないが、本実施形態では、第1の部分101はエンジンルームであり、第2の部分102はインストゥルメントパネル(ダッシュボード)の内部空間である。なお、第1及び第2の部分101,102は、車両100のどのような部分であってもよく、上記の他にも、キャビン、ルーフ、又は、ラゲッジ周りの部分等であってもよい。
【0023】
ワイヤハーネスシステム1は、幹線5と、第1~第5の支線25b~25d,65e,65fと、第1~第7の機器用コネクタ30a~30d,70e~70gと、を備えている。
【0024】
幹線5は、第1の終端抵抗112aを有する第1のECU110aに接続された一方の端部と、第2の終端抵抗112gを有する第7のECU110gに接続された他方の端部と、を有している。すなわち、幹線5は、終端抵抗112a,112bを有するECU110a,110g間を接続している。
【0025】
本実施形態では、この幹線5に分割コネクタ40,80が設けられており、当該幹線5が2つの幹線20,60に分割され、ワイヤハーネスシステム1も2つのワイヤハーネス10,50に分割されている。第1のワイヤハーネス10と、当該第1のワイヤハーネス10とは別の第2のワイヤハーネス50とは、分割コネクタ40,80によって互いに着脱可能に接続されていると共に、当該分割コネクタ40,80を介して互いに電気的に接続されている。分割コネクタ40,80は、幹線5において第3及び第4の分岐部35d,75e(後述)の間に配置されており、第1のワイヤハーネス10が車両100の第1の部分101に配索され、第2のワイヤハーネス50が車両100の第2の部分102に配索されている。
【0026】
なお、本実施形態における第1のワイヤハーネス10は、本発明における「ワイヤハーネス」の一例に相当し、本実施形態における第2のワイヤハーネス50は、本発明における「相手方のワイヤハーネス」の一例に相当する。本実施形態における第1の分割コネクタ40は、本発明における「第2のコネクタ」の一例に相当し、本実施形態における第2の分割コネクタ80は、本発明における「第3のコネクタ」の一例に相当する。
【0027】
第1のワイヤハーネス10は、第1の幹線20と、第1~第3の支線25b~25dと、第1~第4の機器用コネクタ30a~30dと、第1の分割コネクタ40と、を含んでいる。なお、本実施形態の第1のワイヤハーネス10は、3本の支線を有しているが、支線の本数は、これに限定されない。また、本実施形態における第1の機器用コネクタ30aは本発明における「第1のコネクタ」の一例に相当する。
【0028】
本実施形態における第1の幹線20は、第1の終端抵抗112aを備える第1のECUと接続する通信ケーブルであり、ワイヤハーネスシステム1の幹線5の一部を構成している。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、第1の幹線20は、特に限定されないが、一対の通信線20a,20bが撚り合わされたツイストペアケーブルである。例えば、通信線20aをCANHワイヤとし、通信線20bをCANLワイヤとすることができる。
【0029】
図1に示すように、この第1の幹線20の一端には、第1の機器用コネクタ30aが設けられている。この第1の機器用コネクタ30aは、第1のECU110aの第1のECU側コネクタ111aと嵌合する。これにより、第1の幹線20は、第1のECU110aと電気的に接続する。
【0030】
第1の幹線20に第1の分岐部35bが設けられている。第1の分岐部35bは、第1の機器用コネクタ30aに最も近い位置に設けられている。この第1の分岐部35bにおいて、第1の幹線20から第1の支線25bが分岐している。特に図示しないが、第1の支線25bも第1の幹線20と同様のツイストペアケーブルである。
【0031】
第1の支線25bは、特に限定されないが、第1の分岐部35bにおいてジョイントコネクタによって第1の幹線20から分岐していてもよい。すなわち、第1の支線25bは、ジョイントコネクタの端子を介して第1の幹線20と電気的に接続されていてもよい。或いは、第1の支線25bは、ジョイントコネクタを使用することなく、溶接等によって第1の幹線20に直接接合されていてもよい。
【0032】
第1の支線25bの末端に第2の機器用コネクタ30bが設けられている。この第2の機器用コネクタ30bは、第2のECU110bの第2のECU側コネクタ111bと嵌合する。これにより、第1の支線25bは、第2のECU110bと電気的に接続する。
【0033】
第1の幹線20に第2の分岐部35cが設けられている。第2の分岐部35cは、第1の分岐部35bと同様の構成を有していてもよい。この第2の分岐部35cにおいて、第1の幹線20から第2の支線25cが分岐している。第2の支線25cは、第1の幹線20と同様のツイストペアケーブルである。
【0034】
また、この第2の支線25cの末端に第3の機器用コネクタ30cが設けられており、第3の機器用コネクタ30cは、第3のECU110cの第3のECU側コネクタ111cと嵌合している。これにより、第2の支線25cは、第3のECU110cと電気的に接続する。
【0035】
第1の幹線20に第3の分岐部35dが設けられている。第3の分岐部35dは、第1の分割コネクタ40に最も近い位置に設けられている。第3の分岐部35dは、第1の分岐部35bと同様の構成を有していてもよい。この第3の分岐部35dにおいて、第1の幹線20から第3の支線25dが分岐している。特に図示しないが、第3の支線25dも第1の幹線20と同様のツイストペアケーブルである。
【0036】
また、この第3の支線25dの末端に第4の機器用コネクタ30dが設けられており、第4の機器用コネクタ30dは、第4のECU110dの第4のECU側コネクタ111dと嵌合している。これにより、第3の支線25dは、第4のECU110dと電気的に接続する。
【0037】
第1の幹線20の他端に第1の分割コネクタ40が設けられている。この第1の分割コネクタ40は、第1の幹線20と第2の幹線60とを接続するためのコネクタであり、第2のワイヤハーネス50の第2の分割コネクタ80と嵌合する。
【0038】
本実施形態において、上述のような分岐部は、第1の分割コネクタ40の内部に位置しておらず、本実施形態におけるワイヤハーネスシステム1は、第1の分割コネクタ40において第1の幹線20から分岐する支線を備えていない。
【0039】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、第1の分割コネクタ40は、第1のハウジング41と、複数の雄端子42と、複数の磁性体43(
図3参照)と、を備えている。本実施形態における磁性体43は、本発明における「ローパスフィルタ」の一例に相当し、本実施形態における雄端子42は、本発明における「第1の端子」の一例に相当する。
【0040】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、第1のハウジング41は、嵌合口41aを有するケース部材である。この第1のハウジング41は、樹脂などの絶縁材料から構成されており、電気絶縁性を有している。この第1のハウジング41は、雄端子42を保持している。また、この第1のハウジング41の嵌合口41aに第2の分割コネクタ80の第2のハウジング81が嵌合している。
【0041】
第1のハウジング41に雄端子42が設けられている。この雄端子42は、第1の幹線20が接続されている一端を有していると共に、当該一端から第1のハウジング41を貫通して嵌合口41aの内部まで延在している。そして、雄端子42の他端は、第1のハウジング41の嵌合口41a内に突出しており、第2の分割コネクタ80の雌端子82に嵌合している。本実施形態における雌端子82は、本発明における「第2の端子」の一例に相当する。
【0042】
図2(a)~
図3に示すように、嵌合口41aの内部に磁性体43が設けられている。この磁性体43としては、ローパスフィルタとして機能する磁性材料を使用することができる。このような磁性材料としては、例えば、フェライトを使用することができる。
【0043】
図3に示すように、この磁性体43は、一対の挿通孔43aを有している。この挿通孔43aは、雄端子42が挿通される貫通孔である。この挿通孔43aに雄端子42が挿通されることによって、磁性体43は、雄端子42の外周面を覆っている。この磁性体43は、雄端子42が挿通孔43aに挿入された状態で、第1のハウジング41の嵌合口41a内に収容されている。
【0044】
この磁性体43により、雄端子42において高周波の電磁ノイズを除去することができる。この高周波の電磁ノイズは、例えば、反射波である。反射波は、ECUから送信された信号が、部材間の接続部において反射することで発生する。本実施形態の場合、磁性体43は、第2のワイヤハーネス50側からの反射波を減衰させることで、当該反射波を第1~第4のECU110a~110dに入射するのを抑制している。
【0045】
なお、
図4に示すように、ローパスフィルタとして、磁性体43の代わりに回路基板44を使用してもよい。
図4は、本実施形態における第1の分割コネクタ40の変形例を示す断面図であり、
図2(b)に対応する図である。
図4に示す第1の分割コネクタ40Bは、磁性体43の代わりに回路基板44が設けられている点で、
図2(a)~
図3に示す第1の分割コネクタ40と相違するが、それ以外の構成は
図2(a)~
図3に示す第1の分割コネクタ40と同様である。
【0046】
図4に示すように、第1の分割コネクタ40Bにおける回路基板44は、雄端子42と電気的に接続されている。この回路基板44は、基板45と、電子回路46と、を有している。
【0047】
基板45は、一般的なプリント配線板である。また、この基板45上に電子回路46が形成されている。電子回路46は、ローパスフィルタ機能を有する回路であり、このような回路としては、特に限定されないが、例えば、LC回路などを例示することができる。
【0048】
図1に戻り、第2のワイヤハーネス50は、第2の幹線60と、第4及び第5の支線65e,65fと、第5~第7の機器用コネクタ70e~70gと、第2の分割コネクタ80と、を含んでいる。本実施形態における第7の機器用コネクタ70gは、本発明における「第4のコネクタ」の一例に相当する。
【0049】
第2の幹線60は、第2の終端抵抗112gを備える第7のECU110gと接続する通信ケーブルであり、ワイヤハーネスシステム1の幹線5の一部を構成している。
図2に示すように、第2の幹線60は、第1の幹線20と同様に、一対の通信線60a,60bが撚り合わされたツイストペアケーブルである。
【0050】
この第2の幹線60の一端に、第2の分割コネクタ80が設けられている。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、本実施形態における第2の分割コネクタ80は、第2のハウジング81と、複数の雌端子82と、を備えている。この第2の分割コネクタ80は、第1の分割コネクタ40と異なり、磁性体等のローパスフィルタを備えていない。なお、この第2の分割コネクタ80が、第1の分割コネクタ40と同様に、磁性体等のローパスフィルタを備えていてもよい。
【0051】
第2のハウジング81は、第1のハウジング41の嵌合口41aに対応する外形を有する部材である。これにより、第2のハウジング81は、嵌合口41aに嵌合する。この第2のハウジング81は、樹脂などの絶縁材料から構成されており、電気絶縁性を有している。この第2のハウジング81は、雌端子82を内部に保持している。
【0052】
本実施形態における雌端子82は、第2のハウジング81に埋設されている。この雌端子82の一端に、第1の分割コネクタ40の雄端子42が嵌合していると共に、雌端子82の他端に第2の幹線60が接続されている。これにより、第1の幹線20と第2の幹線60とが電気的に接続されている。
【0053】
図1に示すように、第2の幹線60に、第4の分岐部75eと、第5の分岐部75fと、が設けられている。この第4及び第5の分岐部75e,75fは、第1の分岐部35bと同様の構成を有していてもよい。
【0054】
第4の分岐部75eにおいて、第2の幹線60から第4の支線65eが分岐していると共に、第5の分岐部75fにおいて、第2の幹線60から第5の支線65fが分岐している。特に図示しないが、第4及び第5の支線65e,65fも、第1の幹線20と同様のツイストペアケーブルである。
【0055】
また、第4の支線65eの末端に設けられた第5の機器用コネクタ70eは、第5のECU110eの第5のECU側コネクタ111eと嵌合している。同様に、第5の支線65fの末端に設けられた第6の機器用コネクタ70fは、第6のECU110fの第6のECU側コネクタ111fと嵌合している。
【0056】
第2の幹線60の他端に第7の機器用コネクタ70gが設けられている。この第7の機器用コネクタ70gは、第7のECU110gの第7のECU側コネクタ111gと嵌合する。これにより、第2の幹線60は、第7のECU110gと電気的に接続する。
【0057】
上述のように、本実施形態では、第1及び第2の分割コネクタ40,80が嵌合することで、第1及び第2のワイヤハーネス10,50が接続され、一つのワイヤハーネスシステム1が形成されている。また、第1及び第2の分割コネクタ40,80を介して接続された第1及び第2の幹線20,60が、当該ワイヤハーネスシステム1の幹線5として機能する。すなわち、ワイヤハーネスシステム1の幹線5は、第1のワイヤハーネス10の第1の幹線20及び第1の分割コネクタ40と、第2のワイヤハーネス50の第2の幹線60及び第2の分割コネクタ80と、を備えている。
【0058】
従来技術では、上記のような車載用のワイヤハーネスシステムに使用される第1のワイヤハーネスを設計する場合、ワイヤハーネスシステム全体において第1のワイヤハーネスが第2のワイヤハーネスから受ける影響を見積もることが必要となる。具体的には、第2のワイヤハーネス側からの反射波に起因する波形ひずみの大きさを見積もる必要がある。特に、CANFDにおける1bitの幅は、CANにおける1bitの幅よりも狭いため、CANバスと同程度の規模のCANFDバスを成立させるためには、反射波の影響を見積もることが重要となる。
【0059】
しかしながら、第2のワイヤハーネスの仕様が取得できず、当該波形ひずみの大きさを見積もることができない場合がある。一例を挙げれば、大型のCANFDバスが配索される場合に、第1のワイヤハーネスは自社により製造されるが、一方で、第2のワイヤハーネスは他社により製造される場合などである。このような場合、第2のワイヤハーネスの仕様を取得することは困難であるため、ワイヤハーネスシステム全体を配策した際の第2のワイヤハーネス側のからの反射波に起因する波形ひずみの大きさを見積もることができず、ワイヤハーネスシステムに適応するように第1のワイヤハーネスの設計を最適化することが困難となってしまう。
【0060】
これに対して、本実施形態の第1のワイヤハーネス10であれば、以下に説明するように、第2のワイヤハーネス50の仕様を取得できない場合であっても、第1のワイヤハーネス10の最適化を図ることができる。
【0061】
図5(a)~
図5(d)は、実験例1~実験例3において、第1のECU110aから第1~第4のECU110a~110dに信号を入力した際に測定される波形をシミュレーションにより演算した結果を示すグラフである。
図5(a)~
図5(d)に示すグラフの縦軸は通信線20a,20b間の差動電圧を示しており、横軸は時間を示している。
【0062】
図5(a)は、第1のECU110aが、第1のECU110aから送信された信号を受信した際の信号の波形をシミュレーションにより演算した結果を示している。
図5(b)は、第2のECU110bが、第1のECU110aから送信された信号を受信した際の信号の波形をシミュレーションにより演算した結果を示している。
図5(c)は、第3のECU110cが、第1のECU110aから送信された信号を受信した際の信号の波形をシミュレーションにより演算した結果を示している。
図5(d)は、第4のECU110dが、第1のECU110aから送信された信号を受信した際の信号の波形をシミュレーションにより演算した結果を示している。
【0063】
[実験例1]
実験例1では、
図1~
図3に示すワイヤハーネスシステム1の第1の分割コネクタ40から磁性体43を省略した実験用ワイヤハーネスシステムAにおいて、第1のECU110aから第1~第4のECU110a~110dに入力する信号の差動電圧を演算した。
【0064】
[実験例2]
実験例2では、
図6に示すような実験用ワイヤハーネスシステムBにおいて、第1のECU110aから第1~第4のECU110a~110dに入力する信号の差動電圧を演算した。
図6は実験例2におけるワイヤハーネスシステムBを示す概略平面図である。この実験用ワイヤハーネスシステムBは、
図1~
図3に示すワイヤハーネスシステム1において、第2のワイヤハーネス50を省略し、当該第2のワイヤハーネス50の代わりに、第1のワイヤハーネス10に電気的に接続する第3の終端抵抗112hを設けたものである。
【0065】
[実験例3]
実験例3では、
図1~
図3に示すワイヤハーネスシステム1と同様のワイヤハーネスシステムCにおいて、第1のECU110aから第1~第4のECU110a~110dに信号を入力した際に入力する信号の差動電圧を演算した。
【0066】
図5(a)~
図5(d)のグラフにおいて、実線Aが実験例1において測定された差動電圧を示し、一点鎖線Bが実験例2において測定された差動電圧を示し、破線Cが実験例3において測定された差動電圧を示している。
【0067】
図5(a)~
図5(d)に示すように、実験例1において演算された波形では、第2のワイヤハーネス50側に配置されている第5~第7の機器用コネクタ70e~70gや、第5~第7のECU110e~110gにおいて発生した反射波の影響を受けて、波形に大きな歪み(リンギング)が発生した。
【0068】
これは、実験例1の第1の分割コネクタ40にローパスフィルタとしての磁性体43が配置されていないことで、減衰されていない反射波が第1~第4のECU110a~110dに到達するためである。このような実験例1で演算された波形は、第2のワイヤハーネス50側からの反射波の影響を大きく受けるので、第2のワイヤハーネスの仕様を取得しないと当該波形を見積もることはできない。
【0069】
また、実験例1で演算された波形は、実験例1,2で演算された波形と類似していなかった。一方で、実験例2で演算された波形と、実験例3で演算された波形は、互いに類似していた。つまり、実験例3の第2のワイヤハーネスからの反射波を減衰させる構造を有するワイヤハーネスシステムCで得られる波形は、
図6に示す実験例2の第2のワイヤハーネスを有しないワイヤハーネスシステムBで演算した波形と類似することが分かった。
【0070】
これは、磁性体43によって第1のワイヤハーネス10に対する第2のワイヤハーネス50からの反射波が減衰されているため、第1のワイヤハーネス10に対する当該反射波の影響が小さいためである。このように、磁性体43によって、第2のワイヤハーネス50を第1のワイヤハーネス10に接続した状態で得られる波形を、第1のワイヤハーネス10単体で得られる波形に類似させられることが分かった。
【0071】
よって、第2のワイヤハーネス50の仕様が取得できなくとも、第1のワイヤハーネス10単体で演算した波形を、ワイヤハーネスシステム1全体を組み立てた状態で得られる波形と見做すことができるので、第1のワイヤハーネス10単体で、波形歪みの大きさを見積もることが可能となる。これにより、第2のワイヤハーネス50の仕様を取得しなくとも、第1のワイヤハーネス10の設計を最適化することが可能となる。
【0072】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0073】
磁性体43は、第1~第4のECU110a~110dに到達する前に反射波を減衰できればよいので、例えば、
図7に示すように、第1の分割コネクタ40と、この第1の分割コネクタ40に最も近い第3の分岐部35dとの間に配置されていてもよい。
図7は本発明の他の実施形態におけるワイヤハーネスシステムを搭載する車両を示す概略平面図である。この場合においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1…ワイヤハーネスシステム
5…幹線
10…第1のワイヤハーネス
20…第1の幹線
20a,20b…通信線
25b~25d…第1~第3の支線
30a~30d…第1~第4の機器用コネクタ
35b~35d…第1~第3の分岐部
40…第1の分割コネクタ
41…第1のハウジング
41a…嵌合口
42…雄端子
43…磁性体
43a…挿通孔
44…回路基板
45…基板
46…電子回路
50…第2のワイヤハーネス
60…第2の幹線
60a,60b…通信線
65e,65f…第4及び第5の支線
70e~70g…第5~第7の機器用コネクタ
75e,75f…第4及び第5の分岐部
80…第2の分割コネクタ
81…第2のハウジング
82…雌端子
100…車両
101…第1の部分
102…第2の部分
110a~110g…第1~第7のECU
111a~111g…第1~第7のECU側コネクタ
112a,112g,112h…第1~第3の終端抵抗