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  • 特開-機械加工の良否判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115876
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】機械加工の良否判定方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20240820BHJP
   B24B 19/00 20060101ALI20240820BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240820BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20240820BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240820BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240820BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240820BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B23Q17/09 F
B24B19/00 Z
B24B49/10
B24B49/16
B23Q17/09 D
B23Q17/12
F16C19/36
F16C33/58
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021754
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川鈴木 智哉
(72)【発明者】
【氏名】大家 理和
【テーマコード(参考)】
3C029
3C034
3C049
3J701
【Fターム(参考)】
3C029DD11
3C029DD14
3C034AA01
3C034AA13
3C034BB27
3C034BB71
3C034CA17
3C034CA24
3C034CB13
3C034DD18
3C034DD20
3C049AA03
3C049AA11
3C049AA13
3C049AB01
3C049AB04
3C049BA01
3C049BA06
3C049BA09
3C049CA01
3C049CB01
3C049CB04
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA54
3J701BA53
3J701BA54
3J701DA11
3J701EA02
3J701FA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワークに施した機械加工が所望の加工品質を満足する正常加工であるか否かを容易にかつ正確に判定可能とする。
【解決手段】試加工用のワークに施した機械加工(例えば研削加工)が所望の加工品質を満足する正常加工である時の取得データに基づいて機械学習モデルを作成し、加工対象のワークWに研削加工を施したときに取得したデータを上記機械学習モデルを用いて解析することにより、加工対象のワークWに施した研削加工が正常加工であるか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工装置を用いて試加工用ワークに施した機械加工が所望の加工品質を満足する正常加工である時の取得データに基づいて機械学習モデルを作成し、
加工対象ワークに前記機械加工を施したときに取得したデータを前記機械学習モデルを用いて解析することにより、前記加工対象ワークに施した前記機械加工が正常加工であるか否かを判定することを特徴とする機械加工の良否判定方法。
【請求項2】
前記試加工用ワーク及び前記加工対象ワークに前記機械加工を施したときに取得するデータを、加工工具の駆動用電力に関する第1データ、前記機械加工装置が実行する工程に関する第2データ、及びワーク支持部に生じる振動に関する第3データの少なくとも一つとした請求項1に記載の機械加工の良否判定方法。
【請求項3】
前記試加工用ワーク及び前記加工対象ワークに前記機械加工を施したときに取得するデータを、前記第1データ、前記第2データ及び前記第3データとした請求項2に記載の機械加工の良否判定方法。
【請求項4】
前記試加工用ワーク及び前記加工対象ワークが円すいころ軸受の軌道輪である請求項1に記載の機械加工の良否判定方法。
【請求項5】
前記機械加工を研削加工とし、
前記機械加工装置としての研削装置が実行する工程を、前記試加工用ワーク及び前記加工対象ワークの被研削面を粗加工する粗加工工程、粗加工された前記被研削面の表面粗さを小さくする仕上げ工程、及び前記被研削面の表面粗さを一層小さくする仕上げスパークアウト工程とした請求項2又は3に記載の機械加工の良否判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工の良否判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、機械加工の一種である切削加工時に生じる振動に関するデータ(振動データ)から切削加工時の異常を検出する方法が開示されている。詳細には、切削加工時に生じる振動データを取得し、この振動データの絶対値を基に振幅データを算出し、この振幅データに移動平均処理を行うことにより短期平均振幅値及び長期平均振幅値を算出し、長期平均振幅値を基にして閾値を算出し、短期平均振幅値と閾値とを比較することにより加工異常の有無を検出する(ワークに施した切削加工が、所望の加工品質を満足する「正常加工」であるか、あるいは所望の加工品質を満足しない「異常加工」であるかを判定する)、というものである(請求項1)。
【0003】
係る方法によれば、短期平均振幅値及びこれとの比較対象である閾値が、切削加工中に取得される振動(振幅)データを基に随時算出・更新されるため、加工中に取得される振動データにばらつきが存在しても、その影響が加工異常の検出精度に及ぶことがない。このため、この方法によれば、切削工具の摩耗や欠損などに起因する加工異常の有無を精度良く判定することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-132558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の異常検出方法では、異常判定をするための基準となる閾値が必要不可欠であり、この閾値は、加工時に取得した振動(振幅)データに基づいて算出した長期平均振幅値に応じて設定する必要があるところ、閾値としての上限値や下限値は、長期平均振幅値に「所定の値」を加算、減算又は乗算することにより設定される。上記「所定の値」は、例えば、試加工等を繰り返し実施することにより、加工方法、加工量、ワークの材質やサイズなどに応じて最適値を都度導出する必要があると考えられることから、閾値の設定に手間がかかるという問題がある。また、上記「所定の値」は、試加工等を繰り返し実行せずとも、例えば作業者の経験則に基づいて導出可能であるとも考えられるが、良否判定基準(加工品質)が作業者毎にばらつく可能性がある。
【0006】
かかる実情に鑑み、本発明は、加工対象ワークに施す機械加工が、所望の加工品質を満足する正常加工であるか否かを容易にかつ正確に判定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係る機械加工の良否判定方法は、
機械加工装置を用いて試加工用ワークに施した機械加工が所望の加工品質を満足する正常加工である時の取得データに基づいて機械学習モデルを作成し、
加工対象ワークに上記機械加工を施したときに取得したデータを上記機械学習モデルを用いて解析することにより、加工対象ワークに施した上記機械加工が正常加工であるか否かを判定することを特徴とする。
【0008】
上記のように、機械加工装置(機械加工を施すための装置)を用いて試加工用ワークに施した機械加工が「正常加工」である時の様々な取得データに基づいて機械学習モデルを作成すれば、このモデルは「正常加工」であることの判定基準とすることができる。このため、加工対象ワークに施している機械加工から取得されるデータを上記機械学習モデルを用いて解析すれば、人手作業による閾値の設定や試加工用ワークに施された機械加工が「異常加工」であるときのデータを必要とすることなく、加工対象ワークに施された機械加工が「正常加工」であるか否かを容易にかつ正確に判定することができる。
【0009】
上記構成において、試加工用ワーク及び加工対象ワークに機械加工を施したときに取得するデータは、例えば、加工工具の駆動用電力に関する第1データ、機械加工装置が実行する工程に関する第2データ、及びワーク支持部に生じる振動に関する第3データの少なくとも一つとすることができる。但し、判定の正確性を高める上では第1~第3データの全てを取得するのが好ましい。
【0010】
上記構成において、試加工用ワーク及び加工対象ワークは、例えば円すいころ軸受の軌道輪(の基材)とすることができる。すなわち、本発明は、特に円すいころ軸受の外輪又は内輪(の基材)に施す機械加工の良否を判定する際に好ましく適用することができる。
【0011】
上記構成において、機械加工としては研削加工を挙げることができる。すなわち、本発明に係る良否判定方法は、研削加工の良否判定に適用することができる。この場合、機械加工装置としての研削装置が実行する工程は、試加工用ワーク及び加工対象ワークの被研削面を粗加工する粗加工工程、粗加工された上記被研削面の表面粗さを小さくする仕上げ工程、及び上記被研削面の表面粗さを一層小さくする仕上げスパークアウト工程、とすることができる。なお、上記の表面粗さとは、例えばJIS B 0601:2001に規定されている「算術表面粗さ」とする。
【0012】
本発明は、研削加工以外の機械加工、例えば切削加工の良否判定に用いることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上に示すように、本発明に係る機械加工の良否判定方法によれば、加工対象ワークに施した機械加工が、所望の加工品質を満足する正常加工であるか否かを容易にかつ正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】機械加工装置としての研削装置の概略平面図である。
図2図1に示す研削装置の部分概略正面図である。
図3図1及び図2の研削装置で実行される加工工程の順序を示すブロック図である。
図4】研削装置を含む良否判定システムを概念的に示す図である。
図5】エッジPCで取得される3つのデータをまとめて示す図(線図)である。
図6】(a)図は、第1機械学習モデルの作成手順を示すブロック図であり、(b)図は、第2機械学習モデルの作成手順を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1及び図2は、それぞれ、機械加工装置としての研削装置1の概略平面図及び部分概略正面図であり、本発明に係る良否判定方法は、図1及び図2に示す研削装置1を用いて加工対象ワーク(以下、単に「ワーク」とも言う。)に対して施された研削加工が、要求される加工品質を満足する「正常加工」であるか否か、つまり「正常加工」であるか、あるいは要求される加工品質を満たさない「異常加工」であるかを判定するために用いられる。従って、本実施形態において、本発明で言う機械加工及び加工工具は、それぞれ、研削加工及び(回転駆動される)研削砥石となる。この良否判定方法は、図4に示すように、研削装置1と、エッジPC7及び機械学習用サーバ8とを備えた良否判定システムSを用いることで実施することができる。
【0017】
図1及び図2に示す研削装置1は、回転駆動されているリング状(短円筒状)のワークW(ここでは、最終的に円すいころ軸受の内輪となるワークW)の被研削面である外周面Waに対し、回転駆動されている研削砥石3の外周研削面3aを接触させることにより、ワークWの外周面Waを所定のテーパ形状及び精度に仕上げる研削加工を施す。すなわち、研削装置1は、リング状のワークWをその中心軸X1を中心として回転駆動させるワーク支持部2と、外周面Waの仕上げ予定形状に倣った外周研削面3aを有する研削砥石3をその中心軸X2を中心として回転駆動させる砥石台4と、研削砥石3とワークWの接触点C付近に冷却液を供給する図示外の冷却液供給部とを備える。図示例のワーク支持部2は、ワークWを、その中心軸X1を鉛直方向に沿わせた水平姿勢で支持した状態で回転駆動させるものである一方、砥石台4は、研削砥石3を、その中心軸X2をワークWの中心軸X1に対して所定角度傾斜させた傾斜姿勢に支持した状態で回転駆動させる。砥石台4は、研削砥石3の中心軸X2に沿う方向(研削砥石3の軸方向)及び中心軸X2に対して直交する方向(研削砥石3の径方向)に移動可能となっている。
【0018】
この研削装置1では、図3に示すように、ワークWの外周面Waを粗加工する粗加工工程P1と、粗加工されたワークWの外周面Waを滑らかにする(外周面Waの表面粗さを小さくする)仕上げ工程P2と、滑らかにされたワークWの外周面Waを一層滑らかにする(外周面の表面粗さを一層小さくし、最終製品の状態に仕上げる)仕上げスパークアウト工程P3とが連続して実施可能である。本実施形態では、研削砥石3の送り速度(ワークWの外周面Waに対する外周研削面3aの押し当て力)を変更することによって粗加工工程P1、仕上げ工程P2又は仕上げスパークアウト工程P3の何れを実行するかが切り替えられることから、工程切り替え時における研削砥石3の交換は不要である。研削砥石3の送り速度は、上記3工程P1~P3のうち粗加工工程P1で最も速く設定され、仕上げスパークアウト工程P3で最も遅く設定される。従って、粗加工工程P1では、研削砥石3の外周研削面3aがワークWの被研削面に対して勢い良く(強く)押し当てられる一方で、仕上げスパークアウト工程P3では、研削砥石3の外周研削面3aがワークWの被研削面に対してゆっくり押し当てられる。
【0019】
研削装置1は、ワーク支持部2及び砥石台4(の駆動機構)と電気的に接続された制御部5を備えており、制御部5から出力される制御信号により、ワークWと研削砥石3の相対位置、ワークWの回転速度、研削砥石3の回転速度及び研削砥石3の送り速度などが制御(調整)される。この制御部5は、図4に示すように、研削装置1とは別に設けられたエッジPC7と電気的に接続されている。
【0020】
また、研削装置1には、加工工具である研削砥石3の駆動用電力を検出する第1センサ6Aと、研削装置1の作動時にワークW(ワーク支持部2)に生じる振動を検出する第2センサ6Bとが設置されており、これらセンサ6A,6BはエッジPC7と電気的に接続されている。そして、研削装置1の作動時に、エッジPC7は、第1センサ6Aで検出される研削砥石3の駆動用電力に関する信号(第1データ)と、制御部5から出力される「研削装置1が実行する工程」に関する信号(第2データ)と、第2センサ6Bで検出される振動に関する信号(第3データ)とを取得する。エッジPC7が取得する第1~第3データをグラフ化したものの一例を図5に示す。
【0021】
上記のとおり、本実施形態では第1データを研削砥石3の駆動用電力(単位:kW)としている。ワークWに対する研削砥石3の押し付け力を強くするほど研削装置1の電力消費量が増加することから、図5に示すように、上記3つの工程P1~P3の実行時における第1データの値は、粗加工工程P1の実行時が最も大きく、仕上げスパークアウト工程P3の実行時が最も小さくなる。また、本実施形態では第3データを電圧(単位:V)としている。これは、振動(加速度)の大きさを電圧値として取得していることに由来する。第2データは、研削装置1が実行する工程に応じて制御部5から出力される信号(数値)としている。つまり、粗加工工程P1の実行時、仕上げ工程P2の実行時、及び仕上げスパークアウト工程P3の実行時にはそれぞれ別の数値が制御部5から出力され、これが第2データとしてエッジPC7に取得される。
【0022】
エッジPC7は、これとは別に設けられた機械学習用サーバ8との間でデータの送受信が可能となっている。エッジPC7は、研削装置1の作動時に所定の時間間隔で上記の第1~第3データを取得する。所定数のワークWに対する研削加工が完了すると、取得したデータを機械学習用サーバ8に送信する。機械学習用サーバ8では、エッジPC7から送信されたデータが保存され、保存されたデータをアルゴリズム(異常検出アルゴリズム)に入力することにより、ワークWに施された研削加工が求められる加工品質を満足する「正常加工」であるか否かを判定するためのAIモデル(機械学習モデル)が作成される。異常検出アルゴリズムとしては、例えば、
・アイソレーションフォレスト(Isolation Forest)
・ワンクラスサポートヴェクターマシン(One Class Support Vector Machine)
・ローカルアウトリア―ファクター(Local Outlier Factor)
・ロバストコバリアンス(Robust Covariance)
を使用することができる。
【0023】
なお、上記の異常検出アルゴリズムにデータを入力する際には、それに先立ち、データの中から特徴量を抽出する特徴量抽出処理が実施される。特徴量抽出処理としては、多項式近似、代表値計算[例えば、二乗平均平方根(RMS)や高速フーリエ変換(FFT)]、主成分分析(PCA)などが実施される。
【0024】
機械学習用サーバ8で機械学習モデルが作成されると、この機械学習モデルはエッジPC7に送信され、エッジPC7内で保存される。エッジPC7内に機械学習モデルが保存された後には、研削装置1を用いてワークWに研削加工が施される毎に、当該研削加工に伴って取得された第1データ~第3データがエッジPC7内に保存された機械学習モデルを用いて解析されることにより当該研削加工が「正常加工」であるか否かが判定される。判定結果は、例えばエッジPC7のディスプレイに表示させることができる。
【0025】
以上の構成を有する良否判定システムSを用いて実行される、機械加工としての研削加工の良否判定方法の具体例を以下説明する。
【0026】
まず、研削装置1に設置した第1センサ6Aと第2センサ6Bの検出間隔を、それぞれ、10msec及び0.2msecに設定すると共に、制御部5から出力される、研削装置1で実行される工程に関する信号の出力間隔を10msecに設定した上で研削装置1を作動させ、試加工用ワークに対して粗加工工程P1、仕上げ工程P2及び仕上げスパークアウト工程P3を順に実施することによりエッジPC7に第1データ~第3データを取得させる、というデータ取得ステップを繰り返し実行する。なお、「試加工用ワーク」とは、研削装置1にて研削加工が施される加工対象のワークWと材質、形状及び寸法等を同じくする同一型番の部材(同一部材)であり、加工対象のワークWが円すいころ軸受の軌道輪(例えば内輪)である場合、その内輪と材質、形状及び寸法等を同じくする同一型番の内輪が「試加工用ワーク」として用いられる。また、エッジPC7による各データの取得間隔を上記の間隔に設定した場合、1つの試加工用ワークに研削加工を施す間に取得されるデータの数は、第1データ及び第2データで概ね1,500個、第3データで概ね75,000個である。
【0027】
所定数の試加工用ワークに対する加工が完了すると、エッジPC7に取得された第1データ~第3データを機械学習用サーバ8に送信し、これらのデータを機械学習用サーバ8に保存する。これを繰り返すことにより、機械学習用サーバ8に多数の第1データ~第3データが蓄積される。このようにして機械学習用サーバ8に蓄積された“ある1か月の”第1データ~第3データのうち、試加工用ワークに施された研削加工が要求される加工品質を満足する「正常加工」である場合のデータをランダムに10000件抽出し、抽出したデータを上記の異常検出アルゴリズムに入力することにより機械学習モデルを作成した。ここでは、図6(a)に示すように、第1データを入力データとする第1機械学習モデルと、図6(b)に示すように、第2データ及び第3データを入力データとする第2機械学習モデルとを作成した。つまり、第1機械学習モデル及び第2機械学習モデルとして、それぞれ、
・アイソレーションフォレスト(Isolation Forest)、
・ワンクラスサポートヴェクターマシン(One Class Support Vector Machine)、
・ローカルアウトリア―ファクター(Local Outlier Factor)、
・ロバストコバリアンス(Robust Covariance)
をアルゴリズムとするモデルを作成した。
【0028】
なお、図6(a)に示すように、第1機械学習モデルを作成するに際し、データ(第1データ)の入力対象である異常検出アルゴリズムが"Isolation Forest"である場合には、特徴量抽出処理として多項式近似のみを実施し、データの入力対象である異常検出アルゴリズムが"One Class Support Vector Machine"、"Local Outlier Factor"又は"Robust Covariance"である場合は、特徴量抽出処理として多項式近似及び主成分処理を実施するようにした。また、図6(b)に示すように、第2機械学習モデルを作成するに際し、データ(第2データ及び第3データ)の入力対象である異常検出アルゴリズムが"Isolation Forest"である場合は、特徴量抽出処理として代表値計算のみを実施し、データの入力対象である異常検出アルゴリズムが"One Class Support Vector Machine"、"Local Outlier Factor"又は"Robust Covariance"の何れかである場合は、特徴量抽出処理として代表値計算及び主成分処理を実施するようにした。
【0029】
以上のようにして作成した各機械学習モデル(第1機械学習モデル及び第2機械学習モデル)が、ワークWに施した研削加工が要求される加工品質を満足する「正常加工」であるか、あるいは要求される加工品質を満足しない「異常加工」であるかを正しく判定できるか否かを確認した。ここでは、まず、別月1か月の「正常加工」である場合のデータをランダムに1000件抽出し、この抽出データを上記の各機械学習モデルに入力して解析させた際に「正常加工」の判定を正しく出せるか否かの検証を行った。この検証結果は、下記の表1中に“正常正解率[%]”として表示している。また、加工条件や研削装置1の仕様を一部変更することにより、「異常加工」を意図的に発生させる研削加工をワークWに施し、そのときに取得したデータを上記の各機械学習モデルに入力した解析させた際に「異常加工」の判定を正しく出せるか否かの検証を行った。この検証は計42回行い、その結果は下記の表1中に“異常正解率[%]”として表示している。
【0030】
【表1】
【0031】
表1中に示す確認結果により、以上のようにして得られた各機械学習モデルを用いれば、加工対象ワークWに施した研削加工が、所望の加工品質を満足する「正常加工」であるか否かを容易にかつ正確に判定することができる。すなわち、各機械学習モデルは、試加工用ワークに施した機械加工(研削加工)が「正常加工」である時のデータを用いて作成したものであることから、各モデルは「正常加工」であることの判定基準とすることができる。このため、ワークWに施した研削加工から取得されるデータを上記機械学習モデルを用いて解析すれば、人手作業による閾値の設定や試加工用ワークに施された研削加工が「異常加工」であるときのデータを必要とすることなく、ワークWに施された拙作加工が「正常加工」であるか否かを正確に判定することができる。
【0032】
なお、表1に示す各機械学習モデルの“正常正解率”及び“異常正解率”は何れも高確率であることから、複数の機械学習モデルを組み合わせて使用すれば、ワークWに施される機械加工(研削加工)が「正常加工」であるか否かを極めて精度良く判定することのできる判定システムSを構築することができるものと推察される。
【0033】
以上では、機械学習用サーバ8で機械学習モデルを作成するために、研削装置1で試加工用ワークに研削加工を施した際に3種類のデータ(加工工具の駆動用電力に関する第1データ、研削装置1が実行する工程に関する第2データ、及びワークWの支持部に生じる振動に関する第3データ)をエッジPC7で取得するようにしたが、エッジPC7で取得するデータは、上記3種類のうちの何れか一つ、又は任意に選択する二種類としても良い。
【0034】
また、以上では、円すいころ軸受の内輪に施す機械加工の良否を判定するに際して本発明を用いる場合について説明したが、本発明は、これ以外にも、例えば円すいころ軸受の外輪や、その他の転がり軸受(玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受等)の軌道輪に施す機械加工の良否を判定する際にも好ましく用いることができる。また、以上では、各種ワークWに施す研削加工が「正常加工」であるか否かを判定する際に本発明を適用する場合について説明したが、本発明は、研削加工以外の機械加工、例えば切削加工が「正常加工」であるか否かを判定する際に適用することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 研削装置(機械加工装置)
2 ワーク支持部
3 研削砥石
4 砥石台
6A 第1センサ
6B 第2センサ
7 エッジPC
8 機械学習サーバ
P1 粗加工工程
P2 仕上げ工程
P3 仕上げスパークアウト工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6