(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115878
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】モータステータ、及びモータステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/12 20060101AFI20240820BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H02K3/12
H02K15/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021758
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】中島 広太
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀剛
(72)【発明者】
【氏名】藏ノ下 昌平
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603BB01
5H603BB05
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB02
5H603CC03
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD05
5H603CD11
5H603CD22
5H603CE05
5H603EE03
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP13
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS09
5H615SS10
(57)【要約】
【課題】スロット内におけるコイルセグメントの径方向の適正な位置決めを図りつつも、十分な大きさの固定力をステータコアとコイルセグメントとの間に付与する。
【解決手段】このモータステータ1は、複数のスロット3を有するモータのステータコア2と、スロット3を通じてステータコア2に巻き架けられるステータコイル4とを備える。ステータコイル4は、一対の直線部6と、一対の直線部6を連結する連結部7とを一体に有する複数のコイルセグメント5で構成され、複数のコイルセグメント5の直線部6が、ステータコア2の径方向に並んだ状態でスロット3に挿入され、径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部6(6a,6b)に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部9(9a,9b)がそれぞれ設けられ、一組の直線部6(6a,6b)のうち一方の直線部6bに設けられた凸状部9bは、他方の直線部6aのうち他方の直線部6aに設けられた凸状部9a以外の部分と当接している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットを通じて前記ステータコアに巻き架けられるステータコイルとを備えるモータステータであって、
前記ステータコイルは、一対の直線部と、前記一対の直線部を連結する連結部とを一体に有する複数のコイルセグメントで構成され、
前記複数のコイルセグメントの直線部が、前記ステータコアの径方向に並んだ状態で前記スロットに挿入され、
前記径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、前記径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部がそれぞれ設けられ、
前記一組の直線部のうち一方の前記直線部に設けられた前記凸状部は、他方の前記直線部のうち前記他方の直線部に設けられた前記凸状部以外の部分と当接していることを特徴とするモータステータ。
【請求項2】
前記一組の直線部に、前記凸状部とは前記径方向で反対の向きに凹み互いに重ね合わせ可能な形状をなす凹状部がさらに設けられ、かつ
前記一方の直線部に設けられた前記凸状部は前記他方の直線部に設けられた前記凹状部と当接している請求項1に記載のモータステータ。
【請求項3】
前記凸状部と前記凹状部とが前記双方の直線部の長手方向に沿って交互に設けられている請求項2に記載のモータステータ。
【請求項4】
複数のスロットを有するモータのステータコアと、前記スロットを通じて前記ステータコアに巻き架けられるステータコイルとを備え、前記ステータコイルは、一対の直線部と、前記一対の直線部を連結する連結部とを一体に有する複数のコイルセグメントで構成され、前記複数のコイルセグメントの直線部が、前記ステータコアの径方向に並んだ状態で前記スロットに挿入されているモータステータの製造方法であって、
前記径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、前記径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部がそれぞれ設けられた前記複数のコイルセグメントを準備する準備工程と、
前記凸状部同士を重ね合わせた状態で前記複数の直線部を前記スロットに挿入する挿入工程と、
前記一組の直線部のうち一方の前記直線部に設けられた前記凸状部が、他方の前記直線部のうち前記他方の直線部に設けられた前記凸状部以外の部分と当接するように、前記他方の直線部に対する前記一方の直線部の長手方向位置を調整する位置調整工程とを備えた、モータステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータステータ、及びモータステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に鑑み電気自動車やハイブリッド車など、車両の駆動装置やその周辺機器にモータを採用する動きが加速している。上記車両へ搭載されるモータには、車両の駆動性能を向上させるべく高出力であることが求められると共に、搭載可能なスペースの関係上、小型であることが求められている。
【0003】
ここで、モータのステータコイルは、一対の直線部と、折り返し形状をなし一対の直線部を連結する連結部とを一体に有する複数のコイルセグメントで構成されている。ここで、複数のコイルセグメントの直線部は、ステータコアの径方向に並んだ状態でスロットに収容されており、ステータコアから突出している部分を周方向に向けてねじるように曲げ加工を行った後、同相のコイルセグメントの突出部の先端部同士を溶接等で接合することにより、ステータコイルが形成される。また、スロットに直線部が挿入された状態で、スロットの内部空間に、天然樹脂又は合成樹脂を含む充填剤を充填することで、直線部をステータコアに対して位置決め保持している(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、特許文献1には、スロット内におけるコイルセグメントの周方向又は径方向の移動を規制する目的で、各セグメントコイルの一対の直線部に、ステータコアの周方向外側に向けて膨らんだ形状をなす湾曲部を設けると共に、連結部にねじり変形を付与して一対の直線部の前後方向(ステータコアの径方向)にオフセットを付与することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように、スロット内に充填剤を供給する場合、充填剤は粘度の低い液体の状態で供給されるため、スロット内における各コイルセグメントの位置が安定しない。特許文献1に記載のように、ステータコアの周方向外側に膨らむ湾曲部を直線部に設ければ、コイルセグメントの周方向の位置決めは可能となるが、スロットへの挿入時に湾曲部が抵抗となるため、コイルセグメントが傷付くおそれがある。また、スロット内における径方向の位置決めについては、連結部に付与したねじり変形のスプリングバックが、径方向への移動を規制する主たる力となるため、径方向の位置決め精度が不十分であり、また充填剤が不要となるほどの十分な固定力を得ることは難しい。
【0007】
以上の事情に鑑み、本明細書では、スロット内におけるコイルセグメントの径方向の適正な位置決めを図りつつも、十分な大きさの固定力をステータコアとコイルセグメントとの間に付与することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係るモータステータによって達成される。すなわち、このステータは、複数のスロットを有するモータのステータコアと、スロットを通じてステータコアに巻き架けられるステータコイルとを備えるモータステータであって、ステータコイルは、一対の直線部と、一対の直線部を連結する連結部とを一体に有する複数のコイルセグメントで構成され、複数のコイルセグメントの直線部が、ステータコアの径方向に並んだ状態でスロットに挿入され、径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部がそれぞれ設けられ、一組の直線部のうち一方の直線部に設けられた凸状部は、他方の直線部のうち他方の直線部に設けられた凸状部以外の部分と当接している点をもって特徴付けられる。
【0009】
上述したように、本発明に係るモータステータでは、スロットに挿入された状態において径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部をそれぞれ設けるようにした。このように直線部を構成することにより、例えば径方向で隣り合う凸状部を互いに重ね合わせた状態で複数の直線部をスロットに挿入することで、これら挿入される複数の直線部全体の径方向寸法を狭めることができる。また、挿入した状態で一方の直線部を他方の直線部に対して長手方向にずらして、一方の直線部に設けた凸状部を、他方の直線部のうち凸状部以外の部分と当接させることにより、スロットに挿入される複数の直線部全体の径方向寸法を広げることができる。よって、挿入時には凸状部同士を重ね合わせることでスムーズにスロット内に直線部を挿入でき、挿入した後は、一方の直線部の凸状部を他方の直線部の凸状部以外の部分(直線部本体)と当接させることで、複数の直線部をスロットに対して径方向に強固に位置決め固定することができる。以上より、本発明によれば、径方向の位置決めを適正に図りつつも、ステータコアに直線部を強固に固定することが可能となる。また、ステータコアに直線部(コイルセグメント)が強固に固定されていれば、充填剤の供給を省略でき、あるいは充填剤の供給量を減らすことができるので、総じて製造コストの低減化にもつながる。
【0010】
また、本発明に係るモータステータにおいて、一組の直線部に、凸状部とは径方向で反対の向きに凹み互いに重ね合わせ可能な形状をなす凹状部がさらに設けられてもよい。また、上述のように凹状部が設けられる場合、一方の直線部に設けられた凸状部が他方の直線部に設けられた凹状部と当接してもよい。
【0011】
このように凸状部とは径方向で反対の向きに凹む凹状部をさらに設けて、凸状部と凹状部とを当接させることで、スロットに挿入される複数の直線部全体の径方向寸法を小さくしつつも、挿入後に複数の直線部全体の径方向寸法をより一層大きく広げることができる。よって、スロットへの挿入がよりスムーズに行えると共に、ステータコアに対する直線部の固定力をさらに高めることが可能となる。
【0012】
また、凹状部が設けられる場合、本発明に係るモータステータにおいては、凸状部と凹状部とが双方の直線部の長手方向に沿って交互に設けられてもよい。
【0013】
このように構成することで、凸状部と直線部、凹状部と直線部、又は凸状部と凹状部とを直線部の長手方向の複数箇所で当接させることができるので、径方向で隣り合う直線部間、及びスロット内面と直線部との固定力をさらに高めることが可能となる。
【0014】
また、前記課題の解決は、本発明に係るモータステータの製造方法によっても達成される。すなわち、この製造方法は、複数のスロットを有するモータのステータコアと、スロットを通じてステータコアに巻き架けられるステータコイルとを備え、ステータコイルは、一対の直線部と、一対の直線部を連結する連結部とを一体に有する複数のコイルセグメントで構成され、複数のコイルセグメントの直線部が、ステータコアの径方向に並んだ状態でスロットに挿入されているモータステータの製造方法であって、径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部がそれぞれ設けられた複数のコイルセグメントを準備する準備工程と、凸状部同士を重ね合わせた状態で複数の直線部をスロットに挿入する挿入工程と、一組の直線部のうち一方の直線部に設けられた凸状部が、他方の直線部のうち他方の直線部に設けられた凸状部以外の部分と当接するように、他方の直線部に対する一方の直線部の長手方向位置を調整する位置調整工程とを備えた点をもって特徴付けられる。
【0015】
このように、本発明に係るモータステータの製造方法では、スロットに挿入された状態において径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部をそれぞれ設けた複数のコイルセグメントを準備し、径方向で隣り合う凸状部を互いに重ね合わせた状態で複数の直線部をスロットに挿入することで、挿入される複数の直線部全体の径方向寸法を狭めることができる。また、複数の直線部をスロットに挿入した後、一方の直線部の凸状部が、他方の直線部のうち凸状部以外の部分と当接するように一方の直線部を他方の直線部に対して長手方向に移動させることで、スロットに挿入される複数の直線全体の径方向寸法を広げることができる。よって、挿入時には凸状部同士を重ね合わせることでスムーズにスロット内に直線部を挿入でき、挿入した後は、一方の直線部の凸状部を他方の直線部の凸状部以外の部分(直線部本体)と当接させることで、複数の直線部をスロットに対して径方向に強固に位置決め固定することができる。以上より、本発明によれば、径方向の位置決めを適正に図りつつも、ステータコアに直線部を強固に固定することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、スロット内におけるコイルセグメントの径方向の適正な位置決めを図りつつも、十分な大きさの固定力をステータコアとコイルセグメントとの間に付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るモータステータの一部を断面視した平面図である。
【
図3】
図1に示すコイルセグメントの正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るモータステータの製造方法に係るフローチャートである。
【
図5】
図4に示す挿入工程において、ステータコアのスロットにコイルセグメントを挿入する直前の状態を示す断面図である。
【
図6】
図4に示す挿入工程において、ステータコアのスロットにコイルセグメントを挿入した状態を示す断面図である。
【
図7】
図4に示す位置調整工程において、
図6に示す状態から一方の直線部を他方の直線部に対して長手方向に移動させた状態を示す断面図である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係るモータステータの断面図である。
【
図9】本発明の第三実施形態に係るコイルセグメントの要部断面図である。
【
図10】本実施形態の第四実施形態に係るコイルセグメントの要部断面図である。
【
図11】本実施形態の第五実施形態に係るコイルセグメントの要部断面図であって、
図3中のB-B断面図である。
【
図12】本発明の第六実施形態に係るモータステータの製造方法の一例を示す断面図であって、挿入工程において、ステータコアのスロットにコイルセグメントを挿入した状態を示す断面図である。
【
図13】
図12に示す状態から一部の直線部を長手方向に移動させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第一実施形態に係るモータステータ、及びその製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るモータステータ1の平面図を示している。また、
図2は、
図1に示すステータコア2のスロット3が設けられた箇所を軸方向に沿った仮想断面で切断して得られる断面図(
図1のA-A断面図)を示している。なお、
図1では、平面視する方向から見て各コイルセグメント5のスロット3から突出した部分を切断して得られるコイルセグメント5の断面を示している。
【0020】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るモータステータ1は、円環状をなすステータコア2と、ステータコア2に設けられる所定数のスロット3と、スロット3を通じてステータコア2に巻き架けられるステータコイル4とを備える。スロット3は、ステータコア2をその軸方向に貫くようにステータコア2の円周方向所定箇所に等間隔に設けられている。
【0021】
図3は、ステータコイル4を構成する1個のコイルセグメント5であって、ステータコア2のスロット3に挿入される直前のコイルセグメント5の正面図を示している。このコイルセグメント5は、一対の直線部6と、一対の直線部6同士を連結する連結部7とを一体に有する。各直線部6の先端には導体8の露出部が設けられている。上記構成をなす複数のコイルセグメント5の直線部6が、ステータコア2の径方向に並んだ状態でスロット3に挿入されている(
図1を参照)。また、図示は省略するが、直線部6のうちスロット3から突出している部分を周方向に向けてねじるように曲げ加工を行った後、同相のコイルセグメント5の直線部6の導体8が露出している部分同士を溶接等で接合することにより、全てのコイルセグメント5が接続された状態のステータコイル4が形成されている。
【0022】
ここで、ステータコア2の径方向に並んだ互いに異なるコイルセグメント5の複数の直線部6のうち、径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部6(例えば最も径方向の内側に位置する第一直線部6aと、この第一直線部6aと径方向の外側で隣り合う第二直線部6b)には、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部9がそれぞれ設けられる(
図2を参照)。この凸状部9は、突出方向(ここではステータコア2の径方向内側)で隣り合う直線部6のうち当該隣り合う直線部6に設けられた凸状部9以外の部分と当接している。
【0023】
本実施形態では、スロット3に挿入される全ての直線部6(第一直線部6aから第六直線部6f)に凸状部9(9a~9f)が設けられている。凸状部9は、例えば図示のように滑らかな凸曲線状をなす。この場合、最も径方向の内側に位置する凸状部9(第一直線部6aの凸状部9a)を除く全ての凸状部9b~9fがそれぞれ径方向の内側で隣り合う直線部6a~6eの凸状部9a~9e以外の部分と当接している。最も径方向の内側に位置する第一直線部6aの凸状部9aは、スロット3の内面3aと径方向で当接している。
【0024】
また、本実施形態では、各直線部6a~6fに、凸状部9とは径方向で反対の向き(ここでは径方向外側)に凹み互いに重ね合わせ可能な形状をなす凹状部10(10a~10f)がさらに設けられている。凹状部10は、例えば図示のように滑らかな凹曲線状をなす。この場合、最も径方向の外側に位置する凹状部10(第六直線部6fの凹状部10f)を除く全ての凹状部10a~10eがそれぞれ径方向の外側で隣り合う直線部6b~6fの凹状部10b~10f以外の部分、ここでは凸状部9b~9fと当接している。最も径方向の外側に位置する第六直線部6fの凹状部10fは、スロット3の内面3aと径方向で当接している。
【0025】
本実施形態では、凸状部9と凹状部10がそれぞれ波形の山部と谷部とを構成するように、凸状部9a~9fと凹状部10a~10fが各直線部6a~6fの長手方向に沿って交互に設けられている。これにより、最も径方向内側に位置する第一直線部6aの凸状部9aと最も径方向外側に位置する第六直線部6fの凹状部10fがスロット3の内面3aと径方向で当接し、かつ、少なくともスロット3内に位置する各直線部6b~6fの複数の凸状部9b~9f全てが径方向内側で隣り合う直線部6a~6eの凹状部10a~10eとそれぞれ当接している(
図2を参照)。
【0026】
なお、後述する直線部6の押込み(隣り合う直線部6に対する長手方向の移動)のし易さ等を考慮した場合、凸状部9と凹状部10との振幅Bとセグメントコイル厚み方向tの比B/tは、1.04以上でかつ1.06以下とするのがよい。
【0027】
次に、上記構成のモータステータ1の製造方法の一例について説明する。本実施形態に係るモータステータ1の製造方法は、
図4に示すように、所定形状のコイルセグメント5を準備する準備工程S1と、準備したコイルセグメント5の直線部6をスロット3に挿入する挿入工程S2と、一方の直線部6aを他方の直線部6bに対してその長手方向に移動させて長手方向の位置を調整する位置調整工程S3とを備える。以下、各工程S1~S3を時系列順に説明する。
【0028】
(S1)準備工程
本工程S1では、直線部6に凸状部9が設けられたコイルセグメント5を必要数準備する。本実施形態では、
図3に示すように、複数の凸状部9と複数の凹状部10とが直線部6の長手方向に沿って交互に設けられたコイルセグメント5を準備する。このコイルセグメント5は、スロット3に挿入される数分だけ準備される。すなわち、スロット3に挿入される全てのコイルセグメント5に、
図3に示すコイルセグメント5を用いる。
【0029】
(S2)挿入工程
準備工程S1で必要数のコイルセグメント5を準備した後、複数のコイルセグメント5の直線部6をステータコア2の対応するスロット3に挿入する。この際、径方向で互いに隣り合う複数のコイルセグメント5の直線部6は、
図5に示すように、凸状部9同士を重ね合わせた状態でスロット3に挿入される。本実施形態では、凸状部9同士及び凹状部10同士を重ね合わせた状態で、複数のコイルセグメント5の直線部6が対応するスロット3に挿入される。この際、
図5に示すように、クランプ用治具20を用いて複数の直線部6を径方向にクランプした状態で、これら複数の直線部6をスロット3に挿入してもよい。また、図示は省略するが、各コイルセグメント5の連結部7を押込み用治具で直線部6の長手方向に押込むことで、複数の直線部6をスロット3に挿入してもよい。
【0030】
複数の直線部6をスロット3に挿入した状態では、スロット3の内面3aと直線部6との間に所定の径方向隙間が生じている(
図6を参照)。すなわち、スロット3に挿入される際の複数の直線部6の総径方向寸法D1は、スロット3の径方向寸法D2よりも小さい。よって複数の直線部6をスロット3の内面3aと干渉させることなく円滑にスロット3に挿入可能となる。
【0031】
(S3)位置調整工程
本工程S3では、スロット3に挿入された状態の複数の直線部6(
図6を参照)の径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部6(例えば第一直線部6aと第二直線部6b)のうち、一方の直線部6(ここでは第二直線部6b)に設けられた凸状部9(第二凸状部9b)が、他方の直線部6(ここでは第一直線部6a)のうち凸状部9(第一凸状部9a)以外の部分(ここでは第一凹状部10a)と当接するように、他方の直線部6に対する一方の直線部6の長手方向位置を調整する。
【0032】
本実施形態では、径方向で隣り合う第一直線部6aから第六直線部6fのうち、第二直線部6bと第四直線部6dと第六直線部6fを長手方向に押込んで、第二直線部6bの凸状部9bが第一直線部6aの凹状部10aと当接し、第四直線部6dの凸状部9dが第三直線部6cの凹状部10cと当接し、第六直線部6fの凸状部9fが第五直線部6eの凹状部10eと当接するように、第一直線部6aから第六直線部6fの長手方向位置を所定の位置に調整する。これにより、各直線部6a~6fの先端部となる導体8の露出部がそれぞれ所定の長手方向位置に設置される(
図7を参照)。なお、この際、
図7に示すように、導体8の露出部を長手方向に位置決めするための治具(位置決め用治具21)を用いて、各直線部6の長手方向の位置調整を行ってもよい。
【0033】
各直線部6a~6f(正確には導体8の露出部)を所定の長手方向位置に調整した状態では、スロット3への挿入時(
図6を参照)と比べて、複数の直線部6の総径方向寸法D3が拡大している(
図7を参照)。この場合、径方向で隣り合う直線部6同士が凸状部9と凹状部10とで当接し、かつ最も径方向の内側に位置する第一直線部6aの凸状部9aと最も径方向の外側に位置する第六直線部6fの凹状部10fがそれぞれ、スロット3の内面3aと径方向に当接している。よって、全ての直線部6a~6fが径方向への移動を相互に規制された状態となる。
【0034】
以上述べたように、本実施形態に係るモータステータ1では、スロット3に挿入された状態において径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部6(6a,6b)に、径方向に突出し互いに重ね合わせ可能な形状をなす凸状部9(9a,9b)をそれぞれ設けるようにした。このように直線部6を構成することにより、例えば径方向で隣り合う凸状部9a,9bを互いに重ね合わせた状態で複数の直線部6(6a~6f)をスロット3に挿入することで、これら挿入される複数の直線部6全体の径方向寸法D1をスロット3の径方向寸法D2よりも狭めることができる(
図6を参照)。また、挿入した状態で一方の直線部6(ここでは第二直線部6b)を他方の直線部(ここでは第一直線部6a)に対して長手方向にずらして、一方の直線部6bに設けた凸状部9bを、他方の直線部6aのうち凸状部9a以外の部分と当接させることにより、スロット3に挿入される複数の直線部6全体の径方向寸法D3をスロット3の径方向寸法D2にまで広げることができる(
図7を参照)。よって、挿入時には凸状部9同士を重ね合わせることでスムーズにスロット3内に直線部6を挿入でき、挿入した後は、一方の直線部6(6b,6d,6f)の凸状部9(9b,9d,9f)を他方の直線部6(6a,6c,6e)の凸状部9以外の部分と当接させることで、複数の直線部6をスロット3に対して径方向に強固に位置決め固定することができる。以上より、本実施形態に係るモータステータ1によれば、径方向の位置決めを適正に図りつつも、ステータコア2に直線部6を強固に固定することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、スロット3の挿入時、径方向で隣り合う少なくとも一組の直線部6に、凸状部9とは径方向で反対の向き(ここでは径方向の外側向き)に凹み互いに重ね合わせ可能な形状をなす凹状部10をさらに設けるようにし、位置調整を行った状態では、一方の直線部6(6b,6d,6f)に設けられた凸状部9(9b,9d,9f)が他方の直線部6(6a,6c,6e)に設けられた凹状部10(10a,10c,10e)と当接するようにした(
図2を参照)。
【0036】
このように凸状部9とは径方向で反対の向きに凹む凹状部10をさらに設けて、凸状部9と凹状部10とが当接するようにすることで、凹状部10がない場合(凸状部9のみの場合)と比べて、スロット3に挿入される複数の直線部6全体の径方向寸法D1を小さくしつつも、挿入後に複数の直線部6全体の径方向寸法D3をより一層大きく広げることができる。よって、スロット3への挿入がよりスムーズに行えると共に、ステータコア2に対する直線部6の固定力をさらに高めることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、各直線部6において、凸状部9と凹状部10とが直線部6の長手方向に沿って交互に設けられるようにしたので、凸状部9と凹状部10とを直線部6の長手方向の複数箇所で当接させることができる。よって、径方向で隣り合う直線部6間、及びスロット3の内面3aと直線部6との固定力をさらに高めることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るモータステータ、及びモータステータの製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0039】
例えば、上記実施形態では、対象となる直線部6に凸状部9と凹状部10とを設けた場合を例示したが、もちろん、本発明に係る直線部6は上記以外の構成をとることも可能である。
図8はその一例(本発明の第二実施形態)に係るモータステータ11の要部断面図を示している。本実施形態における直線部16(16a~16f)は、凸状部19(19a~19f)のみを有する点で、凸状部9及び凹状部10を有する第一実施形態と異なっている。この場合、凸状部19は、各直線部16の長手方向に所定間隔で設けられている。そして、
図8に示すように、複数の直線部16がスロット3内に収容され、かつ所定の長手方向位置に配設された状態では、第二直線部16b~第六直線部16fの凸状部19b~19fがそれぞれ径方向内側で隣り合う第一直線部16a~第五直線部16eの直線部本体16a1~16f1と当接している。この場合、第一直線部16aの凸状部19aがスロット3の内面3aと径方向で当接し、第六直線部16fの直線部本体16f1がスロット3の内面3aと径方向で当接している。
【0040】
このように、凸状部19のみを設けた直線部16であっても、凸状部19同士を重ね合わせた状態でスロット3に挿入することで、スロット3への挿入を容易に行うことができ、かつ、挿入後に一方の直線部16(16b,16d,16f)を他方の直線部16(16a,16c,16e)に対して長手方向に移動させることで、これら複数の直線部16の総径方向寸法を容易に広げて、十分な固定力をスロット3の内面3aとの間に付与することができる。また、凸状部19のみを設けるのであれば、第一実施形態に係る直線部6と比べて加工を簡素化できるので、上記構成の直線部16を有するコイルセグメントを低コストに準備することが可能となる。また、一方向のみに突出した形状にすることで、直線部16の表裏が認識し易くなるため、コイルセグメントの取り扱い性が向上する利点がある。
【0041】
また、以上の説明では、凸状部9(19)として、滑らかな凸曲面形状をなすものを例示したが、もちろん、本発明に係る凸状部は、上記以外の形態をとることも可能である。
図9は、その一例(本発明の第三実施形態)に係る直線部26の要部断面図を示している。
図9に示すように、この直線部26は、直線部本体26aと、凸状部29とを一体に有する。ここで、本実施形態に係る凸状部29は台形形状をなし、テーパ部29aを介して直線部本体26aとつながっている。このように、凸状部29にテーパ部29aを設ける場合、テーパ部29aの角度でもって各直線部26間、又は直線部26とステータコア2との間の固定力を比較的容易に調整できる利点がある。
【0042】
あるいは、
図10に示すように、凸状部39として、台形形状の上底部分を省略した形状(いわば三角形状)としてもよい(本発明の第四実施形態に係る直線部36)。要は、径方向に重ね合わせた状態から、互いに隣り合う一方の直線部6を他方の直線部6に対して長手方向に移動させて、一方の直線部6の凸状部9を他方の直線部6の凸状部9以外の部分と当接可能な限りにおいて、凸状部9は任意の形態をとり得る。凹状部10についても同様の理由で任意の形態をとり得ることはもちろんである。
【0043】
以上の説明に係る直線部6(16,26,36)によれば、スロット3内に挿入された複数の直線部6同士を径方向に拘束できるので、スロット3内における径方向の位置決めが可能となる。一方で、例えば
図11に示すように、長手方向に直交する断面が矩形状をなす場合、直線部6(6a)の第一端面6tと直交する第二端面(
図11では長辺側端面)6s1,6s2をともに径方向の同じ向きに突出させた形状とすることで、直線部6(6a,6b)同士を重ね合わせた際の周方向位置を合わせることができる(本発明の第五実施形態に係る直線部6)。
【0044】
また、以上の説明では、スロット3に挿入した複数の直線部6全てに凸状部9を設けて、これら直線部6をスロット3に挿入した後、一つずつ交互に一方の直線部6(6b,6d,6f)を他方の直線部6(6a,6c,6e)に対して長手方向に移動させて、一方の直線部6(6b,6d,6f)の凸状部9(9b,9d,9f)を他方の直線部6(6a,6c,6e)の凸状部9以外の部分に当接させる場合を例示したが(
図5~
図7を参照)、もちろんこれ以外の形態をとることも可能である。
【0045】
図12は、本発明の第六実施形態に係るモータステータの製造方法のうち挿入工程S2を終えた直後の状態を示している。このように、複数(ここでは6本)の直線部6a~6fは、スロット3に挿入された直後の段階では、互いに凸状部9a~9f同士が重なり合った状態にあるが、第一実施形態とは各直線部6a~6fの長手方向位置が異なっている。すなわち、第一実施形態では、各直線部6a~6fとつながる連結部7の長手方向位置が一つおきに異なっていたのに対し(
図6を参照)、本実施形態では、第一直線部6aと第四直線部6d、及び第五直線部6eの連結部7が同じ長手方向位置にあり、第二直線部6bと第三直線部6c、及び第六直線部6fの連結部7が同じ長手方向位置にある。すなわち、本実施形態では、各直線部6a~6fとつながる連結部7の長手方向位置が二つおきに異なっている。
【0046】
このような状態から、相対的にスロット3からより大きく突出している第二直線部6b、第三直線部6c、及び第六直線部6fをスロット3中央側に向けて押し込む。これにより、第二直線部6bの凸状部9bが第一直線部6aの凹状部10aと当接し、第四直線部6dの凸状部9dが第三直線部6cの凹状部10cと当接し、第六直線部6fの凸状部9fが第五直線部6eの凹状部10eと当接した状態となる(
図13を参照)。この場合、第二直線部6bに対する第三直線部6cの長手方向位置は変わらないので、第二直線部6bの凸状部9bと第三直線部6cの凸状部9cとが互いに重なり合った状態が維持される(
図12及び
図13を参照)。同様に、第四直線部6dに対する第五直線部6eの長手方向位置は変わらないので、第四直線部6dの凸状部9dと第五直線部6eの凸状部9eとが互いに重なり合った状態が維持される(
図12及び
図13を参照)。
【0047】
このように、本発明に係るモータステータ及びその製造方法によれば、たとえ構造上又は製造工程上、径方向に隣り合う一組の直線部6b,6c(6d,6e)の長手方向の相対位置を変更できない場合であっても、その他の直線部6fを相対的に長手方向に移動させることによって、又は、一組の直線部6b,6cごと長手方向に相対移動させることによって、スムーズにスロット3内に複数の直線部6a~6fを挿入でき、かつ複数の直線部6a~6fをスロット3に対して径方向に強固に位置決め固定することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 モータステータ
2 ステータコア
3 スロット
3a 内面
4 ステータコイル
5 コイルセグメント
6,6a,6b,6c,6d,6e,6f 直線部
6t 第一端面
6s1,6s2 第二端面
7 連結部
8 導体
9,9a,9b,9c,9d,9e,9f 凸状部
10,10a,10b,10c,10d,10e,10f 凹状部
11 モータステータ
16,16a,16b,16c,16d,16e,16f 直線部
16a1,16b1,16c1,16d1,16e1,16f1 直線部本体
19,19a,19b,19c,19d,19e,19f 凸状部
20 クランプ用治具
21 位置決め用治具
26 直線部
26a 直線部本体
29 凸状部
29a テーパ部
36 直線部
39 凸状部