(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115890
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240820BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240820BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240820BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04B1/58 D
F16F15/02 Z
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021780
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】氏家 大介
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】安田 聡
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB01
2E125AC15
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA06
2E139BD14
3J048AA06
3J048AC06
3J048BE10
3J048DA02
3J048EA38
3J066BA04
3J066BB01
3J066BC01
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】芯材と座屈補剛材の間に設けられたアンボンド部の損傷とこれに伴う芯材の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することができる、座屈拘束ブレースを提供する。
【解決手段】座屈拘束ブレース1は、鋼製の芯材2と、芯材2を外側から覆うように設けられ、筒状を成す外側鋼材4と、外側鋼材4の内側に設けられたセメント系充填部5と、を備えている座屈補剛材3と、芯材2とセメント系充填部5との間に設けられたアンボンド部7と、を備え、アンボンド部7は、芯材2の表面2sに設けられ、芯材2の変形を吸収する変形吸収層8と、変形吸収層8とセメント系充填部5との間に設けられ、セメント系充填部5との間で滑動自在となるように設けられた滑動層9と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座屈拘束ブレースであって、
鋼製の芯材と、
前記芯材を外側から覆うように設けられ、筒状を成す外側鋼材と、前記外側鋼材の内側に設けられたセメント系充填部と、を備えている座屈補剛材と、
前記芯材と前記セメント系充填部との間に設けられたアンボンド部と、
を備え、
前記アンボンド部は、前記芯材の表面に設けられ、当該芯材の変形を吸収する変形吸収層と、前記変形吸収層と前記セメント系充填部との間に設けられ、前記セメント系充填部との間で滑動自在となるように設けられた滑動層と、を備えている
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記滑動層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理された剥離紙で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記変形吸収層はゴム系粘着剤で形成され、前記芯材の前記表面に貼付されていることを特徴とする請求項1または2に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製の芯材により軸力を負担しつつ、芯材を外側から覆うように設けられた座屈補剛材により芯材を拘束して芯材の座屈を抑制する、座屈拘束ブレースが用いられている。座屈拘束ブレースは、地震が生じて芯材に圧縮力が作用した場合に、芯材の座屈を抑制することで、芯材に引張力が作用した場合と同様に芯材の靭性を安定して発揮させて、地震力を効率的に吸収する。
このような座屈拘束ブレースにおいて、芯材に作用する軸力が座屈補剛材に伝達すると、座屈拘束ブレース全体としての剛性が設計時に意図した値以上に高まってしまう。すると、座屈拘束ブレースの周辺の柱梁架構に座屈拘束ブレースが本来吸収すべき応力が集中し、柱梁架構が損壊してしまうことがある。したがって、例えば座屈補剛材を、筒状を成す外側鋼材と、外側鋼材の内側に設けられたセメント系充填部とを含むように実現するような場合においては、芯材に作用する軸力がセメント系充填部に伝達されないように、セメント系充填部と芯材との間にアンボンド部を設けるのが一般である。
【0003】
これに関し、例えば、特許文献1には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有し、一対の拘束材は、それぞれ芯材側が開口した溝形鋼材と、溝形鋼材内に充填したモルタルまたはコンクリートと、モルタルまたはコンクリートの表面を覆いかつモルタルまたはコンクリートにその硬化によって接着された板状の蓋部材と、を有する座屈拘束ブレースが開示されている。芯材の蓋部材と対向する表面、または蓋部材の芯材と対向する表面には、例えば板状ないしシート状のブチルゴム等からなるアンボンド材が貼り付けられている。
特許文献1に記載された構成においては、地震時に芯材に圧縮力が作用し、ポアソン効果により芯材が幅方向に膨張して断面積が増加すると、芯材と拘束材の間に設けられたアンボンド材は膨張した芯材により圧縮されて、剛性が高くなる。すると、芯材と拘束材との間に生じる摩擦力が高くなり、芯材に作用する軸力が拘束材に伝達されてしまい、結果として、座屈拘束ブレースの性能が安定して発揮されない可能性がある。
また、特許文献1に記載された構成においては、地震時における芯材の伸長、収縮により、アンボンド材には、芯材と拘束材との間でせん断力が作用する。このせん断力により、アンボンド材が剥離、破断して、損傷することが考えられる。アンボンド材が損傷すると、損傷した部分に隙間が生じ、この部分において芯材が拘束材によって十分に拘束されないため、次に地震が生じた際に、芯材に局部座屈が生じる可能性がある。
【0004】
これに対し、特許文献2には、鋼部材で補強された座屈拘束用コンクリート部材に鋼製中心軸力部材が挿通され、鋼製中心軸力部材と座屈拘束用コンクリートとの界面に付着防止皮膜が設けられた軸降伏型弾塑性履歴ブレースが開示されている。付着防止皮膜の膜厚方向の割線剛性は、付着防止皮膜の圧縮歪0%と圧縮歪50%との2点間においては0.1N/mm2以上であり、圧縮歪50%と圧縮歪75%との2点間においては21000N/mm2以下であり、且つ鋼製中心軸力部材の板厚及び板幅のそれぞれの方向における付着防止皮膜の膜厚は、鋼製中心軸力部材の板厚及び板幅のそれぞれの0.5%以上10%以下とすることが記載されている。
特許文献2には、上記のように付着防止皮膜の膜厚方向の割線剛性を規定することによって、コンクリート打設時において付着防止皮膜に要求される膜厚を確保し、鋼製中心軸力部材が降伏して塑性変形するときに面外方向の膨張を吸収し鋼製中心軸力部材の局部座屈を防止することが、記載されている。しかし、特許文献2の構成においても、付着防止皮膜にせん断力が作用することを前提とした構造であるため、地震力を繰り返し受けると、付着防止皮膜が損傷し、鋼製中心軸力部材に局部座屈が生じる可能性がある。
【0005】
また、特許文献3には、ブレース芯材と、ブレース芯材を囲繞する補剛筒体と、ブレース芯材の外周面に配置された、プラスチックダンボールからなる離間材と、補剛筒体と離間材との間に充填された充填材が固化した充填材固化体とを備える座屈拘束ブレースが開示されている。
特許文献3の構成において、ブレース芯材が圧縮力を受けて断面積が増加すると、ブレース芯材と充填材固化体との間に位置する離間材には非常に大きな圧力が作用する。これにより、プラスチックダンボールからなる離間材は、プラスチック製リブ板が塑性変形して、平行に配置されていた2枚のプラスチック製平板間の距離が小さくなることにより座屈し、その剛性は極端に低下する。このため、その後ブレース芯材の断面積が多少増加しても、離間材はその増加をほとんど阻害せず、離間材は塑性材料であるプラスチックから形成されているので、一旦座屈すると、圧力が除去されても変形したままであると、特許文献3には記載されている。
特許文献3に記載されているように、プラスチックダンボールは、いったん座屈してしまうと変形したままであり元の状態には復元しない。したがって、一度地震が生じてプラスチックダンボールが座屈すると、座屈した部分に隙間が生じ、この部分においてブレース芯材が外方から十分に拘束されない状態となるため、次に地震が生じた際に、ブレース芯材に局部座屈が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-249833号公報
【特許文献2】特開2001-227192号公報
【特許文献3】特開2016-118090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、芯材と座屈補剛材の間に設けられたアンボンド部の損傷とこれに伴う芯材の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することができる、座屈拘束ブレースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、座屈拘束ブレースとして、芯材と座屈補剛材との間に設けるアンボンド部を、芯材の変形を吸収する変形吸収層と、変形吸収層と座屈補剛材の内側に充填されるセメント系充填部との間に設け、前記セメント系充填部との間で滑動自在となるように設ける滑動層とで形成した。よって、座屈拘束ブレースでは、芯材と座屈補剛材との間の摩擦力を変形吸収層で低減し、かつ芯材に圧縮力、または引張力が作用した際には芯材のポアソン効果による膨張を、芯材とセメント系充填部との間にて分離されている滑動層で吸収することで摩擦力の増大を防止することのできる点に着眼し、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、座屈拘束ブレースであって、鋼製の芯材と、前記芯材を外側から覆うように設けられ、筒状を成す外側鋼材と、前記外側鋼材の内側に設けられたセメント系充填部と、を備えている座屈補剛材と、前記芯材と前記セメント系充填部との間に設けられたアンボンド部と、を備え、前記アンボンド部は、前記芯材の表面に設けられ、当該芯材の変形を吸収する変形吸収層と、前記変形吸収層と前記セメント系充填部との間に設けられ、前記セメント系充填部との間で滑動自在となるように設けられた滑動層と、を備えていることを特徴とする座屈拘束ブレースを提供する。
上記のような構成によれば、芯材と、座屈補剛材のセメント系充填部と、の間に設けられたアンボンド部は、芯材の表面に設けられ、当該芯材の変形を吸収する変形吸収層を備えている。このため、地震時に芯材に圧縮力が作用し、ポアソン効果により芯材が面外方向に膨張して断面積が増加しても、芯材の変形に追随して芯材の表面に設けた変形吸収層が変形することにより芯材の面外方向への膨張が吸収される。また、芯材に圧縮力、または引張力が作用した際には芯材が伸縮することにより、芯材の表面はセメント系充填部に対して軸線方向に相対移動しようとする。ここで、アンボンド部は、変形吸収層とセメント系充填部との間に、セメント系充填部との間で滑動自在となるように設けられた滑動層を備えているため、滑動層とセメント系充填部とが互いに、滑らかに滑動する。このように、変形吸収層にはセメント系充填部からの摩擦力が作用しにくくなっているため、変形吸収層が圧縮されて剛性が高くなったとしても、変形吸収層には、芯材とセメント系充填部との間で大きなせん断力が作用しにくい。このため、変形吸収層の損傷と、次の地震における芯材の局部座屈を抑制することができる。
また、アンボンド部が上記のような滑動層を備えており、アンボンド部の滑動層側においては、アンボンド部にはセメント系充填部からの摩擦力が作用しにくくなっている。したがって、芯材に作用する軸力が座屈補剛材に伝達されてしまい、座屈拘束ブレース全体としての剛性が想定以上に高まることが、抑制される。これにより、地震時に、座屈拘束ブレースの性能が安定して発揮される。
このようにして、芯材と座屈補剛材の間に設けられたアンボンド部の損傷とこれに伴う芯材の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様においては、前記滑動層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理された剥離紙で形成されている。
上記のような構成によれば、滑動層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理された剥離紙で形成されているため、滑動層とセメント系充填部との間の摩擦が低減され、これらの間の滑動が適切に行われる。これにより、芯材と座屈補剛材の間に設けられたアンボンド部の損傷とこれに伴う芯材の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することが可能となる。
【0010】
本発明の別の態様においては、前記変形吸収層はゴム系粘着剤で形成され、前記芯材の前記表面に貼付されている。
上記のような構成によれば、変形吸収層はゴム系粘着剤で形成されているため、地震時に芯材に圧縮力が作用し、ポアソン効果により芯材が幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して断面積が増加した際には、変形吸収層が変形することで断面積の増加を十分に吸収することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芯材と座屈補剛材の間に設けられたアンボンド部の損傷とこれに伴う芯材の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することができる、座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における座屈拘束ブレースの、軸線方向を含む平面による軸方向断面図である。
【
図2】上記座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
【
図4】上記実施形態の変形例に関する座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
【
図5】上記実施形態の変形例に関する座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
【
図6】上記実施形態の変形例に関する座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
【
図7】滑動層の効果を検証するための解析における解析モデルを示す斜視図である。
【
図9】上記解析において芯材に設定した、軸応力-軸ひずみ関係を示す図である。
【
図10】上記解析の結果を示すせん断ひずみ分布図である。
【
図11】上記解析の結果を基にした検討について説明するための模式図である。
【
図12】本実施形態の座屈拘束ブレースに対する実験に用いた加力装置の説明図である。
【
図13】上記実験に用いた試験体1に対する実験結果としての、荷重-変形関係を示すグラフである。
【
図14】上記実験に用いた試験体2に対する実験結果としての、荷重-変形関係を示すグラフである。
【
図15】上記実験の各サイクルのピークにおける引張り側軸力に対する圧縮側軸力の比の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、鋼製の芯材と、前記芯材を外側から覆う筒状の外側鋼材と、前記外側鋼材の内側に設けられたセメント系充填部とを備えた座屈補剛材とで形成される座屈拘束ブレースである。座屈拘束ブレースは、芯材と座屈補剛材の間の摩擦力を低減するために芯材の表面に変形吸収層を設けるとともに、芯材のポアソン効果による膨張を吸収させるために変形吸収層とセメント系充填部との間に滑動層を設けることで、芯材と座屈補剛材との間での摩擦力の増大を防止するアンボンド部を備えている。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態における座屈拘束ブレースの、軸線方向を含む平面による軸方向断面図である。
図2は、座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
図2は、
図1のI-I部分の横断面図であり、
図1は、
図2のII-II部分の軸方向断面図である。
座屈拘束ブレース1は、構造物において、水平方向で隣り合う柱同士と、互いに上下に位置する梁同士と、の間で、斜めに延びるように設けられる。座屈拘束ブレース1は、例えば、水平方向で隣り合う柱と、互いに上下に位置する梁とにより形成される矩形状の架構内に、この矩形状の対角線の部分に位置して、柱と梁の接合部同士を結ぶように設けられる。
座屈拘束ブレース1は、鋼製の芯材2と、座屈補剛材3を備えている。
【0014】
本実施形態においては、芯材2は、H形鋼である。すなわち、芯材2は、互いに平行に設けられた2つのフランジ2fと、フランジ2fを互いに接続するように、フランジ2fに対して垂直に設けられたウェブ2wと、を備えている。これにより、芯材2の断面形状はH形状を成している。芯材2は、軸線方向Cにおける一方の端部2aと他方の端部2bの各々が、水平方向で隣り合う柱と、互いに上下に位置する梁とにより形成される矩形状の架構内の異なる部分に、座屈拘束ブレース1が架構を横切るように設けられて、ブラケットなどにより接合されている。
地震が生じて芯材2に引張力が作用した場合には、芯材2の靭性により芯材2が伸長することで、地震エネルギーを吸収する。
【0015】
座屈補剛材3は、座屈拘束ブレース1の軸線方向Cに直交する方向において外側から、芯材2を覆うように設けられている。座屈補剛材3は、外側鋼材4とセメント系充填部5を備えている。
外側鋼材4は、筒状を成すように形成されている。本実施形態においては、外側鋼材4は、
図2に示されるように、軸線方向Cに直交する平面で断面視したときに、矩形形状となるように形成されている。外側鋼材4は、角部が僅かに湾曲するように形成されている。しかしながら、外側鋼材4は、溶接で組み立てられる矩形形状の断面に限定することなく、角部を湾曲させない筒形状であってもよい。
また、本実施形態においては、外側鋼材4は、鋼管である。あるいは、外側鋼材4は、軸線方向Cに直交する平面で断面視したときに、長辺と、当該長辺の両端から同一方向に突出するように形成された短辺を備えることでC形状となるように形成された、溝形の鋼材を2つ、短辺の先端が互いに対向して接するように設けて接合することで、筒状となるように形成されていても構わない。または、外側鋼材4は、4枚の鋼板を角形状に組立てて溶接してもよい。
外側鋼材4は、軸線方向Cにおいて、芯材2より短い長さとなるように形成されている。芯材2の端部2a、2bは、外側鋼材4の端部から軸線方向Cに突出している。
【0016】
セメント系充填部5は、外側鋼材4の内側に、コンクリートやモルタルなどのセメント系の材料が充填されることによって形成されている。後に説明するように、芯材2の表面2sには、アンボンド部7が設けられる。セメント系充填部5は、外側鋼材4の内側の表面と、アンボンド部7の表面との間を充填するように設けられている。
地震が生じて芯材2に圧縮力が作用した場合には、芯材2(のアンボンド部7)に接してこれを外側から囲うように設けられているセメント系充填部5、及びこのセメント系充填部5を更に外側から囲って設けられている外側鋼材4によって、芯材2の座屈が抑制される。これにより、引張力が作用した場合と同様に、芯材2に圧縮力が作用した場合においても、芯材2の靭性が安定して発揮され、芯材2が収縮することで、地震エネルギーを吸収する。
【0017】
座屈補剛材3は、
図1に示されるように、芯材2に対して、例えば軸線方向Cの1か所に設けられた接合部5cにより接合されている。本実施形態においては、座屈補剛材3は、軸線方向Cにおける中央において、芯材2に固定されている。これに替えて、座屈補剛材3は、軸線方向Cにおける端部の位置で、芯材2に固定されるように設けられてもよい。
本実施形態においては、セメント系充填部5の芯材2に対向する表面である内側表面5f(
図3参照)が、芯材2に向けて部分的に突出して芯材2に接触し、セメント系材料が芯材2に付着することにより、接合部5cが形成されている。
地震が生じて芯材2に引張力や圧縮力が作用し、芯材2が伸長、収縮する際に、芯材2は、座屈補剛材3(のセメント系充填部5)に対し、表面が相対移動しようとするが、座屈補剛材3は芯材2に対して1か所の接合部5cのみにおいて接合されているため、座屈補剛材3によっては、この相対移動は阻害されない。
【0018】
座屈拘束ブレース1は、アンボンド部7を備えている。アンボンド部7は、芯材2とセメント系充填部5の間に設けられている。アンボンド部7は、変形吸収層8と滑動層9を備えている。
変形吸収層8は、芯材2の表面2sに接合して設けられている。変形吸収層8は、粘弾性材料で形成され、芯材2の表面2sに貼り付けられている。本実施形態においては、変形吸収層8は、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等の、ゴム系粘着剤により形成されている。
地震が生じて芯材2に圧縮力が作用し、芯材2が収縮すると、芯材2はポアソン効果により、軸線方向Cに直交する幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して、断面積が増加する。これにより、変形吸収層8は、芯材2の表面2sとセメント系充填部5の間に挟まれて圧縮されるが、変形吸収層8は、上記のように粘弾性材料で形成されているために容易に変形して、芯材2の変形を吸収する。
【0019】
滑動層9は、変形吸収層8とセメント系充填部5との間に設けられている。滑動層9は、変形吸収層8とは別の部材として構成されている。滑動層9の、芯材2側に位置する内側表面9f(
図3参照)は、変形吸収層8の表面に貼り付けられて、接合されている。滑動層9の、内側表面9fとは反対側を向く外側表面9gは、セメント系充填部5の内側表面5fに接触している。
滑動層9は、低摩擦材料、すなわち他の物体が接触し摺動したときの摩擦抵抗が低い材料により形成されている。本実施形態においては、滑動層9は、粘弾性材料により形成された変形吸収層8を外方から覆って保護するように設けられた、剥離紙で形成されている。滑動層9の、少なくとも外側表面9gは、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理されている。滑動層9を形成する剥離紙は、剥離フィルムを含む。滑動層9は、例えば住化加工紙株式会社のスミリーズ(登録商標)、株式会社サンエー化研のエス・ケー・セパレーター(登録商標)、東洋紡株式会社のピューレックス(登録商標)、東レフィルム加工株式会社のセラピール(登録商標)、ニッパ株式会社の離型フィルム等が使用可能であるが、これに限られない。
【0020】
仮に、滑動層9が設けられていない場合には、変形吸収層8は芯材2に貼り付けられていると同時に、セメント系充填部5にも密着している状態となる。このような状態において、地震が生じて芯材2に圧縮力が作用し、芯材2が収縮すると、芯材2の表面2sはセメント系充填部5に対して軸線方向Cに相対移動する。と同時に、芯材2が収縮して幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張することで、変形吸収層8が圧縮され、変形吸収層8の剛性が高まる。これにより、芯材2とセメント系充填部5の双方に密接して設けられた変形吸収層8には、芯材2とセメント系充填部5の間で、軸線方向Cへのせん断力が作用する。その結果、変形吸収層8が芯材2から剥離したり、変形吸収層8が破断したりして、損傷することがある。変形吸収層8が損傷すると、損傷した部分に隙間が生じ、この部分において芯材2が座屈補剛材3によって十分に拘束されない状態となるため、次に地震が生じて芯材2に圧縮力が作用した際に、芯材2に局部座屈が生じる可能性がある。
これに対し、本実施形態においては、地震が生じて芯材2に圧縮力が作用し、芯材2が収縮して変形吸収層8が圧縮されて、変形吸収層8の剛性が高まると同時に、芯材2の表面2sがセメント系充填部5に対して軸線方向Cに相対移動しようとしても、変形吸収層8の表面に設けられた滑動層9の外側表面9gがセメント系充填部5の内側表面5fに対して滑らかに摺動し、変形吸収層8にはセメント系充填部5からの摩擦力が作用しにくくなっている。このため、変形吸収層8には芯材2とセメント系充填部5の間でせん断力が作用しにくく、したがって、変形吸収層8の損傷が抑制される。
このように、アンボンド部7がセメント系充填部5との間で滑動自在となるように、滑動層9が設けられている。
【0021】
アンボンド部7を形成するに際しては、芯材2の表面2sに変形吸収層8を形成し、その後、変形吸収層8の外側に、滑動層9を形成するようにすればよい。
あるいは、アンボンド部7は、マクセル株式会社のスーパーブチルテープ(登録商標)等の、帯状に形成された粘弾性体の一方の表面に剥離紙が貼り付けられ、これが巻き付けられることにより形成された両面テープを用いて形成するようにしてもよい。このような両面テープは、剥離紙と粘弾性体が接着されて製造されているため、両面テープを芯材2の表面2sに貼り付けることで、変形吸収層8と滑動層9を容易に形成することができる。特に両面テープは、巻き付けられた状態においては、粘弾性体の、剥離紙が貼り付けられていない側の表面が、巻き付けられた状態において内側に位置する剥離紙の外側の表面に粘着しており、両面テープの使用時にこの内側に位置する剥離紙の外側の表面から粘弾性体を剥がしやすくするために、剥離紙の外側の表面は平滑となるように形成されている。両面テープを芯材2に貼り付けた場合には、この剥離紙の外側の表面が滑動層9の外側表面9gとして、セメント系充填部5の内側表面5fと接触するように位置づけられるため、セメント系充填部5との間に生じる摩擦力を、効率的に低減することができる。
更には、アンボンド部7は、両面テープに限らず、変形吸収層8と滑動層9の双方の機能を有するものであれば、例えば変形吸収層8と滑動層9が互いに分離不可能となるように形成された片面テープを用いて形成してもよい。
アンボンド部7の厚さは、芯材2の大きさと、芯材2が負担する圧縮力の大きさ、及びポアソン比等に応じて決定すればよいが、通常であれば、0.5mm以上、2mm以下の値に設定するのが望ましい。
【0022】
上記のような座屈拘束ブレース1は、次のような手順で製造され得る。
まず、芯材2の、接合部5cが形成される部分以外の表面2sに、粘弾性体と剥離紙が接着されて製造された両面テープを貼り付ける。これにより、芯材2の表面2sに、変形吸収層8と滑動層9が設けられて、アンボンド部7が形成される。
次に、芯材2の外側を囲うように、外側鋼材4を設ける。鋼管として製造された外側鋼材4の一方の端部には、
図1に二点鎖線で示されるように、プレート6が、鋼管の内部空間を塞ぐように取り付けられている。このプレート6には、芯材2の断面形状に一致する形状の孔6hが設けられている。この孔6hに芯材2を通すことで、プレート6によって、芯材2に対して外側鋼材4が、一時的に固定される。
そして、プレート6とは反対側の端部側から、外側鋼材4とアンボンド部7の間の空間にセメント系材料を打設し、硬化させることで、セメント系充填部5を形成する。ここで、芯材2の、接合部5cが形成される部分には、アンボンド部7が設けられていないため、この部分においては、打設されたセメント系材料が芯材2の表面2sに接触する。これにより、セメント系材料が硬化した際には芯材2の表面2sに定着して、接合部5cが形成される。
最後に、プレート6を撤去することで、座屈拘束ブレース1が完成する。
【0023】
次に、上記のような座屈拘束ブレース1の作用を説明する。
地震が生じて建物の架構が変形すると、架構を横切るように設けられた座屈拘束ブレース1に対し、引張力や圧縮力が作用する。
座屈拘束ブレース1に対して引張力が作用した場合においては、芯材2に対して、引張力が作用する。この場合においては、芯材2の靭性により芯材2が伸長することで、地震エネルギーを吸収する。
ここで、芯材2はポアソン効果により、軸線方向Cに直交する幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に収縮して、断面積が減少する。これにより、芯材2の表面2sに貼り付けて設けられたアンボンド部7は、芯材2の、断面視したときの中心方向へと僅かに移動しようとする。これにより、仮に、滑動層9の外側表面9gがセメント系充填部5の内側表面5fから離間することがあっても、芯材2は、伸長後に原状態へと復元する際に、これに伴って断面積も原状態へと復元するため、これに伴って、滑動層9の外側表面9gがセメント系充填部5の内側表面5fに接触した状態へと復元する。
【0024】
地震が生じて芯材2に圧縮力が作用した場合には、芯材2を外側から囲うように設けられているセメント系充填部5、及びこのセメント系充填部5を更に外側から囲って設けられている外側鋼材4によって、芯材2の座屈が抑制される。これにより、芯材2が収縮することで、地震エネルギーを吸収する。
芯材2が収縮すると、芯材2はポアソン効果により、軸線方向Cに直交する幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して、断面積が増加する。これにより、変形吸収層8は、芯材2の表面2sとセメント系充填部5の間に挟まれて圧縮されるが、変形吸収層8は上記のように粘弾性材料で形成されているために容易に変形し、芯材2の変形が吸収される。
芯材2が圧縮することにより、芯材2の表面2sはセメント系充填部5に対して軸線方向Cに相対移動しようとする。この相対移動に伴い、芯材2の表面2sに設けられたアンボンド部7の、滑動層9の外側表面9gが、セメント系充填部5の内側表面5fに対して滑らかに摺動する。このように、変形吸収層8にはセメント系充填部5からの摩擦力が作用しにくくなっているため、変形吸収層8が圧縮されることでその剛性が高まっていたとしても、変形吸収層8には芯材2とセメント系充填部5の間でせん断力が作用しにくい。このため、変形吸収層8の損傷が抑制される。
【0025】
次に、上記の座屈拘束ブレース1の効果について説明する。
上記のような座屈拘束ブレース1は、鋼製の芯材2と、芯材2を外側から覆うように設けられ、筒状を成す外側鋼材4と、外側鋼材4の内側に設けられたセメント系充填部5と、を備えている座屈補剛材3と、芯材2とセメント系充填部5との間に設けられたアンボンド部7と、を備え、アンボンド部7は、芯材2の表面2sに設けられ、当該芯材2の変形を吸収する変形吸収層8と、変形吸収層8とセメント系充填部5との間に設けられ、セメント系充填部5との間で滑動自在となるように設けられた滑動層9と、を備えている。
上記のような構成によれば、芯材2と、座屈補剛材3のセメント系充填部5と、の間に設けられたアンボンド部7は、芯材2の表面2sに設けられ、当該芯材2の変形を吸収する変形吸収層8を備えている。このため、地震時に芯材2に圧縮力が作用し、ポアソン効果により芯材2が幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して断面積が増加しても、芯材2の変形に追随して芯材2の表面に設けた変形吸収層8が変形することにより芯材2の面外方向への膨張が吸収される。また、芯材2に圧縮力、または引張力が作用した際には芯材2が伸縮することにより、芯材2の表面2sはセメント系充填部5に対して軸線方向Cに相対移動しようとする。ここで、アンボンド部7は、変形吸収層8とセメント系充填部5との間に、セメント系充填部5との間で滑動自在となるように設けられた滑動層9を備えているため、滑動層9とセメント系充填部5とが互いに、滑らかに滑動する。このように、変形吸収層8にはセメント系充填部5からの摩擦力が作用しにくくなっているため、変形吸収層8が圧縮されて剛性が高くなったとしても、変形吸収層8には、芯材2とセメント系充填部5との間で大きなせん断力が作用しにくい。このため、変形吸収層8の損傷と、次の地震における芯材2の局部座屈を抑制することができる。
また、アンボンド部7が上記のような滑動層9を備えており、アンボンド部7の滑動層9側においては、アンボンド部7にはセメント系充填部5からの摩擦力が作用しにくくなっている。したがって、芯材2に作用する軸力が座屈補剛材3に伝達されてしまい、座屈拘束ブレース1全体としての剛性が想定以上に高まることが、抑制される。これにより、地震時に、座屈拘束ブレース1の性能が安定して発揮される。
このようにして、芯材2と座屈補剛材3の間に設けられたアンボンド部7の損傷とこれに伴う芯材2の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することが可能となる。
【0026】
また、滑動層9は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理された剥離紙で形成されている。
上記のような構成によれば、滑動層9は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤のうち、いずれかを用いて表面処理された剥離紙で形成されているため、滑動層9とセメント系充填部5との間の摩擦が低減され、これらの間の滑動が適切に行われる。これにより、芯材2と座屈補剛材3の間に設けられたアンボンド部7の損傷とこれに伴う芯材2の局部座屈を抑制しつつ、安定した性能を発揮することが可能となる。
【0027】
また、変形吸収層8はゴム系粘着剤で形成され、芯材2の表面2sに貼付されている。
上記のような構成によれば、変形吸収層8はゴム系粘着剤で形成されているため、地震時に芯材2に圧縮力が作用し、ポアソン効果により芯材2が幅方向(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して断面積が増加した際には、変形吸収層8が変形することで断面積の増加を十分に吸収することができる。
【0028】
(実施形態の変形例)
図4、
図5、
図6は、上記実施形態の変形例に関する座屈拘束ブレースの、軸線方向に直交する平面による横断面図である。
芯材と外側鋼材の断面形状は、上記実施形態において説明したものに限らず、他の形状であっても構わない。
例えば、上記実施形態においては、芯材はH形鋼であり、芯材の断面形状はH形状であったが、これに限られない。
図4に示される座屈拘束ブレース1Aのように、芯材2Aは、断面形状が、2枚の鋼板を中心で交差させた形状であっても構わない。あるいは、
図5に示される座屈拘束ブレース1Bのように、芯材2Bは一枚の板により形成され、芯材2Bの断面形状は、この板材を断面視した形状となる矩形状であっても構わない。
また、上記実施形態においては、外側鋼材は、断面が矩形形状となるように形成されていたが、これに限られない。
図6に示される座屈拘束ブレース1Cのように、座屈補剛材3Cの外側鋼材4Cは、円形形状の断面となるように形成されていても構わない。また、上記実施形態では、座屈拘束ブレース1は、後に実験において説明する
図12の加力装置に示すように柱梁架構内に斜材として片流れ形態のように配置することに限定するものではなく、柱梁架構内にV字形状に配置する形態であってもよい。
これ以外にも、上記各実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0029】
(滑動層の効果を検証するための解析例)
次に、アンボンド部7を変形吸収層8と滑動層9の2層により構成することで、アンボンド部7の損傷を抑制できることを、有限要素法解析により解析し、検証する。
解析対象として、
図5に示されるような構成の座屈拘束ブレース1Bを用いた。芯材2Bは、断面が幅100mm、厚さ22mm、長さが4mの平鋼(SM490A)を用いた。芯材2Bの周囲には、1mmの厚さでアンボンド部7を設けた。アンボンド部7の周囲には、セメント系充填部5を、長さが3.8mとなるように、モルタルで形成した。
図7は、滑動層の効果を検証するための解析における解析モデルを示す斜視図である。
図8は、解析モデルの断面図である。
解析モデルにおいては、要素は6面体1次要素とし、代表寸法は4mmかつ板厚方向に2つ以上に分割した。芯材2Bは、
図9に示されるような応力-ひずみ関係を特性として有するように設定した。芯材2Bのヤング率は205000N/mm
2、ポアソン比は0.3とした。セメント系充填部5(モルタル)のヤング率は20000N/mm
2、ポアソン比は0.2とした。変形吸収層8のヤング率は0.1N/mm
2、ポアソン比は0.49とした。芯材2Bとアンボンド部7は節点を共有させ、アンボンド部7は芯材2Bの軸線方向の変形に追従できるようにした。滑動層9はアンボンド部7とセメント系充填部5の接触により定義し、摩擦係数を0.25とした。
このような解析モデルに対し、芯材2Bは座屈補剛材3の両端で均等に変形するとして、芯材2Bの先端に強制変位を与え、軸ひずみが2%、すなわち40mmとなるまで変形させた。
【0030】
図10は、上記解析の結果を示すせん断ひずみ分布図である。
アンボンド部7は芯材2Bの圧縮に伴い、圧縮変形を生じるとともに、セメント系充填部5との摩擦によりせん断変形していることが確認できる。最大せん断ひずみは0.5、すなわち50%であり、ゴム系材料の弾性範囲内に収まっている。
図11は、上記解析の結果を基にした検討について説明するための模式図である。
これに対し、セメント系充填部と変形吸収層が完全に接着されている場合において、上記と同様に芯材を変形させると、芯材と座屈補剛材の変形差が最も大きい端部近傍に関しては、芯材と座屈補剛材のずれが40mmとなり、厚さ1mmのアンボンド部のせん断ひずみは40/1×100=4000%となる。これは、ゴム系材料の弾性範囲を大きく超える、非常に大きな値であるため、アンボンド部に破断、剥離といった損傷が生じる可能性がある。
【0031】
上記のように、アンボンド部7に低摩擦係数を有する剥離紙等の滑動層9を設けることにより、変形吸収層8をセメント系充填部5に完全に接着させた状態に比べて、変形吸収層8のせん断変形を大きく低減することができることが確認された。
上記の解析では摩擦係数が0.25である場合を示したが、一般的なゴムの摩擦係数1.0等の値を用いると、その分だけせん断変形も大きくなると考えられる。したがって、低摩擦材料により形成された滑動層9を設けることは、変形吸収層8のせん断変形の低減に効果的であると考えられる。
【0032】
(本実施形態の座屈拘束ブレースに対する実験)
次に、上記実施形態の座屈拘束ブレース1に関する実験及びその結果について説明する。
芯材2としてSN490Bにより形成されたロールH形鋼を、外側鋼材4として角形鋼管STKR400を、セメント系充填部5としてモルタルを、それぞれ用いて、2つの試験体を製造した。
試験体1は、芯材2の断面をH-100×100×6×8とし、外側鋼材4の断面を□-150×150×6とした。
試験体2は、芯材2の断面をH-200×200×8×12とし、外側鋼材4の断面を□-250×250×6とした。
試験体1、試験体2のそれぞれに対し、芯材2にはアンボンド部7として両面ブチルゴムテープを貼付し、滑動層9を形成するために両面テープの剥離紙は剥がさずに残したままとした。
図12は、上記実験に用いた加力装置の説明図である。
図12に示されるように、座屈拘束ブレース1を斜めに傾斜して取り付け、柱頭部を押し引きする正負交番漸増繰返し載荷とした。加力は層間変形角で1/400、1/200、1/100、1/67、1/50、1/33を各2サイクル載荷し、その後1/25まで圧縮側に単調載荷した。
【0033】
図13は、上記実験に用いた試験体1に対する実験結果としての、荷重-変形関係を示すグラフである。
図14は、上記実験に用いた試験体2に対する実験結果としての、荷重-変形関係を示すグラフである。
図13、14において、縦軸は水平荷重を、横軸は水平変位を、それぞれ表す。
図15は、上記実験の各サイクルのピークにおける引張り側軸力に対する圧縮側軸力の比の推移を示す図である。
これらの図に示されるように、座屈拘束ブレース1に引張力を作用させた場合と、圧縮力を作用した場合とで、軸力の差はほとんどなく、アンボンド部7の効果が確認された。
【符号の説明】
【0034】
1、1A、1B、1C 座屈拘束ブレース 4、4C 外側鋼材
2、2A、2B 芯材 5 セメント系充填部
2f フランジ 7 アンボンド部
2w ウェブ 8 変形吸収層
2s 表面 9 滑動層
3、3C 座屈補剛材