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  • 特開-玄米の加工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115910
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】玄米の加工法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240820BHJP
   A23L 3/44 20060101ALI20240820BHJP
   A23L 7/104 20160101ALI20240820BHJP
【FI】
A23L7/10 C
A23L3/44
A23L7/10 E
A23L7/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021813
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】504173600
【氏名又は名称】有限会社 IPE
(71)【出願人】
【識別番号】520464566
【氏名又は名称】レース食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】竹満 初穂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充広
【テーマコード(参考)】
4B022
4B023
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LA03
4B022LB06
4B022LJ01
4B022LJ08
4B022LR06
4B023LC01
4B023LC05
4B023LC06
4B023LC07
4B023LE01
4B023LE12
4B023LE30
4B023LG03
4B023LK17
4B023LP03
4B023LP05
4B023LP10
4B023LP14
4B023LP15
4B023LP20
4B023LQ02
4B023LT06
4B023LT07
(57)【要約】
【課題】含有ヒ素が低減された炊飯された玄米及び風味のよい乾燥玄米を提供する。
【解決手段】アミラーゼ及び/又はセルラーゼを含む液に浸漬した玄米を、搬送しながら過熱水蒸気で炊飯した後、洗浄することなくなく凍結乾燥することで、そのまま食することができる乾燥された加工玄米を得る。過熱水蒸気による炊飯は搬送を行いながら、炊飯中に適宜温水を散布することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を含む液に玄米を浸漬する工程と、
浸漬後の玄米を、過熱水蒸気を用いて炊飯する工程を有する玄米の加工法。
【請求項2】
前記酵素はアミラーゼ及び/又はセルラーゼである請求項1に記載の加工法。
【請求項3】
前記炊飯する工程は、浸漬後の玄米を移送させながら炊飯する工程である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酵素を含む液に玄米を浸漬する工程と、
浸漬後の玄米を、過熱水蒸気を用いて炊飯する工程と、
炊飯された玄米を凍結乾燥する工程を有する玄米の加工法。
【請求項5】
炊飯された玄米を洗浄することなく凍結乾燥する請求項4に記載の玄米の加工法。
【請求項6】
前記炊飯する工程は、浸漬後の玄米を移送させながら炊飯する工程である請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記酵素はアミラーゼ及び/又はセルラーゼである請求項6に記載の加工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は玄米の加工法に関する。
【背景技術】
【0002】
玄米、特に玄米の糠の部分にはビタミンB群や食物繊維、ミネラルなど栄養素を多く含み、好ましくは糠を取らずに炊飯し、あるいは玄米の加工品として摂取することが望まれる。玄米は圧力釜や炊飯釜で炊くことが一般的であるが、釜で炊き上げた場合には白米の場合よりも長い炊飯時間を要したり、玄米特有の臭いが残るなどの欠点があった。
【0003】
そこで、これらの欠点を改善したり、さらに食感をよくするため、炊飯前にセルラーゼやアミラーゼなどの各種酵素を含む液に浸漬した後、炊飯することは公知である(例えば、特許文献1や特許文献2など)。
【0004】
ところが、収穫された米の糠には多量の無機体のヒ素が含まれており、無機体のヒ素による健康被害を防止する観点から、米からの摂食量をできるだけ低減させる必要がある。しかしながら、特許文献1や2に記載されたように炊飯器を用いた炊飯方法では、炊飯された玄米には炊飯前に含まれていたヒ素がそのまま残留するために、炊飯後の玄米に含まれるヒ素の含有量を低下させることが望まれていた。
【0005】
また、炊飯した玄米では糠が残っているために糠特有の臭みが残ってしまうなどの欠点のために、さらに食味、食感のよい玄米の摂食方法が望まれていた。
【0006】
一方、白米を過熱水蒸気で炊飯して、凍結乾燥米にすることも知られている。例えば、特許文献3には、水に浸漬した白米を過熱水蒸気によって炊飯し、その後得られた炊飯米を水で洗浄した後に凍結乾燥させて凍結乾燥米を得る方法が開示されている。この方法では凍結乾燥させる前に米を水洗することで、炊飯米の表面に付着したアミロースを洗い流し、米粒同士の結合を防ぐことで、凍結乾燥米を復元したときの食感を向上させている。
【0007】
しかしながら、白米はヒ素を多く含む糠が取り除かれており、ヒ素の含有量は低いのは当然であり、栄養的価値は玄米に比べてずいぶんと低下している。また、この方法では炊飯後の白米を水洗する工程が必要となり、凍結乾燥米を得るために工程数が増えるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-94368号公報
【特許文献2】特開2017-112881号公報
【特許文献3】特開2022-66738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ヒ素の含有量が少なく、食味・食感に優れた加工玄米を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る加工法は、酵素を含む液に玄米を浸漬する工程と、浸漬後の玄米を、過熱水蒸気を用いて炊飯する工程、好ましくはさらに炊飯された玄米を凍結乾燥する工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、含有ヒ素量が低下した炊飯玄米を手軽な方法で得ることができ、それを水洗することなく凍結乾燥に付すことで、食感及び味がよく、そのまま食することができる乾燥玄米が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は過熱水蒸気を用いた炊飯装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、酵素を含む液に玄米を浸漬する工程と、浸漬後の玄米を、過熱水蒸気を用いて炊飯する工程を有する。
【0014】
本発明で使用される米は玄米である。玄米は籾から籾殻を除いた状態の米である。本発明では、いわゆる七分づき米や五分づき米などと言われる糠の一部が取り除かれた状態の米であっても差し支えないが、好ましくは籾殻が除かれた状態のものが好ましい。糠の栄養分を活かせるからであり、凍結乾燥後の加工玄米の風味もよくなるからである。玄米は、うるち米やもち米のいずれの玄米でも差し支えない。
【0015】
用いられる酵素は、アミラーゼ又は/及びセルラーゼである。アミラーゼはアミロースを分解する酵素であって、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼのいずれでもよく、その由来は問われず、これらの1種又は2種以上が用いられ得る。セルラーゼはβ-1,4-グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素であって、エンド型のセルラーゼ、エキソ型のセルラーゼの何れでもよく、その由来は問われず、1種又は2種以上のセルラーゼが用いられ得る。酵素は、アミラーゼ単独でも、セルラーゼ単独でもよいが、好ましくはアミラーゼである。炊飯後の玄米、特に凍結乾燥後の加工玄米の食感や、凍結乾燥後の仕上がり具合の観点からは、アミラーゼのみならずセルラーゼも合わせて用いることが好ましい。
【0016】
酵素を含む液の媒体は水である。酵素を含む液には酵素以外に、例えば塩やアミノ酸などのいわゆる調味料が含まれていてもよい。また、酵素の濃度は当業者により適宜定められるが、概ね0.1w/v%~10w/v%である。
【0017】
酵素を含む液の温度や浸漬する時間は当業者により適宜定められる。液の温度は約1~40℃の酵素の活性が得られる温度であればよい。浸漬時間は概ね3~24時間であって、液温によっても異なるが、好ましくは6時間以上、1昼夜16時間程度浸漬する。
【0018】
酵素を含む液に浸漬した後は、玄米は液から取り出され、過熱水蒸気により炊飯される。図1は過熱水蒸気を用いた炊飯に用いられる炊飯装置の一例を示す概略図である。図1に示す炊飯装置1は、米を移送するコンベア2と、高温蒸気による蒸し工程を行う蒸気室3と、蒸気室3内にてコンベア2上を移動する米にその上方から温水を散布する散水ノズル4を備えている。その他に、当該炊飯装置1は、高温の蒸気を供給する蒸気供給手段と、温水を供給する温水供給手段を備えているが、これらの手段は図示されていない。図に示された炊飯装置は一例であって、過熱水蒸気を用いて原料米を搬送しながら炊飯できる装置であればよく、この他にも例えば特許文献3に示された炊飯装置を用いることもできる。
【0019】
炊飯に用いられる過熱水蒸気の温度は、例えば105℃~140℃、好ましくは110~130℃に設定される。炊飯時間は用いられる玄米の量などによって適宜設定され、炊飯時間はコンベアの長さや搬送速度、過熱水蒸気の温度によっても異なるが、概ね30分~90分程度に設定される。コンベアの搬送中に、供給された過熱水蒸気が玄米に接触して凝縮し、玄米が吸水して玄米を柔らかくする。また、必要に応じて散水ノズルから、60~90℃の温水が散布される。これにより過熱水蒸気だけでは不足する水分量が供給されるだけでなく、さらに玄米表面を洗い流すことに寄与する。
【0020】
炊飯された玄米はそのまま炊飯玄米として摂取することも出来るが、本発明においては好ましくは凍結乾燥に付され、乾燥された玄米食に加工される。凍結乾燥はいわゆるフリーズドライとも称される方法であって、目的とする食品などを低温にした上で、周囲環境を減圧して真空下にすることで乾燥させる方法である。凍結乾燥に用いられる装置は、凍結乾燥に通常用いられる装置でよい。凍結乾燥は、炊飯された玄米中の水分を凍らせた上で、凍結した玄米を減圧下に置くことで行われる。凍結乾燥の条件は炊飯玄米中の水分を固体状態から液体を経ずに気体へと昇華させられる条件であればよく、各種食品をフリーズドライする際の条件とほぼ同一の条件で行われる。具体的には炊飯玄米を-30℃以下に置いて炊飯玄米中の水分を凍結し、その後約100Pa以下の真空下に置いて昇華した水分を除去(排気)する。その後、30~70℃程度に加温してさらに乾燥させることで、凍結乾燥玄米を得る。また、凍結の際には、例えば特許文献3に記載されたように、比較的高い温度、例えば-5℃~-10℃に設定される緩慢凍結、それに続くさらに低い温度に設定された-20℃以下に設定される急速凍結を行う。得られた凍結乾燥玄米の水分量は概ね1~3w/w%、良好な場合には1w/w%未満となる。
【0021】
凍結乾燥されて得られた乾燥玄米はそのまま食することもできるし、またお湯などでいわゆる湯戻しを行って、炊飯された玄米食としてもよい。特に乾燥玄米はそのまま食した場合には、香ばしくパリパリとした爽快感のある食感が得られ、これまでにない米菓として取り扱われ、栄養価の高い新しい食品となる。また、水分量が極めて少ないために長期間保存できる保存食としても利用され得る。しかも、無機体ヒ素の含有量が低い加工玄米が提供される。
【0022】
以下、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例0023】
玄米(にこまる)2kgを5kgの約15℃の水に16時間浸漬した。その後、玄米を酵素水からざる揚げして、図1に示す炊飯装置を用いて炊飯した。約115~130℃の過熱水蒸気を蒸気室内に供給し、炊飯装置のノズルから温水をかけながら、炊飯時間が約75分となるように移送速度を調整して、浸漬された玄米を炊飯した。炊飯後、その半量(約2.5kg)をトレイに移し凍結乾燥機で凍結乾燥して、乾燥玄米(Sample1)を得た。また、残る半量をザルに入れ約20℃の流水に60秒間さらした後トレイに移し凍結乾燥して、乾燥玄米(Sample2)を得た。凍結乾燥は、いずれも-30℃まで凍結して24時間保持した後、100Pa以下となるまで減圧し、次いで50~70℃まで加熱して24時間保持することで行った。
【0024】
これとは別に、玄米(にこまる)2kgを、耐熱性αアミラーゼとして、クライスターゼT10S(商品名、天野エンザイム社製)50ml及びセルラーゼとして、セルロイシンAC40(商品名、エイチビィアイ社製)20gを水5kgに溶解した約15℃の酵素液に16時間浸漬した。その後、Sample1やSample2の場合と同様に炊飯し、炊飯後、水で洗浄することなく得られた乾燥玄米(Sample3)及び水で洗浄して得られた乾燥玄米(Sample4)を得た。
【0025】
次に、玄米(にこまる)2kgを、耐熱性αアミラーゼとして、クライスターゼT10S(商品名、天野エンザイム社製)50mlを水5kgに溶解した約15℃の酵素液に16時間浸漬した。その後、Sample3の場合と同様にして水で洗浄して得られた乾燥玄米(Sample5)を得た。得られたSample1~5の乾燥玄米が含有する無機体のヒ素量を測定した結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
得られた5種類の乾燥玄米はいずれもそのままで食することができ、香ばしく、さらさらとした食感であった。また、乾燥前の炊飯玄米もそのまま米飯(玄米食)として食することもできた。これらの結果によると、玄米を酵素水に浸漬した後に過熱水蒸気で炊飯すれば、ヒ素(無機体)の含有量が低下した炊飯玄米として食することができるだけでなく、炊飯後水洗することなく凍結乾燥することで、食感にすぐれた乾燥玄米を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によると、ヒ素の含有量が低下した炊飯玄米並びにそのまま食することができる乾燥玄米が提供される。
【符号の説明】
【0029】
1 炊飯装置
2 コンベア
3 蒸気室
4 散水ノズル
図1