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特開2024-115916非水電解液二次電池の設計方法、非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115916
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の設計方法、非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240820BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240820BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240820BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240820BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0525
H01M10/48 P
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021823
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ16
5H029HJ18
5H029HJ19
5H029HJ20
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期までの電池性能を同等にすることにある。
【解決手段】ステージ解析のステップ(S1)はステージのSOC[%]を解析する。使用範囲設定のステップ(S2)で充放電のSOC[%]の範囲を決定する。初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)、初期傾きb算出のステップ(S4)で初期傾きaを得る。末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)、末期傾きa算出のステップ(S6)は、末期傾きbを得る。最適値BV算出のステップ(S7)では、初期抵抗上昇率Xと末期抵抗上昇率Yとが等しくなるような最適値BV=ΔA/ΔB=b/aを求める。正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップ(S8)では、最適値BVに基づいて、正負極容量比CR及び正負極容量ずれ率CG[%]を設定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質にステージ構造を有する黒鉛を用いる非水電解液二次電池において、
対象となる前記非水電解液二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CR、及び前記非水電解液二次電池の使用初期の電池容量に対する正負極の容量ずれ量の比率である正負極容量ずれ率CG[%]ごとに、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分と、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分と、ステージ2とステージ3の間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部と、ステージ4とステージ3の間のSOC[%]でステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とのそれぞれのSOC[%]を解析するステージ解析のステップと、
前記ステージ解析のステップにおいて解析された前記ステージのSOCに基づいて、前記非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC[%]及びその範囲である初期使用範囲と、前記非水電解液二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC[%]及びその範囲である末期使用範囲とを設定する使用範囲設定のステップと、
前記初期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する初期構造変化量ΔA算出のステップと、
前記初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]とに基づいて、X/ΔAから初期傾きaを算出する初期傾きa算出のステップと、
前記末期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する末期構造変化量ΔB算出のステップと、
前記末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]とに基づいて、Y/ΔBから末期傾きbを算出する末期傾きb算出のステップと、
前記末期傾きbと前記初期傾きaとに基づいて、b/aから、前記初期抵抗上昇率X[%]と前記末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるようなΔA/ΔBの最適値BVを算出する最適値BV算出のステップと、
ΔA/ΔBが前記最適値BVとなるように、前記正負極容量比CR、及び前記正負極容量ずれ率CG[%]を設定する正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップと
を備えたことを特徴とする非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項2】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池が、車両の駆動用の電池であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項4】
前記正負極容量比CRを1.2以上、1.3以下とすることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項5】
前記正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下とすることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項6】
前記初期使用範囲における中心セルSOC[%]を60[%]以上、70[%]以下の範囲内で設定することを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の設計方法に基づいて、非水電解液二次電池を製造する非水電解液二次電池の設計方法。
【請求項8】
請求項7に記載の非水電解液二次電池の製造方法により製造した非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の設計方法に係り、より詳しくは、使用初期から使用末期までバランスよく劣化を抑制する非水電解液二次電池の設計方法、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解液二次電池、例えばリチウムイオン二次電池などは、エネルギー密度が大きく、特に電気自動車やハイブリッド車などの動力源などに幅広く利用されている。
負極活物質として黒鉛を用いている非水電解液二次電池では、充放電により負極の黒鉛が有するステージ構造が変化する。この場合、ハイレートの充放電を行うとハイレート劣化と呼ばれる減少により電池の内部抵抗が上昇する現象が知られている。
【0003】
そこで、特許文献1、特許文献2には、使用するSOC域を制御することでハイレートを抑制することを記載している。また、特許文献3では、正負極の容量比1.3付近で設計した電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-016521号公報
【特許文献2】特開2022-134239号公報
【特許文献3】特開2013-235653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイレート劣化を抑制する点については言及があるものの、使用初期のみならず、使用末期における劣化については、まったく言及がない。
本発明の非水電解液二次電池の設計方法、非水電解液二次電池が解決しようとする課題は、正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期までの電池性能を同等にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池の設計方法では、負極活物質にステージ構造を有する黒鉛を用いる非水電解液二次電池において、対象となる前記非水電解液二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CR、及び前記非水電解液二次電池の使用初期の電池容量に対する正負極の容量ずれ量の比率である正負極容量ずれ率CG[%]ごとに、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分と、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分と、ステージ3とステージ2との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部と、ステージ3とステージ4との間のSOC[%]でステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とのそれぞれのSOC[%]を解析するステージ解析のステップと、前記ステージ解析のステップにおいて解析された前記ステージのSOCに基づいて、前記非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC[%]及びその範囲である初期使用範囲と、前記非水電解液二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC[%]及びその範囲である末期使用範囲とを設定する使用範囲設定のステップと、前記初期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する初期構造変化量ΔA算出のステップと、前記初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]とに基づいて、X/ΔAから初期傾きaを算出する初期傾きa算出のステップと、前記末期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する末期構造変化量ΔB算出のステップと、前記末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]とに基づいて、Y/ΔBから末期傾きbを算出する末期傾きb算出のステップと、前記末期傾きbと前記初期傾きaとに基づいて、b/aから、前記初期抵抗上昇率X[%]と前記末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるようなΔA/ΔBの最適値BVを算出する最適値BV算出のステップと、ΔA/ΔBが前記最適値BVとなるように、前記正負極容量比CR、及び前記正負極容量ずれ率CG[%]を設定する正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップとを備えたことを特徴とする。
【0007】
前記非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池である場合に好適に実施することができる。
前記リチウムイオン二次電池が、車両の駆動用の電池である場合に好適に実施することができる。
【0008】
この場合、前記正負極容量比CRを1.2以上、1.3以下とすることができる。
前記正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下とすることができる。
前記初期使用範囲における中心セルSOC[%]を60以上、70[%]以下の範囲内で設定することができる。
【0009】
本発明の非水電解液二次電池の製造方法では、上記非水電解液二次電池の設計方法に基づいて、非水電解液二次電池を製造することができる。
本発明の非水電解液二次電池は、上述の非水電解液二次電池の製造方法により製造する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の非水電解液二次電池の設計方法、非水電解液二次電池によれば、正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期までの電池性能を同等にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グラファイトにおけるリチウムイオンの電気化学的な挿入及び脱離のステージ構造を示す模式図である。
図2】セル電池のSOC[%]と、セル電圧[V]の関係を示すグラフである。
図3】セル電池のSOC[%]と、正極電位[V]、負極電位[V]の関係を示すグラフである。
図4】本実施形態のリチウムイオン二次電池の設計方法の手順を示すフローチャートである。
図5図2に示すグラフにおいて、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を示すグラフである。
図6】二次電池の使用初期における充放電のSOC[%]の範囲である「初期使用範囲」を示すグラフである。
図7】初期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「初期抵抗上昇率X[%]」との関係を示すグラフである。
図8】二次電池の使用末期における充放電のSOC[%]の範囲である「末期使用範囲」を示すグラフである。
図9】末期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「末期抵抗上昇率Y[%]」との関係を示すグラフである。
図10】正負極容量比CRとΔA/ΔBとの関係を示すグラフである。
図11】正負極容量ずれ率CGとΔA/ΔBとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本実施形態の構成)
本発明の非水電解液二次電池の設計方法を、ハイブリッド自動車の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池(以下「二次電池」と略記することがある。)の設計方法の一実施形態を例に、図1~11を参照して説明する。まず、簡単に本実施形態の二次電池の構成の一例を説明する。
【0013】
(二次電池の構成)
本実施形態の二次電池は、電池セルとして構成される。電池セルは、開口が蓋によって閉じられる直方体形状の電池ケースを備える。電池ケースは、例えば、アルミニウム合金等の金属によって形成される。電池ケースの内部は、密閉された電槽を構成する。電池ケースは、正負極が積層された電極体が内蔵されている。電池ケースの内部には、非水電解液が充填されている。電池セルの蓋は、電極体に電気接続された正極外部端子及び負極外部端子を有する。
【0014】
<電極体>
電極体は、長尺状の負極板、正極板、及びセパレータを備える。負極板、正極板、及びセパレータは、厚み方向に積層されている。具体的には、負極板及び正極板が交互に配置されるとともに、これら層群において負極板及び正極板の間にセパレータが配置されている。電極体は、電極体の長さ方向に捲回されている。電極体は、長さ方向に対して直交する幅方向から見た場合に、扁平形状に形成されている。
【0015】
<負極板>
負極板は、負極集電体及び負極合材を備える。負極集電体は、負極の電極基材である。負極集電体は、例えば、銅(銅箔)から構成されている。負極合材は、例えば、負極集電体の両面に設けられている。負極合材は、例えば、負極活物質と負極添加物とを有する。負極合材は、負極活物質と負極添加物とを混練し、その後、混練した負極合材ペーストを負極集電体に塗布して乾燥させることにより、負極集電体上に形成される。
【0016】
負極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。負極活物質として本実施形態では、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料が使用される。負極添加物は、例えば、負極溶媒、負極結着材、及び負極増粘材を含む。負極溶媒としては、例えば水等が使用される。なお、負極添加物は、例えば負極導電材等を更に含んでもよい。
【0017】
負極結着材は、例えば、水に分散するポリマー材料が使用される。ポリマー材料は、例えば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が使用される。ポリマー材料は、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が使用される。なお、ポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
負極増粘材は、例えば、有機溶剤に対して不溶性であって、水に溶解して粘性を発揮するポリマー系が使用される。ポリマー系は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体が使用される。
【0019】
負極集電体は、負極外部端子に接続される負極接続部を有する。負極接続部は、例えば、負極集電体の両面において負極合材が設けられていない部位であって、正極板及びセパレータから露出するように構成されている。
【0020】
<正極板>
正極板は、正極集電体及び正極合材を備える。正極集電体は、正極の電極基材である。正極集電体は、例えば、アルミニウム(アルミニウム箔、アルミニウム合金箔)から構成されている。正極合材は、例えば、正極活物質と正極添加物とを有する。正極合材は、正極活物質と正極添加物とを混練し、その後、混練した正極合材ペーストを正極集電体に塗布して乾燥させることにより、正極集電体上に形成される。
【0021】
正極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。正極活物質としては、本実施形態では、ニッケル、マンガン及びコバルトを含有する三元系(NMC)リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO)が使用される。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)のいずれか一つを用いてもよい。正極活物質としては、例えば、ニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。
【0022】
正極添加物は、例えば、正極溶媒、正極導電材、及び正極結着材(バインダー)を含む。正極溶媒としては、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液等、非水溶媒が使用される。正極結着材としては、例えば負極結着材と同様のものを使用してもよい。なお、正極添加物は、例えば正極増粘材等を更に含んでもよい。
【0023】
正極導電材としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)等の炭素繊維等を用いる。カーボン系の材料は、混練のときにクッションとして働いてしまうため、なるべく少ない量とすることが好ましい。この点、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、少ない量でも導電性を確保できる利点がある。なお、正極導電材は、黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を用いてもよい。
【0024】
正極集電体は、正極外部端子に接続される正極接続部を有する。正極接続部は、例えば、正極集電体の両面において正極合材が設けられていない部位であって、負極板及びセパレータから露出するように構成されている。
【0025】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。セパレータとしては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせたものが使用される。電極体が非水電解液に浸漬されると、セパレータに非水電解液が浸透する。
【0026】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)が使用される。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。
【0027】
また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等が使用される。また、これらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を使用してもよい。このように、非水電解液は、リチウム化合物を含む。
【0028】
(本実施形態の原理)
<リチウムイオン二次電池のステージ構造>
次に、本実施形態の二次電池の負極活物質を構成するグラファイトについて、説明する。本実施形態の二次電池の負極には、負極活物質としてグラファイトを用いている。グラファイトの構成は、グラフェン面が多数層状に形成されている。その充電反応は、グラファイト層間へのリチウムイオンの挿入(インターカレーション)であり、放電反応はリチウムイオンの脱離(デカレーション)である。
【0029】
図1は、グラファイトにおけるリチウムイオンの電気化学的な挿入及び脱離のステージ構造を示す模式図である。充電状態では、負極活物質であるグラファイトの電位を下げていくとともに、グラファイト層間にリチウムイオンが次々と挿入されていく。リチウムイオンが挿入されることによって、グラファイトのステージ構造は常温付近で、ステージ4→ステージ3→ステージ2→ステージ1と変化する。このとき、リチウムイオンが挿入された層の厚みが増加する。このため、この例では平均結晶格子面間隔は、元の0.3354[nm]から、ステージ4では0.3442[nm]となる。また、ステージ3では0.3471[nm]、ステージ2では0.3530[nm]、ステージ1では0.3706[nm]となっていく。このため、セル電池の電極体では、負極板の厚みが増して、セパレータに対する圧力が大きくなり、非水電解液が押し出される。特にハイレートの充放電では、急速なステージの変化により負極合材層や、セパレータにおける非水電解液のリチウム塩の濃度分布に不均一が生じることがある。
【0030】
<ハイレート劣化>
上述のように、二次電池の放電または充電の際に正極板、負極板、セパレータにおいて非水電解液のリチウム塩の濃度分布の不均一が生じ、それによって二次電池の内部抵抗が増加することが従来から知られている。さらに、このリチウム塩の濃度分布は大電流放電時や大電流充電時に顕著となる。これに伴って内部抵抗も著しく増加することが知られている。大電流によるハイレートの充放電により内部抵抗が著しく増加することから、この現象を本実施形態では「ハイレート劣化」と呼ぶ。
【0031】
内部抵抗の増大自体は可逆的なものであるが、リチウム塩の濃度分布ムラに起因する負極における金属リチウムのデンドライトの析出は不可逆的なものであり、このようなハイレート劣化は、回避することが強く望まれる。
【0032】
<SOC[%]と、セル電圧[V]の関係>
図2は、セル電池のSOC[%]と、セル電圧[V]の関係を示すグラフである。
充電するに従って、負極活物質であるグラファイトはリチウムイオンを取込み、負極電位[V]が低下する。このとき、図1に示すように、まずステージ4となり、3つの空層を挟んで、所定の層にリチウムイオンが充填される。
【0033】
このとき、セル容量[Ah]は充電により増加し、セル電池のSOC[%]も上昇する。ステージ4においては負極電位[V]の低下は緩やかであり、図2に示すセル電圧[V]のグラフの右上がりの傾きも緩やかになる。
【0034】
さらに、充電を続けると、ステージ4の層がリチウムイオンを受け入れることができず、ステージ4からステージ3への移行部となる。本実施形態では、このステージ4からステージ3への移行部を「低SOC移行部」ということとする。このとき充電を続けると、セル容量が増加するとともに、負極電位[V]は低下する。従って、図2に示す「ステージ4⇔3」の部分のセル電圧[V]のグラフは右上がりの傾きが大きくなる。
【0035】
さらに、充電を続けると、ステージ3の状態となり、ステージ3の所定の層にリチウムイオンが充填されていく。このとき、ステージ4と同様に、セル容量は充電により大きくなるが、負極電位[V]の低下は一旦緩やかになり、図2に示す「ステージ3」の部分のセル電圧[V]のグラフの右上がりの傾きは再び緩やかになる。
【0036】
さらに、充電を続けると、ステージ3の層がリチウムイオンを受け入れることができず、ステージ3からステージ2への移行部となる。本実施形態では、このステージ3からステージ2への移行部を「高SOC移行部」ということとする。このとき充電を続けると、セル容量が増加するとともに、再び負極電位[V]は低下する。従って、図2に示す「ステージ3⇔2」の部分の負極電位[V]のグラフは再び右下がりの傾きが大きくなる。
【0037】
さらに、充電を続けると、ステージ2の状態となり、ステージ2の所定の層にリチウムイオンが充填されていく。このとき、ステージ3と同様に、セル容量は充電により大きくなるが、負極電位[V]の低下は一旦緩やかになり、セル電圧[V]のグラフは再び緩やかになる。
【0038】
なお、放電の場合は、充電と逆の作用となる。
<ステージの解析>
図5は、図2に示すグラフにおいて、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を示すグラフである。
【0039】
上述したように、ステージの状態の変化によりセル電池のSOC[%]の上昇とセル電圧[V]の関係は変化する。しかしながら、理論的には明確であるが、図2における傾きの変化は僅かであり、ステージの判別は難しい。そこで、本実施形態では、図5においては、図2に示すグラフを微分し、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]として示した。例えば、図2における「ステージ4⇔3」の部分のセル電圧[V]の変化は、図4における「ステージ4⇔3」の部分における変化率dV/dSOC[V/%]のように、顕著な変化として読み取れる。
【0040】
また、図4からわかるように、ステージ3の部分は、変化率dV/dSOC[V/%]が小さい。例えば、変化率dV/dSOC[V/%]の閾値を0.5[V/%]とすれば、ステージ3に相当するセル電池のSOC[%]の範囲を解析して特定することができる。同様に、「ステージ4⇔3」と「ステージ4」や、「ステージ3⇔2」と「ステージ2」との境界も、変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点に基づいて解析することができる。
【0041】
本実施形態の二次電池では、「ステージ3」のセル電池のSOC[%]が、概ね42~58[%]の範囲であると、特定できる。また、「ステージ4⇔3」のセル電池のSOC[%]が、概ね24~42[%]の範囲であると、特定できる。「ステージ3⇔2」のセル電池のSOC[%]が、概ね58~74[%]の範囲であると、特定できる。
【0042】
なお、ステージ4やステージ2のSOC[%]の範囲については、図2はもちろん、図5においても、そのSOC[%]の範囲が判定しにくい。このため、この平均結晶格子面間隔を測定することで黒鉛の現在のステージがわかるため、この平均結晶格子面間隔に基づいてステージ4やステージ2のSOC[%]の範囲を特定することができる。
【0043】
<正負極容量ずれ率CG[%]>
図3は、SOC[%]と、正極電位[V]、負極電位[V]との関係を示すグラフである。セル電池は、正極電位[V]と負極電位[V]の差がセル電池の電圧[V]となる。従って、図3に示す正極電位[V]のグラフと、負極電位[V]のグラフの対向している部分が、有効なセル容量[Ah]となる。基本的には、使用初期には負極容量より正極容量が小さい正極規制といわれる容量バランスとなっている。
【0044】
図3に示す負極電位(初期)[V]のグラフは、セル電池が低容量[Ah]では、正極電位[V]とずれΔAh[Ah]があり、この部分は、セル電池の容量として寄与しない。本実施形態においては、使用初期におけるセル電池の電池容量に対するずれΔAhの比率を「正負極容量ずれ率CG」と呼ぶ。さらに、負極では使用に伴いSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されて、内部抵抗が高まり容量が低下する。このため、使用初期で示す負極電位(初期)のグラフが、右側にシフトするように移動してΔAh[Ah]が大きくなり、負極電位(末期)のような位置となる。
【0045】
この容量ずれは、二次電池の容量に関係するため、例えば、二次電池の放電時、早めに下限電圧に到達してしまう原因になる。このため、本実施形態では、初期の正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下となるように設定されている。
【0046】
<本実施形態の原理>
図4は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の設計方法の手順を示すフローチャートである。次に、本実施形態の二次電池の設計方法の手順を図4のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
まず、「ステージ解析のステップ(S1)」において、二次電池の充放電における負極活物質のステージの状態を解析して、そのSOC[%]を解析する。次に「使用範囲設定のステップ(S2)」では、解析したステージに基づいて、二次電池で充放電に使用するSOC[%]の範囲を決定する。続いて「初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)」では、二次電池の使用初期におけるΔdV/dSOCから初期構造変化量ΔA算出する。また、「初期傾きa算出のステップ(S4)」では、所定の条件で充放電試験を実施し、「初期抵抗上昇率X」を測定する。そして、「初期抵抗上昇率X」=a×ΔAから、初期傾きaを得る。
【0048】
「末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)」では、二次電池の使用末期におけるΔdV/dSOCから末期構造変化量ΔB算出する。また、「末期傾きb算出のステップ(S6)」では、所定の条件で充放電試験を実施し、「末期抵抗上昇率Y」を測定する。そして、「末期抵抗上昇率Y」=b×ΔBから、末期傾きbを得る。
【0049】
その後「最適値BV算出のステップ(S7)」では、初期抵抗上昇率Xと末期抵抗上昇率Yとが等しくなるような最適値BV=ΔA/ΔB=b/aを求める。「正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップ(S8)」では、最適値BVに基づいて、正負極容量比CR及び正負極容量ずれ率CG[%]を設定する。本実施形態では、正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下となるように設定されている。
【0050】
以下、それぞれの手順を詳細に説明する。
<ステージ解析のステップ(S1)>
本実施形態では、負極活物質に黒鉛を用いるリチウムイオン二次電池において、前述の<ステージの解析>で説明したとおり、グラファイトのステージを解析する。解析は設計対象となる二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CR毎に行う。なお、正負極容量比CRは、正極規制となるように1.2以上、1.8以下となるように設定することが望ましい。また、二次電池の使用初期のセル容量[Ah]に対する正負極容量のずれΔAh[Ah]の比率である正負極容量ずれ率CG[%]ごとに行う。
【0051】
図4に示すように、解析はSOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて行う。変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さい(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]以下)部分を「ステージ3」の部分と推定する。
【0052】
また「ステージ3」よりSOC[%]の小さな範囲で変化率dV/dSOC[V/%]を解析する。そして、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きな(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]を超える範囲)をステージ4からステージ3に変化する「ステージ4⇔3」と推定する。なお、下限は、例えば変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点とする。ただし、例えば図1に示すようなグラファイトの平均結晶格子面間隔を測定することで、より正確にステージ2とステージ4のSOC[%]の範囲を特定することができる。この「ステージ4⇔3」を「低SOC移行部」とする。
【0053】
また「ステージ3」よりSOC[%]の大きな範囲で変化率dV/dSOC[V/%]を解析する。そして、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きな(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]を超える範囲)をステージ3からステージ2に変化する「ステージ3⇔2」と推定する。なお、上限は、例えば変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点とする。この「ステージ3⇔2」を「高SOC移行部」とする。
【0054】
このようにして、正負極容量比CRごと、正負極容量ずれ率CG[%]ごとの「ステージ4⇔3」、「ステージ3」、「ステージ3⇔2」に対応するセル電池のSOC[%]を特定する。
【0055】
本実施形態で例示した二次電池では、「ステージ3」のセル電池のSOC[%]が、概ね42~58[%]の範囲であると、特定できる。また、「ステージ4⇔3」のセル電池のSOC[%]が、概ね24~42[%]の範囲であると、特定できる。「ステージ3⇔2」のセル電池のSOC[%]が、概ね58~74[%]の範囲であると、特定できる。
【0056】
<使用範囲設定のステップ(S2)>
図6は、二次電池の使用初期における充放電のSOC[%]の範囲である「初期使用範囲」を示すグラフである。
【0057】
二次電池の使用初期では、ハイブリッド自動車の使用態様に合わせて、比較的高いSOC[%]の範囲を用いることが好ましい。
そこで、使用初期においては、ハイブリッド自動車用途の充放電パターンとして、「ステージ3」の範囲、及び「ステージ3⇔2」の構造変化を伴う充放電を生じさせる範囲を「初期使用範囲」として設定する。
【0058】
このため、本実施形態では、例えばステージ3の中央値であるSOC50%を「初期使用範囲」の下限のSOC[%]とした。また、「ステージ3⇔2」の上限を、「初期使用範囲」の上限のSOC[%]とした。
【0059】
本実施形態で示す例は、具体的には「初期使用範囲」の下限SOC[%]は、50[%]であり、上限SOC[%]は、74[%]であり、中心セルSOC[%]は、62[%]とした。本実施形態では、上限SOC[%]と下限SOC[%]は、中心セルSOC[%]±12[%]にしている。本実施形態ではハイブリッド自動車に搭載され、急加速による急速放電、長時間の回生電力などの急激な充放電に対応するため、中心セルSOC[%]は、60以上、70[%]以下の範囲となるように設定することが好ましい。
【0060】
図8は、二次電池の使用末期における充放電のSOC[%]の範囲である「末期使用範囲」を示すグラフである。ここで、「使用末期」とは、適宜定義ができるが、本実施形態においては、セル電池の容量が、予め設定したセル容量閾値である20%減少した後を「使用末期」としている。
【0061】
二次電池の使用末期においては、負極では、使用に伴い非水電解液が分解されてSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されて、内部抵抗が高まり容量が低下する。このため、図3に示すように負極初期で示す負極電位(初期)のグラフが、右側にΔAhの分だけシフトするように移動して負極電位(末期)のような位置となる。そうすると、正極電位のグラフと、負極電位のグラフとにずれができることで、正極電位と、負極電位とのグラフが対向しない部分ができ、このような部分により、セル容量[Ah]が低下する。
【0062】
このような使用末期での劣化は、例えばSOC50[%]以上の高SOCの範囲で生じやすい。このため、二次電池の使用末期では、それより低いSOC[%]の範囲を用いることが好ましい。
【0063】
そこで、使用末期においては、ハイブリッド自動車用途の充放電パターンとして、「ステージ3」の範囲、及び「ステージ4⇔3」の構造変化を伴う充放電を生じさせる範囲を「末期使用範囲」として設定する。
【0064】
このため、本実施形態では、ステージ3の中央値近傍を「末期使用範囲」の上限のSOC[%]とした。また、「ステージ4⇔3」の下限近傍を、「末期使用範囲」の下限のSOC[%]とした。
【0065】
本実施形態で示す例は、具体的には「末期使用範囲」の上限SOC[%]は、54[%]であり、下限SOC[%]は、30[%]であり、中心セルSOC[%]は、42[%]とした。本実施形態では、上限SOC[%]と下限SOC[%]は、中心セルSOC[%]±12[%]にしている。
【0066】
<初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)>
初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)では、「初期使用範囲」において二次電池の充放電をハイレートで行なう。ここで「ハイレート」とは、例えば、50[C]程度の充放電レートでの充放電をいう。充放電環境は、例えば室温環境下で実施する。
【0067】
そして、初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を求める。初期使用範囲の上下限SOC範囲でのdV/dSOC[V/%]の最小値と、上限SOCのdV/dSOC[V/%]の差分をΔAとして、「初期構造変化量ΔA」を算出する。ここで、「初期構造変化量ΔA」とは「ステージ3⇔2」の構造変化量の指標となる値である。
【0068】
<初期傾きa算出のステップ(S4)>
図7は、初期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「初期抵抗上昇率X[%]」との関係を示すグラフである。「初期傾きa算出のステップ(S4)」では、初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)で算出した「初期構造変化量ΔA」と、そのときの初期抵抗上昇率X[%]とから図7に示すようなグラフを描き、このグラフy=axの傾きaを算出する。この初期抵抗上昇率X=a(初期構造変化量ΔA)から、「初期傾きa」を求める。
【0069】
本実施形態では、グラフから、y=26.2xの近似式が導かれるため、「初期傾きa」は、26.2と算出される。
<末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)>
末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)では、「末期使用範囲」において二次電池の充放電をハイレートで行なう。ここで「ハイレート」とは、例えば、50[C]程度の充放電レートでの充放電をいう。充放電環境は、例えば室温環境下で実施する。
【0070】
そして、末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を求める。末期使用範囲の上下限SOC範囲でのdV/dSOC[V/%]の最小値と、下限SOCのdV/dSOC[V/%]の差分をΔBとして、「末期構造変化量ΔB」を算出する。ここで、「末期構造変化量ΔB」とは「ステージ4⇔3」の構造変化量の指標となる値である。
【0071】
<末期傾きb算出のステップ(S6)>
図9は、末期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「末期抵抗上昇率Y[%]」との関係を示すグラフである。「末期傾きb算出のステップ(S6)」では、末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)で算出した「末期構造変化量ΔB」と、そのときの末期抵抗上昇率Y[%]とから図9に示すようなグラフを描き、このグラフy=bxの傾きbを算出する。この末期抵抗上昇率Y=b(末期構造変化量ΔB)から、「末期傾きb」を求める。
【0072】
本実施形態では、グラフから、y=102xの近似式が導かれるため、「末期傾きb」は、102と算出される。
<最適値BV算出のステップ(S7)>
最適値BV算出のステップ(S7)では、末期傾きb=102と初期傾きa=23.2とに基づいて、b/aから初期抵抗上昇率X[%]と末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるようなΔA/ΔBの最適値BVを算出する。
【0073】
本実施形態では、b/a=102/26.2=3.893…となる。つまり、「aΔA=bΔB」との関係から、b/a=ΔA/ΔB≒3.9から、最適値BVが3.9と算出される。
【0074】
<正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップ(S8)>
図10は、正負極容量比CRとΔA/ΔBとの関係を示すグラフである。図11は、正負極容量ずれ率CGとΔA/ΔBとの関係を示すグラフである。
【0075】
ここで、図10図11に示すように、ΔA、ΔBはそれぞれ使用初期、使用末期の中心セルSOCにおける負極SOC、つまり正負極容量比CRと、正負極容量ずれ率CG[%]によって変化する。このため、ΔA/ΔBも正負極容量比CRと正負極容量ずれ率CG[%]で表されることが、本発明者らの知見として見出されている。
【0076】
つまり初期構造変化量ΔA及び末期構造変化量ΔBは、正負極容量比CRと、正負極容量ずれ率CG[%]によって変化させることができる。
そこで、正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップ(S8)では、ΔA/ΔBが、最適値BVとなるように、正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を設定する。
【0077】
正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を変化させるには、例えば、二次電池の使用初期において、初期使用範囲を初期中心セルSOCとその上下限SOCを再設定することで変化させることができる。或いは、二次電池の使用末期において、末期使用範囲を末期中心セルSOCとその上下限SOCを再設定することで変化させることができる。また、その双方を再設定することで正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を変化させることができる。
【0078】
また、使用初期及び使用末期における充電レートや放電レートの制限によって、正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を変化させるようにしてもよい。また、非水電解液やその添加物、正極活物質や負極活物質等の調製により、正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を変化させるようにしてもよい。いずれにしても、当業者により、正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を調整できれば、その方法を限定するものではない。
【0079】
(本実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池の設計方法は、正負極容量比CR及び正負極容量ずれ率CGを適正な値に調整することで、同じハイレートの充放電パターンであればリチウムイオン二次電池の使用初期と使用末期との抵抗上昇を同等とするという作用がある。
【0080】
(効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池の設計方法によれば、正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期まで抵抗上昇を同等にすることができるという効果がある。
【0081】
(2)本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極活物質にグラファイトを用いる。そして、ステージ解析のステップ(S1)では、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、グラファイトのステージを解析する。
【0082】
このため、セルSOCに基づいて負極活物質であるグラファイトのステージの状態を正確に解析することができるという効果がある。
(3)また、ステージの解析は、二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CR毎に行われる。このため、正負極容量比CRのステージに対する影響を正確に知ることができるという効果がある。
【0083】
(4)同様に、解析は、二次電池の使用初期のセル容量[Ah]に対する正負極容量のすれΔAh[Ah]の比率である正負極容量ずれ率CG[%]ごとにも行われる。このため、正負極容量ずれ率CG[%]のステージに対する影響を正確に知ることができるという効果がある。
【0084】
(5)ステージの解析は、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分を特定する。さらに、その前後の変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部のSOC[%]も特定する。そして、ステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部のSOC[%]も特定する。このため、さらに細かいステージの状況に応じた設計をすることができるという効果がある。
【0085】
(6)使用範囲設定のステップ(S2)では、ステージ解析のステップ(S1)において解析されたステージに基づいて、非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心SOC[%]及びその範囲である初期使用範囲を設定する。また、二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値を下回った場合の使用末期の使用における中心SOC[%]及びその範囲である末期使用範囲を設定する。
【0086】
このため、使用初期及び使用末期において、ステージの状態に応じた適切な充放電の範囲を決定することができるという効果がある。
(7)初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)では、初期使用範囲において二次電池の充放電をハイレートで行い、初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する。また、初期傾きa算出のステップ(S4)において、初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]とに基づいて、X/ΔAから初期傾きaを算出する。
【0087】
そのため、二次電池の使用初期における抵抗率の上昇を正確に把握することができるという効果がある。
(8)また、末期構造変化量ΔB算出のステップ(S5)では、末期使用範囲において二次電池の充放電をハイレートで行い、末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する。また、末期傾きb算出のステップ(S6)において、末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]とに基づいて、Y/ΔBから末期傾きbを算出する。
【0088】
そのため、二次電池の使用末期における抵抗率の上昇を正確に把握することができるという効果がある。
(9)最適値BV算出のステップ(S7)では、末期傾きbと初期傾きaとに基づいて、b/aから、初期抵抗上昇率X[%]と末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるようなΔB/ΔAの最適値BVを算出する。
【0089】
このため、最適値BVに基づいて、正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期まで劣化を同等にすることができるという効果がある。
【0090】
(10)正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を設定する正負極容量比CR・正負極容量ずれ率CG[%]設定のステップ(S8)では、ΔA/ΔBが最適値BVとなるように、正負極容量比CR、及び正負極容量ずれ率CG[%]を設定する。このことで、最適値BVに基づいて、正極及び負極をバランスよく設計し、同じハイレートの充放電を行った使用初期から使用末期まで劣化を同等にすることができるという効果がある。
【0091】
(別例)
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例としてリチウムイオン二次電池を例示したが、他の非水電解液二次電池においても本発明を実施することができる。
【0092】
○また、二次電池の用途として、ハイブリッド自動車の駆動用の電池を例示したが、他の用途の電池において、本発明は実施することができる。この場合、使用するSOCの範囲である初期使用範囲や末期使用範囲は、その用途に応じて当業者によって最適化できる。
【0093】
○初期使用範囲や末期使用範囲に限らず、本発明は実施形態において例示した数値や範囲に限定されるものではなく、当業者により適宜最適化できることは言うまでもない。
図4に示すフローチャートも、本実施形態における例示であって本発明が限定されるものではなく、その内容は当業者により、付加し、削除し、その順序を変更して実施することができる。
【0094】
○その他、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0095】
CR…正負極容量比
CG[%]…正負極容量ずれ率
dV/dSOC[V/%]…変化率
ΔA…初期構造変化量
X[%]…初期抵抗上昇率
a…初期傾き
ΔB…末期構造変化量
b…末期傾き
Y[%]…末期抵抗上昇率
BV…最適値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11