(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115917
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240820BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240820BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240820BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240820BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240820BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
G01R31/389
G01R31/382
G01R31/385
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021824
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA23
2G216BA51
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】使用初期から使用末期までバランスよく二次電池の劣化を抑制すること。
【解決手段】準備段階(S1~S11)は、車両に搭載するリチウムイオン二次電池若しくはこれと同等の特性を有するリチウムイオン二次電池の特性を測定し、使用末期の末期抵抗上昇率Yを考慮しながら使用初期において最適なSOC[%]の範囲を決定する。実施段階(S12)は、準備段階で取得した使用初期及び使用末期において最適なSOC[%]の範囲に基づいて、車両に搭載したリチウムイオン二次電池を制御する。このように制御することで、使用初期と使用末期の電池抵抗のバランスが改善し、全体としてリチウムイオン二次電池の性能を引き出すことができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質にステージ構造を有する黒鉛を用いる非水電解液二次電池の制御方法であって、
対象となる前記非水電解液二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CRごとに、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分と、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分と、ステージ3とステージ2との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部と、ステージ3とステージ4との間のSOC[%]でステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とのそれぞれのSOC[%]を解析するステージ解析のステップと、
前記ステージ解析のステップにおいて解析された各ステージのSOC[%]に基づいて、前記非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を設定する初期使用範囲設定のステップと、
前記初期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する初期構造変化量ΔA算出のステップと、
前記初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]を測定する初期抵抗上昇率X[%]測定のステップと、
前記中心セルSOC1[%]及びその範囲である前記初期使用範囲を変更して、前記初期構造変化量ΔA算出のステップ及び前記初期抵抗上昇率X[%]測定のステップを繰り返し、
前記初期抵抗上昇率X[%]と前記初期構造変化量ΔAの関係、及び前記初期構造変化量ΔAと前記初期使用範囲の関係をそれぞれ取得する初期相関関係取得のステップと、
前記ステージ解析のステップにおいて解析された前記ステージのSOC[%]に基づいて、前記非水電解液二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲を設定する末期使用範囲設定のステップと、
前記末期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する末期構造変化量ΔB算出のステップと、
前記末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]を測定する末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップと、
前記中心セルSOC2[%]及びその範囲である前記末期使用範囲を変更して、前記末期構造変化量ΔB算出のステップ及び前記末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップを繰り返し、
前記末期抵抗上昇率Y[%]と前記末期構造変化量ΔBの関係、及び前記末期構造変化量ΔBと前記末期使用範囲の関係を取得する末期相関関係取得のステップと、
前記初期抵抗上昇率X[%]と前記末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるように前記初期使用範囲を決定する初期使用範囲決定のステップと
を備えた準備段階と、
前記非水電解液二次電池の使用初期では前記準備段階で決定した初期使用範囲で使用するとともに、前記非水電解液二次電池の使用末期では前記準備段階で設定した末期使用範囲で使用するように制御する実施段階とを含む
ことを特徴とする非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項2】
前記準備段階は、使用初期における電池容量に対する正負極の容量ずれ量の比率である正負極容量ずれ率CG[%]を算出する正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップを備えたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項3】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池が、車両に搭載される車両の駆動用の電池であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項5】
前記準備段階は、前記車両に前記リチウムイオン二次電池を搭載される前に実施され、
前記実施段階は、前記リチウムイオン二次電池が搭載された車両において実施されることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項6】
前記正負極容量比CRを1.2以上、1.8以下とすることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項7】
前記正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下とすることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【請求項8】
前記初期使用範囲における中心セルSOC1[%]を60以上、70[%]以下の範囲に設定することを特徴とする請求項4に記載の非水電解液二次電池の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の制御方法に係り、より詳しくは、使用初期から使用末期までバランスよく劣化を抑制する非水電解液二次電池の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解液二次電池、例えばリチウムイオン二次電池などは、エネルギー密度が大きく、特に電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動動力源などに幅広く利用されている。
【0003】
負極活物質として黒鉛を用いている非水電解液二次電池では、充放電により負極の黒鉛が有するステージ構造が変化する。この場合、ハイレートの充放電を行うとハイレート劣化と呼ばれる現象により電池の内部抵抗が上昇する現象が知られている。
【0004】
そこで、特許文献1、特許文献2には、使用するSOC域を制御することでハイレートを抑制することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-016521号公報
【特許文献2】特開2022-134239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハイレート劣化を抑制する点については言及があるものの、使用末期における劣化についてまで考慮したものはない。
本発明の非水電解液二次電池の制御方法が解決しようとする課題は、使用初期から使用末期までバランスよく二次電池の劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池の制御方法では、負極活物質にステージ構造を有する黒鉛を用いる非水電解液二次電池の制御方法であって、対象となる前記非水電解液二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CRごとに、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分と、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分と、ステージ3とステージ2との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部と、ステージ3とステージ4との間のSOC[%]でステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とのそれぞれのSOC[%]を解析するステージ解析のステップと、前記ステージ解析のステップにおいて解析された各ステージのSOC[%]に基づいて、前記非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を設定する初期使用範囲設定のステップと、前記初期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する初期構造変化量ΔA算出のステップと、前記初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]を測定する初期抵抗上昇率X[%]測定のステップと、前記中心セルSOC1[%]及びその範囲である前記初期使用範囲を変更して、前記初期構造変化量ΔA算出のステップ及び前記初期抵抗上昇率X[%]測定のステップを繰り返し、前記初期抵抗上昇率X[%]と前記初期構造変化量ΔAの関係、及び前記初期構造変化量ΔAと前記初期使用範囲の関係をそれぞれ取得する初期相関関係取得のステップと、前記ステージ解析のステップにおいて解析された前記ステージのSOC[%]に基づいて、前記非水電解液二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC2[%]及びその範囲である前記末期使用範囲を設定する末期使用範囲設定のステップと、前記末期使用範囲において前記非水電解液二次電池の充放電をハイレートで行い、前記末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する末期構造変化量ΔB算出のステップと、
前記末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]を測定する末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップと、前記中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲を変更して、前記末期構造変化量ΔB算出のステップ及び前記末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップを繰り返し、前記末期抵抗上昇率Y[%]と前記末期構造変化量ΔBの関係、及び前記末期構造変化量ΔBと前記末期使用範囲の関係を取得する末期相関関係取得のステップと、前記初期抵抗上昇率X[%]と前記末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるように前記初期使用範囲を決定する初期使用範囲決定のステップとを備えた準備段階と、前記非水電解液二次電池の使用初期では前記準備段階で決定した初期使用範囲で使用するとともに、前記非水電解液二次電池の使用末期では前記準備段階で設定した末期使用範囲で使用するように制御する実施段階とを含むことを特徴とする。
【0008】
前記準備段階は、使用初期におけるセル電池の容量に対する正極と負極の容量ずれ量の比率である正負極容量ずれ率CG[%]を算出する正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップを備えることも望ましい。
【0009】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合に好適に実施することができる。特に、前記リチウムイオン二次電池が、車両に搭載される車両の駆動用の電池である場合にさらに好適に実施することができる。
【0010】
この場合、前記準備段階は、前記車両に前記リチウムイオン二次電池を搭載される前に実施され、前記実施段階は、前記リチウムイオン二次電池が搭載された車両において実施されるようにしてもよい。
【0011】
前記正負極容量比CRを1.2以上、1.8以下とすることが好ましい。前記正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下とすることも好ましい。また、前記初期使用範囲における中心セルSOC1[%]を60以上、70[%]以下の範囲に設定することも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非水電解液二次電池の制御方法によれば、使用初期から使用末期までバランスよく二次電池の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】グラファイトにおけるリチウムイオンの電気化学的な挿入及び脱離のステージ構造を示す模式図である。
【
図2】セル電池のSOC[%]と、セル電圧[V]の関係を示すグラフである。
【
図3】セル電池の容量[Ah]と、正極電位[V]、負極電位[V]の関係を示すグラフである。
【
図4】本実施形態のリチウムイオン二次電池の設計方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図2に示すグラフにおいて、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を示すグラフである。
【
図6】二次電池の使用初期における充放電のSOC[%]の範囲である「初期使用範囲」を示すグラフである。
【
図7】初期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「初期抵抗上昇率X[%]」との関係を示すグラフである。
【
図8】二次電池の使用末期における充放電のSOC[%]の範囲である「末期使用範囲」を示すグラフである。
【
図9】末期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「抵抗上昇率Y[%]」との関係を示すグラフである。
【
図10】使用末期の中心セルSOC
2とΔBとの関係を表すグラフである。
【
図11】実施段階でリチウムイオン二次電池を使用する車両の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本実施形態の構成)
本発明の非水電解液二次電池の制御方法を、ハイブリッド自動車の駆動用の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池(以下「二次電池」と略記することがある。)の制御方法の一実施形態を例に、
図1~11を参照して説明する。まず、簡単に本実施形態の二次電池の構成の一例を説明する。
【0015】
(二次電池の構成)
本実施形態の二次電池は、電池セルとして構成される。電池セルは、開口が蓋によって閉じられる直方体形状の電池ケースを備える。電池ケースは、例えば、アルミニウム合金等の金属によって形成される。電池ケースの内部は、密閉された電槽を構成する。電池ケースは、正負極が積層された電極体が内蔵されている。電池ケースの内部には、非水電解液が充填されている。電池セルの蓋は、電極体に電気接続された正極外部端子及び負極外部端子を有する。
【0016】
<電極体>
電極体は、長尺状の負極板、正極板、及びセパレータを備える。負極板、正極板、及びセパレータは、厚み方向に積層されている。具体的には、負極板及び正極板が交互に配置されるとともに、これら層群において負極板及び正極板の間にセパレータが配置されている。電極体は、電極体の長さ方向に捲回されている。電極体は、長さ方向に対して直交する幅方向から見た場合に、扁平形状に形成されている。
【0017】
<負極板>
負極板は、負極集電体及び負極合材を備える。負極集電体は、負極の電極基材である。負極集電体は、例えば、銅(銅箔)から構成されている。負極合材は、例えば、負極集電体の両面に設けられている。負極合材は、例えば、負極活物質と負極添加物とを有する。負極合材は、負極活物質と負極添加物とを混練し、その後、混練した負極合材ペーストを負極集電体に塗布して乾燥させることにより、負極集電体上に形成される。
【0018】
負極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。負極活物質として本実施形態では、ステージ構造を有する黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料が使用される。負極添加物は、例えば、負極溶媒、負極結着材、及び負極増粘材を含む。負極溶媒としては、例えば水等が使用される。なお、負極添加物は、例えば負極導電材等を更に含んでもよい。
【0019】
負極結着材は、例えば、水に分散するポリマー材料が使用される。ポリマー材料は、例えば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が使用される。ポリマー材料は、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が使用される。なお、ポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
負極増粘材は、例えば、有機溶剤に対して不溶性であって、水に溶解して粘性を発揮するポリマー系が使用される。ポリマー系は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体が使用される。
【0021】
負極集電体は、負極外部端子に接続される負極接続部を有する。負極接続部は、例えば、負極集電体の両面において負極合材が設けられていない部位であって、正極板及びセパレータから露出するように構成されている。
【0022】
<正極板>
正極板は、正極集電体及び正極合材を備える。正極集電体は、正極の電極基材である。正極集電体は、例えば、アルミニウム(アルミニウム箔、アルミニウム合金箔)から構成されている。正極合材は、例えば、正極活物質と正極添加物とを有する。正極合材は、正極活物質と正極添加物とを混練し、その後、混練した正極合材ペーストを正極集電体に塗布して乾燥させることにより、正極集電体上に形成される。
【0023】
正極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。正極活物質としては、本実施形態では、ニッケル、マンガン及びコバルトを含有する三元系(NMC)リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)が使用される。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)のいずれか一つを用いてもよい。正極活物質としては、例えば、ニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。
【0024】
正極添加物は、例えば、正極溶媒、正極導電材、及び正極結着材(バインダー)を含む。正極溶媒としては、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液等、非水溶媒が使用される。正極結着材としては、例えば負極結着材と同様のものを使用してもよい。なお、正極添加物は、例えば正極増粘材等を更に含んでもよい。
【0025】
正極導電材としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)等の炭素繊維等を用いる。カーボン系の材料は、混練のときにクッションとして働いてしまうため、なるべく少ない量とすることが好ましい。この点、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、少ない量でも導電性を確保できる利点がある。なお、正極導電材は、黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を用いてもよい。
【0026】
正極集電体は、正極外部端子に接続される正極接続部を有する。正極接続部は、例えば、正極集電体の両面において正極合材が設けられていない部位であって、負極板及びセパレータから露出するように構成されている。
【0027】
<セパレータ>
セパレータは、例えば、多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。セパレータとしては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせたものが使用される。電極体が非水電解液に浸漬されると、セパレータに非水電解液が浸透する。
【0028】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)が使用される。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。
【0029】
また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等が使用される。また、これらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を使用してもよい。このように、非水電解液は、リチウム化合物を含む。
【0030】
(本実施形態の原理)
<リチウムイオン二次電池のステージ構造>
次に、本実施形態の二次電池の負極活物質を構成するステージ構造を有するグラファイトについて、説明する。本実施形態の二次電池の負極には、負極活物質としてグラファイトを用いている。グラファイトの構成は、グラフェン面が多数層状に形成されている。その充電反応は、グラファイト層間へのリチウムイオンの挿入(インターカレーション)であり、放電反応はリチウムイオンの脱離(デカレーション)である。
【0031】
図1は、グラファイトにおけるリチウムイオンの電気化学的な挿入及び脱離のステージ構造を示す模式図である。充電状態では、負極活物質であるグラファイトの電位を下げていくとともに、グラファイト層間にリチウムイオンが次々と挿入されていく。リチウムイオンが挿入されることによって、グラファイトのステージ構造は常温付近で、ステージ4→ステージ3→ステージ2→ステージ1と変化する。このとき、リチウムイオンが挿入された層の厚みが増加する。このため、この例では平均結晶格子面間隔は、元の0.3354[nm]から、ステージ4では0.3442[nm]となる。また、ステージ3では0.3471[nm]、ステージ2では0.3530[nm]、ステージ1では0.3706[nm]となっていく。このため、この平均結晶格子面間隔を測定することで、黒鉛の現在のステージがわかる。充電を継続するとセル電池の電極体では、負極板の厚みが増して、セパレータに対する圧力が大きくなり、非水電解液が押し出される。特にハイレートの充放電では、急速なステージの変化により負極合材層や、セパレータにおける非水電解液のリチウム塩の濃度分布に不均一が生じることがある。
【0032】
<ハイレート劣化>
上述のように、二次電池の放電または充電の際に正極板、負極板、セパレータにおいて非水電解液のリチウム塩の濃度分布の不均一が生じ、それによって二次電池の内部抵抗が増加することが従来から知られている。特に、このリチウム塩の濃度分布は大電流放電時や大電流充電時に顕著となる。これに伴って内部抵抗も著しく増加することが知られている。大電流によるハイレートの充放電により内部抵抗が著しく増加することから、この現象を本実施形態では「ハイレート劣化」と呼ぶ。
【0033】
内部抵抗の増大自体は可逆的なものであるが、リチウム塩の濃度分布ムラに起因する負極における金属リチウムのデンドライトの析出は不可逆的なものであり、このようなハイレート劣化は、回避することが強く望まれる。
【0034】
<SOC[%]と、セル電圧[V]の関係>
図2は、セル電池のSOC[%]と、セル電圧[V]の関係を示すグラフである。
充電するに従って、負極活物質であるグラファイトはリチウムイオンを取込み、負極電位[V]が低下する。このとき、
図1に示すように、まずステージ4となり、3つの空層を挟んで、所定の層にリチウムイオンが充填される。
【0035】
このとき、セル容量[Ah]は充電により増加し、セル電池のSOC[%]も上昇する。ステージ4においては負極電位[V]の低下は緩やかであり、
図2に示すセル電圧[V]のグラフの右上がりの傾きも緩やかになる。
【0036】
さらに、充電を続けると、ステージ4の層がリチウムイオンを受け入れることができず、ステージ4からステージ3への移行部となる。本実施形態では、このステージ4からステージ3への移行部を「低SOC移行部」ということとする。このとき充電を続けると、セル容量が増加するとともに、負極電位[V]は低下する。従って、
図2に示す「ステージ4⇔3」の部分のセル電圧[V]のグラフは右上がりの傾きが大きくなる。
【0037】
さらに、充電を続けると、ステージ3の状態となり、ステージ3の所定の層にリチウムイオンが充填されていく。このとき、ステージ4と同様に、セル容量は充電により大きくなるが、負極電位[V]の低下は一旦緩やかになり、
図2に示す「ステージ3」の部分のセル電圧[V]のグラフの右上がりの傾きは再び緩やかになる。
【0038】
さらに、充電を続けると、ステージ3の層がリチウムイオンを受け入れることができず、ステージ3からステージ2への移行部となる。本実施形態では、このステージ3からステージ2への移行部を「高SOC移行部」ということとする。このとき充電を続けると、セル容量が増加するとともに、再び負極電位[V]は低下する。従って、
図2に示す「ステージ3⇔2」の部分の負極電位[V]のグラフは再び右下がりの傾きが大きくなる。
【0039】
さらに、充電を続けると、ステージ2の状態となり、ステージ2の所定の層にリチウムイオンが充填されていく。このとき、ステージ3と同様に、セル容量は充電により大きくなるが、負極電位[V]の低下は一旦緩やかになり、セル電圧[V]のグラフは再び緩やかになる。
【0040】
なお、放電の場合は、充電と逆の作用となる。
<ステージの解析>
図5は、
図2に示すグラフにおいて、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を示すグラフである。
【0041】
上述したように、ステージの状態の変化によりセル電池のSOC[%]の上昇とセル電圧[V]の関係は変化する。しかしながら、理論的には明確であるが、
図2における傾きの変化は僅かであり、ステージの判別は難しい。そこで、本実施形態では、
図5においては、
図2に示すグラフを微分し、セル電池のSOC[%]の変化dSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化dV[V]の変化率dV/dSOC[V/%]として示した。例えば、
図2における「ステージ4⇔3」の部分のセル電圧[V]の変化は、
図4における「ステージ4⇔3」の部分における変化率dV/dSOC[V/%]のように、顕著な変化として読み取れる。
【0042】
また、
図5からわかるように、ステージ3の部分は、変化率dV/dSOC[V/%]が小さい。例えば、変化率dV/dSOC[V/%]の閾値を0.5[V/%]とすれば、ステージ3に相当するセル電池のSOC[%]の範囲を解析して特定することができる。同様に、「ステージ4⇔3」と「ステージ4」や、「ステージ3⇔2」と「ステージ2」との境界も、変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点に基づいて解析することができる。
【0043】
本実施形態の二次電池では、「ステージ3」のセル電池のSOC[%]が、概ね42~58[%]の範囲であると、特定できる。また、「ステージ4⇔3」のセル電池のSOC[%]が、概ね24~42[%]の範囲であると、特定できる。「ステージ3⇔2」のセル電池のSOC[%]が、概ね58~74[%]の範囲であると、特定できる。
【0044】
なお、ステージ4やステージ2のSOC[%]の範囲については、
図2はもちろん、
図5においても、そのSOC[%]の範囲が判定しにくい。このため、この平均結晶格子面間隔を測定することで黒鉛の現在のステージがわかるため、この平均結晶格子面間隔に基づいてステージ4やステージ2のSOC[%]の範囲を特定することができる。
【0045】
<正負極容量ずれ率CG[%]>
図3は、容量[Ah]と、正極電位[V]、負極電位[V]との関係を示すグラフである。セル電池は、正極電位[V]と負極電位[V]の差がセル電池の電圧[V]となる。従って、
図3に示す正極電位[V]のグラフと、負極電位[V]のグラフの対向している部分が、有効なセル容量[Ah]となる。基本的には、使用初期には負極容量より正極容量が小さい正極規制といわれる容量バランスとなっている。
【0046】
図3に示す負極電位(初期)[V]のグラフは、正極電位[V]とずれΔAh[Ah]があり、この部分は、セル電池の容量として寄与しない。本実施形態においては、使用初期におけるセル電池の電池容量に対するずれΔAhの比率を「正負極容量ずれ率CG」と呼ぶ。さらに、負極では使用に伴いSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されて、内部抵抗が高まり容量が低下する。このため、使用初期で示す負極電位(初期)のグラフが、右側にシフトするように移動してずれΔAh[Ah]が大きくなり、負極電位(末期)のような位置となる。
【0047】
この容量ずれは、二次電池の容量に関係するため、例えば、二次電池の放電時、早めに下限電圧に到達してしまう原因になる。このため、本実施形態では、正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下となるように設定されている。
【0048】
<本実施形態の原理>
本実施形態の二次電池の制御方法の手順は、負極活物質に黒鉛を用いるリチウムイオン二次電池の制御方法であって、ステップS1~S11の「準備段階」と、ステップS12の「実施段階」とに分かれている。
【0049】
「準備段階」は、車両に搭載するリチウムイオン二次電池若しくはこれと同等の特性を有するリチウムイオン二次電池の特性を測定し、使用末期の末期抵抗上昇率Yを考慮しながら使用初期において最適なSOC[%]の範囲を決定する。
【0050】
「実施段階」は、準備段階で取得した使用初期及び使用末期において最適なSOC[%]の範囲に基づいて、車両に搭載したリチウムイオン二次電池を制御する。
このように制御することで、使用初期と使用末期の電池抵抗のバランスが改善し、全体としてリチウムイオン二次電池の性能を引き出すことができる。
【0051】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法の手順>
図4は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法の手順を示すフローチャートである。次に、本実施形態の二次電池の制御方法の手順を
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0052】
<準備段階>
準備段階は、ステージ解析のステップ(S1)、初期使用範囲設定のステップ(S2)、初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)、初期抵抗上昇率X[%]測定のステップ(S4)、初期相関関係取得のステップ(S5)、末期使用範囲設定のステップ(S6)、末期構造変化量ΔB算出のステップ(S7)、末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップ(S8)、末期相関関係取得のステップ(S9)、正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップ(S10)、初期使用範囲決定のステップ(S11)を含む。
【0053】
<ステージ解析のステップ(S1)>
ステージ解析のステップ(S1)では、対象となる非水電解液二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CRごとに、SOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を測定する。なお、正負極容量比CRは、正極規制となるように1.2以上、1.8以下となるように設定することが望ましい。
【0054】
この測定結果に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分のSOC[%]を抽出する。また、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分を抽出する。なお、ステージ2とステージ4については、変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点から抽出することもできる。ただし、例えば
図1に示すようなグラファイトの平均結晶格子面間隔を測定することで、より正確にステージ2とステージ4のSOC[%]の範囲を特定することができる。
【0055】
また、ステージ3とステージ2との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きくなるので、このステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部とする。同様に、ステージ3とステージ4との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きくなるので、このステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とする。このようにしてそれぞれのステージのSOC[%]の範囲を解析する。
【0056】
本実施形態では、負極活物質に黒鉛を用いるリチウムイオン二次電池において、前述の<ステージの解析>で説明したとおり、グラファイトのステージを解析する。解析は制御対象となる二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CR毎に行う。
【0057】
図5に示すように、解析はSOC[%]の変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて、変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて行う。変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さい(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]以下)部分を「ステージ3」の部分と推定する。
【0058】
また「ステージ3」よりSOC[%]の小さな範囲で変化率dV/dSOC[V/%]を解析する。そして、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きな(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]を超える範囲)をステージ4からステージ3に変化する「ステージ4⇔3」と推定する。なお、下限は、例えば変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点とする。この「ステージ4⇔3」を「低SOC移行部」とする。
【0059】
また「ステージ3」よりSOC[%]の大きな範囲で変化率dV/dSOC[V/%]を解析する。そして、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きな(例えば、dV/dSOCが0.5[V/%]を超える範囲)をステージ3からステージ2に変化する「ステージ3⇔2」と推定する。なお、上限は、例えば変化率dV/dSOC[V/%]の変曲点とする。この「ステージ3⇔2」を「高SOC移行部」とする。
【0060】
このようにして、正負極容量比CRごと、正負極容量ずれ率CG[%]ごとの「ステージ4⇔3」、「ステージ3」、「ステージ3⇔2」に対応するセル電池のSOC[%]を特定する。
【0061】
本実施形態で例示した二次電池では、「ステージ3」のセル電池のSOC[%]が、概ね42~58[%]の範囲であると、特定できる。また、「ステージ4⇔3」のセル電池のSOC[%]が、概ね24~42[%]の範囲であると、特定できる。「ステージ3⇔2」のセル電池のSOC[%]が、概ね58~74[%]の範囲であると、特定できる。
【0062】
<初期使用範囲設定のステップ(S2)>
初期使用範囲設定のステップ(S2)では、ステージ解析のステップ(S1)において解析された各ステージのSOC[%]に基づいて、非水電解液二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を設定する。
【0063】
図6は、二次電池の使用初期における充放電のSOC[%]の範囲である「初期使用範囲」を示すグラフである。二次電池の初期においては、まずハイレート劣化により電気抵抗の上昇を防止する必要がある。二次電池の使用初期では、ハイブリッド自動車の使用態様に合わせて、比較的高いSOC[%]の範囲を用いることが好ましい。
【0064】
そこで、使用初期においては、ハイブリッド自動車用途の充放電パターンとして、「ステージ3」の範囲、及び「ステージ3⇔2」の構造変化を伴う充放電を生じさせる範囲を「初期使用範囲」として設定する。
【0065】
このため、本実施形態では、例えばステージ3の中央値であるSOC50%を「初期使用範囲」の下限のSOC[%]とした。また、「ステージ3⇔2」の上限を、「初期使用範囲」の上限のSOC[%]とした。
【0066】
本実施形態で示す例は、具体的には「初期使用範囲」の下限SOC[%]は、50[%]であり、上限SOC[%]は、74[%]であり、中心セルSOC1[%]は、62[%]とした。本実施形態では、上限SOC[%]と下限SOC[%]は、中心セルSOC1[%]±12[%]にしている。本実施形態ではハイブリッド自動車に搭載され、急加速による急速放電、長時間の回生電力などの急激な充放電に対応するため、中心セルSOC1[%]は、60以上、70[%]以下の範囲となるように設定することが好ましい。
【0067】
<初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)>
初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)では、初期使用範囲においてリチウムイオン二次電池の充放電をハイレートで行い、初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する。ここで「ハイレート」とは、例えば、50[C]程度の充放電レートでの充放電をいう。充放電環境は、例えば室温環境下で実施する。
【0068】
そして、初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を求める。初期使用範囲の上下限SOC範囲でのdV/dSOC[V/%]の最小値と、上限SOCのdV/dSOC[V/%]の差分をΔAとして、「初期構造変化量ΔA」を算出する。ここで、「初期構造変化量ΔA」とは「ステージ3⇔2」の構造変化量の指標となる値である。
【0069】
<初期抵抗上昇率X[%]測定のステップ(S4)>
初期相関関係取得のステップ(S4)では、中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を変更して、初期構造変化量ΔA算出のステップ及び初期抵抗上昇率X[%]測定のステップを繰り返す。そして、初期抵抗上昇率X[%]と初期構造変化量ΔAの関係を取得する。また、初期構造変化量ΔAと初期使用範囲の関係を取得する。
【0070】
図7は、初期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「初期抵抗上昇率X[%]」との関係を示すグラフである。初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)で算出した「初期構造変化量ΔA」と、そのときの初期抵抗上昇率X[%]とから
図7に示すようなグラフを描き、このグラフy=axの傾きaを算出する。この初期抵抗上昇率X=a(初期構造変化量ΔA)から、「初期傾きa」を求める。
【0071】
本実施形態では、グラフから、y=26.2xの近似式が導かれるため、「初期傾きa」は、26.2と算出される。
<初期相関関係取得のステップ(S5)>
初期相関関係取得のステップ(S5)では、中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を変更して、初期構造変化量ΔA算出のステップ(S3)及び初期抵抗上昇率X[%]測定のステップ(S4)を繰り返す。初期抵抗上昇率X[%]と初期構造変化量ΔAの関係を取得する。また、初期構造変化量ΔAと初期使用範囲の関係を取得する。
【0072】
これにより、初期使用範囲の変化により初期抵抗上昇率Xがどのように変化するかが分かるようになる。
<末期使用範囲設定のステップ(S6)>
ステージ解析のステップ(S1)において解析されたステージのSOC[%]に基づいて、リチウムイオン二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲とを設定する。
【0073】
図8は、二次電池の使用末期における充放電のSOC[%]の範囲である「末期使用範囲」を示すグラフである。ここで、「使用末期」とは、適宜定義ができるが、本実施形態においては、セル電池の容量が、予め設定したセル容量閾値である20%減少した後を「使用末期」としている。
【0074】
二次電池の使用末期においては、負極では、使用に伴い非水電解液が分解されてSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されて、内部抵抗が高まり容量が低下する。このため、
図3に示すように負極初期で示す負極電位(初期)のグラフが、右側にΔAhの分だけシフトするように移動して負極電位(末期)のような位置となる。そうすると、正極電位のグラフと、負極電位のグラフとにずれができることで、正極電位と、負極電位とのグラフが対向しない部分ができ、このような部分により、セル容量[Ah]が低下する。
【0075】
このような使用末期での劣化は、例えばSOC50[%]以上の高SOCの範囲で生じやすい。このため、二次電池の使用末期では、それより低いSOC[%]の範囲を用いることが好ましい。
【0076】
そこで、使用末期においては、ハイブリッド自動車用途の充放電パターンとして、「ステージ3」の範囲、及び「ステージ4⇔3」の構造変化を伴う充放電を生じさせる範囲を「末期使用範囲」として設定する。
【0077】
このため、本実施形態では、ステージ3の中央値近傍を「末期使用範囲」の上限のSOC[%]とした。また、「ステージ4⇔3」の下限近傍を、「末期使用範囲」の下限のSOC[%]とした。
【0078】
本実施形態で示す例は、具体的には「末期使用範囲」の上限SOC[%]は、54[%]であり、下限SOC[%]は、30[%]であり、中心セルSOC2[%]は、42[%]とした。本実施形態では、上限SOC[%]と下限SOC[%]は、中心セルSOC2[%]±12[%]にしている。
【0079】
<末期構造変化量ΔB算出のステップ(S7)>
末期構造変化量ΔB算出のステップ(S7)では、末期使用範囲においてリチウムイオン二次電池の充放電をハイレートで行い、末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する。
【0080】
「末期使用範囲」において二次電池の充放電をハイレートで行なう。ここで「ハイレート」とは、例えば、50[C]程度の充放電レートでの充放電をいう。充放電環境は、例えば室温環境下で実施する。
【0081】
そして、末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]を求める。末期使用範囲の上下限SOC範囲でのdV/dSOC[V/%]の最小値と、下限SOCのdV/dSOC[V/%]の差分をΔBとして、「末期構造変化量ΔB」を算出する。ここで、「末期構造変化量ΔB」とは「ステージ4⇔3」の構造変化量の指標となる値である。
【0082】
<末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップ(S8)>
末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップ(S8)では、ステージ解析のステップにおいて解析されたステージのSOC[%]に基づいて、リチウムイオン二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲とを設定する。
【0083】
図9は、末期使用範囲でハイレートで充放電を行ったときの「SOC[%]」に対する「セル電圧[V]」の「変化率dV/dSOC[V/%]」と、「末期抵抗上昇率Y[%]」との関係を示すグラフである。末期構造変化量ΔB算出のステップ(S7)で算出した「末期構造変化量ΔB」と、そのときの末期抵抗上昇率Y[%]とから
図9に示すようなグラフを描き、このグラフy=bxの傾きbを算出する。この末期抵抗上昇率Y=b(末期構造変化量ΔB)から、「末期傾きb」を求める。
【0084】
本実施形態では、グラフから、y=102xの近似式が導かれるため、「末期傾きb」は、102と算出される。
<末期相関関係取得のステップ(S9)>
末期相関関係取得のステップ(S9)では、中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲を変更して、末期構造変化量ΔB算出のステップ及び末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップを繰り返す。末期抵抗上昇率Y[%]と末期構造変化量ΔBの関係を取得する。
【0085】
図10は、使用末期の中心セルSOC
2とΔBとの関係を表すグラフである。末期構造変化量ΔBと末期使用範囲の関係を取得する。
図10に示すように、本実施形態の使用末期の中心セルSOC
2とΔB[V/%]では、yをΔB[V/%]とし、xを使用末期の中心セルSOC
2とした場合、測定したプロットから、「y=-0.02x+1.22」という近似式が導かれる。このような関係が分かっていると、ΔB[V/%]を所定の値にしたい場合の使用末期の中心セルSOC
2の値を容易に求めることができる。この中心セルSOC
2の値から末期使用範囲を特定する。
【0086】
これにより、末期使用範囲の変化により末期抵抗上昇率Yがどのように変化するかが分かるようになる。
<正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップ(S10)>
正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップ(S10)では、セル電池の使用初期における電池容量に対する正極と負極の容量ズレ量の比率である正負極容量ずれ率CG[%]を算出する。正負極容量ずれ率CG[%]は、
図3に示すようなセル容量に応じた正極電位[V]と負極電位[V]を測定することで算出することができる。
【0087】
<初期使用範囲決定のステップ(S11)>
初期使用範囲決定のステップ(S11)では、初期抵抗上昇率X[%]と末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるように初期使用範囲を決定する。
【0088】
まず、設定した末期使用範囲に基づいて、末期抵抗上昇率Yを求め、この末期抵抗上昇率Yと初期抵抗上昇率Xが同じになるように初期抵抗上昇率Xを設定する。そして、このように設定した初期抵抗上昇率Xとなるように、初期使用範囲を決定する。
【0089】
以上のような準備段階で、使用初期と使用末期の抵抗上昇率を等しくすることができる。
<実施段階(S12)>
実施段階(S12)では、設定された末期使用範囲と、末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるように決定された初期使用範囲に基づいて、これらのSOC[%]の範囲で、車両に搭載されたリチウムイオン二次電池を制御する。
【0090】
このようにリチウムイオン二次電池の使用初期には準備段階で決定された初期使用範囲内のセルSOC[%]でリチウムイオン二次電池の入出力の制御を行う。また、リチウムイオン二次電池の使用末期には準備段階で決定された末期使用範囲内のセルSOC[%]でリチウムイオン二次電池の入出力の制御を行う。その間の期間は、比較的劣化しにくい範囲であるので、例えばセルSOCが30~74[%]の範囲で制御する。
【0091】
このように制御することで、リチウムイオン二次電池の初期から末期まで、特にいずれかの期間で抵抗が急上昇することが無いように制御することができる。
<二次電池が搭載される車両の全体構成>
図11は、実施段階でリチウムイオン二次電池を使用する車両の構成の一例を示すブロック図である。
図11に示すように車両1は、ハイブリッド自動車である。車両1は、リチウムイオン電池の制御装置2と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。リチウムイオン電池の制御装置2は、バッテリ10と、監視ユニット20と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
【0092】
エンジン50は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンおよびロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
【0093】
動力分割装置60は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置60は、エンジン50から出力される動力を、モータジェネレータ41を駆動する動力と、駆動輪80を駆動する動力とに分割する。
【0094】
モータジェネレータ41,42の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石(図示せず)が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ41は、主として、動力分割装置60を経由してエンジン50により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ41が発電した電力は、PCU30を介してモータジェネレータ42または二次電池10に供給される。
【0095】
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、駆動輪80を駆動する。モータジェネレータ42は、二次電池10からの電力およびモータジェネレータ41の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ42の駆動力は駆動軸70に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ42は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ42が発電した電力は、PCU30を介してバッテリ10に供給される。
【0096】
二次電池10は、複数のセル10Aを含んで構成される。二次電池10は、モータジェネレータ41,42を駆動するための電力を蓄え、PCU30を通じてモータジェネレータ41,42へ電力を供給する。また、二次電池10は、モータジェネレータ41,42の発電時にPCU30を通じて発電電力を受けて充電される。
【0097】
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、たとえば、セル10Aごとの電圧VBを検出する。但し互いに並列接続された複数のセル10Aからなるブロック(モジュール)毎の電圧VBを検出するようにしてもよい。この場合は、全体の電圧から各セル10Aの電圧を推定する。電流センサ22は、二次電池10に入出力される電流IBを検出する。温度センサ23は、ブロック毎の温度TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU100に出力する。
【0098】
なお、電圧センサ21および温度センサ23の監視単位はセル10A毎に限定されず、ブロックごとであってもよいし、隣接する複数(ブロック内のセル数未満の数)のセル10A毎であってもよい。本実施形態では、二次電池10の内部構成は特に影響せず、複数のセル10Aを互いに区別したり複数のブロックを互いに区別したりしなくてよい。よって、以下では監視単位を二次電池10とし、「二次電池10の電圧VBを検出する」などと包括的に記載する。
【0099】
PCU30は、ECU100からの制御信号に従って、二次電池10とモータジェネレータ41,42との間で双方向の電力変換を実行する。PCU30は、モータジェネレータ41,42の状態を別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ41を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ42を力行状態にすることができる。PCU30は、たとえば、モータジェネレータ41,42に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧を二次電池10の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成される。
【0100】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))102と、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成される。ECU100は、各センサから受ける信号ならびにメモリ102に記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、エンジン50およびPCU30を制御することによって二次電池10の充放電を制御する。
【0101】
(本実施形態の作用)
本実施形態では、「準備段階(S1~S11)」は、車両に搭載するリチウムイオン二次電池若しくはこれと同等の特性を有するリチウムイオン二次電池の特性を測定する。そして、使用末期の末期抵抗上昇率Yを考慮しながら使用初期において最適なSOC[%]の範囲を決定する。
【0102】
「実施段階(S12)」では、準備段階(S1~S11)で取得した使用初期及び使用末期において最適なSOC[%]の範囲に基づいて、車両に搭載したリチウムイオン二次電池を制御する。
【0103】
このように制御することで、使用初期と使用末期の電池抵抗のバランスを改善して、全体としてリチウムイオン二次電池の性能を引き出す。
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池の制御方法によれば、使用初期から使用末期までバランスよく二次電池の劣化を抑制することにある。その結果、リチウムイオン二次電池の有する性能を使用初期から使用末期までバランスよく発揮でき、二次電池の性能を十分に引き出すことができるという効果がある。
【0104】
(2)ステージ解析のステップでは、対象となる二次電池の正極容量[Ah]に対する負極容量[Ah]の比である正負極容量比CRごとに、各ステージのSOC[%]を推定している。このため、その二次電池に応じた正確な各ステージのSOC[%]を推定することができるという効果がある。
【0105】
(3)また、ステージ解析のステップでは、各ステージのSOC[%]は、変化dSOC[%]に対する電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]に基づいて特定している。このため、直接セル電圧の変化のみで判断するよりもより正確な解析をすることができるという効果がある。
【0106】
(4)さらに、ステージ解析のステップでは、変化率dV/dSOC[V/%]が比較的小さいステージ3の部分と、ステージ3より高いSOCのステージ2の部分と、ステージ3より低いSOCのステージ4の部分とを抽出することができる。さらに、ステージ3とステージ2との間のSOC[%]で変化率dV/dSOC[V/%]が比較的大きなステージ3からステージ2に変化する高SOC移行部を抽出する。また、ステージ3とステージ4との間のSOC[%]でステージ4からステージ3に変化する低SOC移行部とのそれぞれのSOC[%]を解析する。このため、変化率dV/dSOC[V/%]の解析により正確に各ステージのSOC[%]を特定することができるという効果がある。
【0107】
(5)初期使用範囲設定のステップでは、ステージ解析のステップにおいて解析された各ステージのSOC[%]に基づいて、二次電池の使用初期の使用における中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を設定する。そのため、二次電池の使用初期に適したSOC[%]を、ステージに基づいて、適切に設定することができるという効果がある。
【0108】
(6)初期構造変化量ΔA算出のステップでは、初期使用範囲において二次電池の充放電をハイレートで行い、初期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から初期構造変化量ΔAを算出する。このため、実際の車両に搭載された状態に近いと想定される条件で、二次電池の抵抗の上昇の特性を解析することができるという効果がある。
【0109】
(7)初期抵抗上昇率X[%]測定のステップでは、初期構造変化量ΔAと、その初期抵抗上昇率X[%]を測定する。これにより、二次電池の抵抗の上昇の特性に基づいた初期構造変化量ΔAと、初期抵抗上昇率X[%]との関係を明らかにすることができる。
【0110】
(8)初期相関関係取得のステップでは、中心セルSOC1[%]及びその範囲である初期使用範囲を変更して、初期構造変化量ΔA算出のステップ及び初期抵抗上昇率X[%]測定のステップを繰り返す。そして、初期抵抗上昇率X[%]と初期構造変化量ΔAの関係、及び前記初期構造変化量ΔAと前記初期使用範囲の関係をそれぞれ取得する。そのため、中心セルSOC1[%]と、初期抵抗上昇率X[%]との関係を明らかにすることができるという効果がある。
【0111】
(9)末期使用範囲設定のステップでは、ステージ解析のステップにおいて解析されたステージのSOC[%]に基づいて行われる。二次電池のセル容量が設定したセル容量閾値となった場合の使用末期の使用における中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲とを設定する。このため二次電池の使用末期において適切なSOC[%]の範囲を設定することができるという効果がある。
【0112】
(10)末期構造変化量ΔB算出のステップでは、末期使用範囲において二次電池の充放電をハイレートで行い、末期使用範囲でのSOC[%]に対するセル電圧[V]の変化率dV/dSOC[V/%]から末期構造変化量ΔBを算出する。このため、実際の車両に搭載された状態に近いと想定される条件で、二次電池の抵抗の上昇の特性を解析することができるという効果がある。
【0113】
(11)末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップでは、末期構造変化量ΔBと、その末期抵抗上昇率Y[%]を測定する。これにより、二次電池の抵抗の上昇の特性に基づいた末期構造変化量ΔBと、末期抵抗上昇率Y[%]との関係を明らかにすることができる。
【0114】
(12)末期相関関係取得のステップでは、中心セルSOC2[%]及びその範囲である末期使用範囲を変更して、前記末期構造変化量ΔB算出のステップ及び前記末期抵抗上昇率Y[%]測定のステップを繰り返す。そして、末期抵抗上昇率Y[%]と末期構造変化量ΔBの関係、及び前記末期構造変化量ΔBと前記末期使用範囲の関係を取得する。そのため、中心セルSOC2[%]と、末期抵抗上昇率Y[%]との関係を明らかにすることができるという効果がある。
【0115】
(13)正負極容量ずれ率CG[%]算出のステップでは、使用初期における正負極容量ずれ率CG[%]を算出する。
(14)初期使用範囲決定のステップでは、初期抵抗上昇率X[%]と末期抵抗上昇率Y[%]とが等しくなるように初期使用範囲を決定する。このため、比較的制御の幅が小さい末期抵抗上昇率Y[%]に対して、比較的自由度の高い初期使用範囲を選択することで、使用初期の初期抵抗上昇率X[%]と、使用末期の末期抵抗上昇率Y[%]とを容易に一致させることができる。
【0116】
(15)準備段階では、二次電池を車両等において使用する前に、適切な初期使用範囲を決定することができ、車両における制御の負担を小さくすることができる。
(16)実施段階では、二次電池の使用初期では準備段階で決定した初期使用範囲で使用するとともに、二次電池の使用末期では準備段階で設定した末期使用範囲で使用するように制御する。このため、車両において、極めて容易かつ適切なSOC[%]の制御をすることができるといおう効果がある。
【0117】
(17)本実施形態の二次電池は、リチウムイオン二次電池である。このため、本発明を好適に実施することができるという効果がある。
(18)実施形態のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載される車両の駆動用の電池を例示している。このため、ハイレート劣化の起こりやすい使用方法において、本発明は好適に適用できるという効果がある。
【0118】
(19)正負極容量比CRを1.2以上、1.8以下とした。このため、車両の駆動用の二次電池として好ましい設定とすることができるという効果がある。
(20)正負極容量ずれ率CG[%]を3[%]以上、4[%]以下とした。このため、車両の駆動用の二次電池として好ましい設定とすることができるという効果がある。
【0119】
(21)初期使用範囲における中心セルSOC1[%]を60以上、70[%]以下の範囲に設定した。このため、車両の駆動用の二次電池として好ましい設定とすることができるという効果がある。
【0120】
(別例)
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例としてリチウムイオン二次電池を例示したが、他の負極活物質としてステージ構造を有する黒鉛を備えた非水電解液二次電池においても本発明を実施することができる。
【0121】
○また、二次電池の用途として、ハイブリッド自動車の駆動用の電池を例示したが、他の用途の電池において、本発明は実施することができる。この場合、使用するSOCの範囲である初期使用範囲や末期使用範囲は、その用途に応じて当業者によって最適化できる。
【0122】
○初期使用範囲や末期使用範囲に限らず、本発明は実施形態において例示した数値や範囲に限定されるものではなく、当業者により適宜最適化できることは言うまでもない。
○
図4に示すフローチャートも、本実施形態における例示であって本発明が限定されるものではなく、その内容は当業者により、付加し、削除し、その順序を変更して実施することができる。
【0123】
○その他、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0124】
1…車両
2…リチウムイオン二次電池の制御装置
10…バッテリ
10A…セル
20…監視ユニット
21…電圧センサ
22…電流センサ
23…温度センサ
30…PCU
41,42…モータジェネレータ
50…エンジン
60…動力分割装置
70…駆動軸
80…駆動輪
100…ECU
101…CPU
102…メモリ
IB…電流
VB…電圧
TB…温度
CR…正負極容量比
CG[%]…正負極容量ずれ率
dV/dSOC[V/%]…変化率
ΔA…初期構造変化量
X[%]…初期抵抗上昇率
a…初期傾き
ΔB…末期構造変化量
b…末期傾き
Y[%]…末期抵抗上昇率
BV…最適値