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特開2024-115922プレス成形体の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115922
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】プレス成形体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/36 20060101AFI20240820BHJP
   B29C 33/56 20060101ALI20240820BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C33/56 ZBP
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021832
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西田 将三
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4F202AA24
4F202AJ09
4F202AM32
4F202AR12
4F202AR13
4F202CA01
4F202CA09
4F202CB01
4F202CD08
4F202CD22
4F202CD30
4F202CM47
4F202CN05
4F204AA24
4F204AR13
4F204FA01
4F204FB01
4F204FG08
4F204FJ09
4F204FN11
4F204FN15
(57)【要約】
【課題】P3HA系樹脂のプレス成形体の気泡の発生を抑制でき、かつ離型性に優れたプレス成形体の製造方法を実現する。
【解決手段】プレス成形体の製造方法にて使用される一対の金型(31)の成形面(32A、33A)は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物とする加熱工程と、
前記溶融樹脂組成物を吐出部から吐出することにより一対の金型間に供給する樹脂供給工程と、
前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形工程と、有し、
前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、プレス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記一対の金型の成形面は、ショットピーニング処理、およびブラスト処理より選択される、少なくともいずれか1種の表面処理が施されている、請求項1に記載のプレス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記一対の金型の成形面にフッ素系樹脂による表面処理が施されている、請求項1または2に記載のプレス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記プレス成形体は、プレス方向へ立ち上がった立ち上がり部の厚さが0.1mm~0.4mmである、請求項1または2に記載のプレス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)からなる群より選択される1種類以上である、請求項1または2に記載のプレス成形体の製造方法。
【請求項6】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する溶融樹脂組成物を充填する一対の金型を備えたプレス成形体の製造装置であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物を生成する溶融樹脂生成部と、
前記溶融樹脂組成物を吐出する吐出部を有し、当該吐出部により前記一対の金型間へ前記溶融樹脂組成物を供給する供給部と、
前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形部と、を備え、
前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、プレス成形体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(以下、「P3HA系樹脂」と称する場合がある。)のプレス成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待される。しかし、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書では、ポリ乳酸などのコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなり得ないと指摘されている。
【0003】
このような中、P3HA系樹脂は海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記課題を解決する素材として注目されている。
【0004】
また、熱可塑性の生分解性樹脂を加熱して溶融樹脂とし、当該溶融樹脂を金型間に供給して、金型を閉じてプレス成形し、冷却して成形品を得る技術が知られている。
【0005】
特許文献1には、例えば、金型やインジェクション部材等の熱可塑性樹脂成形部材が開示されている。特許文献1の熱可塑性樹脂成形部材は、熱可塑性樹脂の融解物が流れる熱可塑性樹脂流路部を有し、少なくとも熱可塑性樹脂流路部の表面が0.1μm以上0.5μm以下の範囲内の算術平均粗さRaを示すと共に0.5μm以上5.5μm以下の範囲内の最大高さRzを示す。なお、特許文献1の技術対象は、プレス成形ではなく、射出成形である。また、使用される熱可塑性樹脂は、P3HA系樹脂ではない。さらに、成形装置における熱可塑性樹脂の融解物が流れる部分のうち、熱可塑性樹脂流路部は、キャビティを除く部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-053734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物として、上述のプレス成形を行った場合、次の問題が生じることがわかった。
【0008】
すなわち、金属または金属合金製の金型を用いてプレス成形したとき、得られたプレス成形体の側面に気泡が生じ、当該気泡が原因で白濁してしまう課題があることがわかった。
【0009】
さらに、金属または金属合金製の金型によって得られたプレス成形体は、非常に強い力により金型と密着しているため、金型から外れ難くなっている(離型性が悪い)。それゆえ、プレス成形体の離型時に、プレス成形体が変形してしまうという課題があった。
【0010】
本発明の一態様は、P3HA系樹脂のプレス成形体の気泡の発生を抑制でき、かつ離型性に優れた、プレス成形体の製造方法および製造装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプレス成形体の製造方法は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物とする加熱工程と、前記溶融樹脂組成物を吐出部から吐出することにより一対の金型間に供給する樹脂供給工程と、前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形工程と、有し、前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、方法である。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプレス成形体の製造装置は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する溶融樹脂組成物を充填する一対の金型を備えたプレス成形体の製造装置であって、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物を生成する溶融樹脂生成部と、前記溶融樹脂組成物を吐出する吐出部を有し、当該吐出部により前記一対の金型間へ前記溶融樹脂組成物を供給する供給部と、前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形部と、を備え、前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、P3HA系樹脂のプレス成形体の気泡の発生を抑制でき、かつ離型性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るプレス成形体の製造装置の概略構成を模式的に示した図である。
図2】本発明の実施形態に係るプレス成形体の製造装置の成形部の概略構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0016】
〔技術思想〕
本発明者らは、生分解性樹脂としてP3HA系樹脂を用いてプレス成形するに際し、P3HA系樹脂からなる平板を金型によりプレス成形する方法Aではなく、P3HA系樹脂を加熱して得られた溶融樹脂を金型内に流動可能な溶融状態のままプレス成形する方法Bを採用した。
【0017】
本発明者らは、上記方法Bによるプレス成形体の製造について研究を進める中で、金属または金属合金製の金型を用いてプレス成形したとき、プレス成型体の側面部分を中心に白濁する現象が発生するという新規な課題があることを見出した。そして、この白濁現象は、プレス成型体の側面部分の特に膜厚が比較的薄い薄肉部分(膜厚0.2mm~0.3mm)に生じやすいことがわかった。さらに、白濁部分は、細かい気泡が集まることで白濁して見えることがわかった。
【0018】
なお、平板を加熱して軟化させてプレス成形する方法(上記方法A)では、このような課題は発生しない。また、プレス成形において汎用されているポリエチレン樹脂を金属または金属合金製の金型を用いてプレス成形したとき、上記白濁現象は、発生しなかった。よって、上記課題は、P3HA系樹脂の溶融樹脂組成物を金型内に流動可能な溶融状態のままプレス成形する場合に発生する特有の課題であるといえる。
【0019】
さらに、P3HA系樹脂を用いてプレス成形した場合、上述したように、プレス成形体が金型から外れ難くなっている(離型性が悪い)という課題もある。
【0020】
そこで、本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討を行った結果、金型の成形面に表面凹凸処理を施して、算術平均表面粗さRa、最大高さRzをそれぞれ一定の範囲にすることにより、P3HA系樹脂のプレス成形体の気泡の発生を抑制でき、かつ離型性に優れたプレス成形体を得ることができるという知見を見出した。
【0021】
本発明の一実施形態に係るプレス成形体の製造方法(以下、本製造方法と称する場合がある)は、上記知見に基づき得られたものであり、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物とする加熱工程と、前記溶融樹脂組成物を吐出部から吐出することにより一対の金型間に供給する樹脂供給工程と、前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形工程と、有し、前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、方法である。
【0022】
本製造方法によれば、気泡の発生を抑制でき、かつ離型性に優れたプレス成形体を得ることができる。
【0023】
さらに、本製造方法によれば、廃棄による海洋汚染を抑制することができ、これにより、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。以下、本製造方法について詳説する。
【0024】
〔プレス成形体の製造方法〕
本製造方法は、上述のように、加熱工程と、樹脂供給工程と、プレス成形工程と、を有する。本製造方法では、上記加熱工程、上記樹脂供給工程、およびプレス成形工程を経て、P3HA系樹脂のプレス成形体を製造する。
【0025】
上記加熱工程では、P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物とする。上記樹脂組成物の加熱方法は、P3HA系樹脂を含有する溶融樹脂組成物を形成できる方法であれば、従来公知の方法を採用することができる。好ましくは、上記加熱工程は、P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物を溶融混練する溶融混練工程を含む。
【0026】
溶融混練工程の態様としては、溶融混練された樹脂組成物を得ることができる限り、特に限定されない。溶融混練工程の具体例としては、例えば以下(a1)および(a2)の方法が挙げられる:
(a1)混合装置などによる混合またはブレンドによって、P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物を調製する。その後、当該樹脂組成物を溶融混練装置に供給し、溶融混練する方法;
(a2)P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物の原料を溶融混練装置に供給し、溶融混練装置内で樹脂組成物を調製する(完成させる)とともに、当該樹脂組成物を溶融混練する方法。
【0027】
前記(a1)の方法において、P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物の原料を混合またはブレンド(ドライブレンド)する順序は特に限定されない。前記(a2)の方法において、P3HA系樹脂を含有する樹脂組成物の原料を溶融混練装置に供給する順序は特に限定されない。
【0028】
前記(a1)の方法において、混合装置としては、特に限定されず、リボンブレンダー、フラッシュブレンダー、タンブラーミキサー、スーパーミキサーなどが挙げられる。
【0029】
前記(a1)および(a2)の方法において、溶融混練装置としては、特に限定されず、押出機、ニーダー、バンバリミキサー、およびロール等が挙げられる。生産性と利便性優れることから、溶融混練装置としては、押出機が好ましく、2軸押出機がさらに好ましい。
【0030】
溶融混練工程において、樹脂組成物を溶融混練するときの温度は、P3HAの物性(融点、重量平均分子量等)および使用する添加剤の種類等によるため一概には規定できない。樹脂組成物を溶融混練するときの温度に関して、例えば、吐出部から吐出される溶融混練された樹脂組成物の温度(以下、組成物温度と称する場合がある。)を140℃~190℃とすることが好ましく、150℃~180℃とすることがより好ましく、160℃~170℃とすることがさらに好ましい。組成物温度が150℃以下である場合、P3HA系樹脂の未溶融物が発生してしまう場合がある。一方、組成物温度が180℃以上である場合、P3HA系樹脂が熱分解してしまう場合がある。
【0031】
また、上記樹脂供給工程では、上記溶融樹脂組成物を吐出部から吐出することにより一対の金型間に供給する。上記樹脂供給工程では、上記溶融樹脂組成物を溶融状態のまま吐出部から一対の金型へ吐出する。そして、これにより、溶融状態の上記溶融樹脂組成物を一対の金型間に供給する。
【0032】
上記溶融樹脂組成物の金型間への供給方法は、吐出部から吐出された溶融樹脂組成物を一対の金型間に供給できれば、特に限定されない。一対の金型間に確実に溶融樹脂組成物を供給できる観点から、まず、吐出部から下金型へ溶融樹脂組成物を吐出し、下金型に所定量の溶融樹脂組成物を供給した後、当該下金型に上金型を載置することにより、一対の金型間に溶融樹脂組成物を供給することが好ましい。
【0033】
また、上記樹脂供給工程において、上記吐出部の構成としては、溶融樹脂組成物を吐出可能な構成であれば、特に限定されず、従来公知の構成を採用することができる。プレス成形体の生産性の向上の観点では、上記吐出部は、溶融樹脂組成物を定量的に吐出可能な構成であることが好ましい。このような吐出部の構成としては、例えば、ギアポンプを備えた構成、自動開閉ノズルを備えた構成などが挙げられる。吐出部の具体例は、プランジャー式吐出機、プリプランジャー式吐出機、スクリュー式吐出機である。
【0034】
また、上記プレス成形工程では、前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する。上記樹脂供給工程では、上記溶融樹脂組成物は溶融状態のまま上記一対の金型間に供給されるので、上記プレス成形工程にて前記一対の金型を閉じても、上記溶融樹脂組成物は一対の金型内の空間を流動可能である。
【0035】
上記樹脂供給工程にて溶融状態の上記溶融樹脂組成物を一対の金型間に供給した後、上記プレス成形工程では、当該一対の金型に対して、熱プレス成形機を用いて熱プレスを行う。そして、熱プレスが完了した一対の金型を冷却することによって、プレス成形を実施する。プレス成形後、一対の金型を型開きして、プレス成形体を得ることができる。
【0036】
上記樹脂供給工程にて使用される熱プレス成形機は、上記溶融樹脂組成物が供給された一対の金型を熱プレス可能な構成であれば、特に限定されない。当該熱プレス成形機は、従来公知の装置を採用することができる。
【0037】
また、一対の金型間に供給された溶融樹脂組成物を流動可能とするために、一対の金型は予め加熱されていることが好ましい。一対の金型の加熱温度は、上記溶融樹脂組成物の組成物温度を維持できる温度であればよく、好ましくは、上記溶融樹脂組成物の組成物温度±30℃であり、より好ましくは上記溶融樹脂組成物の組成物温度と同じ温度である。
【0038】
また、熱プレス成形機による一対の金型のプレス圧力は、特に限定されないが、50KN~300KNであることが好ましく、100KN~200KNであることがより好ましい。上記プレス圧力が上記数値範囲内に設定されていることにより、厚みの均一なプレス成形体が得られやすいという利点がある。
【0039】
また、熱プレス成形機による一対の金型のプレス時間は、特に限定されないが、5秒~60秒であることが好ましく、10秒~30秒であることがより好ましい。上記プレス時間が上記数値範囲内に設定されていることにより、厚みの均一なプレス成形体が得られやすいという利点がある。
【0040】
熱プレスが完了した一対の金型を冷却する方法は、特に限定されない。例えば、一対の冷却プレートにより、熱プレスが完了した一対の金型を挟持し、冷却プレスする方法が挙げられる。
【0041】
当該方法において、冷却プレスする際のプレス圧力は、特に限定されないが、10KN~100KNであることが好ましく、30KN~50KNであることがより好ましい。上記プレス圧力が上記数値範囲内に設定されていることにより、厚みの均一なプレス成形体がという利点がある。
【0042】
また、冷却プレスする際のプレス時間は、特に限定されないが、60秒~600秒であることが好ましく、120秒~300秒であることがより好ましい。上記プレス時間が上記数値範囲内に設定されていることにより、P3HA系樹脂の固化が十分に進み、プレス成形体の取り出しが容易になるという利点がある。
【0043】
また、冷却プレスに使用する冷却プレートの温度は、特に限定されないが、10℃~60℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。上記冷却プレートの温度が上記数値範囲内に設定されていることにより、P3HA系樹脂の固化が十分に進み、プレス成形体の取り出しが容易になるという利点がある。
【0044】
ここで、本製造方法は、上記金型の成形面が、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzであることを特徴としている。上記金型の成形面の算術平均粗さRaは、0.2μm~0.9μmであることが好ましく、0.3μm~0.8μmであることがより好ましい。また、上記金型の成形面の最大高さRzは、1.0μm~8.0μmであることが好ましく、2.0μm~6.0μmであることがより好ましい。なお、算術平均粗さRaおよび最大高さRzは、従来公知の方法、例えばJIS B 0601-2001に従って測定され得る。
【0045】
上記金型の成形面の算術平均粗さRaおよび最大高さRzが上記範囲内であることにより、本製造方法により製造されたプレス成形体は、上述した細かな気泡に起因する白濁現象が生じなくなり、かつ離型性に優れたものとなる。ここで、「成形面」とは、上記一対の金型において、上記溶融樹脂組成物と接触する面であり、一対の金型が互いに対向する対向面ともいえる。
【0046】
上記成形面は、一対の金型それぞれに存在する。本製造方法においては、上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す成形面は、一対の金型の少なくとも何れかの金型の成形面であればよく、好ましくは一対の金型の両方の成形面である。上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す成形面は、凹型(キャビティ)の成形面であってもよい。
【0047】
また、上記成形面において、上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す領域は、プレス成形体において上記白濁現象が生じ得る箇所に対応する成形面の領域および離型に影響する成形面の領域を含んでいれば、特に限定されない。
【0048】
例えば、プレス成形体が凹部を有する凹形状または無底穴を有する筒形状である場合、一般的に、一対の金型において、プレス成形体の側壁に対応する成形面は、水平面に対して立ち上がった面である。換言すれば、プレス成形において、プレス成形体の側壁は、一般的に、水平面からプレス方向へ立ち上がった部分であるといえる。上述の白濁現象はプレス成形体の側壁の特に薄肉部分に発生する。また、プレス成形体の側壁の部分は、特に離型性が悪い。プレス成形体の側壁の水平面に対する傾斜角が小さいほど、離形性が悪くなる傾向にある。それゆえ、上記成形面において、上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す領域は、プレス成形体の側壁の薄肉部分に対応する領域およびプレス成形体の側壁部分に対応する領域を少なくとも含むことが好ましく、成形面全域であることがより好ましい。
【0049】
また、本製造方法に好適なプレス成形体は、特に限定されないが、プレス方向へ立ち上がった立ち上がり部(例えばプレス成形体の側壁部分)の厚さが0.1mm~0.4mm、好ましくは0.2mm~0.3mmである成形体である。上記立ち上がり部の厚さが上記数値範囲内であることによって、白濁現象の発生を有意に抑制することができる。
【0050】
また、成形面を粗面化処理することによって、上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す成形面を形成することができる。当該粗面化処理は、従来公知の方法を採用することができるが、好ましくは、ショットピーニング処理、およびブラスト処理より選択される、少なくともいずれか1種の表面処理である。
【0051】
ショットピーニング処理は、一対の金型の成形面に対して、球状粒子を空気圧により投射して衝突させることにより、成形面に凹凸を形成する表面処理である。当該ショットピーニング処理により、成形面は、表面粗さが整えられ、圧縮残留応力が付与される。ショットピーニング処理において、球状粒子の材質および直径、並びに球状粒子の投射角度および投射速度(すなわち空気圧)、並びに処理時間等の各種条件は、上記成形面が上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示すような設定であれば、特に限定されず、算術平均粗さRaおよび範囲内の最大高さRzの設定値に応じて適宜設定することができる。
【0052】
ブラスト処理は、一対の金型の成形面に対して、例えば多角形粒子を空気圧により投射して衝突させることにより、成形面に凹凸を形成する表面処理である。本製造方法において、ブラスト処理は、成形面に凹凸を形成する点で上記ショットピーニング処理と同様であるが、成形面に対して圧縮残留応力を付与しない点で上記ショットピーニング処理と異なる。ブラスト処理において、多角形粒子の材質および直径、並びに球状粒子の投射角度および投射速度(すなわち空気圧)、並びに処理時間等の各種条件は、上記成形面が上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示すような設定であれば、特に限定されず、算術平均粗さRaおよび範囲内の最大高さRzの設定値に応じて適宜設定することができる。
【0053】
また、本製造方法では、上記金型の成形面にフッ素系樹脂による表面処理が施されていることが好ましい。すなわち、上記金型の成形面は、成形面に対して上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示すように粗面化する処理(以下、単に粗面化処理と称する場合がある)およびフッ素系樹脂による表面処理(以下、フッ素表面処理と称する場合がある)の両方が施されていることが好ましい。成形面のフッ素表面処理により、本製造方法により製造されたプレス成形体は、上述した細かな気泡に起因する白濁現象が生じなくなる。なお、上記金型の成形面は、(1)粗面化処理の前にフッ素表面処理が施された面であってもよく、(2)粗面化処理の後にフッ素表面処理が施された面であってもよい。(1)の場合、粗面化処理によってフッ素表面処理層に部分的な剥離が生じる場合があり、(2)の場合、フッ素表面処理の前に粗面化処理をするとフッ素表面処理層の密着性が向上することから、(2)のほうがより好ましい。
【0054】
本製造方法において、フッ素表面処理は、一対の金型の少なくとも何れかの金型の成形面に施されていればよく、好ましくは、一対の金型の両方に施されている。
【0055】
また、上記成形面において、フッ素表面処理が施される領域は、プレス成形体において上記白濁現象が生じ得る箇所に対応する成形面の領域であれば、特に限定されない。例えば、プレス成形体が凹部を有する凹形状または無底穴を有する筒形状である場合、一般的に、一対の金型において、プレス成形体の側壁に対応する成形面は、水平面に対して立ち上がった面である。換言すれば、プレス成形において、プレス成形体の側壁は、一般的に、水平面からプレス方向へ立ち上がった部分であるといえる。上述の白濁現象はプレス成形体の側壁の特に薄肉部分に発生する。それゆえ、上記成形面において、上記フッ素表面処理が施される領域は、少なくともプレス成形体の側壁の薄肉部分に対応する領域を含むことが好ましく、成形面全域であることがより好ましい。
【0056】
また、上記フッ素表面処理に使用されるフッ素系樹脂は、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0057】
また、上記フッ素表面処理は、金属による表面被膜処理と併用してもよい。すなわち、上記表面処理により形成される被膜は、金属被膜とフッ素系樹脂被膜との複合膜であってもよい。上記金属被膜を構成する金属は、特に限定されないが、例えば、ニッケル系金属、クロム系金属、鉄系金属、アルミナ系金属等が挙げられる。
【0058】
〔プレス成形体の製造装置〕
本発明の一実施形態に係るプレス成形体の製造装置(以下、本製造装置と称する場合がある)は、本製造方法を実現できる構成となっている。図1は、本製造装置の概略構成を模式的に示した図である。図2は、本製造装置の成形部の概略構成を模式的に示す図である。
【0059】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るプレス成形体の製造装置10は、P3HA系樹脂を含有する溶融樹脂組成物を充填する一対の金型を備えている。図1では、当該一対の金型のうち、下金型が示されている。製造装置10は、溶融樹脂生成部1と、供給部2と、を備えている。
【0060】
溶融樹脂生成部1は、P3HA系樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物を生成する。溶融樹脂生成部1は、P3HA系樹脂組成物の原料を投入するための原料投入部を備えている。そして、溶融樹脂生成部1は、当該原料投入部から投入された原料を溶融混練する溶融混練装置を備えている。また、溶融樹脂生成部1は、必要に応じて、原料を混合する混合装置を備えていてもよい。溶融混練装置および混合装置は、上述した機器を例示することができる。
【0061】
供給部2は、溶融樹脂生成部1にて生成された溶融樹脂組成物を吐出する吐出部2aを有する。吐出部2aは、上述した吐出部の構成を例示することができる。供給部2は、吐出部2aにより一対の金型間へ溶融樹脂組成物を供給する。図1に示される構成では、供給部2は、吐出部2aから下金型へ溶融樹脂組成物を吐出するように構成されている。下金型に所定量の溶融樹脂組成物が供給された後、当該下金型に上金型が載置されることにより、一対の金型間に溶融樹脂組成物が供給される。
【0062】
また、図2に示すように、製造装置10は、成形部30を備えている。成形部30は、一対の金型31を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する。成形部30は、一対の金型31に対して熱プレスする熱プレス成形機と、熱プレスが完了した一対の金型31を冷却する冷却装置と、を備えている。熱プレス機および冷却装置は、プレス成形で使用される任意の装置を採用することができる。例えば、上記冷却装置は、一対の金型31を挟持する一対の冷却プレートを備え、当該冷却プレートにより一対の金型31を冷却プレスする構成であってもよい。
【0063】
図2に示される金型31は、凹部を有する凹形状であるプレス成形体を成形するための金型である。一対の金型31は、下金型32と、上金型33と、を備えている。
【0064】
製造装置10では、一対の金型31の成形面32Aおよび/または33Aは、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである。金型31の成形面の算術平均粗さRaおよび最大高さRzが上記範囲内であることにより、製造装置10により製造されたプレス成形体は、上述した細かな気泡に起因する白濁現象が生じなくなり、かつ離型性に優れたものとなる。
【0065】
ここで、成形面32A・33Aとは、下金型32および上金型33による成形空間を構成する面であるといえる。
【0066】
また、本製造装置において、一対の金型31の成形面32Aおよび/または33Aには、フッ素系樹脂による表面処理が施されていることが好ましい。フッ素系樹脂による表面処理は、下金型32の成形面32Aおよび上金型33の成形面33Aの少なくとも何れかの金型の成形面に施されていればよく、好ましくは、下金型32および上金型33の両方に施されている。
【0067】
また、下金型32の成形面には立ち上がり面32b・32cがあり、上金型33の成形面には立ち上がり面33b・33cがある。立ち上がり面32bおよび33bと立ち上がり面32cおよび33cとはそれぞれ、プレス成形体において、プレス方向に立ち上がる立ち上がり部の薄肉部分を構成する成形面である。一対の金型31の成形面32A・33Aにおいては、上記表面処理が施される領域は、少なくとも立ち上がり面32b・32cおよび立ち上がり面33b・33cの少なくとも一方を含む領域であることが好ましく、成形面32Aおよび/または33Aの全域であることがさらに好ましい。
【0068】
また、一対の金型31においては、立ち上がり面32bと立ち上がり面33bとの間隔、および立ち上がり面32cと立ち上がり面33cとの間隔が、プレス成形体の立ち上がり部の薄肉部分の厚さを規定する。一対の金型31において、これら立ち上がり面同士の間隔は、プレス成形体の立ち上がり部の厚さが0.1mm~0.4mm、好ましくは0.2mm~0.3mmになるように規定されている。
【0069】
また、図2に示す一対の金型31の成形面32A・33Aにおいて、プレス成形体の離型性が悪い領域は、側面部である。それゆえ、成形面32Aおよび/または33Aにおいて、上記範囲内の算術平均粗さRaおよび上記範囲内の最大高さRzを示す領域は、上述の立ち上がり面32b、32c、33b、33cの少なくとも何れかを含む領域、およびプレス成形体の離型性が悪い領域(側面部)を少なくとも含むことが好ましく、成形面32Aおよび/または33Aの全域であることがより好ましい。
【0070】
(P3HA系樹脂)
本製造方法において使用される樹脂組成物は、P3HA系樹脂を含む。本明細書において、「P3HA系樹脂」とは、一般式:〔-CHR-CH-CO-O-〕で示される3-ヒドロキシアルカン酸繰り返し単位(式中、Rは、C2n+1で表されるアルキル基で、nは、1以上15以下の整数である。)を繰り返し単位として含む、ポリヒドロキシアルカノエートである。
【0071】
より具体的には、P3HA系樹脂としては、3-ヒドロキシブチレート(3HB)単位を含むのが好ましい。3HB単位を含むP3HA系樹脂としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)等が挙げられる。
【0072】
P3HA系樹脂としては、1種のみ含んでいても良く、2種以上含んでも良い。
【0073】
P3HA系樹脂としては、微生物により産生されるP3HA系樹脂(微生物産生P3HA系樹脂)が好ましい。微生物産生P3HA系樹脂は、通常、D体(R体)のポリヒドロキシアルカノエートモノマー単位のみから構成される。微生物産生P3HA系樹脂の中でも、工業的生産が容易である点から、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB3HV3HH、P3HB4HBが好ましく、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBがより好ましい。
【0074】
微生物産生P3HA系樹脂を生産する微生物としては、P3HA系樹脂類の生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、P3HB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等の天然微生物が挙げられる。これらの微生物ではP3HBが菌体内に蓄積されることが知られている。
【0075】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体の生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA系樹脂合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいP3HA系樹脂に合わせて、各種P3HA系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0076】
また、前記P3HA系樹脂は、3HB単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を少なくとも1種含み、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における3-ヒドロキシブチレート単位が、全繰り返し単位(100モル%)中、90.0~99.0モル%であり、好ましくは91.0~98.5モル%であり、より好ましくは92.0~98.5モル%であり、さらに好ましくは、93.0~98.0モル%であるのが好ましい。
【0077】
3HB繰り返し単位の組成比が90.0モル%以上であることにより、P3HA系樹脂の剛性がより向上し、また、結晶化速度が速くなり、バリが低減される、生産性向上する傾向がある。一方、3HB繰り返し単位の組成比が99.0モル%以下であることにより、融点が熱分解温度を下回るため、安定かつ連続生産が可能となる。なお、P3HA系樹脂のモノマー組成比は、ガスクロマトグラフィー等によって測定することができる(例えば、国際公開第2014/020838号参照)。
【0078】
P3HA系樹脂の分子量は、目的とする用途で実質的に十分な物性を示すものであればよく、特に限定されない。P3HA系樹脂の重量平均分子量の範囲は、10万~100万が好ましく、より好ましくは15万~70万、さらに好ましくは20万~50万、特に好ましくは25万~45万である。重量平均分子量が10万以上であると、適度な機械的強度が得られる。また、分子量が100万以下であると溶融粘度の上昇を抑制することができ、成形性に優れる。
【0079】
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(昭和電工社製「Shodex GPC-101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成する。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0080】
本製造方法における樹脂組成物は、前記P3HA系樹脂に加えて、第2のP3HA系樹脂を含んでいてもよい。前記第2のP3HA系樹脂は、3HB単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を少なくとも1種含み、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における3HB単位が、全繰り返し単位(100モル%)中、65.0~90.0モル%であることが好ましく、68.0~88.0モル%であることがより好ましく、70.0~85.0モル%であることがさらに好ましい。前記樹脂組成物が第2のP3HA系樹脂をさらに含むことにより、成形品の靭性に優れる。
【0081】
第2のP3HA系樹脂は、前記P3HA系樹脂と異なるものであればよく、特に限定されない。第2のP3HA系樹脂としては、例えば、前記前記P3HA系樹脂として例示された樹脂が挙げられる。
【0082】
前記第2のP3HA系樹脂の含有量は、特に限定されないが、全P3HA系樹脂100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、より好ましくは45重量部以下であり、さらに好ましくは40重量部以下である。前記第2のP3HA系樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。なお、前記第2のP3HA系樹脂としては、上述したP3HA系樹脂を使用することができる。また、本明細書において、「全P3HA系樹脂」とは、本製造方法における樹脂組成物に含まれるすべてのP3HA系樹脂を意図する。
【0083】
前記樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、P3HA系樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0084】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、全P3HA系樹脂100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、より好ましくは40重量部以下である。さらに好ましくは30重量部以下である。前記他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0085】
前記樹脂組成物は、無機フィラーを含有しなくともよいが、無機フィラーをさらに含むことが好ましい。前記樹脂組成物が無機フィラーを含むことにより、結晶化速度が向上し、バリ低減、生産サイクル向上等の効果を奏する。
【0086】
前記無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、タルク、ケイソウ土、白土、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マンガン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、シリカ、アルミナ、ジルコン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、黒鉛、カーボンブラック、フェライト、グラファイト、石英、ガラスファイバー、ガラス粒子等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0087】
前記前記無機フィラーの含有量は、全P3HA系樹脂100重量部に対して、例えば、0~60重量部であり、5~50重量部が好ましく、10~40重量部がより好ましく、15~35重量部が特に好ましい。無機フィラーの含有量が上記の範囲であると、十分な結晶化速度と靭性とを両立することができる。
【0088】
また、前記樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、P3HA系樹脂と共に使用可能な添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし。2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0089】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0090】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物とする加熱工程と、
前記溶融樹脂組成物を吐出部から吐出することにより一対の金型間に供給する樹脂供給工程と、
前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形工程と、有し、
前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、プレス成形体の製造方法。
<2>前記一対の金型の成形面は、ショットピーニング処理、およびブラスト処理より選択される、少なくともいずれか1種の表面処理が施されている、<1>のプレス成形体の製造方法。
<3>前記一対の金型の成形面にフッ素系樹脂による表面処理が施されている、<1>または<2>のプレス成形体の製造方法。
<4>前記プレス成形体は、プレス方向へ立ち上がった立ち上がり部の厚さが0.1mm~0.4mmである、<1>~<3>の何れかのプレス成形体の製造方法。
<5>前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)からなる群より選択される1種類以上である、<1>~<4>の何れかのプレス成形体の製造方法。
<6>ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する溶融樹脂組成物を充填する一対の金型を備えたプレス成形体の製造装置であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を加熱して溶融樹脂組成物を生成する溶融樹脂生成部と、
前記溶融樹脂組成物を吐出する吐出部を有し、当該吐出部により前記一対の金型間へ前記溶融樹脂組成物を供給する供給部と、
前記一対の金型を閉じて流動可能な前記溶融樹脂組成物をプレス成形し冷却する成形部と、を備え、
前記一対の金型の成形面は、0.1μm~1.0μmの範囲内の算術平均粗さRaであり、0.5μm~10.0μmの範囲内の最大高さRzである、プレス成形体の製造装置。
【実施例0091】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
卓上型プランジャー式溶融吐出機(中辻金型工業(株)製)を用いて、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HHと称する場合がある)(重量平均分子量Mw40万、3HH比率6mol%)を加熱して160℃の溶融樹脂とした。そして、予め150℃に加熱した下金型にP3HB3HHの溶融樹脂を吐出することにより、P3HB3HHの溶融樹脂を下金型へ供給した。次いで、P3HB3HHの溶融樹脂を供給した下金型を、同じく150℃に加熱した上金型により閉じることにより一対の金型間に溶融樹脂を供給した。P3HB3HHの溶融樹脂が供給された一対の金型に対して、熱プレス成形装置(ミカドテクノス(株)製、VS38―2525)を用いて、プレス圧力125KN、プレス時間20秒間、熱プレスを行った。熱プレスが完了した一対の金型を、すぐさま温度25℃にした上下冷却プレートで挟みこみ、プレス圧力30KN、プレス時間300秒間、冷却プレスを行うことにより、プレス成形を実施した。プレス成形後、型開きしてプレス成形体を取り出した。
【0093】
金型には、図2に示す一対の金型31を使用した。ここで、上金型および下金型には、それぞれ金型素材にアルミニウム合金(A7075)を用いた。そして、一対の金型として、上金型および下金型の両方の成形面の全域にブラスト処理が施されている金型を用いた。
【0094】
上述の上金型および下金型の両方の成形面について、JIS B 0601-2001に従って、複数区間の算術平均粗さRaおよび最大高さRzを測定した。その結果、算術平均粗さRaは0.40μmであり、最大高さRzは2.91μmであった。
【0095】
(実施例2)
上金型および下金型の両方の成形面について、複数区間の算術平均粗さRaおよび最大高さRzの測定値がそれぞれ0.76μm、5.09μmになった一対の金型を用いた以外は、すべて実施例1と同様にしてプレス成形を行った。
【0096】
(実施例3)
上金型および下金型の両方の成形面の全域に、ブラスト処理を施した後に、フッ素表面処理であるニッケル・PTFE複合めっき(PTFE含有率30wt%)が5μm施されている金型を用いた。上金型および下金型の両方の成形面について、複数区間の算術平均粗さRaおよび最大高さRzの測定値がそれぞれ0.44μm、3.18μmになった一対の金型を用いた以外は、すべて実施例1と同様にしてプレス成形を行った。
【0097】
(比較例1)
上金型および下金型の両方の成形面について、複数区間の算術平均粗さRaおよび最大高さRzの測定値がそれぞれ1.97μm、12.66μmになった一対の金型を用いた以外は、すべて実施例1と同様にしてプレス成形を行った。
【0098】
(評価方法)
<気泡発生評価>
実施例1、2、3、比較例1のプレス成形体に気泡が発生しているか否か、目視により観察し、以下のように評価した。
〇:気泡がない、
×:気泡がある。
【0099】
<型開き力の評価(離型性の評価)>
実施例1、2、3、比較例1のプレス成形体の離形性について、プレス成形後に上金型と下金型とを分離する際に必要となる力の最大値(型開き力)を、クレーンスケールを用いて測定した。そして、比較例1の型開き力を100としたときの実施例1、2、3の型開き力の相対値に基づいて、離型性を評価した。
【0100】
評価結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
気泡発生の評価結果について、表1に示す結果から明らかなように、比較例1のプレス成形体は、気泡が生じ、外観に問題があった。一方、実施例1、2、および3のプレス成形体は、気泡が観察されず、外観が良好であった。
【0103】
型開き力の評価結果について、表1に示す結果から明らかなように、比較例1のプレス成形体は、型開き力が127kgf(相対値100)であった。これに対して、実施例1のプレス成形体は、型開き力が6kgf(相対値4.7)であり、実施例2のプレス成形体は、型開き力が10kgf(相対値7.9)であり、実施例3のプレス成形体は型開き力が2kgf(相対値)であった。
【0104】
比較例1の方法では、型開き力が大きく離形性に劣るため、プレス成形体は、離形時に変形が生じやすい。したがって、比較例1の方法では安定的にプレス成形体を製造することが困難である。
【0105】
これに対して、実施例1、2、および3の方法では、型開き力が小さく離形性に優れるため、プレス成形体は、離形時に変形が生じにくい。それゆえ、実施例1、2、および3の方法では、安定的にプレス成形体を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、P3HA系樹脂を用いたプレス成形体の製造の分野、その他の分野に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 溶融樹脂生成部
2 供給部
2a 吐出部
30 成形部
31 一対の金型
32 下金型
32A 成形面
33 上金型
33A 成形面
10 製造装置(プレス成形体の製造装置)
図1
図2