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  • 特開-植物用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115934
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】植物用組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/50 20060101AFI20240820BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240820BHJP
   A01N 63/32 20200101ALI20240820BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A01N43/50 E
A01P21/00
A01N63/32
A01G7/00 604Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021850
(22)【出願日】2023-02-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】521233231
【氏名又は名称】株式会社AGRI SMILE
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 大祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 寛子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB03
4H011BA06
4H011BB09
4H011BB21
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】 酵母細胞壁分解物を用いた場合でも地上部長を増加可能な、バイオスティミュラントとして利用可能な組成物を提供する。
【解決手段】 酵母細胞壁分解物及びヒスチジンを含有する、植物用組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞壁分解物及びヒスチジンを含有する、植物用組成物。
【請求項2】
前記酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、前記ヒスチジンの質量比が、1/500~1である、請求項1記載の植物用組成物。
【請求項3】
前記酵母がビール酵母である、請求項1記載の植物用組成物。
【請求項4】
非生物学的ストレスに対する耐性を植物に付与する組成物である、請求項1~3のいずれか一項記載の植物用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の収量向上のために、農薬、肥料等の農業資材が使用されている。その使用量は年々増加しており、これらの環境への影響が課題となっている。また、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象等による、農作物の収量低下が危惧されている。しかしながら、従来の農業資材は、害虫等の生物学的ストレス緩和をもたらしたり、植物の栄養源自体となったりと、上述したような環境由来の非生物学的ストレスには対応できない。
【0003】
そこで近年、新しい農業資材カテゴリーの1つである、バイオスティミュラントが注目されている。バイオスティミュラントは、植物に、環境由来の非生物学的ストレスに対する耐性を付与したり、免疫力の向上を促したりすることにより、植物が本来もつ能力(収量・品質)を最大限に引き出すために利用される物質又は微生物と定義される。特に近年、酵母細胞壁分解物が、バイオスティミュラント素材として、根伸長促進(特許文献1)、植物害虫防除(特許文献2)、植物の環境ストレス耐性付与(特許文献3)、植物病害抵抗性遺伝子(PDF1.2遺伝子)活性化(特許文献4)、植物の病害抵抗性向上(特許文献5)、果実の成熟促進(特許文献6)、生育抑制(湿害)改善、といった作用を有するために注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-333980号公報
【特許文献2】特開2007-45708号公報
【特許文献3】特開2007-45709号公報
【特許文献4】特開2007-70292号公報
【特許文献5】国際公開2006/49201号
【特許文献6】国際公開2006/59683号
【特許文献7】国際公開2016/163427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らは、酵母細胞壁分解物が、前述のように根伸長促進効果等を有するものの、コントロールと比較し、地上部長が殆ど増加しないか地上部長がむしろ減少する場合があるとの知見を得た。そこで、本発明は、酵母細胞壁分解物を用いた場合でも、地上部長を増加させる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、酵母細胞壁分解物及びヒスチジンを含有する、植物用組成物である。
本発明(2)は、前記酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、前記ヒスチジンの質量比が、1/500~1である、前記発明(1)の植物用組成物である。
本発明(3)は、前記酵母がビール酵母である、前記発明(1)又は(2)の植物用組成物である。
本発明(4)は、植物に非生物学的ストレスに対する耐性を付与する組成物である、前記発明(1)~(3)のいずれか一つの植物用組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酵母細胞壁分解物を用いた場合でも、地上部長を増加させる組成物を提供することができる。また、本発明によれば、植物の栄養源が十分にある試験系において、地上部長を更に増大させる作用が確認できたことから、新たなバイオスティミュラント資材を提供したともいえる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、比較例と実施例1との試験結果写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を詳述する。但し、本発明は、以下の実施形態には限定されるものではない。尚、本明細書において、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
【0010】
≪植物用組成物≫
本形態に係る植物用組成物は、酵母細胞壁分解物及びヒスチジンを含有する。以下、各成分について詳述する。
【0011】
<成分>
(酵母細胞壁分解物)
酵母細胞壁分解物は、酵母細胞壁を酵素(例えば、グルカナーゼを含む酵素)で処理することによって得られたものである。ここで、酵母細胞壁分解物は、例えば、特許文献1~7に記載されている手法にて製造され得る。まず、原料として用いる酵母細胞壁としては、酵母そのものを用いてもよく;自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素等を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物や植物由来の酵素製剤を添加して可溶化する方法)、熱水抽出法(熱水中に一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸若しくはアルカリ分解法(種々の酸又はアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や、高圧ホモジェナイズ法、グラスビーズ等の固形物と混合して混合・磨砕することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行うことにより破砕する方法)等により得られた細胞壁を用いてもよく;酵母から酵母エキスを抽出した後の残渣を用いてもよい。ここで、酵母は、例えば、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、トルラ酵母、その他アルコール発酵用酵母等を挙げることができる。また、酵母細胞壁を分解する酵素としては、グルカナーゼ、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、トランスグルコシダーゼ、デキストラナーゼ、グルコースイソメラーゼ、セルラーゼ、ナリンギナーゼ、ヘスペリジナーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、キチナーゼ、リゾチーム、イヌリナーゼ、キトサナーゼ、α-ガラクトシダーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、酸性フォスファターゼ、ホスホジエステラーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヌクレアーゼ等の酵素を用いることができる。
【0012】
(ヒスチジン)
ヒスチジンは、2-アミノ-3 (1H-4-イミダゾリル)-プロピオン酸と称されるアミノ酸である。ここで、ヒスチジンは、L体、D体のいずれであってもよく、L体及びD体を任意の割合で含む混合物であってもよく、ヒスチジン同士又は他のアミノ酸と化合していてもよい(例えば、ラセミ化合物)。好適には、L体のヒスチジンである。また、ヒスチジンは、フリー体であってもよく、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩、酢酸塩等の塩であってもよく、これらの混合物であってもよい。更に、ヒスチジンは、分解等によりヒスチジンを生じる成分(プロドラッグ)の形態で存在していてもよい。尚、上述した塩やプロドラック等も、本明細書及び本特許請求の範囲におけるヒスチジン(ヒスチジン類)に含まれる。
【0013】
(他の成分)
本形態に係る組成物は、他の成分を含んでいてもよい。このような成分として、例えば、溶媒、界面活性剤、担体、鉱物油、動植物油、水溶性高分子、増粘剤、消泡剤、pH調整剤、展着剤、バインダー、増量剤、従来公知の農業資材(農薬及び肥料;環境への負荷を軽減する観点から、好適には、放線菌等の細菌類や酵母等の微生物由来成分)等が挙げられる。また、本形態に係る組成物は、酵母細胞壁分解物とは別のバイオスティミュラント資材を含んでいてもよい。別のバイオスティミュラント資材として、例えば、腐食酸、ミネラル、海藻抽出物等が挙げられる。また、本形態に係る組成物は、ヒスチジン以外のアミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン、プロリン、オルニチン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、アラニン、バリン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、アスパラギン、チロシン、シトルリン)を含んでいてもよい。
【0014】
<配合>
本形態に係る組成物における、酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、前記ヒスチジンの質量比が、1/500~1であることが好適であり、1/250~1/2であることがより好適であり、1/100~1/2であることが更に好適である。
【0015】
<性質>
本形態に係る組成物は、非生物学的ストレスに対する耐性を植物に付与し得る性質を有する。ここで、「植物の非生物学的ストレス」とは、植物の環境に起因するストレスであり、病気や害虫による生物学的ストレスと区別される。「非生物学的ストレス」は、非生物的ストレス、環境ストレスともいう。非生物学的ストレスとして、例えば、高温ストレス、低温ストレス、浸透圧ストレス、酸化ストレス、傷害ストレス、乾燥ストレス等がある。まず、「高温ストレス」は、好適な栽培温度と比較して、5℃以上又は10℃以上高い温度環境を指す。好適な栽培温度は、植物の種類や時期によって適宜決定されるが、通常の栽培温度が15℃以上30℃以下であることを考慮すると、高温ストレスは、35℃以上又は40℃以上の環境を指す。植物がこのような環境にあると、細胞内タンパク質等の変性や細胞内タンパク質複合体の解離等が起こり、葉焼け、葉のしおれ、茎、葉及び根の伸長阻害、花の奇形発生、花落ち、果実の糖度低下並びにサイズの減少等の症状が現れる場合がある。次に、「低温ストレス」は、好適な栽培温度と比較して、5℃以上又は10℃以上低い温度環境を指す。好適な栽培温度は、植物の種類や時期によって適宜決定される。植物がこのような環境にあると、植物内に毒性物質及び異常な代謝産物の蓄積等が生じ、葉の枯死等の症状が現れる場合がある。次に、「浸透圧ストレス」は、低浸透圧環境及び高浸透圧環境の2つに分けられるが、主に高浸透圧環境を指す(高浸透圧環境を、塩ストレス、脱水ストレスともいう)。ここで、浸透圧ストレスは、具体的には、植物の根圏の浸透圧(水ポテンシャルともいう)が、細胞の浸透圧と比較して、0.5MPa以上、1.0MPa以上又は5.0MPa以上の差がある環境を指す。高浸透圧環境では、細胞の原形質分離が起こり、水分吸収が充分に行えずに水分欠乏状態となるため、気孔閉塞、葉面積の減少、葉の巻き込み、光合成の低下等の症状が現れる場合がある。また、植物内に蓄積した過剰量のイオンによって、代謝が阻害され、葉の枯死、生長不良等の症状が現れる場合もある。次に、「酸化ストレス」とは、強光や土壌成分等に起因する過剰な酸化還元反応状態を指す。酸化ストレスは、例えば、植物中の活性酸素種(ROS)の量を測定することにより検出できる。酸化還元反応により発生した活性酸素種により、葉焼け等の症状が現れる場合がある。次に、「傷害ストレス」とは、他の物体との物理的接触や、風、及び病害虫等による摂食や侵入等による物理的な傷害に起因するストレスを指す。傷害ストレスは、例えば、植物中のサリチル酸、ジャスモン酸、エチレン等の量を測定することにより検出できる。植物が傷害ストレス下にあると、葉のしおれ、茎及び葉の伸長阻害等の症状が現れる場合がある。次に、「乾燥ストレス」とは、植物が水分欠乏(乾燥)状態になったときに起こるストレスを指す。乾燥ストレスは、例えば、植物中のアブシジン酸の量を測定することにより測定できる。植物が乾燥ストレス下にあると、気孔閉塞、光合成の低下、呼吸増加、茎、葉及び根の伸長阻害等の症状が現れる場合がある。尚、本明細書において「非生物学的ストレスに対する耐性を付与する」とは、上述した種々の非生物学的ストレスに直接的に耐性を付与する場合に加えて、病害虫ストレス(病害虫による生物学的なストレスであって、傷害ストレスを含まない)及び要素ストレス(生育に必要な栄養源の不足又は過剰)等の生物学的ストレスを疑似的に誘導することにより、植物内のシグナル伝達経路や生理機能(例えば、植物ホルモンの誘導及び代謝)を変化させて、間接的に又は結果的に非生物学的ストレスに対する耐性を付与する場合を含む。「(植物の)生育に必要な栄養源」として、例えば、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、硫黄、銅、亜鉛、ホウ素、マンガン、モリブデン等が挙げられる。
【0016】
植物ホルモン誘導が亢進しているか否かは、植物中の植物ホルモン量を測定することによって判断することができる。測定する植物ホルモンとして、例えば、サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン、アブシジン酸、サリチル酸、ストリゴラクトン、ジャスモン酸、エチレン、ブラシノステドイド、フロリゲン等が挙げられる。植物ホルモン量の測定には、従来公知の植物ホルモン分析法を使用することができる。植物ホルモン分析法として、例えば、質量分析等の機器分析や、各種のバイオアッセイ等が挙げられる。また、植物ホルモン誘導及び/又は代謝が亢進しているか否かは、植物ホルモン誘導及び代謝に関する遺伝子発現を解析することによって判断することもできる。植物ホルモン誘導及び代謝に関する遺伝子として、例えば、DREB1A等が挙げられる。
【0017】
本実施形態に係る組成物は、上述の非生物学的ストレスのうち、少なくとも1つ以上に対する耐性を付与することができる。非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、植物の形質によって判断することができる。植物の形質としては、植物の全体重量(バイオマス量ともいう)、地上部長(茎の最下端からの株の高さ)、地上部重量、根部重量、根重量比率(植物の全体重量に対する根部重量)、葉焼けの有無、葉のしおれの有無、花の奇形発生の有無、花落ちの有無、果実の糖度及びサイズ、収穫量等が挙げられる。植物が非生物学的ストレス下にあると、植物の形質の度合いが低下し得る。尚、植物における地上部と根部とは、色(地上部は緑色、根部は白色となる傾向がある)及び形(地上部は植物細胞の繊維が顕微鏡等により確認できる)から分類することができる。「植物の形質の度合いが低下する」とは、例えば、全体重量、地上部長、地上部重量、根部重量、果実の糖度及びサイズ並びに収穫量の低下や、葉焼け、葉のしおれ、花の奇形、花落ちの発生及び発生率の増加等を意味する。尚、本明細書において、「(ストレスに対する)耐性を付与する」とは、必ずしもストレスに対して完全な耐性を付与することを意味しない。即ち、ストレスがない場合の植物の形質の度合いを100%、ストレス下で本実施形態に係る組成物を投与しない場合の度合いを0%としたとき、ストレス下で本実施形態に係る組成物を投与して、ストレスによって低下した植物の形質の度合が、10%以上又は30%以上回復することを意味し、好ましくは50%以上、70%以上又は80%以上回復することを意味する。また、本実施形態に係る組成物を使用しない条件において全く生育が認められない場合に、組成物の投与により生育が認められるようになる場合も含む。
【0018】
尚、通常の栽培環境において、植物は何らかの非生物学的ストレス下にあるといえる。したがって、非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、通常の栽培環境において、候補となる組成物を植物に投与することで判断できる。この場合、非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かは、候補となる組成物を植物に投与しない場合と比べて、植物の形質の度合いが向上するか否かにより判断することができる。但し、組成物の成分が肥料(植物の栄養源自体となる従来の資材)として作用し得る場合もある。このような場合を排除するため、栄養源が充分にある環境において、候補となる組成物を植物に投与することで、該組成物により非生物学的ストレスに対する耐性が付与されたか否かを判断することが好ましい。栄養源が充分にある環境は、例えば、水稲水耕の場合、木村氏B液の栄養源組成(表1参照)以上の培地を用いることで達成できる。また、組成物による影響を検出しやすくするために、組成物投与前の植物を飢餓状態(栄養源が充分でない状態)としてもよい。植物の飢餓状態は、従来公知の必要十分量未満の栄養源を含む培地を用いることができる。例えば、水稲水耕の場合、木村氏B液の少なくとも1つの栄養源が下記組成未満の培地を用いて一定期間(例えば、1日又は1週間以上)栽培することにより、飢餓状態とすることができる。
【0019】
【表1】
【0020】
≪植物用組成物の使用方法≫
本形態に係る組成物は、植物に投与することが好適である。ここで、投与対象となる植物は、特に限定されない。本形態に係る植物は、被子植物(単子葉植物及び双子葉植物)、裸子植物、シダ植物、コケ植物及び藻類を含む。また、本実施形態に係る植物は、樹木及び草本を含む。本実施形態に係る組成物は、地上部長を増加可能なため、好ましくは農業用植物、園芸用植物及び林業用植物に投与できる。農業用植物として、例えば、アオイ科植物(オクラ等)、アブラナ科植物(カブ、カリフラワー、キャベツ、コマツナ、ダイコン、チンゲンサイ、ハクサイ、ブロッコリー、ミズナ等)、イネ科植物{イネ(水稲及び陸稲を含む)、トウモロコシ等}、ウリ科植物(カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン等)、キク科植物(レタス等)、キジカクシ科植物(アスパラガス等)、クワ科植物(イチジク等)、サトイモ科植物(サトイモ等)、シソ科植物(シソ等)、ショウガ科植物(ショウガ等)、セリ科植物(セロリ、ニンジン等)、タデ科植物(ソバ等)、ナス科植物(トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、ジャガイモ、トウガラシ等)、ネギ科植物(タマネギ、ニラ、ニンニク、ネギ等)、バラ科植物(イチゴ、リンゴ等)、ヒユ科植物(テンサイ、ホウレンソウ等)、ヒルガオ科植物(サツマイモ等)、マメ科植物(インゲン、エダマメ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ダイズ等)、ヤマノイモ科植物(ヤマイモ等)等が挙げられる。
【0021】
本形態に係る組成物を植物に投与する際における、該組成物における酵母細胞壁分解物量(乾燥質量)は、該組成物の全質量に対し、0.00001~30質量%の割合となることが好適であり、0.001~0.1質量%の割合となることがより好適である。また、該組成物におけるヒスチジン量は、該組成物の全質量に対し、0.0001~0.1質量%の割合となることが好適であり、0.0002~0.05質量%の割合となることがより好適である。尚、酵母細胞壁分解物及びヒスチジンは、培地に添加して用いることが好適である。ここで、培地とは、植物の根圏にある栄養源を含む固体(例えば、土壌、苗床等)又は液体(例えば、水耕栽培用液体)を指す。培地への添加方法は、特に限定されず、栽培中の植物の培地に直接本形態に係る組成物を添加してもよく、ある容器にて栽培中の植物を、別の本形態に係る組成物を含む培地が入った容器に移動してもよい。
【0022】
本形態に係る組成物の投与時期は、植物の栽培期間中の任意の時期に設定でき、発芽から種子の成熟までのいずれの時期であってもよい。本形態に係る組成物の投与時期は、好ましくは栄養生長期及び生殖生長期である。
【0023】
本形態に係る組成物の投与頻度は、組成物中の酵母細胞壁酵素分解物及び/又はヒスチジンの濃度、投与量、投与方法、投与時期等により任意に設定できる。本実施形態に係る組成物の投与頻度は、例えば、3日に一度又は1週間に一度であってもよい。
【0024】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【実施例0025】
<植物の形質への影響評価>
対象培地の投与による植物の形質への影響を評価するため、水稲(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)の苗を用意した。発芽後7日以内の苗について、木村氏B液を希釈した培地(以下、飢餓培地ともいう)で栽培して、飢餓状態とした。
【0026】
飢餓状態の苗を、特開2005-333980号公報記載の実施例1に係る酵母細胞壁液(以下、「CW1」という)とヒスチジンとを第一の比(酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、ヒスチジンの質量比が、1/9)で含有する、木村氏B液を濃縮した培地(以下、「栄養培地」という)(実施例1)、第二の比(酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、ヒスチジンの質量比が、2/9)で含有する栄養培地(実施例2)、第三の比(酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、ヒスチジンの質量比が、4/9)で含有する栄養培地(実施例3)、CW1を実施例1と同様の濃度で含有する栄養培地(比較例)にそれぞれ移した。移した各苗について、栽培温度25~30℃、約24時間の明暗周期条件にて、栽培した。
【0027】
栽培した各苗について、地上部長、地上部重量及び総バイオマス量を測定した。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
その結果、CW1のみを含有する栄養培地(比較例)と比較し、CW1とヒスチジンとを含有する栄養培地(実施例1~3)は、地上部長、地上部重量及び総バイオマス量のいずれの項目についても、CW1のみを含有する栄養培地よりも上回る結果となった。尚、図1は、比較例と実施例1の試験結果写真である。このように、酵母細胞壁分解物とヒスチジンとの組み合わせは、植物の栄養源が十分にある試験系において、CW1単独と比較した場合、地上部の増加(又は減少抑制)を促すことができるという、バイオスティミュラント資材として作用していることが確認された。

図1
【手続補正書】
【提出日】2023-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞壁分解物及びヒスチジンを含有する、非生物学的ストレスに対する耐性を植物に付与する組成物である植物用組成物。
【請求項2】
前記酵母細胞壁分解物の乾燥質量に対する、前記ヒスチジンの質量比が、1/500~1である、請求項1記載の植物用組成物。
【請求項3】
前記酵母がビール酵母である、請求項1記載の植物用組成物。