(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115937
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/16 20060101AFI20240820BHJP
H01J 35/20 20060101ALI20240820BHJP
H01J 35/14 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H01J35/16
H01J35/20
H01J35/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021854
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮迪
(57)【要約】
【課題】カソードの劣化を抑制することができるX線管を提供する。
【解決手段】X線管1は、筐体2と、筐体2内に配置されており、電子を放出するカソード32と、筐体2内に配置されており、電子の入射によってX線を発生させるターゲット4と、筐体2内においてカソード32を包囲している第1筒体35と、第1筒体35の内側の領域のうち、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域に配置されたゲッタ5と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に配置されており、電子を放出するカソードと、
前記筐体内に配置されており、前記電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体内において前記カソードを包囲している第1筒体と、
前記第1筒体の内側の領域のうち、前記カソードから前記ターゲットに至る前記電子の軌道を見通せない領域に配置されたゲッタと、を備える、X線管。
【請求項2】
前記筐体内に配置されており、前記カソードから放出された前記電子を前記ターゲットに集束させる集束電極と、
前記第1筒体の内側の前記領域において前記集束電極を支持していると共に前記カソードを包囲している第2筒体と、を更に備え、
前記第2筒体には、前記第2筒体の内側の領域及び前記第2筒体の外側の領域に開口している少なくとも一つの開口が形成されており、
前記ゲッタは、前記第1筒体と前記第2筒体との間の領域に配置されている、請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記ゲッタは、前記開口と向かい合っている、請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記第1筒体及び前記第2筒体は、前記集束電極と同電位となるように前記集束電極と電気的に接続されている、請求項2に記載のX線管。
【請求項5】
前記第1筒体の内側の前記領域において前記ゲッタを支持しているワイヤを更に備える、請求項1に記載のX線管。
【請求項6】
前記ゲッタは、非蒸発型ゲッタである、請求項5に記載のX線管。
【請求項7】
前記ゲッタは、前記第1筒体の内面に膜状に形成されている、請求項1に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
筐体と、筐体内において電子を放出するカソードと、筐体内において電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、を備えるX線管が知られている。このようなX線管として、特許文献1には、筐体内で発生したガスを吸着させるためのゲッタを備えるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のX線管では、筐体内の空間のうち、カソードを収容している電子銃の外側の空間に、ゲッタが配置されている。そのため、カソード近傍の部材から放出されたガスが、ゲッタに吸着される前にカソードに付着するおそれがある。ガスがカソードに付着すると、カソードが劣化し、カソードから電子が放出されにくくなる。
【0005】
本発明は、カソードの劣化を抑制することができるX線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のX線管は、[1]「筐体と、前記筐体内に配置されており、電子を放出するカソードと、前記筐体内に配置されており、前記電子の入射によってX線を発生させるターゲットと、前記筐体内において前記カソードを包囲している第1筒体と、前記第1筒体の内側の領域のうち、前記カソードから前記ターゲットに至る前記電子の軌道を見通せない領域に配置されたゲッタと、を備える、X線管」である。
【0007】
上記[1]に記載のX線管では、カソードを包囲している第1筒体の内側の領域にゲッタが配置されている。これにより、第1筒体の内側の領域において、カソード近傍の部材から放出されたガスをゲッタに効率良く吸着させることができる。また、第1筒体の内側の領域のうち、カソードからターゲットに至る電子の軌道を見通せない領域に、ゲッタが配置されている。これにより、ゲッタに電子が衝突することに起因して、ゲッタに吸着されたガスがゲッタから第1筒体の内側の領域に再放出されるのを抑制することができる。よって、上記[1]に記載のX線管によれば、ガスの付着に起因するカソードの劣化を抑制することができる。
【0008】
本発明のX線管は、[2]「前記筐体内に配置されており、前記カソードから放出された前記電子を前記ターゲットに集束させる集束電極と、前記第1筒体の内側の前記領域において前記集束電極を支持していると共に前記カソードを包囲している第2筒体と、を更に備え、前記第2筒体には、前記第2筒体の内側の領域及び前記第2筒体の外側の領域に開口している少なくとも一つの開口が形成されており、前記ゲッタは、前記第1筒体と前記第2筒体との間の領域に配置されている、上記[1]に記載のX線管」であってもよい。当該[2]に記載のX線管によれば、例えば、第2筒体の内側の領域に配置されたヒータの輻射熱によってゲッタが過度に加熱されることや、例えば、第2筒体の内側の領域に配置された配線にゲッタが接触することを抑制して、ゲッタを好適に機能させることができる。なお、ヒータの輻射熱によってゲッタが過度に加熱されると、ゲッタに吸着されたガスが脱離によってゲッタから第1筒体の内側の領域に再放出されるおそれがある。また、配線にゲッタが接触すると、X線管の各部に電圧が適切に印加されないおそれがある。
【0009】
本発明のX線管は、[3]「前記ゲッタは、前記開口と向かい合っている、上記[2]に記載のX線管」であってもよい。当該[3]に記載のX線管によれば、カソード近傍の部材から放出されたガスを、開口を介してゲッタに効率良く吸着させることができる。
【0010】
本発明のX線管は、[4]「前記第1筒体及び前記第2筒体は、前記集束電極と同電位となるように前記集束電極と電気的に接続されている、上記[2]又は[3]に記載のX線管」であってもよい。当該[4]に記載のX線管によれば、カソード周りの電界を安定させて、カソードを好適に機能させることができる。
【0011】
本発明のX線管は、[5]「前記第1筒体の内側の前記領域において前記ゲッタを支持しているワイヤを更に備える、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のX線管」であってもよい。当該[5]に記載のX線管によれば、第1筒体の内側の領域に露出するゲッタの表面積を増加させて、カソード近傍の部材から放出されたガスをゲッタに効率良く吸着させることができる。
【0012】
本発明のX線管は、[6]「前記ゲッタは、非蒸発型ゲッタである、上記[5]に記載のX線管」であってもよい。当該[6]に記載のX線管によれば、ゲッタをブロック状に形成して、第1筒体の内側の領域に露出するゲッタの表面積を増加させることができる。
【0013】
本発明のX線管は、[7]「前記ゲッタは、前記第1筒体の内面に膜状に形成されている、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のX線管」であってもよい。当該[7]に記載のX線管によれば、第1筒体の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カソードの劣化を抑制することができるX線管を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態のX線管を備えるX線発生装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[X線発生装置の構成]
【0017】
図1に示されるように、X線発生装置10は、X線管1と、保持部11と、電源部12と、給電部13と、を備えている。本実施形態では、X線発生装置10は、X線非破壊検査に用いられる微小焦点X線源として構成されている。
【0018】
保持部11は、X線管1を保持している。保持部11は、金属によって筒状に形成されている。保持部11の一端部111には、X線管1が液密に取り付けられている。より具体的には、X線管1の筐体2のうちのヘッド21が一端部111の開口111aの内側に配置され且つX線管1の筐体2のうちのバルブ22が保持部11の内側に配置された状態で、ヘッド21が一端部111に液密に取り付けられている。保持部11の他端部112には、電源部12が液密に取り付けられている。保持部11の内部には、絶縁油が封入されている。
【0019】
電源部12は、X線管1に印加するための高電圧を発生させる。電源部12は、電源ケース121と、絶縁ブロック122と、昇圧部123と、を有している。電源ケース121は、絶縁ブロック122及び昇圧部123を収容している。電源ケース121は、金属によって箱状に形成されている。昇圧部123は、絶縁ブロック122中に埋設されている。絶縁ブロック122は、絶縁材料(例えば、エポキシ樹脂等)によってブロック状に形成されている。昇圧部123は、X線発生装置10の外部から導入された電圧を昇圧し、高電圧を発生させる。
【0020】
給電部13は、電源部12からX線管1に電力を供給する。給電部13は、複数の配線を有している。給電部13は、電源ケース121の開口121a及び保持部11の他端部112の開口112aを介して、昇圧部123からX線管1に延在している。給電部13の一端部13aは、X線管1と電気的に接続されている。給電部13の他端部13bは、昇圧部123と電気的に接続されている。
[X線管の構成]
【0021】
図2に示されるように、X線管1は、筐体2と、電子銃3と、ターゲット4と、ゲッタ5と、を備えている。本実施形態では、X線管1は、部品の交換が不要な密封透過型X線管として構成されている。
【0022】
筐体2は、電子銃3、ターゲット4及びゲッタ5を収容している。筐体2内の空間は、真空引きが実施された空間である。筐体2は、ヘッド21と、バルブ22と、窓部材23と、を有している。ヘッド21は、金属(例えば、ステンレス、銅、銅合金、鉄合金等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。バルブ22は、絶縁材料(例えば、ガラス、セラミック等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。窓部材23は、X線透過材料(例えば、ベリリウム、アルミニウム、ダイヤモンド等)によって、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。
【0023】
窓部材23は、ヘッド21の一端部211の開口211aを塞いだ状態で、ヘッド21の一端部211に気密に取り付けられている。バルブ22の一端部221は、ヘッド21の他端部212の開口212aがバルブ22の内側に配置された状態で、金属(例えば、コバール等)からなるバルブフランジ24を介して、ヘッド21に気密に取り付けられている。バルブ22の他端部は、内側に折り返されることで内筒部222を構成している。内筒部222の端部222aには、金属(例えば、コバール等)からなるバルブフランジ25及びステムフランジ26を介して、ステム27が気密に取り付けられている。ステム27は、絶縁材料(例えば、ガラス、セラミック等)によって、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。
【0024】
ステム27には、複数のステムピン28が設けられている。各ステムピン28は、互いに電気的に絶縁され且つ気密を維持した状態で、ステム27を貫通している。X線発生装置10では、給電部13の一端部13aが(
図1参照)内筒部222の内側において複数のステムピン28と電気的に接続されている。
【0025】
電子銃3は、筐体2内において電子ビームBを出射する。電子銃3は、筐体2内においてステム27上に配置されている。電子銃3は、ヒータ31と、カソード32と、電流調整電極33と、集束電極34と、第1筒体35と、第2筒体36と、複数の支持部材(図示省略)と、を有している。
【0026】
ヒータ31は、筐体2内に配置されている。ヒータ31は、例えば、通電によって発熱するフィラメントによって構成されている。ヒータ31は、対応するステムピン28と電気的に接続されている。
【0027】
カソード32は、筐体2内に配置されている。カソード32は、ヒータ31によって加熱されることで電子を放出する傍熱型のカソードである。傍熱型のカソード32は、例えば、多孔質タングステンにアルカリ土類金属の酸化物が含浸した含浸型カソードであり、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。カソード32は、対応するステムピン28と電気的に接続されている。なお、カソード32は、ヒータ31によって加熱される傍熱型のカソードに限定されず、直熱型のカソードであってもよい。直熱型のカソード32は、対応するステムピン28と電気的に接続され、カソード32に対する通電によって加熱されることで電子を放出する。直熱型のカソード32は、例えば、タングステン等の高融点金属フィラメント、六ホウ化ランタン(LaB6)からなる部材、六ホウ化セリウム(CeB6)からなる部材等である。
【0028】
電流調整電極33は、筐体2内に配置されている。電流調整電極33は、カソード32に対して窓部材23側に位置している。電流調整電極33は、金属(例えば、モリブデン等)によって、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。電流調整電極33には、管軸Aを中心線とする貫通孔33aが形成されている。電流調整電極33は、カソード32から放出される電子の量を調整する。電流調整電極33は、対応するステムピン28と電気的に接続されている。
【0029】
集束電極34は、筐体2内に配置されている。集束電極34は、電流調整電極33に対して窓部材23側に位置している。集束電極34は、金属(例えば、モリブデン等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。本実施形態では、集束電極34は、側壁341と、底壁342と、を有している。側壁341は、管軸Aを中心線とする円筒状に形成されている。底壁342は、側壁341における電流調整電極33側の端部において、側壁341と一体で形成されている。底壁342には、管軸Aを中心線とする貫通孔34aが形成されている。貫通孔34aの内径は、例えば、0.3~0.5mm程度である。集束電極34は、カソード32から放出されて電流調整電極33を通過した電子を、電子ビームBとしてターゲット4に集束させる。集束電極34は、電子ビームBを構成する電子を引き出すための電界を形成する引出し電極としても機能する。
【0030】
第1筒体35は、筐体2内に配置されている。第1筒体35は、金属(例えば、ステンレス等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。管軸Aに平行な方向における第1筒体35の一端部35aは、例えば溶接によって、集束電極34に固定されている。本実施形態では、第1筒体35は、一端部35aを含む第1部分351と、他端部35bを含む第2部分352と、を有している。第1部分351は、集束電極34とは反対側に向かって拡がる円錐台筒状に形成されている。第2部分352は、円筒状に形成されており、第1部分351における集束電極34とは反対側の端部において、第1部分351と一体で形成されている。
【0031】
第1筒体35は、ヒータ31、カソード32、電流調整電極33、第2筒体36、複数の支持部材、ステム27、及びバルブ22の内筒部222の端部222aを包囲している。つまり、ヒータ31、カソード32、電流調整電極33、第2筒体36、複数の支持部材、ステム27、及びバルブ22の内筒部222の端部222aは、第1筒体35の内側の領域に配置されている。管軸Aに平行な方向における第1筒体35の他端部35bと、バルブ22の内筒部222の端部222aとの間には、環状の隙間が形成されている。当該隙間の幅は、例えば、5mm程度である。
【0032】
第2筒体36は、第1筒体35の内側の領域において集束電極34を支持している。第2筒体36は、金属(例えば、ステンレス等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。管軸Aに平行な方向における第2筒体36の一端部36aは、例えば溶接によって、集束電極34に固定されている。管軸Aに平行な方向における第2筒体36の他端部36bは、例えば溶接によって、ステムフランジ26に固定されている。第2筒体36は、ヒータ31、カソード32、電流調整電極33、複数の支持部材、及び複数のステムピン28のうち筐体2内に位置している部分を包囲している。つまり、ヒータ31、カソード32、電流調整電極33、複数の支持部材、及び複数のステムピン28のうち筐体2内に位置している部分は、第2筒体36の内側の領域に配置されている。第2筒体36は、ステムフランジ26を介して、対応するステムピン28と電気的に接続されており、集束電極34に対する給電経路としても機能する。なお、第1筒体35及び第2筒体36は、集束電極34と同電位となるように集束電極34と電気的に接続されている。
【0033】
複数の支持部材は、電流調整電極33と集束電極34との間に配置されている。複数の支持部材は、互いに離間した状態で、管軸Aを中心線として等ピッチで並んでいる。各支持部材は、絶縁材料(例えば、セラミック等)によって形成されている。
【0034】
ターゲット4は、筐体2内に配置されている。具体的には、ターゲット4は、管軸A上において、窓部材23における内側の表面に配置されている。ターゲット4は、電子ビームB(電子)の入射によってX線Rを発生させる。ターゲット4は、例えば、タングステン、モリブデン、銅等によって、窓部材23における内側の表面に膜状に形成されている。ターゲット4は、ヘッド21と電気的に接続されている。一例として、ターゲット4及びヘッド21は、接地電位とされる。
【0035】
図3に示されるように、ゲッタ5は、第1筒体35の内側の領域のうち、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域に配置されている。カソード32からターゲット4に至る電子の軌道とは、カソード32からターゲット4に至る電子ビームBの中心線を意味し、本実施形態では、管軸Aのうちカソード32とターゲット4とを結ぶ部分に一致している。カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域とは、「その領域内の任意の点」と「カソード32からターゲット4に至る電子の軌道上の任意の点」とを結ぶ線分上に何らかの部材が存在する領域を意味する。一方、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せる領域とは、「その領域内の任意の点」と「カソード32からターゲット4に至る電子の軌道上の任意の点」とを結ぶ線分上に何らの部材も存在しない領域を意味する。
図3では、ドットハッチングが施された領域が、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せる領域である。ゲッタ5が占めている領域は、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域である。
【0036】
本実施形態では、ゲッタ5は、第1筒体35と第2筒体36との間の領域に配置されており、第2筒体36に形成された複数の開口36cの一つと向かい合っている。第2筒体36において、各開口36cは、第2筒体36の内側の領域及び第2筒体36の外側の領域に開口している。複数の開口36cは、互いに離間した状態で、管軸Aを中心線として等ピッチで並んでいる。
【0037】
ゲッタ5は、第1筒体35と第2筒体36との間の領域において一対のワイヤ6によって支持されている。各ワイヤ6は、金属ワイヤである。一方のワイヤ6は、支持部材61とゲッタ5との間に掛け渡されている。支持部材61は、第2筒体36から第1筒体35側に突出した金属部材である。支持部材61は、例えば溶接によって、第2筒体36に固定されている。一方のワイヤ6は、例えば溶接によって、支持部材61及びゲッタ5のそれぞれに固定されている。他方のワイヤ6は、支持部材62とゲッタ5との間に掛け渡されている。支持部材62は、ゲッタ5が向かい合っている開口36cを介してステムピン28の一つから第1筒体35側に突出した金属部材である。支持部材62は、例えば溶接によって、ステムピン28の一つに固定されている。他方のワイヤ6は、例えば溶接によって、支持部材62及びゲッタ5のそれぞれに固定されている。
【0038】
ゲッタ5は、非蒸発型ゲッタである。非蒸発型ゲッタは、真空中で加熱されることで、ガスを化学的に吸着し得る表面が形成されたゲッタである。ゲッタ5の材料は、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、又はこれらの金属を含む合金である。一例として、X線管1の製造時に、筐体2内の空間に対して真空引きが実施されつつ、ステムピン28の一つ、支持部材62、及び他方のワイヤ6を介した通電によってゲッタ5が加熱されることで、ゲッタ5が活性化される(すなわち、ガスを化学的に吸着し得る表面が形成される)。
【0039】
以上のように構成されたX線管1では、ターゲット4及びヘッド21の電位を基準として負の高電圧が電源部12によって電子銃3に印加される。一例として、電源部12は、ターゲット4及びヘッド21が接地電位とされた状態で、負の高電圧(例えば、-10kV~-500kV)を、給電部13及び各ステムピン28を介して電子銃3の各部に印加する。電子銃3から出射された電子ビームBは、管軸Aに沿ってターゲット4上に集束される。ターゲット4における電子ビームBの照射領域において発生したX線Rは、当該照射領域を焦点として、ターゲット4及び窓部材23を透過して外部に出射される。
【0040】
X線管1の動作中、カソード32及びターゲット4は、高温(例えば、1000℃程度)になる。そのため、カソード32の輻射熱によって加熱されたカソード32近傍の部材(例えば、電流調整電極33、集束電極34におけるカソード32側の端部等)、及びターゲット4は、筐体2内にガスを放出する場合がある。その場合、カソード32近傍の部材から放出されたガスは、第1筒体35の内側の領域に留まりやすく、ターゲット4から放出されたガスは、第1筒体35の内側の領域に進入しにくい。それは、第1筒体35の内側の領域と第1筒体35の外側の領域とが、狭い領域(すなわち、集束電極34の貫通孔34a、及び、第1筒体35の他端部35bとバルブ22の内筒部222の端部222aとの間の環状の隙間)を介して連通しているからである。そのため、カソード32近傍の部材から放出されたガスは、第1筒体35の内側の領域においてゲッタ5によって吸着されやすく、ターゲット4から放出されたガスは、カソード32に付着しにくい。
[作用及び効果]
【0041】
X線管1では、カソード32を包囲している第1筒体35の内側の領域にゲッタ5が配置されている。これにより、第1筒体35の内側の領域において、カソード32近傍の部材から放出されたガスをゲッタ5に効率良く吸着させることができる。また、第1筒体35の内側の領域のうち、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域に、ゲッタ5が配置されている。これにより、ゲッタ5に電子が衝突することに起因して、ゲッタ5に吸着されたガスがゲッタ5から第1筒体35の内側の領域に再放出されるのを抑制することができる。よって、X線管1によれば、ガスの付着に起因するカソード32の劣化を抑制することができる。
【0042】
X線管1では、第1筒体35の内側の領域において集束電極34を支持していると共にカソード32を包囲している第2筒体36に、複数の開口36cが形成されており、ゲッタ5が、第1筒体35と第2筒体36との間の領域に配置されている。これにより、第2筒体36の内側の領域に配置されたヒータ31の輻射熱によってゲッタ5が過度に加熱されることや、第2筒体36の内側の領域に配置された配線にゲッタ5が接触することを抑制して、ゲッタ5を好適に機能させることができる。なお、ヒータ31の輻射熱によってゲッタ5が過度に加熱されると、ゲッタ5に吸着されたガスが脱離によってゲッタ5から第1筒体35の内側の領域に再放出されるおそれがある。また、配線にゲッタ5が接触すると、X線管1の各部に電圧が適切に印加されないおそれがある。
【0043】
X線管1では、ゲッタ5が、第2筒体36に形成された開口36cと向かい合っている。これにより、カソード32近傍の部材から放出されたガスを、開口36cを介してゲッタ5に効率良く吸着させることができる。また、X線管1の製造時におけるゲッタ5の活性化の際に、熱伝導によって第2筒体36を介して熱が逃げるのを抑制することができるため、ゲッタ5を効率良く且つ均一に加熱することができる。
【0044】
X線管1では、第1筒体35及び第2筒体36が、集束電極34と同電位となるように集束電極34と電気的に接続されている。これにより、カソード32周りの電界を安定させて、カソード32を好適に機能させることができる。
【0045】
X線管1では、第1筒体35の内側の領域においてゲッタ5がワイヤ6によって支持されている。これにより、第1筒体35の内側の領域に露出するゲッタ5の表面積を増加させて、カソード32近傍の部材から放出されたガスをゲッタ5に効率良く吸着させることができる。
【0046】
X線管1では、ゲッタ5は、非蒸発型ゲッタである。これにより、ゲッタ5をブロック状に形成して、第1筒体35の内側の領域に露出するゲッタ5の表面積を増加させることができる。
[変形例]
【0047】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図4に示されるように、ゲッタ5は、第1筒体35の内面35cに膜状に形成されていてもよい。これによれば、第1筒体35の小型化を図ることができる。その場合、ゲッタ5は、蒸発型ゲッタであってもよい。蒸発型ゲッタは、蒸着又はスパッタリングによって生じる金属薄膜の気体吸着作用を利用したゲッタである。ゲッタ5の材料は、例えば、バリウムである。
【0048】
また、第1筒体35と第2筒体36との間の領域に配置されたゲッタ5は、第2筒体36に形成された開口36cと向かい合っていなくてもよい。また、ゲッタ5は、第1筒体35の内側の領域のうち、カソード32からターゲット4に至る電子の軌道を見通せない領域に配置されていれば、第1筒体35と第2筒体36との間の領域に配置されていなくてもよい。ゲッタ5は、ワイヤ6以外の部材によって支持されていてもよい。また、X線管1は、密封反射型X線管として構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…X線管、2…筐体、4…ターゲット、5…ゲッタ、6…ワイヤ、32…カソード、34…集束電極、35…第1筒体、35c…内面、36…第2筒体、36c…開口。