(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115965
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】吸水速乾性セルロース紡績糸及び製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/39 20060101AFI20240820BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
D06M15/39
D06M10/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021902
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山形 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 大輔
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA02
4L031AB01
4L031AB21
4L031CA06
4L031CB07
4L031DA08
4L033AA02
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC03
4L033AC15
4L033CA33
(57)【要約】
【課題】 速乾性についての高い耐洗濯性と良好な風合いとの両立がなされた、吸水速乾性セルロース紡績糸、及びその製造方法、並びにそれを用いた繊維構造体を提供する。
【解決手段】 本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸は、セルロース繊維を含む紡績糸であって、グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と、未処理セルロース繊維を含み、吸水速乾性を有する。本発明の製造方法は、ワタ状のセルロース繊維にグリオキザール系樹脂を付与し、キュアリングによりこれらを反応させて、グリオキザール系樹脂でセルロース繊維を架橋処理すること、グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と未処理セルロース繊維とを、混紡するか又は芯鞘状に配置して吸水速乾性セルロース紡績糸とすること、を含む。本発明の繊維構造体は、前記吸水速乾性セルロース紡績糸を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む紡績糸であって、
グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と、未処理セルロース繊維を含み、
吸水速乾性を有することを特徴とする吸水速乾性セルロース紡績糸。
【請求項2】
前記吸水速乾性セルロース紡績糸は、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸である請求項1に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸。
【請求項3】
前記吸水速乾性セルロース紡績糸を100質量%としたとき、前記グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維が3~50質量%であり、前記未処理セルロース繊維が50~97質量%である、請求項1に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸。
【請求項4】
前記グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維を構成する前記セルロース繊維に対する前記グリオキザール系樹脂の付与量が、0.5~30%o.w.f(on the weight of fiber)である、請求項1に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸。
【請求項5】
前記セルロース繊維はコットンである、請求項1に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法であって、
ワタ状のセルロース繊維にグリオキザール系樹脂を付与し、キュアリングによりこれらを反応させて、グリオキザール系樹脂でセルロース繊維を架橋処理すること、
前記グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と未処理セルロース繊維とを、混紡するか又は芯鞘状に配置して、吸水速乾性セルロース紡績糸とすること、を含むことを特徴とする吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法。
【請求項7】
前記ワタ状のセルロース繊維は、繊維束である、請求項6に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法。
【請求項8】
前記キュアリングによる架橋が、加熱架橋及び触媒架橋から選ばれる少なくとも1つである、請求項6に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法。
【請求項9】
前記グリオキザール系樹脂の付与前の前記セルロース繊維又は前記グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維に対し、電子線を照射すること、を更に含む、請求項6に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の吸水速乾性セルロース紡績糸を含む繊維構造体。
【請求項11】
前記繊維構造体が、編み物及び織物から選ばれる少なくとも一つの生地である請求項10に記載の繊維構造体。
【請求項12】
前記繊維構造体の10回洗濯後の下記式から算出される拡散性残留水分率が30%以下である請求項10に記載の繊維構造体。
拡散性残留水分率(%)=水滴下から60分経過時の水分重量(g)/水滴下直後の水分重量(g)×100
【請求項13】
前記繊維構造体の10回洗濯後のJIS L 1907:2010(滴下法)による吸水性が1秒未満である請求項10に記載の繊維構造体。
【請求項14】
請求項10に記載の繊維構造体を含む吸水速乾性衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コットン等のセルロース繊維を主要繊維とする吸水速乾性セルロース紡績糸及びその製造方法、並びにそれを用いた繊維構造体又は吸水速乾性衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
綿(コットン)繊維に代表される天然セルロース繊維は、環境に優しく、しかも風合いや染色性、吸水性等にも優れているため、種々の衣料に幅広く使用されている。しかし、綿繊維は、吸収した水分の蒸発が遅いため、一旦汗を吸うと、なかなか乾燥しない等の点が問題になっている。
【0003】
従来、綿繊維を含む吸水性かつ乾燥性も優れる、いわゆる吸水速乾性繊維について、特許文献1~5などが下記の通り提案している。
特許文献1は、例えばグリオキザール系樹脂等のセルロース反応型樹脂でセルロース系繊維を加工する、速乾加工方法を提案している。
特許文献2は、マイクロネアリーティング値が3.7~6.0である木綿原料を用いてリング糸を作製し、前記リング糸を用いて編地を製編し、前記編地をグリオキザール樹脂で架橋処理をすることを含む、速乾性を有する木綿の編地の製造方法を提案している。編物は前記リング糸を85重量%以上含む。
特許文献3は、抗ピルアクリル繊維と、グリオキザール樹脂加工を施した結節伸度1~6%のセルロース系繊維とからなる抗ピル混綿、抗ピル紡績糸、抗ピル布帛を提案している。
特許文献4は、2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、又は少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物等が、電子線照射によりコットン繊維にグラフト結合されることで、優れた速乾性を有する紡績糸を提案している。
特許文献5は、セルロース繊維の内部に存在する微細孔が少なくとも放射線照射により重合可能な重合性の二重結合を有するモノマー又は/及びプレポリマーの重合物で充填されてなるセルロース繊維含有繊維構造物を提案している。また、特許文献5は、従来の樹脂加工法に使用されているセルロース用樹脂加工剤の併用も提案している([0011])。具体的には、放射線で重合可能なモノマー及びプレポリマーとセルロース用樹脂加工剤とを含む加工剤を調製し、当該加工剤をセルロース繊維含有繊維構造物に付与し、乾燥するか又は湿潤状態で、モノマー又は/及びプレポリマーを硬化させるための放射線を照射した後、セルロース用樹脂加工剤を架橋反応させるためにキュアーする([0022][0023])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-207672号公報
【特許文献2】特開2022-108956号公報
【特許文献3】特開2005-089896号公報
【特許文献4】特開2022-118974号公報
【特許文献5】特開平06-123074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来技術は、織物または編物等の生地に対し樹脂加工を行っており、速乾性は向上するものの、その風合いに課題がある。
【0006】
本発明は、前記問題を解決するため、グリオキザール系樹脂で速乾性処理をしたワタと未処理ワタとを含むことにより、速乾性処理されたワタと未処理ワタの夫々の長所によって、速乾性についての高い耐洗濯性と良好な風合いとの両立がなされた、吸水速乾性セルロース紡績糸、及びその製造方法、並びにそれを用いた繊維構造体又は吸水速乾性衣料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸は、セルロース繊維を含む紡績糸であって、
グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と、未処理セルロース繊維を含み、
吸水速乾性を有することを特徴とする。
本発明における「未処理セルロース繊維」は、速乾性処理が施されていないセルロース繊維を意味する。吸水速乾性とは、JIS L 1907:2010(滴下法)による吸水性が1秒未満であり、且つ、拡散性残留水分率(60分後)が30%以下であることをいう。
【0008】
本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法は、
ワタ状のセルロース繊維にグリオキザール系樹脂を付与し、キュアリングによりこれらを反応させて前記グリオキザール系樹脂で前記セルロース繊維を架橋処理すること、
前記グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と前記未処理セルロース繊維とを、混紡するか又は芯鞘状に配置して、吸水速乾性セルロース紡績糸とすること、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の繊維構造体は、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の吸水速乾性衣料は、本発明の繊維構造体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸は、グリオキザール系樹脂で速乾性処理をしたワタと未処理ワタとを含むことにより、速乾性処理されたワタと未処理ワタの夫々の長所によって、速乾性についての高い耐洗濯性と良好な風合いとの両立がなされた、吸水速乾性セルロース紡績糸、及びその製造方法、並びにそれを用いた繊維構造体又は吸水速乾性衣料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態におけるインナー衣料の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の糸は、セルロース繊維を含む紡績糸である。セルロース繊維には、コットン、麻などの天然繊維や、レーヨンなどの化学繊維がある。発明の吸水速乾性セルロース紡績糸に含まれるセルロース繊維は、これらのうち、衣料として最も汎用性のあるコットンが好ましい。本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸は、セルロース繊維を含み、グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維(以下「速乾性処理セルロース繊維」とも言う。)と、未処理セルロース繊維を含む。
【0014】
グリオキザール系樹脂は、従来公知のものを使用することができる。例えば、グリオキザールに尿素又はその誘導体を反応させ、更に該反応混合物にホルムアルデヒドを反応させて得られる樹脂、グリオキザールと尿素又はその誘導体とホルムアルデヒドとを反応させて得られる樹脂、これらの方法で得た樹脂に更にアルコールを反応させて得られる化合物、グリオキザールと多価アルコールとを反応させて得られる樹脂などが挙げられる。
【0015】
グリオキザールと反応させる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール及びこれらの縮合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
このようなグリオキザール系樹脂としては、一般に低ホルマリン系樹脂と呼ばれているジメチロールグリオキザール尿素系樹脂、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素系樹脂、ジメチロールジヒドロキシプロピレン尿素系樹脂、一般にノンホルマリン樹脂と呼ばれている1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロキシエチレン尿素などのジメチルグリオキザール尿素系樹脂が挙げられる。
【0017】
これらの樹脂の官能基は、他の官能基で置換されていてもよい。このようなグリオキザール系樹脂としては、例えば、DIC株式会社製のベッカミンN-80、ベッカミンNS-11、ベッカミンLF-K、ベッカミンNS-19、ベッカミンLF-55Pコンク、ベッカミンNS-210L、ベッカミンNS-200、及びベッカミンNF-3、ユニオン化学工業株式会社製のユニレジンGS-20E、三木理研工業株式会社製のリケンレジンRGシリーズ、及びリケンレジンMSシリーズなどが挙げられる。
【0018】
グリオキザール系樹脂は、一例として下記一般式(1)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0019】
【0020】
化学式(1)において、R1は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、R2は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、R3は水素又はメチル基であり、nは0~5の整数である。
【0021】
速乾性付与剤であるグリオキザール系樹脂は、良好な速乾性と糸強力低下防止との両立の観点から、速乾性処理セルロース繊維を構成する前記セルロース繊維に対するグリオキザール系樹脂の付与量は、0.5~30%o.w.f(on the weight of fiber)が好ましく、より好ましくは0.5~20%o.w.f、さらに好ましくは0.5~10%o.w.fであり、さらにより好ましくは0.5~6%o.w.fである。前記の範囲であれば、未処理セルロース繊維との混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸とすれば、より高い速乾性を発揮できる。
【0022】
グリオキザール系樹脂は、加熱による又は触媒を使用したキュアリングにより、セルロース繊維と脱水縮合反応し、セルロース分子同士を橋渡しする架橋剤として機能する。架橋結合は、加熱又は触媒を使用することにより、セルロース繊維表面のOH基(官能基)とグリオキザール系樹脂の官能基とが反応し形成される。
【0023】
本発明の糸は、速乾性処理セルロース繊維と未処理セルロース繊維とを含む、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸であると好ましい。混紡紡績糸は、カード機での混紡又はスライバーで混紡するのが好ましい。芯鞘型紡績糸は、芯に未処理セルロース繊維の束を配置し、鞘に速乾性処理セルロース繊維と未処理セルロース繊維を含む混紡繊維の束を配置して紡績糸とするか、又は紡績機のフロントローラーからそれぞれの繊維束(速乾性処理セルロース繊維の束と未処理セルロース繊維の束)を紡出し、一方を芯とし、他方を芯の周りに巻き付けて鞘とし、撚りを掛けて巻き取ることにより得られる。
【0024】
吸水速乾性セルロース紡績糸を100質量%としたとき、グリオキザール系樹脂で架橋処理された速乾性処理セルロース繊維の質量割合は3~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、より好ましくは10~35質量%である。また、未処理セルロース繊維の質量割合は50~97質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、さらに好ましくは65~90質量%である。前記の範囲であれば、良好な速乾性と良好な風合いとの両立のみならず、良好な速乾性と糸強力低下防止との両立も可能である。前記の範囲より速乾性処理セルロース繊維が多いと強度が低下して、紡績糸の品位が低下する傾向となり、前記の範囲より速乾性処理セルロース繊維が少ないと速乾性が低下する傾向となる。
【0025】
次に、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸の製造方法(以下「本発明の製造方法」とも言う。)について説明する。
【0026】
本発明の製造方法は、ワタ状のセルロース繊維にグリオキザール系樹脂を付与し、キュアリングによりこれらを反応させること(架橋処理)、グリオキザール系樹脂で架橋処理されたセルロース繊維と未処理セルロース繊維とを、混紡するか又は芯鞘状に配置して、紡績糸とすること、を含む。ワタ状のセルロース繊維は、スライバーなどの繊維束が好ましい。繊維束であると連続処理が可能となり、後の未処理セルロース繊維束と引き揃えて混紡すること又は芯鞘状に配置するのに都合がよい。セルロース繊維へのグリオキザール系樹脂の付与方法は、特に限定されないが、例えば、グリオキザール系樹脂を含む水溶液にセルロース繊維を浸漬して、セルロース繊維にグリオキザール系樹脂を含浸させる方法等が挙げられる。
【0027】
キュアリングによる架橋反応としては、加熱架橋及び触媒架橋等があるが、これらの中でも加熱架橋が好ましい。加熱架橋はセルロース繊維を傷める問題はあるが、架橋効率が高く、生産性も高い利点がある。加熱は、連続、非連続(間欠)、又はバッチでもよい。加熱架橋は温度80~180℃の熱風乾燥機で2~30分間処理することにより行うのが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法は、速乾性の更なる向上、速乾性についての耐洗濯性の向上の観点から、セルロース繊維に電子線を照射することを、さらに含むと好ましい。電子線の照射は、速乾性付与剤の付与の前後(同時も含む)のどちらでもよいが、速乾性の更なる向上、速乾性についての耐洗濯性の向上の観点から、セルロース繊維へ付与されたグリオキザール系樹脂のキュアリング後がより好ましい。
【0029】
速乾性の更なる向上および速乾性についての耐洗濯性の向上の観点から電子線を照射する場合、通常は1~200kGy、好ましくは5~100kGy、より好ましくは10~50kGyの照射量が達成されればよい。雰囲気条件は、窒素雰囲気下であると、発生したラジカルが失活しにくいので好ましい。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、EC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用できる。
【0030】
本発明の製造方法においては、例えば、速乾性処理後の紡績用スライバーと未処理の紡績用スライバーを、混紡するか又は芯鞘状に配置して精紡することにより、良好な吸水性を維持した状態で良好な速乾性を有する紡績糸が得られる。混紡は、通常はダブリング工程の入る練条工程が好ましい。しかし、梳綿工程(カード)、粗紡工程、精紡工程でも可能であり、ウエブ、スライバー、フリース、粗紡糸を複数本引き揃え、所定倍率引き伸ばすことにより混紡できる。粗紡工程や精紡工程では、撚り掛けする際に構成繊維のマイグレーションにより混紡できる。さらには、速乾性処理後の紡績用スライバーを混打綿工程まで戻して所望の混紡割合にすることも可能である。
【0031】
本発明の繊維構造体は、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸を含むので、良好な吸水性と良好な速乾性とを兼ね備えている。本発明の繊維構造体は、好ましくは生地であり、より好ましくは編み物又は織物である。編み物又は織物は、衣類、タオル、寝具類などに有用である。
【0032】
繊維構造体の拡散性残留水分率は30%以下が好ましく、より好ましくは29%未満、さらに好ましくは28%未満である。また、繊維構造体の10回洗濯後の拡散性残留水分率は30%以下が好ましく、より好ましくは29%未満、さらに好ましくは28%未満である。尚、拡散性残留水分率は、実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0033】
拡散性残留水分率は、20℃×65%RH下で試料に約0.3mlの水を滴下させ、水の滴下から60分経過時点の重量を測定し、次の計算式で算出する。
拡散性残留水分率(%)=滴下から60分経過時の水分重量(g)/滴下直後の水分重量(g)×100
【0034】
繊維構造体の10回洗濯後のJIS L1907:2010(滴下法)による吸水性は1秒未満が好ましい。
【0035】
上記拡散性残留水分率及び吸水性の評価において、洗濯条件は、JIS L 1930:2014(C4G法・吊干し)に準拠する。
【0036】
本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸の水分率は、未処理セルロース繊維のみからなる紡績糸のそれと同程度である。すなわち、温度20℃、相対湿度90%RHの状態で2時間放置後の水分率を測定すると、未処理綿は14~16%程度であるが、本発明の紡績糸は、約11~16%程度である。なお、速乾性処理コットン80質量%、ポリエステル20質量%の紡績糸については10%未満となる。
【0037】
本発明の繊維構造体は、上記の通り、好ましくは編み物又は織物等の吸水速乾性生地である。編み物及び織物はインナー衣料の材料として好適である。特に、編み物は伸縮性があり柔軟であるので、インナー衣料に好適である。編み物は、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、カノコ編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編み組織でもよい。編地を作製するには種々の交編方法が用いられる。交編編地は、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダブルアトラス編み、ダブルデンビー編み、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編組織でもよい。織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織、またはこれらを組み合わせた組織がある。
【0038】
生地の単位面積当たりの質量(目付)は80~300g/m2が好ましく、より好ましくは90~250g/m2であり、さらに好ましくは100~250g/m2である。前記の範囲であればインナー衣料として好適である。
【0039】
本発明の繊維構造体は、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸を含むので、速乾性処理セルロース繊維の生地全体に占める割合を任意に変更することができる。本発明の繊維構造体は、例えば、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸(A)と、吸水速乾性処理がされていない糸(B)とを含み、本発明の吸水速乾性セルロース紡績糸(A)1本に対し、吸水速乾性処理がされていない糸(B)を1~2本の割合で使用する。例えば、繰り返し単位である3本の糸を使用するうち、1本を速乾性処理セルロース繊維を30質量%含む混紡紡績糸とし、2本を吸水速乾性処理がされていない糸とすると、生地を100質量%としたとき、速乾性処理セルロース繊維を10質量%含む生地が得られる。
【0040】
前記生地を100質量%としたとき、速乾性処理セルロース繊維の含有量は、良好な速乾性と良好な風合いとの両立の観点から、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~40質量%、さらに好ましくは3~35質量%である。
【0041】
生地には、弾性糸が含まれていてもよい。弾性糸は、ポリウレタン糸及び異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。ポリウレタン弾性糸は、ポリマージオール及びジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。前記コンジュゲート糸とは、異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸であり、原糸の段階からクリンプ(捲縮)を発現しているが、熱が加わることにより、さらに大きいクリンプ(捲縮)を発現する。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とのコンジュゲート糸(バイコンポーネント糸)が好ましい。このような潜在捲縮型ストレッチ糸として、例えば、東レ・オペロンテックス社製、商品名"ライクラT400"、KBセーレン社製、商品名"エスパンディ"、ユニチカ社製、商品名"Z10"などがある。通常使用される弾性糸はポリウレタン糸である。
【0042】
弾性糸は、例えば、緯編み生地、丸編み生地の場合、スパンデックス裸糸をループ糸の添え糸として入れることが多く、経編み生地の場合、スパンデックス裸糸を挿入組織、又は緯糸挿入によって入れる。インナー衣料の場合は、通常丸編みが採用され、弾性糸特にポリウレタン弾性糸はループ糸の添え糸として用いられる。ポリウレタン弾性糸は、通常30decitexの糸が2.5倍程度に引き延ばされた状態で添え糸として挿入される。
【0043】
本発明の吸水速乾性生地で作製された衣料は、弾性糸を身体の周囲方向に配置するのが好ましい。いわゆるワンウェイストレッチ生地である。身体の周囲方向とは、胴体の周囲方向、及び腕の周囲方向のことである。このような生地を用いれば、着心地が良く、洗濯を繰り返しても型崩れしにくい、インナー衣料を提供できる。このインナー衣料は、シャツ又はパンツが好ましい。本発明のインナー衣料は、好ましくはコットンが85質量%以上、好ましくは88質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上の主要繊維であり、肌にやさしいインナー衣料である。
【0044】
図1は本発明の一実施形態におけるインナー衣料1の正面図である。このインナー衣料1は長袖シャツの例である。身体の周囲方向、すなわち胴体の周囲方向(矢印2)、及び腕の周囲方向(矢印3)には弾性糸が配置されている。
【実施例0045】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。下記実施例及び比較例中の物性値は下記の試験法による測定値を示したものである。
【0046】
[拡散性残留水分率]
下記2種の生地サンプルについて、一般財団法人カケンテストセンターが規定する拡散性残留水分率を算出した。
(1)晒処理及び仕上げ処理し、次いで乾燥した後、20℃×65%RH下24時間静置した生地サンプル、又は染色をする場合は、染色処理及び仕上げ処理し、次いで乾燥した後、20℃×65%RH下24時間静置した生地サンプル。
(2)生地サンプルを10回洗濯し、次いで乾燥した後、20℃×65%RH下24時間静置した生地サンプル。
各生地サンプルからを約10cm×約10cmの試験片を切り出し、20℃×65%RH下で当該試験片に約0.3mlの水を滴下し、経過時間毎に重量を測定し、次の計算式で、拡散性残留水分率を算出した。
拡散性残留水分率(%)=各時間水分重量(g)/滴下直後の水分重量(g)×100
洗濯はJIS L 1930:2014(C4G法・吊干し)に従って行った。
尚、表1には、水の滴下から60分後の拡散性残留水分率を示している。
【0047】
[吸水性]
吸水性は、上記生地サンプルの10回洗濯前後について、JIS L1907:2010(滴下法)に準拠して測定した。洗濯はJIS L 1930:2014(C4G法・吊干し)に従って行った。
【0048】
(実施例1)
<スライバーの処理>
3質量%グリオキザール系樹脂加工剤水溶液(三木理研工業株式会社製リケンレジンMS-307)にコットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))を含浸させた後、マングルロールでピックアップ率100%となるように絞り、次いで、連続して165℃の熱風乾燥機内に5分間配置して、乾燥及びキュアリングさせる、速乾性処理を行った。グリオキザール系樹脂はコットンスライバーに対し3.0%o.w.f(on the weight of fiber)付与されている。
その後、速乾性処理後のスライバーに対し、電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kVで、40kGy照射した。
このようにして得られたスライバーを“速乾性処理コットン1”という。
<紡績糸>
前記速乾性処理コットン1と未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手26番の糸を紡績した。混紡糸中の速乾性処理コットン1の割合は30質量%とした。
<編み物の編成>
前記速乾性処理コットン1と未処理コットンとを30対70の質量比率で含む混紡糸を供給糸とし、編機を使用してカノコ編組織の編物を編成した。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は191g/m2であり、編物生地を100質量%としたときの速乾性処理コットン1の含有量は、30質量%である。
<晒、仕上げ処理>
得られた編み物に対して常法にしたがい晒処理及び仕上げ処理を行った。
【0049】
(実施例2)
<スライバーの処理>
3質量%グリオキザール系樹脂加工剤水溶液(三木理研工業株式会社製リケンレジンMS-307)にコットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))を含浸させた後、マングルロールでピックアップ率100%となるように絞り、次いで、連続して165℃の熱風乾燥機内に5分間配置して、乾燥及びキュアリングさせる、速乾性処理を行った。グリオキザール系樹脂はコットンスライバーに対し3.0%o.w.f付与されている。
このようにして得られたスライバーを“速乾性処理コットン2”という。
<紡績糸>
前記速乾性処理コットン2と未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手26番の糸を紡績した。混紡糸中の速乾性処理コットンの割合は30質量%とした。
<編み物の編成>
前記速乾性処理コットン2と未処理コットンとを30対70の質量比率で含む混紡糸を供給糸とし、編機を使用してカノコ編組織の編物を編成した。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は198g/m2であり、編物生地を100質量%としたときの速乾性処理コットン2の含有量は、30質量%である。
<晒、仕上げ処理>
得られた編み物に対して常法にしたがい晒処理及び仕上げ処理を行った。
【0050】
(実施例3)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kVで、40kGy照射した。
その後、電子線照射後のスライバーに対し、3質量%グリオキザール系樹脂加工剤(三木理研工業株式会社製リケンレジンMS-307)を含浸させた後、マングルロールでピックアップ率100%となるように絞り、次いで、連続して165℃の熱風乾燥機内に5分間配置して、乾燥及びキュアリングさせる、速乾性処理を行った。グリオキザール系樹脂はコットンスライバーに対し3.0%o.w.f付与されている。
このようにして得られたスライバーを“速乾性処理コットン3”という。
<紡績糸>
前記速乾性処理コットン3と未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手26番の糸を紡績した。混紡糸中の速乾性処理コットンの割合は30質量%となるようにした。
<編み物の編成>
前記速乾性処理コットン3と未処理コットンとを30対70の質量比率で含む混紡糸を供給糸とし、編機を使用してカノコ編組織の編物を編成した。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は、199g/m2であり、編物生地を100質量%としたときの速乾性処理コットン3の含有量は、30質量%である。
<晒、仕上げ処理>
得られた編み物に対して常法にしたがい晒処理及び仕上げ処理を行った。
【0051】
(実施例4)
実施例1で得られた編物を常法にしたがい黒色に染色し、仕上げ処理を行った。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は、224g/m2であった。
【0052】
(比較例1)
薄手の一般的な編地である生地として、未処理コットンを綿番手40番の紡績糸に紡績し、前記紡績糸を供給糸とし、丸編み機を使用して天竺編組織の編物を編成した。前記編物を常法にしたがい晒処理及び仕上げ処理を行った。また、得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は、150g/m2であった。
【0053】
以上の条件と結果を表1にまとめて示す。表1において「グリオキ」はグリオキザール系樹脂の付与を、「EB」は電子線照射のことを、「加熱」は加熱キュアー(加熱架橋)のことを、「10W」は10回洗濯後のことを意味する。
【0054】
【0055】
表1から分かるように、吸水性については、実施例1~4と比較例1は同等であった。一方、拡散性残留水分率(速乾性)については、比較例1の編物の方が実施例1~4よりも単位面績当たりの質量(目付)がかなり小さいにもかかわらず、実施例1~4の方が比較例1よりも小さくて、速乾性が優れていた。特に、グリオキザール系樹脂をコットンに含浸させた後、加熱キュアーし、次いで、電子線照射を行って得た実施例1については、顕著に、速乾性が優れていた。
【0056】
また、実施例1~4の編物は、速乾性処理コットンと未処理コットンとを含む紡績糸が使用されているので、速乾性処理コットンの長所である優れた速乾性と、未処理コットンの長所である優れた風合いと両立がなされており、実施例1~4の編物を使用して作製した
図1のインナー衣服について着用試験をしたところ、汗をよく吸い、乾きやすく、柔らかくて肌あたりが良く、着心地は良好であった。
本発明の吸水速乾性生地及びこれを用いた吸水速乾性衣料は、シャツ、パンツなどのインナー衣料に好適である。肌にやさしいことからTシャツなどにも好適である。また、タオル、寝具類などにも有用である。