(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115978
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】検知システム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20240820BHJP
G01N 29/11 20060101ALI20240820BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20240820BHJP
G01S 15/04 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G01V1/00 A
G01N29/11
G01N29/48
G01S15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021921
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】金内 健
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智
(72)【発明者】
【氏名】山田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】末澤 知之
【テーマコード(参考)】
2G047
2G105
5J083
【Fターム(参考)】
2G047AA12
2G047AC13
2G047BA03
2G047BC03
2G047GD02
2G047GG06
2G047GG28
2G047GG33
2G105AA01
2G105BB02
2G105CC01
2G105DD04
2G105EE01
2G105FF03
2G105FF16
2G105GG05
2G105HH01
2G105JJ05
5J083AA02
5J083AB12
5J083AC06
5J083AE08
5J083BE10
5J083BE21
(57)【要約】
【課題】判定領域内に障害物がある場合であって、マイク等の音波受信部から視て障害物の死角に人が入るような状況であっても、人の存在状態と不在状態の判定を良好に実行する。
【解決手段】少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の音波を判定領域Rへ発信可能な音波発信部Sp1と、当該音波発信部Sp1にて発信され判定領域R内で反射した反響音を受信する音波受信部Mと、判定領域Rが不在状態であるときに音波受信部Mが受信した反響音としての第1反響音と、判定時に音波受信部Mが受信した反響音としての第2反響音との相関を示す相関指標を導出する相関指標導出部S6と、相関指標導出部S6にて出力された相関指標に基づいて、存在状態と不在状態とを判定する判定部S5とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の判定領域に人が存在する存在状態と人が居ない不在状態とを判定可能な検知システムであって、
少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の音波を前記判定領域へ発信可能な音波発信部と、当該音波発信部にて発信され前記判定領域内で反射した反響音を受信する音波受信部と、
前記判定領域が前記不在状態であるときに前記音波受信部が受信した前記反響音としての第1反響音と、判定時に前記音波受信部が受信した前記反響音としての第2反響音との相関を示す相関指標を導出する相関指標導出部と、
前記相関指標導出部にて出力された前記相関指標に基づいて、前記存在状態と前記不在状態とを判定する判定部とを備える検知システム。
【請求項2】
前記相関指標導出部は、前記第1反響音と前記第2反響音との相関係数を前記相関指標として導出するものであり、
前記判定部は、導出された前記相関係数が所定の判定閾値を下回る場合に、前記判定領域が前記存在状態であると判定するものであり、
前記音波発信部が発信する前記第1周波数帯域での音波の周波数を高くするに従って前記判定閾値を低く設定する可変閾値設定部を備える請求項1に記載の検知システム。
【請求項3】
前記相関指標導出部は、前記音波発信部から前記音波受信部への直達波を基準とした所定の時間幅での前記第1反響音と前記第2反響音とを、前記相関係数が最も高くなるよう重畳させ、前記直達波以外の前記第1反響音と前記第2反響音との前記相関係数を前記相関指標として導出する請求項2に記載の検知システム。
【請求項4】
前記相関指標導出部は、前記第1反響音と前記第2反響音との相関係数を前記相関指標として導出するものであり、
前記判定部は、導出された前記相関係数が所定の判定閾値を下回る場合に、前記判定領域が前記存在状態であると判定するものであり、
前記判定閾値を、前記第1周波数帯域が250Hz以上4000Hz以下であるときに、以下の〔数2〕で表される第1近似式Laと第2近似式Lbとの間の値に設定する可変閾値設定部を備える請求項1に記載の検知システム。
ただし、fを超音波の周波数とし、第1近似式Laでは、倍率Aが0.055、底Bが14、基準Cが195であり、第2近似式Lbでは、倍率Aが0.105、底Bが450、基準Cが48である。
【請求項5】
前記判定領域を主に使用する使用者が、前記判定領域に存在する存在モードと、前記判定領域に存在しない外出モードとの何れかを選択的に設定するモード設定部を備え、
前記外出モードでは前記音波発信部に前記第1周波数帯域の音波を発信させ、前記存在モードでは前記音波発信部から少なくとも前記第1周波数帯域の音波を発信させない音波周波数設定部を備える請求項1~4の何れか一項に記載の検知システム。
【請求項6】
前記第1周波数帯域は、250Hz以上4000Hz以下であり、
前記相関指標導出部は、前記音波発信部にて発信される音波の前記第1周波数帯域未満の音波をカットするハイパスフィルタを通過した前記反響音を用いて前記相関指標を導出する請求項1~4の何れか一項に記載の検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の判定領域に人が存在する存在状態と人が居ない不在状態とを判定可能な検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の判定領域に人が存在する存在状態と人が居ない不在状態とを判定する検知システムが知られている(特許文献1、2を参照)。
上述の検知システムでは、人感センサを用いたエコーロケーション技術(反響定位技術)やカメラを用いた画像処理技術を用いて、存在状態及び不在状態の判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/074998号
【特許文献2】特表2019-525273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人感センサを用いたエコーロケーション技術では、特許文献1、2に示されるように、主に超音波を用いてセンサから障害物までの距離、及びセンサから障害物への方向を特定する。このような技術では、指向性の高い超音波を用いるため、障害物の位置を特定しやすいことがメリットとして挙げられる。しかしながら、検知範囲はセンサ方向に限られ、障害物の裏側の領域(センサから視て死角となる領域)に人等の検知対象物が隠れた場合には、人の存在状態と不在状態とを検知できない。
一方、カメラを用いた画像処理技術による検知システムは、プライバシーの侵害につながる虞があるため、例えば、判定領域が生活空間としての室内である場合等には、設置が難しいといった問題がある。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、判定領域が比較的広く且つ当該判定領域内に障害物がある場合であって、マイク等の音波受信部から視て障害物の死角に人が入るような状況であっても、人の存在状態と不在状態の判定を良好に実行できる検知システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための検知システムは、所定の判定領域に人が存在する存在状態と人が居ない不在状態とを判定可能な検知システムであって、その特徴構成は、
少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の音波を前記判定領域へ発信可能な音波発信部と、当該音波発信部にて発信され前記判定領域内で反射した反響音を受信する音波受信部と、
前記判定領域が前記不在状態であるときに前記音波受信部が受信した前記反響音としての第1反響音と、判定時に前記音波受信部が受信した前記反響音としての第2反響音との相関を示す相関指標を導出する相関指標導出部と、
前記相関指標導出部にて出力された前記相関指標に基づいて、前記存在状態と前記不在状態とを判定する判定部とを備える点にある。
【0007】
本発明の発明者らは、本発明の目的が、障害物の位置の特定ではなく、判定領域での人の存在状態と不在状態の判定にあるため、反響音の方向や到達時間ではなく、判定領域が不在状態であるときに音波受信部が受信した反響音としての第1反響音と、判定時に音波受信部が受信した反響音としての第2反響音との相関を示す相関指標に着目した。即ち、判定時に不在状態であれば相関は高く、判定時に存在状態であれば相関が低くなることに着目して、当該相関を用いて不在状態と存在状態とを判定して判定することで発明を完成させた。これにより、判定領域が比較的広い場合であっても、不在状態と存在状態とを良好に判定することができる。
更に、本発明にあっては、音波発信部は、少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の音波を前記判定領域へ発信するため、当該音波が、音波発信部から視て障害物の死角の領域にも、回り込んで反響音を形成できるから、当該反響音としての第1反響音と第2反響音との相関を観ることにより、障害物の死角の領域での人の存否も良好に検知できる。
以上より、判定領域が比較的広く且つ当該判定領域内に障害物がある場合であって、センサから視て当該障害物の死角に人が入るような場合であっても、人の存在状態と不在状態の判定を良好に実行できる検知システムを実現できる。
【0008】
検知システムの更なる特徴構成は、
前記相関指標導出部は、前記第1反響音と前記第2反響音との相関係数を前記相関指標として導出するものであり、
前記判定部は、導出された前記相関係数が所定の判定閾値を下回る場合に、前記判定領域が前記存在状態であると判定するものであり、
前記音波発信部が発信する前記第1周波数帯域での音波の周波数を高くするに従って前記判定閾値を低く設定する可変閾値設定部を備える点にある。
【0009】
本発明の発明者らは、相関指標として相関係数を用いることで、後述する実験結果に示すように、判定領域での人の存在状態と不在状態とを良好に判定できるという知見を得た。
これらの知見により、上記特徴構成によれば、判定部を、導出された相関係数が所定の判定閾値を下回る場合に、判定領域が存在状態であると判定するものとし、音波発信部が発信する第1周波数帯域での音波の周波数を高くするに従って判定閾値を低く設定する可変閾値設定部を備えるから、判定領域の環境や当該判定領域が生活空間である場合の居住者等によって選択可能な音波の発信周波数(第1周波数帯域の周波数)が限られる場合であっても、適宜、第1周波数帯域の範囲内で周波数を選択して、判定領域での人の存在状態と不在状態とを良好に識別できる閾値を適切に設定することができる。
【0010】
検知システムの更なる特徴構成は、
前記相関指標導出部は、前記音波発信部から前記音波受信部への直達波を基準とした所定の時間幅での前記第1反響音と前記第2反響音とを前記相関係数が最も高くなるよう重畳させ、前記直達波以外の前記第1反響音と前記第2反響音との前記相関係数を前記相関指標として導出する点にある。
【0011】
上記特徴構成の如く、音波発信部から音波受信部への直達波を基準とした所定の時間幅での第1反響音と第2反響音とを相関係数が最も高くなるよう重畳させ、直達波以外の第1反響音と第2反響音との相関係数を相関指標として用いることで、相関係数を用いて判定領域での人の存在状態と不在状態を判定する際に影響が大きい、直達波以外の音波を積極的に選択して相関係数を導出するから、人の存否をより精度よく判定できる検知システムを実現できる。
【0012】
検知システムの更なる特徴構成は、
前記相関指標導出部は、前記第1反響音と前記第2反響音との相関係数を前記相関指標として導出するものであり、
前記判定部は、導出された前記相関係数が所定の判定閾値を下回る場合に、前記判定領域が前記存在状態であると判定するものであり、
前記判定閾値を、前記第1周波数帯域が250Hz以上4000Hz以下であるときに、以下の〔数2〕で表される第1近似式Laと第2近似式Lbとの間の値に設定する可変閾値設定部を備える点にある。
【0013】
【数2】
ただし、fを超音波の周波数とし、第1近似式Laでは、倍率Aが0.055、底Bが14、基準Cが195であり、第2近似式Lbでは、倍率Aが0.105、底Bが450、基準Cが48である。
【0014】
発明者らは、判定閾値を上述の如く設定することにより、第1周波数帯域が250Hz以上4000Hz以下であるときに、存在状態と不在状態を良好に判定(検知)できることを、後述する実験により確認している。
【0015】
検知システムの更なる特徴構成は、
前記判定領域を主に使用する使用者が、前記判定領域に存在する存在モードと、前記判定領域に存在しない外出モードとの何れかを選択的に設定するモード設定部を備え、
前記外出モードでは前記音波発信部に前記第1周波数帯域の音波を発信させ、前記存在モードでは前記音波発信部から少なくとも前記第1周波数帯域の音波を発信させない音波周波数設定部を備える点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、音波周波数設定部が、判定領域に使用者が存在しない外出モードにおいて、音波発信部に第1周波数帯域の音波を発信させ、判定領域に使用者が存在する存在モードでは、第1周波数帯域の音波を発信させないから、特に、存在モードにおいて、比較的低周波の第1周波数帯域の音波により使用者が不快感を感じることを防止できる。一方、外出モードにおいては、比較的低周波の第1周波数帯域の音波を判定領域に発信することで、存在状態と不在状態との判定に加え、判定領域に侵入した使用者以外の者(例えば、不審者)に対して、低周波の音波による威嚇をも行うことができる。
【0017】
これまで説明してきた検知システムにおいては、
前記第1周波数帯域は、250Hz以上4000Hz以下であり、
前記相関指標導出部は、前記音波発信部にて発信される音波の前記第1周波数帯域未満の音波をカットするハイパスフィルタを通過した前記反響音を用いて前記相関指標を導出することが好ましい。
【0018】
これにより、所望の反響音のみを用いて相関指標を導出できるから、より一層判定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る検知システムの概略構成図である。
【
図2】相関指標としての相関係数を導出する手法を説明するためのグラフ図である。
【
図3】第1周波数帯域として250Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図4】第1周波数帯域として500Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図5】第1周波数帯域として1000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図6】第1周波数帯域として2000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図7】第1周波数帯域として4000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図8】第1周波数帯域として8000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との相関係数を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図9】音波発信部から発信される音波と閾値との関係を示すグラフ図である。
【
図10】第1周波数帯域として250Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図11】第1周波数帯域として500Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図12】第1周波数帯域として1000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図13】第1周波数帯域として2000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図14】第1周波数帯域として4000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【
図15】第1周波数帯域として8000Hzを用いた場合の判定領域の各地点における第1反響音と第2反響音との平均絶対誤差を箱ひげ図にて示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る検知システム100は、判定領域が比較的広く且つ当該判定領域内に障害物がある場合であって、マイク等の音波受信部から視て障害物の死角に人が入るような状況であっても、人の存在状態と不在状態の判定を良好に実行するものに関する。
以下、
図1~9に基づいて、実施形態に係る検知システム100を説明する。
【0021】
当該実施形態に係る検知システム100は、
図1に示すように、所定の判定領域Rに人が存在する存在状態と人が居ない不在状態とを判定可能に構成されており、少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の音波を判定領域Rへ発信可能なスピーカーSp(音波発信部の一例)と、当該スピーカーSpにて発信され判定領域R内で反射した反響音を受信するマイクM(音波受信部の一例)と、各種制御を実行する制御装置Sとを備えて構成されている。
【0022】
尚、当該実施形態において設けられる一対のスピーカーSpとマイクMは、
図1に示すように、判定領域Rの内部で隣接して設置されている。
制御装置Sは、スピーカーSpに音波を出力させる発信信号を送信すると共に、マイクMにて受信した反響音に係る信号を受信する信号制御部S7と、判定領域Rが不在状態であるときにマイクMが受信した反響音としての第1反響音と、判定時にマイクMが受信した反響音としての第2反響音との相関を示す相関指標としての相関係数を導出する相関係数導出部S6(相関指標導出部の一例)と、相関係数導出部S6にて出力された相関係数に基づいて、存在状態と不在状態とを判定する判定部S5とを備えており、当該判定部S5での判定結果は、出力部Oとしてのモニタ(図示せず)やスピーカー(図示せず)にて、外部へ報知される。
尚、第1反響音は、予め取得され後述する記憶部S1に記憶される。
【0023】
相関係数の導出過程に関し説明を追加すると、相関係数導出部S6は、まずもって、
図2(a)(b)に示すように、スピーカーSpからマイクMへの直達波(
図2(a)(b)でXにて示す音波)を基準とした所定の時間幅(少なくとも音波が部屋を往復する時間:例えば7~8mの長さの部屋で0.05秒以上で且つ音波が十分に減衰するまでの時間で0.2秒以下の時間、好ましくは、0.1秒程度の時間、
図2(a)(b)にてYで示す0.09秒程度の時間幅)での第1反響音(
図2(a)に示す不在時反響音)と第2反響音(
図2(b)に示す判定時反響音)とを、相関係数が最も高くなるよう重畳させる。つまり、X軸(時間軸)において、第1反響音の直達波と第2反響音の直達波とが重畳するように重ね合わせると共に、Y軸(音波の振幅(強度)を示す軸)において、第1反響音の振幅が零の値と第2反響音の振幅が零の値とを重ね合わせる。ここで、重畳した結果で、直達波を除いた部分(
図2(a)(b)でYで示す部分)は、
図2(c)に示すようになる。
尚、直達波を基準とした所定の時間幅とは、直達波の終端からの所定の時間幅を意味するものとする。
次に、相関係数導出部S6は、直達波以外の第1反響音と第2反響音との相関係数を導出し、相関指標とする。
【0024】
尚、当該実施形態における相関係数(以下の〔数1〕でr)は、第1反響音の振幅の時系列データ(x1、x2、…、xn)と第2反響音の振幅の時系列データ(y1、y2、…、yn)に関し、共分散をsxy、標準偏差をそれぞれsx、syとおくと、以下の〔数1〕で表される。ただし、xのオーバーバーは第1反響音の振幅の時系列データの平均値を表し、yのオーバーバーは第2反響音の振幅の時系列データの平均値を表す。
【0025】
【0026】
尚、相関係数導出部S6は、スピーカーSpにて発信される音波の第1周波数帯域未満の音波をカットするハイパスフィルタを通過した反響音を用いて相関係数を導出する。
【0027】
さて、発明者らは、判定領域R内に障害物がある場合であって、マイクMから視て障害物の死角に人が入るような状況であっても、人の存在状態と不在状態の判定を実行するべく、鋭意検討を行った。
具体的には、スピーカーSpから発信する音波の周波数を250Hz、500Hz,1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzとした夫々の場合に、
図1に示す判定領域R(紙面縦方向が6.6m、紙面横方向が5.7m、高さが2.6mの部屋)において、
図1に示すa、b、c、d、e、f1、f2に人が存在する存在状態の場合、及び不在の場合の夫々において、相関係数を複数回(当該実施形態では100回)導出し、当該相関係数を
図3~8に箱ひげ図として表示した。
【0028】
ここで、aはスピーカーSpの正面から2mの位置であり、bはスピーカーSpの正面から4.5mの壁際の位置であり、cはスピーカーSpから2mの位置で且つスピーカーSpの正面方向から30°(
図1でθ)ずれた位置であり、dはスピーカーSpから2mの位置で且つスピーカーSpの正面方向から60°(
図1でΦ)ずれた位置であり、eはスピーカーSpから2mの位置で且つスピーカーSpの正面方向から90°(
図1でω)ずれた位置であり、fはスピーカーSpの正面方向でスピーカーSpから3mの位置で壁際に接して設けられているパーテーション(障害物)の裏側の位置であり、f1は立ち姿勢、f2は座り姿勢の人がいる場合である。
ちなみに、不在状態の場合は、2回データを取得しており、
図3~8のグラフ図において、α、βで示している。
【0029】
尚、箱ひげ図は、データ解析で用いられる図的表示方法のひとつであり、箱ひげ図の箱の下端がデータの第1四分位(25%)、上端がデータの第3四分位(75%)、箱の中の線が中央値(50%)を示す。上下に延びる「ひげ」の長さは、箱の長さの1.5倍以内にある最大値、最小値までの距離である。箱の長さの1.5倍を越えるデータがある場合、1.5倍以上3倍以下のものは「○」で示される。
【0030】
図3~7に示すように、スピーカーSpからの音波の周波数が250Hzから4000Hzにおいては、例えば、不在状態(α、β)の相関係数のうち、いずれか小さいほうの最小値を第1判定閾値Pa(判定閾値Pの一例)とする場合、当該第1判定閾値Paにより、不在状態(α、β)と、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)とを適切に切り分ける(判定する)ことができている。
一方、
図8に示すように、周波数が8000Hzにおいては、不在状態(α、β)と、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)との相関係数が重畳している部分が存在するため、互いを適切に切り分ける(判定する)第1判定閾値Paを設定することができない。
このため、当該実施形態に係る検知システム100では、少なくとも超音波の周波数帯域よりも低い4000Hz以下の第1周波数帯域の上限値を4000Hzとする。
尚、波長に対して検知対象が十分小さい場合は在室時の音場変化が小さくなるため、第1周波数帯域の下限値は、250Hzとしている。
【0031】
更に、発明者らは、不在状態(α、β)と、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)とを切り分ける第1判定閾値Paと、スピーカーSpからの音波の周波数との関係を解析した結果、
図9に示す関係があるという知見を得た。即ち、スピーカーSpが発信する第1周波数帯域での音波の周波数が高くなるに従って第1判定閾値Paが低くなるという知見を得た。
尚、
図9に示すスピーカーSpからの音波の周波数と第1判定閾値Paの関係は、以下の〔表1〕に示す通りである。
【0032】
【0033】
以上で得た知見により、当該実施形態に係る検知システム100では、判定部S5は、導出された相関係数が所定の判定閾値Lを下回る場合に、判定領域Rが存在状態であると判定するものとし、スピーカーSpが発信する第1周波数帯域での音波の周波数を高くするに従って判定閾値Lを低く設定する可変閾値設定部S2を制御装置Sに備えるものとする。
【0034】
さて、
図3~7に示すように、判定閾値Pとしては、音波の周波数が250Hzから4000Hzにおいて、例えば、不在状態(α、β)のうち、いずれか小さいほうの最小値を第1判定閾値Paとは別に、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)の相関係数のうち、最大値を第2判定閾値Pb(判定閾値Pの一例)としても、不在状態(α、β)と、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)とを適切に切り分ける(判定する)ことができる。
ここで、音波の周波数が250Hzから4000Hzにおいて、第1判定閾値Paと第2判定閾値Pbとを図示すると、
図9に示すようになり、第1判定閾値Paに係る第1近似式La及び第2判定閾値Pbに係る第2近似式Lbは、fを超音波の周波数として、以下の〔数2〕に示すものとなる。尚、〔数2〕の倍率A、底B、基準Cは、以下の〔表2〕に示す通りである。
【0035】
【0036】
【0037】
即ち、判定閾値Pは、当該実施形態に示す各種条件下では、音波の周波数が250Hzから4000Hzにおいて、第1近似式Laと第2近似式Lbとの間(LaとLb上の値を含む)で適宜設定できる。
【0038】
更に、当該実施形態に係る検知システム100では、判定領域Rを主に使用する使用者が、判定領域Rに存在する存在モードと、判定領域Rに存在しない外出モードとを切り替え可能に構成され、各モード毎に応じた検知制御が実行される。
詳細には、制御装置Sが、判定領域Rを主に使用する使用者が、判定領域Rに存在する存在モードと、判定領域Rに存在しない外出モードとを設定するモード設定部S4を備えると共に、外出モードではスピーカーSpに第1周波数帯域の音波を発信させ、存在モードではスピーカーSpから少なくとも第1周波数帯域の音波を発信させない音波周波数設定部S3を備える。
【0039】
説明を加えると、実施形態に係る検知システム100は、使用者が操作可能なタッチパネル等の入力部Iを備え、当該入力部Iへ使用者が「存在モード」又は「外出モード」とを入力すると、モード設定部S4が入力に基づいて「存在モード」又は「外出モード」を設定する。
モード設定部S4にて「外出モード」が設定されると、音波周波数設定部S3は、第1周波数帯域の音波(比較的低周波の音波であって250Hz以上4000Hz以下の周波数の音波)を設定し信号制御部S7を介してスピーカーSpから音波を発信させ、可変閾値設定部S2は、音波周波数設定部S3にて設定された音波の周波数に対応する判定閾値Pを記憶部S1から読み出し、当該判定閾値Pを相関係数導出部S6へ送る。
即ち、当該「外出モード」では、使用者が判定領域Rの内部に存在しないため、使用者の不快感等を考慮することなく、可聴領域の周波数を出力できるから、マイクMから視て死角となる領域も含めて人の存否を良好に判定できる第1周波数帯域の音波がスピーカーSpから出力される。
また、当該第1周波数帯域の音波は、可聴領域であるため、例えば判定領域Rが居住空間で使用者以外の侵入者があった場合には、第1周波数帯域の音波により侵入者を威嚇することができる。
【0040】
一方、モード設定部S4にて「存在モード」が設定されると、音波周波数設定部S3は、スピーカーSpから少なくとも第1周波数帯域の音波を発信させない。説明を追加すると、音波周波数設定部S3は、例えば、超音波の周波数帯域の音波を設定し、信号制御部S7を介してスピーカーSpから当該周波数の音波を発信させる。これにより、障害物の死角での人の存否の判定はできないが、従来のエコーロケーション技術(反響定位技術)の如く、障害物の死角以外の範囲での人の存否の判定を実現できると共に、音波の周波数を不可聴音として使用者の使用感の向上を図ることができる。
尚、モード設定部S4にて「存在モード」が設定された場合、音波周波数設定部S3は、音波を出力しない設定を選択する構成とすることもできる。
【0041】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、スピーカーSpとマイクMとは、
図1に示すように、判定領域Rの内部で隣接して設置されている構成例を示したが、両者は、互いに離間して設置されていても構わない。
また、上記実施形態では、一対のスピーカーSpとマイクMとを備える構成例を示したが、複数設置しても構わない。
この場合、対となるスピーカーSpとマイクMの夫々が、異なる時点で相関指標の導出を行って存在状態と不在状態との判定を実行し、対となるスピーカーSpとマイクMの夫々に対応する判定結果に基づいて、総合的な判定結果を導出するよう構成しても構わない。
また、対となるスピーカーSpとマイクMは、必ずしも判定領域Rの内部に設けられる必要はない。例えば、対となるスピーカーSpとマイクMのうち、スピーカーSpが判定領域Rの内部にあり、マイクMが判定領域Rの外部に設けられる構成を採用することもできる。
ただし、この場合、スピーカーSpからの音波で判定領域Rにて反響した反響音は、判定領域Rの外部へ伝播する必要がある。
【0042】
(2)上記実施形態では、「外出モード」と「存在モード」とは、使用者の入力部Iへの入力に基づいて設定されたが、使用者が持つGPSセンサ(図示せず)等により、自動で設定する構成を採用しても構わない。
【0043】
(3)上記実施形態においては、相関指標導出部の一例として、相関係数を導出する相関係数導出部S6を備える構成例を示した。
相関指標導出部は、相関指標として平均絶対誤差を用いても構わない。
相関指標として平均絶対誤差を用いる場合であっても、
図10~
図15のグラフ図に示すように、不在状態を示すα、βの箱ひげ図のひげの最大値のうち大きい方を判定閾値Pとする場合、第1周波数帯域を250Hz以上4000Hz以下とすることで、不在状態(α、β)と、存在状態(a、b、c、d、e、f1、f2)とを適切に切り分ける(判定する)ことができている。
【0044】
尚、当該別実施形態における平均絶対誤差(以下の〔数3〕でMAE)は、第1反響音の振幅の時系列データ(x1、x2、…、xn)と第2反響音の振幅の時系列データ(y1、y2、…、yn)との差の絶対値を計算し、その総和をデータ数で割った値(=平均値)を出力する関数である。
【0045】
【0046】
ここで、
図10~14に示すスピーカーSpからの音波の周波数と判定閾値Pの関係は、以下の〔表3〕に示す通りである。
【0047】
【0048】
(4)音波発信部としてのスピーカSpは、人の存在状態と不在状態とを判定する場合に、複数の周波数を同時に発生させても構わない。この場合、相関指標導出部S6は、各周波数毎に相関指標を出力し、判定部S5が導出された夫々の相関指標に基づいて、存在状態と前記不在状態とを判定することになる。尚、周波数毎に異なる判定結果が出た場合には、例えば、存在状態と判定された数と不在状態と判定された数のうち、多いほうの判定結果を採用することができる。
更に、音波発信部としてのスピーカSpは、所定のアナウンス音や音楽と同時に、判定のための第1周波数帯域の信号音を発生させ、信号音周波数以外をフィルターでカットする形態でマイクMにて受信する構成を採用しても構わない。
【0049】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の検知システムは、判定領域内に障害物がある場合であって、マイク等の音波受信部から視て障害物の死角に人が入るような状況であっても、人の存在状態と不在状態の判定を良好に実行できる検知システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
100 :検知システム
L :判定閾値
M :マイク
R :判定領域
S :制御装置
S2 :可変閾値設定部
S3 :音波周波数設定部
S4 :モード設定部
S5 :判定部
S6 :相関係数導出部
Sp :スピーカー