(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115983
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】音響装置、音響装置の制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240820BHJP
G05G 1/10 20060101ALI20240820BHJP
G05G 1/02 20060101ALI20240820BHJP
G05G 5/03 20080401ALI20240820BHJP
【FI】
H04R3/00
G05G1/10 B
G05G1/02 D
G05G5/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021932
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】315017409
【氏名又は名称】AlphaTheta株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 佑馬
【テーマコード(参考)】
3J070
5D220
【Fターム(参考)】
3J070AA05
3J070AA14
3J070BA19
3J070BA51
3J070CB01
3J070CB37
3J070CC71
5D220EE02
5D220EE03
5D220EE21
(57)【要約】
【課題】操作子の変位または回転変位から操作量を取得する音響装置において、ユーザーが操作子の変位または回転変位を適切な速度で変化させることを補助する。
【解決手段】操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生する再生処理部と、前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御する駆動制御部とを備える音響装置が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生する再生処理部と、
前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御する駆動制御部と
を備える音響装置。
【請求項2】
前記操作子は、チャンネルフェーダーであり、
前記再生処理部は、再生される前記楽曲のボリュームを前記操作量に基づいて設定し、
前記駆動制御部は、前記楽曲について設定されたボリュームカーブに従って前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記ボリュームカーブは、前記楽曲の拍位置情報に基づいて自動的に設定される、請求項2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記ボリュームカーブは、ユーザーによって設定される、請求項2に記載の音響装置。
【請求項5】
前記操作子は、クロスフェーダーであり、
前記再生処理部は、並行して再生される第1および第2の楽曲のボリュームを前記操作量に基づいて設定し、
前記駆動制御部は、前記第1および第2の楽曲をクロスフェードさせるために設定されたミキシングカーブに従って前記駆動手段を制御する、請求項1に記載の音響装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記操作子が前記抵抗に対向する向きに所定量以上の変位量、回転変位量、速度または回転速度で操作された場合に、前記抵抗を発生させないように前記駆動手段を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項7】
操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生するステップと、
前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御するステップと
を含む、音響装置の制御方法。
【請求項8】
操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生する再生処理部と、
前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御する駆動制御部と
を備える音響装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置、音響装置の制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばDJパフォーマンスに用いられるコントローラーやミキサーのような音響装置には、フェーダーのような変位が操作量に変換される操作子が配置される。特許文献1には、フェーダーのような操作子の移動速度が変動する場合でも利用者に目標位置を正確認識させるための技術が記載されている。より具体的には、利用者による操作に応じて移動する操作子の移動速度および位置を特定し、目標位置を含む位置提示区間に操作子が進入した場合に操作子に外力を付与する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばDJパフォーマンスにおいて再生される楽曲をクロスフェードさせるような場合には、再生音量を所望の割合で増減させるために、フェーダーの移動先の正確さではなく移動速度の適切さが求められる。つまり、フェーダーが目標位置に到達したことをユーザーに知らせるよりも、フェーダーを適切な移動速度で移動させるようにユーザーをアシストすることが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、操作子の変位または回転変位から操作量を取得する音響装置において、ユーザーが操作子の変位または回転変位を適切な速度で変化させることを補助することが可能な音響装置、音響装置の制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生する再生処理部と、前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御する駆動制御部とを備える音響装置。
[2]前記操作子は、チャンネルフェーダーであり、前記再生処理部は、再生される前記楽曲のボリュームを前記操作量に基づいて設定し、前記駆動制御部は、前記楽曲について設定されたボリュームカーブに従って前記駆動手段を制御する、[1]に記載の音響装置。
[3]前記ボリュームカーブは、前記楽曲の拍位置情報に基づいて自動的に設定される、[2]に記載の音響装置。
[4]前記ボリュームカーブは、ユーザーによって設定される、[2]に記載の音響装置。
[5]前記操作子は、クロスフェーダーであり、前記再生処理部は、並行して再生される第1および第2の楽曲のボリュームを前記操作量に基づいて設定し、前記駆動制御部は、前記第1および第2の楽曲をクロスフェードさせるために設定されたミキシングカーブに従って前記駆動手段を制御する、[1]に記載の音響装置。
[6]前記駆動制御部は、前記操作子が前記抵抗に対向する向きに所定量以上の変位量、回転変位量、速度または回転速度で操作された場合に、前記抵抗を発生させないように前記駆動手段を制御する、[1]から[5]のいずれか1項に記載の音響装置。
[7]操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生するステップと、前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御するステップとを含む、音響装置の制御方法。
[8]操作子の変位または回転変位から取得された操作量に基づいて楽曲を再生する再生処理部と、前記楽曲に関する情報に基づいて前記操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させる駆動手段を制御する駆動制御部とを備える音響装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、楽曲に関する情報に基づいて操作子の変位または回転変位に対する抵抗を発生させることによって、ユーザーに操作子の変位または回転変位が適切な位置を越えていることを知覚させ、ユーザーが操作子の変位または回転変位を適切な速度で変化させることを補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るミキサーの全体構成を示す図である。
【
図2】
図1に示されたミキサーにおいてフェーダーの操作アシスト機能を実装する部分を概略的に示す図である。
【
図3】本実施形態におけるフェーダーの操作アシスト機能の概要について説明するための図である。
【
図4】本実施形態におけるフェーダーの操作アシスト機能の概要について説明するための図である。
【
図5】フェーダーの適切な位置の例について説明するための図である。
【
図6】フェーダーの理想的な位置をユーザーが設定する例を示す図である。
【
図7】フェーダーの理想的な位置を自動的に設定する例を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る音響装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るミキサーの全体構成を示す図である。本実施形態に係る音響装置は、DJパフォーマンスに用いられるミキサー100である。ミキサー100は、外部音源から入力される2チャンネルの音声信号を、筐体に配置されたスイッチやノブなどの操作子に対する操作に従って処理し、スピーカーなどに出力する。ミキサー100の操作子には、チャンネルフェーダー101A,101Bと、クロスフェーダー102と、ロードボタン103A,103Bと、パフォーマンスパッド104A,104Bとが含まれる。なお、ミキサー100は、以下で説明するようなフェーダーの操作アシストの機能を除いては通常のミキサーと同様に構成されるため、当該機能に関係しない部分についての詳細な説明は省略する。
【0011】
上記のようなミキサー100の操作子のうち、チャンネルフェーダー101A,101Bは、図示された方向D1,D2にスライドさせることによって各チャンネルで再生される楽曲のボリュームを徐々に変化させられるように構成されており、方向D2で可動域の端までスライドさせると各チャンネルのボリュームが0になる。一方、クロスフェーダー102は、各チャンネルで再生される楽曲のバランスを調節するように構成される。チャンネルフェーダー101A側をAチャンネル、チャンネルフェーダー101B側をBチャンネルとした場合、クロスフェーダー102を図示された方向D3の端までスライドさせるとBチャンネルの楽曲のボリュームが0になり、方向D4にスライドさせるとAチャンネルの楽曲のボリュームが0になり、中間部では両方のチャンネルの楽曲が0ではないボリュームで再生される。
【0012】
ミキサー100を用いて再生される楽曲をクロスフェードさせる操作は、チャンネルフェーダー101A,101B、およびクロスフェーダー102のどちらを用いても可能であるが、チャンネルフェーダー101A,101Bを用いる方が難易度は高い。一方のチャンネルで再生されている楽曲のボリュームを徐々に下げる操作と、同期してもう一方のチャンネルで再生されている楽曲のボリュームを上げる操作とを、いずれも適切な速度でフェーダーをスライドさせることによって実行する必要があるためである。クロスフェーダー102を用いたクロスフェードはそれぞれの楽曲のボリュームが同期して変化するため難易度は相対的に低いが、それでもクロスフェードをうまく聴かせるためにはクロスフェーダーのスライドの速度を調節する必要がある。
【0013】
そこで、本実施形態では、ミキサー100においてチャンネルフェーダー101A,101B、クロスフェーダー102、またはこれらの両方についてフェーダーの操作アシスト機能を実装し、例えばクロスフェード、または単純なフェードインもしくはフェードアウトなどの操作をするときに、ユーザーが適切な速度でフェーダーを操作することを補助する。フェーダーの操作アシスト機能は、例えばミキサー100に設置されたボタン105によってON/OFFが可能であってもよい。
【0014】
図2は、
図1に示されたミキサーにおいてフェーダーの操作アシスト機能を実装する部分を概略的に示す図である。フェーダー101(
図1に示されたチャンネルフェーダー101A,101Bまたはクロスフェーダー102に対応する)は、ノブ111がスリット112に沿って直線的に変位させられる操作子である。図ではフェーダー101の変位の方向が、正方向D+および負方向D-として示されている。例えばフェーダー101がチャンネルフェーダー101A,101Bである場合、後述する再生処理部140は、再生される楽曲のボリュームをノブ111の変位から取得された操作量に基づいて設定する。また、フェーダー101がクロスフェーダー102である場合、再生処理部140は、並行して再生される第1および第2の楽曲のボリュームをノブ111の変位から取得された操作量に基づいて設定することによってこれらの楽曲をクロスフェードさせる。
【0015】
図示された例において、フェーダー101には駆動手段としてモーター120が取り付けられている。モーター120は例えばステッピングモーターであり、公知のモーターフェーダー(フェーダーがユーザーの操作によらず自動的に目標位置に移動する)と同様にフェーダー101に取り付けられる。モーター制御部130は、所定の制御パターン、および再生処理部140から得られた情報に従ってモーター120の駆動方向および駆動電圧または駆動電流を制御することによって、モーター120にフェーダー101の変位に対する抵抗を発生させる。
【0016】
再生処理部140は、ミキサー100における各チャンネルで楽曲を再生する。再生処理部140は楽曲の音声データ、およびテンポや拍子、拍位置などの楽曲情報に基づいて各種の処理を実行するが、上記の例のようにチャンネルフェーダー101A,101B、またはクロスフェーダー102であるフェーダー101の操作量に基づいて楽曲を再生する。具体的には、本実施形態において再生処理部140は、再生される楽曲のボリュームをフェーダー101の操作量に基づいて設定する。なお、以下の説明では再生処理部140について、フェーダー101およびモーター制御部130に関連した処理について特に説明し、それ以外の一般的な処理については説明を省略する。
【0017】
上記のようなモーター制御部130および再生処理部140の機能は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはDSP(Digital Signal Processor)などを用いてソフトウェア的に実装される。
【0018】
図3および
図4は、本実施形態におけるフェーダーの操作アシスト機能の概要について説明するための図である。
図3(a)には楽曲のボリュームを徐々に上げるフェードインの操作のためにフェーダー101のノブ111を正方向D+に操作する例が示されている。この場合、ユーザーはノブ111に対して正方向D+に力を加えている。ユーザーが正方向D+について適切な位置Pを越えてノブ111を変位させようとした場合、モーター120が負方向D-に駆動され、ノブ111を操作するユーザーに抵抗Rを感じさせる。
図3(b)には楽曲のボリュームを徐々に下げるフェードアウトの操作のためにノブ111を負方向D-に操作する例が示されている。この場合も同様に、ユーザーが負方向D-について適切な位置Pを越えてノブ111を変位させようとした場合、モーター120が正方向D+に駆動され、ノブ111を操作するユーザーに抵抗Rを感じさせる。ユーザーは、抵抗Rを感じることによって、ノブ111の変位が適切な位置Pを越えていることを知覚できる。
【0019】
さらに、
図4に示すように、モーター120が発生させる抵抗の大きさは、フェーダー101におけるノブ111の変位が適切な位置を越えている程度に応じて変動させられてもよい。例えば、
図4(a)に示すようにノブ111の変位が適切な位置Pを越えているものの位置Pに近い場合、モーター120は微弱な抵抗R1を発生させるか、または抵抗を発生させなくてもよい。一方、
図4(b)に示すようにノブ111の変位が適切な位置Pを大きく越えている場合、モーター120は比較的大きな抵抗R2を発生させてもよい。
【0020】
なお、モーター120はフェーダー101の操作をアシストするものであってフェーダー101を自動的に操作するものではないため、例えばノブ111が適切な位置Pを越えて変位させられている場合であっても、モーター120の駆動によってノブ111が自動的に適切な位置Pに変位させられることはない。後述するように、ユーザーが抵抗Rを感じたことによってノブ111に力を加えることをやめた場合、モーター120の駆動は停止され、ノブ111はその時の位置に維持される。また、ユーザーが抵抗Rに関係なくノブ111を所定量以上の変位量、または速度で操作した場合も、モーター120の駆動は停止する。
【0021】
上記のようにモーター120を用いてフェーダー101の変位に対する抵抗を発生させるために、モーター制御部130は、例えば再生処理部140が取得したノブ111の操作量や、モーター120におけるトルクの大きさ(ノブ111にモーター120の駆動とは逆向きの力が加えられている場合にトルクは大きくなる)に基づいてノブ111にユーザーの力が加えられているか否か、またはノブ111の変位量もしくは速度を検出する。
【0022】
図5は、フェーダーの適切な位置の例について説明するための図である。例えばフェードインを行う場合、例えば楽曲の4拍分に相当する所定の時間をかけて徐々にボリュームを大きくすることが望ましい。この場合、図示されたように楽曲の進行を横軸、フェーダー101のノブ111の位置を縦軸にしたグラフ上において、楽曲の理想的なボリュームカーブに対応するフェーダーの理想位置は0拍(原点)から拍位置の進行に比例する直線で表され、4拍(終点)で最大になる。従って、ノブ111の位置が理想位置の直線を正方向D+側に越えた領域でモーター120によって抵抗Rが発生させられることになる。なお、
図5の例ではフェーダーの理想位置が直線で表されているが、フェーダーの抵抗値特性などに応じて理想位置が対数曲線などで表されてもよい。また、理想位置が設定される区間も4拍には限られず、例えば楽曲の拍子に応じて2拍、3拍、または5拍よりも多い区間で理想位置が設定されてもよい。
【0023】
例えば、モーター制御部130は、再生処理部140から取得した楽曲の拍位置情報などに基づいて楽曲の理想的なボリュームカーブを自動的に設定し、このボリュームカーブに従って
図5の例のようにモーター120を制御してもよい。クロスフェーダー102について本実施形態を適用する場合は、並行して再生される第1の楽曲をクロスフェードさせるためのミキシングカーブをそれぞれの楽曲の拍位置情報などに基づいて自動的に設定し、設定されたミキシングカーブに従って
図5の例のようにモーター120を制御する。あるいは、ボリュームカーブやミキシングカーブは、
図6に示されるようにユーザーによって設定可能であってもよい。
【0024】
図6は、フェーダーの理想的な位置をユーザーが設定する例を示す図である。例えばミキサー100に接続されたPC(Personal Computer)などを用いて、
図5に示したようなフェーダーの理想位置をユーザーが設定する機能が提供されてもよい。この場合、ユーザーは例えばタッチパネルなどを用いて実装される
図6(a)に示すようなGUI(Graphical User Interface)でフェーダーの理想位置を設定し、設定された理想位置を
図6(b)に示すようにスムージングして
図5に示したような理想的なボリュームカーブまたはミキシングカーブを示す曲線として利用してもよい。
【0025】
図7は、フェーダーの理想的な位置を自動的に設定する例を示す図である。上記のようにモーター制御部130はフェーダーの理想的な位置を特定するためのボリュームカーブまたはミキシングカーブを自動的に設定してもよい。この場合において、例えば、再生処理部140で楽曲が再生されているときに、モーター制御部130は再生処理部140から取得した情報に基づいて、楽曲の現在の再生位置から楽曲の次のシーン(図示された例ではUP1)までの間をターゲット区間に設定し、このターゲット区間の間に例えばフェードイン、フェードアウトまたはクロスフェードが完了するようにボリュームカーブまたはミキシングカーブを自動的に設定してもよい。この場合、再生位置が進行するとターゲット区間は短くなり、それに応じてボリュームカーブまたはミキシングカーブに基づくフェーダーの理想的な位置も再設定される。
【0026】
なお、既に述べたようにモーター120はフェーダー101の操作をアシストするものであってフェーダー101を自動的に操作するものではないため、
図7の例のようにフェーダーの理想的な位置が自動的に設定された場合であっても、ユーザーがフェーダー101の操作をしなければノブ111の変位は発生せず、フェードイン、フェードアウトまたはクロスフェードは実行されない。
【0027】
図8は、本発明の一実施形態に係る音響装置の制御方法を示すフローチャートである。上記のようにミキサー100のボタン105などによってフェーダーの操作アシスト機能がON/OFF可能である場合は、機能がONであるときに以下のステップS102~S105の処理が実行される(ステップS101のYES)。機能がOFFである場合(ステップS101のNO)は、アシストなしの通常のフェーダー操作が実行される(ステップS106)。この場合、モーター制御部130はモーター120に駆動電流を供給せず、モーター120がフェーダー101の変位に対する抵抗を発生させることはない。
【0028】
機能がONであってアシストありのフェーダー操作が実行される場合、モーター制御部130はユーザーによるフェーダー操作を取得し(ステップS102)、このフェーダー操作がアシストONトリガーであるか否かを判定する(ステップS103)。上述のように、フェーダーの操作アシスト機能はフェーダー101を自動的に操作するものではないため、機能がONである場合もモーター120が起動されるのはフェーダー101に対するユーザーの所定の操作がされた後である。この所定の操作をここではアシストONトリガーともいう。アシストONトリガーは、例えばユーザーによってフェーダー101が正方向D+または負方向D-のいずれかに操作されることである。この場合において、ユーザーがフェーダー101の操作を開始する位置は必ずしもスリット112の端部でなくてもよく、中間の位置にあるフェーダー101に対して操作が開始された時にもアシストONトリガーが取得される。一方、後述するようにユーザーがフェーダー101を所定量以上の変位量、または速度で操作した場合はアシスト機能がOFFにされるが、上記のステップS102の時点でそのような大きな変位量または速度の操作が取得された場合は(ステップS103のNO)、この時点でアシスト機能が終了して通常のフェーダー操作に移行する(ステップS106)。
【0029】
アシストONトリガーが取得された場合(ステップS103のYES)、アシストありのフェーダー操作が実行される(ステップS104)。この場合、上記で
図3および
図4を参照して説明したように、ユーザーが正方向D+または負方向D-について適切な位置を越えてフェーダー101を変位させようとした場合、モーター120が変位とは逆の方向に駆動され、フェーダー101の変位に対する抵抗が発生させられる。発生させられる抵抗の大きさは、変位が適切な位置を越えている程度に応じて変動させられてもよい。
【0030】
アシストありのフェーダー操作は、アシストOFFトリガーが取得されるまで継続される(ステップS105)。アシストOFFトリガーは、上述のように、ユーザーがフェーダー101を所定量以上の変位量、または速度で操作することを含む。また、ユーザーがフェーダー101の操作を終了し、フェーダー101の変位がなくなることもアシストOFFトリガーに含まれる。ただし、ユーザーがフェーダー101をゆっくりと操作している場合もあり得るため、モーター制御部130は、フェーダー101の操作量を所定時間にわたって監視した上でアシストOFFトリガーを判定する。
【0031】
以上のようなステップS101~S106の処理を、終了まで繰り返す(ステップS107)。つまり、例えば一旦ステップS105でアシストOFFトリガーが取得された場合(ステップS105のYES)であっても、その後のフェーダー操作(ステップS102)でアシストONトリガーが取得された場合(ステップS103のYES)はアシストありのフェーダー操作が実行される(ステップS104)。
【0032】
以上で説明したような本発明の一実施形態によれば、
図1に示したようなミキサー100において、例えばチャンネルフェーダー101A,101Bのそれぞれについて適切なボリュームカーブを設定してフェーダーの操作をアシストすることによって、ユーザーは一方のチャンネルで再生されている楽曲のボリュームを徐々に下げる操作ともう一方のチャンネルで再生されている楽曲のボリュームを徐々に上げる操作とを適切な速度で行うことができる。また、例えばクロスフェーダー102について適切なミキシングカーブを設定してフェーダーの操作をアシストすることによって、同様にユーザーはクロスフェードのための操作を適切な速度で行うことができる。
【0033】
既に述べたように、本実施形態におけるフェーダーの操作アシスト機能はフェーダーを自動的に操作するものではないため、アシストを受けながらも楽曲の再生に用いられる操作量自体はユーザーによるフェーダーの変位を反映したものであり、従ってユーザーは再生された楽曲を聴くことによって自らの操作によって行ったクロスフェードなどの巧拙を感じることができる。また、アシストに関係なくユーザーがフェーダーを操作することも可能であるため、例えばフェーダーの操作アシスト機能で想定されているクロスフェードなどの展開と異なる操作をユーザーが思いついた場合も、例えば上述したアシストOFFトリガーが検出されることでアシスト機能が邪魔をすることなくユーザーが所望のフェーダー操作を行うことができる。
【0034】
なお、上記で説明した本発明の一実施形態は例示的なものであり、各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では音響装置としてミキサーが例示されたが、DJコントローラーやオールインワンDJシステム(通信およびミキシング機能付きデジタルオーディオプレーヤー)などの他のDJ機器でも同様の機能を実装することが可能である。PCやスマートフォンなどの端末装置において、DJアプリケーションによって上記の機能を実装することも可能である。また、上記の実施形態ではフェーダーの変位から取得された操作量に基づいて再生される楽曲のボリュームを設定する再生処理部について説明されたが、再生処理部は楽曲のボリューム以外にも、エフェクトの量などを操作量に基づいて設定してもよい。また、操作子はフェーダーには限られず、例えばロータリーポテンショメーターを含むノブなどであってもよい。この場合、操作子の変位ではなく回転変位から操作量が取得されてもよい。
【符号の説明】
【0035】
100…ミキサー、101…フェーダー、101A…チャンネルフェーダー、101B…チャンネルフェーダー、102…クロスフェーダー、103A…ロードボタン、103B…ロードボタン、104A…パフォーマンスパッド、104B…パフォーマンスパッド、105…ボタン、111…ノブ、112…スリット、120…モーター、130…モーター制御部、140…再生処理部。