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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115991
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】多孔質フィルム及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20240820BHJP
   A61F 13/56 20060101ALI20240820BHJP
   A61F 13/58 20060101ALI20240820BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240820BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240820BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240820BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
A61F13/56 110
A61F13/58
C08K3/013
C08K5/09
C08L23/00
C08L31/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021946
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新津 太一
(72)【発明者】
【氏名】村川 航平
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕貴
【テーマコード(参考)】
3B200
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
3B200AA03
3B200BA16
3B200BB09
3B200CA11
3B200DE07
3B200EA09
4F074AA21
4F074AA22
4F074AB03
4F074AC26
4F074AD09
4F074AD10
4F074AD11
4F074BC12
4F074CA02
4F074CA06
4F074DA10
4F074DA17
4F074DA53
4J002BB00W
4J002BB03X
4J002BE03W
4J002DE236
4J002EF057
4J002EG040
4J002FD016
4J002FD200
4J002FD207
4J002GD03
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】柔軟性に優れた多孔質フィルムを提供すること。裏面シートが柔軟で、且つ着衣に固定して使用した場合にズレ等の不都合が生じにくく、着用感及び防漏性に優れた吸収性物品を提供すること。
【解決手段】本発明の多孔質フィルムは、融点が80℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含み、該低融点オレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む。本発明の吸収性物品1Aは、着衣に固定して使用するもので、着衣との固定面3aに粘着剤7,8が付着している。吸収性物品1Aは、固定面3aを形成するシート3が本発明の多孔質フィルムである点で特徴付けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂組成物、無機充填剤、及び脂肪酸を含む多孔質フィルムであって、
前記無機充填剤を前記オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して50質量部以上400質量部以下、前記脂肪酸を前記無機充填剤100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下含み、
前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が80℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含み、
前記低融点オレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む、多孔質フィルム。
【請求項2】
前記多孔質フィルムは単層フィルムである、請求項1に記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
前記低融点オレフィン系樹脂における酢酸ビニルの含有率は、25質量%以上である、請求項1又は2に記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
前記低融点オレフィン系樹脂における酢酸ビニルの含有率は、50質量%未満である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が80℃以上である高融点オレフィン系樹脂を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多孔質フィルム。
【請求項6】
前記高融点オレフィン系樹脂はポリエチレンである、請求項5に記載の多孔質フィルム。
【請求項7】
前記高融点オレフィン系樹脂は直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項5又は6に記載の多孔質フィルム。
【請求項8】
前記直鎖状低密度ポリエチレンは、メタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項7に記載の多孔質フィルム。
【請求項9】
機械方向の柔軟変形度が0.12N/(mm・(g/m))以下である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の多孔質フィルム。
【請求項10】
着衣に固定して使用する吸収性物品であって、該着衣との固定面に粘着剤が付着し、該固定面を形成するシートが、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の多孔質フィルムである、吸収性物品。
【請求項11】
前記粘着剤が、スチレン系エラストマーを含むホットメルト型粘着剤である、請求項10に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収性物品に好適な多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品として、体液を吸収保持する吸収体と、該吸収体の非肌対向面側に配置された裏面シートとを備えるものが知られている。この裏面シートとして、しばしば多孔質フィルムが用いられている。多孔質フィルムからなる裏面シートを備えた吸収性物品は、その着用状態において着用者の身体から生じた湿気が裏面シートを通じて外部に放出されやすいので、着用状態での蒸れが生じにくくなるという利点がある。
【0003】
多孔質フィルムとして、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂と無機充填剤とを含む樹脂組成物により形成された透湿性フィルムが知られている(特許文献1~3)。例えば、特許文献1及び2には、示差走査熱量計(DSC)による融点が50~100℃の結晶性低密度ポリエチレンを含有する透湿性多孔質フィルムが記載され、また、該フィルムを吸収性物品の裏面シートとして使用することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-1557号公報
【特許文献2】特開2000-1556号公報
【特許文献3】特開2019-163357号公報
【0005】
吸収性物品の裏面シートには、透湿性に加えて、柔軟性を有することが求められる。裏面シートとして柔軟性に優れたものを用いることで、吸収性物品の着用感の向上が期待できる。また、生理用ナプキンのような、ショーツ等の着衣に固定して使用するタイプの吸収性物品においては、裏面シートにおける着衣との固定面に固定手段として粘着剤が設けられている場合が多い。この固定手段としての粘着剤には、粘着剤を介して吸収性物品を着衣の所定位置に固定した後に、その固定位置からの吸収性物品のズレ、あるいはヨレやめくれ等の吸収性物品の意図しない変形等の不都合が生じないよう、一定レベルの粘着力を安定的に発現することを求められる。柔軟性に優れ、且つ吸収性物品の裏面シートとして使用した場合に粘着剤の粘着力が安定的に発現し得る多孔質フィルムは未だ提供されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、柔軟性に優れた多孔質フィルムに関する。
また本発明は、裏面シートが柔軟で、且つ着衣に固定して使用した場合にズレ等の不都合が生じにくく、着用感及び防漏性に優れた吸収性物品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オレフィン系樹脂組成物、無機充填剤、及び脂肪酸を含む多孔質フィルムに関する。
本発明の多孔質フィルムの一実施形態では、前記無機充填剤を前記オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して50質量部以上400質量部以下、前記脂肪酸を前記無機充填剤100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下含むことが好ましい。
本発明の多孔質フィルムの一実施形態では、前記オレフィン系樹脂組成物は、融点が80℃未満である低融点オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
本発明の多孔質フィルムの一実施形態では、前記低融点オレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む樹脂からなることが好ましい。
【0008】
本発明は、着衣に固定して使用する吸収性物品であって、該着衣との固定面に粘着剤が付着し、該固定面を形成するシートが、前記の本発明の多孔質フィルムである、吸収性物品である。
本発明の他の特徴、効果及び実施形態は、以下に説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柔軟性に優れた多孔質フィルムを提供できる。また、本発明によれば、裏面シートが柔軟で、且つ着衣に固定して使用した場合にズレ等の不都合が生じにくく、着用感及び防漏性に優れた吸収性物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキンの非肌対向面側を模式的に示す平面図である。
図2図2は、図1に示す生理用ナプキンのI-I線断面(厚み方向且つ横方向に沿う断面)を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の吸収性物品の他の実施形態の図1相当図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の多孔質フィルムについて詳細に説明する。
本発明の多孔質フィルムは多数の微細孔を有している。本発明の多孔質フィルムは、微細孔によって透湿性を有するものである。また本発明の多孔質フィルムは耐水性が高く、高い防漏性を有するものである。更に本発明の多孔質フィルムは柔軟性が高く、変形させるために必要な荷重が小さいものである。本発明の多孔質フィルムは、オレフィン系樹脂組成物、無機充填剤及び脂肪酸を少なくとも含んでいる。本発明の多孔質フィルムは、これらの成分に加えて、該多孔質フィルムの各種の特性を向上させることを目的として種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0012】
本明細書において「オレフィン系樹脂組成物」は、各種のオレフィン系樹脂を1種のみ含む場合、及び2種以上含む場合の双方を包含する。また、「オレフィン系樹脂組成物」は、各種のオレフィン系樹脂のみからなり、他の樹脂及び樹脂以外の成分を含まない概念である。なお、本発明の多孔質フィルムが、オレフィン系樹脂以外の樹脂を含むことは妨げられない。
本発明に用いられるオレフィン系樹脂組成物は、エチレン、プロピレン、ブテン等のモノオレフィンの重合体及び共重合体を主成分とするものである。例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系エラストマー及びこれらの任意の2種以上の組み合わせからなる混合物が挙げられる。
【0013】
オレフィン系樹脂組成物の密度を前述した範囲内に設定する目的で、オレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系樹脂として、低融点オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。また、低融点オレフィン系樹脂は、本発明の多孔質フィルムに柔軟性を付与する目的でも用いられる。
本発明の多孔質フィルムに柔軟性を付与する観点から、低融点オレフィン系樹脂は、その融点が好ましくは80℃未満、更に好ましくは77℃未満、一層好ましくは75℃未満である。また、多孔質フィルムの形態安定性を得るため、低融点オレフィン系樹脂は、その融点が好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、一層好ましくは60℃以上である。以上を総合すると、低融点オレフィン系樹脂は、その融点が40℃以上80℃未満であることが好ましく、50℃以上77℃未満であることが更に好ましく、60℃以上75℃未満であることが一層好ましい。
以下、特に説明しない限り、本明細書で言う「低融点オレフィン系樹脂」とは、融点が80℃未満のオレフィン系樹脂を指す。
【0014】
多孔質フィルムに含まれる低融点オレフィン系樹脂の融点は、以下の方法で測定される。およそ2.0mgの多孔質フィルムを試料とし、示差走査熱量計(DSC7000X、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、測定温度範囲10℃~260℃、昇温速度10℃/min、空気環境下の条件で示差走査熱量測定(DSC)を実施する。得られたDSC曲線には、80℃よりも低い温度域に、低融点オレフィン系樹脂が融解する際に生じる吸熱ピークが観察され、低融点オレフィン系樹脂の融点は、観察された吸熱ピークの頂点の温度である。
【0015】
なお、多孔質フィルムに融点の測定対象(低融点オレフィン系樹脂)以外の成分(例えば添加剤)が含まれている場合、前記の融点の測定方法では、測定対象の融点を正確に測定できないおそれがある。このような場合は下記方法により、多孔質フィルムから添加剤を収集し、その融点を測定することで、別途測定した測定対象の融点とその他の成分(添加剤)の融点とを区別することが可能である。
先ず、ラボプラストミル(東洋精機製)を使用して、多孔質フィルムを160℃、30rpmで10分間混錬して樹脂塊を得る。
次に、ラボプレス(東洋精機製)を用い、樹脂塊を150℃、13MPaで1分間プレスし、次いで、常温、13MPaで1分間冷却プレスして厚みがおよそ0.5mmであるプレスフィルムを得る。
最後に、プレスフィルムを50℃の環境下で1週間保存する。そうすることで、プレスフィルム表面には多孔質フィルムの状態よりも多くの添加剤がブリードアウトするため、添加剤を効率よく収集することができる。プレスフィルム表面から添加剤を収集する方法には、例えば、ワイプで拭き取る、スパチュラで掻き採るなどがある。
【0016】
本発明の多孔質フィルムは、前述したように低融点オレフィン系樹脂を含有するため、柔軟性に優れる。低融点オレフィン系樹脂としては、多孔質のフィルムの柔軟性だけを考慮すれば、例えば、エチレンとαオレフィンとのコポリマー(以下「エチレン-αオレフィンコポリマー」ともいう。)が好ましく、該αオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン及び1-ヘキセンなどが挙げられる。
しかしながら、本発明者の知見によれば、エチレン-αオレフィンコポリマーのような、多孔質フィルムの柔軟性向上に寄与する低極性エラストマーが添加された多孔質フィルムの表面に、生理用ナプキン等の吸収性物品においてショーツ等の着衣との固定手段として採用されている粘着剤を塗工すると、その粘着剤の粘着力が経時的に低下する場合があることが判明した。このような、原料樹脂に起因して柔軟性が向上した多孔質フィルムに特有の粘着剤の経時劣化の課題は、特許文献1~3に記載されていない。
【0017】
前記課題を解決する方法として、多孔質フィルムへの粘着剤の塗工量を従来よりも増加させることが考えられる。しかしこの方法は、粘着剤を介して着衣に固定された吸収性物品を該着衣から剥がした場合に、該着衣に該粘着剤が残り、着用者に不快感を与えるおそれがある。
【0018】
本発明者は、前記課題を解決するべく種々検討した結果、多孔質フィルムの表面に塗工された粘着剤の経時劣化の原因は、該粘着剤の低分子量成分が、該多孔質フィルムに柔軟性の向上を目的として含有されているエチレン-αオレフィンコポリマー等の低極性エラストマーに吸収されるためであるとの知見を得た。そして、その知見に基づき更に検討した結果、多孔質フィルムに柔軟性向上を目的として含有される原料樹脂(低融点オレフィン系樹脂)として、従来使用されている低極性エラストマーに代えて、高極性エラストマーであるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を採用することで、多孔質フィルムの柔軟性を確保しつつ、前述した粘着剤の経時劣化の課題を解決し得ることを知見した。
【0019】
本発明の多孔質フィルムは前記知見に基づきなされたものであり、該多孔質フィルムに含有される低融点オレフィン系樹脂がEVAを含む点で特徴付けられる。低融点オレフィン系樹脂で且つ高極性エラストマーであるものとしては、EVAの他に例えばエチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)があるが、本発明者の知見によれば、EMAはEVAに比べて効果に劣る。
【0020】
本発明で用いられる低融点オレフィン系樹脂は、EVAを含むものであればよく、該低融点オレフィン系樹脂におけるEVAの含有率は特に制限されない。すなわち本発明の多孔質フィルムには、低融点オレフィン系樹脂として、EVAに加えて更に他の低融点オレフィン系樹脂を含有させてもよい。ただし、多孔質フィルムの柔軟性と粘着剤経時劣化防止効果とを高いレベルで両立させる観点からは、低融点オレフィン系樹脂におけるEVAの含有率が高いほど好ましく、低融点オレフィン系樹脂の全部がEVA、すなわち低融点オレフィン系樹脂におけるEVAの含有率が100質量%であることが最も好ましい。
【0021】
本発明で用いられる低融点オレフィン系樹脂における酢酸ビニルの含有率は、前述した粘着剤経時劣化防止効果の一層の向上の観点から、該低融点オレフィン系樹脂の全質量に対して、好ましくは25質量%以上、更に好ましくは27質量%以上、一層好ましくは30質量%以上である。
【0022】
また、本発明で用いられる低融点オレフィン系樹脂における酢酸ビニルの含有率は、長期保管中にEVAから遊離する酢酸の臭気抑制の観点から、該低融点オレフィン系樹脂の全質量に対して、好ましくは50質量%未満、更に好ましくは45質量%以下、一層好ましくは40質量%以下である。
【0023】
本発明の多孔質フィルムに後述する高融点オレフィン系樹脂を含有させる場合にそれとの良好な相溶性を得るため、低融点オレフィン系樹脂はランダム共重合体であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した低融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に10質量部以上含むことが、本発明の多孔質フィルムに満足すべき柔軟性を与えつつ、伸長変形後の残留歪を小さく保ち得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、低融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に更に好ましくは15質量部以上含まれ、一層好ましくは20質量部以上含まれる。
また、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した低融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に90質量部以下含むことが、本発明の多孔質フィルムにブロッキングが生じにくくなることから好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、低融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に、更に好ましくは85質量部以下含まれ、一層好ましくは80質量部以下含まれる。
以上を総合すると、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した低融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に好ましくは10質量部以上90質量部以下含み、更に好ましくは15質量部以上85質量部以下含み、一層好ましくは20質量部以上80質量部以下含む。
【0025】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した低融点オレフィン系樹脂に加えて、高融点オレフィン系樹脂を含むことが、本発明の多孔質フィルムに耐熱性や形態の安定性、加工性を一層付与し得る点から好ましい。
本発明で用いられる高融点オレフィン系樹脂は、溶融成形される多孔質フィルムの高速成型を実現するため、短時間の固化を実現できるように融点が好ましくは80℃以上であり、更に好ましくは90℃以上であり、一層好ましくは95℃以上である。また、多孔質フィルムに柔軟性を付与する観点から、高融点オレフィン系樹脂は、その融点が好ましくは130℃以下であり、更に好ましくは127℃以下であり、一層好ましくは124℃以下である。以上を総合すると、高融点オレフィン系樹脂の融点は80℃以上130℃以下であることが好ましく、90℃以上127℃以下であることが更に好ましく、95℃以上124℃以下であることが一層好ましい。
【0026】
多孔質フィルムに含まれる高融点オレフィン系樹脂の融点は、以下の方法で測定される。およそ2.0mgの多孔質フィルムを試料とし、示差走査熱量計(DSC7000X、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、測定温度範囲10℃~260℃、昇温速度10℃/min、空気環境下の条件で示差走査熱量測定(DSC)を実施する。得られたDSC曲線の90℃以上の温度域に高融点オレフィン系樹脂が融解する際に生じる吸熱ピークが観察され、その吸熱ピークの頂点が高融点オレフィン系樹脂の融点である。
なお、多孔質フィルムに含まれる添加剤と高融点オレフィン系樹脂とを区別する方法は、前述した、多孔質フィルムに含まれる添加剤と低融点オレフィン系樹脂とを区別する方法と同様である。
【0027】
多孔質フィルムの柔軟性と高融点オレフィン系樹脂による作用効果(耐熱性付与効果等)とを両立させる観点から、高融点オレフィン系樹脂は、その密度が比較的低いことが好ましく、具体的には、好ましくは0.950g/cm以下、更に好ましくは0.940g/cm以下、一層好ましくは0.930g/cm以下である。また、ブロッキングを生じにくくする観点から、高融点オレフィン系樹脂の密度は0.900g/cm以上であることが好ましい。以上を総合すると、高融点オレフィン系樹脂の密度は、好ましくは0.900g/cm以上0.950g/cm以下、更に好ましくは0.900g/cm以上0.940g/cm以下、一層好ましくは0.900g/cm以上0.930g/cm以下である。
【0028】
前記の密度を有する高融点オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレンを用いることが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが、延伸時の耐熱性が向上し、延伸を均一に行い得るので好ましい。特に、メタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンは、引裂きや突き抜けなどに対するフィルムの強度が一層向上するので、より好ましい。
メタロセン触媒とは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属をπ電子系のシクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル基等を含有する不飽和環状化合物で挟んだ構造の化合物であるメタロセンと、アルミニウム化合物等の助触媒とを組み合わせたものである。メタロセンとしては、例えば、チタノセン、ジルコノセン等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミノキサン、アルキルアルミニウム、アルミニウムハライド、アルキルアルミニウムハライド等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した密度を有する高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に10質量部以上含むことが、多孔質フィルムに耐熱性や形態の安定性、加工性を一層付与し得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、高融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に更に好ましくは15質量部以上含まれ、一層好ましくは20質量部以上含まれる。
また、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に90質量部以下含むことが、多孔質フィルムの柔軟性と高融点オレフィン系樹脂による作用効果(耐熱性付与効果等)とを両立させる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、高融点オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂組成物100質量部中に更に好ましくは85質量部以下含まれ、一層好ましくは80質量部以下含まれる。
以上を総合すると、本発明で用いられるオレフィン系樹脂組成物は、前述した密度を有する高融点オレフィン系樹脂を、該オレフィン系樹脂組成物100質量部中に好ましくは10質量部以上90質量部以下含み、更に好ましくは15質量部以上85質量部以下含み、一層好ましくは20質量部以上80質量部以下含む。
【0030】
本発明に用いられる無機充填剤は、オレフィン系樹脂組成物との界面で剥離を生じて微細孔を形成させる物質である。この観点から、無機充填剤はその平均粒径D50が好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下、また好ましくは0.5μm以上、一層好ましくは1.0μm以上である。本明細書において、無機充填剤の平均粒径D50とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積重量50質量%における重量累積粒径のことである。
【0031】
無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト及びカーボンブラック並びにこれらの混合物が挙げられる。特に、前述した粒径に調整しやすいことから炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0032】
無機充填剤は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、50質量部以上含まれることが、十分な量の微細孔を形成して、多孔質フィルムの透湿性を十分に高くする点から好ましく、更に好ましくは60質量部以上であり、一層好ましくは80質量部以上である。
また、無機充填剤は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、400質量部以下含まれることが、多孔質フィルムの防漏性を十分に高める観点から好ましく、更に好ましくは350質量部以下であり、一層好ましくは200質量部以下である。
【0033】
本発明に用いられる脂肪酸は、無機充填剤の分散剤として機能する物質である。分散剤としては、斯かる機能を十分に発揮させる観点から、無機充填剤の表面を疎水化することができるものが好ましく用いられる。この観点から、分散剤として、例えば脂肪酸を用いることが好ましく、特にステアリン酸が好ましい。その他、脂肪酸としては、例えばカプリル酸、パルミチン酸、カプリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
特に、多孔質フィルムに後述の金属石鹸を含有させる場合、脂肪酸における炭化水素鎖の鎖長と、金属石鹸を構成する脂肪酸における炭化水素鎖の鎖長とが同じであると、脂肪酸で表面修飾された無機充填剤へ金属石鹸がより円滑に移行できるようになることから好ましい。とりわけ、脂肪酸と、後述する金属石鹸を構成する脂肪酸とがいずれもステアリン酸であることが好ましい。
【0034】
本発明の多孔質フィルムは、前述した脂肪酸を、無機充填剤100質量部に対して0.5質量部以上含むことが、無機充填剤の分散性を高める点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、脂肪酸は、無機充填剤100質量部に対して、更に好ましくは0.6質量部以上含まれ、一層好ましくは0.7質量部以上含まれる。
また、本発明の多孔質フィルムは、前述した脂肪酸を、無機充填剤100質量部に対して5.0質量部以下含むことが、フィルムの成形性を損なわない点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、脂肪酸は、無機充填剤100質量部に対して、更に好ましくは4.0質量部以下含まれ、一層好ましくは3.0質量部以下含まれる。
以上を総合すると、本発明の多孔質フィルムは、前述した脂肪酸を、好ましくは無機充填剤100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下含み、更に好ましくは0.6質量部以上4.0質量部以下、一層好ましくは0.7質量部以上3.0質量部以下含む。
【0035】
本発明の多孔質フィルムは、前述したオレフィン系樹脂組成物、無機充填剤及び脂肪酸に加えて更に、開孔促進剤を含有してもよい。開孔促進剤は、オレフィン系樹脂組成物及び無機充填剤を含む樹脂フィルムを延伸して微細孔を発生させることを円滑に行う目的で用いられるものである。前述したとおり、オレフィン系樹脂組成物が低融点オレフィン系樹脂を含み、低密度であることで、本発明の多孔質フィルムに柔軟性が付与されるところ、密度が低いオレフィン系樹脂は、無機充填剤との間での界面剥離が起こりづらい傾向にある。そこで、多孔質フィルムの原料として前記低融点オレフィン系樹脂に加えて開孔促進剤を用いることで、斯かる界面剥離が促進し得る。
開孔促進剤としては、金属と樹脂との離型剤として知られている物質が好適に用いられる。具体的には金属石鹸、シリコーン、フッ素樹脂、脂肪酸アミド、炭化水素パラフィンワックスなどが挙げられる。特に、微細孔の形成を一層円滑に行い得る点から金属石鹸を用いることが好ましい。
【0036】
金属石鹸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸の金属塩が好適に用いられ、特にステアリン酸亜鉛が好ましい。脂肪酸としては、例えばカプリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、カプリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。金属塩としては、これらの脂肪酸のカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の塩が挙げられる。
【0037】
脂肪酸の金属塩に類似した物質であって且つ多孔質フィルムに配合される物質として脂肪酸そのものが知られている。脂肪酸は前述したとおり、無機充填剤の分散性を高める目的で用いられる。しかし脂肪酸は、オレフィン系樹脂組成物と無機充填剤との間での界面剥離を促進させる機能を有さない。したがって本発明においては、脂肪酸の金属塩と、脂肪酸とは、物質的に及び機能的に明確に区別される。
【0038】
特に金属石鹸として、その融点が200℃以下のものを用いると、本発明の多孔質フィルムの製造過程におけるコンパウンドの混練時に、金属石鹸が十分に溶融して、溶融樹脂中に均一に混合される観点から好ましい。この観点から、金属石鹸の融点は、更に好ましくは180℃以下、一層好ましくは160℃以下であることが一層好ましい。
【0039】
また、金属石鹸は、前述したオレフィン系樹脂組成物との関係で、該金属石鹸の析出温度が、オレフィン系樹脂組成物の固化温度よりも高いものを用いることが、微細孔を首尾よく形成でき、高い透湿度を有し且つ高い耐水性を有する多孔質フィルムが得られる観点から好ましい。詳細には、金属石鹸の析出温度が、オレフィン系樹脂組成物の固化温度よりも高いことで、オレフィン系樹脂組成物が固化するよりも早く金属石鹸が析出するので、該金属石鹸は無機充填剤の表面に円滑に移行できるようになる。その結果、延伸時における無機充填剤とオレフィン系樹脂組成物との離型性が良好になり、微細孔が円滑に生じる。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸の析出温度をTs(℃)とし、オレフィン系樹脂組成物の固化温度をTp(℃)としたとき、Ts-Tpの値が好ましくは0℃よりも大きく、更に好ましくは1℃以上、一層好ましくは2℃以上である。また、Ts-Tpの値は、好ましくは50℃以下である。
【0040】
Ts-Tpの値が前述の範囲であることを条件として、金属石鹸の析出温度Tsは、好ましくは80℃以上180℃以下、更に好ましくは90℃以上170℃以下、一層好ましくは100℃以上160℃以下である。
一方、オレフィン系樹脂組成物の固化温度Tpは、Ts-Tpの値が前述の範囲であることを条件として、好ましくは60℃以上130℃以下、更に好ましくは70℃以上120℃以下、一層好ましくは80℃以上115℃以下である。
【0041】
金属石鹸の析出温度Tsは、ホットスターラーと熱電対を用い、以下の方法で測定される。ホットスターラーを使い、5.0gのパラフィンオイルに0.43gの金属石鹸を加え、攪拌しながら金属石鹸が溶解するまで加熱する。スターラーによる液の攪拌を止めたのち、パラフィンオイルの温度を降温速度0.2℃/minで下げていき、金属石鹸が析出してきたときのパラフィンオイルの温度を熱電対で読み取り、その温度を金属石鹸の析出温度とする。なお、パラフィンオイルを210℃に加熱したにもかかわらず、金属石鹸がパラフィンオイルに溶解しない場合には、析出温度は210℃と定義する。
一方、オレフィン系樹脂組成物の固化温度Tpは、JIS K 7121(補外結晶化終了温度の求め方)に準拠して、以下方法で測定される。およそ2.0mgの多孔質フィルムを試料とし、示差走査熱量計(DSC7000X、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、測定温度範囲を30℃~260℃、昇温速度を10℃/min、降温速度を50℃/min、空気環境下、データサンプリング周期0.5sの条件で示差走査熱量測定(DSC)を実施する。得られたDSC曲線の降温過程には、オレフィン系樹脂組成物が固化(結晶化)する際に生じる発熱ピークが観察される。オレフィン系樹脂組成物の固化温度は、降温過程で最も発熱量の多いピークに対し、ピークの温度よりも低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ピークの低温側の曲線で傾きが最大となる2点のデータ間で引いた近似直線の交点の温度とする。発熱ピークが重なって2個以上存在する場合は、例えばソフトウェアPeakFIT v4.12(株式会社ヒューリンクス製)を使用し、ピーク分離を行った後に前記方法で固化温度を求める。
【0042】
本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して0.5質量部以上含まれることが、微細孔を首尾よく発生させ得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して更に好ましくは1.0質量部以上含まれ、一層好ましくは2.0質量部以上含まれる。
また、本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して20質量部以下含まれることが、良好な成形性を維持する点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して更に好ましくは15質量部以下含まれ、一層好ましくは10質量部以下含まれる。以上を総合すると、本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して好ましくは0.5質量部以上20質量部以下含まれ、更に好ましくは1.0質量部以上15質量部以下含まれ、一層好ましくは2.0質量部以上10質量部以下含まれる。
【0043】
本発明の多孔質フィルムに含まれる金属石鹸の量は、該多孔質フィルムに含まれる無機充填剤の量とも関係している。詳細には、本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して0.5質量部以上含まれることが、微細孔を首尾よく発生させ得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して更に好ましくは1.5質量部以上含まれ、一層好ましくは2.0質量部以上含まれる。
また、本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して15質量部以下含まれることが、良好な成形性を維持する点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して更に好ましくは10質量部以下含まれ、一層好ましくは9.0質量部以下含まれ、更に一層好ましくは8.0質量部以下含まれる。
以上を総合すると、本発明の多孔質フィルムにおいて、金属石鹸は、無機充填剤100質量部に対して好ましくは0.5質量部以上15質量部以下含まれ、更に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下含まれ、一層好ましくは1.5質量部以上9.0質量部以下含まれ、更に一層好ましくは2.0質量部以上8.0質量部以下含まれる。
【0044】
本発明の多孔質フィルムには添加剤が含まれてもよい。添加剤としては、多孔質フィルムに各種の付加的性能を付与し得るものが用いられる。そのような添加剤としては、例えば可塑剤、撥水剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。
【0045】
前記可塑剤は、本発明の多孔質フィルムに柔軟性やしなやかさを付与したり、本発明の多孔質フィルムにカサツキ音が発生することを防止したりする目的で用いられる。可塑剤としては、モノエステル、ポリエステル、エチレン-αオレフィンコオリゴマー、低分子量ポリエチレン、オレフィンオリゴマー、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン等が好ましく用いられる。
モノエステルは1塩基酸と1価アルコールとから得られる化合物である。
一方、ポリエステルは多塩基酸と1価アルコール、1塩基酸と多価アルコール、及び多塩基酸と多価アルコールのいずれかの組み合わせによって得られた化合物である。
エチレン-αオレフィンコオリゴマーは、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン及び1-ヘキセンなどのαオレフィンと、エチレンとの低分子量共重合体である。
【0046】
前述した1塩基酸、多塩基酸、1価アルコール、及び多価アルコールとしては、例えば以下に挙げるものが好ましく用いられる。
1塩基酸としては、例えば炭素数10~22の長鎖炭化水素のモノカルボン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、例えばジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等が挙げられる。
1価アルコールとしては、例えば炭素数10~22の長鎖炭化水素のモノアルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えばジオール類、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、スクロース等が挙げられる。
【0047】
特に好ましいポリエステルは、例えばジエチレングリコールとダイマー酸とのポリエステルにおける両末端のカルボン酸又はアルコールをステアリルアルコール又はステアリン酸で部分的に又は全部を封鎖したポリエステル、1,3-ブタンジオールとアジピン酸のポリエステル、トリメチロールプロパン-アジピン酸-ステアリン酸からなるヘキサエステル、ペンタエリスリトール-アジピン酸-ステアリン酸からなるオクタエステル、ジペンタエリスリトール-アジピン酸-ステアリン酸からなるドデカエステル等が挙げられる。
【0048】
一方、特に好ましいモノエステルとしては、例えば炭素数1~40のモノカルボン酸と炭素数1~40のモノアルコールとから脱水して得られる合計炭素数30以上のエステルが挙げられる。中でもモノカルボン酸とモノアルコールとから得られる合計炭素数が30以上のものが好ましく、該炭素数が38以上であって分岐鎖を有するモノエステルがより好ましい。具体的には、イソデシルステアレート、イソデシルベヘネート、イソトリデシルステアレート、2-オクタデシルステアレート、2-デシルテトラデシルラウレート、2-デシルテトラデシルステアレート、2-オクタデシルベヘネート、ステアリルイソステアレート、ステアリン酸とC20ゲルベアルコールとのエステル、及びα-分岐脂肪酸(炭素数18~40)とモノアルコール(炭素数6~36)とのエステル等が挙げられる。
【0049】
撥水剤としては、トリグリセリドを用いることが好ましい。トリグリセリドを用いることで、多孔質フィルム表面の撥水性が高まり、防漏性が高まる。
トリグリセリドを用いることによる利点を一層顕著なものとする観点から、本発明の多孔質フィルムにおけるトリグリセリドの含有量は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましく、1.0質量部以上であることが一層好ましい。また、フィルム成形性の観点から、トリグリセリドの含有量は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることが更に好ましく、20質量部以下であることが一層好ましい。以上を総合すると、本発明の多孔質フィルムにおけるトリグリセリドの含有量は、オレフィン系樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上25質量部以下であることが更に好ましく、1.0質量部以上20質量部以下であることが一層好ましい。
【0050】
本発明で用いるトリグリセリドの好ましい一例として、「炭素原子数16以上22以下である脂肪酸に由来する基を含み、且つ該基が不飽和結合及び置換基を有しない炭化水素基であるもの」(以下、「特定トリグリセリド」とも言う。)が挙げられる。
前記「不飽和結合を有しない炭化水素基」とは、炭素-炭素の二重結合及び三重結合のいずれも有さない炭化水素基のことである。つまりアルキル基のことである。また、前記「置換基を有しない炭化水素基」とは、炭化水素基に含まれる水素原子が、他の原子又は原子団(例えば水酸基)によって置換されていないことをいう。したがって、前記「不飽和結合及び置換基を有しない炭化水素基」とは、無置換のアルキル基と同義である。
【0051】
特定トリグリセリドは、脂肪酸残基の炭素数が調整されたものであることが好ましく、具体的には例えば、例えば、以下の(a)又は(b)であることが好ましい。
(a)炭素原子数16の脂肪酸(すなわちパルミチン酸)に由来する基(当該基は不飽和結合及び置換基を有さない炭化水素基である。)を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドと、炭素原子数18の脂肪酸(すなわちステアリン酸)に由来する基(当該基は不飽和結合及び置換基を有さない炭化水素基である。)を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドとの混合物を含むトリグリセリド。
(b)炭素原子数16の脂肪酸に由来する基及び炭素原子数18の脂肪酸に由来する基を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドを含むトリグリセリド。
【0052】
特定トリグリセリドは天然油脂が好ましい。天然油脂の特定トリグリセリドは、その分子構造が多様であるため、合成油脂等の他の特定トリグリセリドに比べて、高い撥液性が得られる。天然油脂の特定トリグリセリドの一例として、菜種極度硬化油が挙げられる。
【0053】
次に、本発明の多孔質フィルムの好適な製造方法について説明する。
本発明の多孔質フィルムの製造方法は、少なくともオレフィン系樹脂組成物、無機充填剤及び脂肪酸を含むコンパウンドを溶融成形してなる樹脂シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を有する。
前記コンパウンドに含まれるオレフィン系樹脂組成物、無機充填剤及び脂肪酸の詳細については先に述べたとおりである。また、前記コンパウンドに含まれるオレフィン系樹脂組成物、無機充填剤及び脂肪酸の配合量について、多孔質フィルムに含まれるこれらの成分の配合量と同じである。更に、前記コンパウンドに含まれる金属石鹸等の任意成分の種類及び量についても、多孔質フィルムに含まれる任意成分の種類及び量と同様である。
【0054】
本発明の多孔質フィルムは、例えば次の方法によって効率よく製造できる。
先ず、前述したコンパウンドを構成する各成分を、ヘンシェルミキサやスーパーミキサ等を用いて予備混合した後、一軸又は二軸押出機で混練してペレット化する。次に、得られたペレットを用い成形機によって成膜し樹脂シートを得る。成形機としては例えばTダイ型やインフレーション型のものを用いることができる。
【0055】
分散剤については、これを単独で、コンパウンドを構成する他の成分と混合してもよいが、好ましくは無機充填剤の表面に予め付着させて、表面修飾された無機充填剤を製造しておき、この表面修飾無機充填剤を、コンパウンドを構成する他の成分と混合して、コンパウンドを調製することが好ましい。こうすることで、意図しないピンホールの発生を抑制させながら、樹脂シートの延伸を首尾よく行うことができ、高い透湿度と高い耐水性とを兼ね備えた多孔質フィルムを得ることができる。
【0056】
前述した樹脂シートは、これを一軸又は二軸延伸することで、オレフィン系樹脂組成物と無機充填剤との界面剥離が生じ多孔質化する。この延伸には機械方向に延伸できるロール法や機械方向に加えてフィルム幅方向にも延伸できるテンター法などが用いられる。このようにして本発明の多孔質フィルムが得られる。樹脂シートは、延伸に伴い面積が増大するよう、少なくとも一軸方向に好ましくは1.1倍以上に延伸し、より好ましくは1.5倍以上に延伸し、更に好ましくは2.0倍以上に延伸する。また、過剰な延伸に伴う過度な分子配向に伴い引裂き強度が低下することを避ける観点から、好ましくは5.0倍以下で延伸し、より好ましくは4.5倍以下で延伸し、更に好ましくは4.0倍以下で延伸する。
【0057】
一軸延伸する場合及び二軸延伸する場合のいずれにおいても、延伸時の樹脂フィルムの温度は、フィルムを破断させることなく、フィルムを均一に延伸できる観点から、好ましくは30℃以上100℃以下に設定し、更に好ましくは35℃以上95℃以下であり、一層好ましくは40℃以上90℃以下である。
【0058】
以上の方法で製造された多孔質フィルムは高い柔軟性及び高い通気性を有するものとなる。柔軟性の程度を柔軟変形度で表した場合、本発明の多孔質フィルムは、機械方向の柔軟変形度が好ましくは0.12N/(mm・(g/m))以下という低い値を示し、更に好ましくは0.10N/(mm・(g/m))以下、一層好ましくは0.08N/(mm・(g/m))以下である。柔軟変形度の下限値は、本発明の多孔質フィルムの強度保持の観点から、好ましくは0.005N/(mm・(g/m))以上である。
【0059】
多孔質フィルムの柔軟変形度は以下の方法で測定される。
測定対象の多孔質フィルムを機械方向150mm、幅方向30mmに3枚切り出す。切り出した試験片を、該試験片の初期長L0が100mmとなるように、引張試験機(商品名:AG-1S、株式会社島津製作所製)に固定する。固定後、引張試験機が読み取る荷重をゼロとし、試験片を変形速度200mm/分でL0の1.3倍まで伸長させた後、すぐに変形速度200mm/分でL0まで収縮させるサイクル試験を実施する。得られたデータから伸長過程における1.03倍変形時の荷重(F3%)を読み取り、下記式から柔軟変形度(N/(mm・(g/m)))を算出する。
柔軟変形度(N/(mm・(g/m)))=F3%(N)/(0.03×30(mm)×フィルムの坪量(g/m))
【0060】
本発明の多孔質フィルムの透湿度は、好ましくは0.1g/(100cm・h)、より好ましくは0.15g/(100cm・h)以上であり、更に好ましくは0.2g/(100cm・h)以上である。これにより、本発明の多孔質フィルムは高い透湿性を有し、吸収性物品内部の湿度を適切に外部へ放散することができる。一方、多孔質フィルムの透湿度の上限値は、過大な多孔化によって、裏面シートに必要な防漏性を喪失させないため、好ましくは4.5g/(100cm・h)以下、更に好ましくは3.5g/(100cm・h)以下、一層好ましくは3.0g/(100cm・h)以下である。
【0061】
多孔質フィルムの透湿度は、JISL1099A-2法に準拠して以下の方法で測定される。
口径2.03cm(面積3.23cm)のガラス瓶(ラボランスクリュー瓶No.8、アズワン製)にイオン交換水を約25mL入れ、ガラス瓶の口を試験片(測定対象の多孔質フィルム)1枚で隙間がないように覆い、試験片をガラス瓶に輪ゴムで固定し、評価サンプルとする。評価サンプルの質量(W1)を測定した後、40℃・20%RHで管理された恒温槽にサンプルを10~15時間保管する。保管後、評価サンプルの質量(W2)を測定し、保管時間(T1、単位:h)を記録し、下記式から透湿度を算出する。
透湿度(g/(100cm・h))=(W1―W2)/(T1×3.23)
×100
【0062】
本発明の多孔質フィルムの坪量は、その用途にもよるが、例えば吸収性物品の裏面シートとして使用する場合は、好ましくは5g/m以上、より好ましくは10g/m以上、そして、好ましくは100g/m以下、より好ましくは50g/m以下である。また、本発明の多孔質フィルムの厚みは、その用途にもよるが、例えば吸収性物品の裏面シートとして使用する場合は、4μm以上90μm以下程度とすることができる。
【0063】
本発明の多孔質フィルムは、単層フィルムでもよく、複数の層が厚み方向に積層された積層フィルムでもよい。本発明の多孔質フィルムが積層フィルムである場合、該積層フィルムを構成する複数の層のうちの少なくとも1つが、前述した構成の多孔質フィルムであればよい。
【0064】
本発明の多孔質フィルムは、柔軟性に優れ、また、透湿性を有するとともに、液体、特に水に対する防漏性が高いことから、例えば使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品用の防漏シート、雨具などの防水シートなどに本発明の多孔質フィルムを適用することができる。特に、後述のとおり、吸収性物品の裏面シートとして有用である。
【0065】
以下、本発明の吸収性物品をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0066】
図1及び図2には、本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキン1Aが示されている。ナプキン1Aは、着衣(図示せず)に固定して使用する吸収性物品であって、該着衣との固定面3aに粘着剤7,8が付着している。
【0067】
ナプキン1Aは、図1に示すとおり、着用者の前後方向に対応し、着用者の腹側から股間部を介して背側に延びる縦方向Xと、これに直交する横方向Yとを有する。
ナプキン1Aは、縦方向Xにおいて、着用者の膣口などの排泄部に対向する排泄部対向部(排泄ポイント)を含む縦中央域Mと、該排泄部対向部よりも着用者の腹側(前側)に配される前方域Fと、該排泄部対向部よりも着用者の背側(後側)に配される後方域Rとの3つに区分される。縦中央域Mは、展開且つ最大伸長状態のナプキン1Aを縦方向Xに三等分した場合の中間に位置する領域であり得る。
【0068】
ナプキン1Aは、図2に示すとおり、体液を吸収保持する吸収体4と、該吸収体4の肌対向面側に配され、着用者の肌と接触し得る液透過性の表面シート2と、該吸収体4の非肌対向面側に配された防漏性の裏面シート3とを具備する。
【0069】
本明細書において、「肌対向面」は、吸収性物品又はその構成部材(例えば吸収体4)における、吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面、すなわち相対的に着用者の肌に近い側であり、「非肌対向面」は、吸収性物品又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に肌側とは反対側、すなわち相対的に着用者の肌から遠い側に向けられる面である。なお、ここでいう「着用時」は、通常の適正な着用位置、すなわち当該吸収性物品の正しい着用位置が維持された状態を意味する。
【0070】
ナプキン1Aにおいては、吸収体4は、吸水性材料を主体とする吸収性コア40と、該吸収性コア40の外面を被覆する液透過性のコアラップシート41とを含んで構成されている。前記吸水性材料としては、例えば、パルプ繊維等の親水性繊維、吸水性ポリマーの粒子、及びそれらの混合物などを用いることができる。吸収性コア40は、図1に示す如き平面視において縦方向Xに長い形状をなしており、吸収性コア40の長手方向は、ナプキン1Aの縦方向Xに一致し、吸収性コア40の幅方向は、ナプキン1Aの横方向Yに一致している。吸収性コア40とコアラップシート41との間は、ホットメルト型接着剤等の接着剤により接合されていてもよい。コアラップシート41は無くてもよい。
【0071】
図2に示すように、表面シート2は、吸収体4の肌対向面の全域を被覆している。一方、裏面シート3は、吸収体4の非肌対向面の全域を被覆し、更に吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁から横方向Yの外方に延出し、後述するサイドシート6とともにサイドフラップ部5,5を形成している。サイドフラップ部5は、ナプキン1Aにおける、吸収体4から横方向Yの外方に延出する部材からなる部分である。
【0072】
ナプキン1Aは、縦中央域Mに一対のウイング部5W,5Wを有している。ウイング部5Wは、サイドフラップ部5における、周辺部よりも横方向Yの外方に延出した部分である。ウイング部5Wは、図1に示す如き平面視において台形形状をなし、横方向Yの内方から外方に向かうに従って縦方向Xの長さが漸次減少している。ウイング部5Wは、ナプキン1Aをショーツ等の着衣に固定する際に、着衣のクロッチ部の外面(非肌対向面)側に折り返されて用いられる。
【0073】
ナプキン1Aは、表面シート2とともにナプキン1Aの肌対向面を形成する一対のサイドシート6,6を有している。表面シート2は、ナプキン1Aの肌対向面の横方向Yの中央域を形成し、サイドシート6は、ナプキン1Aの肌対向面の側部域を形成している。一対のサイドシート6,6は、それぞれ縦方向Xに延びる図示しない接合線にて、接着剤等の公知の接合手段によって他の部材(図示の形態では裏面シート3)に接合されている。
表面シート2、サイドシート6としては、生理用ナプキン等の吸収性物品に従来使用されている各種のものを特に制限なく用いることができる。表面シート2としては、単層又は多層構造の不織布、開孔フィルム等を用いることができる。サイドシート6としては、液不透過性(液を全く通さない性質)又は液難透過性(液不透過性とまでは言えないものの、液を通し難い性質)を有するシートを用いることができる。
【0074】
ナプキン1Aは、ショーツ等の着衣との固定面3aを有する。固定面3aは、裏面シート3の非肌対向面であり、ナプキン1Aの外面である。固定面3aには粘着剤7,8が付着している。粘着剤7は、固定面3aにおける吸収体4と平面視で重なる領域に配置されている。粘着剤8は、固定面3aにおける吸収体4と重ならない領域、具体的にはウイング部5Wに配置されている。粘着剤7,8は何れも裏面シート3に直接付着している。
粘着剤7,8は、ナプキン1Aを着衣に固定する固定手段であり、使用前においては、フィルム、不織布、紙等からなる剥離シート(図示せず)によって被覆されている。
【0075】
ナプキン1Aでは、図1に示すとおり、粘着剤7は、平面視において横方向Yに長い形状、具体的には長方形形状をなし、その長手方向を横方向Yに一致させて、吸収体4と平面視で重なる領域の前方域Fから後方域Rにわたって縦方向Xに複数間欠配置されている。粘着剤8は、平面視において四角形形状をなし、ウイング部5Wの非肌対向面に配置されている。なお、ウイング部5Wは、使用時には着衣のクロッチ部の外面側に折り返されるため、ウイング部5Wの非肌対向面は、その使用中(ナプキン1Aの着用中)は着用者の肌側に向けられ、肌対向面となる。
【0076】
本発明の吸収性物品において、粘着剤7,8の配置パターンは図1に示す配置パターンに制限されず、その固定手段としての機能等を考慮して適宜設定し得る。図3に示すナプキン1Bでは、粘着剤7は、平面視において縦方向Xに長い帯状をなし、その長手方向を縦方向Xに一致させて、吸収体4と平面視で重なる領域において横方向Yに複数間欠配置されている。
【0077】
粘着剤7,8としては、ショーツ等の着衣に対してナプキン1Aを剥離可能に固定し得るものであればよく、生理用ナプキン等の吸収性物品において斯かる目的で従来使用されている粘着剤を特に制限無く用いることできる。粘着剤7,8の好ましい一例として、スチレン系エラストマーを含むホットメルト型粘着剤が挙げられる。スチレン系エラストマーを含むホットメルト型粘着剤のベースポリマーには、例えばスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-エチレンブロック共重合体(SEBS)等が用いられ、粘着付与剤として例えば水添石油樹脂、溶融粘度を調整する可塑剤として例えばパラフィンオイルが配合される。本組成においては粘着付与剤及び可塑剤が粘着剤の低分子量成分に相当する。ホットメルト型粘着剤は可塑剤と粘着付与剤を合計30質量%以上含むのが好ましく、合計40~75質量%含むのが一層好ましい。
【0078】
ナプキン1A,1Bは、着衣との固定面3aを形成し且つ粘着剤7,8が付着されたシートである裏面シート3が、前述した本発明の多孔質フィルムである点で特徴付けられる。前述したとおり、本発明の多孔質フィルムは、EVAを含む、融点90度未満の低融点オレフィン系樹脂を含有しているため、柔軟性に優れ、且つ粘着剤を付着させてもその粘着剤の粘着力が経時劣化し難い。したがって、裏面シート3に付着した粘着剤7,8は、その粘着力が経時的に低下し難く、実用上十分な粘着力を長期間にわたって安定的に維持し得る。そのため、ナプキン1A,1Bは、裏面シート3が柔軟で、且つ粘着剤7,8を介して着衣に固定して使用した場合にズレ、ヨレ、めくれ等の不都合が生じにくく、着用感及び防漏性に優れる。
【0079】
以上、本発明をその実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に制限されることなく適宜変更が可能である。
本発明の吸収性物品は、人体から排出される体液(経血、尿、軟便、汗等)の吸収に用いられる物品を広く包含し、前述した生理用ナプキンの他、パンティライナー、おりものシート、失禁パッド、使い捨ておむつ等が包含される。
【0080】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0081】
〔実施例1~3、比較例1~2〕
以下の手順で多孔質フィルムを製造した。
(1)コンパウンドの製造
以下の表1の「フィルム組成(部)」の欄に記載の成分を、同欄に記載の量となるように計量した。これらをヘンシェルミキサ(株式会社カワタ製)で混合した。得られた混合物を、二軸押出機を用い、設定温度180℃、スクリュー回転数180rpmの条件で混練し、ペレット化したコンパウンドを得た。
(2)樹脂シートの製造
ダイス吐出部のスリットの直径が100mm、隙間0.9mmのインフレーション成型機を用いて、溶融させたコンパウンドからフィルムを成形した。インフレーションダイス設定温度と引取り速度は表1に示す通りである。実施例1の成形条件は、インフレーションダイス設定温度190℃、引き取り速度4m/minとした。実施例2~3の成形条件は、インフレーションダイス設定温度205℃、引き取り速度5m/minとした。比較例1~2の成形条件は、インフレーションダイス設定温度190℃、引き取り速度6m/minとした。
(3)多孔質フィルムの製造
ロール延伸機を用いてフィルムを機械方向に一軸延伸し、表1に示す坪量の多孔質フィルムを得た。延伸倍率、延伸温度は同表に示すとおりである。
【0082】
多孔質フィルムの製造に使用した原材料の詳細は下記のとおりである。
・エラストマーA(低融点オレフィン系樹脂):EVA(融点74℃、酢酸ビニル含有率28質量%)
・エラストマーB(低融点オレフィン系樹脂):EVA(融点65℃、酢酸ビニル含有率32質量%)
・エラストマーC(低融点オレフィン系樹脂):EVA(融点72℃、酢酸ビニル含有率41質量%)
・エラストマーD(低融点オレフィン系樹脂):メタロセン触媒で製造したエチレン・1-ブテン共重合体(融点44℃、酢酸ビニル非含有、密度0.864g/cm
・高融点オレフィン系樹脂:メタロセン触媒で製造した直鎖状低密度ポリエチレン(融点116℃、酢酸ビニル非含有、密度0.924g/cm
・無機充填剤:炭酸カルシウム(平均粒径D50が1.8μm)
・脂肪酸:ステアリン酸
・開孔促進剤(金属石鹸):ステアリン酸亜鉛(融点124℃、析出温度Ts102℃)
・撥水剤(特定トリグリセリド):菜種極度硬化油(構成脂肪酸中、炭素原子数16の飽和脂肪酸の割合が4質量%、炭素原子数18の飽和脂肪酸の割合が93質量%、炭素原子数20の飽和脂肪酸の割合が2質量%、炭素原子数22の飽和脂肪酸の割合が1質量%、不飽和結合又は水酸基を有する脂肪酸を有しない。)
なお、実施例1~3で使用したオレフィン系樹脂組成物(低融点オレフィン系樹脂と高融点オレフィン系樹脂との混合物)の固化温度Tpは、95℃であった。
【0083】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例の多孔質フィルムについて、機械方向の柔軟変形度、透湿度をそれぞれ前記方法により測定した。また、各実施例及び比較例の多孔質フィルムについて、下記方法により、成形性、初期粘着力、粘着強度維持率をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0084】
<成形性の評価方法>
前記「(3)多孔質フィルムの製造」において、樹脂シートを機械方向に一軸延伸した際に、延伸できた場合をA(合格)、樹脂シートが破断する等して延伸できなかった場合をB(不合格)とした。
【0085】
(複合フィルムの作製)
後述の初期粘着力及び粘着強度維持率の測定に供する複合フィルムを以下の手順で作製する。すなわち、離型フィルムの離型処理面に、スチレン系エラストマーを含むホットメルト型粘着剤を所定のパターンで塗工し、該粘着剤を介して該離型フィルムと測定対象の多孔質フィルムと一体化させて、複合フィルムを作製する。
前記離型フィルムとして、リンテック株式会社製の「片面離型フィルムPET25 2010」を用いる。前記粘着剤として、スチレン-ブタジエン共重合体をベースポリマーに用い、且つ粘着付与剤としての水添石油樹脂と、溶融粘度を調整する可塑剤としてのパラフィンオイルとを配合したホットメルト型粘着剤を用いる。本組成においては水添石油樹脂及びパラフィンオイルが粘着剤の低分子量成分に相当する。前記粘着剤の塗工パターンは、該粘着剤の塗工部と非塗工部とが前記離型フィルムの機械方向(MD)に交互に配置され、且つ該塗工部及び該非塗工部は、それぞれ、MDの長さが2mmで、該離型フィルムのMDと直交する方向(CD)の全長にわたって延在する塗工パターンとする。前記塗工部の塗工量は50g/mとする。
前記の離型フィルムと多孔質フィルムとの一体化は次の手順で行う。すなわち、前記離型フィルムを、その粘着剤の塗工面を上に向けて載置し、該粘着剤の塗工面に、測定対象の多孔質フィルムを、該離型フィルムのMD/CDと該多孔質フィルムのMD/CDとが一致するように重ねた後、該多孔質フィルムの上面(離型フィルムとの対向面とは反対側の面)にゴムローラの周面を接触させつつ、該ゴムローラを該多孔質フィルムのMDに沿って移動させて、該離型フィルムと該多孔質フィルムとを該粘着剤を介して一体化させ、目的の複合フィルムを得る。斯かる一体化作業により、前記離型フィルムに塗工されていた前記粘着剤は、前記塗工パターンを維持した状態で前記多孔質フィルムに転着する。前記ゴムローラは、前記多孔質フィルムの上面をMDに一往復させ、且つ該ゴムローラによる線圧は800N/m、該ゴムローラの移動速度は5mm/secとする。
【0086】
<初期粘着力の測定方法>
まず、前記複合フィルムにおける前記粘着剤の非塗工面の全域に粘着テープ(ニチバン株式会社、セロテープ(登録商標)、No.405)を貼り、雰囲気温度40℃の環境で10分静置した後、該複合フィルムからMDの長さ120mm、CDの長さ20mmの平面視矩形形状を切り出して測定サンプル前駆体とする。
次に、前記測定サンプル前駆体を雰囲気温度24℃、相対湿度50%RHの環境に30分静置した後、該測定サンプル前駆体から前記離型フィルムを剥離し、同環境下で、該測定サンプル前駆体を構成する前記多孔質フィルムにおける前記粘着剤の転着面(該離型フィルムとの対向面)に、ゴムローラを用いて綿布(カナキン3号)を貼り合わせて測定サンプルを得る。斯かる綿布の貼り合わせ作業において、ゴムローラは多孔質フィルムのMDに一往復させ、且つゴムローラによる線圧は300N/m、ゴムローラの移動速度は10mm/secとする。
そして、雰囲気温度24℃、相対湿度50%RHの環境で引張試験機を用い、前記測定サンプルにおける前記多孔質フィルムと前記綿布とを、該多孔質フィルムのMDに沿って剥離速度5mm/secでT形剥離し、その際の剥離力を測定する。前記測定サンプルにおいては、MDの長さ2mmの前記粘着剤の塗工部と、MDの長さ2mmの粘着剤の非塗工部とがMDに交互に配置されているので、前記T形剥離では、2mm毎に剥離力のピーク値が出現する。斯かる剥離力のピーク値の5点平均値を、当該測定サンプルの初期粘着力とする。測定対象の多孔質フィルム1種類につき、前記測定サンプルを3つ用意してそれぞれについて前記手順で初期粘着力を測定し、それら3つの測定値の平均値を、当該測定対象の多孔質フィルムの初期粘着力とする。
【0087】
<粘着強度維持率の測定方法>
前記複合フィルムとして、庫内温度50℃の恒温槽に1週間保存したものを用いた以外は、前記<初期粘着力の測定方法>と同様にして、測定サンプルのT形剥離を行って剥離力のピーク値の5点平均値を測定し、その5点平均値の、3つの測定サンプルの平均値を、当該測定対象の多孔質フィルムの保存試験後粘着力とする。そして、当該測定対象の多孔質フィルムの前記初期粘着力に対する前記保存試験後粘着力の割合を、粘着強度維持率とする。前記粘着強度維持率の値が大きいほど、当該粘着剤は粘着力の経時劣化が発生し難く、高評価となる。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すとおり、各実施例の多孔質フィルムは、低融点オレフィン系樹脂としてEVA(エラストマーA~C)を用いたため、低融点オレフィン系樹脂としてEVAを含まないエラストマーDを用いた比較例1に比べて、柔軟変形度の値がほぼ同じで柔軟性が同等でありながらも、粘着強度維持率は、低融点オレフィン系樹脂を含まず柔軟性が低い比較例2の多孔質フィルムと同等以上を示していた。このことから、低融点オレフィン系樹脂としてEVAを用いることで、柔軟性と粘着剤経時劣化防止効果とを両立できることがわかる。
【符号の説明】
【0090】
1A,1B 生理用ナプキン(吸収性物品)
2 表面シート
3 裏面シート
3a 着衣との固定面
4 吸収体
7,8 粘着剤
図1
図2
図3