(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115999
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、インクジェット記録装置のインク吐出量調整方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 501
B41J2/01 129
B41J2/01 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021960
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 哲史
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EC72
2C056FC01
2C056HA44
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】記録媒体の表面温度が変化しても、その温度変化の影響を受けない濃度で画像を印刷することができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録装置は、複数の独立したノズル列を有し、ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体Pに画像を記録するインクジェットヘッド242と、ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように複数回に亘って吐出量調整を行う制御部40とを備える。制御部40は、吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を基に吐出量調整の目標値を設定し、未調整のノズル列について吐出量調整を行う。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の独立したノズル列を有し、前記ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドと、
前記ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を基に前記吐出量調整の目標値を設定し、未調整のノズル列について前記吐出量調整を行う
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクは、エネルギー線が照射されることにより硬化するインクである
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクは、温度によって粘度が変化する特性を持つインクである
請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクは、常温ではゲル状であり、
前記インクジェットヘッドは、加熱されてゾル状となったインクを吐出する
請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録画像の色彩値を取得する測色器をさらに備える
請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記吐出量調整が完了した複数のノズル列に基づく記録画像の色彩値の平均値を前記目標値として設定する
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記吐出量調整が完了したノズル列と前記吐出量調整の対象のノズル列との間の距離に応じた重みづけによって算出される値を前記目標値として設定する
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記距離が近いほど前記重みづけを大きくする
請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記距離が遠いほど前記重みづけを小さくする
請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記重みづけについて、インクの色によって異なるテーブルを有する
請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記ノズル列は、前記記録媒体の搬送方向に対して複数並んで配置されることによってヘッドモジュールを構成しており、
前記制御部は、前記ノズル列の単位または前記ヘッドモジュールの単位で前記吐出量調整を行う
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
複数の独立したノズル列を有し、前記ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドを備え、前記ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行うインクジェット記録装置のインク吐出量調整方法であって、
前記吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記記録画像の色彩値を基に前記吐出量調整の目標値を設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定した前記目標値に基づいて未調整のノズル列について前記吐出量調整を行う調整ステップと、
を有するインクジェット記録装置のインク吐出量調整方法。
【請求項13】
複数の独立したノズル列を有し、前記ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドを備え、前記ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行うインクジェット記録装置において、
前記吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記記録画像の色彩値を基に前記吐出量調整の目標値を設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定した前記目標値に基づいて未調整のノズル列について前記吐出量調整を行う調整ステップと、
の各処理をコンピータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、インクジェット記録装置のインク吐出量調整方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することによって記録媒体に対して画像を記録(形成/印刷)する装置である。この種のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに印加する電圧を制御することによってインクの吐出量の調整が行われる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、インクジェット記録装置において、インクの濃度の違いに基づくインクの吐出量のばらつきを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクジェット記録装置による印刷過程では、画像記録毎または電圧調整毎に記録媒体の表面温度(例えば、紙面温度)が変化する。インクの粘度は、温度に対して感度を持つ。そのため、記録媒体の表面温度が変化すると、記録した画像の濃度も変化する。すなわち、記録媒体の表面温度の変化によって画像濃度も変化することになる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、記録媒体の表面温度が変化しても、その温度変化の影響を抑えて吐出量を調整することができるインクジェット記録装置、インクジェット記録装置のインク吐出量調整方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明のインクジェット記録装置は、複数の独立したノズル列を有し、ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドと、ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行う制御部と、を備え、制御部は、吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を基に吐出量調整の目標値を設定し、未調整のノズル列について吐出量調整を行う。
【0007】
また、上記課題を解決するための本発明のインク吐出量調整方法は、複数の独立したノズル列を有し、ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドを備え、ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行うインクジェット記録装置のインク吐出量調整方法であって、吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を取得する取得ステップと、取得ステップで取得した記録画像の色彩値を基に吐出量調整の目標値を設定する設定ステップと、設定ステップで設定した目標値に基づいて未調整のノズル列について吐出量調整を行う調整ステップと、を有する。
【0008】
また、上記課題を解決するための本発明のプログラムは、複数の独立したノズル列を有し、ノズル列の各ノズルからインクを吐出することによって記録媒体に画像を記録するインクジェットヘッドを備え、ノズル列の各ノズルのインク吐出量が所望の液量になるように吐出量調整を行うインクジェット記録装置において、吐出量調整が完了したノズル列の各ノズルからのインク吐出による記録画像の色彩値を取得する取得ステップと、取得ステップで取得した記録画像の色彩値を基に吐出量調整の目標値を設定する設定ステップと、設定ステップで設定した目標値に基づいて未調整のノズル列について吐出量調整を行う調整ステップと、の各処理をコンピータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録媒体の表面温度が変化しても、その温度変化の影響を抑えて吐出量を調整することができる。
上記した以外の課題、構成、及び、効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成の概略を模式的に示すシステム構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるヘッドユニットの構成の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の機能から見た構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】インクジェットヘッド、インクの液滴、記録媒体、及び、測色器の関係を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク吐出量調整に用いられるテストチャート300の一例を示す図である。
【
図6】ヘッドユニットとテストチャートのテストパターンとの対応関係、及び、テストパターンの内容を説明する図である。
【
図7】参考例に係るインク吐出量調整の具体例を模式的に示す図である。
【
図8】インク吐出量調整における時間経過に対する紙面温度の変化を示す図である。
【
図9】温度とインクの粘度との関係を示す図である。
【
図10】紙面温度と画像濃度との関係を示す図である。
【
図11】調整電圧の電圧値と画像の濃度との関係を示す図である。
【
図12】感度に個体差がある3つのヘッド1~3について、調整電圧の電圧値と画像の濃度との関係を示す図である。
【
図13】紙面温度が一定のケースの電圧調整について説明する図である。
【
図14】紙面温度に変動があるケースの電圧調整について説明する図である。
【
図15】本発明の実施例1に係るインク吐出量調整を模式的に示す図である。
【
図16】本発明の実施例1に係るインク吐出量調整についてより具体的に説明する図である。
【
図17】本発明の実施例2に係るインク吐出量調整において用いられるヘッドモジュールHM間の距離に応じた重みづけ係数のテーブルの一例を示す図である。
【
図18】本発明の実施例2に係るインク吐出量調整を模式的に示す図である。
【
図19】本発明の実施例3に係るインク吐出量調整方法の処理の一例の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態と記述する)について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能または構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0012】
<インクジェット記録装置のシステム構成例>
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成の概略を模式的に示すシステム構成図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100は、記録媒体Pに対する画像の記録を行う記録装置1と、ユーザによる入力操作に応じて記録装置1における動作の制御の設定に用いられる各種設定データの生成処理を行う情報処理装置2とを備えている。
【0014】
[記録装置]
記録装置1は、給紙部10、画像記録部20、排紙部30、及び、制御部40を備えている。記録装置1は、制御部40による制御下で、給紙部10に格納された記録媒体Pを画像記録部20に搬送し、画像記録部20で記録媒体Pに対してインクを吐出して画像を記録し、画像が記録された記録媒体Pを排紙部30に搬送する。
【0015】
詳しくは、記録装置1は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色についてそれぞれ所定の記録階調数(例えば、256階調)で色を重ねて出力することで、記録媒体P上にカラー画像を記録する。記録媒体Pとしては、普通紙や塗工紙といった用紙のほか、布帛またはシート状の樹脂等、表面に着弾したインクを定着させることが可能な種々の印刷媒体を用いることができる。
【0016】
(給紙部)
給紙部10は、記録媒体Pを格納する給紙トレー11と、給紙トレー11から画像記録部20に記録媒体Pを搬送して供給する媒体供給部12とを有する。媒体供給部12は、2本のローラにより支持された輪状のベルトを備え、このベルト上に記録媒体Pを載置した状態でローラを回転させることにより、記録媒体Pを給紙トレー11から画像記録部20へ搬送する。
【0017】
(画像形成部)
画像記録部20は、搬送部21、受け渡しユニット22、加熱部23、ヘッドユニット24、定着部25、画像読取部26、及び、デリバリ部27などを有している。
【0018】
搬送部21は、円筒状の搬送ドラム211の搬送面上に載置された記録媒体Pを保持し、搬送ドラム211が回転して周回移動することにより、搬送ドラム211上の記録媒体Pを搬送面に沿った方向に搬送する。搬送ドラム211は、その搬送面上で記録媒体Pを保持するための爪部(図示せず)及び吸気部(図示せず)を備えている。記録媒体Pは、爪部によって端部が押さえられ、かつ、吸気部によって搬送面に吸い寄せられることにより搬送面に保持される。
【0019】
受け渡しユニット22は、給紙部10の媒体供給部12と搬送部21との間の位置に設けられており、媒体供給部12から搬送された記録媒体Pの一端をスイングアーム部221で保持して取り上げ、受け渡しドラム222を介して搬送部21に引き渡す。
【0020】
加熱部23は、受け渡しドラム222の配置位置とヘッドユニット24の配置位置との間に設けられており、搬送部21により搬送される記録媒体Pが所定の温度範囲内の温度となるように記録媒体Pを加熱する。加熱部23は、例えば、赤外線ヒータ等を有し、制御部40から供給される制御信号に基づいて赤外線ヒータに通電して当該赤外線ヒータを発熱させる。
【0021】
ヘッドユニット24は、記録媒体Pに画像を記録する記録部であり、記録媒体Pが保持された搬送ドラム211の回転に応じた適切なタイミングで、搬送ドラム211の搬送面に対向するインク吐出面に設けられたノズル開口部から記録媒体Pに対してインクを吐出することにより画像を記録する。ヘッドユニット24は、インク吐出面と搬送面とが所定の距離だけ離隔されるように配置されている。
【0022】
本実施形態に係るインクジェット記録装置100では、Y(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン),K(ブラック)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット24が記録媒体Pの搬送方向上流側から、例えば、Y,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。ヘッドユニット24の詳細については後述する。
【0023】
定着部25は、搬送部21のX方向の幅に亘って配置されたエネルギー線照射部を有し、搬送部21に載置された記録媒体Pに対して紫外線等のエネルギー線を照射して記録媒体P上に吐出されたインクを硬化させることによって定着させる。定着部25のエネルギー線照射部は、ヘッドユニット24の配置位置からデリバリ部27の受け渡しドラム271の配置位置までの間に、搬送面と対向して配置される。
【0024】
画像読取部26は、定着部25によりインクが定着された記録媒体Pの表面を読み取り可能に配置されており、搬送ドラム211により搬送される記録媒体Pに記録されている画像を読み取る読取処理を行い、当該読取処理よって取得した画像データを出力する。
【0025】
画像読取部26は、搬送ドラム211により搬送される記録媒体Pに対して光を照射する光源と、当該照射光に基づく記録媒体Pからの反射光の強度を検出する撮像素子がX方向に配列されたラインセンサとを備えている。
【0026】
ラインセンサは、幅方向に配列された撮像素子からなる撮像素子列が3列設けられ、各撮像素子列の撮像素子により、入射光のうちR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の波長成分の強度に応じた信号がそれぞれ出力される。R,G,Bにそれぞれ対応する撮像素子は、例えば、光電変換素子としてフォトダイオードを備えるCCD(Charge Coupled Device)センサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサの受光部に、R,G,または,Bの波長成分の光を透過するカラーフィルタが配置されたものを用いることができる。ラインセンサの各撮像素子による読み取り解像度は、例えば、幅方向に600dpiである。すなわち、このイメージセンサは、ノズルの配列間隔に対応する解像度よりも低い解像度で画像を取得するものであってもよい。
【0027】
画像読取部26から出力された信号は、アナログフロントエンド(図示せず)において電流電圧変換、増幅、雑音除去、アナログデジタル変換等の処理がなされ、読取画像の輝度値を示す画像データとして制御部40に出力される。なお、画像読取部26の構成については、ラインセンサを用いる構成に限られるものではなく、例えば、ラインセンサに代えてエリアセンサを用いる構成であってもよい。
【0028】
デリバリ部27は、2本のローラにより支持された輪状のベルトを有するベルトループ272と、記録媒体Pを搬送部21からベルトループ272に受け渡す円筒状の受け渡しドラム271とを有している。そして、デリバリ部27は、受け渡しドラム271により搬送部21からベルトループ272上に受け渡された記録媒体Pをベルトループ272により搬送して排紙部30に送出する。
【0029】
(排紙部)
排紙部30は、板状の排紙トレー31を有し、画像記録部20のデリバリ部27によって画像記録部20から送り出された記録媒体Pを排紙トレー31上に載置する。
【0030】
[ヘッドユニットの構成例]
図2は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100におけるヘッドユニット24の構成の一例を示す模式図である。
図2は、ヘッドユニット24の全体を、搬送ドラム211の搬送面と相対する側から見た平面図である。既に説明したように、ヘッドユニット24は、Y,M,C,Kの色毎に用意されている。
図2では、1つの色のヘッドユニット24を図示している。
【0031】
1つの色のヘッドユニット24は、インクを吐出するインク吐出動作(出力動作)を行う複数の記録素子243がX方向に配列された16個のインクジェットヘッド242を備えている。X方向は、記録媒体Pを搬送する方向をY方向とするとき、当該Y方向と直交する方向であり、記録媒体Pの幅方向である。本例の場合、ヘッドユニット24は、記録媒体PのX方向に並べて配置されたラインヘッドとして構成されている。
【0032】
複数の記録素子243は、それぞれ、インクを貯留する圧力室、圧力室の壁面に設けられた圧電素子、圧電素子に電圧を印加して電界を生じさせるための電極、及び、圧力室に連通し圧力室内のインクを吐出するノズル244を有している。記録素子243は、圧電素子を変形動作させる駆動信号が入力されると、当該駆動信号に応じた圧電素子の変形によって圧力室が変形して圧力室内の圧力が変化し、圧力室に連通するノズル244からインクを吐出する。ノズル244から吐出されるインクの吐出量は、駆動電圧の振幅を変更することによって調整することができる。
【0033】
図2では、記録素子243の構成要素であるノズル244のインク吐出口の位置が示されている。なお、インクジェットヘッド242における記録素子243の配列方向をX方向とするのは一例であり、記録媒体Pの搬送方向(Y方向)と直角以外の角度で交差する方向であってもよい。インクジェットヘッド242における記録素子243の配列については、ノズル244の配列、即ち、ノズル列ということもできる。
【0034】
ヘッドユニット24では、16個のインクジェットヘッド242が2つずつ組み合わされて、インクジェットヘッド242の組み合わせによりそれぞれ構成される8つのヘッドモジュール242Mが設けられている。各ヘッドモジュール242Mでは、2つのインクジェットヘッド242のノズル244がX方向について交互に配置されるような位置関係で2つのインクジェットヘッド242が配置されている。このように記録素子243が配列されることにより、各ヘッドモジュール242Mでは、幅方向について例えば1200dpi(dot per inch)の解像度での記録が可能となっている。
【0035】
また、8つのヘッドモジュール242Mは、X方向について記録媒体Pにおける画像の記録幅に亘って記録素子243が配置されるような位置関係で、幅方向についての配置範囲が互いに一部重複するように千鳥格子状に配置されることによってラインヘッドを構成している。隣接ヘッドモジュール間でX方向についての記録素子243の配置範囲が重複する部分では、X方向の各位置において、いずれか一方のヘッドモジュール242Mの記録素子243のノズル244からインクが吐出される。
【0036】
ヘッドユニット24に設けられた画像の記録に用いられる各記録素子243は、記録素子243におけるノズル244のX方向についての配列順に従った配列番号(ノズル番号:0~ne n d )で特定される。
【0037】
ヘッドユニット24は、画像の記録時には位置が固定されて用いられ、記録媒体Pの搬送に応じて搬送方向の異なる位置に所定の間隔で順次インクを吐出していくことで、シングルパス方式で画像を記録する。
【0038】
なお、ヘッドユニット24の構成は、複数の記録素子243がX方向について互いに異なる位置に設けられていればよく、
図2に示す構成に限られない。例えば、ヘッドモジュール242Mに代えてインクジェットヘッド242が千鳥格子状に配置された構成であってもよい。また、単一のインクジェットヘッド242により、ラインヘッドとしてのヘッドユニット24が構成されていてもよい。
【0039】
記録素子243のノズル244から吐出されるインクとしては、温度によってゲル状またはゾル状に相変化し、紫外線(UV)等のエネルギー線を照射することにより硬化する性質を有するインクを用いることができる。例えば、常温でゲル状であり、紫外線の照射による加熱によってゾル状となる紫外線硬化インクを用いることができる。
【0040】
ヘッドユニット24は、ヘッドユニット24内に貯留されるインクを加熱するインク加熱部(図示せず)を備えている。インク加熱部は、常温でゲル状のインクをゾル状となる温度に加熱する。インクジェットヘッド242は、インク加熱部によって加熱されてゾル状となったインクを吐出する。
【0041】
[インクジェット記録装置の機能から見た構成]
図3は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100の機能から見た構成を示す機能ブロック図である。
【0042】
(記録装置)
インクジェット記録装置100の記録装置1は、加熱部23、ヘッドユニット24、定着部25、画像読取部26、制御部40、搬送駆動部51、画像処理部52、入出力インターフェース53、測色器インターフェース54、及び、バス55などを備えている。測色器インターフェース54には、測色器28が接続されている。
【0043】
測色器28は、分光測色計であり、後述するインク吐出量調整において、記録媒体Pに記録されたテストチャートの画像の色彩値を取得する。テストチャートの詳細については後述する。測色器28は、測色の結果として、Lab値を出力する。Lab値は、L*a*b*色空間において、(L*,a*,b*) の組み合わせにより、色を数値で表したものである。
【0044】
測色器28に代えて、CCDセンサまたはCMOSセンサ等の撮像素子を用いることによっても記録媒体Pに記録されたテストチャートの画像の色彩値(濃度)を取得することができる。
【0045】
ヘッドユニット24は、インクジェットヘッド駆動部241及びインクジェットヘッド242を有している。インクジェットヘッド駆動部241は、インクジェットヘッド242の記録素子243に対して適切なタイミングで画像データに応じて圧電素子を変形動作させる駆動信号(駆動電圧)を供給することにより、インクジェットヘッド242のノズル244から画像データの画素値に応じた吐出量のインクを吐出させる。
【0046】
制御部40は、CPU(Central Processing Unit:中央制御ユニット)41、RAM(Random Access Memory)42、ROM(Read Only Memory)43、及び、記憶部44を有するマイクロコンピュータ構成となっており、記録装置1の全体動作を統括制御する。
【0047】
CPU41は、ROM43に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM42に記憶させ、当該プログラムを実行して各種演算処理を行う。
【0048】
RAM42は、CPU41に対して作業用のメモリ空間を提供し、演算処理実行時の一時データを記憶する。RAM42は、不揮発性メモリを含んでいてもよい。
【0049】
ROM43は、CPU41により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等を格納する。ROM43に格納される各種制御用のプログラムには、後述するインク吐出量調整(電圧調整)のためのプログラムも含まれる。なお、ROM43に代えて、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等の書き換え可能な不揮発性メモリを用いてもよい。
【0050】
記憶部44には、入出力インターフェース53を介して情報処理装置2から入力されたプリントジョブ、そのプリントジョブの実行によって記録される画像データ、画像読取部26から出力された撮像データ、及び、後述するテストチャートの画像データなどが記憶される。
【0051】
また、記憶部44には、後述するインク吐出量調整においてヘッドモジュール間の距離に応じた重みづけ係数のテーブル44aが記憶される。記憶部44としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)を用いることができる。また、記憶部44として、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などのメモリが併用されてもよい。
【0052】
搬送駆動部51は、制御部40から供給される制御信号に基づいて、搬送ドラム211に設けられた搬送ドラムモータに駆動信号を供給して搬送ドラム211を所定の速度及びタイミングで回転させる。また、搬送駆動部51は、制御部40から供給される制御信号に基づいて媒体供給部12、受け渡しユニット22、及びデリバリ部27を動作させるためのモータに駆動信号を供給して、記録媒体Pの搬送部21への供給及び搬送部21からの排出を行わせる。
【0053】
画像処理部52は、記憶部44に記憶された画像データに対して所定の画像処理を行って、得られた画像データを記憶部44に記憶する。この画像処理には、色変換処理、階調補正処理、及び、ハーフトーン処理などが含まれる。
【0054】
入出力インターフェース53は、情報処理装置2の入出力インターフェース72と接続され、制御部40と情報処理装置2の制御部60との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース53は、例えば、各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、または、これらの組み合わせで構成される。
【0055】
測色器インターフェース54は、後述するインク吐出量調整において、測色器28で取得されたテストチャートの画像の色彩値のデータを測色器28から受信し、制御部40に供給する。測色器インターフェース54は、例えば、各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、または、これらの組み合わせで構成される。
【0056】
バス55は、制御部40と他の構成要素との間で信号の送受信を行うための伝送経路である。
【0057】
(情報処理装置)
インクジェット記録装置100の情報処理装置2は、制御部60、操作表示部71、入出力インターフェース72、及び、バス73などを備えており、例えば、デスクトップ型やノート型等のパーソナルコンピュータにより構成される。
【0058】
制御部60は、CPU61、RAM62、ROM63、及び、記憶部64によって構成されている。
【0059】
CPU61は、ROM63に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM62に記憶し、当該プログラムを実行して各種演算処理を行う。
【0060】
RAM62は、CPU61に作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。RAM62は、不揮発性メモリを含んでいてもよい。
【0061】
ROM63には、CPU61により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等が格納される。なお、ROM63に代えてEEPROMやフラッシュメモリ等の書き換え可能な不揮発性メモリが用いられてもよい。
【0062】
記憶部64には、入出力インターフェース72を介して外部装置200から入力された記録対象の画像に係るPDL(Page Description Language)データや、記録装置1で生成されたテストチャートを読み取った画像データなどが記憶される。記憶部64としては、例えばHDDやSSDを用いることができ、また、DRAMなどが併用されてもよい。
【0063】
このような構成を有する制御部60は、情報処理装置2の全体動作を統括制御する。例えば、制御部60は、外部装置200から入力されたPDLデータをラスター形式に変換して記録装置1の制御部40に出力する。
【0064】
操作表示部71は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといった表示装置と、キーボード、マウス、及び、表示装置の画面に重ねられて配置されたタッチパネルといった入力装置とを備えている。操作表示部71は、表示装置に各種情報を表示し、また入力装置からのユーザの入力操作を操作信号に変換して制御部60に出力する。
【0065】
入出力インターフェース72は、制御部60と記録装置1の制御部40との間、及び、制御部60と外部装置200との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース72は、例えば、各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか、または、これらの組み合わせで構成される。
【0066】
バス73は、制御部60と他の構成との間で信号の送受信を行うための伝送経路である。
【0067】
外部装置200は、例えばパーソナルコンピュータであり、入出力インターフェース72を介してPDLデータ等を制御部60に供給する。
【0068】
上述した本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100は、複数の独立したノズル列を有するインクジェットヘッド242を備え、ノズル列の各ノズル244からインクを吐出することによって記録媒体Pに画像を記録する。このインクジェット記録装置100においては、制御部40による制御の下で、ノズル列の各ノズル244のインク吐出量が所望の液量になるように複数回に亘って吐出量調整(液量調整)が行われる。このインクの吐出量については、インクジェットヘッド駆動部241からインクジェットヘッド242に対して供給される駆動電圧の振幅を制御することによって調整することができる。
【0069】
具体的には、インク吐出量調整では、記録媒体Pにインクを吐出して画像を記録し、当該画像の色彩値(濃度)を測色器28で取得し、その取得した色彩値を基にノズル列の各ノズル244のインク吐出量が所望の液量になるように複数回に亘って吐出量調整が行われる。
図4に、インクジェットヘッド242、インクの液滴、記録媒体P、及び、測色器28の関係を示す。測色器28は、光源(図示せず)から記録媒体Pの記録面に向けて照射される光に基づく記録媒体Pからの反射光を受光することによって画像の色彩値を取得することができる。
【0070】
[記録媒体に記録するテストチャート]
インク吐出量調整の際に記録媒体Pに記録する画像としては、例えば、テストチャートを挙げることができる。
図5は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100におけるインク吐出量調整に用いられるテストチャートの一例を示す図である。
【0071】
テストチャート300は、Y,M,C,Kの4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット24Y,24M,24C,24Kの各ノズル244から吐出されるインクでそれぞれ記録された、テストパターン301Y,301M,301C,301K(以下では、色を区別しない場合にはテストパターン301と記述する)を含んでいる。各色のテストパターン301の構成は、インク色を除いて同一である。テストパターン301は、搬送ドラム211により搬送される記録媒体Pに対して、搬送位置に応じた適切なタイミングでヘッドユニット24の各ノズル244からインク吐出を行うことで記録される。
【0072】
図6は、ヘッドユニット24とテストチャート300のテストパターン301との対応関係、及び、テストパターン301の内容を説明する図である。ここでは、一例として、ヘッドユニット24におけるヘッドモジュール242Mが4つ(242M_1,242M_2,242M_3,242M_4)の場合を図示している。
【0073】
テストパターン301は、ヘッドユニット24におけるヘッドモジュール242M_1~242M_4の各ノズル244からそれぞれ吐出されたインクによって記録されるドットパターン領域311_1~311_4(以下では、互いに区別しない場合にはドットパターン領域311と記述する)を含んでいる。ドットパターン領域311は、べた画像が記録されたべた領域S、及び、所定の中間階調パターンの中間階調画像が記録された中間階調領域Hを含んでいる。
【0074】
ドットパターン領域311では、幅方向に8等分された領域のうち3つの領域がべた領域Sとなっており、残る5つの領域が、べた領域Sを挟むように設けられた中間階調領域Hとなっている。また、ドットパターン領域311_1~311_4の各々の間、及び、ドットパターン領域311_1~311_4の幅方向両端の外側には、画像が記録されていない未記録領域Wが設けられている。
【0075】
また、テストパターン301は、搬送方向について、パターン領域312_1~312_4の4つに分割されている。4つのパターン領域312_1~312_4は、ヘッドモジュール242M_1~242M_4の各ノズル244からのインク吐出によってそれぞれ記録される。パターン領域312_1~312_4(以下では、互いに区別しない場合にはパターン領域312と記述する)は、搬送方向と交差する所定の交差方向(本例では、搬送方向と直交する幅方向)に延びるように記録されており、各パターン領域312では、中間階調領域H、べた領域S、及び、未記録領域Wが上記交差方向に沿って配列されている。
【0076】
パターン領域312_1~312_4の各々における中間階調領域Hは、対応する単一のインクジェットヘッド242によって記録される。また、べた領域Sは、対応するインクジェットヘッド242を含む1又は2以上のインクジェットヘッド242によって記録される。
図6には、測色器28による光学的測定が行われる測定点mpが示されている。
【0077】
[参考例に係るインク吐出量調整]
インク吐出量調整では、基本的に、インクジェットヘッド242毎に調整判定を行い、一度調整完了となったヘッドモジュール242Mについては調整の対象から外し、どんなに濃度(色彩値)が変わろうと再調整は行わず、複数回に亘って調整を繰り返す。そして、全てのヘッドモジュール242Mの調整が完了状態となれば、インク吐出量調整自体が完了する。既に説明したように、インク吐出量調整は、インクジェットヘッド駆動部241からインクジェットヘッド242に印加される駆動電圧の振幅を調整することによって行われる。このことから、インク吐出量調整については、駆動電圧の電圧調整ということもできる。
【0078】
この基本的なインク吐出量調整を、参考例に係るインク吐出量調整として以下に説明する。
図7は、参考例に係るインク吐出量調整の具体例を模式的に示す図である。ここでは、
図2のヘッドユニット24の構成、即ち、ヘッドユニット24が8つのヘッドモジュール242Mを含む構成を示している。また、8つのヘッドモジュール242MをHM1~HM8として図示し、調整完了のヘッドモジュール242Mには網点を付している。
【0079】
図7の例では、1回目の調整(インク吐出量調整/電圧調整)でヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6が調整完了となり、2回目の調整でヘッドモジュールHM2,HM7,HM8が調整完了となり、3回目の調整でヘッドモジュールHM5が調整完了となり、3回の調整で全てのヘッドモジュールHM1~HM8の調整が完了するケースを例示している。全てのヘッドモジュールHM1~HM8の調整が完了するタイミングについては、3回の調整タイミングに限られるものではなく、ヘッドモジュールHM1~HM8の状態によって異なる。
【0080】
(記録媒体の表面温度について)
ところで、インク吐出量調整/電圧調整は、複数回に亘って繰り返されるため、画像記録毎または電圧調整毎に、記録媒体Pの表面温度(例えば、紙面温度)が変化する可能性がある。
図8に、インク吐出量調整における時間経過に対する紙面温度の変化を示す。インクの粘度は、温度に対して感度を持つ。
図9に、温度とインクの粘度との関係を示す。紙面温度(記録媒体Pの表面温度)が変化すると、記録媒体Pに記録した画像の濃度(色彩値)も変化する。すなわち、紙面温度の変化によって画像濃度も変化することになる。
図10に、紙面温度と画像濃度との関係を示す。
【0081】
上述したように、インク吐出量調整/電圧調整が複数回に亘って繰り返されることにより、その繰り返し毎に記録媒体Pの表面温度(例えば、紙面温度)が変化する可能性があるため、調整の指標としている画像濃度が、記録媒体Pの表面温度の影響を受けることになる。具体的には、記録媒体Pの表面温度(例えば、紙面温度)が上昇すると、調整の指標としている画像濃度が上昇する(
図10参照)。
【0082】
(インクジェットヘッドの感度の個体差について)
参考例に係る電圧調整(インク吐出量調整)では、電圧係数の変化に対する画像濃度の変化率を比例係数として事前に求めておき、目標の濃度(目標値)と現在の濃度(現在値)との差分濃度に、その比例係数を乗ずることによって、目標の濃度を満たす電圧係数を求めるようにしている(電圧係数=差分濃度×比例係数)。ここで、現在の濃度とは、実際に記録媒体Pに画像を記録し、当該画像を測色器28で測色したときの濃度(色彩値)である。
【0083】
図11に、調整電圧の電圧値と画像の濃度との関係を示す。電圧係数を求めるための比例係数は、事前に決められている規定値であり、インクジェット記録装置100に組み込まれている。ただし、実際には、インクジェットヘッド242の感度に個体差があるために、同一の電圧を印加しても同じ濃度変化にはならず、目標の濃度にならないケースが起こり得る。すなわち、インクジェットヘッド242の感度に個体差があると、電圧調整後も濃度の目標値に対して差が生じ、目標値通りの濃度にならないことがある。
【0084】
このように、インクジェットヘッド242の感度に個体差があると、電圧調整後も目標値に対して差が生じることについて、
図12を用いて具体的に説明する。ここでは、感度に個体差があるインクジェットヘッド242として3つのヘッド1~3を例に挙げて説明する。
図12は、感度に個体差がある3つのヘッド1~3について、調整電圧の電圧値と画像の濃度との関係を示す図である。ここに挙げた3つのヘッド1~3の例では、ヘッド2の実際の濃度が、ヘッド1,3の実際の濃度よりも目標値に近く、ヘッド2が理想のヘッドということになる。
【0085】
上述したように、インクジェットヘッド242の感度に個体差があると、1回の電圧調整では、記録媒体Pに記録した画像の濃度が目標値を満たさないことがある。このことから、一つのインクジェットヘッド242に対しても複数回に亘って電圧調整を行うことが必要となる。
【0086】
以下に、参考例に係る電圧調整(インク吐出量調整)における、紙面温度(記録媒体Pの表面温度)が一定のケースの電圧調整と、紙面温度に変動があるケースの電圧調整について説明する。ここでは、ヘッドモジュール242Mとして、例えば4つのヘッドモジュールHM1~HM4を例に挙げて説明する。
【0087】
(紙面温度が一定のケース)
図13は、紙面温度が一定のケースの電圧調整について説明する図である。
図13の上側の図は、時間経過と紙面温度との関係を示す図である。
図13の下側の左図に示すように、N-1回目の電圧調整でヘッドモジュールHM1の調整が完了している状態において、N回目の電圧調整では、ヘッドモジュールHM2~HM4について、画像の濃度が目標範囲に入るように調整が行われる。
【0088】
N回目の電圧調整で画像の濃度が目標範囲に入らないヘッドモジュールHM4については、N+1回目の電圧調整で画像の濃度が目標範囲に入るように電圧調整が行われる。
図13の下側の右図には、ヘッドモジュールHM4について、ヘッドモジュールの感度の個体差によってN+1回目の電圧調整でも画像の濃度が目標範囲に入らないケースを図示している。電圧調整が完了したヘッドモジュールについては画像の濃度は変動しない。
【0089】
(紙面温度に変動があるケース)
図14は、紙面温度に変動があるケースの電圧調整について説明する図である。
図14の上側の図は、時間経過と紙面温度との関係、具体的には、紙面温度の経時変化を示す図である。
図14の下側の左図に示すように、N-1回目の電圧調整でヘッドモジュールHM1の調整が完了している状態において、N回目の電圧調整では、ヘッドモジュールHM2~HM4について、画像の濃度が目標範囲に入るように調整が行われる。
【0090】
図14の紙面温度の経時変化の例では、N+1回目の電圧調整では、紙面温度の変動によってN回目の電圧調整の場合に比べて紙面温度が急激に上昇する場合を例示している。
既に説明したように、紙面温度が上昇すると、調整の指標としている画像濃度が上昇するため(
図10参照)、ヘッドモジュールHM1~HM4についての画像濃度が全体的に上昇方向にシフトすることになる。
【0091】
この画像濃度の全体的な上昇により、紙面温度が一定のケースでは、
図13の下側の右図に示すように、画像濃度が目標範囲に入らなかったヘッドモジュールHM4について、N+1回目の電圧調整で、
図14の下側の右図に示すように、画像濃度が目標範囲に入って調整完了となる場合がある。このような場合、ヘッドモジュールHM1については、既に調整完了となっており、N+1回目では電圧調整が行われないため、ヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4との間の濃度段差が大きい状態で電圧調整が完了することになる。このようなヘッドモジュールHM間の濃度段差は、紙面に書き込んだ画像の画質の低下の一因となる。
【0092】
<実施形態に係るインク吐出量調整>
本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100(インク吐出量調整方法)は、記録媒体Pの表面温度(例えば、紙面温度)の変動に伴う問題や、インクジェットヘッド242の感度の個体差に伴うヘッドモジュールHM間の濃度段差の問題を解決するために、次のような構成をとる。
【0093】
すなわち、上記の問題を解決するために、本発明の実施形態では、記録媒体Pに画像を記録するインクジェットヘッド242を備えるインクジェット記録装置100において、インク吐出量調整の際に、吐出量調整が完了したノズル列の各ノズル244からのインク吐出による記録画像の色彩値を基に吐出量調整の目標値を設定し、未調整のノズル列について吐出量調整を行うようにする。
【0094】
このように、吐出量調整である電圧調整が既に完了したヘッドモジュールHMによる記録画像の色彩値(濃度)を基に吐出量調整の目標値を設定し、未調整のヘッドモジュールHMについて電圧調整を行うことにより、紙面温度の変化に追従して吐出量調整の目標値が変更されるため、紙面温度の変動に伴う問題や、ヘッドモジュールHM間の濃度段差の問題を解決することができる。その結果、紙面に書き込んだ画像の画質の向上を図ることができる。
【0095】
以下に、紙面温度の変動に伴う問題や、ヘッドモジュールHM間の濃度段差の問題を解決する本実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0096】
[実施例1]
実施例1は、吐出量調整が完了したヘッドモジュールHMについての記録画像の色彩値の平均値を吐出量調整の目標値(目標範囲)として設定する例である。既に説明したように、記録画像の色彩値については、測色器28(
図4参照)によって取得することができる。
【0097】
図15は、本発明の実施例1に係るインク吐出量調整を模式的に示す図である。ここでは、
図2のヘッドユニット24の構成、即ち、ヘッドユニット24が8つのヘッドモジュール242Mを含む構成を示している。また、8つのヘッドモジュール242MをHM1~HM8として図示し、調整完了のヘッドモジュール242Mには網点を付している。
【0098】
図15の例では、ヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6の吐出量調整(電圧調整)が完了している状態を図示している。この例の場合、ヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6についての各記録画像の色彩値の平均値に基づいて新しい目標値の設定が行われる。そして、この新しく設定した目標値を基に、未完了のヘッドモジュールHM2について吐出量調整を行うことになる。
【0099】
図16は、本発明の実施例1に係るインク吐出量調整についてより具体的に説明する図である。ここでは、ヘッドモジュール242Mとして、例えば4つのヘッドモジュールHM1~HM4を例に挙げて説明する。
【0100】
図16の左図には、インクジェットヘッド242の感度の個体差に伴ってヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4との間に濃度段差が生じた場合のヘッドモジュールHM1~HM4についての画像濃度を図示している。この場合、インクジェットヘッド242の感度の個体差に伴う濃度段差を改善するためには、ヘッドモジュールHM4についての画像濃度をヘッドモジュールHM1についての画像濃度に近づける必要がある。
【0101】
そこで、実施例1に係るインク吐出量調整では、ヘッドモジュールHM1~HM3の各記録画像の色彩値の平均値を基に目標値を設定することで、吐出量調整の目標値(目標範囲)を新たに設定する。そして、ヘッドモジュールHM4についての画像濃度が、新たに設定した目標範囲に入るようにヘッドモジュールHM4について吐出量調整を行う。これにより、
図16の右図に示すように、ヘッドモジュールHM4についての画像濃度が、新たに設定した目標範囲に入るため、ヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4との間の濃度段差を改善することができる。
【0102】
[実施例2]
実施例2は、吐出量調整が完了したヘッドモジュールHMと吐出量調整の対象のヘッドモジュールHMとの間の距離に応じた重みづけによって算出される値を目標値として設定する例である。
【0103】
吐出量調整の対象のヘッドモジュールHMについての画像濃度は、物理的に距離が近いヘッドモジュールHMについての画像濃度に合わせた方が、視覚的に違和感がない。そこで、実施例2に係るインク吐出量調整では、吐出量調整が完了したヘッドモジュールHMと吐出量調整の対象のヘッドモジュールHMとの間の距離に応じた重みづけ係数を用いて目標値を設定するようにする。
【0104】
図17は、本発明の実施例2に係るインク吐出量調整において用いられるヘッドモジュールHM間の距離に応じた重みづけ係数のテーブルの一例を示す図である。この重みづけ係数のテーブルは、例えば、制御部40の記憶部44(
図3参照)にテーブル44aとして記憶されている。
図17のテーブルから明らかなように、ヘッドモジュールHM間の距離が近いほど重みづけが大きくなり、当該距離が遠いほど重みづけが小さくなるように重みづけ係数が設定される。この重みづけ係数のテーブルについては、インクの色によって異なるテーブルが用意される。
【0105】
図18は、本発明の実施例2に係るインク吐出量調整を模式的に示す図である。ここでは、
図2のヘッドユニット24の構成、即ち、ヘッドユニット24が8つのヘッドモジュール242Mを含む構成を示している。また、8つのヘッドモジュール242MをHM1~HM8として図示し、調整完了のヘッドモジュール242Mには網点を付している。
【0106】
図18の例では、ヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6の吐出量調整(電圧調整)が完了している状態を図示している。この例の場合、ヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6についての各記録画像の濃度(色彩値)に対して、吐出量調整が完了したヘッドモジュールHMと設定することになる。そして、この新しく設定した目標値を基に、ヘッドモジュールHM間の距離に応じた重みづけによって算出される値を新しい目標値として設定することになる。
【0107】
ここで、ヘッドモジュールHM2についての吐出量調整において、ヘッドモジュールHM2の目標値(目標値_HM2)を設定する場合を例に挙げて説明する。ヘッドモジュールHM2の目標値の設定には、調整完了のヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6についての各濃度D_HM1,D_HM3,D_HM4,D_HM6、及び、重みづけ係数0.3,0,3,0.1,0.1が用いられる。具体的は、ヘッドモジュールHM2の目標値_HM2については、下記の演算式で求めることができる。
目標値_HM2=(0.3/0.8) D_HM1+(0.3/0.8) D_HM3
+(0.1/0.8) D_HM4+(0.1/0.8) D_HM6+
ここで、0.8は、調整完了のヘッドモジュールHM1,HM3,HM4,HM6についての重みづけ係数0.3,0,3,0.1,0.1の総和である。
【0108】
実施例2に係るインク吐出量調整では、上述したようにして、吐出量調整が完了したヘッドモジュールHMと吐出量調整の対象のヘッドモジュールHMとの間の距離に応じた重みづけによって算出される値を目標値として設定する。そして、この新しく設定した目標値を基に、吐出量調整の対象のヘッドモジュールHMについて吐出量調整を行うことになる。これにより、視覚的に違和感がない、物理的に距離が近いヘッドモジュールHMについての画像濃度に合わせた調整を行うことができる。
【0109】
[実施例3]
実施例3は、本発明のインク吐出量調整方法の処理の一例の流れの例である。
図19は、本発明の実施例3に係るインク吐出量調整方法の処理の一例の流れを示すフローチャートである。以下に説明する一連の処理は、制御部40による制御の下で実行される。また、制御部40を構成するマイクロコンピュータが、ROM43(
図3参照)に格納されている、インク吐出量調整のためのプログラムに従って制御を行うことによって実行されるようにしてもよい。
【0110】
このインク吐出量調整処理は、インクジェット記録装置100の製造時(ヘッドユニット24の組み立て時)や、所定の調整処理開始条件が満たされた場合に開始される。調整処理開始条件は、例えば、最後に行われたインク吐出量調整処理の後に所定量以上のインク吐出や、所定枚数以上の記録媒体Pへの画像記録が行われていること、とすることができる。また、インク吐出量調整処理は、記録画像や所定のテスト画像においてインクジェットヘッド242毎のインク吐出量のばらつきによる色むらが検出された場合などにユーザの指示によって開始されるようにしてもよい。
【0111】
インク吐出量調整処理が開始されると、制御部40は、全てのヘッドユニット24の全てのインクジェットヘッド242について、電圧係数を予め定義されている初期値に設定する。また、制御部40は、RAM42内にインクジェットヘッド242の各々の調整完了を示す調整完了フラグの領域を確保し、その調整完了フラグをオフにする、即ち、未完了状態に設定する(ステップS101)。ここで、各インクジェットヘッド242に設定された電圧係数は、仮の設定値として記憶部44に記録される。なお、電圧係数の初期値については、インク色毎に異なっていてもよい。
【0112】
制御部40は、記憶部44に記憶されたテストチャート300(
図5参照)の画像データに基づいて画像記録部20の各部を動作させて、記録媒体P上にテストチャート300を記録させ、定着部25により紫外線を照射させてインクの硬化、定着を開始させる(ステップS102)。テストチャート300の記録では、同一吐出量でインク吐出を行っても、記録媒体P上のインクの濡れ広がり方、換言すると、記録媒体P上のドット径(
図4参照)が、記録媒体Pの表面の加工状態によって異なり、駆動電圧の調整結果に悪影響を与えてしまうために、予め定められた規定の記録媒体Pにテストチャート300を印刷するようにすることが好ましい。本実施形態に係るインクジェット記録装置100では、相対的にインクの拡がりが小さい特定の光沢塗工紙を、テストチャート300を印刷する規定の記録媒体Pとして採用している。
【0113】
ステップS102の処理が終了した後、記録媒体P上に記録されたテストチャート300に対する測色器28による光学的測定が行われる。当該光学的測定の終了後、制御部40は、テストチャート300における所定の測定点mpについての測定結果、即ち、分光反射率特性を測色器28から測色器インターフェース54を介して取得する(ステップS103)。
【0114】
制御部40は、テストチャート300における所定の測定点mpについて、分光反射率特性から記録画像の色彩値(濃度)を取得する(ステップS104:取得ステップ)。
【0115】
次に、制御部40は、既定のヘッドモジュール242Mの順番に従って調整対象の一のヘッドモジュール242Mを選択し(ステップS105)、次いで、選択したヘッドモジュール242Mについての調整完了フラグがオン(調整完了済)になっているか否かを判断する(ステップS106)。
【0116】
制御部40は、調整完了フラグがオフになっていると判別した場合には(S106のNO)、ステップS104で取得した記録画像の色彩値に基づいて、吐出量調整の目標値の設定の指標となる指標値を算出する処理を行って、選択したヘッドモジュール242Mについての指標値を算出する(ステップS107)。
【0117】
次に、制御部40は、ステップS107で算出した指標値、即ち、記録画像の色彩値に基づく指標値を基に吐出量調整の目標値を設定する(ステップS108:設定ステップ)。ここでの吐出量調整の目標値の設定処理には、実施例1に係るインク吐出量調整の目標値の設定処理、または、実施例2に係るインク吐出量調整の目標値の設定処理を適用することができる。
【0118】
次に、制御部40は、設定した目標値が所定の許容範囲内にあるか否かを判別する(ステップS109)。ここで、許容範囲は、あらかじめ設定した基準目標値との差分が所定の許容誤差以内となる範囲である。許容誤差は、あらかじめ設定されて記憶部44に記憶されている。
【0119】
制御部40は、設定した目標値が許容範囲内にあると判定した場合には(S109のYES)、調整対象のヘッドモジュール242Mについての調整完了フラグをオンに設定する(ステップS110)。
【0120】
制御部40は、ステップS108で設定した吐出量調整の目標値が許容範囲内にないと判定した場合には(S109のNO)、所定のアルゴリズムに従って、電圧係数を調整して未調整のヘッドモジュール242Mについてインク吐出量の調整を行う(ステップS111:調整ステップ)。
【0121】
ステップS110若しくはステップS111の処理が終了した場合、または、ステップS106の処理において調整完了フラグがオンになっていると判定した場合には(S106のYES)、制御部40は、未調整のヘッドモジュール242Mがあるか否かを判断する(ステップS112)。
【0122】
制御部40は、未調整のヘッドモジュール242Mがあると判定した場合には(S112のYES)、処理をステップS105に移行させ、未調整のヘッドモジュール242Mがないと判定した場合には(S112のNO)、全てのヘッドモジュール242Mについて調整完了フラグがオンになっているか否かを判断する(ステップS113)。
【0123】
制御部40は、いずれかのヘッドモジュール242Mの調整完了フラグがオフになっていると判定した場合には(S113のNO)、処理をステップS102に移行させる。また、制御部40は、全てのインクジェットヘッド242について調整完了フラグがオンになっていると判断した場合には(S113のYES)、一連のインク吐出量調整処理を終了する。
【0124】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0125】
また、上述した実施形態では、吐出量調整(電圧調整)を、ノズル列が記記録媒体Pの搬送方向に対して複数並んで配置されることによって構成されたヘッドモジュールの単位で行うとしたが、これに限られるものではなく、ノズル列の単位で吐出量調整を行う構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0126】
1…記録装置、2…情報処理装置、10…給紙部、11…給紙トレー、12…媒体供給部、20…画像記録部、21…搬送部、22…受け渡しユニット、23…加熱部、24… ヘッドユニット、25…定着部、26…画像読取部、27…デリバリ部、28…測色器、30…排紙部、31…排紙トレー、40…制御部、41…CPU(中央制御ユニット)、42…RAM、43…ROM、44…記憶部、44a…補正テーブル、51…搬送駆動部、52…画像処理部、53…入出力インターフェース、54…測色器インターフェース、55…バス、60…制御部、61…CPU、62 …RAM、63…ROM、64…記憶部、71…操作表示部、72…入出力インターフェース、73…バス、100…インクジェット記録装置、200…外部装置、211…搬送ドラム、241…インクジェットヘッド駆動部、242…インクジェットヘッド、242M…ヘッドモジュール、243… 記録素子、244…ノズル、300…テストチャート、P…記録媒体