(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116012
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/32 20060101AFI20240820BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240820BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240820BHJP
F16C 19/56 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16C33/32
F16C19/18
F16C33/58
F16C19/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021983
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水島 翔太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA44
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701FA38
3J701FA41
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】転動体の肩乗り上げを抑制しつつ、耐荷重性の向上および低トルク化を図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1は、ハブ輪3と内輪4とからなり、内輪4に形成される第1内側軌道面42と第2内側軌道面43と、ハブ輪3に形成される第3内側軌道面33とを有する内方部材と、第1外側軌道面23と第2外側軌道面24と第3外側軌道面25とを有する外輪2と、第1内側軌道面42と第1外側軌道面23との間に収容された第1ボール列51と、第2内側軌道面43と第2外側軌道面24との間に収容された第2ボール列52と、第3内側軌道面33と第3外側軌道面25との間に収容された第3ボール列53とを備え、第1ボール列51の第1ボール71のボール径R1と、第2ボール列52の第2ボールのボール径R2とは、R2/R1≦3/4の関係を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側の外周に小径段部を有するハブ輪と、前記ハブ輪の前記小径段部に圧入された内輪とからなり、前記内輪の外周に形成される第1内側軌道面と、前記内輪の外周に形成され前記第1内側軌道面の軸方向他側に位置する第2内側軌道面と、前記ハブ輪の外周に形成され前記第2内側軌道面の軸方向他側に位置する第3内側軌道面とを有する内方部材と、
前記内輪の前記第1内側軌道面に対向する第1外側軌道面と、前記内輪の前記第2内側軌道面に対向する第2外側軌道面と、前記ハブ輪の前記第3内側軌道面に対向する第3外側軌道面とを有する外方部材と、
前記第1内側軌道面と前記第1外側軌道面との間に転動自在に収容された第1転動体列と、前記第2内側軌道面と前記第2外側軌道面との間に転動自在に収容された第2転動体列と、前記第3内側軌道面と前記第3外側軌道面との間に転動自在に収容された第3転動体列と、
を備える車輪用軸受装置であって、
前記第1転動体列を構成する第1転動体の転動体径R1と、前記第2転動体列を構成する第2転動体の転動体径R2とは、
R2/R1≦3/4
の関係を有する車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記第1転動体の前記第1内側軌道面に対する接触角αと、前記第2転動体の前記第2内側軌道面に対する接触角βとは、
β/α≦1/2
の関係を有する請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
軸方向において前記前記第1内側軌道面と前記第2内側軌道面との間に位置する前記内輪の外周面は、旋削加工面を有する請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外方部材における前記第2外側軌道面の肩部は、前記第2外側軌道面の軸方向他端部に位置し、
前記外方部材における前記第3外側軌道面の肩部は、前記第3外側軌道面の軸方向一端部に位置し、
前記第2外側軌道面の肩部は、前記第3外側軌道面の肩部よりも内径側に位置し、
前記外方部材は、前記第2外側軌道面の肩部に連続する内周面と、前記第3外側軌道面の肩部に連続する内周面との間に形成される段差面を有し、
前記第2外側軌道面の肩部と前記段差面との軸方向における距離は1mm以上であり、前記第3転動体列を構成する第3転動体と前記段差面との軸方向における距離は1mm以上である請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記第1転動体列は、環状に形成され前記第1転動体の軸方向における一側または他側に位置する第1円環部と、前記第1円環部から軸方向に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の第1柱部と、前記第1円環部と隣り合う前記第1柱部とによって形成され、前記第1転動体を保持する第1ポケットとを有する第1保持器を備え、
前記第2転動体列は、環状に形成され前記第2転動体の軸方向における一側または他側に位置する第2円環部と、前記第2円環部から軸方向に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の第2柱部と、前記第2円環部と隣り合う前記第2柱部とによって形成され、前記第2転動体を保持する第2ポケットとを有する第2保持器を備え、
前記第1保持器の前記第1円環部および前記第2保持器の前記第2円環部は、前記第1円環部と前記第2円環部とが軸方向において互いに対向しない側に位置している請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られており、例えば、トラックやSUV等の軸重が大きい大型の車両には、転動体列として円錐ころ列を備えた車輪用軸受装置が用いられる傾向にある。
【0003】
錐ころ列を備えた車輪用軸受装置は、転動体列としてボール列を備えた車輪用軸受装置に比べて耐荷重の点では有利であるが、低トルク化の観点においてはボール列を備えた車輪用軸受装置のほうが有利である。
【0004】
近年においては、車両の電動化が進むとともに環境規制が強化されることに伴って、車輪用軸受装置の低トルク化の要求が高まっている。従って、特許文献1に開示されるように、一般的には2列のボール列にて構成される車輪用軸受装置を3列のボール列にて構成することで、耐荷重性を向上するとともに低トルク化を図ることが行われている
【0005】
特許文献1に開示される車輪用軸受装置においては、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に3列のボール列が収容されており、軸方向の一側に1列のボール列が配置され、軸方向の他側に2列のボール列が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の軸方向の他側に配置される2列のボール列においては、一方のボール列を構成するボールと、他方のボール列を構成するボールとの径の差が小さいと、耐荷重性の点において好ましい。
【0008】
しかし、一方のボール列のボールと他方のボール列のボールとの径の差が小さくなり過ぎると、内径側に位置するボール列を収容する内側軌道面の肩部の高さが小さくなって、ボール列のボールが内側軌道面の肩部に乗り上げる肩乗り上げが発生し易くなる。ボールの肩乗り上げは内側軌道面に圧痕が発生する原因となり得るため、ボールの肩乗り上げを抑制することが求められている。
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、転動体の肩乗り上げを抑制しつつ、耐荷重性の向上および低トルク化を図ることができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、車輪用軸受装置は、軸方向一端側の外周に小径段部を有するハブ輪と、前記ハブ輪の前記小径段部に圧入された内輪とからなり、前記内輪の外周に形成される第1内側軌道面と、前記内輪の外周に形成され前記第1内側軌道面の軸方向他側に位置する第2内側軌道面と、前記ハブ輪の外周に形成され前記第2内側軌道面の軸方向他側に位置する第3内側軌道面とを有する内方部材と、前記内輪の前記第1内側軌道面に対向する第1外側軌道面と、前記内輪の前記第2内側軌道面に対向する第2外側軌道面と、前記ハブ輪の前記第3内側軌道面に対向する第3外側軌道面とを有する外方部材と、前記第1内側軌道面と前記第1外側軌道面との間に転動自在に収容された第1転動体列と、前記第2内側軌道面と前記第2外側軌道面との間に転動自在に収容された第2転動体列と、前記第3内側軌道面と前記第3外側軌道面との間に転動自在に収容された第3転動体列と、を備える車輪用軸受装置であって、前記第1転動体列を構成する第1転動体の転動体径R1と、前記第2転動体列を構成する第2転動体の転動体径R2とは、R2/R1≦3/4の関係を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転動体が内側軌道面の肩部に乗り上げることを抑制しつつ、耐荷重性の向上および低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】車輪用軸受装置の各ボール列、および各ボール列を収容する軌道面の部分を示す側面断面図である。
【
図3】車輪用軸受装置の第1ボール列および第2ボール列と、第1ボール列を収容する第1内側軌道面および第2ボール列を収容する第2内側軌道面とを示す側面断面図である。
【
図4】段差面を第3ボールに近づけて配置した状態の外輪を示す側面断面図である。
【
図5】外輪における段差面の変形例を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0015】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、インナー側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0016】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動体列である三列の第1ボール列51、第2ボール列52、および第3ボール列53と、インナー側シール部材9と、アウター側シール部材10とを具備する。第1ボール列51は第1転動体列の一例であり、第2ボール列52は第2転動体列の一例であり、第3ボール列53は第3転動体列の一例である。
【0017】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部21が形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部22が形成されている。
【0018】
インナー側シール部材9がインナー側開口部21に嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材10がアウター側開口部22に嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0019】
インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10は、環状空間Sの開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0020】
外輪2の内周面28には、第1外側軌道面23と、第2外側軌道面24と、第3外側軌道面25とが形成されている。第1外側軌道面23は外輪2のインナー側端部に位置しており、第2外側軌道面24は第1外側軌道面23のアウター側に位置しており、第3外側軌道面25は第2外側軌道面24のアウター側に位置している。軸方向において、第1外側軌道面23および第2外側軌道面24は外輪2の中央部よりもインナー側に位置しており、第3外側軌道面25は外輪2の中央部よりもアウター側に位置している。
【0021】
外輪2の外周面27には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ26が一体的に形成されている。車体取り付けフランジ26には、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔26aが設けられている。
【0022】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部31が形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ32が一体的に形成されている。
【0023】
車輪取り付けフランジ32には、複数のボルト孔35が形成されている。ボルト孔35には、ハブ輪3と車輪またはブレーキ部品とを締結するためのハブボルト36が圧入可能である。
【0024】
ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ32の基部側にアウター側シール部材10が摺接する摺接面34が形成されている。ハブ輪3の外周面には、外輪2の第3外側軌道面25に対向するように第3内側軌道面33が形成されている。
【0025】
ハブ輪3の小径段部31には、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入およびかしめ加工によりハブ輪3の小径段部31に固定されている。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面41を有しており、ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面41にかしめられたかしめ部37が形成されている。内輪4は、かしめ部37により軸方向に固定されている。
【0026】
内輪4の外周面には、外輪2の第1外側軌道面23と対向するように第1内側軌道面42が形成され、外輪2の第2外側軌道面24と対向するように第2内側軌道面43が形成されている。
【0027】
つまり、外輪2は、内輪4の第1内側軌道面42に対向する第1外側軌道面23と、内輪4の第2内側軌道面43に対向する第2外側軌道面24と、ハブ輪3の第3内側軌道面33に対向する第3外側軌道面25とを有している。
【0028】
転動体列である第1ボール列51は、転動体である複数の第1ボール71が第1保持器81によって保持されることにより構成されている。転動体列である第2ボール列52は、転動体である複数の第2ボール72が第2保持器82によって保持されることにより構成されている。転動体列である第3ボール列53は、転動体である複数の第3ボール73が第3保持器83によって保持されることにより構成されている。第1ボール71は第1転動体の一例であり、第2ボール72は第2転動体の一例であり、第3ボール73は第3転動体の一例である。
【0029】
第1ボール列51は、内輪4の第1内側軌道面42と外輪2の第1外側軌道面23との間に転動自在に収容されており、第2ボール列52は、内輪4の第2内側軌道面43と外輪2の第2外側軌道面24との間に転動自在に収容されており、第3ボール列53は、ハブ輪3の第3内側軌道面33と外輪2の第3外側軌道面25との間に転動自在に収容されている。
【0030】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、第1ボール列51と、第2ボール列52と、第3ボール列53とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0031】
[車輪用軸受装置におけるボールのピッチ円径]
図1に示すように、第1ボール列51を構成する第1ボール71のピッチ円径はD1であり、第2ボール列52を構成する第2ボール72のピッチ円径はD2であり、第3ボール列53を構成する第3ボール73のピッチ円径はD3である。
【0032】
ピッチ円径D1は、回転軸心Xを中心とし、第1ボール列51における第1ボール71の中心C1を通る円の直径である。ピッチ円径D2は、回転軸心Xを中心とし、第2ボール列52における第2ボール72の中心C2を通る円の直径である。ピッチ円径D3は、回転軸心Xを中心とし、第3ボール列53における第3ボール73の中心C3を通る円の直径である。
【0033】
車輪用軸受装置1においては、ピッチ円径D2はピッチ円径はD1以下であり、ピッチ円径D3はピッチ円径はD1よりも大きく形成されている。つまり、ピッチ円径はD1と、ピッチ円径D2と、ピッチ円径D3とは、D3>D1≧D2の関係を満たすように設定されている。
【0034】
このように、インナー側に位置する第1ボール71および第2ボール72のピッチ円径D1、D2を、アウター側に位置する第3ボール73のピッチ円径D3よりも小さく形成することで、車体に取り付けられる外輪2のインナー側の外径を小さくすることができ、車輪用軸受装置1の車体に対する取り付けの自由度を大きくすることが可能となっている。
【0035】
[車輪用軸受装置におけるボール径および内側軌道面]
図1に示すように、第1ボール71のボール径はR1であり、第2ボール72のボール径はR2であり、第3ボール73のボール径はR3である。ボール径R1は転動体径R1の一例であり、ボール径R2は転動体径R2の一例であり、ボール径R3は転動体径R3の一例である。
【0036】
ボール径R1はボール径R2よりも大きく、ボール径R3はボール径R1よりも大きく形成されている。つまり、ボール径R1と、ボール径R2と、ボール径R3とは、R3>R1>R2の関係を満たすように設定されている。また、ボール径R1、R2は、ボール径R3よりも小さく形成されている。
【0037】
車輪用軸受装置1においては、アウター側に一列の第3ボール列53を配置し、インナー側に二列の第1ボール列51および第2ボール列52を配置しているため、インナー側の第1ボール列51および第2ボール列52のボール径R1、R2を、第3ボール列53のボール径R3よりも小さく形成しても、車輪用軸受装置1のインナー側の耐荷重性と、アウター側の耐荷重性とを同等に構成することが可能となっている。
【0038】
また、ボール径R2は、ボール径R1の3/4以下の大きさとなるように形成されている。つまり、ボール径R1とボール径R2とは、R2/R1≦3/4の関係を満たすように設定されている。
【0039】
図2、
図3に示すように、内輪2の第1内側軌道面42は、底部42aと、肩部42bとを有している。底部42aは、第1内側軌道面42において最も内径側に位置する部分であり、第1内側軌道面42のアウター側端部に位置している。肩部42bは、第1内側軌道面42において最も外径側に位置する部分であり、第1内側軌道面42のインナー側端部に位置している。
【0040】
第1ボール列51における第1ボール71は、接触点42cにおいて内輪4の第1内側軌道面42と接触しており、第1ボール列51における第1ボール71の第1内側軌道面42に対する接触角はαである。接触角αは、第1ボール列51における第1ボール71の中心C1と接触点42cとを結んだ直線の径方向に対する傾斜角である。
【0041】
内輪2の第2内側軌道面43は、底部43aと、肩部43bとを有している。底部43aは、第2内側軌道面43において最も内径側に位置する部分であり、第2内側軌道面43のアウター側端部に位置している。肩部43bは、第2内側軌道面43において最も外径側に位置する部分であり、第2内側軌道面43のインナー側端部に位置している。
【0042】
第2ボール列52における第2ボール72は、接触点43cにおいて内輪4の第2内側軌道面43と接触しており、第2ボール列52における第2ボール72の第2内側軌道面43に対する接触角はβである。接触角βは、第2ボール列52における第2ボール72の中心C2と接触点43cとを結んだ直線の径方向に対する傾斜角である。
【0043】
第1内側軌道面42における底部42aの底径はD4であり、第2内側軌道面43における肩部43bの肩径はD5である。なお、外周面44の外径は、肩部43bの肩径D5と同じである。
【0044】
内輪4の第1内側軌道面42および第2内側軌道面43は、旋削加工した後に研削加工されており、研削加工面を有している。また、内輪4の第1内側軌道面42と第2内側軌道面43との間には外周面44が形成されている。外周面44は、第1内側軌道面42の底部42aと、第2内側軌道面43の肩部43bとの間に位置している。内輪2の外周面44は旋削加工されており、旋削加工面を有している。つまり、外周面44には、旋削加工の後の研削加工は施されていない。
【0045】
仮に、内輪2の外周面44に研削加工を施すと、外周面44の外径は研削加工を行った肉厚分だけ小さくなるが、外周面44には研削加工を施していないため、外周面44の外径を大きく確保することが可能となり、第2内側軌道面43における肩部43bの肩径D5を大きくすることができる。
【0046】
これにより、第2内側軌道面43の底部43aから肩部43bまでの径方向の溝深さhを大きく確保することができ、第2ボール列52における第2ボール72が第2内側軌道面43の肩部43bに乗り上げることを抑制可能となっている。
【0047】
また、第2内側軌道面43における肩部43bの肩径D5は、第1内側軌道面42における底部42aの底径D4と同じ値に設定されている(D4=D5)。肩径D5が底径D4よりも大きくなるように外周面44を形成すると、第1ボール列51を内輪4にアウター側から嵌装することが困難となるが、外周面44は肩径D5と底径D4とが同じ値となるように形成されているため、第1ボール列51を内輪4に嵌装することを阻害することなく、第2内側軌道面43の溝深さhを大きく確保することが可能となっている。
【0048】
また、第2内側軌道面43に収容される第2ボール72のボール径R2は、第1内側軌道面42に収容される第1ボール71のボール径R1の3/4以下の大きさとなるように小さく形成されているため、第2ボール72のボール径R2に対する第2内側軌道面43の溝深さhを相対的に大きくすることができ、第2ボール72が第2内側軌道面43の肩部43bに乗り上げることを抑制可能となっている。
【0049】
この場合、第2ボール列52が配置される車輪用軸受装置1のインナー側には、第1ボール列51と第2ボール列52との二列のボール列が配置されているため、車輪用軸受装置1の耐荷重性を損なうことがない。また、車輪用軸受装置1は、複列のボール列を備えた車輪用軸受装置であるため、低トルク化を図ることが可能である。
【0050】
つまり、車輪用軸受装置1においては、第2ボール72が第2内側軌道面43の肩部43bに乗り上げることを抑制しつつ、耐荷重性の向上および低トルク化を図ることが可能である。
【0051】
また、車輪用軸受装置1においては、第2ボール列52における第2ボール72の接触角βは、第1ボール列51における第1ボール71の接触角αの1/2以下の値となるように形成されている。つまり、第1ボール列51における第1ボール71の接触角αと、第2ボール列52における第2ボール72の接触角βとは、β/α≦1/2の関係を満たすように設定されている。
【0052】
このように、第2ボール72の接触角βを、第1ボール71の接触角αの1/2以下と小さく設定することで、第2内側軌道面43の接触点43cから肩部43bまでの径方向の長さを大きくすることができ、第2ボール72が第2内側軌道面43の肩部43bに乗り上げることを抑制可能となっている。
【0053】
[ボール列の保持器]
図2、
図3に示すように、第1ボール列51における第1保持器81は、環状に形成される円環部811と、円環部811から軸方向におけるインナー側に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部812と、円環部811と隣り合う柱部812とによって形成され、第1ボール71を保持するポケット813とを有している。円環部811は、軸方向において、第1ボール71のアウター側に位置している。柱部812のインナー側端は、第1ボール71のインナー側端よりもアウター側に位置している。つまり、柱部812は、第1ボール71よりもインナー側に突出していない。
【0054】
第2ボール列52における第2保持器82は、環状に形成される円環部821と、円環部821から軸方向におけるインナー側に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部822と、円環部821と隣り合う柱部822とによって形成され、第2ボール72を保持するポケット823とを有している。円環部821は、軸方向において、第2ボール72のアウター側に位置している。柱部822のインナー側端は、第2ボール72のインナー側端よりもアウター側に位置している。つまり、柱部822は、第2ボール72よりもインナー側に突出していない。
【0055】
このように、第1保持器81の円環部811は第1ボール71のアウター側に位置し、第2保持器82の円環部821は第2ボール72のアウター側に位置しており、第1保持器81の第1円環部811および第2保持器82の第2円環部812は、第1円環部811と第2円環部812とが軸方向において互いに対向しない側に位置している。
【0056】
仮に、例えば円環部811が第1ボール71のアウター側に位置し、円環部821が第2ボール72のインナー側に位置するといったように、円環部811と円環部821とが、共に第1ボール71と第2ボール72との間に位置して互いに対向していると、第1ボール71と第2ボール72との間に円環部811および円環部821が位置するスペースが必要となり、第1ボール71と第2ボール72との間の距離を大きくとる必要がある。
【0057】
しかし、車輪用軸受装置1においては、円環部811と円環部821とが軸方向において互いに対向しない側に位置しているため、第1ボール71と第2ボール72との間の距離を小さくすることが可能となっている。
【0058】
また、円環部811を第1ボール71のアウター側に配置することで、第1ボール71の第1内側軌道面42に対する接触角αをインナー側に大きくとることが可能となる。また、円環部821を第2ボール72のアウター側に配置することで、第2ボール72の第2内側軌道面43に対する接触角βをインナー側に大きくとることが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1の作用点間距離を大きくすることができ、車輪用軸受装置1における荷重の負荷容量を向上させることが可能となる。
【0059】
なお、本実施形態においては、円環部811が第1ボール71のアウター側に位置するとともに、円環部821が第2ボール72のアウター側に位置しているが、円環部811と円環部821とが軸方向において互いに対向しない側に位置する構成としては、円環部811が第1ボール71のインナー側に位置するとともに、円環部821が第2ボール72のインナー側に位置する構成、または円環部811が第1ボール71のインナー側に位置するとともに、円環部821が第2ボール72のアウター側に位置する構成とすることも可能である。
【0060】
図2に示すように、第3ボール列53における第3保持器83は、環状に形成される円環部831と、円環部831から軸方向におけるインナー側に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部832と、円環部831と隣り合う柱部832とによって形成され、第3ボール73を保持するポケット833とを有している。円環部831は、軸方向において、第3ボール73のインナー側に位置している。柱部832のアウター側端は、第3ボール73のアウター側端よりもインナー側に位置している。つまり、柱部832は、第3ボール73よりもアウター側に突出していない。
【0061】
[外輪]
図2に示すように、外輪2の第1外側軌道面23は、肩部23aを有している。肩部23aは、軸方向において第1外側軌道面23のアウター側端部に位置しており、径方向において第1外側軌道面23の最も内径側に位置している。外輪2における肩部23aのアウター側には、内周面28Aが肩部23aに連続して形成されている。
【0062】
外輪2の第2外側軌道面24は、肩部24aを有している。肩部24aは、軸方向において第2外側軌道面24のアウター側端部に位置しており、径方向において第2外側軌道面24の最も内径側に位置している。外輪2における肩部24aのアウター側には、内周面28Bが肩部24aに連続して形成されている。
【0063】
外輪2の第3外側軌道面25は、肩部25aを有している。肩部25aは、軸方向において第3外側軌道面25のインナー側端部に位置しており、径方向において第3外側軌道面25の最も内径側に位置している。外輪2における肩部25aのインナー側には、内周面28Cが肩部25aに連続して形成されている。
【0064】
第1外側軌道面23の肩部23aは、第3外側軌道面25の肩部25aよりも内径側に位置している。第2外側軌道面24の肩部24aは、第1外側軌道面23の肩部23aよりも内径側に位置している。また、第2外側軌道面24の肩部24aは、第3外側軌道面25の肩部25aよりも内径側に位置している。
【0065】
外輪2は、第2外側軌道面24の肩部24aに連続する内周面28Bと、第3外側軌道面25の肩部25aに連続する内周面28cとの間に形成される段差面29を有している。段差面29は、軸方向に直交する面である。
【0066】
第2外側軌道面24の肩部24aと段差面29との軸方向における距離はL1であり、第3転動体列53を構成する第3ボール73と段差面29との軸方向における距離はL2である。
【0067】
車輪用軸受装置1において、軽量化を優先して外輪2を形成する場合には、軸方向において段差面29を第2外側軌道面24側に近づけて配置して、距離L1を距離L2よりも小さく形成し、第2外側軌道面24と段差面29との間の軸方向における肉厚を小さくすることができる。この場合、第2外側軌道面24の肩部24aと段差面29との軸方向の距離L1が1mm以上となるように段差面29を配置することで、外輪2における第2外側軌道面24が形成された部分の剛性を確保することができる。
【0068】
また、
図4に示すように、車輪用軸受装置1において、外輪2の剛性向上を優先する場合には、軸方向において段差面29を第3ボール73側に近づけて配置して、距離L2を距離L1よりも小さく形成し、第2外側軌道面24と段差面29との間の軸方向における肉厚を大きくすることができる。この場合、第3ボール73と段差面29との軸方向における距離L2が1mm以上となるように段差面29を配置することで、段差面29と第3ボール73とが干渉することを抑制可能である。
【0069】
このように、第2外側軌道面24の肩部24aと段差面29との軸方向の距離L1が1mm以上となり、第3ボール73と段差面29との軸方向における距離L2が1mm以上となるように段差面29を配置することで、段差面29と第3ボール73とが干渉することを抑制しつつ、外輪2における第2外側軌道面24が形成された部分の剛性を確保することが可能である。
【0070】
[外輪における段差面の変形例]
外輪2の段差面29は、
図5に示す段差面29Aのように形成することもできる。段差面29Aは、軸方向に直交する方向に対して傾斜した傾斜面に形成されている。段差面29Aは、インナー側へ向かうにつれて内径側に傾斜している。
【0071】
この場合、段差面29Aのインナー側端と第2外側軌道面24の肩部24aとの軸方向における距離L3が1mm以上となるように段差面29Aを形成することで、第2外側軌道面24と段差面29との間の軸方向における外輪2の肉厚を1mm以上確保することができ、外輪2における第2外側軌道面24が形成された部分の剛性を確保することが可能である。
【0072】
また、段差面29Aのアウター側端と第3ボール73との軸方向における距離L4が1mm以上となるように段差面29Aを形成することで、段差面29Aと第3ボール73との軸方向における隙間を1mm以上確保することができ、段差面29と第3ボール73とが干渉することを抑制可能である。
【0073】
なお、本実施形態においては、ハブ輪3の外周に第3ボール列53の第3内側軌道面33が直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置1について説明したが、車輪用軸受装置はこれに限定するものではなく、ハブ輪に一対の内輪が圧入固定された第2世代構造や、ハブ輪を備えずに外方部材である外輪と内方部材である一対の内輪とから構成される第1世代構造であってもよい。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0075】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
4 内輪
23 (インナー側の)外側軌道面
23a 底部
23b 肩部
24 (アウター側の)外側軌道面
24a 底部
24b 肩部
28 内周面
23 第1外側軌道面
24 第2外側軌道面
24a 肩部
25 第3外側軌道面
25a 肩部
28B、28C 内周面
29 段差面
31 小径段部
33 第3内側軌道面
42 第1内側軌道面
43 第2内側軌道面
44 外周面
51 第1ボール列
52 第2ボール列
53 第3ボール列
71 第1ボール
72 第2ボール
73 第3ボール
81 第1保持器
82 第2保持器
83 第3保持器
811 第1円環部
812 第1柱部
813 第1ポケット
821 第2円環部
822 第2柱部
823 第2ポケット
L1 (第2外側軌道面の肩部と段差面との軸方向における)距離
L2 (第3ボールと段差面との軸方向における)距離
R1 (第1ボールの)ボール径
R2 (第2ボールの)ボール径
α (第1ボールの)接触角
β (第2ボールの)接触角