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特開2024-116016樹脂組成物、成形体および樹脂フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116016
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体および樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20240820BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240820BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240820BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240820BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFG
C08L33/04
C08G73/10
C08L33/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021990
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】片山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智史
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA60
4F071AA81
4F071AC03A
4F071AE19A
4F071AF16
4F071AF17
4F071AF20Y
4F071AF30Y
4F071AF34Y
4F071AF57
4F071AG34
4F071AH12
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4F071BC12
4J002BC072
4J002BG012
4J002BG042
4J002BG052
4J002BG062
4J002CM041
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
4J002GT00
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4J043PA06
4J043PA08
4J043PB08
4J043PB14
4J043PC145
4J043PC146
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4J043QB31
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4J043RA35
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4J043TA67
4J043TA68
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4J043TB02
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4J043UB282
4J043UB301
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4J043UB351
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4J043YA23
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4J043ZA33
4J043ZA36
4J043ZA52
4J043ZA60
4J043ZB11
4J043ZB23
4J043ZB60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた光学特性と屈曲耐性を有する樹脂組成物、成形体および樹脂フィルムの提供を目的とする。
【解決手段】ポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含み、前記ポリイミド樹脂は、特定のジアミン由来構造、特定のテトラカルボン酸二無水物由来構造を有し、ジアミン由来構造は2価の有機基であるジアミン残基であり、テトラカルボン酸二無水物由来構造は4価の有機基であるテトラカルボン酸二無水物残基であり、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂を60:40~90:10の範囲の重量比で含み、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂が溶媒中で相溶可能である、樹脂組成物、その成形体および樹脂フィルムにより上記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含み、前記ポリイミド樹脂は、一般式(IIa)で表されるジアミン由来構造、および一般式(IIIa)で表されるテトラカルボン酸二無水物由来構造を有し、Yは2価の有機基であるジアミン残基であり、Xは4価の有機基であるテトラカルボン酸二無水物残基であり、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂を60:40~90:10の範囲の重量比で含み、前記アクリル樹脂と前記ポリイミド樹脂が溶媒中で相溶可能である、樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記アクリル樹脂がメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ジアミン由来の構造がフルオロアルキル基を有し、前記テトラカルボン酸二無水物由来構造が脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
フルオロアルキル基を有するジアミンが、フルオロアルキル置換ベンジジンを含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記フルオロアルキル置換ベンジジンが、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリイミドは、前記ジアミン由来構造の全量に対する、フルオロアルキル基を有するジアミンに由来する構造の比率が20モル%以上である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記テトラカルボン酸二無水物が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、および1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物からなる群から選択される1種以上の脂環式テトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸二無水物成分として、さらに、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を含有する、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の量が、1~80モル%である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂フィルム。
【請求項12】
全光線透過率が90%以上、ヘイズが1%以下、黄色度が1.0未満である、請求項11に記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
引張弾性率4.0GPa以上であることを特徴とする請求項11に記載の樹脂フィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂組成物、成形体および樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶、有機EL、電子ペーパー等の表示装置や、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスデバイスにおいて、薄型化や軽量化、さらにはフレキシブル化が要求されている。これらのデバイスに使用されるガラス材料をフィルム材料に代えることにより、フレキシブル化、薄型化、軽量化が図られる。ガラス代替材料として、透明ポリイミドフィルムが開発され、ディスプレイ用基板やカバーフィルム等に用いられている。
【0003】
通常のポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を支持体上に膜状に塗布し、高温処理することにより、溶媒除去と同時に熱イミド化を行うことにより得られる。しかしながら、熱イミド化のための加熱温度は高く(例えば300℃以上)、加熱による着色(黄色度の上昇)が生じやすく、ディスプレイ用カバーフィルム等の高い透明性が要求される用途への適用が困難である。
【0004】
高い透明性を有するポリイミドフィルムの製造方法として、有機溶媒に可溶であり、フィルム化後の高温でのイミド化を必要としないポリイミド樹脂を用いる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、テトラカルボン酸二無水物成分としてビス無水トリメリット酸エステル類を含むポリイミドが、有機溶媒への溶解性に優れ、かつ透明性および機械強度に優れることが記載されている。しかし、透明性という観点でさらなる改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2020/004236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリイミドは、剛直な構造を導入すると、機械強度が向上するものの、有機溶媒への溶解性の低下や着色の要因となり、ポリイミド単独で、透明性と高機械強度(特に屈曲耐性)を両立することは容易ではない。かかる課題に鑑み、本発明は、優れた屈曲耐性と透明性を両立可能な樹脂組成物、樹脂組成物を含む成形体およびフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、下記構成とすることで上記課題を解決することを見出した。
【0008】
1).ポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含み、前記ポリイミド樹脂は、一般式(IIa)で表されるジアミン由来構造、および一般式(IIIa)で表されるテトラカルボン酸二無水物由来構造を有し、Yは2価の有機基であるジアミン残基であり、Xは4価の有機基であるテトラカルボン酸二無水物残基であり、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂を60:40~90:10の範囲の重量比で含み、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂が溶媒中で相溶可能である、樹脂組成物。
【化1】
【0009】
2).前記アクリル樹脂がメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル樹脂であることを特徴とする1)に記載の樹脂フィルム。
【0010】
3).前記ジアミン由来の構造がフルオロアルキル基を有し、前記テトラカルボン酸二無水物由来の構造が脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有する、1).または2).に記載の樹脂組成物。
【0011】
4).フルオロアルキル基を有するジアミンが、フルオロアルキル置換ベンジジンを含む、1).~3).のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0012】
5).前記フルオロアルキル置換ベンジジンが、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである、4).に記載の樹脂組成物。
【0013】
6).前記ポリイミドは、前記ジアミン由来構造の全量に対する、フルオロアルキル基を有するジアミンに由来する構造の比率が20モル%以上である、3).~5).のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
7).前記テトラカルボン酸二無水物が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、および1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物からなる群から選択される1種以上の脂環式テトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、1).~6).のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
8).前記ポリイミドが、テトラカルボン酸二無水物成分として、さらに、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を含有する、3).または7).に記載の樹脂組成物。
【0016】
9).前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の量が、1~80モル%である、3).~8).のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
10).1).~9).のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形体。
【0018】
11).1).~9).のいずれかに記載の樹脂組成物を含む樹脂フィルム。
【0019】
12).全光線透過率が90%以上、ヘイズが1%以下、黄色度が1.0未満である、11).に記載の樹脂フィルム。
【0020】
13).引張弾性率4.0GPa以上であることを特徴とする11).または12).に記載の樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた透明性と屈曲耐性を両立可能な樹脂組成物、成形体および樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[樹脂組成物、樹脂組成物を含むフィルム]
本発明の一実施形態は、ポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含み、前記ポリイミド樹脂は、一般式(IIa)で表されるジアミン由来構造、および一般式(IIIa)で表されるテトラカルボン酸二無水物由来構造を有し、Yは2価の有機基であるジアミン残基であり、Xは4価の有機基であるテトラカルボン酸二無水物残基であり、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂を60:40~90:10の範囲の重量比で含み、前記ポリイミド樹脂と前記アクリル樹脂が溶媒中で相溶可能である、樹脂組成物である。
【0023】
【化2】
【0024】
<ポリイミド樹脂>
ポリイミド樹脂は、一般式(I)で表される構造単位を有するポリマーであり、テトラカルボン酸二無水物(以下、「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの付加重合により得られるポリアミック酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合物であり、テトラカルボン酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)とジアミン由来構造(ジアミン成分)とを有する。また、ポリイミドは酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)の一部をテレフタル酸クロライドなどの二酸ハロゲン化物由来の構造に置換したポリアミドイミドであっても良い。本発明において、ポリイミドとポリアミドイミドはいずれも選択できるが、アクリル樹脂との相溶性の観点からポリイミドが好ましい場合がある。ポリイミドとポリアミドイミドは併用することもできる。以降、ポリイミドおよびポリアミドイミドをポリイミド系樹脂とも記載する。なお、ポリイミド系樹脂は、ジイソシアネートとテトラカルボン酸二無水物との脱炭酸による縮合により合成することもできる。
【0025】
【化3】
【0026】
一般式(I)において、Yは2価の有機基であり、Xは4価の有機基である。Yはジアミン残基であり、下記一般式(II)で表されるジアミンから2つのアミノ基を除いた有機基である。なお、ジイソシアネートを用いてポリイミド系樹脂を合成する場合、Yはジイソシアネート残基であり、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた有機基である。Xは、テトラカルボン酸二無水物残基であり、下記一般式(III)で表されるテトラカルボン酸二無水物から、2つの無水カルボキシ基を除いた有機基である。
【0027】
【化4】
【0028】
換言すると、ポリイミド系樹脂は、下記一般式(IIa)で表される構造単位と下記一般式(IIIa)で表される構造単位を含み、ジアミン由来構造(IIa)とテトラカルボン酸二無水物由来構造(IIIa)がイミド結合を形成することにより、一般式(I)で表される構造単位を有している。
【0029】
【化5】
【0030】
(ジアミン)
本実施形態で用いるポリイミド系樹脂のジアミン成分は特に限定されない。溶解性の観点から、ポリイミド系樹脂のジアミンとしては、フルオロアルキル基、フッ素基、脂環構造、フルオレン構造およびスルホン基からなる群から選択される1種以上を有するものが好ましい。中でも、ポリイミド系樹脂の溶解性と透明性とを両立する観点から、ポリイミド系樹脂は、ジアミン成分としてフッ素含有ジアミン、なかでもフルオロアルキル基を有するジアミンを含むことが好ましい。
【0031】
ジアミン由来の構造がフルオロアルキル基を有し、テトラカルボン酸二無水物由来構造が後述の脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有することが特に好ましい。
【0032】
フッ素含有ジアミンとしては、フルオロアルキル基を有するジアミン、例えば、フルオロアルキル置換ベンジジンが挙げられる。フルオロアルキル置換ベンジジンの具体例としては、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2、6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。
【0033】
中でも、ビフェニルの2位にフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル置換ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下「TFMB」と記載)が特に好ましい。ビフェニルの2位および2’位にフルオロアルキル基を有することにより、フルオロアルキル基の電子求引性によるπ電子密度の低下に加えて、フルオロアルキル基の立体障害によって、ビフェニルの2つのベンゼン環の間の結合がねじれてπ共役の平面性が低下するため、吸収端波長が短波長シフトして、ポリイミド系樹脂の着色が低減するとともに、有機溶媒への溶解性が高められる傾向がある。
【0034】
ジアミン由来構造の全量に対する、フルオロアルキル置換ベンジジン等のフルオロアルキル基を有するジアミンの含有量は、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上、85モル%以上または90モル%以上であってもよい。フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量が大きいことにより、ポリイミド系樹脂の着色が抑制されるとともに、鉛筆硬度や弾性率等の機械強度が高くなる傾向がある。
【0035】
フルオロアルキル置換ベンジジン以外の、フルオロアルキル基を有するジアミンとしては、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のフルオロアルキル基が結合した芳香環を有するジアミン;2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等の芳香環に直接結合していないフルオロアルキル基を有するジアミンが挙げられる。
【0036】
また、フルオロアルキル基以外のフッ素含有基を有するジアミンとしては、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2、6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、2,2’-ジメチルベンジジン等が挙げられる。フッ素含有ジアミンを用いることで、透過率に優れるポリイミド系樹脂の成形体を得ることができる。
【0037】
ポリイミド系樹脂は、ジアミン成分として、フッ素を含有しないジアミンを含んでいてもよい。フッ素を含有しないジアミンの中で、ポリイミド以外の樹脂との相溶性に優れるジアミン成分の例として、脂環式構造を有するジアミン、フルオレン構造を有するジアミン、スルホン基を有するジアミンが挙げられる。
【0038】
脂環式構造を有するジアミンとしては、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルネン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、アダマンタン-1,3-ジアミン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。脂環式構造を有するジアミンを用いることで、弾性率や透過率や機械強度に優れる成形体を得ることができる。
【0039】
フルオレン構造を有するジアミンの例として、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。フルオレン構造を有するジアミンを用いることで、弾性率や機械強度に優れる成形体を得ることができる。
【0040】
スルホン基を有するジアミンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン等が挙げられる。スルホン基を有するジアミンを用いることにより、ポリイミドの溶媒への溶解性や透明性が向上し、弾性率や靭性等の機械特性が向上する場合がある。ジアミノジフェニルスルホンの中でも、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)が好ましい。3,3’-DDSと4,4’-DDSを併用してもよい。スルホン基を有するジアミンを用いることで、弾性率や機械強度に優れる成形体を得ることができる。
【0041】
上記以外のジアミンの例として、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、o-キシレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0042】
ジアミンとして、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン等の鎖状ジアミンを用いることもできる。
【0043】
(テトラカルボン酸二無水物)
本実施形態で用いるポリイミド系樹脂の酸二無水物成分は特に限定されない。ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との相溶性の観点から、ポリイミド系樹脂の酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1つの脂環構造を有していればよく、1分子中に脂環と芳香環の両方を有していてもよい。脂環は多環でもよく、スピロ構造を有していてもよい。
【0044】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’テトラカルボン酸二無水物、3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,4-ジイルビス(メチレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジハイドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、5,5’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレンオキシ)]ビス-1,3-イソベンゾフランジオン、5-イソベンゾフランカルボン酸,1,3-ジハイドロ-1,3-ジオキソ-,5,5’-[1,4-シクロヘキサンジイルビス(メチレン)]エステル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸2,3:5,6-二無水物、デカハイドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[6.4.0.0(2,7)]ドデカン-1,8:2,7-テトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロ-1H,3H,8H,10H-ビフェニレノ[4a,4b-c:8a,8b-c’]ジフラン-1,3,8,10-テトロン、エチレングリコールビス(水素化トリメリット酸無水物)エステル、デカハイドロ[2]ベンゾピラノ[6,5,4,-def][2]ベンゾピラン-1,3、6,8-テトロン、等が挙げられる。
【0045】
脂環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、ポリイミドの透明性および機械強度の観点から、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(CPDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)または1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物(H-BPDA)が好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0046】
ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との相溶性を高める観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましく、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、12モル%以上または15モル%以上であってもよい。アクリル樹脂との相溶性を持たせるために必要な脂環式テトラカルボン酸二無水物量は、アクリル樹脂や、脂環式テトラカルボン酸二無水物量の種類等によって異なる場合がある。例えば、脂環式テトラカルボン酸二無水物が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)である場合、酸二無水物成分全量100モル%に対するCBDAの含有量は、6モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。
【0047】
ポリイミド系樹脂の有機溶媒への溶解性を確保する観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、80モル%以下が好ましく、78モル%以下がより好ましく、76モル%以下がさらに好ましく、74モル%以下、72モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下または50モル%以下であってもよい。ポリイミド系樹脂を塩化メチレン等の低沸点ハロゲン系溶媒に可溶とするためには、脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、35モル%以下であってもよい。
【0048】
ポリイミド系樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物に加えて、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。
【0049】
フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4-トリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、3,6-ジ[3’,5’-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ピロメリット酸二無水物、1-[3’,5’-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ピロメリット酸二無水物、N,N’-[[2,2,2―トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス(6-ヒドロキシ-3,1-フェニレン)]ビス[1,3―ジハイドロ-1,3―ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボキサミド]等が挙げられる。中でも、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(以下「6FDA」と記載)が特に好ましい。
【0050】
ポリイミド系樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量は、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましく、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上または50モル%以上であってもよい。酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量は、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下がさらに好ましく、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下または70モル%以下であってもよい。
【0051】
有機溶媒への溶解性、およびポリイミド以外の樹脂との相溶性を兼ね備えたポリイミド系樹脂を得る観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量の合計は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、65モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上または95モル%以上であってもよい。
【0052】
ポリイミド系樹脂は、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を含んでいてもよい。上記以外のテトラカルボン酸二無水物の中でポリイミド以外の樹脂との相溶性を高める例としてエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物、エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物、および芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0053】
エステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物として、ビス(無水トリメリット酸)エステル類は、下記一般式(1)で表される。
【化6】
【0054】
一般式(1)におけるQは、任意の2価の有機基であり、Qの両端において、カルボキシ基とQの炭素原子が結合している。カルボキシ基に結合する炭素原子は、環構造を形成していてもよい。2価の有機基Qの具体例としては、下記(A)~(K)が挙げられる。
【0055】
【化7】
【0056】
式(A)におけるRは、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数である。式(A)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノン誘導体から2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノンとしては、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン等が挙げられる。なお、Rが炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である場合、ビス(無水トリメリット酸)エステルはフルオロアルキル基を有するテトラカルボン酸二無水物に該当する。
【0057】
式(B)におけるRは、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、nは0~4の整数である。式(B)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有していてもよいビフェノールから2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するビフェノール誘導体としては、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジオール等が挙げられる。なお、Rが炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である場合、ビス(無水トリメリット酸)エステルはフルオロアルキル基を有するテトラカルボン酸二無水物に該当する。
【0058】
式(C)で表される基は、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)から2つの水酸基を除いた基である。式(D)で表される基は、レゾルシノールから2つの水酸基を除いた基である。
【0059】
式(E)におけるpは1~10の整数である。式(E)で表される基は、炭素数1~10の直鎖のジオールから2つの水酸基を除いた基である。炭素数1~10の直鎖のジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0060】
式(F)で表される基は、1,4-シクロヘキサンジメタノールから2つの水酸基を除いた基である。
【0061】
式(G)におけるRは、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、qは0~4の整数である。式(G)で表される基は、フェノール性水酸基を有するベンゼン環上に置換基を有していてもよいビスフェノールフルオレンから2つの水酸基を除いた基である。フェノール性水酸基を有するベンゼン環上に置換基を有するビスフェノールフルオレン誘導体としては、ビスクレゾールフルオレン等が挙げられる。なお、Rが炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である場合、ビス(無水トリメリット酸)エステルはフルオロアルキル基を有するテトラカルボン酸二無水物に該当する。
【0062】
ビス(無水トリメリット酸)エステルは芳香族エステルであることが好ましく、Qとしては、上記(A)~(K)の中では、(A)(B)(C)(D)(G)(H)(I)が好ましい。中でも、(A)~(D)が好ましく、(B)および(C)が特に好ましい。Qが一般式(B)で表される基である場合、ポリイミドの溶解性の観点から、Qは、下記の式(B1)で表される2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイルであること好ましい。
【0063】
【化8】
【0064】
一般式(1)においてQが式(B1)で表される基である酸二無水物は、下記の式(2)で表されるビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ -ジイル(略称:TAHMBP)である。
【0065】
【化9】
【0066】
エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物としては、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、等が挙げられる。エーテル結合を有する酸二無水物の中でも、アクリル樹脂との相溶性の観点から、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物が好ましい。
【0067】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、5,5’-ジメチルメチレンビス(フタル酸無水物)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物、N,N’-(9H-フルオレン-9-イリデンジ-4,1-フェニレン)ビス[1,3-ジハイドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボキサミド]、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、11,11-ジメチル-1H-ジフロ[3,4-b:3’,4’-i]キサンテン-1,3,7,9(11H)-テトロン、4-(2,5―ジオキソテトラハイドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラハイドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0068】
上記以外の芳香族酸二無水物の例として、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(3,4-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボン酸)-1,4-フェニレンエステルが挙げられる。酸二無水物として、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等の鎖状脂肪族酸二無水物を用いてもよい。
【0069】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の中でも、ポリイミド系樹脂とポリイミド以外の樹脂との相溶性の観点から、ピロメリット酸二無水物およびメロファン酸二無水物が特に好ましい。
【0070】
ポリイミド系樹脂は、酸二無水物成分の一部をテレフタル酸クロライドなどの二酸ハロゲン化物由来の構造に置換したポリアミドイミドであっても良い。酸二無水物成分全量100モル%に対する二酸ハロゲン化物由来の成分の割合は、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましく、0モル%であってもよい。二酸ハロゲン化物由来の構造が40モル%を超えると溶剤可溶性が低下する場合がある。
【0071】
(ポリイミド系樹脂の調製)
酸二無水物とジアミンとの反応によりポリイミド前駆体としてのポリアミック酸が得られ、ポリアミック酸の脱水環化(イミド化)によりポリイミドが得られる。ポリアミック酸の調製方法は特に限定されず、公知のあらゆる方法を適用できる。例えば、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを、略等モル量(90:100~110:100のモル比)で有機溶媒中に溶解させ、攪拌することにより、ポリアミック酸溶液が得られる。
【0072】
ポリアミック酸溶液の濃度は、通常5~35重量%であり、好ましくは10~30重量%である。この範囲の濃度である場合に、重合により得られるポリアミック酸が適切な分子量を有するとともに、ポリアミック酸溶液が適切な粘度を有する。
【0073】
ポリアミック酸の重合に際しては、酸二無水物の開環を抑制するため、ジアミンにテトラカルボン酸二無水物を加える方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種のテトラカルボン酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。モノマーの添加順序を調整することにより、ポリイミド系樹脂の諸物性を制御することもできる。
【0074】
ポリアミック酸の重合に使用する有機溶媒は、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物と反応せず、ポリアミック酸を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独でまたは必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いる。ポリアミック酸の溶解性および重合反応性の観点から、DMAc、DMF、NMP等が好ましく用いられる。
【0075】
ポリアミック酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。ポリアミック酸溶液からポリイミドを調製する方法として、ポリアミック酸溶液に脱水剤、イミド化触媒等を添加し、溶液中でイミド化を進行させる方法が挙げられる。イミド化の進行を促進するため、ポリアミック酸溶液を加熱してもよい。ポリアミック酸のイミド化により生成したポリイミドが含まれる溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミドが固形物として析出する。ポリイミドを固形物として単離することにより、ポリアミック酸の合成時に発生した不純物や、残存脱水剤およびイミド化触媒等を、貧溶媒により洗浄・除去可能であり、ポリイミドの着色や黄色度の上昇等を防止できる。また、ポリイミドを固形物として単離することにより、フィルム等の成形体を作製するための溶液を調製する際に、低沸点溶媒等のフィルム化に適した溶媒を適用できる。
【0076】
ポリイミドの分子量(ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量)は、10,000~500,000が好ましく、20,000~400,000がより好ましく、40,000~300,000がさらに好ましい。分子量が過度に小さい場合、フィルムの強度が不足する場合がある。分子量が過度に大きい場合、ポリイミド以外の樹脂との相溶性に劣る場合や製膜性に劣る場合がある。
【0077】
ポリイミド系樹脂は、ケトン系溶媒やハロゲン化アルキル系溶媒等の低沸点溶媒に可溶であるものが好ましい。ポリイミド系樹脂が溶媒に溶解性を示すとは、5重量%以上の濃度で溶解することを意味する。一実施形態において、ポリイミド系樹脂は塩化メチレンに対する溶解性を示す。塩化メチレンは、低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、塩化メチレンに可溶のポリイミド系樹脂を用いることにより、樹脂フィルムの生産性向上が期待できる。
【0078】
樹脂組成物およびフィルムの熱安定性および光安定性の観点から、ポリイミドは反応性が低いことが好ましい。ポリイミドの酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。ポリイミドの酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価を小さくする観点から、ポリイミドはイミド化率が高いことが好ましい。酸価が小さいことにより、ポリイミドの安定性が高められるとともに、ポリイミド以外の樹脂との相溶性が向上する傾向がある。
【0079】
<アクリル樹脂>
アクリル樹脂はアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体である。アクリル樹脂はポリイミドとブレンドして透明性を示す限り限定されないが、溶剤可溶性樹脂であることが好ましい。溶剤可溶性樹脂であることで、溶剤中で混合することによりポリイミドとの均一な混合状態を得やすくなる点で好ましい。本願において溶剤のことを溶媒と示す場合がある。アクリル樹脂はアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸を共重合したものでもよいし、スチレン等の他の樹脂と共重合したものでもよい。
【0080】
アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体等が挙げられる。アクリル樹脂は、変性により、グルタルイミド構造単位やラクトン環構造単位を導入したものでもよい。
【0081】
透明性およびポリイミド樹脂との相溶性、ならびにフィルム等の成形体の機械強度の観点から、アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルを主たる構造単位とするものが好ましい。アクリル樹脂におけるモノマー成分全量に対するメタクリル酸メチルの量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上または95重量%以上であってもよい。アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルのホモポリマーであってもよい。また、アクリル樹脂は、メタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であるアクリル系ポリマーに、グルタルイミド構造やラクトン環構造を導入したものであってもよい。
【0082】
本発明の樹脂組成物および樹脂フィルムの耐熱性の観点から、アクリル樹脂のガラス転移温度は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上または120℃以上であってもよい。
【0083】
有機溶媒への溶解性、上記のポリイミド樹脂との相溶性およびフィルム強度の観点から、アクリル樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、15,000~200,000がさらに好ましい。
【0084】
本発明の樹脂組成物および樹脂フィルムの熱安定性および光安定性の観点から、アクリル樹脂は、エチレン性不飽和基やカルボキシ基等の反応性官能基の含有量が少ないことが好ましい。アクリル樹脂のヨウ素価は、10.16g/100g(0.4mmol/g)以下が好ましく、7.62g/100g(0.3mmol/g)以下がより好ましく、5.08g/100g(0.2mmol/g)以下がさらに好ましい。アクリル樹脂の酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。酸価が小さいことにより、アクリル樹脂の安定性が高められるとともに、ポリイミド樹脂との相溶性が向上する傾向がある。
【0085】
アクリル樹脂としては例えば、「パラペットG(株式会社クラレ製、重量平均分子量10万、Tg:101℃)」が挙げられる。
【0086】
<紫外線吸収剤>
本発明の樹脂フィルムは耐光性を向上させる目的で紫外線吸収剤を含むことができる。紫外線吸収剤は主に紫外領域の波長に吸収を有する化合物であり、樹脂の紫外線による劣化を防ぐ役割を果たす。
【0087】
本発明の樹脂フィルムはポリイミド系樹脂とアクリル樹脂を含むため、樹脂組成物に占めるポリイミド系樹脂の比率が小さいため、光によってポリイミド系樹脂が分解して着色する問題が生じにくく、紫外線吸収剤を含まなくても良好な耐光性を有している。樹脂フィルムの耐光性試験前後における黄色度(YI)の変化量が10.0以下となるような、さらなる良好な耐光性を発現するためには紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0088】
樹脂フィルムを構成する樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の含有量は0.1重量部以上が好ましく、1.0重量部以上がより好ましく、3.0重量部以上が更に好ましく、5.0重量部以上が特に好ましい。紫外線吸収剤の含有量は、10.0重量部以下が好ましく、8.0重量部以下がより好ましく、6.0重量部以下が特に好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.1重量部よりも少ないと耐光性が低くなる傾向があり、含有量が10.0重量部より多いと紫外線吸収剤が示す可視光領域の中でも短波長側の光の吸収によって樹脂フィルムの黄色度(YI)が高くなる傾向があり、好ましくない場合がある。
【0089】
紫外線吸収剤としては、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ヒドロキシベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤の中でも、良好な耐光性が得られると言う観点から、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、特に樹脂フィルムの着色が少ないとの観点からベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は1種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、市販のトリアジン系紫外線吸収剤を使用できる。市販のトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「Tinuvin477」、「Tinuvin460」、「Tinuvin1600」(以上、BASF製)、「アデカスタブLA-46」「アデカスタブLA-F70」(以上、ADEKA社製)、「Kemisorb102」(ケミプロ化成社製)、等が挙げられる 。
【0091】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、市販のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用できる。市販のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「Tinuvin326」「Tinuvin360」(以上、BASF製)、「Kemisorb279」(ケミプロ化成社製)、「アデカスタブLA-24」、「アデカスタブLA-29」、「アデカスタブLA-31RG」、「アデカスタブLA-32」、「アデカスタブLA-36」(以上、ADEKA社製)等が挙げられる 。
【0092】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、市販のベンゾフェノン系紫外線吸収剤を使用できる。市販のベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、商品名「seesorb101」(シプロ化成社製)、「アデカスタブ1413」(ADEKA社製)等が挙げられる 。
【0093】
ポリイミド系樹脂のベンゼン環に炭素原子数1~20のアルキル基またはフルオロアルキル基を有している場合、特にポリイミド系樹脂のベンゼン環に炭素原子数1~20のフルオロアルキルアルキル基を有している場合、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との組み合わせが、良好な耐光性が得られるためより好ましい。
【0094】
また、ポリイミド系樹脂の骨格にシクロブタン構造のようにひずみを持つような骨格を有する場合、トリアジン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤との組み合わせが、良好な耐光性が得られるためより好ましい。
【0095】
樹脂フィルムが、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、紫外線吸収剤、溶剤を少なくとも含む樹脂組成物の溶液を支持体上に塗布し、前記溶剤を除去することにより製造される溶液流延法で得られた樹脂フィルムである場合、支持体と接する面に紫外線吸収剤が偏在する傾向がある。そのため、耐光性試験において、支持体と接していた側から光照射した際の黄変度合いが、支持体と接しない面から光照射した際の黄変合いよりも小さくなる傾向があるため好ましい。耐光性試験は公知の方法を用いることができるが、例えば、ブラックパネル温度が80℃で、波長300nm~400nmにおける放射照度180W/mでの200時間のキセノンウェザー試験とすることができる。
【0096】
<ブルーイング剤>
樹脂フィルムはブルーイング剤を含んでいてもよい。ブルーイング剤は、可視光領域のうち、比較的長波長側である赤色、橙色、黄色などの光を吸収し、色を調整する添加剤(染料、顔料)であって、例えば、フタロシアニンブルーなどの有機系の顔料、群青、紺青、コバルトブルーなどの無機系の顔料、アントラキノン誘導体、インディゴ系化合物、メチレンブルーなどの有機系の染料が挙げられる。これらの中でもフタロシアニンブルー、群青、アントラキノン誘導体、インディゴ系化合物が樹脂や溶剤への溶解性や分散性の観点で好ましく、耐熱性、耐光性の観点から、特にフタロシアニンブルー、群青が好ましい。ブルーイング剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
樹脂フィルムの成形加工性の観点から、ブルーイング剤の耐熱性は高い方が好ましい。1%重量減少温度としては、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上が特に好ましい。
【0098】
本発明の樹脂フィルムはブルーイング剤を含んでいなくても、着色が少なく、ディスプレイ用フィルムとして好適に使用されるため、ブルーイング剤を含んでいなくてもよい。本発明の樹脂フィルムが、ディスプレイ用カバーフィルム等に好適に使用される、黄色度(YI)が-1.0~1.0の範囲とするためには、樹脂フィルムが含むブルーイング剤の総量は樹脂フィルムに求められる黄色度(YI)によって適宜調整できるが、均一に樹脂フィルムを調色するためには、樹脂フィルムを構成する樹脂100重量部に対して10重量ppm以上が好ましく、20重量ppm以上が特に好ましい。
【0099】
ブルーイング剤は、公知のものを適宜使用することができる。例えば、例えば、アントラキノン系ブルーイング剤としては、Plast Blue 8510、Plast Blue 8514、Plast Blue 8516、Plast Blue 8520、Plast Blue 8540、Plast Blue 8580、Plast Blue 8590(以上、いずれも有本化学工業社製)、フタロシアニンブルー系ブルーイング剤としてはET 4B403(大日精化工業社製)、BL-G207(山陽色素社製)、群青系ブルーイング剤としてはUltramarine Blue 51(Holliday Pigments社製)が挙げられる。
【0100】
樹脂フィルムに含まれるブルーイング剤は、光照射により変質しないことが望ましい。ブラックパネル温度が80℃で、波長300nm~400nmにおける放射照度180W/mでの200時間のキセノンウェザー試験において、前記樹脂フィルムの500nm~700nmの範囲のブルーイング剤の吸収が極大となる極大波長(λmax)における試験前後の透過率の変化が0.4%未満であることが好ましく、試験前後の透過率の変化が0.3%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることが更に好ましい。
【0101】
<樹脂組成物(ブレンド樹脂)の調製>
上記のポリイミド系樹脂とアクリル樹脂とを混合して、樹脂組成物を調製する。上記のポリイミド系樹脂とアクリル樹脂は、任意の比率で相溶性を示すが、本発明の樹脂フィルムはポリイミド樹脂とアクリル樹脂が60:40~90:10の混合比(重量比)で含有され、この範囲内であれば、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との比率は特に限定されない。アクリル樹脂の比率が高いほど、全光線透過率が高くなり、黄色度(YI)が低くなり、光学特性が良好になる傾向がある。ポリイミド系樹脂の比率が高いほど、フィルムの弾性率および鉛筆硬度が高くなり、機械強度に優れる傾向がある。機械特性と光学特性のバランスの観点からは、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂の合計に対するアクリル樹脂の比率は、10重量%から40重量%が好ましく、25重量%から40重量%がさらに好ましい。
【0102】
ポリイミド系樹脂は特殊な分子構造を有するポリマーであり、一般には、有機溶媒に対する溶解性が低く、他のポリマーとは相溶性を示さない。本実施形態では、ポリイミド系樹脂が酸無水物成分として脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことにより、有機溶媒に対して高い溶解性を示すとともに、アクリル樹脂との相溶性を示す。アクリル樹脂とポリイミド系樹脂が相溶性を示すか否かは、樹脂組成物を固形分濃度が10重量%となるようにN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)や塩化メチレン等のポリイミド系樹脂およびポリイミド以外の樹脂の両方に対する溶解性を示す溶媒に溶解させて確認する。樹脂溶液が相分離しておらず、透明であれば、樹脂組成物において、アクリル樹脂とポリイミド系樹脂は相溶性を示すと判断し、樹脂溶液が2相以上に分離している場合や濁っている場合は、アクリル樹脂とポリイミド系樹脂は相溶性を示さないと判断する。アクリル樹脂およびポリイミド系樹脂を含む溶液の光路長1cmで測定したヘイズは、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0103】
樹脂組成物は、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂を含む混合溶液であってもよい。樹脂の混合方法は特に限定されず、固体の状態で混合してもよく、液体中で混合して混合溶液としてもよい。ポリイミド系樹脂溶液およびアクリル樹脂溶液を個別に調製し、両者を混合してポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との混合溶液を調製してもよい。
【0104】
ポリイミド系樹脂およびアクリル樹脂を含む溶液の溶媒としては、ポリイミド系樹脂およびアクリル樹脂の両方に対する溶解性を示すものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒が挙げられる。中でも、アクリル樹脂およびポリイミド系樹脂の両方に対する溶解性に優れ、かつ低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、ケトン系溶媒およびハロゲン化アルキル系溶媒が好ましい。
【0105】
一般的に、ポリイミドは溶媒に対する溶解性が低く、高極性溶媒にのみ溶解する場合が多い。そのため、溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒がより好ましい。これら溶媒を用いることで、ポリイミドとアクリル樹脂との相溶性が向上する場合がある。また、これらポリイミドが溶解しやすい溶媒を用いることで、得られる溶液の粘度が低下し、その結果、取り扱い性が向上したり、製膜等により成形品を作成する際にムラ等の外観不良が生じにくくなったりする効果が得られることがある。
【0106】
フィルムの加工性向上や各種機能の付与等を目的として、樹脂組成物(溶液)に、有機または無機の低分子化合物、高分子化合物(例えばエポキシ樹脂)等を配合してもよい。樹脂組成物は、ブルーイング剤を含む染料および顔料、紫外線吸収剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等を含んでいてもよい。微粒子には、ポリスチレン、架橋アクリル樹脂等の有機微粒子、シリカ、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、多孔質や中空構造であってもよい。
【0107】
[樹脂フィルムの成形とフィルム特性]
本発明の樹脂フィルムはポリイミド系樹脂およびアクリル樹脂を含む樹脂組成物をフィルム成形することで得られる。成形法としては、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、カレンダー成形、溶融押出成形等の溶融法が挙げられる。ポリイミド系樹脂は高い融点及びガラス転移点温度を示すため、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂を含む樹脂組成物は、ポリイミド系樹脂に比べて溶融粘度が小さい傾向があり、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、溶融押出成形等の成形性に優れている。溶融法の他に、アクリル樹脂およびポリイミド系樹脂を含む組成物を溶剤に溶かした溶液状態で塗布し、溶媒を乾燥させる溶液法も選択できる。
【0108】
一実施形態において成形体はフィルムである。フィルムの成形方法は、溶融法および溶液法のいずれでもよいが、透明性および均一性に優れるフィルムを作製する観点からは溶液法が好ましい。溶液法では、上記のポリイミド系樹脂およびアクリル樹脂を含む溶液を、支持体上に塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、樹脂フィルムが得られる。
【0109】
ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂を含む樹脂組成物の溶液は、同一の固形分濃度のポリイミド系樹脂の溶液に比べて溶液粘度が低い傾向がある。そのため、溶液の輸送等の取扱性に優れるとともに、コーティング性が高く、フィルムの厚みムラ低減等において有利である。
【0110】
樹脂溶液を支持体上に塗布する方法としては、バーコーターやコンマコーター等を用いた公知の方法を適用できる。支持体としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、樹脂溶液(ドープ)の溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよい。
【0111】
溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は溶媒が除去でき、かつ得られるフィルムの着色を抑制できる温度であれば特に制限されず、室温~250℃程度で適宜に設定され、50℃~220℃が好ましい。加熱温度は段階的に上昇させてもよい。溶媒の除去効率を高めるために、ある程度乾燥が進んだ後に、支持体から樹脂膜を剥離して乾燥を行ってもよい。溶媒の除去を促進するために、減圧下で加熱を行ってもよい。溶剤可溶性樹脂の分解温度以下であれば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶剤に代表される高沸点溶媒を、窒素雰囲気下で乾燥処理することもできる。
【0112】
アクリル樹脂のフィルムは、靭性が低い場合があるが、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との相溶系を採用することによりフィルムの強度が向上する場合がある。ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂との相溶系は、アクリル樹脂単独に比べて弾性率、屈曲耐性、鉛筆硬度などの機械特性を向上させる効果もある。フィルムの機械強度向上等を目的として、本発明の樹脂フィルムは一方向または複数の方向に延伸を行ってもよい。フィルムを延伸するとポリマー鎖が延伸方向に配向するため、フィルムの面内方向の強度が向上し、フィルムの割れやクラックの発生が抑制される傾向がある。
【0113】
特に、ポリイミドとアクリル樹脂との相溶系では、延伸方向の引張弾性率が大きくなりこれに伴って耐屈曲性が向上する傾向がある。アクリル樹脂のモノマー成分におけるメタクリル酸メチルの比率が高いほど、延伸方向の引張弾性率の上昇傾向が顕著となる。
【0114】
例えば、折りたたみ可能な表示装置(フォルダブルディスプレイ)のカバーウィンドウや基板材料として用いられるフィルムは、同一箇所で折り曲げ軸に沿って折り曲げが繰り返されるため、折り曲げ軸と直交する方向の機械強度が高いことが求められる。そのため、フィルムの延伸方向が折り曲げ軸と直交するように配置することにより、折り曲げを繰り返しても、折り曲げ箇所での樹脂フィルムの割れやクラックが生じ難く、折り曲げ耐性の高いデバイスを提供できる。
【0115】
樹脂フィルムの延伸方式は特に限定されない。延伸方式には自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法が用いられる。中でも、搬送中の樹脂フィルムをフィルム前後のニップロールの周速差によって搬送方向に延伸する方法(いわゆる縦延伸)に代表される自由端延伸、あるいは、搬送中の樹脂フィルムを、テンタークリップ装置を用いて搬送方向と直行する方向に延伸する方法(いわゆる横延伸)に代表される固定端延伸を用いることが、樹脂フィルム中の分子を一方向に配向させるという観点から好ましい。
【0116】
樹脂フィルムの延伸条件(例えば、延伸方向、延伸温度、延伸倍率)は特に限定されない。延伸方向に関しては、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向に延伸を行なうことができる。延伸温度に関しては、特に限定されないが、樹脂フィルムのガラス転移温度±40℃程度であり、120~300℃、150~250℃または180~230℃程度であってもよい。延伸倍率に関しては、特に限定されないが、1~200%程度であり、5~150%、10~120%、20~100%であってもよい。延伸倍率が大きいほど、延伸方向の引張弾性率が大きくなる傾向がある。一方、延伸倍率が過度に大きい場合は、延伸方向と直交する方向の機械強度が低下する傾向があり、樹脂フィルムのハンドリング性が低下する場合がある。
【0117】
面内の任意の方向における強度を高める観点から、樹脂フィルムを二軸延伸してもよい。二軸延伸は同時二軸延伸でもよく、逐次二軸延伸でもよい。二軸延伸では、一方向の延伸倍率と、その直交方向の延伸倍率とが、同一でもよく異なっていてもよい。延伸倍率に差を設けると、延伸倍率が大きい方向の機械強度が相対的に大きくなる傾向がある。延伸倍率に異方性がある二軸延伸フィルムをフォルダブルデバイスに使用する場合は、延伸倍率が大きい方向を折り曲げ軸と直交するように配置することが好ましい。
【0118】
樹脂フィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。フィルムの厚みは、例えば5~300μmである。自己支持性と可撓性とを両立し、かつ透明性の高いフィルムとする観点から、フィルムの厚みは20μm~100μmが好ましく、25μm~80μm、25μm~50μmであってもよい。ディスプレイのカバーウィンドウ用途としてのフィルムの厚みは、20μm以上が好ましい。フィルムを延伸する場合は、延伸後の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0119】
樹脂フィルムの全光線透過率は、90.0%以上が好ましく、90.5%以上がより好ましく、91.0%以上が更に好ましく、91.5%以上が特に好ましい。全光線透過率が高いと、樹脂フィルムをディスプレイ用フィルムとして用いたときにディスプレイの輝度が高まり好ましい。上記のように、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂とを混合することにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドを単独で用いる場合に比べて、全光線透過率が高いフィルムが得られる。
【0120】
樹脂フィルムの黄色度(YI)は、3.0以下が好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.0未満が特に好ましい。黄色度(YI)が3.0より大きいと、樹脂フィルムをディスプレイ用フィルムとして用いたときにディスプレイが黄色味を帯び、ディスプレイの色の再現性が低下する。フィルムの黄色度(YI)は、-3.0以上が好ましく、-2.0以上がさらに好ましく、-1.0より大きいことが特に好ましい。黄色度(YI)が-3.0より小さいと、樹脂フィルムをディスプレイ用フィルムとして用いたときにディスプレイが青味を帯び、ディスプレイの色の再現性が低下する。上記のように、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂とを混合することにより、ポリイミド系樹脂を単独で用いる場合に比べて、着色が少なく、黄色度(YI)の絶対値が小さいフィルムが得られる。
【0121】
樹脂フィルムのヘイズは1%以下が好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.2%以下が特に好ましい。樹脂フィルムのヘイズが低いほど、樹脂フィルムをディスプレイ用フィルムとして用いたときに画像の解像度を阻害しないので好ましい。上記の様に、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂を混合した樹脂を用いたものは特に高い相溶性を示すため、ヘイズが低く、透明性の高いフィルムが得られる。ポリイミド系樹脂とポアクリル樹脂を混合した樹脂組成物は、厚み50μmのフィルムを作製した際のヘイズが1%以下であることが好ましい。
【0122】
樹脂フィルムの屈折率は、面内の最大の屈折率が1.60以下であることが好ましい。屈折率が低いと全光線透過率が高くなる。屈折率は樹脂組成物の組成とポリマー鎖の配向状態によって決まる。ポリイミドとアクリル樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の屈折率が高くなる傾向があるため、面内の最大の屈折率方向は延伸方向となる傾向にある。2軸延伸の場合は1回目の延伸方向または2回目の延伸方向いずれかになる傾向にある。面内の最大の屈折率は、1.58以下がより好ましく、1.56以下が更に好ましく、1.54以下が特に好ましく。1.52以下、1.51以下であってもよい。屈折率が低く全光線透過率が高いと、ディスプレイの視認性が高まり好ましい。上記のように、ポリイミド系樹脂とアクリル樹脂とを混合することにより、ポリイミドまたはポリアミドイミドを単独で用いる場合に比べて、屈折率が低いフィルムが得られる。ただし、ポリマー鎖の配向によって屈折率が大きい場合においては、ポリマー鎖の配向によって機械特性の向上が期待できる。そのため、面内の最大の屈折率は機械特性とのバランスを鑑みて任意の値を適宜設定できる。
【0123】
樹脂フィルムの屈折率は、面内の最大の屈折率と最小の屈折率の差が0.005以上であることが好ましい場合がある。特に、1軸延伸フィルムにおいては、面内の最大屈折率と最小屈折率の差が大きいと機械特性が高くなる場合がある。面内の最大屈折率と最小屈折率の差はポリマー鎖の配向状態によって決まる。アクリル樹脂とポリイミド系樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の屈折率が高くなる傾向があるため、面内の最大屈折率と最小屈折率の差が大きくなる方向は、延伸方向とその直行方向である。面内の最大屈折率と最小屈折率の差は、0.01以上がより好ましく、0.02以上が更に好ましく、0.03以上が特に好ましい場合がある。面内の最大屈折率と最小屈折率の差が大きいと、屈曲耐性、鉛筆硬度などの機械特性が向上する傾向にあり好ましい。ただし、2軸延伸されたフィルムの場合は、面内の最大屈折率と最小屈折率の差は大きくならないが、延伸によるポリマー分子鎖の配向は起こるため、機械特性に優れる傾向にある。
【0124】
樹脂フィルムの弾性率は4.0GPa以上が好ましい。弾性率が高いと鉛筆硬度、屈曲耐性などの機械特性が良好となる傾向にある。弾性率は4.3GPa以上がより好ましく、4.8GPa以上がさらに好ましく、5.5GPa以上が特に好ましく、6.0GPa以上であってもよい。フィルムの弾性率は面内の最大弾性率を意味する。弾性率は樹脂組成物の組成とポリマー鎖の配向状態によって決まる。ポリイミドとアクリル樹脂からなる樹脂組成物はポリマー鎖の配向方向の弾性率が高くなる傾向があるため、面内の最大の弾性率方向は延伸方向となる。2軸延伸の場合は1回目の延伸方向または2回目の延伸方向いずれかになる傾向にある。
【0125】
樹脂フィルムは屈曲耐性に優れていることが好ましい。屈曲耐性に優れていると、フレキシブルディスプレイ用フィルムとして好適に使用できる。本発明で言う屈曲耐性に優れるとは、折り曲げられていないフラットな樹脂フィルムを、曲げ半径1.0mmで180°折り曲げた後に、元のフラットな状態に戻す操作を1回/秒の速度で10万回繰り返した後に、樹脂フィルムにクラックまたは破断がないことを意味する。このような試験は、市販の繰り返し曲げ試験機で実施可能であり、例えばユアサシステム機器社製のU字屈曲耐久性試験装置などで実施できる。
【0126】
樹脂フィルムはJIS-K5600に準拠した鉛筆硬度試験においてH以上の硬度を有することが好ましい。鉛筆硬度は、3H以上であることがより好ましく、4H以上であることがさらに好ましく、5H以上であることが特に好ましい。鉛筆硬度がH以上の硬度を有していると、ディスプレイのカバーウィンドウとして好適に使用できる。
【0127】
樹脂フィルムの耐光性は、耐光性試験における黄色度(YI)の変化量が10.0以下であることが好ましい。黄色度(YI)変化量が小さいと、屋外など紫外線暴露量が多い環境での使用においても色調変化が小さく、ディスプレイの視認性変化が小さくなる傾向にあるため好ましい。黄色度(YI)の変化量は、4.0以下がより好ましく、2.0以下が更に好ましく、1.5以下が特に好ましい。耐光性試験はキセノン光源による、波長300nm~400nmにおける放射照度180W/m、ブラックパネル温度80℃、雨無し、で200時間暴露する試験であり、試験前後での黄色度(YI)を測定することで黄色度(YI)の変化量ΔYI(試験後のYI-試験前のYI)を求めることができる。
【0128】
<積層体>
本発明は、樹脂フィルムと機能層とが積層された積層体を含む。すなわち、本発明の別の形態は、樹脂フィルムと機能層を少なくとも含む積層体である。機能層としては、ハードコート層、紫外線吸収層、粘着層、屈折率調整層、易接着層等の種々の機能を有する層が挙げられる。これらの機能層は、色調調整の目的でブルーイング剤を含んでいてもよい。これらの機能増は耐光性を向上させる目的で紫外線吸収剤を含んでいてもよい。特に、相溶性や耐熱性の観点で、樹脂フィルム層にブルーイング剤や紫外線吸収剤などの添加剤を配合できない場合は、機能層に添加剤を添加することによって、積層体としての色調を調整したり、積層体としての耐光性を向上させたりすることができる。これらの機能層としては、フレキシブルディスプレイに必要とされる機能である耐擦傷性を付与できるハードコート層、粘着性を付与できる粘着層、ハードコート層などの他の層との接着性を付与できる易接着層がより好ましい。
【0129】
機能層の厚みは求められる特性に応じて適宜設定することができる。機能層は1種類だけでもよく、複数以上形成されていてもよい。また、機能層は樹脂フィルムの一方の面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0130】
機能層の中でも、カバーウィンドウとして求められる耐擦傷性を付与する機能層であるハードコート層が特に好ましい。ハードコート層を構成する材料は、傷の発生を防止する機能を有していれば特に限定されず、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シロキサン系、エポキシ系樹脂などが挙げられるが、アクリル系ハードコート樹脂組成物の硬化物であるアクリル系ハードコート層またはシロキサン系ハードコート樹脂組成物の硬化物であるシロキサン系ハードコート層が、傷の発生防止の観点から好ましい。
【0131】
また、ハードコート樹脂組成物には、添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、フッ素系又はシリコーン系などのレベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤などの色調調整剤、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、溶剤などが挙げられる。
【0132】
[ハードコート層の成形と積層体特性、積層体のディスプレイへの応用]
本発明の積層体のハードコート層は、樹脂フィルム上に硬化性組成物(ハードコート組成物)を塗布し(塗工によりハードコート層を形成する工程)、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射すること(活性エネルギー線を照射する工程)により、硬化性組成物を硬化することで得られる。なかでも、樹脂フィルム上に硬化性樹脂組成物と光開始剤を含む組成物を塗工する工程の後に、活性エネルギー線を照射する工程とを含む方法が生産性の観点から好ましい。ハードコート組成物を塗布する方法としては特に限定されず、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の塗布方法を使用できる。
【0133】
本発明のハードコート層の厚みは、1~50μmであり、好ましくは1~30μmである。この範囲から適宜選択することができ、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。ハードコート層が厚いと硬度、耐衝撃性が良好となる傾向があり、1μmより薄くなると硬度が不足する。ハードコート層が薄いと屈曲耐性が良好となる傾向があり、50μmより厚くなると屈曲耐性が不足する。
【0134】
本発明の積層体の総厚み(機能層の厚みと樹脂フィルムの厚みの和)は、特に限定されないが10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上が更に好ましく、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下が更に好ましく、60μm以下が特に好ましい。総厚みが10μm未満では硬度が不足する場合がある。総厚みが200μmを超えると屈曲耐性が不足する場合がある。
【0135】
本発明の積層体の機能層がハードコート層のケースにおいて、積層体は、樹脂フィルムに由来する優れた光学特性と機械特性を有すると共に、ハードコート層に由来する高い耐擦傷性を兼ね備える。フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウには、ディスプレイの画像を美しく表示するための優れた光学特性と共に、様々な物品との接触による傷付きや凹みを防ぐことが求められる。そのため、本発明の積層体はフレキシブルディスプレイのカバーウィンドウに好適に用いることができる。
【0136】
本発明で言う屈曲耐性に優れるとは、折り曲げられていないフラットな樹脂フィルムまたは積層体を、曲げ半径1.5mm以下で180°折り曲げた後に、元のフラットな状態に戻す操作を1回/秒の速度で20万回繰り返した後に、フィルムまたは積層体にクラックまたは破断がないことを意味する。このような試験は、市販の繰り返し曲げ試験機で実施可能であり、例えばユアサシステム機器社製のU字屈曲耐久性試験装置などで実施できる。
【0137】
本発明の積層体はJIS-K5600に準拠した鉛筆硬度試験においてH以上の硬度を有することが好ましい。鉛筆硬度は、3H以上であることがより好ましく、4H以上であることがさらに好ましく、5H以上であることが特に好ましい。
【0138】
本発明の積層体は、ヘイズが1%以下であることが好ましい。ヘイズが低いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。ヘイズは0.7%以下がより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0139】
本発明の積層体は、全光線透過率が90.0%以上であることが好ましい。全光線透過率が高いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。全光線透過率は90.5%以上がより好ましく、91.0%以上がより好ましく、91.5%以上が特に好ましい。
【0140】
本発明の積層体は、黄色度(YI)が-3.0~3.0であることが好ましい。黄色度(YI)が上記範囲であることで、ディスプレイの視認性を向上させたり、色調を良好にさせたりすることが可能となる。黄色度(YI)は-2.0~2.0がより好ましく、-1.0~1.0がさらに好ましい。
【実施例0141】
以下、実施例を示して本発明の実施形態についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0142】
[ポリイミド樹脂の調製]
セパラブルフラスコに2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)75.2g、N,N-ジメチルホルムアミド620gを投入し、窒素雰囲気下で撹拌しジアミン溶液を得た。そこに1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)13.8g、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)72.8gを加え、窒素雰囲気下で12時間撹拌し、固形分濃度18%のポリアミック酸溶液を得た。ポリアミック酸溶液に、イミド化触媒としてピリジンを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸を添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコールを滴下して、ポリイミド樹脂を析出させた。さらにIPAを添加し、約30分撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体をIPAで洗浄した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂を得た。
【0143】
<実施例1~4:ポリイミドとアクリル樹脂を含む樹脂組成物>
[樹脂組成物(溶液)の調製および樹脂フィルムの作製]
塩化メチレンに、上記のポリイミド樹脂、アクリル樹脂として市販のポリメタクリル酸メチル樹脂(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比87/13)の共重合体、ガラス転移温度101℃、酸価0.0mmol/g)を表1に示す比率で加え、樹脂分10重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を支持体である無アルカリガラス板上に塗布し、60℃~150℃で60分間、大気雰囲気下で加熱乾燥し、所定厚さのポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含む樹脂フィルムを作製した。
【0144】
【表1】
【0145】
<比較例1~2:ポリイミドとアクリル樹脂を含む樹脂組成物>
表1に示す比率で前記ポリイミド樹脂と、前記アクリル樹脂を用いた以外は、実施例と同様の方法で所定厚さの樹脂フィルムを作製し、50±5μの厚みのポリイミド樹脂とアクリル樹脂を含む樹脂フィルムを得た。
【0146】
[評価]
<ヘイズおよび全光線透過率(TT:%)>
実施例及び比較例で得られた樹脂フィルムについて、スガ試験機製のヘイズメーター「HZ-V3」により、JIS K7136およびJIS K7361-1に従って、ヘイズおよび全光線透過率(TT:%)を測定した。なお、測定にはD65光源を用いた。
【0147】
<黄色度>
実施例及び比較例で得られた樹脂フィルムについて、スガ試験機製の分光測色計「SC-P」により、JIS K7373に従って黄色度(YI)を測定した。
【0148】
<弾性率>
実施例及び比較例で得られた樹脂フィルムを塗工方向が長手方向となるように幅10mmの短冊状に切り出し、23℃/55%RHで1日静置して調湿した後、島津製作所製の引張試験機「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、次の条件で延伸方向の引張弾性率を測定した。弾性率が高いことは機械特性に優れることを示す。
つかみ具間距離:100mm
引張速度:20.0mm/min
測定温度:23℃
【0149】
<屈曲耐性>
実施例及び比較例で得られたフィルムを塗工方向が長手方向となるように長さ120mm×幅20mmの短冊状に切り出して試験片を作製し、ユアサシステム機器製U字屈曲耐久性試験機DMLHBを用いて、23℃/55%RH下にて屈曲半径1.0mm、1回/秒の速度で塗工方向に繰り返し曲げ試験し、所定回数でクラックや破断の有無を確認した。繰り返し曲げ後にもクラックや破断が無かった最大の回数を表1に表記し、屈曲回数が10万回以上を合格と判定した。
【0150】
<重量平均分子量>
樹脂が溶液に対して0.15wt%となるように表2に示す溶離液で溶かした後に以下の条件にて重量平均分子量を測定した。
【表2】
【0151】
実施例1~4で示した樹脂フィルムは弾性率、動的屈曲、黄色度、ヘイズ、全光線透過率すべてで良好な特性を示していた。そのため、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウとして好適に使用できる。一方で比較例1では全光線透過率や黄色度などの光学特性は優れているものの、屈曲耐性が劣っており、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウとして不適である。比較例2では、弾性率や屈曲耐性、鉛筆硬度は優れているものの、黄色度が1.0であり、樹脂フィルムをディスプレイ用フィルムとして用いたときにディスプレイが黄色味を帯び、ディスプレイの色の再現性が低下するおそれがある。